(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面に従って、本発明に係る塗工ダイの実施の形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は第1実施形態の2層塗工ダイを使用した塗工装置を示す概略図、
図2は、第1実施形態の2層塗工ダイと基材との関係を示す拡大断面図である。塗工装置は、下側ブロック12、上側ブロック13を有する2層塗工ダイ3と、2層塗工ダイ3と対向し、帯状の基材1がロール状に巻かれたバックロール2と、基材1を移送する際のテンションを調節する複数の調節ロール(不図示)と、塗液を乾燥させる乾燥炉(不図示)と、塗工後の基材1を巻き取る巻き取りロール(不図示)と、を有する。2層塗工ダイ3は、ダイベース4に着脱可能に取り付けられている。ダイベース4は、2層塗工ダイ3とバックロール2との相対位置を制御する一対のダイ駆動装置5を有する。下層用塗液タンク6には、例えばリチウムイオン電池セルに用いられる活物質を含有するスラリー状の塗液が貯留され、上層用塗液タンク9には、耐熱材としての機能を有する例えばセラミック材料を含有する塗液が貯留されている。
【0009】
塗液はそれぞれ定量タイプのポンプ7、10により、下層用供給配管8、上層用供給配管11を介し、2層塗工ダイ3の下側ブロック12、上側ブロック13にそれぞれ圧送される。2層塗工ダイ3から吐出された塗液は基材1の表面に塗工され、下層塗膜16、上層塗膜17を形成する。塗工装置は、コントロールユニットCU(不図示)を有する。コントロールユニットCUは、ロールの回転、ポンプの出力、一対のダイ駆動装置5の作動状態や乾燥炉の条件等を制御する。
【0010】
第1実施形態に係る2層塗工ダイ3では、
図2に示すように下側ブロック12、上側ブロック13の間に一体型シム21が挟まれている。下側ブロック12、一体型シム21、上側ブロック13とで形成されたスリット状の下層用吐出口14及び上層用吐出口15からは、それぞれ異なる種類の塗液が吐出され、バックロール2に巻かれた基材1上に、下層塗膜16と上層塗膜17が2層構造体として形成される。以下、下層用吐出口14及び上層用吐出口15を総称して吐出口とも記載する。
【0011】
図3は、第1実施形態の2層塗工ダイを示す分解斜視図、
図4は第1実施形態の2層塗工ダイの吐出口拡大図である。下側ブロック12は、上側ブロック13と対向する面において長手方向に延びる溝状の下層用マニホールド12bと、下側ブロック12の長手方向略中央に貫通形成され、下層用マニホールド12bと下層用供給配管8とを接続する下層用塗液供給口12aと、を有する。また、上側ブロック13は、下側ブロック12と対向する面において長手方向に延びる溝状の上層用マニホールド13bと、上側ブロック13の長手方向略中央に貫通形成され、上層用マニホールド13bと上層用供給配管11とを接続する上層用塗液供給口13aと、を有する。
【0012】
一体型シム21は、
図3及び
図4に示すように、上層用凹部21aと、下層用凹部21bと、両凹部21a、21bを区画する仕切り部21cとを有する一体成型品である。上層用凹部21a及び下層用凹部21bは、一体型シム21の表裏で略対向するように配置されている。すなわち、上層用凹部21a及び下層用凹部21bは、仕切り部21cに対して互いに反対側に配置されている。これにより、上層塗膜及び下層塗膜の長手方向における位置ずれを回避する。また、下層用凹部21bと上層用凹部21aは、エッチング処理にてパターン形成されている。これにより、加工に伴う応力によって凹部以外、特に仕切り部21cの変形を抑制し、安定した凹部形状を確保し、上層及び下層塗膜の膜厚を安定化する。
【0013】
また、第1実施形態では、下層用凹部21bの深さを、上層用凹部21aの深さより深く形成している。これは、上層用塗液の粘性より下層用塗液の粘性の方が高いため、塗液の流路体積を大きくし、ポンプ出力の負荷を低減するためである。ただし、上層及び下層の狙い膜厚比によっては、上層用凹部21aの深さは下層用凹部21bの深さと同じであっても、また、逆に上層用凹部21aの深さが下層用凹部21bの深さよりも深くても良い。
【0014】
一体型シム21では、上層用凹部底面21a1および下層用凹部底面21b1を有するプレート状の仕切り部21cが、上層用塗液と下層用塗液との仕切りの機能を果たしている。この仕切り部21cの厚さは、できるだけ薄い方が望ましい。仕切り部21cの厚みが厚すぎると、下層に上層を重ねる際に塗布膜の均一性が悪化するからである。
【0015】
また、第1実施形態では、
図4に示すように上層用凹部21aの長手方向の幅を下層用凹部21bの幅よりも大きく設定している。下層塗膜の長手方向端部を上層塗膜によって覆うためである。特に、リチウムイオン電池として使用する場合、下層に活物質を塗布すると共に上層に耐熱層を形成し、2層の塗膜が形成された基材1を更にロール状もしくは層状に重ねて使用する。このとき、下層塗膜が上層塗膜に覆われずに露出した状態で重ねると、短絡のおそれや、発熱に伴う電池性能の低下を招くおそれがある。これに対し、エッチング処理にてパターン形成された上層用凹部21a及び下層用凹部21bによって塗装膜の長手方向位置関係を規定することで、上層塗膜と下層塗膜との位置関係を極めて高い精度で規定でき、安定したリチウムイオン電池性能が得られる。
【0016】
尚、上層及び下層塗膜の塗布幅を一致させる場合や、逆に上層塗膜の塗布幅を下層塗膜の塗布幅よりも狭くする場合、あるいは下層塗膜幅の一部に上層塗膜を形成したい場合等、目的に応じて上層用凹部21aと下層用凹部21bの位置関係を適宜変更することが可能である。
【0017】
以上説明した第1実施形態における2層塗工ダイ3の作用効果を挙げる。
(1)長手方向(ここでは、基材1の巻き取り方向)に移動する帯状の基材1(被塗工基材)に塗液を吐出する2層塗工ダイ3(塗工ダイ)であって、第1塗液が供給される上層用マニホールド13b(第1マニホールド)、第2塗液が供給される下層用マニホールド12b(第2マニホールド)を備えた上側ブロック13(第1ブロック)と下側ブロック12(第2ブロック)、および上側ブロック13および下側ブロック12に挟まれ塗液が吐出される上層用吐出口15(第1吐出口)及び下層用吐出口14(第2吐出口)を形成する一体型シム21(シム)から構成され、一体型シム21の表面及び裏面に、上層用吐出口15及び下層用吐出口14に臨む縁部を除く周縁部を残して塗液の通過流路の一部を構成する上層用凹部21a(第1凹部)及び下層用凹部21b(第2凹部)が形成されている。つまり、上層用凹部21aが、一体型シム21の短手方向(塗工ダイの短手方向)の一方側に開口するとともに、上層用マニホールド13bと連通することで、第1塗液が吐出される上層用吐出口15が形成される。なお、一体型シム21の短手方向は、上側ブロック13、一体型シム21および下側ブロック12の積層方向(塗工ダイの積層方向)と、積層方向に直交する一体型シム21の長手方向(塗工ダイの長手方向)とに直交する方向である。また、下層用凹部21bが、上層用凹部21aと同じ方向に開口するとともに、下層用マニホールド12bと連通することで、第2塗液が吐出される下層用吐出口14が形成される。
すなわち、一体型シム21の表裏に上層用及び下層用凹部を形成したため、上層用及び下層用のそれぞれのシムを用いた場合に必要な位置合わせが不要となり、組み付け工数を削減し、かつ、上層塗膜と下層塗膜の位置精度を向上できる。
【0018】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
図5は第2実施形態の2層塗工ダイと基材との関係を示す拡大断面図である。第2実施形態に係る2層塗工ダイは、第1実施形態に係る2層塗工ダイと同じく、下側ブロック12、上側ブロック13の間に一体型シム21が挟まれ、配置されている。下側ブロック12、一体型シム21、上側ブロック13とで形成されたスリット状の下層用吐出口14及び上層用吐出口15からは2種類の塗液が吐出され、バックロール2に巻かれた基材1上に、下層塗膜16と上層塗膜17が2層構造体として形成される。
【0019】
図6は、第2実施形態の2層塗工ダイを示す分解斜視図、
図7は第2実施形態の2層塗工ダイを示す透視斜視図、
図8は第2実施形態の2層塗工ダイの吐出口拡大図である。
下側ブロック12は、上側ブロック13と対向する面において長手方向に延びる溝状の下層用マニホールド12bと、下側ブロック12の長手方向略中央に貫通形成され、下層用マニホールド12bと、下層用供給配管8とを接続する下層用塗液供給口12aと、を有する。また、上側ブロック13は、下側ブロック12と対向する面において長手方向に延びる溝状の上層用マニホールド13bと、上側ブロック13の長手方向略中央に貫通形成され上層用マニホールド13bと上層用供給配管11とを接続する上層用塗液供給口13aと、を有する。
【0020】
一体型シム21は、
図6、7及び
図8に示すように、上層用凹部21aと下層用凹部21bを有しており、一体型シム21の表裏で略対向している。この下層用凹部21bと上層用凹部21aのそれぞれの底面21b1、21a1には、
図8に示すように、軸方向断面が基部より先端部の断面積が小さい台形状の下層用凸部22、上層用凸部23が複数形成されている。該下層用凹部21bと上層用凹部21aおよび下層用凸部22、上層用凸部23は、エッチング処理にてパターン形成され、凸部となる表面領域及び凹部の周縁部となる表面領域以外を所定の薬液で溶解させ、凹部及び凸部を形成する。言い換えると、下層用凸部22は、下層用凹部21bの深さと略同じ高さを有し、上層用凸部23は、上層用凹部21aの深さと略同じ高さを有する。
【0021】
一体型シム21を上側ブロック13と下側ブロック12とで挟み込むと、下層用凸部22及び上層用凸部23の先端が各ブロックの端面と接触し、仕切り部21cを各ブロックの間で平坦に支持する支柱として機能する。なお、一体型シム21の厚みは、見やすくするために実際より厚く図示したが、実際の厚みは例えば凹部以外の厚みが1mm、上層用凹部21aの深さが0.2mm、下層用凹部21bの深さが0.3mm、仕切り部21cの厚みが0.5mmに設定している。
【0022】
以下、下層用凹部21bと上層用凹部21aに形成されている下層用凸部22および上層用凸部23についてさらに詳細に説明する。以下の説明にあたり、下層用凹部21b及び上層用凹部21aを総称して単に凹部と記載する場合がある。また、下層用凸部22及び上層用凸部23を総称して単に凸部と記載する場合がある。
図9は、第2実施形態の一体型シムの凹部内の凸部の配列を示す拡大平面図である。便宜上、
図9では、上層側の凹部を表示しているが、裏面側にも、同じように下層側の凹部が形成されている。ダイのスリットとして構成される一体型シム21の凹部は、吐出口に臨む縁部を除く3方の周縁部が一体型シム21の立壁により閉鎖されている。凹部には、複数個の凸部が横並びに複数列形成されており(
図9では4列)、吐出口に臨む縁部から所定距離aのところに、それぞれ間隔Ptを持って横方向第1列の凸部が形成されている。また、複数の凸列の列間は間隔Ppで千鳥配置としている。
【0023】
凹部開口端からの距離a、凸部間隔Pt及び凸列間隔Ppについては、変形を抑制する観点からは、小さいほうが望ましい。但し、凸部周辺部では塗液の流動が乱れるため、開口端からの距離aが短く、流動乱れが吐出直前まで解消されない場合、塗膜の幅方向に膜厚分布が生じてしまう。また、凸部間隔Ptが小さい場合には、隣同士の凸部の流動乱れが干渉する結果、より大きな流動乱れを形成するおそれがある。さらに、凸列間隔Ppが小さい場合には、ある列の凸部で乱れた塗液流動の乱れが次の列に至るまでに解消されないうちに次の列でさらに流動乱れの影響を受ける。よって、吐出口に向かうにしたがって、塗液の幅方向に亘る流速分布が悪化し、塗膜の幅方向に膜厚分布が生じてしまう。以上のような流動乱れの問題を解決すべく、好適な凹部開口端からの距離a、凸部間隔Pt及び凸列間隔Ppを設定することが望ましい。具体的には、流動乱れは、塗液の粘度塗液の体積流量、凸部の形状、大きさに影響を受けて変化するため、流体解析を行い、吐出状況が安定する結果から決定するのが望ましい。
【0024】
凸部形状は、先端部が細くなっており、軸直角方向の断面は、円形状である。すなわち、先端ほど直径Φが小さくなっている。ただし、下層用凸部22と上層用凸部23の軸直角断面形状は、円形以外にも様々な形状が適用できることを排除しない。
図12は、凸部の軸直角断面形状を表す具体例である。
図12に示すように、円形以外に、ひし形、雨滴形状、ラグビーボール形状等自由に選択できる。
【0025】
なお、表裏に形成する下層用凸部22および上層用凸部23は、一体型シム21の平面に垂直方向から見て同じ位置に重複形成することが望ましい。必ずしも下層用凸部22と上層用凸部23を完全に重複させて形成する必要はないが、仮に一方の凸部の後ろに他方の凸部がなく、塗液圧力差により変形が生じた場合、凸部とダイブロックの間に隙間が生じ、そこで生じた流動の乱れが、膜厚分布に影響を及ぼす可能性があるからである。また、凸部列は、必ずしも複数列設置する必要はなく、横並びに単列として、吐出口に臨む縁部から所定距離aのところに設置しても良い。但し、塗液圧力差が大きく、吐出口(凹部縁部)から見て上層側もしくは下層側の一方に凸列がない場合には、シムが一方に撓んでスリット径が狭まる結果、塗液の流出が阻害されるおそれがあるため、吐出口付近には上層側及び下層側の両方に凸列を配置することが望ましい。
【0026】
次に、一体型シム21の凹部内部に凸部を設けることの作用を説明する。
図10は第1実施形態における一体型シム21の凹部の変形解析結果を示す図、
図11は第2実施形態における一体型シム21の凹部の変形解析結果を示す図である。
図10、11中のLは仕切り部21cの厚みを表し、Wは仕切り部21cの長手方向の長さを表し、tは仕切り部21cの厚みを表す。また、P1は上層用凹部21a内を流れる塗液の圧力を表し、P2は下層用凹部21b内を流れる塗液の圧力を表し、ΔPはP2とP1との差圧を表す。また、ZはΔPが仕切り部21cに作用した際の厚み方向への変形量を表す。
【0027】
第1実施形態における一体型シム21の凹部は、吐出口に臨む縁部を除く3方の周縁部が一体型シム21の立壁により拘束されている。一方、吐出口すなわち凹部開口端は非拘束状態にあり、上層用塗液と下層用塗液に圧力差があった場合に仕切り部21cが変形する可能性がある。第1実施形態のように、仕切り部21cに凸部を形成しない場合には、凹部開口の中央で変形量が最大となり(例えば
図10の条件においては約65ミクロン)、仕切り部21cの厚みtの約13%に相当する量が変形することになる。これは、塗膜幅方向における膜厚が不安定化する原因となる。
【0028】
これに対し、第2実施形態では、一体型シム21の凹部に凸部を形成したため、凸部が仕切り部21cを平坦に支持する支柱として機能し、仕切り部21cの変形が抑制できる。例えば、
図11の条件では、仕切り部21cの変形量は仕切り部21cの厚みtの約0.01%となり、凸部を形成しない第1実施形態と比較した場合、十分に変形量が抑制され、凸部形成の効果が顕著に現れている事がわかる。すなわち、上層用塗液と下層用塗液に圧力差があった場合でも塗液吐出口である凹部開口端の変形が少ないため、長手方向のどの位置であっても塗液の吐出量が安定する。
【0029】
以上、詳細に述べたように、第1実施形態では、一体型シム21の表裏に塗液の流路を形成する凹部パターンを形成した一体型シム21を使用することによって、シムを2枚使用するダイの場合に必要となる上・下層用シムの位置合わせが不要となり、塗工精度の向上が図れる。
【0030】
また、一体型シム21の下層用凹部21bと上層用凹部21aに下層用凸部22、上層用凸部23を形成することにより、仕切り部21cを平坦に支持する支柱として機能させることができ、下層用塗液と上層用塗液との圧力差による凹部開口端のたわみ変形を抑制することで、塗液の幅方向の吐出量が安定する。
また、複数個の下層用凸部22、上層用凸部23を、シム凹部開口の縁部より所定距離aを有して、間隔Ptで列配置することによって、塗液出口での流動乱れを抑制することができ、塗液幅方向に亘り塗膜の膜厚分布が少ない均一な塗布が可能となる。
【0031】
さらに、下層用凸部22、上層用凸部23を凸列間隔Ppで横並びに複数列配置し、かつ表裏における下層用凸部22、上層用凸部23を同じ位置に重複形成することにより、吐出口に到るスリット内部での塗液の流動を安定させるとともに、仕切り部21cの撓みを抑制し、上層用および下層用のスリット流路を確保することが可能となる。これにより、安定した塗膜の形成が可能となる。
【0032】
[第3実施形態]
図13は第3実施形態の2層塗工ダイの吐出口拡大図である。一体型シム21は、上層用凹部21aと下層用凹部21bを有しており、シムの表裏で略対向しており、この下層用凹部21bと上層用凹部21aのそれぞれの底面21b1、21a1には、第2実施形態と同じように、下層用凸部22、上層用凸部23が複数形成されている。但し、凸部の軸方向断面を基部と先端部で同断面積にしている。すなわち、錐台ではなく、柱上の構造体として機械加工によるパターン形成がなされている。この点を除き、第2実施形態と同じ構成であるため、同じ構成には同一符号を付して、詳細説明は省略する。
第3実施形態では、凸部の形状が錐台状ではなく柱状になっているため、凸部周りでの塗液流体の乱れが一様となり、その乱れを解消することがより容易になる。そのため、凹部開口端からの距離a、凸部間隔Pt及び凸列間隔Ppが同じ場合、第2実施形態に比較して、塗液幅方向に亘る塗膜の膜厚分布がより少ない均一な塗布が可能となる。その他の作用効果に関しては、第2実施形態と同じである。
【0033】
[第4実施形態]
図14は第4実施形態の2層塗工ダイの吐出口拡大図である。一体型シム21は、上層用凹部21aと下層用凹部21bとを有しており、一体型シム21の表裏で略対向配置されている。但し、凸部は、片側の凹部にのみ形成して、その裏面の凹部には、凸部を設けていない。この点を除き、第2実施形態と同じ構成であるため、同じ構成には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。
なお、
図14では、説明の便宜上、上層用凹部21aにのみ上層用凸部23を形成して、下層用凹部21bには凸部を設けていない構成にしている。これは、下層用凹部21b側の塗液圧力が上層用凹部21a側の塗液圧力より高い場合を想定しており、仕切り部21cが押し付けられる方向にのみ支柱が存在すれば、仕切り部21cの変形を抑制できるからである。これとは逆に、上層用凹部21a側の塗液圧力が下層用凹部21b側の塗液圧力より高い場合には、下層用凹部21bに下層用凸部22を設け、上層用凹部21aには凸部を設けていない構成にすることが好ましい。
【0034】
第4実施形態では、凸部は、片側の凹部にのみ形成し、その裏面の凹部には、凸部を設けていないため、凸部を形成していない側では、塗液流れの乱れがなく塗液幅方向に亘る塗膜の膜厚分布がより少ない均一な塗布が可能となる。また、一体型シム21の構成を簡素化できるため、一体型シム21の形成コストを抑えることが可能である。その他の作用効果に関しては、第2実施形態と同じである。
【0035】
[第5実施形態]
図15は、第5実施形態の一体型シムの凹部内の凸部の配列を示す拡大平面図である。一体型シム21の凹部底面には、複数個の凸部が横並びに複数列形成されており、吐出口に臨む縁部から所定距離aのところに、それぞれ間隔Ptを持って第1列の凸部が形成されている。また、複数の凸列の列間は間隔Ppで第2実施形態と同じであるが、第2実施形態とは異なり、横方向の各列を千鳥配置とはしていない。すなわち、横方向の各列のn番目の凸部は、縦方向にも直線的に列をなして揃えている。この点を除き、第2実施形態と同じ構成であるため、同じ構成には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。尚、
図15では、説明の便宜上、上層用凹部21aに上層用凸部23を形成した図を示しているが、下層用凹部21bにも同様な構成にて下層用凸部を設けている。
第5実施形態では、縦横両方向に凸部が直線的に並んでいるため、凸部が形成された領域全般に亘って、凸部周りでの塗液流体の乱れおよびその解消が一様となり、塗液幅方向に亘る塗膜の膜厚分布がより少ない均一な塗布が可能となる。その他の作用効果に関しては、第2実施形態と同じである。
【0036】
[第6実施形態]
図16は、第6実施形態の一体型シムの凹部内の凸部の配列を示す拡大平面図である。一体型シム21の凹部底面には、複数の凸部が形成されている。但し、凹部の吐出口に臨む縁部から図示下方向に向かって、各列凸部の直径が異なるように形成している。この点を除き、第2実施形態と同じ構成であるため、同じ構成には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、
図16では、説明の便宜上、上層用凹部21aに上層用凸部23を形成した図を示しているが、下層用凹部21bにも同様な構成にて下層用凸部22を設けている。第6実施形態では、仕切り部21cへの圧力負担が大きくなるダイのマニホールド近傍、すなわち凹部の吐出口に臨む縁部から図示下方向に向かって、各列凸部の直径を順に大きくする。尚、圧力負担の大きい最下列あるいはその近傍の数列のみ、凸部の直径を大きくしても良い。
第6実施形態では、凹部の吐出口近傍の凸列の径を小さくする一方で、仕切り部21cへの圧力負担が大きくなるダイのマニホールド近傍の凸列の径を大きくすることによって、吐出口近傍の凸部周りの塗液流体の乱れを抑制できるとともに、仕切り部21cの撓みをより抑制できるため、塗液幅方向に亘る塗膜の膜厚分布がより少ない均一な塗布が可能となる。その他の作用効果に関しては、第2実施形態と同じである。
【0037】
[第7実施形態]
図17は、第7実施形態の一体型シムの凹部内の凸部の配列を示す拡大平面図である。一体型シム21の凹部底面には、複数の凸部が形成されている。凹部の吐出口に臨む縁部から図示下方向に向かって、各列凸部の直径が異なるように形成している点では、第6実施形態と同じ構成であるが、凸部各列を千鳥配置としている点が異なる。なお、
図17では、説明の便宜上、上層用凹部21aに上層用凸部23を形成した図を示しているが、下層用凹部21bにも同様な構成にて下層用凸部22を設けている。第7実施形態では、仕切り部21cへの圧力負担が大きくなるダイのマニホールド近傍、すなわち凹部の吐出口に臨む縁部から図示下方向に向かって、各列凸部の直径を順に大きくしている。尚、圧力負担の大きい最下列あるいはその近傍の数列のみ、凸部の直径を大きくしても良い。
第7実施形態では、凹部の吐出口近傍の凸列の径を小さくする一方で、仕切り部21cへの圧力負担が大きくなるダイのマニホールド近傍の凸列の径を大きくすることによって、吐出口近傍の凸部周りの塗液流体の乱れを抑制できるとともに、一体型シム21の仕切り部21cの撓みをより抑制できるため、塗液幅方向に亘る塗膜の膜厚分布がより少ない均一な塗布が可能となる。その他の作用効果に関しては、第2実施形態と同じである。
【0038】
[第8実施形態]
続いて、リチウムイオン電池の製造方法について説明する。
図18は、第8実施形態のリチウムイオン電池の製造方法を示すフローチャートである。なお、この実施形態では、リチウムイオン電池を例に挙げて説明するが、リチウムイオン電池と同様の構成を有する他の二次電池にも、この実施形態に係る製造方法を適用することができる。また、この実施形態では、負極シートに耐熱層を形成する場合について説明するが、正極シートに耐熱層を形成してもよい。
【0039】
まず、正極シート(第1電極シート)について、正極活物質、導電材およびバインダ(結着剤)を分散溶媒とともに混練し、正極活物質を含有するスラリー状の塗液を作成する(ステップS11)。正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)等が挙げられる。導電材としては、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。また、分散溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0040】
次に、正極集電体であるアルミ箔(第1被塗工基材)の表面に、塗工装置を用いて正極活物質を含有する塗液を塗工する(ステップS12)。続いて、塗液を塗工したアルミ箔を、乾燥炉を用いて乾燥させる(ステップS13)。次に、塗液を塗工したアルミ箔を切断した後、プレス機を用いてプレスして正極活物質により形成される正極活物質層(第1活物質層)を高密度化し(ステップS14)、正極シートを作成する。
【0041】
続いて、負極シート(第2電極シート)について、負極活物質(第2活物質)およびバインダ(結着剤)を分散溶媒とともに混練し、負極活物質を含有するスラリー状の塗液を作成する(ステップS21)。負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素等の炭素材料が挙げられる。バインダとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系ポリマーが、水系溶媒とともに用いられるか、または、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の有機バインダが、N−メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒とともに用いられる。また、バインダの他に、塗液粘度を調整するための増粘材を用いてもよい。増粘材としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)と併用して、カルボキシメチルセルロースが好適に用いられる。
【0042】
次に、負極集電体である銅箔(第2被塗工基材)の表面に、上述した第1〜第7実施形態で示した塗工ダイを有する塗工装置を用いて、負極活物質を含有する塗液と、耐熱樹脂等の耐熱材料を含有する塗液とを層状に重ねて同時に塗工する(ステップS22)。このとき、
図2に示した2層塗工ダイ3の下層用吐出口14から負極活物質を含有する塗液が吐出され、上層用吐出口15から耐熱材料を含有する塗液が吐出される。
【0043】
続いて、塗液を塗工した銅箔を、乾燥炉を用いて乾燥させる(ステップS23)。次に、塗液を塗工した銅箔を切断した後、プレス機を用いてプレスして負極活物質を高密度化し(ステップS24)、負極シートを作成する。
【0044】
ここで、負極活物質により形成される負極活物質層(第2活物質層)と耐熱材料により形成される耐熱層との断面構造を
図19に示す。
図19において、耐熱層は、負極活物質層よりも薄く形成されている。これにより、電池性能を落とすことなく安全性の向上が図られるとともに、材料費のコストアップを抑制することができる。
【0045】
続いて、電池セルの組立工程において、正極シートおよび負極シートを、絶縁性のセパレータを介して交互に積層し、電極巻回体として巻き取るとともに、必要な長さに切断する(ステップS31)。
【0046】
図20は、第8実施形態の電極巻回工程の一態様を示す断面図である。また、
図21は、第8実施形態の電極巻回体を示す斜視図である。
図20および
図21において、電極巻回体100は、正極シート110および負極シート120を、セパレータ130を介して交互に積層した構成を有している。また、正極シート110は、アルミ箔111とアルミ箔111に形成された正極活物質層112とを備え、負極シート120は、銅箔121と銅箔に形成された負極活物質層123および耐熱層122とを備える。
【0047】
図22は、第8実施形態の第2電極シートを塗工ダイの積層方向および塗工ダイの長手方向に直交する方向で切断した断面図である。
図22に示されるように、負極活物質層123の塗工幅(負極活物質層123を塗工ダイの長手方向から見た長さ)D1は、耐熱層122の塗工幅(耐熱層122を塗工ダイの長手方向から見た長さ)D2よりも短く、かつ、負極活物質層123の塗工幅両端部は、耐熱層122によって例えば1.5mm〜2.0mmのオーバーラップ厚で覆われている。これにより、正極活物質層と負極活物質層との短絡や、発熱に伴う電池性能の低下を防止することができる。
【0048】
なお、正極活物質層の塗工幅を負極活物質層の塗工幅よりも短くした場合には、耐熱層は必ずしも負極活物質層の両端部を含む塗工幅全域を覆う必要はなく、耐熱層の塗工幅が、正極活物質層の塗工幅を包含する長さになっていればよい。この場合であっても、正極活物質層と負極活物質層との短絡や、発熱に伴う電池性能の低下を防止することができる。
【0049】
また、負極活物質層の塗工幅と耐熱層の塗工幅とを同一にしてもよい。
図3に示したように、一体型シム21の表裏に上層用凹部21a及び下層用凹部21bを形成することにより、負極活物質層と耐熱層との位置精度を向上させて、正極活物質層と負極活物質層との短絡や、発熱に伴う電池性能の低下を防止することができる。
【0050】
続いて、電極巻回体の集電部を正・負極集電板と接合し(ステップS32)、電池缶内に挿入する(ステップS33)。
図23は、第8実施形態の電池缶を示す斜視図である。
図23において、電池缶200には、絶縁シート300が巻かれた電極巻回体100が挿入されている。
【0051】
続いて、電池缶と電池蓋とをレーザ溶接等で接合した後(ステップS34)、電池缶内に電解質溶液を注入し(ステップS35)、レーザ溶接等で注液栓を接合して、電池缶を封口する(ステップS36)。その後、充放電、エージング検査を行い(ステップS37)、リチウムイオン電池が完成する(ステップS38)。
【0052】
以上説明した第8実施形態におけるリチウムイオン電池の製造方法によれば、一体型シム21の表面および裏面に、上層用凹部21a及び下層用凹部21bが形成された2層塗工ダイ3を用いて負極シートを形成することにより、上層用および下層用のそれぞれのシムを用いた場合に必要な位置合わせが不要となり、組み付け工数を削減し、かつ、負極活物質層と耐熱層との位置精度を向上できる。
【0053】
以上、本発明を実現するための形態を、各実施形態に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0054】
また、本発明は、以下の各形態によっても実現される。
[形態1]
長手方向(ここでは、被塗工基材の巻き取り方向)に移動する帯状の被塗工基材に塗液を吐出する塗工ダイであって、
塗液が供給されるマニホールドを備えた第1ブロックと第2ブロック、および前記第1ブロックおよび第2ブロックに挟まれ塗液が吐出されるスリットを形成するシムから構成され、前記シムの表面及び裏面に、前記スリットの吐出口に臨む縁部を除く周縁部を残して塗液の通過流路の一部を構成する凹部が形成されている塗工ダイ。
[形態2]
形態1に記載の塗工ダイにおいて、
前記凹部の少なくとも塗液の低圧側の底面は、前記凹部の深さと略同じ高さを有する複数の凸部を有する塗工ダイ。
[形態3]
形態2に記載の塗工ダイにおいて、
前記複数の凸部は塗液の吐出口の幅方向に沿って列をなして配置される塗工ダイ。
[形態4]
形態3に記載の塗工ダイにおいて、
前記凸部は塗液の吐出口の幅方向に沿って複数列形成している塗工ダイ。
[形態5]
形態4に記載の塗工ダイにおいて、
前記凸部を形成する複数列のうち、塗液の吐出口に近い少なくとも第1列は他の列より塗液の流動方向から見て幅方向が小さい塗工ダイ。
[形態6]
形態4に記載の塗工ダイにおいて、
前記凸部を形成する複数列は各列間配置をずらして千鳥掛状に配置する塗工ダイ。
[形態7]
形態3に記載の塗工ダイにおいて、
前記凸部は少なくとも塗液の吐出口の縁部を除いた位置に配列する塗工ダイ。
[形態8]
形態1に記載の塗工ダイにおいて、
前記シムの表面及び裏面に形成された両凹部の底面は、前記凹部の深さと略同じ高さを有する複数の凸部を有し、
前記表面の凸部と前記裏面の凸部とは互いに背面位置に重複する塗工ダイ。
[形態9]
形態3に記載の塗工ダイにおいて、
前記凸部は基部より先端部の断面積を小さく形成する塗工ダイ。
[形態10]
形態3に記載の塗工ダイにおいて、
前記凸部の総断面積は吐出する塗液の粘性が低い側を高い側より大きく形成する塗工ダイ。
[形態11]
形態1に記載の塗工ダイにおいて、
前記凹部の深さは吐出する塗液の粘性が高い側を低い側より深く形成する塗工ダイ。
[形態12]
形態1から13いずれかに記載の塗工ダイを用いて塗液を基材の塗工対象面に塗工する塗工方法。
[形態13]
帯状の被塗工基材を搬送する複数のローラを有する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送される被塗工基材に塗工用の塗液を吐出する塗工ダイと、
前記塗工ダイを駆動するダイ駆動機構と、
前記塗液を貯蔵するタンクと、
前記塗液をダイに供給するポンプおよび配管と、
を有し、
前記塗工ダイは、前記塗液が供給されるマニホールドを備えた第1ブロックと第2ブロック、および前記第1ブロックおよび第2ブロックに挟まれ塗液が吐出されるスリットを形成するシムから構成され、前記シムの表面及び裏面に、前記スリットの吐出口に臨む縁部を除く周縁部を残して塗液の通過流路の一部を構成する凹部が形成されている塗工装置。