特許第6793467号(P6793467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793467アルミニウム合金製部材及びLNG気化器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793467
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製部材及びLNG気化器
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20201119BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20201119BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20201119BHJP
   F28D 3/02 20060101ALI20201119BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   C22C21/00 K
   F28F21/08 D
   C23C26/00 B
   F28D3/02
   F28F21/08 B
   F28F19/06 A
   F28F19/06 B
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-104410(P2016-104410)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-211141(P2017-211141A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】阪下 真司
(72)【発明者】
【氏名】漆原 亘
(72)【発明者】
【氏名】澄田 祐二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 龍生
(72)【発明者】
【氏名】堀家 康行
(72)【発明者】
【氏名】青木 大造
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−073194(JP,U)
【文献】 特開2000−084662(JP,A)
【文献】 特開2007−078049(JP,A)
【文献】 特開2014−157009(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/104761(WO,A1)
【文献】 特開2014−132119(JP,A)
【文献】 特開2012−092374(JP,A)
【文献】 特開2012−087342(JP,A)
【文献】 特開2011−038164(JP,A)
【文献】 特開平10−298686(JP,A)
【文献】 特開平10−158770(JP,A)
【文献】 特開平10−036932(JP,A)
【文献】 特公平07−001157(JP,B2)
【文献】 中国特許出願公開第104046939(CN,A)
【文献】 特開2006−002223(JP,A)
【文献】 特開2006−052788(JP,A)
【文献】 特開2015−108163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C23C 4/00−6/00
F28D 1/00−13/00
F17C 3/00−3/12
F17C 6/00;9/00−9/04
F17C 13/00−13/02
F17C 13/08−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる基材と、
前記基材の表面に形成された被膜と、を備え、
前記被膜は、質量%以上20質量%以下のマグネシウムを含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金、又は、4質量%以上20質量%以下のマグネシウムと、0.01質量%以上1.0質量%以下の珪素、0.01質量%以上1.0質量%以下の鉄、0.01質量%以上1.0質量%以下の銅、0.01質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.01質量%以上1.0質量%以下のクロム、0.01質量%以上1.0質量%以下のチタン及び1.5質量%以下で且つ内層に含まれる亜鉛よりも少ない亜鉛からなる群より選択される少なくとも一種の元素と、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる外層と、
前記基材と前記外層との間に形成され、1質量%以上20質量%以下の亜鉛を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金、又は、1質量%以上20質量%以下の亜鉛と、0.01質量%以上1.0質量%以下の珪素、0.01質量%以上1.0質量%以下の鉄、0.01質量%以上1.0質量%以下の銅、0.01質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.01質量%以上1.0質量%以下のクロム、0.01質量%以上1.0質量%以下のチタン及び1.2質量%以下で且つ前記外層に含まれるマグネシウムよりも少ないマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素と、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる前記内層と、を含むことを特徴とする、アルミニウム合金製部材。
【請求項2】
前記外層は、マグネシウムよりも少量の亜鉛を含有し、
前記内層は、亜鉛よりも少量のマグネシウムを含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項3】
前記外層及び前記内層のうち少なくともいずれか一方の層は、0.01質量%以上1.0質量%以下の珪素、0.01質量%以上1.0質量%以下の鉄、0.01質量%以上1.0質量%以下の銅、0.01質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.01質量%以上1.0質量%以下のクロム及び0.01質量%以上1.0質量%以下のチタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項4】
前記基材は、3000系、5000系及び6000系のうち何れかのアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項5】
0℃以下の低温環境で使用されることを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項6】
LNG気化器の伝熱管又はヘッダー管として構成されていることを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項7】
請求項1〜の何れか1項に記載のアルミニウム合金製部材を備えることを特徴とする、LNG気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製部材及びLNG気化器に関し、より特定的には、海水環境などの腐食性環境下における防食性に優れ、液化天然ガスや液化石油ガスの気化器用部材など、各種気化器や熱交換器に用いられるアルミニウム合金製部材及びこれを備えたLNG気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液化天然ガス(以下、「LNG」とも称する)気化器や各種熱交換器に使用される伝熱管やヘッダー管などの伝熱部材として、良好な熱伝導性を有するアルミニウム合金製部材が多く用いられている。このようなアルミニウム合金製部材は、大気や水に対して長期間曝されることで局所的に腐食(孔食)が進行し、その結果部材の貫通に至る場合がある。
【0003】
このため、アルミニウム合金製部材に対して何らかの防食対策を講じる必要があるが、その一つとして、陰極防食法が多く用いられている。この方法は、アルミニウム合金からなる基材に対して、当該基材よりも腐食電位が卑であるAl−Zn合金などの犠牲防食被膜やフィン材を当該基材に接触させることにより、基材の防食効果を得るものである。また熱交換器における伝熱管の内面などの密閉系では、循環水に腐食抑制剤(インヒビター)を添加する方法も併用されている。
【0004】
近年、LNGは、クリーンエネルギーとして注目されており、通常、−162℃以下の極低温において液化した状態で貯蔵、輸送される。そして、オープンラック式気化器(ORV)において、海水を熱源として用いた熱交換により、LNGが使用前に気化される。一般に、ORVは、アルミニウム合金製の伝熱管がパネル状に配置され、LNGが当該伝熱管の内部を下側から上側に向かって流れると共に、海水が当該パネルの外面を上側から下側に向かって流下する構造となっている。このため、ORVの伝熱管は、その外面が海水に曝されることから、腐食の進行が問題となる。
【0005】
特に、海水中に極微量に含まれる銅イオンは、アルミニウム合金の表面に析出してカソードとして作用するため、アルミニウム合金の腐食を著しく促進させる。よって、銅イオンの含有量が多い海域では、伝熱管の腐食寿命が極端に短くなることから、効果的な腐食低減策が一層要求される。またORVの伝熱管のように、管の外面側に対する防食対策が必要な場合では、腐食抑制剤の使用も困難であることから、材料面からの防食対策が求められる。これに対して、下記特許文献1には、伝熱管の母材よりもMg含有量が多いアルミニウム合金からなる被膜を、犠牲防食被膜として母材の表面に形成することが提案されている。
【0006】
またORVの伝熱管では、犠牲防食被膜において不可避的に存在する気孔に海水が進入し、これによって犠牲防食被膜と基材との界面において優先的に腐食が進行する。この腐食に伴って生成する腐食生成物や気孔中に進入した海水の凍結に起因した体積膨張により、犠牲防食被膜の膨れや剥離が発生し、その結果伝熱管の寿命が短くなるという問題がある。これに対して、下記特許文献2では、Al−Zn合金又はAl−Mg合金からなる犠牲防食被膜と基材との界面における粗さを調整することにより、犠牲防食被膜の膨れや剥離を防ぐことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−78237号公報
【特許文献2】特開2014−157009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び2に提案されるように、Al−Zn合金やAl−Mg合金からなる犠牲防食被膜を形成することにより、海水のような腐食性媒体に曝されるORVの伝熱管の耐久性をある程度向上させることができる。しかしながら、これらの従来の対策による防食効果は十分ではなく、エネルギー安定供給の観点からLNG気化器や各種熱交換器の安全性を向上させるため、さらなる腐食低減及び寿命延長が要求される。
【0009】
具体的には、上記特許文献1のようにMgを含有するアルミニウム合金からなる被膜を伝熱管の基材の表面に形成した場合には、Mgの腐食電位がAlよりも卑であることから犠牲防食効果は得られるものの、被膜の孔食が進行することにより伝熱管の基材表面に容易に到達してしまう。このため、孔を通じて被膜と基材の界面に海水が容易に進入し、界面において腐食が進行する。従って、腐食生成物によって被膜の膨れが生じることで被膜が剥離し易くなるという問題がある。また上記特許文献2のように犠牲防食被膜と基材との界面粗さを調整することにより被膜の膨れや剥離をある程度抑制することができるが、その効果は十分ではなかった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、犠牲防食性に優れると共に基材の表面に形成された被膜の膨れをより効果的に抑制することが可能なアルミニウム合金製部材及びこれを備えたLNG気化器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面に係るアルミニウム合金製部材は、アルミニウム合金からなる基材と、前記基材の表面に形成された被膜と、を備える。前記被膜は、1質量%以上20質量%以下のマグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる外層と、前記基材と前記外層との間に形成され、1質量%以上20質量%以下の亜鉛を含有するアルミニウム合金からなる内層と、を含む。
【0012】
本発明者らは、銅イオンを含有する海水など、腐食性溶液に曝されるアルミニウム合金製部材の耐久性の向上について、鋭意検討を行った。具体的には、犠牲防食被膜の初期劣化である被膜の膨れを防ぎ、さらに被膜の劣化が進んで基材が露出した後においても基材の防食性を確保するための方策について鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、成分組成が適切な範囲に調整されたAl−Mg合金からなる外層と、Al−Zn合金からなる内層と、を基材の表面に被膜として形成することにより、初期劣化である被膜の膨れが抑制されると共に、基材の露出後における基材の防食性が向上することを見出し、本発明に想到した。
【0013】
上記アルミニウム合金製部材では、1質量%以上20質量%以下のマグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる外層が形成されている。マグネシウムは、アルミニウムよりも腐食電位が卑な元素であるため、海水に曝される外層に対してこれを含有させることにより、被膜の犠牲防食性を向上させることができる。つまり、腐食が進行して基材の表面が露出した後においても、外層が基材よりも優先的に腐食することにより、基材の防食性を確保することができる。
【0014】
このような効果を得るため、外層のマグネシウム含有量は、1質量%以上に調整されている。しかしながら、外層のマグネシウム含有量が過剰になると、被膜の消耗速度が増大し、所望の寿命を得ることが困難になる。このため、外層のマグネシウム含有量は、20質量%以下に調整されている。外層のマグネシウム含有量は、1.2質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。また外層のマグネシウム含有量は、19質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
このように、マグネシウム含有量が適量に調整された外層を形成することにより、被膜の犠牲防食性を向上させることができるが、当該外層による単層被膜を形成した場合には以下のような問題がある。即ち、外層のみからなる単層被膜を基材の表面に形成した場合には、被膜において孔食などの局部腐食が生じると、孔の底部におけるpHの低下や塩化物の濃縮により深さ方向の腐食速度が大きくなり、その結果局部腐食が基材まで容易に到達する。この場合、被膜の孔から進入した海水が基材と被膜との界面に到達し、当該界面において腐食が進行する。これにより、界面部で生じた腐食生成物に起因して被膜の体積膨張が起こり、被膜の膨れが生じるという問題がある。
【0016】
これに対して、本発明者らは、基材と外層との間において、腐食電位がマグネシウムとアルミニウムの中間にある亜鉛を適量だけ含有する内層を形成することにより、上述のような局部腐食の進行を抑制することができるとの知見を得た。亜鉛は、基材のアルミニウムよりも腐食電位が卑であるが、外層のマグネシウムよりも腐食電位が貴であるため、Al−Mg合金からなる外層の局部腐食の進行を抑制する作用を有する。このため、内層を形成することで海水が基材と被膜の界面に到達するのを防ぐことができ、その結果界面における腐食の進行に起因した被膜の膨れを抑制することができる。また内層は基材よりも腐食電位が卑であることから、基材の露出後においては外層と同様に犠牲防食被膜として作用させることができる。
【0017】
このような効果を得るため、内層の亜鉛含有量は、1質量%以上に調整されている。しかしながら、内層の亜鉛含有量が過剰になると、被膜の消耗速度が増大し、所望の寿命を得ることが困難になる。このため、内層の亜鉛含有量は、20質量%以下に調整されている。内層の亜鉛含有量は、1.2質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。また内層の亜鉛含有量は、19質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
上記アルミニウム合金製部材において、前記外層は、マグネシウムよりも少量の亜鉛をさらに含有していてもよい。前記内層は、亜鉛よりも少量のマグネシウムをさらに含有していてもよい。
【0019】
このように、内層に含まれる元素と同じ亜鉛を外層にも含有させ、且つ外層に含まれる元素と同じマグネシウムを内層にも含有させることにより、内層と外層との親和性が向上し、その結果層間の密着性を向上させることができる。
【0020】
上記アルミニウム合金製部材において、前記外層におけるマグネシウム含有量が前記内層におけるマグネシウム含有量よりも多くてもよい。
【0021】
上述の通り、マグネシウムは、被膜の腐食電位を卑化させて犠牲防食性を向上させる元素であることから、海水に曝される外層において内層よりも多く含まれることが好ましい。
【0022】
上記アルミニウム合金製部材において、前記外層及び前記内層のうち少なくともいずれか一方の層は、0.01質量%以上1.0質量%以下の珪素、0.01質量%以上1.0質量%以下の鉄、0.01質量%以上1.0質量%以下の銅、0.01質量%以上1.0質量%以下のマンガン、0.01質量%以上1.0質量%以下のクロム及び0.01質量%以上1.0質量%以下のチタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素をさらに含有していてもよい。
【0023】
珪素、鉄、銅、マンガン、クロム及びチタンは、アルミニウムのアノード反応速度を低下させることにより、被膜の消耗速度を低減させる効果を有する。しかしながら、被膜中においてこれらの元素の含有量が過剰になると、腐食電位が貴化し、犠牲防食性が低下する場合がある。このため、外層又は内層におけるこれらの元素の含有量は、0.01質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
【0024】
上記アルミニウム合金製部材において、前記基材は、3000系、5000系及び6000系のうち何れかのアルミニウム合金からなっていてもよい。ここで、「3000系、5000系及び6000系」は、国際アルミニウム合金名である。
【0025】
上記アルミニウム合金製部材では、基材として、熱伝導性が良好であり、低温下でも脆性破壊がなく靱性が良好なアルミニウム合金からなるものが用いられる。また、アルミニウム合金の中でも、強度の観点から、2000系、3000系、5000系、6000系又は7000系のものを好適に用いることができるが、特に、3000系、5000系又は6000系のものを用いることが好ましい。これらの種類のアルミニウム合金を用いることにより、良好な強度及び防食性を得ることができる。具体的には、A3003、A3203、A5052、A5154、A5083、A6061、A6063又はA6N01などを用いることができる。また必要に応じて、焼き入れ、焼き戻し、人工時効などの熱処理を施したものが用いられてもよい。
【0026】
上記アルミニウム合金製部材は、0℃以下の低温環境で使用されるものであってもよい。上記アルミニウム合金製部材は、犠牲防食性に優れた被膜が基材の表面に形成されたものであるため、0℃以下の低温環境で使用される場合でも高寿命で継続的に使用することができる。
【0027】
上記アルミニウム合金製部材は、LNG気化器の伝熱管又はヘッダー管として構成されていてもよい。
【0028】
上記アルミニウム合金製部材は、犠牲防食性に優れた被膜が基材の表面に形成されたものである。このため、LNG気化器の伝熱管やヘッダー管のように、腐食性媒体である海水に曝され、且つ、低温と常温との温度変化を受ける環境下で使用される場合でも、高い防食性を得ることができる。
【0029】
本発明の他局面に従ったLNG気化器は、上記アルミニウム合金製部材を備えるものである。上述の通り、上記アルミニウム合金製部材は、犠牲防食性に優れると共に被膜の膨れを抑制することができるものであるため、これを備えることによりLNG気化器の寿命をより長くすることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、犠牲防食性に優れると共に基材の表面に形成された被膜の膨れを抑制することが可能なアルミニウム合金製部材及びこれを備えたLNG気化器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態1におけるオープンラック式気化器(ORV)の側方から見た構成を示す模式図である。
図2】ORVの断面構造を示す模式図である。
図3】ORVを構成する伝熱管の断面構造を示す模式図である。
図4】比較例における海水による犠牲防食被膜の局部腐食の進行を説明するための模式図である。
図5】本実施形態における海水による犠牲防食被膜の局部腐食の進行を説明するための模式図である。
図6】ORVを構成する下部ヘッダー管の断面構造を示す模式図である。
図7】ORVを構成するトラフの断面構造を示す模式図である。
図8】本発明の実施形態2における中間媒体式LNG気化器(IFV)の構成を示す模式図である。
図9】IFVを構成する伝熱管の断面構造を示す模式図である。
図10】被膜の耐膨れ性を評価するための供試材を示す模式図である。
図11】被膜の犠牲防食性を評価するための供試材を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。なお、以下の説明においては、各元素を元素名又は化学記号のいずれかにより表記する。
【0033】
(実施形態1)
[LNG気化器]
まず、本発明の実施形態1に係るLNG気化器1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、LNG気化器1の側方から見た構成を模式的に示している。図2は、図1中の線分II−IIに沿ったLNG気化器1の断面構造を模式的に示している。
【0034】
LNG気化器1は、オープンラック式気化器(ORV)であり、海水を熱源(流体)として使用し、伝熱管13の内部を流れる極低温(−162℃以下)の液化ガスであるLNGと伝熱管13の外部を流れる常温の海水との間で熱交換させることにより、LNGをガス化させるものである。LNG気化器1は、LNGと海水との熱交換を行う複数の伝熱管パネル11と、伝熱管パネル11に海水を供給するトラフ12と、を備える。海水は、極微量の銅イオンを含有していてもよい。
【0035】
図2に示すように、伝熱管パネル11は、上下方向に起立した姿勢で横方向に互いに間隔を空けて配置されている。図1に示すように、伝熱管パネル11は、互いに間隔を空けて並べられた複数本の伝熱管13と、各伝熱管13の下端に接続された下部ヘッダー管14と、各伝熱管13の上端に接続された上部ヘッダー管15と、を備える。下部ヘッダー管14には、これに連通する入口マニホールド16が接続され、上部ヘッダー管15には、これに連通する出口マニホールド17が接続されている。
【0036】
伝熱管13及び下部ヘッダー管14は、伝熱部材であり、極低温のLNGが流れるため、0℃以下の低温環境で使用される。伝熱管13及び下部ヘッダー管14は、それぞれ本実施形態に係るアルミニウム合金製部材により構成されており、詳細については後述する。
【0037】
トラフ12は、本実施形態に係るアルミニウム合金製部材により構成されており、上方が開口し、海水が溜まる容器からなる。図2に示すように、トラフ12は、隣り合う伝熱管パネル11の間において当該伝熱管パネル11の上側(上部ヘッダー管15よりも下側)に配置されている。トラフ12は、不図示の海水ヘッダー管から供給された海水を溜める。そして、図2中矢印に示すように、トラフ12から溢れた海水は、各伝熱管パネル11において伝熱管13の外面に沿って流れ落ちる。なお、トラフ12の詳細についても後述する。
【0038】
上記LNG気化器1によるLNGのガス化プロセスについて説明すると、まず、LNGが入口マニホールド16、下部ヘッダー管14の順に流入し、その後、各伝熱管13に分流される。そして、図2に示すように、各伝熱管13内部の流路7においてLNGが下側から上側に向かって流れ、一方でトラフ12から伝熱管パネル11に供給された海水が伝熱管13の外面に沿って流れ落ちる。この過程において、LNGは、伝熱管13を介して海水と熱交換する(海水から吸熱する)ことにより気化し、NGとなる。そして、NGは上部ヘッダー管15に集合し、出口マニホールド17を通過して例えば常温のガスとして排出される。
【0039】
上記LNG気化器1において、アルミニウム合金製部材により構成される伝熱管13、下部ヘッダー管14及びトラフ12等の海水が流れる部材又は海水を溜める部材は、上記のようなLNGのガス化プロセスにおいて、腐食性媒体である海水に曝される。具体的には、伝熱管13及び下部ヘッダー管14の外面やトラフ12の内面が海水に曝される。このため、防食被膜が形成されていなければ、上記LNG気化器1の運転中に長時間に亘って海水に曝されることにより、アルミニウムの腐食が進行し、孔食などの局部腐食が進行する。特に、海水が銅イオンを含む場合には腐食の進行が顕著であり、また伝熱管13及び下部ヘッダー管14は、低温と常温の温度変化を受けることから、腐食がより進行し易くなる。これに対して、本実施形態に係るアルミニウム合金製部材により構成された伝熱管13、下部ヘッダー管14及びトラフ12は、各基材(母材)の表面に防食性に優れた犠牲防食被膜が形成されたものとなっており、これにより腐食の進行を効果的に防ぐことができる。以下、伝熱管13、下部ヘッダー管14及びトラフ12について各々詳細に説明する。
【0040】
[伝熱管]
図3は、伝熱管13の径方向に沿った断面構造を示している。伝熱管13は、LNGが流れる流路7が内部に形成されたものであり、アルミニウム合金からなる基材21と、基材21の外表面に形成された被膜22と、を備える。
【0041】
基材21は、流路7が形成された中空円筒状の管本体23と、管本体23の外面から径方向外側に向かって突設された複数(本実施形態では10個)のフィン24と、を備える。フィン24は、伝熱管13の伝熱面積を広くするためのものであり、各々同じ形状及び大きさを有し、且つ図3に示すように管本体23の外面において周方向に沿って等間隔に形成されている。なお、フィン24の形態はこれに限定されず、複数のフィン24が互いに異なる形状及び大きさを有していてもよいし、周方向に沿って異なる間隔で形成されていてもよい。
【0042】
基材21は、LNGと海水との熱交換効率を上げるために伝熱性に優れるアルミニウム合金からなっており、強度及び防食性の観点から3000系、5000系及び6000系のうち何れかのアルミニウム合金により構成されている。より具体的には、基材21は、A3003、A3203、A5052、A5154、A5083、A6061、A6063又はA6N01などのアルミニウム合金により構成されている。
【0043】
被膜22は、基材21の腐食を防止するための犠牲防食被膜であり、管本体23及びフィン24の形状に沿うように基材21の外面に形成されている。本実施形態に係るアルミニウム合金製部材により構成される伝熱管13は、被膜22が、Al−Mg系合金からなる外層26と、Al−Zn系合金からなる内層25と、の2層構造からなる点に特徴を有している。
【0044】
図3に示すように、外層26は、被膜22の最外面22Aを含む層であるため、トラフ12(図2)から溢れて流下してきた海水が主に接触する。外層26は、1質量%以上20質量%以下のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金により構成されている。ここで「不可避不純物」とは、外層26の防食性能を害さない程度の量だけ含まれるものであり、例えば、H、O、C及びBなどの元素を挙げることができる。
【0045】
Mgは、Alよりも腐食電位が卑な元素であり、外層26の腐食電位を基材21よりも卑化させることにより犠牲防食性を向上させる。つまり、腐食が進行して基材21の外面が露出した状態においても、外層26が基材21よりも優先的に腐食することにより(犠牲防食)、基材21の腐食を防止することができる。このような犠牲防食作用を向上させるため、外層26のMg含有量は、1質量%以上に調整されている。しかし、一方で外層26のMg含有量が過剰になると、被膜の消耗速度が増大し、所望の寿命を得ることが困難になることから、外層26のMg含有量は20質量%以下に調整されている。外層26のMg含有量は、1.2質量%以上19質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上6質量%以下であることがさらに好ましく、最も好ましいのは5質量%付近である。また上述のように、外層26は被膜22の最外面22Aを含む層であり、内層25よりも高い犠牲防食性が要求されることから、外層26におけるMg含有量は、内層25におけるMg含有量よりも多くなっている。
【0046】
ここで、図4に示す比較例のように、被膜22がAl−Mg系合金からなる外層26のみの単層被膜によって構成される場合には、外層26における深さ方向の腐食速度が大きいことから、孔26Aが基材21まで容易に到達する。この場合、外層26に形成された孔26Aから海水が進入し、基材21と外層26との界面21Aにおいて腐食が進行する。これにより、界面21Aにおいて生じる腐食生成物21Bに起因して被膜22の体積膨張が起こり、被膜22の膨れが生じるという問題がある。
【0047】
これに対して、本実施形態に係る伝熱管13では、適量のZnを含有するアルミニウム合金からなる内層25が基材21と外層26との間に形成されている。図3に示すように、内層25は基材21(管本体23及びフィン24)の外面に接触するように形成されており、外層26は当該内層25の外面に接触するように形成されている。
【0048】
内層25は、1質量%以上20質量%以下の亜鉛を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金により構成されている。内層25のZnは、基材21のAlよりも腐食電位が卑であるが、外層26のMgよりも腐食電位が貴である。このため、内層25が外層26よりも腐食電位が貴となる。従って、図5に示すように、外層26における局部腐食が進行して孔26Aが形成された場合でも、内層25が外層26よりも腐食電位が貴であることから、孔26Aが基材21の表面まで到達するのを防ぐことができる。即ち、内層25は、被膜22の孔食が基材21に到達するのを防止するための被膜層として機能する。このため、図4を参照して説明したような被膜22と基材21との界面21Aにおける腐食の進行を抑制し、被膜22の膨れを抑制することができる。その結果、被膜22の剥離が抑制される。このような効果を得るため、内層25のZn含有量は、1質量%以上20質量%以下となっており、1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、最も好ましいのは2質量%付近である。
【0049】
このように、本実施形態に係る伝熱管13では、内層25の腐食電位が基材21の腐食電位よりも卑であり、外層26の腐食電位が内層25の腐食電位よりも卑となっている。つまり、伝熱管13においては、基材21、内層25、外層26の順に腐食電位が卑化するように(外層26、内層25、基材21の順に腐食電位が貴化するように)構成されている。別の観点から説明すると、伝熱管13は、第1の防食被膜(内層25)と、第2の防食被膜(外層26)と、を有しており、第1の防食被膜が第2の防食被膜よりも基材に近い位置に形成されており、且つ当該第1の防食被膜の腐食電位が基材の腐食電位よりも卑で且つ第2の防食被膜の腐食電位よりも貴となっている。
【0050】
被膜22(内層25及び外層26)は、例えば溶射法によって基材21の外面上に形成されている。溶射法としては、フレーム溶射、高速フレーム溶射、爆発溶射、アーク溶射、プラズマ溶射又はレーザー溶射などの通常の方法を用いることができる。フレーム溶射における燃料としては、プロパンと酸素の混合ガスやアセチレンと酸素の混合ガスなどを用いることができる。また溶射材としては、被膜22(内層25及び外層26)と同じ成分組成を有するアルミニウム合金の線材や粉末を用いることができる。
【0051】
ここで、内層25を溶射により形成する施工の前に、基材21の外面に対して適切な前処理を施すことにより、基材21と内層25との密着性を向上させることができる。具体的には、ショットブラスト処理やグリッドブラスト処理などにより、基材21の外面における表面粗度を適切な範囲に調整することが挙げられる。基材21の表面粗度は、例えば平均粗さRaで1μm以上30μm以下とすることが可能であり、また最大粗さRmaxで10μm以上100μm以下とすることができる。この時、ブラスト処理に用いた研掃材が基材21の外面に残存すると、溶射により内層25を形成した時に当該内層25と基材21との密着性が低下する。このため、ブラスト処理後には、ブラッシングなどを行うことにより研掃材を除去することが好ましい。
【0052】
被膜22の厚さT(外層26の厚さT1と内層25の厚さT2の合計)は、溶射時の条件によって調整可能であるが、100μm以上1000μm以下となっている。被膜22の厚さTが小さすぎると、塩化物イオンや酸素などの腐食性物質の基材21への進入を十分に抑制することが困難になり、さらに被膜22が早期に溶失するため、十分な防食効果を長期間に亘って得ることが困難になる。一方で、被膜22の厚さTが大きすぎると、低温と常温の温度変化に起因して被膜22の剥離が生じ、また被膜22にクラックが生じることで、十分な防食効果を得ることが困難になる。このため、被膜22の厚さTは、100μm以上1000μm以下の範囲に調整されており、980μm以下であることがより好ましく、950μm以下であることがさらに好ましい。また外層26及び内層25の各厚さT1,T2は、50μm以上500μm以下の範囲に調整されており、60μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましい。
【0053】
[下部ヘッダー管,トラフ]
図6は、下部ヘッダー管14の径方向に沿った断面構造を示している。図7は、トラフ12の断面構造を示している。図6に示すように、下部ヘッダー管14は、LNGが流れる流路33が形成された中空円筒状の基材31と、溶射などの手法によって基材31の外面全体に形成された被膜32と、を有する。また図7に示すように、トラフ12は、基材41と、溶射などの手法によって基材41の表面全体に形成された被膜42と、を有する。基材41は、開口部43が形成された容器によって構成されている。
【0054】
基材31,41は、上記伝熱管13を構成する基材21と同様に、熱伝導性に優れたアルミニウム合金からなる。また被膜32,42は、上記伝熱管13を構成する被膜22と同様の特徴を有するものである。即ち、被膜32,42は、基材31,41の表面に形成され、1質量%以上20質量%以下のZnを含有するアルミニウム合金により構成された内層34,44と、内層34,44の表面に形成され、1質量%以上20質量%以下のMgを含有するアルミニウム合金により構成された外層35,45と、を含む2層構造からなるものである。このため、上記伝熱管13と同様に、優れた犠牲防食性を発揮することができると共に、被膜32,42が膨らむことによって基材31,41の表面から剥離するのを防ぐことができる。
【0055】
[実施形態1のまとめ]
以上のように、実施形態1に係るアルミニウム合金製部材(伝熱管13、下部ヘッダー管14及びトラフ12)は、アルミニウム合金からなる基材21,31,41の表面において被膜22,32,42が形成されたものである。そして、当該被膜22,32,42は、1質量%以上20質量%以下のMgを含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなる外層26,35,45と、1質量%以上20質量%以下のZnを含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなる内層25,34,44と、を含む2層構造からなる。この特徴により、低温と常温の温度変化を受け、海水のような腐食性媒体に曝される環境下で使用された場合にも、外層26,35,45によって優れた犠牲防食性を発揮することができ、基材21,31,41の腐食劣化が進行しにくくなることから、部材を長寿命化し、定期補修の回数を削減することができる。このため、LNG気化器1の安全性向上や維持管理コストの削減を図ることができる。また内層25,34,44によって被膜22,32,42の孔食が基材21,31,41に到達するのを防ぐことにより(図5)、界面21Aにおける腐食の進行を抑制し、被膜22,32,42の膨れを防ぐことができる。その結果、被膜22,32,42が基材21,31,41の表面から剥がれるのを抑制することができる。
【0056】
[実施形態1の変形例]
次に、上記実施形態1の変形例について説明する。
【0057】
外層26,35,45は、1質量%以上20質量%以下のMgと、Mgよりも少量のZnと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるものでもよい。この場合、外層26のZn含有量は、例えば0.01質量%以上1.2質量%以下である。また内層25,34,44は、1質量%以上20質量%以下のZnと、Znよりも少量のMgと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるものでもよい。この場合、内層25,34,44のMg含有量は、例えば0.01質量%以上0.52質量%以下である。このように、内層25,34,44に含まれる元素と同じZnを外層26,35,45にも含有させ、且つ外層26,35,45に含まれる元素と同じMgを内層25,34,44にも含有させることにより、内層25,34,44と外層26,35,45との親和性を向上させることが可能となる。これにより、内層25,34,44と外層26,35,45との密着性が向上し、アルミニウム合金製部材の耐久性を向上させることができる。
【0058】
外層26,35,45及び内層25,34,44のうち少なくとも一方の層は、0.01質量%以上1.0質量%以下のSi、0.01質量%以上1.0質量%以下のFe、0.01質量%以上1.0質量%以下のCu、0.01質量%以上1.0質量%以下のMn、0.01質量%以上1.0質量%以下のCr及び0.01質量%以上1.0質量%以下のTiからなる群より選択される少なくとも一種の元素をさらに含有するアルミニウム合金からなっていてもよい。即ち、外層26,35,45は、1質量%以上20質量%以下のMgと、0.01質量%以上1.0質量%以下の元素M(Si、Fe、Cu、Mn、Cr及びTiのうち少なくとも一種の元素)と、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなっていてもよい。また内層25,34,44は、1質量%以上20質量%以下のZnと、0.01質量%以上1.0質量%以下の上記元素Mと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなっていてもよい。また外層26,35,45及び内層25,34,44は、上記群のうち一種類の元素を含有していてもよいし、複数種の元素を含有していてもよい。
【0059】
外層26,35,45及び内層25,34,44に添加されるこれらの元素は、Alのアノード反応速度を低下させることにより、被膜22,32,42の消耗速度を低減させる。しかし、これらの元素含有量が過剰になると、腐食電位が貴化し、その結果被膜22,32,42の犠牲防食性が低下する場合がある。このため、Si、Fe、Cu、Mn、Cr及びTiの含有量は、0.01質量%以上1.0質量%以下に調整されている。
【0060】
上記実施形態1では、伝熱管13、下部ヘッダー管14及びトラフ12の全てに本発明のアルミニウム合金製部材が適用される場合について説明したがこれに限定されず、少なくともいずれかの部材に対して本発明のアルミニウム合金製部材が適用されてもよい。つまり、伝熱管13、下部ヘッダー管14及びトラフ12のうちいずれかの部材において、Al−Mg系合金(Mg:1〜20質量%)からなる外層と、Al−Zn系合金(Zn:1〜20質量%)からなる内層と、を含む2層構造からなる被膜が、基材の表面に形成されていてもよい。
【0061】
上記実施形態1において、被膜22,32,42の厚さは、100μm未満であってもよいし、1000μmを超えていてもよい。
【0062】
上記実施形態1では、基材21,31,41が3000系、5000系又は6000系のアルミニウム合金からなる場合について説明したが、2000系や7000系などの他の種類のアルミニウム合金からなっていてもよい。
【0063】
上記実施形態1では、溶射によって被膜22,32を基材21,31の表面に形成して伝熱管13及び下部ヘッダー管14を作製する場合について説明したがこれに限定されず、押出などによってクラッド管を形成する方法でもよい。このようにクラッドによって製造する場合には、基材21,31と被膜22,32との密着性をより向上させることができる。
【0064】
なお、クラッドにより伝熱管13及び下部ヘッダー管14をそれぞれ作製し、これらを組み合わせて伝熱管パネル11を製造する場合には、伝熱管13の下端と下部ヘッダー管14とを溶接により接合する必要がある。この場合、伝熱管13の下端においてフィン24を削り落として除去する必要があり、このとき被膜22も除去される。このため、伝熱管13の下端を下部ヘッダー管14に対して溶接により接合した後、溶接部に対して溶射法により被膜22(内層25及び外層26)をさらに形成する必要がある。
【0065】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るLNG気化器2について、図8を参照して説明する。LNG気化器2は、加熱源である海水の温度とLNGの温度との間に沸点及び凝縮点を有する中間媒体61を介して熱交換を行う中間媒体気化器(IFV)である。LNG気化器2は、中間媒体蒸発部51と、気化部52と、NG加温部53と、を有する。
【0066】
中間媒体蒸発部51は、シェル70の底側の部分であり、当該底部側のシェル空間に配設された複数(本実施形態では3つ)の伝熱管71を有する。中間媒体蒸発部51は、伝熱管71の内部を流れる海水72と、シェル70の底部に溜まった液状の中間媒体61と、の熱交換を行う。この熱交換によって液状の中間媒体61が蒸発し、中間媒体ガス61Aが発生する。つまり、伝熱管71は、海水72と中間媒体61との間の熱交換を行うための伝熱部材である。
【0067】
気化部52は、シェル70の上側の部分であり、図8中矢印に示すようにLNGが流れる流路を含むLNG配管73を有する。気化部52は、LNG配管73の内部を流れるLNGと中間媒体ガス61Aとの熱交換を行い、これによりLNGが気化し、NGが発生する。NGは、NG配管74を通ってNG加温部53に送られる。一方、中間媒体ガス61Aは、LNGとの熱交換により凝縮し、液状の中間媒体61としてシェル70の底部に溜まる。
【0068】
NG加温部53は、加熱源である海水が流れる複数(本実施形態では3つ)の伝熱管81を有する。NG加温部53には、気化部52からNG配管74を介してNGが送られ、当該NGは伝熱管81の内部を流れる海水72と熱交換する。その後、海水によって加温されたNGは、常温のガスとして排出される。つまり、伝熱管81は、海水72とNGとの間で熱交換するための伝熱部材である。
【0069】
上記LNG気化器2において、伝熱管71,81は、内面が腐食性媒体である海水72に曝されるため、防食被膜が形成されていなければ、腐食が進行することによって孔食などの問題が生じる。ここで、伝熱管71,81は、本実施形態に係るアルミニウム合金製部材により構成されている。即ち、伝熱管71,81は、上記実施形態1と同様に、適量のMgを含有する外層と、適量のZnを含有する内層と、を含む2層構造からなる被膜が基材の表面に形成されたものとなっている。具体的には、図9の断面図に示すように、伝熱管71,81は、海水が流れる流路91Aが内部に形成された中空円筒状の基材91と、基材91の内面に沿って周方向全体に形成された被膜92と、有する。そして、当該被膜92は、基材91の内面に接触するように形成され、Al−Zn系合金(Zn:1〜20質量%)からなる内層93と、内層93の内面に接触するように形成され、Al−Mg系合金(Mg:1〜20質量%)からなる外層94と、を含む2層構造からなる。このため、流路91Aに腐食性の海水を流しても、被膜92によって基材91の腐食を防止することができると共に被膜92の剥離を防止することができる。よって、伝熱管71,81の寿命をより長くすることができる。また伝熱管71,81以外に海水72に曝されることにより腐食が懸念される部材に対しても、伝熱管71,81と同様に、上述のような2層構造からなる犠牲防食被膜が形成されてもよい。
【0070】
(その他実施形態)
次に、本発明のその他実施形態について説明する。上記実施形態1,2では、本発明のアルミニウム合金製部材がLNG気化器1,2における伝熱管13,71,81、下部ヘッダー管14及びトラフ12として用いられる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、本発明のアルミニウム合金製部材は、液化石油ガス(LPG)の気化器における伝熱部材として用いることもでき、またプレート熱交換器における伝熱パネルやフィンアンドチューブ型熱交換器におけるプレートフィンなどの板状の伝熱部材としても用いることができる。
【0071】
また、このような板状のアルミニウム合金製部材は、クラッド圧延により作製することができる。具体的には、まず、アルミニウム合金製の基材及び被膜材をそれぞれ溶解、鋳造し、必要に応じて均質化熱処理を施し、それぞれの鋳塊を得る。次に、当該鋳塊を一体にして圧延(熱間圧延、冷間圧延)又は切断することにより、所望のサイズの板材を得る。その後、これらの板材を重ね合わせて熱間圧延により圧着することにより一体の板材とし、所定の最終板厚になるまで冷間圧延を行うことにより、基材の表面に被膜が形成された板状のアルミニウム合金製部材を作製することができる。このとき、被膜に相当する板材の板厚と熱間圧延における圧下率とを調整することにより、被膜の厚さを制御することができる。
【実施例】
【0072】
[供試材の作製]
アルミニウム合金製部材における被膜の耐膨れ性及び犠牲防食性について、本発明の効果を確認するための評価を行った。まず、図10及び図11に示す2種類の供試材100,101を作製した。図10は、被膜の耐膨れ性評価用の供試材であって、アルミニウム合金製部材の健全部を想定したものであり、実用時の初期劣化を評価するために用いた。図11は、犠牲防食性評価用の供試材であって、アルミニウム合金製部材の劣化がある程度進み、基材が露出した状態を想定したものである。
【0073】
まず、基材として、大きさが50mm(L1)×50mm(L2)×20mm(厚さ)の各種アルミニウム合金からなるものを準備した。そして、いずれの供試材100,101の作製においても、被膜形成の前処理として、平均粗さRaが10±2μmとなるように、アルミナを研掃材として用いたショットブラスト処理を50mm(L1)×50mm(L2)の1つの面に対して行い、その後ブラッシングにより研掃材の除去を行った。そして、プロパンと酸素の混合ガスを用いたフレーム溶射により、ショットブラスト処理を施した基材の表面に内層及び外層を順に形成し、供試材100,101を作製した。内層及び外層における各元素の成分組成(質量%)、内層及び外層の厚さ(μm)及び基材に用いたアルミニウム合金の種類は、下記の表1に示す通りである。内層及び外層の成分組成は、使用する溶射材の組成によって調整した。
【0074】
犠牲防食性評価用の供試材101(図11)の作製においては、20mmφの大きさの円形の孔である基材露出部100Aを切削加工により形成した。また全ての供試材100,101において、被膜を形成した50mm(L1)×50mm(L2)の大きさの面以外の面は、テフロン(登録商標)テープでシールし、その後次の熱サイクル腐食試験に供試した。
【0075】
[熱サイクル腐食試験]
低温と常温による温度変化及び海水の腐食作用に対するアルミニウム合金製部材の防食性を評価する試験として、以下の熱サイクル腐食試験を行った。供試材100,101の溶射被膜が形成された面に対して、液温35℃に調整された人工海水の噴霧を行い、供試材100,101の基材部分のみを液体窒素に浸漬して冷却する工程を1日1回合計6カ月行った。人工海水としては、株式会社ヤシマ製金属腐食試験用アクアマリンにCu2+イオン濃度が1ppmとなるように塩化銅(II)を添加したものを用いた。腐食試験終了後、耐膨れ性評価用の供試材100の外観写真を撮影し、その画像解析により被膜の膨らんだ部分の面積を測定した。
【0076】
犠牲防食性評価用の供試材101については、室温の30%硝酸に浸漬させることにより腐食生成物を除去した。その後、基材露出部100Aをレーザー顕微鏡で観察し、焦点深度法により局部腐食の深さを測定し、最も深い局部腐食の深さを求めた。また、犠牲防食性評価用の供試材101の腐食消耗量は、腐食試験前後の重量変化により測定した。腐食試験後の重量は、腐食生成物を除去した後の重量とした。各測定項目の評価基準は、下記の通りである。
【0077】
[膨れ面積の評価基準]
◎:No.1に対する膨れ面積の比率が50%未満
○:No.1に対する膨れ面積の比率が50%以上75%未満
△:No.1に対する膨れ面積の比率が75%以上100%未満
×:No.1に対する膨れ面積の比率が100%以上
[基材露出部における腐食深さの評価基準]
◎:基材露出部の局部腐食なし
○:基材露出部の局部腐食の最大値が10μm未満
△:基材露出部の局部腐食の最大値が10μm以上30μm未満
×:基材露出部の局部腐食の最大値が30μm以上
[腐食消耗量の評価基準]
◎:No.1に対する腐食消耗量の比率が50%未満
○:No.1に対する腐食消耗量の比率が50%以上75%未満
△:No.1に対する腐食消耗量の比率が75%以上100%未満
×:No.1に対する腐食消耗量の比率が100%以上
【0078】
【表1】
[試験結果]
上記熱サイクル腐食試験の結果は、表1の通りである。表1に示す通り、外層のMg含有量が1〜20質量%であり且つ内層のZn含有量が1〜20質量%であるNo.2〜5では、Al−Mgの内層のみ形成したNo.1に比べて、膨れ面積が小さくなり、基材露出部における腐食深さが小さくなり、腐食消耗量も低減された。また、外層にZnを適量含有させ又は内層にMgを適量含有させたNo.6〜12では、膨れ面積の抑制効果、基材露出部における腐食深さの抑制効果及び腐食消耗量の低減効果がさらに向上した。さらに、外層及び内層のいずれかにSi、Fe、Cu、Mn、Cr及びTiのうち1種又は2種の元素を適量含有させたNo.13〜22では、膨れ面積の抑制効果及び腐食消耗量の低減効果がさらに高くなった。
【0079】
上記No.1〜22は、7000系のアルミニウム合金(A7072)からなる基材を用いた場合である。3000系(A3003)、5000系(A5083)及び6000系(A6063)のうちいずれかのアルミニウム合金からなる基材を用いたNo.23〜34では、上記No.1〜22に比べて、膨れ面積の抑制効果、腐食深さの抑制効果及び腐食消耗量の低減効果がいずれも大きくなった。
【0080】
また3000系、5000系及び6000系の基材を用いた場合でも、7000系の基材を用いた場合と同様に、外層にZnを適量含有させ且つ内層にMgを適量含有させることによる効果や、外層又は内層にSi、Fe、Cu、Mn、Cr及びTiのいずれかを含有させることによる効果が認められた。即ち、外層にZnを適量含有させ且つ内層にMgを適量含有させたNo.26〜28は、それぞれNo.23〜25に比べて効果が大きくなった。また、外層又は内層のいずれかにSi、Fe、Cu、Mn、Cr及びTiのうち1種又は2種の元素を適量含有させたNo.29〜34では、より優れた耐食性向上の効果が得られた。
【0081】
上記熱サイクル腐食試験により、銅イオンを比較的多く含有する海水環境(1ppm)において温度サイクルが付与された場合でも、本発明のアルミニウム合金製部材によれば、腐食劣化の進行を防ぐことができ、これによりLNG気化器や熱交換器を長寿命化し、またメンテナンス負荷を低減することが可能であることが分かった。
【0082】
今回開示された実施形態及び実施例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
1,2 LNG気化器
13,71,81 伝熱管(アルミニウム合金製部材)
14 下部ヘッダー管(アルミニウム合金製部材)
21,31,41,91 基材
22,32,42,92 被膜
25,34,44,93 内層
26,35,45,94 外層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11