【文献】
Journal of the Chemical Society, Chemical Communications,1990年,No.20,p.1398-1399
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積し、かつトリプチセン骨格のベンゼン環の同じ方向に結合している置換基が同じ方向に整列して集積した膜である、請求項10に記載の膜。
請求項1から9のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体を溶媒に溶解し、当該溶液を固体基板の表面に塗布するか又は当該溶液に固体基板を浸漬し、次いで乾燥してなる、ヤヌス型トリプチセン誘導体の膜を製造する方法。
膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積し、かつトリプチセン骨格のベンゼン環の同じ方向に結合している置換基が同じ方向に整列して集積した膜である、請求項17から19のいずれか一項に記載の製造方法。
請求項1から9のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体を溶媒に溶解し、当該溶液を固体基板の表面に塗布するか又は当該溶液に固体基板を浸漬し、次いで乾燥してなる、固体基板の表面に前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の膜が形成された構造体を製造する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自己組織化膜、特に自己組織化単分子膜の材料物質として有用な下記の一般式[I]で表される新規なヤヌス型トリプチセン誘導体、及びそれを製造する方法を提供する。
また、本発明は、下記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有してなる膜形成材料、下記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を用いた自己組織化膜、当該膜を表面に有する固体基板、及び当該膜の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、絶縁体と有機半導体の極めて均一な界面を形成することで、高性能、高均質、高安定な電子デバイスを提供する。本発明の電子デバイスは、絶縁体と有機半導体の界面が極めて均一になるためにノイズレベルの低い電子デバイスを実現することで、微弱な信号、例えば生体が発する信号を高感度に検出することを可能にする。更には、本発明の界面を形成する膜はフレキシブルで大面積とすることができ、大面積でフレキシブルな電子デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、トリプチセンに複数の機能団を位置特異的かつ面特異的に導入することを検討してきた。そして、本発明者らは、トリプチセンの一方の側に3つの同じ置換基を面特異的に有するトリプチセン誘導体が、トリプチセンの三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積すること、そして、3つの同じ置換基が比較的長い炭素鎖を有している場合には、これらの置換基が同じ方向に整列して集積して膜を形成することを見出してきた(特許文献16参照)。
しかし、トリプチセンの一方の側に3つの同じ置換基を有するトリプチセン誘導体を用いた場合には、集積構造を揃えるためにアニール処理が必要であり、アニール処理無しできれいに揃った集積構造とすることは困難であった。本発明者らは、この原因について種々検討してきたところ、同じ方向に伸びている3つの同じ置換基が、互いに立体障害を起こしており、この相互の立体障害のために、きれいに揃った集積構造とすることが困難となっているのではないかと考えた。しかし、トリプチセンの一方の側の3箇所の置換可能な位置に異なる置換基を導入することは合成化学的に困難であったが、本発明者らはこの合成に成功し、下記の一般式[I]で表されるトリプチセンの一方の側に異なる置換基を有する新規なヤヌス型トリプチセン誘導体を提供することができた。そして、当該下記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を用いて形成される集積構造はアニール処理なしでも、きれいに揃った集積構造を形成することができ、本発明者らの想定したとおりの結果を得ることができ、本発明を完成するに至った。
さらに、本発明者らは、これを電子デバイスの絶縁層の上に形成させることにより、当該絶縁層の材質、表面状態などに依存することなく、極めて均一で、安定性に優れた高品質の膜を形成させることができるだけでなく、同時に有機半導体などの機能を有する層を付与することもできることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、次の一般式[I]
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R
1は、炭素数2から60の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を表し、当該炭化水素基は1つ又は2つ以上の置換基を有してもよく、また、当該炭化水素基の中の1つ又は2つ以上の炭素原子が酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、又は−NR
5−(ここで、R
5は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜30のアリール基を表す。)で置換されていてもよい;
R
2は、水素原子、又は炭素数1から4の飽和又は不飽和の炭化水素基を表し;
R
3は、基-R
1-Z、水素原子、又は炭素数1から4の飽和又は不飽和の炭化水素基を表し;
3つのR
4は、同一又は異なっていてもよくそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキル置換アミノ基、ジアルキル置換アミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜10のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2〜10のアルキニル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキルチオ基、ホルミル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜30のアリール基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれる1〜5個のヘテロ原子を有し炭素原子を2〜10個有する5〜8員の置換基を有してもよいヘテロアリール基を表し;
Xは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる1〜5個の原子及び水素原子で構成される2価の原子団からなるリンカー基を表し;
Zは、水素原子、固体基板の表面に結合若しくは吸着し得る基;又は窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、リン原子、ハロゲン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる1〜15個の原子及び水素原子で構成される1価の原子団からなる末端基を表す。)
で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体に関する。
【0013】
また、本発明は、前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有してなる膜形成材料用組成物に関する。
さらに、本発明は、前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体が自己組織的に整列してなる膜、特に自己組織化単分子膜、及び当該膜を固体基板の表面に有する構造体に関する。
また、本発明は、前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を溶媒に溶解して溶液とし、当該溶液を固体基板の表面に塗布又は当該溶液に固体基板を浸漬し、次いで乾燥し、必要に応じてさらにアニーリングしてなる、固体基板の表面に前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の膜を製造する方法に関する。
また、本発明は、前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を溶媒に溶解して溶液とし、当該溶液を固体基板の表面に塗布又は当該溶液に固体基板を浸漬し、次いで乾燥し、必要に応じてさらにアニーリングしてなる、固体基板の表面に前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の膜が形成された構造体を製造する方法に関する。
さらに、本発明は、前記一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有してなる膜を構成要素として含有してなる電子デバイスに関する。
【0014】
さらに詳細に本発明の態様を説明すれば次のようになる。
(1)前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体。
(2)一般式[I]における3つのR
4が、全て同じ基である、前記(1)に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(3)一般式[I]における3つのR
4が、それぞれ異なる基である、前記(1)に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(4)一般式[I]におけるXが、−CH
2−、−CH=CH−、−O−、又は−NR
6−(ここで、R
6は、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される2価の基である、前記(1)から(3)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(5)一般式[I]におけるXが、−CH=CH−、又は−O−で表される2価の基である、前記(4)に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(6)一般式[I]におけるR
1が、炭素数2から30のアルキレン基、炭素数2から30のアルケニレン基、炭素数2から30のアルキニレン基、又は炭素数6から30のアリール環を含有してなる炭素数6から60の2価のアリーレン基である、前記(1)から(5)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(7)一般式[I]におけるR
1が、炭素数2から30のアルキレン基、又は炭素数6から30のアリール環を含有してなる炭素数6から60の2価のアリーレン基である、前記(6)に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(8)一般式[I]におけるZが、水素原子、炭素数1〜10のハロアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、水酸基、−COOR
7(ここで、R
7は、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。)、−N(R
8)
2(ここで、R
8は、同一又は異なっていてもよい、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜30のアリール基を表す。)、又は、−P(=O)(OR
15)
2(ここで、R
15は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。)である、前記(1)から(7)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(9)一般式[I]におけるZが、水素原子、−CF
3、−CH=CH
2、−C≡CH、−COOR
7(ここで、R
7は、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。)、−NH
2、又は−N(Ar
1)
2(ここで、Ar
1は、同一又は異なっていてもよくそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数6〜30のアリール基を表す。)である、前記(8)に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(10)R
2が、炭素数1から4のアルキル基である、前記(1)から(9)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(11)R
3が、基-R
1-Z(R
1及びZは前記した基を表す。)である、前記(1)から(10)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(12)R
3が、炭素数1から4のアルキル基である、前記(1)から(10)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(13)一般式[I]におけるR
4が、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜30のアリール基である、前記(1)から(12)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
(14)一般式[I]におけるR
4が、水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基である、前記(13)に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体。
【0015】
(15)前記(1)から(14)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体が、自己組織的に整列してなる膜。
(16)膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積し、かつトリプチセン骨格のベンゼン環の同じ方向に結合している3つの同じ置換基が同じ方向に整列して集積した膜である、前記(15)に記載の膜。
(17)膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積した部分、及び一般式[I]における置換基−X−R
1−Zが集積した部分からなるレイヤー構造を形成している、前記(15)又は(16)に記載の膜。
(18)一般式[I]におけるZが、極性官能基である前記(15)から(17)のいずれか一項に記載の膜。
(19)極性官能基が、水酸基、アミノ基、又はカルボキシル基若しくはそのエステルである、前記(18)に記載の膜。
(20)膜が、多層膜である前記(15)から(19)のいずれか一項に記載の膜。
(21)膜が、二層膜である前記(20)に記載の膜。
(22)二層膜が、一般式[I]におけるZ基が分子間で向かい合った構造である、前記(21)に記載の膜。
(23)膜が、単分子膜である、前記(15)から(19)のいずれか一項に記載の膜。
(24)膜が、機能性膜である前記(15)から(23)のいずれか一項に記載の膜。
(25)膜が、固体基板の表面に形成されたものである、前記(15)から(24)のいずれか一項に記載の膜。
(26)前記(15)から(25)のいずれか一項に記載の膜を固体基板の表面に有する構造体。
(27)構造体が、電子デバイスの一部を形成するものである前記(26)に記載の構造体。
(28)電子デバイスが、薄膜トランジスタ(TFT)である、前記(27)に記載の構造体。
(29)固体基板が、酸化ケイ素、ガラス基板、雲母、有機基板、又は生体由来材料である、前記(26)に記載の構造体。
【0016】
(30)前記(1)から(14)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体を溶媒に溶解し、当該溶液を固体基板の表面に塗布するか又は当該溶液に固体基板を浸漬し、次いで乾燥してなる、ヤヌス型トリプチセン誘導体の膜を製造する方法。
(31)さらに、乾燥した膜をアニーリングしてなる、前記(30)に記載の方法。
(32)溶媒が、極性溶媒である前記(30)又は(31)に記載の製造方法。
(33)極性溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はテトラヒドロフラン(THF)である前記(32)に記載の製造方法。
(34)一般式[I]におけるZが、極性官能基である前記(30)から(33)のいずれか一項に記載の製造方法。
(35)極性官能基が、水酸基、アミノ基、又はカルボキシル基若しくはそのエステルである、前記(34)に記載の製造方法。
(36)前記(1)から(14)のいずれか一項に記載の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を、その融点以上に加熱して蒸発させる工程、及び蒸発した当該ヤヌス型トリプチセン誘導体を固体基板上に蒸着する工程、を含有してなる一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の膜を製造する方法。
(37)さらに、製造された膜をアニーリングする工程を含有してなる前記(36)に記載の製造方法。
(38)アニーリングが、100℃〜融点までの温度で、5〜50分間の加熱処理である前記(37)に記載の製造方法。
(39)蒸着が、10
−5Pa〜10
−3Paの減圧下で行われる、前記(36)から(38)のいずれか一項に記載の製造方法。
(40)一般式[I]におけるXが−O−であり、Zが水素原子、−CH=CH
2、−C≡CH、又は−CF
3である、前記(36)から(39)のいずれか一項に記載の製造方法。
(41)一般式[I]におけるR
1が、炭素数8〜15のアルキレン基である前記(40)に記載の製造方法。
(42)一般式[I]におけるR
1が、炭素数9〜12のアルキレン基である前記(40)又は(41)に記載の製造方法。
(43)膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積し、かつトリプチセン骨格のベンゼン環の同じ方向に結合している置換基が同じ方向に整列して集積した膜である、前記(30)から(42)のいずれか一項に記載の製造方法。
(44)膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積した部分、及び一般式[I]における置換基−X−R
1−Zが集積した部分からなるレイヤー構造を形成している、前記(30)から(43)のいずれか一項に記載の製造方法。
(45)膜が、多層膜である前記(30)から(44)のいずれか一項に記載の製造方法。
(46)膜が、二層膜である前記(45)に記載の製造方法。
(47)二層膜が、一般式[I]におけるZ基が分子間で向かい合った構造である、前記(46)に記載の製造方法。
(48)膜が、単分子膜である、前記(30)から(44)のいずれか一項に記載の製造方法。
(49)膜が、機能性膜である前記(30)から(48)のいずれか一項に記載の製造方法。
(50)固体基板が、酸化ケイ素、ガラス基板、雲母、有機基板、又は生体由来材料である、前記(30)から(49)のいずれか一項に記載の製造方法。
【0017】
(51)前記(1)から(14)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体を溶媒に溶解し、当該溶液を固体基板の表面に塗布するか又は当該溶液に固体基板を浸漬し、次いで乾燥してなる、固体基板の表面に前記の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の膜が形成された構造体を製造する方法。
(52)さらに、乾燥した膜をアニーリングしてなる、前記(51)に記載の製造方法。
(53)溶媒が、極性溶媒である前記(51)又は(52)に記載の製造方法。
(54)極性溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はテトラヒドロフラン(THF)である前記(53)に記載の製造方法。
(55)一般式[I]におけるZが、極性官能基である前記(51)から(54)のいずれか一項に記載の製造方法。
(56)前記(1)から(14)のいずれか一項に記載の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を、その融点以上に加熱して蒸発させる工程、及び蒸発した当該ヤヌス型トリプチセン誘導体を固体基板上に蒸着する工程、を含有してなる固体基板の表面に前記一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の膜が形成された構造体を製造する方法。
(57)さらに、製造された膜をアニーリングする工程を含有してなる前記(56)に記載の製造方法。
(58)アニーリングが、100℃〜融点までの温度で、5〜50分間の加熱処理である前記(57)に記載の製造方法。
(59)蒸着が、10
−5Pa〜10
−3Paの減圧下で行われる、前記(56)から(58)のいずれか一項に記載の製造方法。
(60)一般式[I]におけるXが−O−であり、Zが水素原子、−CH=CH
2、−C≡CH、又は−CF
3である、前記(56)から(59)のいずれか一項に記載の製造方法。
(61)一般式[I]におけるR
1が、炭素数8〜15のアルキレン基である前記(60)に記載の製造方法。
(62)一般式[I]におけるR
1が、炭素数9〜12のアルキレン基である前記(60)又は(61)に記載の製造方法。
(63)膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積し、かつトリプチセン骨格のベンゼン環の同じ方向に結合している置換基が同じ方向に整列して集積した膜である、前記(51)から(62)のいずれか一項に記載の製造方法。
(64)膜が、トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積した部分、及び一般式[I]における置換基−X−R
1−Zが集積した部分からなるレイヤー構造を形成している、前記(51)から(63)のいずれか一項に記載の製造方法。
(65)膜が、多層膜である前記(51)から(64)のいずれか一項に記載の製造方法。
(66)膜が、二層膜である前記(65)に記載の製造方法。
(67)二層膜が、一般式[I]におけるZ基が分子間で向かい合った構造である、前記(66)に記載の製造方法。
(68)膜が、単分子膜である、前記(51)から(64)のいずれか一項に記載の製造方法。
(69)膜が、機能性膜である前記(51)から(68)のいずれか一項に記載の製造方法。
(70)固体基板が、酸化ケイ素、ガラス基板、雲母、有機基板、又は生体由来材料である、前記(51)から(69)のいずれか一項に記載の製造方法。
【0018】
さらに詳細に本発明の態様を説明すれば次のようになる。
(71)前記(1)から(14)のいずれか一項に記載のヤヌス型トリプチセン誘導体が自己組織的に整列してなる膜を構成要素として含有してなる電子デバイス。
(72)膜が、前記(15)から(25)のいずれか一項に記載の膜である、前記(71)に記載の電子デバイス。
(73)電子デバイスが、トランジスタ、コンデンサ、ダイオード、サイリスタ、電気発光素子、センサー、又はメモリーである、前記(71)又は(72)に記載の電子デバイス。
(74)電子デバイスが、トランジスタである、前記(73)に記載の電子デバイス。
(75)トランジスタが、薄膜トランジスタである前記(73)又は(74)に記載の電子デバイス。
(76)薄膜トランジスタが、基板上にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、及びゲート絶縁層を含む有機薄膜トランジスタである、前記(75)に記載の電子デバイス。
(77)ゲート絶縁層が、絶縁材料及び前記一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有してなる膜で構成されてなる、前記(76)に記載の電子デバイス。
(78)ゲート絶縁層が、絶縁材料と前記有機薄膜の積層体からなることを特徴とする、前記(77)に記載の電子デバイス。
(79)前記ゲート絶縁層の絶縁材料が、有機絶縁材料である、前記(77)又は(78)に記載の電子デバイス。
(80)有機絶縁材料が、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、及び/又はパリレン(登録商標)である、前記(79)に記載の電子デバイス。
(81)前記一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有してなる有機薄膜が、有機半導体の機能を有する基を含有するものである、前記(77)から(80)のいずれか一項に記載の電子デバイス。
(82)薄膜トランジスタが、さらに半導体からなるチャネル層を含む、前記(77)から(81)のいずれか一項に記載の電子デバイス。
(83)半導体が、有機半導体である、前記(82)に記載の電子デバイス。
(84)前記チャネル層が、有機半導体層である、前記(82)又は(83)に記載の電子デバイス。
(85)有機薄膜とチャネル層の半導体が積層している、前記(82)から(84)のいずれか一項に記載の電子デバイス。
(86)薄膜トランジスタが、ゲート絶縁層と有機半導体層との境界部が前記(15)から(25)のいずれか一項に記載の膜で構成されていることを特徴とする、前記(75)から(85)のいずれか一項に記載の電子デバイス。
(87)ゲート絶縁層、有機薄膜、及び有機半導体層が、積層構造をしている、前記(86)に記載の電子デバイス。
(88)膜が、一般式[I]で表されるトリプチセン誘導体の−X−R
1−Zの側(第1の分子という)が前記絶縁体層側に、一般式[I]で表されるトリプチセン誘導体のR
2の側(第2の分子という)が前記有機半導体層側に配向していることを特徴とする、前記(86)又は(87)に記載の電子デバイス。
(89)薄膜トランジスタのソース電極及び/又はドレイン電極が、前記有機薄膜と前記チャネル層との間に形成されていることを特徴とする、前記(75)から(88)のいずれか一項に記載の電子デバイス。
(90)チャネル層が、有機半導体層である、前記(89)に記載の電子デバイス。
【0019】
(91)電子デバイスが、コンデンサである、前記(73)に記載の電子デバイス。
(92)コンデンサが、電極間に前記(15)から(25)のいずれか一項に記載の膜を含有してなる誘電体層を有するコンデンサである、前記(91)に記載の電子デバイス。
(93)誘電体層が、さらに第二の誘電体を含有している、前記(92)に記載の電子デバイス。
(94)第二の誘電体が、有機誘電体である、前記(93)に記載の電子デバイス。
(95)有機薄膜と第二の誘電体が、積層構造をしている、前記(93)又は(94)に記載の電子デバイス。
【0020】
(96)前記(71)から(95)のいずれか一項に記載の電子デバイスを、電子回路中に含有してなる回路基板。
(97)回路基板が、薄膜回路基板である、前記(96)に記載の回路基板。
(98)回路基板が、薄膜トランジスタが設けられた薄膜回路基板を備えているものである、前記(96)又は(97)に記載の回路基板。
(99)回路基板が、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置(いわゆるフラットパネルディスプレイ)の画素駆動用回路である、前記(96)から(98)のいずれか一項に記載の回路基板。
【0021】
(100)前記(71)から(95)のいずれか一項に記載の電子デバイスを、電子機器内部に含有してなる電子機器。
(101)電子機器が、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、又は液晶ディスプレイである、前記(100)に記載の電子機器。
(102)電子機器が、心電位測定デバイス、筋電位測定デバイス、又は脳電位測定デバイス等の医療用電子機器である、前記(100)又は(101)に記載の電子機器。
(103)電子機器が、テレビ、ビューファインダ型若しくはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、電子新聞、ワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、又はタッチパネルを備えた機器等である、前記(100)又は(101)に記載の電子機器。
【0022】
(104)前記(1)から(14)のいずれか一項に記載の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体、及び有機薄膜形成用担体を含有してなる有機薄膜形成用組成物。
(105)有機薄膜が、SAMである、前記(104)に記載の有機薄膜形成用組成物。
(106)有機薄膜形成用担体が、有機溶剤である、前記(104)又は(105)に記載の有機薄膜形成用組成物。
(107)有機溶剤が、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はテトラヒドロフラン(THF)である、前記(106)に記載の有機薄膜形成用組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、自己組織化膜、特に自己組織化単分子膜を形成させるための新規な膜形成材料を提供するものである。
従来の自己組織化膜は、膜形成材料が基板の表面に結合又は吸着して集積されるものであり、基板表面に結合又は吸着される必要があったが、本発明の膜形成材料は、それ自体に集積能を有しており、基板の表面に結合又は吸着するための官能基を有することを必須としていない。また、トリプチセンはそれ自体が剛直な構造をしており、かつトリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積した規則的な配列をしていることから、膜を構成する置換基がトリプチセン骨格に対して規則的に配列し、基板表面の化学的及び/又は物理的な状況にかかわらず規則的かつ剛直な膜を形成させることができる。
また、本発明の一般式[I]における基Zの種類を適宜選択することにより、固体基板表面との相互作用を強くすることもできるし、当該相互作用を弱くすることもできる。さらに、基Z同士又は基R
4同士に親和性があるものを選択することにより、生体膜に類似した二層構造の膜とすることもできる。
このように、本発明の新規な膜形成材料を用いて形成される膜は、従来の自己組織化膜とは異なる極めて特異な特性を有するものとすることができ、薄膜トランジスタなどの電子デバイス用の薄膜のみならず、保護膜や生体膜類似膜などとして極めて応用範囲の広いナノ単位の薄膜を提供することができる。
【0024】
さらに、本発明のトリプチセン誘導体は、剛直なトリプチセン骨格の上下に、一般式[I]における基−X−R
1−Zを有している面と一般式[I]におけるR
4の面の二面を有しており、膜形成能と同時に各種の機能を付加することが可能となる。例えば、一般式[I]におけるR
4に適当な親水性の基又は疎水性の基を導入することにより、膜の一方の面の親水性又は疎水性を適宜調節することが可能となる。また、一般式[I]におけるR
4に電子受容体のような基を導入することにより、膜の一方の面に半導体のような特性をもたせることも可能となる。
【0025】
本発明は、新規な膜形成材料のための新規なトリプチセン誘導体を提供するものである。本発明のトリプチセン誘導体は、剛直なトリプチセン骨格の一方の面のみに一般式[I]における基−X−R
1−Zを少なくとも1個有し、他に低級アルキル基などの比較的小さな基を有し、立体障害が解消されていることを特徴とするものである。さらに、基−X−R
1−Zは、それぞれの機能を有する3つの部分からなっており、基R
1は膜形成に必要な相互作用を得るための長鎖の基であり、好ましくは長鎖の疎水性の基であり形成される膜の特性を特徴付けるものである。基Xは当該R
1基とトリプチセン骨格を連結するためのリンカー基であり、基Zは鎖状部分の末端基であり、基Zは基板などとの相互作用を必要とする場合のための官能基として機能させることもできる基である。そして、3個の置換基のうちの少なくとも1個は低級アルキル基などの比較的小さな基である。このために、本発明のトリプチセン誘導体は、規則的かつ安定した薄膜を形成することができるだけでなく、剛直なトリプチセン骨格の基−X−R
1−Zを有している面の立体障害が解消されており、安定した薄膜の形成が容易であるだけでなく、薄膜の目的に応じた修飾が極めて容易となり、応用範囲の広い膜形成材料を提供することができる。
【0026】
本発明の膜を用いることにより、有機半導体層と絶縁体層の界面を極めて均質・清浄に形成できるため、電子デバイス、特に有機薄膜トランジスタの性能の向上、均質化、安定化が得られる。さらに、大面積フレキシブルエレクトロニクスデバイスを実現する上で、大面積にわたって均一な電子デバイス、特にトランジスタを形成することができる。
また、本発明の他の態様では、半導体として機能する分子部分と絶縁体として機能する分子部分とが、一つの分子に組み込まれ、その分子が単分子膜を形成する。その単分子膜の一方の側が半導体的性質、もう一方の側が絶縁体層の積層構造を作ることができる。これにより極めて均質な半導体と絶縁体境界が形成されることになり、界面の乱れがないトランジスタを実現できる。界面の乱れが究極的に消滅することで、従来技術では得ることができない、高い移動度、高い耐久性、低いリーク電流の性能を有する半導体素子を均質で安定に作成することができる。
さらに、本発明の単分子膜の構造はトリプチセン骨格の幾何学的形状で規定されるため、得られる単分子膜は下層または上層の表面状態の影響を受けない。これにより多様な基材と組み合わせた高性能な電子デバイスを実現することができる。
【0027】
本発明の電子デバイスは、極めて高性能でフレキシブルな有機半導体デバイスを実現することができ、大面積でフレキシブルな有機エレクトロニクスは、各種のディスプレイや電子ペーパーなどに応用することができ、パソコン、携帯端末、家電製品だけでなく、医療分野などへも適用することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の態様をさらに詳細に説明する。
「トリプチセン」自体は、既知の化合物であり、特異な三枚羽状に配列したベンゼン環を有する化合物である。本発明において、トリプチセンの位置番号はCASの命名法にしたがって次に示すとおりとする。
【0031】
本発明における「ヤヌス型トリプチセン誘導体」とは、トリプチセンの1,8,13位の面と、4,5,16位の面の2つの異なる面を有しており、それぞれの面がそれぞれ異なる特性を有しているトリプチセン誘導体である。ヤヌス(Janus)とは、頭の前後に異なる顔を持つローマ神話に登場する神の名前である。本発明のトリプチセン誘導体は、トリプチセンの1,8,13位の面と、4,5,16位の面の2つの面に異なる面を有していることからローマ神話の神の名前に基づいて「ヤヌス型」と命名している。
したがって、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体は、トリプチセンの2つの面に異なる特性を有するトリプチセン誘導体であるということができる。本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体は、膜を形成する面と膜を形成しない面の二面を有していることを特徴とするものである。より詳細には、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体は、どちらかひとつだけの面、例えば1,8,13位の面だけに膜を形成するための同じ置換基を有していることを特徴とするトリプチセン誘導体である。さらに好ましい態様としては、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体の一般式[I]におけるR
4の3つの置換基も同じ置換基であり、共通する特性を有する面として機能する態様が挙げられるが、この面の置換基は必ずしも同じである必要は無い。
本発明者らは、次式で示されるヤヌス型トリプチセン誘導体(以下、化合物1という。)を既に提供してきた(特許文献16参照)。
【0033】
本発明における「トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積した」とは、トリプチセン骨格の3つのベンゼン環がそれぞれ面角120°を形成しており、それぞれのベンゼン環の間に隣接するトリプチセンのベンゼン環が入れ子状に入ってきている状態であり、このような状態を上から見た場合には
図1に模式的に示されるようになる。
【0034】
トリプチセン骨格の三枚羽状に配列したベンゼン環のそれぞれの間に隣接するトリプチセン骨格のベンゼン環が入り、規則的な集積をしている状態である。前記に例示した化合物1が集積した場合のトリプチセンの橋頭と、隣接するトリプチセンの橋頭までの距離は約0.81nmであった。
本発明における「トリプチセン骨格のベンゼン環の同じ方向に結合している3つの同じ置換基が同じ方向に整列して集積した」とは、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の一方の面に存在している置換基−X−R
1−Zが、前記したベンゼン環が入れ子状に集積しているトリプチセン骨格の集積体の同じ方向に伸びており、それらが整列して集積している状態を示す。
前記に例示した化合物1が集積した状態を模式的に示せば、
図2に示したようになる。
図2の左側は、化合物1を示し、右側は化合物1が層状に集積した状態を模式的に示している。
図2の例では4層になっている状態を示している。各層における下側のトリプチセンレイヤーは、前記したベンゼン環が入れ子状に集積しているトリプチセン骨格の集積体を示している。そして、当該トリプチセンレイヤーの同じ方向、
図2の化合物1の場合では上側に3つの同じ置換基が同じ方向に整列して集積して、末端部分にエステル基が結合しているアルキルレンレイヤーを形成している。
トリプチセン骨格が集積した場合に、異なる方向にランダムに整列する場合には、
図2に示すような整然とした膜状にはならず、塊状となる。しかし、本発明者らは、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体を集積させた場合には、これらの置換基がランダムにはならず、同じ方向に整然と集積し、安定な膜を形成することを初めて見出し、規則的で安定なナノ単位の膜の形成に成功したのである。
【0035】
本発明における「膜」とは、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体が前記した状態で集積して形成されるものをいう。このようにして集積してできた膜が、一層の場合には単分子膜になり、SAM膜であるということができる。膜厚はアルキレン鎖の炭素数で調節することができ、炭素原子1個当たりで約0.2nmという一般則に沿って決定することができる。
また、このような層が重なり合って多層膜とすることもできる。この場合には、同じ方向で重なり合う場合と、相互に反対方向に向いて重なり合う場合とがある。どちらの状態になるかは、一般式[I]におけるZ基及び/又はR
4基の種類や、膜形成の条件によることになる。
前記に例示した化合物1をTHFに溶解した溶液(1mg/200mL、約5.3μM)を、ガラス基板上に塗布して乾燥させて形成された膜は、一層構造、二層構造、又は三層構造とすることができる。一層構造の場合の膜厚は約2.46nmであった。二層構造の場合の膜厚は約5.4nmであった。三層構造の場合の膜厚は約7.84nmであった。また、同じ溶液を雲母基板に塗布して乾燥させて形成された膜は、一層構造、又は二層構造とすることができ、一層構造の場合の膜厚は約3.27nmであり、二層構造の場合の膜厚は約6.45nmであった。さらに、同じ溶液を雲母基板に塗布して乾燥させた後、180℃でアニーリングして形成された膜は、一層構造であり、その膜厚は約2.04nmであった。
【0036】
本発明における「機能性膜」とは、前記した本発明の膜に種々の機能を有する官能基が結合された膜をいう。一般に、SAM膜のような膜は、固体基板の表面に結合又は吸着するための部分、安定な膜を形成するためのアルキル鎖などのアルキル鎖間のvan der Waals力を得るための部分、及び分子の末端部分の3つの部分に分けられる。そして、分子の末端部分に電気化学的、光学的、生物学的などの機能を有する官能基を導入することにより、形成される膜に種々の機能を付与できることが知られている。このように、従来の膜と同様に本発明の膜にも分子の末端部分を用いて種々の機能を付与することができる。
前記してきたように、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体は、「一般式[I]における基−X−R
1−Zを有している面」と「一般式[I]におけるR
4の面」の二面を有しており、このうちのR
4の面において、従来の膜と同様に種々の機能を有する官能基を導入することが可能である。また、従来の膜では、固体基板の表面に結合又は吸着するための部分を有することが必須であったが、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体を用いた膜では、アルキル鎖などのアルキル鎖間のvan der Waals力のみならずトプチセン骨格部分において膜形成能を有しているために、必ずしも固体表面の結合又は吸着するための部分を必須とするものではない。そのために、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の基Z部分に、種々の機能を有する官能基を導入することも可能となる。
したがって、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体の膜を形成しない面、及び/又は本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の基Z部分のいずれかの部分に、各種の機能を有する官能基が導入されて形成された膜を、本発明においては「機能性膜」という。
【0037】
本発明における「固体基板」とは、従来からSAM膜などの固体基板として使用されてきているガラス;石英;サファイヤ;シリコン、ゲルマニウムなどの非金属;酸化ケイ素などの非金属酸化物;金、白金、銀、銅など金属;酸化インジウム、ITO(Indium Tin Oxide)などの金属酸化物;GaAs;CdSなど固体基板、ポリオレフィン、ポリアクリル、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子材料などの有機基板;コラーゲン、澱粉、セルロースなどの動植物由来の材料を原料とする生体由来材料などの固体基板のみならず、固体基板への結合や吸着が困難である固体も基板として使用することができ、前記してきた本発明の膜が安定に存在し得る固体は全て包含することができる。また、固体の形状も、特に制限されることはなく、薄膜状であってもよい。
本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体を用いた膜は、アルキル鎖などによるvan der Waals力のみならずトリプチセン骨格部分において膜形成能を有しているために、必ずしも固体基板の表面に結合又は吸着するための部分を必須とするものではない。そのために、固体基板との結合性や吸着能を考慮する必要がなく、固体基板に特に制限はないことになる。しかしながら、形成された膜の位置安定性を確保するために、固体基板に結合及び/又は吸着することができる部分を含むヤヌス型トリプチセン誘導体を選択することが好ましい。
【0038】
本発明における「電子デバイス」とは、電子の働きを応用し、増幅、データ処理、データ転送などの機能的な仕事をする電子素子の総称である。典型的な「電子デバイス」としては、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ、有機EL、バイオセンサーなどのセンサーなどの能動素子が挙げられるが、場合によっては、抵抗器やコンデンサーなどの受動素子も包含される。本発明の好ましい態様における電子デバイスとしては、トランジスタ、特に薄膜トランジスタ、より好ましくは有機電解効果トランジスタ(OFET)が挙げられる。有機電解効果トランジスタ(OFET)としては、ボトムコンタクト/トップゲート型、ボトムコンタクト/ボトムゲート型、又はトップコンタクト/ボトムゲート型のいずれでもあってもよいが、トップコンタクト/ボトムゲート型が好ましい。
本発明における「電子素子」とは、固体内電子の伝導を利用した電子部品の総称であって、能動素子と受動素子があるが、本発明においては能動素子と受動素子のいずれであってもよいが、通常は能動素子が好ましい。また、電子デバイスが単一の電子素子である場合には、本発明の「電子デバイス」と「電子素子」とは同義語として使用される。
本発明における「回路基板」とは、前記した固体基板の表面に電子回路が形成されたものをいう。電子回路とは、電子部品を電気伝導体で接続し電流の通り道をつくり、目的の動作を行わせる電気回路であり、目的とする信号を増幅したり、計算や制御などのデータ処理をしたり、データを転送したりといったことができるものである。「回路基板」は、目的に応じて種々の大きさとすることができる。例えば、データの入力、処理、制御、出力などの全てを行う回路とすることもできるし、それぞれの単一の目的のみを行う回路とすることもできる。
【0039】
本発明における「電子機器」とは、前記した電子デバイス、電子素子、又は回路基板の少なくとも1種を内蔵している各種の電子製品、例えば、テレビ;ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ;カーナビゲーション装置;電子手帳;電卓;電子新聞;ワードプロセッサ;パーソナルコンピュータ;ワークステーション;テレビ電話;POS端末;などの家庭用電子製品、特にこれらの電子製品の表示装置、及び、心電位測定デバイス、筋電位測定デバイス、脳電位測定デバイスなどの医療用電子機器、特にこれらの医療用電子機器の表示装置などの業務用電子製品などが挙げられる。また、本発明の「電子機器」は、前記した電子製品を構成する各種の装置であってもよく、このような装置としては、例えば、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイなどの表示装置、各種のセンサーなどのセンサー装置などが挙げられる。
本発明における「構成要素」とは、前記した電子デバイスや電子素子などを構成するために必要とされる、同一の材質によって形成されている部分のことをいう。例えば、絶縁層や有機薄膜層のような層が「構成要素」例として挙げられる。また、「構成要素」を含有するとは、前記した電子デバイスや電子素子などが、当該「構成要素」を内包していることを、即ち、前記した電子デバイスや電子素子などの一部として当該「構成要素」が存在していることを意味している。
【0040】
本発明における「炭素数2から60の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基」としては、炭素数2から60、好ましくは2から30、より好ましくは5から30の飽和又は不飽和、鎖状又は環状、直鎖状又は分岐状の2価の炭化水素基であり、これらの飽和炭素原子及び不飽和炭素原子、鎖状炭素原子及び環を形成する炭素原子は、規則的又は不規則的に配置されていてもよい。本発明における「炭素数2から60の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基」としては、例えば、炭素数2から60、好ましくは2から30、より好ましくは5から20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基;炭素数2から60、好ましくは2から30、より好ましくは2から20の直鎖状又は分岐状のアルケニレン基;炭素数2から60、好ましくは2から30、より好ましくは2から20の直鎖状又は分岐状のアルキニレン基;炭素数6から30、好ましくは6から20、より好ましくは6から12の単環状、多環状、又は縮合環状のアリール環を含有してなる総炭素数が6から60、好ましくは6から30の2価のアリーレン基(当該アリーレン基は、アリール環とアリール環の間又は末端にアルキレン基、アルケニレン基、又はアルキニレン基を有していてもよい。);などが挙げられる。アルケニレン基を形成するための炭素−炭素二重結合、アルキニレン基を形成するための炭素−炭素三重結合、又はアリーレン基を形成するためのアリール環は、飽和のアルキレン基の中(末端を含む)又は不飽和の炭素−炭素結合の前後に、規則的又は不規則的に配置されていてもよい。
より具体的には、例えば、C
6、C
7、C
8、C
9、C
10、C
11、C
12、C
13、C
14、C
15、C
16、又はC
17の、直鎖状又は分岐状、好ましくは直鎖状のアルキレン基、前記のアルキレン基の中(末端を含む)に1個、2個、又は3個の炭素−炭素二重結合が規則的又は不規則的に配置されたアルキレン基、−(−CH=CH−)n−(ここで、nは3、4、5、6、7、又は8の整数を表す。)の不飽和アルキレン基、前記のアルキレン基の中(末端を含む)に1個、2個、又は3個の炭素−炭素三重結合が規則的又は不規則的に配置されたアルキレン基、−(−Ph−CH=CH−)m−Ph−(ここで、Phは、p−フェニレン基を示し、mは1、2、3、又は4の整数を表す。)で表されるアリーレン基などが挙げられる。
【0041】
本発明における「炭素数2から60の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基」は、置換基を有してもよく、その「置換基」としては、ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5のアルキル基;炭素数1〜5のアルキコキシ基;1個から5個、好ましくは1個から3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜5のアルキル基;1個から5個、好ましくは1個から3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜5のアルコキシ基;アミノ基;及び1個又は2個の炭素数1〜5のアルキル基で置換されたアミノ基からなる群から選ばれる置換基が挙げられる。
【0042】
本発明における「炭素数2から60の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基」は、「当該炭化水素基の中の1つ又は2つ以上の炭素原子が酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、又は−NR
5−(ここで、R
5は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜30のアリール基を表す。)で置換されていてもよく」とは、−C−C−C−の炭素原子の連鎖の中の1つ又は2つ以上の炭素原子が他の原子で置換され、例えば、−C−O−C−、−C−S−C−、−C−SiH
2−C−(式中のケイ素原子に結合する水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよい。)、−C−NR
5−C−などのような連鎖になっていてもよいことを表している。このような他の原子での置換は、置換の順番が規則的であってもよいし、不規則的であってもよい。
【0043】
本発明における「炭素数1〜10のアルキル基」としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、などが挙げられる。
本発明における「置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキル基」としては、炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、などが挙げられる。
【0044】
また、本発明における「炭素数1から4の飽和又は不飽和の炭化水素基」としては、炭素数1から4のアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基が挙げられる。好ましい「炭素数1から4の飽和又は不飽和の炭化水素基」としては、炭素数1から4、好ましくは炭素数1から2の直鎖状のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などが挙げられる。
【0045】
本発明における「炭素数2〜10のアルケニル基」としては、1個以上の炭素−炭素二重結合を有する基であって、総炭素数2〜10、好ましくは総炭素数2〜8、より好ましくは総炭素数2〜6の直鎖状又は分枝状のアルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の例としては、ビニル基、1−メチル−ビニル基、2−メチル−ビニル基、n−2−プロペニル基、1,2−ジメチル−ビニル基、1−メチル−プロペニル基、2−メチル−プロペニル基、n−1−ブテニル基、n−2−ブテニル基、n−3−ブテニル基などが挙げられる。
【0046】
本発明における「炭素数2〜10のアルキニル基」としては、1個以上の炭素−炭素三重結合を有する基であって、総炭素数2〜10、好ましくは総炭素数2〜8、より好ましくは総炭素数2〜6の直鎖状又は分枝状のアルキニル基が挙げられる。このようなアルキニル基の例としては、エチニル基、n−1−プロピニル基、n−2−プロピニル基、n−1−ブチニル基、n−2−ブチニル基、n−3−ブチニル基などが挙げられる。
【0047】
本発明における「炭素数6〜30のアリール基」としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜18、より好ましくは炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基が挙げられる。このような炭素環式芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、などが挙げられる。
【0048】
本発明における「窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれる1〜5個のヘテロ原子を有し炭素原子を2〜10個有する5〜8員のヘテロアリール基」としては、1個〜5個、好ましくは1〜3個又は1〜2個の窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含有する5〜8員、好ましくは5〜6員の環を有する単環式、多環式、又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられる。このような複素環基としては、例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピロリル基、2−ピリジル基、2−インドール基、ベンゾイミダゾリル基などが挙げられる。
【0049】
本発明における「炭素数1〜10のアルコキシ基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基に酸素原子結合した基が挙げられる。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基などが挙げられる。
【0050】
本発明における「炭素数1〜10のアルキルチオ基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基に硫黄原子結合した基が挙げられる。このようなアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基などが挙げられる。これらのアルキルチオ基における硫黄原子は、スルフィニル(−SO−)又はスルホニル(−SO
2−)となっていてもよい。
【0051】
本発明における「炭素数1〜10のアルキルカルボニル基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基にカルボニル基(−CO−基)が結合したものが挙げられる。このようなアルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、などが挙げられる。
【0052】
本発明における「炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基にオキシカルボニル基(−O−CO−基)が結合したものが挙げられる。このようなアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、などが挙げられる。
【0053】
本発明における「炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基」としては、前記した炭素数1〜10のアルキル基にカルボニルオキシ基(−CO−O−基)が結合したものが挙げられる。このようなアルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、などが挙げられる。
【0054】
本発明における各種の基における「置換基」としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、置換若しくは非置換のアミノ基、アルキルシリル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアリールアルキル基、ヘテロアリール基、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、炭素数3〜16の脂環式炭化水素−カルボニル基、炭素数6〜30のアリールカルボニル基、炭素数7〜30のアリールアルキルカルボニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7〜30のアリールカルボニルオキシ基、炭素数7〜30のアリールアルキルカルボニルオキシ基、炭素数2〜21のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜37の炭素環式芳香族−オキシカルボニル基、炭素数6〜30のアリールオキシカルボニル基、炭素数7〜30のアリールアルキルオキシカルボニル基、などが挙げられる。
【0055】
本発明における「モノアルキル置換アミノ基」としては、アミノ基(−NH
2)における1個の水素原子が、前記した炭素数1から10のアルキル基で置換されているアミノ基であり、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基などが挙げられる。
本発明における「ジアルキル置換アミノ基」としては、アミノ基(−NH
2)における2個の水素原子が、前記した炭素数1から10のアルキル基でそれぞれ置換されているアミノ基であり、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基などが挙げられる。
【0056】
本発明における「ホルミル基」とは、アルデヒド基(−CHO)である。
本発明における「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられる。
本発明における「トリアルキルシリル基」としては、前記した炭素数1〜5のアルキル基が3個置換したシリル基であって、それぞれのアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。このようなトリアルキルシリル基としては、トリエチルシリル基、エチルジメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジエチルシリル基などが挙げられる。
【0057】
本発明の一般式[I]の2価のリンカー基Xにおける「窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる1〜5個の原子及び水素原子で構成される2価の原子団からなるリンカー基」とは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる1〜5個の水素原子以外の原子及び水素原子で構成される2価の原子団からなる基であり、トリプチセン骨格と2価の炭化水素基R
1基を連結する基であり、その構造は特に制限されるものではない。好ましい基Xとしては、例えば、−O−;−S−;−SO−;−SO
2−;−NR
6−(ここで、R
6は、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。);−CH
2−;−CH
2−CH
2−;−CH=CH−;−C
6H
4−(フェニレン基);−C
4H
2S−(2価のチオフェン);−CO−;−OCO−;−COO−;−OCOO−;−CONR
61−(ここで、R
61は、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。);−NR
62CO−(ここで、R
62は、水素原子、又は炭素数1〜2のアルキル基を表す。);−NHCONH−、−CO−NR
63−NR
63−(ここで、R
63は、それぞれ独立して、水素原子、又はメチル基を表す。);−SiR
9R
10−O−(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表す。);−O−SiR
9R
10−O−(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表す。);−SiR
9R
10−NH−(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表す。);−NH−SiR
9R
10−O−(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表す。)などが挙げられる。
一般式[I]における好ましいX基としては、−O−;−S−;−SO−;−SO
2−;−NR
6−(ここで、R
6は、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。);−CH
2−;−CH=CH−;−CO−;−OCO−;−CONR
61−(ここで、R
61は、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。);−NR
62CO−(ここで、R
62は、水素原子、又は炭素数1〜2のアルキル基を表す。)などが挙げられ、特に好ましいXとしては、−O−;−NR
6−(ここで、R
6は、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。);−CH
2−;−CO−などが挙げられる。
【0058】
本発明の一般式[I]の末端基Zにおける「固体基板の表面に結合又は吸着し得る基」とは、ガラス、金属、金属酸化物などの基板表面に結合又は吸着することができる官能基であり、例えば、ガラス基板に対するトリメトキシシリル基やトリクロロシリル基、金などに対するメルカプト基やジスルフィド基などの硫黄原子を含有する基などが挙げられる。
【0059】
本発明の一般式[I]の末端基Zにおける「窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、リン原子、ハロゲン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる1〜15個の原子及び水素原子で構成される1価の原子団からなる末端基」とは、本発明の一般式[I]における2価の炭化水素基R
1基の末端となる1価の基であり、1〜15個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜6個の原子及び水素原子で構成される1価の原子団であれば特に制限はない。好ましい基Zとしては、例えば、炭素数1から10のアルキル基;炭素数2から15、好ましくは2から10、より好ましくは2から6の直鎖状又は分岐状のアルケニル基;炭素数2から15、好ましくは2から10、より好ましくは2から6の直鎖状又は分岐状のアルキニル基;炭素数6から15、好ましくは6から12、より好ましくは6から10の単環状、多環状、又は縮合環状のアリール環を含有してなる総炭素数が6から15、好ましくは6から12の2価のアリール基(当該アリール基は、アリール環とアリール環の間又は末端にアルキレン基、アルケニレン基、又はアルキニレン基を有していてもよい。);炭素数1から10のアルキル基の任意の位置が1〜7個のハロゲン原子で置換された炭素数1から10のハロアルキル基;−OR
11(ここで、R
11は水素原子、又は炭素数1から10のアルキル基を表す。);−SR
11(ここで、R
11は水素原子、又は炭素数1から10のアルキル基を表す。);−SOR
11(ここで、R
11は水素原子、又は炭素数1から10のアルキル基を表す。);−SO
2R
11(ここで、R
11は水素原子、又は炭素数1から10のアルキル基を表す。);−N(R
12)
2(ここで、R
12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−CO−R
13(ここで、R
13は水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−OCO−R
13(ここで、R
13は水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−COO−R
13(ここで、R
13は水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−OCOO−R
14(ここで、R
14は、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−CON(R
13)
2(ここで、R
13はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−NR
13CO−R
13(ここで、R
13はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−N(R
13)CON(R
13)
2(ここで、R
13はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−CO−NR
13−N(R
13)
2(ここで、R
13はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−SiR
9R
10−O−R
13(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表し、R
13は水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−O−SiR
9R
10−O−R
13(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表し、R
13は水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−SiR
9R
10−N(R
13)
2(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表し、R
13は水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−NH−SiR
9R
10−O−R
13(ここで、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又は炭素数1から3のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基を表し、R
13は水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−P(OR
15)
2(ここで、R
15は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);−P(=O)(OR
15)
2(ここで、R
15は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数6から12のアリール基を表す。);などが挙げられる。
【0060】
本発明の一般式[I]の「ヤヌス型トリプチセン誘導体」とは、トリプチセンの1,8,13位の面と、4,5,16位の面の2つの異なる面を有しており、それぞれの面がそれぞれ異なる特性を有しているトリプチセン誘導体である。非特許文献3には、ベンゾキノンを用いるディールスアルダー反応(Diels-Alder reaction)をキー反応としてトリプチセン誘導体を製造しているが、この方法では、13位及び16位に同じ置換基(−OH)が同時に導入され、本発明の「ヤヌス型トリプチセン誘導体」を製造することは困難である。
本発明者らは、1−アルコキシ−6−トリアルキルシリル−フェノールのフェノール性水酸基をトリフラート基などで脱離基とした化合物と、1,8−ジアルコキシアントラセンを縮合剤の存在下で縮合させることにより3置換トリプチセン誘導体を製造することに成功した。この反応の具体例を後述する実施例1に示す。この方法により、3置換トリプチセン誘導体を製造することができたが、製造された3置換トリプチセン誘導体は、1,8,13−3置換トリプチセン誘導体(ヤヌス型)と、1,8,16−3置換トリプチセン誘導体(非ヤヌス型)の混合物であり、これを分離することが困難であったが、これを再結晶して精製することにより、1,8,13−トリメトキシトリプチセンを分離精製することに成功した。後述する実施例1を参照されたい。
【0061】
1,8,13−トリメトキシトリプチセンは、トリプチセン部位の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積したユニークなパッキング構造をした結晶として分離精製することができた。1,8,13−トリメトキシトリプチセンの結晶構造を
図3に示す。
図3では、メトキシ基の酸素原子が赤色で示されている。この結晶構造は、メトキシ基を紙面奥側に向けたトリプチセン分子の層と、紙面手前側に向けた分子の層で、ダイポールを相殺した集積構造となっている。意外にも、無置換のトリプチセンではこのような入れ子状の結晶構造は見られない。本発明のヤヌス型分子の方向性を揃えた置換基構造によって、特徴的な集積構造が発現していることが、この結晶構造においても示されている。
結晶形は斜方晶系(Orthorhombic crystal system)であり、この結晶形のa、b、及びcの値は、それぞれオングストローム単位で、15.608、13.388、8.041であった。また、Vの値は1680立方オングストロームであった。
このようにして、本発明者らはトリプチセン骨格の一つの方向に同じ置換基を有する「ヤヌス型トリプチセン誘導体」を製造することに初めて成功した。
【0062】
このようにして分離精製された1,8,13−トリメトキシトリプチセンは通常の方法により加水分解して1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンとすることができる。例えば、ジクロロメタンなどの溶媒中でハロゲン化ホウ素の存在下で加水分解することができる。
そして、1,8,13−トリメトキシトリプチセン、及びこれを加水分解して得られる1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンをキー中間体として、公知の各種の合成手段により、本発明の「ヤヌス型トリプチセン誘導体」を製造することができる。
例えば、アルキル化剤を用いてアルキル化することにより、モノアルコキシ誘導体、又はジアルコキシ誘導体とすることができる。残った1個又は2個の水酸基をさらにアルキル化、例えば、メチル化、エチル化することにより、置換基の異なった本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体とすることができる。また、各種のカルボン酸やスルホン酸によりエステル誘導体とすることができる。この場合も反応条件を選択することにより1個又は2個の水酸基をエステル化することができる。さらに、水酸基をトリフラート(Tf:トリフルオロメタンスルホネート)とした後、ジシアノ亜鉛によりシアノ化することにより、1,8,13−トリシアノトリプチセンとすることができる。当該シアノ基は通常の方法により、加水分解してホルミル基又はカルボキシル基とすることができる。また、当該シアノ基を通常の方法により還元することにより、アミノメチル基とすることができ、当該アミノ基は通常の方法により各種の置換基で置換することができる。
また、得られたホルミル基はカルボニル化合物としての各種の反応原料として使用することができる。例えば、当該ホルミル基をウィッティッヒ試薬(Wittig reagent)と反応させて−CH=C−結合とすることができる。これを通常の方法により脱水素することにより炭素−炭素三重結合とすることができる。
これらの反応は、反応条件を選択することにより、1個又は2個の官能基のみを選択して反応させることができる。
【0063】
さらに、1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンをNBS(N−ブロモスクシンイミド)を用いてブロム化することにより、4,5,16−トリブロモ−1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンを製造することができる。この化合物は、トリプチセン分子内の一つの対称面に対して、その一方に3個のヒドロキシ基、他方に3個のブロモ基という異なる置換基を有する化合物であり、一つの対称面に対して異なる機能団を有する本発明の「ヤヌス型トリプチセン誘導体」のキー中間体となる化合物である。
このブロモ体は、ホウ素化合物やケイ素化合物を用いた各種のカップリング反応により、フェニル基やチエニル基などの各種のアリール基やヘテロアリール基に直接変換することができる。例えば、ブロモ基が置換している側に電子受容体となる機能団を導入しようとする場合には、このようなカップリング反応により直接又は段階的に当該機能団を導入することができる。
【0064】
例えば、1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンの1個の水酸基をメチル化して、1,8-ジヒドロキシ-13−メトキシトリプチセンとし、これにドデシルブロマイド(C
12H
25-Br)を塩基の存在下で反応させることにより、1,8−ジドデシルオキシ−13−メトキシトリプチセン(以下、この化合物を「化合物4」という。)を製造することができる。この化学反応式を次に示す。
【0066】
化合物4を、厚さ50nmのシリコン薄膜上に真空蒸着させて、その結晶状態をX線回折により検討した。
比較のために1,8,13−トリドデシルオキシトリプチセン(以下、「化合物3」という。)を同様に真空蒸着させた。
化合物4の場合にはシャープなX線反射ピークが得られたが、化合物3の場合にはブロードなX線反射ピークしか得られなかった。それぞれを、120℃で1時間、アニーリング処理した結果、化合物4のX線反射ピークに大きな変化は見られなかったが、化合物3の方はシャープなX線反射ピークが得られた。このように、本発明の化合物は、アニール処理をしなくても、極めてシャープなピークとなるが、3個の同じ置換基を有する化合物3では、アニール処理により初めてX線反射ピークがシャープとなり、アニール処理が必要となる。これに対して本発明の大きな置換基が2個しかない化合物4では、アニール処理が無くても極めてシャープなX線反射ピークが得られた。
次に、アニール処理の前後における、d
001とd
110の変化を測定した。
本発明の化合物4では、アニール処理により、d
001は2.11nmから2.05nmとほとんど変化せず、またd
110はいずれも0.41nmであり変化は見られなかった。これに対して、3個の同じ置換基を有する化合物3では、アニール処理により、d
001は2.13nmから2.30nmと大きく変化し、またd
110は0.41nmから0.40nmに変化した。
【0067】
以上のことからも明らかなように、本発明の一般式[I]で表される化合物は、トリプチセンの1,8,13位の面における3箇所の置換可能な位置の少なくとも1箇所を小さな置換基とすることにより、より規則性に優れた薄膜を容易に形成することができる。この原因については必ずしも明確ではないが、3箇所のうちの少なくとも1箇所が小さくなることにより、立体障害が解消され、規則性に優れた薄膜の形成が容易になるものと考えられる。そして、1,8,13位の面における残りの1個又は2個の置換基が比較的長い鎖状の置換基であることから、その面に3つの同じ置換基を有している先に報告してきたトリプチセン誘導体と同様に、トリプチセン部位の三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積したユニークなパッキング構造を形成することができ、特異な膜を形成することができると考えられる。
【0068】
次に、シリコン基板上に、有機絶縁材料の1種であるポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))を塗布し、その上に有機半導体のDNTT(ジナフトチエノチオフェン)を沈着させた場合と、パリレンの上に、ヤヌス型トリプチセン誘導体を塗布し、その上に当該DNTTを沈着させた場合の、当該DNTTの状態をAFMで観測した。即ち、
シリコン基板 − パリレン層 − DNTT
の場合と、
シリコン基板 − パリレン層 − ヤヌス型トリプチセン誘導体の層 − DNTT
の場合を比較した。
ヤヌス型トリプチセン誘導体として、本発明の前記した「化合物4」を用いた。また、比較のために、3個の置換基が同じドデシルオキシ基である、1,8,13−トリドデシルオキシトリプチセン(化合物3)を用いた。
それぞれの場合のDNTTの状態をAMFで観測した結果を
図4、
図5、及び
図6に示す。
図4はヤヌス型トリプチセン誘導体の層が無い場合のDNTTのAMF像であり、
図5はヤヌス型トリプチセン誘導体として化合物3を用いた場合のDNTTのAMF像であり、
図6はヤヌス型トリプチセン誘導体として本発明の化合物4を用いた場合のDNTTのAMF像である。
【0069】
この結果から明らかなように、パリレンのみの場合(
図4参照)に比べて、ヤヌス型トリプチセン誘導体の層を設けた場合(
図5及び
図6参照)の方がDNTTの結晶が大きくなっている。そして、同じヤヌス型トリプチセン誘導体であっても、本発明の化合物4を用いた場合(
図6参照)の方が、DNTTの結晶はさらに大きくなっている。DNTTの結晶の粒径の大きさは、これをデバイスとした場合の特性に大きく影響することが知られており、この結果、本発明のヤヌス型トリプチセン誘導体を用いたデバイスの特性の向上が図れたと考えられる(後述する実施例を参照されたい。)。
このように、本発明の立体障害が解消された一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体は、膜の規則性に優れているだけでなく、半導体の特性の向上においても優れた性質を有している。
【0070】
本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を製造する方法は、本発明者らが初めて分離精製に成功した1,8,13−トリメトキシトリプチセン又はその誘導体をキー中間体として、これを部分的に置換することにより製造することができる。
【0071】
本発明の一般式[I]で表される化合物を製造する場合には、例えば、1,8,13−トリメトキシトリプチセンの誘導体の1種である1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンを、メチル化剤やエチル化剤などのアルキル化剤を用いて、ヒドロキシ基の1個又は2個のみをアルキル化して、1−アルコキシ−8,13−ジヒドロキシトリプチセン又は1,8−ジアルコキシ−13−ヒドロキシトリプチセンを製造し、次いで、得られた生成物を、次に示す一般式[II]、
Y
1−R
1−Z [II]
(式中、R
1及びZは前記した基を示し、Y
1はハロゲンなどの脱離基を示す。)
で表されるの化合物と反応させることにより製造することができる。また、先に1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンと前記した一般式[II]で表される化合物と反応させて、次いでアルキル化剤と反応させて製造してもよい。これらの反応は基本的には置換反応であり、公知の各種の置換反応に準じて行うことができる。
また、置換基Zが反応性である場合には、Zを各種の保護基で保護して反応を行うこともできるし、Zとしてその前駆体、例えば、カルボキシル基を導入しようとする場合には、Zとしてシアノ基の化合物を用い、得られた生成物を加水分解してカルボキシル基とすることができる。Zがエステル基の場合には、エステルのままで反応させてもよく、また、カルボキシル基とした後にエステル化してもよい。なお、保護基及び脱保護については当業者には周知であるが、必要であれば、T.W. Green著Protective Group in Organic Synthesis (John Wiley and Sons, 1991)を参照されたい。
また、トリプチセンの置換基が、ホルミル基のようなカルボニル基を有する化合物である場合には、前記したウィッティッヒ試薬(Wittig reagent)を用いることにより、基Xが−C=C−である一般式[I]の化合物とすることができる。
【0072】
例えば、ウィリアムソン(Williamson)合成反応により、1,8,13−トリヒドロキシトリプチセンを原料として、12−ブロモドデカン酸メチル(ブロモの代わりにクロロ、ヨード、あるいはトシル酸エステルなどのシュードハライドでも可)と塩基存在下で反応させることにより、前記したエステル基を末端基として有する化合物を製造することもできる。
【0073】
これらの反応において必要に応じて溶媒を使用することができる。このような溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテル、THFなどのエーテル系溶媒、DMF、DMA、DMSOなどの非プロトン性極性溶媒、エタノールなどのアルコール系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、必要に応じて各種の試薬の存在下に反応を行うこともできる。このような試薬としては塩基が好ましく、塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。塩基としてはトリアルキルアミンなどの有機塩基を使用することもできるが、無機塩基の方が好ましい。
反応温度としては、反応が適切に進行する範囲であれば任意に設定することができるが、通常は常温から溶媒の沸点までの範囲が好ましい。
導入する置換基の数を1個又は2個にするためには、試薬のモル数を調節する、反応時間を短くする、反応温度を調節する、溶媒の量を多くする、又はこれらを組み合わせることにより調整することができる。
反応混合物から目的の生成物を単離し精製する方法としては、通常の単離・精製手段、例えば、溶媒抽出、再結晶、再沈殿、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法で行うことができる。また、生成物に光学活性がある場合には、必要に応じて光学分割することもできる。
【0074】
得られた1個又は2個の置換基が導入された化合物を、さらに必要に応じて次の一般式[III]
Y
1-R
2 [III]
(式中、R
2は前記した基を示し、Y
1はハロゲンなどの脱離基を示す。)
で表される試薬を用いて、前記と同様な方法により、置換反応を行うことにより、本発明の一般式[I]で表される化合物を製造することができる。
【0075】
本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体は、トリプチセンの三枚羽状に配列したベンゼン環が入れ子状に集積し、このような特徴的な集積化挙動を利用することで、次元性が制御された二次元状分子集合体が合理的に構築でき、膜を形成させることができる。さらに、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体は、それ自体の立体障害が解消されており、より規則性の優れた膜を形成させることができる。本発明の膜を製造する方法としては、スピンコート法、浸漬法、キャスト法、インクジェット法、超音波法、気相法、蒸着法などを任意に選定することができるが、本発明の化合物は有機溶媒に溶解させることができるので、スピンコート法、浸漬法、キャスト法、インクジェット法、蒸着法などが好ましい。
スピンコート法は、高速で回転する基板の上に溶液を滴下して均一な膜厚の薄膜を成膜させる方法である。浸漬法は、溶液に基板を浸漬させて成膜する方法である。キャスト法(ドロップキャスト法を含む)は溶液を基板の上に滴下した後、溶媒を乾燥させて成膜する方法であるが、その膜厚は必ずしも均一とはならない。インクジェット法は、任意の位置に微少な溶液を滴下して成膜させる方法である。また、本発明の膜を製造する方法としては、これらの公知の成膜方法により成膜することができるが、本発明の膜は特異的な集積化挙動をすることから、液/液界面による成膜法でも行うことができる。例えば、本発明の化合物を水に溶けない有機溶媒に溶解させた溶液を、水と接触させて水/有機溶媒の界面を形成させ、当該界面において膜を製造することもできる。
また、本発明の一般式[I]で表される化合物の中のいくつかの化合物は蒸着法、好ましくは真空蒸着法により膜を形成することができる。特に、融点が比較的低く、分解温度が高い化合物が好ましい。本発明における蒸着法は、通常の蒸着法により行うことができる。例えば、化合物を融点以上に加熱して蒸発させ、又は化合物が昇華性である場合は、昇華させて、10
−5Pa〜10
−3Paの減圧下で行われるのが好ましい。基板の温度は、室温付近でもよいが、好ましくは50℃〜100℃程度が挙げられる。蒸着法による膜の形成に適した本発明の化合物としては、一般式[I]における、Xが−CH
2−で、Zが水素原子で、R
1が炭素数8〜15のアルキレン基、好ましくは炭素数9〜12のアルキレン基である化合物が挙げられる。
【0076】
本発明の膜の形成に使用される本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体は、単一の化合物として精製された化合物として使用することもできるが、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の2種又は3種以上を混合して使用することもできる。さらに、先に報告してきた(特許文献16参照)3個の置換基が同じ基であるヤヌス型トリプチセン誘導体との混合物を使用することもできる。
このことは、1,8,13−トリメトキシトリプチセン又はその誘導体の最初の置換反応で生成する置換体の中から、単一の置換体、例えば2置換体のみを、必ずしも精製分離する必要がないということである。1,8,13−トリメトキシトリプチセン又はその誘導体の最初の置換反応で生成する置換体は、無置換体、1置換体、2置換体、及び3置換体の混合物となる場合があるが、このような混合物であったとしても、本明細書で説明してきた膜の特性を維持できる範囲であれば、当該混合物をそのまま使用することができ、常に単一の化合物に精製して使用する必要は無いということである。
また、3置換体の量が、例えば、60%、好ましくは80%を超えるような状態になった場合には、置換基による立体障害を解消することができなくなり、その結果、本明細書で説明してきた膜の特性を維持できなくなることがある。このような場合には、本発明の範囲を逸脱することになるが、3置換体の量が少量であり、立体障害の解消が十分である場合には、前記で説明してきた膜の特性を維持できる範囲であり、本発明の範囲であるということになる。
【0077】
本発明の膜を固体基板上に製造する場合には、前記してきた本発明の固体基板をもちいることができる。さらに、これらの固体基板に対して紫外線(UV)、オゾン等による洗浄処理が施された固体基板;これらの固体基板上に、配線、電極等の接続端子や、絶縁層、導電層等の他の層が積層された積層体などを固体基板とすることもできる。本発明において用いられる固体基板としては、これらの中でも、ガラス基板または有機基板が好ましく、特に洗浄処理が施されたものが好ましい。
本発明の膜を固体基板上に製造する方法としては、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を有機溶媒に溶解し溶液とする工程、次いで、当該溶液を塗布若しくはスピンコート、又は当該溶液に固体基板を浸漬する工程、及び前記固体基板上の溶液を乾燥する工程を含有する方法が挙げられる。
また、本発明の膜を界面で製造する方法としては、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を水などの第二の溶媒と交わらない有機溶媒に溶解し溶液とする工程、次いで、当該溶液に水などの第二の溶媒を加え界面を形成し、当該界面に膜を形成させる工程、製造された膜を分離する工程、及び分離された膜を乾燥する工程を含有する方法が挙げられる。
このような方法で製造された本発明の膜の膜厚としては、特に制限はないが、単分子膜とする場合の平均厚さは、0.1nmから5nm、好ましくは1nmから3nmとするのが好ましい。また、多層膜とする場合の、平均厚さは、2nmから50nm以下、好ましくは3nmから30nmとするのが好ましい。さらに、液/液界面により製造される場合には、さらに膜厚の大きな膜を製造することができ、膜厚を30nmから1000nm、好ましくは50nmから500nmとすることもできる。
【0078】
膜を製造する際の有機溶媒としては、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を溶解することができるものであれば特に制限はなく、例えば、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の1価アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類及びその誘導体;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート等のグリコールエステル;前記の多価アルコール類又は前記のエステル類のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノエーテル又はモノエーテルエステル類;乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤;ジオキサンやTHFなどの環式エーテル類;ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルアセトアミド(DMA)などのアミド類;ジメチルスルホキサイド(DMSO)などの硫黄含有溶媒;などを挙げることができる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
好ましい有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルアセトアミド(DMA)などのアミド類、ジオキサンやTHFなどの環式エーテル類、ジメチルスルホキサイド(DMSO)などの硫黄含有溶媒などが挙げられる。特に好ましい溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)などの極性溶媒が挙げられる。
【0079】
有機溶媒の使用量は、特に制限はなく、製造する膜厚や製造条件を考慮して適宜設定すればよい。好ましい濃度としては、有機溶媒100mL中に本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体が、0.01mgから1000mg、より好ましくは0.1mgから100mg、さらに好ましくは0.1mgから10mgとすることができる。
本発明の膜を製造する際の温度としては、通常は室温で行うことができるが、溶媒の種類や製造条件によっては、加温下又は冷却下でも行うことができる。
本発明の膜の製造における乾燥は、自然乾燥で十分であるが、乾燥した空気や窒素等を吹き付けるなどの方法や、必要により加温して乾燥させることもできる。
また、膜の形成後、メタノール、クロロホルム等の有機溶剤や精製水などを用いて製造された膜の洗浄を行ってもよいが、特に洗浄する必要はない。
本発明の膜を界面で製造する場合には、界面で製造された膜をガラス基板などの基板に転写して分離することができる。分離された膜は、前記した方法で乾燥させることができる。
【0080】
このようにして製造された本発明の膜を、さらにアニーリング処理することもできるが、本発明の薄は規則性に優れていることから、アニーリング処理を省略することもできる。アニーリング処理を行う場合には、スピンコート法、浸漬法、キャスト法、インクジェット法などで製造された膜については、アニーリング処理は、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の融点とほぼ同じ温度、好ましくは約100℃から230℃、より好ましくは約130℃から230℃、さらに好ましくは150℃から200℃程度に加熱することにより行われる。
また、蒸着法で製造された膜については、約100℃から200℃、好ましくは約110℃から150℃程度に加熱することにより行われる。
アニーリング処理は、通常は大気下で行うことができるが、窒素気流下などの不活性気流下であってもよい。アニーリングの時間は特に制限はないが、通常は5分から50分、好ましくは10分から30分程度で十分である。
【0081】
本発明の膜は、一般式[I]における末端基Zの種類により、単層構造とすることや末端基Zが分子間で向かい合ったバイレイヤー構造とすることができる。また、製造方法によっても膜の厚さを調整することができ、電子材料、光学材料、表面処理材料などとして幅広い用途に適した薄膜や、固体基板と一体化した構造体として幅広い用途に適した構造体を提供することができる。
【0082】
本発明の電子デバイスは、従来の電子デバイスの製造方法に準じて製造することができ、その際に、従来の有機薄膜、特にSAMに代えて、前記してきた本発明の有機薄膜とすることによって製造することができる。前記してきたように、本発明の有機薄膜は、基板に依存しないので、有機系又は無機系の各種の基板上に前記してきた方法によって目的の有機薄膜を形成させることができる。
【0083】
例えば、薄膜トランジスタの製造例としては、次のような方法が挙げられる。
シリコンウェハー上にアルミニウムを沈着させてパターン化し、次いで酸素プラズマ中で灰化して表面を酸化アルミニウムとして、絶縁層が酸化アルミニウムであるAl
2O
3/Alゲート電極をパターン化する。その上に本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体の溶液をドロップキャストし、乾燥させる。必要に応じて約200℃でアニーリングしてもよい。このようにして、パターン化されたAl
2O
3/Alゲート電極上に本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有する有機薄膜を形成する。次いで、Al
2O
3/Alゲート電極及び有機薄膜の上にDNTT(ジナフトチエノチオフェン)などの有機半導体を沈着させて、有機半導体層を形成する。そして、有機半導体層の上に真空蒸着法などにより金を沈着させて、ソース電極とドレイン電極を形成する。
【0084】
前記の方法において、有機半導体層を形成させずに、有機薄膜の上に直接金を沈着させれば、コンデンサとすることもできる。
本発明のコンデンサは、電極間に前記してきた本発明の有機薄膜からなる誘電体層を有していることを特徴とするものである。本発明のコンデンサは、誘電体層のさらに第二の誘電体を含有することもできる。第二の誘電体としては、コンデンサに使用される誘電体であれば特に制限はないが、有機誘電体が好ましい。また、第二の誘電体を含有する場合には、誘電体層は積層構造とすることが好ましい。
【0085】
また、電子ペーパーを製造する場合には、まずポリカーボネート基板のような透明性があってフレキシブルなポリマー基板を洗浄し、次いでこの基板上に、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)のような有機導電体又は銅などの金属微粒子を用いてパターン化してゲート電極を形成する。次に、基板の一部又は全面に、ポリイミドやポリメチルメタクリレートやポリパラキシリレンのような有機絶縁体層を形成する。次に、ゲート電極と重なるように、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有する有機薄膜を形成させる。さらに、その上にDNTT(ジナフトチエノチオフェン)などの有機半導体を沈着させて、有機半導体層を形成する。そして、有機半導体層の上に真空蒸着法などにより金を沈着させて、ソース電極とドレイン電極を形成する。
【0086】
これらの薄膜トランジスタにおける、絶縁体としては、無機材料、有機材料、又は、有機低分子アモルファス材料等の種々の絶縁体が挙げられる。無機材料としては、例えばSiO
2、Al
2O
3、Ta
2O
5、ZrO
2等の単金属酸化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウムバリウムなどの複合酸化物、SiNxなどの窒化物、酸化窒化物、フッ化物等を挙げることができる。有機材料としては、例えば、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリパラキシリレン、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ベンゾシクロブテン、シアノエチルプルラン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデン−4フッ化エチレン共重合体、及びその他のポリマー材料を挙げることができる。有機低分子アモルファス材料としては、例えば、コール酸、コール酸メチル等を挙げることができる。
これらの絶縁体の形成方法としては、絶縁体の材料に応じて、蒸着、スパッタリング、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、ゲート電極の陽極酸化、塗布、溶液からの付着等、種々の成膜方法を採用することができる。ゲート絶縁層の厚さは、材料にもよるが、約10nm〜約500nmとすることができる。
【0087】
これらの薄膜トランジスタにおける、半導体としては、有機半導体材料や無機酸化物半導体材料が挙げられる。有機半導体材料としては、ポリチオフェン、ポリアリルアミン、フルオレンビチオフェン共重合体、ポリチエニレンビニレン、ポリアルキルチオフェン、及びそれらの誘導体のような高分子有機半導体材料;DNTT(ジナフトチエノチオフェン)、オリゴチオフェン、ペンタセン、テトラセン、銅フタロシアニン、ペリレン、およびそれらの誘導体のような低分子有機半導体材料を用いることができる。また、カーボンナノチューブあるいはフラーレンなどの炭素化合物や半導体ナノ粒子分散液なども半導体層の材料として用いることができる。これらの有機半導体材料はトルエンなどの芳香族系の溶媒に溶解又は分散させてインキ状の溶液又は分散液として用いることができる。また、蒸着法によって成膜することもできる。酸化物半導体材料としては、例えば、亜鉛、インジウム、スズ、タングステン、マグネシウム、ガリウムのうち一種類以上の元素を含む酸化物が挙げられる。酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛ガリウムインジウム(In−Ga−Zn−O)等公知の材料が挙げられるが、これらの材料に限定されるものではない。これらの材料の構造は単結晶、多結晶、微結晶、結晶/アモルファスの混晶、ナノ結晶散在アモルファス、アモルファスのいずれであってもかまわない。
【0088】
これらの薄膜トランジスタにおける、基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどのフレキシブルなプラスチック材料;石英などのガラス基板;シリコンウェハー;アルミニウムウェハーなどがある。
【0089】
また、薄膜トランジスタには、必要に応じて封止層、遮光層などを設けることもできる。封止層の材料としては絶縁体の材料と同一の材料から選択して用いることができ、遮光層はゲート材料などにカーボンブラック等の遮光性材料を分散させたものを用いることができる。
【0090】
以上の例から明らかなように、本発明の有機薄膜電子デバイスの構成要素とすることができ、これにより安定性の優れた電子デバイスを得ることもできる。即ち、本発明は、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有してなる有機薄膜からなる電子デバイス材料を提供するものである。
また、本発明の一般式[I]で表されるヤヌス型トリプチセン誘導体を含有してなる有機薄膜を、電子デバイス中に設けることを特徴とする、本発明の電子デバイスを製造する方法が提供されることになる。
【0091】
このようにして製造される本発明の電子デバイス又は電子素子を適宜組み合わせ、それらを配線して増幅やデータ処理などの目的に応じた電子回路を、通常の方法で基板上に形成させることができる。このようにして形成された基板上の電子回路が本発明の回路基板である。本発明の回路基板は、目的に応じて1枚であってもよいし、2枚以上の複数枚で形成されていてもよい。
【0092】
さらに、このような回路基板を適宜組み合わせることにより、本発明の電子機器を製造することができる。本発明の電子機器は、それ自体が各種の電子製品となっていてもよいし、当該電子製品の一部を形成する装置、例えば表示装置のような装置となっていてもよい。
【0093】
以下、実施例及び製造例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び製造例により何ら限定されるものではない。
【0094】
製造例1
トリメトキシトリプチセン混合物の製造
次に示す反応式に沿ってトリメトキシトリプチセンを製造した。
【0096】
1,8−ジメトキシアントラセン(22.3g、93.7mmol)とフッ化セシウム(CsF)(85.3mg、561.0mmol)にアセトニトリル(750mL)を加え懸濁液とし、80℃に加熱した。この懸濁液に、2−メトキシ−6−トリメチルシリルオキシ−トリフルオロメチルスルホネート(61.5g、188mmol)を滴下し、5時間加熱還流した。得られた反応混合物から、アセトニトリルを減圧留去し、残渣を水、次いでヘキサン/クロロホルム混合溶媒(1/1、v/v)で洗浄して目的のトリメトキシトリプチセンを得た(収量22.2g、収率64.5%)。得られたトリメトキシトリプチセンは、NMRの測定によれば、1,8,13−トリメトキシトリプチセン(化合物5a)と1,8,16−トリメトキシトリプチセン(化合物5b)の2:1の混合物であった。
【0097】
化合物5a:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3): δ (ppm)
7.01 (d, J = 0.7 Hz, 3H), 6.90 (dd, J = 7.3, 1.0 Hz, 3H), 6.80 (s, 1H), 6.58 (dd, J = 8.2, 0.7 Hz, 3H), 5.38 (s, 1H), 3.86 (s, 9H).
化合物5b:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ (ppm)
7.09-7.07 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.06-7.04 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 6.93-6.89 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 6.93-6.89 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 6.58-6.56 (d, J = 7.7 Hz, 2H), 6.56-6.54 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 6.35 (s, 1H), 5.87 (s, 1H), 3.84 (s, 6H), 3.83 (s, 3H).
【0098】
製造例2
1,8,13−トリメトキシトリプチセン(化合物5a)単結晶の製造
【0100】
製造例1で製造されたトリメトキシトリプチセン混合物(10.0mg)を、クロロホルムに溶解させ、静置することにより結晶化させて、標記の1,8,13−トリメトキシトリプチセン(2.0mg)を得た。
得られた結晶の単結晶X線構造解析を行った結果、この結晶は、斜方晶系(Orthorhombic crystal system)であり、単位格子のa、b、及びcの値は、それぞれオングストローム単位で、15.608、13.388、8.041であった。また、Vの値は1680立方オングストロームであった。
得られた結晶の構造を
図3に模式図として示す。
【0101】
製造例3
1,8,13−トリヒドロキシトリプチセン(化合物6)の製造
【0103】
製造例1で製造されたトリメトキシトリプチセン混合物(22.0g、62.9mmol)にジクロロメタン320mLを加え懸濁溶液とし、これにトリブロムホウ素(BBr
3)(18.2mL、192mmol)を加え、0℃で4時間攪拌した。反応混合物に水200mLを加え、析出した粉末をろ取し、減圧下乾燥させた。得られた粉末をジメチルホルムアミド80mLに溶解させ、5℃で静置すると、無色透明結晶が析出した。この結晶をろ取し、クロロホルムで洗浄することにより、標記の1,8,13−トリヒドロキシトリプチセン(化合物6)を選択的に得た(収量9.14g、収率71%)。
【0104】
化合物6:
1H−NMR(400MHz、アセトン−d
6):δ (ppm)
8.35 (br, s, 3H), 6.94-6.93 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 6.86 (s, 1H), 6.79-6.75 (dd, J = 7.2, 0.9 Hz, 3H), 6.56-6.54 (dd, J = 8.1, 0.9 Hz, 3H), 5.44 (s, 1H).
【0105】
製造例4
1,8,13−トリヒドロキシ−4,5,16−トリブロム−トリプチセン(化合物7)の製造
【0107】
製造例3で得られた化合物6(1.10g、3.64mmol)とパラトルエンスルホン酸一水和物(0.692g、3.64mmol)をDMF72mLに溶解させ、氷冷下で、これにN−ブロモスクシンイミド(1.94mg、10.9mmol)を加え、氷冷下で4時間攪拌した。反応混合物に対して10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を200mL加え、ジエチルエーテルにより抽出操作を行った。得られたジエチルエーテル溶液を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、減圧下ジエチルエーテルを留去した。残渣を、クロロホルム/メタノール混合溶媒(9/1、v/v)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで、標記の1,8,13−トリヒドロキシ−4,5,16−トリブロム−トリプチセン(化合物7)を得た(収量1.20g、収率61%)。
【0108】
化合物7:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ (ppm)
7.08-7.06 (d, J = 8.7 Hz, 3H), 6.96 (s, 1H), 6.82 (s, 1H), 6.63-6.61 (d, J = 8.7 Hz, 3H).
【0109】
製造例5
1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリブロモトリプチセン(化合物8)の製造
【0111】
製造例4で製造された化合物7(4.65g、8.63mmol)、イミダゾール(2.38g、34.9mmol)、tert-ブチルジメチルクロロシラン(5.26g、34.9mmol)のジメチルホルムアミド50mLの溶液を、60℃で12時間撹拌した。反応混合物にジエチルエーテル200mLを加え、水洗後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、減圧留去した。残渣をヘキサン100mLから再結晶することで、標記の1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリブロモトリプチセン(化合物8)を得た(収量4.20g、収率55%)。
【0112】
化合物8:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ (ppm)
7.04 (d, J = 8.4 Hz, 3H), 6.83 (s, 1H), 6.55 (s, 1H), 6.46 (d, J = 8.4 Hz, 3H), 0.97 (s, 27H), 0.25 (s, 18H).
【0113】
製造例6
1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリホルミルトリプチセン(化合物9)の製造
【0115】
製造例5で製造された化合物8(4.20g、4.76mmol)をジエチルエーテル50mLに溶解し、これに−78℃でn−BuLiペンタン溶液(濃度1.54M、21.6mL)を少しずつ滴下した。滴下終了後、さらにこの温度で30分攪拌した後、これにDMF37mLを滴下した。反応温度を室温に戻し、反応混合物にジエチルエーテル100mLを加え、水洗後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、減圧留去した。残渣を、クロロホルム/メタノール混合溶媒(98/2、v/v)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで、標記の1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリホルミルトリプチセン(化合物9)を得た(収量2.88g、収率83%)。
【0116】
化合物9:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ (ppm)
10.4 (s, 3H), 9.28 (s, 1H), 7.44 (d, J = 8.6 Hz, 3H), 6.75 (s, 1H), 6.71 (d, J = 8.6 Hz, 3H), 0.99 (s, 27H), 0.34 (s, 18H).
【0117】
製造例7
1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリス(2,2−ジブロモビニル)−トリプチセン(化合物10)の製造
【0119】
製造例6で製造した化合物9(2.88g、3.95mmol)および四臭化炭素(CBr
4)(5.90g、17.8mmol)をジクロロメタン(DCM)15mLに溶解し、氷冷下で、トリフェニルホスフィン(PPh
3)(9.31g、35.5mmol)のDCM溶液(25mL)をゆっくり滴下した。反応混合物を氷冷下で3時間攪拌した。反応混合物をろ過し、ろ液を減圧留去し乾燥させた。残渣を、クロロホルム/ヘキサン混合溶媒(1/4、v/v)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで、標記の1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリス(2,2−ジブロモビニル)−トリプチセン(化合物10)を得た(収量2.97g、収率63%)。
【0120】
化合物10:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ (ppm)
7.26 (s, 1H), 6.99 (d, J = 8.7 Hz, 3H), 6.60 (s, 1H), 6.56 (d, J = 8.7 Hz, 3H), 5.70 (s, 1H), 1.01 (s, 27H), 0.30 (s, 18H).
【0121】
製造例8
1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリエチニルトリプチセン(化合物11)の製造
【0123】
製造例7で製造した化合物10(2.97g、2.48mmol)をTHF60mLに溶解し、これに−78℃でn−BuLiペンタン溶液(濃度1.64M、15.1mL)を少しずつ滴下した。滴下終了後、さらにこの温度で30分攪拌した後、室温に戻し、反応混合物に水を50mL加えた。反応混合物にジエチルエーテル100mLを加え、水洗後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、減圧留去した。残渣を、クロロホルム/ヘキサン混合溶媒(1/4、v/v)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで、標記の1,8,13−トリス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)−4,5,16−トリエチニルトリプチセン(化合物11)を得た(収量1.72g、収率97%)。
【0124】
化合物11:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ (ppm)
7.10 (s, 1H), 7.02 (d, J = 8.7 Hz, 3H), 6.54 (s, 1H), 6.50 (d, J = 8.7 Hz, 3H), 3.26 (s, 3H), 0.97 (s, 27H), 0.25 (s, 18H).
【0125】
製造例9
1,8,13−トリ(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)トリプチセン(化合物12)の製造
【0127】
製造例3で製造した化合物6(300mg、0.992mmol)を、ピリジン0.80mL及びジクロロエタン15mLに溶解し、これにトリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf
2O)(1.68g、5.95mmol)を加え、60℃で3時間攪拌した。反応混合物を分液操作により水洗し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、減圧留去により乾燥した。残渣をヘキサン30mLに溶解させ、5℃で静置して、標記の1,8,13−トリ(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)トリプチセン(化合物12)を無色透明結晶として得た(収量575mg、収率83%)。
【0128】
化合物12:
1H−NMR(400MHz、アセトン−d
6):δ (ppm)
7.77 (d, J = 7.4 Hz, 3H), 7.39 (t, J = 8.1 Hz, 3H), 7.27 (d, J = 8.6 Hz, 3H), 6.58 (s, 1H), 6.31 (s, 1H).
【0129】
製造例10
1,8,13−トリシアノトリプチセン(化合物13)の製造
【0131】
製造例9で製造した化合物12(200mg、0.29mmol)を、DMF3.0mLに溶解し、これに1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(ddpf)(100mg、0.18mmol)、dbaパラジウム(Pd
2dba
3)(165mg、0.18mmol)を加え、90℃で1時間攪拌した後、これにシアン化亜鉛(ZnCN
2)(336mg、2.86mmol)を加え、90℃で12時間反応させた。反応混合物に対して水5.0mLおよび26%アンモニア水溶液3.0mLを加え、析出した沈殿物をろ取し、さらに26%アンモニア水溶液3.0mLおよび水10.0mLで洗浄し、減圧下乾燥した。残渣をアセトンでソックスレー抽出し、アセトンを留去することで、標記の1,8,13−トリシアノトリプチセン(化合物13)を得た(収量85.8mg、収率91%)。
【0132】
化合物13:
1H−NMR(400MHz、アセトン−d
6):δ (ppm)
7.95 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 7.60 (d, J = 8.6 Hz, 3H), 7.40 (t, J = 8.1 Hz, 3H), 6.77 (s, 1H), 6.26 (s, 1H).
【0135】
製造例3で製造された化合物6(102mg、0.337mmol)をジメチルホルムアミド10.0mLに溶解させ、炭酸カリウム(190mg、1.34mmol)および12−ブロモドデカン酸メチル(373mg、1.21mmol)を加え、70℃で10時間撹拌した。反応混合物にジエチルエーテル50mLを加え、水洗後、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥およびろ過し、減圧留去した。残渣を、クロロホルムを溶媒とするゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより、標記の化合物1を得た(収量261g、収率82%)。
【0136】
化合物1:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ(ppm)
6.99 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 6.89-6.84 (m, 4H), 6.54 (d, J = 8.3 Hz, 3H), 5.37 (s, 1H), 3.96 (t, J = 6.6 Hz, 6H), 3.67 (s, 9H), 1.85 (m, 6H), 1.705-1.270 (m, 60H).
【0139】
製造例11で製造された化合物1(140mg、0.150mmol)をテトラヒドロフラン5.0mLに溶解させ、水酸化カリウム(84.0mg、1.50mmol)を加え、12時間加熱還流した。反応混合物を室温に冷却し、塩酸(1.0M、10mL)を加え、10分間撹拌した。析出した白色粉末をろ取後、水で洗い、乾燥させることで標記の化合物2を得た(収量30.0mg、収率23%)。
【0140】
化合物2:
1H−NMR(400MHz、DMSO−d
6):δ(ppm)
11.95 (s, 3H), 7.02 (d, J = 7.6 Hz, 3H), 6.89 (t, J = 7.6 Hz, 3H), 6.67(s, 1H), 6.63 (d, J = 7.6 Hz, 3H), 5.53 (s, 1H), 3.92 (t, J = 6.4 Hz, 6H), 2.17 (t, J = 7.5 Hz, 6H), 1.78-1.26 (m, 60H).
【0141】
製造例13
次に示す化合物14の製造
【0143】
製造例3で製造された化合物6(245mg、0.810mmol)をジメチルホルムアミド5.0mLに溶解させ、炭酸カリウム(450mg、3.25mmol)およびN−(12−ブロモドデシル)フタルイミド(1.15g、2.92mmol)を加え、70℃で8時間撹拌した。反応混合物にジエチルエーテル100mLを加え、水洗後、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥およびろ過し、減圧留去した。残渣を、ヘキサン/クロロホルム混合溶媒(2/8,v/v)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで、標記の化合物14を得た(収量855mg、収率87%)。
【0144】
化合物14:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ(ppm)
7.82 (m, 6H), 7.68 (m, 6H), 6.98 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 6.89 (s, 1H), 6.88 (t, J = 8.1 Hz, 3H), 6.53 (d, J = 8.1 Hz, 3H), 5.36 (s, 1H), 3.95 (t, J = 6.4 Hz, 3H), 3.66 (t, J = 7.3 Hz, 3H), 1.8-1.2 (m, 60 H).
【0145】
製造例14
次に示す化合物15の製造
【0147】
製造例13で製造された化合物14(187mg、0.153mmol)をテトラヒドロフラン15.0mLに溶解させ、ヒドラジン一水和物(2.0mL、2.00mmol)を加え、12時間加熱還流した。反応混合物を室温に冷却後、水150mLを加え、析出した固体をろ取した。水洗後、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥およびろ過し、減圧留去した。残渣をジメチルホルムアミド2.0mLに溶解させ再結晶を行うことにより、標記の化合物15を得た(収量100mg、収率76%)。
【0148】
化合物15:
1H−NMR(400MHz、DMSO−d
6):δ(ppm)
7.05 (d, J = 7.6 Hz, 3H), 6.91 (t, 7.6 Hz, 3H), 6.81 (s, 1H), 6.66 (d, J = 7.6 Hz, 3H), 5.53 (s, 1H), 4.00 (t, J = 6.4 Hz, 6H), 2.67 (t, J = 7.5 Hz, 6H), 1.81 (m, 6H), 1.59 (m, 6H), 1.47-1.29 (m, 48H).
【0151】
製造例3で製造された化合物6(100mg、0.331mmol)及び炭酸カリウム(274mg、1.98mmol)に、ジメチルホルムアミド2.0mLを加え撹拌し、さらに1−ブロモドデカン(990mg、3.97mmol)を加え、75℃で8時間加熱撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、ジエチルエーテル300mL及び水を加え、有機層を分離した。有機層を飽和食塩水及び水で洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥した後、溶媒を減圧で留去した。残渣をクロロホルムを溶媒とするサイズ排除クロマトグラフィーに供し、標記の化合物3を白色粉末として得た(収量213mg、収率89%)。
【0152】
化合物3:
1H−NMR(400MHz、アセトン−d
6):δ(ppm)
7.99 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 7.91 (s, 1H), 7.89 (t, J = 7.6 Hz, 3H), 7.55 (d, J = 8.1 Hz, 3H), 3.95 (t, J = 6.4 Hz, 6H), 1.85 (q, J = 7.1 Hz, 6H), 1.60-1.55 (m, 6H), 1.36-1.28 (m, 54H), 0.89 (t, J = 6.8 Hz, 9H).
【0153】
製造例16
次に示す化合物16の製造
【0155】
製造例3で製造された化合物6(100mg、0.331mmol)及び炭酸カリウム(365mg、2.64mmol)に、ジメチルホルムアミド2.0mLを加え撹拌し、さらに11−ブロモドデセン(608mg、2.61mmol)を加え、80℃で12時間加熱撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、ジエチルエーテル200mL及び水を加え、有機層を分離した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄した後、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥した後、溶媒を減圧で留去した。残渣をクロロホルムを溶媒とするサイズ排除クロマトグラフィーに供し、標記の化合物16を白色粉末として得た(収量187mg、収率75%)。
【0156】
化合物16:
1H−NMR(400MHz、アセトン−d
6):δ(ppm)
6.99 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 6.89 (s, 1H), 6.87 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 6.54 (d, J = 7.8 Hz, 3H), 5.37 (s, 1H), 3.96 (t, J = 6.4 Hz, 6H), 2.19 (td, J = 7.1 Hz, J = 2.6 Hz, 6H), 1.94 (t, J = 2.6 Hz, 3H), 1.85 (q, J = 7.0 Hz, 6H), 1.58-1.50 (m, 12H), 1.41 -1.35 (m, 24H).
【0157】
製造例17
次に示す化合物17の製造
【0159】
製造例3で製造された化合物6(160mg、0.221mmol)及び炭酸カリウム(365mg、2.64mmol)に、ジメチルホルムアミド2.0mLを加え撹拌し、さらに11−ブロモドデシン(11-bromododecyne)(555mg、2.61mmol)を加え、80℃で12時間加熱撹拌した。反応混合物を室温に冷却後、ジエチルエーテル200mL及び水を加え、有機層を分離した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄した後、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥した後、溶媒を減圧で留去した。残渣をクロロホルムを溶媒とするサイズ排除クロマトグラフィーに供し、標記の化合物17を白色粉末として得た(収量99.3mg、収率47%)。
【0160】
化合物17:
1H−NMR(300MHz、アセトン−d
6):δ(ppm)
7.00 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 6.90 (s, 1H), 6.87 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 6.55 (d, J = 7.5 Hz, 3H), 5.87-5.75 (m, 3H), 5.04-4.92 (m, 6H), 5.37 (s, 1H), 3.96 (d, J = 6.6 Hz, 6H), 2.08-2.01 (m, 6H), 1.85 (q, J = 6.6 Hz, 6H), 1.65-1.51 (m, 12H), 1.36-1.32 (m, 24H).
【0161】
製造例18
次に示す化合物18の製造
【0163】
製造例16で製造された化合物16(160mg、0.221mmol)、次式
【0165】
で表されるトリフルオロメチル化剤(J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 16410)(316mg、1.00mmol)、及び塩化銅(I)(9.90mg、0.100mmol)に、ジメチルホルムアミド2.0mLを加え、混合物を凍結して脱気し、アルゴン下、70℃で30分加熱撹拌した。反応混合物に水300mLを加え、析出した固体をろ取し、ヘキサン−ジクロロメタン混合溶媒(2:1、v/v)を展開溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィーに供した。得られた白色粉末(119mg)に5%パラジウムカーボン(24mg)、テトラヒドロフラン50mL及びエタノール50mLを加え、水素ガス雰囲気下、室温で12時間撹拌した。反応混合物をセライト濾過し、溶媒を減圧で留去した。残渣をヘキサン−ジクロロメタン混合溶媒(2:1、v/v)を展開溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィーに供することで、標記の化合物18を白色粉末として得た(収量99.3mg、収率47%)。
【0166】
化合物18:
1H−NMR(400MHz、CDCl
3):δ(ppm)
7.00 (d, 3H, J = 7.4 Hz), 6.89 (s, 1H), 6.87 (dd, 3H, J = 7.4, 7.4 Hz), 6.55 (d, 3H J = 7.4 Hz), 5.37 (s, 1H), 3.96 (t, 6H, J = 6.5 Hz), 1.85(m, 6H), 1.61-1.51 (tt, 6H, J = 6.5, 6.5 Hz), 1.43-1.29 (m, 36H).
【実施例1】
【0167】
次に示す反応式による化合物4の製造
【0168】
【化24】
【0169】
(1)化合物A (1,8-dihydroxy-13-methoxytriptycene) の製造
製造例3で製造した化合物6(500mg, 1.65mmol)及び炭酸カリウム(342mg, 2.48mmol)のジメチルホルムアミド(DMF)懸濁液(10.0mL)に対してヨードメタン(351mg, 2.47mmol)を混合し、75℃で12時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、ジエチルエーテル500mLを加え、水300mLで二回、塩化ナトリウム飽和水溶液で一回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後、ろ液を減圧留去した。残渣をクロロホルム/アセトン(7:3, v/v)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、化合物Aを収率48%で白色固体として得た(251mg, 0.792mmol)。
【0170】
化合物A:
IR (KBr, cm
-1): 3382, 3062, 3022, 2961, 2936, 2836, 1597, 1479, 1455, 1381, 1317, 1269, 1159, 1088, 1065, 1020, 974, 943, 861, 791, 755, 729, 594, 570, 469.
1H−NMR(400MHz、acetone−d
6): δ (ppm)
8.30 (s, 2H), 7.05 (d, J = 7.3 Hz, 1H),6.95 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 6.94 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 6.88 (s, 1H), 6.77 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 6.66 (d, J = 7.4 Hz, 1H), 6.55 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 5.48 (s, 1H), 3.83 (s, 3H).
APCI-TOF MS: calcd. for C
21H
16O
3 として、[M]
+: m/z 計算値: 316.11,
実測値: 316.11.
【0171】
(2)化合物4 (1,8-bis(dodecoxy)-13-methoxytriptcene) の製造
化合物A(250mg, 0.788mmol)と炭酸カリウム(653mg, 4.73mmol)のDMF懸濁液(5.0mL)に対し、1−ブロモドデカン(1.18g, 4.73mmol)を混合し、75℃で12時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、ジエチルエーテル500mLを加え、水300mLで二回、塩化ナトリウム飽和水溶液で一回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後、ろ液を減圧留去した。残渣を、クロロホルムを溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、化合物4を収率82%で白色固体として得た(421mg, 0.646mmol)。
【0172】
化合物4:
IR (KBr, cm
-1): 3855, 3435, 2922, 2853, 1598, 1485, 1467, 1439, 1396, 1324, 1283, 1198, 1104, 1065, 855, 787, 731, 642, 607, 593.
1H−NMR(400MHz、CDCl
3): δ (ppm)
7.00 (d, J = 7.1 Hz, 1H), 6.99 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 6.89 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 6.89 (s, 1H), 6.87 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 6.57 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 6.56 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 5.37 (s, 1H), 4.02~3.92 (m, 4H). 3.84 (s, 3H), 1.91-1.79 (m, 4H), 1.65-1.50 (m, 4H), 1.44-1.24 (m, 35H), 0.89 (t, J = 6.8 Hz, 6H).
APCI-TOF MS: calcd. for C
45H
64O
3 として、[M]
+: m/z 計算値: 652.49,
実測値: 652.49.
【0173】
前記した実施例1の方法に準じて、前記の製造例で製造された化合物についても、その2置換体を同様に製造する。
【実施例2】
【0174】
化合物4を用いた蒸着法による膜の製造
通常の真空蒸着装置を用いて、4×10
−4Paの減圧環境下で、シリコン基板を基板温度25℃として、実施例1で製造した化合物4を融点以上の約200℃に加熱して、真空蒸着した。得られた蒸着膜の膜厚は50nmであった。
得られた膜における分子の配向を斜入射X線回折法(GIXD)で測定した結果、d
110の間隔が0.41nmの規則的な配向分子膜であることがわかった。また、d
001の間隔は2.11nmであった。この結果からも配向分子膜におけるトリプチセン骨格の間隔が0.81nmであることがわかった。
前記の方法でシリコン基板上に形成された膜を120℃で60分間アニールした。得られた膜における分子の配向を斜入射X線回折法(GIXD)で測定した結果、d
110の間隔は0.41nmであり、変化は見られなかった。また、d
001の間隔は2.05nmであり、大きな変化は見られなかった。
【実施例3】
【0175】
実施例2と同様の方法で、石英基板、雲母基板、ポリイミド基板、及びPET基板に、実施例1で製造した化合物4を、それぞれ真空蒸着した。得られたそれぞれの膜厚は50nmであった。
得られたそれぞれの膜における分子の配向を、実施例2と同様にGIXDで測定した結果、d
110の間隔が約0.41nmの規則的な配向分子膜であることがわかった。
【0176】
比較例1
化合物3を用いた蒸着法による膜の製造
通常の真空蒸着装置を用いて、4×10
−4Paの減圧環境下で、シリコン基板を基板温度25℃として、製造例15で製造した化合物3を融点以上の約200℃に加熱して、真空蒸着した。得られた蒸着膜の膜厚は50nmであった。
得られた膜における分子の配向を斜入射X線回折法(GIXD)で測定した結果、d
110の間隔が0.41nmの規則的な配向分子膜であることがわかった。また、d
001の間隔は2.13nmであった。この結果からも配向分子膜におけるトリプチセン骨格の間隔が0.81nmであることがわかった。
前記の方法でシリコン基板上に形成された膜を120℃で60分間アニールした。得られた膜における分子の配向を斜入射X線回折法(GIXD)で測定した結果、d
110の間隔は0.40nmであり、d
001の間隔は2.30nmであり、大きな変化が見られた。
【実施例4】
【0177】
実施例1で製造した化合物4を用いたDNTT(ジナフトチエノチオフェン)膜の製造
パリレン(登録商標、パラキシリレン系樹脂)膜の上に、化合物4のトルエン溶液(200μM,50μL)をドロップキャストし、およそ2分子層からなる膜(5nm)を形成した。
これを自然乾燥させ、その上にDNTT(ジナフトチエノチオフェン)を真空蒸着法で約30nmの厚さに形成した。製造されたDNTT(ジナフトチエノチオフェン)の膜を 原子間力顕微鏡(AFM)で測定した写真を
図6に示す。
【0178】
比較例2
化合物4の膜を形成させなかった他は実施例4と同様にして、DNTT膜を形成した。
原子間力顕微鏡(AFM)で測定した写真を
図4に示す。
【0179】
比較例3
化合物4を用いた膜の代わりに、製造例15で製造した化合物3を用いた他は実施例4と同様にして、DNTT膜を形成した。
原子間力顕微鏡(AFM)で測定した写真を
図5に示す。
【実施例5】
【0180】
化合物4をゲート絶縁膜と有機半導体膜との界面修飾に用いた高性能なトランジスタの実施例を以下に示す。
図7に作成したトランジスタの断面構造を示す。トランジスタ構造はボトムゲート、トップコンタクト型である。初めに、基板となるポリイミドフィルム(宇部興産、品番UPILEX75S)上に厚さ20nmで金からなるゲート電極パターンを形成した。その上に厚さ70nmのパリレン(登録商標、パラキシリレン系樹脂)膜を形成してゲート絶縁膜とした。そのさらに上に本発明の化合物4の溶液をドロップキャストし、120℃で1時間アニーリングして、厚さ5nmの多層分子膜を製造した。この化合物4からなる膜の上にDNTT(ジナフトチエノチオフェン)を厚さ30nmでパターン化し、その上に金電極を付けた。
得られたトランジスタの電界効果移動度(モビリティー)は1.5cm
2/Vsであり、スレショルド電圧(V
TH)は−0.2Vであった。
【0181】
比較例4
化合物4の膜を形成させなかった他は実施例5と同様にして、トランジスタを製造した。
得られたトランジスタの電界効果移動度(モビリティー)は0.8cm
2/Vsであり、スレショルド電圧(V
TH)は−0.5Vであった。
【0182】
比較例5
化合物4を用いた膜の代わりに、製造例15で製造した化合物3を用いた他は実施例5と同様にして、トランジスタを製造した。
得られたトランジスタの電界効果移動度(モビリティー)は1.2cm
2/Vsであり、スレショルド電圧(V
TH)は−1.9Vであった。
【0183】
図8は、実施例5と比較例5のトランジスタのDCバイアスストレス耐性を測定した結果である。この測定では、ドレイン-ソース間に−8V、ゲート-ソース間に−8Vの直流電圧を印加した時の電流変化を記録した。
図9は、実施例5のトランジスタの特性を測定したグラフである。この測定では、ドレイン-ソース間に−8V、ゲート-ソース間に0Vから−8Vまでの直流電圧を印加した時の電流変化を記録した。
図9の左側の縦軸はドレイン-ソース電流(I
DS)を示し、右側縦軸はゲート-ソース電流(I
GS)を示し、横軸はゲート-ソース電圧(V
GS)を示す。
【0184】
実施例5と比較例4および比較例5を比較すると、本発明による実施例5のトランジスタの電界効果移動度が高く、スレッショルド電圧が小さく、DCバイアスストレス耐性が高いという、トランジスタの重要な特性がいずれも良好である結果が得られた。