(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793485
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 167/07 20060101AFI20201119BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20201119BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20201119BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20201119BHJP
D21H 21/26 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
C09D167/07
C08J7/04 ZCEP
C09D4/02
C09D7/65
D21H21/26
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-136576(P2016-136576)
(22)【出願日】2016年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-9047(P2018-9047A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野依 慎太郎
【審査官】
上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−183997(JP,A)
【文献】
特開平10−219595(JP,A)
【文献】
特表平09−503033(JP,A)
【文献】
特開平08−120597(JP,A)
【文献】
特開平06−108397(JP,A)
【文献】
特開平08−284097(JP,A)
【文献】
特開平06−280198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08J
D21H
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収性の紙に浸透させた後、活性エネルギー線により硬化させて得られる透明加工紙用の樹脂組成物であり、多官能アクリル変性オリゴマー(A)と、(A)以外の多官能アクリルモノマー(B)と、光重合開始剤(C)と、を含み、前記(A)が2官能EO変性ビスフェノールA型ジアクリレートであり、前記組成物の25℃における粘度が、500mPa・sより大きく、3,000mPa・s以下である光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
更にアクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを含むことを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)の全固形成分に対する配合量が75重量%〜90重量%であり、前記(B)が全組成分に対し5重量%〜10重量%である、請求項1または2いずれか記載の光硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不透明な封筒等に塗布して、紫外線等の活性エネルギー線で硬化し、下地の印刷物や模様が透けて見えるよう用紙の一部あるいは全面を半透明に加工する樹脂組成物で、特に紙への塗布後に乾燥時間が長い場合でも浸透性に優れ、滲みが少ない光硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙に樹脂を含浸して半透明にする技術としては、光紫外線硬化型インキを用紙に含浸させて、該用紙を透明化する方法がある(特許文献1)。またその用紙に含浸させる組成物として、重合性ビニールオリゴマーと光重合性ビニールモノマーとを含む紫外線重合型組成物と、酸化重合型組成物とを含む無溶剤性組成物が提案されている(特許文献2)。しかしながらこの配合は速硬化型ではなく、紫外線で硬化しない酸化成分を含んでおり徐々に硬化が進むため、透明度の経時変化、印刷中での印刷物汚れ、印刷後積載された場合のブロッキングという問題があった。
【0003】
これらの問題に対応できる速硬化性の組成物として、光重合性ビニールオリゴマーと光重合性ビニールモノマーを含み、ワニス塗布後の紙面温度が遠赤外線の1〜3秒間の照射で100℃〜160℃とした後に、紫外線を照射する透明加工紙の製造方法が提案されている(特許文献3)。この方法を用いれば、硬化速度に起因する不具合は解消されるものの、設備面では紙面温度を短時間で上昇させる遠赤外線の照射装置が必要であり、また製造条件面でも紙面温度を100℃以上に上げる必要がある等の制約が多いため、実施できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−41397
【特許文献2】特許第3282019号
【特許文献3】特許第3676731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、不透明な封筒等に塗布して、紫外線等の活性エネルギー線で硬化し、下地の印刷物や模様が透けて見えるよう用紙の一部あるいは全面を半透明に加工する樹脂組成物で、特に紙への塗布後に乾燥時間が長い場合でも浸透性に優れ、滲みが少ない光硬化性樹脂組成物を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、吸収性の紙に浸透させた後、活性エネルギー線により硬化させて得られる透明加工紙用の樹脂組成物であり、多官能アクリル変性オリゴマー(A)と、(A)以外の多官能アクリルモノマー(B)と、光重合開始剤(C)と、を含み、
前記(A)が2官能EO変性ビスフェノールA型ジアクリレートであり、前記組成物の25℃における粘度が、500mPa・sより大きく、3,000mPa・s以下である光硬化性樹脂組成物を提供する。
【0007】
請求項2記載の発明は、
更にアクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを含むことを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物を提供する。
【0008】
請求項3記載の発明は、
前記(A)の全固形成分に対する配合量が75重量%〜90重量%であり、前記(B)が全組成分に対し5重量%〜10重量%である、請求項1または2いずれか記載の光硬化性樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、不透明な封筒等に塗布して、紫外線等の活性エネルギー線で硬化し、下地の印刷物や模様が透けて見えるよう用紙の一部あるいは全面を半透明に加工する、紙への浸透性に優れ、塗布後の滲みが少ない速硬化型の光硬化性樹脂組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物の構成は、多官能アクリル変性オリゴマー(A)と、(A)以外の多官能アクリルモノマー(B)と、光重合開始剤(C)である。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0011】
本発明に使用される多官能アクリル変性オリゴマー(A)は、(メタ)アクリレート構造を持ち(B)と共に反応して透明な樹脂硬化皮膜を形成する主要成分であり、例えばビスフェノール骨格またはノボラックフェノール骨格を持つエポキシアクリレート、脂肪族骨格または芳香族骨格を持つウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、アクリルアクリレート、ビスフェノール型アクリレートなどがあり、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。官能基数は硬化収縮の観点から、2〜3官能が好ましい。
【0012】
これらの中では、粘度が比較的低いビスフェノール型アクリレートおよびポリエステルアクリレートが好ましい。とりわけエチレンオキサイド変性(以下「EO変性」と表記)ビスフェノールAジアクリレートは硬化速度が早いため特に好ましい。分子量は400〜3,000が好ましく、480〜2,000が更に好ましい。分子量が400以上で適度な粘度調整がしやすくなり、3,000以下で硬化速度のコントロールがしやすくなる。全固形組成分に対する(A)の配合量は、75重量%〜95重量%が好ましく、80重量%〜90重量%が更に好ましい。75重量%以上とすることで作業性に適した粘度を確保でき、95重量%以下とすることで紙への含浸がしやすくなる。
【0013】
本発明に使用される(A)以外の多官能アクリルモノマー(B)は、(A)と反応して透明な樹脂硬化皮膜を形成する主要成分であり、紙への浸透性を促進させると共に、組成物の粘度調整を行う役割も担う。紙への塗布後に乾燥炉で乾燥する場合があるため、安全性の面から低揮発性であることが好ましく、分子量については600以下が好ましい。また紙への浸透性の点でシロキサン結合を含まないことが好ましい。
【0014】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えばトリエチレングルコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、3−メチル−1.5ペンタンジオールジアクリレート、1.4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、4.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1.9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1.10−デカンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレートがあり、3官能(メタ)アクリレートとして、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε−カプロラクトン変性トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートがある。
【0015】
更に4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えばトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等があり、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0016】
これらの中では分子量が600以下である、ポリエチレングリコールジアクリレート(#300)、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が好適である。全固形組成分に対する(B)の配合量は、5重量%〜10重量%が好ましい。5重量%未満では紙への含浸性が低下し透明度が安定しにくくなり、10重量%を超えると乾燥工程での揮発量が顕著となり、紫外線硬化後に「白ボケ」と称される部分的な白化現象が発生しやすくなる。
【0017】
本発明に使用される光重合開始剤(C)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、汎用の光重合開始剤で良い。具体的には2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,4,6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。ラジカル重合性成分100重量部に対して、1〜10重量部配合することが好ましく、4重量%〜8重量%が更に好ましい。
【0018】
本発明の粘着剤組成物には、性能を損なわない範囲で、必要により反応性希釈剤およびレベリング剤、消泡剤、湿潤剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、難燃剤、重合禁止剤等の各種添加剤が含まれていても良い。
【0019】
レベリング剤には、アクリル系、ビニル系、シリコーン系等があるが、表面張力低下能力が高い分子内にシロキサン結合を持つシリコーン系が好適である。レベリング剤を添加することで、紙へ塗布後の膜厚が均一化し、その結果として紙への浸透量を均一化する事ができるため、紫外線硬化後の透明性が安定化する。全固形組成分に対する配合量は、0.05重量%〜3重量%が好ましく、市販品のレベリング剤としてBYK−UV3500およびBYK−UV3510およびBYK−UV3570(商品名:BYK-Chemie社製、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン)等がある。
【0020】
本発明の光硬化性樹脂組成物の粘度は、25℃で500mPa・sよりも大きく、3,000mPa・s以下であり、特に600mPa・s〜1,500mPa・sが好ましい。500mPa・s以下では、樹脂組成物を塗布後の乾燥時間が長い場合、粘度が低くなり基材への浸透性が良くなりすぎ滲みが発生しやすくなったり、逆にモノマーの揮発量が多くなり浸透量が不均一になったりして、透明性や外観が安定しなくなる。また3,000mPa・sを超えると基材への浸透性が低下し、安定した透明性が得られにくくなる。
【0021】
本発明の樹脂組成物を紙などの基材に塗布する塗布方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ロールコート、バーコート、ブレードコートなど公知の塗工方法でよく、塗布量は紙の種類に対応して任意で良いが、一般に紙が充分な透明性を有するためには、ウエット厚みで30μm〜50μm程度の塗布が目安となる。
【0022】
樹脂組成物の塗布後は、乾燥炉で温度を上昇させることで粘度を低下させ、基材への樹脂浸透を促進させることが好ましい。具体的な乾燥条件としては、設定温度80℃〜100℃の温風乾燥炉にて乾燥時間60秒程度が例示される。この条件であれば、遠赤外線照射装置等の特別な設備は不要で、紙面の温度も100℃以下となるため安全性でも問題がない作業条件となり、透明感のある外観を安定して得ることができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物を紫外線硬化させる場合は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプ等の公知の光源を使用し、積算光量として例えば50〜1,000mJ/cm
2を照射して硬化する。
【0024】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。
また実施例4および実施例8は参考例として記載する。
【実施例】
【0025】
実施例1
(A)としてニューフロンティアBPE−4(商品名:第一工業製薬社製、2官能EO変性ビスフェノールA型ジアクリレート)を、(B)としてPE−300(商品名:第一工業製薬社製、PEG#300ジアクリレート)を、(C)としてイルガキュア907および184(商品名:BASFジャパン社製)を、レベリング剤としてBYK−UV3570(商品名:BYK―Chemie社製)を用い、表1記載の配合にて、遮光ビンに入れ均一に溶解するまで撹拌脱泡し、実施例1の樹脂組成物を調整した。
【0026】
実施例2〜9
実施例1で用いた材料の他、(A)としてニューフロンティアBPE−20(商品名:第一工業製薬社製、2官能EO変性ビスフェノールA型ジアクリレート)およびPE−44F(商品名:BASFジャパン社製、3官能ポリエステルアクリレート)およびLR8800(商品名:BASFジャパン社製、3官能ポリエステルアクリレート)を、(B)としてTMPTA(商品名:BASFジャパン社製、トリメチロールプロパントリアクリレート)およびDPHA(商品名:日本化薬社製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)およびTPGDA(商品名:BASFジャパン社製、トリプロピレングリコールジアクリレート)を用い、表1記載の配合にて、遮光ビンに入れ均一に溶解するまで撹拌脱泡し、実施例2〜9の各樹脂組成物を調製した。
【0027】
比較例1〜4
実施例1〜9で用いた材料の他、単官能アクリレートモノマーとしてACMO(商品名:KJケミカルズ社製、アクリロイルモルホリン)およびHOP−A(商品名:共栄社化学社製、2−ヒドロキシプロピルアクリレート)を用い、表1記載の配合にて、遮光ビンに入れ均一に溶解するまで撹拌脱泡し、比較例1〜4の各樹脂組成物を調製した。
【0028】
表1
【0029】
評価方法は以下の通りとした。
【0030】
測定サンプル
封筒用用紙(米坪60〜70g/m2)の55mm×100mmのエリアに、♯22のバーコーターを用いて樹脂組成物を塗布し、100℃の恒温機で1分乾燥後、フュージョンUVシステムズジャパン製の無電極UV照射装置F300S/LC−6Bを用い、Hバルブで出力1,300mW/cm2、積算光量が50mJ/cm2となるように紫外線照射により硬化させた。
【0031】
粘度:東機産業製のコーンプレート型粘度計RC−550を用い、コーン角3°R17.65で25±1℃、回転数10rpmで測定し、500mPa・sを超え3000mPa・s以下を○、それ以外を×とした。
【0032】
全光線透過率:JISK7361−1に準拠し、東洋精機製作所製のヘイズガードを用いて測定し、評価は75%以上を○とし、それ以外を×とした。
【0033】
濁度:JIS K 7136に準拠し、東洋精機製作所製のヘイズガードを用いて測定し、評価は91%以下を○とし、それ以外を×とした。
【0034】
滲み:測定サンプルの作成時に、バーコーターで塗布したエリアの端部から滲んだ距離を測定し、滲み量が5mm未満を○、5mm以上を×とした。
【0035】
評価結果を表2に示す。
表2
【0036】
実施例の光硬化性樹脂組成物は各評価結果いずれも良好であった。
【0037】
一方、(A)の配合量が少ない比較例1は滲みが大きくなり、単官能のアクリルモノマーを配合した比較例2および3は滲みが大きく、また比較例1、3は粘度も低かった。更に光硬化性モノマーを配合しない比較例4は粘度が高く、全光線透過率と濁度も×評価で、いずれも本願発明に適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、不透明な封筒等に塗布して、紫外線等の活性エネルギー線で硬化し、下地の印刷物や模様が透けて見えるよう用紙の一部あるいは全面を半透明に加工する光硬化性樹脂組成物として有用である。