(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793611
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】電流検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/00 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
G01R15/00 500
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-167242(P2017-167242)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-45254(P2019-45254A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100092406
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】常盤 陽平
【審査官】
青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−131350(JP,A)
【文献】
特開2015−017832(JP,A)
【文献】
特開2003−121478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00−15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流検出用抵抗器と、
該抵抗器が実装される回路基板と、
該回路基板に形成され、前記抵抗器が実装される第1および第2のランドと、
前記第1のランドから引き出された第1の検出パターンおよび前記第2のランドから引き出された第2の検出パターンと、前記第1のランドと接続した第3の検出パターンを備え、
前記第3の検出パターンは、前記第1の検出パターンと前記回路基板を隔てて平行に配置されている、電流検出装置。
【請求項2】
前記第1の検出パターンは、途中から二股に分岐し、その一方が前記第3の検出パターンを構成する、請求項1に記載の電流検出装置。
【請求項3】
前記第3の検出パターンは、途中から二股に分岐し、その一方が第4の検出パターンを構成する、請求項1または2に記載の電流検出装置。
【請求項4】
前記第4の検出パターンは、前記第2の検出パターンと前記回路基板を隔てて平行に配置されている、請求項3に記載の電流検出装置。
【請求項5】
前記第1の検出パターンの端子の出力と前記第3の検出パターンの端子の出力を入力する第1の差動アンプと、前記第2の検出パターンの端子の出力と前記第4の検出パターンの端子の出力を入力する第2の差動アンプと、前記第1の差動アンプの出力と前記第2の差動アンプの出力を入力する第3の差動アンプを備えた、請求項4に記載の電流検出装置。
【請求項6】
電流検出用抵抗器と、該抵抗器が実装される回路基板と、該回路基板に形成され前記抵抗器が実装される第1および第2のランドと、前記第1のランドから引き出された第1の検出パターンおよび前記第2のランドから引き出された第2の検出パターンと、前記第1のランドと接続するとともに前記回路基板を隔てて前記第1の検出パターンと平行に配置した第3の検出パターンと、該第3の検出パターンと接続するとともに前記回路基板を隔てて前記第2の検出パターンと平行に配置した第4の検出パターンとを備え、
前記第1の検出パターンと第3の検出パターンから前記第1のランドのノイズ成分電圧を取り出し、前記第2の検出パターンと第4の検出パターンから前記第2のランドのノイズ成分電圧と信号成分電圧が重畳した電圧を取り出し、該ノイズ成分電圧と信号成分電圧が重畳した電圧から前記ノイズ成分電圧を差し引くことで、ノイズ成分を含まない信号成分電圧を取り出す、電流検出用抵抗器の電流検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流検出用抵抗器を用いた電流検出装置に係り、特に高周波電流の検出に際して、コモンモードノイズの影響を抑えることが可能な電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電流検出用抵抗器を用いて電流を検出する場合に、測定される電圧は例えば数十mV程度と低く、特に検出する電圧波形の精度、すなわち、高周波電流の検出精度が求められている。その中で、供試電流の電流源から発生するスイッチングノイズなどの外来ノイズによる影響度が高く、電流検出用抵抗器により測定される電圧が、外来ノイズの影響を受けて、正しい電圧波形の測定が困難となる場合がある。
【0003】
ところで、外来ノイズはその殆どが2本の信号線に同相で伝播するコモンモードノイズである。そこで、従来から、コモンモードフィルタやローパスフィルタを用いて外来ノイズを低減する処理が行われている。
【0004】
ここで、コモンモードフィルタは、2本の信号線の往路および復路に挿入される2つのコイルを備え 当該2つのコイルが磁気結合された構造になっていて、同相電流に対して高いインピーダンスを呈することで、コモンモードノイズを除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−121478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、コモンモードフィルタやローパスフィルタでは、コモンモードノイズは軽減が可能であるが、除去仕切れなかったノイズが残ってしまい、正しい電圧波形の測定が困難となる場合があるという課題が存在する。
【0007】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、電流検出用抵抗器に印加されるコモンモードノイズの影響を除去し、該抵抗器に流れる高周波電流を高精度で検出することができる電流検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電流検出装置は、電流検出用抵抗器と、該抵抗器が実装される回路基板と、該回路基板に形成され前記抵抗器が実装される第1および第2のランドと、
前記第1のランドから引き出された第1
の検出パターンおよび
前記第2のランドから引き出された第2の検出パターンと、前記第1のランドと接続
するとともに前記回路基板を隔てて前記第1の検出パターンと平行に配置した第3の検出パターンと、該第3の検出パターンと接続
するとともに前記回路基板を隔てて前記第2の検出パターンと平行に配置した第4の検出パターンとを備え、
前記第1の検出パターンと第3の検出パターンから前記第1のランドのノイズ成分電圧を取り出し、前記第2の検出パターンと第4の検出パターンから前記第2のランドのノイズ成分電圧と信号成分電圧が重畳した電圧を取り出し、該ノイズ成分電圧と信号成分電圧が重畳した電圧から前記ノイズ成分電圧を差し引くことで、ノイズ成分を含まない信号成分電圧を取り出す、ことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、従来必要であったコモンモードフィルタやローパスフィルタを用いることなく、回路基板上の検出パターンの付加と簡単な演算処理により、高周波電流に含まれるコモンモードノイズの連続的な除去処理が可能となる。よって、電流検出用抵抗器を用いた電流検出装置における特に高周波電流の検出精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例の基板表面の回路パターン図である。
【
図2】本発明の一実施例の基板裏面の回路パターン図である。
【
図3】本発明の一実施例の電流検出装置の回路図であり、基板表裏面の回路パターンを重ねて表示し、併せて電圧測定系を表示したものである。すなわち、基板表面1の検出パターン15,16は、基板裏面2の検出パターン17,18に重なって、配置されていて、重なっている部分を斜線部分Aで示す。同様に、基板表面の端子21,22は、基板裏面の端子23,24に重なって配置されている。
【
図4】本発明の一実施例の波形図であり、(a)は供試電流Iの波形を示し、(b)は基板表裏面の端子21,23間の差動アンプOP1の出力電圧V1の波形を示し、この波形はノイズ成分電圧Vnの波形であり、(c)は基板表裏面の端子22,24間の差動アンプOP2の出力電圧V2の波形を示し、この波形はノイズ成分電圧Vnと信号成分電圧が重畳した電圧Vb+Vnの波形であり、(d)は差動アンプOP3で、V2からV1を差し引き演算処理した出力電圧Voの波形であり、ノイズ成分電圧Vnの除去後の信号成分電圧Vbの波形である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、
図1乃至
図4を参照して説明する。なお、各図中、同一または相当する部材または要素には、同一の符号を付して説明する。
【0012】
図1および
図2は、本発明の一実施例の回路基板表裏面の回路パターン配置例を示す図である。
図1が基板表面の回路パターン配置例であり、
図2が基板裏面の回路パターン配置例であるが、
図2は基板表面側から回路基板を透過して見た基板裏面のパターン配置例の図である。
【0013】
図1に示すように、基板表面1には、電流検出用抵抗器が実装されるランド11,12を備え、該ランド11,12間に電流検出用抵抗器13が跨がるように実装される。電流検出用抵抗器13が例えば0.1mΩの抵抗値Rを有し、ランド11,12間に例えば100Aの供試電流Iが電流検出用抵抗器13を通過して流れたとすると、ランド11,12間には、100mVの電圧Vが形成され、既知の抵抗値Rから電流Iが検出される。
【0014】
ランド11,12には、該各ランドから引き出された第1および第2の検出パターン15,16を備える。そして、ランド11,12間に形成された電圧が、検出パターン15,16を経て、回路基板の端子21,22に出力され、電圧測定装置で電圧が検出される。ここまでは、従来の電流検出用抵抗器を用いた一般的な電流検出装置と同じである。
【0015】
しかし、本発明の基板表面1においては、第1の検出パターン15は、途中(P1)から二股に分岐し、その一方が第1のランド11と接続した第3の検出パターン17を備える。この第3の検出パターン17は、貫通端子20を経て、基板裏面2の第3の検出パターン17に接続され、第3の検出パターン17は端子23迄延伸している。
【0016】
図3に示すように、基板裏面2における第3の検出パターン17は、貫通端子20からP1迄、基板表面1の第3の検出パターン17と重なるように配置され、その先は、第1の検出パターン15と重なるように配置され、基板裏面2の端子23に接続されている。従って、基板表面1の第1の検出パターン15と基板裏面2の第3の検出パターン17は、P1から端子21,23迄、基板の厚さを隔てて平行に重なるように配置されていて、ループを形成していない。
【0017】
基板表裏面において、検出パターンが重なるように配置されることは、抵抗器に流れる電流Iによって形成される磁束が検出パターンにより形成されるループに鎖交しないので重要である。仮に、検出パターンが重なるように配置されず、ループが形成されると、抵抗器に流れる電流Iによって形成される磁束が該ループに鎖交し、起電力が生じ、新たなノイズ源となるからである。
【0018】
さらに、
図2に示すように、基板裏面2において、第3の検出パターン17は、途中(P2)から二股に分岐し、その一方が第1のランド11と接続した第4の検出パターン18を備え、該第4の検出パターン18はP2から端子24迄延伸する。そして、第4の検出パターン18は、P3から端子24に到る迄、基板表面1の第2の検出パターン16と、基板の厚さを隔てて、平行に重なるように配置されている(
図3参照)。
【0019】
本発明の回路基板においては、基板表面1の従来の検出パターン(第1および第2の検出パターン15,16)に加えて、基板裏面2にも貫通端子20を介して2本の検出パターン17,18を配置している。これら基板裏面2の2本の検出パターン17,18は、上述したように、検出パターン18は検出パターン17から分岐したものであり、検出パターン17は検出パターン15から分岐したものである。
【0020】
よって、検出パターン15は第1のランド11に接続したものであるので、3本の検出パターン15,17,18は、第1のランド11と導通している。そして、第2の検出パターン16のみが、第2のランド12に接続され、第2のランド12と導通している。
【0021】
次ぎに、電圧検出系について説明する。
図3に示すように、第1の検出パターン15の端子21の出力と第3の検出パターン17の端子23の出力を入力する第1の差動アンプOP1と、第2の検出パターン16の端子22の出力と第4の検出パターン18の端子24の出力を入力する第2の差動アンプOP2と、第1の差動アンプOP1の出力と第2の差動アンプOP2の出力を入力する第3の差動アンプOP3を備える。
【0022】
電圧波形を見る際は、検出パターン17の端子23を基準電位にとり、検出パターン15の端子21の出力を信号として、差動アンプOP1に入力する。すると、抵抗器13には、供試電流Iが流れ、抵抗値Rと電流Iの積である信号成分電圧Vb=R×Iがランド12,11間に生じ、さらにランド12,11には、それぞれコモンモードノイズに基づくノイズ成分電圧Vnが生じる。そして、この電圧Vnは、ランド11から端子21,23間に伝播し、ランド12から端子22,24間に伝播する。
【0023】
従って、端子21,23間には、基準電位に対するノイズ成分電圧Vnが検出され、差動アンプOP1の出力V1には、ノイズ成分電圧のみの波形が出力される。そして、端子24を基準電位にとり、端子22を信号として、差動アンプOP2に入力する。従って、差動アンプOP2の出力V2には、基準電位に対する信号成分電圧とノイズ成分電圧が重畳した電圧Vb+Vnが出力され、信号成分電圧にノイズ成分電圧が重畳した波形が出力される。
【0024】
そして、差動アンプOP2の出力V2(信号成分電圧Vbとノイズ成分電圧Vnの合計)と、差動アンプOP1の出力V1(ノイズ成分電圧Vnのみ)を、差動アンプOP3に入力し、V2からV1を差し引く演算を差動アンプOP3にて行うと、出力V2(信号成分電圧Vbとノイズ成分電圧Vnの合計)から出力V1(ノイズ成分電圧Vnのみ)が差し引かれ、信号成分電圧Vbのみからなり、ノイズ成分電圧Vnを含まない出力電圧Voが得られる。
【0025】
以上を数式にて整理する。
Vbは、抵抗器13の供試電流Iと抵抗値Rによる両端のランド11,12間の電圧、
Vnは、コモンモードノイズ電圧であり、ランド11,12に同相で生じる。
すると、端子21の出力電圧は、ランド11のノイズ成分電圧Vnであり、端子23は接地されているので、基準電位となる。
【0026】
端子22の出力電圧は、ランド12の信号成分電圧Vb(=R×I)+ノイズ成分電圧Vnであり、端子24は接地されているので、基準電位となる。
よって、差動アンプOP2の出力V2=Vb+Vn
よって、差動アンプOP3の出力Voは、V2からV1を差し引き、
Vo=V2−V1=(Vb+Vn)−Vn=Vb
よって、信号成分電圧のみからなり、ノイズ成分電圧を含まない出力Vo=Vbが得られる。すなわち、ノイズ成分が除去された信号成分のみからなる電圧Vb(=R×I)が出力される。
【0027】
図4は、測定した電圧波形例を示す。(a)は供試電流Iの波形例、および(b)(c)(d)は差動アンプOP1,OP2,OP3の出力V1,V2,Voの波形例を示している。出力V1の波形は、ランド11に生じ、検出パターン15,17間を伝播したノイズ成分電圧(Vn)の波形であり、出力V2の波形は、ランド12に生じ、検出パターン16,18間を伝播したノイズ成分電圧(Vn)波形に、ランド12,11間に生じた信号成分電圧(Vb=R×I)波形が重畳した波形である。
【0028】
出力V3の波形は、出力V2から出力V1を差し引き演算処理した結果、すなわち、
Vo=V2−V1=(Vb+Vn)−Vn=Vb
であり、ノイズが大幅に低減されたきれいな、電圧波形が観測されている。すなわち、この電圧波形は、供試電流I×抵抗値Rによる抵抗器の両端のランド11,12間に形成された信号成分電圧波形である。
【0029】
なお、(a)供試電流Iの波形と、差動アンプOP3の出力である(d)Vo=V2−V1=Vbの波形は、供試電流Iの波形の屈曲点において、差違が生じている。しかしながら、これは、供試電流Iの波形の屈曲点において、抵抗器13の有する僅かなインダクタンス成分に起因して、電流の変化に伴う電圧が生じたためと考えられる。
【0030】
よって、本波形例によれば、コモンモードノイズは、2本の信号線の往路および復路に対して、同じ方向(同相)に伝播するという性質により、一方のランド11からノイズ成分電圧出力を取り出し、他方のランド12から信号成分電圧とノイズ成分電圧が重畳した電圧出力を取り出し、差し引き演算処理をすることで、ノイズ成分電圧Vnを顕著に低減できた信号成分電圧Vbが得られることを確認できた。
【0031】
本発明によれば、第1の検出パターン15と第3の検出パターン17から第1のランド11のノイズ成分電圧を取り出し、第2の検出パターン16と第4の検出パターン18から第2のランドのノイズ成分電圧Vnと信号成分電圧Vbが重畳した電圧を取り出し、該ノイズ成分電圧Vnと信号成分電圧Vbが重畳した電圧から前記ノイズ成分電圧Vnを差し引くことで、ノイズ成分を含まない信号成分電圧Vbを取り出すことができる。
【0032】
よって、第3および第4の検出パターンの付加と、差動アンプによる演算処理の付加により、電流検出用抵抗器によるコモンモードノイズを除去した電流検出が可能となる。そして、コモンモードノイズフィルタやローパスフィルタを用いることなく、電流検出用抵抗器による高周波電流の検出を精度良く行うことが可能となる。
【0033】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、電流検出用抵抗器を用いた電流検出装置に好適に利用可能である。