特許第6793574号(P6793574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793574
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】低熱膨張合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20201119BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20201119BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
   C22C38/00 302R
   C22C38/60
   !C21D6/00 101A
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-42864(P2017-42864)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-145491(P2018-145491A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】591274299
【氏名又は名称】新報国製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】大野 晴康
(72)【発明者】
【氏名】小奈 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂口 直輝
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−011451(JP,A)
【文献】 特開2016−027187(JP,A)
【文献】 特開2016−027188(JP,A)
【文献】 特開2003−253398(JP,A)
【文献】 特開2005−307244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 6/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.04%以下、
Si:0.15%超、0.5%以下、
Mn:0.5%以下、
S :0.050%以下、
Ni:31〜36%、
Co:2〜6.5%、
Al:0.03%超、0.20%以下、
Mg:0〜0.05%、
Ca:0〜0.02%、
Ce:0〜0.05%、
La:0〜0.05%、
Ti:0〜0.05%、
B :0.001〜0.020%、及び
N :0.0050%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、
25〜100℃の平均熱膨張係数が1.0×10-6/℃以下であり、
900℃における引張試験で測定した絞りが50%以上である
ことを特徴とする低熱膨張合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低熱膨張合金に関し、特に、熱間加工性に優れ、鋳造割れ対策を施し、さらに被削性に優れた低熱膨張合金に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスや半導体関連機器、レーザー加工機、超精密加工機器の部品材料として、熱的に安定なインバー合金が広く使用されている。
【0003】
インバー合金は、Fe−高Ni合金であり、オーステナイト単相として凝固するので、不純物元素の偏析が大きく、粗大な柱状晶を形成しやすい。このため、鋳鋼品の割れ、インゴットの鋳造割れ、鍛鋼品インゴットの熱間鍛造割れが発生しやすい。
【0004】
特許文献1は、シャドウマスク使用温度で1.0×10-6/℃以下の低い熱膨張係数を示すFe−Ni合金を開示している。特許文献1のFe−Ni合金は、Ni+Co:35.0〜37.0重量%,Co:1.00重量%以下,S:0.005重量%以下,B:0.0005〜0.0040重量%を含み、残部が実質的にFeの組成をもち、脱酸剤として添加されるC,Si,Mn,Alの少なくとも1種の含有量をそれぞれC:0.01重量%以下,Si:0.04重量%以下,Mn:0.14重量%以下,Al:0.003重量%以下%及びC+Si+Mn+Alの合計含有量が0.030〜0.140重量%に規制されており、30〜100℃の熱膨張係数が1.0×10-6/℃以下であることを特徴とする。
【0005】
特許文献2は、高強度で、かつ優れた熱間加工性を有していて製造コストが安価な、室温以下での熱膨張係数の低いインバー合金を開示している。特許文献2のインバー合金は、重量割合にてC:0.015〜0.10%,Si:0.35%以下,Mn:1.0%以下,P:0.015%以下,S:0.0010%以下,Cr:0.3%以下,Ni:35〜37%,Mo:0〜0.5%,V:0〜0.05%,Al:0.01%以下,Nb:0.15%以上1.0%未満,Ti:0.003%以下,N:0.005%以下、B:0.0005〜0.005%を含有すると共に残部がFe及び不可避的不純物より成ることを特徴とする。
【0006】
特許文献3は、熱間加工性のすぐれたFe−Ni合金を開示している。特許文献3のFe−Ni合金は、重量でNi:30〜80%、C:0.03%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:7.0%以下、Al:0.10%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなる合金であって、B:0.001〜0.03%を含有することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−129399号公報
【特許文献2】特開平10−17997号公報
【特許文献3】特開昭60−159157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献に開示されているインバー合金の熱膨張係数、熱間加工性は、近年の要求に対しては、まだ十分とはいえない。また、前述のとおり、インバー合金には、鋳鋼品の割れ、インゴットの鋳造割れ、鍛鋼品インゴットの熱間鍛造割れが発生しやすいという問題がある。
【0009】
本発明は、室温における熱膨張係数がさらに低く、さらに熱間加工性に優れ、鋳造割れ対策を施し、さらに被削性に優れた低熱膨張合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、低い熱膨張係数を有し、さらに熱間加工性に優れ、鋳造割れ対策を施し、被削性に優れた低熱膨張合金を得る方法を鋭意検討した。その結果、Bを添加した成分組成を適切な範囲に設定し、溶体化処理を施すことにより、低い熱膨張係数を有し、さらに熱間加工性に優れ、鋳造割れ対策を施し、被削性に優れた低熱膨張合金が得られることを知見した。
【0011】
本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0012】
C:0.04%以下、Si:0.15%超、0.5%以下、Mn:0.5%以下、S:0.050%以下、Ni:31〜36%、Co:2〜6.5%、Al:0.03%超、0.20%以下、Mg:0〜0.05%、Ca:0〜0.02%、Ce:0〜0.05%、La:0〜0.05%、Ti:0〜0.05%、B:0.001〜0.020%、及びN:0.0050%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、25〜100℃の平均熱膨張係数が1.0×10-6/℃以下であり、900℃における引張試験で測定した絞りが50%以上であることを特徴とする低熱膨張合金。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低い熱膨張係数を有し、熱間加工性に優れ、鋳造割れ対策を施し、さらに被削性に優れた低熱膨張合金を得られるので、熱的に安定でありかつ高強度が望まれ、切削加工が必要となる部品の素材等に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。以下、成分組成に関する「%」は特に断りのない限り「質量%」を表すものとする。はじめに、本発明の鋳物の成分組成について説明する。
【0015】
Cは、オーステナイトに固溶し強度の上昇に寄与する。Cの含有量が多くなると、熱膨張係数が大きくなる。さらに、延性が低下して、鋳造割れが生じやすくなり、被削性も低下するので、含有量は0.04%以下、好ましくは0.02%以下とする。本発明の低熱膨張合金においては、Cは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0016】
Siは、脱酸材として添加される。さらに、切削時に工具表面に付着して酸化皮膜を形成し、工具の焼付きを抑制する。このため、Si量は0.15%超とする。Si量が0.5%を超えると熱膨張係数が増加し、被削性も低下するので、Si量は0.5%以下、好ましくは0.4%以下とする。
【0017】
Mnは、脱酸材として添加される。また、固溶強化による強度向上にも寄与する。さらに、Sと結合しMnSを生成し、被削性を向上させる元素でもある。この効果を得るためには、Mn量を0.1%以上が好ましい。Mnの含有量が0.5%を超えても効果が飽和し、コスト高となるので、Mn量は0.5%以下、好ましくは0.3%以下とする。Mnは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0018】
SはMnと結合しMnSを生成し被削性を向上させる元素であり、0.010%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Sが多量に含有されると、熱間加工性が劣化し、さらに鋳造割れが生じやすくなるので、Sの含有量は0.050%以下とする。Sは不純物としても含有され、意図的に含有させない場合であってもある程度の量は含有されるので、通常、含有量は0超となる。
【0019】
Niは、熱膨張係数を低下させる、必須の元素である。Ni量は多すぎても少なすぎても熱膨張係数が十分に小さくならない。熱膨張係数を十分に小さくするために、Ni量は31〜36%、好ましくは32〜34%の範囲とする。
【0020】
Coは、Niとの組み合わせにより熱膨張係数の低下に寄与する。所望の熱膨張係数を得るため、Coの範囲は2〜6.5%、好ましくは3.0〜6.0%とする。
【0021】
Alは、脱酸の目的で添加される。さらに、AlNを形成することにより、BがBNとなるのを抑え、Bを固溶Bとして粒界に偏析させるために必要な元素である。この効果を得るためにAlの含有量を0.03%超とする。また、介在物の形成を抑え、鋳造欠陥を少なくし、さらに低い熱膨張係数を得るために、含有量は0.20%以下、好ましくは0.10%以下とする。
【0022】
Mgは、不純物として含有されるSと結合することでSの粒界偏析を抑え、熱間延性を向上させる機能を有する。さらに、Mg酸化物あるいはMg蒸気が接種材としての効果も有する。Mgの含有量が0.05%を超えると、溶湯の粘性が高められ、また、鋳造欠陥を生じるおそれがあるので、Mgの含有量は0〜0.05%以下とする。Mgは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0023】
Caは、Sと結びついて硫化物をつくり、熱間加工性の改善や常温の延性改善に役立つ。Caの含有量が0.02%を超えると、合金の融点を下げて、逆に熱間加工性を低下させるので、Caの含有量は0〜0.02%以下とする。Caは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0024】
Ce、Laは、硫化物による靭性の低下を抑制する元素である。Ce、Laの含有量が0.05%を超えると効果が飽和するので、Ce、Laの含有量は、それぞれ0〜0.05%以下とする。Ce、Laは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0025】
Tiは凝固核を生成させる接種材として添加される。さらに、TiNを形成することにより、BがBNとなるのを抑え、Bを固溶Bとして粒界に偏析させる働きがあるためにこの炭化物、窒化物を凝固核として微細な等軸晶が形成されやすくなる。また、これらの元素は硬さ、引張強さを向上させる元素でもある。Tiの含有量が多くなると靭性が著しく劣化するので、含有量はそれぞれ0〜0.05%以下とする。Tiは必須の元素ではなく、含有量は0でもよい。
【0026】
Bは、固溶Bとして粒界に偏析させることにより、熱間加工性を向上させ、さらに鋳造割れを防ぐ効果がある重要な元素である。この効果を得、さらに良好な靭性を得るために、Bの含有量は0.001〜0.020%、好ましくは0.002〜0.010%とする。さらに、含有されるBのうち、50%以上が固溶Bであることが好ましい。
【0027】
Nは不純物として含有される。Nが多量に含有されると、BがBNを形成し固溶Bの量が減少するので、Nの含有量は0.0050%以下に制限する必要がある。
【0028】
成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物とは、本発明で規定する成分組成を有する鋼を工業的に製造する際に、原料や製造環境等から不可避的に混入するものをいう。具体的には、0.02%以下のP、Oなどが挙げられる。
【0029】
以上の化学成分を有する合金を、鋳造により製造することにより、熱間加工性に優れ、さらに鋳造割れ対策を施した低熱膨張合金を得ることができる。本発明の低熱膨張合金の製造に用いる鋳型や、鋳型への溶鋼の注入装置、注入方法は特に限定されるものではなく、公知の装置、方法を用いればよい。製造された鋳造合金を直接切削加工等で加工し、あるいは鍛造後加工し、鋼部品を得ることができる。
【0030】
本発明の低熱膨張合金の優れた熱間加工性は、900℃における引張試験(グリーブル試験)の結果により評価できる。具体的には、本発明の低熱膨張合金は、900℃における引張試験で測定された絞りが50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上の特性を有する。
【0031】
また、本発明の低熱膨張合金は、優れた被削性を有する。この効果は旋削試験により確認することができる。
【0032】
さらに、熱膨張係数をより低くするために、溶体化処理を施してもよい。溶体化処理は加工前、あるいは、鋳造、鍛造後に施す。溶体化処理は、合金を好ましくは600〜1000℃より好ましくは650〜850℃に加熱して0.5〜5hr保持した後急冷する。冷却速度は10℃/min以上が好ましく、100℃/min以上がより好ましい。溶体化により、鋳造時に析出した析出物が固溶して、延性、靭性が向上する。
【0033】
本発明の成分組成を有する低熱膨張合金は、25〜100℃における平均熱膨張係数が1.0×10-6/℃以下となる低い熱膨張係数を得ることができる。
【0034】
溶体化処理の後に、必要に応じて、300〜350℃で1〜5hr保持し、その後空冷する応力除去焼きなまし等の公知の熱処理を施してもよい。
【実施例】
【0035】
表1〜2に示す成分組成となるように調整した溶湯を鋳型に注湯し鋳鋼品(Yブロックとインゴット)を複数製造した。
【0036】
Yブロックから、2つのサンプルを採取して900℃で歪速度0.07〜0.08s−1の引張試験を行い、平均値を引張強さ、絞りの測定値とした。同様に、熱膨張係数測定用の試験片を採取し、750℃で2hr保持し、平均冷却速度200℃/minの溶体化処理、さらに350℃で5hr保持後空冷の応力除去焼きなましを施し、25〜100℃の平均熱膨張係数を測定した。
【0037】
さらに、Yブロックから上記熱処理を施したΦ25の丸棒を作製し、旋盤による旋削試験により被削性を評価した。試験には超硬工具(P20)を用い、旋削条件は、切削速度200m/min、切削送り0.1mm/rev、切込み深さ0.3mm、潤滑なしとした。旋削開始から2000秒経過までの間の、工具の横逃げ面摩耗幅を測定し、摩耗幅が0.12mm以下の場合を合格(○)、そうでない場合を不合格(×)とした。
【0038】
また、インゴットを鋳造した後、鍛練成形比を15として熱間鍛造を行い、割れの有無で鍛造性を評価し、割れがなかったものを「○」、割れが生じたものを「×」とした。鍛造によって得られた鍛鋼品から、熱膨張係数測定用の試験片を採取し、750℃で2hr保持し、平均冷却速度200℃/minの溶体化処理、さらに350℃で5hr保持後空冷の応力除去焼きなましを施し、25〜100℃の平均熱膨張係数を測定し、さらに、前述の被削性試験を行った。結果を表1〜2に示す。
【0039】
本発明の低熱膨張合金は、熱膨張係数が低く、さらに900℃で引張試験において、高い絞りを示した。また、良好な被削性を示した。
【0040】
これに対して比較例では、鍛造性、被削性、熱膨張係数の少なくとも1つで目標の特性が得られなかった。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】