特許第6793941号(P6793941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793941
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】加速器
(51)【国際特許分類】
   H05H 5/02 20060101AFI20201119BHJP
   H05H 5/06 20060101ALI20201119BHJP
   H02M 3/28 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   H05H5/02 A
   H05H5/06
   H02M3/28 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-213670(P2016-213670)
(22)【出願日】2016年10月31日
(65)【公開番号】特開2018-73680(P2018-73680A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】515332207
【氏名又は名称】福島SiC応用技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】古久保 雄二
(72)【発明者】
【氏名】堀井 良雄
(72)【発明者】
【氏名】木下 大日郎
【審査官】 山本 一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−545255(JP,A)
【文献】 特開2001−045761(JP,A)
【文献】 特開2016−001980(JP,A)
【文献】 米国特許第05568021(US,A)
【文献】 特開2000−324837(JP,A)
【文献】 Ise,T et al.,Study on Application of Next Generation Power Devices fot the Fusion System,ANNUAL REPORT OF NATIONAL INSTITUTE FOR FUSION SCIENCE,2010年11月,April 2009-March 2010,p.117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 5/02
H02M 3/28
H05H 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源と、
複数の電極を具備し、前記荷電粒子源から射出された荷電粒子が加速される加速管と、
前記複数の電極にそれぞれ直流電圧を供給する電圧供給機構と、を備え、
前記電圧供給機構が、SiC−MOSFETを具備する直列共振回路が複数段直列に接続されて構成されており、
複数段の直列共振回路の出力電圧が前記複数の電極にそれぞれ別々に供給されていることを特徴とする加速器。
【請求項2】
任意の段の直列共振回路の出力電圧が前記電極のいずかに供給可能に構成されている請求項1記載の加速器。
【請求項3】
前記直列共振回路が、
2つのSiC−MOSFETからなるハーフブリッジ回路、及び、共振回路を具備する直列駆動回路と、
前記直列駆動回路に接続された送電コイルと、
前記送電コイルから受電する受電コイルと、
前記受電コイルに接続された整流回路と、を備えた請求項1又は2記載の加速器。
【請求項4】
前記整流回路が、コッククロフト回路である請求項3記載の加速器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子を加速して荷電粒子ビームを得る加速器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば中性子ビームを得るために特許文献1に示されているような加速器により大電流のイオンビームを引き出し、ベリリウムのターゲットに対して照射することが行われている。
【0003】
このような加速器100Aは図5に示すようにイオン源1Aと、イオンを加速するための電界が内部に形成される筒状の加速管2Aとを備えている。前記加速管2Aは、リング状の導電体で形成された電極21Aと絶縁体2IAとが軸方向に対して複数交互に並べて設けられたものであり、各電極21Aに対して電圧供給機構3Eによりそれぞれ所定の電圧が印加される。
【0004】
イオンビームが加速管2A内で内壁面にぶつからないように加速するためには前記加速管2Aのイオン源1Aと接する基端側からイオンビームが射出される先端側に至るまでの電圧勾配が一定となるように電界を形成する必要がある。このため、図5に示すように前記電圧供給機構3Eは、前記加速管2Aの先端の電極21Aに対して高電圧を発生させるためにコッククロフト電源3Aと、前記コッククロフト電源3Aにより印加される電圧を分圧するための分圧回路3Bとを備えている。
【0005】
前記分圧回路3Bは例えば図5及び図6に示されるように各電極間にそれぞれ接続される複数の分圧抵抗から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−53187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような分圧回路3Bにより各電極21Aへ電圧を印加すると、電極21A部分のインピーダンスを小さくしにくいため、ビーム電流が数ミリAを超えるような大きな電流値を持った場合、電圧勾配の均一性が崩れてしまうことがある。そうすると、所定のイオンビーム径を維持することが難しくなってしまう。
【0008】
かといってインピーダンスを小さくするために分圧回路3Bを用いずに図7に示されるようにコッククロフト電源3Aから定格出力取出端子RT以外に中間電圧を出力するための中間出力端子ITを設けて各電極にそれぞれ異なる電圧を印加しようとすると、今度はコッククロフト電源3A自体の昇圧整流動作が不安定になってしまい、加速器100A自体の動作に悪影響を与えてしまう。
【0009】
このようなことから従来は加速管の各電極21Aにそれぞれ異なる電圧を印加し、均一な電圧勾配を実現するために余分なハードウェアである分圧回路3Bを使わざるを得なかった。
【0010】
本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、大電流イオンビームを加速する場合でも加速管内の電圧勾配の均一性を確保でき、イオンビーム径を維持できる加速器、及び、この加速器を用いた中性子発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係る加速器は、荷電粒子源と、複数の電極を具備し、前記荷電粒子源から射出された荷電粒子が加速される加速管と前記複数の電極にそれぞれ直流電圧を供給する電圧供給機構と、を備え、前記電圧供給機構が、SiC−MOSFETを具備する直列共振回路が複数段直列に接続されて構成されており、複数段の直列共振回路の出力電圧が前記複数の電極にそれぞれ別々に供給されていることを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、素子耐圧の大きなSiC−MOSFETを適用することにより1つの直列共振回路で昇圧できる電圧を、Si−MOSFETを適用した従来品よりも大きくでき、少ない直列数でコッククロフト回路に比較してはるかに小さな製造コストで加速器に必要な直流高電圧を得ることができる。また、直列共振回路の段数ごとに印加できる電圧を比例させて変化させることができ、従来のように分圧抵抗を用いた分圧回路を設ける必要が無い。このため、小さなインピーダンスで前記加速管の各電極に対して適正な電圧を供給でき、前記加速管内に均一な電圧勾配を実現して高電流の荷電粒子ビームを引き出しても前記加速管内面に荷電粒子が衝突しないようにでき、所望のビーム径を確保できる。
【0013】
形成したい電界や加速管の特性に合わせて適切な電圧を各電極に対して印加できるようにするには、任意の段の直列共振回路の出力電圧が前記電極のいずれかに供給可能に構成されていればよい。
【0014】
簡単な回路構成で例えば各段の昇圧を実現するには、前記直列共振回路が、2つのSiC−MOSFETからなるハーフブリッジ回路、及び、共振回路を具備する直列駆動回路と、前記直列駆動回路に接続された送電コイルと、前記送電コイルから受電する受電コイルと、前記受電コイルに接続された整流回路と、を備えたものであればよい。
【0015】
一段当たりの昇圧量を大きくし、前記直列共振回路が直列接続されている段数を低減できるようにするには、前記整流回路が、コッククロフト回路のような昇圧型の整流回路であればよい。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明に係る加速器によれば、複数段直列に接続された直列共振回路により、段数に比例した電圧を出力することができ、分圧抵抗を用いる必要がないので低インピーダンスで各電極に所望の電圧を印加できる。したがって、大電流の荷電粒子ビームが引き出される場合でも加速管内に均一な電圧勾配を実現でき、加速管内面への荷電粒子の衝突をなくし、所望のビーム径を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る加速器を示す模式図。
図2】第1実施形態の複数段直列に接続された直列共振回路を示す回路構成図。
図3】第1実施形態の直列共振回路の詳細について示す模式図。
図4】本発明の第2実施形態に係る加速器の複数段直列に接続された直列共振回路を示す回路構成図。
図5】従来の加速器を示す模式図。
図6】従来の加速器に用いられる分圧回路の一例を示す回路図。
図7】途中電圧を出力する端子を設けたコッククロフト回路を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1実施形態に係る加速器100について各図を参照しながら説明する。
【0019】
この加速器100は、図1に示すように荷電粒子源であるイオン源1と、イオン源1に基端が接続された加速管2と、前記加速管2の各部に対してそれぞれ異なる電圧を印加する電圧供給機構3と、を備えたものである。
【0020】
前記イオン源1は、正の荷電粒子からなるイオンビームを発射するものである。このイオン源1は接地してある。
【0021】
前記加速管2は、図1に示すように円筒状のものであり、電極2F、21、22、23、24、25、26、2Rを構成する導体部分と絶縁体部分2Iが交互に軸方向に並んで設けられたものである。導体部分及び絶縁体部分2Iはそれぞれリング状をなすものである。導体部分には負の電圧が印加されており、前記イオン源1から引き出されたイオンビームはこの加速管2内で加速されて、先端から射出される。
【0022】
前記電極2F、21、22、23、24、25、26、2Rは、軸方向にそって等間隔で配置してあり、基端の電極2R、及び、先端の電極2Fは中央部の電極21、22、23、24、25、26と比較してその外形が大きく形成してある。以下の説明では基端の電極2Fについては基端フランジ、先端の電極2Rについては先端フランジとも呼称する。各電極2F、21、22、23、24、25、26、2Rについては基端側から先端側へ進むにつれて低い電圧が一定の勾配で印加される。
【0023】
前記電圧供給機構3は図1及び図2に示すように、商用交流電源から前記加速管2の各電極2F、21、22、23、24、25、26、2Rに印加される負の直流電圧をそれぞれ生成し、印加するものである。この電圧供給機構3は複数の直列共振回路4を具備し、各直列共振回路4が複数段直列に接続されてなるものである。各直列共振回路4は商用交流電源から供給される交流電圧を直流に変換する三相全波整流回路45に接続してある。
【0024】
前記直列共振回路4は、いわゆる絶縁型のDC−DCコンバータであって図3に示すように2つのSiC−MOSFET46からなるハーフブリッジ回路4A、及び、コンデンサ及びコイルからなる共振回路4Bを具備する直列駆動回路41と、前記直列駆動回路41に接続された送電コイル42と、前記送電コイル42から受電する受電コイル44と、前記受電コイル44に接続された整流回路45と、を備えたものである。図2に示されるように各受電コイル44と各送電コイル42との間には共通の絶縁体43が配置してあり、その厚み寸法は30mmにしてある。前記SiC−MOSFET46はSi−MOSFETと比較して素子耐圧を大きくすることができ、前記送電コイル42を800Vp−p程度の高電圧で駆動している。また、前記加速管2の基端フランジに接続される1段目の直列共振回路4の出力はアース電位(±0V)に接地してあり、1段ごとに2kV電圧低下するようにしてある。第1実施形態では140段の直列共振回路4が直列に接続してあるので、前記加速管2の先端フランジに接続される最終段の直列共振回路4からは−280kVが印加される。さらに前記加速管2の中央部の各電極21、22、23、24、25、26については基端側から先端側に掛けて−40kV、−80kV、−120kV、−160kV、−200kV、−240kVが印加される。
【0025】
このように構成された第1実施形態の加速器100によれば、SiC−MOSFET46を具備する直列共振回路4を複数段直列に接続して設けることで、直列共振回路4の段数に比例させてそれぞれ異なる直流電圧を出力できる。また、SiC−MOSFET46の素子耐圧が大きく、送電コイル42を800Vp−p程度の高電圧駆動が可能なので、送電コイル42と受電コイル44の巻き数比をそれほど大きくしなくても整流回路45から高電圧を取りだすことができる。
【0026】
したがって、受電コイル44と送電コイル42との間の絶縁耐力を大きくできるので、コッククロフト回路を用いなくても最終段の直列共振回路4の出力として数百kVから数MVの直流高電圧を発生させることができる。
【0027】
さらに1段目と最終段との間にある任意の段の直列共振回路4における整流回路45から電圧出力を行っても、規定電流以下であれば最終段の直列共振回路4から出力される電圧が不安定にあることがない。また、従来のように高電圧をまず供給して各電極2F、21、22、23、24、25、26、2Rに分圧するための分圧回路を設ける必要がない。
【0028】
これらのことから、大電流のイオンビームを加速管2において加速する場合でも当該加速管2内における電圧勾配の均一性を保ち、内壁面に衝突するイオンを無くし、所望のビーム径を確保することができる。
【0029】
次に本発明の第2実施形態に係る加速器100について図4を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材と対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0030】
図4に示すように第2実施形態の加速器100は、第1実施形態の加速器100と比較して整流回路45の構成と直列共振回路4の段数が異なっている。より具体的には整流回路45としてコックロフト回路を用いており、1段当たりの昇圧量を大きく第1実施形態よりも大きくしてあり、1段ごとに10kVだけ電圧が低下するようにしてある。このため、最終段の直列共振回路4の出力として−280kVが得られるように28段分直列共振回路4を直列に接続してある。また、各直列共振回路4の出力はコッククロフト回路の定格電圧取出端子を経由して外部へ電圧を供給するように構成してある。
【0031】
このような第2実施形態の加速器100であれば、直列共振回路4の段数を減らしながら第1実施形態と同様の高電圧を得られる。
【0032】
また、コッククロフト回路の定格電圧取出端子から電圧を出力するようにしているので最終段の出力電圧が不安定になることはない。
【0033】
さらに第2実施形態の加速器100は、第1実施形態と同様に分圧回路を用いる必要がないので均一な加速電界勾配を維持していわゆる大きなビームローディングを提供できる。
【0034】
その他の実施形態について説明する。
【0035】
荷電粒子源は正のイオンが射出されるイオン源に限られず、負のイオンが射出されるイオン源であっても構わない。
【0036】
各直流共振回路の外部出力は各実施形態に示したように一部の直流共振回路からのみ行ってもよいし、全ての直流共振回路から外部へ電圧を供給するようにしてもよい。また、加速管の電極は等間隔に設けたものに限られない。加速管内に形成した電界に応じて電極の配置を決定し、各電極に応じた電圧を電圧供給機構から供給するようにすればよい。
【0037】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0038】
100・・・加速器
1 ・・・イオン源(荷電粒子源)
2 ・・・加速管
3 ・・・電圧供給機構
4 ・・・直列共振回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7