【文献】
糸平,他6名,「ろう付け部の打音検査技術」,福岡県工業技術センター研究報告,2014年10月,No.24 (2014),20-21頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記閾値は、前記レール装着物品の装着状態が良好状態として判定される実測値に基づいて定められる、請求項1から7のいずれか記載のレール装着物品の装着検査装置。
前記不良状態は、前記レール装着物品が前記レールから脱落する可能性が高く、前記良好状態は、前記レール装着物品が前記レールから脱落する可能性が低い状態である、請求項1から11のいずれか記載のレール装着物品の装着検査装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第1の発明に係るレール装着物品の装着検査装置は、レールに装着されたレール装着物品を打撃して得られる打音の時間周波数変換後の波形を記憶する記憶部と、
波形は周波数軸に基づく形状であって、第1周波数から第2周波数までの範囲での波形の波形面積を算出する面積算出部と、
波形面積において、所定面積比率となる波形の区切りの周波数値である特定周波数値を算出する周波数値算出部と、
特定周波数値を閾値と比較して、レール装着物品の装着状態を判定する判定部と、を備え、
判定部は、特定周波数値が閾値以下であれば、装着状態を「良好状態」として判定し、特定周波数値が閾値より大きければ、装着状態を「不良状態」として判定する。
【0029】
この構成により、レールボンドなどのレール装着物品の溶着面の装着状態を正確に把握できる。特に、溶着面の剥離状態(剥離の面積、数、位置などによる脱落の可能性)を、正確に把握でき、脱落などによる問題の事前把握ができるようになる。
【0030】
本発明の第2の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1の発明に加えて、第1周波数 > 第2周波数であり、
面積算出部は、第1周波数から第2周波数に向けて、波形の積分値を算出することで、波形面積を算出する。
【0031】
この構成により、波形面積を容易かつ正確に算出できる。
【0032】
本発明の第3の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1または第2の発明に加えて、打音は、作業者がレール装着物品を打撃して集音装置で得られる。
【0033】
この構成により、レール装着物品とレールとの間である溶着面の状況を見出すための音のデータを取ることができる。
【0034】
本発明の第4の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第1周波数から第2周波数までの波形の面積をSaとし、第1周波数から特定周波数値までの波形における面積をSbとして、
周波数値算出部は、Sb/Saが所定面積比率となる特定周波数値を算出する
もしくは、SaとSbの差分である面積をScとして、周波数値算出部は、Sb/Scが所定面積比率となる特定周波数値を算出する。
【0035】
この構成により、面積比率から特定周波数値を算出することができる。
【0036】
本発明の第5の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、所定面積比率は、可変である。
【0037】
この構成により、レール装着物品の実際に合わせたフレキシブルな検査が可能である。
【0038】
本発明の第6の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、第2周波数は、余分成分除去周波数以上であり、
余分成分除去周波数は、打音においてレールそのものの打音を除去できる周波数値である。
【0039】
この構成により、レールそのものの音を除去した状態で、波形の面積および特定周波数値を算出できる。この結果、レール装着物品の装着面に基づく特定周波数値をより正確に算出できる。
【0040】
本発明の第7の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、面積算出部は、波形においてノイズと判断される部分を除去して、波形面積を算出する。
【0041】
この構成により、特定周波数値の算出において、正確性を高めることができる。
【0042】
本発明の第8の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、閾値は、レール装着物品の装着状態が良好状態として判定される実測値に基づいて定められる。
【0043】
この構成により、実際に合わせた検査を行うことができる。
【0044】
本発明の第9の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第8の発明に加えて、実測値は、複数の実測結果の蓄積により算出される。
【0045】
この構成により、より精度の高い閾値を設定することができる。
【0046】
本発明の第10の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第9のいずれかの発明に加えて、閾値は、判定部での判定結果に基づいて、変更可能である。
【0047】
この構成により、判定結果において不良状態が多すぎる、あるいは良好状態が多すぎるなどの不明瞭な状態が続けば、これらに対応することができる。
【0048】
本発明の第11の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、判定部は、複数の閾値を有しており、
判定部は、複数の閾値と特定周波数値を段階的に比較して判定する、もしくは、複数の閾値のいずれかと特定周波数値を選択的に比較して判定する。
【0049】
この構成により、特定周波数値に基づく判定でのフレキシビリティを高めることができる。
【0050】
本発明の第12の発明に係るレール装着物品の装着検査装置では、第1から第11のいずれかの発明に加えて、不良状態は、レール装着物品がレールから脱落する可能性が高く、良好状態は、レール装着物品がレールから脱落する可能性が低い状態である。
【0051】
この構成により、レールボンドなどの溶着や接着などで装着される部品の、剥離と脱落との関係を検査することができる。
【0052】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0053】
(発明者による解析)
発明者は、背景技術で説明した従来技術(特許文献1〜4を含む)での問題点を解析した。
【0054】
図1は、レールにレールボンドが装着された写真である。線路には、レール200が備わっており、同一線上に隣接するレール200が繋がっている。レール200の長さは有限であり、この有限の長さのレール200が繋がっていくことで、距離のある線路を構成できるからである。隣接するレール200同士は、電気的に接続しておらず、レールボンド100は、隣接するレール200にまたがってそれぞれに装着される。このまたがった装着によって、レールボンド100は、隣接するレール200同士を電気的に接続できる。
【0055】
図2は、レールに装着されたレールボンドを側面から示す側面図である。レールボンド100は、レール100の側面に装着される。レールボンド100は、電気的な接続を実現する素線103と、レール200に溶着される端子101と、端子101とレール200との接触する面である溶着面102を備えている。
このとき、金属ろうやはんだなどの溶着素材によって、レールボンド100は、レール200に溶着される(溶着としているが、溶着素材によって取り付けられることを意味しており、溶着、接着などの広く取付けを意味することを、溶着として説明している)。溶着面102に溶着素材110が塗布等されて、この溶着素材110が、レール200への溶着を実現する。溶着素材110によって、溶着面102がレール200に溶着されて、レールボンド100が、レール200に取り付けられる。
【0056】
ここで、レール200上においては列車が走行する。列車の走行によって、レール200およびレールボンド100には振動が加わる。また、列車の走行によってレール200が変形し、このレール200の変形がレール200とレールボンド100との溶着面102に応力を加えることがある。このような振動や変形によって、あるいは外界における気候的要因や自然劣化によって、溶着面102の溶着素材110に、剥離部分が生じていくことがある。
【0057】
図3は、剥離部分の生じたレールボンドの溶着面を示す正面図である。
図3のレールボンド100では、溶着面102の右端に剥離部分130が生じており、溶着部分120は、剥離部分130の残部となっている。
【0058】
図3のような剥離状態のレールボンド100は、右端に剥離部分130が生じていることで、脱落の危険性がある。すなわち、装着状態は不良状態である。
【0059】
図4は、剥離部分の生じたレールボンドの溶着面を示す正面図である。
図3とは異なり、両端に剥離部分130が生じている。両端のそれぞれの剥離部分130の面積は
図3の場合に比べて小さいが、両端に剥離部分130が生じているので、
図4のレールボンド100は、脱落の可能性がある。すなわち、装着状態は不良状態として考えることができる。
【0060】
図5は、剥離部分の生じたレールボンドの溶着面を示す正面図である。
図5は、
図4、
図5と異なり、余り大きくない剥離部分130が、複数個所に生じている。剥離部分130の総面積としては一定の大きさがあるが、周縁部の溶着部分120は残っており、脱落の危険性は低い。すなわち、装着状態は良好状態であると言える。
【0061】
レールボンド100は、溶着素材110によって溶着面102がレール200に溶着される。このような特性によって、剥離の発生も、剥離部分130の面積、場所、数、形態など様々であり、剥離をすべて一つの概念でとらえることはできない。レールボンド100の装着状態を打音で検査する場合には、このような剥離状態のバリエーションの広さを考慮する必要がある。
【0062】
図6は、打撃で得られた打音の周波数特性図である。打音を時間周波数変換して得られた波形を、
図6は示している。この波形において、低周波領域の振幅の最大値Aと、高周波領域の振幅の最大値Bにおいて、B/Aの値が所定値以上であれば、レールボンド100の装着状態を不良状態であると判定しているのが、従来技術である。
【0063】
ここで、
図3のような剥離状態であれば、
図6のような波形となって、判定される不良状態は、実際の装着状態での不良状態と一致しやすいので、判定の問題が少ない。
【0064】
しかしながら、
図4のような剥離状態の場合には、
図7のような波形となることが考えられる。
図7は、打撃で得られた打音の周波数特性図である。
図7の場合には、高周波帯域における振幅の最大値Bは、
図6の場合に比べて余り大きくない。このため、B/Aの値は小さくなり、従来技術であれば、装着状態が良好状態であるとして判定されてしまう。
【0065】
しかしながら、上述の通り、
図4の剥離状態であれば、脱落の危険性があり、このような判定は好ましくない。すなわち、実際には不良状態であるのに、良好状態であると判定する問題が生じうる。
【0066】
一方、
図5のような剥離状態の場合には、分散している剥離部分130の総面積が大きいので、
図6のような波形となりうる。この場合には、
図5のレールボンド100の装着状態が不良状態として判定されてしまう。しかしながら、上述のように
図5の場合には、脱落の可能性が低く、良好状態であるのが実際である。このように、実際には良好状態であるのに、不良状態として判定されることも生じうる。
【0067】
また、レールボンド100を叩く打撃は、作業者が手作業で行う。このため、得られる打音にはばらつきがあり、
図6、
図7のような波形にもばらつきが出るという、レールボンド100の装着状態の検査特有の問題がある。このような波形のばらつきによっても、振幅の最大値では、正確な装着状態の判定ができない問題もある。打撃を自動化することも考えられるが、多くのレールボンドを検査するには、作業者が次々と打撃を行っていく必要があるので、作業者が手作業で打撃を行う必要性が残っている。
【0068】
まとめると、
(1)剥離部分のバリエーションによって、打音波形の振幅の最大値だけでは、剥離による脱落の危険性を正確に判定できない、との溶着されるレールボンドの特性がある。
(2)打音を得る打撃は、作業者の手作業で行われる。このため、得られる打音の波形にばらつきが出やすいとの、レールボンド特有の特性がある。
【0069】
ことによって、レールボンドの装着状態の検査は、従来技術の適用では不十分であることを、発明者は解析した。この解析に基づいて、発明者は、本発明に至ったものである。
【0071】
(全体概要)
本明細書では、レールボンドをレール装着物品の一例として説明する。
図8は、本発明の実施の形態1におけるレール装着物品の装着検査装置(以下、必要に応じて「装着検査装置」と略す)のブロック図である。なお、装着検査装置は、装着検査方法として把握されてもよい。このため、装着検査装置としての要素の一部は、機器やハードウェアであって、一部がソフトウェアである(全部がハードウェアであっても全部がソフトウェアであってもよい)場合など、種々の形態がある。
【0072】
装着検査装置1は、
図8において、基本的な構成が示されている。装着検査装置1は、記憶部2、面積算出部3、周波数算出部4、判定部5と、を備える。
【0073】
記憶部2は、レール装着物品を打撃して得られる打音の時間周波数変換後の波形を記憶する。レールに装着されているレールボンドなどのレール装着物品を打撃すると、打音が得られる。例えば、ハンマーなどでレールに装着されているレールボンドを打撃する。打撃によって打音が生じ、マイクなどでこれを集音する。
【0074】
集音された状態の打音は、時間軸にそった打音波形を有している。この時間軸に沿った打音波形を時間周波数変換すると、周波数軸に沿った波形が得られる。例えば、高速フーリエ変換などの処理がなされればよい。例えば、
図6に示されるような周波数軸に沿った波形が得られる。記憶部2は、この周波数軸に沿った打音の波形を記憶する。すなわち、記憶部2が記憶する波形は、周波数軸に沿った形状である。
【0075】
面積算出部3は、第1周波数から第2周波数までの範囲で、波形の面積である波形面積を算出する。
図9は、本発明の実施の形態1における周波数軸に基づく波形の模式図である。記憶部2から取り出されたある打音の波形である。
図9に示されるように、波形において、第1周波数と第2周波数とが任意に設定される。ここで、第1周波数 > 第2周波数 の関係である。
【0076】
面積算出部3は、波形において、第1周波数から第2周波数までの範囲の領域の面積を算出する。
図9における斜線の領域の面積を算出する。この算出される面積が、波形面積である。
【0077】
周波数値算出部4は、波形面積において、所定の面積比率となる波形の区切りの周波数値である特定周波数値を算出する。例えば、波形面積において、波形面積を9:1に分割する特定周波数値を算出する。所定の面積比率の測定方法の一例としては、第1周波数から第2周波数までの全体の波形面積と、第1周波数から特定周波数値までの範囲での波形の面積との比率を見ることでもよい。すなわち、全体の波形面積の中で、ある範囲(第1周波数から特定周波数値までの面積、あるいは、第2周波数から特定周波数値までの面積)の面積との比率を、周波数値算出部4は、測定してもよい。
【0078】
あるいは、全体の波形面積を、特定周波数値で分離して、第1周波数から特定周波数値までの範囲での波形の面積と、第2周波数から特定周波数値までの範囲での波形の面積と、の比率を測定することでもよい。
【0079】
図9では、第1周波数から第2周波数までの全体の波形面積をSaとして、第1周波数から特定周波数値までの波形の面積をSbとして、SaとSbの比率を算出している。一例として、Sa:Sb=9:1などの比率となる周波数値を算出する(探りながら算出する)。ここで、面積比率を説明するために、面積比率の基準に特定周波数値を用いて説明したが、実際には、面積比率が所定の比率となるところを探ることで、最終的に特定周波数値が決定される。すなわち、
図9でのSa、Sbなどの説明において特定周波数値を用いているのは、特定周波数値が先に決まってから面積比率を出すことを意味しているのではなく、面積比率が決まった後で、特定周波数値が決定されることを意味している。面積比率としてどの範囲とどの範囲の面積比率が最終的に判断される面積比率であるかを説明する便宜上、Sa、Sbの切り分け基準を、特定周波数値として説明している。
【0080】
この探りながら面積比率を算出していき、所定の面積比率となる周波数値を、周波数値算出部4は、見出す。この見出された周波数値が、特定周波数値である。
【0081】
周波数値算出部4は、波形面積を一つの基準として、ある周波数値を基準とした側の範囲での波形の面積の比率を算出する。この比率が所定の比率となる、ある周波数値を、特定周波数値として算出する。
【0082】
判定部5は、算出された特定周波数値と設定されている閾値とを比較する。この比較によって、レールボンド(レール装着物品)の装着状態を判定する。判定部5は、特定周波数値が閾値以下であれば、レールボンドの装着状態を「良好状態」として判定し、特定周波数値が閾値より大きければ、レールボンドの装着状態を「不良状態」として判定する。
【0083】
良好状態とは、レールボンドの溶着面に剥離等は生じている可能性があるが、脱落の危険性が近くはない状態であり、不良状態とは、レールボンドの溶着面に剥離等が生じており、脱落の危険性が近い状態であることを示す。
【0084】
剥離面積、剥離の位置、剥離の範囲、剥離の数、剥離の形状など様々な態様が相まって、レールボンドの脱落の危険性は判断される。
図1〜
図7などを用いて説明したように、従来技術のように低周波帯域の振幅と高周波帯域の振幅の比率だけでは、このような溶着面の剥離の様々な態様を正確に反映できていない。
【0085】
これに対して、波形面積の面積比率を基準とする場合には、剥離の様々な態様による変動が少ない。波形面積は、剥離面積や位置などに係らず、剥離態様により近い状態を示していると考えられるからである。打音は、剥離態様によって、その波形をさまざまに生成する。この様々な形状の波形は、剥離態様によって定まり、剥離態様によって定まる波形は、剥離態様をより正確に反映していると考えられる。
【0086】
より正確に剥離態様を反映している波形の面積は、剥離態様をより正確に反映している数値情報となる。このため、剥離態様をより反映している面積比率とこれを判断基準に変換した特定周波数値は、剥離態様をより正確に反映していると考えられる。
【0087】
判定部5が、この特定周波数値を閾値と比較することで、剥離態様をより正確に反映した状態で、装着状態を判定できることになる。このように、実施の形態1における装着検査装置1は、従来技術の問題点を解消できる。
【0088】
なお、特定周波数値が閾値以下であることは、波形が低周波側に圧縮される態様となり、剥離等によって生じる高周波側の波形形状の大きさや変形が小さくなっていることを示しているので、良好状態である。
【0089】
次に、各部の詳細や種々のバリエーションを説明する。
【0090】
(記憶部)
記憶部2は、上述した通り、打音の時間周波数変換後の波形を記憶する。作業者は、レールに装着されたレールボンドをハンマーなどの打撃器具で打撃する。マイクなどの集音装置を設定することで、打撃によって生じる打音を集音できる。集音された打音は、時間周波数軸変換されて周波数に基づく波形に変換される。この変換は、記憶部2の外部要素において実行される。
【0091】
作業者は、複数のレールボンドについて、次々と打音を収集し、記憶部2には、次々と波形が記憶される。
【0092】
記憶部2は、装着検査装置1に含まれる要素であってもよいし、別体の要素であってもよい。例えば、装着検査装置1とは別体の記憶装置が、記憶部2であってもよいし、装着検査装置1に含まれる記憶デバイスが記憶部2であってもよい。例えば、装着検査装置1は、汎用コンピューターである場合には、汎用コンピューターとは別体の記憶装置が記憶部2でもよいし、汎用コンピューターに含まれるメモリが記憶部2であってもよい。
【0093】
あるいは、記憶部2は、クラウド上の記憶装置であって、装着検査装置1がネットワークに接続されることで、このクラウド上の記憶装置から波形を読み出す仕組みであってもよい。
【0094】
記憶部2が、装着検査装置1と別体であることで、レールボンドの装着状態の検査において、作業者による打音収集作業と、打音に基づく装着状態の判定処理とを、時間や場所を分けて実施することができるようになる。結果として、作業効率が高まる。
【0095】
記憶部2は、異なるレールボンドに対応する複数の波形を記憶しておいてもよく、面積算出部3が、これら複数の波形を次々と読み出して、次の処理を行えばよい。
【0096】
(面積算出部)
面積算出部3は、上述の通り、第1周波数から第2周波数の範囲の波形の波形面積を算出する。ここで、面積算出部3は、第1周波数から第2周波数までの範囲の面積であるSaを算出する。あるいは、面積算出部3は、第1周波数から特定周波数値までの区切られた範囲の波形の面積であるSbを算出する。あるいは、第2周波数から特定周波数値までの区切られた範囲の波形の面積Scを算出する。あるいは、これらの複数を算出する。
【0097】
いずれにしても、面積算出部3は、第1周波数から第2周波数までの全体の波形面積において、面積比率を算出できる面積を算出すればよい。例えば、面積比率を見出すのが、全体の面積であるSaと第1周波数から特定周波数値までの面積Sbであれば、これら2つを算出する。あるいは、面積Sbと面積Scを用いて面積比率を見出すのであれば、SbとScの面積のそれぞれを算出する。
【0098】
ここで、Scは、
図9からも明らかな通り、SaとSbとの差分(SaからSbを除いた残りの部分)の面積である。
【0099】
このように、面積比率を見出すために必要となる範囲の面積を、算出する。
【0100】
ここで、面積算出部3は、第1周波数から第2周波数に向けて、波形の積分値を徐々に算出していくことで、波形面積を算出してもよい。徐々に算出していくことで、算出途中の段階的なそれぞれの面積と、第2周波数までの最終まで積分した全体の波形面積のそれぞれを記録することができる。
【0101】
この段階的な面積と最終の面積のそれぞれを記録しながら、面積算出部3が波形面積を算出することにより、所定の面積比率となる部分を、面積算出に合わせて見出すことができる。
【0102】
面積算出部3は、このように、特定周波数値を算出するための面積比率を見出すことのできる、波形全体もしくは部分的な範囲の面積を算出する。なお、算出においては、積分や種々のアルゴリズムによって計算を行えばよい。
【0103】
(周波数値算出部)
周波数値算出部4は、面積算出部3で算出される波形面積において、2つの面積が所定の面積比率となる周波数値を、特定周波数値として算出する。第1周波数から第2周波数までの全体における波形面積と、その中の一部の波形の面積との面積比率を計算する。あるいは、第1周波数から第2周波数までのある一部の波形の面積と残りの波形の面積の面積比率を計算する。
【0104】
図9においては、例えば、全体波形の面積であるSaと第1周波数側の一部の波形の面積であるSbとの面積比率を計算する。あるいは、全体波形の第1周波数側の一部の波形の面積であるSbと、第2周波数側の一部の波形の面積であるScとの面積比率を計算する。いずれにおいても、第1周波数から第2周波数までの全体の波形面積の中で、面積比率を計算する。
【0105】
周波数値算出部4は、予め設定されている所定面積比率となる面積比率となる周波数値を、特定周波数値として算出する。例えば、面積Saと面積Sbとが、所定面積比率「9:1」となる周波数値を、特定周波数値として算出する。Sb/Saが、所定面積比率となる周波数値を、特定周波数値として算出する。もちろん、所定面積比率「9:1」は、一例であり、他の値であってもよい。
【0106】
あるいは、Sb/Scが、所定面積比率となる周波数値を、特定周波数値として算出してもよい。
【0107】
図9では、ある周波数値が特定周波数値として算出されている。周波数値算出部4は、この算出された特定周波数値を、判定部5に出力する。
【0108】
ここで、面積比率は、任意に定められる。例えば、装着状態が良好状態であると判断される実際のレールボンドと装着状態が不良状態であると判断される実際のレールボンドでの、特定周波数値を見出すに適切な面積比率を実測した上で、面積比率を決定してもよい。すなわち、実測や履歴に基づいて、面積比率が決定されればよい。
【0109】
あるいは、理論的に不良状態として判断される基準から、面積比率が決定されてもよい。
【0110】
面積比率は、可変であることも好適である。周波数値算出部4で用いられる面積比率は、可変であって、設定や状況に応じて変更されることも好適である。あるいは、可変であって、周波数値算出部4が、適宜、必要な面積比率を採用して、特定周波数値を算出することでもよい。
【0111】
以上のようにして、周波数値算出部4は、所定面積比率となる周波数値を、特定周波数値として算出する。上述したように、レールボンドの溶着面の様々な剥離態様を反映した波形面積に基づくものが、特定周波数値であるので、特定周波数値は、様々な剥離態様をより正確に反映したものである。
【0112】
周波数値算出部4は、この特定周波数値を判定部に出力することで、判定部5は、レールボンドの装着状態を、より正確に判定できる。
【0113】
(判定部)
判定部5は、特定周波数値と所定の閾値とを比較することで、レール装着物品の装着状態を判定する。上述のように、特定周波数値は、レールボンドの溶着面の様々な剥離態様(剥離面積、剥離位置、剥離場所の数、広がり方、形状など)を、示していると考えられる。
【0114】
図10は、本発明の実施の形態1における判定部での判定を説明する説明図である。周波数値算出部4において、特定周波数値が算出される。この特定周波数値は、波形によってさまざまである。
図10では、ある値の特定周波数値Aと、他の値の特定周波数値Bとが、示されている。それぞれ異なる波形に基づいて算出されたものである。
【0115】
判定部5は、予め所定の閾値を記憶している。
図10では、ある周波数での閾値が設定されている。判定部5は、特定周波数値Aと閾値とを比較する。特定周波数値Aは、閾値より大きいので、この特定周波数値Aの基礎となったレールボンドを、「不良状態」として判定する。同様に判定部5は、特定周波数値Bと閾値とを比較する。特定周波数値Bは、閾値以下なので、この特定周波数値Bの基礎となったレールボンドを、「良好状態」として判定する。
【0116】
判定部5は、予め設定されている閾値と特定周波数値との比較によって、レールボンドの装着状態を判定する。
【0117】
閾値は、実際のレールボンドの装着状態が良好状態として判定される(あるいは、不良状態として判定される)実測値に基づいて定められればよい。例えば、良好状態として判定されたレールボンドの特定周波数値と不良状態として判定されたレールボンドの特定周波数値の境界の値を、閾値として定めればよい。また、実測値は、複数の実測結果の蓄積によって算出されればよい。すなわち、複数のレールボンドの実際の装着状態での特定周波数値の蓄積から、閾値を算出してもよい。
【0118】
この閾値の決定においては、予めの実測から決定しておいてもよいし、実際の装着検査を行う中で、アップデートしていくことで決定してもよい。後者の場合には、学習的に蓄積していった特定周波数値から、最適な閾値を算出しなおしつつアップデートする。
【0119】
また、閾値は、判定部5での判定結果に基づいて変更可能であることも好適である。例えば、判定結果において、不良状態が余りにも多く検出されるにも関わらず、実際のレールボンドでの脱落等も余り生じていない場合には、閾値が厳しすぎる可能性がある。この場合には、閾値を高くするなど、閾値を緩和する。
【0120】
あるいは、良好状態が余りに多く検出されているにも関わらず、実際のレールボンドでの脱落等が頻発している場合には、閾値が緩すぎる可能性がある。この場合には、閾値を低くするなど、閾値を厳しくして、より実際に合わせた判定を実現できるようにする。
【0121】
なお、不良状態とは、レールボンドがレールから脱落する可能性が高い状態であり、良好状態とは、レールボンドがレールから脱落する可能性が低い状態である。
【0122】
以上のように、実施の形態1における装着検査装置1は、レール装着物品の溶着面の様々な剥離態様により即した検査を行うことができる。
【0123】
例えば、
図6と
図7は、異なるレールボンドの打音から得られる波形である。
図6の場合には、
図3のように一つの剥離面積が大きい剥離態様に対応する波形である。一方、
図7は、
図4のように一つの剥離部分の剥離面積は小さいが、剥離箇所が複数であるが全体としては、ある程度の剥離進行が進んでいる剥離態様に対応する波形である。いずれも、脱落の可能性が高い不良状態であると考えられる。
【0124】
従来技術では、
図6と
図7の波形では、
図6は、不良状態として判定されるが、
図7は、良好状態として判定される可能性があった。これは、振幅のみに着目しているからであり、上述の通りである。
【0125】
これに対して、実施の形態1では、面積比率から得られる特定周波数値に基づく。
図6、
図7のそれぞれの波形であっても、面積比率から特定周波数値を算出するので、特定周波数値は、
図6、
図7の波形のそれぞれで大きな差が出にくい。この大きな差が出にくいことで、いずれも本来の不良状態として判定されることになり、より正確な判定ができる。
【0127】
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、種々の追加的な工夫やバリエーションの展開について説明する。
【0128】
(第1周波数と第2周波数)
波形の面積を算出する際において、第1周波数と第2周波数が、その算出範囲の基準となる。第1周波数 > 第2周波数であるが、この第2周波数は、余分成分除去周波数以上であることも好ましい。ここで、余分成分除去周波数は、打音においてレールそのものの打音(レール装着物品の打音を含まない)を除去できる周波数値である。
【0129】
レールそのものの打音を面積算出の波形に含んでしまうと、レール装着物品とレールとの間の問題(溶着面の剥離)に基づかない波形を面積算出に入れてしまい、剥離態様を反映した特定周波数値の算出に悪影響が出る可能性がある。このため、レールそのものの打音の範囲である周波数(低周波の一部である)を、余分成分除去周波数として、第2周波数を、この余分成分除去周波数以上とすることで、この悪影響を軽減できる。
【0130】
(面積算出におけるノイズ除去)
図11は、本発明の実施の形態2におけるノイズを含む波形の模式図である。ある打音の時間周波数変換後の波形が、
図11のような波形となることがある。このとき、
図11のように、ノイズ100が波形に含まれることがある。周波数軸におけるゲインの変化ではなく、極めて特異波形としてのノイズが波形に生じることがある。
【0131】
このようなノイズの原因は様々であるが、例えば、ハンマーなどで打撃をする際に、ハンマーとレール装着物品との間に砂などの不純物があったり、打撃が不適切であったり、マイクなどでの集音時に他の音が混入したりなどが考えられる。このような不適切な原因でのノイズを、波形面積の算出に含めてしまうと、レール装着物品の本来の波形面積とは異なる波形面積となってしまう。結果として、あるべき特定周波数値が算出できなくなり、装着状態を正しく判定できなくなる可能性もある。
【0132】
このようなノイズ100として判断される部分については、面積算出部3は、波形面積の算出対象から除去して、波形面積を算出することも好適である。ノイズ100部分を除いて波形面積を算出することで、本来のあるべき特定周波数値を算出できる。結果として、より正確な装着状態の判定ができる。
【0133】
なお、ノイズ100をノイズと見るかノイズではないとみるかについては、前後のゲインとの差分と帯域幅との関係などから判断すればよい。あるいは、フィルタリングなどの手法から判断すればよい。
【0134】
(複数の閾値との比較)
図12は、本発明の実施の形態2における判定部での判定の状態を説明する説明図である。判定部5は、特定周波数値と閾値とを比較して、装着状態を判定する。このとき、判定部5は、複数の閾値を有していることも好適である。
図12では、判定部5は、閾値A、閾値B、閾値Cの3つを有している。判定部5は、複数の閾値と特定周波数値を段階的に比較して判定してもよい。例えば、
図12では、特定周波数値は、閾値A以上閾値B以下である。この場合には、不良状態と良好状態との中間状態などのように判定してもよい。
【0135】
あるいは、複数の閾値A〜閾値Cのいずれかを選択的に選んで比較して判定してもよい。例えば、判定部5が、閾値Aを選択する場合には、特定周波数値は閾値Aより大きいので、当該レールボンドは不良状態であると判定される。一方、判定部5が閾値Bもしくは閾値Cを選択する場合には、特定周波数値は閾値B(閾値C)以下であるので、当該レールボンドは良好状態であると判定される。
【0136】
対象となるレールボンドの取り付け位置、レールの状況、取付け時期などの様々な要因に合わせて、柔軟に閾値を変化させることで、より実際に即したレールボンドの装着状態を判定することができる。
【0137】
(方法およびソフトウェアとしての実現)
実施の形態1、2で説明した装着検査装置1は、既述したように、その要素の一部もしくは全部が、ハードウェアで実現されてもよいし、ソフトウェアで実現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの混在で実現されてもよい。
【0138】
装着検査装置1の最終的な実現態様がコンピュータや携帯端末である場合において、面積算出部3などの各要素は、内部に含まれる専用回路であるハードウェアであってもよいし、プロセッサで動作するソフトウェアであってもよい。
【0139】
ソフトウェアとして把握される場合には、プロセッサとこれがアクセスするメモリとの構成によって実現される。メモリの内部に、プロセッサが動作可能なコンピュータープログラムとして、面積算出部3、周波数値算出部4、判定部5などが記憶されている。
【0140】
また、装着検査装置1が、コンピュータや携帯端末に実現される前のソフトウェアとしての状態も、本発明は含むものである。また、実施の形態1、2で説明された装着検査装置1の各手順が実行される方法の発明として把握されてもよい。
【0141】
この場合には、記憶部2から読み出された波形について、波形面積を算出する面積算出ステップと、特定周波数値を算出する周波数値算出ステップと、特定周波数値と閾値との比較による装着状態の判定を行う判定ステップとを、装着検査方法は含む。
【0142】
以上のように、実施の形態2の装着検査装置は、様々なバリエーションの検査を実現できる。
【0143】
なお、実施の形態1〜2で説明されたレール装着物品の検査装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。