【文献】
武山浩,甲状腺癌乳頭癌転移巣におけるアイソトープ集積増加をめざした、甲状腺モノクローナル抗体JT-95と131Iの結合物質(JT-95-131I)による選択的分子標的治療の試み,癌の臨床,日本,篠原出版新社,2004年10月,第50巻第10号,825ページ〜830ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
甲状腺癌患者の血液由来のN−結合型糖鎖と結合したフィブロネクチンであって、SDS−PAGEによる見かけ上の分子量が約250KDaの甲状腺癌関連抗原に特異的に結合し、
(1)軽鎖可変領域のCDRがそれぞれ以下のアミノ酸配列を有し、
CDR1:RSSKSLLYKDGKTYLN
CDR2:LMSTRAS
CDR3:QQLVEYPWT
(2)重鎖可変領域のCDRが、それぞれ以下のアミノ酸配列を有する、
CDR1:GFSLTSYGVH
CDR2:VIWSGGSTDYNAAFIS
CDR3:SSGTDYWYFDV、
抗体またはその抗原結合断片(ただし、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列である抗体またはその抗原結合断片は除く)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
癌の早期検出と診断は延命効果に影響するため、侵襲性外科手術による切除検体をスクリーニングすることによる癌の診断に代わるものとして、容易に得られる生物学的試料、例えば血液、粘膜分泌物に存在する腫瘍関連抗原を特定する試みが、多くの研究者により行われているところ(特許文献2)、甲状腺癌に関連する抗原マーカーが血流中へ放出され、血液中に存在することは今まで知られていなかった。
そこで、本発明は、甲状腺癌を早期発見するために、血液中に存在する可溶性形態の甲状腺癌関連抗原を特定し、その抗原に特異的に結合する抗体を使用することにより、血液試料で良性の甲状腺結節と悪性のものを区別することができるという、早期診断の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記特許文献1に記載された甲状腺癌組織の癌細胞膜に存在する癌関連抗原に結合するモノクローナル抗体は、ヒト甲状腺乳頭癌組織をホモジェナイズし、遠心分離により破砕された細胞を除去して、その上清をショ糖連続密度勾配で分画し、1.16〜1.21の密度の分画の膜画分を免疫原としてマウスを免疫して常法により取得したものであり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であるIgM抗体である。この抗体は、ELISAによる492nmの吸光度での結合活性測定によれば、100μg/mlの抗原濃度で最大の結合活性を示し、20μg/mlの抗原濃度で最大の半分の結合活性を示した。この抗体を可視化すると、抗体が甲状腺癌細胞膜上の抗原と特異的に結合し、その他の癌細胞や正常細胞には結合しないことが確認され、甲状腺組織切片を用いた甲状腺癌の診断に使用できることが示された。
【0008】
この抗体と結合する癌関連抗原は、癌細胞膜に結合しており、細胞質の中には存在していない.癌細胞を溶解してSDS−PAGEにかけると、見かけ上の分子量が約130kDaである糖タンパク質であった。一方、甲状腺癌細胞を培養してその培養上清に分泌される糖タンパク質にも、この抗体が結合することがわかった。培養上清中に存在する抗原は、見かけ上の分子量が約250kDaである糖タンパク質であり、細胞膜に結合している抗原とは異なる大きさであった。タンパク質は、アミノ酸配列決定するとフィブロネクチンであった。
【0009】
そして、甲状腺癌患者の血液中に、該抗体で検出可能な量でこの新規癌関連抗原が存在するかどうかを試験したところ、患者のほぼ半数にこの抗体と癌関連抗原の免疫複合体の存在が検出でき、この癌関連抗原に特異的に結合する抗体を、血液試料を用いた甲状腺癌の診断に用いることができることが確認された。
【0010】
本発明の第1の発明は、甲状腺癌患者の血液から単離されたN-結合型糖鎖と結合したフィブロネクチンであって、SDS−PAGEによる見かけ上の分子量が約250KDaの甲状腺癌関連抗原に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である。
【0011】
本発明の第2の発明は、その甲状腺癌関連抗原に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を有効成分とする、血液試料による甲状腺癌診断剤である。
【0012】
本発明の第3の発明は、血液試料による甲状腺癌診断剤を含む診断用キットである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、甲状腺癌患者の血液に存在する甲状腺癌関連抗原に関連し、その抗原に特異的に結合する抗体を用いる、甲状腺癌の早期検出のための診断剤及び診断用キットを提供する。
【0015】
[定義]
本明細書で使用する場合、「約」は、プラスマイナス10%を意味する。例えば、約250は、225〜275の任意の数を含む。
用語「抗体」とは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体を含み、キメラ抗体、ヒト化抗体を含む。抗体は、癌関連抗原と、約10
4M
−1以上の、好ましくは約10
5M
−1以上の、さらに好ましくは約10
6M
−1以上の、さらにより好ましくは約10
7M
−1以上のKaで結合する場合に、「特異的に結合する」と規定される。抗原または抗体の親和性は、慣用的手法(例えばScatchard et al.Ann.N.Y.Acad.Sci.51:60(1949))を用いて、容易に決定され得る。
用語「抗体の抗原結合断片」とは、F(ab’)
2、Fab’、Fab、Fv、sFvなどの、全長抗体と同じエピトープに結合する抗体の断片を意味する。
用語「血液試料」は、動物(ヒトを含む)から得られる血液、血清、血漿を意味する。
【0016】
甲状腺癌患者の血液中に存在する新規癌関連抗原は、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であるIgM抗体を担体に固定化した後、甲状腺癌患者の血清試料と十分接触させた後、抗体に結合したタンパク質を溶出液で溶出させて単離精製することができる。
【0017】
甲状腺癌関連抗原に特異的に結合する抗体は、ポリクローナル抗血清として、またはモノクローナル抗体として、例えばKohler and Milstein(1976 Eur.J.Immunol.6:511−519)の技法および改良技法を用いて調製される。甲状腺癌関連抗原をアジュバントと混合して免疫原として、マウス等の動物に注射し、数回免疫した後、脾臓を摘出して脾臓細胞と骨髄腫細胞を融合させ、融合細胞の増殖は支持するが骨髄腫細胞の増殖は支持しない選択培地、例えばHAT培地中で選択される。約1〜2週間後ハイブリドーマのコロニーが観察され、抗原との結合活性が試験され、高い特異性と結合性を有するハイブリドーマが選択され、モノクローナル抗体は、増殖中のハイブリドーマのコロニーの上清から単離され得る。例えば抗体は、固定化プロテインGまたはプロテインA上でのクロマトグラフィーにより精製される。
【0018】
ハイブリドーマから、モノクローナル抗体の可変領域をコードするDNAをクローニングする一般的な技術は、Orlandi et al.PNAS 86:3833(1989)に記載されており、RT−PCR、5’−RACE法により抗体の可変軽鎖遺伝子と可変重鎖遺伝子をコードするDNAがクローニングされ、上記Orlandi et al.に記載されるように、キメラ抗体として、細胞培養で発現させることもできる。また、可変軽鎖遺伝子と可変重鎖遺伝子のDNA配列から推定されるアミノ酸配列により、それぞれの相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FR)が決定され、ヒト化抗体を産生するための技術(例えば、Carter et al.PNAS 89:4285(1992))により、CDRグラフト化され、ヒト化抗体を作成する。
【0019】
癌関連抗原に特異的なモノクローナル抗体の、抗原に対する結合能力は、間接的酵素免疫アッセイ、フローサイトメトリー解析、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、またはウエスタンブロット解析を用いて確認することができる。
【0020】
抗体またはその抗原結合断片を、血液試料による甲状腺癌の診断剤として用いる態様は、試料中の抗原を検出するための当業者に周知の種々の方法により行うことができる。例えば、ELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット解析、免疫蛍光測定法、免疫沈降法、平衡透析、免疫拡散法等がある。ウエスタンブロット解析では、血液試料からのタンパク質調製物はゲル電気泳動に付され、膜に移されて抗体と反応させて検出され得る。
【0021】
また、例えば抗体を固体支持体上に固定して、抗原を含む血液試料と結合させた後、残りの試料を除去する。結合した抗原は次いで、抗原と結合する第二の抗体、例えば検出可能なレポーター部分を含有する試薬を用いて検出され得る。固体支持体は当業者に周知の任意の材料であり、抗体が結合可能であればよく、例えば、マイクロプレートウエル中の試験ウエル、ニトロセルロースフィルター、ビーズまたは円板としてはガラス、ファイバーグラス、ラテックス、プラスチック(ポリスチレン、ポリ塩化ビニル)である。抗体は、当業者の周知の技法を用いて固体支持体に結合され得る。
【0022】
二抗体サンドイッチアッセイでは、血液試料中の抗原は、一般的にはマイクロプレートのウエルに固定された第一の抗体と免疫複合体を形成するように、室温で30分間インキュベートされ、試料の非結合成分を固定化免疫複合体から除去した後、第二の抗体が付加される。第二の抗体の抗原結合部位は、第一の抗体の抗原との結合を競合的に阻害しない。第二の抗体は、直接検出され得るよう検出可能に標識され得るか、検出可能に標識された第二段階の抗抗体の使用により、または、特異的検出試薬の使用により間接的に検出され得る。第一の抗体または第二の抗体は、抗原に特異的なポリクローナル抗体であってもよい。
【0023】
第二の抗体は、検出可能なレポーター部分または標識、例えば酵素、染料、放射性核種、発光基、蛍光基、またはビオチン等を含有し得る。固体支持体に結合している第二の抗体の量は、特異的な検出可能なレポーター部分または標識について適切な方法を用いて決定される。放射性基については、シンチレーション計数またはオートラジオグラフ法が一般的であり、抗体−酵素接合体は、種々のカップリング技術を用いて調製され得る。分光法を使用して、色素(例えば、酵素反応の比色生成物を含む)、発光基、蛍光基を検出し得る。ビオチンは、異なるレポーター基(通常は、放射性基、蛍光基、酵素)に連結されたアビジンまたはストレプトアビジンを用いて検出され得る。酵素レポーター基は、基質の付加(一般に特定時間の)と、その後の分光分析、分光光度分析、または反応産物のその他の分析により検出され得る。
【0024】
本発明の診断用キットには、抗体またはその抗原結合断片の他に、上記のような抗原と抗体との免疫複合体を検出する種々の態様に使用するための診断用材料が包含され得る。
また、本発明の診断用キットには、抗体またはその抗原結合断片は、抗体の滅菌液体処方物または凍結乾燥製剤として含むことができ、試薬やキットを使用するための取扱説明書を含むことができる。キット構成要素は、1つにまとめて包装してもよいし、2つ以上の容器に分けてもよい。容器は、再構成に好適な診断用組成物の滅菌凍結乾燥処方物を含むバイアルであってもよい。キットはまた、他の試薬の再構成や希釈に好適な1つまたは複数の緩衝液を含んでいてもよい。使用するその他の容器としては、袋、箱、トレイ、チューブなどが挙げられ、キット構成要素はこれらの容器内に包装し、滅菌状態で維持してもよい。
【0025】
以下の実施例は、本発明の実施の態様を例示するものであって、本発明を限定するものではない。実施例では、例示的なモノクローナル抗体(JT)を利用した試験が行われているが、本発明の抗体はこの抗体に限定されるものではない。抗体を用いた臨床研究では、甲状腺癌患者の約半数の血液試料中で、抗原との免疫複合体が検出されており、新規甲状腺癌関連抗原に特異的に結合する抗体が、血液試料による甲状腺癌の診断に有用であることを示している。
【実施例1】
【0026】
[イムノブロット解析]
イムノブロット分析用サンプルを、以下のようにして調製した。
癌培養上清は対数増殖期の甲状腺がん細胞株(SW1736)の培養液を用い、細胞可溶化物は、培養細胞を培養ディッシュからEDTAを添加したトリプシンで単離し1500回転/分で遠心後、ペレットから細胞を回収し、Chaps 細胞抽出バッファー(セルシグナリング社)を用いて細胞抽出液として用いた。この後、ゼラチン結合ビーズにそれぞれの試料の一部を吸着させ、吸着処理を行わなかった試料(試料、SupまたはLysate)、ゼラチン結合ビーズに吸着したタンパク(ゼラチンビース吸着、ppt)、ビーズ処理を行った残りのタンパク(ビーズ処理後、Sup または Lysate-ppt)を電気泳動法で分離した。泳動前に等量の2倍濃縮SDSサンプルバッファー(0.5Mトリス塩酸バッファーpH=6.8 最終濃度0.125M、2-メルカプトエタノール最終濃度10%(v/v)、SDS 最終濃度4%,シュークロース最終濃度10%、ブロモフェノールブルー 最終濃度0.01%)を等量加えて、100℃、3分間、可溶化処理したものを最終的な試料とした。電気泳動には3-10%の濃度勾配のついたグラジエントポリアクリルアミドゲルを用いて行い、泳動後、ナイロン膜にタンパクを転写させ、ブロックエース(DSバイオファーマ社)でタンパクブロックを行った後、4℃で一晩JT抗体と反応させ、リン酸緩衝液で洗浄後、ペルオキシダーゼ結合抗マウスIgM抗体(ヤギ)と室温2時間反応、さらにリン酸緩衝液で洗浄を行い、反応のシグナルを、ピアス社(カタログ番号NCI 3106)ウエスタンブロッティングサブストレイトキットを用いて化学発光法で検出した。
【0027】
図2は、イムノブロット解析の結果を示す。抗体として、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、かつ、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であるマウスモノクローナル抗体(以下、「JT抗体」という。)を結合することによって検出されたバンドを示す。
ビーズ処理にはゼラチン結合ビーズを用い、このビーズと作用させるとゼラチン結合作用があるファイブロネクチンなど試料中のタンパクはビーズに吸着される。従って、癌培養上清と細胞可溶化物をそのまま試料として電気泳動を行なった結果(レーン(3)と(6))とそれぞれゼラチン結合ビーズに吸着されたタンパク((レーン(2)と(5)))を比較すると癌培養上清にはファイブロネクチンが含有されていることが分かる。一方、細胞可溶化物にはファイブロネクチンは含まれていない。これはビーズ処理を行った後の試料((レーン(1)と(4)))の結果(癌培養上清のレーンではファイブロネクチンのバンドの強さが低下、一方、細胞可溶化物ではビーズ処理後もバンドの強さが処理前の試料と変化していない)からも推察できる。
細胞可溶化物からの抗原は、癌細胞表面に結合しているものであり、約130KDaの見かけ上の分子量を有するのに対して、癌培養上清からの抗原は、培養液上清に放出された、血液に存在する抗原と同じものと思われ、約250KDaのみかけ上の分子量を有する。
【実施例2】
【0028】
[約250KDaの癌関連抗原の特徴付け]
甲状腺癌患者の血液に存在する約250KDaの抗原を単離精製した。500μgのJT抗体をPBSで希釈してニトロセルロースフィルターに吸着させた。甲状腺癌患者の血清をトリスバッファーで10倍希釈後100mlとした試料と、ニトロセルロースフィルターとをインキュベートして、室温で3時間以上置いてから洗った後、2mlの溶出液で2回洗い、抗原を溶出させ単離精製した。
【0029】
精製した抗原は、アミノ酸配列の決定のためにV8プロテアーゼで処理後、自動ペプチドシークエンサーで配列決定すると、ヒトフィブロネクチンと一致した。フィブロネクチンであるか確認するために、ヒトノーマル血漿型フィブロネクチンと精製した癌関連抗原のそれぞれに対して、ウサギ抗ヒトフィブロネクチン抗血清とJT抗体とをそれぞれ反応させた。抗ヒトフィブロネクチン抗血清は、ヒトノーマル血漿型フィブロネクチンと精製した癌関連抗原の両方に結合したが、JT抗体は、精製した癌関連抗原にしか結合しなかった。精製した癌関連抗原のタンパク質がヒトフィブロネクチンであることが確認されたが、JT抗体が、ヒトノーマル血漿型フィブロネクチンと結合せず、精製した癌関連抗原のみに結合したことは、精製した癌関連抗原がヒトノーマル血漿型フィブロネクチンとは異なる糖鎖で修飾されており、JT抗体はその修飾された糖鎖に関連する部位に結合することが示唆された。
【0030】
さらに、レクチンを用いた解析から、この糖鎖はα2-6/α2-3シアル酸N-結合型糖鎖であることが判明した。フィブロネクチンのN-結合型糖鎖付加可能性部位は8か所であることから、部分的にフィブロネクチンを消化してJT抗体との反応性により、結合部位である可能性のある場所は2か所(1903位と2119位のアスパラギン酸)であることがわかった。その2つの部位をそれぞれ欠失させたフィブロネクチン遺伝子を導入した細胞では、JT抗体が反応しない部位が1903位欠失のものであったことから、JT抗体は1903位のAspに結合した糖鎖に関連する部位に結合すると予測される。癌細胞膜上の約130KDaの抗原もJT抗体と結合することから、Aspに結合した糖鎖修飾に関しては、約250KDaの抗原と同じ修飾を有すると考えらえる。
【実施例3】
【0031】
[フィブロネクチン遺伝子(5783番目から5951番目までの遺伝子配列)を欠失させた甲状腺癌細胞のイムノブロット分析]
イムノブロット分析用サンプルは、実施例1と同様にして調製した。フィブロネクチン遺伝子の5783番目から5951番目までの塩基配列を欠失させた甲状腺癌細胞株(SW1736)を用いた。陽性対照は遺伝子を欠失させていない野生型のSW1736を用いた。癌培養上清は対数増殖期の培養液を用い、細胞可溶化物は、培養細胞を培養ディッシュから単離して細胞抽出液を得た。それぞれ4つの試料を電気泳動法で分離した。電気泳動は、実施例1と同様に行った。
そのイムノブロット分析の結果を
図3に示す。
左の陽性対照(ポジコンSW1736細胞)では細胞培養の上清中とライセート中の2レーンに、それぞれ約250Kdと約130Kdの抗原が存在するが、この細胞のフィブロネクチン遺伝子(5783番目から5951番目までの塩基配列)を欠失すると(右側のレーン(1)-2の細胞)このバンドは現れなくなる。このことから約250Kdバンドがフィブロネクチン由来であり、ライセート中の約130Kdのバンドはフィブロネクチン由来ではないことがわかる。
【実施例4】
【0032】
以前行った甲状腺患者の甲状腺組織切片のJT抗体による免疫組織検査の結果は、以下のとおりであった。対照となる良性の甲状腺関連疾患の陽性率は低いか0であった。
組織型 患者数 陽性数 陽性率(%)
悪性
乳頭癌 100 95 95
濾胞癌 4 3 75
良性
線腫 39 0 0
線腫様甲状腺腫 21 3 14
甲状腺機能亢進症 8 0 0
慢性甲状腺炎(橋本病) 8 3 38
【実施例5】
【0033】
[患者の血液からの新規癌関連抗原の検出]
血漿試料は、甲状腺穿刺吸引細胞診により甲状腺癌と新しく診断された、以前治療を受けていない58人の患者と、甲状腺癌が再発した12人の患者から選択した。血液を診断の時に患者から採取した。対照として、甲状腺の超音波検査および手術の病理所見により甲状腺癌でないと診断された41人の患者からの血漿試料を用いた。
【0034】
患者の血漿におけるJT抗体と癌関連抗原との免疫複合体の検出は、以下の方法により行った。
96穴のマイクロプレートウエルに、精製されたJT抗体4μg/ml を100μl、4℃で一晩結合させた。その後、ウエルをツイーン20含有リン酸緩衝液で3回洗浄。洗浄後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社)でウエルを2時間室温でブロックしさらに洗浄を行い、血漿試料をウエルに加えて室温で2時間反応させた。その後、ツイーン20含有リン酸緩衝液でウエルを3回洗浄、洗浄後ブロックエースで希釈したビオチン化JT抗体20μg/ml を100μlウエルに加えて1時間室温で反応させ、さらにツイーン20含有リン酸緩衝液で3回洗浄後にストレプトアビジンを結合させたペルオキシダーゼ(HRP,ホースラディッシュペルオキシダーゼ)を100μl加え、30分間室温で反応させツイーン20含有リン酸緩衝液でウエルを3回洗浄、洗浄後、3,3′,5,5′-テトラメチルベンジジン(TMB)液体基質を100μl加え酵素反応を確認した。反応後、1規程硫酸水溶液100μlを加えて反応を停止させ波長450nmで吸光度を測定した(サンドイッチELISA法)。サンドイッチELISA法で得られた吸光度値を陽性対照試料と比較して最終的に判断された患者血液中の抗原の検出結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
JT抗体により、甲状腺癌患者の血液中の癌関連抗原を検出することができた。甲状腺乳頭癌では70人の患者のうち32人の血液中から検出され、45.7%の陽性率であり、甲状腺癌でない患者では、41人のうち陽性が4人で、陽性率が9.8%であり、甲状腺結節を有する患者に対する良性か悪性の早期診断として、臨床的に十分機能する結果が示された。
[参考例1]
【0037】
[免疫組織化学染色]
甲状腺癌の細胞膜上で、約130KDa抗原が局在化する様子を、JT抗体の結合により示す。
培養中のSW1736細胞を2%パラフォルムアルデヒド/0.1Mリン酸緩衝液で固定、固定後リン酸緩衝液で洗浄した後、ヤギ血清を用いて非特異反応をブロッキングした後、プレエンベディング法で免疫染色を行った。JT抗体を5μg/ml、4℃で3日間反応させ洗浄、洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgM抗体で反応後に3,3'-diaminobenzidine(DAB)反応を行った。その後、四酸化オスミウム処理をして、通常のエポン包埋超薄切片を作製して、透過型電子顕微鏡で観察を行った。
図4の写真では、JT抗体は、細胞の膜表面のみを認識し、甲状腺癌細胞中では、約130KDaの甲状腺癌関連抗原が局在化していることが明確に観察された。
【0038】
[まとめ]
以上の通り、本発明は、(1)ないし(7)の態様を包含する
(1)甲状腺癌患者の血液由来のN-結合型糖鎖と結合したフィブロネクチンであって、SDS−PAGEによる見かけ上の分子量が約250KDaの甲状腺癌関連抗原に、特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片(ただし、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列である抗体またはその抗原結合断片は除く)。
(2)(a)軽鎖可変領域のCDRがそれぞれ以下のアミノ酸配列を有し、
CDR1:RSSKSLLYKDGKTYLN
CDR2:LMSTRAS
CDR3:QQLVEYPWT
(b)重鎖可変領域のCDRが、それぞれ以下のアミノ酸配列を有する、
CDR1:GFSLTSYGVH
CDR2:VIWSGGSTDYNAAFIS
CDR3:SSGTDYWYFDV
上記(1)に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(3)抗体がIgMである、上記(1)または(2)に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を有効成分とする、血液試料による甲状腺癌診断剤。
(5)軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、かつ、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列である抗体、またはその抗原結合断片を有効成分とする、血液試料による甲状腺癌診断剤。
(6)抗体がIgMである、上記(4)または(5)に記載の血液試料による甲状腺癌診断剤。
(7)上記(4)ないし(6)のいずれかに記載の甲状腺癌診断剤を含む、血液試料による甲状腺癌の診断用キット。