特許第6793953号(P6793953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793953脂溶性抗酸化物質の製造方法および脂溶性抗酸化物質含有組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793953
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】脂溶性抗酸化物質の製造方法および脂溶性抗酸化物質含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20201119BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 36/39 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20201119BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20201119BHJP
   A61K 36/28 20060101ALN20201119BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20201119BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20201119BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
   A61K8/9789ZNA
   A61Q19/02
   A61K36/39
   A61P17/16
   A61P17/18
   A61P39/06
   A61K31/216
   A23L33/105
   !A61K36/28
   !C12Q1/6851 Z
   !C12N15/09 Z
   !C12Q1/06
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-159854(P2017-159854)
(22)【出願日】2017年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-35146(P2018-35146A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-163596(P2016-163596)
(32)【優先日】2016年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505443160
【氏名又は名称】株式会社 サティス製薬
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】柚木 恵太
【審査官】 星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−210976(JP,A)
【文献】 特開2014−019695(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/126252(WO,A1)
【文献】 「焼き芋の話」,JAなめがた甘藷部会連絡会・なめがた農業協同組合,2011年 8月,Ver.5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 36/00−36/9068
A23L 31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サツマイモをキュアリングする工程、および
キュアリングされた前記サツマイモから脂溶性抗酸化物質を抽出する工程
を含む脂溶性抗酸化物質製造方法。
【請求項2】
サツマイモの組織の一部又は全部をコルク化する工程、および
コルク化された前記サツマイモの組織から脂溶性抗酸化物質を抽出する工程
を含む、脂溶性抗酸化物質製造方法。
【請求項3】
前記脂溶性抗酸化物質がヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
サツマイモのキュアリング部位抽出物、あるいはサツマイモのコルク化組織抽出物を含む脂溶性抗酸化物質含有組成物。
【請求項5】
サツマイモの皮部又は果肉部のキュアリング部位抽出物、あるいはサツマイモの皮部又は果肉部のコルク化組織抽出物を含む請求項4に記載の脂溶性抗酸化物質含有組成物。
【請求項6】
さらにオリーブオイルを含む、請求項4又は5に記載の脂溶性抗酸化物質含有組成物。
【請求項7】
医薬品組成物、化粧品組成物、美白組成物、又は食品組成物である、請求項4〜6のいずれかに記載の脂溶性抗酸化物質含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルク化サツマイモ又はコルク化ゴボウの抽出物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康ブームを受け、健康や抗老化のために抗酸化物質を摂取することが広まっている。多くの植物やその加工食品には抗酸化性を有するフェノール化合物が含まれており、このような植物や加工食品、及び含まれるフェノール化合物は人気が高い。ますます多くの抗酸化物質が必要とされている。
【0003】
フェルラ酸、カフェ酸、シナピン酸、クマル酸などのC6−C3骨格を有するフェノール類はヒドロキシ桂皮酸類に分類される。これら天然のフェノール化合物は、抗酸化活性、抗腫瘍活性、抗炎症活性、抗菌活性などといった多彩な生理機能を有しており、健康への影響から多くの研究がなされてきた。とくに高齢化社会においてはアルツハイマー病や癌といった加齢にともなう疾病が社会問題ともなっており、予防医学の観点からの健康食品の進歩も期待されている。とりわけカフェ酸やクロロゲン酸はコーヒーなどで日常的に摂取しており、もっとも身近なポリフェノールと言える。これらのフェノール化合物は配糖体やタンパク質と結合した状態で存在し、細胞壁ポリマーとしても存在する。
【0004】
フェルラ酸やカフェ酸などのアルキル誘導体も植物に存在していることは知られているが、天然物としての安定的な供給源はほとんどなく、生理学的機能も完全に解明されていない。ヒドロキシ桂皮酸は長鎖アルコールと比較的容易にエステル化反応が可能で、様々な鎖長のアルキルエステルが合成され機能評価が行われてきた。例えば、非特許文献1に記載があるように、27種のヒドロキシ桂皮酸誘導体の抗腫瘍活性を5種の癌細胞系を用いて評価したところ、カフェ酸パルミチルエステルはすべての癌細胞系で高い増殖抑制効果を示している。また、非特許文献2においては、4種の遊離型のヒドロキシ桂皮酸に加えて、それぞれの炭素数4、8、16のアルキルエステルを合成し、βアミロイドの凝集抑制効果を評価している。その結果、カテコール構造を有しC16の長鎖アルキル基を有するカフェ酸パルミチルエステルが最も高い活性を示した。
【0005】
また、カフェ酸やフェルラ酸は抗酸化性やチロシナーゼ阻害活性を有することから化粧品として肌の美白や健常化にも効果が期待されるが、ヒドロキシ桂皮酸類は水溶性が高く、角質浸透性とそれにともなう機能発現は限定的である。一方、角質層は脂溶性が高いため、例えばビタミンC誘導体やトラネキサム酸セチルエステルなど元来水溶性成分を脂溶化した成分は経皮吸収性に優れることから高機能成分として化粧品に使われている。同様に、脂溶化されたカフェ酸やフェルラ酸などのヒドロキシ桂皮酸類の長鎖アルキルエステルも化粧品原料として高い効果が期待される。
【0006】
このように、癌やアルツハイマーといった重大疾病の予防効果や、美容素材としても効果が期待されるヒドロキシ桂皮酸類長鎖アルキルエステルであるが、上記の通り、その安定大量供給は非常に難しく、例えば特許文献1(特開2015−105272号公報)において、紫芋焼酎もろみからカフェ酸長鎖アルキルエステルが抽出できることが記載されている程度であって、その他めぼしい技術は見当たらない。また、焼酎もろみはさつまいもを原料とした焼酎蒸留粕であり、焼酎工場で大量に発生するが、その発生時点における水分が95%であり、腐敗もしやすく、原料として利用するためには大規模な固液分離や酸化させないためのマイルドな乾燥工程が必要で多くの労力とコストがかかる。また、そのエキス分には脂肪酸が大量に含まれるだけでなく特有の発酵臭が強く、用途が極めて限定される。
【0007】
ところで、植物、特に表皮には傷害を受けた際の自己修復能力が備わっており、病原菌の侵入やそれに伴う腐敗などから身を守るために細胞壁をコルク化させ水や空気を通しにくくする。特に、サツマイモにおいては、収穫したてのサツマイモを貯蔵庫内で数日間(例えば約4日間)を通して室温又は室温より若干高め(例えば32〜36℃程度)、高湿度(例えば湿度90%〜95%)に保つことによって、サツマイモの皮膚下のコルク層を増加させる処置がしばしば採られる。これはキュアリング処理と呼ばれ、当該処理によりサツマイモの抵抗力が増し長く貯蔵できるようになる。
【0008】
サツマイモを用いた最大の加工食品である干し芋製造においては、冬場の低温乾燥条件で天日乾燥させるため、収穫から数ヶ月間保存する必要があり、保存性を向上させるためにキュアリングの処理が取られる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−105272号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】B. Jayaprakasam, J. Agric. Food Chem., 2006, 54, 5375−5381
【非特許文献2】H. Kondo et al., Biotechnol. Appl. Biochem., Volume 61, Number 4, Pages 401-407, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、抗酸化物質(特にヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物)を簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、サツマイモをキュアリング処理することによって、サツマイモ中で抗酸化物質が産出されることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
サツマイモ又はゴボウをキュアリングする工程を含む、
抗酸化物質製造方法。
項2.
サツマイモ又はゴボウの組織の一部又は全部をコルク化する工程(好ましくは、サツマイモ又はゴボウを〔より好ましくは0.1〜1cm程度の厚さに〕削ぎ取って乾燥させる工程、あるいはサツマイモ又はゴボウを室温且つ高湿度下で数日〜数週間保存する工程)を含む、
抗酸化物質製造方法。
項3.
抗酸化物質がヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物である、項1又は2に記載の方法。
項4.
サツマイモ又はゴボウのキュアリング部位抽出物、あるいは
サツマイモ又はゴボウのコルク化組織抽出物
を含む抗酸化組成物。
項5.
サツマイモ又はゴボウの皮部又は果肉部のキュアリング部位抽出物、あるいは
サツマイモ又はゴボウの皮部又は果肉部のコルク化組織抽出物
を含む項4に記載の抗酸化組成物。
項6.
医薬品組成物、化粧品組成物、又は食品組成物である、項4又は5に記載の抗酸化組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明に包含される抗酸化物質製造方法により、サツマイモ又はゴボウから簡便かつ効率的に抗酸化物質(特にヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物)を製造することができる。また、本発明に包含される抗酸化組成物により、抗酸化効果(例えば、生体内での過酸化脂質の生成や不飽和脂肪酸の酸化変性の予防又は抑制)が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1a】サツマイモ外皮おける健常部位及び傷害部位から抽出した脂質成分を、ケイ酸薄層クロマトグラフィー(TLC)で解析した結果を示す。Aは、DPPH溶液をプレートに噴霧した結果を、Bはプレートを10%硫酸に浸漬して加熱した結果を、それぞれ示す。
図1b】サツマイモ外皮おける健常部位及び傷害部位から抽出した脂質成分の、ラジカル消去活性を検討した結果を示す。
図2a】キュアリングサツマイモ皮部から抽出した脂質成分を、TLCで解析した結果(DPPH溶液噴霧結果)を示す。1.カフェ酸パルミチル10μg; 2.市販サツマイモ未処理; 3.市販サツマイモキュアリング処理。
図2b】キュアリングサツマイモ皮部から抽出した脂質成分の、ラジカル消去活性を検討した結果を示す。
図3a】キュアリング(専用工場手法)サツマイモの皮部と果肉部から抽出した脂質成分を、TLCで解析した結果(DPPH溶液噴霧結果)を示す。1.カフェ酸パルミチル10μg; 2.市販キュアリングサツマイモ皮部; 3.市販キュアリングサツマイモ果肉部。
図3b】キュアリング(専用工場手法)サツマイモの皮部と果肉部から抽出した脂質成分の、ラジカル消去活性を検討した結果を示す。
図4a】キュアリングサツマイモの皮部と果肉部から抽出した脂質成分を、TLCで解析した結果(DPPH溶液噴霧結果)を示す。1.市販キュアリングサツマイモ薄皮; 2.市販キュアリングサツマイモ皮部(果肉付き); 3.コルク化果肉部; 4.コルク化果肉部
図4b】キュアリングサツマイモ又は未処理のサツマイモの果肉部から抽出した脂質成分の、ラジカル消去活性を検討した結果を示す。
図5】オリーブ油又は1,3−ブチレングリコール(1,3−BG)を抽出溶媒として、エキス中に含まれる抗酸化物質の精製検討を行った結果を示す。
図6】種々の植物及びその部位から抽出した脂質サンプルに含まれる抗酸化物質をTLCにより解析した結果を示す。
図7】コルク化処理したサツマイモ果肉部から抽出した脂質サンプルに含まれる抗酸化物質の主成分を検討した結果を示す。
図8】コルク化サツマイモ抽出物被験サンプル単独、オリーブオイル被験サンプル単独、又はコルク化サツマイモ抽出物被験サンプル及びオリーブオイル被験サンプルの組み合わせ、によるラジカル消去活性を測定した結果を示す。
図9】コルク化サツマイモ抽出物のチロシナーゼ活性阻害効果の検討結果を示す。
図10】コルク化サツマイモ抽出物のメラニン生成抑制効果の検討結果を示す。
図11】コルク化サツマイモ抽出物のメラニン関連遺伝子発現抑制効果の検討結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、抗酸化物質製造方法や抗酸化組成物等を包含する。以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0017】
まず、サツマイモを用いる場合について説明する。
【0018】
本発明に係る抗酸化物質製造方法は、サツマイモをキュアリングする工程を含むか、あるいは、サツマイモの組織の一部又は全部をコルク化する工程を含む。
【0019】
サツマイモとしては、特に制限されず、各種のサツマイモを用いることができる。例えば、紅あずま、高系14号、紅こがね、鳴門金時、宮崎紅、五郎島金時、大栄愛娘、紅はるか、クイックスイート、紅天使、シルクスイート、アマアカリ、玉乙女、紅まさり、あいこまち、等が挙げられる。また、紫芋や果肉がオレンジ系のサツマイモも用いることができる。
【0020】
サツマイモのキュアリングは、公知の方法により行うことができる。例えば、サツマイモを、数日間(例えば約1〜10日間、好ましくは2〜8日間、より好ましくは3〜6日間程度)を通して、室温又は室温より若干高め(例えば25〜40℃、好ましくは27〜38℃、より好ましくは32〜36℃程度)、高湿度(例えば湿度85〜100%、好ましくは湿度90%〜95%程度)に保つことにより、行うことができる。なお、当該処理後、放熱させることが好ましい。例えば処理後12〜24時間以内に13℃前後まで放熱させることが好ましい。キュアリング処理により、特に傷口部のコルク層形成が促進される。なお、コルク層が形成されることで感染を防止することができる。また、キュアリング処理により、特定の病原菌を死滅させることもできる。
【0021】
サツマイモ組織の一部又は全部をコルク化する方法としては、例えば組織がサツマイモ表面の傷部周辺である場合には、上記キュアリング処理が好適に例示できる。また、例えば、コルク化したい部位を削ぎ取り、それを乾燥させコルク化させることもできる。コルク化させる部位としては、特に制限はされず、サツマイモの皮部でも果肉部でもよい。当該コルク化のための乾燥は、例えば、上記キュアリング処理と同様の処理で行うこともできるし、あるいはまた、削ぎ取ったサツマイモの組織を、室温(例えば20〜30℃、好ましくは25℃前後)で数日間(2〜10日間程度、好ましくは4〜6日間程度)乾燥させることで行うことができる。乾燥は自然乾燥/日陰乾燥/天日乾燥/送風乾燥のいずれであってもよい。(送風乾燥では、乾燥温度は例えば35℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃である。)
【0022】
サツマイモを削ぎ取る方法としては、特に制限はされず、例えばピーラーを用いて、薄目(例えば0.1〜1cm程度の厚さ)に削ぎ取る方法が好ましく例示できる。また、専用の機械装置を用いて例えばスティック状、ダイス状、あるいはスライス状等にカット処理してもよい。
【0023】
サツマイモ(の組織の一部又は全部)をコルク化させることにより、当該コルク化部位において抗酸化物質が産生される。
【0024】
特に制限はされないが、特に好ましい抗酸化物質が産生され蓄積されたサツマイモ組織として、サツマイモ収穫時にサイズが小さいことにより規格外品とされる小サイズのサツマイモが例示できる。当該サツマイモは比較的細いためキュアリング処理によるコルク化のシグナルが内部に伝わりやすいため、一般的な加工法であるダイス状カットと低温送風乾燥で抗酸化物質を効率よく産生させることができる。またあるいは、干芋製造時におけるサツマイモ皮部も例示できる。干し芋製造においては、天日乾燥する場合は収穫してから冬場まで保存するために、通常、キュアリング処理を行い、冬場になった時点でキュアリング済みサツマイモを蒸煮して(あるいは蒸煮前に)皮を剥き(機械剥きしてよい)、得られた果肉部を用いる。つまり、干し芋製造ではキュアリングされたサツマイモ皮部は不要部である。よって、特に、蒸煮していない当該皮部をそのまま、あるいは天日乾燥等してさらにコルク化を進めて抗酸化物質を産出させるなどして、抗酸化物質を抽出する原料として好ましく用いることができる。
【0025】
サツマイモコルク化部位において産出され蓄積される抗酸化物質としては、主に、ヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物が挙げられる。ヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物は、コルク化していないサツマイモ皮部にわずかながら含まれるものの、サツマイモ果肉部にはほとんど含まれていない一方、キュアリング処理したサツマイモの皮部、およびコルク化させたサツマイモ組織においては、サツマイモ皮部及び果肉部のいずれにおいても、大量に含まれる。
【0026】
ヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物は、ヒドロキシ桂皮酸類のアルキルエステルである。ヒドロキシ桂皮酸類としては、例えばカフェ酸(コーヒー酸)、クロロゲン酸、ジフェルラ酸、クマル酸、フェルラ酸等が挙げられ、中でもカフェ酸、クマル酸、フェルラ酸が好ましい。また、ヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物のアルキル基としては、好ましくは炭素数12〜20(12、13、14、15、16、17、18、19、又は20)のアルキル基、より好ましくは炭素数14〜18のアルキル基である。また、アルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状であり得、より好ましくは直鎖状である。
【0027】
ヒドロキシ桂皮酸類アルキルエステル化合物としては、より具体的には、以下の式(I):
【0028】
【化1】
(式中、Rは炭素数12〜20(12、13、14、15、16、17、18、19、又は20)の直鎖状アルキル基を示し、Rは水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、又はエトキシ基を示す。)で表される化合物が好ましく挙げられる。なお、Rは好ましくは炭素数14〜18の直鎖状アルキル基である。
【0029】
上記の抗酸化物質が産出、蓄積されたサツマイモ部位(より具体的には、サツマイモのキュアリング部位、又はサツマイモのコルク化組織)をそのまま利用してもよいし、あるいは抗酸化物質を抽出して用いることもできる。
【0030】
抽出方法は、上記抗酸化物質が抽出される限り、特に限定はされないが、例えば(好ましくは削ぎ取った)サツマイモコルク化部位を、好ましくは更に細かく破断したうえで、抽出溶媒に数分又は数時間〜48時間程度静置、振とう、又は撹拌して抽出することができる。抽出溶媒としてはエタノール、又は含水エタノールが例示でき、含水エタノールが好ましく、より具体的には90〜99重量%含水エタノールがより好ましく、95〜99重量%含水エタノールがさらに好ましい。あるいはまた、ブチレングリコールやペンチレグリコールなども使用できる。ヘキサンやアセトン、その混合物でも抽出できる。本発明に係る抗酸化物質は脂溶性のものが主であるため、植物油で抽出してもよい。サラダ油、菜種油、コーン油、米油、オリーブ油、紅花油、椿油、アボカド油、マカダミア油など用途に応じて利用できる。超臨界抽出も利用できる。特に制限されないが、抽出溶媒はサツマイモが十分に浸漬する量を用いることが好ましく、例えば3〜5倍量用いることが好ましい。
【0031】
得られた抽出液は、そのまま用いることもできるし、さらにロータリーエバポレーター等によって濃縮乾固することもできる。得られた濃縮乾固物には、上記抗酸化物質が濃縮されており、好ましい。このような抽出液や濃縮乾固物は、サツマイモのキュアリング部位抽出物、又はサツマイモのコルク化組織抽出物の一形態ということができる。本発明は、これらの抽出物も包含する。
【0032】
得られた抽出物は、抗酸化組成物に好ましく利用できる。当該抽出物そのものを抗酸化組成物として用いてもよいし、その他の成分と組み合わせて抗酸化組成物として用いてもよい。本発明は、当該抽出物を含む抗酸化組成物も包含する。
【0033】
該他の成分として、当該抗酸化組成物を用いる分野に応じて適宜公知の成分を選択して用いることもできる。例えば、薬学的又は食品衛生学的に許容される担体を用いることができる。
【0034】
本発明に係る抗酸化組成物は、例えば医薬組成物、化粧品組成物、食品組成物(飲料組成物及び食品添加物組成物を包含する)等として好ましく用いることができる。
【0035】
医薬組成物として用いる場合、他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が例示できる。また、当該医薬組成物の形態も特に制限されず、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、クリーム剤、パップ剤等が例示できる。これらの形態の医薬組成物は、必要に応じて当該他の成分と、上記抽出物を組み合わせて常法により調製することができる。
【0036】
化粧品組成物として用いる場合、他の成分としては、例えば、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が挙げられ、特に化粧品用として許容される媒体、基剤、担体、添加剤や、その他化粧品用として許容される成分、材料が好ましく挙げられる。当該化粧品組成物の形態も特に制限されず、例えば、乳液、化粧水、クリーム、オールインワン、美容オイル、美容液、ファンデーション、パック、日焼け止め、シャンプー、リンス、コンディショナー等が例示できる。これらの形態の化粧品組成物は、必要に応じて当該他の成分と、上記抽出物を組み合わせて常法により調製することができる。
【0037】
食品組成物として用いる場合、他の成分としては、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料が例示できる。また、当該食品組成物の形態も特に制限されず、例えば加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示商品等)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。これらは常法により調製することができる。特に、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示商品等)、又はサプリメントとして、食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、タブレット、キャンディー、グミ、ゼリー、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(飲料パウダー、ドリンク剤等)等の形態で調製することが好ましい。なかでもカプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル)、タブレット、顆粒、錠剤、飲料パウダー、ドリンク剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。なお、食品組成物の中でも食品添加物組成物として用いる場合には、その形態として、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられる。より具体的には、調味料(醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシング等)、フレーク(ふりかけ)、焼き肉のたれ、スパイス、ルーペースト(カレールーペースト等)等が例示できる。これらの形態の食品組成物は、必要に応じて当該他の成分と、上記抽出物を組み合わせて常法により調製することができる。
【0038】
得られた抽出物を、その他成分と組み合わせて抗酸化組成物として用いるにあたり、特に好ましい一実施形態は、その他成分として少なくともオリーブオイルを用いる場合である。このような、当該抽出物とオリーブオイルとを含む抗酸化組成物は、医薬組成物、化粧品組成物、又は食品組成物等として好ましく用いることができる。本明細書において、当該抽出物とオリーブオイルとを含む抗酸化組成物を、特にオリーブオイル含有抗酸化組成物とよぶことがある。
オリーブオイルとしては、特に制限はされないが、抗酸化成分をより多く含有するエクストラバージンオイルがより好ましい。また、オリーブオイルから脂溶性成分を分画した精製画分を用いてもよく、このような画分を得られた抽出物とともに含む抗酸化組成物も、オリーブオイル含有抗酸化組成物(すなわち、当該抽出物とオリーブオイルとを含む抗酸化組成物)に包含される。オリーブオイルの精製は、例えばクロマトグラフィーを用いて行うことができる。より具体的には、例えば、エクストラバージンオリーブオイルをケイ酸カラムクロマトグラフィーを用いて、クロロホルムでトリグリセリドを溶出した後、さらにクロロホルム/メタノール(2:1)とメタノールで溶出し、当該溶出画分をオリーブオイル脂溶性精製画分として用いることができる。
【0039】
オリーブオイル含有抗酸化組成物は、当該抽出物とオリーブオイルとを含むことにより、特に優れた抗酸化効果を奏する。当該抽出物単独での抗酸化効果と、オリーブオイル単独での抗酸化効果とを、単に足し合わせた効果よりも、これら2成分を組み合わせて用いることにより、さらに優れた抗酸化効果(相乗効果)を得ることができる。
【0040】
本発明に係る抗酸化組成物は、上記抗酸化物質を含む。そして、上記抗酸化物質は、活性酸素(特にヒドロキシラジカル)除去に有用であり、活性酸素は生体内での過酸化脂質の生成や不飽和脂肪酸の酸化変性を通じて、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、発ガン、老化(特に皮膚のシミや白内障など)の促進、アルツハイマー病発症等に関わっているといわれていることから、当該抗酸化組成物も活性酸素(特にヒドロキシラジカル)除去に有効であって、生体内での過酸化脂質の生成や不飽和脂肪酸の酸化変性(ひいては前述の各症状)の防止、予防、又は抑制に好ましく用いることができる。また、上記抗酸化物質は脂溶性成分であるため、脂質で構成される細胞膜への浸透性に優れ、また、種々の酵素タンパク質の疎水ポケット(鍵穴)へのリガンド(鍵)として作用し、生体調節機能の正常化にも有用である。
【0041】
より詳細には、当該抗酸化組成物には、抗酸化効果、がん予防効果、抗腫瘍効果、抗腫瘍転移効果、抗炎症効果、抗菌効果、抗ウイルス効果、シクロオキシゲナーゼ−2阻害効果、滋養強壮効果、抗変異原効果、血圧調整効果、高脂血症予防効果、動脈硬化予防効果、肥満予防効果、肝機能保護効果、認知症予防効果、脳血管障害予防効果、脳機能改善・増強効果、アレルギー緩和効果、自己免疫疾患予防効果、抗乾癬効果、歯周病予防効果、美肌効果、美白効果、保湿効果、しわ予防・改善効果、コラーゲン分解阻害効果、エラスチン分解阻害効果、ヒアルロン酸分解阻害効果、乾燥性小じわ予防効果、光老化予防効果、アトピー性皮膚炎予防効果、皮膚がん予防効果等が期待できる。
中でも、当該抗酸化組成物の美白効果は優れており、メラニン生成抑制効果、チロシナーゼ活性阻害効果、メラニン関連遺伝子(例えばTyr、Mitf、Pmel17等)発現抑制効果等を奏する。なお、Tyr(チロシナーゼ)はチロシンからのメラニン生成の律速酵素である。Mitf(Microphthalmia−associated transcription factor)は 色素細胞特異的転写因子でチロシナーゼの転写因子であり、悪性黒色腫の原因遺伝子でもある。Pmel17(プレメラノソーム17)はメラニン色素を合成・貯蔵するメラノソームの構造タンパク質で、メラニン色素はPmel17に沈着する。
【0042】
抗酸化組成物における上記抽出物の含有量は、特に制限されず、適宜設定することができる。例えば、100〜0.001重量%、又は99〜0.1重量%等が例示できる。
【0043】
また、抗酸化組成物の適用対象も特に制限はされず、ヒトのみならずヒト以外の非ヒト哺乳動物であってもよい。例えば、ペット又は家畜、より具体的には、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ等を挙げることができる。また、本発明に係る組成物の生体への適用方法は、経口又は経皮で適用する(つまり、経口組成物又は経皮組成物である)ことが好ましい。また適用量については、適宜設定することができ、例えばサツマイモ1個〜数個をコルク化し、これらから得た抽出物を含む組成物を、一日あたり1回成人に適用することができる。
【0044】
以上のサツマイモを用いる場合の説明は、全て、ゴボウを用いる場合にも当てはまり得る。
【0045】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0047】
サツマイモ皮の傷害部位(コルク化部位)における抗酸化物質の解析
市販のサツマイモ青果の外皮おいて見られた健常部位及び傷害部位から、それぞれ脂質成分を抽出して分析した。サツマイモ皮から健常部2.2gと傷害部2.5gをピーラーで採取し、素早く裁断後、95%エタノール15mLに浸漬し、一晩震盪抽出した。
【0048】
抽出液をろ過(アドバンテックNo.1ろ紙)後、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。以下、このようにして得られる濃縮乾固物をエキスと表記することがある。エキス量は健常部で0.16g(7.3%)、傷害部で0.15g(5.9%)であった。得られたエキスをケイ酸薄層クロマトグラフィー(以下、TLC)にて分析した。展開溶媒はクロロホルム/メタノール/水(90:10:1, v/v/v)を用いた。0.5mMのDPPH溶液をプレートに噴霧したところ、脂溶性成分が展開されるRf値0.5付近に強いラジカル消去活性を有する成分が検出された(図1aのA)。また、この成分は健常部よりも傷害部で多かった。なお、当該TLCプレートを10%硫酸に浸漬して加熱した結果を図1aのBに示す。また、「DPPH」は2,2−diphenyl−1−picrylhydrazylを示す。
【0049】
上記抽出液濃縮乾固物にクロロホルム/メタノール(2:1)9mLを添加し溶解した後に、水2.25mLを添加して撹拌した。遠心分離(3000rpm、5分間、室温)した後、下層を採取してロータリーエバポレーターで濃縮乾固し、それを全脂質とした。全脂質の収量は健常皮部で13.3mg(エキスあたり8.3%)、傷害皮部で15.6mg(エキスあたり10.4%)であった。
【0050】
全脂質をDPPHを用いたラジカル消去活性試験に供した。すなわち、0.1mMのDPPHエタノール溶液を調製し、そこから40μlを96穴マイクロプレートに添加し、コントロールのエタノール160μl添加し、全脂質0.2mg/mlエタノール溶液を50μl、80μl、100μl、又は160μlそれぞれ添加し、さらにエタノールを最終液量200μlになるように添加した。添加後混合し、暗所で30分間静置し、517nmに波長をマイクロプレートリーダー(TECAN SPARK 10M)で測定した。ラジカル消去活性は試料無添加のコントロールの吸光値に対する退色率(%)として求めた。傷害皮では健常皮よりも各濃度において高いラジカル消去活性を示した(図1b)。
【0051】
キュアリングによるサツマイモ皮における抗酸化物質産出の解析
市販のキュアリング処理していないサツマイモ青果(鳴門金時)を試料とした。サツマイモの脂溶性画分の抗酸化性に及ぼすキュアリングの影響を見るため、一部をキュアリング処理した。すなわち、水を張ったメッシュ付きバットの上に水に直接触れないようにサツマイモを載せてラップをし、35℃に設定した恒温機に入れ、5日間静置した。その後、未処理芋とともにピーラーで同じ厚さで皮を剥き、未処理芋で5.2g、キュアリング品で3.4gの皮を得た。それを3倍容の99%エタノールで上記と同様に抽出し、さらに抽出液をろ過(アドバンテックNo.1ろ紙)後、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。未処理芋で0.03g(収率0.57%)、キュアリング品で0.03g(収率0.88%)のエキスを得た。これを9mLのクロロホルム/メタノール(2:1)で溶解した後に、水2.25mLを添加して撹拌した。遠心分離(3000rpm, 5分間,室温)した後、下層を採取してロータリーエバポレーターで濃縮乾固し、それを全脂質とした。全脂質の収量は未処理芋で14.0mg(エキスあたり46.7%)、キュアリング処理品で13.5mg(エキスあたり45.0%)であった。
【0052】
得られた全脂質をTLCにて分析した(図2a)。展開溶媒はクロロホルム/メタノール/水(65:16:2, v/v/v)を用いた。レーン1は上記非特許文献2(H. Kondo et al., Biotechnol. Appl Biochem., Volume 61, Number 4, Pages 401-407, 2014)に基づいて酵素反応により化学的に製造したカフェ酸パルミチル(以下、「CA16」と表記することがある)10μgである。0.5mMのDPPH溶液をプレートに噴霧したところ、キュアリング処理した芋ではCA16と同じRf値に強いラジカル消去活性を有する成分が検出された(以下、当該成分を「CA−Alk」と表記することがある)。実施例1と同様にラジカル消去活性を評価すると(図2b)、キュアリングサツマイモでは未処理のものよりも各濃度において高いラジカル消去活性を示した。
【0053】
キュアリング(専用工場手法)サツマイモの皮部と果肉部の比較
市販のキュアリング処理済みのサツマイモ(紅あずま)を試料とした。当該試料のキュアリングとは、産地の専用工場にて湿度95%、33℃で数日間貯蔵処理を行ったものである。皮部をピーラーで1〜2mm程度の厚さで剥き、7.8gの皮部を得た。果肉部については、ピーラーで5mm程度の厚さで皮をよく剥き、その後、皮のついていない果肉部として50.1gを得た。果肉部は素早く細断し、そのうち8.2gにすぐに抽出溶媒を添加した。それぞれ3倍容の95%エタノールで抽出し、上記と同様の操作を行い、皮部で0.1g(1.3%)、果肉部で0.2g(2.4%)のエキスを調製した。さらに、クロロホルム/メタノール(2:1)を用いて上記と同様に全脂質を調製した。全脂質の収量は、皮部では21.9mg(エキスあたり21.9%)、果肉部では21.2mg(エキスあたり10.6%)であった。
【0054】
得られた全脂質をTLCにて分析した(図3a)。展開溶媒はクロロホルム/メタノール/水(65:16:2, v/v/v)を用いた。0.5mMのDPPH溶液をプレートに噴霧したところ、市販のキュアリングサツマイモでは、CA16と同じRf値およびその近傍に強いラジカル消去活性が認められ、キュアリングすることで青果(キュアリング無し)よりも抗酸化性が上がっていると考えられた。一方、果肉部では非常に弱い活性しか見られなかった。上記と同様にラジカル消去活性を評価すると(図3b)、果肉部の活性は非常に弱く、キュアリングサツマイモ皮部では果肉部よりも各濃度において高いラジカル消去活性を示した。このことから、切断や傷害のないサツマイモであってもキュアリング処理することにより抗酸化性物質を皮部において産出すると考えられた。
【0055】
サツマイモ果肉部のキュアリングによる抗酸化物質産出の検討
市販キュアリングサツマイモから、果肉部がつかないようにピーラーで薄皮を採取した(サンプル1)。また、上記「キュアリング(専用工場手法)サツマイモの皮部と果肉部の比較」での操作と同様に、果肉部が5mm程度つくようにピーラーで厚皮を採取した(サンプル2)。サンプル1と2を採取後2日間室温で放置すると、表面がコルク化したので、さらにサンプルを採取した。サンプル1を採取後の果肉部を数ミリ厚になるようにピーラーで採取した(サンプル3)。サンプル2を採取後の果肉部を数ミリ厚になるようにピーラーで採取した(サンプル4)。サンプル1(2.7g)、サンプル2(4.3g)、サンプル3(7.5g)およびサンプル4(6.2g)を3倍容の99%エタノールで抽出し、上記と同様の操作を行い、サンプル1で0.04g(1.5%)、サンプル2で0.03g(0.7%)、サンプル3で0.21g(2.8%)、サンプル4で0.16g(2.6%)のエキスを調製した。
【0056】
さらに、クロロホルム/メタノール(2:1)を用いて上記と同様に全脂質を調製した。全脂質の収量は、サンプル1で15mg(エキスあたり37.5%)、サンプル2で14mg(エキスあたり46.6%)、サンプル3で30mg(エキスあたり14.2%)、サンプル4で44mg(エキスあたり27.8%)であった。
【0057】
得られた全脂質をTLCにて分析した(図4a)。サンプル1、2、3、及び4を、それぞれ、レーン1、2、3、及び4において展開した。展開溶媒はクロロホルム/メタノール/水(65:16:2, v/v/v)を用いた。0.5mMのDPPH溶液をプレートに噴霧したところ、サンプル1ではCA16の位置に相当するスポットはほとんど見られず(レーン1)、薄皮下の果肉部に多いことが分かった(レーン2)。さらに、上記「キュアリング(専用工場手法)サツマイモの皮部と果肉部の比較」では果肉部での脂溶性抗酸化活性は非常に低かったが、コルク化した果肉部では抗酸化成分が増加することが分かった(レーン3と4)。また、上記と同様にラジカル消去活性を評価すると、未処理の果肉部はほとんど抗酸化性を示さなかったが、コルク化により強い抗酸化活性(ラジカル消去活性)を示すことが分かった(図4b)。なお、図4bにおける未処理果肉部の活性データは図3bにおける果肉部の活性データと同じであり、また図4bにおけるコルク化果肉部のデータはサンプル4を用いて得たデータである。
【0058】
脂溶性抗酸化成分の製剤化のための基剤の検討
サツマイモは果肉の内部までコルク化し抗酸化物質を産出することが分かったので、サツマイモ全体を用いて検討を行った。市販のサツマイモ青果2個(紅あずま、490g)をピーラーで皮を剥き、1時間放置した後、果肉部を包丁で3〜5mm厚程度にスライスした。重ならないように5日間約25℃で静置した。サツマイモは徐々にコルク化しながら乾燥し、果肉部で185g、皮部で14gが得られた。ミルサーで粉砕後、果肉部と皮部にそれぞれ99%エタノールを740mLと57mL添加し、抽出を行い、濃縮乾固した。得られた抽出物重量は果肉部と皮部でそれぞれ2.5g(1.35%)と0.26g(1.80%)であった。果肉部抽出物はさらに99%エタノール125mLに溶解して自然ろ過(アドバンテックNo.1)し、濃縮乾固後、1.67gのエキスが得られ、それをエタノール33mlに溶解した(定量用サンプル)。そこから一部を100mLナスフラスコ2個にそれぞれ分取し、濃縮乾固した。得られたエキスの重量は0.32gと0.35gであった。皮部抽出物0.26gは99%エタノール13mLを添加して同様にろ過・濃縮乾固した。得られたエキスの重量は0.22gであった。
【0059】
エキス中に含まれる脂溶性抗酸化成分の製剤化を検討するために、オリーブ油と1,3−ブチレングリコール(1,3−BG)への溶解性試験を行った。果肉エキス0.32gにオリーブオイル2.16gを、皮エキス0.22gにオリーブオイル1.46gを添加した。また、果肉エキス0.35gには1,3−BGを2.34g添加した。すべて60℃に保温しながら撹拌した。果肉エキスはでんぷん質を含み溶液中での分散性が悪いため、エタノール2mLを添加して全体を溶解した。その後、ロータリーエバポレーターでエタノールを完全に留去した。各サンプルを試験管に移し、室温に戻してから遠心分離(5000rpm、15分間、25℃)し、液層を丁寧に回収した。沈殿物はTLC分析のためにエタノール0.5mLを添加してよく撹拌し、液部を回収した。
各サンプルをTLC分析(展開溶媒はクロロホルム/メタノール/水(90:10:1, v/v/v))に供し上記と同様にして脂溶性抗酸化成分を検出した。0.5mM DPPH溶液噴霧結果を図5に示す。図5における各レーンで展開したサンプルは、次の通りである。
1. コルク化皮エキス−オリーブオイル抽出
2. コルク化果肉エキス−オリーブオイル抽出
3. コルク化果肉エキス−BG抽出(BG濃縮除去エタノール溶液)
4. 1の遠心沈殿物エタノール溶液
5. 2の遠心沈殿物エタノール溶液
6. 3の遠心沈殿物エタノール溶液
【0060】
コルク化果肉エキスに含まれていたCA−Alkは、オリーブオイルの沈殿部(レーン5)には検出されず、すべてオイル中に回収されていた(レーン2)。しかし、TLC上のRf値0〜0.15付近の高極性抗酸化成分の一部は沈殿部で検出された。一方、1,3−BG抽出では液部にもCA−Alkが検出されたが(レーン3)、沈殿部にも多くのCA−Alkが検出され、さらに低極性成分も含まれていた(レーン6)。
【0061】
サツマイモをコルク化処理したエキス(上記、定量用サンプル)中のCA−AlkをTLCデンシトメトリー法により定量すると2.7%であった。
【0062】
他の植物との比較
メロンの表面のコルク化組織を採取した。ジャガイモは1cm角に細切りし、5日間自然乾燥させコルク化させた。他にジャガイモ表面に包丁で傷をつけ、日光にあたるように5日間自然乾燥させた。その後、傷をつけたジャガイモは皮部、皮直下の果肉部、果肉部に分けた。ゴボウはピーラーで皮を剥き皮部と果肉部に分け、粗く切った後すぐに加熱真空乾燥してコントロールとした。そのまま3cmほどの長さに切断したもの、およびピーラーで皮と果肉部(3cmほど)に分けたものをそれぞれ4日間室温に放置しコルク化させた。これらの試料をすべて真空乾燥処理した後、粉砕して99%エタノールで抽出した。上記と同様に全脂質を調製しTLCで分析した(図6)。メロンや、コルク化したジャガイモと傷ジャガイモ皮直下には図6のBで示されるように抗酸化成分がわずかに検出されるのみで、サツマイモで見られるCA−Alkに相当するスポットは検出されなかった。ゴボウの果肉部ではCA−Alkよりも低極性であるが、未処理の果肉部にはない抗酸化成分がコルク化ゴボウに複数含まれていた(図6のC)。
【0063】
脂溶性抗酸化成分の構造解析
展開溶媒としてヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70:30:1、v/v/v)を用いてTLCで脂溶性抗酸化成分(コルク化処理したサツマイモ果肉部から抽出したもの)を分離し(図7のA;右側がDPPH溶液噴霧処理、左側が10%硫酸浸漬加熱処理)、さらにLC−MSおよびGC−MSで分析した。分析条件は次の通りである。
装置:島津 Prominence−i LC−2030C、検出器:島津LCMS−2020 ESI、スキャンモード m/z 150−600、ネガティブイオンモード、インターフェイス温度:350℃、ネブライザー流量1.5L/min、ヒートブロック温度:200℃、A液:5mMギ酸アンモニウム/メタノール、B液:5mMギ酸アンモニウム、アイソクラティック条件 (A/B=98:2)、フローインジェクション、流速:0.2ml/min。
【0064】
LC−MS解析により、CA−Alkに相当するスポットXからは主に2つのピークが検出され、M−1のイオンとして403と431であった(図7のB)。
【0065】
TLCにおけるスポットXをトリメチルシリルエーテル誘導体化してGC−MS(装置:島津QP2010、カラム:ULBON HR−1)にて分析した。LC−MSの結果と同様に主に2つのピークが検出され、そのうち分子量548のマススペクトルの結果を図7のCに示す。マススペクトルの解析の結果から、カフェ酸パルミチルエステルのトリメチルシリル誘導体であることが分かった。これらの結果から、スポットXには、分子量404のカフェ酸パルミチルと分子量432のカフェ酸ステアリルが多く含まれることが分かった。
【0066】
同様に解析した結果、スポットYからはフェルラ酸アルキルが、スポットZからはクマル酸アルキルが検出された(図7のD)。
【0067】
以上のことから、スポットXの主成分はカフェ酸誘導体であり、スポットYの主成分はフェルラ酸誘導体であり、スポットZの主成分はクマル酸誘導体であると考えられた。
【0068】
コルク化サツマイモ抽出物とオリーブオイルとの組み合わせによる効果の検討
キュアリング処理(33℃、湿度95%、100時間)したサツマイモを水で洗浄後、約1cm角のダイス状にカットし40℃で送風乾燥した。乾燥イモを粉砕機で粉砕後、5倍容の95%エタノールで抽出した。吸引ろ過により固液分離した液部を濃縮し、エキスを得た。エキスはクロロホルム/メタノール/水(8:4:3)の比率で2層分配し、下層を濃縮乾固後、全脂質とした。本全脂質をTLC−デンシトメトリー法で定量したところ、CA−Alkは4%含まれていた。全脂質を5mg/mlエタノール溶液として調製し、ここから脂質として150μgをとり、コルク化サツマイモ抽出物被験サンプルとした。
また、市販オリーブオイルをケイ酸カラムクロマトグラフィーで分画して得たオリーブオイル精製画分を秤量し、5mg/mlになるようにエタノールに溶解し、そこから25μgをとり、これをオリーブオイル被験サンプルとした。
なお、市販オリーブオイルの分画は、次のようにして行った。ケイ酸カラムクロマトグラフィーにオリーブオイル2gを供し、クロロホルムで油脂を溶出した後、さらにクロロ
ホルム/メタノール(2:1)とメタノールで溶出して、当該溶出画分をオリーブオイル精製画分とした。
【0069】
コルク化サツマイモ抽出物被験サンプル単独(図8では「CA−Alk」)、オリーブオイル被験サンプル単独(図8では「Olv」)、又はコルク化サツマイモ抽出物被験サンプル及びオリーブオイル被験サンプルの組み合わせ(図8では「Olv+CA−Alk」)、を上記と同様にしてDPPHを用いたラジカル消去活性試験に供し、それぞれのラジカル消去活性を測定した。結果を図8に示す。ラジカル消去活性は、コルク化サツマイモ抽出物被験サンプル単独では13.5%、オリーブオイル被験サンプル単独では4.7%であった。図8の左側グラフは、これらのラジカル消去活性を単純に足し合わせた結果を示す。一方、コルク化サツマイモ抽出物被験サンプル及びオリーブオイル被験サンプルの組み合わせでは28.2%であった。図8の右グラフは、この組み合わせのラジカル消去活性を示す。このことから、コルク化サツマイモ抽出物とオリーブオイルとを組み合わせることにより、それぞれ単独で用いる場合に比べて、抗酸化効果が著しく向上することがわかった。
【0070】
コルク化サツマイモ抽出物のメラニン生成抑制効果の検討
マウスB16メラノーマ細胞(以下「B16細胞」)を用いて、コルク化サツマイモ抽出物のチロシナーゼ活性阻害効果、メラニン生成抑制効果、及びメラニン関連遺伝子発現抑制効果、について、次のようにして検討した。なお、以下の各検討で用いた400μg/mL CA−Alk溶液は、全脂質エタノール溶液から10mg(4%のCA−Alkを含有)を取り、窒素乾固後に1mLのDMSOに溶解して調製したものである。
【0071】
<チロシナーゼ活性阻害効果の検討>
96ウェルプレートにB16細胞を1.0×10cells/well播種し、24時間培養した。
DMSOにより400μg/mL CA−Alk溶液を公比2で連続希釈し、計3濃度調製した(100、200、又は400μg/mL)。10ng/mL αMSH(α-メラノサイト刺激ホルモン)含有DMEMにより上記CA−Alk溶液を200倍希釈した(0.5、1、又は2μg/mL)。陰性対照にはDMSO、比較対照にはメラニン色素生成抑制効果を有する美白成分として知られるβアルブチンを使用した(0.5、1、又は2μg/mL)。
24時間後、PBSにより96ウェルプレートを洗浄し、上記のようにして調製したαMSHおよび被験物質含有DMEMを加え72時間培養した。72時間後、0.5%TritonX−100および10mM L−DOPA溶液を添加し、L−DOPA添加直後の475nmの吸光度(OD475)および37℃、60分間反応させた後のOD475からチロシナーゼ活性(αMSH添加無し陰性対照を100としたときの相対値)を測定した。
結果を図9に示す。図9中、*はαMSH添加無し陰性対照と比べて有意(p<0.05)であることを、**はαMSH添加無し陰性対照と比べて有意(p<0.01)であることを、それぞれ示す。
【0072】
<メラニン生成抑制効果の検討>
6ウェルプレートにB16細胞を1.0×10cells/well播種し、24時間培養した。
DMSOにより400μg/mL CA−Alk溶液を公比2で連続希釈し、計3濃度調製した(100、200、又は400μg/mL)。10ng/mL αMSH含有DMEMにより上記リポフェノール溶液を200倍希釈した(0.5、1、又は2μg/mL)。陰性対照にはDMSO、比較品にβアルブチン(2μg/mL)を使用した。
24時間後、PBSにより6ウェルプレートを洗浄し、上記のようにして調製したαMSHおよび被験物質含有DMEMを加え72時間培養した。72時間後、PBSにより6ウェルプレートを洗浄し、トリプシンにより細胞をはがして細胞数を測定した。具体的には、10cellsあたり100μLの2M NaOHを加え、60℃、3分間加熱してメラニンを可溶化し、このようにして得られた50μLの可溶化メラニンを150μL PBSに溶解し、マイクロプレートリーダーにより500nmの吸光度を測定した。また、可溶化メラニンの画像を撮影した。結果を図10に示す。
【0073】
<メラニン関連遺伝子発現抑制効果の検討>
35mmデッシュにB16細胞を1.5×10cells/dish播種し、24時間培養した。
DMSOにより400μg/mL CA−Alk溶液を希釈し、100μg/mLに調製した。10ng/mL αMSH含有DMEMにより上記CA−Alk溶液を200倍希釈した(0.5μg/mL)。陰性対照にはDMSO、比較品にβアルブチンを使用した。
24時間後、PBSにより30mmディッシュを洗浄し、上記のようにして調製したαMSHおよび被験物質含有DMEMを加え48時間培養した。48時間後、PBSにより30mmディッシュを洗浄し、B16細胞からRNA抽出しcDNAを合成した。合成したcDNAを用いてRT−qPCRを行い、各遺伝子の発現状況を測定した。なお、測定した遺伝子はTyr、Mitf、Pmel17である。また、RT−qPCRは、キット:InvitrogenTM Custom DNA Oligos(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて行った。当該キットにおける各遺伝子検出用のプライマーの塩基配列は次の通りであった。
Tyr(foward: CCAGAAGCCAATGCACCTAT, reverse: ATAACAGCTCCCACCAGTGC)
Mitf (foward: CTAGAGCGCATGGACTTTCC, reverse: AAGTTGGAGCCCATCTTCCT)
Pmel17 (foward: TTGTTGTTGCTGGTCAAGACG, reverse: GAAACTGAGCCCTGCTTCTTA)
Gapdh (foward: AGGTCGGTGTGAACGGATTTG, reverse:TGTAGACCATGTAGTTGAGGTCA)
(Gapdhはコントロールとして使用した。)
結果を図11に示す。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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