(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、道路上の車両を感知して、道路における
交通状況を表す車両感知器情報を生成する車両感知器と、この車両感知器で生成した対象エリアの最新の
車両感知器情報に基づいて信号制御情報を生成する交通管理装置と、この交通管理装置が生成した信号制御情報に基づいて信号機の動作を制御する信号制御機とを備え、前記交通管理装置は、
前記車両感知器から取得される前記最新の
車両感知器情報を入力情報として、
前記車両感知器から所定間隔毎に取得された車両感知器情報と、前記所定間隔毎に生成された信号制御情報とを結合することにより所定の信号制御方式を学習した学習モデルを実行して、出力情報とし
て信号制御情報を取得する制御部を備える構成とする。
【0015】
これによると、所定の信号制御方式を学習し
た学習モデルにより、所定の信号制御方式を模擬した信号制御を行うことができる。このため、処理能力のあまり高くない装置でも、所定の信号制御方式と同等の信号制御をリアルタイムに行うことができる。これにより、システムのコストを低減することができる。また、所定の信号制御方式による従来の制御では処理能力の高い装置でも実現できなった大規模な道路網を対象にした信号制御も可能になる。
【0020】
また、第
2の発明は、道路における最新の車両感知器情報を入力する入力部と、この入
力部より入力された最新の車両感知器情報を入力情報として、前記車両感知器から所定間
隔毎に取得された車両感知器情報と、前記所定間隔毎に生成された信号制御情報とを結合
することにより所定の信号制御方式を学習した学習モデルを実行して、信号制御情報を生
成する制御部と、この制御部により生成された信号制御情報を信号制御機に対して出力す
る出力部とを有する交通管理装置を構成とする。
【0024】
また、第
3の発明は、対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であ
って、交通信号管理装置において、対象エリアの最新の車両感知器情報を入力情報として
、前記車両感知器から所定間隔毎に取得された車両感知器情報と、前記所定間隔毎に生成
された信号制御情報とを結合することにより所定の信号制御方式を学習した学習モデルを
実行して、信号制御情報を生成し、出力情報として信号機の動作を制御する信号制御情報
を取得することを特徴とする交通信号制御方法を構成とする。
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1は、本実施形態に係る交通信号制御システムの全体構成図である。
【0032】
この交通信号制御システム(交通管制システム)は、対象エリアに設置された信号機を制御するものであり、車両感知器1(情報収集装置)と、信号制御機2と、交通管理装置(交通信号制御装置、情報処理装置)3と、を備えている。
【0033】
車両感知器1は、例えば超音波式車両感知器および光学式車両感知器(光ビーコン)などであり、道路上の車両を感知して、道路における車両の通行状況を表す車両感知器情報(交通状況情報)を生成する。この車両感知器情報は、車両感知器1から交通管理装置3に送信される。
【0034】
信号制御機2は、交通管理装置3から送信される信号制御パラメータ(信号制御情報)に基づいて、信号機(信号灯器)の動作を制御する。
【0035】
交通管理装置3は、交通管制センターの中央装置であり、車両感知器1から送信される車両感知器情報に基づいて、信号制御パラメータ(信号制御情報)を生成して、その信号制御パラメータを信号制御機2に送信する。
【0036】
なお、本実施形態では、交通管理装置3において、車両感知器情報を用いて信号制御を行うようにしたが、道路上に設置されたITSスポット、光ビーコン、および電波ビーコン(情報収集装置)により、走行中の車両に搭載された車載機から収集されるプローブ情報(交通状況情報)を用いて、信号制御を行うようにしてもよい。
【0037】
次に、交通管理装置3の概略構成について説明する。
図2は、交通管理装置3の概略構成を示すブロック図である。
【0038】
交通管理装置3は、通信部11と、制御部12と、記憶部13と、を備えている。
【0039】
通信部11は、車両感知器1および信号制御機2と通信を行い、車両感知器1から送信される車両感知器情報を受信し、また、信号制御パラメータ(信号制御情報)を信号制御機2に送信する。
【0040】
記憶部13は、車両感知器配置情報、信号制御用設定情報、所定の信号制御方式用設定情報、車両感知器情報、事象規制情報、気象情報、および信号制御パラメータ(信号制御情報)などを記憶する。また、記憶部13は、制御部12を構成するプロセッサで実行されるプログラムを記憶する。ここでは、所定の信号制御方式として一括最適化制御を例として説明するものとし、記憶部13は、所定の信号制御方式用設定情報として一括最適化制御用の設定情報を記憶するものとする。
【0041】
ここで、車両感知器配置情報は、対象エリアの道路網に設置された車両感知器1の位置に関する情報であり、具体的には、車両感知器1が設置されたリンクの番号、リンクの終端から車両感知器1までの距離などである。
【0042】
信号制御用設定情報は、対象エリアの各交差点の現示構成など、信号制御に関する設定情報である。一括最適化制御用設定情報は、一括最適化制御に関する設定情報である。
【0043】
車両感知器情報は、車両感知器1で収集された交通状況を表す情報であり、具体的には、交通量、すなわち、単位時間(例えば5分)ごとに車両感知器1の位置を通過した車両の台数や、占有率(時間占有率)、すなわち、単位時間内に車両感知器1の位置に車両が存在していた時間の割合などである。
【0044】
事象規制情報は、対象エリアの道路網における車線規制や通行止めなどに関する情報である。気象情報は、対象エリアの気象(降雨など)に関する情報である。この気象情報は、気象情報提供サーバから取得すればよいが、管理者が当日の気象を入力するようにしてもよい。
【0045】
信号制御パラメータ(信号制御情報)は、信号機における交通信号の表示タイミングを決定する要素となる情報であり、具体的には、サイクル長、スプリット、およびオフセットである。
【0046】
なお、車両感知器情報、事象規制情報、気象情報、および信号制御パラメータには、過去の情報と最新の情報とがあり、過去の情報は、深層学習モデルを構築するための学習情報となり、最新の情報は、現在の信号制御に関するものである。
【0047】
制御部12は、学習情報生成部21と、学習処理部22と、深層学習モデル構築部23と、信号制御情報生成部24と、を備えている。この制御部12は、プロセッサで構成され、制御部12の各部は、記憶部13に記憶されたプログラムをプロセッサで実行することで実現される。
【0048】
学習情報生成部21は、所定の信号制御方式によって得られる適切な信号制御パラメータを深層学習モデルに学習させるための学習情報を生成する。この学習情報は、車両感知器情報と、この車両感知器情報を取得したときの事象規制情報および気象情報とを、学習情報の入力情報とし、この入力情報に基づいて所定の信号制御方式により生成した信号制御パラメータを、学習情報の出力情報として対応付けたものである。
【0049】
学習情報生成部21は、所定の信号制御方式による交通流シミュレータを用いて、所定日数の車両感知器情報、事象規制情報および気象情報を入力情報として、所定の信号制御を実行して、出力情報として信号制御パラメータを取得する。
【0050】
学習処理部22は、学習情報生成部21で取得した学習情報を用いて、深層学習モデルに対する学習処理を実行して、学習結果として、深層学習モデルに関するモデルパラメータ(ニューラルネットワークパラメータ)を取得する。
【0051】
深層学習モデル構築部23は、学習処理部22で取得したモデルパラメータを深層学習モデルに適用して、学習結果が反映された深層学習モデルを構築する。
【0052】
信号制御情報生成部24は、深層学習モデル構築部23で構築された深層学習モデルを実行して、車両感知器情報から信号制御パラメータ(信号制御情報)を生成する。なお、本実施形態では、車両感知器情報の他に、事象規制情報および気象情報を深層学習モデルに入力する。
【0053】
このように本実施形態では、所定の信号制御を学習した深層学習モデルにより、所定の信号制御を模擬した信号制御を行う。このため、処理能力のあまり高くない装置でも、高度な信号制御処理と同等の信号制御を、リアルタイムに、すなわち、制御周期(例えば5分間)に間に合うように行うことができる。
【0054】
なお、交通管理装置3では、対象エリアが複数ある場合には、対象エリアごとの学習情報を用いて、対象エリアごとに深層学習モデルを構築する。
【0055】
また、本実施形態では、交通管理装置3に、学習情報生成部21と、学習処理部22と、深層学習モデル構築部23と、信号制御情報生成部24と、を設けたが、運用時には、信号制御情報生成部24のみを稼働させる。また、信号制御情報生成部24を除く各部を別の情報処理装置で構成し、交通管理装置3に信号制御情報生成部24のみを設けて、別の情報処理装置で生成した学習済みの深層学習モデルを、交通管理装置3に導入するようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、学習情報(出力情報)となる信号制御パラメータを一括最適化制御で生成するものとして説明するが、現行制御、すなわちパターン制御やMODERATO制御により、学習情報となる信号制御パラメータを生成するようにしてもよい。この場合、パターン制御やMODERATO制御を模擬した深層学習モデルを構築することができる。
【0057】
次に、学習情報生成部21で行われる処理について説明する。ここでは、所定の信号制御方式として一括最適化制御を採用した場合を例として説明する。
図3は、学習情報生成部21で行われる処理の概要を示す説明図である。
図4は、交通量を微小変動させる乱数を示す説明図である。
【0058】
学習情報生成部21では、所定の信号制御方式、具体的には一括最適化制御を深層学習モデルに学習させるための学習情報を生成する。この学習情報は、車両感知器情報(入力情報)と、その車両感知器情報に基づいて一括最適化制御により生成した信号制御パラメータ(出力情報)とを組み合わせたものである。
【0059】
ここで、深層学習モデル(多層ニューラルネットワーク)は中間層が複数あるため、十分な精度の深層学習モデルを構築するには、多量(例えば50日程度)の学習情報が必要である。
【0060】
そこで、本実施形態では、
図3に示すように、対象エリアで実測された1日分の車両感知器情報(交通量)を元にして、必要な日数の仮想的な車両感知器情報を生成する。なお、車両感知器情報は、信号制御パラメータの生成間隔(制御周期)となる単位期間(例えば5分間)ごとに取得する。
【0061】
具体的には、実測された1日分の交通量を乱数により微小変動させて、必要な日数の交通量を生成する。
図4に示す例では、発生頻度が正規分布を表す乱数(正規乱数)を−3から+3の範囲で発生させて、実測された各時刻の交通量に対して−3台から+3台の範囲で微小変動させて、各時刻の仮想的な交通量を取得する。
【0062】
なお、学習情報(入力情報)として所定期間の車両感知器情報(交通量や占有率)を生成するが、この車両感知器情報の他に、交差点における分岐率(直進率や右左折率)を学習情報に含めるようにしてもよい。この場合、分岐率は、目視による実測で収集することから、必要な日数の分岐率を収集するには大変な手間を要するが、交通量と同様の手法で、実測された分岐率から必要な日数の分岐率を生成するようにすると、実測の手間を省くことができる。
【0063】
このようにして必要な日数の車両感知器情報を生成すると、交通流シミュレータを用いて、各日の車両感知器情報で表される交通状況に適合した信号制御パラメータを生成する。本実施形態では、学習情報生成部21において、一括最適化制御を行う交通流シミュレータを用いて、各日の車両感知器情報に応じた信号制御パラメータを生成する。そして、一括最適化制御の入力情報である車両感知器情報と、一括最適化制御の出力情報である信号制御パラメータとを結合して学習情報を生成する。これにより、必要な日数の学習情報を効率よく取得することができる。
【0064】
次に、学習情報生成部21で行われる処理の概要について説明する。
図5は、学習情報生成部21で行われる処理の概要を示す説明図である。
【0065】
学習情報生成部21は、交通流モデル処理および一括最適化制御処理を行うシミュレータを備えており、このシミュレータでは、所定日数の交通状況情報C
1...C
N(車両感知器情報)、事象規制情報および気象情報を入力情報として、所定の信号制御方式、具体的には一括最適化制御によるシミュレーションを実行して、出力情報として信号制御パラメータP
1...P
Nを取得する。
【0066】
この一括最適化制御は、非特許文献1に記載されているように、対象エリアの道路網における信号機が設置された交差点のサブエリア構成、および、各信号機の信号制御パラメータ(サイクル長、オフセット、スプリット)を一括最適化するものであり、道路網全体の交通状況を評価するPI(パフォーマンスインデックス)を推計し,その道路網全体のPIを最小化する制御パラメータを算出する。
【0067】
具体的には、まず、サブエリア構成および制御パラメータを数値列で表現した数値列モデルを導入する。なお、この数値列モデルでは、サブエリア構成(サブエリア結合)が、サブエリアの間にあるリンク(エリア間リンク)で定義される。
【0068】
そして、車両感知器情報(交通量)、制御パラメータおよびサブエリア構成の初期値に基づいて、交通流モデルにより、道路網全体の遅れ時間および停止回数を算出して、その遅れ時間と停止回数との線形和であるPIを推計する。次に、取得したPIに基づいて、メタヒューリスティックスにより数値列モデルの探索を行って、新たな制御パラメータおよびサブエリア構成の候補を求める。さらに、その制御パラメータおよびサブエリア構成の候補に基づいて、交通流モデルによりPIを推計する。このPI推計と数値列モデル探索を繰り返すことで、最適な制御パラメータおよびサブエリア構成を決定する。
【0069】
次に、学習情報生成部21で行われる処理の手順について説明する。
図6は、学習情報生成部21で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0070】
まず、学習情報生成部21において、車両感知器配置情報、信号制御用設定情報、一括最適化制御用設定情報、事象規制情報および気象情報を記憶部13から取得する(ST101)。そして、これらの情報に基づいて、一括最適化制御のための準備処理を行う(ST102)。
【0071】
具体的には、車両感知器配置情報に基づいて、対象となる道路網の形態を決定する。また、信号制御用設定情報および一括最適化制御用設定情報に基づいて、信号制御パラメータに関する変数とメタヒューリスティックスに関する設定との関連付けなど、信号制御パラメータの最適化に必要となる処理を行う。
【0072】
次に、学習情報生成部21において、所定日数の車両感知器情報を取得する(ST103)。このとき、基準となる1日分の車両感知器情報から、必要な日数分の仮想的な車両感知器情報を生成する。
【0073】
次に、学習情報生成部21において、車両感知器情報と、この車両感知器情報を取得したときの事象規制情報および気象情報とを入力情報として、一括最適化制御を実行して、出力情報として信号制御パラメータを取得する(ST104)。
【0074】
次に、学習情報生成部21において、一括最適化制御の入力情報である車両感知器情報、事象規制情報および気象情報と、一括最適化制御の出力情報である信号制御パラメータとを結合して学習情報を生成する(ST105)。このとき、信号制御パラメータの生成間隔(制御周期)となる単位期間(例えば5分間)ごとに、入力情報と出力情報とを結合する。
【0075】
次に、学習処理部22で行われる処理について説明する。
図7は、学習処理部22で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0076】
学習処理部22では、学習情報生成部21で取得した学習情報、すなわち、所定期間の車両感知器情報(入力情報)と、これに対応した信号制御パラメータ(出力情報)とを用いて、深層学習モデルに対する学習処理を実行して、学習結果として、モデルパラメータ(ニューラルネットワークパラメータ)を取得する。この学習処理には、公知の学習アルゴリズム、例えば誤差逆伝播法などを用いればよい。
【0077】
具体的には、まず、学習情報生成部21で生成した学習情報を記憶部13から取得する(ST201)。次に、学習情報を用いて、誤差逆伝播法などの学習アルゴリズムにしたがって学習処理を行う(ST202)。そして、学習処理で取得したモデルパラメータを記憶部13に格納する(ST203)。
【0078】
次に、深層学習モデル構築部23および信号制御情報生成部24で行われる処理について説明する。
図8は、深層学習モデルの概要を示す説明図である。
【0079】
深層学習モデル構築部23では、学習処理部22で取得したモデルパラメータを深層学習モデルに設定して、学習結果が反映された深層学習モデルを構築する。信号制御情報生成部24では、深層学習モデルを用いて、車両感知器情報(交通状況情報)から信号制御パラメータ(信号制御情報)を生成する。なお、本実施形態では、車両感知器情報の他に、事象規制情報および気象情報を深層学習モデルに入力する。
【0080】
深層学習モデルは、多層ニューラルネットワークで構成され、入力層と中間層と出力層とを備えている。入力層では、交通状況情報(各リンクの交通量)C
1...C
N、事象規制情報および気象情報が入力され、出力層では、信号制御パラメータP
1...P
Nが出力される。
【0081】
本実施形態では、一括最適化制御で生成した学習情報を用いて深層学習モデルを構築するため、学習済みの深層学習モデルは一括最適化制御を模擬したものとなる。
【0082】
次に、深層学習モデル構築部23および信号制御情報生成部24で行われる処理の手順について説明する。
図9は、深層学習モデル構築部23および信号制御情報生成部24で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0083】
深層学習モデル構築部23では、
図9(A)に示すように、まず、学習処理部22で生成したモデルパラメータを取得する(ST301)。そして、モデルパラメータを未学習の深層学習モデルに設定して、学習結果が反映された深層学習モデルを構築する(ST302)。
【0084】
信号制御情報生成部24では、
図9(B)に示すように、車両感知器情報、事象規制情報および気象情報を記憶部13から取得する(ST401)。次に、深層学習モデル構築部23で構築された学習済みの深層学習モデルに、車両感知器情報、事象規制情報および気象情報を入力する(ST402)。次に、深層学習モデルから出力された信号制御パラメータを、記憶部13に蓄積するとともに、信号制御機2に送信する(ST403)。
【0085】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用できる。また、上記の実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。