(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2次以上の所定の共振モードにおける先端部自由の第1のたわみ振動を発生する振動装置の前記先端部に、工具を、刃先が振動中心軸からずれた状態で、前記第1のたわみ振動により前記刃先がワークの加工方向に振動するように取り付けると共に、
前記振動装置及び前記ワークの少なくとも一方について、前記第1のたわみ振動に係る前記所定の共振モードより低次の共振モードにおける第2のたわみ振動の方向が、前記加工方向と一致するように、あるいは前記加工方向に対し、前記加工方向で前方となるほど前記ワークに近づく状態に傾くように調節して、
前記工具により前記ワークを加工する
ことを特徴とする振動加工方法。
2次以上の所定の共振モードにおける先端部自由の第1のたわみ振動を発生する振動装置の前記先端部に対し、前記第1のたわみ振動により刃先がワークの加工方向に振動するように工具を取り付け、
ここで前記刃先は、前記第1のたわみ振動に係る前記所定の共振モードより低次の共振モードにおける第2のたわみ振動の方向が、前記加工方向と一致する状態とされ、あるいは前記加工方向に対し、前記加工方向で前方となるほど前記ワークに近づくように傾く状態とされており、又前記振動装置は、更に前記第1のたわみ振動の振動中心軸の方向における振動である縦振動を発生し、前記第1のたわみ振動と前記縦振動とによって前記工具に楕円振動を付与し、
前記工具により前記ワークを加工する
ことを特徴とする振動加工方法。
2次以上の所定の共振モードにおける先端部自由の第1のたわみ振動を発生する振動装置の前記先端部に、工具を、前記第1のたわみ振動により刃先がワークの加工方向に振動するように取り付け、前記振動装置は、更に前記第1のたわみ振動の振動中心軸の方向における振動である縦振動を発生し、前記第1のたわみ振動と前記縦振動とによって前記工具に楕円振動を付与し、更に前記振動装置に1又は2以上の圧電素子を設けると共に、前記圧電素子に接続されたシャント回路を接続し、当該シャント回路は、前記第1のたわみ振動に係る前記所定の共振モードより低次の共振モードに係る第2のたわみ振動において前記圧電素子が示す静電容量に対して電気的に共振するように設定され、
前記工具により前記ワークを加工する
ことを特徴とする振動加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態が、適宜図面に基づいて説明される。尚、本発明は、下記の実施の形態に限定されない。
【0010】
[第1形態]
≪全体構成等≫
図1は、本発明の第1形態に係る振動加工装置の一例である振動切削装置1の模式的な斜視図である。
振動切削装置1は、振動装置2と、振動装置2の先端部3に取り付けられる工具4を備えている。工具4は、超精密加工用のもの(単結晶ダイヤモンドツール)であり、強力な楕円振動やそれによる切削負荷に耐えるものである。工具4のノーズ半径は1.0mm(ミリメートル)である。尚、工具4として、他の種類のものが用いられても良い。
振動装置2は、第1の圧電素子5と、第2の圧電素子6を備えており、これら圧電素子5,6の駆動により、工具4に楕円振動を付与し、工具4の刃先E(先端)を楕円振動させることが可能である。
圧電素子5は、複数の圧電素子部を含んでも良いし、単独の圧電素子のみを含んでも良い。これは、圧電素子6についても同様である。
振動装置2は、ケース8によって支持されている。
【0011】
又、振動切削装置1は、ワークWを図中のX軸の両方向、Y軸の両方向、及びZ軸の両方向に移動可能な状態で載せるワーク台10を備えている。
ここでは、
図1の左下側をX軸の正の側として右上側を負の側とし、
図1の左上側をY軸の正の側として右下側を負の側とし、
図1の下側をZ軸の正の側として上を負の側とする。
尚、各軸の設定は一例であり、正負を変えたり他の位置に移動したりする等、他の設定がなされても良い。又、各送り機構は、工具4がワークWに対して相対的に移動可能であれば、どのような配置であっても良い。更に、工具4とワークWの相対位置も、
図1以外のものに変更されて良い。
【0012】
更に、振動切削装置1は、振動装置2の下側に配置されるターンテーブル12と、振動装置2やターンテーブル12を載せる台14を備えている。
リード角調節手段としてのターンテーブル12は、Z軸を中心軸として、Z軸の周りの方向(B軸方向)に回転可能であり、ワークWの切削面の法線(垂直線)と振動装置2の中心軸(振動装置中心軸M)のなす角であるリード角φ(
図11参照)を変更可能である。ターンテーブル12は、リード角φの変更後においては固定され、振動装置2を支持する。
【0013】
加えて、振動切削装置1は、切削中にワークWと工具4の間にオイルミストを供給するノズル16を備えている。
又、振動切削装置1は、振動装置2等を制御する図示されない制御手段を備えている。
【0014】
≪振動装置等≫
振動装置2は、
図2にも示されるように、ロッド状であって、ワークWに対向して配置されており、ワークWに向かう方向即ちY軸方向に延びていて、振動装置中心軸MがY軸方向を向いている。工具4は、Y軸方向に延びる状態で振動装置2の先端部3(ワークW側の端部)に取り付けられる。よって、Y軸正方向が、ワークWに対する切込み方向となる。尚、以下では、振動装置2について、Y軸正方向の側(先端部3側)が前とされ、Y軸負方向の側が後とされる。
又、振動切削装置1では、X軸正方向が主たる切削方向とされる。即ち、振動切削装置1では、ワークWについてZ軸方向の位置を固定し、ワークWをX軸負方向に送って工具4を相対的にX軸正方向で動かしながら、Y軸正方向に切り込むように切削される。
そして、かような切削が順次Z軸方向の位置を正方向側に変更されて繰り返される。即ち、Z軸正方向がピックフィード方向である。
【0015】
第1の圧電素子5は、その駆動により、振動装置2の先端部3(振動部)について主にY軸方向で振動させ、振動装置2に取り付けられた工具4を、主にY軸方向(切込み方向)で振動させるものである。以下、Y軸方向の振動は、縦振動と呼称されることがある。
第2の圧電素子6は、その駆動により、振動装置2の先端部3について主にX軸方向で往復するようにたわませて、振動装置2に取り付けられた工具4を、主にX軸方向(切削方向)で振動させるものである(第1のたわみ振動)。ここで、先端部3を振動させるため、たわみによる振動としては、少なくとも先端部3が自由端となる振動が選択され、好ましくは先端部と後端部の両端が自由である振動が選択される。以下、X軸方向の振動(横振動)は、たわみ振動と呼称されることがある。
【0016】
振動装置2は、その形状(Y軸方向の長さや、径の大きさないしその分布等)や重量配分等の構造により、縦振動とたわみ振動について、それぞれ所定の共振周波数を有している。
振動装置2の縦振動とたわみ振動の基本的な共振周波数(基準共振周波数)は、何れも16.9kHz(キロヘルツ)である。
振動装置2の先端部3を含む前部は、先端部3の振幅を拡大して工具4をより効率良く振動するため、工具4に近づくにつれて細くなるテーパ形状を有するように形成される。テーパ形状の種類としては、コニカルホーン形状や、エクスポネンシャルホーン形状、ステップホーン形状が例示される。
【0017】
縦振動の周波数やたわみ振動の周波数は、振動装置2の各共振周波数に基づいて設定される。
制御手段によって第1の圧電素子5と第2の圧電素子6に対して周期的な電圧が印加され、第1の圧電素子5と第2の圧電素子6が駆動されると、縦振動とたわみ振動により振動装置2の先端部3が楕円軌跡を描いて振動し、工具4が楕円振動する。工具4を楕円振動させるための振動は、所望する振動であり、所定の共振モードに係る振動である。
振動装置2では、
図2に模式的な波形状の線(実波線と破波線)で示されるように、縦振動において1次の共振モードで振動するように圧電素子5が駆動され(
図2(a))、たわみ振動において3次の共振モードで振動するように圧電素子6が駆動される(
図2(b))。
かような共振モードの設定は、工具4の容易な設置等様々な面で扱い易いロッド形状の振動装置2に適合している。但し、たわみ振動が、基準共振周波数より低い周波数の低次の共振周波数を持つことになる。即ち、振動装置2は、基準共振周波数より低い周波数を有する、1次と2次のたわみ共振モードを具備している。この低次の共振モードは、所望しない振動の発生を引き起こし得る。
【0018】
たわみ振動は、振動装置2において、工具4を取り付けた状態で、なるべく振動装置中心軸Mを中心として行われるように調整される。その調整は、振動装置中心軸Mを中心とした重量バランスの確保により行われる。尚、以下では、振動装置中心軸Mと(第1の)たわみ振動の中心軸とが一致するものと仮定した説明がなされるが、実際にはこれらは互いに僅かにずれていることが多い(厳密な一致の確保は現状困難である)ものである。
振動装置2の先端部3(振動部)に注目した場合、先端部3の振動中心軸が振動装置中心軸Mとなるべく一致するようにするため、工具4が、他の先端部3における部品の重量との兼ね合いで、振動装置中心軸Mを中心とした重量バランスが確保されるように取り付けられる。尚、先端部3においては、たわみ振動に影響をなるべく及ぼさないようにするために、重量の大きい部品は配置されない。
このとき、工具4の刃先Eは、メンテナンスを容易にするため、棒状の工具4における所定の一辺側に片寄せて設けられることから、振動装置中心軸Mからずれることとなる(
図11参照)。即ち、先端部3は、刃先Eを振動中心軸からずらした状態で工具4を保持する。仮に、刃先Eが振動装置中心軸Mと一致するように棒状の工具4が先端部3に設けられたとすると、工具4全体が先端部3において片寄って配置されることになって、振動装置中心軸Mを中心とした重量バランスが確保されず、振動装置中心軸Mを中心としたたわみ振動が確保されない。
【0019】
そして、振動装置2の縦振動とたわみ振動の基準共振周波数が一致するので、楕円振動が安定し、又縦振動の節(最も振動が小さくなる部分,ノード)の位置と、たわみ振動の節の位置が、振動装置2の中央部(先細部の後側)において一致する。更に、たわみ振動の節は、中央部の前後にも存在する。振動装置2は、中央部の節の位置と、その後方のたわみ振動の節の位置とにおいて支持され(
図2の黒三角印や黒丸印参照)、ケース8は、かような位置を点接触で支持する図示されない支持体を有している。
尚、縦振動の周波数やたわみ振動の周波数、あるいは振動装置の共振周波数や各振動における共振モードの次数は様々に変更可能である。又、振動装置の基準共振周波数について、好ましくは10kHz以上であり、より好ましくは超音波領域以上である。超音波領域の周波数としては、概ね、16kHz以上とされても良いし、20kHz以上とされても良い。超音波領域の周波数における振動は、超音波振動と適宜呼称される。
【0020】
≪楕円振動加工プロセス等≫
図3において、振動装置2によって楕円振動される工具4がワークWを切削するプロセス(振動一周期程度の極短時間に亘る微視的なもの)が模式的に示され、
図4において、切削箇所周辺の模式的な拡大図が示される。
【0021】
楕円振動の主にたわみ振動によりX軸負方向側に退いた工具4(
図3(a))は、主に縦振動によりワークWに近づき(Y軸正方向)、ワークWに接触して切削を開始する(
図3(b))。工具4の刃先は、先端に対してワークWから逃げるような逃げ面Kを有しており、ワークWに対して、進入角ξで入っていく。
切削において、工具4はまず、移動方向が比較的にX軸正方向に近い状態でワークWに対してY軸正方向に相対的に近づく(
図3(b)〜
図3(c))。このとき、工具4は刃先においてワークWを押しならし、逃げ面Kにおいて切削したばかりの面(既切削面U)を擦る。この加工プロセスは、バニシングプロセスあるいはプラウイングプロセスと呼ばれる。
図4に示されるように、プラウイングプロセスにおいて、工具4の刃先Eは最大切削深さdに達する。又、工具4により切削されるZ軸方向の切削幅hは、ピックフィード量pや最大切削深さdに依存する。最大切削深さdや切削幅hが大きいほど、切削における負荷が大きくなり、最大切削深さdや切削幅hが所定値以上となると、所望しない振動が発生し、楕円振動に重畳して影響を及ぼすようになる。
【0022】
次いで、工具4は、移動方向が比較的にY軸負方向に近い状態でワークWに対してX軸正方向に相対的に近づく(
図3(c)〜
図3(d))。このとき、工具4はワークWを擦り上げ、切屑Hを適宜引き上げる。この加工プロセスは、材料除去プロセスと呼ぶことができる。
その後、工具4がワークWから離れると、一周期内における材料除去プロセスは終了し、
図3(a)の状態(但し一周期分進んだ位置)に戻る。
【0023】
≪所望しない振動等≫
所望しない振動の性質を明らかにするため、典型的な難削鋼(スタバックス材)であるワークWが振動切削装置1により鏡面切削された。
リード角φは0°とされ、振動装置中心軸MはワークWの仕上げ面に垂直に向けられた。
誘導変位センサにより、楕円振動している工具4の、切削方向(X軸方向,たわみ方向)に係るたわみ振動が測定された。
切削部位に対しては、オイルミストが供給された。
最大切削深さdとして、比較的に浅い(従前同様の)0.1mmと、これより深い0.2mm,0.3mmが試された。最大切削深さdの値が0.2mm,0.3mmであることは、鏡面切削においてはかなり大きいものであると言え、単純計算で0.1mmの場合の2,3倍の効率となる。
ピックフィード量pは、鏡面を得るために、理想的な表面粗さが0.05μm(マイクロメートル)となる、0.020mmとした。
かような切削条件は、次の表1にまとめられる。
【0025】
図5において、切削中に測定されたたわみ振動に対してFFT(Fast Fourier Transform)を行った結果が示される。横軸は周波数[kHz]であり、縦軸は振幅[μm]である。
図5(a)に示されるように、最大切削深さdが0.1mm(実線),0.2mm(破線),0.3mm(一点鎖線)の何れの場合においても、16.9kHzの付近で大きなピークがみられる。
又、
図5(b)に示されるように、最大切削深さdの大きい0.2mm,0.3mmの場合、10.71kHz,10.73kHzにおいてピークが存在し、基準共振周波数(16.9kHz)より小さい周波数に係る、所望しないたわみ振動(第2のたわみ振動)が発生していることが分かる。
更に、
図6には、最大切削深さd=0.3mmの場合における、たわみ振動に短時間フーリエ変換を施した結果が示される。横軸は時間[秒]であり、縦軸は周波数[kHz]であり、濃度(色)は振幅[μm]を示す。楕円振動する工具4が実際にワークWを切削している時間(During machining)においても、それ以外の時間においても、16.9kHzの振動が起こっていることが、
図6上部の長い横線によって示されている。当該長い横線の濃度に対応する振幅(楕円振動における振幅)は、約0.85μmである。そして、工具4の実際の切削時間における後半において、約10.7kHzの所望しないたわみ振動が起こっていることが、
図6中央部の短い横線によって示されている。当該短い横線の濃度に対応する振幅(たわみ振動における振幅)は、約0.5μmである。約10.7kHzという周波数は、2次の共振モードに係るたわみ振動の共振周波数に相当する。
【0026】
この所望しないたわみ振動は、仕上げ面にも影響を及ぼす。何れの場合においても、仕上げ面は鏡面となるが、最大切削深さd=0.2mm,0.3mmの場合には、曇りが生じる。
図7は最大切削深さd=0.1mmの場合の仕上げ面に関する写真やグラフであり、
図8は最大切削深さd=0.2mmの場合の仕上げ面に関する写真やグラフであり、
図9は最大切削深さd=0.3mmの場合の仕上げ面に関する写真やグラフである。
最大切削深さd=0.1mmの場合に係る
図7(a)によれば、縦方向が切削方向(下がX軸正方向)で横方向がピックフィード方向(右がZ軸正方向)であるワークWの仕上げ面において、相対的な高低差(濃度,色)が−0.070μmから+0.083μmの範囲内に入るほど平坦であり、切削方向の既切削筋がピックフィード量程度の間隔で綺麗に現れている。又、同図のA−B間の高低差が示される
図7(b)によれば、極めて滑らかに仕上げられていることが分かる。
これに対し、最大切削深さd=0.2mmの場合では、
図7と同様に示される
図8において(但し
図8(a)において相対的な高低差は−0.275μmから+0.232μmの範囲である)、仕上げ面が切削方向で波打っており、比較的に粗いことが分かる。これは、最大切削深さd=0.3mmの場合においても同様である(
図9)。
かような切削方向の波打ち(振動跡)における周波数は、
図7〜9から把握可能な波長や切削速度によって算出可能であり、およそ6.2kHzである。この周波数は、楕円振動と所望しない振動の間におけるうなりの周波数と一致する。うなりの振幅は、およそ0.1μm以下である。
【0027】
以上のように明らかになった所望しない振動と仕上げ面の波打ちの関係に基づいて、切削中における工具4の刃先Eの軌跡に係る時間領域でのシミュレーションが以下の通り実施された。
まず、仮に、楕円振動以外の振動がないとすると、刃先Eの軌跡L
1(x
1(t),y
1(t))は、次の数1によって表すことができる。
ここで、x
1,y
1は切削方向,切込み方向における刃先Eの位置座標であり、A
b,A
lはたわみ振動,縦振動の振幅であり、tは時間であり、V
cは切削速度であり、f
1は楕円振動の周波数である。
【0029】
図10(a)には、上述の鏡面切削と条件(表1参照)を合わせて算出された刃先Eの軌跡L
1(x
1(t),y
1(t))が示される。
図中太線で示される通り、刃先Eの軌跡の底部分が既切削面Uとして残り、その高さや粗さは約0.02μmであって、山と山の間隔は約1μmである。この状態は、楕円振動の周期に対応する。
【0030】
次に、比較的に大きい最大切削深さd=0.2mm,0.3mmとした場合に発生する所望しない約10.7kHzの所望しない振動について考える。10.7kHzの付近では、縦振動の共振周波数は存在しないことから、刃先Eは2次の共振モードに係るたわみ振動に応じて揺れる(びびる)はずである。
そして、
図11(a)に示されるように、刃先Eは振動装置中心軸M即ちたわみ振動の中心軸より僅かに切削方向前方(X軸正方向)に位置していることから、2次の共振モードに係るたわみ振動(両矢印G2)の方向は、切削方向に対して、切削方向が前方となるほど工具4に近づく(Y軸負方向に行く)方向に、僅かに傾いている。尚、矢印Gは、刃先Eのモード方向である。
その結果、刃先Eの軌跡L
2(x
2(t),y
2(t))は、楕円振動と所望しない振動を重畳した次の数2によって表すことができる。
ここで、x
2,y
2は切削方向,切込み方向における刃先Eの位置座標であり、A’
bは2次共振モードのたわみ振動に係る振幅の切削方向成分であり、f
2は2次共振モードのたわみ振動の周波数である。切削中のA’
bは次のように算出される。即ち、所望しない振動の周波数10.73kHzにおいて測定された振幅0.5μm(
図6)に、共振モードの次数を掛けて(×2)、1.0μmとなる。
又、θは、2次共振モードのたわみ振動の方向(両矢印G2,矢印G参照)と切削方向(X軸方向,3次共振モードのたわみ振動方向)の間の角であるモード角である(
図11(a))。モード角θは、レーザードップラー振動計によって予め測定され、上述の条件において約5°であった。
【0032】
図10(b)には、上述の鏡面切削と条件(表1参照)を合わせて算出された刃先Eの軌跡L
2(x
2(t),y
2(t))が示される。
図中太線で示される通り、刃先Eの軌跡の底部分が既切削面Uとして残り、その高さは多彩であるが約0.1μm以下の範囲に収まっており、その山と山の間隔も又多彩であるが6.2kHzの辺りにある。
このシミュレーション結果は、上述した最大切削深さdの大きい鏡面切削の結果(
図8〜9)と良く合致する。
よって、2次共振モードのたわみ振動が、最大切削深さdの比較的に大きい切削中において所望しない振動を引き起こし、所望しない振動と楕円振動に係るうなりの振動周期に対応する波打ちを既切削面Uに残すと言える。
更に、
図10(b)から、次のことも読み取れる。即ち、各楕円振動周期における切削開始時の進入角ξ(
図3(b))は、所望しない振動により、かなり異なるものとなっている。これは、プラウイングプロセス(
図3(b)〜(c)参照)が、所望しない振動により、周期毎にかなり変わることによる。
【0033】
≪所望しない振動の発生メカニズム等≫
かような時間領域のシミュレーションによれば、所望しない振動の発生メカニズムは、次の通りと言える。
即ち、楕円振動切削において、プラウイングプロセスは各周期の最初のみ起こる。
そして、多彩な種類の進入角ξは、2次のたわみ振動における自己励起力を発生し得る。
図12は、刃先EがワークWの既切削面Uに入った直後のプラウイングプロセスの模式図である。
図12(a)は、2次のたわみ振動速度(点直線矢印)が最小(X軸負方向側の最大振動速度)となり切削速度(実線細矢印)の大きさが減少されて切削速度の向きがY軸正方向側に傾けられる瞬間を示す。点曲線矢印は刃先Eの軌跡であり、一点鎖線は3次のたわみ振動と1次の縦振動の合成速度ベクトルと見かけの(平均的な)切削速度ベクトルの和であって理想的な楕円振動切削の速度である。工具4の逃げ面KはワークWの既切削面Uにより妨害され、摩擦力Fe(実線太矢印)が振動を自己励起する。
他方、
図12(b)は、2次のたわみ振動速度が最大(X軸正方向側の最大振動速度)となり切削速度の大きさが増加されて切削速度の向きがY軸負方向側に傾けられる瞬間を同様に示す。逃げ面Kが既切削面Uに及ぼす力は減少し、摩擦力F
eが減少して、振動が更に自己励起する。
【0034】
工具4は従前の楕円振動周期によって既に切削されたワークW表面(既切削面U)を繰り返し切削するから、プラウイングプロセスにおいては重畳効果が存在する。よって、各周期における切削の負荷や終了は、その周期における所望しない振動によって変化するだけでなく、従前の所望しない振動により残された既切削面Uの弧によっても変化する。この重畳効果は、上述の時間領域シミュレーションにおいて考慮に入れられているところ、減衰力を発生し、2次のたわみ振動を拡大する要因にはならないことが分かった。
そこで、プラウイングプロセスにおける摩擦力は、各楕円振動周期に係る進入角ξの種類による自己励起力として主にふるまい、その結果、所望しない振動は一種の摩擦びびり振動に分類されると言えるのである。
【0035】
かようなメカニズムは、次のようなびびり振動の特徴も導き出す。
即ち、鋭い刃先Eによる通常の切削において摩擦びびり振動は起こらず、びびり振動は単結晶ダイヤモンド工具4の極めて鋭利な刃先Eによる楕円振動切削において起こる。これは、各楕円振動周期の切削開始時点において、進入角ξが逃げ面Kの逃げ角と比べて大きいことによる。
加えて、進入角ξだけでなく、逃げ面KとワークWの接触において切削力による弾性変形が影響を及ぼし、各楕円振動周期内の切削期間が長くなるため、進入角ξが増大して、びびり振動を起こすための更なる力が発生する。
又、別の特徴として、振幅に関するものがある。摩擦びびり振動は、振動速度が切削速度に達するまでは大きくなっていき、振幅が非常に大きくなる。他方、楕円振動切削における摩擦びびり振動は、1μmといった小さい振幅を有している。この小さな振幅は、次のような振動跡の小さい間隔によって説明され得る。即ち、その間隔までびびり振動の振幅が大きくなった場合、振動跡の数は減少して進入高さもかなり多彩になる(
図10(b))から、進入角ξは多様に変化する。上述の時間領域シミュレーションは、この高さの変化が従前形成された既切削跡の切削による減衰力を引き起こし、よって、楕円振動切削において、びびり振動はあまり大きくなっていかないことを示している。
【0036】
≪びびり振動の抑制等≫
以上の発生メカニズムによれば、楕円振動切削における摩擦びびり振動は、振動装置2のリード角φにより影響を及ぼされ得る。
例えば、モード角θがリード角φによってゼロになれば、瞬間的な切削方向(
図12参照)はさほど変わらない。よって、びびり振動は抑制される。
図11(b)には、モード角θを0°にするために、5°のリード角φにおいて工具4でワークWを切削する場合について示される。
この場合、2次の共振モードに係るたわみ振動(両矢印G2)の方向は、Y軸に対して垂直となっている。又、振動装置2は、先端部3に対して後端部が切削方向前方(X軸正方向)となるように傾いて(前傾して)おり、工具4は、刃先Eの有る先端に対して根元が切削方向前方(X軸正方向)となるように傾いて(前傾して)いる。
【0037】
かようなびびり振動抑制手法の妥当性をみるために、次のような鏡面切削を実施した。即ち、ターンテーブル12により振動装置2のリード角φを5°に調節し、その他の条件を上述の鏡面切削と同一として、ワークWの鏡面切削を行った。
図13において、切削中に測定されたたわみ振動に対するFFTの結果が、
図5(b)と同様に示される。この結果によれば、大きな最大切削深さd=0.2mm,0.3mmの場合であっても、2次のたわみ振動に係る振幅のピークがないことを確認することができる。
図14は、最大切削深さd=0.3mmの場合の仕上げ面に関する写真やグラフである。これらによれば、切削方向の有意な振動跡は存在しないと言える。
これらの結果は上述の発生メカニズムを実証しており、リード角φの調節によるびびり振動抑制手法は効果的であると言え、最大切削深さdが大きく、より一層能率的な楕円振動切削が実現されるのである。
【0038】
又、リード角φについて、モード角θがゼロとなる方向と同方向に傾けることで更に大きくし、低次(2次)の振動方向が切削方向に対して前傾(切削方向前方となるほどワークWに近づく)するようにしても、びびり振動が抑制される。
図11(c)には、約10°のリード角φにおいて工具4でワークWを切削する場合について示される。
この場合、振動装置2は、
図11(b)のときと比べ、先端部3に対して後端部が切削方向前方(X軸正方向)となるように更に傾いており、工具4は、刃先Eの有る先端に対して根元が切削方向前方(X軸正方向)となるように更に傾いている。
上述のびびり振動の発生メカニズムによれば、低次(2次)のたわみ振動の方向が、切削方向に対して、切削速度が増加する位相において切込みが増加する向きに傾いていることで、びびり振動が抑制される。
そして、
図11(c)で示されるように、2次のびびり振動の振動方向が切削方向に対して前傾すると、その振動速度が切削方向と同じ向きの時(前進時)に工具4の運動方向が前傾してプラウイング力が増し、逆向きの時(後退時)にプラウイング力が減ることとなり、びびり振動が抑制されるのである。
【0039】
≪効果等≫
振動切削装置1は、3次の共振モードにおいて先端部3が自由である3次のたわみ振動を発生する振動装置2と、刃先Eが3次のたわみ振動の振動中心軸(振動装置振動軸M)からずれた状態で、3次のたわみ振動により刃先EがワークWの加工方向(切削方向,X軸方向)に振動するように先端部3に取り付けられる工具4と、ワークWの加工面の法線と前記振動中心軸のなす角であるリード角φを調節するターンテーブル12と、を備えており、3次のたわみ振動に係る3次の共振モードより低次である2次の共振モードにおけるたわみ振動の方向が、前記加工方向と一致するように(
図11(b))、あるいは前記加工方向に対し、加工方向で前方となるほど前記ワークに近づく状態に傾くように(
図11(c))、ターンテーブル12によってリード角φが調節される。よって、2次の共振モードにおける振動に基づくびびり振動を抑制することができる。
又、振動装置2は、ケース8によって、3次のたわみ振動の節の位置で支持されており、リード角φを調節する手段が、振動装置2とケース8を回転させるターンテーブル12であるから、リード角φを確実で容易に調節可能である手段をシンプルに提供することができる。
加えて、振動装置2は、更に前記振動中心軸方向における振動である縦振動を発生し、3次のたわみ振動と前記縦振動とによって工具4に楕円振動を付与するから、びびり振動を抑制可能である楕円振動切削装置を提供することができる。
【0040】
加えて、振動切削装置1によって行われる振動加工方法の一例としての振動切削方法では、3次の共振モードにおける先端部3が自由であるたわみ振動を発生する振動装置2の先端部3に、工具4を、刃先Eが3次の振動の振動中心軸(振動装置中心軸M)からずれた状態で、3次のたわみ振動により刃先EがワークWの加工方向(X軸方向)に振動するように取り付けると共に、振動装置2におけるワークWの切削面の法線と先端部3の振動中心軸のなす角であるリード角φについて、3次のたわみ振動に係る3次の共振モードより低次である2次の共振モードにおける2次のたわみ振動の方向が、加工方向と一致するように(
図11(b))、あるいは加工方向に対し、加工方向で前方となるほどワークWに近づく状態に傾くように(
図11(c))調節して、ワークWを加工する。よって、びびり振動を効果的に抑制可能である振動加工方法を提供することができる。
又、振動装置2は、更に前記振動中心軸方向における振動である縦振動を発生し、3次のたわみ振動と前記縦振動とによって工具4に楕円振動を付与するから、びびり振動を抑制可能である楕円振動切削方法を提供することができる。
【0041】
≪変更例等≫
尚、振動切削装置1では、振動装置2が縦振動とたわみ振動を行うものであったが、これに代えて、2つの縦振動子を備えた振動装置が用いられても良い。この場合、2つの縦振動子は角度を持ってL型あるいはV型に配置され、2つの縦振動子の先端部を連結する連結部材が設けられて、連結部材に工具が刃先を振動中心軸からずらした状態で取り付けられ、連結部材が振動部となる。そして、少なくとも何れかの縦振動子によって、連結部材に切削方向の振動である横振動が与えられ、その与えられた横振動の方向と、その横振動の共振モードより低次の共振モードにおける振動の方向との間の角であるモード角に、リード角が一致するようにセッティングされる。
更に、ねじり振動が組み合わされても良い。
又、楕円振動を発生する振動装置2に代えて、たわみ振動のみを発生する振動装置が用いられても良い。
更に、ワークの加工に関し、ワークの切削に代えて、ワークのボンディングやウェルディング(圧接や溶着、溶接)の場合に、上述のびびり振動の抑制が行われても良い。
振動は、ワークに与えられても良いし、工具とワークに与えられても良い。
リード角の調節は、ワーク用ターンテーブル等によりワークの角度を変えることで行われても良いし、振動装置及びワークの双方の設置角度を変えて行われても良い。
又、リード角調節手段は、ケースにより支持される節の位置を、3次のたわみ振動の方向において変更する支持位置変更手段であっても良い。支持位置変更手段は、例えば、前の節の両側を線接触で支持するように、ケース内の振動装置へ延びる状態でケースに設けられるたわみ振動方向の一対のネジと、後の節の両側に係る同様の一対のネジとされる。この支持位置変更手段では、前の節の左側のネジをケース内で長くなるように伸ばして右側をケース内で短くなるように縮めると共に、後の節のネジの伸縮状態を逆にすることで、振動装置をケースに対して傾けることができ、ケースが固定されていたとしてもリード角の調節を行うことができる。
【0042】
[第2形態]
図15(a)は、本発明の第2形態に係る振動切削装置の振動装置202の先端部203付近の模式的な斜視図である。
第2形態の振動切削装置は、振動装置の先端部以外、第1形態の振動切削装置1と同様に成る。第1形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0043】
上述のびびり振動の発生メカニズムによれば、低次(2次)のたわみ振動の方向が、切削方向に対して、切削速度が増加する位相において切込みが減少する向きに傾いていることがびびり振動の原因となっている。
よって、刃先について、前記第1のたわみ振動に係る前記所定の共振モードより低次の共振モードにおける第2のたわみ振動の方向が、切削方向と一致する状態で、あるいは切削方向に対し、切削方向で前方となるほどワークWに近づくように傾く状態で、工具4が取り付け可能に形成されるようにすれば、びびり振動が抑制される。
【0044】
振動装置202の先端部203には、工具4が、刃先Eについて、びびり振動方向と切削方向とが一致する状態となるように取り付けられている。工具4は、第1形態に比べ、X軸負方向側に片寄っており、工具4の中心軸は振動中心軸からずれている。
又、先端部203には、工具4の片寄り配置による振動装置中心軸M(振動中心軸)を中心とした重量分布の片寄りを解消して重量バランスを調整するための凹部207を有している。
尚、リード角φは、0°に調節されている。
【0045】
かような第2形態の振動切削装置は、3次の共振モードにおける先端部203が自由であるたわみ振動を発生する振動装置202と、3次のたわみ振動により刃先EがワークWの加工方向(X軸方向)に振動するように先端部203に取り付けられる工具4と、を備えており、工具4は、3次のたわみ振動に係る3次の共振モードより低次である2次の共振モードにおける2次のたわみ振動の方向が、切削方向と一致する状態で取り付けられる。よって、モード角θをゼロにしてびびり振動を抑制することができる。
又、第2形態の振動切削装置によって行われる振動切削方法では、3次の共振モードにおける先端部203が自由である3次のたわみ振動を発生する振動装置202の先端部203に対し、3次のたわみ振動により刃先EがワークWの加工方向に振動するように工具4を取り付け、ここで刃先Eは、3次のたわみ振動に係る3次の共振モードより低次である2次の共振モードにおける2次のたわみ振動の方向が、切削方向と一致するように傾く状態とされており、工具4によりワークWを加工するから、びびり振動が効果的に抑制される振動切削方法を提供することができる。
第2形態は、第1形態と比較すると、凹部207のセッティングが比較的に難しい反面、リード角φのセッティングが比較的に容易である。
【0046】
第2形態においては、第1形態と同様の変更例が存在する他、次の変更例が存在する。
即ち、凹部に代えて、中空部が設けられても良い。又、凹部に代えて、(凹部と反対側に)ウェイトが配置されても良い。ウェイトは、着脱自在とされ、工具の種類に応じて重量や取付位置等を変更可能とされても良い。ウェイトの密度が先端部の密度より軽くても良い。更に、凹部や中空部、ウェイトの少なくとも何れか2つが併用されても良い。
第2形態は、工具4の密度が先端部103の密度以上であることが前提となっているが、逆にされても良い。この場合、凹部やウェイトの位置が逆になる。
第2形態において、リード角調節手段は省略されても良い。
工具は、2次のたわみ振動の方向が、切削方向に対し、切削方向で前方となるほどワークに近づくように傾く状態で取り付けられても良い。
【0047】
[第3形態]
図15(b)は、本発明の第3形態に係る振動切削装置の工具304付近の模式的な斜視図である。
第3形態の振動切削装置は、工具以外、第1形態の振動切削装置1と同様に成る。第1形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0048】
振動装置2の先端部3には、工具304が、刃先E2を振動装置中心軸M(振動中心軸)上に位置させた状態で取り付けられている。工具304の先端部には、他の部分(根元部分)に対して中心軸側に窪む窪み部307が設けられており、工具304の刃先E2は、窪み部307に設けられて、第1形態に比べ、X軸負方向側に片寄っている。窪み部307と反対側には、逃げ面K2が形成されている。工具304の根元部分は、第1形態の工具4と同様、中心軸を中心として対称的な重量分布を持つ棒状に形成されている。
尚、リード角φは、0°に調節されている。
【0049】
かような第3形態の振動切削装置においても、3次の共振モードにおける先端部3が自由であるたわみ振動を発生する振動装置2と、3次のたわみ振動により刃先E2がワークWの加工方向(X軸方向)に振動するように先端部3に取り付けられる工具304と、を備えており、工具304の刃先E2は、3次のたわみ振動に係る3次の共振モードより低次である2次の共振モードにおける2次のたわみ振動の方向が、切削方向と一致する状態で、あるいは前記加工方向に対し、前記加工方向で前方となるほど前記ワークに近づくように傾く状態で形成され、その状態において工具304が取り付けられる。よって、第2形態と同様、モード角θをゼロにしてびびり振動を抑制することができる。
又、第3形態の振動切削装置によって行われる振動切削方法においても、3次の共振モードにおける先端部3が自由である3次のたわみ振動を発生する振動装置2と、3次のたわみ振動により刃先E2がワークWの切削方向に振動するように先端部3に取り付けられる工具304と、を備えており、工具304の刃先E2は、3次のたわみ振動に係る3次の共振モードより低次である2次の共振モードにおける2次のたわみ振動の方向が、切削方向と一致する状態で配置可能に形成され、その状態において工具304を取り付けて、ワークWを加工する。よって、びびり振動が効果的に抑制される振動切削方法を提供することができる。
第3形態は、第1形態と比較すると、工具304の製造やメンテナンスが比較的に難しい反面、リード角φのセッティングが比較的に容易である。又、第2形態と比較すると、工具304の製造やメンテナンスが比較的に難しい反面、先端部における重量バランスが比較的にとり易い。
第3形態においても、第1形態や第2形態と同様の変更例が存在する。又、第2形態と第3形態が併用されること(先端部と工具のそれぞれに凹部が設けられること等)により、刃先が静止時において振動中心軸上に配置されても良い。更に、刃先は、切削方向に対し、切削方向で前方となるほどワークに近づくように傾く状態で形成されても良い。
【0050】
[第4形態]
図16は、本発明の第4形態に係る振動切削装置の振動装置402の模式図である。
第4形態の振動切削装置は、振動装置以外、第1形態の振動切削装置1と同様に成る。第1形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0051】
上述のびびり振動の発生メカニズムによれば、所望の振動を阻害せずに低次の振動自体を解消できれば、低次の振動の方向が所望の振動の方向と異なっていたとしても、びびり振動は適切に抑制される。
そして、低次の振動のみについて、振動エネルギーを他のエネルギーに変換して発散させれば、低次の振動自体を解消することができる。
【0052】
第4形態の振動装置402は、びびり振動抑制用(低次の振動解消用)の圧電素子407が更に追加された以外は、第1形態の振動装置2と同様に成る。尚、リード角φは、0°に調節されている。
圧電素子407は、圧電素子5,6の後側に隣接して配置されている。尚、圧電素子407は、圧電素子5,6の前側に配置されても良いし、圧電素子5,6と離して配置されても良い。
【0053】
圧電素子407は、何れもU字状(半円環状)の板状部材である4個の圧電素子部材409,409・・と、環状薄板である金属製の電極411を有している。各圧電素子部材409は厚み方向において分極されており、残留分極の分極方向が厚み方向となっている。
これら圧電素子部材409,409・・のうちの2個は、電極411の前側(Y軸正側)において、間隔のある環状となるように配置されている(2分割された環状圧電素子)。この圧電素子部材409,409の間隔は、たわみ振動方向(X軸方向)と交わる方向に延びており、より詳しくはX軸方向と垂直である(Z軸方向)。これらの圧電素子部材409,409の分極方向は、互いに逆方向とされており、ここでは
図16(a)の上側(X軸負側)の圧電素子部材409の分極方向が電極411側へ向かう方向(Y軸負方向)とされ、下側(X軸正側)の圧電素子部材409の分極方向が電極411と逆側へ向かう方向(Y軸正方向)とされている。
又、圧電素子部材409,409・・のうちの別の2個は、電極411の後側(Y軸負側)において、同様に間隔のある環状となるように配置されている(2分割された環状圧電素子)。これらの圧電素子部材409,409の分極方向は、互いに逆方向とされており、ここでは
図16(a)の上側(X軸負側)の圧電素子部材409の分極方向が電極411へ向かう方向(Y軸正方向)とされ、下の圧電素子部材409の分極方向が電極411と逆側へ向かう方向(Y軸負方向)とされている。
よって、
図16(a)の上の2個の圧電素子部材409,409の分極方向は、電極411を挟んで互いに向かい合う方向となり、
図16(a)の下の2個の圧電素子部材409,409の分極方向は、電極411を挟んで互いに離れる方向となる。
【0054】
圧電素子407の電極411には、シャント回路413が接続されている。シャント回路413は、インダクタ415と抵抗417が、直列に接続されて成る。シャント回路413における、電極411と逆側の回路端は、アースされている。
インダクタ415のインダクタンスLは、2次のたわみ振動(周波数約10.7kHz)に係る圧電素子407の拘束状態における静電容量Cと電気的に共振する大きさとされている。即ち、
図16(b)に模式的に示すように、所望する3次のたわみ振動を除いて考慮し、2次のたわみ振動が発生する場合の共振周波数f
2=2π√(LC)に適合するように、インダクタンスLを調節する。尚、圧電素子407の静電容量Cは、一定である。
又、抵抗415の抵抗値Rは、2次のたわみ振動における内部インピーダンスと同じ値とされる。尚、抵抗値Rは、別の値とされても良い。
【0055】
第4形態の振動切削装置では、3次の共振モードにおける先端部403が自由であるたわみ振動を発生する振動装置402と、3次のたわみ振動により刃先EがワークWの加工方向(X軸方向)に振動するように先端部403に取り付けられる工具4と、振動装置402に設けられる圧電素子407(4個の圧電素子部材409,409・・)と、圧電素子407に接続されたシャント回路413と、を備えており、シャント回路413は、3次の共振モードより低次の共振モードである2次の共振モードに係るたわみ振動において圧電素子407が示す静電容量Cに対して電気的に共振するように設定されている。よって、2次の共振モードにおける振動のエネルギーのみを、シャント回路413によって電気エネルギーとして取り出し、熱エネルギーに変換して発散させることができ、その結果2次の共振モードにおける振動が抑制され、びびり振動を抑制することが可能となる。
又、圧電素子部材409,409・・は、2次の共振モードにおけるたわみ振動の方向(ほぼX軸方向)と交わる間隙を有して、2次の共振モードに係るたわみ振動の方向において2分割されている。よって、2次の共振モードに係る振動により、圧電素子部材409,409・・について効果的な圧縮若しくは伸張が与えられることとなり、2次の共振モードにおけるたわみ振動を効果的に抑制することができる。
更に、シャント回路413は、インダクタ415と抵抗417の直列回路を含むから、インダクタ415において電気エネルギーとしての取り出しを簡便に行え、又抵抗417において電気エネルギーから熱エネルギーへの変換ないしエネルギーの発散を簡便に行える。
加えて、第3形態の振動切削装置によって行われる振動切削方法では、3次の共振モードにおける先端部403が自由であるたわみ振動を発生する振動装置402の先端部403に、工具4を、3次のたわみ振動により刃先EがワークWの加工方向(X軸方向)に振動するように取り付け、更に振動装置402に圧電素子407(複数の圧電素子部材409,409・・)を設けると共に、圧電素子407に接続されたシャント回路413を接続し、ここでシャント回路413は、3次の共振モードより低次の共振モードである2次の共振モードに係るたわみ振動において圧電素子407が示す静電容量Cに対して電気的に共振するように設定され、工具4によりワークWを切削する。よって、びびり振動を抑制可能な振動切削方法を提供することができる。
【0056】
第4形態においては、第1形態ないし第3形態と同様の変更例が存在する他、次の変更例が存在する。
圧電素子407について、電極の前側の2個の圧電素子部材を省略したり、電極の後側の2個の圧電素子部材を省略したり、X軸負側の2個の圧電素子部材を省略したり、X軸正側の2個の圧電素子部材を省略したりする等、その構成は様々に変更されて良い。X軸負側若しくはX軸正側の2個の圧電素子部材を省略した場合、圧電素子部材は2次の共振モードにおける振動の方向(ほぼX軸方向)において、片寄せられていることになる。電極についても、複数とする等、様々に変更することができる。
シャント回路は、別の構成とされて良い。
第4形態に、第1形態ないし第3形態の少なくとも何れかが組み合わせられても良い。