特許第6793464号(P6793464)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793464
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】磁性体回収装置
(51)【国際特許分類】
   B03C 1/029 20060101AFI20201119BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20201119BHJP
   B03C 1/032 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   B03C1/029
   B03C1/00 A
   B03C1/00 B
   B03C1/00 F
   B03C1/032
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-85435(P2016-85435)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-192909(P2017-192909A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2018年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭二郎
(72)【発明者】
【氏名】川端 淳一
(72)【発明者】
【氏名】仁木 丈文
(72)【発明者】
【氏名】野田 泰廣
(72)【発明者】
【氏名】福西 達男
【審査官】 小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−036113(JP,A)
【文献】 実開昭49−100276(JP,U)
【文献】 特公昭59−010263(JP,B1)
【文献】 特開平09−075632(JP,A)
【文献】 特開2007−160169(JP,A)
【文献】 特公昭57−052104(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 1/00−1/32
B01D 35/06
B09B 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含む混合物から前記磁性体を回収する磁性体回収装置であって、
前記混合物が流入する流入口と、
磁界を発生させる磁界発生手段と、
前記磁界発生手段によって発生される前記磁界の影響下に設けられ、前記磁界によって磁化されることにより前記磁性体を付着させる回転式のベルトと、
前記ベルトに対して流体を噴射し、前記ベルトに付着した前記磁性体以外の前記混合物を除去する流体噴射手段と、
前記流体噴射手段によって前記磁性体以外の前記混合物が除去された前記ベルトから、前記磁性体を吸引することにより回収する回収手段と、を備え、
前記ベルトと前記磁界発生手段とは、前記ベルトが前記磁界発生手段に近い側において下方から上方へ向かう上行部を有するように、且つ、前記ベルトが下方から上方へ向かうに従って前記磁界の影響が弱くなるように配置されており、
前記流体噴射手段及び前記回収手段は、前記ベルトにおける前記磁界の影響が弱くなる過程において動作する位置に設けられており、
前記流入口と前記ベルトとの間に、前記流入口から流入した前記混合物の流れを緩衝する緩衝手段を備え、
前記上行部と前記磁界発生手段との間に、前記上行部に当接する押さえローラを備える、磁性体回収装置。
【請求項2】
前記緩衝手段は、前記ベルトから遠ざかる方向に延在する空間である、請求項記載の磁性体回収装置。
【請求項3】
前記回収手段は、前記磁界発生手段から遠ざかる方向に傾斜するように設けられている、請求項又は記載の磁性体回収装置。
【請求項4】
一つの前記磁界発生手段に対して、前記流入口、前記ベルト、前記流体噴射手段、前記回収手段、及び前記緩衝手段を含んで構成された本体部を複数備える、請求項1〜のいずれか一項記載の磁性体回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重金属等に汚染された土壌等を浄化する方法として、例えば土壌をスラリー化して鉄粉を混合する方法が知られている。ここでは、環境への配慮やコストの低減等といった観点から、混合した鉄粉を回収し再利用することが望ましい。
【0003】
スラリーに混合した鉄粉を回収する技術としては、例えば特許文献1に開示されている磁性体回収装置が知られている。この装置では、スラリーに混合した鉄粉を、磁界発生手段によって発生された磁界によって磁化する回転式のベルトに付着させ、ベルトに付着した鉄粉以外の余分な混合物を流体噴射手段によって除去した後、回収手段でベルトから鉄粉を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−36113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この磁性体回収装置では、流入口から流入したスラリーが、その流量次第(例えば1m/分以上)では流入した勢いのままベルトに接触するため、ベルトに付着した鉄粉の一部がベルトから外れ、鉄粉の回収率が低下する。また、この磁性体回収装置では、ベルトのうち鉄粉が付着した部分が磁界発生手段によってベルトの進行方向とは逆方向に引っ張られるため、モータに大きな負荷がかかり、消費電力が大きくなる。これを避けるべくベルトの回転方向を逆にしたとすると、鉄粉が付着した部分に対して回収手段が動作する前に磁界が最も弱い部分を通過するため、鉄粉がベルトから落ちやすくなり、鉄粉の回収率が低下する。
【0006】
そこで本発明は、消費電力を抑制しながら回収率を向上することができる磁性体回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁性体を含む混合物から磁性体を回収する磁性体回収装置であって、混合物が流入する流入口と、磁界を発生させる磁界発生手段と、磁界発生手段によって発生される磁界の影響下に設けられ、磁界によって磁化されることにより磁性体を付着させる回転式のベルトと、ベルトに対して流体を噴射し、ベルトに付着した磁性体以外の混合物を除去する流体噴射手段と、流体噴射手段によって磁性体以外の混合物が除去されたベルトから、磁性体を吸引することにより回収する回収手段と、を備え、ベルトと磁界発生手段とは、ベルトが磁界発生手段に近い側において下方から上方へ向かう上行部を有するように、且つ、ベルトが下方から上方へ向かうに従って磁界の影響が弱くなるように配置されており、流体噴射手段及び回収手段は、ベルトにおける磁界の影響が弱くなる過程において動作する位置に設けられており、流入口とベルトとの間に、流入口から流入した混合物の流れを緩衝する緩衝手段を備える、磁性体回収装置を提供する。
【0008】
この磁性体回収装置では、ベルトの上行部が磁界発生手段に近い側にあり、且つ、ベルトが下方から上方へ向かうに従って磁界の影響が弱くなるように配置されているので、磁性体が付着した部分が磁界発生手段によって進行方向に引っ張られる領域が生じている。従って、従来の磁性体回収装置にも存在した進行方向とは逆方向に引っ張られる力を相殺することができ、これによって消費電力の増大を抑制することができる。また、この磁性体回収装置では、流入口とベルトとの間に、流入口から流入した混合物の流れを緩衝する緩衝手段を備えているので、混合物が流入時の勢いのままベルトに接触することがない。従って、ベルトに付着した鉄粉の一部が混合物の接触によってベルトから外れることが防止されるため、磁性体の回収率が向上する。
【0009】
緩衝手段は、ベルトから遠ざかる方向に延在する空間であることが好ましい。これによれば、流入した混合物が当該空間に拡散しながら、流入時の流速が下がる。そして、流速が十分に下がった状態で混合物がベルトに接触することになるので、ベルトに付着した磁性体が混合物の接触によって外れることが防止される。
【0010】
回収手段は、磁界発生手段から遠ざかる方向に傾斜するように設けられていることが好ましい。回収手段の内部を通過する磁性体は磁界発生手段に引っ張られるため、回収手段が磁界発生手段にから遠ざかる方向に傾斜するように設けられていると、磁性体の通過が妨げられにくい。
【0011】
また、磁性体回収装置は、上行部と磁界発生手段との間に、上行部に当接する押さえローラを備えることが好ましい。磁界発生手段により発生する磁界の強さによっては、磁性体が付着したベルトが磁界発生手段のほうへ強く引っ張られ、ベルトの回転の障害となることが考えられる。ここで、上行部と磁界発生手段との間に、上行部に当接する押さえローラを備えていると、ベルトが磁界発生手段側へ過度に引っ張られることがなくなり、磁界が強い場合でもベルトが円滑に回転することができる。
【0012】
また、磁性体回収装置としては、一つの磁界発生手段に対して、流入口、ベルト、流体噴射手段、回収手段、及び緩衝手段を含んで構成された本体部を複数備えていてもよい。この場合、一つの磁界発生手段に対する混合物の処理量が、組み合わされた構成の数の分だけ倍加する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、消費電力を抑制しながら回収率を向上することができる磁性体回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】磁性体回収装置を含む噴射攪拌システムの概要を示す図である。
図2】噴射攪拌システムの一部を模式的に示す図である。
図3】磁性体回収装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
図4図3におけるIV−IV線断面図である。
図5】緩衝手段の他の構成を示す図である。
図6】磁性体回収装置の他の形態を示す図である。
図7】噴射攪拌システムの他の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、磁性体回収装置を含む噴射攪拌システムの概要を示す図である。図2は、排出スラリー貯留タンク5と磁性体回収装置6とを備える噴射攪拌システムを模式的に示す図である。図1及び図2に示すように、噴射攪拌システム1は、汚染地盤中において地盤切削を行いつつ浄化材を噴射し、汚染地盤と浄化材とを原位置混合することで汚染箇所(地下水、土壌)の分解無害化を図る土壌浄化(エンバイロジェット(ENVIRO JET))工法を実施するためのものである。噴射攪拌システム1は、浄化材貯留タンク2と、噴射管3と、ガイドパイプ4と、排出スラリー貯留タンク5と、磁性体回収装置6と、VOC除去タンク7とを含んで構成されている。ガイドパイプ4と排出スラリー貯留タンク5、及び排出スラリー貯留タンク5と磁性体回収装置6間は、搬送ラインLによってそれぞれ接続されている。
【0017】
浄化材貯留タンク2は、浄化材を噴射管3に送出するタンクである。浄化材は、鉄粉(磁性体)、増粘材(多糖類)、及び水道水が混合されたものである。鉄粉は、イオン価数が0価、直径が0.07〜0.1mm程度(最大0.5mm)のものであり、汚染地下水を浄化する還元剤(還元鉄粉)として作用する。また、鉄粉は、土壌に含まれる重金属等を吸着する作用も示す。
【0018】
噴射管3は、浄化材及び圧縮空気をそれぞれ送出する二重管構造となっている。噴射管3は、先端部に設けられたノズル(図示しない)から浄化材及び圧縮空気をそれぞれ噴射し、地盤中において原地盤の土壌と鉄粉とが混合された鉄粉混合体を形成する。噴射管3は、浄化材及び圧縮空気によって汚染土壌を切削すると共に、浄化材を混合する。これにより、汚染地盤中では、切削された土壌と浄化材とが攪拌混合される。
【0019】
ガイドパイプ4は、汚染地盤中の地下水流Wに向けて切削された孔に挿入され、噴射管3をパイプ内部に通す。また、ガイドパイプ4は、噴射管3による土壌の切削と浄化材の噴射とによって地盤中で余剰となったスラリーを地盤中から地上側へと排出する。スラリー(混合物)は、切削された土壌、鉄粉を含有する浄化材の一部、泥水、空気等を含むものである。
【0020】
排出スラリー貯留タンク5は、ガイドパイプ4から排出されたスラリーを一時的に貯留する。排出スラリー貯留タンク5には、ガイドパイプ4から搬送ラインLを介して、毎分0.3〜3m程度のスラリーが排出される。
【0021】
磁性体回収装置6は、スラリーから鉄粉を回収する。磁性体回収装置6には、磁性体回収装置6と排出スラリー貯留タンク5とを接続する搬送ラインL上に設けられたバルブV1(図2参照)が調整されることによって、毎分0.3〜3m程度のスラリーが排出スラリー貯留タンク5から搬送される。磁性体回収装置6では、スラリーに含まれる鉄粉を99%以上回収する。これは、発明者等の試験・実験等により明らかとなっている。
【0022】
また、磁性体回収装置6には、気液分離器8が接続されている。気液分離器8は、ブロア(回収手段)8Aによる吸引にしたがい磁性体回収装置6によって回収された鉄粉と共に吸引される空気を分離し、鉄粉を回収する装置である。気液分離器8によって回収された鉄粉は、その後浄化材として再利用される。
【0023】
磁性体回収装置6の後段には、搬送ラインLによって接続されたVOC(Volatile Organic Compound:揮発性有機化合物)除去タンク7、更にはVOC除去装置7Aが設けられている。VOC除去タンク7及びVOC除去装置7Aは、スラリーに含まれるVOC等の排気ガスを活性炭によって吸着して除去し、その除去処理後の空気を大気中へと放出する。
【0024】
続いて、図3及び図4を参照しながら磁性体回収装置6の構成について詳細に説明する。図3は、磁性体回収装置6の構成を概略的に示す側面断面図である。図4は、図3におけるIV−IV線断面図である。なお、図4では、説明の便宜上、ベルト16の図示を省略している。
【0025】
図3及び図4に示すように、磁性体回収装置6は、磁界発生部(磁界発生手段)9と、本体部10と含んで構成されている。磁界発生部9及び本体部10は、土台上に固定部材によって固定されている。
【0026】
磁界発生部9は、磁界(磁場)を発生させる部分である。磁界発生部9は、本体部10に当接して配置されており、超伝導電磁石を有して構成されている。磁界発生部9から発生される磁界は、本体部10の下側では強く、上側になるにつれて弱くなるように設定されている。磁界の強さは、制御装置(図示しない)によって適宜変更可能となっている。
【0027】
本体部10は、筺体11と、モータ12とから構成されている。筺体11は、流入口13と、流出口14と、排出口15と、ベルト16と、ウォータージェット(流体噴射手段)17a,17bと、鉄粉吸引口(回収手段)18とを備えている。
【0028】
流入口13は、スラリーの流入方向が下方となるようにして筺体11に設けられている。流入口13は、搬送ラインLに接続され、スラリーを筺体11内に流入させる。
【0029】
流出口14は、流入口13の反対側に設けられており、筺体11から溢れた泥水等を排出する。流出口14は、流入口13よりも上方に設けられている。これにより、筺体11内部では、流出口14よりも上側には水が浸水しないようになっている。
【0030】
排出口15は、ベルト16よりも下方(筺体11の底部)に設けられており、スラリーに含まれている土粒子等を筺体11内に堆積させないように排出する。排出口15には、バルブV2(図2参照)が設けられており、そのバルブV2によって排出量の調整が可能となっている。なお、排出口15の排出量は、流出口14の排出量よりも少なくなるように設定されている。
【0031】
また、筺体11は、その外形において、ベルト16の延在方向(鉛直方向)に延びるだけでなく、磁界発生部9やベルト16から遠ざかる方向に膨出しており、その内部において、流入口13とベルト16との間に延在する延在空間(緩衝手段)25が形成されている。流入口13は、延在空間25のうちベルト16から最も遠い側において、スラリーの流入が鉛直方向下向きとなるように設けられている。
【0032】
筺体11の内壁のうち、延在空間25を形成している部分の内壁は、ベルト16から所定の距離を有して離れている。延在空間25を形成している内壁のうち、ベルト16から最も離れている内壁Sとベルト16との距離は、25〜60cmであることが好ましく、30〜50cmであることがより好ましい。また、流入口13とベルト16との距離についてもこれと同様の値であることが好ましい。
【0033】
ベルト16は、磁界発生部9から発生される磁界によって磁化する直径2mm程度の磁性ワイヤによって、メッシュ(網目)状に形成されている。メッシュの間隔は、6mm程度に設けられている。このような構成により、ベルト16は、流入口13から流入されるスラリーとの接触時に土粒子を通過させると共に、スラリーの水圧に耐え得る強度を有している。なお、ベルト16の孔(すきま)を有する形状であればよく、メッシュに限られない。
【0034】
また、ベルト16は、筺体11の上部に設けられたローラ状の駆動回転体19と、筺体11の下部に設けられたローラ状の従動回転体20とに掛け渡されている。駆動回転体19と従動回転体20とは、鉛直方向に沿った同一直線上に水平方向に延在して配置固定されている。駆動回転体19は、モータ12に連結され、モータ12の回転に応じて回転する。回転方向は、図3において反時計回りである。従動回転体20は、回動自在に設けられている。ベルト16は、駆動回転体19の回転に伴って回転する。
【0035】
ベルト16が図3において反時計回りに回転することにより、ベルト16は、磁界発生部9に近い側において下方から上方へ向かう上行部160を有することになる。この上行部160では、ベルト16が下方から上方へ向かうに従って磁界の影響が弱くなる。
【0036】
また、ベルト16は、上行部160において、駆動回転体19と従動回転体20との間の高さ位置に配置固定されたローラ状の回転体(押さえローラ)21に接触している。回転体21は、上行部160と磁界発生部9との間に設けられており、これにより、上行部160は、磁界発生部9から遠ざかるように湾曲しており、回転体21よりも下側の前半部160aと、回転体21よりも上側の後半部160bとに区分されている。
【0037】
上行部160における磁界の影響が弱くなる過程において、ウォータージェット17a,17bが設けられており、これに続いて鉄粉吸引口18が設けられている。
【0038】
ウォータージェット17a,17bは、ベルト16に対して水(流体)を噴射する。ウォータージェット17a,17bには、ポンプ22(図2参照)から水が供給されており、ウォータージェット17a,17bから噴射される水の圧力は、0.3Mpa程度である。ウォータージェット17a,17bは、ベルト16の流出口14の配置位置の直上部分において、流出口14に近い面と、その裏面とに水が噴射されるように、ベルト16を挟むように配置されている。ウォータージェット17a,17bは、図4に示すように、水平方向に沿って一定の間隔で配置された複数のノズル23,24を有しており、そのノズル23,24からベルト16の噴射位置Pに向けて水を噴射する。なお、ウォータージェット17a,17bは、ウォータージェット17aが噴射位置P、ウォータージェット17bが噴射位置Pよりも上方に噴射するといったように、噴射位置を違えて水を噴射してもよい。
【0039】
鉄粉吸引口18は、筺体11に対して磁界発生部9側、且つ、磁界発生部9の上方に設けられており、ベルト16から鉄粉を吸引することにより回収する。鉄粉吸引口18は、磁界発生部9から遠ざかる方向に傾斜するように配置されており、ここでは水平方向に対して45度の角度とされている。鉄粉吸引口18には、吸引口の上側部分に沿ってベルト16に接触する接触片18aが設けられている。鉄粉吸引口18は、鉄粉を接触片18aによってベルト16から剥離しながら吸引して回収する。鉄粉吸引口18の吸引力は、20kpa程度である。
【0040】
続いて、図3を参照しながら、磁性体回収装置6の動作(磁性体回収方法)について説明する。なお、磁性体回収装置6は、制御装置(図示しない)によって電源のON/OFF等の操作が行われる。
【0041】
まず、磁性体回収装置6の電源がONされると、磁界発生部9による磁界の発生、モータ12によるベルト16の回転、ウォータージェット17a,17bによる水の噴射、及び鉄粉吸引口18による吸引が開始される。このとき、磁界発生部9によって発生される磁界は筺体11内に影響を及ぼし、各構成を磁化する。例えば流入口13から流入されたスラリーがベルト16と接触する付近では2100G(ガウス)、ウォータージェット17a,17bの噴射位置P付近では、水の噴射によりベルト16から鉄粉が剥がれない強さの例えば750G、鉄粉吸引口18の吸引口付近では、搬送による振動等では落ちないが鉄粉吸引口18の吸引によって鉄粉が剥がれる強さの例えば190Gとなっている。
【0042】
次に、流入口13からスラリーが筺体11内に流入されると、延在空間25内で拡散しながら、流入時の流速が下がる。スラリーは流速が十分に下がった状態で、磁化されたベルト16に接触し、ベルト16に鉄粉が付着する。そして、ベルト16が回転することにより上行部160における噴射位置Pを通過すると、ウォータージェット17a,17bによって、鉄粉以外の土粒子が除去(洗浄)される。ウォータージェット17a,17bによってベルト16から除去、及び流入口13からの流入時に沈殿した土粒子は、流出口14又は排出口15から排出される。
【0043】
続いて、ウォータージェット17a,17bによって鉄粉以外の不純物が除去されたベルト16から、鉄粉吸引口18によって鉄粉が吸引されることによって回収される。鉄粉吸引口18の吸引位置では、磁界が比較的弱いため、ベルト16に付着した鉄粉をほぼ全て回収できる。以上のような手順により、スラリーから鉄粉が回収される。
【0044】
以上噴射攪拌システム1の磁性体回収装置6によれば、スラリーに含まれる鉄粉を、磁界発生部9によって発生された磁界によって磁化するメッシュ状に形成された回転式のベルト16に付着させる。そして、ベルト16に付着した鉄粉以外の余分な土粒子等をウォータージェット17a,17bによって除去した後、鉄粉吸引口18でベルト16から鉄粉を回収する。これにより、土壌や泥水等を含むスラリーから直接鉄粉を回収することできるので、泥水を排除する等といった手間をかけることなく効率的に鉄粉を回収することができる。また、排出されたスラリーから鉄粉を回収するまでの一連の処理を1台の装置で行うことができるので、ベルトコンベア等といった装置を配置する必要がない。そのため、コストの低減及び装置の小型化を図ることができる。
【0045】
このとき、磁性体回収装置6では、ベルト16の上行部160が磁界発生部9に近い側にあり、且つ、ベルト16が下方から上方へ向かうに従って磁界の影響が弱くなるように配置されているので、ベルト16において、鉄粉が付着した部分が磁界発生部9によって進行方向に引っ張られる領域が生じている(主に前半部160a)。従って、従来の磁性体回収装置にも存在した進行方向とは逆方向に引っ張られる力(主に後半部160b)を相殺することができ、これによって消費電力の増大を抑制することができる。例えば、従来の磁性体回収装置において12A以上の電流を要した回転数で本実施形態の磁性体回収装置を稼働させた場合、5〜6Aの電流で済むことが本発明者らの実験で確認されている。すなわち、従来と比べて50%以上の節電効果が見込まれる。
【0046】
また、磁性体回収装置6では、流入口13とベルト16との間に、流入口13から流入したスラリーの流れを緩衝する延在空間25を備えているので、スラリーが延在空間25において拡散する過程で流入時の勢いが弱まり、ベルト16に接触するときには流速が十分に下がっている。従って、ベルト16に付着した鉄粉の一部がスラリーの接触によってベルト16から外れることが防止されるため、鉄粉の回収率が向上する。本発明者らの実験では、スラリーの流量を1.2m/分とした場合に、従来の磁性体回収装置では鉄粉の回収率が90%程度であったが、本実施形態の磁性体回収装置6では回収率が99.7%以上であった。
【0047】
また、鉄粉吸引口18が磁界発生部9から遠ざかる方向に傾斜するように設けられていることから、鉄粉吸引口18の内部を通過する鉄粉が磁界発生部9に強く引っ張られることなく、鉄粉吸引口18内を通過することができる。
【0048】
また、磁性体回収装置6では、上行部160と磁界発生部9との間に、上行部160に当接する回転体21を備えているので、ベルト16が磁界発生手段側へ過度に引っ張られることがなくなり、磁界が強い場合でもベルト16が筺体11の内面に擦れることが防止され、ベルト16が円滑に回転することができる。
【0049】
また、磁性体回収装置6は、ベルト16よりも下方(筺体11の低部)に、鉄粉以外の土粒子(砂)等を排出する排出口15を備えている。スラリーには、0.3〜1.3t/mの土粒子(土壌)が混入している。そこで、ベルト16よりも下方に排出口15を設けることにより、装置内に土粒子を堆積させることなく排出できる。これにより、スラリーに土壌等を含む場合であっても、好適に鉄粉を回収することができる。また、土粒子は一般的に土壌(有価物)として利用可能であり、鉄粉がほとんど回収されたものが排出されるので、土壌の再利用の促進を図ることができる。
【0050】
また、ウォータージェット17a,17bは、ベルト16の両面に流体が噴射されるように、ベルト16を挟むように配置されている。このような構成により、ベルト16に付着した鉄粉以外の土粒子等といった不純物をより効果的に除去(洗浄)することができる。その結果、鉄粉のみを高効率で回収することができる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、磁性体を鉄粉(Fe)としたが他の磁性体であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では駆動回転体19と従動回転体20とが鉛直方向に沿った同一直線上に水平方向に延在して配置固定された例を示したが、両回転体は、鉛直方向に沿った同一直線状になくてもよく、延在方向が水平方向から傾いていてもよい。この場合、ベルト16のうち磁界発生部9に近い側において低い位置から高い位置へ向かう部分を上行部160とみなす。
【0053】
また、上記実施形態では緩衝手段として延在空間25を有する態様を示したが、緩衝手段としては、流速を下げるための他の手段を用いてもよい。例えば、筺体11内に部材を設け、流入した混合物をこれに衝突させて流速を下げる態様としてもよい。一例として、図5に示すように、筺体11内において、流入口13から流入してきた混合物を衝突させるとともに下方へ案内するガイド板25aを有する態様としてもよい。この態様でも、混合物が流入時の勢いでベルト16に接触することを避けることができる。
【0054】
また、上記実施形態では流入口13が磁界発生部9から最も遠い位置に設けられているが、他の位置に流入口13を設けてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、鉄粉を回収する際に磁界の影響を小さくすべく鉄粉吸引口18を磁界発生部9に対して傾斜して設けているが、これに代えて、鉄粉吸引口18と磁界発生部9との間に磁界遮蔽板を配置してもよい。
【0056】
更に、上記実施形態では、一つの磁界発生部9に対して一つの本体部10が設けられている態様を示したが、図6に示すとおり、一つの磁界発生部9に対して二つの本体部10,10を設ける態様としてもよい。この場合、一つの磁界発生部9あたりの処理量を2倍にすることができる。
【0057】
また、噴射攪拌システム全体としては、図7に示すとおり、スラリーを磁性体回収装置6に導入する直前部分に、分級設備29を設けてもよい。用いる鉄粉の径は通常0.5mm以下であるため、0.5mm程度で分級すれば、0.5mm以上の砂をスラリーからあらかじめ分離することができ、これを砂貯留ピット29Aへ分離することができる。これにより、後段の磁性体回収装置6の負荷を低減することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…噴射攪拌システム、3…噴射管、4…ガイドパイプ、5…排出スラリー貯留タンク、6…磁性体回収装置、8A…ブロア(回収手段)、9…磁界発生部(磁界発生手段)、10…本体部、11…筺体、13…流入口、15…排出口、16…ベルト、17a,17b…ウォータージェット(流体噴射手段)、18…鉄粉吸引口(回収手段)、25…延在空間(緩衝手段)、160…上行部、160a…前半部、160b…後半部、L…搬送ライン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7