(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
緯糸(31)と複数の経糸(32)とにより織成されるファスナーテープ(20)と、前記ファスナーテープ(20)の織成と同時に前記ファスナーテープ(20)にテープ長さ方向に沿って織り込み固定される連続状の複数のファスナーエレメント(11)とを有し、前記ファスナーテープ(20)は、テープ主体部(22)と、前記テープ主体部(22)の一側縁部からテープ幅方向に延出するとともに前記ファスナーエレメント(11)が固定されるエレメント取付部(21)とを備え、前記ファスナーエレメント(11)の1ピッチ毎に前記緯糸(31)が1回ずつ緯入れされる織構造を備えるファスナーストリンガー(10)であって、
前記テープ主体部(22)に配される前記経糸(32)は、所定の繊度を有する第1経糸(33)と、前記第1経糸(33)よりも大きな繊度を有する第2経糸(34)とを有し、
前記テープ主体部(22)は、複数の前記第2経糸(34)がテープ幅方向に連続して配される太糸連続領域(24)と、複数の前記第1経糸(33)がテープ幅方向に連続して配される細糸連続領域(25)とを有し、
前記ファスナーエレメント(11)の1ピッチ毎に1回ずつ緯入れされる前記緯糸(31)は、前記ファスナーテープ(20)における前記テープ主体部(22)に配される前記第1経糸(33)よりも大きな繊度を有してなる
ことを特徴とするファスナーストリンガー。
【背景技術】
【0002】
ファスナーストリンガーの1つに、合成樹脂製のモノフィラメントから連続的に成形されるコイル状の複数のファスナーエレメントが、ファスナーテープの織成と同時にそのファスナーテープの一側縁部に沿って織り込まれて固定されることにより形成されるファスナーストリンガーが知られており、このようなファスナーストリンガーは、一般的に、織込みファスナーストリンガーと呼ばれている。
【0003】
このような織込みファスナーストリンガーの場合、ファスナーテープは、緯糸と複数の経糸と用いて織成されている。また、ファスナーテープは、衣類等の製品におけるファスナー被着部材に取着されるテープ主体部と、そのテープ主体部の一側縁部からテープ幅方向に延出するとともにファスナーエレメントが固定されるエレメント取付部とを備える。
【0004】
このような織込みファスナーストリンガーについては、特開2000−303298号公報(特許文献1)や特開2002−85113号公報(特許文献2)などに記載されている。例えば特許文献1には、
図4に示したファスナーストリンガー70が、実施例の1つとして記載されている。
【0005】
この
図4に示したファスナーストリンガー70は、緯糸81及び複数の経糸82を用いて織成されるファスナーテープ71と、ファスナーテープ71に織り込まれて固定されるコイル状の複数のファスナーエレメント72とを有する。この場合、ファスナーテープ71は、ファスナーエレメント72が取り付けられるエレメント取付部71aと、ファスナー被着部材に取り付けられるテープ主体部71bとを有する。また、ファスナーテープ71を形成する緯糸81と経糸82とには、一般的に同じ太さの糸条が用いられる。
【0006】
図4のファスナーテープ71のエレメント取付部71aには、ファスナーエレメント72を固定する複数の経糸(エレメント固定用経糸)82と、これらの経糸82と交差して織組織を形成する緯糸81とが配されている。また、エレメント取付部71aには、コイル状に連続して成形された複数のファスナーエレメント72が、エレメント取付部71aの織成中にエレメント取付部71aの経糸82間に挿入されて固定されている。
【0007】
各ファスナーエレメント72は、噛合頭部と、ファスナーテープ71から突出して配される噛合頭部と、噛合頭部からテープ内方に向けてテープ幅方向に沿って延出する上脚部及び下脚部と、上脚部(又は下脚部)の端部及びテープ長さ方向に隣接するファスナーエレメント72の下脚部(又は上脚部)の端部間を連結する連結部とを有する。
【0008】
特に
図4のファスナーストリンガー70の場合、緯糸81が1回緯入れされる毎に、1つのファスナーエレメント72がその緯糸81と一緒に挿入されて固定される織構造を備える。このような織構造は、ファスナーテープ71を形成する緯糸81の1回転毎にファスナーエレメント72が1ピッチで挿入されて固定されるため、1回転1ピッチの織構造と称する。
【0009】
ファスナーテープ71のテープ主体部71bは、エレメント取付部71aから連続して配される緯糸81と、複数の経糸82とを用いて形成されている。また、テープ主体部71bにおけるエレメント取付部71aとは反対側の外側端部には、緯糸折返し端部74が配されている。この緯糸折返し端部74は、緯糸81による折り返しループ部73が、次の位置で緯入れされる緯糸81の折り返しループ部73に引っ掛けられることによって、複数の折り返しループ部73が経方向に連結されて形成されている。
【0010】
更に、
図4のファスナーストリンガー70では、ファスナーテープ71を織成する織機に適宜配される編針を用いて、緯糸81を緯入れする度に緯糸81に2つのループ75を形成するとともに、これら2つのループ75を次の緯入れ位置で緯糸81に形成される2つのループ75にそれぞれ交絡させることによって、2つのループ列76が形成されている。これら2つのループ列76は、それぞれ経方向に沿って連続的に形成されている。
【0011】
上述のような特許文献1のファスナーストリンガー70では、1回転1ピッチの織構造で織成されているため、緯糸81の密度が小さくなるものの、ファスナーテープ71のテープ主体部71bに2つのループ列76が形成されるため、テープ主体部71bにおける緯糸折返し端部74側のテープ側縁部(外側テープ端縁部)における織目の位置ずれが生じ難いという利点を備える。なお、以下の説明においては、織目の位置ずれを、目ずれと簡単に略記することがある。
【0012】
また特許文献1には、他の実施例として、
図5に示したようなファスナーストリンガー90が記載されている。
図5に示したファスナーストリンガー90は、緯糸81及び複数の経糸82を用いて織成されるファスナーテープ91と、ファスナーテープ91に織り込まれて固定されるコイル状の複数のファスナーエレメント92とを有する。また、ファスナーテープ91は、エレメント取付部91aと、テープ主体部91bとを有しており、エレメント取付部91aには、コイル状の複数のファスナーエレメント92が織り込み固定される。
【0013】
また、
図5のファスナーストリンガー90は、緯糸81が2回緯入れされる毎に、1つのファスナーエレメント92が挿入されて固定される2回転1ピッチの織構造で形成されている。このようにファスナーエレメント92に対する緯糸81の挿入回数を増やすことにより、緯糸81の密度を、
図4のファスナーストリンガー70の場合よりも大きくして、織組織を密に形成することができる。
【0014】
また、
図5のファスナーストリンガー90においても、ファスナーテープ91の外側テープ端縁部には緯糸折返し端部94が形成される。また、ファスナーテープ91のテープ主体部91bには、2つのループ列96が経方向に沿って連続的に形成されている。
【0015】
このような
図5のファスナーストリンガー90では、2つのループ列96がテープ主体部91bに形成されているとともに、緯糸81の密度が2回転1ピッチの織構造により高められている。このため、
図5のテープ主体部91bにおける外側テープ端縁部では、
図4のファスナーストリンガー70よりも更に目ずれを生じ難くすることができる。
【0016】
一方、特許文献2には、コイル状のファスナーエレメントがファスナーテープのエレメント取付部に織り込まれて固定されるとともに、ファスナーテープ及びファスナーエレメントが1回転1ピッチの織構造で織成されて形成されるファスナーストリンガーが記載されている。
【0017】
特許文献2のファスナーストリンガーでは、ファスナーテープのエレメント取付部を形成する複数のエレメント固定用経糸のうちの一部に、他のエレメント固定用経糸よりも太いモノフィラメントが用いられている。特にこの場合、太いモノフィラメントからなる経糸は、ファスナーエレメントを固定する複数のエレメント固定用経糸のうちのファスナーエレメントの連結部側に配される少なくとも1本のエレメント固定用経糸に用いられる。
【0018】
このような特許文献2のファスナーストリンガーによれば、太いモノフィラメントからなるエレメント固定用経糸により、ファスナーエレメントの上脚部及び下脚部を締め付ける力が、その他のエレメント固定用経糸による上脚部及び下脚部の締め付け力よりも大きくなる。
【0019】
それにより、ファスナーエレメントがファスナーテープの側縁部に沿って均一なピッチで且つ均整に固定されるため、スライダーによるスライドファスナーの開閉操作を円滑に行うことができる。また、テープ長さ方向に隣接するファスナーエレメントの噛合頭部間の間隔を僅かに拡大・縮小させることが可能となるため、左右のファスナーエレメントの噛合動作を円滑に行うことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
例えば
図5に示したファスナーストリンガー90の場合、上述したように2回転1ピッチの織構造でファスナーストリンガー90が織成されているため、緯糸81の密度が大きなファスナーテープ91が形成される。また、2回転1ピッチの織構造を採用することにより、ファスナーテープ91のテープ主体部91bを様々な織組織で形成することも可能となり、ファスナーテープ91に融通性を持たせることができる。
【0022】
しかし、2回転1ピッチの織構造を採用してファスナーストリンガー90を形成する場合、例えば
図4のような1回転1ピッチの織構造を採用してファスナーストリンガー70を形成する場合に比べて、ファスナーテープ91の織成工程における緯糸81の挿入回数(緯入れ回数)が2倍になる。このため、ファスナーストリンガー90の生産性の低下や製造コストの増大を招く。また、緯糸81の密度が大きくなることによって、ファスナーストリンガー90の軽量化が阻害されるとともに、ファスナーストリンガー90の柔軟性に影響を与える可能性も考えられる。
【0023】
これに対して、
図4に示したファスナーストリンガー70や、特許文献2に記載されているファスナーストリンガーの場合、1回転1ピッチの織構造が採用されているため、
図5に示したファスナーストリンガー90に比べて、生産性の増大や製造コストの削減を図ることができる。
【0024】
しかしながら、1回転1ピッチの織構造で形成されるファスナーストリンガーは、ファスナーテープの織組織(特に、テープ主体部の織組織)が、2回転1ピッチの織構造の場合よりも粗くなるため、ファスナーテープに目ずれが生じ易くなるという欠点がある。すなわち、ファスナーテープのテープ主体部の織目が粗くなると、スライドファスナーをファスナー被着部材に取り付けて使用する場合に、スライドファスナーの開閉操作時にファスナーストリンガーに生じる横引き力によって、ファスナーテープのテープ主体部に大きな目ずれが生じ易くなる。
【0025】
このような目ずれがファスナーテープのテープ主体部に発生すると、ファスナーテープのテープ強度の低下や耐摩耗性の低下を招き、ファスナーテープに糸切れ等の損傷が生じ易くなる。その結果、スライドファスナーの寿命(使用期間)を短くさせる虞が考えられる。
【0026】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、高い生産性が確保できる1回転1ピッチの織構造を採用して低コストで製造可能で、且つ、テープ主体部に目ずれを生じ難くすることが可能な織込みファスナーストリンガーを提供すること、更には、ファスナーストリンガーの軽量化や柔軟性の向上が見込まれる織込みファスナーストリンガーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるファスナーストリンガーは、緯糸と複数の経糸とにより織成されるファスナーテープと、前記ファスナーテープの織成と同時に前記ファスナーテープにテープ長さ方向に沿って織り込み固定される連続状の複数のファスナーエレメントとを有し、前記ファスナーテープは、テープ主体部と、前記テープ主体部の一側縁部からテープ幅方向に延出するとともに前記ファスナーエレメントが固定されるエレメント取付部とを備え、前記ファスナーエレメントの1ピッチ毎に前記緯糸が1回ずつ緯入れされる織構造を備えるファスナーストリンガーであって、
前記テープ主体部に配される前記経糸は、所定の繊度を有する第1経糸と、前記第1経糸よりも大きな繊度を有する第2経糸とを有し、前記テープ主体部は、複数の前記第2経糸がテープ幅方向に連続して配される太糸連続領域と、複数の前記第1経糸がテープ幅方向に連続して配される細糸連続領域とを有し、前記ファスナーエレメントの1ピッチ毎に1回ずつ緯入れされる前記緯糸は、前記ファスナーテープにおける前記テープ主体部に配される
前記第1経糸よりも大きな繊度を有してなることを最も主要な特徴とするものである。
【0029】
前記ファスナーテープは、前記テープ主体部の他側縁部に配され、前記緯糸がループを形成して折り返される緯糸折返し端部を有し、前記太糸連続領域は、前記緯糸折返し端部に隣接する前記経糸の位置からテープ幅方向に配され、前記太糸連続領域と前記エレメント取付部との間に、
前記細糸連続領域が配されること
が好ましい。
【0030】
本発明のファスナーストリンガーにおいて、前記緯糸及び前記第2経糸は、前記第1経糸の繊度の2倍の繊度を有することが好ましい。
【0031】
またこの場合、前記緯糸及び前記第2経糸は、前記第1経糸を形成する糸条が2本引き揃えられた形態を有することが更に好ましい。
【0032】
本発明のファスナーストリンガーにおいて、前記緯糸の繊度は、500dtex以上1000dtex以下であり、前記第1経糸の繊度は、166dtex以上500dtex以下であり、前記第2経糸の繊度は、500dtex以上1000dtex以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るファスナーストリンガーは、織組織を備えるファスナーテープと、ファスナーテープの織成と同時にファスナーテープにテープ長さ方向に沿って織り込み固定される連続状の複数のファスナーエレメントとを有する織込みファスナーストリンガーである。本発明のファスナーテープは、テープ幅方向に区画されるテープ主体部及びエレメント取付部を有し、ファスナーエレメントは、ファスナーテープのエレメント取付部に固定される。
【0034】
また、本発明のファスナーストリンガーは、連続して形成されるファスナーエレメントの1ピッチ毎に緯糸が1回ずつ緯入れされる織構造、言い換えると、緯糸が1回緯入れされる毎に1つのファスナーエレメントが挿入されて固定される1回転1ピッチの織構造を有する。このため、本発明のファスナーストリンガーでは、例えば従来の2回転1ピッチの織構造で形成される
図5のファスナーストリンガー90に比べて、緯糸の挿入回数を減少させて高い生産性で製造することが可能であるため、大幅なコストダウンを図ることができる。
【0035】
更に、本発明のファスナーストリンガーでは、1回転1ピッチの織構造でファスナーテープが形成されると同時に、ファスナーテープの緯糸に、テープ主体部に配される少なくとも一部の経糸(具体的には、後述する第1経糸)よりも太い糸条が用いられる。このように大きな繊度を有する緯糸を用いてテープ主体部が形成されることにより、例えば従来の1回転1ピッチの織構造で形成される
図4のファスナーストリンガー70に比べて、緯糸の密度を増大させてテープ主体部が形成されている(言い換えると、テープ主体部が密な組織で形成されている)。それにより、ファスナーテープに目ずれを生じさせ難くすることができるため、ファスナーテープのテープ強度の低下や耐摩耗性の低下を抑制できる。その結果、長期に亘って安定して使用可能な寿命の長いスライドファスナーを低コストで提供することができる。
【0036】
このような本発明のファスナーストリンガーにおいて、ファスナーテープのテープ主体部には、経方向に配される経糸として、所定の繊度を有する複数の第1経糸と、その第1経糸よりも大きな繊度を有する複数の第2経糸とが配される。またこの場合、ファスナーテープの緯糸の繊度は、第1経糸よりも大きく設定される。
【0037】
このように繊度(太さ)の異なる2種類の第1経糸及び第2経糸を用いてファスナーテープのテープ主体部が形成されることにより、太い第2経糸の存在によって、ファスナーテープのテープ強度及び耐摩耗性を更に向上できるとともに、細い第1経糸の存在によって、太い第2経糸を用いることによる弊害を抑制できる。
【0038】
すなわち、例えば太い第2経糸のみを用いてテープ主体部が形成される場合、テープ主体部のテープ表面やテープ裏面に大きな凹凸が形成され易くなり、ファスナーテープの見栄え(外観品質)が低下することや、ファスナーテープの肌触りが悪くなることが考えられる。また、ファスナーテープの高重量化や、ファスナーテープの柔軟性の低下を招くことも考えられる。
【0039】
これに対して、ファスナーテープのテープ主体部が、第2経糸だけでなく、第2経糸よりも繊度の小さな第1経糸を用いて形成されることにより、上述のような見栄え(外観品質)や肌触りの低下を抑えるとともに、ファスナーテープの軽量化やコスト削減を図ることができる。また、第1経糸がテープ主体部に配されることにより、ファスナーテープが適切な柔軟性を備えることができる。すなわち、ファスナーテープのテープ主体部に、緯糸より繊度が小さい第1経糸と、その第1経糸より繊度が大きい第2経糸の2種類の経糸が配されることにより、良好な見栄えや良好な肌触りが得られるといった第1経糸の使用による利点と、高いテープ強度及び耐摩耗性といった第2経糸の使用による利点とをバランス良く兼ね備えることができる。
【0040】
この場合、ファスナーテープのテープ主体部は、複数の第2経糸がテープ幅方向に連続して配される太糸連続領域を有する。これにより、テープ主体部の太糸連続領域では、緯糸の密度だけでなく、経糸の密度も効果的に高められるため、目ずれをより生じさせ難くすることができる。
【0041】
また、本発明のファスナーテープは、テープ主体部の他側縁部に配され、緯糸がループを形成して折り返される緯糸折返し端部を有する。この場合、複数の第2経糸が連続的に配される上述の太糸連続領域は、ファスナーテープの緯糸折返し端部に隣接する経糸の位置からテープ幅方向に延びるように配される。また、この太糸連続領域とエレメント取付部との間には、複数の細い第1経糸が連続して配される細糸連続領域が配される。
【0042】
これにより、本発明のファスナーストリンガーを用いて製造されるスライドファスナーが、ファスナー被着部材に取着されて使用される場合に、ファスナーテープとファスナー被着部材とを縫い合わせる縫製部の位置を、テープ主体部の太糸連続領域内に又は太糸連続領域に近接する位置に設定することが可能となる。その結果、スライドファスナーに横引き力が加えられても、ファスナーテープの目ずれをより効果的に小さく抑えることができる。更に、ファスナーテープのテープ主体部に、複数の第1経糸が連続して配される細糸連続領域が設けられることにより、細い第1経糸の使用によるファスナーテープの良好な見栄えや良好な肌触りが安定して得られるとともに、ファスナーテープが適切な柔軟性を備えることも可能となる。
【0043】
特に本発明のファスナーストリンガーにおいて、緯糸と第2経糸とは、第1経糸の繊度の2倍の繊度を有する。これにより、ファスナーテープの良好な見栄えや良好な肌触りを確保するとともに、織組織に目ずれが生じることを効果的に抑制し、スライドファスナーの使用に耐え得るファスナーテープの適切なテープ強度や適切な耐摩耗性を安定して確保できる。
【0044】
またこの場合、上述の緯糸と第2経糸とは、第1経糸を形成する糸条が2本引き揃えられた形態を有する。これにより、緯糸及び第2経糸の繊度を、第1経糸の繊度よりも確実に大きくすることができる。また、緯糸と第2経糸とを、第1経糸と同じ糸条を利用して形成することが可能であるため、ファスナーストリンガーの製造コストをより効果的に削減できる。
【0045】
本発明のファスナーストリンガーの好ましい態様において、緯糸の繊度は、500dtex以上1000dtex以下である。第1経糸の繊度は、166dtex以上500dtex以下である。第2経糸の繊度は、500dtex以上1000dtex以下である。緯糸、第1経糸、及び第2経糸が、上述のような範囲の繊度を有するファスナーストリンガーであれば、ファスナーテープ(特にテープ主体部)の織組織に目ずれが生じることを効果的に抑制できるとともに、ファスナーテープの良好な見栄えや良好な肌触りを安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0048】
例えば、以下の実施形態において説明するファスナーストリンガーでは、ファスナーテープに織り込み固定される複数のファスナーエレメントが、モノフィラメントをコイル状に成形することにより連続状に形成されているが、本発明はこれに限定されず、モノフィラメントをジグザグ状に成形することにより複数のファスナーエレメントが連続状に形成されていても良い。また、ファスナーテープを構成する緯糸及び各経糸の材質についても特に限定されるものではなく、従来のファスナーストリンガーにおいて一般的に用いられている糸条と同様のものを採用することができる。
【0049】
ここで、
図1は、本実施形態に係るファスナーストリンガーを有するスライドファスナーを模式的に示す平面図である。
図2は、ファスナーストリンガーの織組織について模式的に説明する模式図である。
図3は、スライドファスナーが製品のファスナー被着部材に取着された状態を模式的に示す断面図である。
【0050】
なお、これらの図においては本発明の特徴を理解し易くするために、ファスナーストリンガーの織込構造(織組織)を粗く示している。しかし実際には、ファスナーストリンガーとしての機能を考慮して、ファスナーテープを形成する緯糸及び各経糸には所要の太さの糸条が使用されるとともに、ファスナーテープの織組織も緻密に形成される。
【0051】
また以下の説明において、前後方向とは、ファスナーテープのテープ長さ方向を指し、スライダーが摺動する摺動方向と同じ直線的な方向を言う。左右方向とは、ファスナーテープのテープ幅方向を指し、ファスナーテープのテープ面に平行で、且つ、テープ長さ方向に直交する方向である。上下方向とは、ファスナーテープのテープ表面及びテープ裏面に直交するテープ表裏方向を指す。特に本実施形態の場合、前後方向及び左右方向に直交し、且つ、ファスナーテープに対してスライダーの引手が配される側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。また、経方向(経糸方向)とは経糸の長さ方向であり、ファスナーテープのテープ長さ方向と同じ方向である。
【0052】
本実施形態に係るスライドファスナー1は、左右のファスナーテープ20の対向するテープ側縁部(後述するエレメント取付部)21に複数のファスナーエレメント11が織り込まれることによりエレメント列12がそれぞれ形成される左右一対のファスナーストリンガー10と、左右のエレメント列12に沿って摺動可能に取り付けられるスライダー40と、左右のエレメント列12の前端部に隣接して配される第1止具51(上止具と言うこともある)と、左右のエレメント列12の後端部に隣接するとともに左右のファスナーストリンガー10間を連結して配される第2止具52(下止具と言うこともある)とを有する。
【0053】
なお、本実施形態のスライドファスナー1は、ファスナーストリンガー10のファスナーテープ20に主な特徴を有するものであり、本実施形態のスライダー40、第1止具51、及び第2止具52は、従来の通常のスライドファスナーにおいて一般的に用いられるスライダー、第1止具、及び第2止具と実質的に同様に形成される。
【0054】
例えば本実施形態のスライダー40は、スライダー胴体41と、スライダー胴体41に回動可能に保持される引手49とを備える。また、スライダー胴体41は、例えば
図3に示すように、互いに平行に配される上翼板42及び下翼板43と、その上翼板42の前端部及び下翼板43の前端部間を連結する図示しない連結柱と、上翼板42の左右側縁部から下方に延出する左右の上フランジ部44と、上翼板42の上面に立設される引手取付部45と有する。
【0055】
この場合、スライダー胴体41の左右の上フランジ部44が、左右のファスナーストリンガー10に取着されるファスナーエレメント11を当接させ、それによって、スライダー胴体41内におけるファスナーエレメント11のテープ幅方向の位置が規制される。
【0056】
また、スライダー胴体41の前端部には、連結柱の左右両側に配される肩口が設けられ、スライダー胴体41の後端部には、後口が設けられる。更に、上翼板42、下翼板43、及び左右の上フランジ部44に囲まれるようにして、左右の肩口と後口とを連通する略Y字形状のエレメント案内路が形成される。更に、スライダー胴体41における左右の上フランジ部44と下翼板43との間には、ファスナーテープ20を挿通させるテープ挿通間隙46が形成される。
【0057】
第1止具51及び第2止具52は、左右のファスナーテープ20に、エレメント列12の前方及び後方に連続するようにそれぞれ設けられている。これら第1止具51及び第2止具52が配されることにより、スライダー40が左右のエレメント列12から脱落することを防止できる。
【0058】
なお本発明では、必要に応じて、スライダー40、第1止具51、及び第2止具52の構造等を任意に変更することも可能である。また本発明では、スライドファスナー1に第2止具52を設ける代わりに、一方のファスナーテープ20に形成される蝶棒と、他方のファスナーテープ20に形成される箱棒と、箱棒の後端部に一体形成されるとともに蝶棒を挿入可能な挿入凹部を備える箱体とを有する開離嵌挿具が設けられていても良い。
【0059】
本実施形態における左右のファスナーストリンガー10は、緯糸31と複数の経糸32とを用いて織成されるファスナーテープ20と、コイル状に連続して形成されるとともにファスナーテープ20の織成時に同ファスナーテープ20に織り込まれるファスナーエレメント11とを有する。また、本実施形態のファスナーストリンガー10は、緯糸31が1回緯入れされる毎に、1つのファスナーエレメント11がその緯糸31と一緒に挿入されて固定される、所謂1回転1ピッチの織構造で形成される。
【0060】
本実施形態において、左右の各ファスナーテープ20は、ファスナーエレメント11が織り込み固定されるエレメント取付部21と、エレメント取付部21からテープ幅方向に延びるテープ主体部22とを有する。すなわち、テープ主体部22とエレメント取付部21とは、ファスナーテープ20のテープ長さ方向に沿った図示しない所定の境界部により、テープ幅方向に区画されて配される。
【0061】
ファスナーテープ20のテープ主体部22は、スライドファスナー1を衣類等の製品に取り付ける際にその製品のファスナー被着部材60(例えば衣類の生地)に重ねられて、縫い付けられるテープ部分である。このテープ主体部22は、ファスナーストリンガー10を上方から見た平面視において(例えば
図2を参照)、テープ幅方向に関し、ファスナーエレメント11におけるテープ内方側のエレメント側端縁の位置から、ファスナーテープ20におけるファスナーエレメント11が取り付けられる側のテープ端縁(テープ内端縁)とは反対側に配されるテープ端縁(テープ外端縁)までの領域である。
【0062】
ファスナーテープ20のエレメント取付部21は、テープ主体部22の一側縁(テープ内側側縁)から、噛合相手側のファスナーストリンガー10に向けてテープ幅方向に延出するテープ側縁部21である。このエレメント取付部(テープ側縁部)21は、テープ幅方向に関し、ファスナーエレメント11におけるテープ内方側のエレメント側端縁の位置から、ファスナーテープ20の上述したテープ内端縁までの領域である。
【0063】
本実施形態における複数のファスナーエレメント11は、合成樹脂製のモノフィラメントをコイル状に成形することにより、テープ長さ方向に一続きに連続するように連結されて形成される。各ファスナーエレメント11は、噛合頭部11aと、噛合頭部11aからテープ幅方向に延出する上脚部11b及び下脚部11cと、上脚部11b又は下脚部11cから延出し、テープ長さ方向に隣接するファスナーエレメント11に連結される連結部11dとを有する。
【0064】
ファスナーエレメント11の噛合頭部11aは、上脚部11bと下脚部11cとを連結するように上下方向に形成されるとともに、上下方向の中間部分に前後方向に膨出する膨出部を備える。上脚部11bは、噛合頭部11aの上端部からテープ幅方向に向けて延出している。下脚部11cは、噛合頭部11aの下端部からファスナー幅方向に向けて上脚部11bと略平行に延出している。
【0065】
連結部11dは、各ファスナーエレメント11の上脚部11bと、当該ファスナーエレメント11の前後方向の一方に隣接するファスナーエレメント11の下脚部11cとを連結する(言い換えると、各ファスナーエレメント11の下脚部11cと、当該ファスナーエレメント11の前後方向の他方に隣接するファスナーエレメント11の上脚部11bとを連結する)。
【0066】
各ファスナーエレメント11は、その噛合頭部11aを、ファスナーテープ20におけるエレメント取付部21側のテープ側縁から、テープ幅方向の外側に突出させるようにして、上脚部11b及び下脚部11cがファスナーテープ20の織成と同時にエレメント取付部21に織り込まれることによって、当該エレメント取付部21に固定される。
【0067】
このような本実施形態のファスナーストリンガー10において、ファスナーテープ20の織組織は、例えば
図2に示したように、経方向に沿うように保持される複数の経糸32に対し、図示しないキャリアーバーを往復動させて緯糸31を経糸32間の開口内に緯入れすることにより形成される。本実施形態において、ファスナーテープ20を形成する緯糸31と複数の経糸32とには、ポリエステル繊維が用いられる。
【0068】
この場合、ファスナーテープ20の緯糸31は、2本の緯糸31が引き揃えられた双糸の形態で経糸32と交差するように配される。また、本実施形態の緯糸31は、テープ主体部22に配される後述の第1経糸33よりも繊度が大きな太い糸で形成される。このように緯糸31に太い糸を使用することにより、ファスナーテープ20に織目(緯糸31と経糸32が交差する部分)の位置ずれが生じ難くなり、ファスナーテープ20のテープ強度や耐摩耗性が効果的に高められる。
【0069】
ファスナーテープ20のテープ主体部22は、上述のように双糸の形態で配される緯糸31と複数の経糸32とが平織組織で織成されて形成される。また、テープ主体部22におけるエレメント取付部21の形成される側とは反対側の端部には、緯糸折返し端部23が配されている。この緯糸折返し端部23は、緯糸31による折り返しループ部が、次の位置で緯入れされる緯糸31の折り返しループ部に引っ掛けられることによって、複数の折り返しループ部が経方向に連結されることによって形成される。
【0070】
この場合、テープ主体部22を形成する経糸32として、互いに繊度が異なる2種類の経糸32(第1経糸33及び第2経糸34)が用いられる。例えば従来の織込みファスナーストリンガーにおいて、テープ主体部を形成する経糸には、通常全て同じ繊度を有する同じ糸条が用いられる。これに対して、本実施形態のファスナーストリンガー10の場合、テープ主体部22に配される経糸32が、後述するような所定の繊度を備える複数の第1経糸33と、第1経糸33よりも大きな繊度を備える複数の第2経糸34とを有する。
【0071】
特に本実施形態では、繊度が大きい複数の第2経糸34が、緯糸折返し端部23に隣接する経糸32の位置から、テープ幅方向のエレメント取付部21に近付く方向に向けて連続して配されている。それによって、テープ主体部22に、複数の第2経糸34による太糸連続領域24が形成される。この太糸連続領域24は、テープ幅方向に所定の大きさ(寸法)をもって形成される。
【0072】
この場合、テープ主体部22の太糸連続領域24は、テープ主体部22の全体のテープ幅方向における寸法に対し、太糸連続領域24のテープ幅方向における寸法が1/4以上、特に1/3以上となるように形成されることが好ましい。また具体的な大きさで規定すると、太糸連続領域24は、例えば、緯糸折返し端部23に隣接する経糸32の位置から、緯糸折返し端部23側のファスナーテープ20のテープ側縁からのテープ幅方向における寸法が3.5mm以上となる位置、特に5mm以上となる位置まで形成されることが好ましい。
【0073】
太糸連続領域24が、上述のようなテープ幅方向の範囲で連続的に形成されることにより、当該範囲における緯糸31及び経糸32の密度が高められ、ファスナーテープ20テープ強度や耐摩耗性を効果的に向上させることができる。なお、緯糸31及び経糸32の密度が高いとは、単位面積当たりの緯糸31及び経糸32の重量が大きいこと(重いこと)を言う。
【0074】
また、テープ主体部22の太糸連続領域24がテープ幅方向に適切な寸法で設けられることにより、後述するようにファスナーストリンガー10を製品のファスナー被着部材60に縫い付けて固定する場合に、ファスナーテープ20とファスナー被着部材60とを縫い合わせる縫製部(縫製線)61の位置を、テープ主体部22における糸密度の高い太糸連続領域24内に、又は太糸連続領域24に近接する領域に容易に設定することができる。
【0075】
そして、ファスナー被着部材60の縫製部61が、テープ主体部22の上述のような位置(特に、太糸連続領域24内の位置)に形成されることにより、例えばスライドファスナー1が、ファスナー被着部材60を介して、テープ幅方向の外側に向けて引っ張られる横引き力を受けた際に、太糸連続領域24における織目の位置をずれ難くすることができ、その結果、ファスナーテープ20のテープ強度や耐摩耗性を適切に維持できる。なお本発明において、太糸連続領域24の位置や大きさは特に限定されるものではなく、ファスナーテープ20のテープ幅方向における寸法、ファスナーエレメント11の大きさ、スライドファスナー1の用途等に応じて、任意に変更することが可能である。
【0076】
更に本実施形態のテープ主体部22には、上述した太糸連続領域24とエレメント取付部21との間に、第2経糸34よりも細い複数の第1経糸33が連続して配される細糸連続領域25が形成される。ファスナーテープ20のテープ主体部22が、上述のような第2経糸34の太糸連続領域24だけでなく、第1経糸33の細糸連続領域25も有することにより、上述のようにテープ主体部22の目ずれを生じ難くできると同時に、ファスナーテープ20の良好な見栄えや良好な肌触りを得ることができる。また、テープ主体部22に細糸連続領域25を設けることにより、例えばテープ主体部22を太糸連続領域24のみで形成する場合に比べて、製造コストの低減やファスナーストリンガー10の軽量化が可能となる。
【0077】
なお本発明において、細糸連続領域25のテープ幅方向における寸法は特に限定されず、少なくとも1本の第1経糸33がテープ主体部22に配されていれば良いが、2本以上の第1経糸33がテープ幅方向に連続して配されていることが好ましい。更に好ましい形態としては、テープ主体部22の細糸連続領域25が、例えば
図3に示すように、当該細糸連続領域25にスライダー胴体41の上フランジ部44が走行する走行範囲が配されるような大きさで設けられる。
【0078】
このように上フランジ部44の走行範囲がテープ主体部22の細糸連続領域25上に位置することにより、スライダー胴体41におけるテープ挿通間隙46の大きさを大きく確保しなくても、そのテープ挿通間隙46にファスナーテープ20を安定して挿通させることができる。またそれにより、上フランジ部44の上下方向における寸法(高さ寸法)を適切に確保できる。更に、ファスナーテープ20におけるテープ主体部22の上面の位置と、ファスナーエレメント11における連結部11dの上端の位置との間に、高さ方向の段差を安定して形成することができる。
【0079】
その結果、上フランジ部44にファスナーエレメント11を当接させて、スライダー胴体41内におけるエレメント列12の位置を安定して規制することができる。このため、ファスナーエレメント11がスライダー胴体41内から、テープ挿通間隙46を介してテープ幅方向(左右方向)に飛び出すことを防いで、ファスナーエレメント11をスライダー胴体41内に安定して保持できる。それによって、スライダー40の摺動操作による左右のエレメント列12の噛合・分離を円滑に行うことができる。
【0080】
更に、テープ主体部22の細糸連続領域25では、太糸連続領域24よりも高い柔軟性が得られ易くなる。このような細糸連続領域25内に上フランジ部44の走行範囲が配されることにより、例えばスライダー40をスライドファスナー1の閉鎖方向(先方)に向けて摺動させるときに、左右のファスナーエレメント11を噛み合わせし易くすることができ、それによって、スライダー40の摺動性を向上させることも期待できる。以上のようなテープ主体部22の細糸連続領域25の利点を考慮すると、細糸連続領域25は、エレメント取付部21に隣接する経糸32の位置から3本以上、好ましくは5本以上の第1経糸33が、緯糸折返し端部23に向けて連続的に配されて形成されることが好ましい。
【0081】
また本実施形態のファスナーストリンガー10において、緯糸31とテープ主体部22に配される第2経糸34とには、上述のように、テープ主体部22に配される第1経糸33よりも大きな繊度を有する糸条が用いられる。特に本実施形態の場合、緯糸31と第2経糸34とには同じ繊度を有する糸条が用いられている。それによって、緯糸31と第2経糸34とによって、平織組織をしっかりと安定して形成できる。また、緯糸31と第2経糸34に同じ糸条を使用できるため、製造コストの削減を図ることができる。
【0082】
この場合、緯糸31の繊度と第2経糸34の繊度は、第1経糸33の繊度の2倍の大きさに設定される。例えば第1経糸33の繊度が330dtex(300デニール)である場合、緯糸31の繊度と第2経糸34の繊度とは、660dtex(600デニール)に設定される。緯糸31の繊度と第2経糸34の繊度を第1経糸33の繊度の2倍にすることにより、ファスナーテープ20のテープ強度を向上させることができ、且つ、織成されたファスナーテープの見栄えを良くすることができる。特に本実施形態において、緯糸31に用いられる糸条と、第2経糸34に用いられる糸条とは、それぞれ、第1経糸33に用いられる糸条(マルチフィラメント糸)が2本引き揃えられた形態で形成される。
【0083】
これによって、緯糸31及び第2経糸34の繊度と、第1経糸33の繊度とを、容易に且つ確実に異ならせることができるとともに、各糸条の繊度の調整も容易となる。また、第1経糸33を形成する糸条を利用して、緯糸31の糸条と第2経糸34の糸条とをそれぞれ形成できるため、製造コストの削減を更に図ることも可能となる。なお、
図2及び
図3において、緯糸31及び第2経糸34は、各糸条の配置を判り易く図示するために、それぞれ1本の糸条で表されている。また、本発明の緯糸31及び第2経糸34には、それぞれ、1本のマルチフィラメント糸(撚糸)の形態で形成されていても良い。
【0084】
本実施形態において、緯糸31、第1経糸33、及び第2経糸34の具体的な繊度は、例えばファスナーテープ20のサイズ等に応じて、以下のように設定される。
緯糸31の繊度は、500dtex(450デニール)以上1000dtex(900デニール)以下に、好ましくは660dtex(600デニール)に設定される。第1経糸33の繊度は、166dtex(150デニール)以上500dtex(450デニール)以下に、好ましくは330dtex(300デニール)に設定される。第2経糸34の繊度は、500dtex(450デニール)以上1000dtex(900デニール)以下に、好ましくは660dtex(600デニール)に設定される。
【0085】
ファスナーテープ20のエレメント取付部21は、テープ主体部22から連続的に緯入れされ、各ファスナーエレメント11の下脚部11cに沿うように配される緯糸31と、複数の経糸32とにより形成される。この場合、エレメント取付部21に配される経糸32は、ファスナーエレメント11の噛合頭部11a寄りに配されるとともに各ファスナーエレメント11の下脚部11cの下面側を経方向に走行する2本の頭部側下固定用経糸35と、ファスナーエレメント11の下脚部11cの下面側と上脚部11bの上面側を跨ぎながら経方向に走行する6本の締付用経糸36と、ファスナーエレメント11の連結部11d寄りに配されるとともに各ファスナーエレメント11の下脚部11cの下面側を経方向に走行する2本の連結部側下固定用経糸37とを有する。また本実施形態の場合、エレメント取付部21に配される各経糸32(頭部側下固定用経糸35、締付用経糸36、及び連結部側下固定用経糸37)には、テープ本体部の第1経糸33と同じ糸条が利用される。
【0086】
エレメント取付部21に配される緯糸31は、以下のような方向へ走行するように(又は、その反対の方向へ走行するように)、経方向に直交する方向に挿入されている。すなわち、緯糸31は、経方向における上脚部11b及び下脚部11cが配されている位置において、テープ主体部22から下脚部11cの下面側をその下脚部11cに沿って緯方向に走行し、噛合頭部11a側に配される2本の頭部側下固定用経糸35に絡むとともに最も噛合頭部11a寄りに配される頭部側下固定用経糸35の周囲を回るようにして折り返される。更に、頭部側下固定用経糸35で折り返された緯糸31は、下脚部11cの下面側を緯方向に走行し、テープ主体部22に戻される。
【0087】
エレメント取付部21における2本の頭部側下固定用経糸35は、6本の締付用経糸36よりも噛合頭部11a側の領域に、互いに隣り合って配されており、これらの2本の頭部側下固定用経糸35によって、緯糸31を噛合頭部11a側の位置で折り返させる(反転させる)。
【0088】
エレメント取付部21における6本の締付用経糸36は、
図2及び
図3に示すように、ファスナーエレメント11の上脚部11bと、ファスナーエレメント11の下脚部11c及び当該下脚部11cに沿って走行する緯糸31とを挟むように、それぞれ一定の周期で交互に交絡しながら経方向に配されている。また本実施形態では、走行方向がテープ表裏方向に対称となる隣接した2本の締付用経糸36を1組として、3組の締付用経糸36がテープ幅方向に所定の間隔をもって配されている。これにより、複数のファスナーエレメント11(エレメント列12)をファスナーテープ20のエレメント取付部21に強固に織り込んで固定することができるとともに、織り込まれたファスナーエレメント11間のピッチを一定の大きさで安定させることができる。
【0089】
エレメント取付部21における2本の連結部側下固定用経糸37は、6本の締付用経糸36よりも連結部11d側の領域に、互いに隣り合って配されている。これらの2本の連結部側下固定用経糸37には、緯糸31が交互に絡んで織目が形成される。
【0090】
なお本発明において、ファスナーテープ20におけるエレメント取付部21の織組織は特に限定されるものではなく、例えばエレメント取付部21に配される締付用経糸36の本数を任意に変更することが可能である。また、複数のファスナーエレメント11をしっかりと固定することができれば、ファスナーテープ20のエレメント取付部21を、上述した実施形態以外の織組織で形成することも可能である。
【0091】
以上のような本実施形態のファスナーストリンガー10は、従来の通常の織込みファスナーストリンガーの製造に一般的に用いられる織機を用いて製造することができ、例えば
図4に示したようなテープ主体部71bに2つのループ列76が形成されるようなファスナーストリンガー70を製造する場合に比べて、容易に製造することが可能である。
【0092】
その上、本実施形態のファスナーストリンガー10は、上述したように1回転1ピッチの織構造で製造される。このため、本実施形態のファスナーストリンガー10は、例えば
図5に示したような2回転1ピッチの織構造を採用したファスナーストリンガー90に比べて、生産性を大幅に向上でき、ファスナーストリンガー10の製造コストを削減することができる。
【0093】
更に、本実施形態のファスナーストリンガー10によれば、緯糸31とテープ主体部22の第2経糸34とが、テープ主体部22の第1経糸33よりも大きな繊度を有するため、テープ主体部22の緯糸31及び経糸32の密度(特に、太糸連続領域24の緯糸31及び経糸32の密度)が、例えば
図4に示した従来のファスナーストリンガー70に比べて大幅に高められる。その結果、後述するようにファスナーテープ20に織目の位置ずれを生じさせ難くすることができる。
【0094】
以上のような本実施形態のファスナーストリンガー10を2つ一組で用いることにより、
図1に示したスライドファスナー1を製造することができる。そして、
図1に示したスライドファスナー1を例えば衣服などの製品に取り付ける場合には、製品のファスナー被着部材60(例えば衣服の生地)とファスナーテープ20のテープ主体部22を重ね合せて、その重ね合せた部分にミシンを用いて縫製加工を行う。
【0095】
これにより、
図3に示したように、ファスナーテープ20と製品のファスナー被着部材60とが、ミシンにより形成される縫製部(縫製線)61によって縫い合わせられるため、スライドファスナー1を製品に安定して取り付けることができる。この場合、ファスナーテープ20のテープ主体部22における太糸連続領域24を製品のファスナー被着部材60に重ねて、縫製部61によってその太糸連続領域24をファスナー被着部材60に縫着することが好ましい。
【0096】
そして、
図1のスライドファスナー1が上述のように取着された製品の使用時(例えば衣類の着用時)に、例えば製品が引っ張られること等によって、スライドファスナー1が、ファスナーテープ20のテープ幅方向の外側に向けて引っ張られる横引き力を受ける場合、ファスナーテープ20のテープ主体部22には、縫製部61を介して、織目の位置をテープ幅方向の外側にずらすような力が加えられることがある。
【0097】
このような場合でも、
図1のスライドファスナー1では、テープ主体部22(特に太糸連続領域24)の糸密度を大きくして目ずれが生じ難いようにファスナーテープ20が形成されている。それとともに、ファスナーテープ20のテープ主体部22(特に太糸連続領域24)が、製品のファスナー被着部材60に縫い付けられている。このため、ファスナーテープ20のテープ主体部22に、縫製部61を介して上述のような力が加えられても、テープ主体部22(特に太糸連続領域24)に目ずれが生じ難くなり、織目の位置のずれを小さく抑えることができる(後述する実施例1を参照)。それにより、ファスナーテープ20の目ずれに起因するファスナーテープ20のテープ強度の低下や耐摩耗性の低下を効果的に抑制することができる。
【0098】
なお、上述した実施形態のファスナーストリンガー10では、ファスナーテープ20のテープ主体部22が、緯糸折返し端部23に隣接して配される太糸連続領域24と、エレメント取付部21に隣接して配される細糸連続領域25とを有する。しかし本発明におけるファスナーテープ20のテープ主体部22には、緯糸折返し端部23と太糸連続領域24との間に第1経糸33による細糸連続領域25が更に設けられていても良く、また、細糸連続領域25とエレメント取付部21との間に第2経糸34による太糸連続領域24が更に設けられていても良い。
【0099】
また、本発明では、ファスナーテープ20の緯糸31がテープ主体部22の第1経糸33より太く形成されていれば、第1経糸33と、第1経糸33よりも太い第2経糸34とをテープ幅方向に交互に配置して、太糸連続領域24及び細糸連続領域25が設けられていないテープ主体部22を有するファスナーテープ20を織成することも可能であり、また、テープ主体部22に第2経糸34を用いずに第1経糸33のみを用いてファスナーテープ20を織成することも可能である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例1及び2並びに比較例を示すことにより、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
テープ主体部22の第1経糸33と、エレメント取付部21に配される各経糸32として、330dtex(300デニール)の繊度を有する糸条を用いるとともに、緯糸31と、テープ主体部22の第2経糸34として、660dtex(600デニール)の繊度を有する糸条を用いることにより、上述した実施形態に係るファスナーストリンガー10を製造した。この場合、実施例1のファスナーストリンガー10は、1回転1ピッチの織構造で形成されている。更に、緯糸31と第2経糸34とは、第1経糸33に用いられる糸条が2本引き揃えられた形態を有する。
【0101】
また、製造されたファスナーストリンガー10のテープ主体部22には、第2経糸34がテープ幅方向に連続して配されている太糸連続領域24が形成されている。この太糸連続領域24は、テープ主体部22のテープ幅方向において、緯糸折返し端部23に隣接する経糸32の位置から、ファスナーエレメント11の連結部11dの位置(具体的には、連結部11dにおけるテープ主体部22側の端縁位置)を基準にテープ幅方向に4.5mm離れた経糸32の位置まで形成されている。
【0102】
そして、製造された実施例1のファスナーストリンガー10を2つ一組で用いることにより、
図1に示したスライドファスナー1を製造し、更に、得られたスライドファスナー1における左右のファスナーテープ20を、ミシンを用いて製品のファスナー被着部材60に縫着した。このとき、ミシンにより形成される縫製部61の位置を、ファスナーエレメント11の連結部11dからテープ幅方向に5mm離れた位置に設定した。このため、実施例1では、ファスナーテープ20のテープ主体部22における太糸連続領域24と製品のファスナー被着部材60とが、縫製部61によって縫い合わされている。
【0103】
その後、スライドファスナー1を閉鎖した状態(左右のエレメント列12が噛み合わされている状態)で、製品の左右のファスナー被着部材60を、左右方向の外側に向けて所定の荷重で引っ張ることにより、スライドファスナー1の左右のファスナーストリンガー10に横引き力を加えた。更に、ファスナーストリンガー10に横引き力が加えられている状態を所定の時間で保持した。
【0104】
所定の時間が経過した後、横引き力を取り除くとともにスライドファスナー1を製品のファスナー被着部材60から取り外した。その後、ファスナーテープ20の縫製部61が形成された地点における織目の位置を確認し、その織目の位置が、正規の位置(横引き力が加えられる前の織目の位置)からずれている長さ(すなわち、目ずれの大きさ)を測定した。このような目ずれの大きさの測定を、ファスナーテープ20における縫製部61が形成された直線上の異なる10か所の部位で行って、その平均値を求めた。その結果、実施例1における目ずれの大きさの平均値は、1.88mmであった。
【0105】
(実施例2)
ファスナーテープのテープ主体部に配される経糸として、前述の実施例1のような第2経糸34を用いずに、330dtex(300デニール)の繊度を有する経糸のみを用いて、ファスナーストリンガーを製造した。従って、この実施例2において、ファスナーテープのテープ主体部に配される最も太い経糸の繊度は、330dtex(300デニール)である。なお、実施例2のファスナーストリンガーは、テープ主体部に配される経糸の繊度を変更したこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に形成されている。
【0106】
製造された実施例2のファスナーストリンガーを用いて、実施例1の場合と同様にスライドファスナーを製造し、更に、そのスライドファスナーを、ミシンを用いて製品のファスナー被着部材60に縫着した。その後、実施例1の場合と同様の条件で目ずれの大きさを測定してその平均値を求めた。その結果、実施例2における目ずれの大きさの平均値は、3.42mmであった。
【0107】
(比較例)
ファスナーテープのテープ主体部に配される経糸として、330dtex(300デニール)の繊度を有する経糸のみを用いるとともに、ファスナーテープの緯糸として330dtex(300デニール)の繊度を有する糸条を用いて、ファスナーストリンガーを製造した。従って、この比較例において、ファスナーテープのテープ主体部に配される最も太い経糸の繊度は、330dtex(300デニール)である。なお、比較例のファスナーストリンガーは、テープ主体部に配される経糸の繊度と緯糸の繊度とを変更したこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に形成されている。
【0108】
製造された比較例のファスナーストリンガーを用いて、実施例1の場合と同様にスライドファスナーを製造し、更に、そのスライドファスナーを、ミシンを用いて製品のファスナー被着部材60に縫着した。その後、実施例1の場合と同様の条件で目ずれの大きさを測定してその平均値を求めた。その結果、比較例における目ずれの大きさの平均値は、4.38mmであった。
【0109】
以下の表1に、実施例1、実施例2、及び比較例のファスナーストリンガーに関して、ファスナーテープを形成する緯糸の繊度と、ファスナーテープのテープ主体部に配される最も太い経糸の繊度とを示すとともに、目ずれの大きさの平均値を求めた結果を示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1に示したように、実施例2のファスナーストリンガーでは、比較例のファスナーストリンガーよりも緯糸の繊度を大きくしたことにより、目ずれを小さく抑えることができた。これによって、ファスナーテープが、660dtexの太い緯糸を用いて織成されることにより、330dtexの細い緯糸が用いられる場合に比べて、ファスナーテープの目ずれを小さく抑えられることが確認できた。
【0112】
更に、実施例1のファスナーストリンガー10では、実施例2のファスナーストリンガーよりも大きな繊度を有する複数の経糸32(第2経糸34)をファスナーテープ20のテープ主体部22に連続的に配置したことにより、目ずれを更に小さく抑えることができた。これによって、ファスナーテープ20に660dtexの太い緯糸31が配されるとともに、ファスナーテープ20のテープ主体部22に660dtexの太い第2経糸34が配されることにより、ファスナーテープ20の目ずれを更に効果的に抑制できることが確認できた。