(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記学習用出力データ及び上記予測用出力データが、生コンクリートのスランプ及びスランプフローの少なくともいずれか一方の分類に関するデータである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
上記学習用出力データ及び上記予測用出力データが、生コンクリートのスランプ及びスランプフローの少なくともいずれか一方の数値に関するデータである、請求項1〜3、5〜6のいずれか1項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
上記学習用入力データ及び上記予測用入力データが、さらに、生コンクリートの配合条件に関するデータ、目的とする生コンクリートの品質に関するデータ、生コンクリートの材料であるセメントに関するデータ、セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータ、生コンクリートの材料の練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、生コンクリートの材料の練り混ぜ時の環境に関するデータ、及び生コンクリートの運搬に関するデータの中から選ばれる1種以上のデータを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の生コンクリートの品質予測方法は、予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測するための方法であって、予測モデルは、電力負荷値に関するデータを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、電力負荷値に関するデータを含む予測用入力データを、予測モデルに入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いて生コンクリートの品質を予測するものである。
以下、詳しく説明する。
【0011】
予測モデルは、機械学習によって作成されたものである。
機械学習に用いられる学習方法の例としては、ニューラルネットワーク、線形回帰、決定木、サポートベクター回帰、アンサンブル法、サポートベクターマシン、判別分析、単純ベイズ法、最近傍法等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、より高い精度で品質を予測することができる観点から、ニューラルネットワークが好ましい。
ニューラルネットワークは、より高い精度で品質を予測することができる観点から、入力層と出力層の間に一つ以上の中間層を有する階層型のニューラルネットワークが好適である。
【0012】
ニューラルネットワークの例としては、3次元畳み込みニューラルネットワーク(3DCNN:3D Convolutional Neural Network)等の畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)や、長期・短期記憶(LSTM:Long Short−Term memory)ニューラルネットワーク等の再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)等が挙げられる。
なお、長期・短期記憶ニューラルネットワークは、LSTMを用いた再帰型ニューラルネットワークの1種である。
中でも、経時変化データの分野において優れた性能を有する、再帰型ニューラルネットワークが好適である。
再帰型ニューラルネットワークにおける層の数は、より高い精度で予測をすることができる観点から、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上である。
また、機械学習は、例えば、Google社が開発したソフトウェアライブラリである「TensorFlow」(「TENSORFLOW」は、登録商標である。)や、IBM社が開発したシステムである「IBM Watson」(「IBM WATSON」は、登録商標である。)等を用いて行うことができる。
【0013】
予測モデルは、電力負荷値に関するデータを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成される。
学習用入力データとして用いられる電力負荷値に関するデータとは、生コンクリートの製造時の電力負荷値から得られるデータである。
電力負荷値に関するデータの例としては、生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ(以下、単に「ミキサ」ともいう。)内において、生コンクリートの材料の練り混ぜを開始した直後から計測されるミキサの電力負荷値のデータ、該電力負荷値から得られたデータ、該電力負荷値の経時変化等を、グラフ等を用いて視覚的にわかるように表示したデータ、該電力負荷値の予測値のデータ、該電力負荷値を計測する際の生コンクリートの材料の練り混ぜを開始してからの経過時間のデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記電力負荷値のデータの例としては、生コンクリートの材料の練り混ぜを開始した直後から、練り混ぜを終了する時までの電力負荷値またはその絶対値、練り混ぜ時における電力負荷値の最大値または最小値等が挙げられる。
電力負荷値の計測間隔は、好ましくは0.01〜1秒間である。該間隔が0.01秒間以上であれば、計測が容易となる、該間隔が1秒間以下であれば、より高い精度で品質を予測することができる。電力負荷値の計測は、水以外の生コンクリートの材料の練り混ぜを開始した直後、または、空練り(水以外の生コンクリートの材料の練り混ぜ)後、水以外の生コンクリートの材料に水を加えて練り混ぜを開始した直後から開始してもよい。
計測される電力負荷値の数は、電力負荷値の計測間隔や、練り混ぜ時間によっても異なるが、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、特に好ましくは2,500以上である。また、特定の時点における電力負荷値を選択して用いてもよい。
電力負荷値は、ミキサと同一電源に設置した装置により計測することができる。
【0015】
上記電力負荷値(ミキサ内において、生コンクリートの材料の練り混ぜを開始した直後から計測されるミキサの電力負荷値)から得られたデータの例としては、経時的に連続する2個以上(好ましくは2〜50個、より好ましくは5〜40、特に好ましくは10〜0個)の電力負荷値からなるブロック、電力負荷値の変化量、電力負荷値の変化パターン等が挙げられる。
中でも、再帰型ニューラルネットワーク(特に、長期・短期記憶ニューラルネットワーク)を用いて機械学習を行う場合において、より高い精度で品質を予測することができる予測モデルを作成することができる観点から、電力負荷値からなるブロックが好適である。
【0016】
電力負荷値の予測値のデータとは、予め作成された予測モデル等を用いて予測された、電力負荷値の予測値である。ここで、予め作成された予測モデルとしては、本願明細書に記載されている予測モデルと同様のものが挙げられる。
予測モデルを用いて、電力負荷値の予測値(未来の電力負荷値)を得た後、該予測値を、予測モデルの学習用入力データとしてフィードバックすることで、学習用入力データの個数を増やして、再度、機械学習を行うことで、新たな予測モデルを作成したり、該予測値を、予測用入力データとして用いることで、より高い精度で品質を予測することができる。
【0017】
学習用入力データとして用いられる電子負荷値に関するデータの数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは100以上、さらに好ましくは1,000以上、さらに好ましくは1万以上、さらに好ましくは5万以上、特に好ましくは10万以上である。
【0018】
また、電力負荷値に関するデータのうち、特定の時点におけるデータを選択して用いてもよい。
例えば、より高い精度でかつ早い段階で品質を予測することができる観点からは、水と水以外の生コンクリートの材料の練り混ぜを開始して、ミキサの電力負荷値が安定した時点(電力負荷値の変化量が小さくなった時点)の後の電力負荷値に関するデータを用いることが好ましい。
生コンクリートの材料の練り混ぜにおいて、ミキサの電力負荷値が安定する時期の判断は、生コンクリートの水セメント比等によっても異なるが、例えば、以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たした後であれば、ミキサの電力負荷値が安定したと判断してもよい。
(1) 電力負荷値が、練り混ぜ終了時の電力負荷値から±20%程度の値となった後
(2) 生コンクリートの水セメント比が50〜70%程度であれば、水と水以外の生コンクリートの材料の練り混ぜの開始時(例えば、水以外の生コンクリートの材料をミキサ内に投入して空練りした後、ミキサに水を投入して練り混ぜを開始した時)から、30秒間程度経過した後
(3)強度発現性の観点から水セメント比を小さく(50%未満に)した場合、上記時期は遅くなり、高強度コンクリートでは、水と水以外の生コンクリートの材料の混練の開始時から、1〜10分間程度経過した後
【0019】
また、より高い精度で品質を予測する観点から、学習用入力データとして、さらに他のデータを用いてもよい。
他のデータとしては、生コンクリートの配合条件に関するデータ、目的とする生コンクリートの品質に関するデータ、生コンクリートの材料であるセメントに関するデータ、セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータ、生コンクリートの材料の練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、生コンクリートの材料の練り混ぜ時の環境に関するデータ、及び生コンクリートの運搬に関するデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの各種データには、数値に関するデータ、及び、分類に関するデータが含まれる。
ここで、本明細書中、数値に関するデータとは、具体的な数値として表すことのできるデータを意味し、分類に関するデータとは、特定の配合設計や、特定の種類や、特定の性質や、特定の数値範囲等の基準に従って区分されたデータを意味している。
【0020】
生コンクリートの配合条件に関するデータの例としては、生コンクリートに配合される、セメント、細骨材、粗骨材、水、各種混和剤(AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、凝結遅延剤等)、及び各種混和材等の配合割合(例えば、セメント100質量%に対する混和剤の量(質量%))や、示方配合表の項目である、水セメント比、空気量、細骨材率、単位水量、単位セメント量、単位細骨材量、単位粗骨材量、単位混和剤量、及び単位混和材量等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
目的とする生コンクリートの品質に関するデータの例としては、目的とする生コンクリートの設計上の、強度(呼び強度、圧縮強度、曲げ強度等)、スランプ、スランプフロー、空気量、バッチャーデータ(加温・冷却装置種類、貯蔵水温度、貯蔵骨材温度、貯蔵セメント温度、計量瓶形式、吐出量、最大吐出圧力等)、塩化物含有量、ひび割れ抵抗性、動弾性係数、動せん断弾性係数、動ポアソン比、硬化体空隙量及び空隙径分布、耐久性、色調等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、生コンクリートの品質としてより重要性の高い、スランプ及びスランプフローが好ましい。
なお、生コンクリートの強度、スランプ、スランプフロー、空気量、及び塩化物含有量は、例えば、「JIS A 5308:2019(レディーミクストコンクリート)」に記載の試験方法によって測定することができる。
【0022】
生コンクリートの材料であるセメントに関するデータの例としては、生コンクリートの材料として用いられるセメントの、種類、化学組成、鉱物組成、湿式f.CaO、強熱減量、ブレーン比表面積、粒度分布、ふるい試験残分量、色調や、セメントに含まれる各鉱物の鉱物学的性質及び結晶学的性質や、セメントに含まれる石膏の半水化率等の、セメント全体に関するデータ;セメントクリンカーの調合原料の、化学組成、水硬率、ふるい試験残分量、ブレーン比表面積(粉末度)、強熱減量、供給量、副原料(廃棄物のような特殊な原料)の供給量、ブレンディングサイロの貯留量(残量)、ストレージサイロの貯留量(残量)や、原料ミルと調合原料のブレンディングサイロの間に位置するサイクロンの電流値(サイクロンの回転数を表し、サイクロンを通過する原料の速度と相関関係があるもの)や、キルンへの投入時から所定の時間前の時点(例えば、5時間前の1つの時点や、3時間前、4時間前、5時間前、及び6時間前の4つの時点のような複数の時点)のセメントクリンカーの原料(搬送中に向流する空気流によって微粒分等が抜き取られたセメントクリンカーの調合原料;以後、セメントクリンカーの窯入原料と称す。)の化学組成及びその水硬率や、セメントクリンカーの窯入原料と副原料を混合してなる原料の化学組成、水硬率、ブレーン比表面積、ふるい試験残分量、脱炭酸率、及び水分量等の、セメントクリンカーの原料に関するデータ;セメントクリンカーの焼成時における、セメントクリンカーの原料のキルンへの挿入量、キルン回転数、落口温度、焼成帯温度、セメントクリンカー温度、キルン平均トルク、O
2濃度、NO
X濃度や、クリンカークーラー温度、及び、プレヒーターのガスの流量(プレヒーターの温度と相関関係があるもの)等の、セメントクリンカーの焼成条件に関するデータ;粉砕温度、仕上ミル内の散水量、セパレーター風量、石膏の種類、石膏の添加量、セメントクリンカーの投入量、仕上ミルの回転数、仕上ミルから排出される粉体の温度、仕上ミルから排出される粉体の量、仕上ミルから排出されない粉体の量等の、セメントの粉砕条件に関するデータ;セメントクリンカーの、鉱物組成、化学組成、湿式f.CaO(フリーライム)、及び、容重や、セメントクリンカーに含まれる各鉱物の結晶学的性質(格子定数や結晶子径など)や、セメントクリンカーに含まれる2種以上の鉱物組成の比等の、セメントクリンカーに関するデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータの例としては、骨材(細骨材や粗骨材)の、種類、密度、吸水率、含水率、表面水率、粒度分布、最大寸法、及び、粒形や、混和剤の種類や、混和材の種類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
生コンクリートの材料の練り混ぜの手段及び方法に関するデータの例としては、ミキサの、種類、形式、容量や、材料の練り混ぜ量や、練り混ぜ時間等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
生コンクリートの材料の練り混ぜ時の環境に関するデータの例としては、温度(外気温、ミキサ内の温度、生コンクリートの温度)や、練り混ぜ水、セメント、骨材等の使用材料の各温度や、保管する場所(容器内)の温度及び湿度等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
生コンクリートの運搬に関するデータの例としては、トラックアジテータのドラム内の電力負荷値、生コンクリートの容量、打ち込み部材厚、質量及び温度や、運搬時の外気温度や、運搬時間(練り混ぜ終了後、運搬終了時点(荷卸時)までの時間)、運搬距離等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
生コンクリートの品質に関する学習用出力データの例としては、ミキサによる練り混ぜ直後又はアジテータトラックを用いた運搬終了時点(荷卸時)における生コンクリートの、スランプ、スランプフロー、空気量、単位水量、温度、施工性、生コンクリートを構成する各材料の分離状況、流動性、レオロジーに関する値(塑性粘度、降伏値など)、硬化後の強度(圧縮強度、曲げ強度、ヤング係数等)や耐久性(収縮、凍結融解抵抗性、中性化など)、ミキサの電力負荷値等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明における機械学習は、電力負荷値に関するデータを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いて、機械学習の従来知られている一般的な方法に従って行われる。
なお、学習データとして用いられる学習用入力データ及び学習用出力データは、実際に学習データ用のサンプルとして、生コンクリートを製造した際に得られる電力負荷値等のデータである。
学習データ用のサンプルの数は、必要とされる学習用入力データ及び学習用出力データの種類によっても異なるが、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、特に好ましくは8以上である。
【0026】
また、一つのサンプルから得られる電力負荷値に関するデータの数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、特に好ましくは2,500以上である。
学習回数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは1,000回以上、より好ましくは8,000回以上、特に好ましくは1万回以上である。
一回の学習において、サンプルから得られた学習データの全てを使用する必要はなく、全ての学習データから選択された複数の学習データを使用してもよい。
一回の学習で使用される学習データの選択は、特に限定されるものではなく、特定の条件(例えば、電力負荷値を計測した時間)によって並べられた学習データを上から順番に選択してもよく、ランダムに選択してもよい。また、学習データ用のサンプルが複数ある場合には、各サンプルの学習データが少なくとも一つ入るように選択してもよい。
また、本明細書中、「機械学習」とは、人間による思考を介さずに、機械(特に、コンピュータ)のみよって学習するこという。
【0027】
また、学習データ(学習用入力データと学習用出力データの組み合わせ)の一部(例えば、全学習データのうち、15〜25%の学習データ)については、機械学習において使用せず、機械学習によって作成された予測モデルの信頼性を確認するためのテストデータとして用いてもよい。具体的には、予測モデルを作成した後、該予測モデルに、テストデータから得られる予測用入力データを入力し、予測モデルから得られた予測用出力データ(予測値)と、テストデータから得られた実測値を比較することで、得られた予測モデルの信頼性を推し測ることができる。
通常、機械学習は、学習データとして使用されるデータの種類、学習データの個数、及び学習回数等を適宜変更しながら行われ、信頼性に優れた予測モデルが得られるまで行われる。
【0028】
機械学習によって作成された予測モデルに、電力負荷値に関するデータを含む予測用入力データを入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力した後、該予測用出力データを用いて生コンクリートの品質を予測することができる。
より高い精度で品質を予測することができる観点から、予測用入力データとして、さらに、生コンクリートの配合条件に関するデータ、目的とする生コンクリートの品質に関するデータ、生コンクリートの材料であるセメントに関するデータ、セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータ、生コンクリートの材料の練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、生コンクリートの材料の練り混ぜ時の環境に関するデータ、及び生コンクリートの運搬に関するデータ等を用いてもよい。これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのデータは、生コンクリートの製造において、リアルタイムに得られるデータである。
予測用入力データとして用いられる電力負荷値に関するデータ等の詳細は、上述した学習用入力データとして用いられる電力負荷値に関するデータ等と同じである。
また、生コンクリートの品質に関する予測用出力データの詳細は、上述した生コンクリートの品質に関する学習用出力データと同じである。
【0029】
本発明の生コンクリートの品質予測方法によれば、生コンクリートの製造において、予め作成した予測モデルに、電力負荷値に関するデータ等を入力することで、得られる生コンクリートの品質(例えば、生コンクリートのスランプ)を、人間の判断によらずに、高い精度で迅速に予測することができる。なお、「生コンクリートの品質」には、生コンクリートが硬化してなる硬化体の品質が含まれるものとする。
品質の予測は、製造時に取得された複数の電力負荷値に関するデータ毎に行われるので、複数の電力負荷値に関するデータから、複数の出力データ(例えば、スランプ等の予測値)を得ることができる。
【0030】
また、より高い精度で品質を予測する観点から、得られた複数の出力データから算出された平均値を、予測用出力データとしてもよい。
例えば、学習用入力データとして用いられる電力負荷値に関するデータが、生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内において、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で、連続的に計測した複数の電力負荷値(経時的に連続する電力負荷値)から得られる、複数の電力負荷値(又は、複数のブロック)であり、上記複数の電力負荷値(又は、複数のブロック)の各々について、電力負荷値(又は、ブロック)を含む予測用入力データを、予測モデルに入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの移動平均値を用いて生コンクリートの品質を予測してもよい。
移動平均値は、連続的(経時的に)に計測した複数の電力負荷値に関するデータの各々から得られる、複数のデータを用いて得られた、全ての予測用出力データの平均値であってもよく、連続的に計測した複数の電力負荷値に関するデータの各々から得られる、複数のデータのうち、品質の予測を行う時から直近に得られた任意の数(例えば、5)のデータを用いて得られた、複数(任意の数)の予測用出力データの平均値であってもよい。
【0031】
また、練り混ぜ中に、連続的に計測することで得られた複数の電力負荷値に関するデータの各々について予測値を出力した場合等において、得られた複数の出力データ(例えば、スランプ等の予測値)のうち、明らかに他の出力データと異なる出力データが得られた場合、該データを予測用出力データから排除してもよい。
得られた出力データを、予測用出力データから排除する方法の例としては、データ集合の標準偏差σを算出し、そのデータ集合の平均値から±σまたは±2σである数値範囲から外れる出力データを、明らかに他の出力データと異なる出力データと判断して、排除する方法等が挙げられる。
得られる生コンクリートの品質が、目的とする生コンクリートの品質を満たさないと予測される場合には、生コンクリートの製造条件を変える等の対応を適宜行うことによって、効率的かつ安定的に生コンクリートを製造することができる。
【0032】
例えば、予測モデルから得られたスランプの予測値が、目標とするスランプの数値(以下、「目標値」ともいう。)と大きく異なる場合には、生コンクリートの材料として使用した、セメント、骨材、混和剤等の品質の異常や、これらの材料の計量値が誤っていた可能性が考えられるため、直ちに製造工程を見直す必要がある。また、骨材の表面水の設定値が実際の値と異なることも想定され、ミキサから排出される前に補正値を算出し、補正値に基いて適切な量の追加の水をミキサ内に注水することもできる。
また、定期的にスランプの予測を行い、得られたスランプの予測値が、目標値と少しずつずれていく場合には、骨材の表面水率の変動が考えられるため、表面水の設定値を見直す等の対応を行えばよい。
【0033】
また、生コンクリートの製造を制御するコンピュータと、本発明の生コンクリートの品質予測方法を実施するために用いられるコンピュータを接続することによって、制御システムの自動化を図ることができる。例えば、スランプの予測値と目標値の差の変動から、表面水の設定を自動制御で行う方法が挙げられる。
さらに、複数の工場における生コンクリートの製造における各種データを、インターネットを経由して送信し、一か所において本発明の生コンクリートの品質予測方法を用いてリアルタイムで集中的に管理、制御してもよい。
【0034】
また、実際の生コンクリート工場において生コンクリートを製造する際に、本発明の品質予測方法を用いて生コンクリートの品質を予測する場合、リアルタイムの電力負荷値を用いて予測してもよい。具体的な予測方法としては、生コンクリート工場の電力負荷値の測定装置とコンピュータを接続し、生コンクリート製造中の電力負荷値をリアルタイムで抽出しながら、予め作成した学習モデルを組み込んだコンピュータでリアルタイムに予測する方法等が挙げられる。
また、実際の生コンクリート工場において生コンクリートを製造する際に得られた、電力負荷値に関するデータを学習用入力データとし、練り混ぜ後に測定したスランプ等を学習用出力データとし、上記学習用入力データと学習用出力データの組み合わせである学習データを用いて、予め作成した学習モデルを、随時、再学習させて、最新の学習モデルを得ることによって、予測値の精度をより高めることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
生コンクリートのサンプルとして、セメント、細骨材(山砂)、粗骨材A(砕石5号)、粗骨材B(砕石6号)を二軸ミキサに投入して、空練りした後、水を投入して練り混ぜて、配合の異なる505種類の生コンクリートを作製した。
作製した各生コンクリートを製造する際の電力負荷値を、スランプモニターを用いて計測した。
電力負荷値の計測は、水以外の材料を投入して空練りを開始した直後から、0.1秒ごとに行い、混練終了まで行った。ミキサの混練時間と、電力負荷値との関係を示す図の一例を
図1に示す。
作製した各生コンクリートについて、「JIS A 1101:2014(コンクリートのスランプ試験方法)」に準拠して、スランプの実測値を測定した。なお、生コンクリートのスランプは14.5〜25cmの範囲内であった。
【0036】
学習データ用のサンプルとして、457個の生コンクリートを選択し、残り48個の生コンクリートは検証用のサンプルとした。
学習データ用の各サンプルを製造する際に得られた電力負荷値について、計測を行った順番に20個の電力負荷値からなるブロック(経時的に連続した20個の電力負荷値からなるブロック)を、1サンプル当たり平均30個作成し、これらのブロックを学習用入力データとした。また、学習用入力データとして使用するブロックが得られたサンプルのスランプの実測値を学習用出力データとした。
上記学習用入力データと上記学習用出力データの組み合わせからなる学習データを使用して、予測モデルの機械学習を行い、学習済みの予測モデルを得た。
機械学習には、「TensorFlow」を使用し、3層の長期・短期記憶(LSTM:Long Short−Term memory)ニューラルネットワークを用いて学習を行った。また、学習において、誤差関数として最小二乗法を使用した。
学習回数は1万回とし、一回の学習で入力される学習データの数は、30個(ランダムに選択されたもの)とした。
【0037】
検証用の各サンプルについて、混練終了前の15秒間に得られた電力負荷値について、計測を行った順番に20個の電力負荷値からなるブロック(経時的に連続した20個の電力負荷値からなるブロック)7個を、各々、予測用入力データとして、学習済みの予測モデルに入力して、スランプの予測値を7個出力し、合計336個(7×48)の予測値を得た。
予測値と実測値を比較して、予測値と実測値の差が±1.0cmであった予測値(
許容誤差±1.0cmの予測値)を正解として、全予測値の正解率を算出したところ、65.5%であった。
【0038】
[実施例2]
実施例1で作成した505種類の生コンクリートの各々について、「JIS A 1150:2007(コンクリートのスランプフロー試験方法)」に準拠して、スランプフローの実測値を測定した。なお、生コンクリートのスランプフローの実測値は25.75〜56.5cmの範囲内であった。
学習用出力データとして、スランプの実測値の代わりにスランプフローの実測値を使用する以外は実施例1と同様にして、予測モデルを作成し、該予測モデルを用いてスランプフローの予測値を7個出力し、合計336個(7×48)の予測値を得た。
予測値と実測値を比較して、予測値と実測値の差が±7.0cmであった予測値(許容誤差±7.0cm)を正解として、全予測値の正解率を算出したところ、97.2%であった。
【0039】
[実施例3]
実施例1で作成した505種類の生コンクリートの各々について、学習用入力データとして用いられる、電力負荷値からなるブロック(7個)の次に得られる、8番目の電力負荷値からなるブロック(20個の電力負荷値からなるもの)を、スランプの実測値の代わりに学習用出力データとして使用する以外は実施例1と同様にして、予測モデルを作成した。
次いで、検証用の各サンプルについて、上記予測モデルを用いて、8番目の電力負荷値のブロックの予測値を出力し、合計48個の予測値を得た。該予測値と実測値を比較したところ、ほとんど同じ数値となった。
【解決手段】予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測するための方法であって、予測モデルは、電力負荷値に関するデータを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、電力負荷値に関するデータを含む予測用入力データを、予測モデルに入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いて生コンクリートの品質を予測する生コンクリートの品質予測方法。