(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る不織布の好ましい一実施形態(第1実施形態)について、
図1〜4を参照しながら、以下に説明する。
【0010】
不織布10は、通常のシート状の不織布である。
図1に示すように、不織布10の構成繊維31は、構成繊維31同士の交点が熱融着された複数の融着部35を有する。しかも、
図2に示すように、構成繊維31は、繊維径が異なる部位を有する。構成繊維群の中の1本の構成繊維31に着目すると、該構成繊維31は、小径部32と該小径部32よりも繊維径の大きい大径部33を有している。小径部32と大径部33の境目である該繊維径の変化部34で、繊維径が繊維の長さ方向になだらかに変化している。なだらかに変化とは、太さが急激に変化する部分がなく、また、段階的に変化しているのではなく、繊維の太さが変化する部分では繊維表面の変化が連続した曲面になった状態を維持して、徐々に繊維径が変化していることを意味する。すなわち、変化部34の繊維表面に屈曲した部分は含まない。また、前記1本の構成繊維31が芯鞘型複合繊維の場合には、本発明の不織布の変化部34とは、芯部を構成する第1樹脂成分と、鞘部を構成する第2樹脂成分との間で剥離することによって繊維径が変化する状態を含まず、あくまで、延伸により繊維径が変化している部位を意味する。
【0011】
上記変化部34がなだらかに変化していることは、電子顕微鏡観察によってわかる。具体的には、走査電子顕微鏡としては、例えば日本電子株式会社製のJCM−5100(商品名)を用いる。不織布10の構成繊維31をランダムに抽出し、該構成繊維31を、例えば100倍〜300倍に拡大して、小径部32から大径部33にかけての繊維表面を観察することでわかる。
図3に示すように、小径部32と大径部33との間が変化部34であり、小径部32から大径部33にかけて繊維表面がなだらかに変化していることがわかる。すなわち、小径部32から大径部33にかけて繊維表面に段差が生じていない。
【0012】
上記変化部34は以下のように定義する。
図4に示すように、構成繊維31の繊維径Cの変化が開始した点である開始点PA(PA1、PA2)を定める。開始点PA1とPA2は、構成繊維31の径方向において対向する位置にある。構成繊維31を長さ方向に直線的に伸ばした状態にして、構成繊維31の太い部分である大径部33の外周を構成繊維31の長さ方向に延長し、開始点PAから接線LT方向に距離Aだけ離れた点を変化部34の表面に投影した点を測定点MA(MA1、MA2)とする。二つの測定点MA1、MA2を結ぶ直線の距離Bを測定する。
距離Aは下記の(1)式によって規定される。
A=0.1C (1)
Cは構成繊維31の繊維径が減少を始める直前の繊維径である。
繊維径Cに対する距離Bの比率であるB/Cを変化部34の変化率と呼ぶ。上記不織布10は、この変化部34の変化率が50%以上である。ただし、変化部34の変化率が100%の場合は、変化していない状態を示しているため、変化部34の変化率は100%未満である。なお、(1)式のCの係数の0.1は、小径部32から大径部33にかけての繊維表面がなだらかに変化しているという観点から選択した数値である。
上記開始点PAは、大径部33の接線LTから、構成繊維31の外縁部が離れた場所を「開始点」とする。
【0013】
<測定方法>
開始点PA、距離A、距離Bの測定方法を以下に説明する。
まず、電子顕微鏡を用いて、構成繊維31を撮像し、撮像して得た2次元画像上から上記の定義に基づき開始点PAを定める。撮像倍率は、画像上にて大径部33の接線LTから構成繊維31の外縁部が離れたかを目視で判断できる倍率であればよく、大径部33の径Cが、例えば5cm以上になる倍率であれば良い。
次に、上記の定義に基づき、2次元画像から距離A、距離B、大径部33の径Cを測定して求める。上記の測定を任意の5か所の開始点(変化部34)に対して行い、変化の大きい2つの測定値を除いた残りの3つの測定値の平均値を用いて、上記の変化部34の変化率を計算する。
【0014】
例えば、前記
図1に示したように、本来の繊維径より細く延伸された2個の小径部32、32を有している。さらに小径部32、32間に大径部33を有している。また、構成繊維同士が融着されている融着部35は、小径部32、32同士の融着部35Aであったり、小径部32と大径部33との融着部35Bであったり、大径部33、33同士の融着部35Cである。小径部32は延伸加工により引き伸ばされて細くなっているため、太さが均一ではないが、大径部33は略均一な太さで配されている。この大径部33は、延伸により繊維径が細くされた小径部32よりも相対的に繊維径が太い部分であり、繊維本来の繊維径を有する部分である。それは大径部33が延伸加工によって引き伸ばされていない、もしくはあまり引き伸ばされていないためである。1本の繊維において、大径部33の数は限定されず、複数の大径部33を有する形態であってもよい。この場合、各大径部33の両脇に小径部32が配されるため、大径部33の数に合わせて小径部32の数が決まる。
【0015】
上述したように不織布10の構成繊維31に低剛性の小径部32が存在することにより、不織布10の柔軟性が向上し、肌触りが良好なる。また、大径部33を複数備える、言い換えると構成繊維11に低剛性の小径部32が多く存在するほど、不織布10の柔軟性がさらに向上し、肌触りがさらに良好になる。
【0016】
一方、大径部33は、不織布強度の低下防止の観点から、1本の構成繊維31において1個以上有することが好ましい。また大径部33は、5個以下であることが好ましく、3個以下であることがより好ましい。ここでいう強度とは不織布10の引張強度のことである。
【0017】
不織布10の構成繊維31は、前述した小径部32および大径部33の構造を同一繊維内に有するものとするため、高伸度繊維を含むことが好ましい。小径部32及び大径部33を一つの構成繊維31に形成する方法として、構成繊維31を伸長させることが適当である。一般に、高分子の繊維やフィルムを伸長する時、全体が均一に伸び全体が均等に細くなるのではなく、一部が伸びその一部分の太さが細くなるネッキング現象が起きる。構成繊維31を伸長させることでネッキング現象が起こると、前述の様に一つの構成繊維31の中に伸長していない太い部分と伸長した細い部分が形成される。このネッキング現象を起こすためには、構成繊維31をより大きく伸長させることが必要であり、その観点から大きな伸長を与えても繊維が破断し(切れ)ない高伸度繊維を含むことが望ましい。この「高伸度繊維」とは、特定の伸度の性能を有する繊維であり、具体的には繊維の破断伸度が100%以上の性能を有する繊維を意味する。構成繊維31が含む高伸度繊維とは、原料の繊維の段階で高伸度である繊維のみならず、製造された不織布10の段階でも高伸度である繊維を意味する。
【0018】
「高伸度繊維」としては、弾性(エラストマー)を有して伸縮する伸縮性繊維を除き、例えば特開2010−168715号公報の段落[0033]に記載のものが挙げられる。具体的には、低速で溶融紡糸して複合繊維を得た後に、延伸処理を行わずに加熱処理および捲縮処理のいずれか一方または両方を行ことによって得られる熱伸長性繊維が挙げられる。この熱伸長性繊維は、加熱により樹脂の結晶状態が変化して長さの延びる繊維である。また、ポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂を用いて比較的紡糸速度を低い条件にして製造した繊維が挙げられる。また、結晶化度の低い、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体、もしくはポリプロピレンに、ポリエチレンをドライブレンドし紡糸して製造した繊維等が挙げられる。それらの繊維の内でも高伸度繊維の形態は、熱融着性のある芯鞘型複合繊維であることが好ましい。芯鞘型複合繊維は、同心の芯鞘型、偏心の芯鞘型、サイド・バイ・サイド型、または異形型であってもよく、特に同心の芯鞘型が好ましい。
高伸度繊維の繊度は、柔軟で肌触りのよい不織布とする観点から、上記いずれの繊維形態であっても原料段階で、1dtex以上が好ましく、2dtex以上がより好ましい。そして高伸度繊維の繊度は原料段階で、10dtex以下が好ましく、8dtex以下がより好ましい。
【0019】
不織布10の構成繊維31は、高伸度繊維に加えて、他の繊維を含んで構成されていてもよいが、非弾性繊維のみから構成されていることが好ましく、高伸度繊維のみから構成されていることがさらに好ましい。なお、高伸度繊維に加えて、他の繊維を含んで構成されていてもよい。他の繊維としては、例えば融点の異なる2成分を含み且つ延伸処理されてなる非熱伸長性の芯鞘型熱融着性複合繊維、または、本来的に熱融着性を有さない繊維等が挙げられる。熱融着性を有さない繊維は、例えばコットンやパルプ等の天然繊維、レーヨンやアセテート繊維などが挙げられる。不織布10が高伸度繊維に加えて他の繊維も含んだ構成の場合、不織布10における高伸度繊維の割合は、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。そして、好ましくは100質量%以下である。
【0020】
高伸度繊維の一例である熱伸長性繊維は、原料の段階で、未延伸処理または弱延伸処理の施された複合繊維である。例えば、芯部を構成する第1樹脂成分と、鞘部を構成する、ポリエチレン樹脂を含む第2樹脂成分とを有している。第1樹脂成分は、第2樹脂成分より高い融点を有している。第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。第1樹脂成分および第2樹脂成分の融点は、融解ピーク温度で定義される。各樹脂の融解ピーク温度は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて測定される。具体的には、細かく裁断した繊維試料(サンプル質量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定して求める。第2樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合、その樹脂を「融点を持たない樹脂」と定義する。この場合、第2樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に第2樹脂成分が融着する温度を軟化点とし、これを融点の代わりに用いる。
【0021】
鞘部を構成する第2樹脂成分としては、上述の通りポリエチレン樹脂を含んでいる。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられる。特に、密度が0.935g/cm
3以上0.965g/cm
3以下である高密度ポリエチレンであることが好ましい。鞘部を構成する第2樹脂成分は、ポリエチレン樹脂単独であることが好ましく、他の樹脂をブレンドすることもできる。ブレンドする他の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が挙げられる。ただし、鞘部を構成する第2樹脂成分は、鞘部の樹脂成分中の50質量%以上が、特に70質量%以上100質量%以下が、ポリエチレン樹脂であることが好ましい。また、ポリエチレン樹脂の結晶子サイズは、10nm以上が好ましく、11.5nm以上がより好ましい。
【0022】
芯部を構成する第1樹脂成分としては、鞘部の構成樹脂であるポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分を特に制限なく用いることができる。芯部を構成する樹脂成分としては、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂を除く)、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。ポリエステル系樹脂には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられる。さらに、ポリアミド系重合体や樹脂成分が2種以上の共重合体等も使用することができる。複数種類の樹脂をブレンドして使用することもできる。その場合、芯部の融点は、融点が最も高い樹脂の融点とする。不織布の製造が容易となることから、芯部を構成する第1樹脂成分の融点と、鞘部を構成する第2樹脂成分の融点との差(前者−後者)が、20℃以上であることが好ましく、また150℃以下であることが好ましい。
【0023】
また、高伸度繊維の伸度は、原料の段階で、好ましくは100%以上であり、より好ましくは200%以上であり、さらに好ましくは250%以上である。そして、好ましくは800%以下であり、より好ましくは500%以下であり、さらに好ましくは400%以下である。この範囲の伸度を有する高伸度繊維を用いることで、繊維が延伸装置内で首尾よく引き伸ばされて、前述の小径部32から大径部33への変化部34が融着部35に隣接されることによって、肌触りが良好となる。
【0024】
高伸度繊維の伸度はJIS L−1015に準拠する。測定環境温湿度20±2℃、65±2%RH、引張試験機のつかみ間隔20mm、引張速度20mm/minの条件での測定を基準とする。なお、つかみ間隔を20mmにできない場合には、つかみ間隔を10mmまたは5mmに設定して測定する。つかみ間隔を短くして測定するのは、既に製造された不織布から繊維を採取して伸度を測定する場合、測定する繊維の長さが20mmに満たない場合等があるからである。
【0025】
高伸度繊維における第1樹脂成分と第2樹脂成分との比率(質量比、前者:後者)は、原料の段階において、10:90〜90:10が好ましい。さらに上記比率は、20:80〜80:20がより好ましく、50:50〜70:30がさらに好ましい。高伸度繊維の繊維長は、不織布の製造方法に応じて適切な長さのものが用いられる。不織布を例えばカード法によって製造する場合には、繊維長を30mmから70mm程度とすることが好ましい。
【0026】
高伸度繊維の繊維径は、原料の段階において、不織布の具体的な用途に応じ適切に選択される。不織布を吸収性物品の表面シート等の吸収性物品の構成部材として用いる場合には、以下のようになる。
小径部32の繊維径は、肌触り向上と不織布強度の低下を抑える観点から、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは6.5μm以上、特に好ましくは7.5μm以上である。そして、好ましくは28μm以下、さらに好ましくは20μm以下、特に好ましくは16μm以下である。
大径部33の繊維径は、肌触り向上の観点から、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは13μm以上、特に好ましくは15μm以上である。そして、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは25μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
前記の繊維径は、次に説明する測定方法によって測定される。
【0027】
〔繊維の繊維径の測定〕
繊維径は、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JCM−5100)を用いて、繊維の断面を200倍〜800倍に拡大して、繊維の直径(μm)を測定する。繊維の断面は、フェザー剃刀(品番FAS‐10、フェザー安全剃刀株式会社製)を用い、繊維を切断して得る。抽出した繊維1本について断面を円形に近似したときの繊維径を5箇所測定し、それぞれ測定した値5点の平均値を繊維の直径とする。
【0028】
また、上記大径部33の繊維径(直径L33)に対する小径部32の繊維径(直径L32)の比率(L32/L33)は、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.55以上である。そして、好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.7以下である。
【0029】
また、上記不織布10は、小径部32がつながる融着部35に破壊跡が無い。このため、構成繊維31同士の融着がしっかりとなされ、融着部35における強度の低下を防ぐことができる。破壊痕とは、
図5(A)に示す芯鞘構造の繊維の鞘部分の剥離や、
図5(B)に示す芯鞘構造の繊維の鞘部分の剥がれなどを意味する。
【0030】
上記説明したように、不織布10を構成する一つの構成繊維31に、径の太い大径部33と径の細い小径部32とが含まれており、小径部32において柔軟に曲がる(動く)ため、不織布10の風合いが柔らかく良好になる。また大径部33と小径部32との間の変化部34の繊維径が、段階的に変化しているのではなく、また急に変化しているのではなく、なだらかに変化しているため、変化部34に応力集中が起こり難くなっている。これによって、不織布10に外力が加わった場合、変化部34に集中していた応力が分散するため、不織布10の引張強度が向上する。
【0031】
本発明では、構成繊維31に延伸加工を施した後、その構成繊維31を用いて不織布10を製造するものである。このため不織布製造時のエアースルー熱処理によって、変化部34の構成繊維31の樹脂が溶けて、本明細書の段落[0006]、[0010]等に記載されているように変化部34がなだらかな形状となる。また、小径部32を形成した後に構成繊維31同士を融着させるため、構成繊維31に小径部32を形成する時に融着点の破壊は起こり得ず、不織布10の強度低下が起こらない。
【0032】
即ち、上記構成の不織布10は、柔らかく肌触りが優れているとともに強度を有することが両立できる。
【0033】
次に上記不織布10の製造方法について説明する。
この製造方法は、高伸度繊維の原綿に延伸加工を施した後、カード加工を行ってから、エアースルー熱処理を行うことによって製造される。この工程により、不織布10の構成繊維31同士の交点が熱融着される前に、原料である原綿の繊維を延伸することができる。
原綿は、トウを所定長さに切った構成繊維31の集合体であり、繊維同士の絡み合いは生じていない。手を使って繊維集合体を持ち上げてほぐせば、ぱらぱらとほぐれる状態にある。このような繊維集合体に対して凹凸ロールを用いた延伸加工を行う。切った繊維の長さは、用途に応じて決められる。
【0034】
延伸工程では、原綿を一方向に延伸処理する。具体的には、
図6に示すように、原綿40を、一対の凹凸ロール301、302の、凸部303と凸部304とが互い違いに配された噛み合い部分に搬送する。この噛み合い部分を歯溝部分とも呼ぶ。これにより、原綿40に対して凸部303と凸部304とを反対方向に押し込むことによって、原綿40の構成繊維31を延伸する。このとき、原綿40は、凸部303の頂部303Aに接する部分と凸部304の頂部304Aに接する部分の間において、該両接触部分を含めて延伸される。延伸によって、前記
図2に示したように、1本の構成繊維31に、延伸前の繊維径よりも小さい繊維径の小径部32がなされる。それと同時に、小径部32より繊維径の大きい大径部33が成される。具体的には、構成繊維31の周囲より相対的に伸び易い部分において、先ず局部収縮が起こり易い。この局部収縮により、1本の構成繊維34に関して小径部32が成される。この小径部32に隣接した部位が小径部32より径の大きい大径部33となる。このようにして、小径部32と大径部33とが成される。さらに、大径部33が延伸され、大径部33の中に小径部32が成されるものもある。
【0035】
上記の延伸において、大径部33と小径部32との境目である小径部32から大径部33への変化部34では、太さが急激に変化している、又は段階的に変化している。
【0036】
原綿40のような繊維長が50mm程度の短繊維の場合、延伸の方向は、搬送方向(MD)と直交する方向(CD)が好ましい。この場合は、
図7に示す延伸装置300が用いられる。ロール軸方向に延伸するには、繊維はロール軸方向に並んだ状態で延伸ロールに送り込まれる。またロールは軸方向に等間隔に歯溝部分を設けた凹凸ロール301、302を用いる。すなわち、延伸加工は歯溝延伸加工であり、言い換えれば、歯溝部分が機械流れ方向に沿う方向に延びている。凹凸ロール301、302においては、凸部303および凸部304はそれぞれのロール周面上の周方向に沿って配されている。すなわち、凸部303、304は、それぞれロール周方向に凸条部により構成されている。かつ、凸部303および凸部304は、それぞれのロール軸方向に等間隔に離間させて複数配されている。この場合、原綿40の延伸加工は、搬送方向(MD)に直交する方向(CD)に成される。すなわち、CDの方向に、構成繊維31が延伸されて大径部33と小径部32と変化部34とがなされる。MDとは「Machine Direction」の略語である。上記CDとはMDに対して直交する方向であり「Cross Direction」の略語である。
【0037】
なお、原綿ではなくトウを延伸加工する場合には、
図7に示した凹凸ロール301、302に対して凸部303、304が延びる方向を90度転換させた、図示していない一対の凹凸ロールを用いる。すなわち、両凹凸ロールにおいては、それぞれの凹凸ロールに複数の凸条部がロール周面上の軸方向に沿って配されていて、複数の凸条部はそれぞれのロール周方向に等間隔に離間させて配置されている。かつ、それぞれの凹凸ロールの凸条部が互い違いに配された噛み合い部分を有する。この一対の凹凸ロールによるトウの延伸加工は、搬送方向(MD)に成される。すなわち、MDの方向に、延伸されて上記同様の大径部と小径部と変化部が成される。
【0038】
上記の原綿やトウの延伸加工によって、大径部と小径部と変化部とが形成された段階では、構成繊維に生じた変化部において繊維径が急激に変化している。すなわち、大径部と小径部の境目である変化部では、繊維径がなだらかに変化しておらず、段差を有する状態に変化している。
【0039】
上記構成繊維31の繊維長は、フライと呼ばれる不織布製造装置内での繊維の飛散を防ぐ観点から、20mm以上が好ましく、25mm以上がより好ましく、30mm以上がさらに好ましい。またその繊維長は、ネップと呼ばれる繊維の塊の発生を防ぐ観点から、100mm以下が好ましく、80mm以下がより好ましく、60mm以下がさらに好ましい。
【0040】
延伸加工後の構成繊維31は、カード処理を行って、構成繊維同士を絡ませて、構成繊維群を形成する。そして、構成繊維群に対してエアースルー熱処理を行う。エアースルー方式においては、吹き付ける熱風の温度や風速を制御して熱融着処理を施す。例えば、特開2012−136790号公報の段落[0031]に記載の方法を用いることができる。または特開2012−149371号公報の段落[0033]〜[0061]に記載の方法を用いることができる。
【0041】
上記のエアースルー熱処理における構成繊維31の融着では、カード機やエアレイド装置といったウエブ形成装置によって形成された繊維集合体を搬送しながら、エアースルー方式による熱風の吹き付け処理を行う。これにより、繊維集合体の繊維同士が緩く絡合した状態がさらに進む。それとともに、絡合した繊維の交点が熱融着して、シート状の保形性を有する不織布10となる。またこの際に、繊維に形成された大径部33と小径部32との間の変化部34の表面の樹脂が溶け、変化部34がなだらかな形状に変化する。
【0042】
熱風の温度および熱処理時間は、繊維ウエブの構成繊維31が含む高伸度繊維の交点が熱融着するように調整することが好ましい。具体的に、熱風の温度は、繊維ウエブの構成繊維31の内の最も融点が低い樹脂の融点に対して、0℃から30℃高い温度に調整することが好ましい。また、構成繊維同士の更なる交絡を促す観点から、熱風の風速は0.3m/秒から1.5m/秒程度が好ましい。
【0043】
上記不織布10の製造方法によれば、
図2に示した構成繊維31を備える。すなわち、大径部33と小径部32との境目である小径部32から大径部33への変化部34では、繊維径が繊維の長さ方向になだらかに変化されている。このように、一本の繊維の中に径の大小(大径部33と小径部32)が有る構造を持つことから、小径部32と大径部33との間の変化部34において応力集中が起こりにくくなり、強度が高められる。そして、柔らかく、優れた肌触りと強度を両立させた不織布10を製造することができる。
また熱処理を延伸加工後行うことによって、繊維の高強度化が図れる。すなわち、延伸加工による繊維同士の融着部の破壊が起こりえないため、構成繊維の融着部の強度が保たれるからである。
【0044】
本発明の積層不織布10は、その他、各種用途に用いることができる。例えば、おむつや、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、尿取りパッド等の吸収性物品の表面シートとして好適に使用することができる。その他、おしり拭きシート、清掃シート、フィルターとして利用する形態も挙げられる。
【0045】
次に、本発明に係る不織布を表面材(以下、表面シートともいう。)に用いた吸収性物品の好ましい一形態を以下に説明する。具体的には、吸収性物品としてのおむつの本体への上記実施形態で説明した不織布の適用例について説明する。おむつは、例えばテープ型の乳幼児用おむつである。
【0046】
おむつは、液透過性の表面シート、液難透過性の裏面シート、および液保持性の吸収体を備える。表面シートは肌当接面側に配され、裏面シートは非肌当接面側に配され、吸収体は両シートの間に介在配置されている。表面シートには上記実施形態の不織布10が適用される。
おむつにおいては、不織布10を表面シートとして適用したことにより、肌当接面上での肌触りの良さ、強度の向上の両立を図ることができる。
【0047】
以下に、上述の不織布の製造方法により不織布を製造した実施例、および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、特に断らない限り「部」および「%」は質量基準である。
【0048】
(実施例1)
実施例1の不織布として、
図1〜5に示すものを作製した。
まず、不織布10を次の方法により作製した。
構成繊維として、高伸度繊維のみからなり、弾性(エラストマー)を有していない繊維を用いた。具体的には、前記高伸度繊維は、芯部がポリエチレンテレフタレートであり、鞘部がポリエチレンである同心タイプの芯鞘型複合繊維であった。高伸度繊維は、繊度が4.2dtexであり、伸度350%であった。
加工順序は、短繊維を
図7に示した延伸装置300を用いて、上記説明した延伸加工を行った。具体的には、一対の凹凸ロール301、302が備える凸部の間隔(ピッチ)が2.0mmであり、押し込み深さt(
図6参照)が2mmのものを用いた。
その後、カード加工を行った後、エアースルー熱処理を行って、不織布10を得た。
上記エアースルー熱処理は、熱風の温度を136℃、風速を1.0m/s、処理時間を5秒の条件に設定し、熱風を吹き付けて賦形、融着処理を行った。
【0049】
このようにして得た不織布10は、開孔を有さず、目付けが30g/m
2、融着部には破壊痕が無いものとなった。
また、同一繊維内に、小径部32および大径部33が混在し、小径部32から大径部33に至る部分の繊維径が変化する変化部34においては、なだらかに変化していた。これは、前述の走査電子顕微鏡を用いた測定方法により確認した。
【0050】
(実施例2)
実施例2は、エアースルー熱処理の風速を0.5m/sにした以外、実施例1と同様の製造方法により作成した。得られた不織布は、目付けが30g/m
2、融着部には破壊痕が無いものとなった。
(実施例3)
実施例3は、高伸度繊維の繊度を3.3dtexとし、延伸加工における押し込み深さを1.5mmにした以外、実施例1と同様の製造方法により作成した。得られた不織布は、目付けが28g/m
2、融着部には破壊痕が無いものとなった。
【0051】
(比較例1)
比較例1は、加工順序を短繊維のカード加工、エアースルー熱処理、延伸加工の順に行い、押し込み深さを2.5mmにした以外、実施例1と同様に作成した。得られた不織布は目付けが30g/m
2であった。
(比較例2)
比較例2は、加工順序を短繊維のカード加工、エアースルー熱処理、延伸加工の順に行い、押し込み深さを2.5mmにし、風速を1.5m/sにした以外、実施例1と同様に作成した。得られた不織布は目付けが30g/m
2であった。
【0052】
次に、測定方法等について説明する。測定結果は表1に示した通りである。
融着部の破壊痕及び変化部34の変化率については上記した通りである。
【0053】
<引張強度の測定方法および評価基準>
引張強度は、株式会社オリエンテックRTC−1150Aテンシロン万能試験機を用い、300mm/minの引張速度にて、チャック間を150mmに設定して測定した。測定サンプルの幅は50mmとした。対象とする不織布から50mmの幅を持ったサンプルを採取できない幅は、測定可能な幅にサンプルを切り出し、最終的に50mm幅に換算して測定値を求めた。測定時の温度(室温)を25℃±5℃とした。
【0054】
<不織布の肌触りの評価方法および評価基準>
標準サンプルを準備した。前もって、任意に成人女性20人を選び、不織布を見えない状態にして掌によって撫ぜてもらい、感触を総合的に不織布の肌触りとして、以下の5段階の判定基準を用いて評価した。その平均値を、その不織布の風合いとし、風合いの平均値が3.4〜2.5となるものを選び、標準サンプルとした。
風合いの評価は、上述の成人女性20人とは異なる成人女性20人を任意に選びモニターとした。モニターに標準サンプルの不織布を見えない状態にして掌によって撫ぜてもらい、この柔らかさを基準の3とした。さらにモニターに測定対象の不織布を見えない状態にして掌によって撫ぜてもらい、感触を総合的に不織布の肌触りとして、以下の5段階の判定基準によって評価した。結果は、20人の平均値によって示した。
<評価基準>
5:非常に良い 4:良い 3:普通 2:悪い 1:非常に悪い
【0055】
【表1】
表1中の矢印は、左欄の数値と同じであることを表す。
【0056】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜3は、比較例1と風合いは同等以上であり、引張強度が大きい値であった。また、比較例2は引張強度の値は大きいが、比較例2よりも実施例1〜3の方が風合いに優れていた。つまり、実施例1〜3は、優れた風合い、十分な引張強度を同時に得られた。