特許第6794442号(P6794442)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794442
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】新規な遺伝子組換えワクシニアウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/24 20060101AFI20201119BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20201119BHJP
   C12N 15/863 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20201119BHJP
【FI】
   C12N15/24ZNA
   C12N7/01
   C12N15/863 Z
   A61P35/00
   A61K35/768
【請求項の数】21
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2018-520896(P2018-520896)
(86)(22)【出願日】2017年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2017019921
(87)【国際公開番号】WO2017209053
(87)【国際公開日】20171207
【審査請求日】2019年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-107481(P2016-107481)
(32)【優先日】2016年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】中尾 慎典
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 竜也
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴史
【審査官】 中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/150809(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/076422(WO,A1)
【文献】 特表2013−527753(JP,A)
【文献】 特表2001−513508(JP,A)
【文献】 特表2003−512335(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/125469(WO,A1)
【文献】 MEHROTRA P. T., et al.,Synergistic Effects of IL-7 and IL-12 on Human T Cell Activation,The Journal of Immunology,1995年,Vol.154,p.5093-5102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)及び(2)を含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス:
(1)インターロイキン−7(IL−7)をコードするポリヌクレオチド;及び
(2)インターロイキン−12(IL−12)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能を欠損している、請求項1に記載のワクシニアウイルス。
【請求項3】
以下の(1)又は(2)から選択されるがんの予防又は治療用である、医薬組成物:
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物;又は
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物。
【請求項4】
ワクシニアウイルスが、VGF及びO1Lの機能を欠損している、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
以下の(1)及び(2)の腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む、組合せキット:
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス;及び
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス。
【請求項6】
ワクシニアウイルスが、VGF及びO1Lの機能を欠損している、請求項5に記載の組合せキット。
【請求項7】
B5R細胞外領域のSCR(short consensus repeat)ドメインを欠失している、請求項1または2に記載のワクシニアウイルス。
【請求項8】
VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失している、請求項1、2または7に記載のワクシニアウイルス。
【請求項9】
LC16mO株である、請求項1、2、7及び8のいずれかに記載のワクシニアウイルス。
【請求項10】
請求項1、2及び7〜9のいずれかに記載のワクシニアウイルス及び薬学的に許容される賦形剤を含む、がんの予防又は治療用である、医薬組成物。
【請求項11】
ワクシニアウイルスがB5R細胞外領域のSCRドメインを欠失している、請求項3若しくは4に記載の医薬組成物又は請求項5若しくは6に記載のキット。
【請求項12】
ワクシニアウイルスがLC16mO株である、請求項3、4及び11のいずれかに記載の医薬組成物又は請求項5、6及び11のいずれかに記載のキット。
【請求項13】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項3、4、11及び12のいずれかに記載の医薬組成物又は請求項5、6、11及び12のいずれかに記載のキット。
【請求項14】
がんの予防又は治療用である、請求項10に記載の医薬組成物又は請求項11〜13のいずれかに記載のキット。
【請求項15】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項14に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項16】
がんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、請求項1、2及び7〜9のいずれかに記載のワクシニアウイルスの使用。
【請求項17】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
以下の(1)又は(2)から選択される、腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用:
(1)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用;又は
(2)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用。
【請求項19】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項18記載の使用。
【請求項20】
がんの予防又は治療用の組合せキットを製造するための、(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルス及び(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用。
【請求項21】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項20記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な遺伝子組換えワクシニアウイルスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルスをがん治療に用いる種々の技術が開発されており、がん治療に用いられるウイルスのひとつとしてワクシニアウイルスがある。ワクシニアウイルスは治療用遺伝子をがん細胞へ送達するベクターとして、がん細胞において増殖しがん細胞を破壊する腫瘍溶解性ウイルスとして、又はがん抗原や免疫調節分子を発現するがんワクチンとして、がん治療を目的として研究されてきた(Expert Opinion on Biological Therapy、2011、Vol.11、p.595−608)。
【0003】
インターロイキン−12(IL−12)又はインターロイキン−21(IL−21)をコードする外来遺伝子の挿入によりN1L遺伝子を不活性化し、かつLacZレポーター遺伝子及びホタルルシフェラーゼ遺伝子の挿入によりチミジンキナーゼ(TK)遺伝子を欠損するように操作されたワクシニアウイルスが、担癌マウスにおける腫瘍成長の抑制又は生存率の改善をもたらすことが報告されている(特許文献1)。
【0004】
ウイルス蛋白質であるワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能を欠損し、がん細胞内で特異的に増殖してがん細胞を破壊する組換えワクシニアウイルスについて、がん治療へ利用しようとする技術が報告されている。該ウイルスに、マーカー遺伝子や、細胞毒性や免疫賦活効果を有する産物をコードする治療用遺伝子などの外来遺伝子をワクシニアウイルスの生活環に必須でない遺伝子に導入してよい旨も説明されているが、実施例において具体的に検証されているのはマーカー遺伝子であるルシフェラーゼ−緑色蛍光蛋白質(GFP)融合遺伝子又はDsRed発現カセットの導入である。治療用遺伝子の導入は検証されていない。複数の治療用遺伝子を組み合わせることについての示唆もない(特許文献2)。
【0005】
一方、リコンビナント蛋白質を用いた検討において、単離したCD8T細胞に対する作用として、ヒトのリコンビナントインターロイキン−7(IL−7)蛋白質単独ではCD8T細胞による検出可能なレベルのインターフェロン−ガンマ(IFN−γ)産生を誘発することはないが、ヒトのリコンビナントIL−7蛋白質とヒトのリコンビナントIL−12蛋白質との組合せが該IFN−γ産生をシナジスティックに促進することが報告されている(The Journal of Immunology、1995、Vol.154、p.5093−5102)。免疫刺激分子を発現する腫瘍溶解性ワクシニアウイルスに関して、強い免疫応答によりウイルスが早期にクリアランスされる可能性があることが報告されている。強い免疫応答は、ワクシニアウイルス媒介癌治療法にとって敵とも味方ともなり得ることも説明されている(Molecular Therapy、2005、Vol.11、No.2、p.180−195)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/150809号
【特許文献2】国際公開第2015/076422号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、がんを治療又は予防するための遺伝子組換えワクシニアウイルス(特に腫瘍溶解性のワクシニアウイルス)、医薬組成物及び組合せキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ワクシニアウイルスの作製において相当の創意検討を重ねた結果、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス又はIL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス、並びに、IL−7をコードするポリヌクレオチド及びIL−12をコードするポリヌクレオチドの2つのポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを作製し(実施例2)、1)IL−7をコードするポリヌクレオチド及びIL−12をコードするポリヌクレオチドの2つのポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス、並びに、2)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスとIL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスとの2つのワクシニアウイルスの混合物が、各種ヒトがん細胞に対して細胞溶解作用を示す(実施例3)ことを見出し、本発明を完成した。
1)IL−7をコードするポリヌクレオチド及びIL−12をコードするポリヌクレオチドの2つのポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスは、担癌ヒト化マウスモデルにおいて腫瘍退縮作用を示し(実施例6)、同系担癌マウスモデルにおいて完全寛解を示し(実施例7)、さらに、獲得免疫を誘導して抗腫瘍効果を持続させ得た(実施例8)。また、2)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスとIL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスとの2つのワクシニアウイルスの混合物は、同系担癌マウスモデルにおいて完全寛解を示し(実施例7)、さらに、獲得免疫を誘導して抗腫瘍効果を持続させ得た(実施例8)。
【0009】
すなわち、本発明は、医学上又は産業上有用な物質又は方法として以下の発明を含んでもよい。
[1]以下の(1)及び(2)を含む、ワクシニアウイルス:
(1)インターロイキン−7(IL−7)をコードするポリヌクレオチド;及び
(2)インターロイキン−12(IL−12)をコードするポリヌクレオチド。
[2]以下の(1)又は(2)から選択される医薬組成物:
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物;又は
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物。
[3]以下の(1)及び(2)のワクシニアウイルスを含む、組合せキット:
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む、ワクシニアウイルス;及び
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む、ワクシニアウイルス。
[4]ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)の機能を欠損している、[1]に記載のワクシニアウイルス。
[5]O1Lの機能を欠損している、[1]に記載のワクシニアウイルス。
[6]VGF及びO1Lの機能を欠損している、[1]に記載のワクシニアウイルス。
[7]B5R細胞外領域のSCR(short consensus repeat)ドメインを欠失している、[1]に記載のワクシニアウイルス。
[8]VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失している、[1]に記載のワクシニアウイルス。
[9]LC16mO株である、[1]及び[4]〜[8]のいずれかに記載のワクシニアウイルス。
[10][1]及び[4]〜[9]のいずれかに記載のワクシニアウイルス及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[11]ワクシニアウイルスがVGFの機能を欠損している、[2]に記載の医薬組成物又は[3]に記載のキット。
[12]ワクシニアウイルスがO1Lの機能を欠損している、[2]に記載の医薬組成物又は[3]に記載のキット。
[13]ワクシニアウイルスがVGF及びO1Lの機能を欠損している、[2]に記載の医薬組成物又は[3]に記載のキット。
[14]ワクシニアウイルスがB5R細胞外領域のSCRドメインを欠失している、[2]に記載の医薬組成物又は[3]に記載のキット。
[15]ワクシニアウイルスがVGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失している、[2]に記載の医薬組成物又は[3]に記載のキット。
[16]ワクシニアウイルスがLC16mO株である、[2]及び[11]〜[15]のいずれかに記載の医薬組成物又は[3]及び[11]〜[15]のいずれかに記載のキット。
[17]薬学的に許容される賦形剤を含む、[2]及び[11]〜[16]のいずれかに記載の医薬組成物又は[3]及び[11]〜[16]のいずれかに記載のキット。
[18]がんの予防又は治療用である、[10]〜[17]のいずれかに記載の医薬組成物又はキット。
[19]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[18]に記載の医薬組成物又はキット。
[20]がんの予防又は治療を必要とする対象に[1]及び[4]〜[9]のいずれかに記載のワクシニアウイルスを投与する工程を包含する、がんを予防又は治療する方法。
[21]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[20]記載の方法。
[22]がんの予防又は治療に使用するための、[1]及び[4]〜[9]のいずれかに記載のワクシニアウイルス。
[23]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[22]記載のワクシニアウイルス。
[24]がんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、[1]及び[4]〜[9]のいずれかに記載のワクシニアウイルスの使用。
[25]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[24]記載の使用。
[26]がんの予防又は治療を必要とする対象に
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス;及び
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス
を投与する工程を包含する、がんを予防又は治療する方法。
[27]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[26]記載の方法。
[28]以下の(1)又は(2)から選択される、ワクシニアウイルス:
(1)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用してがんの予防又は治療に使用するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス;又は
(2)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用してがんの予防又は治療に使用するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス。
[29]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[28]記載のワクシニアウイルス。
[30]以下の(1)又は(2)から選択される、ワクシニアウイルスの使用:
(1)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの使用;又は
(2)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの使用。
[31]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[30]記載の使用。
[32]がんの予防又は治療用の組合せキットを製造するための、(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス及び(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの使用。
[33]がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、[32]記載の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明のワクシニアウイルス、並びに本発明の医薬組成物及び組合せキットに含まれるワクシニアウイルスは、腫瘍溶解作用を示し、がん細胞においてウイルスに搭載されたポリヌクレオチドにコードされるIL−12ポリペプチド及びIL−7ポリペプチドを発現させ、完全寛解及び獲得免疫をもたらすものであり、本発明のワクシニアウイルス、医薬組成物及び組合せキットはがんの予防又は治療に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に使用したトランスファーベクタープラスミドDNAの1例を示す。図1上は、プロモーターに作動可能に連結したBFP遺伝子をVGF遺伝子内に組込んだ例を示す。図1下は、プロモーターに作動可能に連結したBFP遺伝子をO1L遺伝子内に組込んだ例を示す。
【0012】
図2】各種組換えワクシニアウイルス(LC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−LacZ及び該ウイルスベクター作製の過程において構築した各種ウイルス)のゲノム構造の模式図を示す。
【0013】
図3】各種組換えワクシニアウイルス(LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−LacZ、LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL7/O1L−SP−LacZ)のゲノム構造の模式図を示す。
【0014】
図4】組換えワクシニアウイルス(LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−IL7)のゲノム構造の模式図を示す。
【0015】
図5-1】組換えワクシニアウイルス(LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−IL7)の腫瘍溶解性を示す。縦軸はがん細胞生存率(%)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【0016】
図5-2】組換えワクシニアウイルス(LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−IL7)の腫瘍溶解性を示す。縦軸はがん細胞生存率(%)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。図5−1と図5−2は、測定した細胞種が異なる以外は同じ実験条件で得られたものである。
【0017】
図5-3】組換えワクシニアウイルス2種類混合物(LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−LacZとLC16mO ΔSCR VGF−SP−IL7/O1L−SP−LacZとの混合物)の腫瘍溶解性を示す。縦軸はがん細胞生存率(%)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【0018】
図5-4】組換えワクシニアウイルス2種類混合物(LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−LacZとLC16mO ΔSCR VGF−SP−IL7/O1L−SP−LacZとの混合物)の腫瘍溶解性を示す。縦軸はがん細胞生存率(%)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。図5−3と図5−4は、測定した細胞種が異なる以外は同じ実験条件で得られたものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について詳述する。
【0020】
<本発明のワクシニアウイルス、併用用医薬組成物及び組合せキット>
本発明は、以下の(1)及び(2)を含む、ワクシニアウイルスを提供する:
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチド;及び
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチド。
(本明細書中、当該ワクシニアウイルスを「本発明のワクシニアウイルス」ともいう。)
【0021】
本発明はまた、以下の(1)又は(2)から選択される医薬組成物を提供する:
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物;又は
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物。
(本明細書中、当該医薬組成物を「本発明の併用用医薬組成物」ともいい、上記(1)又は(2)に記載の本発明の併用用医薬組成物にそれぞれ含まれるIL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス又はIL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを、「併用用ワクシニアウイルス」ともいう。)
【0022】
本発明はまた、以下の(1)及び(2)のワクシニアウイルスを含む、組合せキットを提供する:
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含む、ワクシニアウイルス;及び
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含む、ワクシニアウイルス。
(本明細書中、当該組合せキットを「本発明の組合せキット」ともいい、本発明の組合せキットに含まれる各ワクシニアウイルスを、「組合せキット用ワクシニアウイルス」ともいう。)
【0023】
本発明の組合せキットとは、(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス及び(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの2つのワクシニアウイルスを投与するために使用する、1つ又は複数の医薬組成物を意味する。両ワクシニアウイルスを同時に投与する場合、組合せキットは、上記2つの組合せキット用ワクシニアウイルスを、粉末剤のような単一の医薬組成物中に一緒に又は複数の医薬組成物中に別々に含有することができる。したがって、本発明の組合せキットは、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス及びIL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの2つのワクシニアウイルスを含有する医薬組成物を包含する。両組合せキット用ワクシニアウイルスを同時に投与しない場合、組合せキットは、上記2つの組合せキット用ワクシニアウイルスをそれぞれ別個の医薬組成物中に含有する。例えば、組合せキットは、上記2つの組合せキット用ワクシニアウイルスを、単一の包装中の別個の医薬組成物中に、又は別個の包装中の別個の医薬組成物中に含んでなる。本発明の組合せキットは、薬学的に許容される賦形剤を含んでよい。
【0024】
本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、及び組合せキット用ワクシニアウイルスにおいて使用されるワクシニアウイルスは、ポックスウイルス科オルトポックスウイルス属に属するウイルスである。本発明において使用されるワクシニアウイルスの株は限定されないが、例えば、リスター株、New York City Board of Health(NYBH)株、Wyeth株、コペンハーゲン株、Western Reserve(WR)株、Modified Vaccinia Ankara(MVA)株、EM63株、池田株、大連株、Tian Tan株などが挙げられ、リスター株、MVA株は、アメリカンタイプカルチャーコレクションより入手可能である(それぞれATCC VR−1549及びATCC VR−1508)。さらに、本発明において使用されるワクシニアウイルスとして、これらの株を由来にして確立されたワクシニアウイルス株も使用することができる。例えば、本発明において使用されるワクシニアウイルスとして、リスター株から確立された、LC16株、LC16m8株、及びLC16mO株を使用することもできる。LC16mO株はリスター株を親株として低温継代し、LC16株を経て作出された株である。LC16m8株は、LC16mO株をさらに低温継代して作出された、ウイルス膜蛋白質をコードする遺伝子であるB5R遺伝子にフレームシフト変異が認められ、この蛋白質が発現及び機能しなくなったことで弱毒化された株である(蛋白質 核酸 酵素、2003、Vol.48、p.1693−1700)。リスター株、LC16m8株及びLC16mO株の全ゲノム配列として、例えば、それぞれAccession No.AY678276.1、Accession No.AY678275.1及びAccession No.AY678277.1が知られている。したがって、リスター株から公知の相同組換えや部位特異的突然変異導入法により、LC16m8株、及びLC16mO株を作製することができる。
【0025】
1つの実施形態において、本発明において使用されるワクシニアウイルスはLC16mO株である。
【0026】
本発明において使用されるワクシニアウイルスとして、弱毒化及び/又は腫瘍選択性ワクシニアウイルスを使用することができる。本明細書では、「弱毒化」とは、正常な細胞(例えば、非腫瘍細胞)に対する毒性(例えば、細胞溶解性)が低いことを意味する。本明細書では、「腫瘍選択性」とは、正常な細胞(例えば、非腫瘍細胞)よりも腫瘍細胞に対する毒性(例えば、腫瘍溶解性)が高いことを意味する。本発明において使用されるワクシニアウイルスとしては、特定の蛋白質の機能を欠損したり、特定の遺伝子又は蛋白質の発現を抑制したりするような遺伝子改変を加えたワクシニアウイルス(Expert Opinion on Biological Therapy、2011、Vol.11、p.595−608)を使用することができる。例えば、ワクシニアウイルスの腫瘍選択性を高めるために、TKの機能を欠損させたワクシニアウイルス(Cancer Gene Therapy、1999、Vol.6、p.409−422)、VGFの機能を欠損させたワクシニアウイルス(Cancer Research、2001、Vol.61、p.8751−8757)、修飾TK遺伝子及び修飾ヘマグルチニン(HA)遺伝子並びに修飾F3遺伝子又は中断されたF3遺伝子座を含むワクシニアウイルス(国際公開第2005/047458号)、VGF及びO1Lの機能を欠損させたワクシニアウイルス(国際公開第2015/076422号)、がん細胞で発現低下しているマイクロRNAの標的配列をB5R遺伝子の3’非翻訳領域に挿入したワクシニアウイルス(国際公開第2011/125469号)、VGF及びTKの機能を欠損させたワクシニアウイルス(Cancer Research、2001、Vol.61、p.8751−8757)、TK及びHA並びにF14.5Lの機能を欠損させたワクシニアウイルス(Cancer Research、2007、Vol.67、p.10038−10046)、TK及びB18Rの機能を欠損させたワクシニアウイルス(PLoS Medicine、2007、Vol.4、p.e353)、TK及びリボヌクレオチド還元酵素の機能を欠損させたワクシニアウイルス(PLoS Pathogens、2010、Vol.6、p.e1000984)、SPI−1及びSPI−2の機能を欠損させたワクシニアウイルス(Cancer Research、2005、Vol.65、p.9991−9998)、SPI−1、SPI−2及びTKの機能を欠損させたワクシニアウイルス(Gene Therapy、2007、Vol.14、p.638−647)、又は、E3L及びK3L領域に変異を有するワクシニアウイルス(国際公開第2005/007824号)を使用することができる。また、O1Lの機能を欠損させたワクシニアウイルスを使用することができる(Journal of Virology、2012、Vol.86、p.2323−2336)。また、生体内において抗ワクシニアウイルス抗体の中和効果によるウイルスの排除を減弱させることを期待し、B5Rの細胞外領域を欠損させたワクシニアウイルス(Virology、2004、Vol.325、p.425−431)又はA34R領域を欠損させたワクシニアウイルス(Molecular Therapy、2013、Vol.21、p.1024−1033)を使用することができる。また、ワクシニアウイルスによる免疫細胞活性化作用を期待し、インターロイキン−1b(IL−1b)受容体を欠損させたワクシニアウイルス(国際公開第2005/030971号)を使用することができる。これらの外来遺伝子の挿入や遺伝子の欠失、変異は例えば公知の相同組換えや部位特異的突然変異導入法により行うことができる。また、本発明では、ワクシニアウイルスとしては、これらの遺伝子改変の組合せを有するワクシニアウイルスを使用することができる。本明細書では、「欠損」は、この用語により特定された遺伝子領域が機能を有しないことを意味し、この用語により特定された遺伝子領域を欠失していることを含む意味で用いられる。例えば、「欠損」は、特定された遺伝子領域からなる領域において欠失が生じていてもよいし、特定された遺伝子領域を含む周辺の遺伝子領域において欠失が生じていてもよい。
【0027】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、VGFの機能を欠損している。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、O1Lの機能を欠損している。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損している。国際公開第2015/076422号に記載の方法に基づいて、ワクシニアウイルスからVGF及び/又はO1Lの機能を欠損させることができる。
【0028】
VGFは上皮増殖因子(EGF)と高いアミノ酸配列相同性を有する蛋白質であり、EGFと同様に上皮増殖因子受容体に結合し、Ras、Raf、分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ(Mitogen−activated protein kinase、MAPK)/細胞外シグナル調節キナーゼ(the extracellular signal−regulated kinase、ERK) キナーゼ(MAPK/ERK キナーゼ、MEK)、そしてERKと続くシグナルカスケードの活性化を引き起こし、細胞分裂を促進する。
【0029】
O1LはERKの活性化を維持し、VGFと共に細胞の分裂に寄与する。
【0030】
ワクシニアウイルスのVGF及び/又はO1Lの機能の欠損とは、VGFをコードする遺伝子及び/又はO1Lをコードする遺伝子が発現しないか、又は発現してもその発現蛋白質がVGF及び/又はO1Lの正常な機能を保持していないことをいう。ワクシニアウイルスのVGF及び/又はO1Lの機能を欠損させるためには、VGFをコードする遺伝子及び/又はO1Lをコードする遺伝子の全て又は一部を欠失させればよい。また、塩基の置換、欠失、挿入又は付加により遺伝子を変異させ、正常なVGF及び/又はO1Lが発現できないようにしてもよい。また、VGFをコードする遺伝子及び/又はO1Lをコードする遺伝子中に外来遺伝子を挿入してもよい。本発明において、遺伝子の置換、欠失、挿入又は付加などの変異により正常な遺伝子産物が発現されない場合、遺伝子が欠損しているという。
【0031】
本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスがVGF及び/又はO1Lの機能を欠損しているか否かは、公知の方法を用いて判断することができる。例えば、VGF及び/又はO1Lの機能評価を行うこと、VGFに対する抗体又はO1Lに対する抗体を用いた免疫化学的手法によりVGF又はO1Lの存在を確認することや、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりVGFをコードする遺伝子やO1Lをコードする遺伝子の存在を決定することにより、判断することができる。
【0032】
B5R(Accession No.AAA48316.1)はワクシニアウイルスのエンベロープに存在する1型膜蛋白質であり、隣接の細胞又は宿主体内の他の部位にウイルスが感染及び伝播するときに、感染効率を高める働きをする。B5Rの細胞外領域には4つのSCRドメインと呼ばれる構造が存在する(Journal of Virology、1998、Vol.72、p.294−302)。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、B5Rの細胞外領域のSCRドメインを欠失している。
【0033】
ワクシニアウイルスのB5R細胞外領域のSCRドメインの欠失とは、B5R細胞外領域の4つのSCRドメインの一部又は全体の欠失を包含し、B5R細胞外領域内の4つのSCRドメインの一部又は全体をコードする遺伝子領域が発現しないか、又は発現したB5R蛋白質が細胞外領域の4つのSCRドメインの一部又は全体を保持していないことをいう。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスでは、B5Rが4つのSCRドメインを全て欠失している。1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスで欠失される、4つのSCRドメインは上記Accession No.AAA48316.1のアミノ酸配列において22番目のアミノ酸から237番目のアミノ酸に対応する領域である。
【0034】
本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスがB5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているか否かは、公知の方法を用いて判断することができる。例えば、SCRドメインに対する抗体を用いた免疫化学的手法によりSCRドメインの存在を確認することや、PCRによりSCRドメインをコードする遺伝子の存在又はサイズを決定することにより、判断することができる。
【0035】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているワクシニアウイルスである。
【0036】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているLC16mO株ワクシニアウイルスである。
【0037】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチド及びIL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損しているワクシニアウイルスである。
【0038】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチド及びIL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損しているLC16mO株ワクシニアウイルスである。
【0039】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチド及びIL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているワクシニアウイルスである。
【0040】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチド及びIL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているLC16mO株ワクシニアウイルスである。
【0041】
1つの実施形態において、併用用ワクシニアウイルス又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損しているワクシニアウイルスであるか、又は、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損しているワクシニアウイルスである。
【0042】
1つの実施形態において、併用用ワクシニアウイルス又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損しているLC16mO株ワクシニアウイルスであるか、又は、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損しているLC16mO株ワクシニアウイルスである。
【0043】
1つの実施形態において、併用用ワクシニアウイルス又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているワクシニアウイルスであるか、又は、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているワクシニアウイルスである。
【0044】
1つの実施形態において、併用用ワクシニアウイルス又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているLC16mO株ワクシニアウイルスであるか、又は、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含み、VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失しているLC16mO株ワクシニアウイルスである。
【0045】
IL−7は、IL−7受容体に対してアゴニストとして機能する分泌性蛋白質である。IL−7はT細胞やB細胞などの生存、増殖及び分化に寄与することが報告されている(Current Drug Targets、2006、Vol.7、p.1571−1582)。本発明において、IL−7には、天然に存在するIL−7及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、IL−7は、ヒトIL−7である。本発明において、ヒトIL−7には、天然に存在するヒトIL−7及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、ヒトIL−7は、以下の(1)〜(3)からなる群より選択される:
(1)Accession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列を含み、かつ、ヒトIL−7の機能を有するポリペプチド、
(2)Accession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒトIL−7の機能を有するポリペプチド、並びに
(3)Accession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、ヒトIL−7の機能を有するポリペプチド。
ここで、ヒトIL−7の機能とは、各種ヒト免疫細胞に対しての生存、増殖及び分化作用をいう。
【0046】
好ましくは、本発明において使用されるヒトIL−7はAccession No.NP_000871.1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0047】
IL−12は、IL−12サブユニットp40とIL−12サブユニットαとのヘテロ二量体である。IL−12はT細胞及びNK細胞を活性化及び分化誘導する機能を有することが報告されている(Cancer Immunology Immunotherapy、2014、Vol.63、p.419−435)。本発明において、IL−12には、天然に存在するIL−12及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、IL−12は、ヒトIL−12である。本発明において、ヒトIL−12には、天然に存在するヒトIL−12及びその機能を有する改変体が包含される。1つの実施形態において、ヒトIL−12は、ヒトIL−12サブユニットp40とヒトIL−12サブユニットαとの組合せとして、以下の(1)〜(3)からなる群より選択される。:
(1)(1−a)Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(1−b)Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、(1−c)Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、並びに、
(2−a)Accession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(2−b)Accession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、(2−c)Accession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、かつ、
ヒトIL−12の機能を有するポリペプチド、
(2)(1−a)Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、並びに、
(2−a)Accession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(2−b)Accession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は(2−c)Accession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、かつ、
ヒトIL−12の機能を有するポリペプチド、並びに、
(3)(1−a)Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(1−b)Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、(1−c)Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、並びに、
(2−a)Accession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含み、かつ、
ヒトIL−12の機能を有するポリペプチド。
ここで、ヒトIL−12の機能とは、T細胞やNK細胞の活性化作用、及び/又は分化誘導作用をいう。IL−12サブユニットp40及びIL−12サブユニットαは直接結合することでIL−12を形成することができる。また、IL−12サブユニットp40及びIL−12サブユニットαをリンカーを介して結合させることができる。
【0048】
好ましくは、本発明において使用されるヒトIL−12は、Accession No.NP_002178.2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド及びAccession No.NP_000873.2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むポリペプチドである。
【0049】
本明細書における「同一性」とは、NEEDLE program(Journal of Molecular Biology、1970、Vol.48、p.443−453)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値Identityを意味する。前記のパラメータは以下の通りである。
Gap penalty = 10
Extend penalty = 0.5
Matrix = EBLOSUM62
【0050】
本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、腫瘍溶解活性を有する。被験ウイルスが腫瘍溶解活性を有するかどうかを評価する方法として、ウイルス添加によるがん細胞の生存率低下を評価する方法が挙げられる。評価に使用するがん細胞としては、例えば、悪性黒色腫細胞RPMI−7951(例えば、ATCC HTB−66)、肺腺癌細胞HCC4006(例えば、ATCC CRL−2871)、肺癌細胞A549(例えば、ATCC CCL−185)、小細胞肺癌細胞DMS 53(例えば、ATCC CRL−2062)、肺扁平上皮癌細胞NCI−H226(例えば、ATCC CRL−5826)、腎癌細胞Caki−1(例えば、ATCC HTB−46)、膀胱癌細胞647−V(例えば、DSMZ ACC 414)、頭頸部癌細胞Detroit 562(例えば、ATCC CCL−138)、乳癌細胞JIMT−1(例えば、DSMZ ACC 589)、乳癌細胞MDA−MB−231(例えば、ATCC HTB−26)、食道癌細胞OE33(例えば、ECACC 96070808)、グリア芽細胞腫U−87MG(例えば、ECACC 89081402)、神経芽細胞腫GOTO(例えば、JCRB JCRB0612)、骨髄腫RPMI 8226(例えば、ATCC CCL−155)、卵巣癌細胞SK−OV−3(例えば、ATCC HTB−77)、卵巣癌細胞OVMANA(例えば、JCRB JCRB1045)、大腸癌細胞RKO(例えば、ATCC CRL−2577)、大腸癌細胞HCT 116(例えば、ATCC CCL−247)、膵癌細胞BxPC−3(例えば、ATCC CRL−1687)、前立腺癌細胞LNCaP clone FGC(例えば、ATCC CRL−1740)、肝癌細胞JHH−4(例えば、JCRB JCRB0435)、中皮腫NCI−H28(例えば、ATCC CRL−5820)、子宮頸癌細胞SiHa(例えば、ATCC HTB−35)、及び、胃癌細胞Kato III(例えば、RIKEN BRC RCB2088)が挙げられる。具体的な評価方法としては、例えば、後記実施例3に記載されるような方法を用いることができる。
【0051】
本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、IL−7及び/又はIL−12ポリペプチドを産生する。本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスを使用すると、IL−7及びIL−12ポリペプチドを産生することによって、抗腫瘍効果が顕著に向上する。IL−7及びIL−12の産生は、当該分野で公知の方法を用いて確認することができる。例えば、IL−7及びIL−12の各ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入したワクシニアウイルスをがん細胞と培養した後に、培養上清中のIL−7及びIL−12濃度を測定することや、細胞の免疫染色又は細胞溶解物のウェスタンブロット解析若しくは細胞溶解物中のIL−7及びIL−12の濃度を測定することにより確認できる。IL−7及びIL−12の各濃度は、例えば、Human IL−7 ELISA kit(レイバイオテック社)、Human IL−12 p70 DuoSet ELISA(R&Dシステムズ社)をそれぞれ用いて測定することができる。培養上清中又は細胞溶解物中の各種ポリペプチド濃度を具体的に評価する方法としては、後記実施例4に記載されるような方法を用いることができる。細胞の免疫染色又は細胞溶解物のウェスタンブロット解析はそれぞれ、市販の抗IL−7抗体、抗IL−12抗体を用いて行うことができる。
【0052】
IL−7及びIL−12の各々をコードするポリヌクレオチドは、公的に利用可能な配列情報に基づき、当該分野で公知のポリヌクレオチド合成方法を利用して合成することが可能である。また、各ポリヌクレオチドを一旦取得すれば、部位特異的変異誘発法(Current Protocols in Molecular Biology edition、1987、John Wiley & Sons Section 8.1−8.5)等の当業者に公知の方法を使用して、所定の部位に変異を導入することによって、各ポリペプチドの機能を有する改変体を作製することも可能である。
【0053】
IL−7及びIL−12の各々をコードするポリヌクレオチドは、公知の相同組換えや部位特異的突然変異導入法によりワクシニアウイルスへ導入することができる。例えば、導入したい部位の塩基配列中に当該ポリヌクレオチドを導入したプラスミド(トランスファーベクタープラスミドDNAとも称する)を作製し、ワクシニアウイルスを感染させた細胞の中に導入することができる。好ましくは、外来遺伝子であるIL−7及びIL−12の各々をコードするポリヌクレオチドの導入領域は、ワクシニアウイルスの生活環に必須ではない遺伝子領域である。例えば、ある態様では、IL−7及び/又はIL−12の導入領域は、VGF機能欠損ワクシニアウイルスでは、該VGF遺伝子の内部とすることができ、O1L機能欠損ワクシニアウイルスでは、該O1L遺伝子の内部とすることができ、VGF機能欠損とO1L機能欠損の両方を有するワクシニアウイルスでは、該VGF遺伝子及び該O1L遺伝子のいずれか又は両方の内部とすることができる。上記において、外来遺伝子は、VGF及びO1L遺伝子の転写方向と同じ向き又は逆向きに転写されるように導入することができる。
【0054】
トランスファーベクタープラスミドDNAの細胞への導入方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等を用いることができる。
【0055】
外来遺伝子であるIL−7及びIL−12の各々をコードするポリヌクレオチドを導入する際に、外来遺伝子の上流に適当なプロモーターを作動可能に連結させることができる。これにより、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスでは、外来遺伝子は、腫瘍細胞で発現可能なプロモーターに連結され得る。これらのプロモーターとしては、例えば、PSFJ1−10、PSFJ2−16、p7.5Kプロモーター、p11Kプロモーター、T7.10プロモーター、CPXプロモーター、HFプロモーター、H6プロモーター、及びT7ハイブリッドプロモーターなどが挙げられる。
【0056】
1つの実施形態において、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスは、薬剤選択マーカー遺伝子を有しない。
【0057】
本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスの発現及び/又は増殖は、ワクシニアウイルスを宿主細胞に感染させ、感染させた宿主細胞を培養することにより行うことができる。ワクシニアウイルスの発現及び/又は増殖は、当該分野で公知の方法により行うことができる。本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスを発現又は増殖させるために用いる宿主細胞としては、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスを発現し、増殖できるものである限り、特に制限されるものではない。このような宿主細胞としては、例えば、BS−C−1、A549、RK13、HTK−143、Hep−2、MDCK、Vero、HeLa、CV−1、COS、BHK−21、及び初代ウサギ腎臓細胞等の動物細胞が挙げられ、好ましくは、BS−C−1(ATCC CCL−26)、A549(ATCC CCL−185)、CV−1(ATCC CCL−70)又はRK13(ATCC CCL−37)を使用することができる。宿主細胞の培養条件、例えば、温度、培地のpH、及び培養時間は、適宜選択される。
【0058】
本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスを生産する方法は、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスを宿主細胞に感染させ、感染させた宿主細胞を培養し、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスを発現させる工程に加えて、さらには、本発明のワクシニアウイルス、併用用ワクシニアウイルス、又は組合せキット用ワクシニアウイルスを回収、好ましくは精製する工程を含むことができる。精製方法としては、ベンゾナーゼを用いたDNA消化、ショ糖勾配遠心分離法、Iodixanol密度勾配遠心分離法、限外ろ過法、及びダイアフィルトレーション法などを用いることができる。
【0059】
<本発明の医薬組成物>
本発明の医薬組成物には、本発明のワクシニアウイルス及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が含まれる。本発明の医薬組成物には、本発明の併用用医薬組成物も含まれる。1つの実施形態において、本発明の併用用医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0060】
本発明の医薬組成物は、当該分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用される方法によって調製することができる。これら医薬組成物の剤型の例としては、例えば、注射剤、及び点滴用剤等の非経口剤が挙げられ、静脈内投与、皮下投与、又は腫瘍内投与等により投与することができる。製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた賦形剤、担体、又は添加剤等を使用することができる。
【0061】
有効投与量は患者の症状の程度や年齢、使用する製剤の剤型、又はウイルスの力価等により異なるが、例えば、単独ウイルスの有効投与量として、組合せキットにおける2種類のウイルスの合計有効投与量として、又は、併用投与される際の2種類のウイルスの合計有効投与量として、10〜1010プラーク形成単位(PFU)程度を用いることができる。組合せキットにおける2種類のウイルス投与量の比率としては、例えば、1対10〜10対1程度、1対5〜5対1程度、1対3〜3対1程度、1対2〜2対1程度、又は約1対1で使用することができる。
【0062】
<がんの予防又は治療用途>
本発明の医薬組成物は、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療剤として用いることができる。
【0063】
本発明には、本発明のワクシニアウイルス又は併用用ワクシニアウイルスを含む、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療用医薬組成物が含まれる。
【0064】
本発明には、各組合せキット用ワクシニアウイルスを含む、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療用組合せキットが含まれる。
【0065】
また、本発明には、がんの予防又は治療を必要とする対象(例えば、患者)に本発明のワクシニアウイルスを投与する工程を包含する、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんを予防又は治療する方法が含まれる。
【0066】
また、本発明には、がんの予防又は治療を必要とする対象(例えば、患者)に、以下の(1)及び(2)を投与する工程を包含する、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんを予防又は治療する方法が含まれる。
(1)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス;及び
(2)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス。
当該2つのワクシニアウイルスは、同時に、別々に、連続して、あるいは間隔をあけて、対象に投与してよい。
【0067】
また、本発明には、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療に使用するための、本発明のワクシニアウイルスが含まれる。
【0068】
また、本発明には、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療に使用するための、以下の(1)又は(2)から選択されるワクシニアウイルスが含まれる。
(1)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用してがんの予防又は治療に使用するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス;又は
(2)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用してがんの予防又は治療に使用するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス。
【0069】
さらに、本発明には、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、本発明のワクシニアウイルスの使用が含まれる。
【0070】
さらに、本発明には、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、以下の(1)又は(2)から選択される、ワクシニアウイルスの使用が含まれる:
(1)IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの使用;又は
(2)IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの使用。
【0071】
さらに、本発明には、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんの予防又は治療用の組合せキットを製造するための、IL−7をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルス及びIL−12をコードするポリヌクレオチドを含むワクシニアウイルスの使用が含まれる。
【0072】
本明細書では、「予防用」は「予防することに用いるための」と同義で用いられ、「治療用」は「治療することに用いるための」と同義で用いられる。
【0073】
本発明の医薬組成物又は組合せキットは、がん、例えば、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、及び、胃癌等からなる群から選択されるがんに有効性を示す種々の治療剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、又は別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。本発明の医薬組成物は、同時投与の場合には、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【0074】
本発明のワクシニアウイルス、本発明の医薬組成物、本発明の組合せキット、本発明のがんを予防若しくは治療する方法、又は本発明の使用が適用されるがんには、原発巣以外の臓器、例えばリンパ節や肝臓などへの転移性がんなども含まれる。
【0075】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0076】
市販のキット又は試薬等を用いた部分については、特に断りのない限り添付のプロトコールに従って実験を行った。
【0077】
(実施例1:トランスファーベクタープラスミドDNAの構築)
相同組換え法により組換えワクシニアウイルスを作製するために使用するトランスファーベクタープラスミドDNAを以下の通りに作製した。
【0078】
(1)pTN−VGF−P−DsRedトランスファーベクタープラスミドDNAの構築
国際公開第2015/076422号に基づいてpUC19−VGFベクターを作製した。より具体的には、pUC19−VGFベクター作製のために、LC16mO株のゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を鋳型に使用し、Invitrogen社のpUC19ベクター(製品コード:54357)を使用した。作製したpUC19−VGFベクターを制限酵素AccIで切断した後、末端を平滑化した。この切断部位に、p7.5kプロモーターとDsRed断片とを含むDNA断片(配列番号22)を挿入することで、トランスファーベクタープラスミドDNAを構築した。構築したプラスミドDNAをpTN−VGF−P−DsRedと称する。
(2)pTN−VGF−SP−IL12及びpTN−VGF−SP−IL7トランスファーベクタープラスミドDNAの構築
pTagBFP−N vector(FP172、Evrogen社)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号1及び配列番号2)によってBFP遺伝子領域を増幅した。そのPCR産物を制限酵素SfiI及びEcoRIで切断し、pTK−SP−LGベクター(国際公開第2015/076422号。但し、LC16mO株のゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を鋳型に使用し、Invitrogen社のpUC19ベクター(製品コード:54357)を使用した。また、pVNC110−Luc/IRES/EGFPプラスミドは国際公開第2011/125469号に記載のpVNC110−Luc/IRES/EGFPを使用した。)の同じ制限酵素部位にクローニングし、合成ワクシニアウイルスプロモーター(Journal of Virological Methods、1997、Vol.66、p.135−138)下にBFPを連結したpTK−SP−BFPを構築した。次に、pTK−SP−BFPを制限酵素SphI及びEcoRIで切断し、末端を平滑化した。こうして得られたDNA断片を、pUC19−VGFベクターを制限酵素AccIで切断し末端を平滑化した部位へクローニングすることで、pTN−VGF−SP−BFPを構築した(図1)。次に、ヒトIL−12をコードするポリヌクレオチド(ヒトIL−12サブユニットp40、内部リボソーム導入部位及びヒトIL−12サブユニットαを含むポリヌクレオチド。配列番号7)、及びヒトIL−7をコードするポリヌクレオチド(配列番号8)(各ポリヌクレオチドは、5’側に制限酵素サイトaccggtcgccacc(配列番号16)及び3’側に制限酵素サイトgctagcgaattc(配列番号17)をそれぞれ含む)を制限酵素AgeIとNheIで切断した。各ポリヌクレオチド断片をpTN−VGF−SP−BFPの同じ制限酵素部位にクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを構築した。構築したプラスミドDNAをそれぞれpTN−VGF−SP−IL12及びpTN−VGF−SP−IL7と称する。
(3)pTN−O1L−SP−BFP、pTN−O1L−SP−LacZ、pTN−O1L−SP−IL12、及びpTN−O1L−SP−IL7トランスファーベクタープラスミドDNAの構築
上記(2)と同様の方法で、pTK−SP−BFPを制限酵素SphI及びEcoRIで切断し、末端を平滑化して得られたDNA断片を、pUC19−O1Lベクター(国際公開第2015/076422号。但し、pUC19−VGFベクター作製と同様に、LC16mO株のゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を鋳型に使用し、Invitrogen社のpUC19ベクター(製品コード:54357)を使用した。O1L遺伝子領域はpUC19ベクターのXbaIサイトに挿入した。)を制限酵素XbaIで切断し末端を平滑化した部位へクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを作製した(図1)。作製したプラスミドDNAをpTN−O1L−SP−BFPと称する。次に、ヒトに対してコドンを最適化した大腸菌LacZ遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号9)、ヒトIL−12をコードするポリヌクレオチド(配列番号7)、及びヒトIL−7をコードするポリヌクレオチド(配列番号8)を制限酵素AgeIとNheIで切断した。LacZ、IL−12、又はIL−7をコードする各ポリヌクレオチド断片をpTN−O1L−SP−BFPベクターの同じ制限酵素部位(AgeI部位及びNheI部位)にクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを構築した。構築したプラスミドDNAをそれぞれpTN−O1L−SP−LacZ、pTN−O1L−SP−IL12、及びpTN−O1L−SP−IL7と称する。
【0079】
(4)pTN−DsRed(B5R−)及びpTN−B5RΔ1−4トランスファーベクタープラスミドDNAの構築
pB5R(国際公開第2011/125469号。但し、LC16mO株のゲノムDNA(Accession No.AY678277.1)を鋳型に使用した)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号3及び配列番号4)によってB4R遺伝子領域を増幅した。また、pDsRed−Express−N1(Clontech社)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号5及び配列番号6)によってDsRed遺伝子領域を増幅した。前者のPCR産物を制限酵素NotI及びFspIで、後者のPCR産物を制限酵素FspI及びMfeIで切断した。この2種類のDNA断片を、制限酵素NotI及びMfeIで切断したpB5Rにクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを作製した。作製したプラスミドDNAをpTN−DsRed(B5R−)と称する。一方、pB5Rを制限酵素NotI及びNspIで、又は制限酵素NspI及びSacIで切断した。この2種類のDNA断片を、制限酵素NotIとSacIで切断したpB5Rにクローニングすることで、トランスファーベクタープラスミドDNAを構築した。作製したプラスミドDNAをpTN−B5RΔ1−4と称する。pTN−B5RΔ1−4には4つのSCRドメインが欠失したB5R蛋白質がコードされる。当該アミノ酸配列は配列番号18に示した配列となる。
【0080】
(実施例2:遺伝子組換えワクシニアウイルスの構築)
【0081】
ワクシニアウイルスLC16mO株からVGFとO1Lの機能を欠損させた組換えワクシニアウイルス(LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedと称する)を作製した。これについて、次世代シークエンサーPacBio RSII(Pacific Bioscience社)を用いて、シークエンシングを行い、得られた配列情報から、Sprai[BMC GENOMICS. 2014 AUG 21;15:699.]ソフトウェアを利用してウイルスゲノムの再構成を行って塩基配列を決定したところ、配列番号21で示される塩基配列を有していた。また、当該塩基配列の両末端にはループ配列が付加されており、両末端ループ配列は配列番号19又は20で示される塩基配列であった。
【0082】
(1)図2に示すウイルスゲノムを持つ組換えワクシニアウイルスを回収した。以下、回収手順について具体的に説明する。6ウェルディッシュに80%コンフルエントに培養されたCV1細胞(ATCC CCL−70)又はRK13細胞(ATCC CCL−37)にLC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedをMOI(Multiplicity of infection)=0.02〜0.1で感染させ、室温で1時間吸着させた。実施例1(3)で構築したpTN−O1L−SP−BFPをFuGENE(登録商標) HD Transfection Reagent(Roche)と混合し、マニュアルに従って細胞に添加して取り込ませ、5%CO存在下37℃にて2〜5日間培養した。細胞を凍結融解後、ソニケーション処理し、下記操作により単一のプラークを取得できる程度にOpti−MEM(Invitrogen)にて希釈した。得られた希釈液100μLを6ウェルディッシュにサブコンフルエントになったBS−C−1細胞(ATCC CCL−26)又はRK13細胞に添加して接種した。0.8%メチルセルロース(和光純薬、136−02155)、5%ウシ胎児血清、0.225%炭酸水素ナトリウム(和光純薬、195−16411)及びGlutaMAX(TM) Supplement I(GIBCO、35050−061)含有イーグルMEM培地(ニッスイ、05900)を2mL加え、5%CO存在下37℃で2〜5日間培養した。培地を除き、BFP発現を指標にプラークをチップの先で掻き取り、Opti−MEMに浮遊させた。BS−C−1細胞又はRK13細胞にてさらに3回以上この操作を繰り返し、プラーク純化し、ウイルスプラークを回収した(本実施例において、以下、ここまでの手順を「回収」という。)。回収したプラークをOpti−MEMに浮遊させ、ソニケーションした。High Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)を用いマニュアルに従って、前記ソニケーション溶液200μLからゲノムDNAを抽出し、PCRによるスクリーニングに供した。VGFに関しては2つのプライマー(配列番号10及び配列番号11)によって、O1Lに関しては2つのプライマー(配列番号12及び配列番号13)によって、B5Rに関しては2つのプライマー(配列番号14及び配列番号15)によってPCRを行った。所定の大きさのPCR産物が検出されたクローンのうち、PCR産物の塩基配列が正しいことをダイレクトシーケンスにより確認したウイルスクローン(LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFPと称する。図2)を選択し、A549細胞(ATCC CCL−185)又はRK13細胞にて増殖させた後、RK13細胞にてウイルス力価を測定した。LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFP及び実施例1(4)で作製したpTN−DsRed(B5R−)を用いて、BFP発現の代わりにDsRed発現を指標に、上記と同様の方法にて組換えウイルスを回収した。回収したウイルスをLC16mO Δ−DsRed VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFPと称する(図2)。
【0083】
(2)B5R蛋白質の4つのSCRドメインを欠失した組換えウイルスを回収した。具体的には、実施例2(1)で作製したLC16mO Δ−DsRed VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFP及び実施例1(4)で構築したpTN−B5RΔ1−4を用いて、BFP発現の代わりにDsRed発現消失を指標に、実施例2(1)と同様の方法にて組換えウイルスを回収した。回収したウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFPと称する(図2)。また、作製したLC16mO ΔSCR VGF−SP−LucGFP/O1L−SP−BFP及び実施例1(1)で構築したpTN−VGF−P−DsRedを用いて、BFP発現の代わりにDsRed発現を指標に、実施例2(1)と同様の方法にて組換えウイルスを回収した。回収したウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−BFPと称する(図2)。次に、作製したLC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−BFP及び実施例1(3)で構築したpTN−O1L−SP−LacZを用いて、BFP発現の代わりにBFP発現消失を指標に、実施例2(1)と同様の方法にて組換えウイルスを回収した。回収したウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−LacZと称する(図2)。
【0084】
(3)図3に示すウイルスゲノムを持つ治療遺伝子及びマーカー遺伝子を発現するSCR領域欠失組換えワクシニアウイルスを回収した。具体的には、実施例2(2)で作製したLC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−LacZ並びに実施例1(2)で構築したトランスファーベクタープラスミドDNA(pTN−VGF−SP−IL12、及びpTN−VGF−SP−IL7)をそれぞれ用いて、BFP発現の代わりにDsRed発現消失を指標に、実施例2(1)と同様の方法にて各組換えウイルスを回収した。回収したそれぞれのウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−LacZ(以下、「hIL12搭載ワクシニアウイルス」と称する。)、LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL7/O1L−SP−LacZ(以下、「hIL7搭載ワクシニアウイルス」と称する。)と称する(図3)。精製のために、各組換えウイルスをA549細胞あるいはRK13細胞に感染させた。5%CO存在下37℃で2〜5日間培養した後、感染細胞を回収した。細胞を凍結融解し、ソニケーション処理した。OptiPrep(アクシスシールド社)を用いて密度勾配遠心分離法により精製した。その後、RK13細胞にて各ウイルスのウイルス力価を測定した。
【0085】
(4)図4に示すウイルスゲノムを持つヒトIL−7をコードするポリヌクレオチド及びヒトIL−12をコードするポリヌクレオチドを発現するSCRドメイン欠失組換えワクシニアウイルスを回収した。
(4−1)具体的には、実施例2(2)で作製したLC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−BFP及び実施例1(2)で構築したトランスファーベクタープラスミドDNA pTN−VGF−SP−IL12を用いて、BFP発現の代わりにDsRed発現消失を指標に、実施例2(1)と同様の方法にて各組換えウイルスを回収した。回収したウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−BFPと称する。
【0086】
(4−2)次に、実施例2(4−1)で作製したLC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−BFP及び実施例1(3)で構築したトランスファーベクタープラスミドDNA pTN−O1L−SP−IL7を用いて、BFP発現の代わりにBFP発現消失を指標に、実施例2(1)と同様の方法にて各組換えウイルスを回収した。回収したウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−IL7(以下、後記実施例において、「hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス」とも称する。)と称する(図4)。各組換えウイルスを実施例2(3)の方法で精製した後、RK13細胞にて各ウイルスのウイルス力価を測定した。
【0087】
(実施例3:遺伝子組換えワクシニアウイルスの腫瘍溶解性)
実施例2で作製されたhIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスについて、各種ヒトがん細胞における溶解能力(細胞死滅能力)を評価した。また、実施例2で作製されたhIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの2種類の組合せ混合物についても、同様に各種ヒトがん細胞における溶解能力を評価した。
【0088】
具体的にはまず、96ウェルプレート(AGCテクノグラス社)に培地(10%ウシ胎児血清(GEヘルスケア社)及び1%ペニシリンストレプトマイシン(ライフテクノロジーズ社)を含有する、下記に記載の培地)で1×10個/mLになるよう懸濁した各細胞を100μLずつ添加した。一晩培養後、1)hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス、及び、2)hIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとを1対1の濃度で組み合わせた混合物(以下、「hIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物」と称する)を、Opti−MEM(ライフテクノロジーズ社)を用いて、それぞれ5×10PFU/mL、5×10PFU/mL、及び5×10PFU/mLに希釈した。各ウェルに20μLずつ各ウイルス溶液を添加して、MOI=1.0、10、100になるように感染させた。コントロールとして、細胞を添加しないウェル、及び、ウイルスの代わりにOpti−MEMを添加したウェル(MOI=0)を作製した。その後、CO濃度5%、37℃に設定したCOインキュベータにて5日間培養した。5日後の細胞生存率を、CellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(プロメガ社)を用いて測定した。具体的には、上記アッセイキットのプロトコールに従い、CellTiter−Glo Reagentを各ウェルに100μLずつ添加して30分静置後、全量を96ウェルブラックプレート(コーニング社)に移し、各ウェルの発光強度をEnSpire(パーキンエルマー社)を用いて測定した。各ウェルでの細胞生存率の算出においては、細胞を播種していないウェルの値を0%生存、細胞を播種してウイルスを添加していないウェルを100%生存とした。
【0089】
評価した細胞は、悪性黒色腫細胞RPMI−7951(ATCC HTB−66)、肺腺癌細胞HCC4006(ATCC CRL−2871)、肺癌細胞A549(ATCC CCL−185)、小細胞肺癌細胞DMS 53、肺扁平上皮癌細胞NCI−H226(ATCC CRL−5826)、腎癌細胞Caki−1(ATCC HTB−46)、膀胱癌細胞647−V(DSMZ ACC 414)、頭頸部癌細胞Detroit 562(ATCC CCL−138)、乳癌細胞JIMT−1(DSMZ ACC 589)、乳癌細胞MDA−MB−231(ATCC HTB−26)、食道癌細胞OE33(ECACC 96070808)、グリア芽細胞腫U−87MG(ECACC 89081402)、神経芽細胞腫GOTO(JCRB JCRB0612)、骨髄腫RPMI 8226(ATCC CCL−155)、卵巣癌細胞SK−OV−3(ATCC HTB−77)、卵巣癌細胞OVMANA(JCRB JCRB1045)、大腸癌細胞RKO(ATCC CRL−2577)、大腸癌細胞HCT 116、膵癌細胞BxPC−3(ATCC CRL−1687)、前立腺癌細胞LNCaP clone FGC(ATCC CRL−1740)、肝細胞癌JHH−4(JCRB JCRB0435)、中皮腫NCI−H28(ATCC CRL−5820)、子宮頸癌細胞SiHa(ATCC HTB−35)、及び、胃癌細胞Kato III(RIKEN BRC RCB2088)である。
【0090】
培地として、RPMI−7951、HCC4006、DMS 53、NCI−H226、Caki−1、647−V、Detroit 562、JIMT−1、OE33、U−87MG、GOTO、RPMI8226、SK−OV−3、OVMANA、RKO、HCT 116、BxPC−3、LNCaP clone FGC、JHH−4、NCI−H28、及び、Kato IIIの場合はRPMI1640培地(シグマ アルドリッチ社、R8758)を、A549及びMDA−MB−231の場合はDMEM培地(シグマ アルドリッチ社、D6429)を、SiHaの場合はEMEM培地(ATCC 30−2003)をそれぞれ使用した。結果は、図5−1〜5−4に示される通りであった。ここでは、hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスによる効果は、図5−1及び5−2に分けて記載され、hIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物による効果は、図5−3及び5−4に分けて記載される。
【0091】
その結果、hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスが、試験した全てのヒトがん細胞において、細胞を死滅する能力を有していることが明らかとなった(図5−1及び5−2)。また、hIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物についても、試験した全てのヒトがん細胞において、細胞を死滅する能力を有していることが明らかとなった(図5−3及び5−4)。なお、図5−1から図5−4では、細胞株毎に左からMOI=0、1、10、100の順に腫瘍溶解性を示している。
【0092】
(実施例4:遺伝子組換えワクシニアウイルスが感染したがん細胞からの蛋白質産生)
hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスをがん細胞に感染させた際に、がん細胞から産生されるヒトIL−7蛋白質及びヒトIL−12蛋白質の濃度を測定した。さらに、hIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物についても同様に、がん細胞に感染させた際にがん細胞から産生されるヒトIL−7蛋白質及びヒトIL−12蛋白質の濃度を測定した。
【0093】
ヒトIL−7蛋白質の測定においては具体的にはまず、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリンストレプトマイシンを含むRPMI1640培地で1×10個/mLになるよう懸濁したSK−OV−3卵巣癌細胞を、96ウェルプレートに100μL播種した。一晩培養後、1)hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス、又は、2)hIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物をOpti−MEMで調製して、MOI=1.0になるように20μLずつ添加して感染させた。その後、CO濃度5%、37℃に設定したCOインキュベータにて24時間培養し、培養上清を回収した。培養上清中に含まれる蛋白質濃度を、表1に列記したELISAキット及びEnSpireを用いて測定した。
【0094】
ヒトIL−12蛋白質の測定においては、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリンストレプトマイシンを含むRPMI1640培地で1×10個/mLになるよう懸濁したSK−OV−3卵巣癌細胞を、96ウェルプレートに100μL播種した。一晩培養後、1)hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス、又は、2)hIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物をOpti−MEMで調製して、MOI=1.0になるように20μLずつ添加して感染させた。その後、CO濃度5%、37℃に設定したCOインキュベータにて48時間培養し、培養上清を回収した。培養上清中に含まれる蛋白質濃度を、表1に列記したELISAキット及びEnSpireを用いて測定した。
【0095】
表1:実施例4に使用したELISAキット
【表1】
【0096】
その結果、hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスを添加した細胞、及びhIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物を添加した細胞から、ヒトIL−12蛋白質及びヒトIL−7蛋白質が産生されることが明らかになった(表2−1及び2−2)。
【0097】
表2−1:培養上清中のヒトIL−12蛋白質濃度
【表2-1】
【0098】
表2−2:培養上清中のヒトIL−7蛋白質濃度
【表2-2】
【0099】
(実施例5:マウスIL−12をコードするポリヌクレオチドを搭載するトランスファーベクタープラスミドDNAの構築及びマウスIL−12をコードするポリヌクレオチドを搭載する遺伝子組換えワクシニアウイルスの構築)
(1)実施例1(2)に記載の方法に従い、トランスファーベクタープラスミドDNA pTN−VGF−SP−mIL12を構築した。実施例1(2)に記載の方法において、ヒトIL−12をコードするポリヌクレオチド(配列番号7)に代えて、マウスIL−12をコードするポリヌクレオチド(マウスIL−12サブユニットp40、内部リボソーム導入部位及びマウスIL−12サブユニットαを含むポリヌクレオチド。配列番号23)を用い、このポリヌクレオチド断片をpTN−VGF−SP−BFPにクローニングした。
(2)実施例1(3)に記載の方法に従い、トランスファーベクタープラスミドDNA pTN−O1L−SP−Luc2を構築した。実施例1(3)に記載の方法において、大腸菌LacZ遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号9)に代えて、ルシフェラーゼLuc2遺伝子をコードするポリヌクレオチド(Accession No.DQ188840の100番目から1752番目)を用い、このポリヌクレオチド断片をpTN−O1L−SP−BFPにクローニングした。
【0100】
(3)実施例2(2)の方法に従い、組換えウイルスを回収した。実施例2(2)の方法において、LC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−BFPと、pTN−O1L−SP−LacZに代えて実施例5(2)で作製したpTN−O1L−SP−Luc2とを用いた。回収したウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−Luc2と称する(以下、本ウイルスを、「対照ワクシニアウイルス」とも称する。)。
【0101】
(4)実施例2(3)の方法に従い、組換えウイルスを回収した。実施例2(3)の方法において、LC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−LacZに代えて実施例5(3)で作製したLC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−Luc2と、pTN−VGF−SP−IL12に代えて実施例5(1)で作製したpTN−VGF−SP−mIL12とを用いた。回収したウイルスを、LC16mO ΔSCR VGF−SP−mIL12/O1L−SP−Luc2と称する(以下、「mIL12搭載ワクシニアウイルス」とも称する。)。
【0102】
(5)実施例2(4−1)の方法に従い、組換えウイルスを回収した。実施例2(4−1)の方法において、LC16mO ΔSCR VGF−p7.5−DsRed/O1L−SP−BFPと、pTN−VGF−SP−IL12に代えて実施例5(1)で作製したpTN−VGF−SP−mIL12とを用いた。回収したウイルスを、LC16mO ΔSCR VGF−SP−mIL12/O1L−SP−BFPと称する。
さらに、実施例2(4−2)の方法に従い、組換えウイルスを回収した。実施例2(4−2)の方法において、LC16mO ΔSCR VGF−SP−IL12/O1L−SP−BFPに代えて上記で作製したLC16mO ΔSCR VGF−SP−mIL12/O1L−SP−BFPと、pTN−O1L−SP−IL7とを用いた。回収したウイルスをLC16mO ΔSCR VGF−SP−mIL12/O1L−SP−IL7と称する(以下、「mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス」とも称する。)。
【0103】
(実施例6:担癌ヒト化マウスにおける遺伝子組換えワクシニアウイルスの抗腫瘍効果)
hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスについて、ヒト癌細胞を移植したヒト化マウス(重度免疫不全マウスにヒト造血幹細胞を移入することで免疫系をヒト免疫細胞に置き換えたマウス)を用いて、生体内における抗腫瘍効果を評価した。
【0104】
具体的にはまず、ヒト化マウスを作製するために、X線照射装置を用いて2.0グレイの強度でX線照射したNOGマウス(NOD/Shi−scidIL−2RγKO Jic、雌、6週齢、日本クレア株式会社)に3×10個のヒト臍帯血由来造血幹細胞(ロンザ社)を尾静脈より注射して移入した。移入の13週後に、PBSで3×10個/mLに懸濁したヒト肺癌細胞NCI−H1373(ATCC CRL−5866)をマウスの右背側皮下に100μL注射して移植した。癌細胞移植後にノギスで腫瘍径を測定し、各群の腫瘍体積(短径mm×短径mm×長径mm×0.52)の平均値が37mmから47mmになるように群分けを行った。同日に、PBSで1.0×10PFU/mLの濃度に希釈したhIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスを、20μL腫瘍内に注射した(表中、「hIL12及びhIL7搭載VV投与群」とする。)。PBSを腫瘍内に20μL投与した群を溶媒(PBS)投与群とした。各マウスについて2〜4日毎にノギスで腫瘍径を測定し、上記式に基づいて腫瘍体積を算出して、ウイルス投与後14日の腫瘍体積変化率(%)を、個体毎に次式により算出した(n=7〜8):
ウイルス投与後14日の腫瘍体積変化率(%)=100(%)×ウイルス投与後14日の腫瘍体積(mm)/ウイルス投与日の腫瘍体積(mm)。
ウイルス投与後14日の腫瘍体積変化率(%)の各群の平均値が100を下回り、かつ、各群のウイルス投与後14日の腫瘍体積とウイルス投与日の腫瘍体積をPaired t−testにて検定し有意差(p値<0.05を有意差ありとする)が認められる場合に、腫瘍退縮効果ありと判定した。
なお本実施例では、hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス(2×10PFU/個体)に対する比較ウイルスとして、同じ注射量(20μL)及び希釈溶液(PBS)で、対照ワクシニアウイルス(2×10PFU/個体)、hIL12搭載ワクシニアウイルス(2×10PFU/個体)、又はhIL7搭載ワクシニアウイルス(2×10PFU/個体)を用いた(表中、それぞれ、「対照VV投与群」、「hIL12搭載VV投与群」、「hIL7搭載VV投与群」とする。)。
【0105】
その結果、hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスを投与した群では、ウイルス投与後14日における腫瘍体積変化率の平均値が100%未満を示した。さらに、ウイルス投与後14日での腫瘍体積とウイルス投与日の腫瘍体積をPaired t−testにて検定したところ有意差が認められたことから、腫瘍退縮効果ありと判定した(表3)。したがってhIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスの投与には腫瘍退縮効果があることが明らかになった。一方、hIL12搭載ワクシニアウイルス、又はhIL7搭載ワクシニアウイルスのいずれか一方を投与した群では、腫瘍退縮効果は確認されなかった(表3)。
【0106】
表3:hIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスの担癌ヒト化マウスにおける腫瘍体積変化率(%)
【表3】
【0107】
(実施例7:同系担癌マウスモデルにおける遺伝子組換えワクシニアウイルスの完全寛解導入効果)
【0108】
(1)mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスについて
mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスについて、同系のマウス癌細胞株を皮下移植したマウス(同系担癌マウス)を用いて生体における完全寛解導入効果を評価した。なお、ヒトIL−12はマウスの免疫細胞に対して反応しないことが知られているため、ヒトIL−12をコードするポリヌクレオチドに代えてマウスIL−12をコードするポリヌクレオチドを搭載した遺伝子組換えワクシニアウイルス(実施例5で作製)を用いた。
【0109】
具体的にはまず、C57BL/6Jマウス(雄、5−7週齢、日本チャールズリバー社)の右腹側に、PBSで4×10個/mLに調製したマウス肺癌細胞LL/2(LLC1)(ATCC CRL−1642)(以下、LLC1と称する。)50μLを皮下移植した。実施例6と同様の方法により腫瘍体積を算出し、各群の腫瘍体積の平均値が50mmから60mmになるように群分けを行った。翌日に、PBSで6.7×10PFU/mLの濃度に希釈したmIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスを12匹のマウスに対して30μL腫瘍内注射した(2×10PFU、表中、「mIL12及びhIL7搭載VV投与群」とする。)。同様のウイルスの腫瘍内注射は、初回投与の2日後、及び4日後にも実施した。ウイルスに代えてPBSを30μL腫瘍内投与した群を溶媒(PBS)投与群とした。
ノギスで腫瘍径を週に2回測定して腫瘍体積を算出した。最終的にウイルス初回投与の27日後の観察で、触診によって腫瘍が認められない場合を完全寛解と定義し、完全寛解を示した個体の数を計測した。試験期間中に群の平均腫瘍体積が1700mmを超えた群に関しては、動物倫理上の観点から安楽死させた。なお本実施例では、mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス(2×10PFU/回、3回投与)に対する比較ウイルスとして、同じ注射量(30μL/1回投与)及び希釈溶液(PBS)で、対照ワクシニアウイルス、mIL12搭載ワクシニアウイルス、又はhIL7搭載ワクシニアウイルス(それぞれ、2×10PFU/回、3回投与)を用いた(表中、それぞれ、「対照VV投与群」、「mIL12搭載VV投与群」、「hIL7搭載VV投与群」とする。)。
【0110】
その結果、mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスを投与した群では最終的に3例の個体が完全寛解に至った。一方、比較ウイルスを投与した群では完全寛解した個体は得られなかった(表4−1)。したがって、mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスの投与には、同系担癌マウスモデルにおいて、hIL7搭載ワクシニアウイルス又はmIL12搭載ワクシニアウイルスに比較してより高い完全寛解導入効果があることが明らかになった。
【0111】
表4−1:mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスの投与により完全寛解に至ったマウス個体数
【表4-1】
【0112】
(2)mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物について
mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの1対1混合物(以下、「mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物」)について、同系担癌マウスを用いて生体における完全寛解導入効果を評価した。
【0113】
(1)と同様に実施した。但し、8×10個/mLになるように懸濁したマウス肺癌細胞LLC1を移植した。さらに、6.7×10PFU/mLの濃度に希釈したmIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルス30μL(2×10PFU)に代えて、mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物(PBS中、それぞれのウイルスを6.7×10PFU/mLに希釈)30μL(各2×10PFUずつ/回、3回投与)を使用した(表中、「mIL12搭載VVとhIL7搭載VVとの混合物の投与群」とする。)。マウスの個体数は7匹使用した。比較ウイルスとして、対照ワクシニアウイルス(4×10PFU/回、3回投与)、mIL12搭載ワクシニアウイルスと対照ワクシニアウイルスの1対1混合物(各2×10PFUずつ/回、3回投与)、又はhIL7搭載ワクシニアウイルスと対照ワクシニアウイルスの1対1混合物(各2×10PFUずつ/回、3回投与)を、それぞれ30μLの注射量にて用いた(表中、それぞれ、「対照VV投与群」、「mIL12搭載VVと対照VVとの混合物の投与群」、「hIL7搭載VVと対照VVとの混合物の投与群」とする。)。
【0114】
その結果、mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物を投与した群では4例の個体が完全寛解に至った。mIL12搭載ワクシニアウイルスと対照ワクシニアウイルスとの混合物を投与した群では1例のみ完全寛解し、他の比較ウイルスを投与した群では完全寛解例はなかった(表4−2)。したがって、mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物は、同系担癌マウスモデルにおいて、hIL7搭載ワクシニアウイルス又はmIL12搭載ワクシニアウイルスのいずれか一方を含む混合物に比較してより高い完全寛解導入効果があることが明らかになった。
【0115】
表4−2:mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物の投与により完全寛解に至ったマウス個体数
【表4-2】
【0116】
(実施例8:同系担癌マウスモデルにおける遺伝子組換えワクシニアウイルスの獲得免疫効果(獲得免疫による腫瘍の拒絶効果))
(1)mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスについて:
mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスを処置した結果完全寛解したマウスに対して同癌細胞の再移植実験を行い、ウイルスによる獲得免疫効果を評価した。
【0117】
具体的にはまず、実施例7に従ってLLC1担癌マウスを作製し、これにmIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスを腫瘍内投与した(但し、ウイルスの腫瘍内注射は、初回投与の2日後、及び4日後の他に、1日後、3日後にも実施した(全5回)、表中、「mIL12及びhIL7搭載VV投与群」という。)。ウイルス最終投与の23日後に完全寛解したことを確認し、最終投与の51日後になお完全寛解状態が維持されている個体と、これらの個体に週齢を合わせた非ウイルス接種マウス(コントロール群)とに、PBSで8×10個/mLに懸濁したLLC1癌細胞を50μL皮下に移植した。実施例6に従って腫瘍体積を算出し、最終的にLLC1移植後14日目の観察で、目視及び触診により腫瘍形成が認められる個体の数を計測し、腫瘍が生着したマウスの個体数/癌細胞を接種したマウスの個体数の割合を求めた。本実施例では、コントロール群とウイルス投与群でFisherの直接確率検定を行い、有意差がある(5%未満)場合に獲得免疫効果ありと評価した。
【0118】
その結果、コントロール群では全10例中10例の全例で皮下腫瘍が形成されたが、mIL12及びhIL7搭載ウイルス投与群では全10例中6例において、再移植したLLC1癌細胞の腫瘍形成が目視でも触診でも認められなかった(表5−1)(P<0.05、Fisherの直接確率検定)。したがって本実施例により、mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスの投与による獲得免疫効果が確認された。
【0119】
表5−1:完全寛解したマウスにおける癌細胞移植試験の結果
【表5-1】
【0120】
(2)mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物について:
mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物を処置した結果完全寛解したマウスに対して同癌細胞の再移植実験を行い、獲得免疫効果を評価した。
【0121】
具体的には(1)と同様に実施した。但し、mIL12及びhIL7搭載ワクシニアウイルスの投与により完全寛解したマウスに代えて、実施例7(2)に従ってmIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物を投与(群分けの1日後、3日後、5日後、全3回)して完全寛解したマウスを使用した(表中、「mIL12搭載VVとhIL7搭載VVとの混合物の投与群」という。)。癌細胞の再移植は、ウイルス最終投与後74日後(完全寛解は最終投与の24日後に判定)に行った。
【0122】
その結果、癌細胞再移植14日後において、コントロール群では8例中全例で皮下腫瘍が形成されたが、mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物投与群では10例中8例において、再移植したLLC1癌細胞の腫瘍形成が目視でも触診でも認められなかった(表5−2)(P<0.05、Fisherの直接確率検定)。
したがって本実施例により、mIL12搭載ワクシニアウイルスとhIL7搭載ワクシニアウイルスとの混合物の投与による獲得免疫効果が確認された。
【0123】
表5−2:完全寛解したマウスにおける癌細胞移植試験の結果
【表5-2】
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のワクシニアウイルス、医薬組成物及び組合せキットは、各種がんの予防又は治療に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0125】
配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。
配列番号1〜6及び10〜15で示されるヌクレオチド配列はプライマーである。
配列番号7、8及び9で示される塩基配列は、それぞれ、ヒトIL−12遺伝子を含むポリヌクレオチド、ヒトIL−7遺伝子を含むポリヌクレオチド及び大腸菌LacZ遺伝子を含むポリヌクレオチドである。配列番号7において、14番目〜1000番目の塩基配列がIL−12のp40サブユニットをコードする領域に対応し、1606番目〜2367番目の塩基配列がIL−12のサブユニットαをコードする領域に対応する。
配列番号16及び17で示されるヌクレオチド配列は配列番号7〜9の各遺伝子コード領域に連結された制限酵素サイトである。
配列番号18で示されるアミノ酸配列は、4つのSCRドメインが欠失したB5R蛋白質である。
配列番号19、20で示される塩基配列は、LC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedの両末端ループ配列の配列である。
配列番号21で示される塩基配列はLC16mO VGF−SP−LucGFP/O1L−p7.5−DsRedの両末端ループ配列を除く配列である。
配列番号22で示される塩基配列はp7.5kプロモーターとDsRed断片とを含むDNA断片である。
配列番号23で示される塩基配列はマウスIL−12遺伝子を含むポリヌクレオチドである。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]