(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794023
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ねじ部品用防錆処理液、防錆処理されたねじ部品の製造方法及び防錆処理されたねじ部品
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20201119BHJP
C09D 151/00 20060101ALI20201119BHJP
C09D 151/08 20060101ALI20201119BHJP
C09D 151/06 20060101ALI20201119BHJP
C09D 7/00 20180101ALI20201119BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
C23F11/00 B
C09D151/00
C09D151/08
C09D151/06
C09D7/00
C09D5/08
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-153839(P2016-153839)
(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公開番号】特開2018-21144(P2018-21144A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/042144(WO,A1)
【文献】
特開2015−151511(JP,A)
【文献】
特開2004−307755(JP,A)
【文献】
特開2015−190060(JP,A)
【文献】
「変性エポキシ樹脂について」,荒川ニュース,荒川化学工業株式会社,2007年 1月,No. 336,pp. 02-07
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性エポキシ樹脂またはカルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性アクリル樹脂の少なくとも何れかと、シリカを含有する水溶性のバインダー樹脂を、有機溶剤を用いることなく水と混合したことを特徴とするねじ部品用防錆処理液。
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、前記変性エポキシ樹脂と前記シリカを含有し、
該バインダー樹脂中における変性エポキシ樹脂の割合が、20〜40質量%であることを特徴とする請求項1記載のねじ部品用防錆処理液。
【請求項3】
前記バインダー樹脂と、ワックスを含有することを特徴とする請求項2記載のねじ部品用防錆処理液。
【請求項4】
前記バインダー樹脂が、前記変性アクリル樹脂と前記シリカを含有し、
該バインダー樹脂中における変性アクリル樹脂の割合が、20〜40質量%であることを特徴とする請求項1記載のねじ部品用防錆処理液。
【請求項5】
ねじ部品の表面に、耐食膜を形成する工程と、
該耐食膜の表面に、カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性エポキシ樹脂またはカルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性アクリル樹脂の少なくとも何れかと、シリカを含有する水溶性のバインダー樹脂を、有機溶剤を用いることなく水と混合した防錆処理液を塗布して防錆処理液塗布膜を塗布する工程を有することを特徴とする防錆処理されたねじ部品の製造方法。
【請求項6】
鉄素地の表面に、耐食膜と防錆皮膜が順次形成された防錆処理されたねじ部品であって、前記防錆皮膜は、カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性エポキシ樹脂またはカルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性アクリル樹脂と、シリカバインダーを含む水溶性で有機溶媒を含まないねじ部品用防錆処理液を重合させてなる網目構造のポリマーからなることを特徴とする防錆処理されたねじ部品。
【請求項7】
前記耐食膜の表層に不溶性の金属珪酸塩を含有することを特徴とする請求項6記載の防錆処理されたねじ部品。
【請求項8】
前記金属珪酸塩が、オルト珪酸カルシウム、メタ珪酸カルシウム、珪酸カルシウムナトリウム、オルト珪酸マグネシウム、メタ珪酸マグネシウム、珪酸マグネシウムカルシウム、オルト珪酸亜鉛及びメタ珪酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも何れかの金属珪酸塩であることを特徴とする請求項7記載の防錆処理されたねじ部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆特性に優れたボルト、ナット等のねじ部品を製造するための技術に関するものであり、更に詳細には、ねじ部品用防錆処理液、防錆処理されたねじ部品の製造方法及び防錆処理されたねじ部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のサスペンションなどの足回り部品は、走行中に頻繁に水と接触することがあるため、このような部分に使用されるボルト、ナット等のねじ部品に対しては、優れた防錆性能が要求されている。
【0003】
通常この種のねじ部品は、
図1に示すように、鉄素地1の表面に亜鉛メッキ層2を形成することにより、防錆性能を持たせている。しかし亜鉛メッキ層2は繰り返して締め付けを行うと摩擦係数が次第に増加するため、そのままでは安定した締結が行えない。
【0004】
そこで
図2に示すように、亜鉛メッキ層2の表面にワックスを主体とする摩擦係数安定層3を形成し、繰り返して締め付けを行っても摩擦係数が増加しないようにしている。しかし、亜鉛メッキ層2と摩擦係数安定層3とからなる被覆層は傷つき易く、水との接触によって錆が発生することがある。そして錆の部分から水素が鉄素地1の内部に侵入し、水素脆性による遅れ破壊が進行してボルト折損に至る可能性がある。
【0005】
この問題を解決するため、
図3に示すように、亜鉛メッキ層2の表面に防錆剤層4を形成し、さらにその表面に摩擦係数安定層3を形成することが行われている。しかし防錆剤層4の形成と、摩擦係数安定層2の形成との2回のコート処理が必要であるため、多くのコストがかかるという問題がある。また、防錆剤層4も摩擦係数安定層3も皮膜形成成分としてアクリル樹脂を使用しており、低引火点の溶剤を用いてコート処理を行うため、防爆設備が必要となるうえ、高温乾燥を必要とするなどの問題がある。
【0006】
なお特許文献1には、ボルト・ナットに適したねじ部品用防錆処理液が記載されている。このねじ部品用防錆処理液は亜鉛粉末のほかに防錆剤を含むものである。しかし有機溶剤を用いたものであるため上記したように防爆設備が必要となるという問題がある。またこの特許文献1の発明はねじ部品用防錆処理液の継時的な粘度上昇を抑制することを狙ったものであり、繰り返して締め付けを行った場合の摩擦係数の安定を狙ったものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−48495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、有機溶剤を用いることなく1回でコート処理を行うことにより、繰り返して締め付けを行った場合にも摩擦係数の上昇を抑制できる防錆皮膜を形成することができるねじ部品用の防錆処理技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために本発明者は先行技術の問題点を検討した結果、繰り返して締め付けを行った場合にも摩擦係数の上昇を抑制できる特性(以下、繰り返し安定性と記す)を得るためには、防錆剤層の被膜形成成分である樹脂として、従来のアクリル樹脂よりも強度に優れる樹脂を用いることが好ましく、また有機溶剤を用いることなく1回でコート処理を行うためには、水溶性の樹脂中に防錆剤と潤滑剤とを分散させることが好ましいとの結論に達した。
【0010】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものであり、本発明のねじ部品用防錆処理液は、カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性エポキシ樹脂またはカルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性アクリル樹脂の少なくとも何れかと、シリカを含有する
水溶性のバインダー樹脂
を、有機溶剤を用いることなく水と混合したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
上記構成からなる本発明によれば、有機溶剤を用いることなく1回でコート処理を行うことにより、繰り返して締め付けを行った場合にも摩擦係数の上昇を抑制できる防錆皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来技術で防錆処理されたねじ部品の皮膜イメージ図である。
【
図2】従来技術で防錆処理されたねじ部品の皮膜イメージ図である。
【
図3】従来技術で防錆処理されたねじ部品の皮膜イメージ図である。
【
図4】本発明のねじ部品用防錆処理液を用いて防錆処理されたねじ部品の皮膜イメージ図である。
【
図5】実施例における摩擦係数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を詳述する。
【0014】
<ねじ部品用防錆処理液>
本実施形態のねじ部品用防錆処理液は、水系のバインダー樹脂と、顔料と、必要に応じて 摩擦係数調製剤であるワックスを含む。バインダー樹脂は、塗料組成物の調製時、エマルションの形態で使用されてもよいし、溶液の形態で使用されてもよい。水系のバインダー樹脂は、カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる樹脂を含む。 カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる樹脂は、カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性エポキシ樹脂もしくはカルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性アクリル樹脂の少なくとも何れかであることが好ましい。
【0015】
(変性エポキシ樹脂)
上記変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(a1)、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a2)及びアミン類(a3)を反応させてなる変性エポキシ樹脂(A1)の存在下に、アクリレート系単量体(A2)及びカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(A3)を必須成分とする不飽和単量体を重合反応させて得られる。
【0016】
変性エポキシ樹脂(A1)の製造におけるエポキシ樹脂(a1)としては、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒等の触媒の存在下に高分子量まで縮合させてなる樹脂や、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒等の触媒の存在下に、縮合させて低分子量のエポキシ樹脂とし、この低分子量のエポキシ樹脂とビスフェノール類とを重付加反応させることにより得られた樹脂が挙げられる。
【0017】
上記ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン[ビスフェノールB]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン等を挙げることができ、なかでもビスフェノールA、ビスフェノールFが好適に使用される。上記ビスフェノール類は、1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0018】
上記エポキシ樹脂(a1)の市販品としては、例えば三菱化学(株)製jER1007(エポキシ当量約1,700、数平均分子量(約2,900)、jER1009(エポキシ当量約3,500、数平均分子量約3,750)、jER1010(エポキシ当量約4,500、数平均分子量約5,500);旭化成イーマテリアルズ(株)製のアラルダイトAER6099(エポキシ当量約3,500、数平均分子量約3,800);及び三井化学(株)製のエポミックR−309(エポキシ当量約3,500、数平均分子量約3,800)などを挙げることができる。
【0019】
本明細書において、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の数平均分子量及び重量平均分子量である。
【0020】
エポキシ樹脂(a1)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましく、ここで、数平均分子量は2,000〜35,000が好ましく、4,000〜30,000が更に好ましく、また、エポキシ当量は、1,000〜12,000が好ましく、3,000〜10,000が更に好ましい。
【0021】
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a2)は、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0022】
アミン類(a3)は、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン等のモノ−若しくはジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノール等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン;エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジン等の環状アミン等が挙げられる。
【0023】
また、変性エポキシ樹脂(A1)の製造には、必要に応じて、水分散性や防食性向上を目的として、1〜3価の有機酸、1〜4価のアルコール、イソシアネート化合物等を用いることができる。
【0024】
上記1価〜3価の有機酸は、脂肪族、脂環族または芳香族の各種公知のカルボン酸が使用でき、例えばダイマー酸、トリメリット酸等があげられる。1価〜4価のアルコールとしては、脂肪族、脂環族または芳香族の各種公知のアルコールが使用でき、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等があげられる。イソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のポリイソシアネートが使用でき、例えばトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらの1価〜3価の有機酸、1価〜4価のアルコール、イソシアネート化合物等は、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて使用できる。
【0025】
変性エポキシ樹脂(A1)の製造は、有機溶剤の存在下に、前述の各成分を加熱することにより容易に製造できる。反応温度、反応時間は、通常60〜200℃、好ましくは90〜150℃の温度で、1〜10時間、好ましくは1〜5時間行うことができる。
【0026】
上記有機溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶剤、;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン等のケトン系溶剤;エチレングルコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;これらの混合物が挙げられる。
【0027】
変性エポキシ樹脂は、上記のようにして得られた変性エポキシ樹脂(A1)の存在下に、アクリレート系単量体(A2)及びカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(A3)並びに必要に応じて、その他の重合性不飽和単量体(A4)とを重合させることにより製造できる。
【0028】
アクリレート系単量体(A2)は、アクリロイルオキシ基(CH
2=CHCOO−)又はメタクリロイルオキシ基(CH
2=C(CH
3)COO−)を1つ以上有するモノマーであり、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−,i−又はt−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−,i−又はt−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸のC
2〜C
8ヒドロキシアルキルエステル等の単量体が挙げられ、これらは単独若しくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(A3)は、得られた変性エポキシ樹脂の水性化(水分散又は溶解)のために使用されるが、具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等の単量体が挙げられ、これらは単独若しくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
その他の重合性不飽和単量体(A4)は、上記カルボキシル基含有重合性不飽和単量体と共重合可能な単量体であればよく、求められる性能に応じて適宜選択して使用することができるものであり、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族系ビニル単量体;N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等のN−置換アクリルアミド系又はN−置換メタクリルアミド系モノマー等の1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0031】
ここで、変性エポキシ樹脂(A1)とアクリレート系単量体(A2)及びカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(A3)並びに必要に応じて配合されるその他の重合性不飽和単量体(A4)との共重合反応には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオクトエイト、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等の公知各種の有機過酸化物やアゾ化合物を用いることができる。
【0032】
また、当該共重合反応に際しては、重合様式には限定されないが、溶液重合法が好ましい。例えば、上述のような重合開始剤の存在下で60〜150℃の反応温度で重合できる。有機溶剤については、変性エポキシ樹脂(A1)の製造において用いたのと同様のものを使用できる。
【0033】
変性エポキシ樹脂は、酸価が5〜100mgKOH/gであることが好ましく、10〜80mgKOH/gであることが更に好ましい。また、変性エポキシ樹脂の水酸基価は、10〜350mgKOH/gが好ましく、30〜330mgKOH/gが更に好ましい。更に、変性エポキシ樹脂の重量平均分子量は、10,000〜200,000が好ましく、30,000〜200,000が更に好ましく、70,000〜180,000が一層好ましい。
【0034】
上記変性エポキシ樹脂は、初期乾燥性及び塗膜硬度を更に向上させる観点から、ガラス転移温度(Tg)が50〜100℃であることが好ましい。なお、ガラス転移温度は、例えば示差走査熱量計を用いて測定できる。
【0035】
なお、変性エポキシ樹脂の市販品としては、モデピクス301、モデピクス302、モデピクス303、KA−1828(以上、荒川化学株式会社製)等が挙げられる。
【0036】
バインダー樹脂として、変性エポキシ樹脂とシリカを含有するものを用いる場合、バインダー樹脂中における変性エポキシ樹脂の割合は20〜40質量% であり、好ましくは25〜35質量%、より好ましくは28〜32質量%である。この範囲とすることにより、摩擦係数を安定させ、ばらつきを低減することができる。
【0037】
バインダー樹脂として、変性エポキシ樹脂とシリカを含有するものを用いる場合、ねじ部品用防錆処理液は、水系のバインダー樹脂と、顔料と、摩擦係数調製剤であるワックス を混合し攪拌することにより調整される。
【0038】
(変性アクリル樹脂)
上記変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂(b1)、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(b2)及びアミン類(b3)を反応させてなる変性アクリル樹脂(B1)の存在下に、アクリレート系単量体(B2)及びカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(B3)を必須成分とする不飽和単量体を重合反応させて得られる。
【0039】
バインダー樹脂として、変性アクリル樹脂とシリカを含有するものを用いる場合、バインダー樹脂中における変性エポキシ樹脂の割合は20〜40質量%であり、好ましくは25〜35質量%、より好ましくは26〜30質量%である。この範囲とすることにより、摩擦係数を安定させ、ばらつきを低減することができる。
【0040】
バインダー樹脂として、変性アクリル樹脂とシリカを含有するものを用いる場合、ねじ部品用防錆処理液は、水系のバインダー樹脂と、顔料を混合し攪拌することにより調整される。
【0041】
<防錆処理されたねじ部品の製造方法>
ねじ部品用防錆処理液は、上述した各成分を混合し攪拌することにより調整される。各成分の混合する順番は、限定されるものではなく、任意の順番で混合することが可能である。そして、調整されたねじ部品用防錆処理液が、ねじ部品の表面に塗布される。ねじ部品の表面への塗布は、浸漬,ロール塗布,スプレー,刷毛塗り,スピンコート等 、ねじの大きさ,形状等に応じて種々の手法を採用することが可能である。
【0042】
ねじ部品用防錆処理液の塗布に先立って、ねじ部品の表面には、金属製の耐食膜が形成される。 耐食膜は、例えば、亜鉛,亜鉛合金等からなる亜鉛メッキ層であってもよく、その亜鉛メッキ層に化成処理を施した化成処理層であってもよい。さらに、その化成処理層に耐食性,外観向上,摩擦係数安定化等を目的とした仕上げ処理を施した仕上げ処理層であってもよい。
【0043】
ねじ部品用防錆処理液の塗布は、加熱処理後に形成される塗膜の厚みが1〜5μm、好ましくは2〜4μm、より好ましくは2.5〜3.5μmとなるように行う。なお、ねじ部品用防錆処理液の塗布時におけるねじ部品用防錆処理液の液温は特に制限されず、通常は、常温のねじ部品用防錆処理液が塗布される。
【0044】
ねじ部品用防錆処理液がねじ部品の表面に塗布されると、ねじ部品用防錆処理液が耐食膜の表層へ浸透する。強アルカリ性のねじ部品用防錆処理液により、耐食膜中の亜鉛等の金属が溶解し、Zn
2+等の金属イオンが溶出する。このZn
2+等の金属イオンが、ねじ部品用防錆処理液中に含まれる珪酸イオン(SiO
42−)と結合して、耐食膜の表層に不溶性の金属珪酸塩を生成 する。
【0045】
金属珪酸塩は、オルト珪酸カルシウム、メタ珪酸カルシウム、珪酸カルシウムナトリウム、オルト珪酸マグネシウム、メタ珪酸マグネシウム、珪酸マグネシウムカルシウム、オルト珪酸亜鉛及びメタ珪酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも何れかであることが好ましい。
【0046】
ねじ部品の表面に塗布されたねじ部品用防錆処理液は常温で乾燥され、防錆皮膜が形成される。乾燥を促進するために、必要に応じて加熱しても差し支えない。
【0047】
この加熱処理により、下記(A)〜(C)の縮合反応が進行する。
(A)金属珪酸塩と樹脂バインダー中のシリカの脱水縮合。
(B)樹脂バインダー中のシリカと樹脂の脱水縮合。
(C)樹脂バインダー中の樹脂同士の脱水縮合。
【0048】
上記の(A)〜(C)の縮合反応の組み合わせによって、網目構造のポリマーからなる防錆皮膜 が形成される。
【0049】
上記の各工程を経て防錆処理されたねじ部品は、
図4に示すように、鉄素地1の表面に耐食膜5を備え、耐食膜5の表層には金属珪酸塩6を有し、耐食膜5の表面に防錆皮膜7を備えた構造を有する。
【0050】
上記構造では、金属珪酸塩、シリカ、樹脂、ワックスの各成分が緻密に結合した構造を有し、これにより耐食性の向上および、摩擦係数の安定化といった作用を発現している 。
【0051】
上記構成からなる本発明によれば、有機溶剤を用いることなく1回でコート処理を行うことにより、繰り返して締め付けを行った場合にも摩擦係数の上昇を抑制できる防錆皮膜を形成することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性エポキシ樹脂を30質量%、シリカを含有する
バインダー24質量%、ポリエチレンワックスを23質量%、紫色顔料を0.4質量%、水を22.6質量%の比率で攪拌混合し、ねじ部品用防錆処理液を調製した。この処理液は温度安定性に優れ、0℃〜50℃の間で性状の変化はない。予め溶融亜鉛めっきにより耐食膜が形成された鋼鉄製ボルト(M14)をこのねじ部品用防錆処理液に浸漬したうえ取り出し、遠心脱水機を用いて脱水した。その後、室温で乾燥させ、耐食膜上に防錆皮膜を形成した。この防錆皮膜は、カルボン酸含有アクリルポリマー を側鎖としてグラフト重合してなる変性エポキシ樹脂と、シリカバインダーを含むねじ部品用防錆処理液を重合させてなる 網目構造のポリマーからなる。
【0054】
得られたボルトに対して繰り返して締め付けを行い、ナットとの間の摩擦係数を測定した。また比較のために、従来のアクリル樹脂系の処理液を用いて表面処理した同一サイズのボルトを用い、繰り返して締め付けを行ってナットとの間の摩擦係数を測定した。その結果を
図5に示す。このように本発明によれば10回の締め付けを加えても摩擦係数は0.1以下のレベルで安定しているが、比較例では5回の締め付けで摩擦係数が0.15に達した。
【0055】
また、得られたボルトにつき、ジンクリッチペイント上での傷付き耐食性試験と、インパクト締め後の塩水噴霧試験とによって、耐食性を評価した。その結果、実施例のボルトも比較例のボルトも、優れた耐食性を持つことを確認した。
【0056】
<実施例2>
カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性アクリル樹脂を28質量%、シリカを含有する
バインダー44質量%、青色顔料を0.1質量%、水を27.9質量%の比率で攪拌混合し、ねじ部品用防錆処理液を調製した。予め溶融亜鉛めっきにより耐食膜が形成された鋼鉄製ボルト(M14)をこのねじ部品用防錆処理液に浸漬したうえ取り出し、遠心脱水機を用いて脱水した。その後、室温で乾燥させ、耐食膜上に防錆皮膜を形成した。この防錆皮膜は、カルボン酸含有アクリルポリマーを側鎖としてグラフト重合してなる変性アクリル樹脂を含むねじ部品用防錆処理液を重合させてなる 網目構造のポリマーからなる。
【0057】
得られたボルトは実施例1とは異なりポリエチレンワックスを含有しないため、摩擦係数安定の効果はないが、耐食性については、従来のアクリル樹脂系の処理液を用いて表面処理したものと同等以上であった。
【符号の説明】
【0058】
1 鉄素地
2 亜鉛メッキ層
3 摩擦係数安定層
4 防錆剤層
5 耐食膜
6 金属珪酸塩
7 防錆皮膜