(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各実施形態の監視装置、監視システム、および異常検知方法について、図面を引用しながら説明する。尚、実施形態での昇降機とは、いわゆるエレベーター、エスカレーター、動く歩道(オートライン)等を指す。
【0012】
(第1実施形態)
図1に、第1実施形態の監視システムの全体構成例を示す。監視システム900は、少なくともセンサ31、昇降機監視制御装置3、遠隔監視制御装置1を含む。遠隔監視制御装置1は、典型的には昇降機の管制センターに設置され、複数の昇降機5を遠隔で監視、制御する監視装置である。遠隔監視制御装置1は、通信ネットワーク2を介し、昇降機5側に設置される複数の昇降機監視制御装置3と接続される。
【0013】
昇降機監視制御装置3は、管理対象である昇降機5の主モータ、ブレーキ、ドア装置といった、昇降機5を構成する昇降機機器4の動作を監視、制御する装置である。昇降機監視制御装置3は、センサ31によって読み取られ、出力された昇降機機器4の計測信号を入力して監視するとともに、この信号に基づいて、昇降機機器4が所与の動作を行うように制御する。昇降機監視制御装置3は、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置などを含んだコンピュータでもよく、機能の一部または全てをASIC(application specific integrated circuit)などの集積回路で実装した機器であってもよい。
【0014】
センサ31は、それぞれが昇降機機器4に対応付けられており、電流値、電力量値、トルク値、回転数、動作回数、動作時間、速度、加速度、温度などの、昇降機機器4の稼働状態を表す値を計測し、昇降機監視制御装置3に出力する。尚、これら各計測値はあくまで一例であり、昇降機機器4の種類に応じて計測値も異なる。
【0015】
通信ネットワーク2は、インターネット、イントラネットなどのIPネットワークのほか、アナログ回線、専用ケーブルでもよい。
【0016】
遠隔監視制御装置1は、通信処理部11、遠隔監視制御処理部12、記憶部13、出力部を含む。
【0017】
通信処理部11は、通信ネットワーク2を介して、複数の昇降機監視制御装置3と接続された通信部であり、センサ31から得られた昇降機機器4の計測データを受信し、遠隔監視制御処理部12に引き渡す。尚、通信処理部11が受信する計測データは、本実施形態では、センサ31が出力した信号を昇降機監視制御装置3がデジタル変換した数値データである。
【0018】
遠隔監視制御処理部12は、通信処理部11が受信した昇降機機器4の計測データ、および、記憶部13に蓄積された昇降機5に関連するデータに基づいて、監視対象の昇降機機器4の異常の有無を定期的または連続的に判定する。出力部14は、遠隔監視制御処理部12によって制御され、昇降機機器4で異常が検知された場合に、音声や画面表示で管理者6に通知し、また通信手段を介してWebベースなどで管理者6に通知する。
【0019】
記憶部13には、RDBMS(Relational Database Management System、以下、単にデータベースと称する)が導入されており、遠隔監視制御処理部12から発行される、各種データを登録、更新、削除するためのクエリを受け付けてこれを実行し、また検索条件に従ってデータを検索する機能を有する。
【0020】
記憶部13には、少なくとも管理対象となる全ての昇降機5の管理データと、通信処理部11を介して得られる、各々の昇降機機器4の計測データが記録される。計測データのデータ構成や、計測データがどのように記憶部13に蓄積され、使用されるかについては、
図3以降の図面を用いて改めて説明する。もう一方の管理データには、少なくとも昇降機5の識別情報(以下、「識別情報」を「ID」と称する)、顧客ID、昇降機5の型式、機器や部品の構成表など、昇降機5を管理するために必要な情報が含まれている。また管理データには、納入先、納入年月日、契約形態、管理者、担当営業所、定格速度、積載量、点検や整備の履歴、故障履歴が含まれていてもよい。尚、管理データは、これらに限定されない。
【0021】
図2は、遠隔監視制御装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。遠隔監視制御装置1は、コントローラ101と、入力デバイス110、出力デバイス111の各周辺機器とを有する。
【0022】
コントローラ101は、遠隔監視制御装置1の内部で動作する各ハードウェアを制御する。コントローラ101は、以下の構成を有する。
【0023】
CPU102(CPU:Central Processing Unit)は、ROM104(ROM:Read only memory)やHDD105(HDD:Hard Disk Drive)に記憶されているプログラムを、RAM103(RAM:Random access memory)に展開し、演算実行する処理装置である。CPU102は、プログラムを演算実行することで、コントローラ101内部の各ハードウェアを統括的に制御する。RAM103は、揮発性メモリであり、CPU102が処理する際のワークメモリである。RAM103は、CPU102がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。
【0024】
ROM104は、不揮発性メモリであり、遠隔監視制御装置1の起動の際にCPU102で実行されるBIOS(Basic Input/Output System)や、ファームウェアを記憶している。HDD105は、データを不揮発的に記憶する補助記憶装置である。HDD105は、CPU102が演算実行するプログラムや、制御データを記憶する。本実施形態では、HDD105にはデータベースが事前に導入されており、各種データを蓄積し、管理する。またHDD105には、管理者6やその他のユーザに情報を提供するため、HTMLなどのマークアップ言語で記述されたデータを、HTTPやHTTPSのプロトコルを介して外部に送信するWEBサーバプログラムが、事前に導入されていてもよい。
【0025】
ネットワークI/F106(I/F:Interface)は、外部機器との間で行われるデータ通信の制御を担うインターフェイスボードである。
【0026】
入力I/F107は、入力デバイス110との間で信号の入出力を制御するインターフェイスである。出力I/F108は、CPU102から指示を受けて、出力デバイス111に画像を描画させる。
【0027】
入力デバイス110は、例えばキーボードやマウスであり、出力デバイス111は、モニターやディスプレイである。尚、入力デバイス110と出力デバイス111とでタッチパネルディスプレイを構成してもよい。また出力デバイス111は、シート上に画像を形成するプリンタと接続した構成であってもよい。この場合、出力デバイス111はプリンタに相当する。
【0028】
図1に示す通信処理部11、遠隔監視制御処理部12、記憶部13、出力部14の各機能ブロックは、コントローラ101内のCPU102が、HDD105内に事前に記憶されるプログラムを演算実行し、各ハードウェアと協働して動作することで、実現される。
【0029】
以降、本実施形態の遠隔監視制御装置1の動作について、さらに具体的に説明する。尚、以降の説明おいては、一例として、昇降機5のドア開閉装置を監視対象の昇降機機器4として説明するが、適用対象はこれに限らない。本実施形態では、昇降機の主モータ、ブレーキ、ガバナ(調速機)、制御装置、荷重検知装置など、昇降機を構成する機器であれば、当該機器を監視対象として異常検知を行うことができる。
【0030】
また以降の説明では、センサ31がドア開閉装置のトルクの値を計測するものとし、時間の経過とともに取得される計測データに対し、平均値を算出するなどして、日単位や月単位などでまとめる態様について説明する。具体的には、ドア開閉装置に付帯したセンサ31で、ドアの開閉動作ごとのドアトルク値を経時的に計測し、昇降機監視制御装置3にて一日分のドアトルク値を累積しておく。昇降機監視制御装置3は、一日の終わりに、この累積値を当日のドア開閉回数で除すことで、当日の平均ドアトルク値を求める。昇降機監視制御装置3は、求めた平均ドアトルク値を、通信ネットワーク2を介して遠隔監視制御装置1の通信処理部11に送信する。通信処理部11は、管理対象の全ての昇降機5からの平均ドアトルク値を受信し、これを遠隔監視制御処理部12に引き渡す。
【0031】
図3は、遠隔監視制御処理部12の動作例を示すフローチャートであり、引き渡された平均ドアトルク値を記憶部13に蓄積し、集計する動作例を示すフローチャートである。尚、
図3の実線矢印は処理の流れを示し、破線矢印はデータの流れを示している。
【0032】
遠隔監視制御処理部12は、通信処理部11から引き渡された、管理対象全ての昇降機の日々の計測データを統合して、記憶部13のデータベースに蓄積する(S001)。
【0033】
図4は、記憶部13に蓄積されるデータのテーブル構成の一例を示す図である。
図4に示すテーブル400において、各行(レコード)は、少なくとも昇降機ID、ドアID、ドアタイプ、データ計測年月日、当日の平均ドアトルク値のカラムを含んでいる。例えば、第1行目(レコード)は、昇降機(ID:A123)のドア(ID:A123ー01)のドアタイプは、CO−800であり、2017年3月31日の平均ドアトルクが102(%)であることを示している。各行(レコード)は、管理対象の昇降機5のドアのひとつひとつに対応する。また
図4に示すように、管理対象の全ての昇降機5のデータがテーブル400の中に統合され、蓄積されている。
【0034】
図3の説明に戻る。遠隔監視制御処理部12は、計測日当日が月末日(月のデータ集計の締め日)であるかどうかを判定する(S002)。本例では、データ計測日は2017年3月31日であり、月末日に該当するため(S002:Yes)、遠隔監視制御処理部12はS003を実行する。尚、月末日に該当しない場合(S002:No)、処理はS001に戻って通信処理部11からのデータを待ち受ける。
【0035】
遠隔監視制御処理部12は、記憶部13に記憶されているテーブル400を参照し、管理対象の全ての昇降機ドアの当月分の計測データを抽出する(S003)。そして遠隔監視制御処理部12は、管理対象全ての昇降機ドアごとに、当月の計測データの平均値と標準偏差を求め、記憶部13に格納する(S004)。
【0036】
図5は、記憶部13に格納される、ステップS004の処理の結果を含めたテーブルの一例である。
図5に示すテーブル500において、各行(レコード)は、少なくとも昇降機ID、ドアID、ドアタイプ、データ集計年月、月平均ドアトルク値、およびドアトルクの標準偏差の各カラムを含む。例えば、第1行(レコード)は、昇降機(ID:A123)のドア(ID:A123−01)のドアタイプはCO−800であり、2017年3月の月平均ドアトルクが106(%)、標準偏差が5.8(%)であることを示している。記憶部13は、月平均ドアトルク値、およびドアトルクの標準偏差を含む各行(レコード)を複数蓄積しており、各行(レコード)は、管理対象の全ての昇降機5のドアのひとつひとつに対応する。
【0037】
遠隔監視制御処理部12は、
図3に示すフローチャートを繰り返し実行することで、全ての昇降機5の計測データを蓄積する。また遠隔監視制御処理部12は、ドアトルク値の当月の平均値や標準偏差を算出し、これらも蓄積しておく。
【0038】
尚、
図3の例では、経時的に取得される計測データを日単位で平均化してまとめ、これを最小単位として月単位で集計しているが、この態様に限定されない。どのような間隔で計測データを収集するかや、どのような期間で集計するかについては、計測可能な周期や期間に応じて、管理者が任意に決定することができる。昇降機機器4の種類よっては、例えば秒単位で計測データを取集して分単位で集計したり、計測データを週単位でまとめて、月単位や年単位で集計するなども可能である。また管理者6などのユーザが任意に指定した周期や期間で、計測データを収集し、集計してもよい。
【0039】
また、
図3に示すフローチャートの処理を、遠隔監視制御装置1とは異なる外部のコンピュータが行ってもよく、収集、集計された各データテーブルも、記憶部13とは異なる外部の記憶部で蓄積、管理されてもよい。この場合、遠隔監視制御処理部12は、必要に応じて外部の記憶部からデータを取得して、以降で説明する各動作を実行する。
【0040】
図6は、遠隔監視制御処理部12で実行される異常検知処理の一例を示すフローチャートである。尚、
図6の処理は、毎日、ひと月に一回などといった定期的に実施しても、記憶部13のデータベースが更新される都度実施してもよいが、以下では説明を簡単にするため、毎月末に一回実施するものとして説明する。
【0041】
遠隔監視制御処理部12は、注視対象ドアのIDを、所定の順序に従って選択する(S101)。尚、管理者6などのユーザが、任意のタイミングでIDを選択してもよい。ここでは、A123−01のIDを付されたドアが、注視対象ドアとして選択されるものとする。
【0042】
遠隔監視制御処理部12は、ステップS102において、注視対象ドアの当日の状態値が、注視対象ドアが属するグループの標準的な状態値から、どの程度逸脱しているかを計算する。
【0043】
状態値とは、センサ31から得られる計測データそのもの、もしくはこの計測データを加工したデータであり、昇降機機器4(ドア開閉装置)の動作や状態、すなわち稼働状態を数値化したものである。本例では、計測データであるドアトルク値から、ドアトルク値の平均値、ドアトルク値の標準偏差を導出し、これらを状態値とする。いずれのデータを状態値とするかは、設計者や開発者、管理者などのユーザが、対象となる昇降機機器4の種類やセンサ31から得られる計測データに応じて、決定する。また、ドアのグループとは、同種のドア集団のことであり、典型的にはドア開閉装置の型式(
図4、
図5に示すドアタイプ)が同じ装置をグループ化したものである。
【0044】
ステップS102の詳細について説明する。遠隔監視制御処理部12は、管理対象ドアのうち、注視対象ドア(A123―01)と同じタイプ(CO−800)のドアの、対象月(2017年3月)のデータを、
図5に示すテーブル500から抽出する。そして遠隔監視制御処理部12は、抽出された複数のレコードを一覧にしてテーブル700を作成する(S102A)。
【0045】
図7は、S102Aで作成されるテーブル700の一例である。テーブル700の各行(レコード)は、少なくとも、昇降機ID、ドアID、ドアタイプ、データ計測年月、月平均ドアトルク値、ドアトルクの標準偏差の各カラムを含んでいる。テーブル700は、ドアタイプ(CO−800)、およびデータ計測年月(2017年3月)が同じとなるレコードを、
図5に示すテーブル500から抽出して一覧化したデータとなっている。また遠隔監視制御処理部12は、ステップS102Aにおいて、月平均ドアトルク値、ドアトルク標準偏差それぞれの平均値や標準偏差も算出する。ステップS102Aにおいて、遠隔監視制御処理部12は、特異な数値を除外して抽出し、平均値や標準偏差を算出する。
【0046】
図6の説明に戻る。遠隔監視制御処理部12は、テーブル700を用いて、注視対象ドア(A123−01)の状態値の、当該ドアが属するCO−800グループの平常状態からの逸脱度D1を求める。逸脱度D1とは、本実施形態では、注視対象機器の稼働状態を示す状態値が、注視対象機器と同種の複数機器それぞれの状態値の分布を表す第1分布領域から、どの程度乖離や逸脱しているかを示した数値データ(第1の値)である。
【0047】
逸脱度D1の計算には、例えばマハラノビス距離といった一般的な統計値を用いればよい。以下では、参考までにマハラノビス距離を用いる場合について説明するが、具体的な計算手法については、これに限定されない。
【0048】
ここでは注視対象ドアの当月の状態値Xを、記憶部13に記録された、当月(2017年3月)のドアトルクの平均値(以下、x1とする)、および当月のドアトルクの標準偏差値(以下、x2とする)の2つの変数ベクトルで表す場合を考える。すなわち、状態値Xは以下の式で表される。
X=(x1,x2)
T (式1)
ベクトルの右肩のTは転置行列をあらわす。
【0049】
さらに注視対象ドアが属するグループのドアの、当月のドアトルク平均値(u1)、標準偏差(u2)の状態値U(=平均値ベクトル)を、
U=(u1,u2)
T (式2)
とする。またXとUの共分散行列(各変数間の共分散を配列した行列)をΣ
Uとすると、注視対象ドアの状態値Xの、注視対象ドアが属するグループのドアの標準的な状態値Uに対するマハラノビス距離(=逸脱度D1)は、次のように定義される。
D1={(X−U)
T・Σ
U−1・(X−U)}
1/2 (式3)
行列右肩の−1は、逆行列をあらわす。ここでマハラノビス距離(D1)は、大きな値になるほど、注視対象ドアの状態値Xが、注視対象ドアが属するグループのドアの標準的な状態値Uから離れていることをあらわす。すなわち、D1は同種のグループの平常状態からの逸脱度をあらわしている。
【0050】
ここでは、
図7のデータから、注視対象ドア(A123−01)の状態値Xは、X=(110, 6.1)
Tとなり、同種ドアの平常状態のマハラノビス距離(D1)を求めた結果、D1=1.7が得られたものとする。
【0051】
図6の説明に戻る。遠隔監視制御処理部12は、
図6のステップS103において、注視対象ドア(A123−01)の状態値が、当該ドアの過去の状態値からどの程度乖離し、逸脱しているかを計算する。
【0052】
ステップS103の詳細について説明する。遠隔監視制御処理部12は、注視対象ドア(A123−01)の過去1年間(2016年2月〜2017年3月)の状態値を、
図5に示すテーブル500から抽出し、該当レコードを複数取得して一覧表化することで、テーブル800を作成する(S103A)。
【0053】
図8は、ステップS103Aで作成されたテーブル800の一例を示す図である。テーブル800の各行(レコード)は、上記のテーブル700と同様に、少なくとも、昇降機ID、ドアID、ドアタイプ、データ計測年月、月平均ドアトルク値、ドアトルク標準偏差の各カラムを含んでいる。テーブル800は、2016年2月〜2017年3月の期間のうち、ドアIDが同じA123−01となっているレコードを、
図5に示すテーブル500から抽出し、一覧化したデータとなっている。また遠隔監視制御処理部12は、ステップS103Aにおいて、月平均ドアトルク値、ドアトルク標準偏差それぞれの平均値や標準偏差も算出する。ステップS103Aにおいて、遠隔監視制御処理部12は、特異な数値を除外して抽出し、平均値や標準偏差を算出する。
【0054】
遠隔監視制御処理部12は、テーブル800を用いて、注視対象ドア(A123−01)の状態値の、当該ドアの過去1年間の状態値からの逸脱度D2を求める。逸脱度D2とは、本実施形態では、注視対象機器の状態値が、当該注視対象機器の過去の各状態値の分布を表す第2分布領域から、どの程度乖離や逸脱しているかを示す数値データ(第2の値)である。
【0055】
逸脱度D2の計算にも、例えばマハラノビス距離といった一般的な統計値を用いればよい。以下では、参考までにマハラノビス距離を用いる場合について説明するが、計算手法については、限定されない。
【0056】
注視対象ドアの当月の状態値XをステップS102Aと同様に、
X=(x1,x2)
T (式4)
とし、また当該ドアの過去1年間のトルク平均値(v1)、標準偏差(v2)の状態値V(=平均値ベクトル)を、
V=(v1,v2)
T (式5)
とし、XとVの共分散行列(各変数間の共分散を配列した行列)をΣ
Vとすると、注視対象ドアの状態値Xの、注視対象ドアの過去1年間の標準的な状態値Vに対するマハラノビス距離(=逸脱度D2)は、次のように定義される。
D2={(X−V)
T・Σ
V−1・(X−V)}
1/2 (式6)
行列の右肩の−1は逆行列をあらわす。ここでマハラノビス距離(D2)は、大きな値になるほど、注視対象ドアの当月の状態値Xが、当該ドアの過去1年間の状態値Vから離れていることをあらわす。すなわち、D2は当該ドア自身の過去の状態値からの逸脱度をあらわしている。
【0057】
ここでは
図7のデータから、注視対象ドア(A123−01)の状態値X=(110, 6.1)
Tの、過去1年間の平常状態からのマハラノビス距離(D2)を求めた結果、D2=1.5が得られたものとする。
【0058】
尚、ここでは説明のため「過去1年間」のデータを用いたが、検知すべき故障の特徴に応じて、適切な期間を設定すればよい。
【0059】
図6の説明に戻る。遠隔監視制御処理部12は、ステップS102で求めた逸脱度D1とステップS103で求めた逸脱度D2とを用いて、総合的な逸脱度D3を算出する(S104)。
【0060】
図9は、本実施形態での異常検知方式の概念図を示す図である。ここで現在の注視対象ドアの位置(状態値)をA、注視対象ドアと同種ドア集団の平常領域をR1(第1分布領域)、注視対象ドアの過去の平常領域をR2(第2分布領域)とする。また点O、点Pは、それぞれR1、R2の中心点である。本実施形態では、の各領域に含まれる状態値(平均値、標準偏差)の平均値を中心点としている。
【0061】
図9は、注視対象ドアの位置Aが、R1、R2の各領域の外にあり、逸脱している例をあらわしている。ここで、注視対象ドアAの逸脱度は、R1からの逸脱度D1、およびR2からの逸脱度D2に基づいて定めるのが好適である。D1が大きいということは、例えば注視対象ドアAの設置環境や使用条件が他の同種ドアと異なることを意味しており、監視する上で要注意ということになる。しかしながら、たとえD1が大きくてもD2が小さいのであれば、注視対象ドアAの状態は安定しており、一概に異常とは言い切れない。また逆に、D1が小さくてもD2が大きい場合、注視対象ドアAの挙動が注視対象ドアAの本来の動作と異なっていることを意味しているため、状態の精査が必要になる。このように、注視対象ドアAの逸脱度を、D1とD2の両方の値に基づいて定めることで、高精度な異常検知が可能になる。
【0062】
本実施形態では、注視対象ドアAの総合的な逸脱度D3を、D1、D2を引数とする任意の関数Fを用いて、以下の様に計算する。
D3=F(D1,D2) (式7)
ここでFは、D1、D2を用いて総合的な逸脱度を求める関数であり、対象機器の故障の特徴を踏まえて設定されるべきものである。例えばD1とD2の線形和を求める関数のほか、多次元関数、三角関数、あるいはニューラルネットワークなどの学習型の計算モデルを用いてもよい。本実施形態においては、D3の計算にD1とD2の各々の二乗の和の平方根を用いるが、D3の算出手法については特に限定しない。
【0063】
D3の計算にD1とD2の各々の二乗の和の平方根を用いると、以下の計算式となる。
D3=(D1
2+D2
2)
1/2 (式8)
本例では、D1=1.7、D2=1.5であるので、D3≒2.3となる。
【0064】
図6の説明に戻る。遠隔監視制御処理部12は、ステップS104で求めた総合的な逸脱度D3が、あらかじめ与えられた閾値Tを超えたかどうかを判定する(S105)。ここでは、D3が2.0を超えた場合に異常値とするものとする。本例ではD3が2.3であることから、D3が閾値Tを超えている(S105:Yes)。よって遠隔監視制御処理部12は、データの異常が認められたことを記憶部13に記録するとともに、出力部14を制御して、管理者6に通知する異常処理を行う(S107)。また一方で、D3が閾値を超えない場合(S105:No)、遠隔監視制御処理部12は、データが正常値にあることを記憶部13に記録する平常処理を行う(S106)。
【0065】
ステップS106またはステップS107の後、処理はS101に戻り、例えば他のドアを注視対象ドアとして、上記で説明したステップS101〜S107の処理を繰り返す。これにより、管理対象の全てのドアの状態を定期的にチェックすることができる。
【0066】
尚、ステップS105の判定において、総合的な逸脱度D3のみならず、逸脱度D1、D2についてもそれぞれ閾値T1、T2を設け、閾値T1と逸脱度D1との比較結果、および閾値T2と逸脱度D2との比較結果もあわせて考慮してもよい。例えば、ステップS105において、D3>閾値Tが成立する場合、
図6の例では異常処理となる。しかしながら、注視対象ドア(A123−01)自体の過去1年間の平常状態からの逸脱度D2が小さい場合、上記にも記したように、一概に異常とは言い切れないため、異常状態とせずに平常状態として扱った方がよい場合もある。よって、D3>閾値Tが成立しても、D2<閾値T2が成立する場合は平常状態とみなす、としてもよい。これに加え、たとえ逸脱度D2が小さい場合においても、逸脱度D1が極端に大きい場合(D1>閾値T1)については、平常状態とはせずに異常状態とする、などとしてもよい。また、ステップS105において、総合的な逸脱度D3については判定せず、閾値T1と逸脱度D1との比較結果、および閾値T2と逸脱度D2との比較結果のみで判定してもよい。この場合は、総合的な逸脱度D3を算出するステップS104の処理も不要となる。また、閾値T1と逸脱度D1との比較のみで判定する実装や、閾値T2と逸脱度D2との比較のみで判定する実装でも構わない。
【0067】
図6に示すフローチャートは、上記のように毎月末に一回実施するものとして説明したが、態様はこれに限定されない。センサ31の出力信号を昇降機監視制御装置3が入力するごとに、リアルタイムに
図6に示すフローチャートが実施されてもよい。この場合、センサ31の出力信号に変化があった場合や、秒単位、分単位、時単位などの規定周期で、昇降機監視制御装置3が、ドアIDなどの必要な情報とともに計測データを通信処理部11に送信する。計測データを受信した遠隔監視制御装置1の遠隔監視制御処理部12は、
図6のフローチャートを実施する。この場合、ステップS101は、今現在受信したドアIDのものが注視対象ドアとして選択される。遠隔監視制御処理部12は、規定時間前から今現在に至るまでに得られた計測データを用いて、平均値や標準偏差を求め、この状態値に対する逸脱度D1、D2、D3を算出し、ステップS105にて異常判定を行う。また、
図6の処理を高速にするため、事前にテーブル700やテーブル800、R1、R2の各領域、もしくは各領域の中心点や状態値U、Vなどを求めておき、定義しておいてもよい。この場合、ステップS102〜S103は、これらの定義済みのデータを用いて逸脱度D1、D2を求める動作のみとなる。
【0068】
以上説明した監視装置、監視システム、異常検知方法により、管理対象の全ての昇降機機器4の状態値を継続的に収集、蓄積し、随時あるいは定期的に昇降機機器4の状態値の総合的な逸脱度を求めて検査することで、高精度な異常検知が可能になる。
【0069】
引き続き、本実施形態の逸脱原因(異常の原因)の推定について説明する。昇降機機器4から収集する計測値が平常領域から逸脱した場合、どの程度逸脱したかの度合いである逸脱の大きさに基づき、異常判定を行った。上記で算出した逸脱度からは、逸脱の大きさのみならず、R1やR2の各領域と逸脱したデータとの位置関係や、逸脱の方向の情報も得ることができる。この位置関係や逸脱方向の情報を用いることで、逸脱原因を推定することも可能である。
【0070】
図10は、逸脱原因を推定する方式の概念図である。
図10に示すグラフでは、状態値の一つである平均ドアトルク値をx1軸(横軸)とし、他方の状態値であるドアトルクの標準偏差をx2軸(縦軸)とした分布図を示している。また注視対象ドアの状態値がx1軸方向に逸脱した場合を逸脱ケースC1とし、x2軸方向に逸脱した場合を逸脱ケースC2としている。ここでは、総合的な逸脱度D3をD1とD2とのベクトル和としている。
【0071】
ドア開閉装置の場合、x1が通常より増加すること(
図10の逸脱ケースC1)は、ドアの動作が重くなったことを意味する。逸脱ケースC1の場合、例えば、昇降機ドアのシル溝に砂やプラスティック片などの異物があることが推定される。またx2が通常より増加すること(
図10の逸脱ケースC2)は、ドアの動作の重さが変化したことを意味する。逸脱ケースC2の場合、例えば、挟まっていた異物が後に取れた、あるいは天候の変化などによりドラフト現象(ドアに風圧が強くかかってドアの動作が妨げられること)が発生したことなどが推定される。
【0072】
以下、逸脱度の方向から、逸脱原因を推定する実装例について説明する。本実施形態では、昇降機機器4の状態値の変化方向(角度)と、異常原因とを関連付けて、事前に記憶部13に登録しておく。具体的に例示すると、1周(360度)を例えば45度区切りで8分割し、この区分ごとに、逸脱の原因を記したテキストデータを対応付けて記憶部13に登録しておく。ここでは一例として45度で区切って8区分としているが、態様はこれに限定されない。
【0073】
逸脱が発生した場合に、遠隔監視制御処理部12は、ドアトルクの平均値(x1)および標準偏差値(x2)から逸脱方向を導出する。本実施形態では、遠隔監視制御処理部12は、領域R1の代表値である中心点Oを起点とし、x1軸を基準角度(0度)とした場合の逸脱度D3の向きを、逸脱方向とする。
【0074】
遠隔監視制御処理部12は、逸脱方向に対応した原因候補を、上記の対応付けから検索する。そして遠隔監視制御処理部12は、出力部14を動作させて、逸脱方向の角度や検索結果である逸脱の原因を記したテキストデータを、モニターなどの出力デバイス111に表示させる。また紙面上にプリントアウトすることも可能である。この実装例により、異常を検知するだけでなく、その原因を推定することができ、速やかな異常原因の特定と事後の対応が可能になる。
【0075】
上記例では、R1の代表値(点O)を起点として逸脱方向を導出したが、座標軸の取り方によっては、R2の代表値(点P)を起点として逸脱方向を導出してもよく、点Oと点Pとの中心点を起点としてもよい。
【0076】
上記例では、各領域の中心点を代表値とし、この代表値からの逸脱度の大きさや方向を導出したが、代表値の取り方はこれに限らない。例えば、領域内のデータのうち、逸脱したデータから最も近い値や最も遠い値などを、領域の代表値と見立てて距離や方向を導出してもよい。これ以外にも、領域内のデータであれば、いずれのデータを起点にして逸脱度D1、D2、D3の大きさや方向を算出してもよい。換言すると、遠隔監視制御処理部12は、逸脱データと各領域とのグラフ上の位置関係に基づき、逸脱度D1、D2、D3の大きさや方向を算出し、異常判定を行い、逸脱の原因を記したテキストデータを記憶部13から取得して出力部14に出力してもよい。
【0077】
また、遠隔監視制御処理部12は、
図9や
図10に示すグラフ、すなわち領域R1、R2および逸脱した状態値を図示する分布図の画像データを作成する。遠隔監視制御処理部12は、出力部14を動作させて、作成した分布図を出力デバイス111に表示し、またネットワークを介して規定の携帯端末に表示させたり、紙面上にプリントアウトしたりする。遠隔監視制御処理部12は、逸脱度の大きさや方向の数値データや、逸脱の原因を記したテキストデータも、分布図に合成して表示させたり、プリントアウトすることも可能である。
【0078】
このように表示やプリントアウトをすることで、例えば昇降機5の納入先である顧客に対して、異常が発生した際の説明資料として活用することができる。また
図10を用いて説明したように、異常原因を推定することが可能となるため、この原因を抑止するための提案にも活用することができる。たとえば、昇降機ドアのシル溝に異物が挟まれることを防止する部材を設置することを提案したり、風圧の影響を受けにくくする外壁部材の設置を提案したりする資料としても、活用することができる。
【0079】
尚、上記実施形態では、状態値として平均値、標準偏差を採用しているが、これに限らず、例えば中央値や最頻値、分散を状態値として用いてもよい。また、上記実施形態では、状態値の要素数を平均値と標準偏差の2つとしているが、態様はこれに限定されない。要素数を1つ、3つ以上としてもよい。状態値の要素数が1つの場合は直線状のグラフとしてもよく、3つ以上の場合は立体状のグラフとしてもよい。グラフの表記方法についても、本実施形態の態様に限定されない。
【0080】
上記実施形態では、昇降機を監視対象の一例にして説明したが、これに限らず、例えば自動ドアなど、機械的に動作する機器や装置を監視対象とした態様にも適用させることができる。
【0081】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、ドア開閉装置のトルク値をセンサ31が計測し、この計測値に基づき異常判定を行う実装例について説明した。第2実施形態では、他の例として、ドアの「開回数」と「閉回数」とをセンサ31が計測する実装例について説明する。尚、監視システムの構成や、装置内のハードウェア構成、処理フローについては、第1実施形態で説明したものを流用する。
【0082】
図11は、平常状態におけるドアの「開回数」と「閉回数」との関係を示す分布図であり、横軸をドアの閉回数とし、縦軸をドアの開回数として、昇降機5のドアの1日の閉回数、開回数をプロットしたものである。
【0083】
ドアの「開回数」と「閉回数」とは、双方で密接に相関しており、理想的には1:1となる。そこで、昇降機5の同タイプのドアについて、毎日の「開回数」と「閉回数」を座標として点をプロットしていくと、
図11に示すように、通常は1直線上に乗る。この直線が、このタイプの昇降機5のドアにとっての正常範囲である。
【0084】
図12は、異常値が含まれる場合の分布図である。ドアに異常や不具合があると、ドアの動作が不安定となり、
図12の破線枠1201に示すように、その日のプロット点が直線上から乖離する(=正常範囲からの逸脱が発生する)。第2実施形態では、直線からの逸脱度をD1とする。D1はドアの不具合の可能性をあらわすひとつの指標となる。
【0085】
また、特定の昇降機5に着目したときに、プロット点が正常範囲(直線上)にあったとしても、円枠1202、1203および矢印1204で示すように、「閉回数」「開回数」がその昇降機5の通常値(円枠1202)から大きく増減する場合もある。
図12では、注視するドアの開閉回数が、円枠1202内の値から円枠1203内の値となり、大きく減少したことを示している。この場合、昇降機5のドアの使われ方が急激に変化したか、もしくはドアが開かないなど、ドア異常が発生した可能性を示している。この変化量を、逸脱度D2とする。D2もドアの不具合の可能性をあらわすひとつの指標とすることができる。
【0086】
第2実施形態においても、逸脱度D1は、同種機器の計測値の分布を示す第1分布領域(直線)から、どの程度乖離し、逸脱しているかを示す数値データである。また、逸脱度D2は、注視している対象機器自体の過去からの計測値の分布を示す第2分布領域(
図12の円枠1202付近のデータ)から、どの程度乖離し、逸脱ているかを示す数値データである。
【0087】
第2実施形態の遠隔監視制御処理部12は、以上のD1とD2に基づいて、総合的にドアの異常を判定する。遠隔監視制御処理部12の動作については、上記の
図3や
図6に示すフローチャートを適用させることができる。また第1実施系形態と同様に、遠隔監視制御処理部12は、逸脱原因の推定を行うことができる。第1実施形態と同様に、出力部14が、
図12に例示する分布図を顧客に資料として提示し、異常や不具合についての説明を行い、また防止策などを提案することも可能である。
【0088】
このような相関関係は、ドアの「開回数」、「閉回数」以外にも数多く存在する。すなわち、第2実施形態の態様も、第1実施形態と同様に、あくまで一例である。
【0089】
上記第1、第2実施形態において、領域R1、R2は、特異な状態値を排除した領域、すなわち平常状態の状態値に限定して領域を求めているが、特異な状態値を含めて領域R1、R2を規定してもよい。
【0090】
上記第1、第2実施形態で説明した遠隔監視制御処理部12が提供する各機能を、複数に分割してもよい。また、このようにして分割した機能を、機能ごとに複数の装置や筐体(サーバ)に分けたシステム構成としてもよい。
【0091】
処理部、第1処理部、第2処理部、第3処理部、第4処理部は、上記第1、第2実施形態の遠隔監視制御処理部12に相当する。通信部は、第1、第2実施形態の通信処理部11に相当する。
【0092】
以上に詳説したように、本実施形態によって、注視対象機器の現在の状態値を異常判定するにあたって、同種機器集団の平常領域からの逸脱度、および注視対象機器の過去の平常領域からの逸脱度に基づいて総合的な逸脱度を算定する。これにより、注視対象機器の個性を踏まえた高い精度の異常判定が可能である。また、逸脱方向に基づいて逸脱の原因を推定できることで、異常時の対応の迅速化が可能である。
【0093】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。