(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0021】
<アルミニウム箔の構成>
本実施の形態に係るアルミニウム箔1(
図1参照)において、予め定められた表面積の領域内に存在し、かつ当該領域に圧入もしくは付着しているアルミニウム粒子の総表面積は、当該領域の表面積に対して0.05%以下である。上記領域内に存在する晶出物の総表面積が、当該領域の表面積に対して2%以下である。上記晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm
2以下である。上記領域の表面粗さRaが20nm未満である。
【0022】
予め定められた表面積の領域とは、アルミニウム箔の表面全体であってもよく、また一部であってもよい。ここで、アルミニウム箔の表面とは、アルミニウム箔の外観において目視、顕微鏡等によって確認され得る表面をいう。よって、予め定められた表面積の領域とは、例えば顕微鏡などで観察したときの観察視野における領域である。つまり、アルミニウム粒子、晶出物に関する上記パラメータ、および表面粗さRa,Rz
JISは、アルミニウム箔の表面を顕微鏡などで観察したときに、それぞれ予め定められた表面積の観察視野内で測定される。アルミニウム粒子の総表面積は、例えば走査型電子顕微鏡の予め定められた観察視野内で観察、測定される。晶出物の総表面積および平均表面積は、例えば光学顕微鏡の予め定められた観察視野内で観察、測定される。表面粗さRa,Rz
JISは、例えば原子間力顕微鏡の予め定められた観察視野内で測定される。予め定められた表面積の領域は、アルミニウム粒子の総表面積を測定する際の観察視野、晶出物の総表面積および平均表面積を測定する際の観察視野、および表面粗さRa,Rz
JISを測定する際の観察視野のそれぞれを含む領域である。
【0023】
図1に示されるように、アルミニウム箔1は、表面のうち最も表面積が大きい第1主面1Aおよび第2主面1Bを有している。
図2は、後述するアルミニウム箔の製造方法において表面洗浄前の冷延材11(
図5参照)の表面11A(表面洗浄後にアルミニウム箔1の第1主面1Aとなるべき表面)の平面図である。
図2に示されるように、予め定められた領域Eは、例えば第1主面1Aの一部領域である。領域Eの平面形状は、任意の形状であればよいが例えば矩形状である。領域Eは、アルミニウム粒子の総表面積を測定するための走査型電子顕微鏡の任意の倍率での観察視野内の観察領域Fと、晶出物の総表面積および平均表面積を測定する際の観察視野内の観察領域Gと、表面粗さRa,Rz
JISを測定する際の観察視野内の観察領域Hとを含んでいる。観察領域F,G,Hの各々は、面積および領域Eでの位置が任意に選択され得る。各観察領域F,G,Hは、少なくとも一部が互いに重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。
【0024】
アルミニウム粒子は、主にアルミニウム(Al)からなる。アルミニウム粒子の外径は、例えば数百nm〜数μmである。
図3に示されるように、アルミニウム粒子Cは、アルミニウム箔1の表面に圧入されているか、または表面に付着している。アルミニウム粒子Cは、後述するアルミニウム箔1の製造方法における冷間圧延工程にて生成される。
図3に示されるように、アルミニウム粒子Cの総表面積とは、観察領域Fを有する面(例えば第1主面1A)に対して成す角度が90°±2°の方向(略垂直な方向)から観察領域Fを見たときに観察されるアルミニウム粒子Cの当該方向に垂直な平面への投影面積S1の総和である。
【0025】
晶出物とは、例えば、Al‐鉄(Fe)系、Al‐Fe‐マンガン(Mn)系、Al‐Mg‐珪素(Si)系、Al‐Mn系等の種々の金属間化合物をいう。
図3に示されるように、晶出物Dの総表面積とは、観察領域Gを有する面(例えば第1主面1A)に対して成す角度が90°±2°の方向(略垂直な方向)から観察領域Gを見たときに確認される晶出物Dの当該方向に垂直な平面への投影面積S2の総和である。上記晶出物の1個当たりの平均表面積とは、晶出物Dの上記総表面積を、観察領域G内に存在する晶出物Dの個数で除したものである。
【0026】
アルミニウム箔1の表面粗さRaはJIS B0601(2001年版)およびISO4287(1997年版)で定義されている算術平均粗さRaを、面に対して適用できるように三次元に拡張して算出された値である。
【0027】
アルミニウム箔は、その製造方法において冷間圧延されている。そのため、アルミニウム箔の表面(第1主面1Aおよび第2主面1B)には、圧延方向X(
図1参照)に沿って延びる圧延ロールの転写筋(図示しない)が形成されている。アルミニウム箔の表面には、転写筋に起因した凹凸が形成されている。一定以上の大きさの転写筋からなるアルミニウム箔の表面の凹凸は、紫外線の反射角度に異方性をもたらし、反射光の乱反射を引き起こす。そのため、アルミニウム箔において一定以上の大きさの転写筋が形成されている部分は、紫外線に対する反射率が低い。このような圧延ロールの転写筋に起因する凹凸は、圧延方向Xに対して垂直な方向Y、すなわちTD方向の表面粗さRz
JISの値として評価することができる。
【0028】
アルミニウム箔1は、上記領域Eにおいて、圧延方向Xと垂直な方向Y(
図1参照)の表面粗さRz
JISが100nm以下であるのが好ましい。より好ましくは、領域EのRz
JISは80nm以下である。なお、垂直な方向Yの表面粗さRz
JISは、垂直な方向Yに沿った断面における2次元でのRz
JIS値をJIS B0601(2001年版)およびISO4287(1997年版)に基づいた評価方法で測定される値である。なお、上記の表面粗さRaとRz
JISを得る方法としては、物理的な研磨、電解研磨、化学研磨等の研磨加工、あるいは、表面が鏡面状態である圧延ロールを用いた冷間圧延、等がある。表面が鏡面状態である圧延ロールを用いた冷間圧延については後述する。
【0029】
アルミニウム箔1の厚みT(
図1参照)は4μm以上300μm以下であることが好ましい。アルミニウム箔の厚みが4μm未満であると、アルミニウム箔として機械的強度を維持することができず、製造時のハンドリング等によってアルミニウム箔の表面にシワが生じる。アルミニウム箔の厚みが300μmを超えると、アルミニウム箔の重量が増大するだけでなく、成形等の加工に制限が加えられるので好ましくない。さらに好ましくは、アルミニウム箔1の厚みは6μm以上250μm以下である。アルミニウム箔の厚みを上記範囲にするためには、一般的なアルミニウム箔の製造方法に従って鋳造と圧延を行えばよい。
【0030】
本実施の形態に係るアルミニウム箔1の組成は特に限定されないが、Feの含有量は0.001%質量以上0.5質量%以下であることが好ましい。Feはアルミニウムへの固溶度が小さいため、アルミニウムの鋳造時にFeAl
3等の金属間化合物が晶出しやすくなる。これらの晶出物は、アルミニウム素地よりも紫外線の反射率が低く、アルミニウム箔としての紫外線反射率を低下させる原因になる。Feの含有量が0.5質量%以上になると、添加しているFeが全て晶出した場合、Al‐Fe系金属間化合物としてのFeAl
3の晶出量が1.2質量%を超えて存在することになり、250nm〜400nmの紫外線全反射率は85%よりも低くなる傾向がある。このため、Feの含有量を0.5質量%以下にするのが望ましい。また、Feの含有量が0.001質量%未満であると、アルミニウム箔の強度が低下する傾向がある。
【0031】
また、本実施の形態に係るアルミニウム箔においてMnの含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。Feと同様にMnもアルミニウムへの固溶度が小さいため、アルミニウムの鋳造時にAl‐Fe‐Mn系の化合物等が晶出しやすくなる。Al‐Fe‐Mn系の晶出物は、Al‐Fe系の晶出物よりも微細であるが、これらの晶出物は、アルミニウム素地よりも紫外線の反射率が低く、アルミニウム箔としての紫外線反射率を低下させる原因になる。マンガンの含有量が0.5質量%以上になると、添加しているMnが全て晶出した場合、Al‐Fe‐Mn系金属間化合物が1.5質量%を超えて存在することになり、250nm〜400nmの紫外線全反射率は85%よりも低くなる傾向がある。このため、Mnの含有量を0.5質量%以下にするのが望ましい。
【0032】
さらに、本実施の形態に係るアルミニウム箔においてSiの含有量は0.001%質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。Siはアルミニウムへの固溶度が大きく晶出物を形成し難いため、アルミニウム箔において晶出物を生成させない程度の含有量であれば紫外線の反射率を低下させることがない。また、Siを含むと固溶強化によってアルミニウム箔の機械的強度を向上させることができるので、厚みが薄い箔の圧延を容易にすることができる。Siの含有量が0.001質量%未満では、上述の効果を十分に得られない傾向にある。Siの含有量が0.3質量%を超えると、粗大な晶出物が発生しやすくなり、反射特性が低下するだけでなく、結晶粒の微細化効果も損なわれるため、強度と加工性も低下する傾向にある。
【0033】
本実施の形態に係るアルミニウム箔においてMgの含有量は3質量%以下であることが好ましい。Mgはアルミニウムへの固溶度が最大で18質量%と大きく、晶出物の発生が極めて少ないため、アルミニウム箔の反射特性に大きな影響をおよぼすことなく、アルミニウム箔の機械的強度を改善することができる。しかし、Mgの含有量が3質量%を超えると、アルミニウム箔の機械的強度が高くなりすぎるので、アルミニウム箔の圧延性が低下する傾向がある。アルミニウム箔の好ましい反射特性と機械的強度とを兼ね備えるためには、Mgの含有量を2質量%以下にすることがさらに好ましい。
【0034】
なお、本実施の形態に係るアルミニウム箔は、上記の特性と効果に影響を与えない程度の含有量で、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)等の元素を含んでいてもよい。
【0035】
<アルミニウム箔の製造方法>
次に、本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法の一例について説明する。
図4に示されるように、本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法は、鋳塊を準備する工程(S10)、鋳塊に均質化処理を行う工程(S20)、鋳塊を熱間圧延する工程(S30)、熱間圧延により得られた熱延材を冷間圧延する工程(S40)、冷間圧延により得られた冷延材を最終仕上げとして冷間圧延(以下、最終仕上げ冷間圧延という)してアルミニウム箔を形成する工程(S50)とを備える。さらに、本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法は、最終仕上げ冷間圧延により得られた冷延在を表面洗浄する工程(S60)を備えることが好ましい。
【0036】
まず、鋳塊を準備する(工程(S10))。具体的には、所定の組成のアルミニウムの溶湯を調製し、アルミニウムの溶湯を凝固させることにより鋳塊を鋳造(例えば半連続鋳造)する。溶湯中のFe、Mn、Siなどの金属元素の含有量は、アルミニウム箔において予め定められた表面積の領域内に存在する晶出物の総表面積が、当該領域の表面積に対して2%以下となり、かつ晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm
2以下となるように制御されている。
【0037】
次に、得られた鋳塊に均質化熱処理を行う(工程(S20))。均質化熱処理は、たとえば加熱温度を400℃以上630℃以下、加熱時間を1時間以上20時間以下とする条件で行われる。
【0038】
次に、鋳塊を熱間圧延する(工程(S30))。本工程により、所定の厚みW1を有する熱延材が得られる。熱間圧延は、1回または複数回行われてもよい。なお、連続鋳造によって薄板のアルミニウム鋳塊を製造する場合には、当該薄板状の鋳塊は本工程を介さずに冷間圧延されてもよい。
【0039】
次に、熱間圧延により得られた熱延材を冷間圧延する(工程(S40))。本工程により、所定の厚みW2を有する冷延材(最終仕上げ冷間圧延工程(S50)における被圧延材)が得られる。本工程において、冷間圧延はたとえば中間焼鈍工程を挟んで複数回行われる。たとえば、まず熱延材に対し第1冷間圧延工程(S40A)を実施して熱延材の厚みW1よりも薄く冷延材の厚みW2よりも厚い圧延材を形成する。次に、得られた圧延材に対し中間焼鈍工程(S40B)を施す。中間焼鈍は、例えば焼鈍温度を50℃以上500℃以下、焼鈍時間を1秒以上20時間以下とする条件で行われる。次に、焼鈍後の圧延材に対し第2冷間圧延工程(S40C)を実施して厚みW2の冷延材を形成する。
【0040】
次に、
図5に示されるように、冷延材(被圧延材10)を最終仕上げ冷間圧延する(工程(S50))。本工程では、圧延ロール101,102を用いて圧下率が25%以上の条件で被圧延材10を最終仕上げ冷間圧延する。圧延ロール101,102は被圧延材と接触して圧延するロール面を有している。被圧延材10を挟んで配置される一対の圧延ロール101,102のうち、少なくとも一方の圧延ロール101のロール面の表面粗さRaが40nm以下である。
【0041】
最終仕上げ冷間圧延に使用する圧延油の種類は特に限定されないが、圧延油の粘度は低い方が好ましい。圧延油の粘度は、油温度が37.8℃(100°F)の時に1.7cSt以上3.5cSt以下であることが好ましく、より好ましくは2.0cSt以上3.0cSt以下である。
【0042】
次に、最終仕上げ冷間圧延により得られた冷延材11(
図5参照)を表面洗浄してもよい(工程(S60))。本工程では、冷延材11の表面の少なくとも一部を酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いて洗浄する。冷延材11において表面洗浄される表面は、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)において表面粗さRaが40nm以下である圧延ロール101(
図5参照)により延ばされた表面11A(
図5参照)を含んでいる。酸性溶液は、例えば、フッ酸、リン酸、塩酸、および硫酸などの強酸性溶液から選択され得る。アルカリ性溶液は、例えば水酸化ナトリウムなどの強アルカリ性溶液から選択され得る。表面洗浄に関するその他条件は、適宜選択され得る。
【0043】
このようにして、
図1に示される本実施の形態に係るアルミニウム箔1を得ることができる。アルミニウム箔1の上記領域Eは、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)において表面粗さRaが40nm以下である圧延ロールにより圧延されることにより形成された面(例えば第1主面1A)上の領域、さらに圧延後、表面洗浄工程(S60)において表面洗浄されることにより形成された面(例えば第1主面1A)上の領域である。すなわち、上記領域Eは、アルミニウム箔1の第1主面1A上にのみ形成される場合に限られるものでは無く、第2主面1B上にのみ形成されていてもよいし、第1主面1Aおよび第2主面1Bの両面上に形成されていてもよい。
【0044】
<作用効果>
本発明者らは、このようなアルミニウム箔1が従来のアルミニウム箔と比べて波長域250nm〜400nmの紫外線に対して高い反射率を有していることを確認した(詳細は後述する実施例参照)。
【0045】
アルミニウム箔の表面に圧入または付着したアルミニウム粒子は、アルミニウム箔の製造方法中の冷間圧延工程(後述する冷間圧延工程(S40)および最終仕上げ冷間圧延工程(S50)を含む)において生成される。具体的には、
図5に示されるように、被圧延材10(熱延材または冷延材)が冷間圧延によって塑性変形して薄く延ばされるとき、当該被圧延材10は同時にせん断変形する。これにより、冷間圧延中に被圧延材10の表面の一部が切り裂かれ、数百nm〜数μmの外径のアルミニウム粒子(図示しない)が生成される。該アルミニウム粒子は、圧延ロール101,102とアルミニウム材との間に挟まれることにより、冷延材11に圧入されるか、圧延後に冷延材11の表面11A,11Bに再付着する。このとき酸化膜に覆われたアルミニウム粒子が冷延材11に圧入または再付着すると、アルミニウム箔の表面に入射された紫外線はアルミニウム粒子または当該酸化膜によって乱反射や干渉を起こすと考えられる。そのため、本発明者らは、アルミニウム箔において予め定められた表面積に対するアルミニウム粒子の総表面積の割合が0.05%を超えるほどにアルミニウム粒子がアルミニウム箔の表面に存在していると、アルミニウム箔の紫外線に対する反射率は低下してしまうと考えている。
【0046】
これに対し、アルミニウム箔1によれば、予め定められた表面積の領域内に存在し、かつ当該領域に圧入もしくは付着しているアルミニウム粒子の総表面積は、当該領域の表面積に対して0.05%以下である。そのため、アルミニウム箔1は、アルミニウム粒子に起因する乱反射や干渉が抑制されているため、紫外線に対し高い反射率を有していると考えられる。
【0047】
晶出物の表面に入射された紫外線の反射率は、アルミニウム自体の表面に入射された紫外線の反射率よりも低い。そのため、アルミニウム箔において予め定められた表面積の領域に存在する晶出物の総表面積が当該領域の表面積に対して2%を超えるほどに晶出物がアルミニウム箔の表面に存在していると、アルミニウム箔の紫外線に対する反射率は低下してしまう。晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm
2を超えるほどに大きいと、アルミニウム箔の表面内における紫外線に対する反射率のムラが大きくなる。
【0048】
さらに、アルミニウム箔の表面に存在する晶出物は、アルミニウム箔の表面に凹凸を生じさせる。特に、最終仕上げ冷間圧延される被圧延材(冷延材)の表面に晶出物が存在する場合、晶出物はアルミニウムの素地よりも硬いため、アルミニウムが優先的に塑性変形を起こす。晶出物は、塑性変形しているアルミニウム箔の表面の上を転がり、一部の晶出物はアルミニウム箔の表面から欠落してアルミニウム箔の表面に凹凸を生じさせる。このため、晶出物の総表面積が上記表面積に対して2%を超えるほどに晶出物がアルミニウム箔の表面に存在していると、アルミニウム箔の表面に凹凸を生じさせる度合いが大きくなる。さらに、晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm
2を超えるほどに大きいと、晶出物がアルミニウム箔の表面から欠落したときに形成される凹部は大きくなる。これらの結果、アルミニウム箔の表面に入射した紫外線が、アルミニウム箔の表面に形成された凹凸部において乱反射するので、反射率が低下する。
【0049】
これに対し、アルミニウム箔1によれば、予め定められた表面積の領域内に存在する晶出物の総表面積は、当該領域の表面積に対して2%以下である。このため、アルミニウム箔1は紫外線に対して高い反射率を有している。さらに、アルミニウム箔1は、上記領域内に存在する晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm
2以下である。そのため、アルミニウム箔1は、紫外線に対する反射率のムラが抑制されている。
【0050】
表面粗さRaが20nm以上であると、表面の凹凸によりアルミニウム箔の紫外線に対する反射率が低下してしまう。自然法則に基づくと、入射した紫外線がある表面で反射する際、その表面に凹凸があれば、入射した箇所によって反射する角度は変化する。場合によってはある凹凸部で反射した光は、たとえば、その凹凸部の隣に存在する凹凸部にさらに当たり(入射し)、複数回反射を起こす可能性が生まれる。1回の反射において反射光は減衰することは知られているが、複数回反射すると、その光はその分だけ反射率が低下する。
【0051】
これに対し、予め定められた表面積の領域の表面粗さRaが20nm未満であることによって、アルミニウム箔の表面の凹凸が低減するので、アルミニウム箔の表面の凹凸部で反射した紫外線が別の凹凸部に再び当たって反射光が減衰することを抑えることができる。さらに、アルミニウム箔1は、方向Y(
図1参照)の表面粗さRz
JISが100nm以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム箔の表面の凹凸がさらに低減するので、アルミニウム箔の表面の凹凸部で反射した紫外線が別の凹凸部に再び当たって反射光が減衰することをより抑えることができる。
【0052】
本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法は表面洗浄工程を備えていてもよい。本工程により、最終仕上げ冷間圧延工程において冷延材(アルミニウム箔)の表面に圧入または付着したアルミニウム粒子は、酸性溶液またはアルカリ性溶液に溶解されて除去または縮小され得る。そのため、本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法によれば、予め定められた表面積の領域内に存在し、かつ当該領域に圧入もしくは付着しているアルミニウム粒子の総表面積が、当該領域の表面積に対して0.05%以下であるアルミニウム箔をより容易に製造することができる。
【0053】
本実施の形態に係るアルミニウム箔の製造方法の最終仕上げ冷間圧延工程において、表面粗さRaが40nm以下である圧延ロールを用いる理由は以下のとおりである。最終仕上げ冷間圧延工程で使用する圧延ロールの表面粗さは、最終仕上げ冷間圧延工程後に得られるアルミニウム箔の表面粗さに大きく影響する。表面粗さRaが40nmより大きい圧延ロールを用いてアルミニウム箔を圧延すると、得られたアルミニウム箔は圧延方向Xに対して垂直な方向Yの表面粗さRz
JISが100nmよりも大きくなり、表面粗さRaも20nm以上となってしまう。最終仕上げ冷間圧延工程で使用する圧延ロールの表面粗さRaは、できるだけ小さいことが好ましく、より好ましくは30nm以下である。
【0054】
最終仕上げ冷間圧延工程における圧下率が25%以上である理由は以下のとおりである。一般的に圧下率が低くなると、圧延ロールと被圧延材との間に噛み込まれる圧延油膜量が増える傾向にある。そのため、低い圧下率で最終仕上げ冷間圧延を行った場合、被圧延材の表面に圧延油が押し込まれることにより、当該表面には深さ数十〜数百nmの複数のオイルピットが形成される。その結果、得られた冷延材の表面には、オイルピットに起因した凹凸が多数形成されている。特に、25%よりも小さい圧下率で圧延を行うと、得られるアルミニウム箔の表面粗さRaは、オイルピットによる凹凸に大きく影響され、20nm以上となってしまう。また、被圧延材の表面に形成されたオイルピットによる凹凸は、アルミニウム粒子の発生要因となり得る。そのため、最終仕上げ冷間圧延工程における圧下率を25%以上とすれば、アルミニウム箔の表面粗さRaを抑えることができ、アルミニウム箔の表面の凹凸に起因した反射光の減衰を抑制することができる。さらに、最終仕上げ冷間圧延工程における圧下率を25%以上とすれば、アルミニウム粒子の発生を抑制することができ、アルミニウム粒子に起因した反射率の低下を抑制することができる。圧下率の上限値は、特に限定されないが、好ましくは60%である。60%以上の圧下率では圧延性が悪いだけでなく、圧延中のせん断力が高くなり、アルミニウム粒子の生成が多くなる。
【0055】
最終仕上げ冷間圧延に使用する圧延油の粘度は低い方が好ましい理由は以下の通りである。圧延油粘度が低い程、圧延ロールとアルミニウム箔との間にかみこまれる圧延油の潤滑がより高くなり、最終仕上げ冷間圧延工程中にアルミニウム箔表面に圧延油が押し込まれてできるオイルピットが生成しにくくなる。そのため、本工程により得られた冷延材の表面粗さRaを低く抑え、かつアルミニウム粒子の発生を抑制することができる。特に、油温度が37.8℃(100°F)の時に粘度が1.7cSt以上3.5cSt以下である圧延油を最終仕上げ冷間圧延に用いることにより、得られた冷延材の表面粗さRaをより低く抑え、かつアルミニウム粒子の発生をより抑制することができる。さらに、油温度が37.8℃(100°F)の時に粘度が2.0cSt以上3.0cSt以下である圧延油を最終仕上げ冷間圧延に用いることにより、得られた冷延材の表面粗さRaをさらに低く抑え、かつアルミニウム粒子の発生をさらに抑制することができる。
【0056】
<変形例>
図6に示されるように、アルミニウム箔の製造方法は、
図4に示される表面洗浄工程(S60)に代えて、最終仕上げ冷間圧延により得られた冷延材11(
図5参照)の表面を電解研磨する工程(S70)を備えていてもよい。冷延材11において電解研磨される表面は、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)において表面粗さRaが40nm以下である圧延ロール101(
図5参照)により延ばされた表面11A(
図5参照)を含んでいる。このようにしても、最終仕上げ冷間圧延工程において冷延材の表面に圧入または付着したアルミニウム粒子は、電解研磨により研磨されて除去または縮小され得る。そのため、
図6に示されるアルミニウム箔の製造方法によっても、予め定められた表面積の領域内に存在し、かつ当該領域に圧入もしくは付着しているアルミニウム粒子の総表面積が、当該領域の表面積に対して0.05%以下であるアルミニウム箔を製造することができる。さらに、電解研磨によりアルミニウム箔の表面の平滑性を高めることができる。
【0057】
また、
図4に示されるアルミニウム箔の製造方法は、表面洗浄工程(S60)の後に、表面洗浄されたアルミニウム箔の表面を電解研磨する工程をさらに備えていてもよい。
【0058】
また、アルミニウム箔の製造方法は、表面洗浄工程(S60)または電解研磨工程(S70)後に、アルミニウム箔を加熱する工程をさらに備えていてもよい。例えばアルミニウム箔に対し、加熱温度が250℃以上450℃以下程度であり、加熱時間が1〜30時間程度の熱処理を施してもよい。このようにすれば、紫外線に対し高い反射率を有し、かつ軟質のアルミニウム箔を製造することができる。
【0059】
アルミニウム箔は、上述した予め定められた表面積の領域を有する表面の一部のみが紫外線反射材として使用され、アルミニウム箔の表面の残部が他の部品に固定されてもよい。
【0060】
アルミニウム箔は、上述した予め定められた表面積の領域を有する表面上に当該表面を保護するための保護層(表面保護層)が形成されていてもよい。
【0061】
図7に示されるように、アルミニウム箔1は上述した予め定められた表面積の領域を有する少なくとも1つの面(例えば上記第1主面1A)の上に表面保護層12を備えていてもよい。波長域254nm〜265nmの深紫外線に対する表面保護層12の表面である第3主面12Aの全反射率が80%以上である。
【0062】
表面保護層12を構成する材料は、例えばシリコーン組成物およびフッ素樹脂の少なくともいずれかを含む。ここで、シリコーン組成物とは、珪素(Si)および酸素(O)を含む材料をいう。シリコーン組成物は、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。シリコーン組成物は、例えば結晶質である珪素酸化物であってもよい。好ましくは、表面保護層12を構成する材料に含まれる樹脂等の有機物は、総量の半数以下に抑えられている。好ましくは、表面保護層12を構成する材料には樹脂等の有機物が含まれない。樹脂等の有機物は、紫外線が照射されると分解される。そのため、表面保護層12に含まれる有機物が総量の半数超えであると、表面保護層12は紫外線を照射され続けたときに顕著に継時劣化する。これに対し表面保護層12に含まれる有機物が総量の半数以下であれば、表面保護層12は紫外線を照射され続けたときに顕著に継時劣化しない。
【0063】
好ましくは、表面保護層12は透明である。表面保護層12が透明であれば、上述したアルミニウム箔1の表面の紫外線に対する反射特性は、表面保護層12によって大きく損なわれない。このようにすれば、波長域254nm〜265nmの深紫外線が表面保護層12の第3主面12Aに照射されたときの深紫外線の反射率は、80%以上とされ得る。
【0064】
好ましくは、表面保護層12の第3主面12Aの表面粗さRaは10nm以下である。上述のように、自然法則に基づくと、入射した紫外線がある表面で反射する際、その表面に凹凸があれば、入射した箇所によって反射する角度は変化する。場合によってはある凹凸部で反射した光は、たとえば、その凹凸部の隣に存在する凹凸部にさらに当たり(入射し)、複数回反射を起こす可能性が生まれる。1回の反射において反射光は減衰することは知られているが、複数回反射すると、その光はその分だけ反射率が低下する。そのため、表面保護層12の第3主面12Aの表面粗さRaが10nmを超えた場合、表面保護層12の第3主面12Aの表面粗さRaが10nm以下である場合と比べて、表面保護層12に第3主面12Aに波長域254nm〜265nmの深紫外線が照射されたときの全反射率が著しく低下するおそれがある。
【0065】
図8に示されるように、表面保護層12を形成する工程(S80)は、最終仕上げ冷間圧延工程(S50)の後に実施され得る。好ましくは、
図9に示されるように、表面保護層12を形成する工程(S80)は、表面洗浄工程(S60)の後に実施され得る。または表面保護層12を形成する工程(S80)は、電解研磨工程(S70)の後に実施され得る。表面保護層12は、任意の方法により形成され得る。表面保護層12は、例えばアルミニウム箔の当該表面上に任意の樹脂などからなるフィルムが貼り合されることにより形成されていてもよい。また、表面保護層12は、例えばアルミニウム箔の当該表面上に流動性を有する任意の樹脂が塗布されて硬化されることにより形成されていてもよい。また、表面保護層12は、例えばアルミニウム箔の当該表面上に酸化珪素(SiO
2)などからなる無機層が、イオンプラズマ処理、イオンプレーティング処理、スパッタリング処理、蒸着処理などにより形成されていてもよい。また、表面保護層は、例えばアルミニウム箔の当該表面上にニッケルなどからなる金属層がめっき処理により形成されていてもよい。また、表面保護層は、例えばアルミニウム箔の当該表面に対する陽極酸化処理により形成された酸化皮膜層であってもよい。
【0066】
なお、上記のような表面保護層は、例えばロールツーロールプロセスにより形成されてもよい。この場合、
図10に示されるように、アルミニウム箔1は、巻芯2にロール状に巻き付けられて、ロールツーロール用アルミニウム箔3を構成していてもよい。
【0067】
アルミニウム箔は、任意の形状に成型されていてもよい。アルミニウム箔の成型は、例えば張り出し成型や深絞り成型などで実施されていてもよいし、折り曲げたり湾曲させたりすることで目的に応じた形状に成型されていてもよい。
【0068】
アルミニウム箔は、上述した予め定められた表面積の領域を有する表面の一部に、配線パターンが形成されていてもよい。このような配線パターンは、例えば以下のように形成され得る。まず、アルミニウム箔の表面の当該一部以外の残部上にエッチングマスクとしての表面保護層が形成される。次に、アルミニウム箔の表面の上記一部上にエッチングマスクとしてもマスクパターンが形成される。マスクパターンは例えばレジストなどの感光性材料が写真製版などされることにより形成される。次に、アルミニウム箔の表面の上記一部に対し、アルミニウムとマスクパターンとのエッチング選択比が大きく設定されうる条件でエッチングが施される。
【0069】
上記で説明してきたように本実施の形態に係るアルミニウム箔は、文字通り「箔」であって、一般的に厚みが500μm程度以上となる「アルミニウム板」とは異なり以下のような種々のメリットを有する。すなわち、アルミニウム箔は、軽量化に特に優れるとともに成形加工が容易であり、またアルミニウム板では困難である湾曲物への貼り付け等の形状追従性やフレキシブル性を示すというメリットがある。また、廃棄物の減量につながる等、環境に対する負荷の面でもアルミニウム板に対するメリットを有する。
【0070】
したがって、本実施の形態に係るアルミニウム箔は、上記のメリットを活かし、水や海水の殺菌、有機物の分解、紫外線治療、光触媒、樹脂硬化に使用される紫外線ランプの反射板用途に特に有利に適用され得る。
【実施例】
【0071】
以下に説明するように本発明の実施例と比較例のアルミニウム箔の試料を作製した。
表1に示す組成A〜Eのアルミニウムを用いて、表2に示す製造工程に従って、表3に示す実施例1〜10と比較例1〜15のアルミニウム箔の試料を作製した。なお、表1において「その他元素計」とは、JISで規定される元素以外の不可避不純物元素(B、Bi、Pb、Naなど)の合計含有量を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、製造工程は、DC(Direct Casting)鋳造によって得られたアルミニウムの鋳塊を加熱炉にて所定の温度と時間で均質化熱処理を行った。その後、厚みが約6.5mmになるまで熱間圧延を行った。得られた熱間圧延材を用いて複数回の冷間圧延を行い、冷間圧延の途中で所定の温度と時間で中間焼鈍を実施し、厚みが所定の値になるまで冷間圧延(最終仕上げ冷間圧延を含む)を行い、表3に示す厚みのアルミニウム箔の試料を作製した。この際、実施例1〜10と比較例3〜13,15については、最終仕上げ冷間圧延において表面粗さRaが40nmの圧延ロールを使用し、25%の圧下率で圧延を行った。比較例1については、最終仕上げ冷間圧延において表面粗さRaが50nmの圧延ロールを使用し、35%の圧下率で圧延を行った。比較例2および14については、最終仕上げ冷間圧延において表面粗さRaが150nmの圧延ロールを使用し、35%の圧下率で圧延を行った。
【0075】
比較例5〜8、11〜14については、最終仕上げ冷間圧延後、後述する各評価を行った。実施例1〜5および7〜10と、比較例1,2,9,10,15については、最終仕上げ冷間圧延後に、液温35℃、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に20秒間浸漬させ、表面洗浄を行った。実施例6については、最終仕上げ冷間圧延後に、液温35℃、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に10分間浸漬させ、表面洗浄を行った。比較例3については、最終仕上げ冷間圧延後に、液温35℃、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に2秒間浸漬させ、表面洗浄を行った。比較例4については、最終仕上げ冷間圧延後に、液温35℃、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に1秒間浸漬させ、表面洗浄を行った。
【0076】
なお、均質化熱処理時間は、一般的な処理時間内であればよく、表2に示す時間に限定されるものではない。中間焼鈍条件は、表2に示す温度と時間に限定されるものではなく、一般的な操業条件の範囲内であればよい。
【0077】
得られたアルミニウム箔の各試料について、走査型電子顕微鏡にて表面状態を観察し、アルミニウム粒子の表面積を測定した。光学顕微鏡にて表面状態を観察し、晶出物の表面積と1個当たりの平均表面積を測定した。また、アルミニウム箔の各試料について表面凹凸を評価するために原子間力顕微鏡による観察に基づいて表面粗さRaと圧延方向に対して垂直な幅(TD)方向の表面粗さRz
JISの値を測定した。
【0078】
さらに、実施例8〜10および比較例15については、上記表面洗浄後、最も表面積の大きい表面の一方上に保護層を形成した。
【0079】
実施例8については、保護層を構成する材料を珪素酸化物(JSR株式会社製グラスカT2202AおよびT2202B、具体的にはT2202A30部に対しT2202Bを10部配合したもの)とした。実施例9については、保護層を構成する材料を非晶質シリコーン組成物(セラミックコート株式会社製SPクリアーHT)とした。実施例10については、保護層を構成する材料をフッ素樹脂(日本ペイント株式会社製FPG−TA001)とした。各実施例8〜10について、保護層の形成は、上記各材料をスピンコータ(ミカサ株式会社製SpinCoraterMS−A150)を用いて塗布することにより行った。具体的には、まず上記各材料に対して、固形分濃度が10%以下になるように溶剤で希釈し、3種のコーティング剤を準備した。次に、上記スピンコータを用いて、実施例8〜10の各々に各コーティング剤を塗布した。塗布条件は最終的な保護層の膜厚が70nmとなるような条件とし、具体的には回転速度は500rpm以上7000rpm以下、回転時間は10秒間とした。次に、実施例8〜10の各々を180℃で1分間焼成させた。これにより、実施例8〜10が準備された。
【0080】
比較例15については、保護層を構成する材料をアルミニウム酸化物とした。具体的には、上記表面洗浄後の比較例15に対して硫酸浴中にて陽極酸化処理を施した。次に、陽極酸化処理が施された比較例15に対して封孔処理を施した。
【0081】
得られた実施例8〜10および比較例15の各試料について、保護層の表面凹凸を評価するために原子間力顕微鏡による観察に基づいて表面粗さRaを測定した。
【0082】
さらに、実施例1〜10および比較例1〜15の各アルミニウム箔について反射特性を評価するために紫外線の全反射率を測定した。以下、これらの測定方法について説明する。
【0083】
走査型電子顕微鏡観察は、日本電子株式会社製JSM−5510を用い、2000倍の倍率にてアルミニウム箔の表面を2次電子像で観察した。得られた64μm×48μmの矩形の視野における表面観察画像より、アルミニウム箔の表面に圧入もしくは付着したアルミニウム粒子とアルミニウム素地とを2値化して、視野内に存在するすべてのアルミニウム粒子の表面積を測定した。個々のアルミニウム粒子の表面積の測定値と視野の表面積とから、視野の表面積に対するすべてのアルミニウム粒子の総表面積の割合を算出した。表面観察画像は試料の幅方向で中央部付近を5点取り、それぞれの視野内ごとに算出したアルミニウム粒子(Al粒子)の総表面積の割合について5点の平均値を表3に示す。
【0084】
光学顕微鏡観察は、ニコン株式会社製のECLIPSE L200を用い、500倍の倍率にてアルミニウム箔の表面を観察した。得られた174μm×134μmの矩形の視野における表面観察画像より、晶出物とアルミニウム素地とを2値化して、視野内に存在するすべての晶出物の表面積を測定した。個々の晶出物の表面積の測定値と視野の表面積とから、視野の表面積に対するすべての晶出物の総表面積の割合を算出した。さらに、個々の晶出物の表面積の測定値と視野内で観察される晶出物の個数とから、晶出物の1個当たりの平均表面積を算出した。表面観察画像は試料の幅方向で中央部付近を5点取り、それぞれの視野内ごとに算出した晶出物の総表面積の割合と晶出物の1個当たりの平均表面積について5点の平均値を表3に示す。なお、厳密には視野中に析出物が存在する可能性も否定できないが、本明細書においては、視野中で観察された金属間化合物はすべて晶出物とした。
【0085】
原子間力顕微鏡による表面凹凸の観察は、株式会社日立ハイテクサイエンス製の走査型プローブ顕微鏡AFM5000IIを用いて、ダイナミックフォースモード方式(非接触)による表面形状を80μm×80μmの矩形の視野で行った。得られた観察結果に対して、最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングを行う3次曲面自動傾き補正で試料の傾きを補正し、表面粗さRaと圧延方向に対して垂直な幅(TD)方向の表面粗さRz
JISとを測定した。表面粗さRaは、JIS B0601(2001年版)およびISO4287(1997年版)で定義されている算術平均粗さRaを、観察された表面全体に対して適用できるように三次元に拡張して算出された値である。幅(TD)方向の表面粗さRz
JISは、同視野内の任意の幅(TD)方向の断面における2次元でのRz
JIS値をJIS B0601(2001年版)およびISO4287(1997年版)に基づいた評価方法で測定した。アルミニウム箔(Al箔)の表面粗さRaとRz
JISの値を表3に示す。
【0086】
保護層の膜厚測定は、株式会社バイテック静Filmetric F20を用いた。保護層の表面に可視光を照射して得られた反射光から波長範囲400nm〜1100nmの反射率スペクトラムを得た。当該反射率スペクトラムと理論上の反射率スペクトラムとの一致度が95%以上となる膜厚を、保護層の膜厚とした。
【0087】
保護層の表面粗さRaは、上述したアルミニウム箔の表面粗さRaと同様に、原子間力顕微鏡を用いて計測した。原子間力顕微鏡による表面凹凸の観察は、株式会社日立ハイテクサイエンス製の走査型プローブ顕微鏡AFM5000IIを用いて、ダイナミックフォースモード方式(非接触)による表面形状を80μm×80μmの矩形の視野で行った。得られた観察結果に対して、最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングを行う3次曲面自動傾き補正で試料の傾きを補正し、表面粗さRaを測定した。表面粗さRaは、JIS B0601(2001年版)およびISO4287(1997年版)で定義されている算術平均粗さRaを、観察された表面全体に対して適用できるように三次元に拡張して算出された値である。保護層の表面粗さRaの値を表3に示す。
【0088】
全反射率の測定は、日本分光株式会社製紫外可視分光光度計V570を用い、Labsphere社製積分球用標準白板をリファレンスとして積分球での全反射率を波長域250nm〜2000nmの範囲で測定した。得られた全反射率測定値から、波長域250nm〜400nmの紫外線の平均値と、波長域254nm〜265nmの紫外線の平均値を求めた。全反射率の測定は圧延方向(MD)と圧延方向に対して垂直な方向(TD)との二つの方向で測定し、これらの平均値として全反射率を評価した。これらの全反射率の平均値を表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
表3に示す結果から、実施例1〜10のアルミニウム箔は、アルミニウム箔の表面の64μm×48μmの領域に圧入もしくは付着しているアルミニウム粒子の総表面積が当該領域の面積に対して0.05%以下であり、174μm×134μmの領域に存在している晶出物の総表面積が当該領域の面積に対して2%以下であるとともに晶出物の1個当たりの平均表面積が2μm
2以下であり、かつ、80μm×80μmの視野における表面粗さRaが20nm未満であった。また、実施例1〜10のアルミニウム箔は、TD方向の表面粗さRz
JISが100nm以下であった。
【0091】
実施例1〜10のアルミニウム箔は、波長域254nm〜265nmの深紫外線の全反射率が80%以上であり、深紫外線に対して高い反射率を有していることが確認された。また、実施例1〜7のアルミニウム箔は、波長域250nm〜400nmの紫外線の全反射率も85%以上と高く、深紫外線に限らず紫外線の広い波長域で高い反射特性を有していることが確認された。また、実施例8〜10のアルミニウム箔は、保護層が形成されているにも関わらず波長域250nm〜400nmの紫外線の全反射率も80%以上と高く、深紫外線に限らず紫外線の広い波長域で高い反射特性を有していることが確認された。
【0092】
これに対して、比較例1〜15のアルミニウム箔では、64μm×48μmの領域の表面積に対する、当該領域に圧入もしくは付着しているアルミニウム粒子の総表面積の割合、174μm×134μmの領域の面積に対する、当該領域に存在する晶出物の総表面積の割合、および、表面粗さRaの少なくとも1つが上記範囲から外れていた。そして、比較例1〜14のアルミニウム箔は、波長域254nm〜265nmの深紫外線の全反射率が80%未満と低いことが確認された。深紫外線に限らず、波長域250nm〜400nmの紫外線の全反射率も85%未満と低いことが確認された。
【0093】
以上の結果より、本発明によって、紫外線に対し従来実現しなかった高い反射率を有しているアルミニウム箔を得ることができたことがわかった。
【0094】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。