(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793419
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】防錆部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20201119BHJP
C23C 22/05 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
C23C28/00 C
C23C22/05
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-526909(P2019-526909)
(86)(22)【出願日】2018年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2018024107
(87)【国際公開番号】WO2019004163
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2019年11月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-127192(P2017-127192)
(32)【優先日】2017年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 司
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 寿裕
(72)【発明者】
【氏名】平松 良規
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕輝
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−335864(JP,A)
【文献】
特開2007−162040(JP,A)
【文献】
特開2008−133502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材に設けられた亜鉛系めっき層と、前記亜鉛系めっき層に設けられSiを含有する三価クロム化成皮膜とを備える防錆部材であって、
前記三価クロム化成皮膜は、
反応型の化成皮膜であり、
酸化ケイ素を含有し、
Si含有量のZn含有量に対する原子比が1以上であるSiリッチ領域を表層側に100nm以上の厚さで有し、
前記Siリッチ領域と前記亜鉛系めっき層との間に、Znの含有量が前記亜鉛系めっき層に近づくほど増大する傾斜領域を50nm以上の厚さで有し、
前記Siリッチ領域と前記傾斜領域とは厚さ方向に連続すること
を特徴とする防錆部材。
【請求項2】
前記三価クロム化成皮膜は、P,B,C,S,O,Li,Ca,Mg,Mo,V,Nb,Ta,W,Zr,Fe,Ni,Co,Cu,Si,Ti,Zn,Al,SnおよびBiならびにランタノイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素をさらに含有する、請求項1に記載の防錆部材。
【請求項3】
前記化成皮膜は、有機バインダ成分を実質的に含有しない、請求項1または請求項2に記載の防錆部材。
【請求項4】
請求項1に記載される防錆部材の製造方法であって、
前記基材に前記亜鉛系めっき層を形成して、前記基材と前記亜鉛系めっき層とを備える被処理部材を得るめっき工程と、
前記被処理部材を化成処理液に接触させ、その後、前記被処理部材を洗浄することを含んで、前記被処理部材に前記化成皮膜を形成する化成処理工程と、を備え、
前記化成処理液は、化成反応を行う元素を含有する化成元素含有物質および酸化ケイ素を含有することを特徴とする防錆部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、亜鉛または亜鉛合金めっき層を設けた処理すべき基材の表層にCrを含有する下層と、SiO
2を含む上層とから成る1液処理による2層構造化成処理皮膜を備えた耐食性基材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3620510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特許文献1に記載されるようなSiを含有する皮膜を備え耐食性に優れる防錆部材、およびかかる防錆部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)基材と、前記基材に設けられた亜鉛系めっき層と、前記亜鉛系めっき層に設けられSiを含有する化成皮膜とを備える防錆部材であって、前記化成皮膜は、Si含有量のZn含有量に対する原子比が1以上であるSiリッチ領域を表層側に100nm以上の厚さで有することを特徴とする防錆部材。
(2)前記化成皮膜は、前記Siリッチ領域と前記亜鉛系めっき層との間に、Znの含有量が前記亜鉛系めっき層に近づくほど増大する傾斜領域を有する、上記(1)に記載の防錆部材。
(3)前記傾斜領域の厚さは50nm以上である、上記(2)に記載の防錆部材。
(4)前記Siリッチ領域と前記傾斜領域とは厚さ方向に連続している、上記(2)または(3)に記載の防錆部材。
(5)前記化成皮膜は、Cr,P,B,C,S,O,Li,Ca,Mg,Mo,V,Nb,Ta,W,Zr,Fe,Ni,Co,Cu,Si,Ti,Zn,Al,SnおよびBiならびにランタノイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素をさらに含有する、上記(1)から(4)のいずれかに記載の防錆部材。
(6)前記化成皮膜は反応型の化成皮膜である、上記(1)から(5)のいずれかに記載の防錆部材。
(7)前記化成皮膜は、酸化ケイ素を含有する、上記(1)から(6)のいずれかに記載の防錆部材。
(8)前記化成皮膜は、有機バインダ成分を実質的に含有しない、上記(1)から(7)のいずれかに記載の防錆部材。
(9)上記(7)に記載される防錆部材の製造方法であって、前記基材に前記亜鉛系めっき層を形成して、前記基材と前記亜鉛系めっき層とを備える被処理部材を得るめっき工程と、前記被処理部材を化成処理液に接触させ、その後、前記被処理部材を洗浄することを含んで、前記被処理部材に前記化成皮膜を形成する化成処理工程と、を備え、前記化成処理液は、化成反応を行う元素を含有する化成元素含有物質および酸化ケイ素を含有することを特徴とする防錆部材の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、Siを含有する皮膜を備え、耐食性に優れる防錆部材が提供される。また、かかる防錆部材の製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1に係る防錆部材の深さプロファイルである。
【
図2】
図1などの深さプロファイルに基づき算出したSi/Zn比の深さ方向の推移を示すグラフである。
【
図3】実施例2に係る防錆部材の深さプロファイルである。
【
図4】実施例3に係る防錆部材の深さプロファイルである。
【
図5】比較例に係る防錆部材の深さプロファイルである。
【
図6】実施例1に係る防錆部材の表面観察結果を示す図である。
【
図7】比較例に係る防錆部材の表面観察結果を示す図である。
【
図8】実施例4に係る防錆部材の深さプロファイルである。
【
図9】
図8の深さプロファイルに基づき算出したSi/Zn比の深さ方向の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
本発明の一実施形態に係る防錆部材は、次に説明するように、基材と、亜鉛系めっき層と、化成皮膜とを備える。
【0010】
基材を構成する材料は任意である。具体例として、アルミニウム系材料、鉄系材料等の金属系材料、アルミナ等のセラミックス系材料、液晶プラスチック等の有機系材料、およびガラスフィラーが分散するエポキシ樹脂等複合材料が挙げられる。基材の形状も任意である。平板状であってもよいし、凹凸を有する複雑な形状であってもよい。そのような複雑な形状を有する部材の具体例としてブレーキキャリパーが挙げられる。
【0011】
亜鉛系めっき層は基材の上に形成される。亜鉛系めっき層は電気めっきにより形成されたものであってもよいし、無電解めっきにより形成されてもよい。電気めっきにより形成される場合には、基材に対して導電性を付与するための処理を施すことが好ましい場合がある。亜鉛系めっき層を構成する材料は、亜鉛のみであってもよいし、亜鉛以外の物質を含んでいてもよい。亜鉛以外の物質を含む場合において、亜鉛系めっき層は、NiなどZn以外の元素を含む亜鉛合金から構成されていてもよい。
【0012】
化成皮膜は、亜鉛系めっき層を構成する金属元素が化成処理液に含有される元素と生じる化成反応により形成される皮膜である。したがって、化成皮膜は、亜鉛系めっき層の構成元素、特にZnを含む。化成処理液に含まれ化成反応を担う元素(本明細書において「化成元素」ともいう。)の種類およびその状態は限定されず、Cr(三価クロム)が例示される。本発明の一実施形態に係る防錆部材が備える化成皮膜は、Siを含有する。含有されるSiの形態は任意である。Si−O結合を有する物質として含有されている成分として化成皮膜に含有されていることが、皮膜の安定性の観点から好ましく、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカなどの酸化ケイ素が具体例として挙げられる。酸化ケイ素には、表面処理が施されていてもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る防錆部材が備える化成皮膜は、Si含有量(単位:原子%)のZn含有量(単位:原子%)に対する比(原子比、本明細書において「Si/Zn比」ともいう。)が1以上であるSiリッチ領域を表層側に100nm以上の厚さで有する。すなわち、Siリッチ領域は、化成皮膜において下記式(1)を満たす領域である。
[Si]≧[Zn] (1)
本明細書において、[Si]は化成皮膜におけるSi含有量(単位:原子%)であり、[Zn]は化成皮膜におけるZn含有量(単位:原子%)である。
【0014】
本明細書において、化成皮膜および亜鉛系めっき層の組成は、X線光電子分光(XPS)分析により測定された結果を意味し、防錆部材の深さ方向の組成分布(深さプロファイル)は、防錆部材の表面をスパッタリングにより除去しながらXPS分析を行って得られたものを意味する。
【0015】
例えば特許文献1に記載される2層構造化成処理皮膜が有するSiO
2を含む上層は、Si含有量が相対的に高いものの、後述する実施例において示すように、この上層におけるSi含有量(単位:原子%)はZn含有量(単位:原子%)未満である。したがって、特許文献1に記載される2層構造化成処理皮膜は、本明細書において定義されるSiリッチ領域を有していない。これに対し、本発明の一実施形態に係る化成皮膜は、Si含有量がZn含有量以上となるSiリッチ領域を100nm以上の厚さで有している。このようなSiリッチ領域を有するため、化成皮膜の内側に位置する亜鉛系めっき層が適切に保護され、耐食性、特に耐白錆性に優れた防錆部材が得られる。防錆部材の耐食性をより安定的に向上させる観点から、Siリッチ領域の厚さは150nm以上であることが好ましい場合がある。
【0016】
Siリッチ領域に位置するSiが酸化ケイ素に由来する場合には、酸化ケイ素は、亜鉛系めっき層に由来するZnおよび化成元素など化成皮膜に含まれるSi以外の元素の酸化物や水酸化物によって保持されていると考えられる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る防錆部材が備える化成皮膜は、Siリッチ領域と亜鉛系めっき層との間に、Znの含有量が亜鉛系めっき層に近づくほど増大する傾斜領域を有する。本明細書において、傾斜領域とは、Siリッチ領域に接して亜鉛系めっき側に位置し、Zn含有量が、亜鉛系めっき層におけるZn含有量に対する割合として0.8以下である領域を意味する。したがって、傾斜領域は、下記式(2−1)および下記式(2−2)を満たす。
[Si]/[Zn]≧1 (2−1)
[Zn]≦0.8×[Zn]
0 (2−2)
【0018】
ここで、[Zn]
0は、亜鉛系めっき層におけるZn含有量(単位:原子%)である。したがって、例えば、亜鉛系めっき層がZn−Ni合金めっきからなり、このめっきのNi共析率が18原子%である場合には、[Zn]
0は82原子%となり、上記式(2−2)は、[Zn]≦65.6原子%となる。亜鉛系めっき層の組成は、めっき層の厚さを測定する際に一般的に用いられる蛍光X線膜厚計などを用いて測定すればよい。
【0019】
傾斜領域では、上記のようにZnの含有量が亜鉛系めっき層に近づくほど増大する一方、Siの含有量は亜鉛系めっき層に近づくほど少なくなる。このような傾斜領域を有することにより、亜鉛系めっき層の表面の上に位置するSiリッチ領域に含まれる酸化ケイ素などのSiを含有する成分が、防錆部材から脱落しにくくなる。Siリッチ領域に含まれる成分が脱落する可能性をより安定的に低下させる観点から、傾斜領域の厚さは、50nm以上であることが好ましい場合があり、100nm以上であることがより好ましい場合があり、150nm以上であることが特に好ましい場合がある。
【0020】
化成皮膜において、Siリッチ領域と傾斜領域とは厚さ方向に連続していることが好ましい。これらの領域が連続していることにより、これらの領域の界面での剥離が生じにくくなる。後述する実施例において示すように、本発明の一実施形態に係る防錆部材の化成皮膜では、Siリッチ領域と傾斜領域との境界領域、すなわちSi/Zn比が1近傍の領域では、Si/Zn比の変化が連続的であり、Siリッチ領域と傾斜領域とが厚さ方向に連続していることが明確に確認される。
【0021】
亜鉛系めっき層と化成皮膜との密着性を高める観点から、化成皮膜は反応型の化成皮膜であることが好ましい場合がある。また、化成皮膜は、有機バインダ成分を実質的に含有しなくてもよい。有機バインダ成分よりも、Znや化成元素を含む成分が、酸化ケイ素などのSiを含有する成分のバインダとして主体的に機能することが、寸法精度を高める観点や、耐食性の経時的安定性の観点から好ましい場合がある。
【0022】
化成皮膜は、Siおよび亜鉛系めっき層に由来するZn以外の元素を含んでいてもよい。そのような元素として、Cr,P,B,C,S,O,Li,Ca,Mg,Mo,V,Nb,Ta,W,Zr,Fe,Ni,Co,Cu,Si,Ti,Zn,Al,SnおよびBiならびにランタノイドが例示される。これらの元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を、上述の化成元素として、あるいはその他の目的で含有させることができる。上記の元素の含有量は含有させた目的を果たす範囲で適宜設定される。なお、化成皮膜に含まれるSiを含有する成分が酸化ケイ素を含む場合には、化成皮膜は、酸化ケイ素の構成元素としてのO(酸素)を含む。
【0023】
本発明の一実施形態に係る防錆部材の製造方法は限定されない。基材は、圧延、切削、プレス等の機械加工、成形加工などにより形成することができる。基材を用意した後は、次に説明するめっき工程および化成処理工程を実施することにより、防錆部材を製造することができる。
【0024】
めっき工程では、基材に亜鉛系めっき層を形成して、基材と亜鉛系めっき層とを備える被処理部材を得る。前述のように、亜鉛系めっき層は、電気めっきにより形成してもよいし、他の方法により形成してもよい。
【0025】
化成処理工程では、まず、被処理部材を化成処理液に浸漬等の方法により接触させる。この場合の化成処理液は、化成元素を含有する化成元素含有物質および酸化ケイ素を含有する。化成処理液の温度、浸漬時間などの処理条件は、化成処理液の組成および形成するべき化成皮膜の組成を考慮して適宜設定される。化成処理液が反応型である場合には、化成処理液に所定時間接触させたのち、被処理部材を水などを用いて洗浄して化成反応を停止させて、化成皮膜を得る。こうして、被処理部材に化成皮膜を形成することができる。
【0026】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、化成皮膜は有機バインダ成分を含んでいてもよい。この場合において、有機バインダ成分を与える成分が化成処理液に含まれていてもよいし、上記の無機系の化成皮膜の有機系オーバーコートとしても位置付けられうる領域がSiリッチ領域上に形成されていてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
下記の条件で防錆部材を作製した。
基材:鋼板
亜鉛系めっき層:電気亜鉛めっき
化成処理液:Cr(三価クロム)を化成元素とし、コロイダルシリカを含有
化成処理:化成処理液に40秒間浸漬、水洗、乾燥
【0029】
得られた防錆部材について、XPS分析装置を用いて、厚さ方向の組成分析(深さプロファイル)を測定した。測定結果を示すグラフおよびこの結果から算出されたSi/Zn比の深さ方向の推移を示すグラフをそれぞれ
図1および
図2に示す。
図1および
図2に示されるように、Siリッチ領域の厚さは220nm程度であり、化成皮膜の厚さは300nm程度であった。したがって、実施例1では、Siリッチ領域に連続して位置する傾斜領域の厚さは80nm程度であった。このように化成皮膜が厚く形成された理由として、化成処理の条件等を調整して化成反応を緩やかに進行させたことが挙げられる。
【0030】
また、JIS Z2371:2015に記載される中性塩水噴霧試験に防錆部材を供し、所定時間ごとに目視で観察して、白錆が発生したか否か、および発生した場合には白錆発生面積比率の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様であるが、化成処理液への浸漬時間を40秒間から20秒間に変更して防錆部材を得た。この防錆部材についても深さプロファイルを測定し、Si/Zn比を算出した。これらの結果を
図3および
図2に示した。
図3および
図2に示されるように、Siリッチ領域の厚さは130nm程度であり、化成皮膜の厚さは200nm程度であった。したがって、実施例2では、Siリッチ領域に連続して位置する傾斜領域の厚さは70nm程度であった。
【0033】
(実施例3)
実施例1と同様であるが、化成処理液への浸漬時間を40秒間から60秒間に変更して防錆部材を得た。この防錆部材についても深さプロファイルを測定し、Si/Zn比を算出した。これらの結果を
図4および
図2に示した。
図4および
図2に示されるように、Siリッチ領域の厚さは300nm程度であり、化成皮膜の厚さは400nm程度であった。したがって、Siリッチ領域に連続して位置する傾斜領域の厚さは100nm程度であった。
【0034】
(比較例)
実施例1と同様であるが、特許文献1の実施例1に示される化成処理を行って防錆部材を得た。この防錆部材についても深さプロファイルを測定し、Si/Zn比を算出した。これらの結果を
図5および
図2に示した。比較例に係る防錆部材の化成皮膜では、Si/Zn比が1以上であるSiリッチ領域は存在せず、化成皮膜の厚さは60nm程度であった。比較例に係る化成皮膜の表面観察を行ったところ、
図7に示されるように、実施例1に係る化成皮膜の表面(
図6)とは表面形態が大きく異なっていた。また、実施例1と同様に中性塩水噴霧試験を行った。その結果を表1に示した。
【0035】
(実施例4)
実施例1と同様であるが、亜鉛系めっき層を、電気亜鉛めっきに代えて、電気Zn−Ni合金めっきにより形成することにより、防錆部材を得た。形成した亜鉛系めっき層の組成を、蛍光X線膜厚計を用いて確認したところ、Znが82原子%であり、Niが18原子%であった。したがって、前述の式(2−2)より、実施例4に係る防錆部材が備える化成皮膜の傾斜領域では、亜鉛含有量が65.6原子%以下となる。
【0036】
こうして得られた防錆部材について深さプロファイルを測定し、Si/Zn比を算出した。これらの結果を
図8および
図9に示した。
図8および
図9に示されるように、亜鉛系めっき層が電気亜鉛めっきからなる場合と同様に、亜鉛系めっき層が電気Zn−Ni合金めっきからなる場合も、防錆部材の化成皮膜にSi/Zn比が1以上であるSiリッチ領域が存在し、その厚さは120nm程度であり、化成皮膜の厚さは190nm程度であった。したがって、実施例4では、Siリッチ領域に連続して位置する傾斜領域の厚さは70nm程度であった。これらの結果は、
図3などに示される実施例2に近い結果であった。
【0037】
(実施例5から実施例17)
下記の条件により、反応型の化成皮膜を有する防錆部材を作製した。
基材:鋼板
亜鉛系めっき層:表2に示されるとおり
Zn:実施例1と同様の電気亜鉛めっき
Zn−Ni:実施例4と同様の電気Zn−Ni合金めっき
化成処理液:表2に示される元素を化成元素とし、コロイダルシリカを含有
化成処理:化成処理液に40秒間浸漬、水洗、乾燥
【0038】
【表2】
【0039】
こうして得られた防錆部材について実施例1と同様に深さプロファイルを測定し、得られた深さプロファイルから、Si/Zn比が1以上であるSiリッチ領域の厚さ(単位:nm)を求めた。結果を表2に示す。なお、表2には、対比を容易にする観点から、実施例1から実施例4の結果も示した。表2に示されるように、実施例1から実施例4において用いられたCr以外に、P,Mg,Ti,Moなど各種の元素を化成元素として用いても、100nm以上の厚さのSiリッチ領域を有する化成皮膜を形成可能であることが確認された。また、複数の化成元素を用いた場合にも、100nm以上の厚さのSiリッチ領域を有する化成皮膜を形成可能であることが確認された。