特許第6793651号(P6793651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793651ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793651
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20201119BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   A61K31/436
   A61K47/22
   A61K47/26
   A61K47/38
   A61P29/00
   A61P35/00
   A61P37/02
   A61P37/06
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-537794(P2017-537794)
(86)(22)【出願日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2016074781
(87)【国際公開番号】WO2017038612
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-169075(P2015-169075)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川村 大
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−536797(JP,A)
【文献】 特表2014−524296(JP,A)
【文献】 特表2002−531527(JP,A)
【文献】 特表2006−510753(JP,A)
【文献】 特開平03−056585(JP,A)
【文献】 特開昭63−130503(JP,A)
【文献】 特表平10−505359(JP,A)
【文献】 特表平11−509223(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102499929(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102319207(CN,A)
【文献】 河 貴現 ほか,コーン油の自動酸化中におけるトコフェロール同族体の消長と相互関係ならびにα−トコフェロールのアスコルビン酸パルミテートとの相乗効果について,日本食品工業学会誌,1988年,第35巻第7号,p.464-470
【文献】 青山 稔 ほか,トコフェロールの酸化防止効果向上に関する研究(第23報) パルミチン酸L−アスコルビルの相乗効果,油化学,1993年,第42巻第1号,p.25-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エベロリムス、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有し、(A)エベロリムス、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、溶媒を除去することにより調製される医薬組成物であって、前記トコフェロール誘導体が、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、酢酸トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール及びδ−トコトリエノールからなる群から選択される1種以上であり、前記アスコルビン酸脂肪酸エステルが、パルミチン酸アスコルビル又はステアリン酸アスコルビルである、医薬組成物。
【請求項2】
(A)エベロリムス1質量部に対し、(B)トコフェロール誘導体を0.0001〜5.0質量部、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを0.001〜10.0質量部を含み、(B)と(C)の混合比率(B):(C)が1:0.1〜100である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
更に、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル以外の抗酸化剤を含有する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
セルロース誘導体及び/又は糖類を含む請求項1〜の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜の医薬組成物を含有する医薬製剤。
【請求項6】
(A)エベロリムス、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、溶媒を除去する工程を含む、エベロリムスを含有する医薬組成物の製造方法であって、前記トコフェロール誘導体が、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、酢酸トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール及びδ−トコトリエノールからなる群から選択される1種以上であり、前記アスコルビン酸脂肪酸エステルが、パルミチン酸アスコルビル又はステアリン酸アスコルビルである、前記の製造方法。
【請求項7】
(A)エベロリムス、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、前記溶液とセルロース誘導体及び/又は糖類を混合し、溶媒を除去する工程を含む、エベロリムスを含有する医薬製剤の製造方法であって、前記トコフェロール誘導体が、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、酢酸トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール及びδ−トコトリエノールからなる群から選択される1種以上であり、前記アスコルビン酸脂肪酸エステルが、パルミチン酸アスコルビル又はステアリン酸アスコルビルである、前記の製造方法。
【請求項8】
(A)エベロリムス、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、溶媒を除去することによりエベロリムスを含有する医薬組成物を得る工程、並びに前記医薬組成物にセルロース誘導体及び/又は糖類を添加する工程を含む、エベロリムスを含有する医薬製剤の製造方法であって、前記トコフェロール誘導体が、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、酢酸トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール及びδ−トコトリエノールからなる群から選択される1種以上であり、前記アスコルビン酸脂肪酸エステルが、パルミチン酸アスコルビル又はステアリン酸アスコルビルである、前記の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を向上させた医薬製剤組成物に関する。ラパマイシン又はその誘導体は、酸素、光及び水分に対して非常に不安定であり、保存安定性に課題がある。本発明は、そのような化合物に対する保存安定性を、生体内投与を考慮した安全性に優れた安定化剤によって向上させた医薬製剤組成物に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
ラパマイシン(シロリムス)は、放線菌の代謝産物から見出されたマクロライド系抗生物質であり、免疫抑制作用を有することが知られている。ラパマイシンは細胞の分裂や増殖、生存などを調節する哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mammalian target of rapamycin;mTOR)の阻害作用を有する。このmTORは、増殖因子や栄養素などによる刺激により蛋白質の合成を調節する主要なセリン・スレオニンキナーゼであり、細胞の成長、増殖、生存及び血管新生を調節することが知られている。そこで、ラパマイシンのmTOR阻害作用に着目して、その誘導体合成が試みられ、エベロリムスとテムシロリムスが抗腫瘍剤として見出されている。
【0003】
ラパマイシン又はその誘導体を含む医薬品を提供するための医薬製剤が報告されている。特許文献1は、ラパマイシン類、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び乳糖等の混合物を含む溶液を調製し、溶媒溜去することで得られる固体分散体を製剤化することを記載している。また、特許文献2には、ラパマイシン類であるエベロリムス、崩壊剤であるクロスポビドン、コロイド状二酸化ケイ素及び乳糖を含有する錠剤が記載されている。
【0004】
ラパマイシン又はその誘導体は、酸化に対して非常に不安定な物性であることが知られている。そこで、ラパマイシン類を有効成分とする医薬品製剤には、抗酸化剤が添加されている。例えば、ラパマイシン製剤(登録商標 ラパリムス)及びテムシロリムス製剤(登録商標 トーリセル)ではトコフェロールが添加されている。また、エベロリムス製剤(登録商標 アフィニト−ル及びサーティカン)には、合成抗酸化剤であるジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が使用されている。
【0005】
ラパマイシン誘導体の抗酸化剤を用いた安定化方法について、特許文献3では、エベロリムスと抗酸化剤であるBHTを含む混合溶液を調製し、その後溶媒を除去することで、安定化されたエベロリムス固体が得られることが報告されている。なお、この文献においては抗酸化剤としてBHT、トコフェロール及びアスコルビン酸を挙げている。
【0006】
しかしながら、抗酸化剤であるBHTは癌原性や生殖毒性が発現するとの報告があり、使用量が制限される化学物質である、一方、トコフェロールは、安全性はBHTよりも高いものの、単独での使用においてその抗酸化力は合成抗酸化剤のBHTより劣るため、その抗酸化作用に基づくラパマイシン類の安定性確保には限度がある。
その他の医薬品用添加剤における抗酸化剤として、アスコルビン酸やその脂溶性誘導体であるパルミチン酸アスコルビルが知られているが、これらも単独での使用においてはBHTのような合成抗酸化剤よりも抗酸化効果は劣るため、ラパマイシン類を含む医薬製剤への適用には不十分である。
【0007】
特許文献4は、エベロリムスのエタノール溶液をヒプロメロース等の水溶性高分子に添加し造粒することで固体分散体を調製して、抗酸化剤を用いずに安定なエベロリムス組成物が得られることを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11−509223号公報
【特許文献2】特表2005−507897号公報
【特許文献3】特表2002−531527号公報
【特許文献4】国際公開WO2013/022201号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤に用いる、ラパマイシン又はその誘導体の酸化や分解に伴う有効成分含量の低減を抑制し、長期安定性が確保でき、且つ安全性が高い医薬組成物及び医薬製剤を提供することである。本発明の別の目的は、長期安定性が確保でき、且つ安全性が高いラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物及び医薬製剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤において、ラパマイシン又はその誘導体の酸化又は分解を抑制するために、天然抗酸化剤であるトコフェロール誘導体を添加剤として用い、さらにアスコルビン酸脂肪酸エステルをシネルギストとして用いることで相乗的な抗酸化効果を長期間示すことを見出し、発明を完成させるに至った。すなわち、本願は以下[1]〜[9]の発明を要旨とする。
[1] (A)ラパマイシン又はその誘導体、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する医薬組成物。
本発明では、ラパマイシン又はその誘導体に対して、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合せた抗酸化剤を含有させた医薬組成物とすることでラパマイシン又はその誘導体の安定性が向上した組成物を調製することができる。
[2] (A)ラパマイシン又はその誘導体、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、溶媒を除去することにより調製される前記[1]に記載の医薬組成物。
ラパマイシン又はその誘導体と、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合せた抗酸化剤の混合態様としては、前記(A)、(B)及び(C)を含有する溶液を調製した後、そこから得られる固体混合物とすることが好ましい。このような固体混合物は、ラパマイシン又はその誘導体、トコフェロール誘導体及びアスコルビン酸脂肪酸エステルが分子レベルで会合した混合物であり、化学構造体や特性等で表すことが困難である。そこで、本発明に係る(A)ラパマイシン又はその誘導体と、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合せた抗酸化剤を含有する医薬組成物のより詳細な態様を、前記[2]で示される製造方法により特定されるラパマイシン又はその誘導体、とトコフェロール誘導体及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する固体混合物として表すことが適当であり、発明の明確性の要件を充足しているものと考える。
[3] (A)ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、(B)トコフェロール誘導体を0.0001〜5.0質量部、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを0.001〜10.0質量部を含み、(B)と(C)の混合比率(B):(C)が1:0.1〜100である前記[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4] 更に、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル以外の抗酸化剤を含有する前記[1]〜[3]の何れか一項に記載の医薬組成物。
[5] セルロース誘導体及び/又は糖類を含む前記[1]〜[4]の何れか一項に記載の医薬組成物。
[6] 前記[1]〜[5]の医薬組成物を含有する医薬製剤。
【0011】
また、ラパマイシン又はその誘導体とトコフェロール誘導体、及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する医薬組成物及び医薬製剤の製造方法も、本発明の要旨に含まれる。
[7](A)ラパマイシン又はその誘導体、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、溶媒を除去する工程を含む、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物の製造方法。
上記製造方法により、ラパマイシン又はその誘導体とトコフェロール誘導体、及びアスコルビン酸脂肪酸エステルが分子レベルで会合した固体混合物を調製することができる。更に(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル以外の抗酸化剤を用いる場合は、溶液調製時に添加しても良く、該固体混合物に対して添加しても良い。
[8](A)ラパマイシン又はその誘導体、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、前記溶液とセルロース誘導体及び/又は糖類を混合し、溶媒を除去する工程を含む、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤の製造方法。
[9](A)ラパマイシン又はその誘導体、並びに(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製し、溶媒を除去することによりラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物を得る工程、並びに前記医薬組成物にセルロース誘導体及び/又は糖類を添加する工程を含む、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤の製造方法。
上記[8]又は[9]の製造方法のように、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤の調製において、医薬添加剤として用いるセルロース誘導体及び/又は糖類は、ラパマイシン又はその誘導体とトコフェロール誘導体、及びアスコルビン酸脂肪酸エステルが分子レベルで会合した固体混合物調製段階で添加しても良く、該固体混合物を調製した後に添加しても、そのどちらでも良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ラパマイシン又はその誘導体の酸化や分解に伴う有効成分含量の低減を抑制し、長期安定性が確保でき、且つ安全性が高いラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物を提供することができる。すなわち、安全性の高い天然抗酸化剤であるトコフェロールを単独で添加した場合では達成し得なかった長期間の安定性確保を、アスコルビン酸脂肪酸エステルをシネルギストとして用いることで確保できる。
本発明の医薬組成物及び医薬製剤は、癌原性や生殖毒性が懸念されるBHTの使用を回避した製剤処方であり、安定性と安全性を確保したラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の医薬組成物は、(A)ラパマイシン又はその誘導体、並びに(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを用いることを特徴とする。以下にその詳細を説明する。
【0014】
本発明は、有効成分として(A)ラパマイシン又はその誘導体を含有する。
ラパマイシン(一般名 シロリムス)は、イースター島の土壌から分離された放線菌Streptomyces Hygroscopicusの代謝産物から単離されたマクロライド骨格を有する化合物である。
【0015】
ラパマイシン誘導体とは、ラパマイシンを母格として化学修飾を施したものを指す。ラパマイシン誘導体としては、例えば、16−O−置換ラパマイシン(例えばWO94/022136を参照)、40−O−置換ラパマイシン(例えばUS5258389、WO94/09010を参照)、カルボン酸エステル置換ラパマイシン(例えばWO92/05179を参照)、アミド置換ラパマイシン(例えばUS5118677を参照)、フッ素置換ラパマイシン(例えばUS5100883を参照)、アセタール置換ラパマイシン(例えばUS5151413を参照)等が挙げられる。本発明のラパマイシン又はその誘導体は、これらの化合物に限定されるものではないが、適用する好ましい化合物として挙げることができる。
ラパマイシン誘導体としては、ラパマイシンのシクロヘキシル基の40位ヒドロキシル基がヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシアルキル基、アシルアミノアルキル基及びアミノアルキル基、ヒロドキシ置換アシル基で置換されている40−O−置換ラパマイシン誘導体が好ましい。より好ましいラパマイシンとしては、40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシン(エベロリムス)であり、40−O−[3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート]ラパマイシン(テムシロリムス)である。
【0016】
本発明の(A)ラパマイシン又はその誘導体としては、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、テムシロリムスを用いることが好ましい。
(A)ラパマイシン又はその誘導体は、医薬品として用いることができる品質レベルの化合物を用いることが好ましい。
【0017】
本発明に使用する(B)トコフェロール誘導体とはビタミンEとしても知られ、オリーブオイル、キャノーラ油、大豆、アーモンド、青魚等、自然界に広く普遍的に存在する。当該(B)トコフェロール誘導体としては、母格としてクロマン−6−オール構造を有するものであれば、特に限定することなく用いることができる。用いることができるトコフェロール誘導体としては、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、酢酸トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール等が挙げられる。また、D体、L体又はDL体が存在するがその何れを用いても良い。
本発明において、(B)トコフェロール誘導体は、上記のトコフェロール誘導体のそれぞれを単独で用いても良く、併用して用いても良い。
本発明において用いられる(B)トコフェロール誘導体は、α−トコフェロールが好ましく、D−α−トコフェロール、L−α−トコフェロール又はDL−α−トコフェロールを用いることが好ましい。
【0018】
本発明に係る(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルとは、アスコルビン酸に脂肪酸をエステル結合させたものである。当該(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルとしては、アスコルビン酸に脂肪酸を、エステル結合を介して導入した構造を有するものであれば特に限定することなく用いることができる。
アスコルビン酸にエステル結合させる脂肪酸としては、炭素数(C2〜C30)のモノカルボン酸が挙げられる。該脂肪酸は飽和脂肪酸であっても良く、1以上の二重結合を含む不飽和脂肪酸であってもよい。該飽和脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エイコサン酸、ドコサン酸等が挙げられる。
また前記不飽和脂肪酸としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
当該(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルとしては、例えばアスコルビン酸ステアリン酸エステル、アスコルビン酸パルミチン酸エステル等が挙げられる。
本発明において、(C)に係るアスコルビン酸脂肪酸エステルは、それぞれを単独で用いても良く、併用して用いても良い。
【0019】
本発明における(B)トコフェロール誘導体の添加量は、(A)ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、好ましくは0.0001質量部以上を用いればよく、より好ましくは0.0005質量部以上を用いればよく、更に好ましくは0.001質量部以上の使用である。本発明において、トコフェロール誘導体は安全性上特に問題はないことから、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を考慮して、その使用量の上限は医薬品として実用可能な使用量において適宜、設定されるべきである。
ラパマイシン又はその誘導体の安定性確保と、医薬品添加剤の現実的な使用量を考慮すると、(A)ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、(B)トコフェロール誘導体は、好ましくは0.0001〜5.0質量部で用いればよく、より好ましくは0.0005〜1.0質量部であり、更に好ましくは0.001〜0.1質量部である。
【0020】
本発明における(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの添加量は、(A)ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、好ましくは0.001質量部以上を用いればよく、より好ましくは0.005質量部以上を用いればよく、更に好ましくは0.01質量部以上の使用である。本発明において、アスコルビン酸脂肪酸エステルはラパマイシン又はその誘導体の安定性を損なう物性はないことから、その使用量の上限は特になく、医薬品として実用可能な使用量において設定されるべきである。
ラパマイシン又はその誘導体の安定性確保と、医薬品添加剤の現実的な使用量を考慮すると、(A)ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルは、好ましくは0.001〜10.0質量部で用いればよく、より好ましくは0.005〜5.0質量部であり、更に好ましくは0.01〜1.0質量部である。
【0021】
本発明における(B)と(C)の混合比率は、好ましくは、(B):(C)が1:0.1〜100の質量比であり、より好ましくは1:0.5〜100である。(B)トコフェロール誘導体に対して(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルが質量比で等量以上で用いることが好ましく、(B):(C)が1:1〜50であることがより好ましい。
【0022】
本発明の医薬組成物は(A)ラパマイシン又はその誘導体と(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの3成分が含まれており、両者が混合して存在する態様であれば、特に限定されることなく本発明に含まれる。両者の混合方法としては、(A)ラパマイシン又はその誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルは一般的に常温で固体状態であり、(B)トコフェロール誘導体が常温で液体状態であるが、各(A)〜(C)成分を混合し、任意に混合機等を用いて機械的に混合する方法が挙げられる。その際、適当な溶剤を添加して両者の分散を促進させても良い。(A)〜(C)が固体状態で混合する場合は、これらの平均粒子径として0.1〜1mm程度の小さい粒径の粉体又は顆粒状の各成分を用いることが分散性向上の点で有利である。
また、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの何れか一成分あるいは二成分の溶液を調製し、これを固体状態の残りの成分と混合し、任意に機械的に混合する方法でも良い。
【0023】
本発明の医薬組成物において、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの3成分が混合して存在する態様としては、3成分を含有する溶液を調製し、この溶液から溶剤を除去することにより得られる(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する固体混合物であることが好ましい。このような固体混合物は、ラパマイシン又はその誘導体とトコフェロール誘導体、及びアスコルビン酸脂肪酸エステルが分子レベルで会合した混合物となっていると考えられ、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルのラパマイシン又はその誘導体に対する安定化効果が最も発揮される混合形態である。
(A)ラパマイシン又はその誘導体と(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液を調製するために用いられる溶媒としては、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルが全て溶解するものであれば限定されずに用いることができる。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、エチレングリコール、グリセリン、ギ酸、酢酸、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトニトリル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。また、これらの溶媒は単独で用いても良く、2種類以上の溶媒を用いた混合溶媒でもよい。これらの溶媒に限定されるものではないが、適用する好ましい溶媒として挙げることができる。
該溶媒は後に除去することを考慮すると、温和な条件で溜去することが可能である沸点が120℃以下の溶媒を用いることが好ましく、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ペンタン、へプタン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルが好ましい。
【0024】
該溶媒の使用量は、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルが完全に溶解すれば良く、適宜、使用量を調整することができる。
また、溶液調製において、適宜加温を行い(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの溶解を促しても良い。溶液調製時の溶液温度は、特に限定されるものではないが、(A)ラパマイシン又はその誘導体の安定性を考慮して0〜80℃で溶液を調製することが好ましい。
【0025】
本発明におけるラパマイシン又はその誘導体、トコフェロール誘導体及びアスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液の調製方法としては、ラパマイシン又はその誘導体とトコフェロール誘導体及びアスコルビン酸脂肪酸エステルが共に溶解する方法であれば特に限定されない。例えば、ラパマイシン又はその誘導体、トコフェロール誘導体及びアスコルビン酸脂肪酸エステルをあらかじめ混合させておき、そこに該成分が溶解する溶媒を添加し溶解させる方法、ラパマイシン又はその誘導体に溶媒を加えて溶解させた溶液と、トコフェロール誘導体及びアスコルビン酸脂肪酸エステルに溶媒を加えて溶解させた溶液を混合する方法が挙げられる。これらの調製法に限定されるものではないが、適用する好ましい調製法として挙げることができる。
【0026】
(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液から、溶媒を除去する方法としては、溶媒を溜去する方法が挙げられる。溶媒を溜去する方法としては、前記溶液を加熱することで溶媒除去することができるが、その際、減圧条件とすることで温和な温度条件で溶媒を除去することができることから好ましい。また、噴霧乾燥法を用いて溶媒を除去して、固体混合物を得ることができる。
【0027】
また、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有する溶液から、(A)、(B)及び(C)を含有する固体混合物を析出させた後、濾過法により溶媒を除去する方法を採用しても良い。該固体混合物を析出させる方法としては、冷却して晶析を促す、いわゆる再結晶方法や、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの溶液に混和可能であり、且つ(A)、(B)及び(C)が不溶性又は難溶性の晶析用溶媒を添加して晶析する、いわゆる沈殿析出方法が挙げられる。
前記晶析用溶媒としては、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの溶液に対して混和可能で、且つ(A)、(B)及び(C)が不溶性又は難溶性溶媒であれば特に限定することなく適用することができる。該晶析用溶媒としては、水、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等を挙げることができる。晶析用溶媒の種類や使用量は、溶液調製溶媒の種類や量に応じて、適宜、設定して良い。
(A)ラパマイシン又はその誘導体及び(B)トコフェロール誘導体、及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルを含む溶液に、晶析用溶媒を添加し、(A)、(B)及び(C)を含む固体混合物を晶析させ、任意に冷却することにより晶析を促し懸濁液を調製し、濾過法により溶媒を除去することで固体混合物を得ることができる。
【0028】
本発明の医薬組成物には、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を確保する安定化補助剤として、任意に(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル以外の他の抗酸化剤を、該(B)及び(C)と組み合わせて用いることができる。
前記他の抗酸化剤としては、ラパマイシン及びその誘導体の安定化効果を示す公知の抗酸化剤を用いることができる。例えば、亜硝酸、アスコルビン酸、亜硫酸、アルファチオグリセリン、エデト酸、エリソルビン酸、塩酸システイン、クエン酸、ジクロルイソシアヌール酸、ジブチルヒドロキシトルエン、レシチン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、ピロ亜硫酸、ブチルヒドロキシアニソール、1,3−ブチレングリコール、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]ベンゾトリアゾール、没食子酸イソプロピル、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。これらの化合物に限定されるものではないが、適用する好ましい化合物として挙げることができる。
前記他の抗酸化剤は、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を損なわない程度の量で適宜用いることができる。他の抗酸化剤を用いる場合の添加量としては、(A)ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、他の抗酸化剤は0.0001〜50質量部で用いることが好ましい。より好ましくは0.001〜10質量部であり、更に好ましくは0.005〜10.0質量部である。
【0029】
前記他の抗酸化剤は、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステルの混合物に対して、別途添加して用いられる。また、該(A)、(B)及び(C)の溶液から調製される固体混合物に対して該抗酸化剤を添加して用いても良い。若しくは、該(A)、(B)と(C)及び該抗酸化剤を含有する溶液を調製して、溶媒を除去することにより(A)、(B)と(C)及び該抗酸化剤を含む固体混合物として用いても良い。
本発明の医薬組成物において他の抗酸化剤を用いる場合、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル、並びに他の抗酸化剤を含有する溶液を調製して、溶媒を除去することにより(A)、(B)、(C)及び他の抗酸化剤を含む固体混合物として用いることが好ましい。該固体混合物を得る方法において、溶媒を除去する方法としては、前述した方法と同様に、溶媒を溜去する方法、晶析して濾過する方法が挙げられる。溶媒を溜去する方法として、噴霧乾燥方法を用いても良い。
【0030】
本発明の医薬組成物は、セルロース誘導体及び/又は糖類を添加しても良い。これらは、医薬品の製剤を調製するための製剤用添加剤として用いる。
セルロース誘導体としては、医薬品製剤調製において通常用いられている添加剤であれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等を挙げることができる。結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることが好ましい。
【0031】
また糖類としては、医薬品製剤調製において通常用いられている添加剤であれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、アラビノース、イソマルトース、イノシトール、エリスリトール、ガラクトサミン、ガラクトース、キシリトール、キシロース、グルコサミン、グルコース、ゲンチオビオース、コージビオース、ショ糖、セロビオース、ソホロース、ソルビトール、チオグルコース、ツラノース、デオキシリボース、ニゲロース、パラチノース、フコース、フルクトース、マンニトール、マルトース、マンノース、メリビオース、ラクトース、ラムノース、ラミナリビオース、トレハロース等が挙げられる。ラクトース、マンニトール、マルトース、エリスリトール、ソルビトール、フコース、キシリトール、フルクトース、イノシトール、トレハロースを用いることが好ましい。
前記セルロース誘導体及び/又は糖類は、単独で用いても良くこれらを数種類で併用して用いても良い。
【0032】
セルロース誘導体及び/又は糖類は、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体、(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル及び任意の他の抗酸化剤を含有する医薬組成物に添加して用いられる。
すなわち、セルロース誘導体及び/又は糖類は、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体、(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル及び任意の他の抗酸化剤に対して添加して混合物を調製して用いられる(添加方法1)。また、(A)、(B)、(C)並びに任意の他の抗酸化剤を含む溶液から調製される固体混合物に対して、該セルロース誘導体及び/又は糖類を添加して混合物を調製しても良い(添加方法2)。
これら、セルロース誘導体及び/又は糖類と、(A)、(B)、(C)及び任意の他の抗酸化剤を固体同士で混合する場合、混合機等を用いて機械的に混合処理を施して十分に分散させることが好ましい。
【0033】
また、別法として、(A)、(C)、(B)及び任意の他の抗酸化剤を含有する溶液と、該セルロース誘導体及び/又は糖類を混合し、この混合物から溶媒を除去することにより(A)、(B)、(C)及び任意の他の抗酸化剤を含む固体混合物とセルロース誘導体及び/又は糖類の混合物として用いても良い(添加方法3)。
前記添加方法3は、(A)、(B)、(C)及び任意の他の抗酸化剤を含む溶液に、セルロース誘導体及び/又は糖類を添加する方法であるが、この場合、該溶液にセルロース誘導体及び/又は糖類が溶解する必要はなく、懸濁液状態であっても良い。この混合体から、溶媒を除去して、(A)、(B)、(C)及び任意の他の抗酸化剤を含む固体混合物とセルロース誘導体及び/又は糖類の混合物を調製することができる。溶媒の除去方法としては、溶媒を溜去する方法が挙げられる。減圧下で溶媒を溜去することが好ましい。また、噴霧乾燥法を用いて溶媒除去する方法を採用しても良い。
前記晶析用溶媒を添加して懸濁液を調製し、濾過により溶媒を除去することにより、(A)、(B)、(C)及び任意の他の抗酸化剤を含む固体混合物とセルロース誘導体及び/又は糖類の混合物を調製することができる。
【0034】
本発明の医薬組成物は、前述した、(A)ラパマイシン又はその誘導体、(B)トコフェロール誘導体及び(C)アスコルビン酸脂肪酸エステル、並びに任意成分である他の抗酸化剤、セルロース誘導体及び糖類の他に、本発明の効果を妨げない範囲で医薬品製剤を調製するために通常の用いられる他の添加剤を含んでいても良い。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、pH調整剤、無機塩類、溶剤等を適用しても良い。
賦形剤としては、ラクトース、マルトース、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、フコース、キシリトール、フルクトース、イノシトール、デンプン等を挙げることができる。
崩壊剤としては、カルメロース、クロスポビドン、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム等を挙げることができる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ピプロメロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
pH調整剤としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、メシル酸、トシル酸、ベシル酸等を挙げることができる。これらの酸性添加剤を主成分として、これにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を含んだ緩衝剤を用いても良い。
無機塩類としては塩化カルシウム、塩化ナトリウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
溶剤としては、通常、水、生理食塩水、5%ブドウ糖又はマンニトール水溶液、水溶性有機溶媒(例えば、グリセロール、エタノール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ポリエチレングリコール、クレモフォア等の単一溶媒又はこれらの混合溶媒)、ポリエチレングリコール類(例えば、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール4000等)が挙げられる。
これらの添加剤は、医薬品製剤用途で許容される純度であれば特に制限されることなく用いることができる。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬組成物又は医薬製剤を調製する際に、任意に使用される。
【0035】
本発明の医薬組成物は、該医薬組成物を含む医薬品として製造することができる。
この医薬品としての製剤形は、錠剤、分散錠、チュアブル錠、発泡錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤・煎剤、舐剤、シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、口腔内崩壊錠、ゼリー剤、等の内用剤、坐剤、パップ剤、プラスター剤、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤液、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤等の外用剤が挙げることができる。これらの製剤形に限定されるものではないが、適用する好ましい製剤形として挙げることができる。
また、本発明の医薬組成物を注射剤として用いる場合、水性注射剤、非水性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時溶解又は懸濁して用いる製剤形として、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、中心静脈内注射、動脈内注射、脊髄腔内注射等が挙げられる。これらに限定されるものではないが、適用する好ましい製剤形、投与経路として挙げることができる。
【0036】
本発明の医薬組成物を用いた医薬品は、疾患の治療に適用することができる。適用できる疾患としては、例えば、心臓、肺、複合心肺、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚、角膜等の移植における拒絶反応の抑制、例えば、関節炎、リウマチ疾患、全身性エリテマトーデス、多軟骨炎、硬皮症、ウェゲナー肉芽腫、皮膚筋炎、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、乾癬、スティーブン− ジョンソン症候群、特発性スプルー、自己免疫炎症性大腸炎、内分泌性眼病、グレーブス病、結節炎、多発性硬化症、原発性胆汁性肝炎、若年性糖尿病(I 型糖尿病)、ブドウ膜炎、乾燥性角結膜炎、春季角結膜炎、間質性肺線維症、乾癬性関節炎、糸球体腎炎、若年性皮膚筋炎等の自己免疫疾患及び炎症性疾患、喘息、例えば乳癌、腎癌、神経内分泌腫瘍、リンパ増殖性疾患、B細胞リンパ腺癌、結節性硬化症、増殖性皮膚疾患等の癌や過増殖性疾患等が挙げられる。これらの疾患に限定されるものではないが、適用する好ましい疾患として挙げることができる。
【0037】
本発明の医薬組成物を用いた医薬品の投与量は、患者の性別、年齢、生理的状態、病態等により当然変更されうるが、例えば成人1日当たり、ラパマイシン又はその誘導体として0.01〜100mg/m(体表面積)を投与する。この投与量に限定されるものではないが、適用する好ましい投与量として挙げることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本試験例における液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた分析においては、以下の条件にて測定した。
測定カラム:Zorbax Eclipse XDB-C18, Rapid resolution HT, 100mm × 4.6mm, 1.8 μm
検出器:紫外吸光光度計(測定波長278nm)
カラム温度:45℃
移動相A:0.1%ギ酸,移動相B:メタノール/アセトニトリル = 50/50
移動相の濃度勾配:
【0039】
【表1】
【0040】
流量:1.5mL/min
注入量:10μL
【0041】
[実施例1]
試験管にエベロリムス 50mgを秤量し、パルミチン酸アスコルビル(和光純薬工業社製)EtOH 溶液(10mg/mL)90μL、およびDL−α−トコフェロール(理研Eオイル1000、理研ビタミン社製)EtOH 溶液(10mg/mL)10μLを加え超音波を10分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。この混合溶液にEtOH 100μLを加え希釈後、無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)450mgとヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)50mgを乳鉢に秤量し乳棒で撹拌し混合したところへ、パスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して実施例1に係る医薬組成物を調製した。
【0042】
[比較例1]
試験管にエベロリムス 70mgを秤量し、EtOH 200μLを加え超音波を10分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。この溶液を無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)630mgとヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)70mgを乳鉢に秤量し乳棒で撹拌し混合したところへ、パスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥した。
【0043】
[比較例2]
試験管にエベロリムス 70mgを秤量し、DL−α−トコフェロール(理研Eオイル1000、理研ビタミン社製)EtOH 溶液(14mg/mL)100μLを加え超音波を10分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。この混合溶液にEtOH 100μLを加え希釈後、無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)630mgとヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)70mgを乳鉢に秤量し乳棒で撹拌し混合したところへ、パスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥した。
【0044】
[比較例3]
試験管にエベロリムス 70mgを秤量し、パルミチン酸アスコルビル(和光純薬工業社製)EtOH 溶液(14mg/mL)100μLを加え超音波を10分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。この混合溶液にEtOH 100μLを加え希釈後、無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)630mgとヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)70mgを乳鉢に秤量し乳棒で撹拌し混合したところへ、パスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥した。
【0045】
[試験例1]
実施例1および比較例1〜3の方法で得られた医薬組成物約500mgを褐色サンプル瓶に採取し蓋をしないで、遮光下60℃/飽和塩化コバルト水溶液にて調湿したデシケータ内に保存した。
保存3日後および14日後のエベロリムスの残存量を液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定し、各時点におけるエベロリムスの残存率を算出した。なお残存率は以下の式に従い算出した。結果を表2に示した。
エベロリムス残存率(%)=(各時点におけるHPLC測定エベロリムスピーク面積/粉体秤量値)/(保存前(イニシャル)におけるHPLC測定エベロリムスピーク面積/粉体秤量値)×100
【0046】
【表2】
【0047】
この結果、比較例2および3の抗酸化剤としてDL−α−トコフェロールまたはパルミチン酸アスコルビルの単独使用した場合、比較例1の抗酸化剤無添加のものと同程度エベロリムスの分解が進んでおり、母格としてラパマイシン構造を有する化合物において、DL−α−トコフェロールまたはパルミチン酸アスコルビルは抗酸化効果を示さないことが明らかとなった。しかしながら驚くべきことに、単独では抗酸化効果を示さないこれらの抗酸化剤を組み合わせることで、強力なエベロリムスの安定化効果を示すことが明らかとなった。