特許第6794099号(P6794099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794099電動アシスト車、制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794099
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】電動アシスト車、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20201119BHJP
   B62B 3/00 20060101ALI20201119BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   A61H3/04
   B62B3/00 G
   B60L15/20 Z
【請求項の数】5
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-128387(P2015-128387)
(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公開番号】特開2017-6580(P2017-6580A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英明
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛英
(72)【発明者】
【氏名】上山 明紀
(72)【発明者】
【氏名】蔦田 尚久
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−047307(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/170989(WO,A1)
【文献】 特表2012−517376(JP,A)
【文献】 特開2004−132769(JP,A)
【文献】 特開平09−131377(JP,A)
【文献】 特開2009−281799(JP,A)
【文献】 特開平09−133526(JP,A)
【文献】 田中 孝祥, 佐藤 春彦, 上出 直人, 柴 喜崇,ジャイロ併用型加速度計による歩行中の体幹加速度計測の信頼性: 傾斜角に基づく重力加速度補正,バイオメカニズム学会誌,日本,2012年,Vol 36, No 1,pp. 36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/04
B60L 15/20
B62B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体を支持する複数の車輪とを備え前記複数の車輪は、左側の車輪と、右側の車輪とを含み、
前記複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪を駆動する駆動部と、
前記左側の車輪の回転速度と、前記右側の車輪の回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記検出された前記左側の車輪の回転速度および前記右側の車輪の回転速度を利用して、前記基体の旋回運動により生じる遠心力による旋回加速度を算出する加速度算出部と、
前記基体に備えられ、前記基体が傾斜することにより生じる加速度を検出する加速度検出部と、
前記算出された旋回加速度に基づいて、前記検出された加速度を補正する補正部と、
前記補正後の加速度に基づき、前記基体が傾斜状態にあるか否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に応じたアシスト力を前記駆動部に発生させる制御部とをさらに備える、電動アシスト車。
【請求項2】
前記複数の車輪は、前輪と後輪とを含み、
前記後輪が、前記駆動部により駆動され、
前記加速度検出部は、前記後輪よりも前方に設置され、
前記基体は、前記前輪および前記加速度検出部よりも前記後輪に近い位置を中心として旋回し、
前記補正部は、前記検出された加速度から前記算出された旋回加速度を差し引く補正を行なう、請求項に記載の電動アシスト車。
【請求項3】
前記複数の車輪は、前輪と後輪とを含み、
前記前輪が、前記駆動部により駆動され、
前記加速度検出部は、前記前輪よりも後方に設置され、
前記基体は、前記後輪および前記加速度検出部よりも前記前輪に近い位置を中心とし旋回し、
前記補正部は、前記検出された加速度に前記算出された旋回加速度を加える補正を行なう、請求項に記載の電動アシスト車。
【請求項4】
複数の車輪を備えた電動アシスト車を制御するための制御方法であって、
前記電動アシスト車のプロセッサが、前記複数の車輪のうちの左側の車輪および右側の車輪の各々の回転速度とを検出するステップと、
前記プロセッサが、前記検出された前記左側の車輪の回転速度および前記右側の車輪の回転速度を利用して、前記電動アシスト車の基体の旋回運動により生じる遠心力による旋回加速度を算出するステップと、
前記プロセッサが、前記基体が傾斜することにより生じる加速度を検出するステップと、
前記プロセッサが、前記算出された旋回加速度に基づいて、前記検出された加速度を補正するステップと、
前記プロセッサが、前記補正後の加速度に基づき、前記基体が傾斜状態にあるか否かを判定するステップと、
前記プロセッサが、前記判定の結果に応じたアシスト力を前記複数の車輪の少なくとも1つに発生させるステップとを備える、制御方法。
【請求項5】
複数の車輪を備えた電動アシスト車を制御するためのプログラムであって、
前記複数の車輪のうちの左側の車輪および右側の車輪の各々の回転速度とを検出するステップと、
前記検出された前記左側の車輪の回転速度および前記右側の車輪の回転速度を利用して、前記電動アシスト車の基体の旋回運動により生じる遠心力による旋回加速度を算出するステップと、
記基体が傾斜することにより生じる加速度を検出するステップと、
前記算出された旋回加速度に基づいて、前記検出された加速度を補正するステップと、
前記補正後の加速度に基づき、前記基体が傾斜状態にあるか否かを判定するステップと、
前記判定の結果に応じたアシスト力を前記複数の車輪の少なくとも1つに発生させるステップとを、前記電動アシスト車のプロセッサに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アシスト車、電動アシスト車を制御するための制御方法、および、電動アシスト車を制御するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高齢者等の歩行が困難な人の歩行を補助する器具として歩行器やシルバーカーといった歩行アシスト車が存在する。また、モータ等による駆動力を車輪に持たせて、下り坂でブレーキをかけて速度を抑制(以下「抑速」ともいう。)したり、上り坂での上りを補助したりする歩行アシスト車が開発されている。
【0003】
たとえば、特開2015−50836号公報(特許文献1)は、「バッテリの残量のみに基づいてアシスト力を調整するよりも、より適切なアシストを行うことが可能な歩行アシスト移動体」を開示している。詳しくは、特許文献1の歩行アシスト移動体は、(i)ユーザの歩行のアシストを行うアシストオンモードとアシストを行わないアシストオフモードとを有する歩行アシスト移動体本体と、(ii)歩行アシスト移動体本体に電力を供給するバッテリと、(iii)歩行アシスト移動体本体の傾きを検出する傾斜センサと、(iv)バッテリの残量と傾斜センサにより検出された傾きとに応じて、アシストオンモードとアシストオフモードとを切り替えて駆動輪によるアシスト力を調整する制御部とを備える([要約]参照)。
【0004】
また、特開2015−47307号公報(特許文献2)は、「路面の変化に関わらず、車輪の浮き状態に加えて、傾斜している路面を走行する状態を判別するとともに、判別された状態に応じて、適切な制御を行うことが可能な歩行アシスト移動体」を開示している。特許文献2の歩行アシスト移動体は、(i)ユーザの歩行をアシストする歩行アシスト移動体本体と、(ii)歩行アシスト移動体本体と歩行アシスト移動体本体の前方の物体との距離を検出する距離センサと、(iii)歩行アシスト移動体本体の傾きを検出する傾斜センサと、(iv)距離センサにより検出された距離と、傾斜センサにより検出された傾きとに基づいて、傾斜している路面を走行する状態と、車輪の少なくとも1つが浮いた状態とを判別するとともに、傾斜している路面を走行する状態と車輪の少なくとも1つが浮いた状態との判別結果に応じて、歩行アシスト移動体本体の動作制御を行う制御部とを備える([要約]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−50836号公報
【特許文献2】特開2015−47307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2の歩行アシスト移動体では、傾斜センサにより検出される値(傾き)は、車体の加減速および旋回動作(正確には、旋回による加わる遠心力)により影響を受けてしまう。つまり、特許文献1および2の歩行アシスト移動体では、傾きを誤検知してしまう可能性がある。
【0007】
本願発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、加減速や旋回により遠心力が加わっても正確な傾斜状態を検出可能となる電動アシスト車、電動アシスト車を制御するための制御方法、および、電動アシスト車を制御するためのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある局面に従うと、電動アシスト車は、基体と、基体を支持する複数の車輪と、複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪を駆動する駆動部と、複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪の回転速度を検出する回転速度検出部と、基体が傾斜することにより生じる加速度を検出する加速度検出部と、検出された加速度を、検出された回転速度を利用して補正する補正部と、補正後の加速度に基づき、基体が傾斜状態にあるか否かを判定する判定部と、判定部による判定結果に応じたアシスト力を駆動部に発生させる制御部とを備える。
【0009】
好ましくは、電動アシスト車は、検出された回転速度を利用して、基体の加速度を算出する加速度算出部をさらに備える。補正部は、算出された加速度に基づき、検出された加速度を補正する。
【0010】
好ましくは、補正部は、検出された加速度に算出された加速度を加える補正を行なう。
好ましくは、判定部は、補正後の加速度が第1の閾値よりも小さいときには、基体が上りの傾斜状態にあると判定し、補正後の加速度が第2の閾値よりも大きいときには、基体が下りの傾斜状態にあると判定する。
【0011】
好ましくは、複数の車輪は、左側の車輪と、右側の車輪とを含む。回転速度検出部は、左側の車輪の回転速度と、右側の車輪の回転速度とを検出する。電動アシスト車は、検出された左側の車輪の回転速度および右側の車輪の回転速度を利用して、基体の旋回運動により生じる遠心力による加速度を算出する加速度算出部をさらに備える。補正部は、算出された加速度に基づき、検出された加速度を補正する。
【0012】
好ましくは、複数の車輪は、前輪と後輪とを含む。後輪が、駆動部により駆動される。加速度検出部は、後輪よりも前方に設置される。基体は、前輪および加速度検出部よりも後輪に近い位置を中心として旋回する。補正部は、検出された加速度から算出された加速度を差し引く補正を行なう。
【0013】
好ましくは、複数の車輪は、前輪と後輪とを含む。前輪が、駆動部により駆動される。加速度検出部は、前輪よりも後方に設置される。基体は、後輪および加速度検出部よりも前輪に近い位置を中心とし旋回する。補正部は、検出された加速度に算出された加速度を加える補正を行なう。
【0014】
本発明の他の局面に従うと、電動アシスト車は、基体と、基体を支持する複数の車輪と、複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪を駆動する駆動部と、複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪の回転速度を検出する回転速度検出部と、基体の傾きを測定する傾斜測定部と、測定により得られた測定値を、検出された回転速度を利用して補正する補正部と、補正後の値に基づき、基体が傾斜状態にあるか否かを判定する判定部と、判定部による判定結果に応じたアシスト力を駆動部に発生させる制御部とを備える。
【0015】
好ましくは、電動アシスト車は、検出された回転速度を利用して、基体の加速度を算出する加速度算出部をさらに備える。補正部は、算出された加速度に基づき、測定により得られた測定値を補正する。
【0016】
好ましくは、複数の車輪は、左側の車輪と、右側の車輪とを含む。回転速度検出部は、左側の車輪の回転速度と、右側の車輪の回転速度とを検出する。電動アシスト車は、検出された左側の車輪の回転速度および右側の車輪の回転速度を利用して、基体の旋回運動により生じる遠心力による加速度を算出する加速度算出部をさらに備える。補正部は、算出された加速度に基づき、測定により得られた測定値を補正する。
【0017】
本発明のさらに他の局面に従うと、電動アシスト車を制御するための制御方法は、電動アシスト車の複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪の回転速度を検出するステップと、基体が傾斜することにより生じる加速度を検出するステップと、検出された加速度を、検出された回転速度を利用して補正するステップと、補正後の加速度に基づき、基体が傾斜状態にあるか否かを判定するステップと、判定の結果に応じたアシスト力を複数の車輪の少なくとも1つに発生させるステップとを備える。
【0018】
本発明のさらに他の局面に従うと、電動アシスト車を制御するためのプログラムは、プログラムは、電動アシスト車の複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪の回転速度を検出するステップと、基体が傾斜することにより生じる加速度を検出するステップと、検出された加速度を、検出された回転速度を利用して補正するステップと、補正後の加速度に基づき、基体が傾斜状態にあるか否かを判定するステップと、判定の結果に応じたアシスト力を複数の車輪の少なくとも1つに発生させるステップとを、電動アシスト車のプロセッサに実行させる。
【発明の効果】
【0019】
上記の発明によれば、加減速や旋回により遠心力が加わっても正確な傾斜状態を検出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】歩行アシスト車1の構成を表す図である。
図2】使用者が歩行アシスト車1をつかんでいる状態を表す図である。
図3】歩行アシスト車1が備える機能を表すブロック図である。
図4】判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。
図5】歩行アシスト車1が停止しているときに加速度センサ6(加速度検出部104)が検出する加速度を説明するための図である。
図6】歩行アシスト車1が前方に加速しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
図7】歩行アシスト車1が後方に加速しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
図8】歩行アシスト車1において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図9】歩行アシスト車1Aが備える機能を表すブロック図である。
図10】判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。
図11】歩行アシスト車1A(詳しくは、基体40)が左方向に旋回しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
図12】歩行アシスト車1の構成を表す図である。
図13】判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。
図14】歩行アシスト車1B(詳しくは、基体40)が左方向に旋回しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
図15】歩行アシスト車1Cの構成を表す図である。
図16】判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0022】
以下の実施の形態では、電動アシスト車の一例として、主に歩行を補助(アシスト)する歩行アシスト車を例示する。なお、「電動アシスト車両」とは、人が押す・引くなどして車両を移動させる際に動力で移動を補佐する車両を意味する。しかしながら、本開示に係る技術思想の適用対象は、歩行アシスト車に限定されない。
【0023】
たとえば、当該技術思想は、移動可能な基体に使用者の身体の少なくとも一部を支持する部材を有し、基体の移動を支援することにより、使用者の歩行をアシストするような装置全般に適用することができる。したがって、当該技術思想は、台車、搬送カート、搬送型ベッド、ベビーカー、ハンドリフト、車椅子、トロリーケース、スーツケースなど、人が押す、あるいは引くことで移動する車両であれば何でも用いることが可能である。
【0024】
[実施の形態1]
本実施の形態では、後輪駆動式であって、歩行アシスト車の加減速(典型的には、前進方向および後進方向の加速度)を算出する機能を有する歩行アシスト車を説明する。
【0025】
要約すると、本実施の形態に係る歩行アシスト車は、基体フレーム(車体フレーム)が傾斜することにより生じる加速度を検出する機能を有し、当該検出された加速度を車輪の回転速度を利用して補正する。詳しくは、歩行アシスト車は、上記検出により得られた加速度を、車輪の回転速度を利用して求めた基体フレームの前後方向の加速度に基づき補正する。また、歩行アシスト車は、当該補正後の加速度に基づき基体フレームが傾斜状態にあるか否かを判定する。さらに、歩行アシスト車は、判定結果に応じたアシスト力を発生させる。以下、このような歩行アシスト車の具体的な構成について説明する。
【0026】
<A1.ハードウェア構成>
図1を参照して、実施の形態1に係る歩行アシスト車1の構成について説明する。図1は、歩行アシスト車1の構成を表す図である。詳しくは、図1(A)は、歩行アシスト車1を側面からみた図である。図1(B)は、歩行アシスト車1を上からみた図である。図1(C)は、歩行アシスト車1の制御装置10の構成を表すブロック図である。
【0027】
図1(A)および図1(B)に示されるように、歩行アシスト車1は、基体フレーム(以下、単に「基体」ともいう)40と、グリップ2と、加速度センサ6と、手動操作用のブレーキレバー7と、スタート/停止スイッチ2Aと、物を収容するためのバッグ26とを備える。基体40は、左フレーム41と、右フレーム42と、フレーム43と、歩行アシスト車1を制御するための制御装置10とを含む。
【0028】
フレーム43は、左フレーム41と右フレーム42との間にブリッジ状に渡されて、左フレーム41と右フレーム42とを連結している。フレーム43の一部は、着座可能な座部を構成する。左フレーム41および右フレーム42には、それぞれ、歩行時に使用者が握るグリップ2と、前輪3と、後輪4とが設けられている。後輪4は、モータ5により駆動される。グリップ2は、支持部として、歩行アシスト車1の使用者の身体の少なくとも一部を支持するように構成されている。
【0029】
バッグ26には、歩行アシスト車1の各部に電力を供給するための電池部25が配置される。電池部25は、たとえば、充電可能な電池である。なお、制御装置10および電池部25の取り付け位置は、歩行時の妨げにならない位置であればよく、図1(A)および図1(B)に示される位置に限定されない。
【0030】
加速度センサ6は、歩行アシスト車1の移動中に、基体40が傾斜することにより生じる加速度を検出する。詳しくは、加速度センサ6は、傾斜面において基体40が傾斜することにより生じる加速度を検出する。本実施の形態では、加速度センサ6は、フレーム43の下面に設置されている。より詳しくは、加速度センサ6は、駆動輪である後輪4よりも前方(前輪3側)に設置されている。
【0031】
図1(C)を参照して、制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)21と、メモリ22と、入力部23と、出力部24とを含む。メモリ22は、たとえば、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とにより実現される。入力部23は、各種センサから出力される信号の入力を受け付ける。出力部24は、信号をモータ5その他の各部に出力する。
【0032】
制御装置10は、歩行アシスト車1の作動を制御する。たとえば、制御装置10は、モータ5の回転を制御する。モータ5は、たとえば、DC(Direct Current)モータによって実現される。後輪4は、モータ5の回転軸(図示しない)に連接されており、モータ5の回転運動に連動して回転する。
【0033】
ブレーキは、使用者のブレーキレバー7の操作に応答して、自転車のブレーキのように車輪の回転を止める。本実施の形態では、ブレーキレバー7が操作された時には、CPU21は、モータ5への電流供給を停止することで、モータ5に電流が供給された状態でブレーキによる制動力がモータ5に作用して前輪3や後輪4がロックする状態になることを防止する。他の局面において、電池部25のバッテリ切れ等により歩行アシスト車1の運転制御ができない場合には、歩行アシスト車1は、モータ5によるアシスト力および抑速力が作用しない通常の歩行器として使用され得る。
【0034】
<B1.使用態様>
図2を参照して、歩行アシスト車1の使用について説明する。図2は、使用者が歩行アシスト車1をつかんでいる状態を表す図である。
【0035】
歩行時、使用者は、グリップ2を握るように持って、歩行アシスト車1を進行方向(すなわち、矢印の方向)に押す。このとき、制御装置10は、センサ(図示しない)からの信号に基づいて、歩行アシスト車1に作用する押す力(以下「作用力」ともいう。)を検出する。制御装置10は、検出結果からモータ5の回転量(回転方向と角度)を決定し、決定した回転量に従いモータ5を回転させる。モータ5の回転によって後輪4が進行方向に回転すると、この回転に連動して前輪3も回転し、歩行アシスト車1は、進行方向へ移動する。グリップ2を握った状態の使用者は、この移動に伴って、進行方向への歩行が促されて、すなわち歩行が補助され、安定して歩行することができる。
【0036】
<C1.機能的構成>
図3を参照して、本実施の形態に係る歩行アシスト車1の機能構成について説明する。図3は、歩行アシスト車1が備える機能を表すブロック図である。歩行アシスト車1は、制御部101と、作用力検出部102と、回転速度検出部103と、加速度検出部104と、駆動部105とを備える。
【0037】
制御部101は、加速度算出部110と、振動成分抑制部120と、補正部130と、判定部140と、駆動制御部150とを含む。加速度算出部110は、駆動輪速度算出部111と、基体速度算出部112とを有する。駆動輪速度算出部111は、左駆動輪用算出部1111と、右駆動輪用算出部1112とを有する。回転速度検出部103は、左駆動輪用検出部1031と、右駆動輪用検出部1032とを含む。
【0038】
制御部101は、歩行アシスト車1を移動させるための制御方法を決定して、歩行アシスト車1の移動を制御する。より具体的には、制御部101は、駆動輪の回転方向や回転トルク、回転速度などを決定する。また、制御部101は、歩行アシスト車1の進行方向(前進または後進)を検出する。たとえば、制御部101は、車輪の回転方向に基づいて基体40の進行方向を検出する。制御部101の詳細については、後述する。
【0039】
作用力検出部102は、使用者等によって基体40に加えられる力を検出する。より具体的には、作用力検出部102は、グリップ2に内蔵された図示しない力センサの出力から、基体40に加わる力を検出する。たとえば、グリップ2には、力センサ(図示しない)が内蔵されている。当該力センサは、ひずみゲージまたは力覚センサのように、グリップ2にかかる力(押す力あるいは引く力)を検出し、検出結果を電気信号として出力する。作用力検出部102は、力センサによって出力される電気信号から、グリップ2にかかる力の大きさと向きとを検出し、当該力が歩行アシスト車1を押す力であるか、または引く力であるかを判断する。本実施の形態では、図2の矢印方向の力(進行方向に作用する力)が押す力であり、逆方向の力が引く力である。
【0040】
回転速度検出部103は、本実施の形態では、左右の後輪4(2つの駆動輪)の各回転速度(すなわち、回転数)を検出する。典型的には、回転速度検出部103は、一定周期で、各回転速度を検出する。詳しくは、左駆動輪用検出部1031が、左の後輪4の回転速度ω(=Δθ/Δt)を検出する。また、右駆動輪用検出部1032が、右の後輪4の回転速度ω(=Δθ/Δt)を検出する。なお、Δθ、Δθは、Δt秒間(サンプリング周期)に回転した位相を表している。なお、ωおよびωの単位は、rad/sである。
【0041】
左駆動輪用検出部1031は、検出結果を、制御部101内の左駆動輪用算出部1111に送る。右駆動輪用検出部1032は、検出結果を、制御部101内の右駆動輪用算出部1112に送る。
【0042】
加速度検出部104は、基体40が傾斜することにより生じる加速度を検出する。詳しくは、加速度検出部104は、傾斜面において基体40が傾斜することにより生じる加速度を検出する。検出により得られた基体40の加速度は、制御部101の振動成分抑制部120に入力される。加速度検出部104は、たとえば、加速度センサ6によって実現される。
【0043】
駆動部105は、本実施の形態では、後輪4を駆動する。ある局面において、駆動部105は、制御部101からの信号に基づいて、モータ5を回転させるための制御信号を生成する。駆動部105は、たとえば、PWM(Pulse Width Modulation)により制御信号を生成する。
【0044】
(制御部101の処理の詳細)
次に、制御部101内の各部の処理について説明する。
【0045】
加速度算出部110は、基体40の前進方向および後進方向の加速度を算出する。以下、当該加速度の算出方法について具体的に説明する。
【0046】
駆動輪速度算出部111は、本実施の形態では、左右の後輪4(2つの駆動輪)の各回転速度(すなわち、回転数)を検出する。典型的には、回転速度検出部103は、一定周期で、各回転速度を検出する。詳しくは、以下のとおりである。
【0047】
左駆動輪用算出部1111は、左の後輪4の車体前後方向の移動速度v(m/s)を算出する。具体的には、左駆動輪用算出部1111は、以下の式(1)により、移動速度vを算出する。左駆動輪用算出部1111は、算出結果を、基体速度算出部112に送る。
【0048】
=r×ω … (1)
なお、式(1)において、r(m/s)は、後輪4の半径である。
【0049】
右駆動輪用算出部1112は、右の後輪4の車体前後方向の移動速度v(m/s)を検出する。具体的には、右駆動輪用算出部1112は、以下の式(2)により、移動速度vを算出する。右駆動輪用算出部1112は、算出結果を、基体速度算出部112に送る。
【0050】
=r×ω … (2)
基体速度算出部112は、左駆動輪用算出部1111による算出結果と、右駆動輪用算出部1112による算出結果とに基づき、基体40の前後方向の速度V(m/s)を算出する。具体的には、基体速度算出部112は、以下の式(3)により、基体40の前後方向の速度Vを算出する。
【0051】
V=(v+v)/2 … (3)
加速度算出部110は、基体速度算出部112によって算出された速度Vに基づき、基体40の前進方向および後進方向の加速度a(m/s)を算出する。具体的には、加速度算出部110は、以下の式(4)により、基体40の前進方向および後進方向の加速度を算出する。加速度算出部110は、算出結果を補正部130に送る。
【0052】
a=(V−Vn−1)/Δt … (4)
なお、Vは、現在の基体40の速度を表している。Vn−1は、1周期前の基体40の移動速度を表している。なお、Δtは、サンプリング周期である。
【0053】
振動成分抑制部120は、加速度検出部104による検出により得られた加速度から、所定の周波数以上の成分(高周波成分)を抑制する処理を行なう。すなわち、振動成分抑制部120は、高周波成分の信号をカットするフィルタとして機能する。振動成分抑制部120は、所定の周波数以上の成分を抑制した後の測定値を、補正部130に送る。
【0054】
補正部130は、加速度検出部104による検出により得られた加速度(詳しくは、振動成分抑制後の加速度)を、加速度算出部110によって算出された加速度aに基づき補正する。加速度aは後輪4の移動速度v、vから算出されるため、換言すれば、補正部130は、加速度検出部104による検出により得られた加速度を、後輪4の移動速度v、vを利用して補正する構成と言える。
【0055】
具体的には、補正部130は、以下の式(5)に示す演算を行なうことにより、補正後の値aを算出する。なお、加速度検出部104による検出により得られた加速度を、atiltと称する。
【0056】
=atilt+a… (5)
つまり、補正部130は、検出された加速度atiltに加速度算出部110によって算出された加速度を加える補正を行なう。補正部130は、補正後の値aを判定部140に送る。
【0057】
判定部140は、補正後の値aに基づき、基体40が傾斜状態にあるか否かを判定する。より詳しくは、判定部140は、補正後の値aに基づき、基体40が上りの傾斜状態および下りの傾斜状態のいずれであるかをさらに判定する。
【0058】
具体的には、判定部140は、補正後の値aが上り坂判定用の閾値Th(ただし、Th1<0)よりも小さい場合(a<Thの場合)には、基体40が上りの傾斜状態にあると判断する。つまり、判定部140は、歩行アシスト車1が上り坂にいると判定する。
【0059】
また、判定部140は、補正後の値aが下り坂判定用の閾値Th(ただし、Th2>0)よりも大きい場合(a>Thの場合)には、基体40が下りの傾斜状態にあると判断する。つまり、判定部140は、歩行アシスト車1が下り坂にいると判定する。
【0060】
さらに、判定部140は、補正後の値aが閾値Th以上かつ閾値Th以下である場合(Th≦a≦Thの場合)には、基体40が傾斜状態にないと判断する。つまり、判定部140は、歩行アシスト車1が平地にいると判定する。
【0061】
判定部140は、判定結果を駆動制御部150に通知する。具体的には、判定部140は、基体40が上りの傾斜状態、下り傾斜状態、水平状態(平地にいる状態)のいずれにあるかを通知する。
【0062】
駆動制御部150は、判定部140による判定結果に応じたアシスト力を駆動部105に発生させる。図4を参照して、駆動制御部150が発生させる駆動力(アシスト力)の概要について説明する。
【0063】
なお、加速度検出部104によって検出される加速度(傾斜面において基体40が傾斜することにより生じる加速度)を表す信号と、加速度算出部110により算出される加速度を表す信号とは、周波数帯が異なる。それゆえ、両方の加速度が混ざった信号が加速度検出部104で得られたとしても、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタによって、互いの信号に分離できる。したがって、傾斜面において基体40が傾斜することにより生じる加速度のみを抽出できる。
【0064】
<D1.アシスト力>
図4は、判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。以下、補正後の値a(=atilt+a)の大きさに応じて説明する。なお、以下では、歩行アシスト車1の前方に加速度が加わる場合をプラス(+)方向と、歩行アシスト車1の後方に加速度が加わる場合をマイナス(−)方向と規定する。
【0065】
(1)atilt+a<Thの場合
補正後の値a(=atilt+a)が閾値Thよりも小さい場合、駆動制御部150は、前進時には、上り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。詳しくは、歩行アシスト車1は、登坂角度に応じて増減する重力の影響をモータ5を駆動することで補償し、平地と同様に歩行動作をアシストする。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(6)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0066】
F=Fassist+C(atilt+a) … (6)
なお、Fassistは、平地での基準加速アシスト力を表している。また、Cは、上り坂での加速アシスト係数を表している。
【0067】
また、駆動制御部150は、後進時には、上り坂用の後進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。詳しくは、歩行アシスト車1は、登坂角度に応じてブレーキ力を増減させることにより抑速を行なう。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(7)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0068】
F=Fbrake+C(atilt+a) … (7)
なお、Fbrakeは、上り坂での基準ブレーキアシスト力を表している。また、Cは、上り坂でのブレーキアシスト係数を表している。
【0069】
(2)Th≦atilt+a≦Thの場合
補正後の値a(すなわち、atilt+a)が閾値Th以上かつ閾値Th以下である場合、駆動制御部150は、前進時には、平地用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。なお、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない(モータフリー状態)。
【0070】
(3)Th<atilt+aの場合
補正後の値a(=atilt+a)が閾値Thよりも大きい場合、駆動制御部150は、前進時には、下り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。詳しくは、歩行アシスト車1は、降坂角度に応じてブレーキ力を増減させることにより抑速を行なう。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(22)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0071】
F=F’brake+C(atilt+a) … (22)
なお、F’brakeは、下り坂での基準ブレーキアシスト力を表している。また、Cは、下り坂でのブレーキアシスト係数を表している。
【0072】
一方、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない。
<E1.利点>
次に、図5図7を参照して、歩行アシスト車1により得られる効果を説明する。具体的には、図5を基にして、図6,7において効果を説明する。なお、以下で述べるpおよびqは、正の値とする。
【0073】
(e1.停止している場合)
図5は、歩行アシスト車1が停止しているときに加速度センサ6(加速度検出部104)が検出する加速度を説明するための図である。
【0074】
詳しくは、状態(A)は、歩行アシスト車1が平地Raで停止している状態を表している。状態(B)は、歩行アシスト車1が上り坂Rbで停止している状態を表している。状態(C)は、歩行アシスト車1が下り坂Rcで停止している状態を表している。
【0075】
状態(A)に示すとおり、歩行アシスト車1が平地Raで停止している場合には、加速度センサ6は、基体40の加減速の影響を受けない。
【0076】
次に、状態(B)に示すとおり、歩行アシスト車1が上り坂Rbで停止している場合には、歩行アシスト車1には、重力による後方への力が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、路面の傾斜の影響に基づく成分(p)として記述している。この場合、加速度センサ6で検出される加速度atiltの値は、pとなる(atilt=p)。
【0077】
最後に、状態(C)に示すとおり、歩行アシスト車1が下り坂Rcで停止している場合には、歩行アシスト車1には、重力による前方への力が作用する。この場合も、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、成分(p)の値と同じとなる(atilt=p)。
【0078】
(e2.前方に加速している場合)
図6は、歩行アシスト車1が前方に加速しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。詳しくは、前進方向に加速している場合、および後進(後退)方向に減速しているときに、加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
【0079】
なお、「前進方向に加速している場合」とは、たとえば、利用者200が歩行アシスト車1を勢いよく前に押して速度を向上させている場合等が挙げられる。また、「後進方向に減速している場合」とは、たとえば、利用者200がバックして止まろうとしている場合が挙げられる。
【0080】
状態(A)は、平地Raにおいて、前方に加速している場合(前進方向に加速している場合、または後進方向に減速している場合)を表している。状態(B)は、下り坂Rcにおいて、前方に加速している場合を表している。状態(C)は、下り坂Rcにおいて、前方に状態(B)の場合よりも大きな加速度で加速している場合を表している。
【0081】
状態(A)に示すとおり、歩行アシスト車1が前方に加速しているため、加速度センサ6には、後方への力(慣性力)が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、基体40等の加減速の影響に基づく成分(q)として記述している。この場合、加速度センサ6で検出される加速度atiltの値は、“−q”となる(ただし、q>0)。
【0082】
このように、検出される加速度がマイナスの値となるため、当該値が閾値Thよりも小さくなると、平地であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1は、上述したような補正を行なうため、平地であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0083】
次に、状態(B)に示すとおり、歩行アシスト車1が前方に加速しているため、状態(A)と同様、加速度センサ6には、後方への力が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、基体40等の加減速の影響に基づく成分(q)として記述している。また、歩行アシスト車1は下り坂Rcにいるため、加速度センサ6には、重力による前方への力が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、路面の傾斜の影響に基づく成分(p)として記述している。状態(B)では、後方への力と、重力による前方への力とが同じ大きさとなっているため、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、“0”となる。
【0084】
このように、検出される加速度が“0”となるため、下り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1は、上述したような補正を行なうため、下り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0085】
最後に、状態(C)に示すとおり、歩行アシスト車1が前方に加速しているため、状態(B)と同様、加速度センサ6には、後方への力が作用する。また、歩行アシスト車1は下り坂Rcにいるため、状態(B)と同様、加速度センサ6には、重力による前方への力が作用する。状態(C)では、後方への力が重力による前方への力よりも大きくなっているため(q>p)、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、マイナスの値“p−q”となる。
【0086】
このように、検出される加速度がマイナスの値となるため、当該値が閾値Thよりも小さくなると、下り坂であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1は、上述したような補正を行なうため、下り坂であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0087】
(e3.後方に加速している場合)
図7は、歩行アシスト車1が後方に加速しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。詳しくは、前進方向に減速している場合、および後進(後退)方向に加速しているときに、加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
【0088】
なお、「前進方向に減速している場合」とは、たとえば、利用者200が歩行アシスト車1を前に押しているときに減速する場合等が挙げられる。また、「後進方向に加速している場合」とは、たとえば、利用者200が歩行アシスト車1を勢いよく後ろに引いて後進方向の速度を向上させている場合等が挙げられる。
【0089】
状態(A)は、平地Raにおいて、前進方向に減速している場合(あるいは後進方向に加速している場合)を表している。状態(B)は、上り坂Rbにおいて、前進方向に減速している場合(あるいは後進方向に加速している場合)を表している。状態(C)は、上り坂Rbにおいて、前進方向に状態(B)の場合よりも大きな加速度で減速している場合(あるいは、後進方向に状態(B)の場合よりも大きな加速度で加速している場合)を表している。
【0090】
状態(A)に示すとおり、歩行アシスト車1が後方に加速しているため、加速度センサ6には、前方への力(慣性力)が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、基体40等の加減速の影響に基づく成分(q)として記述している。この場合、加速度センサ6で検出される加速度atiltの値は、“q”となる(ただし、q>0)。
【0091】
このように、検出される加速度がプラスの値となるため、当該値が閾値Thよりも大きくなると、平地であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1は、上述したような補正を行なうため、平地であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0092】
次に、状態(B)に示すとおり、歩行アシスト車1が後方に加速しているため、状態(A)と同様、加速度センサ6には、前方への力が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、基体40等の加減速の影響に基づく成分(q)として記述している。また、歩行アシスト車1は上り坂Rbにいるため、加速度センサ6には、重力による後方への力が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、路面の傾斜の影響に基づく成分(p)として記述している。状態(B)では、後方への力と、重力による前方への力とが同じ大きさとなっているため、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、“0”となる。
【0093】
このように、検出される加速度が“0”となるため、上り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1は、上述したような補正を行なうため、上り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0094】
最後に、状態(C)に示すとおり、歩行アシスト車1が後方に加速しているため、状態(B)と同様、加速度センサ6には、前方への力が作用する。また、歩行アシスト車1は上り坂Rbにいるため、状態(B)と同様、加速度センサ6には、重力による後方への力が作用する。状態(C)では、前方への力が重力による後方への力よりも大きくなっているため(q>p)、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、プラスの値“q−p”となる。
【0095】
このように、検出される加速度がプラスの値となるため、当該値が閾値Thよりも大きくなると、上り坂であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1は、上述したような補正を行なうため、上り坂であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0096】
<F1.制御構造>
図8は、歩行アシスト車1において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。図8を参照して、ステップS2において、歩行アシスト車1は、加速度センサ6による傾斜角度の検出を行なう。ステップS4において、歩行アシスト車1は、加速度atiltの補正を行なう。ステップS6において、歩行アシスト車1は、補正後の値a(=atilt+a)が、閾値Thよりも小さいか否かを判断する。すなわち、歩行アシスト車1は、路面が下り坂であるか否かを判断する。
【0097】
閾値Thよりも小さいと判断された場合(ステップS6においてYES)、歩行アシスト車1は、処理をステップS14に進める。閾値Th以上であると判断された場合(ステップS6においてNO)、歩行アシスト車1は、ステップS8において、補正後の値が閾値Thよりも大きいか否かを判断する。閾値Thよりも大きいと判断された場合(ステップS8においてYES)、歩行アシスト車1は、処理をステップS24に進める。
【0098】
閾値Th以下であると判断された場合(ステップS8においてNO)、歩行アシスト車1は、ステップS10において、前方への作用力が歩行アシスト車1に加わったか否かを判断する。前方への作用力が加わったと判断された場合(ステップS10においてYES)、歩行アシスト車1は、ステップS12において、前進アシスト制御(前方への加速制御)を行なう。前方への作用力が加わっていないと判断された場合(ステップS10においてNO)、歩行アシスト車1は、処理をステップS2に戻す。
【0099】
ステップS14において、歩行アシスト車1は、前方への作用力が歩行アシスト車1に加わったか否かを判断する。前方への作用力が加わったと判断された場合(ステップS14においてYES)、歩行アシスト車1は、ステップS22において、前進アシスト制御(前方への加速制御)を行なう。前方への作用力が加わっていないと判断された場合(ステップS14においてNO)、歩行アシスト車1は、ステップS16において、後方への作用力が歩行アシスト車1に加わったか否かを判断する。
【0100】
後方への作用力が加わったと判断された場合(ステップS16においてYES)、歩行アシスト車1は、ステップS20において、上り時の後進アシスト制御(ブレーキによる抑速制御)を行なう。後方への作用力が加わっていないと判断された場合(ステップS16においてNO)、歩行アシスト車1は、ステップS18において、停止制御を行なう。すなわち、歩行アシスト車1は、傾斜面(この場合、上り坂)において自重で後進(後退)することを防止するための制御を行なう。
【0101】
ステップS24において、歩行アシスト車1は、前方への作用力が歩行アシスト車1に加わったか否かを判断する。前方への作用力が加わったと判断された場合(ステップS24においてYES)、歩行アシスト車1は、ステップS30において、上り時の前進アシスト制御(ブレーキによる抑速制御)を行なう。前方への作用力が加わっていないと判断された場合(ステップS24においてNO)、歩行アシスト車1は、ステップS26において、後方への作用力が歩行アシスト車1に加わったか否かを判断する。
【0102】
後方への作用力が加わったと判断された場合(ステップS26においてYES)、歩行アシスト車1は、処理をステップS2に戻す。後方への作用力が加わっていないと判断された場合(ステップS26においてNO)、歩行アシスト車1は、ステップS28において、停止制御を行なう。すなわち、歩行アシスト車1は、傾斜面(この場合、下り坂)において自重で前進することを防止するための制御を行なう。
【0103】
<G1.変形例>
(1)上述したように、歩行アシスト車1では、モータ5が後輪4に設けられている。すなわち、歩行アシスト車1は、後輪駆動である。しかしながら、歩行アシスト車1の駆動形式は、これに限定されず、前輪3が駆動する前輪駆動、または前輪3および後輪4がいずれも駆動する4輪駆動であってもよい。
【0104】
(2)上述したように、歩行アシスト車1は、2つの前輪と2つの後輪とが設けられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。車輪の数は、4つに限定されない。また、前輪の数も2つに限らず、たとえば、1つであってもよい。後輪の数も2つに限らず、1つであってもよい。さらに、前輪と後輪との間に、他の車輪が設けられているように、歩行アシスト車1を構成してもよい。
【0105】
(3)駆動輪の回転速度を検出してもよいし、駆動輪以外の回転速度を検出するように、歩行アシスト車1を構成してもよい。
【0106】
[実施の形態2]
本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aは、実施の形態1と同様、後輪駆動式である。本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aは、旋回動作に基づく加速度を用いて加速度atiltを補正する点で、前方または後方への加速度aを用いて加速度atiltを補正する構成の実施の形態1に係る歩行アシスト車1とは異なる。
【0107】
本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aは、実施の形態1に係る歩行アシスト車1と同様のハードウェア構成を有する。したがって、ここでは、歩行アシスト車1Aのハードウェア構成については、繰り返し説明を行なわない。また、以下では、実施の形態1に係る歩行アシスト車1との相違点に着目して説明し、歩行アシスト車1と同じ構成については、説明を繰り返さない。
【0108】
<A2.機能的構成>
図9を参照して、本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aの機能構成について説明する。図9は、歩行アシスト車1Aが備える機能を表すブロック図である。歩行アシスト車1Aは、制御部101Aと、作用力検出部102と、回転速度検出部103と、加速度検出部104と、駆動部105とを備える。このように、歩行アシスト車1Aは、制御部101の代わりに制御部101Aを備える点において、実施の形態1に係る歩行アシスト車1と異なる。
【0109】
制御部101Aは、加速度算出部110Aと、振動成分抑制部120と、補正部130と、判定部140と、駆動制御部150とを含む。加速度算出部110Aは、駆動輪速度算出部111と、旋回速度算出部112Aとを有する。制御部101Aは、加速度算出部110および補正部130の代わりに、加速度算出部110Aおよび補正部130Aを備える点において、実施の形態1で説明した制御部101とは異なる。また、加速度算出部110Aは、基体速度算出部112の代わりに旋回速度算出部112Aを備える点において、実施の形態1で説明した加速度算出部110とは異なる。
【0110】
制御部101Aは、制御部101と同様、歩行アシスト車1Aを移動させるための制御方法を決定して、歩行アシスト車1Aの移動を制御する。
【0111】
加速度算出部110Aは、基体40の旋回運動により基体40に生じる遠心力による加速度(遠心力の影響による加速度)を算出する。以下、当該加速度の算出方法について具体的に説明する。
【0112】
旋回速度算出部112Aは、左駆動輪用算出部1111による算出結果(v=r×ω)と、右駆動輪用算出部1112による算出結果(v=r×ω)とに基づき、左右の駆動輪の中間を旋回中心とした旋回速度を算出する。
【0113】
具体的には、旋回速度算出部112Aは、以下の式(8)により、基体40の旋回速度ωを算出する。なお、Tは、左右の駆動輪間の距離(m)である。
【0114】
ω=(v−v)/T … (8)
加速度算出部110Aは、旋回速度算出部112Aによって算出された旋回速度ωに基づき、基体40の旋回運動により基体40に生じる遠心力による加速度a’を算出する。具体的には、加速度算出部110Aは、以下の式(9)により、遠心力による加速度a’を算出する。加速度算出部110Aは、算出結果を補正部130Aに送る。
【0115】
a’=L×ω … (9)
なお、式(9)において、“L”は、駆動輪中心と加速度センサ6との間の距離(m)である。
【0116】
補正部130Aは、加速度検出部104による検出により得られた加速度(詳しくは、振動成分抑制後の加速度)を、加速度算出部110Aによって算出された加速度a’に基づき補正する。加速度a’は後輪4の移動速度v、vから算出されるため、換言すれば、補正部130Aは、加速度検出部104による検出により得られた加速度を、後輪4の移動速度v、vを利用して補正する構成と言える。
【0117】
具体的には、補正部130Aは、以下の式(10)に示す演算を行なうことにより、補正後の値aを算出する。なお、atiltは、上述したように、加速度検出部104による検出により得られた加速度である。
【0118】
=atilt−a’… (10)
つまり、補正部130Aは、検出された加速度(atilt)から算出された加速度(a’)を差し引く補正を行なう。補正部130Aは、補正後の値aを判定部140に送る。
【0119】
なお、判定部140の処理および駆動制御部150の処理は、実施の形態1と同様である。以下、図10を参照して、駆動制御部150が発生させる駆動力(アシスト力)の概要について説明する。
【0120】
<B2.アシスト力>
図10は、判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。以下、補正後の値a(=atilt−a’)の大きさに応じて説明する。なお、上述したように、歩行アシスト車1Aの前方に加速度が加わる場合をプラス方向と、歩行アシスト車1Aの後方に加速度が加わる場合をマイナス方向と規定する。
【0121】
(1)atilt−a’<Thの場合
補正後の値a(=atilt+a)が閾値Thよりも小さい場合、駆動制御部150は、前進時には、上り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(11)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0122】
F=Fassist+C(atilt−a’) … (11)
また、駆動制御部150は、後進時には、上り坂用の後進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(12)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0123】
F=Fbrake+C(atilt−a’) … (12)
(2)Th≦atilt−a’≦Thの場合
補正後の値a(すなわち、atilt−a’)が閾値Th以上かつ閾値Th以下である場合、駆動制御部150は、前進時には、平地用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。なお、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない(モータフリー状態)。
【0124】
(3)Th<atilt−a’の場合
補正後の値a(=atilt−a’)が閾値Thよりも大きい場合、駆動制御部150は、前進時には、下り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(13)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0125】
F=F’brake+C(atilt−a’) … (13)
一方、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない。
【0126】
<C2.利点>
次に、図11を参照して、歩行アシスト車1Aにより得られる効果を説明する。図11は、歩行アシスト車1A(詳しくは、基体40)が左方向に旋回しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
【0127】
状態(A)は、平地Raにおいて、左方向に旋回している場合を表している。状態(B)は、上り坂Rbにおいて、左方向に旋回している場合を表している。状態(C)は、上り坂Rbにおいて、状態(B)の場合よりも大きな速度で旋回している場合を表している。なお、状態(B)および(C)では、基体40が上り傾斜の状態にあるものとする(図5(B)、図7(B),(C)等参照)。
【0128】
状態(A)に示すとおり、歩行アシスト車1Aが旋回しているため、加速度センサ6には遠心力が作用する。図においては、当該遠心力による力の大きさおよび向きを、基体40の旋回の影響に基づく成分(r)として表している。この場合、遠心力の方向(基体前方の方向)をプラス方向とすると、加速度センサ6で検出される加速度atiltの値は、“r”となる(ただし、r>0)。
【0129】
このように、検出される加速度がプラスの値となるため、当該値が閾値Thよりも大きくなると、平地であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aは、上述したような補正を行なうため、平地であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0130】
次に、状態(B)に示すとおり、歩行アシスト車1Aが旋回しているため、状態(A)と同様、加速度センサ6には遠心力が作用する。また、歩行アシスト車1Aは上り坂Rbにいるため、加速度センサ6には、重力による後方への力が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、路面の傾斜の影響に基づく成分(p)として記述している。状態(B)では、遠心力と、重力による後方への力とが同じ大きさとなっているため、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、“0”となる。
【0131】
このように、検出される加速度が“0”となるため、上り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aは、上述したような補正を行なうため、上り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0132】
最後に、状態(C)に示すとおり、歩行アシスト車1Aが旋回しているため、状態(B)と同様、加速度センサ6には遠心力が作用する。また、歩行アシスト車1Aは上り坂Rbにいるため、状態(B)と同様、加速度センサ6には、重力による後方への力が作用する。状態(C)では、遠心力が重力による後方への力よりも大きくなっているため(r>p)、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、プラスの値“r−p”となる。
【0133】
このように、検出される加速度がプラスの値となるため、当該値が閾値Thよりも大きくなると、上り坂であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aは、上述したような補正を行なうため、上り坂であるにもかかわらず、下り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0134】
なお、上記においては、基体40が左方向に旋回している場合を例に挙げて説明したが、基体40が右方向に旋回している場合であっても同様の効果を得られる。
【0135】
<D2.変形例>
本実施の形態に係る歩行アシスト車1Aの構成と、実施の形態1に係る歩行アシスト車1の構成とを組み合わせてもよい。具体的には、加速度算出部110Aを、基体40の旋回運動により基体40に生じる遠心力による加速度a’と、基体40の前進方向および後進方向の加速度a(m/s)とを算出するようにするように構成する。つまり、図9に示した加速度算出部110Aに、図3で示した基体速度算出部112を備えるようにする。
【0136】
この場合、補正部130Aは、以下の式(14)に示す演算を行なうことにより、補正後の値aを算出する。なお、atiltは、上述したように、加速度検出部104による検出により得られた加速度である。
【0137】
=atilt+a−a’… (14)
また、この場合、判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力は、以下のとおりである。
【0138】
(1)atilt+a−a’<Thの場合
前進時には、以下の式(15)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0139】
F=Fassist+C(atilt+a−a’) … (15)
後進時には、以下の式(16)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0140】
F=Fbrake+C(atilt+a−a’) … (16)
(2)Th≦atilt+a−a’≦Thの場合
駆動制御部150は、前進時には、平地用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。なお、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない(モータフリー状態)。
【0141】
(3)Th<atilt+a−a’の場合
前進時には、以下の式(17)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0142】
F=F’brake+C(atilt+a−a’) … (17)
一方、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない。
【0143】
[実施の形態3]
本実施の形態に係る歩行アシスト車1Bは、実施の形態2に係る歩行アシスト車1Aとは異なり、前輪駆動式である。本実施の形態に係る歩行アシスト車1Bは、実施の形態2に係る歩行アシスト車1Aと同様、旋回動作に基づく加速度を用いて加速度atiltを補正する。以下では、実施の形態1,2に係る歩行アシスト車1,1Aとの相違点に着目して説明し、歩行アシスト車1,1Aと同じ構成については、説明を繰り返さない。
【0144】
<A3.ハードウェア構成>
図12を参照して、歩行アシスト車1Bの構成について説明する。図12は、歩行アシスト車1の構成を表す図である。詳しくは、図12(A)は、歩行アシスト車1Bを側面からみた図である。図12(B)は、歩行アシスト車1Bを上からみた図である。
【0145】
図12(A)および図12(B)に示されるように、歩行アシスト車1Bは、基体40と、グリップ2と、加速度センサ6と、手動操作用のブレーキレバー7と、スタート/停止スイッチ2Aと、物を収容するためのバッグ26とを備える。前輪3がモータ5により駆動される点において、歩行アシスト車1Bは、後輪4がモータ5により駆動される歩行アシスト車1,1A(図1参照)とは異なる。
【0146】
<B3.機能的構成>
歩行アシスト車1Bは、実施の形態2に係る歩行アシスト車1Aと同様な機能的構成を有する(図9参照)。ただし、本実施の形態では、補正部130Aは、以下の式(18)に示す演算を行なうことにより、補正後の値aを算出する。
【0147】
=atilt+a’… (18)
つまり、本実施の形態では、補正部130Aは、検出された加速度(atilt)に加速度算出部110Aによって算出された加速度(a’)を加える補正を行なう。なお、補正部130Aは、補正後の値aを判定部140に送る。
【0148】
なお、判定部140の処理および駆動制御部150の処理は、実施の形態1,2と同様である。以下、図13を参照して、駆動制御部150が発生させる駆動力(アシスト力)の概要について説明する。
【0149】
<C3.アシスト力>
図13は、判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。以下、補正後の値a(=atilt+a’)の大きさに応じて説明する。なお、上述したように、歩行アシスト車1Bの前方に加速度が加わる場合をプラス方向と、歩行アシスト車1Aの後方に加速度が加わる場合をマイナス方向と規定する。
【0150】
(1)atilt+a’<Thの場合
補正後の値a(=atilt+a)が閾値Thよりも小さい場合、駆動制御部150は、前進時には、上り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。具体的には、駆動制御部150は、上述した式(11)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0151】
また、駆動制御部150は、後進時には、上り坂用の後進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。具体的には、駆動制御部150は、上述した式(12)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0152】
(2)Th≦atilt+a’≦Thの場合
補正後の値a(すなわち、atilt+a’)が閾値Th以上かつ閾値Th以下である場合、駆動制御部150は、前進時には、平地用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。なお、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない(モータフリー状態)。
【0153】
(3)Th<atilt+a’の場合
補正後の値a(=atilt+a’)が閾値Thよりも大きい場合、駆動制御部150は、前進時には、下り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。具体的には、駆動制御部150は、上述した式(13)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0154】
一方、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない。
<D3.利点>
次に、図14を参照して、歩行アシスト車1Bにより得られる効果を説明する。図14は、歩行アシスト車1B(詳しくは、基体40)が左方向に旋回しているときに加速度センサ6に加わる加速度を説明するための図である。
【0155】
状態(A)は、平地Raにおいて、左方向に旋回している場合を表している。状態(B)は、下り坂Rcにおいて、左方向に旋回している場合を表している。状態(C)は、下り坂Rcにおいて、状態(B)の場合よりも大きな速度で旋回している場合を表している。なお、状態(B)および(C)では、基体40が下り傾斜の状態にあるものとする(図5(A),(C)、図7(A)等参照)。
【0156】
状態(A)に示すとおり、歩行アシスト車1Aが旋回しているため、加速度センサ6には遠心力が作用する。図においては、当該遠心力による力の大きさおよび向きを、基体40の旋回の影響に基づく成分(r)として表している。この場合、遠心力の方向(基体前方の方向)をプラス方向とすると、旋回中心が加速度センサ6よりも前方にあるため、加速度センサ6で検出される加速度atiltの値は、“−r”となる(ただし、r>0)。
【0157】
このように、検出される加速度がマイナスの値となるため、当該値が閾値Thよりも小さくなると、平地であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1Bは、上述したような補正を行なうため、平地であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0158】
次に、状態(B)に示すとおり、歩行アシスト車1Bが旋回しているため、状態(A)と同様、加速度センサ6には遠心力が作用する。また、歩行アシスト車1Bは下り坂Rcにいるため、加速度センサ6には、重力による前方への力が作用する。図においては、当該力の大きさおよび向きを、路面の傾斜の影響に基づく成分(p)として記述している。状態(B)では、遠心力と、重力による前方への力とが同じ大きさとなっているため、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、“0”となる。
【0159】
このように、検出される加速度が“0”となるため、下り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1Bは、上述したような補正を行なうため、下り坂であるにもかかわらず、平地であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0160】
最後に、状態(C)に示すとおり、歩行アシスト車1Bが旋回しているため、状態(B)と同様、加速度センサ6には遠心力が作用する。また、歩行アシスト車1Bは下り坂Rcにいるため、状態(B)と同様、加速度センサ6には、重力による前方への力が作用する。状態(C)では、遠心力が重力による前方への力よりも大きくなっているため(r>p)、加速度センサ6で検出される加速度atiltは、マイナスの値“p−r”となる。
【0161】
このように、検出される加速度がマイナスの値となるため、当該値が閾値Thよりも小さくなると、下り坂であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態が発生してしまう。しかしながら、本実施の形態に係る歩行アシスト車1Bは、上述したような補正を行なうため、下り坂であるにもかかわらず、上り坂であると誤検知される事態の発生を防止することが可能となる。
【0162】
なお、上記においては、基体40が左方向に旋回している場合を例に挙げて説明したが、基体40が右方向に旋回している場合であっても同様の効果を得られる。
【0163】
<E3.変形例>
本実施の形態に係る歩行アシスト車1Bの構成と、実施の形態1の“<G1.変形例>”における項目(1)で説明した前輪駆動の構成とを組み合わせてもよい。
【0164】
具体的には、実施の形態2の“<D2.変形例>”で説明したように、加速度算出部110Aを、基体40の旋回運動により基体40に生じる遠心力による加速度a’と、基体40の前進方向および後進方向の加速度aとを算出するようにするように構成してもよい。
【0165】
[実施の形態4]
本実施の形態に係る歩行アシスト車1Cは、加速度センサ6によって検出された加速度を補正する必要がない点で、実施の形態2,3に係る歩行アシスト車1A,1Bとは異なる。以下では、実施の形態2,3に係る歩行アシスト車1A,1Bとの相違点に着目して説明し、歩行アシスト車1A,1Bと同じ構成については、説明を繰り返さない。
【0166】
<A4.ハードウェア構成>
図15を参照して、歩行アシスト車1Cの構成について説明する。図15は、歩行アシスト車1Cの構成を表す図である。図15に示されるように、歩行アシスト車1Cは、加速度センサ6の設置位置が両駆動輪(前輪3)の中間地点(車軸の延長上)に位置する点において、そのような位置にない歩行アシスト車1A,1Bとは異なる。
【0167】
<B4.アシスト力>
図16は、判定部140の判定結果に応じて発生させるアシスト力を説明するための図である。歩行アシスト車1Cでは、加速度センサ6の設置位置により、加速度センサ6によって検出された加速度(atilt)を補正する必要がなくなる。
【0168】
(1)atilt<Thの場合
検出される加速度(atilt)が閾値Thよりも小さい場合、駆動制御部150は、前進時には、上り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(19)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0169】
F=Fassist+C(atilt) … (19)
また、駆動制御部150は、後進時には、上り坂用の後進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(20)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0170】
F=Fbrake+C(atilt) … (20)
(2)Th≦atilt≦Thの場合
検出される加速度(atilt)が閾値Th以上かつ閾値Th以下である場合、駆動制御部150は、前進時には、平地用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、前進方向のアシスト力をモータ5に発生させる。なお、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない(モータフリー状態)。
【0171】
(3)Th<atiltの場合
検出される加速度(atilt)が閾値Thよりも大きい場合、駆動制御部150は、前進時には、下り坂用の前進アシスト力を駆動部105に発生させる。つまり、駆動制御部150は、抑速を行なためにブレーキ力を発生させる。具体的には、駆動制御部150は、以下の式(21)に示すアシスト力Fを発生させる。
【0172】
F=F’brake+C(atilt) … (21)
一方、駆動制御部150は、後進時には、アシスト力を発生させない。
【0173】
[実施の形態5]
上記の実施の形態1から3では、加速度センサ6(図1,12等)および加速度検出部104(図3,9等)を備えた歩行アシスト車を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【0174】
加速度センサ6の代わり、基体40の傾き(傾斜角度)を測定する傾斜センサを備えるように、歩行アシスト車を構成してもよい。つまり、加速度検出部104の代わりに、基体40の傾き(傾斜角度)を測定する傾斜検出部を備えるように、歩行アシスト車を構成してもよい。
【0175】
この場合には、補正部130,130Aは、検出された加速度(atilt)を算出された加速度(aまたはa’)で補正する代わりに、測定された傾斜角度(測定値)を、算出された加速度(aまたはa’)に応じて決定される角度で補正してもよい。たとえば、制御部101,101Aは、算出された加速度(aまたはa’)を角度に変換する変換テーブルを用いて、算出された加速度(aまたはa’)を角度に変換してもよい。あるいは、制御部101,101Aは、算出された加速度(aまたはa’)を角度に変換する関数を用いて、算出された加速度(aまたはa’)を角度に変換してもよい。
【0176】
このように、本実施の形態に係る歩行アシスト車は、基体40の傾きを測定する傾斜測定部と、当該測定により得られた測定値(傾斜角度)を、回転速度検出部103により検出された回転速度を利用して補正する補正部と、当該補正後の値に基づき、基体40が傾斜状態にあるか否かを判定する判定部140と、判定部140による判定結果に応じたアシスト力を駆動部105に発生させる駆動制御部150とを備える構成であると言える。
【0177】
本実施の形態においても、実施の形態1〜4で説明した構成を適宜組み合わせることができる。つまり、本実施の形態に係る歩行アシスト車は、実施の形態1〜4に係る歩行アシスト車1,1A,1B,1Cが奏する効果と同様の効果を奏する。
【0178】
ところで、各実施の形態に係る歩行アシスト車を実現するための機能は、ある局面において、プログラムを格納するメモリおよび当該プログラムに含まれる命令を実行するプロセッサ(図1(C)におけるCPU21に対応)により実現される。当該プログラムは、歩行アシスト車1,1A,1B,1Cの不揮発性のデータ記録媒体(たとえばフラッシュメモリ)に予め格納されている。別の局面において、歩行アシスト車が通信機能を有する場合には、当該プログラムは、インターネットその他のネットワークを介して、当該プログラムの提供者からダウンロード可能であってもよい。この場合、通信方式は特に限定されない。さらに別の局面において、当該機能は、各処理を実現する回路の組み合わせによっても実現され得る。
【0179】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0180】
1,1A,1B,1C 歩行アシスト車、2 グリップ、2A 停止スイッチ、3 前輪、4 後輪、5 モータ、6 加速度センサ、7 ブレーキレバー、10 制御装置、25 電池部、26 バッグ、40 基体、41 左フレーム、42 右フレーム、43 フレーム、200 利用者、Ra 平地、Rb 上り坂、Rc 下り坂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16