特許第6793694号(P6793694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793694シリンダボア壁の保温具、内燃機関及び自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793694
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】シリンダボア壁の保温具、内燃機関及び自動車
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20201119BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   F02F1/14 Z
   F01P3/02 P
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-152332(P2018-152332)
(22)【出願日】2018年8月13日
(65)【公開番号】特開2020-26778(P2020-26778A)
(43)【公開日】2020年2月20日
【審査請求日】2019年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絢也
(72)【発明者】
【氏名】片岡 辰徳
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−140657(JP,A)
【文献】 特開2017−089435(JP,A)
【文献】 特開2017−089528(JP,A)
【文献】 特開2009−264286(JP,A)
【文献】 特開2006−090193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/14
F01P 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、該溝状冷却水流路への冷却水の流入口に対向するボア壁を保温するための保温具であり、
該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触し、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆うためのゴム部材と、該ゴム部材が固定される金属基体部材と、を有し、
該金属基体部材は、
該ゴム部材全体を背面側から該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けるための板状の背面押し付け部と、
該背面押し付け部の背面側に設けられた枠状の弾性部付設部材と、
該弾性部付設部材と一体になるように該弾性部付設部材に打ち抜き加工で形成され、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって、該背面押し付け部が該ゴム部材を押し付けるように付勢する弾性部と、
該弾性部付設部材と一体になるように該弾性部付設部材に打ち抜き加工で形成され、該金属基体部材の背面から該シリンダブロックの該冷却水の流入口の内側の下部に向かって延出し、延出端の位置が該溝状冷却水流路の外側の壁面の位置より外であり、該金属基体部材の移動を制限するための移動制限部と、
を有すること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具。
【請求項2】
前記ゴム部材が、感熱膨張ゴム又は水膨潤ゴムであることを特徴とする請求項1記載のシリンダボア壁の保温具。
【請求項3】
溝状冷却水流路内に請求項1又は2いずれか1項記載のシリンダボア壁の保温具が設置されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
請求項3記載の内燃機関を有することを特徴とする自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックのシリンダボア壁の溝状冷却水流路側の壁面に接触させて配置される保温具及びそれを備える内燃機関並びに該内燃機関を有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、ボア内のピストンの上死点で燃料の爆発が起こり、その爆発によりピストンが押し下げられるという構造上、シリンダボア壁の上側は温度が高くなり、下側は温度が低くなる。そのため、シリンダボア壁の上側と下側では、熱変形量に違いが生じ、上側は大きく膨張し、一方、下側の膨張が小さくなる。
【0003】
その結果、ピストンのシリンダボア壁との摩擦抵抗が大きくなり、これが、燃費を下げる要因となっているので、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくすることが求められている。
【0004】
そこで、従来より、シリンダボア壁の壁温を均一にするために、溝状冷却水流路内にスペーサーを設置し、溝状冷却水流路内の冷却水の水流を調節して、冷却水によるシリンダボア壁の上側の冷却効率と及び下側の冷却効率を制御することが試みられてきた。例えば、特許文献1には、内燃機関のシリンダブロックに形成された溝状冷却用熱媒体流路内に配置されることで溝状冷却用熱媒体流路内を複数の流路に区画する流路区画部材であって、前記溝状冷却用熱媒体流路の深さに満たない高さに形成され、前記溝状冷却用熱媒体流路内をボア側流路と反ボア側流路とに分割する壁部となる流路分割部材と、前記流路分割部材から前記溝状冷却用熱媒体流路の開口部方向に向けて形成され、かつ先端縁部が前記溝状冷却用熱媒体流路の一方の内面を越えた形に可撓性材料で形成されていることにより、前記溝状冷却用熱媒体流路内への挿入完了後は自身の撓み復元力により前記先端縁部が前記内面に対して前記溝状冷却用熱媒体流路の深さ方向の中間位置にて接触することで前記ボア側流路と前記反ボア側流路とを分離する可撓性リップ部材と、を備えたことを特徴とする内燃機関冷却用熱媒体流路区画部材が開示されている。
【0005】
引用文献1の内燃機関冷却用熱媒体流路区画部材によれば、ある程度のシリンダボア壁の壁温の均一化が図れるので、シリンダボア壁の上側と下側との熱変形量の違いを少なくすることができるものの、シリンダボア壁の全体に対し画一的な制御しか行えない。
【0006】
ところが、シリンダボア壁全体が、同様な温度状況になることはなく、実際には、保温が必要なところもあれば、保温が必要でないところも存在する。そのようなことから、例えば、特許文献2には、シリンダボアのうち、1つのシリンダボアのボア壁だけを選択的に保温するための保温具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−31939号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−162473号公報(図4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シリンダブロックの溝状冷却水流路への冷却水の流入口近辺のシリンダボア壁の近傍には、温度が低い冷却水が流れ、且つ、冷却水の流れが速いため、他のシリンダボア壁に比べ、温度が下がり過ぎる。このことから、冷却水の流入口近辺のシリンダボア壁を選択的に保温する保温具を設置することが必要となる。そのために、冷却水の流入口に対向する部分の保温用のシリンダボア壁の保温具を設置することになる。
【0009】
ところが、内燃機関の運転中は、エンジンには振動が加わるため、引用文献2のシリンダボア壁の保温具では、シリンダボア壁の保温具が上下方向又は溝状冷却水流路の周方向に移動して位置ずれを起こし易い。
【0010】
従って、本発明の課題は、シリンダブロックの溝状冷却水流路への冷却水の流入口に対向するシリンダボア壁を保温するための保温具であり、上下方向及び溝状冷却水流路の周方向への移動を制限することができるシリンダボア壁の保温具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、該溝状冷却水流路への冷却水の流入口に対向するボア壁を保温するための保温具であり、
該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触し、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆うためのゴム部材と、該ゴム部材が固定される金属基体部材と、を有し、
該金属基体部材は、該ゴム部材全体を背面側から該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けるための背面押し付け部と、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって、該背面押し付け部が該ゴム部材を押し付けるように付勢する弾性部と、該金属基体部材の背面から該シリンダブロックの該冷却水の流入口の内側の下部に向かって延出し、延出端の位置が該溝状冷却水流路の外側の壁面の位置より外であり、該金属基体部材の移動を制限するための移動制限部と、を有すること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記ゴム部材が、感熱膨張ゴム又は水膨潤ゴムであることを特徴とする(1)のシリンダボア壁の保温具を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、溝状冷却水流路内に(1)又は(2)いずれかのシリンダボア壁の保温具が設置されていることを特徴とする内燃機関を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、(3)の内燃機関を有することを特徴とする自動車を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シリンダブロックの溝状冷却水流路への冷却水の流入口に対向するシリンダボア壁を保温するための保温具であり、上下方向及び溝状冷却水流路の周方向への移動を制限することができるシリンダボア壁の保温具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示す模式的な平面図である。
図2図1のx−x線断面図である。
図3図1に示すシリンダブロックの斜視図である。
図4図1に示すシリンダブロックの冷却水の流入口を上から見た図である。
図5図1に示すシリンダブロックの冷却水の流入口を、溝状冷却水流路側から見た図である。
図6図1に示すシリンダブロックの冷却水の供給口を外側から見た図である。
図7】本発明のシリンダボア壁の保温具の形態例を示す模式的な斜視図である。
図8図7中のシリンダボア壁の保温具30を感熱膨張ゴム側から見た図である。
図9図7中のシリンダボア壁の保温具30を背面側から見た図である。
図10図7中のシリンダボア壁の保温具30を上から見た図である。
図11図10のx−x線端面図である。
図12図7中のシリンダボア壁の保温具30の各部材の重ね合わせ方を示す図である。
図13図7中のシリンダボア壁の保温具30の各部材の重ね合わせ方を示す図である。
図14図7中の弾性部付設部材31を金属板から作成するための切り落とし部分を示す図である。
図15図7中の正面側当て板34を金属板から作成するための切り落とし部分を示す図である。
図16図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具30を設置する様子を示す模式図である。
図17図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具30が設置されている様子を示す模式的な平面図である。
図18図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具30が設置されている様子を示す模式図な端面図である。
図19図18中の感熱膨張ゴム33が膨張してボア壁に接触している様子を示す図である。
図20】内燃機関の運転中のシリンダボア壁の保温具30の移動及び冷却水の流れを示す模式的な平面図である。
図21】内燃機関の運転中のシリンダボア壁の保温具30の移動及び冷却水の流れを示す模式的な端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のシリンダボア壁の保温具及び本発明の内燃機関について、図1図15を参照して説明する。図1図3は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示すものであり、図1は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックを示す模式的な平面図であり、図2は、図1のx−x線断面図であり、図3は、図1に示すシリンダブロックの斜視図である。図4は、シリンダブロックの冷却水の流入口を上から見た図であり、図5は、シリンダブロックの冷却水の流入口を、溝状冷却水流路側から見た図であり、図6は、冷却水の供給口を外側から見た図である。図7は、本発明のシリンダボア壁の保温具の形態例を示す模式的な斜視図である。図8は、図7中のシリンダボア壁の保温具30を感熱膨張ゴム側から見た図である。図9は、図7中のシリンダボア壁の保温具30を背面側から見た図である。図10は、図7中のシリンダボア壁の保温具30を上から見た図である。図11は、図10のx−x線端面図である。図12及び図13は、図7中のシリンダボア壁の保温具30の各部材の重ね合わせ方を示す図である。図14は、図7中の弾性部付設部材31を金属板から作成するための切り落とし部分を示す図である。図15は、図7中の正面側当て板34を金属板から作成するための切り落とし部分を示す図である。
【0018】
図1図3に示すように、シリンダボア壁の保温具が設置される車両搭載用内燃機関のオープンデッキ型のシリンダブロック11には、ピストンが上下するためのボア12、及び冷却水を流すための溝状冷却水流路14が形成されている。そして、ボア12と溝状冷却水流路14とを区切る壁が、シリンダボア壁13である。また、シリンダブロック11には、溝状冷却水流路14へ冷却水を供給するための冷却水の供給経路15及び冷却水を溝状冷却水流路14から排出するための冷却水排出口16が形成されている。
【0019】
このシリンダブロック11には、2つ以上のボア12が直列に並ぶように形成されている。そのため、ボア12には、1つのボアに隣り合っている端ボア12a1、12a2と、2つのボアに挟まれている中間ボア12b1、12b2とがある(なお、シリンダブロックのボアの数が2つの場合は、端ボアのみである。)。直列に並んだボアのうち、端ボア12a1、12a2は両端のボアであり、また、中間ボア12b1、12b2は、一端の端ボア12a1と他端の端ボア12a2の間にあるボアである。端ボア12a1と中間ボア12b1の間の壁、中間ボア12b1と中間ボア12b2の間の壁及び中間ボア12b2と端ボア12a2の間の壁(ボア間壁191)は、2つのボアに挟まれる部分なので、2つのシリンダボアから熱が伝わるため、他の壁に比べ壁温が高くなる。そのため、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17では、ボア間壁191の近傍が、温度が最も高くなるので、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17のうち、各シリンダボアのボア壁の境界192及びその近傍の温度が最も高くなる。
【0020】
本発明では、溝状冷却水流路14の壁面のうち、シリンダボア13側の壁面を、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17と記載し、溝状冷却水流路14の壁面のうち、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17とは反対側の壁面を、溝状冷却水流路の外側の壁面18と記載する。
【0021】
シリンダブロック11に形成されている冷却水の供給経路15は、外からシリンダブロック11内へ冷却水を供給するための冷却水の供給口151と、シリンダブロック11内へ供給される冷却水が、一旦供給される冷却水の前段供給室152と、冷却水を前段供給室152から溝状冷却水流路14内へ流入させるための冷却水の流入口153と、からなる。また、シリンダブロック11には、冷却水を溝状冷却水流路14からシリンダブロック11の外に排出するための冷却水の排出口16が設けられている。
【0022】
そして、内燃機関の運転中、冷却水の供給口151からシリンダブロック11に供給された冷却水は、前段供給室152を経て、冷却水の流入口153より、溝状冷却水流路14内に流れ込み、図1中、紙面上の上側の溝状冷却水流路14と、下側の溝状冷却水流路14とに分かれ、冷却水の排出口16に向かって流れ、冷却水の排出口16からシリンダブロック11の外に排出される。
【0023】
図7図11に示すシリンダボア壁の保温具30は、図1中、シリンダブロック11に設けられている冷却水の流入口153に対向するボア壁、すなわち、シリンダボア12a2のボア壁20を保温するための保温具である。そのため、シリンダボア壁の保温具30は、冷却水の流入口153の近傍の溝状冷却水流路14に設置される。
【0024】
シリンダボア壁の保温具30は、金属板バネ37及び移動制限金属板38が付設されており、上から見た時に円弧状に成形されている弾性部付設部材31と、上から見た時に円弧状に成形されている背面側押し付け部材32と、感熱膨張ゴム33と、上から見た時に円弧状に成形されている正面側当て板34と、が順に重ね合わされ、弾性部付設部材31の上端に形成されている折り曲げ部35a、弾性部付設部材31の下端に形成されている折り曲げ部35b、弾性部付設部材31の右端に形成されている折り曲げ部36a、及び弾性部付設部材31の左端に形成されている折り曲げ部36bが、図8に示すように、正面側当て板34側に折り曲げられて、折り曲げ部35a、35b、36a、36bと弾性部付設部材31との間に、背面側押し付け部材32、感熱膨張ゴム33及び正面側当て板34が挟み込まれることにより、作製される。つまり、シリンダボア壁の保温具30は、感熱膨張ゴム33と、弾性部付設部材31、背面押し付け部材32及び正面側当て板34からなる金属基体部材29と、を有する。なお、図7に示す形態例では、弾性部付設部材31、背面押し付け部材32及び正面側当て板34が共同して、感熱膨張ゴム33を固定しているので、弾性部付設部材31、背面押し付け部材32及び正面側当て板34が金属基体部材である。
【0025】
感熱膨張ゴム33は、溝状冷却水流路内で感熱膨張し、シリンダボア12a2のボア壁20に直接接触して、ボア壁20の保温箇所を覆い、ボア壁20を保温するための部材である。
【0026】
背面側押し付け部材32は、上から見たときに、円弧状に成形されており、感熱膨張ゴム33の全体を感熱膨張ゴム33の背面側から押し付けることができるように、感熱膨張ゴム33の背面側(接触面26側とは反対側の面)に沿う形状である。
【0027】
また、弾性部付設部材31は、上から見たときに、円弧状に成形されており、背面側押し付け部材32の背面側(感熱膨張ゴム33とは反対側の面)に沿う形状である。弾性部付設部材31には、弾性部である金属板バネ37と、移動制限部である移動制限金属板38と、が付設されている。金属板バネ37は、縦長の長方形の金属板であり、長手方向の一端が弾性部付設部材31に繋がっている。金属板バネ37は、弾性部付設部材31に繋がっている一端側で、弾性部付設部材31から折り曲げられることにより、他端側が弾性部付設部材31から離れるように、弾性部付設部材33に付設されている。金属板バネ37の他端側は、当接部371が溝状冷却水流路の外側の壁面18に接触するように、当接部371の位置で折り曲げられている。移動制限金属板38は、矩形の金属板であり、弾性部付設部材31の背面側から外側に向かって水平方向に延出するように、弾性部付設部材33に付設されている。
【0028】
正面側当て板34は、上から見た時に円弧状に成形されており、正面側から見た時に、矩形状の開口301が形成されている。そして、弾性部付設部材31の上端に形成されている折り曲げ部35a、弾性部付設部材31の下端に形成されている折り曲げ部35b、弾性部付設部材31の右端に形成されている折り曲げ部36a、及び弾性部付設部材31の左端に形成されている折り曲げ部36bが、正面側当て板34側に折り曲げられて、弾性部付設部材31と折り曲げ部35a、35b、36a、36bとの間に、背面側押し付け部材32、感熱膨張ゴム33及び正面側当て板34が挟み込まれることにより、これらの部材が固定されている。なお、感熱膨張ゴム33では、背面側押し付け部材32側とは反対側の面が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に接する接触面26である。
【0029】
シリンダボア壁の保温具30が、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置されたときに、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に、感熱膨張ゴム33が膨張して接触し、感熱膨張ゴム33で溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17を覆う。このとき、感熱膨張ゴム33とは反対側に向けて張り出している金属板バネ37が、シリンダボア側の壁面17とは反対側の壁面、すなわち、溝状冷却水流路14の外側の壁面18に接触し、付勢力を生じさせる。そして、生じた金属板バネ37の付勢力で、背面押し付け部材32が、感熱膨張ゴム33を、背面側から溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に向けて押し付けるので、感熱膨張ゴム33が溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に密着される。
【0030】
シリンダボア壁の保温具30の作製手順について説明する。図12及び図13に示すように、感熱膨張ゴム33の接触面側に正面側当て板34を合わせ、感熱膨張ゴム33の背面側に、背面押し付け部材32と、金属板バネ37、移動制限金属板38及び折り曲げ部35a、35b、36a、36bが形成されている弾性部付設部材31と、を順に合わせ、次いで、折り曲げ部35a、35b、36a、36bを折り曲げて、図7図11に示すように、弾性部付設部材31と、折り曲げ部35a、35b、36a、36bとで、背面押し付け部材32、感熱膨張ゴム33及び正面側当て板34を挟み込ませることにより、弾性部付設部材31、背面押し付け部材32及び正面当て板34からなる金属基体部材29に、感熱膨張ゴム33を固定して、シリンダボア壁の保温具30を作製する。
【0031】
なお、弾性部付設部材33の作製手順であるが、図14に示すように、金属板51を用意し、図14中の斜線で記した部分を切り落として、金属板バネ37、移動制限金属板38、折り曲げ部35a、35b、36a、36bを形成させて、金属板の打ち抜き物52を作製する。次いで、金属板の打ち抜き物52全体を円弧状に成形し、且つ、金属板バネ37を背面側に張り出すように曲げ、更に、金属板バネ37の先端側を折り曲げ、移動制限金属板38を水平方向に延出するように曲げることにより、弾性部付設部材31を作製する。また、正面側当て板33の作製手順であるが、図15に示すように、金属板53を用意し、図15中の斜線で記した部分を切り落として、開口301を形成させて、金属板の打ち抜き物54を作製する。次いで、金属板の打ち抜き物54を円弧状に成形することにより、正面側当て板34を作製する。
【0032】
シリンダボア壁の保温具30は、例えば、図1に示すシリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置される。図16は、図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具30を設置する様子を示す模式図である。図16に示すように、シリンダボア壁の保温具30を、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14のうち、冷却水の流入口153が形成されている位置に挿入して、図17及び図18に示すように、シリンダボア壁の保温具30を、溝状冷却水流路14に設置する。このとき、図17及び図18に示すように、シリンダボア壁の保温具30の移動制限金属板38が、冷却水の流入口153に入り込むように、シリンダボア壁の保温具30を設置する。
【0033】
図17及び図18に示すように、溝状冷却水流路14内に冷却水が供給される前の状態において、移動制限金属板38は、冷却水の流入口153に内側の下部に向かって延出しており、移動制限金属板38の延出端382は、溝状冷却水流路14の外側の壁面18の位置より外に位置している。なお、図17及び図18は、図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具30が設置されている様子を示す模式図であり、シリンダボア壁の保温具30の設置位置近傍の拡大図であり、図17は平面図であり、図18は端面図である。
【0034】
その後、シリンダボア壁の保温具30が、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14内に設置された後、内燃機関が運転されると、感熱膨張ゴム33が加熱されて、感熱膨張する。そして、図19に示すように、感熱膨張ゴム33は、正面側当て板34の内側部分に形成されている開口301を通って、シリンダボア側の壁面17に向かって膨張し、接触面26がシリンダボア側の壁面17に接触する。接触面26がシリンダボア側の壁面17に接触した後も、感熱膨張ゴム33は膨張を続け、開放状態まで膨張しようとする。そのため、金属板バネ37の当接部371には、弾性部付設部材31に向かう方向に力が加えられる。このことにより、金属板バネ37は、当接部371が弾性部付設部材31側に近づくように変形するので、金属板バネ37には、元に戻ろうとする弾性力が生じる。そして、この弾性力により、弾性部付設部材31は、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に向かって押され、その結果、弾性部付設部材31により押された背面側押し付け部材32により、感熱膨張ゴム33が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に押し付けられる。つまり、シリンダボア壁の保温具30が、溝状冷却水流路14に設置され、感熱膨張ゴム33が加熱されて感熱膨張することにより、金属板バネ37が変形し、その変形が戻ろうとして生じる弾性力により、感熱膨張ゴム33を溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に押し付けるように、背面側押し付け部材32が付勢される。このようにして、シリンダボア壁の保温具30の感熱膨張ゴム33が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に接触する。図19は、図18中の感熱膨張ゴム33が膨張してボア壁に接触している様子を示す図である。
【0035】
図19に示すように、内燃機関が運転されて、感熱膨張ゴム33が膨張した後の状態において、移動制限金属板38は、冷却水の流入口153に内側の下部に向かって延出しており、移動制限金属板38の延出端382は、溝状冷却水流路14の外側の壁面18の位置より外に位置している。
【0036】
次に、内燃機関の運転中のシリンダボア壁の保温具の移動の制限について説明する。図20に示すように、内燃機関の運転中の振動によって、シリンダボア壁の保温具30は、横方向では、符号41で示す溝状冷却水流路の周方向に動く。しかし、冷却水の流入口153の内側まで、シリンダボア壁の保温具30の移動制限金属板38が延出しているので、移動制限金属板38により、図20中の溝状冷却水流路の周方向左側へのシリンダボア壁の保温具30の移動が、移動制限金属板38の横側端部381aが冷却水の流入口153の内壁154aに接触する位置までに制限される。同様に、移動制限金属板38により、図20中の溝状冷却水流路の周方向右側へのシリンダボア壁の保温具30の移動が、移動制限金属板38の横側端部381bが冷却水の流入口153の内壁154bに接触する位置までに制限される。
【0037】
また、図21に示すように、内燃機関の運転中の振動によって、シリンダボア壁の保温具30は、符号42で示す上下方向に動く。しかし、冷却水の流入口153の内側まで、シリンダボア壁の保温具30の移動制限金属板38が延出しているので、図21中の下方向へのシリンダボア壁の保温具30の移動が、移動制限金属板38の下面383が冷却水の流入口153の内壁155に接触することで制限される。
【0038】
更に、図20及び図21に示すように、冷却水40は、前段供給室152から冷却水の流入口153に向かった後、移動制限金属板38の延出端382から、移動制限金属板38の横側端部381a、bに向け、移動制限金属板38の上面を流れた後、溝状冷却水流路14の下側に向かって流れる。そのため、移動制限金属板38の上側から、移動制限金属板38の横側を通って、下向きに流れる冷却水の水流により、移動制限金属板38は、上側から押されられるような状態となる。そして、このような冷却水の流れにより、図21中の上方向へのシリンダボア壁の保温具30の移動が制限される。
【0039】
以上のように、シリンダボア壁の保温具30の背面側に、冷却水の流入口153に内側の下部に向かって延出し、延出端382の位置が溝状冷却水流路14の外側の壁面18の位置より外となる移動制限金属板38が付設されていることにより、シリンダボア壁の保温具30が、上下方向及び溝状冷却水流路の周方向に移動することが制限される。図20及び図21は、内燃機関の運転中のシリンダボア壁の保温具30の移動及び冷却水の流れを示す模式図であり、シリンダボア壁の保温具30の設置位置近傍の拡大図であり、図20は平面図であり、図21は端面図である。
【0040】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、該溝状冷却水流路への冷却水の流入口に対向するボア壁を保温するための保温具であり、
該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触し、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆うためのゴム部材と、該ゴム部材が固定される金属基体部材と、を有し、
該金属基体部材は、該ゴム部材全体を背面側から該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けるための背面押し付け部と、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって、該背面押し付け部材が該ゴム部材を押し付けるように付勢する弾性部と、該金属基体部材の背面から該シリンダブロックの該冷却水の流入口の内側の下部に向かって延出し、延出端の位置が該溝状冷却水流路の外側の壁面の位置より外であり、該金属基体部材の移動を制限するための移動制限部と、を有すること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具である。
【0041】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置される。本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックは、シリンダボアが直列に2つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックである。シリンダブロックが、シリンダボアが直列に2つ並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアからなるシリンダボアを有している。また、シリンダブロックが、シリンダボアが直列に3つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアと1つ以上の中間ボアとからなるシリンダボアを有している。なお、本発明では、直列に並んだシリンダボアのうち、両端のボアを端ボアと呼び、両側が他のシリンダボアで挟まれているボアを中間ボアと呼ぶ。
【0042】
本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックには、冷却水を流すための溝状冷却水流路が形成されている。ボアと溝状冷却水流路とを区切る壁が、シリンダボア壁である。そして、シリンダブロックには、溝状冷却水流路へ冷却水を供給するための冷却水の供給経路及び冷却水を溝状冷却水流路から排出するための冷却水の排出口が形成されている。冷却水の供給経路のうち、シリンダブロック内に冷却水を供給するための冷却水の供給口の位置及び形状、溝状冷却水流路への冷却水の流入口の位置及び形状、冷却水の供給口と冷却水の流入口とを繋ぐ経路の形状等は、適宜選択される。シリンダボア壁の上方ほど、温度が高くなるので、冷却水の流入口の上下方向の位置は、通常、溝状冷却水流路の上方である。また、通常、シリンダブロックへの冷却水の供給口は、下方に設けられている。また、通常、シリンダブロックへの冷却水の供給口の位置と、溝状冷却水流路への冷却水の流入口の位置とは、上下方向の位置が異なるので、それらを繋ぐ経路(図1に示す形態例では、冷却水の前段供給室152)が設けられている。
【0043】
冷却水の流入口から流入した直後の冷却水は温度が低く、冷却水の流入口の近傍の溝状冷却水流路の流れは速いため、冷却水の流入口に対向するシリンダボア壁は、他のボア壁に比べ、冷却され過ぎることになる。そこで、本発明のシリンダボア壁の保温具は、冷却水の流入口に対向するシリンダボア壁が冷却され過ぎないようにするために、設置される。そのため、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置される位置は、溝状冷却水流路のうち、冷却水の流入口が形成されている位置の近傍である。本発明のシリンダボア壁の保温具により保温するシリンダボア壁の上下方向の位置、ゴム部材の大きさ及び設置範囲は、適宜選択される。
【0044】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、ゴム部材と、金属基体部材と、を有する。
【0045】
ゴム部材は、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に直接接して、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆い、シリンダボア壁を保温する部材であり、弾性部の付勢力で、金属基体部材によって、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に押し付けられる。そのため、このゴム部材は、上から見たときに、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面のうち、冷却水の流入口に対向する壁面に沿う形状、つまり、円弧状の形状に成形されている。また、ゴム部材を横から見たときの形状は、ゴム部材で覆わせようとする溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の部分に合わせて、適宜選択される。
【0046】
ゴム部材の材質としては、例えば、ソリッドゴム、膨張ゴム、発泡ゴム、軟性ゴム等のゴム、シリコーン系ゲル状素材等が挙げられる。シリンダボア壁の保温具を溝状冷却水流路内に設置するときに、ゴム部材がシリンダボア壁に強く接触して、ゴム部材が削られるのを防ぐことができる点で、シリンダボア壁の保温具の設置後に、溝状冷却水流路内でゴム部材部分を膨張させることができる感熱膨張ゴム又は水膨潤性ゴムが好ましい。なお、ゴム部材の材質が、溝状冷却水流路内で膨張しない材質の場合は、付勢力は専ら弾性部により生じ、また、ゴム部材の材質が、溝状冷却水流路内で膨張する材質の場合は、付勢力は弾性部と膨張ゴムの共同により生じる。
【0047】
ソリッドゴムの組成としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0048】
膨張ゴムとしては、感熱膨張ゴムが挙げられる。感熱膨張ゴムは、ベースフォーム材にベースフォーム材より融点が低い熱可塑性物質を含浸させ圧縮した複合体であり、常温では少なくともその表層部に存在する熱可塑性物質の硬化物により圧縮状態が保持され、且つ、加熱により熱可塑性物質の硬化物が軟化して圧縮状態が開放される材料である。感熱膨張ゴムとしては、例えば、特開2004−143262号公報に記載の感熱膨張ゴムが挙げられる。ゴム部材の材質が感熱膨張ゴムの場合は、本発明のシリンダボア壁の保温具が溝状冷却水流路に設置され、感熱膨張ゴムに熱が加えられることで、感熱膨張ゴムが膨張して、所定の形状に膨張変形する。
【0049】
感熱膨張ゴムに係るベースフォーム材としては、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の各種高分子材料が挙げられ、具体的には、天然ゴム、クロロプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴム、軟質ウレタン等の各種エラストマー、硬質ウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の各種熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0050】
感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ガラス転移点、融点又は軟化温度のいずれかが120℃未満であるものが好ましい。感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリルブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、低融点ガラスフリット、でんぷん、はんだ、ワックス等の各種熱可塑性化合物が挙げられる。
【0051】
また、膨張ゴムとしては、水膨潤性ゴムが挙げられる。水膨潤性ゴムは、ゴムに吸水性物質が添加された材料であり、水を吸収して膨潤し、膨張した形状を保持する保形性を有するゴム材である。水膨潤性ゴムとしては、例えば、ポリアクリル酸中和物の架橋物、デンプンアクリル酸グラフト共重合体架橋物、架橋カルボキシメチルセルロース塩、ポリビニルアルコール等の吸水性物質がゴムに添加されたゴム材が挙げられる。また、水膨潤性ゴムとしては、例えば、特開平9−208752号公報に記載されているケチミン化ポリアミド樹脂、グリシジルエーテル化物、吸水性樹脂及びゴムを含有する水膨潤性ゴムが挙げられる。ゴム部材の材質が水膨潤性ゴムの場合は、本発明のシリンダボア壁の保温具が溝状冷却水流路に設置され冷却水が流されて、水膨潤性ゴムが水を吸収することで、水膨潤性ゴムが膨張して所定の形状に膨張変形する。
【0052】
発泡ゴムは、多孔質のゴムである。発泡ゴムとしては、連続気泡構造を有するスポンジ状の発泡ゴム、独立気泡構造を有する発泡ゴム、半独立発泡ゴム等があげられる。発泡ゴムの材質としては、具体的には、例えば、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、ニトリルブタジエン共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。発泡ゴムの発泡率は、特に制限されず、適宜選択され、発泡率を調節することにより、ゴム部材の含水率を調節することができる。なお、発泡ゴムの発泡率とは、((発泡前密度−発泡後密度)/発泡前密度)×100で表される発泡前後の密度割合を指す。
【0053】
ゴム部材の材質が水膨潤性ゴム、発泡ゴムのように、含水することができる材料の場合、本発明のシリンダボア壁の保温具が、溝状冷却水流路内に設置され、溝状冷却水流路に冷却水が流されたときに、ゴム部材が含水する。溝状冷却水流路に冷却水が流されたときに、ゴム部材の含水率を、どのような範囲とするかは、内燃機関の運転条件等により、適宜選択される。なお、含水率とは、(冷却水重量/(充填剤重量+冷却水重量))×100で表される重量含水率を指す。
【0054】
ゴム部材の形状及び厚みは、特に制限されず、適宜選択される。
【0055】
金属基体部材は、ゴム部材が固定される部材である。金属基体部材は、少なくとも、背面押し付け部と、弾性部と、移動制限部と、を有する。金属基体部材は、背面押し付け部、弾性部及び移動制限部が一体となった部材からなっていてもよいし、2以上の部材の組み合わせからなっていてもよい。例えば、図7に示す形態例のように、金属基体部材は、背面押し付け部となる部材と、ゴム部材を固定するための固定部(折り曲げ部、正面側当て板等)、弾性部及び移動制限部が設けられている部材との組み合わせからなるものであってもよいし、あるいは、背面押し付け部となる部材に、ゴム部材を固定するための固定部(折り曲げ部、正面側当て板等)が形成され、弾性部及び移動制限部が、溶接等により付設されたものであってもよい。
【0056】
金属基体部材の材質は、特に制限されないが、耐LLC性が良く及び強度が高い点で、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金等が好ましい。
【0057】
背面押し付け部は、ゴム部材全体を背面側から溝状冷却水流路のシリンダボア壁側の壁面に向かって押し付けるための部分である。背面押し付け部は、上から見たときに、円弧状であり、ゴム部材の全体をゴム部材の背面側から押し付けることができるように、ゴム部材の背面側(接触面側とは反対側の面)に沿う形状であり、ゴム部材の背面側全体又はほぼ背面側全体を覆う形状である。背面押し付け部の厚みは、適宜選択される。背面押し付け部の材質は、適宜選択されるが、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属板が好ましい。
【0058】
弾性部は、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側に付設されている。この弾性部は、本発明のシリンダボア壁の保温具が、溝状冷却水流路に設置されることにより、弾性変形し、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって、背面押し付け部材がゴム部材を押し付けるように、弾性力により付勢するための部材である。
【0059】
弾性部は、本発明のシリンダボア壁の保温具に少なくとも1つ付設されていればよいが、本発明のシリンダボア壁の保温具を上から見たときに、本発明のシリンダボア壁の保温具の円弧方向に、2つ以上付設されていることが好ましく、3つ以上付設されていることが特に好ましい。
【0060】
弾性部の形態は、特に制限されず、例えば、板状の弾性部材、コイル状の弾性部材、重ね板バネ、トーションバネ、弾性ゴム等が挙げられる。弾性部としては、金属板バネ、コイルバネ、重ね板バネ、トーションバネ等の金属弾性部材が好ましい。
【0061】
弾性部としては、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面に接する部分及びその近傍が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面に対して膨出する曲面状に成形されていることが、本発明のシリンダボア壁の保温具を溝状冷却水流路内に挿入するときに、弾性部の壁面との接触部分により、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面が傷付けられるのを防ぐことができる点で好ましい。
【0062】
本発明のシリンダボア壁の保温具では、溝状冷却水流路に設置されたときに、弾性部により、ゴム部材が適切な押し付け力で付勢されるように、溝状冷却水流路の形状等に合わせて、弾性部の形態、形状、大きさ、設置位置、設置数等が、適宜選択される。
【0063】
図7に示すシリンダボア壁の保温具30では、弾性部付設部材と弾性部である金属板バネが一体成形され、金属板バネが形成されている弾性部付設部材に、ゴム部材及び背面押し付け部材が固定されることにより、弾性部がシリンダボア壁の保温具に付設されているが、シリンダボア壁の保温具に弾性部を付設する方法は、特に制限されない。他の方法としては、例えば、金属板バネ、金属コイルバネ、重ね板バネ又はトーションバネ等の金属製の弾性部材を金属板からなる背面押し付け部材に溶接し、弾性部が溶接された背面押し付け部材に、ゴム部材を固定する方法等が挙げられる。
【0064】
移動制限部は、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側に付設されている。この移動制限部は、内燃機関の運転時において、延出端側の部分が、冷却水の流入口の内側の下部に入り込んでいる。つまり、内燃機関の運転時において、移動制限部の延出端は、溝状冷却水流路の外側の壁面よりも外に位置している。移動制限部は、延出端側の部分が、冷却水の流入口の内側の下部に入り込むことにより、本発明のシリンダボア壁の保温具が、内燃機関の運転時の振動により、溝状冷却水流路内で動くのを制限するための部材である。
【0065】
移動制限部の形状は、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側から、冷却水の流入口の内側の下部に向けて延出し、延出端の位置が溝状冷却水流路の外側の壁面よりも外になる形状であれば、特に制限されず、例えば、矩形の板状、延出端側の側部が横に張り出しているT字状の板状やL字状の板状等の形状が挙げられる。
【0066】
移動制限部の材質は、特に制限されないが、耐LLC性が良く及び強度が高い点で、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金等が好ましい。
【0067】
本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側における、移動制限部の設置位置は、特に制限されず、冷却水の流入口の形成位置や形状により、適宜選択される。
【0068】
金属基体部材に、ゴム部材を固定する方法としては、特に制限されず、例えば、金属基体部材に折り曲げ部を設け(図7に示す形態例では、金属基体部材の構成部材である弾性部付設部材に折り曲げ部を設け)、金属基体部材と折り曲げ部とで、ゴム部材を挟み込むことにより固定する方法、金属基体部材に、接着剤を用いて、ゴム部材を貼り合せる方法などが挙げられる。また、金属基体部材に設けられている折り曲げ部で、ゴム部材を挟み込む場合、折り曲げ部でゴム部材を直接挟み込ませてもよいし、あるいは、ゴムが膨張ゴムであれば、図7に示す形態例のように、ゴム部材の接触面側に正面側当て板を介在させて、正面側当て板を介して、折り曲げ部でゴム部材を挟み込ませてもよい。
【0069】
金属基体部材は、少なくとも、弾性部、移動制限部及び背面押し付け部を有する。弾性部、移動制限部及び背面押し付け部は、全てが1つの部材に設けられていてもよい。あるいは、弾性部、移動制限部及び背面押し付け部の全部又は一部が異なる部材に設けられており、それらが設けられている部材が組み合わされることにより、金属基体部材が構成されていてもよい。
【0070】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、内燃機関の運転中の振動によって、上下方向と、溝状冷却水流路の周方向に動く。しかし、本発明のシリンダボア壁の保温具では、冷却水の流入口の内側まで、移動制限部が延出しているので、移動制限部により、溝状冷却水流路の周方向の移動が、移動制限部の横側端部が冷却水の流入口の内壁に接触する位置までに制限される。また、冷却水の流入口の内側まで、移動制限部が延出しているので、下方向への本発明のシリンダボア壁の保温具の移動が、移動制限部の下面が冷却水の流入口の内壁に接触することで制限される。また、冷却水の流入口から流入した冷却水が、移動制限部の上面を流れた後、溝状冷却水流路の下側に向かって、移動制限部の横側を流れることにより、移動制限部が、冷却水の水流により上側から押されられるような状態となるので、このような冷却水の流れにより、上方向への本発明のシリンダボア壁の保温具の移動が制限される。
【0071】
以上のように、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側に、冷却水の流入口に内側の下部に向かって延出し、延出端の位置が溝状冷却水流路の外側の壁面の位置より外の位置となる移動制限部が設けられていることにより、本発明のシリンダボア壁の保温具が、上下方向及び溝状冷却水流路の周方向に移動することが制限される。
【0072】
本発明の形態の内燃機関は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されていることを特徴とする内燃機関である。
【0073】
本発明の自動車は、本発明の内燃機関を有することを特徴とする自動車である。
【符号の説明】
【0074】
11 シリンダブロック
12 ボア
12a1、12a2 端ボア
12b1、12b2 中間ボア
13 シリンダボア壁
14 溝状冷却水流路
15 冷却水の供給経路
16 冷却水排出口
17 溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面
18 溝状冷却水流路14の外側の壁面
20 冷却水の流入口に対向するシリンダボア壁
26 接触面
29 金属基体部材
30 シリンダボア壁の保温具
31 弾性部付設部材
32 背面側押し付け部材
33 感熱膨張ゴム
34 正面側当て板
35a、35b、36a、36b 折り曲げ部
37 金属板バネ
38 移動制限金属板
40 冷却水
41 溝状冷却水流路の周方向
42 上下方向
51、53 金属板
52、54 金属板の打ち抜き物
151 冷却水の供給口
152 前段供給室
153 冷却水の流入口
154a、154b、155 冷却水の流入口の内壁
191 ボア間部
192 溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各シリンダボアのボア壁の境界
301 開口
371 当接部
381a、381b 横側端部
382 延出端
383 移動制限金属板の下面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21