(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る接合構造体の実施形態について、説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。また、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0016】
(実施形態1)
図1Aは、本発明の実施形態1における接合構造体100を示す側面図である。また、
図1Bは、接合構造体100の断面図である。
本発明の実施形態における接合構造体100は、芯線となる素線131とその周囲に配置された素線132から構成された棒状繊維強化複合材110からなる第1部材120と、前記第1部材120の端部に挿入されて配置される第2部材140と、第1部材120と第2部材140との重なり部を合成樹脂によって覆って接合する合成樹脂被覆部150とから構成されている。また、素線131の長さが棒状繊維強化複合材110の長さより短くなっており、第1部材120の端部は、第2部材140が挿入されて配置される空隙部を有する。すなわち、第1部材120と第2部材140との重なり部は、第1部材120の端部の空隙部に、第2部材140の端部が挿入され構成されている。第1部材120及び第2部材140、合成樹脂被覆部150を形成する合成樹脂の詳細については後述する。
【0017】
また、第1部材120と第2部材140との重なり部は、第1部材120の端部の少なくとも一方に形成されていればよく、第1部材の複数の端部において第2部材140との重なり部を形成されていてもよい。
また、本実施形態においては、合成樹脂被覆部150は、第1部材120と第2部材140との重なり部の全体を覆っているが、重なり部の少なくとも一部を覆っている構成でもよい。
【0018】
本実施形態の接合構造体100の合成樹脂被覆部150の長さL2は、必要とする強度に応じて設定すればよいが、10mm〜1000mmがよい。また、合成樹脂被覆部の直径(太さ)W2も必要とする強度に応じて設定すればよいが、3mm〜500mmがよい。なお、施工後の建築物や家具など構造物の外観上の観点からは合成樹脂被覆部150の長さL2は短い方が、好ましく、長さは50cm以下、30cm以下、20cm以下がより好ましい。また、その太さは、10cm以下、5cm以下、3cm以下がより好ましい。
なお、「合成樹脂被覆部150の直径」とは、
図1Bに示すように接合構造体100の合成樹脂被覆部150の長さL2方向に垂直な断面の最大の直径をいう。接合構造体100の合成樹脂被覆部150の長さL2方向に垂直に切断した際の断面が円でない場合は、その断面の長径を直径という。
【0019】
重なり部の長さ方向の長さL1や重なり部の直径(太さ)W1も、必要とされる強度に応じて設定すればよいが、重なり部の長さ方向の長さL1は10mm〜500mm、重なり部の直径W1は2mm〜250mmがよい。なお、「重なり部の直径」とは、重なり部の長さL1方向に垂直な断面の最大の直径であり、重なり部の長さL1方向に垂直に切断した際の断面が円でない場合は、その断面の長径を直径という。
【0020】
本実施形態においては、重なり部の長さL1は、合成樹脂被覆部150の長さL2より短く、重なり部の直径W1は、合成樹脂被覆部150の直径W2より細くなっているが、重なり部の長さと合成樹脂被覆部150の長さの関係及び重なり部の直径と合成樹脂被覆部150の直径の関係は、本発明の目的を達成できる範囲で、使用目的に応じて適宜設定できる。
【0021】
例えば、本発明の目的を達成できれば、接合構造体は、重なり部の長さが合成樹脂被覆部150の長さより長く、合成樹脂被覆部150の直径が重なり部の直径よりも太い構造であってもよい。
【0022】
また、接合構造体は、重なり部の長さが合成樹脂被覆部150の長さより短く、合成樹脂被覆部150の直径が重なり部の直径よりも細い構造であってもよい。すなわち、重なり部の棒状繊維強化複合材の表面の少なくとも一部が合成樹脂によって覆われずにはみ出し、外部に出ている構造であってもよい。また、このとき、合成樹脂で、重なり部の第2部材は全て覆われていることが好ましい。
【0023】
なお、本実施形態の接合構造体100は、破断荷重が3〜300kNであることが望ましい。接合構造体は、用いる場所や施工方法や用途にもよるが、下限値は5kN以上であることが好ましく、10kN以上であることがより好ましく、30kN以上であることがさらに好ましい。破断荷重が3kN以上であれば、優れた強度を有する接合構造体100が得られる。
【0024】
一方、上限値は200kN以下であることが好ましく、100kN以下であることがより好ましい。300kNを超えると、合成樹脂被覆部150の長さL2が長くなったり、合成樹脂被覆部150の直径W2が太くなり、外観品位が悪化するおそれがある。
【0025】
また、本実施形態の接合構造体100の質量は、特に限定されるものではないが、伝統建築物の補強材として用いる場合には、5kg以下であるとよい。好ましくは3kg以下、より好ましくは1kg以下がよい。第1部材120の長さ、直径や材質、第2部材140の材料や大きさにより、接合構造体100の質量は変わるが、軽量で重機等をもちいなくとも、運搬が可能で、高所での作業性の観点より、5kg以下が好ましい。本実施形態の接合構造体であれば容易に上記の質量以下の接合構造体が得られる。また、下限は、特に限定されないが、強度の観点からは5g以上が好ましい。
【0026】
また、接合構造体100を構成する第1部材120及び第2部材140、合成樹脂被覆部150を形成する合成樹脂は、接合構造体100が用いられる構造物の意匠性に合わせて、着色してもよい。また、合成樹脂は透明であっても、不透明であってもよい。このようにすることで外観品位の低下を抑制するだけではなく、接合構造体100を用いることで、構造物の様々なデザインに応じ、より構造物の外観の意匠性を高めることができる。
【0027】
以下、本発明の炭素繊維複合材の構成要素である第1部材120及び第2部材140、合成樹脂被覆部150について詳細に説明する。
【0029】
第1部材120は、芯線となる素線131とその周囲に配置された素線132から構成された棒状繊維強化複合材110である。本実施形態において、素線131および素線132は、繊維材料を束ねてなる繊維束を固化剤により一体化した素線130A、または、繊維材料を束ねてなる繊維束がその周囲に拘束材を巻き回して結束され、当該繊維束と当該拘束材とが共に固化剤によって一体化された素線130Bのいずれか一方または両方である。
【0030】
以下、素線130A、素線130Bについて詳細に説明する。なお、棒状繊維強化複合材110の詳細は後述する。
【0031】
(素線130A)
棒状繊維強化複合材110を構成する素線130Aは、繊維材料を束ねてなる繊維束を固化剤により一体化したものである。
用いられる繊維材料としては、例えば、炭素繊維、バサルト繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール(PVA繊維)などが使用できる。用いられる繊維材料は、特に、難燃性、強度、耐光性の観点より、炭素繊維またはガラス繊維が好ましい。難燃性の観点からはガラス繊維が好ましい。
【0032】
以下、繊維材料として炭素繊維、特に炭素繊維を素線の芯材として用いたものを例として、詳細に説明を行う。なお、炭素繊維以外の繊維材料を用いたものを除くものではない。
【0033】
炭素繊維を複数本(通常、数千本から数十万本、あるいは数百万本)束ねた炭素繊維束を用いる。炭素繊維束は、炭素繊維束の長さ方向に垂直に切断した場合のその断面は円形状、扁平状等任意であってもよいが、円形状が好ましい。本実施形態の棒状繊維強化複合材110に用いられる素線130Aでは、炭素繊維の束は所定の回数の撚りがかけられた状態で固化剤により、一体化されていると好ましい。炭素繊維束の撚り数は、得られる棒状繊維強化複合材110の曲げ応力に対する耐性、炭素繊維束のバラケ防止性、炭素繊維束の撚りに対する強度(撚りにより炭素繊維糸が切れない)や後に説明する素線を得る工程において、固化剤が付与され炭素繊維束と後述する拘束材とが一体化される前の状態のときに拘束材の間から炭素繊維束が飛び出す(目むき)ことが無いようにすることを考慮して決定される。
炭素繊維束の撚り数は、0〜100回/m、好ましくは2〜50回/mであり、より好ましくは5〜40回/mであり、さらに好ましくは10〜30回/mである。
【0034】
素線130Aは、直径0.5〜20mmであることが好ましく、直径1〜5mmであることがより好ましい。なお、本実施形態の棒状繊維強化複合材110に用いられる素線130Aの直径は、固化剤で一体化した素線130Aの長さ方向に垂直に切断した断面の直径あり、目的とする直径になるように炭素繊維束の直径、固化剤の付与量が選択される。素線130Aの長さ方向に垂直に切断した際の断面が円でない場合は、その断面の長径を直径という。
【0035】
また、素線130Aの長さ方向に垂直に切断した際の断面は、円形状、扁平状等任意であってもよいが、円形状が好ましい。得られる素線130Aの強度が安定するとともに、棒状繊維強化複合材110(ストランド構造体)やマルチストランド構造体とする場合にも、安定した構造体を得ることができる。
また、素線130Aの直径が直径0.5〜20mm(より好適には1〜5mm)であると、素線130Aおよび後に説明する棒状繊維強化複合材110がドラムに巻きやすくなり、また、任意の形状に追従するなどのフレキシブル性を高めることができる。
【0036】
本実施形態の炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系等任意の炭素繊維を使用できる。この中でも、得られる棒状繊維強化複合材110の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維糸が好ましい。
また、この炭素繊維を束ねた炭素繊維束は、炭素繊維メーカーから供給される炭素繊維を3000本(3K)、6000本(6K)、12000本(12K)、24000本(24K)、40000本(40K)、60000本(60K)などに束ねた炭素繊維束を、必要とされる強度に応じて1本、または複数本(2本以上)束ねたものを用いることができる。炭素繊維を束ねた炭素繊維束を複数本束ねる場合の炭素繊維束の本数に特に制限はなく、目的用途に応じで適宜決定されるが、通常、100本以下である。
【0037】
本実施形態の固化剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも使用できる。また、炭素繊維と親和性の高い固化剤が好ましい。特に加熱することにより可変性を持たせることができるため、また、合成樹脂被覆部150の合成樹脂と棒状繊維強化複合材110とを接着剤を用いて接合した場合の接着性に優れるとの観点からは、固化剤として熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0038】
好適な具体例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン42等)、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂などが挙げられるが、これに制限されない。
【0039】
この中でも酸やアルカリに対する耐久性の観点から、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、レゾルシノール樹脂が好適であり、特に耐衝撃性に優れ、エポキシ樹脂が好適である。また、熱可塑性エポキシ樹脂であれば、ケトン溶剤に溶解が可能で素材分別しリサイクルができる。また、耐熱性の観点より、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂が好ましい。
また、棒状繊維強化複合材110と合成樹脂被覆部150の合成樹脂との接着性に優れるとの観点からは、固化剤として熱可塑性エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
また、特に熱可塑性エポキシ樹脂の中でも、炭素繊維束に付与した後、重合する重合型の熱可塑性エポキシ樹脂が好ましく、特に直鎖状に重合する重合型の熱可塑性エポキシ樹脂が好ましい。
棒状繊維強化複合材110の芯材に用いられる炭素繊維束に撚りがかけられたものや、後に説明を行う炭素繊維束の周りが拘束材で覆われている素線130Bでは、炭素繊維束の内部にまで樹脂を含侵させることが困難である。
一方、重合型の熱可塑性エポキシ樹脂は、重合させる前の熱可塑性エポキシ樹脂を有機溶剤で希釈することができるので粘度調整が容易である。
そのため、有機溶媒で希釈した低粘度の樹脂溶液を用いることにより、撚りがかけられている炭素繊維束の内部まで(さらには拘束材で覆われている素線130Bであっても外周の拘束材から内部の炭素繊維束まで)重合前の熱可塑性エポキシ樹脂を含浸させることができる。重合前の熱可塑性エポキシ樹脂を炭素繊維束の内部に含侵させた後、当該重合型の熱可塑性エポキシ樹脂を重合させることにより炭素繊維束と拘束材が熱可塑性エポキシ樹脂で一体化された、強度の優れた素線が得られる。
【0041】
また、加熱溶融することにより流動性を付与し用いられる一般的な熱可塑性樹脂は、粘度調整が困難であると共に、一般に結晶性樹脂であるためか加熱溶融を行うことにより結晶配列が変化し、当初の樹脂が有している強度などの性質が変質するおそれがあるが、重合型の熱可塑性エポキシ樹脂は、重合前および重合後も非晶質であるため、加熱溶融や加熱変形させても変質のリスクが小さい。
【0042】
炭素繊維束への上述の樹脂(固化剤)を付与する方法は、スプレーコート法や刷毛で炭素繊維に樹脂をコートする方法などでもよいが、生産性の観点から、ディップ−ニップ法や樹脂(固化剤)溶液にディップした後、ダイスを通して余分な樹脂を除去し、また、炭素繊維束の長さ方向に垂直な断面の断面形状を整える方法が好適である。
【0043】
また、素線130Aは、固化剤により一体化した炭素繊維束のさらにその外周の全面を覆うように別途樹脂層が設けられていてもよい。不燃性向上の観点からは、ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂や塩化ビニル樹脂を用いた樹脂層を設けるとよい。また、意匠性の観点からは、着色のための顔料などの着色剤を含む樹脂層を設けるとよい。これらの樹脂層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれであっても用いることはできるが、固化剤として、熱可塑性樹脂を用いた場合には、別途層に用いられる樹脂も熱可塑性樹脂が好ましい。
【0044】
(素線130B)
次に、本発明の他の実施形態の素線130Bについて説明する。
図2は、素線130Bを示す斜視図である。素線130Bは、繊維材料を束ねてなる繊維束2がその周囲に拘束材3aを巻き回して結束され、当該繊維束2と当該拘束材3aとが共に固化剤によって一体化されたものである。
なお、繊維束2がその周囲に拘束材3aを巻き回して結束される構造とすることにより、素線130Bと合成樹脂被覆部150の合成樹脂との接触面積や構造的な抵抗が増加し、棒状繊維強化複合材110と合成樹脂被覆部150の合成樹脂との接着力が向上し、得られる接合構造体100の引張強さ、破断荷重の大きさの観点より好ましい。
拘束材3a以外の基本的構成は、上述した素線130Aと同様であるため、適宜説明を省略する。
また、素線130Bでは、上述した素線130Aと同様に、繊維材料として炭素繊維、特に炭素繊維を芯材として用いたものを例として、詳細に説明を行う。以下、炭素繊維を束ねてなる繊維束を炭素繊維束ともいう。なお、炭素繊維以外の繊維材料を用いたものを除くものではない。
【0045】
拘束材3aは、炭素繊維束2を周囲面から炭素繊維がばらばらにならないように結束するとともに素線130Bの形状を安定させることができるものである。本実施形態では、素線130Bは、炭素繊維束2を拘束材3aで拘束して、そこに固化剤を付与することで、炭素繊維束2と拘束材3aとが固化剤によって一体化している。また、素線130Aと同様に炭素繊維束2は撚りがかかっていると好ましい。
【0046】
本実施形態の素線130Bでは、拘束材3aとなる繊維を炭素繊維束2の外周に巻きまわして筒状の組紐(丸打)を組むことで、組紐状の拘束材3aを形成している(筒状の組紐の筒内に炭素繊維束2を有することで、炭素繊維束2の外周を拘束材3aで形成された組紐構造で覆ったもの。)。拘束材3aを組紐状にすることで、炭素繊維束2を結束すると共に、得られる素線130Bの形状をより安定させることができ、また、拘束材3aが内部の炭素繊維束2を構成する炭素繊維の保護を行う保護層として機能する。また、日本伝統の組紐技術が用いられているため、意匠性にも優れる。
【0047】
そのため、このような構成の素線130Bを用いた接合構造体100を引張材などに用いた場合では、安定した強度を発揮し、外観品位も良く、砂利などの鋭利物と接触しても断線することを防ぐことができる。
また、拘束材3aで拘束された炭素繊維束2を樹脂(固化剤)溶液にディップした後、ダイスで扱いて余分な樹脂を絞るときに炭素繊維束2の長さ方向に張力がかかるが、炭素繊維束2の外周を拘束材3aによる組紐構造で覆ったものであれば編物のように目が開いてしまうのではなく、目が閉じた状態で組紐の径が細くなる。そのため、内部の炭素繊維束2の露出を抑えつつ、拘束材3aと炭素繊維束2の密着性を高めることができるので、得られる接合構造体100の強度の観点より好ましい。
【0048】
なお、拘束材3aは炭素繊維束2を構成する炭素繊維がばらばらにならないように結束できればよく、拘束材3aの配置は組紐状に限定されない。また、炭素繊維束2の表面を拘束材3aで完全に被覆する必要もなく、炭素繊維束2の表面の一部が被覆されていなくてもよい。
他の拘束材による結束の例として、1本の拘束材を螺旋状に巻きつけて炭素繊維束を結束したり、炭素繊維束の周囲面に拘束材となる繊維を巻き回して目の粗い筒状の丸編を編んだ編紐状の拘束材によって炭素繊維束を結束したり、繊維等を所定間隔に配置した拘束材によって炭素繊維束を結束したりする形態であってもよい。
一方で、炭素繊維束の保護、素線130Bの形状の安定による強度の安定、外観品位の低下の抑制との観点からは、拘束材を筒状の組紐にして、当該筒状の組紐の内部に炭素繊維束を配置し、炭素繊維束の表面全体を被覆したものが好ましい。
【0049】
拘束材3aとしては、柔軟なものが好ましく、ポリアミド(ナイロン等)、ビニロン、ポリアクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル、アラミド、セルロース、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール等の合成繊維や、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛、麻、綿などの天然繊維等が使用できる。また、熱安定性に優れる繊維が好ましく、ガラス繊維、バサルト繊維が好ましく、特にはガラス繊維が好ましい。ガラス繊維のように熱安定性に優れる繊維を用いることにより、熱がかかったときに、不燃性に優れるとともに、炭素繊維束と拘束材とのずれの発生を抑制し、安定した引張に対する強度と不燃性を発現することができる。
【0050】
なお、素線130Bにおいては、炭素繊維束2をより強固に結束するために、特に拘束材3aにより結束した炭素繊維束2に固化剤を含浸させ、拘束材3aと共に炭素繊維束2を硬化させることが好ましい。そうすることで、炭素繊維束2および拘束材3aを強固に一体化させることができ、得られる棒状繊維強化複合材110、これを用いて得られる接合構造体100の形状の安定性が向上したり、強度、特に引張強度が向上する。
【0051】
素線130Bの太さは、直径1〜25mm、より好適には1〜10mm、さらにより好ましくは1〜5mmであると、素線130Bおよび後に説明する棒状繊維強化複合材110(ストランド構造体)やマルチストランド構造体がドラムに巻きやすくなり、また、任意の形状に追従するなどのフレキシブル性を高めることができる。なお、本実施形態の棒状繊維強化複合材110に用いられる素線130Bの直径は、炭素繊維束2と当該拘束材3aと共に固化剤によって一体化した素線130Bの長さ方向に垂直に切断した断面の直径であり、目的とする直径になるように炭素繊維束2の直径、拘束材3aでの被覆の厚み、固化剤の付与量が選択される。素線130Bの長さ方向に垂直に切断し際の断面が円でない場合は、その断面の長径を直径という。
【0052】
また、素線130Bは、拘束材および固化剤が付与された炭素繊維束の外周の全面を覆うように別途層(繊維材料からなる筒状体や樹脂層等)が設けられていてもよい。不燃性向上の観点から、ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂や塩化ビニル樹脂を用いた樹脂層を設けるとよい。また、意匠性の観点からは、着色のための顔料などの着色剤を含む樹脂層を別途設けてもよい。これらの樹脂層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれであっても用いることはできるが、固化剤として、熱可塑性樹脂を用いた場合には、別途層に用いられる樹脂も熱可塑性樹脂が好ましい。
【0053】
(棒状繊維強化複合材110)
本発明の棒状繊維強化複合材110について説明する。
棒状繊維強化複合材110は、中心に配置された芯線となる1本の素線131を他の6本の素線132が取り囲む構造を有するストランド構造体である。このような構造とすることにより、合成樹脂被覆部150において、棒状繊維強化複合材110と合成樹脂との接触面積や構造的な抵抗が増加し、合成樹脂と棒状繊維強化複合材110との接着力が向上し、得られる接合構造体100の引張強度の向上および安定性の観点より好ましい。
なお、「ストランド構造体」とは、同一径又は異なる直径の2本〜数十本の素線が単層又は多層に引き揃えられた構造、または、同一径又は異なる直径の2本〜数十本の素線が単層又は多層に撚り合わされた構造を意味する。
【0054】
なお、棒状繊維強化複合材110は、上記の素線130Aおよび素線130Bのいずれか一方または両方を構成体として用い、これらを複数本、撚り合せて形成したストランド構造体の代わりに、上記の素線130Aおよび素線130Bのいずれか一方または両方を構成体として用い、これらを複数本、引き揃えて形成したストランド構造体としてもよい。
【0055】
また、棒状繊維強化複合材を構成する素線としては、素線130A、素線130Bを例示したがこれに限定されず、本発明の素線の構成のものであればいずれものでもよい。また、本発明の素線の要件を満たす素線であれば、異なる素線を複合して用いてもよい。
【0056】
また、本実施形態に係る棒状繊維強化複合材110では、芯(芯線)となる素線131と、芯となる素線131を取り囲む他の6本の素線132が撚り合されているストランド構造を有していることで、樹脂を用いて7本の素線を一体化しなくとも、バラケを防ぎ一体化できる。棒状繊維強化複合材110は、さらにドラムに巻き曲げ応力がかけられた後、伸ばして用いた場合や、曲げ応力がかかる箇所にもちいても優れた引張強度を維持することができる。
【0057】
また、撚りを形成する方向として、
炭素繊維束×ストランド構造体=S方向×Z方向、S方向×S方向、Z方向×Z方向、Z方向×S方向、のいずれでも可能である。
【0058】
ストランド構造体の撚り数は、目的に応じて1.1〜50回/mで選択される。撚り数が少なすぎると、芯材単位でバラケやすくなる。一方、撚り数が多くなりすぎると引張強度が低下するおそれがある。素線の本数が7〜37本の場合には、1.5〜20回/mが好ましい。より好ましくは2〜10回/mがよい。
【0059】
また、ストランド構造体を構成する素線の本数は7本であるが、これに限定されず、目的とする性能(特に破断荷重)、用途を考慮して適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常、2〜50本である。好ましくは、7〜37本がよい。
例えば、炭素繊維を24000本束ねたもの(24k)1本を炭素繊維束として用いた棒状繊維強化複合材110の場合には、ストランド構造体を構成する素線の本数は2本〜50本程度であるとブレース材等の用途として好適である。
【0060】
なお、本実施形態の棒状繊維強化複合材110は、芯線として用いた一本の素線を取り囲むように構成された他の素線とが一体に撚り合わせられているが、ストランド構造体の構造として、芯となる芯線を設けず、必要本数(例えば、2〜50本)の素線を束ね、束ねられた素線全体に撚りを掛けてもよい。
【0061】
また、本実施形態の棒状繊維強化複合材110は、芯線として1本の素線131を用いているが、より太い芯線が必要な場合には、複数本の素線を束ねるように配置すればよく、特に断面が円形になるように配置することが好ましい。
なお、芯線を構成する素線の本数はその使用目的に合わせて適宜決定すればよい。
【0062】
また、棒状繊維強化複合材110は、芯線となる素線131の長さが棒状繊維強化複合材110の長さより短く、棒状繊維強化複合材110の端部は、第2部材140が挿入されて配置される空隙部を有する。すなわち、空隙部は、棒状繊維強化複合材110の端面に向かって開口した中空部となっている。
棒状繊維強化複合材110の端部は、空隙部を有することで、第1部材の端部に第2部材の端部を挿入しやすく、また、第1部材120と第2部材140との軸が直線状となり、得られる接合構造体はより優れた引張強さや破断荷重などの引張強度を発揮することができる。
【0063】
棒状繊維強化複合材110の端部に空隙部ができるように長さの異なる素線を用いてストランド構造体を形成したり、ストランド構造体を形成させた後に素線を切り取って形成させることもできる。
【0064】
なお、第1部材の端部に第2部材が挿入され配置されていれば、芯線となる素線の長さは、棒状繊維強化複合材110の長さと同等であってもよい。
棒状繊維強化複合材の両端部は、同一形状でもよいが、同一形状である必要はなく、一方の端部に空隙部を有し、一方の端部は空隙部を有さない構造でもよい。
【0065】
棒状繊維強化複合材110の直径が直径2〜100mm、より好適には4〜50mm、さらにより好適には6〜20mmであると、棒状繊維強化複合材110がドラムに巻きやすくなり、また、任意の形状に追従するなどのフレキシブル性を高めることができる。
【0066】
なお、棒状繊維強化複合材110として、前記ストランド構造体をさらにより合せた、マルチストランド構造体であってもよい。
【0067】
また、棒状繊維強化複合材110は、ストランド構造体やマルチストランド構造体の外周を覆うように被覆層(繊維材料からなる筒状体や樹脂層等)が設けられていてもよい。
ただし、棒状繊維強化複合材110は、少なくとも一方の端部に、第2部材140が挿入されて配置でき、棒状繊維強化複合材110と第2部材との重なり部の少なくとも一部を合成樹脂により覆って接合できる状態にする必要がある。棒状繊維強化複合材110の端部をバラケさせたり、重なり部の内部に合成樹脂が染み込んで接着できるように、重なり部は被覆層がない状態にする必要がある。なお、棒状繊維強化複合材の端部の被覆層を裂いて用いる場合は、重なり部に被覆層が残っていてもよい。
【0068】
ストランド構造体やマルチストランド構造体は撚られた素線と素線の間に埃等が付着しやすいが、別途、被覆層を設けることで、これらの埃の付着を抑制することができる。
また、不燃性向上の観点からは、前記の全面を覆うように被覆層は、ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂や塩化ビニル樹脂を用いた樹脂層を設けるとよい。
また、意匠性の観点からは、全面を覆うように被覆層として着色のための顔料などの着色剤を含む樹脂層を別途設けてもよい。
これらの樹脂層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれであっても用いることはできるが、固化剤として、熱可塑性樹脂を用いた場合には、被覆層に用いられる樹脂も熱可塑性樹脂が好ましい。
【0069】
棒状繊維強化複合材110は、その密度が、1.0〜2.5g/cm
3であることが望ましい。下限値は、好ましくは1.2g/cm
3以上、より好ましくは1.4g/cm
3以上がよい。1.0g/cm
3以上であれば、優れた強度を有する接合構造体100が得られる。一方、上限値は、好ましくは2.2g/cm
3以下、より好ましくは2.0g/cm
3、さらに好ましくは1.8g/cm
3以下がよい。2.5g/cm
3以下であれば、軽い接合構造体100が得られる。
【0070】
また、棒状繊維強化複合材110の質量は、2〜150g/mであることが望ましい。下限値は、好ましくは5g/m以上、より好ましくは10g/m、さらに好ましくは40g/m以上がよい。2g/m以上であれば、優れた強度を有する接合構造体100が得られる。一方、上限値は、好ましくは120g/m以下、より好ましくは100g/m以下である。150g/m以下であれば軽い接合構造体100が得られる。
【0071】
また、棒状繊維強化複合材110は、引張強さが100〜5000MPaであることが望ましい。下限値について、好ましくは500MPa以上が良く、より好ましくは1000MPa以上であるとよい。100MPa以上であれば、優れた強度を有する接合構造体100が得られる。一方、上限値について、好ましくは4000MPa以下が良く、より好ましくは3000MPa以下がよい。5000MPaを超えると接合構造体が重くなってしまったり、柔軟性を失ってしまったりして、巻き取っての移動や保管ができなくなるおそれがある。
【0072】
(第2部材140)
第2部材140は、M8の鋼鉄製のボルトを用いている。
なお、第2部材140としては、第1部材120の端部に挿入されて配置できる構造のものであればよく、例えば、螺子を切った鋼鉄製のボルト(M8、M10、M12の鋼鉄製ボルトなど)等少なくとも一方の端部が棒状となっているものを用いることができる。第2部材140の第1部材に挿入されて配置される端部は、棒状であることが好ましいが、らせん状や、板状であってもよいし、U字状、輪っか状であってもよい。
第2部材は第1部材と同一素材であってもよい。第1部材120の端部に重ねられる第2部材140の端部は、表面が螺子を切るなどして凹凸を有すると合成樹脂被覆部150において、合成樹脂と第2部材140との接着力が向上し、得られる接合構造体100は、優れた引張強度が得られるとの観点から好ましい。
【0073】
また、第2部材140の形状は特に限定されず、第1部材120の端部に挿入されていない側の端部は、棒状であってもよいし、棒状でネジが切ってあってもよく、また、板状であってもよいし、U字状、輪っか状であってもよく、補強される柱、梁、床、壁、地面に、第1部材120の端部に挿入されない側の端部をナットやボルト、釘、紐や布状物や杭等で定着できればよい。また、接合構造体100は、第2部材140の第1部材120の端部に挿入されない側の端部をナットやボルト、釘、紐や布状物や杭等と接合後、さらに他の定着治具を介して、柱、梁、床、壁、地面等に定着してもよい。
【0074】
(合成樹脂被覆部150)
合成樹脂被覆部150の合成樹脂は、ウレタン樹脂である。なお、合成樹脂は、ウレタン樹脂に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で、合成樹脂は適宜選択できる。合成樹脂被覆部150の合成樹脂として、ウレタン樹脂の代わりに、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどのゴム系、α―オレフィン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの合成樹脂を用いてもよい。接着性の観点からはウレタン樹脂またはエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
具体的には、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物であるポリオール及びポリイソシアネートを含むウレタン樹脂が好ましい。ポリオールの重量平均分子量は600以下のものがよい。また、多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン或いは、ペンタエリトリトールが好ましい。また、耐熱性の観点から、ガラス転移温度(Tg)は70℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上である。上限は特にないが、130℃程度である。
【0075】
<実施形態2>
図3Aは、本発明の実施形態2における接合構造体101の側面図である。また、
図3Bは、接合構造体101の断面図である。なお、
図3A、
図3Bにおいては、
図1と同じ構成のものは同符号を付して説明を省略する。
図3Aに示すように、接合構造体101は、第1部材である棒状繊維強化複合材111と、棒状繊維強化複合材111の端部に重ねて配置される第2部材140と、重なり部の少なくとも一部を合成樹脂により覆って接合する合成樹脂被覆部150からなる。
【0076】
本実施形態においては、重なり部の長さL3は、合成樹脂被覆部150の長さL4より長く、重なり部の直径W3は、合成樹脂被覆部150の直径W4より細くなっているが、重なり部の長さL3と合成樹脂被覆部150の長さL4の関係及び重なり部の直径W3と合成樹脂被覆部150の直径W3の関係は、実施形態1と同様に使用目的に応じて適宜設定できる。
【0077】
棒状繊維強化複合材111は、芯線となる素線133を他の6本の素線134が取り囲む構造を有するストランド構造体であり、素線133の長さが棒状繊維強化複合材111の長さとほぼ同じで端部に空隙部を有さない構造である他は、棒状繊維強化複合材110と同様である。芯線となる素線133は、長さが異なる以外は、素線131と同様である。素線134は素線132と同様である。
なお、実施形態1と同様に、本発明の目的を阻害しない範囲で、棒状繊維強化複合材111の素線の種類や本数等は適宜変更できる。また、棒状繊維強化複合材111は、素線を複数本、引き揃えた構成や、芯線がない構成であってもよい。また、棒状繊維強化複合材111は、マルチストランド構造体であってもよい。
【0078】
第2部材140は、実施形態1と同様に、棒状繊維強化複合材111の端部に重ねて配置できる構造のものであればよく、例えば、螺子を切った鋼鉄製のボルト(M8、M10、M12の鋼鉄製ボルトなど)等少なくとも一方の端部が棒状となっているものを用いることができる。なお、第2部材140の棒状繊維強化複合材111に重ねて配置される端部は、棒状であることが好ましいが、らせん状や、板状であってもよいし、U字状、輪っか状であってもよい。第2部材140は、棒状繊維強化複合材111と同一であってもよい。
【0079】
合成樹脂被覆部150の合成樹脂は、ウレタン樹脂であるが、実施形態1と同様に、ウレタン樹脂に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で、合成樹脂は適宜選択できる。合成樹脂被覆部150の合成樹脂として、ウレタン樹脂の代わりに、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどのゴム系、α―オレフィン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの合成樹脂を用いてもよい。
【0080】
<実施形態3>
図4Aは、本発明の実施形態3における接合構造体102の側面図である。また、
図4Bは、接合構造体102の断面図である。なお、
図4A、
図4Bにおいては、
図1と同じ構成のものは同符号を付して説明を省略する。
【0081】
接合構造体102は、第1部材である棒状繊維強化複合材112と、棒状繊維強化複合材112の端部に重ねて配置される第2部材140と、重なり部を合成樹脂により覆って接合する合成樹脂被覆部150からなる。また、棒状繊維強化複合材112の端部は、第2部材140が重ねて配置される空隙部を有する。
【0082】
本実施形態においては、重なり部の長さL5は、合成樹脂被覆部150の長さL6より短く、重なり部の直径W5は、合成樹脂被覆部150の直径W6より細くなっているが、重なり部の長さL5と合成樹脂被覆部150の長さL6の関係及び重なり部の直径W5と合成樹脂被覆部150の直径W6の関係は、実施形態1と同様に使用目的に応じて適宜設定できる。
【0083】
第1部材である棒状繊維強化複合材112は、芯線となる素線135を4本の素線136と2本の素線137の計6本の素線が取り囲む構造を有するストランド構造体である。
図4Aに示すように、棒状繊維強化複合材112は、芯線となる素線135の周囲に配置された6本の素線のうち2本の素線137の長さが他の4本の素線136の長さより短く、端部に空隙部を有する構造である。
棒状繊維強化複合材112は、素線135及び素線137の長さが異なる他は、棒状繊維強化複合材110と同様である。芯線となる素線135は、長さが異なる以外は、素線131と同様である。素線136は素線132と同様である。素線137は、長さが異なる以外は、素線132と同様である。
なお、実施形態1と同様に、本発明の目的を阻害しない範囲で、棒状繊維強化複合材112の素線の種類や本数等は適宜変更できる。また、棒状繊維強化複合材112は、素線を複数本、引き揃えた構成や、芯線がない構成であってもよい。また、棒状繊維強化複合材112は、マルチストランド構造体であってもよい。
【0084】
第2部材140は、実施形態1と同様に、棒状繊維強化複合材112の端部に重ねて配置できる構造のものであればよく、例えば、螺子を切った鋼鉄製のボルト(M8、M10、M12の鋼鉄製ボルトなど)等少なくとも一方の端部が棒状となっているものを用いることができる。なお、第2部材140の棒状繊維強化複合材112に重ねて配置される端部は、棒状であることが好ましいが、らせん状や、板状であってもよいし、U字状、輪っか状であってもよい。第2部材140は、棒状繊維強化複合材111と同一であってもよい。
【0085】
合成樹脂被覆部150の合成樹脂は、エポキシ樹脂であるが、実施形態1と同様に、当該樹脂に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で、合成樹脂は適宜選択できる。合成樹脂被覆部150の合成樹脂として、エポキシ樹脂の代わりに、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどのゴム系、α―オレフィン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの合成樹脂を用いてもよい。
【0086】
[接合構造体の用途]
以上の構成を有する本実施形態の接合構造体100、101、102は、軽量でかつ優れた強度を有し、意匠性、外観品位の低下を抑制することにより、クレーン車などの重機の入れない場所に建てられた伝統建築物や従来の耐震補強材の質量に耐えることができず耐震補強できなかった伝統建築物の耐震補強を行うことができる。さらに、鉄鋼、鉄筋、木造などの一般の建築物やテーブル、椅子、手すりなどの家具類、植物用の誘引紐、ワーヤー代替物、柵など種々の構造物の補強材や構造材として用いることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の技術的思想の範囲内で上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
また、本実施例における各種データは以下の方法で測定を行った。
【0089】
<直径>
素線、棒状繊維強化複合材の直径、重なり部、合成樹脂被覆部の長さ、太さはノギスで測定した。
<質量>
棒状繊維強化複合材および素線を10cmに切断し、電子天秤を用いて質量を測定し、その値を10倍して、1m当たりの質量を求めた。
<密度>
JIS K7112:1999 A法(水中置換法)に準じて測定をおこなった。
<引張強さおよび破断荷重>
引張強さおよび破断荷重は、インストロンジャパンカンパニリミテッドから供給されている5980フロア型高容量万能試験機 型式5985を使用し、2mm/minの条件で測定した(測定環境は室温(約25℃))。試料が破断したときの荷重(kN)を破断荷重とした。試料が破断したときの荷重(kN)を破断荷重とし、破断荷重を棒状繊維強化複合材の長さ方向に垂直に切断した断面積(有効断面積)で割ったものを引張強さ(MPa)とした。
【0090】
(実施例1)
24Kの炭素繊維束(PAN系炭素繊維。東レ株式会社製。T700SC。)を3本束ね、S方向に10回/m撚りをかけたもの1本を炭素繊維束として用い、拘束材としてガラス繊維を用い、製紐機(24打機)を用いて、16打ちの石目打にて、炭素繊維束の外周の全面を組紐状にガラス繊維で拘束した。
【0091】
次に、
重合型の熱可塑性エポキシ樹脂(DENATITE XNR6850V、固形分85質量%、ナガセケムテックス株式会社製)100質量部、
硬化剤(DENATITE XNH6850V、固形分30質量%、ナガセケムテックス株式会社製) 6.5質量部、
メチルエチルケトン(MEK)10質量部
からなる溶液(粘度150mPa・s)にデッピングし、ダイスを通し、余分な溶液を除去するとともに、炭素繊維束の長さ方向に対し垂直に切断した際の断面形状が円形になるように形状を整え、拘束された炭素繊維束に対し、固化剤を付与した。その後、熱処理(150℃、20分間)を行うことで、前記重合型の熱可塑性エポキシ樹脂を重合させて、炭素繊維束と拘束材と熱可塑性エポキシ樹脂(固化剤)を一体化させて素線を得た。
【0092】
得られた実施例1の素線の断面は円形状で、直径3mm、質量は12.8g/mであった。破断荷重13kN、引張強さは1800MPa(有効断面積7.1mm
2)であった。
であった。
素線は、室温で直径100cmのドラムに3000m巻きとったところ、折れることなく、スムーズに巻き取ることができた。
【0093】
次に、得られた素線を7本用い、中心に芯線として1本の素線、その周りを6本の素線で覆うように、120℃に加熱しながら撚り合わせて、ストランド構造とし、棒状繊維強化複合材を得た。
得られた実施例1の棒状繊維強化複合材は、直径9mm、密度は1.6g/m
3、質量は80g/mであった。破断荷重90kN、引張強さは1800MPa(有効断面積50mm
2)であった。
次に、棒状繊維強化複合材の芯材を端部から9cm切り取った。これを第1部材として用いた。
【0094】
次に、第2部材として、長さ15cmの螺子を切った鋼鉄製のボルト(以下、M8ボルトという。太さ(太い部分7.7mm))を用い、M8ボルトを棒状繊維強化複合材の芯材を切り取った部分に、挿入し、重なり部を構成した。重なり部の長さは9cmであった。また、重なり部の太さは、太い部分で1.55cmであった。
【0095】
次に、重なり部を合成樹脂で接合するために、長さ10cm、内径21mmの合成樹脂製の管内(剥離用フィルムが管内壁に取り付けた物)に、重なり部が全て入るように挿入し、当該管内に、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物であるポリエーテルポリオールとポリイソシアネートの混合物を充填し、室温(25℃)で1時間放置し、前記ポリオールとポリイソシアネートを反応・硬化させウレタン樹脂(Tg93℃)を生成した。ウレタン樹脂の硬化後、当該管を取り除き、室内に1週間養生し、第1部材と、第2部材と、第1部材と第2部材が重なり合う重なり部の全体がウレタン樹脂で覆われ接合される合成樹脂被覆部から構成される接合構造体を得た。
図5に接合構造体の写真を示す。
【0096】
得られた接合構造体の破断荷重を測定したところ、20kNであった。破断の状態は、合成樹脂被覆部の破壊ではなく、M8ボルトが破断しており、重なり部はウレタン樹脂により十分な強度を有しているものであった。ウレタン樹脂つまり合成樹脂で接合された合成樹脂被覆部の太さは2cm、長さは10cmと細く、短いものであり意匠性に優れていた。さらに、合成樹脂被覆部は透明であり、ウレタン樹脂で覆われた棒状繊維強化複合材、素線、M8ボルトが透けて見えるものであり、この観点からも意匠性に優れていた。