(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の孔に、当該第1の孔の径方向から第2の孔が交差しており、前記第1の孔と前記第2の孔との交差部の稜線部分に発生したバリを、軸部の先端に球状の刃部が設けられた切削工具を用いて除去するバリ取り方法であって、
前記軸部の先端側を前記第2の孔に挿入し、前記刃部の外周を前記稜線部分に対向させた初期位置に配置する配置ステップと、
前記配置ステップに続いて、前記稜線部分に発生したバリを、前記稜線部分の周方向の全周に亘って取り除くバリ取りステップと、
前記バリ取りステップに続いて、前記刃部を前記稜線部分から離間させたのち、前記第2の孔から退避させる退避ステップと、を有しており、
前記稜線部分では、当該稜線部分の周方向に連なって複数の切削範囲が設定されており、
前記バリ取りステップは、
前記刃部の位置を、2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、前記刃部を前記切削範囲における切削開始点に位置決めする位置決めステップと、
前記刃部を前記軸部の軸線回りに回転させながら、前記刃部の位置を、前記切削開始点から2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、前記切削範囲を切削する切削ステップと、を有しており、
前記バリ取りステップでは、前記位置決めステップと前記切削ステップとを交互に実施しながら、前記複数の切削範囲を順番に切削し、
前記位置決めステップにおいて前記刃部の位置を2次元方向に変位させた場合、前記切削ステップにおいて前記刃部の位置を1次元方向に変位させ、
前記位置決めステップにおいて前記刃部の位置を1次元方向に変位させた場合、前記切削ステップにおいて前記刃部の位置を2次元方向に変位させることを特徴とするバリ取り方法。
前記位置決めステップにおける前記刃部の変位量と、前記切削ステップにおける前記刃部の変位量は、前記稜線部分における前記バリ取りを実施する領域の設計上の座標位置に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1に記載のバリ取り方法。
前記位置決めステップにおける前記刃部の変位量と、前記切削ステップにおける前記刃部の変位量は、前記稜線部分における前記バリ取りを実施する領域の前記設計上の座標位置に対するバラツキを考慮して設定されていることを特徴とする請求項2に記載のバリ取り方法。
前記位置決めステップにおける前記刃部の変位量と、前記切削ステップにおける前記刃部の変位量は、前記稜線部分における前記バリ取りを実施する領域の曲率に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1に記載のバリ取り方法。
前記位置決めステップにおける前記刃部の変位速度を、前記切削ステップにおける前記刃部の変位速度よりも速い速度で実施することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載のバリ取り方法。
第1の孔に、当該第1の孔の径方向から第2の孔が交差しており、前記第1の孔と前記第2の孔との交差部の稜線部分に発生したバリを、軸部の先端に球状の刃部が設けられた切削工具を用いて除去するバリ取り装置の制御装置であって、
前記軸部の先端側を前記第2の孔に挿入し、前記刃部の外周を前記稜線部分に対向させた初期位置に配置する配置手段と、
前記稜線部分に発生したバリを、前記稜線部分の周方向の全周に亘って取り除くバリ取り手段と、
前記刃部を前記稜線部分から離間させたのち、前記第2の孔から退避させる退避手段と、
前記稜線部分を当該稜線部分の周方向で複数に区画して、前記周方向に連なって複数の切削範囲を設定する切削範囲設定手段と、を有し、
前記バリ取り手段は、
前記刃部の位置を、2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、前記刃部を前記切削範囲における切削開始点に位置決めする位置決め手段と、
前記刃部を前記軸部の軸線回りに回転させながら、前記刃部の位置を、前記切削開始点から2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、前記切削範囲を切削する切削手段と、を有しており、
前記バリ取り手段は、
前記位置決め手段による刃部の変位と前記切削手段による刃部の変位とを交互に実施しながら、前記複数の切削範囲を順番に切削し、
前記位置決め手段で前記刃部の位置を2次元方向に変位させた場合、前記切削手段では前記刃部の位置を1次元方向に変位させ、
前記位置決め手段で前記刃部の位置を1次元方向に変位させた場合、前記切削手段では前記刃部の位置を2次元方向に変位させることを特徴とするバリ取り装置の制御装置。
第1の孔に、当該第1の孔の径方向から第2の孔が交差しており、前記第1の孔と前記第2の孔との交差部の稜線部分に発生したバリを、軸部の先端に球状の刃部が設けられた切削工具を用いて除去するバリ取り装置用のプログラムであって、
コンピュータを、
前記軸部の先端側を前記第2の孔に挿入し、前記刃部の外周を前記稜線部分に対向させた初期位置に配置する配置手段、
前記稜線部分を当該稜線部分の周方向で複数に区画して、前記周方向に連なって複数の切削範囲を設定する切削範囲設定手段、
前記刃部の位置を、2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、前記刃部を前記切削範囲における切削開始点への位置決めする位置決め手段、
前記刃部を前記軸部の軸線回りに回転させながら、前記刃部の位置を、前記切削開始点から2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、前記切削範囲を切削する切削手段、
前記位置決め手段による刃部の変位と前記切削手段による刃部の変位とを交互に実施しながら、前記複数の切削範囲を順番に切削して、前記稜線部分に発生したバリを、前記稜線部分の周方向の全周に亘って取り除くバリ取り手段、
前記刃部を前記稜線部分から離間させたのち、前記第2の孔から退避させる退避手段、
として機能させ、
前記コンピュータは、
前記位置決め手段で前記刃部の位置を2次元方向に変位させた場合、前記切削手段では前記刃部の位置を1次元方向に変位させ、
前記位置決め手段で前記刃部の位置を1次元方向に変位させた場合、前記切削手段では前記刃部の位置を2次元方向に変位させることを特徴とするバリ取り装置用のプログラム。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[バリ取り装置]
以下、実施の形態にかかるバリ取り装置1について説明する。
【0012】
図1は、本発明にかかるバリ取り装置1の構成を示すブロック図である。
バリ取り装置1は、バリ取り用工具7と被切削物であるワークWとを相対的に移動させて、ワークWに発生したバリBを除去する装置である。
【0013】
バリ取り装置1は、バリ取り用工具7を軸線回りに回転させる回転機構(主軸34)と、バリ取り用工具7の位置を変位させる変位機構(機械本体3)と、主軸34と機械本体3を駆動する駆動モータ35と、駆動モータ35の動作を制御する制御手段(制御装置2)と、を有している。
駆動モータ35は、バリ取り用工具7を同時に3次元方向に変位させることができず、同時に変位させることができるのは、最大で任意の2方向のみである。
【0014】
バリ取り装置1は、「Gコード」と呼ばれるNC(Numerical Control)プログラム等からなるNCデータに基づいて、駆動モータ35の駆動を制御する制御装置2を有している。制御装置2は、NCデータが入力されると、入力されたNCデータに従って、後記するモータアンプ36を介して駆動モータ35を駆動させるようになっている。
【0015】
バリ取り装置1の機械本体3は、
図1に示すように、X軸、Y軸、Z軸の互いに直交する3つの直動駆動軸を有する工作機械(例えば、立型マシニングセンタ)である。
X軸、Y軸、Z軸は、機械本体3が地面に据え付けられた状態で、X軸とY軸が水平方向で互いに直交する2方向に沿うようになっており、Z軸が鉛直方向に沿うようになっている。
【0016】
機械本体3は、基台としてのベッド31と、当該ベッド31上に水平方向(X軸方向とY軸方向)へ移動自在に支持された加工テーブル311と、ベッド31から立設されたコラム32と、当該コラム32から加工テーブル311の上方に向かって延設され、鉛直方向(Z軸方向)へ移動自在に支持された主軸ヘッド33と、主軸ヘッド33から垂下された主軸34とを有する。
【0017】
加工テーブル311は、ワークW(及びワークWを固定する治具J)が設置されるようになっている。主軸34には、穴あけ加工用のドリル(図示せず)や、バリ取り用工具7等の切削工具が工具ホルダ6を介して着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0018】
加工テーブル311は、テーブル送りモータ35X、35Yによって駆動される送りねじ軸(図示せず)の回転に応じて、X軸方向及びY軸方向に移動されるようになっている。主軸ヘッド33は、工具送りモータ35Zによって駆動される送りねじ軸(図示せず)の回転に応じて、Z軸方向に移動されるようになっている。主軸34は、主軸モータ35Sに連結されており、主軸モータ35Sの回転に応じて下端に取り付けられたバリ取り用工具7とともにZ軸回りに回転駆動される。
テーブル送りモータ35X、35Y、工具送りモータ35Z及び主軸モータ35S(以下、駆動モータ35とも標記する。)は、例えばサーボモータである。
【0019】
機械本体3は、駆動モータ35を駆動するモータアンプ36を有している。このモータアンプ36には、制御装置2から入出力インターフェイス(図示せず)を介して駆動指令が直接入力される。モータアンプ36は、制御装置2から駆動指令が入力されると、NCデータを駆動電流に変換及び増幅して、駆動モータ35を駆動する。(以下、駆動モータ35及びモータアンプ36を、駆動部37とも標記する。)
【0020】
[制御装置2]
制御装置2は、
図1に示すように、CPU20、ROM21、RAM22等で構成されており、機械本体3とは別体の例えば汎用のコンピュータからなる。
制御装置2は、工具データ記憶部23と、加工データ記憶部24と、駆動能力データ記憶部25と、表示部26と、入力操作部27と、を備えている。
【0021】
工具データ記憶部23及び加工データ記憶部24には、工具長、工具径、工具摩耗量、工具回転速度、加工テーブル311上におけるワークWの位置(加工原点)、加工プログラムなどに関するデータが記憶されている。
【0022】
駆動能力データ記憶部25は、駆動部37の駆動モータ35の駆動能力に関する駆動能力データが記憶されている。この駆動能力データは、例えば、テーブル送りモータ35X、35Y、工具送りモータ35Z及び主軸モータ35Sのそれぞれの、始動トルク、最大トルク、定格トルク等の駆動モータ35のトルクに関するデータが記憶されている。
【0023】
表示部26は、例えば液晶ディスプレイ等で構成されており、加工プログラムや座標位置、切削送り速度、主軸回転速度、アラーム情報等を表示するようになっている。
【0024】
入力操作部27は、オペレータに操作される、キーボード等で構成されている。
入力操作部27は、オペレータによって、例えば、各記憶部に記憶されているデータの中から所望のデータを選択又は編集したり、機械本体3にワークWの加工を開始させたり、加工プログラムを新規作成したりするなどの操作が行われる。
【0025】
[主軸34]
図2は、バリ取り用工具7を説明する図である。
図2の(a)は、バリ取り用工具7が主軸34へ取り付けられた状態を説明する図である。
図2の(b)は、バリ取り用工具7の刃部71を拡大した図である。
図2の(c)は、
図2の(b)におけるA−A矢視図である。
【0026】
図2の(a)に示すように、バリ取り用工具7は、工具ホルダ6を介して主軸34に脱着可能に取り付けられている。
主軸34は、主軸モータ35Sの回転に応じてZ軸回りに回転駆動されるようになっており、加工テーブル311との対向面(主軸端34a)には、後記する工具ホルダ6のテーパシャンク部61を挿入するためのテーパ穴341が形成されている(図中、破線部分)。
【0027】
[工具ホルダ6]
工具ホルダ6は、主軸34のテーパ穴341に挿入されるテーパシャンク部61(図中、破線部分)と、当該テーパシャンク部61の大径端部61aに設けられたフランジ部62を有している。フランジ部62のテーパシャンク部61とは反対側の端面62aには、中央部に略筒形状の工具保持部63が設けられている。工具保持部63の長手方向におけるフランジ部62とは反対側の端部63aでは、コレット(図示せず)を介してバリ取り用工具7が相対回転不能に取付けられるようになっている。
【0028】
工具保持部63にバリ取り用工具7が取り付けられた状態で、テーパシャンク部61を、主軸34のテーパ穴341に挿入すると、バリ取り用工具7の中心軸が、主軸34のZ軸回りの回転軸と一致するようになっている。そして、主軸モータ35Sの回転に応じて主軸34がZ軸回りに所定の回転速度で回転駆動すると、バリ取り用工具7もZ軸回りに主軸34と同じ回転速度で回転するようになっている(
図2の(a)中、矢印参照)。
【0029】
[バリ取り用工具7]
図2の(a)に示すように、バリ取り用工具7は、略円柱状を成す軸部72と、軸部72の一端72a側に形成された略球状の刃部71から構成された、いわゆる球面カッターである。
軸部72の他端側72bは、コレットを介して工具保持部63(工具ホルダ6)に相対回転不能に取り付けられるようになっている。
図2の(b)、(c)に示すように、刃部71は、球体の直径D1が軸部72の直径D2よりも大径となっており(D1>D2)、外周面には、Z軸周りの周方向に等間隔で切刃710、710、710、710を有している。
切刃710は、Z軸方向における刃部71の一端から他端にかけて形成されていると共に、所定角度αだけ傾斜してZ軸を横切るようになっている。
【0030】
よって機械本体3は、以下の動作を行う。
(1)制御装置2からモータアンプ36に入力された駆動指令に応じて、バリ取り用工具7を主軸モータ35Sによって回転駆動させる。
(2)加工テーブル311をテーブル送りモータ35X、35YによってX軸方向及び/又はY軸方向に移動させる。
(3)主軸ヘッド33を工具送りモータ35ZによってZ軸方向に移動させる。
【0031】
そうすると、機械本体3は、加工テーブル311に設置されたワークWと、主軸34に取り付けられたバリ取り用工具7とを相対的に移動させることができる。
【0032】
ここで、上記(2)、(3)で示す軸移動は、X軸とY軸とZ軸をそれぞれ単独で軸移動させる場合と、X軸とY軸、Y軸とZ軸、又はX軸とZ軸を同時に軸移動させる場合のみ可能であり、X軸とY軸とZ軸の全てを同時に軸移動させることはできない。
【0033】
なお、以下の説明では、ワークWとバリ取り用工具7との相対移動を分かり易くするために、ワークWは静止した状態として、バリ取り用工具7がX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動するものとして説明する。
【0034】
以下、本発明におけるバリ取り装置1を、車両用のベルト式無段変速機を構成するプーリ100の固定プーリ200(ワークW)のバリ取りに適用した場合を例に挙げて説明する。
【0035】
図3は、バリ取りのフローチャートを説明する図である。
バリ取り用プログラムがスタートすると、制御装置2の工具データ記憶部23及び加工データ記憶部24から、バリ取り用工具7の工具長、工具径、工具摩耗量、工具回転速度、加工原点などに関するデータが読み出される(ステップS01)。
【0036】
次に、バリ取り用プログラムと読み出されたデータに基づいて、機械本体3が駆動して、バリ取り用工具7を固定プーリ200に接近させて、刃部71の切刃710を、初期位置に配置させる配置ステップが開始される(ステップS02)。
ここで、初期位置とは、後記する稜線部分215に対向する位置であって、プログラムで定めた位置である。
【0037】
バリ取り用工具7が初期位置に配置されると、上記配置ステップは終了する(ステップS03、Yes)。そして、バリ取り用工具7によって、バリ取り(切削)を行うバリ取りステップが開始される(ステップS04)。
なお、バリ取り用工具7が、初期位置に配置されていない場合(ステップS03、No)は、当該初期位置に配置されるまで配置ステップが実施される。
【0038】
バリ取り用工具7が、プログラムで定めたバリ取り終了位置に到達すると、上記バリ取りステップは終了する(ステップS05、Yes)。そして、バリ取り用工具7の切刃710を、稜線部分215から離間させた後、固定プーリ200から退避させる退避ステップが開始される(ステップS06)。
なお、バリ取り用工具7が、プログラムで定めたバリ取り終了位置に到達していない場合(ステップS05、No)は、当該バリ取り終了位置に到達するまでバリ取りステップが実施される。
【0039】
バリ取り用工具7が、プログラムで定めた退避完了位置に到達すると、上記退避ステップは終了する(ステップS07、Yes)。そして、バリ取り用プログラムがエンドとなる。
なお、バリ取り用工具7が、プログラムで定めた退避完了位置に到達していない場合(ステップS07、No)は、当該退避完了位置に到達するまで退避ステップが実施される。
【0040】
[プーリ]
図4は、固定プーリ200に形成された油路230内に発生するバリBを説明する図である。
図4の(a)は、固定プーリ200に形成された油路230(第1油孔210、第2油孔220)を説明する図である。
図4の(b)は、
図4の(a)におけるA−A断面を模式的に示した図である。
図4の(c)は、
図4の(b)におけるB−B断面を模式的に示した図である。
図4の(d)は、固定プーリ200の油路230のみを模式的に表した図であり、交差部の稜線部分215を説明する図ある。
【0041】
プーリ100は、軸部250を軸線X1に沿わせた向きで配置された固定プーリ200と、固定プーリ200の軸部250で、軸線X1回りの回転が規制された状態で軸線X1方向に移動可能に設けられた可動プーリ300(図中、仮想線)と、から構成される。
【0042】
固定プーリ200は、軸線X1に沿って形成された第1油孔210と、軸線X1に直交する向き(軸線Z1に沿う向き)で形成された第2油孔220と、を有している。
第1油孔210は、軸部250の長手方向における一端250aに開口しており、この一端250aから離れる方向に延出している。
第2油孔220は、第1油孔210に対して、軸線X1の径方向から連通(交差)しており、固定プーリ200では、第1油孔210と第2油孔220とで、1つの油路230を形成している。
【0043】
この油路230は、コントロールバルブ(図示せず)から供給されたオイルOLが通流するようになっている。このオイルOLは、油路230の第1油孔210側から第2油孔220側へ通流したのち、可動プーリ300側に排出されるようになっている。可動プーリ300は、排出されたオイルOLの圧力によって、固定プーリ200側へ押圧されるようになっている。
【0044】
[バリB]
図4の(a)に示すように、油路230(第1油孔210、第2油孔220)は、第1油孔210の孔径d1方が、第2油孔220の孔径d2よりも孔径が大きくなっている(d1>d2)。
ここで、孔径の異なる油路を形成する場合、大径側を形成した後で、小径側を形成するのが通常である。
よって、油路230を形成する場合、第1油孔210(大径側)の穴あけ加工を行った後、第2油孔220(小径側)の穴あけ加工を行う。
【0045】
この場合、第2油孔220の穴あけ方向に被切削部分が押し出されるので、第1油孔210の内周211側にバリBが発生する。このバリBは、第1油孔210と第2油孔220の交差部の稜線部分215(以下、稜線215と標記する。)の略全周に亘って発生する(
図4の(b)、(c)参照)。
【0046】
図5は、稜線215を説明する図である。
図5の(a)は、
図4の(d)のC領域を拡大した図である。
図5の(b)は、稜線215を軸線X1の周方向に沿って展開した図である。
図5の(c)は、
図5の(a)における油路230を、面Aで切断した断面を模式的に示した図である。
【0047】
[稜線215形状]
図5の(a)、(c)に示すように、稜線215は、第1油孔210の外周に沿って形成されており、軸線X1方向から見て、稜線215は、軸線X1周りの周方向に沿う弧状を成している。
図5の(b)に示すように、稜線215を軸線X1の周方向に沿って展開すると、稜線215は、長さW1の長軸と、長さW2の短軸を持つ略楕円形状を成している。
この稜線215は、軸線X1に沿う方向が短軸となり、軸線X1と軸線Z1の両方に直交する軸線(以下、軸線Y1と標記する)に沿う方向が長軸となる向きの楕円形状を成している。
この稜線215は、長軸側の端縁215a、215a側の曲率が、短軸側の端縁215b、215b側の曲率よりも大きくなっている。
図5の(c)に示すように、稜線215の長軸側の端縁215a、215aは、軸線X1と軸線Z1との交点からZ1方向に所定長さh2離れた位置に位置している。
稜線215の短軸側の端縁215b、215bは、軸線X1と軸線Z1との交点からZ1方向に、上記h2より長い所定長さh1離れた位置に位置している。
【0048】
このように稜線215は、長軸側の端縁215a、215aが、短軸側の端縁215b、215bよりも軸線Z1に沿う方向(図中、下方)にオフセットした3次元的な曲線形状を成している。バリBは、この様な形状の稜線215に沿って発生している。
【0049】
図6は、固定プーリ200がバリ取り装置1に段取りされた状態を模式的に示した図である。
【0050】
図7は、稜線215に対するバリ取り用工具7の軌跡(パス)を説明する図である。
図7の(a)は、
図4の(b)におけるA領域を拡大した図であり、配置ステップでのバリ取り用工具7の移動軌跡(配置パスT)と、退避ステップでのバリ取り用工具7の移動軌跡(退避パスU)を説明する図である。
図7の(b)は、
図7の(a)におけるA−A矢視図であり、稜線215を複数の座標点(P1〜P28)で示した図である。なお、稜線215以外の部分は省略してある。
図7の(c)は、刃部71で稜線215のバリ取りを行うバリ取りステップでのバリ取り用工具7の移動軌跡(バリ取りパスS)を説明する図である。
ここで、
図7の(c)では、縦軸をZ方向、横軸をXY平面方向として、バリ取りステップにおける刃部71の移動軌跡を示している。
また、
図7の(c)では、刃部71が稜線215の切削を行いながら移動する場合の移動軌跡(切削加工)を実線矢印で示しており、刃部71が稜線215の切削を行なわずに移動する場合の移動軌跡(位置決め)を破線矢印で示している。なお、実線矢印と破線矢印とが重なる部分については、見やすくするために間隔を空けて記載している(例えば、
図7の(c)におけるP8、P22)。
【0051】
図8は、機械本体3を駆動して、バリ取り用工具7(刃部71)を
図7で示す移動軌跡(パス)で移動させるためのNCプログラム(NCデータ)の一例を示したものである。
実施の形態にかかるプログラム8は、N1からN71で示す各行ごとに順番に指令するようになっている。
【0052】
プログラム中の「G01」で表記されるコマンドが、バリ取り用工具7に切削加工のための軸移動をさせる指令であり、
図7の(c)においては、実線矢印で示している。「F」で表記されるコマンドが、切削加工時の「切削送り速度」を指令するものであり、上記「G01」と共に用いられるものである。
【0053】
プログラム中の「G00」で表記されるコマンドが、バリ取り用工具7に位置決めのための軸移動をさせる指令であり、
図7の(c)においては、破線矢印で示している。
なお、破線矢印で示す軸移動速度は、実線矢印で示す軸移動速度よりも高く設定されている。
【0054】
[切削点(座標点の設定)]
図6に示すように、固定プーリ200は、機械本体3に対して、軸線X1がX軸方向に沿うように、軸線Z1がZ軸方向に沿うように、軸線Y1がY軸方向に沿うように設置されている。さらに固定プーリ200は、治具Jによって加工テーブル311上で移動不能に固定されている。なお、稜線215にかかる部分を強調して記載しており、その他の部分の形状は簡略化して記載してある。
【0055】
そして、固定プーリ200の軸線X1、軸線Z1、及び軸線Y1の交点は、機械本体3の加工テーブル311上における加工原点O(X、Y、Z)=(0、0、0)である。
この加工原点Oを基準として作製されたプログラム8(
図8参照)と、このプログラム8に基づく機械本体3の動作について説明する。
【0056】
図8に示すプログラム8(N1〜N71)のうち、
N1〜N3にかかる部分は、バリ取り用工具7をZ軸方向に沿って第2油孔220に挿入した後、さらに刃部71の切刃710を稜線215に対向させた初期位置に配置させる配置パスT用のプログラム81である。
N4〜N68にかかる部分は、配置パスTに続いて、稜線215に発生したバリBを、稜線215の周方向の全周に亘って取り除くバリ取りパスS用のプログラム82である。
N69〜N71にかかる部分は、バリ取りパスSに続いて、刃部71を稜線215から離間させた後、バリ取り用工具7を第2油孔220から退避させる退避パスU用のプログラム83である。
このプログラム8に基づいて指令されるバリ取り装置1は、
図7に示すような動作をする。
【0057】
配置パスTとバリ取りパスSと退避パスUは、加工原点Oを基準として、バリ取り用工具7が複数の座標点間を直線的に移動するものであり、この座標点はCADなどの外部装置4(
図1参照)を用いて求めることができる。
【0058】
ここで、
図7の(b)に示すように、実施の形態では、稜線215を、当該稜線215上に設定した座標点P(X、Y、Z)を、P1(P1x、P1y、P1z)〜P28(P28x、P28y、P28z)の集合で示した場合を例に挙げて、バリ取り用のプログラムを、
図8に示すNCデータ化したプログラム8とした。
なお、各座標点Pの間隔は、
図5の(b)で示す稜線215の展開図の曲率に基づいて設定されている。例えば、長軸側の端縁215a、215a周辺など、曲率の大きい領域の座標点Pの間隔は、短軸側の端縁215b、215b周辺など、曲率の小さい領域の座標点Pの間隔より大きく設定されている。
【0059】
座標点P1〜P28は、
図5の(b)で示す稜線215の長軸側の端縁215aの一方を座標点P1(
図7の(b)中、右側)として左回りに順番に並んでいる。
実施の形態では、稜線215における隣接する座標点の間(例えば、P1−P2間、P2−P3間など)を、1回あたりの切削範囲として設定している。そのため、稜線215は、当該稜線215の周方向で複数の切削範囲に区画されており、複数の切削範囲が周方向に連なって稜線215を規定している。
実施の形態では、稜線215のバリ取り(バリ取りパスS)は、稜線215上に設定した座標点の番号順で実施される。そして、刃部71の位置を稜線215に沿って変位させている間(バリ取りパスSの間)、バリ取り用工具7(刃部71)は、
図7の(b)において矢印で示す方向に回転している。
【0060】
[配置パスT]
図8で示すプログラム8のうち、配置パスT用のプログラム81(N1〜N3)について説明する。
図7の(a)に示すように、配置パスTでは、バリ取り用工具7をZ軸方向に沿って第2油孔220に挿入した後、刃部71の切刃710を稜線215に対向する位置(初期位置(P1x、P1y、P1z―Δh))に配置されるまでバリ取り用工具7を移動させる。
【0061】
実施の形態では、バリ取り用工具7と固定プーリ200との干渉を避けるために、まずバリ取り用工具7をXY平面に沿う方向にのみ加工原点Oに移動させる(
図7の(a)中、破線矢印T1、
図8のN1)。次に、Z軸方向に沿って所定位置(P1z―Δh)まで下方に移動(挿入)させる(
図7の(a)中、破線矢印T2、
図8のN2)。そして、XY平面に沿う方向に稜線215に対向する位置(P1x、P1y)まで移動させる(
図7の(a)中、破線矢印T3、
図8のN3)。
これで、バリ取り用工具7が、初期位置(P1x、P1y、P1z―Δh)に配置され、配置パスT(配置ステップ)が終了する。
【0062】
[バリ取りパスS]
稜線215は、Z軸方向から見て略円形を成しており、X軸とY軸とによって、第1象限から第4象限に分けることができる(
図7の(b)参照)。
ここで、バリ取り用工具7が、例えば第1象限から第2象限へ移動する場合など、象限間を跨るときにXY平面に対する稜線215の傾斜方向が逆転する。
そこで、バリ取りパスSでは、稜線215を第1象限から第4象限に分けて説明する。
【0063】
[P1〜P8(第1象限)までのバリ取り]
図8で示すプログラム8のうち、P1〜P8(第1象限)までのバリ取りパスS用のプログラム82(N4〜N20)について説明する。
【0064】
図7の(a)に示すように、P1(P1x、P1y、P1z)でのバリ取りは、Z軸回りに回転するバリ取り用工具7を、軸線Z方向に変位させて実施される。
ここで、P1でのバリ取りは、稜線215における最初のバリ取りであるので、配置パスTにおける初期位置(P1x、P1y、P1z―Δh)が、バリ取りパスSにおける切削開始点に相当する。
バリ取り用工具7が切削開始点(P1x、P1y、P1z―Δh)に配置された後、バリ取り用工具7をZ方向にΔhだけ上方に移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(a)中、実線矢印S1、
図8のN4)。
そうすると、P1(P1x、P1y、P1z)でのバリ取りが完了する。この際のバリ取り用工具7の移動が、最初の切削範囲での切削加工に相当する。
【0065】
図7の(b)、(c)に示すように、P1でのバリ取りが完了した後、バリ取り用工具7をXY平面に沿う方向に移動させて、次の切削範囲における切削開始点(P2x、P2y)まで位置決めする(
図7の(c)中、破線矢印S2、
図8のN5)。この際のバリ取り用工具7の移動が、次の切削範囲での切削開始点への位置決めに相当する。
そして、バリ取り用工具7をZ方向に(P2z)まで上方に移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(c)中、実線矢印S1、
図8のN6)。この際のバリ取り用工具7の移動が、次の切削範囲での切削加工に相当する。これにより、P2(P2x、P2y、P2z)でのバリ取りが完了する。
以下、同様にして、P8(P8x、P8y、P8z)までこの動作を繰り返してバリ取りを行う(Z方向で切削(
図7の(c)中、実線矢印S1)、XY平面に沿う方向で位置決め(
図7の(c)中、破線矢印S2)、
図8のN20まで。)。
ここで、第1象限における稜線215の曲率は、第2象限側に向かって小さくなる(
図5の(b)参照)。そうすると、P1からP8へ進むにつれて、1回のバリ取りで刃部71と稜線215とが接触する領域(後記する窪みK)が小さくなる。よって、P1からP8に進むにつれて、バリ取りの間隔を小さくする必要があるので、バリ取り用工具7のXY平面に沿う方向の移動量を小さくしている(
図7の(b)参照)。
この場合、バリ取り用工具7は、XY平面に沿う方向への移動(位置決めに係る移動)速度は、Z方向上方への移動(切削に係る移動)速度よりも高く設定されている。
【0066】
[P9〜P15(第2象限)までのバリ取り]
図8で示すプログラム8のうち、P9〜P15(第2象限)までのバリ取りパスS用のプログラム82(N21〜N36)について説明する。
【0067】
図7の(b)、(c)に示すように、P8でのバリ取りが完了した後、バリ取り用工具7をZ軸方向における下方に移動させて、次の切削範囲における切削開始点(P9z)まで下方に移動させて位置決めする(
図7の(c)中、破線矢印S1、
図8のN21)。そして、バリ取り用工具7をXY平面に沿う方向に(P9x、P9y)まで移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(c)中、実線矢印S2、
図8のN22)。そうすると、P9(P9x、P9y、P9z)でのバリ取りが完了する。
【0068】
P9でのバリ取りが完了した後、バリ取り用工具7をZ軸方向における下方に移動させて、次の切削範囲における切削開始点(P10z)に位置決めする(
図7の(c)中、破線矢印S1、
図8のN23)。そして、バリ取り用工具7をXY平面に沿う方向に(P10x、P10y)まで移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(c)中、実線矢印S2、
図8のN24)。そうすると、P10(P10x、P10y、P10z)でのバリ取りが完了する。
以下同様にして、P15(P15x、P15y、P15z)までこの動作を繰り返してバリ取りを行う(Z方向で位置決め(
図7の(c)中、破線矢印S1)、XY平面に沿う方向で切削(
図7の(c)中、実線矢印S2)、
図8のN36まで)。
ここで、第2象限における稜線215の曲率は、第3象限側に向かって大きくなる(
図5の(b)参照)。そうすると、P9からP15へ進むにつれて、1回のバリ取りで刃部71と稜線215とが接触する領域(後記する窪みK)が大きくなる。よって、P9からP15に進むにつれて、バリ取りの間隔を大きくしても良く、バリ取り用工具7のXY平面に沿う方向の移動量を大きくしている(
図7の(b)参照)。
この場合、バリ取り用工具7は、Z方向下方への移動(位置決めに係る移動)速度は、XY平面に沿う方向への移動(切削に係る移動)速度よりも高く設定されている。
【0069】
[P16〜P22(第3象限)までのバリ取り]
図8で示すプログラム8のうち、P16〜P22(第3象限)までのバリ取りパスS用のプログラム82(N37〜N52)について説明する。
【0070】
図7の(b)、(c)に示すように、P15でのバリ取りが完了した後、バリ取り用工具7をXY平面に沿う方向に移動させて、次の切削範囲における切削開始点(P16x、P16y)に位置決めする(
図7の(c)中、破線矢印S2、
図8のN37)。そして、バリ取り用工具7をZ方向に(P16z)まで上方に移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(c)中、実線矢印S1、
図8のN38)。そうすると、P16(P16x、P16y、P16z)でのバリ取りが完了する。
【0071】
P16でのバリ取りが完了した後、バリ取り用工具7をXY平面に沿う方向に移動させて、次の切削範囲における切削開始点(P17x、P17y)に位置決めする(
図7の(c)中、破線矢印S2、
図8のN39)。そして、バリ取り用工具7をZ方向に(P17z)まで上方に移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(c)中、実線矢印S1、
図8のN40)。そうすると、P17(P17x、P17y、P17z)でのバリ取りが完了する。
以下同様にして、P22(P22x、P22y、P22z)までこの動作を繰り返してバリ取りを行う(Z方向で切削(
図7の(c)中、実線矢印S1)、XY平面に沿う方向で位置決め(
図7の(c)中、破線矢印S2)、
図8のN52まで)。
ここで、第3象限における稜線215の曲率は、第4象限側に向かって小さくなる(
図5の(b)参照)。そうすると、P16からP22へ進むにつれて、1回のバリ取りで刃部71と稜線215とが接触する領域(後記する窪みK)が小さくなる。よって、P16からP22に進むにつれて、バリ取りの間隔を小さくする必要があるので、バリ取り用工具7のXY平面に沿う方向の移動量を小さくしている(
図7の(b)参照)。
この場合、バリ取り用工具7は、XY平面に沿う方向への移動(位置決めに係る移動)速度は、Z方向上方への移動(切削に係る移動)速度よりも高く設定されている。
【0072】
[P23〜P1(第4象限)までのバリ取り]
図8で示すプログラム8のうち、P23〜P1(第4象限)までのバリ取りパスS用のプログラム82(N53〜N68)について説明する。
【0073】
図7の(b)、(c)に示すように、P22でのバリ取りが完了した後、バリ取り用工具7をZ軸方向における下方に移動させて、次の切削範囲における切削開始点(P23z)に位置決めする(
図7の(c)中、破線矢印S1、
図8のN53)。そして、バリ取り用工具7をXY平面に沿う方向に(P23x、P23y)まで移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(c)中、実線矢印S2、
図8のN54)。そうすると、P23(P23x、P23y、P23z)でのバリ取りが完了する。
【0074】
P23でのバリ取りが完了すると、バリ取り用工具7をZ軸方向における下方に移動させて、次の切削範囲における切削開始点(P24z)に位置決めする(
図7の(c)中、破線矢印S1、
図8のN55)。そして、バリ取り用工具7をXY平面に沿う方向に(P24x、P24y)まで移動させて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215を接触させて切削を行う(
図7の(c)中、実線矢印S2、
図8のN56)。そうすると、P24(P24x、P24y、P24z)でのバリ取りが完了する。
以下同様にして、P1(P1x、P1y、P1z)までこの動作を繰り返してバリ取りを行う(Z方向で位置決め(
図7の(c)中、破線矢印S1)、XY平面に沿う方向で切削(
図7の(c)中、実線矢印S2)、
図8のN68まで。)。
ここで、第4象限における稜線215の曲率は、第1象限側に向かって大きくなる(
図5の(b)参照)。そうすると、P23からP1へ進むにつれて、1回のバリ取りで刃部71と稜線215とが接触する領域(後記する窪みK)が大きくなる。よって、P23からP1に進むにつれて、バリ取りの間隔を大きくしても良く、バリ取り用工具7のXY平面に沿う方向の移動量を大きくしている(
図7の(b)参照)。
この場合、バリ取り用工具7は、Z方向下方への移動(位置決めに係る移動)速度は、XY平面に沿う方向への移動(切削に係る移動)速度よりも高く設定されている。
【0075】
そして、バリ取り用工具7は、最初にバリ取りを実施した位置P1に最終的に到達する。この位置P1は、稜線215のバリ取りを終了するバリ取り終了位置P1(P1x、P1y、P1z)となる。よって、バリ取り用工具7がバリ取り終了位置P1(P1x、P1y、P1z)に到達した時点で、バリ取りパスS(バリ取りステップ)が終了する。
【0076】
実施の形態では、切削範囲の各々において、位置決め(破線矢印S1または破線矢印S2)と、切削(実線矢印S1または実線矢印S2)を1回ずつ実施し、周方向に連なった複数の切削範囲(P1―P2間から順番にP28−P1間まで連なった範囲)のバリ取りを、順番に実施する。そして、バリ取りを実施している間は、バリ取り用工具7の位置決めと、切削とが交互に実施されて、バリ取りパスSにおけるバリ取り用工具7の軌跡が、近似的に稜線215の形状に倣うようになっている。
【0077】
[退避パスU]
図8で示すプログラム8のうち、退避パスU用のプログラム83(N69〜N71)について説明する。
図7の(a)に示すように、退避パスUでは、刃部71の切刃710を稜線215から離間させた後、バリ取り用工具7を第2油孔220から退避させる。
【0078】
実施の形態では、バリ取り用工具7と固定プーリ200との干渉を避けるため、まず切削終了位置P1(P1x、P1y、P1z)にあるバリ取り用工具7を、Z方向に沿って所定位置(P1z―Δh)まで下方に移動させる(
図7の(a)中、破線矢印U1、
図8のN69)。これにより、刃部71の切刃710を稜線215から離間させる。
次に、XY平面に沿う方向にのみ加工原点Oに移動させる(
図7の(a)中、破線矢印U2、
図8のN70)。そして、バリ取り用工具7をZ方向に沿って、退避完了位置(例えば、Z200.0)まで上方に移動させる。これにより、第2油孔220からバリ取り用工具7を退避させるようになっている(
図7の(a)中、破線矢印U3、
図8のN71)。
これで、バリ取り用工具7が、退避完了位置に到達し、稜線215の退避パスU(退避ステップ)が終了する。そして、全てのバリ取りプログラムが終了する。
【0079】
[隣接する座標点の間隔]
隣接する座標点(P1〜P28)の間隔について説明する。
図9は、稜線215における固定プーリ200とバリ取り用工具7との接触状態を説明する図である。
図9の(a)は、
図7の(a)におけるD領域を拡大した図である。
図9の(b)は、
図7の(b)におけるC−C矢視図である。
図9の(c)は、
図7の(b)におけるD−D矢視図である。
なお、
図9の(b)と(c)は、バリ取り用工具7を境に、バリ取り前とバリ取り後における稜線215周りの表面状態を示している。
【0080】
図9の(a)に示すように、上記のバリ取りパスSにおいて、バリ取り用工具7の刃部71と稜線215とが接触すると、稜線215に刃部71の円弧形状が転写されて、座標点(P1〜P28)の各点の周りには、窪みKが形成される(K1〜K28)。
【0081】
隣接する座標点Pの間隔は、隣接する窪みK同士が少なくとも一部で重なるようになっている。そして、CADデータから求められた座標点P(X、Y、Z)が、実際の稜線215に対して多少のバラツキがあっても、確実に隣接する窪みK同士が少なくとも一部で重なる間隔となっている
【0082】
ここで、稜線215の曲率は、長軸側の端縁215a、215a周辺の曲率が、短軸側の端縁215b、215b周辺の曲率より大きくなっている(
図5の(b)参照)。
そうすると、刃部71と稜線215とが接触した場合、長軸側の端縁215a、215a周辺の座標点に形成される窪みKは、短軸側の端縁215b、215b周辺の座標点に形成される窪みKより大きくなる。
【0083】
よって、
図9の(b)、(c)に示すように、長軸側の端縁215a周辺の座標点(P15など)では、隣接する座標点の間隔L2(例えば、P14−P15間)を、短軸側の端縁215b周辺の座標点(P8など)に隣接する座標点の間隔L1(例えば、P7−P8間)よりも長く取ることができる(L1<L2)。よって、総ての座標点の間隔を均等にした場合よりも、効率的なバリ取りパスSとなっている。
なお、
図9の(b)、(c)では、座標点P15と座標点P8周りについて説明したが、これは座標点P1に隣接する座標点の間隔や、座標点P22に隣接する座標点の間隔ついても同様である。
【0084】
以上の通り、実施の形態では、
(1)第1油孔210(第1の孔)に、当該第1油孔210の径方向から第2油孔220(第2の孔)が交差しており、第1油孔210と第2油孔220との交差部の稜線215(稜線部分)に発生したバリBを、軸部72の先端に球状の刃部71が設けられたバリ取り用工具7(切削工具)を用いて除去するバリ取り方法であって、
軸部72の先端側を第2油孔220に挿入し、刃部71の切刃710(外周)を稜線215に対向させた初期位置に配置する配置ステップと、
配置ステップに続いて、稜線215に発生したバリBを、稜線215の周方向の全周に亘って取り除くバリ取りステップと、
バリ取りステップに続いて、刃部71を稜線215から離間させたのち、第2油孔220から退避させる退避ステップと、を有しており、
稜線215では、当該稜線215上に複数の座標点(P1〜P28)が設定されて、隣接する座標点の間が1回あたりの切削範囲とされることで、周方向に連なって複数の切削範囲が稜線215上に設定されており、
バリ取りステップは、
刃部71の位置を、2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、刃部71を切削範囲における切削開始点に位置決めする位置決めステップと、
刃部71をZ軸(軸部72の軸線)回りに回転させながら、刃部71の位置を、切削開始点から2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、切削範囲を切削する切削ステップと、を有しており、
バリ取りステップでは、位置決めステップと切削ステップとを交互に実施しながら、稜線215上に設定された複数の切削範囲を順番に切削する構成とした。
【0085】
このように構成すると、バリ取り用工具7の同時軸移動が最大で2次元方向に限られている場合であっても、交差部の稜線215に発生したバリBを適切に除去できる。
【0086】
(2)位置決めステップの際の刃部71の移動(変位)量と、切削ステップの際の刃部71の移動(変位)量は、交差部の稜線215におけるバリ取りを実施する領域の設計上の座標位置に基づいて設定されている構成とした。
【0087】
このように構成すると、交差部の稜線215に発生したバリBを適切に除去できる。
【0088】
(3)位置決めステップの際の刃部71の移動(変位)量と、切削ステップの際の刃部71の移動(変位)量は、交差部の稜線215におけるバリ取りを実施する領域の設計上の座標位置に対するバラツキを考慮して設定されている構成とした。
【0089】
このように構成すると、交差部の稜線215における、バリ取りの未処理部分の発生を好適に防止し、バリBを確実に除去することが可能になる。
【0090】
(4)位置決めステップの際の刃部71の移動(変位)量と、切削ステップの際の刃部71の移動(変位)量は、交差部の稜線215におけるバリ取りを実施する領域の曲率に基づいて設定されている構成とした。
【0091】
このように構成すると、曲率の大きい領域では、切削の際の刃部71の変位量を大きく取ることができるので、バリ取りをより短時間で実施できる
【0092】
(5)位置決めステップの際の刃部71の移動(変位)速度を、切削ステップの際の刃部71の移動(変位)速度よりも速い速度で実施する構成とした。
【0093】
このように構成すると、位置決めの際の刃部71の変位速度が速くなった分だけ、交差部の稜線215のバリ取りに要する加工時間の短縮が可能になる。
【0094】
(6)バリ取りステップにおける、刃部71の位置の移動(変位)には、
Z軸方向(挿入方向)に交差する方向への刃部71の移動を規制した状態で、刃部71を、Z軸方向で稜線215に近づく方向に直線状に変位させる第1変位(
図7の(c)における上向き矢印S1で示す移動)と、
Z軸方向に交差する方向への刃部71の移動を規制した状態で、刃部71を、Z軸方向で稜線215から離れる方向に直線状に変位させる第2変位(
図7の(c)における下向き矢印S1で示す移動)と、
Z軸方向への刃部71の移動を規制した状態で、刃部71を、Z軸方向に交差する方向で直線状に変位させる第3変位(
図7の(c)における右向き矢印S2で示す移動)と、があり、
バリ取りを実施する切削範囲が、切削開始点から次の切削範囲側に離れるにつれて、軸部72の基端に近づく方向に変化する場合には、切削ステップにおいて刃部71の第1変位を実施すると共に、位置決めステップにおいて刃部71の第3変位を実施し、
バリ取りを実施する切削範囲が、切削開始点から次の切削範囲側に離れるにつれて、軸部72の基端から離れる方向に変化する場合には、切削ステップにおいて刃部71の第3変位を実施すると共に、位置決めステップにおいて刃部71の第2変位を実施し、
位置決めステップにおける刃部71の移動速度を、切削ステップにおける刃部71の移動速度よりも速い速度で実施する構成とした。
【0095】
このように構成すると、バリ取りが実施されない刃部71の変位速度が速くなった分だけ、交差部の稜線215のバリ取りに要する加工時間の短縮が可能になる。
【0096】
さらに、本願発明は、バリ取り用工具7を用いてバリを除去するためのバリ取り装置1の制御装置2としても特定可能である。具体的には、
(7)第1油孔210(第1の孔)に、当該第1油孔210の径方向から第2油孔220(第2の孔)が交差しており、第1油孔210と第2油孔220との交差部の稜線215(稜線部分)に発生したバリBを、軸部72の先端に球状の刃部71が設けられたバリ取り用工具7(切削工具)を用いて除去するバリ取り装置1の制御装置2であって、
軸部72の先端側を第2油孔220に挿入し、刃部71の切刃710(外周)を稜線215に対向させた初期位置に配置する配置手段と、
稜線215に発生したバリBを、稜線215の周方向の全周に亘って取り除くバリ取り手段と、
刃部71を稜線215から離間させたのち、第2油孔220から退避させる退避手段と、
稜線215上に複数の座標点(P1〜P28)を設定して、隣接する座標点の間を1回あたりの切削範囲とすることで、周方向に連なる複数の切削範囲を稜線215上に設定する切削範囲設定手段と、を有し、
バリ取り手段は、
刃部71の位置を、2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、刃部71を切削範囲における切削開始点に位置決めする位置決め手段と、
刃部71をZ軸(軸部72の軸線)回りに回転させながら、刃部71の位置を、切削開始点から2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、切削範囲を切削する切削手段と、を有しており、
バリ取り手段は、
位置決め手段による刃部71の移動(変位)と切削手段による刃部71の移動(変位)とを交互に実施しながら、複数の切削範囲を順番に切削する構成とした。
【0097】
このように構成すると、バリ取り用工具7の同時軸移動が最大で2次元方向に限られている場合であっても、交差部の稜線215に発生したバリBを適切に除去できるように制御することができる。
【0098】
さらに、本願発明は、バリ取り用工具7を用いてバリを除去するためのバリ取り装置1用のプログラムとしても特定可能である。具体的には、
(8)第1油孔210(第1の孔)に、当該第1油孔210の径方向から第2油孔220(第2の孔)が交差しており、第1油孔210と第2油孔220との交差部の稜線215(稜線部分)に発生したバリBを、軸部72の先端に球状の刃部71が設けられたバリ取り用工具7(切削工具)を用いて除去するバリ取り装置1用のプログラムであって、
コンピュータを、
軸部72の先端側を第2油孔220に挿入し、刃部71の切刃710(外周)を稜線215に対向させた初期位置に配置する配置手段、
稜線215上に複数の座標点(P1〜P28)を設定して、隣接する座標点の間を1回あたりの切削範囲とすることで、周方向に連なる複数の切削範囲を稜線215上に設定する切削範囲設定手段、
刃部71の位置を、2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、刃部71を切削範囲における切削開始点への位置決めする位置決め手段、
刃部71をZ軸(軸部72の軸線)回りに回転させながら、刃部71の位置を、切削開始点から2次元方向または1次元方向に直線状に変位させて、切削範囲を切削する切削手段、
位置決め手段による刃部71の移動(変位)と切削手段による刃部71の移動(変位)とを交互に実施しながら、複数の切削範囲を順番に切削して、稜線215に発生したバリBを、稜線215の周方向の全周に亘って取り除くバリ取り手段、
刃部71を稜線215から離間させたのち、第2油孔220から退避させる退避手段、
として機能させる構成とした。
【0099】
このように構成すると、機械本体3によるバリ取り用工具7の同時軸移動が最大で2次元方向に限られている場合であっても、交差部の稜線215に発生したバリBを適切に除去できるように制御することができる。
【0100】
(9)バリ取り装置1の機械本体3は、立型マシニングセンタである構成とした。
【0101】
このように構成すると、第2油孔220の穴あけ加工とバリ取りを同一の機械で同一の加工原点を用いて行うことができ、第2油孔220の穴あけ加工とバリ取りとの間で段取り替えをする必要が無い。
よって、第2油孔220の穴あけ加工とバリ取りを、別々の加工機で行う場合に必要な段取り作業を短縮することができる。
【0102】
実施の形態では、機械本体3は立型マシニングセンタを用いた場合について例示したが、X軸、Y軸、Z軸の3つの直動駆動軸を有する工作機械であればよく、例えば横型マシニングセンタや、ミーリング機能付きのNC旋盤であっても良い。