【文献】
T. MATSUMOTO et al.,The measurement of low levels of factor VIII or factor IX in hemophilia A and hemophilia B plasma by clot waveform analysis and thrombin generation assay,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2006年,Vol.4,PP.377-384
【文献】
Meera Chitlur,Challenges in the laboratory analyses of bleeding disorders,Thrombosis Research,2012年,130,PP.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝固速度の平均変化率は、最大凝固速度(|min1|)および凝固速度が最大となるまでの時間(time to |min1|)を用いて算出される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記凝固波形は、前記血液検体に凝固時間測定用試薬を接触させて測定試料を調製し、前記測定試料に光を照射して得られる光学的情報に基づいて取得される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
血友病の重症度の判定方法は、血液検体を凝固させて凝固波形を取得する工程を含む。
血液検体としては全血及び血漿が挙げられるが、好ましくは血漿である。血液検体は、VS-HA患者の疑いのある患者由来の血液検体であることが好ましい。血液検体には、凝固検査に通常用いられる公知の抗凝固剤が添加されていてもよい。そのような抗凝固剤としては、例えばクエン酸3ナトリウムが挙げられる。測定試料の調製前に、あらかじめ血液検体を凝固反応に適した温度(例えば36℃以上38℃以下)まで加温してもよい。
【0013】
血液検体の凝固方法は、特に限定されず、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、血液検体に凝固時間測定用試薬を接触させて測定試料を調製し、前記測定試料中で血液検体を凝固させることによって行うことができる。
【0014】
凝固時間測定用試薬は、当該技術において公知の測定原理に基づく凝固時間を測定するための試薬であればよい。例えば、活性化部分トロンボプラスチン時間、プロトロンビン時間、希釈プロトロンビン時間、希釈活性化部分トロンボプラスチン時間、カオリン凝固時間、希釈ラッセル蛇毒時間、トロンビン時間、及び希釈トロンビン時間の少なくとも1種を測定するための試薬が挙げられる。凝固時間測定用試薬は、好ましくは、活性化部分トロンボプラスチン時間を測定するための試薬である。市販の凝固時間測定用試薬及び試薬キットを用いてもよい。
【0015】
凝固時間測定用試薬は、凝固系の活性化剤を含むことが好ましい。凝固系の活性化剤は、凝固系に関与するいずれかの凝固因子を活性化する物質であればよい。凝固系の活性化剤としては、例えば、エラグ酸、シリカ、カオリン、セライト、組織因子、トロンビン及び蛇毒などが挙げられる。エラグ酸は、金属イオンとキレートを形成した状態にあってもよい。組織因子は、ウサギ脳又はヒト胎盤由来の組織因子であってもよいし、組み換え型組織因子であってもよい。蛇毒としては、ラッセル蛇毒、テキスタリン蛇毒及びエカリン蛇毒などが挙げられる。これらの凝固系の活性化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。通常、市販の凝固時間測定用試薬及び試薬キットには、測定する凝固時間の種類に応じて、いずれかの凝固系の活性化剤が含まれている。
【0016】
測定試料中の凝固系の活性化剤の終濃度は、凝固系の活性化剤の種類に応じて適宜決定できる。凝固系の活性化剤がエラグ酸である場合、測定試料中のエラグ酸の終濃度は、通常3.5μM以上150μM以下、好ましくは10μM以上50μM以下である。凝固系の活性化剤が組織因子である場合、測定試料中の組織因子の終濃度は、通常0.4μg/mL以上0.7μg/mL以下、好ましくは0.5μg/mL以上0.6μg/mL以下である。
【0017】
リン脂質は凝固反応を促進するので、凝固時間測定用試薬はリン脂質をさらに含んでいてもよい。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルセリン(PS)が挙げられる。本実施形態では、凝固時間測定用試薬に、PE、PC及びPSから選択される1種、好ましくは2種、より好ましくは全種のリン脂質を添加できる。リン脂質は、天然由来リン脂質であってもよいし、合成リン脂質であってもよい。それらの中でも、合成リン脂質又は純度99%以上に精製された天然由来リン脂質が好ましい。PE、PC及びPSの脂肪酸側鎖は特に限定されないが、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸などが挙げられる。それらの中でもオレイン酸が好ましい。本実施形態では、リン脂質は、適切な溶媒に溶解された液体の形態にあることが好ましい。
【0018】
測定試料中のリン脂質の終濃度は、リン脂質の種類に応じて適宜決定できる。リン脂質がPEである場合、測定試料中のリン脂質の終濃度は、通常1μg/mL以上150μg/mL以下、好ましくは5μg/mL以上50μg/mL以下である。リン脂質がPCである場合、測定試料中のリン脂質の終濃度は、通常1μg/mL以上100μg/mL以下、好ましくは5μg/mL以上80μg/mL以下である。リン脂質がPSである場合、測定試料中のリン脂質の終濃度は、通常0.1μg/mL以上50μg/mL以下、好ましくは1μg/mL以上10μg/mL以下である。2種類以上のリン脂質を用いる場合は、測定試料における各リン脂質の濃度の合計が、通常5μg/mL以上400μg/mL以下、好ましくは20μg/mL以上100μg/mL以下であればよい。
【0019】
凝固時間測定用試薬は、好ましくは、リン脂質及び凝固系の活性化剤を含む。リン脂質及び凝固系の活性化剤を含む凝固時間測定用試薬としては、例えば活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定用試薬が挙げられる。この場合、凝固系の活性化剤は、内因系凝固経路の接触因子を活性化する物質が好ましく、例えば、エラグ酸、シリカ、カオリン及びセライトが挙げられる。
【0020】
カルシウムイオンは、測定試料中で血液凝固を開始させるために必要となる。本実施形態では、カルシウムイオンを含む水溶液を測定試料の調製に用いることにより、測定試料にカルシウムイオンが提供される。カルシウムイオンを含む水溶液としては、カルシウム塩の水溶液が好ましく、例えば、塩化カルシウム水溶液、乳酸カルシウム水溶液などが挙げられる。測定試料中のカルシウムイオン含有量は、凝固を生じさせるのに十分な量であればよく、例えば、塩化カルシウムの濃度で表して、通常2mM以上20 mM以下、好ましくは4mM以上10 mM以下である。以下、カルシウムイオンを含む水溶液を「カルシウム溶液」とも呼ぶ。
【0021】
カルシウム溶液を添加すると凝固が開始するので、測定試料の調製においては、カルシウム溶液は最後に添加することが好ましい。測定試料の調製手順は、次のとおりである。まず、血液検体と凝固時間測定用試薬とを混合し、次に、得られた混合物とカルシウム溶液とを混合することにより調製できる。あるいは、まず、血液検体と凝固時間測定用試薬とを混合し、次に、得られた混合物とカルシウム溶液とを混合することにより、測定試料を調製してもよい。市販のプロトロンビン時間(PT)測定用試薬を用いる場合、該試薬は組織因子及びカルシウムイオンを含むので、血液検体とPT測定用試薬とを混合することにより測定試料を調製できる。いずれの手順により測定試料を調製するかは、用いる凝固時間測定用試薬に応じて決定すればよい。
【0022】
本実施形態では、カルシウム溶液の添加前に、上記の混合物を凝固反応に適した条件下でインキュベートしてもよい。例えば、35℃以上40℃以下の温度にて2分以上5分以下の時間でインキュベートする条件が挙げられる。測定試料の調製は、用手法で行ってもよいし、全自動測定装置により行ってもよい。そのような装置としては、例えば、全自動血液凝固測定装置のCSシリーズ(シスメックス株式会社)などが挙げられる。
【0023】
リン脂質及び凝固系の活性化剤を含む凝固時間測定用試薬を用いる場合は、次のようにして、測定試料を調製することが好ましい。まず、血液検体と、リン脂質及び凝固系の活性化剤を含む凝固時間測定用試薬とを混合する。次に、得られた混合物と、カルシウム溶液とを混合する。
【0024】
本実施形態の方法では、凝固波形は、上記のようにして調製した測定試料を用いて取得する。凝固波形とは、血液検体の凝固の進行に伴って生じる該血液検体の光学的特性等の経時的変化を表す波形である。本実施形態において、凝固波形は、光学的測定法により取得してもよい。光学的測定法としては、例えば、測定試料に光を照射して透過度などの光学的情報を取得する方法が挙げられる。測定は、全自動測定装置により行ってもよい。例えば、全自動血液凝固測定装置のCSシリーズ(シスメックス株式会社)は透過度などの光学的情報を測定できる。
【0025】
光学的情報の取得は、始点から凝固の完了時までの間、連続的又は断続的に行う。凝固の過程において連続的又は断続的に測定された光学的情報に基づけば、該過程の任意の時点又は時間において、後述の凝固波形の微分に関するパラメータを取得することが可能となる。ここで、始点とは、後述する凝固速度の平均変化率を取得するために、凝固波形を構成する各プロットのデータを取得し始める時点をいう。始点は、凝固速度の平均変化率の取得に支障がない限り特に限定されないが、凝固速度が最大となる時点より前に設定されることが好ましい。例えば、始点は、凝固時間の測定開始点(
図1A及びBにおけるa点)若しくは凝固の開始点(
図1A及びBにおけるb点)又はその時点を示す数値に任意の係数を加算又は減算することにより得られる数値が示す時点に設定され、好ましくは凝固時間の測定開始点に設定される。
【0026】
測定時間は、通常5秒以上1800秒以下、好ましくは10秒以上600秒以下の範囲から決定すればよい。なお、本実施形態の方法では、正常血漿(健常者から得た血漿)を血液検体として用いた場合、通常、測定試料の調製時から30秒以内に凝固が完了する。
【0027】
凝固波形は、測定試料に光を照射して得られる光学的情報から取得されることが好ましい。そのような光学的情報としては、例えば、連続的又は断続的に測定された散乱光量、透過度及び吸光度などが挙げられる。この場合、凝固波形は、散乱光量、透過度又は吸光度の経時的変化を表す波形である。測定試料に照射する光は、凝固時間の測定に通常用いられる光であればよく、例えば、波長が660 nm近傍、好ましくは660 nmの光が挙げられる。光源は特に限定されないが、例えば、発光ダイオード、ハロゲンランプなどが挙げられる。また、本実施形態で取得される凝固波形には、凝固波形の曲線自体、および凝固波形を構成する各プロットのデータが含まれる。凝固波形を構成する各プロットのデータとしては、始点からの時間及びその時点における測定試料の光学的特定の測定値が挙げられる。
【0028】
ここで、
図1Aを参照して、本実施形態の方法で得られる凝固波形の一例について説明する。
図1Aに示される凝固波形において、a点は凝固時間の測定開始点であり、b点はフィブリン析出点(凝固の開始点)であり、c点は凝固の終点である。一般的な凝固時間測定法では、フィブリンが析出するまでの時間を凝固時間としている。
図1Aでは、a-b間の時間が凝固時間を表す。凝固時間測定用試薬の作用により凝固が進行するので、
図1Aのaからcに示されるように、測定試料の透過度は低下する。
【0029】
血友病の重症度の判定方法は、凝固波形から、凝固速度の平均変化率を取得する工程を含む。
凝固速度の平均変化率は、始点からの時間に対する凝固速度の平均変化率を反映すれば特に制限されない。例えば、凝固速度の平均変化率は、凝固速度の平均変化率を反映する近似値であってもよい。本実施形態では、凝固波形の微分によって得られる曲線や微分に関するパラメータ等を取得し、それらを用いて、凝固速度の平均変化率を取得する。
【0030】
凝固波形の微分によって得られる曲線は、凝固波形を1次微分することによって得られる1次微分曲線(速度の波形)であることが好ましい。ここで、
図1Bを参照して、速度の波形について説明する。
図1Aの凝固波形を1次微分すると、
図1Bに示される凝固の速度を示す波形が得られる。
図1Bでは、凝固速度(a-c間の速度)が正の値となるように波形が表示されているが、凝固の速度が負の値となるように表示してもよい。すなわち、縦軸の正負が
図1Bとは反転した波形を取得してもよい。
図1Bのa点〜c点はそれぞれ
図1Aのa点〜c点に対応する。
図1Bにおいて、凝固の終点であるc点は、上昇した速度が0となる点である。
【0031】
凝固波形の微分によって得られる曲線は、凝固波形を2回微分することによって得られる2次微分曲線でないことが好ましい。なぜなら、2次微分曲線にはノイズが入りやすく、不均一な波形を示し得るため(例えば
図2)、凝固因子の微量定量において、正確な情報が得られないことがあるからである。凝固波形を3回以上微分することによって得られる曲線についても同様に、ノイズが入りやすくなると推測される。したがって、凝固波形の微分によって得られる曲線は、1次微分曲線であることが特に好ましい。
【0032】
凝固波形の微分に関するパラメータは、凝固波形を少なくとも1回微分することによって得られる、凝固速度などの少なくとも1つを示す値であれば、特に限定されない。凝固波形の微分に関するパラメータとしては、例えば、凝固速度(凝固波形の傾き)、最大凝固速度(凝固波形の傾きの最大値)(|min1|)、凝固速度が最大となるまでの時間(time to |min1|)、凝固速度が最大のa倍(ここで、0<a<1)となるまでの時間(time to a×|min1|)、凝固波形の平均変化率、凝固加速度(速度の波形の傾き)が最大となるまでの時間(time to |min2|)、凝固加速度が最大のa倍(ここで、0<a<1)となるまでの時間(time to a×|min2|)又はそれらの近似値等が挙げられる。凝固波形の微分に関するパラメータの数は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。また、凝固波形の微分に関するパラメータは、2つ以上のパラメータを組み合わせて得られる値であってもよく、例えば、上記で例示したパラメータの少なくとも2つの和、差、積、比などが挙げられる。
【0033】
凝固速度の平均変化率は、凝固波形を微分して得られた速度の波形に基づいて算出される。凝固速度の平均変化率としては、例えば、速度の波形上の2点を結んだ直線の傾きの大きさが挙げられる。速度の波形上の2点は、速度の波形上の任意の点及びそれに近い周辺の点から選択される。この2点は、いずれも、速度の波形上の任意の点を(時間, 凝固速度)=(x, f(x))で表して、(0, f(0))〜(time to |min1|, |min1|)の範囲内から選択されることが好ましい。ここで、時間x = 0は、始点である。凝固速度の平均変化率は、より好ましくは、点(time to |min1|, |min1|)と、点(time to |min2|, f(time to |min2|))とを結んだ直線の傾きの大きさが挙げられる。なお、time to |min1|、f(time to |min1|)、time to |min2|、およびf(time to |min2|)はそれぞれ、それらの近似値を用いることができる。ここで、f(time to |min2|)は、1/2×|min1|と近似することができるため、f(time to |min2|)として、1/2×|min1|を用いることができる。また、凝固速度が1/2×|min1|となるまでの時間(time to 1/2×|min1|)は、time to |min2|と近似することができる。そのため、点(time to |min2|, f(time to |min2|))としては、例えば、点(time to |min2|, 1/2×|min1|)、点(time to 1/2×|min1|, 1/2×|min1|)等を用いることができる。
【0034】
ここで、
図3を参照して、本実施形態の方法で可能な近似の一例について詳しく説明する。
図3左下図の波形は、健常人の血液検体に由来する速度の波形であり、
図3右上図は、血友病A患者に由来する速度の波形である。これらの図において、aの破線は点(time to |min1|, 0)を通る縦軸に平行な直線を表し、その直線と速度の波形との交点が、点(time to |min1|, |min1|)に相当する。一方、bの破線は点(time to |min2|, 0)を通る縦軸に平行な直線を表し、その直線と速度の波形との交点が、点(time to |min2|, f(time to |min2|))に相当する。ここで、f(time to |min2|)は1/2×|min1|で近似できるため、凝固速度の平均変化率は、点(time to |min1|, |min1|)と点(time to |min2|, 1/2×|min1|)との2点を結んだ直線の傾きの大きさとして算出される。
図3に示された三角形は、このような近似の概念図である。
図3に示されていないが、重症血友病患者、特にMS-HA患者及びVS-HA患者並びに抗体が出現している血友病患者(HA-inh)についても同様、上記の近似が可能である。
【0035】
別の観点では、凝固速度の平均変化率は、好ましくは、最大凝固速度(|min1|)および凝固速度が最大となるまでの時間(time to |min1|)を用いて算出され、より好ましくは、凝固加速度が最大となるまでの時間(time to |min2|)をさらに用いて算出される。
【0036】
特に好ましい実施形態では、凝固速度の平均変化率は、以下の式1により算出される。
[数1]
(1/2×|min1|)/(time to |min1| - time to |min2|)・・・ 式1
【0037】
上記の式1を用いれば、微分に関するパラメータのうち簡便に取得できるものだけを用いて、凝固速度の平均変化率を算出できる。これは、重症血友病患者、抗体が出現している血友病患者及び健常人の血液検体を用いて取得した、凝固速度の平均変化率を算出する際に、凝固速度が1/2×|min1|となるまでの時間(time to 1/2×|min1|)を、time to |min2|で近似できることを本発明者らが経験的に見出したことに基づく。このような観点でみれば、本実施形態の方法では、凝固加速度が最大となるまでの時間は、凝固速度が最大となる前であって最大凝固速度の1/2となるまでの時間であるともいえる。
【0038】
血友病の重症度の判定方法は、凝固速度の平均変化率に基づいて、血液検体の血友病の重症度を判定する工程を含む。
血友病は、血友病A又は血友病Bのいずれであってもよいが、好ましくは血友病Aである。
【0039】
本実施形態では、凝固速度の平均変化率が基準値以下である場合に、血液検体には凝固因子に対する抗体が出現している虞が高いと判定し、基準値を超える場合には、血液検体には凝固因子に対する抗体が出現している虞が高くないと判定する。ここで、「抗体が出現している」とは、少なくとも検出可能なレベルで血中に抗体が存在していることを意味するが、血中抗体レベルが5 BU以上となっている状態のことを意味していてもよい。このような判定結果は、血友病患者の血中にインヒビターが出現していると医師が診断することを補助するデータとなり得る。このように抗体が出現している場合、VS-HA患者より血友病が重症であると考えることができる。これに対し、凝固速度の平均変化率が基準値を超える場合には、血友病患者の血中にインヒビターは出現していないが、重症であると医師が診断することを補助するデータとなり得る。
【0040】
重症血友病、特に第VIII因子活性<0.2IU/dlのVS-HAと、抗体が出現している血友病において、APTT検査ではともに凝固時間は著しく延長し、凝固因子定量検査においてはともに定量限界以下となるため、そのような一般的な検査で簡便にインヒビターを検出することは困難である。一方で、血友病患者において、インヒビターが発生した場合には、補充療法で一般的に使用される第VIII因子製剤では止血管理が困難となるため、免疫寛容療法やバイパス製剤の投与を考慮する必要があり、治療法の選択においてインヒビター発現を早期に、高い特異度かつ信頼度で検出することが重要である。本実施形態の方法によれば、上記のとおり、第VIII因子活性<0.2IU/dlのVS-HAと、抗体が出現している血友病とを鑑別できるため、それぞれの患者に適した治療方針を選択することができるようになる。このことは、先行技術からは予測し得ない成果である。なお、血友病Bの場合も、第VIII因子が第IX因子に置き換わるだけで同様である。
【0041】
基準値は、特に限定されず、当業者が予め適宜設定することができる。例えば、重症血友病A患者群及び抗体が出現している血友病患者群からの血液検体を用いて予め凝固波形を取得し、それに基づいて上記の式1の値を得て、重症血友病患者群、特にVS-HA患者群と、抗体が出現している血友病患者群とを最も精度良く分類できる値に設定することができる。
【0042】
[2.血液検体分析装置]
以下に、血液検体分析装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態はこの例のみに限定されない。
図4に示されるように、血液検体分析装置10は、測定試料の調製及び測定を行う測定装置50と、測定装置50により取得された測定データを分析すると共に測定装置50に指示を与える制御装置40とを備える。測定装置50は、測定試料からの光学的情報を取得する測定部20と、測定部20の前方に配置された検体搬送部30とを備える。
【0043】
測定部20には、蓋20a及び20bと、カバー20cと、電源ボタン20dが設けられている。ユーザは、蓋20aを開けて、試薬テーブル11及び12(
図5参照)に設置されている試薬容器103を新たな試薬容器103と交換したり、また、別の試薬容器103を新たに追加したりすることができる。試薬容器103には、収容する試薬の種類と、試薬に付与されたシリアルナンバーからなる試薬IDとを含むバーコードが印刷されたバーコードラベル103aが貼付されている。
【0044】
ユーザは、蓋20bを開けて、ランプユニット27(
図5参照)を交換できる。また、ユーザは、カバー20cを開けて、ピアサ17a(
図5参照)を交換できる。検体搬送部30は、検体ラック102に支持された検体容器101を、ピアサ17aによる吸引位置まで搬送する。検体容器101は、ゴム製の蓋101aにより密封されている。
【0045】
血液検体分析装置10を使用する場合、ユーザは、まず、測定部20の電源ボタン20dを押して測定部20を起動させ、制御装置40の電源ボタン439を押して制御装置40を起動させる。制御装置40が起動すると、表示部41にログオン画面が表示される。ユーザは、ログオン画面にユーザ名及びパスワードを入力して制御装置40にログオンし、血液検体分析装置10の使用を開始する。
【0046】
(測定装置の構成)
測定装置50の構成について、以下に説明する。測定部20は、
図5に示されるように、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、バーコードリーダ14と、キュベット供給部15と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、緊急検体セット部19と、光ファイバ21と、検出部22と、キュベット移送部23と、加温部24と、廃棄口25と、流体部26と、ランプユニット27とを備えている。
【0047】
(測定試料調製部)
測定試料調製部は、試薬テーブル11及び12、キュベットテーブル13、バーコードリーダ14、キュベット供給部15、キャッチャ16、検体分注アーム17、試薬分注アーム18、緊急検体セット部19、キュベット移送部23、加温部24、廃棄口25、流体部26、及び検体搬送部30から構成される。試薬テーブル11及び12とキュベットテーブル13は、それぞれ、円環形状を有し、回転可能に構成されている。試薬テーブル11及び12は試薬収納部に相当し、ここには試薬容器103が載せ置かれる。試薬テーブル11及び12に載せ置かれた試薬容器103のバーコードは、バーコードリーダ14により読み取られる。バーコードから読み取られた情報(試薬の種類、試薬ID)は、制御装置40に入力され、ハードディスク434(
図9参照)に格納される。
【0048】
本実施形態の血液検体分析装置では、試薬テーブル11及び/又は12には、凝固時間測定用試薬、カルシウム溶液などがそれぞれ収容された試薬容器103が載せ置かれる。また、試薬テーブル11及び/又は12に、対照検体として正常血漿が収容された試薬容器103が載せ置かれてもよい。
【0049】
キュベットテーブル13には、キュベット104を支持可能な複数の孔からなる支持部13aが形成されている。ユーザによってキュベット供給部15に投入された新しいキュベット104は、キュベット供給部15により順次移送され、キャッチャ16によりキュベットテーブル13の支持部13aに設置される。
【0050】
検体分注アーム17と試薬分注アーム18には、それぞれ、上下移動及び回転移動できるようステッピングモータが接続されている。検体分注アーム17の先端には、検体容器101の蓋101aを穿刺できるよう先端が鋭利に形成されたピアサ17aが設置されている。試薬分注アーム18の先端にはピペット18aが設置されている。ピペット18aの先端は、ピアサ17aと異なり平坦に形成されている。また、ピペット18aには、静電容量式の液面検知センサ213(
図6参照)が接続されている。
【0051】
検体搬送部30(
図4参照)によって検体容器101が所定位置に搬送されると、ピアサ17aが、検体分注アーム17の回転移動により検体容器101の真上に位置付けられる。そして、検体分注アーム17が下方向に移動され、ピアサ17aが検体容器101の蓋101aを貫通し、検体容器101に収容されている血液検体が、ピアサ17aにより吸引される。緊急を要する血液検体が緊急検体セット部19にセットされている場合、ピアサ17aは、検体搬送部3から供給される検体に割り込んで、緊急を要する血液検体を吸引する。ピアサ17aにより吸引された血液検体は、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に吐出される。
【0052】
血液検体が吐出されたキュベット104は、キュベット移送部23のキャッチャ23aにより、キュベットテーブル13の支持部13aから、加温部24の支持部24aに移送される。加温部24は、支持部24aに設置されたキュベット104に収容されている血液検体を、所定の温度(例えば36〜38℃)で一定時間加温する。加温部24による血液検体の加温が終了すると、このキュベット104は、キャッチャ23aによって再び把持される。そして、このキュベット104は、キャッチャ23aにより把持されたまま所定位置に位置付けられ、この状態で、ピペット18aにより吸引された試薬がキュベット104内に吐出される。
【0053】
ピペット18aによる試薬の分注では、まず、試薬テーブル11及び12が回転され、測定項目に対応する試薬を収容する試薬容器103が、ピペット18aによる吸引位置に搬送される。そして、原点位置を検知するためのセンサに基づいて、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられた後、液面検知センサ213によりピペット18aの下端が試薬の液面に接触するまで、ピペット18aが下降される。ピペット18aの下端が試薬の液面に接触すると、必要な量の試薬を吸引できる程度に、さらにピペット18aが下降される。そして、ピペット18aの下降が停止され、ピペット18aにより試薬が吸引される。ピペット18aにより吸引された試薬は、キャッチャ23aによって把持されたキュベット104に吐出される。そして、キャッチャ23aの振動機能により、キュベット104内の血液検体と試薬が攪拌される。これにより、測定試料の調製が行われる。その後、測定試料を収容するキュベット104は、キャッチャ23aにより、検出部22の支持部22aに移送される。
【0054】
(情報取得部)
情報取得部は、光ファイバ21、検出部22及びランプユニット27から構成される。ランプユニット27は、検出部22による光学的信号の検出に用いられる複数種類の波長の光を供給する。
図7を参照して、ランプユニット27の構成の一例を説明する。ランプユニット27は光源に相当し、ハロゲンランプ27aと、ランプケース27bと、集光レンズ27c〜27eと、円盤形状のフィルター部27fと、モータ27gと、光透過型のセンサ27hと、光ファイバカプラ27iとを備える。
【0055】
図5を参照して、ランプユニット27からの光は、光ファイバ21を介して、検出部22に供給される。検出部22には、穴状の支持部22aが複数設けられており、各支持部22aには、キュベット104が挿入可能となっている。各支持部22aには、それぞれ、光ファイバ21の端部が装着され、支持部22aに支持されたキュベット104に光ファイバ21からの光が照射可能となっている。検出部22は、光ファイバ21を介して、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、キュベット104を透過する光(又はキュベット104からの散乱光)の光量を検出する。
【0056】
図8A〜Dを参照して、検出部22に配された複数の支持部22aのうちの一つの構成の例を示すが、他の支持部22aも同様の構成を有する。
図8Aを参照して、検出部22には、光ファイバ21の先端が挿入される円形の穴22bが形成される。さらに、検出部22には、穴22bを支持部22aに連通させる円形の連通孔22cが形成されている。穴22bの径は、連通孔22cの径よりも大きい。穴22bの端部には、光ファイバ21からの光を集光するレンズ22dが配置されている。さらに、支持部22a内壁面には、連通孔22cに対向する位置に孔22fが形成される。この孔22fの奥に、光検出器22gが配置されている。光検出器22gは受光部に相当し、受光光量に応じた電気信号を出力する。レンズ22dを透過した光は、連通孔22c、支持部22a及び孔22fを介して、光検出器22gの受光面に集光される。光ファイバ21は、端部が穴22bに挿入された状態で、板ばね22eによって抜け止めされる。
【0057】
図8Bを参照して、支持部22aにキュベット104が支持されると、レンズ22dによって集光された光は、キュベット104およびキュベット104に収容された試料を透過して、光検出器22gに入射する。試料において血液凝固反応が進むと、試料の濁度が上昇する。これに伴い、試料を透過する光の光量(透過光量)が減少し、光検出器22gの検出信号のレベルが低下する。
【0058】
図8Cを参照して、散乱光を用いる場合の検出部22の構成を説明する。支持部22aの内側面において、連通孔22cと同じ高さの位置に、孔22hが設けられる。この孔22hの奥に、光検出器22iが配置される。支持部22aにキュベット104が挿入され、光ファイバ21から光が出射されると、キュベット104内の測定試料によって散乱された光が、孔22hを介して光検出器22iに照射される。この例では、光検出器22iからの検出信号は、測定試料による散乱光の強度を示す。また、
図8Dに示されるように、測定試料を透過する透過光と、測定試料により散乱される散乱光との両方を検出できるようにしてもよい。
【0059】
上記のように、検出部22は、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、測定試料からの光学的情報を取得する。取得された光学的情報は、制御装置40に送信される。制御装置40は、光学的情報に基づいて分析を行い、分析結果を表示部41に表示する。
【0060】
測定終了後、不要となったキュベット104は、キュベットテーブル13により搬送され、キャッチャ16により廃棄口25に廃棄される。なお、測定動作の際に、ピアサ17aとピペット18aは、流体部26から供給される洗浄液などの液体により、適宜洗浄される。
【0061】
測定装置のハードウェア構成について、以下に説明する。
図6に示されるように、測定部20は、制御部200と、ステッピングモータ部211と、ロータリーエンコーダ部212と、液面検知センサ213と、センサ部214と、機構部215と、光学的情報取得部216と、バーコードリーダ14とを含む。
【0062】
図6を参照して、制御部200は、CPU201と、メモリ202と、通信インターフェース203と、I/Oインターフェース204を含んでいる。CPU201は、メモリ202に記憶されているコンピュータプログラムを実行する。メモリ202は、ROM、RAM、ハードディスクなどからなる。また、CPU201は、通信インターフェース203を介して、検体搬送部30を駆動させると共に、制御装置40との間で指示信号及びデータの送受信を行う。また、CPU201は、I/Oインターフェース204を介して、測定部20内の各部を制御すると共に、各部から出力された信号を受信する。
【0063】
ステッピングモータ部211は、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、キュベット移送部23を、それぞれ駆動するためのステッピングモータを含んでいる。ロータリーエンコーダ部212は、ステッピングモータ部211に含まれる各ステッピングモータの回転変位量に応じたパルス信号を出力するロータリーエンコーダを含んでいる。
【0064】
液面検知センサ213は、試薬分注アーム18の先端に設置されたピペット18aに接続されており、ピペット18aの下端が試薬の液面に接触したことを検知する。センサ部214は、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられたことを検知するセンサと、電源ボタン20dが押されたことを検知するセンサを含んでいる。機構部215は、キュベット供給部15と、緊急検体セット部19と、加温部24と、流体部26を駆動するための機構と、ピアサ17aとピペット18aによる分注動作が可能となるようピアサ17aとピペット18aに圧力を供給する空圧源を含んでいる。光学的情報取得部216は、
図5を参照して、少なくとも、ランプユニット27と、光ファイバ21と、検出部22とを含む。
【0065】
(制御部)
制御装置40(制御部)の構成について、以下に説明する。
図4に示されるように、制御装置40は、表示部41と、入力部42と、コンピュータ本体43とから構成されている。ユーザが、入力部42を介して血液検体の測定開始指示を入力すると、制御装置40は、測定開始指示を測定部20に送信して測定を開始させる。制御装置40は、測定部20から光学的情報を受信する。そして、制御装置40のプロセッサは、光学的情報に基づいて、凝固波形の1次微分曲線や微分に関するパラメータ等を算出する。また、制御装置40のプロセッサは、光学的情報に基づいて凝固時間を算出してもよい。そして、制御装置40のプロセッサは、血液検体の分析のためのコンピュータプログラムを実行する。よって、制御装置40は、血液検体の分析のためのコンピュータシステムとしても機能する。
【0066】
制御装置40の機能構成について、
図9に示されるように、制御装置40は、取得部401と、記憶部402と、算出部403と、判定部404と、出力部405とを備える。取得部401は、測定部20と、ネットワークを介して通信可能に接続されている。出力部404は、表示部41と通信可能に接続されている。
【0067】
取得部401は、測定部20から送信された光学的情報を取得する。記憶部402は、凝固波形の微分に関する各種パラメータの値を算出するための式、各種パラメータに対応する正常範囲又は所定の基準値などを記憶する。また、記憶部402は、凝固時間を算出するための式を記憶していてもよい。算出部403は、取得部401で取得された情報を用いて、記憶部402に記憶された式に従って各種パラメータの値を算出する。判定部404は、算出部403によって算出されたパラメータの値が、記憶部402に記憶された該パラメータに対応する正常範囲から外れるか否かを判定する。出力部405は、算出部403によって算出されたパラメータの値を、血液検体についての参考情報として出力する。
【0068】
図10に示されるように、制御装置40のコンピュータ本体43は、CPU431と、ROM432と、RAM433と、ハードディスク434と、読出装置435と、入出力インターフェース436と、通信インターフェース437と、画像出力インターフェース438と、電源ボタン439とを備える。CPU431、ROM432、RAM433、ハードディスク434、読出装置435、入出力インターフェース436、通信インターフェース437、画像出力インターフェース438及び電源ボタン439は、バス440によって通信可能に接続されている。
【0069】
CPU431は、ROM432に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM433にロードされたコンピュータプログラムを実行する。CPU431がアプリケーションプログラムを実行することにより、上述した各機能ブロックが実現される。これにより、コンピュータシステムが、血液検体分析装置の端末として機能する。
【0070】
ROM432は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM432には、CPU431によって実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
【0071】
RAM433は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM433は、ROM432及びハードディスク434に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM433は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU431の作業領域としても利用される。
【0072】
ハードディスク434は、オペレーティングシステム、CPU431に実行させるためのアプリケーションプログラム(血液検体の分析のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラム、当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ、及び制御装置40の設定内容がインストールされている。
【0073】
読出装置435は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVDROMドライブなどによって構成されている。読出装置435は、CD、DVDなどの可搬型記録媒体441に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
【0074】
入出力インターフェース436は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェース436には、キーボード、マウスなどの入力部42が接続されている。ユーザは入力部42を介して指示を入力し、入出力インターフェース436は、入力部42を介して入力された信号を受け付ける。
【0075】
通信インターフェース437は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェースなどである。制御装置40は、通信インターフェース437により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。通信インターフェース437は測定部20に接続されており、CPU431は、通信インターフェース437を介して、測定部20との間で指示信号及びデータの送受信を行う。
【0076】
画像出力インターフェース438は、LCD、CRTなどで構成される表示部41に接続されている。画像出力インターフェース438は、画像データに応じた映像信号を表示部41に出力し、表示部41は、画像出力インターフェース438から出力された映像信号に基づいて画像を表示する。
【0077】
図6を参照して、測定動作の際、測定部20のCPU201は、検出部22(
図5参照)から出力された検出信号をデジタル化したデータ(光学的情報)を、メモリ202に一時格納する。メモリ202の記憶領域は、支持部22a毎にエリア分割される。各エリアには、対応する支持部22aに支持されたキュベット104に対して所定波長の光を照射したときに取得されるデータ(光学的情報)が、順次格納される。こうして、所定の測定時間にわたって順次、データがメモリ202に格納される。測定時間が経過すると、CPU201は、メモリ202に対するデータの格納を中止し、格納したデータを、通信インターフェース203を介して制御装置40に送信する。制御装置40は、受信したデータを処理して解析を行い、解析結果を表示部41に表示する。
【0078】
(血液検体分析装置の処理手順)
測定部20における処理は、主として測定部20のCPU201の制御の下で行われ、制御装置40における処理は、主として制御装置40のCPU431の制御の下で行われる。ユーザにより入力された測定開始指示を制御装置40から受信すると、測定部20は測定処理を開始する。
図11を参照して、測定処理が開始されると、測定部20は、検体搬送部により搬送された検体容器101から所定量の血液検体を吸引し、これを、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に分注する。なお、対照検体として正常血漿も測定する場合、測定部20は、試薬収容部に収容された正常血漿が入った試薬容器103から所定量の正常血漿を吸引し、これを空のキュベット104に分注する。測定部20は、検体が分注されたキュベット104を加温部24に移送して、キュベット104内の血漿を所定温度(例えば37℃)に加温する。その後、測定部20は、キュベット104に凝固時間測定用試薬及びカルシウム溶液を添加して、測定試料を調製する(ステップS11)。
【0079】
測定部20は、各種試薬が添加されたキュベット104を検出部22に移送し、キュベット104に光を照射して測定試料を測定する(ステップS12)。測定部20は、始点からの時間、好ましくはキュベット104にカルシウム溶液を添加した時点から時間の計測を開始する。この測定では、波長660 nmの光に基づくデータ(散乱光量又は透過光量)が、測定時間の間、順次、メモリ202に格納される。このとき、データは、始点からの経過時間、好ましくはカルシウム溶液の添加時点からの経過時間に対応付けられた状態でメモリ202に格納される。そして、測定時間が経過すると、測定部20は、測定を中止し、メモリ202に格納された測定結果(データ)を制御装置40に送信する(ステップS13)。これにより、制御装置40が測定部20から測定結果(データ)を受信すると(ステップS21:YES)、制御装置40は、受信した測定結果に対して分析処理を実行する(ステップS22)。すなわち、制御装置40は、測定試料について、凝固波形から、凝固波形の微分に関するパラメータを算出する。なお、制御装置40は、測定試料の凝固時間、凝固波形及び速度の波形などを算出してもよい。分析処理を行った後、制御装置40は、分析結果の表示処理を実行する(ステップS23)。
【0080】
(凝固速度の平均変化率の取得の処理手順及び血友病の重症度に関する情報の出力)
図12を参照して、凝固速度の平均変化率の取得の処理のフローの一例を説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0081】
ステップS101において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータ(散乱光量又は透過光量)に基づいて、光学的情報(散乱光強度、又は透過度もしくは吸光度)を取得する。ステップS102において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固波形を取得し、記憶部402に記憶された式に従って凝固波形の微分に関するパラメータを算出する。算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間、凝固波形及び速度の波形などをさらに算出してもよい。そして、算出部403は、これらの算出結果等に基づいて、記憶部402に記憶された上記式1に従って、式1の値を算出する。
【0082】
ステップS103において、判定部404は、算出部403で算出された式1の値が、記憶部402に記憶された基準値を超えるか否かを判定する。ここで、式1の値が基準値を超えるとき、処理はステップS104に進行する。ステップS104において、判定部404は、血液検体には、凝固因子に対する抗体が出現している虞が高くないとの判定結果を出力部405に送信する。一方、式1の値が基準値以下のとき、処理はステップS105に進行する。ステップS105において、判定部404は、血液検体には、凝固因子に対する抗体が出現している虞が高いとの判定結果を出力部405に送信する。
【0083】
ステップS106において、出力部405は、判定結果を出力し、表示部41に表示させたり、プリンタに印刷させたりする。あるいは、音声で出力してもよい。これにより、判定結果を、血液検体についての参考情報としてユーザに提供できる。
【0084】
分析結果を表示する画面の一例として、
図13を参照して、APTT測定用試薬及びカルシウム溶液を用いて血液検体の凝固の過程を分析した結果を表示する画面について説明する。画面D1は、検体番号を表示する領域D11と、測定項目名を表示する領域D12と、詳細画面を表示させるためのボタンD13と、測定日時を表示するための領域D14と、測定結果を表示する領域D15と、分析情報を表示する領域D16と、凝固波形及びその一次微分曲線を表示する領域D17を含む。
【0085】
領域D15には、測定項目と測定値が表示される。領域D15において、「APTT sec」は、活性化部分トロンボプラスチン時間である。領域D15には、式1の値、|min1|などの凝固波形の微分に関するパラメータの値が表示されてもよい。
【0086】
領域D16には、分析項目と参考情報が表示される。領域D16において、「Index」は、判定に用いた凝固波形の微分に関するパラメータの値である。「基準値(参考)」は、判定に用いたパラメータ値に対応する基準値である。「判定(参考)」は、血液検体分析装置による判定結果である。
図13では、血液検体に凝固因子に対する抗体が出現している虞が高いことを示す。なお、患者が凝固因子に対する抗体が出現しているか否かの診断は、この判定結果だけでなく、他の検査結果などの情報も考慮して行われることが望ましい。よって、本実施形態に係る血液検体分析装置による判定結果及び基準値が参考情報であることを示すために、「(参考)」と表示している。
図13では、判定結果を「抗体出現の虞」という文字で表示しているが、フラグなどの記号や図形標識で表示してもよい。あるいは、判定結果を音声で出力してもよい。
【0087】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0088】
実施例:凝固速度の平均変化率による鑑別
(1)試薬
市販のAPTT測定試薬として、トロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス株式会社)及びアクチンFS(シーメンスヘルスケアダイアグノスチックス社)を用いた。カルシウムイオンを含む凝固開始試薬として、20 mM塩化カルシウム液(シスメックス株式会社)を用いた。
【0089】
(2)血液検体
・重症血友病A血漿検体 10検体(Severe Haemophilia A; 第VIII因子活性 <1.0 IU/dl):
VS-HA検体 5検体(第VIII因子活性 <0.2 IU/dl)
MS-HA検体 5検体(第VIII因子活性 0.2 IU/dl〜1.0 IU/dl)
・抗体が出現している血友病A検体 10検体:
HA-inh 10検体(第VIII因子活性 <0.2 IU/dl)
【0090】
(3)測定試料の調製及び測定
測定試料の調製及び測定には、全自動血液凝固測定装置CS-2000i(シスメックス株式会社)を用いた。血漿検体(50μL)に血液凝固分析用試薬(50μL)を添加して、37℃で3分間インキュベーションした。そして、20 mM塩化カルシウム液(50μL)を添加して測定試料を調製した。測定試料の透過度を、塩化カルシウム液の添加時から420秒間連続的に測定した。なお、血漿検体は以下のものを用いた。
【0091】
(4)解析結果
透過度の経時的変化をプロットして凝固波形を得た。また、凝固波形のデータを1次微分して、速度の波形データを得た。さらに、凝固時間と、凝固波形の微分に関するパラメータとしてtime to |min1|、|min1|及びtime to |min2|を算出した。これらのパラメータを以下の式1にあてはめて、凝固速度の平均変化率を算出した。結果を
図14に示す。
[数2]
(1/2×|min1|)/(time to |min1| - time to |min2|)・・・ 式1
【0092】
図14から明らかなように、上記式1で算出した凝固速度の平均変化率を比較することによって、抗体が出現している検体(HA-inh)と、重症血友病A検体(VS-HA、MS-HA)とを非常に高精度(p<0.01)で識別可能であった。後述する比較例において示すように、既知のパラメータでは、これらをp<0.05で識別する。上記の結果は、既知のパラメータよりも高精度で抗体が出現している検体(HA-inh)と重症血友病A検体(VS-HA、MS-HA)とを識別できる点で優れている。上記式1で算出されるパラメータによる鑑別によれば、偽陽性及び偽陰性の確率を抑えることができる。これにより、第VIII因子活性<0.2IU/dlのVS-HAと、抗体が出現している血友病とを従来よりも高精度で鑑別できるため、それぞれの患者に適した治療方針を選択することができるようになる。
【0093】
比較例:最大凝固速度|min1|による鑑別
抗体が出現している検体(HA-inh)及び重症血友病A検体(VS-HA、MS-HA)について、上記の実施例の凝固波形解析において取得した微分に関するパラメータ|min1| (最大凝固速度)を比較した。結果を
図15に示す。
【0094】
図15から明らかなように、最大凝固速度を比較することによって、抗体が出現している検体(HA-inh)と、重症血友病A検体(VS-HA、MS-HA)とを識別可能であった(p<0.05)。しかしながら、p<0.01で識別はできなかった。すなわち、最大凝固速度による鑑別は、式1で算出されるパラメータによる鑑別結果ほど高精度ではない。最大凝固速度による鑑別では、式1で算出されるパラメータによる鑑別ほど、偽陽性及び偽陰性の確率を抑えることができない。