特許第6793962号(P6793962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793962
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】海底貯蔵庫
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/00 20060101AFI20201119BHJP
   C12H 1/22 20060101ALI20201119BHJP
   A01K 61/50 20170101ALI20201119BHJP
   B65G 1/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   A23L3/00 101Z
   C12H1/22
   A01K61/50
   B65G1/00 551A
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-51679(P2018-51679)
(22)【出願日】2018年3月19日
(65)【公開番号】特開2019-162063(P2019-162063A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2020年7月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518044192
【氏名又は名称】大西 新祐
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大西 新祐
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−084940(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02921934(FR,A1)
【文献】 特開平05−153954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L3/00−3/3598,
B65D85/50−85/84,B65G1/00−1/20,
C12C1/00−13/10,C12F3/00−5/00,
C12H1/00−3/04,C12J1/00−1/10,
C12L3/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中地面に設置される水中貯蔵庫であって、該水中貯蔵庫の側面に流水取込口を有し、
前記流水取込口に、2以上の遮蔽壁材が同一方向に並行して横架されており、該遮蔽壁材の間隙より流水を取り込むようになされており、
前記遮蔽壁材が、その長さ方向の線分を傾斜軸として、前記流水取込口の開口面に対して傾斜しており、
前記遮蔽壁材の傾斜角度が、前記傾斜軸を回転軸として調節自在であることを特徴とする、水中貯蔵庫。
【請求項2】
前記遮蔽壁材の傾斜角度を調節することにより、遮蔽壁材間の間隙を開閉することができる、請求項に記載の水中貯蔵庫。
【請求項3】
水中地面に設置される水中貯蔵庫であって、該水中貯蔵庫の側面に流水取込口を有し、
前記水中貯蔵庫の側面又は天井に開閉自在な扉が設けられており、
空気袋を備え、空気が充填された該空気袋を前記扉に係止することにより、該空気袋の浮力により前記扉の開閉の補助が可能であることを特徴とする水中貯蔵庫。
【請求項4】
水中地面に設置される水中貯蔵庫であって、該水中貯蔵庫の側面に流水取込口を有し、
流水取込口より上方に位置する側壁及び天井により、下方開放かつ側方上方密閉の内部空間が画成されていることを特徴とする水中貯蔵庫。
【請求項5】
2以上の流水取込口を備えることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の水中貯蔵庫。
【請求項6】
側面に開閉自在な扉が設けられていることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の水中貯蔵庫。
【請求項7】
前記水中貯蔵庫の天井に開閉自在な扉が設けられていることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の水中貯蔵庫。
【請求項8】
内側底面部にスライドレールを備えることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の水中貯蔵庫。
【請求項9】
アンカーを備えることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の水中貯蔵庫。
【請求項10】
請求項1〜の何れか一項に記載の水中貯蔵庫に、食品組成物を貯蔵することを特徴とする、食品組成物の貯蔵方法。
【請求項11】
請求項1〜の何れか一項に記載の水中貯蔵庫内で水生生物を育成することを特徴とする、水生生物の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底での食品組成物の貯蔵に用いられる水中貯蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
海底などの水中に食品組成物を貯蔵して熟成を促進する技術が知られている(特許文献1〜3)。水流を受けた食品組成物内部に加わる振動等の作用により、地上において熟成された場合に比べ有利な作用が得られるとされている。
【0003】
例えば、長期熟成を要する酒類にこのような技術を用いることで、熟成期間を短縮するとともに風味を向上させ、製品にブランド価値を付加することができる。特許文献2には、酒類が封入された貯蔵容器が海底の潮流にさらされて緩やかに攪拌され、熟成が促進される効果が得られることが開示されている。
【0004】
ところで、貝類や海藻類の養殖は垂下法やロープ養殖法といった方法が用いられるのが一般的であるが、特許文献4に開示されているように、養殖ユニットを用いた方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−153252号公報
【特許文献2】特開平10−84940号公報
【特許文献3】特開平5−153954号公報
【特許文献4】特開2000−125690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2には、酒類の貯蔵庫として通水性の筐体等が使用されているが、その構造から、貯蔵庫内部へ流入する海水量の調整や、水流の浸入速度の制御は困難である。そのため、強い潮流が加わると、貯蔵されている酒類容器等が互いに衝突し、破損する恐れがある。
【0007】
また、貯蔵物が収納された収容体の搬出入を行う際、特に海底において浮力の影響を受けながらダイバーが人為的に作業を行う場合、収容体の重量の多寡によっては作業が難航する。
【0008】
さらに、特許文献4に記載の方法は、潮流が強い海域では、養殖している貝類や海藻類などの水生生物が流されたり、ダメージを受けたりする問題がある。
【0009】
本発明はこのような問題を解決し、強い流れから食品組成物を保護しつつも、適切な振動を伝えて熟成を促進することを可能にする技術を提供とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、水中地面に設置される水中貯蔵庫であって、該水中貯蔵庫の側面に流水取込口を有することを特徴とする水中貯蔵庫である。
本発明の水中貯蔵庫によれば、貯蔵対象物に当たる水流を流水取込口から流入するものに限定することができ、貯蔵対象物を強い流れから保護しつつも、適切な振動を伝えることができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記流水取込口に、2以上の遮蔽壁材が同一方向に並行して横架されており、該遮蔽壁材の間隙より流水を取り込むようになされている。
流水取込口に設けられた遮蔽壁材が流入する水量を制御し、貯蔵対象物に直接強い水流が加わることを防ぎ、破損や流出の問題を解決することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記遮蔽壁材が、その長さ方向の線分を傾斜軸として、前記流水取込口の開口面に対して傾斜している。
このように遮蔽壁材を傾斜させることにより、遮蔽壁材が受ける水圧を傾斜方向に逃すことができるため、流水取込口の開口面に対して鉛直に遮蔽壁材が設けられた場合と比べ、耐久性に優れる。また、傾斜して設けられた遮蔽壁材が水流の浸入速度を制限することで、貯蔵対象物に伝わる振動を適度に制御することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記遮蔽壁材の傾斜角度が、前記傾斜軸を回転軸として調節自在である。
遮蔽壁材の傾斜角度を調節自在とすることにより、状況に応じて水中貯蔵庫内に流入する水量及びその流入速度を調整することができ、貯蔵対象物に与える振動の程度を適宜調節することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記遮蔽壁材の傾斜角度を調節することにより、遮蔽壁材間の間隙を開閉することができる。
これにより、例えば悪天候に伴う時化等、潮流が荒れることが予想される場合、予め遮蔽壁材間の間隙を閉鎖し、貯蔵対象物を保護することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、2以上の流水取込口を備える。
これにより、水中貯蔵庫内における水流の流れを構築し、より効果的に貯蔵対象物に振動を与えることができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、側面に開閉自在な扉が設けられている。
側面に扉を設けることにより、貯蔵対象物を側方から容易に搬出入することができる。
【0017】
また、本発明の好ましい形態では、前記水中貯蔵庫の天井に開閉自在な扉が設けられている。
天井に扉を設けることで、中心部に配置された収容体の搬出入を上方から容易に行うことができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、空気袋を備え、空気が充填された該空気袋を前記扉に係止することにより、該空気袋の浮力により前記扉の開閉の補助が可能である。
空気袋の浮力を利用することで、水中貯蔵庫の扉の開閉を補助することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、内側底面部にスライドレールを備える。
貯蔵対象物をスライドレール上で移動させることにより、搬出入時の負担を軽減し、かつ作業を効率的に実施することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、アンカーを備える。
アンカーを備える水中貯蔵庫は、空荷ないし貯蔵量の少ない時にも安定して自立することができる。また、潮流が不安定な状況下でも食品組成物の保存容器等の破損を防止することができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、側面に前記流水取込口が設けられており、該流水取込口より上方に位置する側壁及び天井により、下方開放かつ側方上方密閉の内部空間が画成されている。
このような内部空間を画成することにより、水中貯蔵庫を水中地面に設置した状態で、水中貯蔵庫の内部に空気を貯蔵させることができ、擬似的な鍾乳洞空間を構成することができる。
【0022】
本発明は、上述した水中貯蔵庫に、食品組成物を貯蔵することを特徴とする、食品組成物の貯蔵方法にも関する。
【0023】
また、本発明は、上述した水中貯蔵庫内で水生生物を育成することを特徴とする、水生生物の養殖方法にも関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、強い流れから食品組成物の保存容器等を保護しつつも、食品組成物に適切な振動を伝えることが可能な水中貯蔵庫を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】遮蔽壁材を開いた状態の水中貯蔵庫の斜視図である。
図2】遮蔽壁材を閉じた状態の水中貯蔵庫の斜視図である。
図3】遮蔽壁材の傾斜角度の調節を表す側面図である。(a)水中貯蔵庫の外側に遮蔽壁材が突出して設けられた遮蔽壁。(b)水中貯蔵庫の内外を跨いで遮蔽壁材が設けられた遮蔽壁。
図4】(a)扉を閉じた状態の水中貯蔵庫の平面図である。(b)扉を開いた状態の水中貯蔵庫の平面図である。
図5】水中貯蔵庫の天井及び側面の扉が開いた状態を表す斜視図である。
図6】鍾乳洞熟成時の水中貯蔵庫内部を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明を加えるが、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されない。
【0027】
実施例の水中貯蔵庫1について図1〜5を参照しながら説明する。
実施例の水中貯蔵庫1は、矩形箱型の水中貯蔵庫である。四面ある側壁の二面は非通水性の遮蔽壁5により構成され、残りの二面の側壁に流水取込口3が設けられている。この構造により、流水取込口3より流入した限定された水流のみが収容体4に当たることとなる。
【0028】
流水取込口3には4枚の遮蔽壁材2が同一方向に並行して横架されている(図1)。つまり、遮蔽壁材2が流水取込口3の開口を横断するように設けられており、ブラインドのスラット様の外形をなしている。
流水取込口3に遮蔽壁材2が横架されていることにより、流水取込口3から水中貯蔵庫1の内部に流入する水流の量や速さが制限され。内部の収容体4に伝わる振動の強さが調整される。
【0029】
なお、流水取込口3に横架される遮蔽壁材2の数は図示した4枚に限定されず、2枚以上であればよく、好ましくは3枚以上、より好ましくは4枚以上である。
また、図面には遮蔽壁材2が流水取込口3に等間隔で並設された形態を示したが、等間隔でなくとも構わない。
【0030】
遮蔽壁材2は、その長さ方向に渡る線分を傾斜軸21として、流水取込口3の開口面に対して傾斜している(図3(a)左、(b)左)。これにより、流水取込口3から水中貯蔵庫1の内部に流入する水流を遮蔽壁材2の傾斜方向に逃すことができ、その勢いを減弱することができる。
【0031】
遮蔽壁材2は、傾斜軸21を回転軸として回転可能に設けられている。これにより、遮蔽壁材2の傾斜角度を自在に調整することができ、水中貯蔵庫1の内部に流入する水流の強さや量を調節することができる。
【0032】
遮蔽壁材2は、傾斜軸21の両端を流水取込口3の開口端部との接続部として、流水取込口3に横架されている。また、図示するように、それぞれの遮蔽壁材2の傾斜軸21の間隔は、遮蔽壁材2の幅方向の長さよりも短い形態(図3)とするか、遮蔽壁材2の幅方向の長さと同一の形態とすることが好ましい。
このような形態とすれば、遮蔽壁材2の傾斜角度を流水取込口3の開口面に対して0°に近づけたときに、流水取込口3を遮蔽壁材2の間隙を閉じることができる(図3(a)左、(b)左)。つまり、天候などの影響により極めて激しい水流が水中に生じることが予想される場合には、予め流水取込口3を閉鎖することが可能となる。
【0033】
遮蔽壁材2は、傾斜軸21を端部として水中貯蔵庫1の外部に向かって突出するように設けてもよいし(図3(a))、傾斜軸21を端部として水中貯蔵庫1の内外両方向に向かって突出するように設けても良い(図3(b))。
【0034】
遮蔽壁材2の形状は図示した長方形に限定されず、適宜設計することができ、楕円形などでも良い。
【0035】
水中貯蔵庫1における流水取込口3の位置を適宜変更できるような実施の形態とすることも好ましい。具体的には、水中貯蔵庫1の側面を取り外し可能なユニットにより構成する。このユニットには、遮蔽壁5を構成する壁面パネルユニットと、流水取込口3を構成する枠体に遮蔽壁材2が横架された流水取込口パネルユニットが含まれる。
水中貯蔵庫1の側面におけるこれらのユニットの配置を変更することにより、水中における流水の状況等に応じて食品組成物等の貯蔵環境を最適化することができる。
【0036】
図示するように、流水取込口3は、水中貯蔵庫1の対向する側面に一対に設けることが好ましい(図1、2)。これにより、一方の流水取込口3から流入した水流が、水中貯蔵庫1の内部全体を通過して、他方の流水取込口3から抜けるように構成することができ、貯蔵対象物に効率的に振動を加えることができる。
なお、水中貯蔵庫1に設ける流水取込口3の数は特に限定されず、1つであっても良いし、2以上設けても良い。
【0037】
また、図示は省略するが、流水取込口3は、水中貯蔵庫の上面に設けてもよい。
このような構成とすることで、水中貯蔵庫1内部の下方に載置した食品組成物等と上方に載置した食品組成物等に当たる水流の強さに差をつけることができる。
【0038】
これにより、上部に載置した食品組成物等には水流による振動熟成を促し、下方に載置した食品組成物等には水流による振動ではなく、水中に伝搬する音波による緩やかな熟成を促すことができる。
下部に載置した食品組成物等に水流による強い振動を与えないために、水中貯蔵庫1の底に振動を抑制または吸収する素材のマットを敷いたり、食品組成物等が収容された収容体4の側面をパネルで囲み、海流が収容体4に直接当たらない構造としたりしてもよい。
【0039】
図示はしないが、水中貯蔵庫1に排水機構を設けることが好ましい。排水機構は、水中貯蔵庫1の底面や側面下部に排水口を設けたり、底面や側面下部の全部又は一部を網目構造としたりすることで実現できる。
【0040】
遮蔽壁材2の材質は特に限定されない。剛性体であっても可撓性体であってもよいが、耐久性を高める観点では、遮蔽壁材2は剛性の素材で構成することが好ましい。
剛性の素材としては、アルミニウムや鉄などを例示することができる。
【0041】
図4は、水中貯蔵庫1の上面に設けられた扉6の開閉状態を表す(図4(a)、(b))。扉6の表面に企業名等の広告を付すことで、閉じられた状態の扉6を広告板として使用することができる(図4(a))。
【0042】
また、水中貯蔵庫1の内側底面部にはスライドレール7が設けられている(図1、2、4(b)、5)。スライドレール7の形状は特に限定されない。
【0043】
収容体4の搬出入を陸上又は水中問わず容易にするため、スライドレール7自体に車輪、球体、円筒状ローラーなどの回転体を設けてもよいし、収容体4にこれらの回転体を設けてもよい。
【0044】
水中貯蔵庫1の上面に設けられた扉6は、ヒンジ61を軸として両側に開く(図4(b)、図5)。図5に示すように、扉6の開閉が、空気を充填した空気袋8の浮力による補助を受けることができるような構成とすることが好ましい。空気袋8が初めから空気が充填された状態で扉6に予め係止されていてもよいし、扉6を開閉するときに別途用意した空気袋8を扉6に係止する構成としてもよい。
【0045】
また、扉6は水中貯蔵庫1の側面に設けてもよい。これにより上述したスライドレール7による収容体4の搬入出を容易に行うことができる。
特に水中貯蔵庫1の側面に配置された流水取込口3が、遮蔽壁材2が横架された枠体により構成される場合には、この枠体を開閉自在な扉とすることもできる(図5)。
【0046】
なお、水中貯蔵庫1の上面の扉6から収容体4を取り出す際に、空気が充填された空気袋8を収容体4に係止し、その浮力を利用して収容体4を浮上させる構成としてもよい。
【0047】
水中貯蔵庫1の内部に収容した内容物の盗難を防ぐために、遮蔽壁5及び扉6には鍵を設けることが好ましい。
【0048】
海底における潮流が乱れた状況下でも水中貯蔵庫1の安定した自立性を確保するため、水中貯蔵庫1にアンカー9を設けることが好ましい(図1、2、5)。特に、浅瀬の海底に水中貯蔵庫1を設置する場合、強いうねりを伴う波浪対策として、アンカー9は有用である。
【0049】
アンカー9の形態及び素材は特に限定されない。水中貯蔵庫1と直接に溶着することが可能な形状及び素材により構成してもよいし、図1等に示すように、水中貯蔵庫1の上面からロープなどにより海底に固定する構成としてもよい。
【0050】
擬似的な鍾乳洞空間を構成することができる実施の形態としてもよい(図6)。具体的には、水中貯蔵庫1の側面に流水取込口3を設け、この流水取込口3より上方に位置する側壁及び天井により、下方開放かつ側方上方密閉の内部空間を画成する(図6)。このような実施形態の水中貯蔵庫1は、水中に沈めたときに、内部に空気層10を形成することができる。この空気層10は水圧の影響により大気圧に比して高圧な気圧環境となる。
このような環境下で食品組成物等を貯蔵することで、鍾乳洞に疑似した貯蔵条件での貯蔵・熟成が可能となる。
【0051】
水中貯蔵庫1の内部に載置台11を設ける。この載置台11の上に食品組成物又はこれが収容された瓶等の収容体を載置すれば、高圧かつ低温な空気層10、すなわち鍾乳洞に疑似した環境下で食品組成物を熟成することができる。
載置台11の高さは、載置台11に載置した食品組成物等が空気層10に曝露するように、水中貯蔵庫1を設置する水深と流水取込口3の上端の高さ位置を考慮し、適宜設計することができる。
【0052】
このような実施形態とする場合、流水取込口3は、十分な空気層の確保等の観点から、少なくとも側面の中間より下側に設けることが好ましい。
【0053】
また、図6には示さないが、流水取込口3に遮蔽壁材2を横架することも好ましい。これにより、流水取込口3から浸入する水流を適宜調整することが可能となる。
【0054】
水中貯蔵庫1の設置場所としては、海底、湖底又は河底など水流のある自然環境が好ましい。人工的な水流を起こすことができるプール等に設置してもよいが、コスト面及びブランディングの観点から海底等の自然の水流が起こる環境下に置くことが好ましい。
【0055】
水中貯蔵庫1の設置方法としては、クレーンを搭載した船舶から吊り下げて水中地面に設置する方法が好ましい。クレーンを用いることで、ダイバーによる潜水作業が困難な水深にも水中貯蔵庫1を沈めることが可能となり、浅瀬だけでなく、深海などの極限環境下でも食品組成物を熟成に供することができる。
【0056】
また、例えばこのような極限環境下に水中貯蔵庫1を設置した後、ダイバーによる潜水作業を要する場合には、一旦クレーンにより水中貯蔵庫1を吊り上げ、潜水作業が可能な水深まで移動させることもできる。
【0057】
クレーンによる水中貯蔵庫1の設置・回収を可能にするため、水中貯蔵庫1にはクレーンのフック又は該フックに掛けられたロープやワイヤーを係止するための係止部を設けることが好ましい。
【0058】
水中貯蔵庫1に貯蔵する食品組成物は、例えばワインや日本酒、焼酎などの酒類、清涼飲料水、ハムなどの肉類、各種発酵食品などが挙げられる。
これら食品組成物は、瓶、壺、ペットボトル、タッパーなどの定形性のある包装用容器の他、ビニール袋、布袋など定形性の無い包装用容器にパッケージングされた形態で水中貯蔵庫1の内部又は収容体4に収容してもよい。
【0059】
包装用容器にパッケージングする場合には、真空パックの形態として保存性を向上させたり、内部に二酸化炭素等のガスを充填することで熟成を促進又は抑制するように制御してもよい。また、収容体4又は水中貯蔵庫1の内部に直接食品組成物を収容する形態としてもよい。
【0060】
食品組成物が収容された瓶等の包装用容器をエアーパッキン等の梱包材で梱包して収容体4又は水中貯蔵庫1の内部に収容する形態としてもよい。
なお、食品衛生の観点から、包装用容器の内部に水が浸入しないように、口部分などをロウ付けやラップ等により封止することが好ましい。
【0061】
また、水中貯蔵庫1は養殖方法に応用することができる。水中貯蔵庫1の内部に養殖しようとする水生生物を収容して育成する。養殖する水生生物としては貝類や海藻類などの底生生物を好適に例示することができる。水中貯蔵庫1を用いて養殖することで、強い水流により水生生物、特に底生生物がダメージを受けたり、流出したりすることを防ぐことができる。
【0062】
貝類や海藻類の養殖を行う場合には、水中貯蔵庫1と垂下法、シングルシード法、ロープ養殖法を組み合わせて用いることができる。つまり、貝類や海藻類が固定ないし載置されたロープやカゴを水中貯蔵庫1に収容して養殖を行う。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は食品組成物の熟成方法や養殖方法に応用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 水中貯蔵庫
2 遮蔽壁材
21 傾斜軸
3 流水取込口
4 収容体
5 遮蔽壁
6 扉
61 ヒンジ
7 スライドレール
8 空気袋
9 アンカー
10 空気層
11 載置台

図1
図2
図3
図4
図5
図6