特許第6793541号(P6793541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793541球状黒鉛鋳鉄管、および、球状黒鉛鋳鉄管の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793541
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】球状黒鉛鋳鉄管、および、球状黒鉛鋳鉄管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/04 20060101AFI20201119BHJP
   C21D 5/00 20060101ALI20201119BHJP
   C21C 1/10 20060101ALI20201119BHJP
   B22D 13/02 20060101ALI20201119BHJP
   B22D 13/10 20060101ALI20201119BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C22C37/04 D
   C21D5/00 T
   C21C1/10 102
   B22D13/02 501C
   B22D13/10 505F
   B22D27/20 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-251094(P2016-251094)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-104750(P2018-104750A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 平成28年11月7日 集会名 公益財団法人 日本鋳造工学会開催支部 平成28年度 秋季支部講演大会 開催場所 関西大学千里山キャンパス 大阪府吹田市山手町3−3−35
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】堤 親平
(72)【発明者】
【氏名】中本 光二
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−183198(JP,A)
【文献】 特開2015−183191(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/122248(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104114728(CN,A)
【文献】 特開2013−117045(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/001841(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0239451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 37/04
B22D 13/02
B22D 13/10
B22D 27/20
C21C 1/10
C21D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにMn:1.20〜1.70%、Cu:0.60〜1.20%となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、焼鈍後の基地組織におけるパーライトの面積率が80%以上であり、未分解のセメンタイトの面積率が10〜15%の範囲内である球状黒鉛鋳鉄管。
【請求項2】
基地組織中に晶出している黒鉛が15.0μm以下に微細化された請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄管。
【請求項3】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにMn:1.20〜1.70%、Cu:0.60〜1.20%となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる溶湯を用いて、冷却速度2.0〜8.0℃/秒で所定形状の半製品を鋳造し、前記半製品を900〜1100℃の温度範囲内で5〜30分保持した後、1〜8℃/分の冷却速度で冷却する球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
【請求項4】
前記溶湯を金型に注湯する際に、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を0.1〜0.5重量%注湯流接種する請求項3に記載の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道管等に使用される球状黒鉛鋳鉄管、および、この球状黒鉛鋳鉄管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な球状黒鉛鋳鉄(以下において、ダクタイル鋳鉄と称する。)は、JIS規格のFCD350、FCD400、FCD450等の高靱性タイプのものや、FCD600、FCD700、FCD800等の高強度タイプのものがある。主に水道管用として鋳造されるダクタイル鋳鉄管については、これらの中で強度と伸びのバランスが比較的良好なFCD450(引張強さ450MPa以上、伸び10%以上)が選択される。これに対し、スラリー状物質や摩耗性の高い硬質物質等を輸送する用途には高硬度の耐摩耗材が、自動車部品や建機部品等の素材としての用途には高強度かつ高耐力のものがそれぞれ選択される。
【0003】
例えば、金型遠心鋳造によって鋳造されたダクタイル鋳鉄管(直管)の鋳放し組織のマトリックス(基地)の主体はパーライトであり、この金型遠心鋳造における冷却速度が大きいため、安定系の黒鉛に加え、準安定系のセメンタイトが同時に多く晶出した斑構造となる。このセメンタイトは伸びの阻害要因となるため、FCD450タイプに要求される強度と伸びの両立を図るために、セメンタイトの分解およびマトリックスのフェライト化を目的とした焼鈍が必要となる。
【0004】
ダクタイル鋳鉄管の焼鈍は、一般的には連続焼鈍炉で行われる。この連続焼鈍炉において、ダクタイル鋳鉄管は、オーステナイト化温度域以上(870℃以上)に加熱される。これによりセメンタイトを完全に分解し、基地組織のオーステナイト化を行う。このセメンタイトの分解は、処理温度と処理時間に依存し、処理温度が高いほど処理時間を短くすることができる一方で、処理温度が低いほど長い処理時間を要する。この連続焼鈍炉は、炉内の均一な温度コントロールが困難であることが多い。このため、セメンタイトを確実にオーステナイト化するために、処理温度および処理時間を決定する必要がある。
【0005】
基地組織のオーステナイト化を完了したら、このオーステナイトからフェライトを析出させるため、共析変態点付近(680〜750℃程度)の温度域を一定時間保持するか、この共析変態点付近を徐冷する熱処理を行う。この際の保持時間や冷却速度により、フェライト析出量が決定される。すなわち、保持時間が長いほど、または、冷却速度が小さいほどフェライト析出量は増大する一方で、保持時間が短いほど、または、冷却速度が大きいほどフェライト析出量は減少し、マトリックスの主体はパーライトとなる。
【0006】
この熱処理において連続焼鈍炉を用いる場合、厳密に温度コントロールを行ってフェライトとパーライトの量を細かくコントロールすることが困難なため、基本的にはフェライトが主体となる条件で焼鈍を実施して靱性の確保を図っている。
【0007】
ダクタイル鋳鉄管において、FCD600、FCD700、FCD800といった高強度タイプのものが要求される場合は、マトリックスのパーライト化が必要となる。このパーライト化を熱処理条件の制御のみで行うのは困難なため、パーライト化を促進するMn、Cr、Cu、Sn等の微量元素を添加するのが一般的である。
【0008】
このダクタイル鋳鉄管を、鉱石質スラリーや石灰質スラリー等のスラリー状物質や、摩耗性の高い硬質物質等の輸送に用いる場合は、耐摩耗性に優れた特性(例えば、ビッカース硬度が200Hv以上)が要求される。さらに、近年においては、火力発電所の配管や、石炭ボイラ装置のように、高温環境下における使用も想定されるため、高温でも十分な硬度を維持できる材料特性が要求されている。
【0009】
一般的に、この耐摩耗性は、硬度を上昇させることにより向上する。ダクタイル鋳鉄管においては、既述の通り、厳密な温度コントロールを必要とする焼き戻しなどの特殊な熱処理が困難であるため、例えば、特許文献1〜4に示すようにNiを添加したり、あるいは、Moを添加したりしてマトリックスの改良を行い、硬度の向上を図る手法を採用したりすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3823347号公報
【特許文献2】特許第5282547号公報
【特許文献3】特許第5589646号公報
【特許文献4】特許第5712525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
各特許文献に係る構成においては、改良したマトリックスが、レデブライトやマルテンサイトなどの高温下で相変態を起こしやすい組織を形成していた場合、相変態に伴う硬度低下が懸念される。既述の通り、耐摩耗性と硬度は関係があるため、硬度の低下に伴って耐摩耗性が低下する。このため、高温において相変態を起こす可能性のある組織を有する素材は、高温への適用が難しいという問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、高温領域におけるダクタイル鋳鉄管の硬度を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、この発明は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにMn:1.20〜1.70%、Cu:0.60〜1.20%となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、焼鈍後の基地組織におけるパーライトの面積率が80%以上であり、未分解のセメンタイトの面積率が10〜15%の範囲内である球状黒鉛鋳鉄管を構成した。
【0014】
ここで、パーライトの面積率とは、所定の大きさの視野におけるマトリックスの面積を100%としたときにパーライトの面積が占める割合(%)のことをいい、セメンタイトの面積率とは、所定の大きさの視野の全体の面積を100%としたときにセメンタイトの面積が占める割合(%)のことをいう。
【0015】
次に、各合金元素の含有量を上記の範囲に限定した理由について説明する。
【0016】
Cは、本発明に必要な黒鉛量と鋳造性(溶湯の流動性)を確保するために、少なくとも3.20%含有するようにした。その一方で、含有量が高すぎると黒鉛の晶出が過剰になって高い強度が得られなくなるので、その上限を4.00%とした。
【0017】
Siは、溶湯の流動性を高める作用や黒鉛の晶出を促進する作用を確保するために、少なくとも1.40%含有するようにした。その一方で、含有量が高すぎると黒鉛の晶出が過剰になるとともに基地組織のパーライト化を抑える作用が大きくなって高強度が得られなくなり、製品の外表面にピンホール等の荒れが発生しやすくなるため、その上限を3.00%とした。
【0018】
Mgは、黒鉛を球状化させるのに必要な元素であり、その効果を十分に得るために少なくとも0.02%含有するようにした。その一方で、含有量が高すぎると、その効果の向上があまり見られなくなるので、その上限を0.08%とした。
【0019】
Crは、通常、不可避的に0.01%以上含まれるが、含有量が0.20%以下であればその影響は小さい。
【0020】
Mnは、Sを固定して無害化するとともにパーライトを安定的に存在させ、かつパーライトの強度を向上させるのに有効な元素であり、その効果を十分に得つつ所定の硬度を確保するために少なくとも1.20%含有するようにした。その一方で、含有量が高すぎると、セメンタイトの残留が顕著となって強度および伸びが低下するため、その上限を1.70%とした。
【0021】
Cuは、Mnと同様にパーライトを安定的に存在させるのに有効な元素であり、その効果を十分に得つつ所定の硬度を確保するために少なくとも0.60%含有するようにした。その一方で、含有量を必要以上に高くしても、その効果には限界があるため、その上限を1.20%とした。
【0022】
上記各合金元素の他に、P、S等の不可避的不純物が含有されるが、その含有量は少ないほどよい。例えば、Pは0.08%以下、Sは0.015%以下とすることが好ましい。
【0023】
このように、各合金元素を上記濃度範囲内で、特にパーライト組織を安定的に存在させるMnおよびCuを上記濃度範囲内で含有させることにより、十分なパーライトの面積率(80%以上)を有するとともに、未分解のセメンタイトの面積率を所定の面積率の範囲内(10〜15%)とした球状黒鉛鋳鉄管とすることができる。このように各合金元素の濃度を調整して鋳造した球状黒鉛鋳鉄管は、焼入れ・焼き戻し等の特殊な熱処理を必要とせず、比較的簡便な焼鈍熱処理のみで、引張強さ、耐力だけでなく十分な耐摩耗性を発揮できる硬度(例えば、ビッカース硬度が200Hv以上)を付与される。しかも、レデブライトやマルテンサイトなどの高温で相変態を起こしやすい組織が形成されないため、400〜500℃の高温環境下においてもその硬度を維持することができ、高温環境下における信頼性を大幅に高めることができる。
【0024】
前記各構成においては、基地組織中に晶出している黒鉛が微細化された状態とするのが好ましい。
【0025】
このように、微細なサイズ(例えば、15.0μm以下)とすることにより、十分な耐摩耗性を確保しつつ、さらに高強度かつ高耐力を兼ね備えた球状黒鉛鋳鉄管を構成することができる。
【0026】
また、本発明に係る球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにMn:1.20〜1.70%、Cu:0.60〜1.20%となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる溶湯を用いて、冷却速度2.0〜8.0℃/秒で所定形状の半製品を鋳造し、前記半製品を900〜1100℃の温度範囲内で5〜30分保持した後、1〜8℃/分の冷却速度で冷却し、球状黒鉛鋳鉄管を製造する方法である。
【0027】
上述したように、各合金元素の含有量の範囲を上記のようにすることにより、十分な耐摩耗性を確保しつつ、高強度と高耐力を兼ね備えた球状黒鉛鋳鉄管を製造することができる。しかも、上記の熱処理は厳密な温度コントロールを要求されないため、一般的な連続焼鈍炉を用いて熱処理を行うことができる。
【0028】
この製造方法においては、前記溶湯を金型に注湯する際に、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を0.1〜0.5重量%注湯流接種するのが好ましい。
【0029】
このようにすれば、基地組織中に晶出する黒鉛の粒数を増加させることができ、より確実に高い耐力を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明によると、球状黒鉛鋳鉄の溶湯に、MnおよびCuを所定の濃度範囲内で含有させることで、特殊な熱処理を行うことなく、耐摩耗性を発揮するために十分な硬度(例えば、ビッカース硬度が200Hv以上)を確保しつつ、高強度かつ耐力性を備えた球状黒鉛鋳鉄管を構成することができる。しかも、その組織が、レデブライトやマルテンサイトなどの高温で相変態を起こしやすい組織が形成されないため、400〜500℃の高温環境下においてもその硬度を維持することができ、高温環境下における信頼性を大幅に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】高温ビッカース試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本願発明に係るダクタイル鋳鉄管(球状黒鉛鋳鉄管)の特性評価実験に先立ち、本願発明の実施例となるダクタイル鋳鉄管を鋳造した。この実施例に対する比較例として、耐摩耗鋼管を用意した。表1に実施例および比較例に係るダクタイル鋳鉄の溶湯の化学成分を示す(本表への記載を省略した残部はFe、およびP、S等の不可避的不純物である)。なお、表1に示した化学成分データは、それぞれの溶湯から作製した白銑試料を発光分光分析装置で分析した値である。
【0033】
【表1】
【0034】
この実施例に係るダクタイル鋳鉄管においては、表1に示した化学成分の各溶湯を1300℃において金型遠心鋳造装置の円筒状金型に注湯し、肉厚が12.0mmの管状の半製品(鋳放し管)を鋳造した。この注湯の際には、Siが45〜75重量%含まれたFe−Si系接種剤を0.1〜0.5重量%注湯流接種した。この鋳造時の冷却速度は4.0〜6.0℃/秒程度であった。この冷却速度は、金型の形状、注湯量、管の肉厚によって変化するが、2.0〜8.0℃/秒程度の範囲内に収まることが多い。
【0035】
次に、この半製品に対し、次に示す焼鈍条件で焼鈍することにより、製品としてのダクタイル鋳鉄管に仕上げた。
(焼鈍条件)
・加熱温度 :900〜1100℃
・加熱保持時間:5〜30分
・冷却速度 :1〜8℃/分
【0036】
上記の実施例に対する比較例として、特殊な熱処理によってマルテンサイトを晶出させたマルテンサイト系耐摩耗鋼管を採用した。
【0037】
実施例(試料1〜3)に係る母材から、強度試験および硬度試験に用いる試験片を作成した。各試験片に対し、常温(30℃)にて行った引張強さ、耐力、および、ブリネル硬度の各試験の結果を表2に示す。また、比較例としての耐摩耗鋼管の引張強さ、耐力、および、ブリネル硬度の各特性範囲についても、表2に併せて示す。この結果から、実施例に係る各試料1〜3は、比較例に対し、引張強さ、耐力、ブリネル硬度のいずれの結果においても同等以上であることが確認できた。
【0038】
【表2】
【0039】
次に、これらの試料を用いて、次に示す試験条件でビッカース硬度を測定した。
(試験条件)
・試験温度 :常温(30℃)、200℃、300℃、400℃、500℃(5水準)
・荷重 :20kg
・時間 :30秒間
・圧子 :ダイヤモンド
・雰囲気ガス:アルゴン
【0040】
各温度におけるビッカース試験の結果を図1に示す。実施例に係る試料1〜3は、試験温度の上昇に伴う素材の軟化によって、ビッカース硬度は緩やかに低下したが、400〜500℃の高温領域においても、200Hv以上の硬度を維持していた。これは、試料1〜3の基地組織がパーライトであるため、500℃程度の高温でも相変態が起こらず、この相変態に伴う組織の軟化が生じないためである。このように、高温領域における十分な硬度を確保したことにより、高温環境下における信頼性を大幅に高めることができる。
【0041】
これに対し、比較例に係る試料は、300℃以下の温度領域においては、実施例に係る試料1〜3と同様、ビッカース硬度は緩やかに低下した。ところが、300℃を超えると、ビッカース硬度が急激に低下し(図1中の耐摩耗鋼管のグラフの傾斜を参照)、500℃の高温下では200Hvを下回り、実施例と比較して大幅な硬度低下が生じた。これは、耐摩耗鋼管の組織中に晶出しているマルテンサイト層が、300℃程度以上の温度領域で軟化し始めることに起因すると考えられる。
【0042】
上記のように、溶湯への各添加元素の含有量、特にMnおよびCuの含有量を所定の範囲内(Mn:1.20〜1.70%、Cu:0.60〜1.20%)とし、焼鈍後の基地組織におけるパーライトの面積率が80%以上、未分解のセメンタイトの面積率が10〜15%となるようにすることにより、鋳放し品に対して特殊な熱処理を行うことなしに、400〜500℃の高温領域における十分な硬度を備えた球状黒鉛鋳鉄管を構成することができる。
【0043】
なお、上記の実施形態においては、接種剤としてFe−Si系のものを用いたが、Biが0.5〜5.0重量%、Siが45〜75重量%、それぞれ含まれたBi系接種剤を用いることもできる。また、これらの接種剤は、黒鉛をより多く晶出させるために使用されるが、必要な耐力が確保される限りにおいて、接種剤の使用を省略することも許容される。
図1