(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793717
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】少なくとも1つのオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造を有する金属部材および/またはセラミック部材
(51)【国際特許分類】
A61L 27/40 20060101AFI20201119BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20201119BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20201119BHJP
A61L 27/30 20060101ALI20201119BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20201119BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
A61L27/40
A61L27/10
A61L27/04
A61L27/30
A61L27/50
A61L27/56
【請求項の数】15
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-504260(P2018-504260)
(86)(22)【出願日】2016年7月28日
(65)【公表番号】特表2018-524123(P2018-524123A)
(43)【公表日】2018年8月30日
(86)【国際出願番号】EP2016067973
(87)【国際公開番号】WO2017017167
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2019年6月4日
(31)【優先権主張番号】15178661.3
(32)【優先日】2015年7月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511004645
【氏名又は名称】セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ アラン ポルポラティ
(72)【発明者】
【氏名】マリタ ラシュケ
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト シュトライヒャー
(72)【発明者】
【氏名】マインハート クンツ
(72)【発明者】
【氏名】ローマン プロイス
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ゴトヴィク
【審査官】
高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2015/0191396(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0180518(US,A1)
【文献】
特表2010−524833(JP,A)
【文献】
Effect of strontium ranelate on hydrogen peroxide-induced apoptosis of CRL-11372 cells,Biochem Genet,2008年,Vol.46,p.197-205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00−27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材および/またはセラミック部材と、前記金属部材および/またはセラミック部材の表面上のオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造とを有するインプラントであって、前記表面(多)層構造が、アルミン酸ストロンチウムを含有する少なくとも1つのオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな層を含んでいる、前記インプラント。
【請求項2】
前記アルミン酸ストロンチウムの含量が、前記表面(多)層構造の合計重量を基準として、1重量%〜50重量%の範囲である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記アルミン酸ストロンチウムが小板の形態で存在する、請求項1または2記載のインプラント。
【請求項4】
前記オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造が幾つかのオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな層を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のインプラント。
【請求項5】
前記表面(多)層構造のオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな層が、異なるストロンチウム含量を有する、請求項4記載のインプラント。
【請求項6】
前記ストロンチウム含量は、最も外側の層が最も高いストロンチウム含量を有するように、層数とともに増加する、請求項5記載のインプラント。
【請求項7】
最も内側の層におけるアルミン酸ストロンチウムの量が、前記表面(多)層構造の合計重量を基準として、0重量%超〜5重量%未満である、請求項5または6記載のインプラント。
【請求項8】
前記表面(多)層構造が、アルミナ系セラミックおよびジルコニア系セラミックからなる群から選択されるセラミック系材料を含有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項9】
前記セラミック系材料が、ジルコニア小板で強化されたアルミナ系セラミックの群から選択される、請求項8記載のインプラント。
【請求項10】
前記ジルコニア小板で強化されたアルミナ系セラミックにおけるジルコニア含量は、前記表面(多)層構造の合計重量を基準として、25重量%までである、請求項9記載のインプラント。
【請求項11】
前記金属部材および/またはセラミック部材の表面が構造化されている、請求項1から10までのいずれか1項記載のインプラント。
【請求項12】
前記表面の構造化を、フライス加工、旋削加工、フライス加工と旋削加工との組み合わせ、セラミック射出成形、発泡剤添加による発泡プロセス、気孔形成剤添加による、焼結の間の気孔形成プロセス、研削プロセス、放電加工プロセスおよび付加製造から成る群より選択されるプロセスにより実施する、請求項11記載のインプラント。
【請求項13】
アルミン酸ストロンチウムを含有するセラミックスラリーを、未焼結状態にある金属部材および/またはセラミック部材の基材に適用する、請求項1から12までのいずれか1項記載のインプラントの製造方法。
【請求項14】
アルミン酸ストロンチウムを含有するオッセオインテグレーティブな表面(多)層構造を、焼結状態にある金属部材および/またはセラミック部材の基材に適用する、請求項1から12までのいずれか1項記載のインプラントの製造方法。
【請求項15】
前記オッセオインテグレーティブな表面(多)層構造を、気相成長またはプラズマ蒸着で堆積させる、請求項14記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に医療技術の分野における、改善されたオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな特性を有する金属部材および/またはセラミック部材に関し、この金属部材および/またはセラミック部材は、人体、例えば人間の骨盤の寛骨臼領域におけるセメントレス固定に適している。また、本発明は、金属部材および/またはセラミック部材の製造方法にも関する。
【0002】
今日では、オッセオインテグレーティブな表面構造を有する金属カップが、人間の骨盤の寛骨臼領域におけるセラミック挿入物のセメントレス固定に必要とされている。セラミックインプラントを直接骨の内部に固定するための1つの可能性は、例えば欧州特許出願公開第1268364号明細書(EP1268364A1)に記載されており、ここでセラミック体は、開気孔を有する表面構造で層状化されている。
【0003】
しかしながら、金属部材および/またはセラミック部材のオッセオインテグレーティブな特性(骨成長を促進する能力)をさらに向上させることが本発明の課題であった。
【0004】
本課題は、オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造を有する本発明の金属部材および/またはセラミック部材により解決され、ここでは、表面(多)層構造の表面層が、請求項1に記載されているようにアルミン酸ストロンチウムを含有する。また、アルミン酸ストロンチウムを含有するオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな多孔質の表面(多)層構造をセラミック基材の裏面に付与することにより、金属部材および/またはセラミック部材を直接埋入することも可能になる。
【0005】
本発明のオッセオインテグレーティブな表面(多)層構造を有する金属部材および/またはセラミック部材は、金属部材および/またはセラミック部材の金属表面またはセラミック表面上にあるオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブに基づく層中にアルミン酸ストロンチウムが存在するため、骨成長率を上昇させることができる。この表面(多)層構造は、オステオインダクティブな特性も有することができ、したがって、骨芽細胞の成長、成熟および活性を促進することができる。ストロンチウムは骨形成剤として知られている。ストロンチウム含有薬は、骨粗鬆症の骨の機械的安定性を促進する全身性の骨芽細胞活性薬剤として様々な臨床現場ですでに使用されているが、セラミック部材、特にインプラントの骨成長を促進するための有効成分としては記載されてこなかった。
【0006】
本発明において使用されるように、金属部材および/またはセラミック部材という用語は、金属だけまたはセラミック材料だけから成る部材を含むが、主にセラミックから成り、かつ例えば金属表面を有する部材も含む。本発明の好ましい金属部材および/またはセラミック部材は、医療技術の分野で使用されるセラミック部材である。
【0007】
本発明の金属部材および/またはセラミック部材は医療技術の分野で使用されるべきであるため、この部材は、好ましくはインプラント、例えば股関節置換術におけるカップまたは脊椎用のケージである。
【0008】
本発明のセラミック部材は、少なくとも1つのオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな層を有するその表面上に、オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造を有する。オッセオインテグレーティブな表面構造は、好ましくは多層構造であり、幾つかのオッセオインテグレーティブな層、例えば30個までの層を有する。好ましくは、オッセオインテグレーティブな表面(多)層構造は、1〜5つのオッセオインテグレーティブな層を有する。
【0009】
本発明のオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造は、セラミック系材料およびアルミン酸ストロンチウムを含有する。アルミン酸ストロンチウムという用語は、公知のあらゆるアルミン酸ストロンチウム化合物、例えば基本的なアルミン酸ストロンチウム(SrAl
2O
4)、単斜晶系のアルミン酸ストロンチウム(SrAl
4O
7)、立方晶系のアルミン酸ストロンチウム(Sr
3Al
2O
6)、六方晶系のアルミン酸ストロンチウム(ヘキサアルミン酸ストロンチウム;SrAl
12O
19)および斜方晶系のアルミン酸ストロンチウム(Sr
4Al
14O
25)を含む。好ましい化合物はヘキサアルミン酸ストロンチウムである。アルミン酸ストロンチウムは、好ましくは、オッセオインテグレーティブな表面(多)層構造内に小板の形態で存在する。アルミン酸ストロンチウムの含量は、表面(多)層構造の合計重量を基準として、1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜20重量%の範囲であってよい。
【0010】
セラミック系材料は、アルミナ系セラミック、ジルコニア系セラミック、好ましくはアルミナ系セラミックおよびジルコニア系セラミック、より好ましくはジルコニア小板で強化されたアルミナセラミックから成る群より選択される。ジルコニア小板で強化されたアルミナセラミックにおけるジルコニア含量は、表面(多)層構造の合計重量を基準として、25重量%までである。
【0011】
オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造は、表面(多)層構造における残留応力を徐々に解放する目的で、オッセオインテグレーティブな表面(多)層構造の異なる層における異なるストロンチウム含量によりストロンチウム勾配を示すことができる。好ましい実施形態において、ストロンチウム含量は層数とともに増加し、ここで第一/最も内側の層が最も低いストロンチウム含量を有し、最後/最も外側の層が最も高いストロンチウム含量を有する。最も外側の層が人体の周辺組織または骨と直接接触する層でなければならない。
【0012】
各ストロンチウム勾配構造の最も内側の層におけるアルミン酸ストロンチウムの量は、表面(多)層構造の合計重量を基準として、5重量%未満、好ましくは1重量%以下であるが、ただしストロンチウム含量はゼロではない。最も外側の層は、アルミン酸ストロンチウムを、表面(多)層構造の合計重量を基準として、25重量%未満、好ましくは15〜20重量%の量で含有する。
【0013】
オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造の気孔率(単位容積あたりの気孔数)は、25%〜90%、好ましくは25%〜70%であり得る。気孔の直径は、1ミクロン〜1000ミクロン、好ましくは20ミクロン〜600ミクロンである。単位容積あたりの気孔数、気孔のサイズ(つまり気孔の直径)および気孔の形を、適切な気孔形成物質の選択により有利に決定することができる。
【0014】
層全体の厚さは、約0.02mm〜10mm、好ましくは0.1mm〜2mmである。
【0015】
オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面多層構造を有するセラミック部材、例えば高度にオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブなインプラントを製造するために、高含量のストロンチウム・アルミナ・ジルコニア系セラミックスラリーを、例えば欧州特許出願公開第1268364号明細書(EP1268364A1)に記載の方法を使用してグリーン基材上に堆積させることができ、ここで、基材は無機材料のグリーン体として形成されており、またグリーン体の状態にある基材に、基材を構成するものと同じ無機材料またはその他の材料の懸濁液が適用される。この懸濁液は層材料を含有し、さらに気孔形成物質を含有することができるか、またはこの気孔形成物質を個別で適用することもできる。層を適用した後にのみ、基材および層の一般的な熱処理が乾燥および焼結により行われ、モノリス成形体が作製される。一般的に、基材の製造方法は、従来技術から知られている方法と変わらない。
【0016】
焼結の間に、グリーン基材は十分な密度に達し、その一方で表面(多)層構造は、高い小板含量を原因とする低い焼結活性によりマイクロポーラスのままであり、また、気孔形成剤または発泡剤によりマクロポーラスのままである。マイクロ孔の直径は、0.05ミクロン〜5ミクロンであるが、好ましくはサブミクロン水準で0.1ミクロン〜1ミクロンであり、一方でマクロ孔は、1〜100ミクロン、好ましくは10〜500ミクロンの直径を有し、ただしマクロ孔はマイクロ孔より直径が長い。さらに、マイクロ孔は材料への「穴」、マクロ孔は「谷」のように見えるものと理解すべきである。
【0017】
アルミナ系セラミックスラリーは、アルミナ、ジルコニア、酸化ストロンチウムおよび酸化イットリウムを含む。焼結段階の間に、アルミナと酸化ストロンチウムとの間の固体反応によりアルミン酸ストロンチウム、特にヘキサアルミン酸ストロンチウムが形成される。
【0018】
また、マクロポーラスのオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造を得るために、各セラミックスラリーは、多孔質層を形成する各方法に基づき、(有機)添加剤、例えば気孔形成剤または発泡剤を含有することもできる。このような添加剤は、表面多層構造組成物の合計重量を基準として、0.05〜10重量%の量で存在することができる。気孔形成剤を焼結プロセスの間に熱分解させながら、発泡プロセスにおいて発泡剤を使用すると、これら両方により、上記の気孔率を有する多孔質のオッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな(複数の)層が得られる。
【0019】
よって、焼結プロセスで有機気孔形成剤を用いて、または気孔形成剤もしくは発泡剤を用いて、および発泡手順により、それぞれ気孔率を向上させることができる。
【0020】
気孔形成物質、特に有機化合物、例えば澱粉、セルロースまたはワックス、ならびに天然ポリマーおよび合成ポリマーは、基材および基材上に堆積した層が熱処理される間に蒸発し、気化して、消費または燃焼されると、これにより、使用される気孔が形成される。
【0021】
セラミックスラリーは、セラミック技術の分野で通常使用されるさらなる添加剤、例えばバインダーを含有することができる。
【0022】
あるいは、(複数の)オッセオインテグレーティブな層を焼結状態にある基材上に適用することも可能である。これにより、表面(多)層構造を、焼結されたセラミック基材またはこの目的のために作製された金属基材上に、気相成長プロセスまたはプラズマ蒸着プロセスで堆積させることができる。
【0023】
また、オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造を、既存のマクロポーラス表面上で成長させることもでき、このマクロポーラス表面はセラミック発泡体またはオッセオインテグレーティブな金属表面であり得る。マイクロポロシティおよびマクロポロシティは、オッセオインテグレーションおよびオステオインダクションを改善するために作製される。
【0024】
また、オッセオインテグレーティブおよびオステオインダクティブな表面(多)層構造を、セラミック部材の構造化された表面上に堆積させることもできる。本発明の意味合いにおける構造化された表面とは、例えば多孔質表面である。セラミック部材表面の構造化は、フライス加工、旋削加工またはこれら2つの組み合わせによりもたらすことができる。構造化された表面をもたらす別の方法は、セラミック射出形成法である。金属部材またはセラミック部材表面の構造化を、例えば付加製造によりもたらすことができる。
【0025】
あるいは、焼結の間に熱分解される気孔形成剤または発泡プロセスのための発泡剤を基材材料に添加して、構造化された表面を製造することができる。
【0026】
構造化された表面を製造するその他の方法は、研削プロセスまたは放電加工プロセスである。