特許第6794211号(P6794211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794211
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】インホイールモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/06 20060101AFI20201119BHJP
   F16H 57/021 20120101ALI20201119BHJP
   F16H 57/03 20120101ALI20201119BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   F16H1/06
   F16H57/021
   F16H57/03
   B60K7/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-202470(P2016-202470)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-63019(P2018-63019A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年9月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】太向 真也
(72)【発明者】
【氏名】田村 四郎
(72)【発明者】
【氏名】魚住 朋久
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−181954(JP,A)
【文献】 特開2012−214203(JP,A)
【文献】 特開2016−161030(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/008694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/06
B60K 7/00
F16H 57/021
F16H 57/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ部と、減速機部と、車輪用軸受部とから構成され、ケーシングを備えており、前記減速機部が平行軸歯車による減速構造を有するインホイールモータ駆動装置において、
前記平行軸歯車は、入力側中間歯車と出力側中間歯車を備えた1つ又は複数の中間軸と最終出力歯車を備えた出力軸とから構成され、前記中間軸と前記出力軸のそれぞれの両端部が転がり軸受によって回転自在に支持され、
前記転がり軸受のうち、前記入力側中間歯車に近接する転がり軸受が前記入力側中間歯車の内径側凹部に配置されると共に、
前記最終出力歯車に近接する転がり軸受が前記最終出力歯車の内径側凹部に配置され
前記最終出力歯車の前記内径側凹部の内径側幅面に窪み部が設けられ、この窪み部に前記車輪用軸受部の内輪を固定するためのハブ輪の加締め部が収容され、
前記窪み部と前記最終出力歯車の前記内径側凹部とが半径方向に重畳して形成されていることを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記内径側凹部に肉抜き部と補強リブが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記中間軸と前記出力軸との軸間距離が、前記入力側中間歯車と前記最終出力歯車の両ピッチ円半径を合計した寸法より小さく設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記減速構造が2段の平行軸歯車で構成されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のインホイールモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータ部の出力軸と車輪用軸受部とを減速機部を介して連結したインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インホイールモータ駆動装置は、ホイールの内部に収められるため、車両のばね下重量となる。ばね下重量の増加は車両の乗り心地を悪化させるため、インホイールモータ駆動装置の小型軽量化は重要な要件である。電動モータの出力トルクは、電動モータのサイズおよび重量に比例するため、モータ単体で車両の駆動に必要なトルクを発生させようとすると、大型のモータが必要になる。そのため、電動モータを減速機と組み合わせて使用することで、小型化する手段が用いられる。
【0003】
しかし、電動モータ、減速機、車輪用軸受を直列に並べると、ホイールからインボード側へのインホイールモータ駆動装置の張り出し量が大きくなる。ホイールハウジングのスペースが内燃機関の車両と同じである場合、車両が転舵、上下動した際、車体とインホイールモータ駆動装置との干渉が発生する。そのため、タイヤ可動範囲を減らすか、インホイールモータ駆動装置専用に車体を改造する必要がある。
【0004】
従来技術として、インホイールモータ駆動装置において、電動モータの回転を減速して減速機構の出力軸から駆動輪に伝達し、減速機構が平行軸歯車列からなり、この平行軸歯車列により電動モータの回転軸が車両の垂直方向の上方にオフセットされて配置したものが提案されている(特許文献1)。このインホイールモータ駆動装置では、電動モータの回転軸を車輪用軸受の軸心に対して径方向にオフセットさせることにより、ホイール内の
電動モータが占有していない空間に懸架機構との接続点やブレーキキャリパ取付部等を設けることができる。また、インホイールモータ駆動装置全体を小さくすることができるので、転舵機構による旋回運動や懸架機構による上下運動に伴う車体や懸架部品との干渉を回避しやすくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−209016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のインホイールモータ駆動装置では、平行軸歯車減速機を適用することで、電動モータのオフセット配置と小型化を図っている。しかし、減速機構の最終段歯車軸と車輪用軸受とは同軸上に、ある程度の距離をもって配置されている。減速比を大きくする等の対策をして減速機構と電動モータを小型化し、モータの一部又は全部をホイール内周の円筒状の空間に収めることができたとしても、最低限3つの構成要素である(1)車輪用軸受、(2)減速機最終段歯車軸の支持軸受、(3)減速機最終段歯車が車軸と同軸上に並ぶことになり、小型化、特に軸方向寸法を短くすることにおいて大きな障害になることが分かった。
【0007】
その結果として、懸架部品の形状に制限が加わることで、懸架部品の重量増加や強度低下、最低地上高さの減少などの悪影響が生じたり、干渉を回避するために、車体側の設計変更が必要になることで車両の運動性能が低下したり、車体の共通化にコストメリットが失われるという問題に突き当たった。この問題に着目したのが本発明である。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑み、平行軸歯車減速機を備えたインホイールモータ駆動装置の小型化、特に軸方向の小型化を図り、車両搭載性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、電動モータ部と、減速機部と、車輪用軸受部とから構成され、ケーシングを備えており、前記減速機部が平行軸歯車による減速構造を有するインホイールモータ駆動装置において、前記平行軸歯車は、入力側中間歯車と出力側中間歯車を備えた1つ又は複数の中間軸と最終出力歯車を備えた出力軸とから構成され、前記中間軸と前記出力軸のそれぞれの両端部が転がり軸受によって回転自在に支持され、前記転がり軸受のうち、前記入力側中間歯車に近接する転がり軸受が前記入力側中間歯車の内径側凹部に配置されると共に、前記最終出力歯車に近接する転がり軸受が前記最終出力歯車の内径側凹部に配置され、前記最終出力歯車の前記内径側凹部の内径側幅面に窪み部が設けられ、この窪み部に前記車輪用軸受部の内輪を固定するためのハブ輪の加締め部が収容され、前記窪み部と前記最終出力歯車の前記内径側凹部とが半径方向に重畳して形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成により、平行軸歯車減速機を備えたインホイールモータ駆動装置の小型化、特に軸方向の小型化を図り、車両搭載性を向上させることができる。特に、入力側中間歯車に近接する転がり軸受が入力側中間歯車の内径側凹部に配置されていることにより、入力側中間歯車を備えた中間軸の支持構造を軸方向に短縮することができ、加えて、最終出力歯車に近接する転がり軸受が最終出力歯車の内径側凹部に配置されていることにより、最終出力歯車を備えた出力軸の支持構造を軸方向に短縮することができる。さらに、上記の最終出力歯車の内径側凹部の内径側幅面に窪み部を設け、この窪み部に車輪用軸受部の内輪を固定するためのハブ輪の加締め部を収容し、窪み部と最終出力歯車の内径側凹部とを半径方向に重畳して形成することにより、車輪用軸受部と平行軸歯車による減速構造を有する減速機部とを近接させて効率的に軸方向寸法を短縮することができる。以上が相俟って、減速機部が平行軸歯車による減速構造を有するインホイールモータ駆動装置の可及的な軸方向の小型化、車両搭載性の向上を可能にする
【0013】
上記の最終出力歯車の内径側凹部の内径側幅面に窪み部が設けられ、この窪み部に車輪用軸受部の内輪を固定するためのハブ輪の加締め部が収容されていることが好ましい。これにより、軸方向寸法の短縮を促進できる。
【0014】
上記の最終出力歯車の窪み部と内径側凹部とが半径方向に重畳して形成されていることにより、効率的に軸方向寸法を短縮することができる。
【0015】
上記の内径側凹部に肉抜き部と補強リブが形成されていることにより、入力側中間歯車や最終出力歯車の軽量化を図ると共に強度、剛性を確保することができる。
【0016】
上記の中間軸と出力軸との軸間距離が、入力側中間歯車と最終出力歯車の両ピッチ円半径を合計した寸法より小さく設定されていることが好ましい。これにより、インホイールモータ駆動装置の外周輪郭の小型化が図れ、既存の内燃機関の車両のホイール内に装着することを可能にできる。
【0017】
上記の減速構造が2段の平行軸歯車で構成されていることにより、部品点数を抑え、高減速比と小型化を両立させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、平行軸歯車減速機を備えたインホイールモータ駆動装置の小型化、特に軸方向の小型化を図り、車両搭載性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を示し、図2のP−P線で矢視した縦断面図である。
図2図1のQ−Q線で矢視したインホイールモータ駆動装置の横断面図である。
図3図1のR−R線で矢視したインホイールモータ駆動装置の横断面図である。
図4図1の入力側中間歯車の斜視図である。
図5】インホイールモータ駆動装置を搭載した電気自動車の概略構成を示す平面図である。
図6図5の電気自動車を示す後方断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を図1図6に基づいて説明する。まず、本実施形態のインホイールモータ駆動装置を搭載した電気自動車を図5図6に基づいて説明する。図5は、インホイールモータ駆動装置21を搭載した電気自動車11の概略平面図、図6は、電気自動車11を後方から見た概略断面図である。
【0021】
電気自動車11は、図5に示すように、シャシー12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、後輪14に駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを装備する。後輪14は、図6に示すように、シャシー12のホイールハウジング15の内部に収容され、懸架装置(サスペンション)16を介してシャシー12の下部に固定されている。
【0022】
懸架装置16は、左右に延びるサスペンションアームにより後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットにより、後輪14が地面から受ける振動を吸収してシャシー12の振動を抑制する。左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時などの車体の傾きを抑制するスタビライザが設けられている。懸架装置16は、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、後輪14の駆動力を効率よく路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させる独立懸架式としている。
【0023】
電気自動車11は、ホイールハウジング15の内部に、左右それぞれの後輪14を駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャシー12上にモータ、ドライブシャフトおよびデファレンシャルギヤ機構などを設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の後輪14の回転をそれぞれ制御することができるという利点を有する。
【0024】
この実施形態の特徴的な構成を説明する前にインホイールモータ駆動装置21の全体構成を図1図3に基づいて説明する。以下の説明では、インホイールモータ駆動装置21を車両に搭載した状態で、車両の外側寄りとなる側をアウトボード側と称し、中央寄りとなる側をインボード側と称する。
【0025】
図1は、図2のP−P線で矢視したインホイールモータ駆動装置の縦断面図で、図2は、図1のQ−Q線で矢視したインホイールモータ駆動装置の横断面図で、図3は、図1のR−R線で矢視したインホイールモータ駆動装置の横断面図である。
【0026】
図1に示すように、インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させる電動モータ部Aと、電動モータ部Aの回転を減速して出力する減速機部Bと、減速機部Bからの出力を駆動輪としての後輪に伝達する車輪用軸受部Cとを備えている。電動モータ部A、減速機部B、および車輪用軸受部Cは、それぞれケーシング22に収容あるいは取り付けられる。ケーシング22は図1に示すように一体構造とする他、分割可能な構造にすることもできる。
【0027】
電動モータ部Aは、ケーシング22に固定されたステータ23と、ステータ23の径方向内側に隙間をもって対向するように配置されたロータ24と、ロータ24の径方向内側に配置されてロータ24と一体回転するモータ回転軸25とを備えたラジアルギャップ型の電動モータ26で構成されている。モータ回転軸25は、毎分一万数千回転程度で高速回転可能である。ステータ23は磁性体コアにコイルを巻回することによって構成され、ロータ24は永久磁石等で構成されている。
【0028】
モータ回転軸25は、その軸方向一方側の端部(図1の左側)が転がり軸受40により、軸方向他方側の端部(図1の右側)が転がり軸受41により、ケーシング22に対してそれぞれ回転自在に支持されている。
【0029】
減速機部Bは、入力歯車30と、中間歯車としての入力側中間歯車31および出力側中間歯車32と、最終出力歯車35とを有する。入力歯車30は入力軸30aを一体に有しており、この入力軸30aはスプライン嵌合(セレーション嵌合を含む。以下、同じ)によってモータ回転軸25と同軸に連結されている。入力側中間歯車31および出力側中間歯車32を備える中間軸S1は、両中間歯車31、32と一体に形成されている。最終出力歯車35を備える出力軸36は、最終出力歯車35と一体に形成されている。
【0030】
入力軸30a、中間軸S1および出力軸36は互いに平行に配置されている。入力軸30aは転がり軸受42、43によって、中間軸S1は転がり軸受44、45によって、出力歯車軸36は転がり軸受48、49によって、それぞれ、両端部がケーシング22に対して回転自在に支持されている。ここで、中間軸S1および出力軸36の両端部とは、それぞれの軸端部のみに限定されるものではなく、例えば、図1に示すように、出力軸36の最終出力歯車35の外側(アウトボード側)の途中位置を含む概念のものである。要は、中間軸S1および出力軸36が、転がり軸受4、4、48、49によって、両持ちで支持されることを意味する。本明細書および特許請求の範囲において、中間軸と出力軸の両端部は上記の意味で用いる。
【0031】
図2および図3に示すように、減速機部Bの入力軸30aの中心O1(モータ回転軸25の中心でもある)と車輪用軸受部Cの中心O3との間に、中間軸S1の中心O2が配置され、各中心O1、O2およびO3を結ぶ直線が三角状をなすように構成され、インホイールモータ駆動装置21の外周輪郭の小型化を図っている。これにより、既存の内燃機関の車両のホイール70内に装着することができる。
【0032】
図2は、図1のQ−Q線で矢視した、すなわち、アウトボード側から見た横断面図であるが、出力軸36のアウトボード側を支持する転がり軸受49が、最終出力歯車35の内径側凹部47に配置されている。また、図3は、図1のR−R線で矢視した、すなわち、インボード側から見た横断面図であるが、中間軸S1のインボード側を支持する転がり軸受44が、入力側中間歯車31の内径側凹部33に配置されている。詳細は後述する。
【0033】
図1に示すように、減速機部Bでは、入力歯車30と入力側中間歯車31とが噛合し、出力側中間歯車32と最終出力歯車35とが噛合している。入力側中間歯車31の歯数は、入力歯車30および出力側中間歯車32の歯数よりも多く、最終出力歯車35の歯数は出力側中間歯車32の歯数よりも多い。以上の構成から、モータ回転軸25の回転運動を2段階に減速する平行軸歯車減速機39が構成される。2段の平行軸歯車からなる減速機構は、部品点数が比較的少なく、かつ、後述する平行軸歯車と支持軸受の配置構造とが相俟って、高減速比と小型化を両立させることができる。
【0034】
本実施形態では、減速機39を構成する入力歯車30、入力側中間歯車31、出力側中間歯車32および最終出力歯車35として、はすば歯車を用いている。はすば歯車は、同時に噛合う歯数が増え、歯当たりが分散されるので音が静かで、トルク変動が少ない点で有効である。歯車のかみあい率や限界の回転数などを考慮して、各歯車のモジュールは1〜3程度に設定するのが好ましい。
【0035】
車輪用軸受部Cは、内輪回転タイプの車輪用軸受50で構成される。車輪用軸受50は、ハブ輪60と内輪52とからなる内方部材61と、外輪53と、玉56および保持器(図示省略)を主な構成とする複列アンギュラ玉軸受である。ハブ輪60のアウトボード側の外周に車輪取り付け用のフランジ部60aが形成され、インボード側の小径段部に内輪52が嵌合され加締め固定されている。加締め部60bは、車輪用軸受50の組み立て後、内輪52を固定すると共に車輪用軸受50に予圧を付与している。ハブ輪60の外周にアウトボード側の内側軌道面54が形成され、内輪52の外周にインボード側の内側軌道面54が形成されている。図示は省略するが、車輪取り付け用のフランジ部60aには、ブレーキディスクおよびホイールが取り付けられる。
【0036】
外輪53の内周には、ハブ輪60の内側軌道面54および内輪52の内側軌道面54に対応して複列の外側軌道面55が形成されている。外輪53の外周にフランジ部が形成され、アタッチメント46を介してケーシング22にボルトで締結固定されている。出力軸36は、ハブ輪60にスプライン嵌合し、トルク伝達可能に連結されている。
【0037】
インホイールモータ駆動装置21では、電動モータ26の冷却や減速機39の潤滑および冷却のため、図示しない回転ポンプで潤滑油が各部に供給される。車輪用軸受50の軸受内部はグリースにより潤滑される。
【0038】
インホイールモータ駆動装置21は、ホイールハウジング15(図6参照)の内部に収められ、ばね下荷重となるため、小型軽量化が必須である。前述した構成の平行軸歯車減速機39を電動モータ26と組み合わせることで、低トルクかつ高回転型の小型電動モータ26を使用することが可能となる。例えば、減速比11の平行軸歯車減速機39を用いた場合、毎分一万数千回転程度の高速回転の電動モータ26を使用することにより電動モータ26を小型化することができる。これにより、コンパクトなインホイールモータ駆動装置21を実現することができ、ばね下重量を抑えて走行安定性およびNVH特性に優れた電気自動車11を得ることができる。
【0039】
本実施形態のインホイールモータ駆動装置21の全体構成は以上のとおりである。次に特徴的な構成を説明する。
【0040】
インホイールモータ駆動装置21を小型軽量化するには、平行軸歯車減速機39の1段あたりの減速比を大きくすることが有効である。平行軸歯車減速機39の1段あたりの減速比を大きくすると、必然的に入力側中間歯車31や最終出力歯車35の直径が大きくなる。これを有効活用して、本実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、入力側中間歯車31に近接する転がり軸受44と最終出力歯車35に近接する転がり軸受49の少なくとも一方を、近接する歯車の内径側凹部に配置し、装置の軸方向寸法を可及的に短縮したことを特徴的な構成とする。
【0041】
図1に示すように、入力側中間歯車31と出力側中間歯車32を備えた中間軸S1は、両端部を転がり軸受44、45によって、ハウジング22に対して回転自在に支持されている。入力側中間歯車31は大きな直径を有し、インボード側の幅面31aに内径側凹部33が形成されている。この内径側凹部33に転がり軸受44の内輪が嵌合する装着面33aが形成されている。内径側凹部33のさらに内径側には座ぐり部33bが形成され、入力側中間歯車31の軽量化を図っている。
【0042】
入力側中間歯車31の内径側凹部33の詳細を図4に基づいて説明する。図4は、入力側中間歯車31(中間軸S1を含む)をインボード側から見た斜視図である。入力側中間歯車31のインボード側の幅面31aに内径側凹部33が形成され、この内径側凹部33の外周面に転がり軸受44(図1参照)の装着面33aが形成されている。装着面33aの内径側に座ぐり部33bが形成されている。内径側凹部33の底部に肉抜き部33cと補強リブ33dが形成されており、入力側中間歯車31の軽量化を図ると共に強度、剛性を確保している。
【0043】
入力側中間歯車31が上記の構造になっているので、中間軸S1のインボード側の端部を支持する転がり軸受44、換言すれば、入力側中間歯車31に近接する転がり軸受44を入力側中間歯車31の内径側凹部33の装着面33aに組込むことができ、この部分の軸方向寸法を可及的に短縮することができる。
【0044】
次に、最終出力歯車35の構造を図1に基づいて説明する。最終出力歯車35を備えた出力軸36は、両端部を転がり軸受48、49によって、ハウジング22に対して回転自在に支持されている。最終出力歯車35も大きな直径を有し、アウトボード側の幅面35aに内径側凹部47が形成されている。この内径側凹部47に転がり軸受49の内輪が嵌合する装着面47aが形成されている。最終出力歯車35の内径側凹部47にも、前述した入力側中間歯車31と同様に肉抜き部35cと補強リブ35dが形成されている。
【0045】
内径側凹部47の装着面47aのさらに内径側幅面に窪み部35bが設けられている。この窪み部35bに車輪輪用軸受50のハブ輪60の加締め部60bが収容されている。窪み部35bを設けたことにより、軸方向寸法の短縮を促進できる。また、窪み部35bと内径側凹部47の装着面47aとが半径方向に重畳して形成されているので、この部分の軸方向寸法を効率的に短縮することができる。
【0046】
最終出力歯車35が上記の構造になっているので、出力軸36のアウトボード側の端部を支持する転がり軸受49、換言すれば、最終出力歯車35に近接する転がり軸受49を最終出力歯車35の内径側凹部47の装着面47aに組込むことができる。これと相俟って、車輪輪用軸受50のハブ輪60の加締め部60bが窪み部35bに収容されるので、この部分の軸方向寸法を一層短縮することができる。
【0047】
本実施形態では、入力側中間歯車31と最終出力歯車35の両方に内径側凹部33、47を形成したものを例示したが、これに限られず、入力側中間歯車31と最終出力歯車35のどちらか一方にだけ内径側凹部を形成し、この内径側凹部の装着面にころがり軸受を組み込んだものであってもよい。また、内径側凹部33、4の両方に肉抜き部と補強リブを形成したものを例示したが、これに限られず、どちらか一方の内径側凹部にだけ肉抜き部と補強リブを形成してもよく、さらには、肉抜き部と補強リブを設けないものであってもよい。
【0048】
本実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、径方向にも小型化を図っている。図2図3において前述したように、減速機部Bの入力軸30aの中心O1(モータ回転軸25の中心でもある)と車輪用軸受部Cの中心O3との間に、中間軸S1の中心O2が配置され、各中心O1、O2およびO3を結ぶ直線が三角状をなすように構成され、インホイールモータ駆動装置21の外周輪郭の小型化を図っている。
【0049】
上記の各中心O1、O2、O3の三角状の配置構成に当たって、インホイールモータ駆動装置21の外周輪郭の径方向寸法を極限まで小さくしている。具体的には、図1に示すように、中間軸S1と出力軸36の軸間距離Lを入力側中間歯車31のピッチ円半径PCR2と最終出力歯車35のピッチ円半径PCR3を合計した寸法より小さく設定している。これにより、各中心O1、O2、O3の三角状の配置構成と相俟って、インホイールモータ駆動装置21の外周輪郭の究極の小型化が達成され、既存の内燃機関の車両のホイール70内に装着することを可能にした。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の平行軸歯車減速機を備えたインホイールモータ駆動装置21は、装置全体の小型化、特に軸方向の小型化を図り、車両搭載性を向上させたものである。
【0051】
以上の実施形態のインホイールモータ駆動装置21の減速機部Bは、2段減速の平行軸歯車減速機39を用いたものを例示したが、これに限定されるものではなく、1段減速や3段減速以上のものにしてもよい。
【0052】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0053】
21 インホイールモータ駆動装置
22 ケーシング
25 モータ回転軸
26 電動モータ
30 入力歯車
30a 入力軸
31 入力側中間歯車
32 出力側中間歯車
33 内径側凹部
33a 装着面
33c 肉抜き部
33d 補強リブ
35 出力歯車
35b 窪み部
35c 肉抜き部
35d 補強リブ
36 出力軸
39 減速機
44 転がり軸受
47 内径側凹部
49 転がり軸受
50 車輪用軸受
52 内輪
53 外輪
60 ハブ輪
60b 加締め部
A 電動モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
L 軸間距離
PCR2 ピッチ円半径
PCR3 ピッチ円半径
S1 第1中間軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6