特許第6794528号(P6794528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794528生体分解性金属を用いたマイクロニードル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794528
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】生体分解性金属を用いたマイクロニードル
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20201119BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   A61K9/70
   A61K33/06
   A61K33/30
   A61P17/00
   A61P43/00 105
   A61M37/00 520
   A61M37/00 500
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-503883(P2019-503883)
(86)(22)【出願日】2017年4月7日
(65)【公表番号】特表2019-515949(P2019-515949A)
(43)【公表日】2019年6月13日
(86)【国際出願番号】KR2017003792
(87)【国際公開番号】WO2017176077
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2018年10月18日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0042690
(32)【優先日】2016年4月7日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2016-0162337
(32)【優先日】2016年11月30日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0044692
(32)【優先日】2017年4月6日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518358859
【氏名又は名称】ラブンピープル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LABNPEOPLE CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スンヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョンタク
(72)【発明者】
【氏名】チュ,ヒュンウク
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−531644(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105508(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0326447(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0014181(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/020633(WO,A1)
【文献】 特表2008−539010(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0065391(KR,A)
【文献】 特表2019−510618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/70
A61K 33/06
A61K 33/30
A61M 37/00
A61P 17/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分解性金属を用いた薄板型シート一体型マイクロニードルであって、
前記マイクロニードルは、生体分解性金属からなる薄板型シートの一部を曲げることにより作製されたマイクロニードルから構成され、
前記生体分解性金属は、化学式1で表され、皮下または上皮に挿入された後、吸収および分解され、マグネシウムまたは亜鉛金属イオンと分解産物を体内に放出するものであることを特徴とする、真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【化1】
(式中、a、bおよびcは、各成分の重量%であって、a+b+c=100重量%であり、90≦a≦100、0≦b≦10、0≦c≦10の範囲の中でaが最も大きく、XはCa、Fe、Mn、Si、Na、Zr、CeおよびPよりなる群から選択される1種以上である。)
【請求項2】
前記生体分解性金属は、不可避的不純物を含む純Mgであることを特徴とする、請求項1に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項3】
前記生体分解性金属は、2以上の金属相(phase)がガルバニック回路を生成することにより分解速度が加速化されることを特徴とする、請求項1に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項4】
前記マイクロニードルはMgCa相を含むことを特徴とする、請求項3に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項5】
前記マイクロニードルはMgZn相を含むことを特徴とする、請求項3に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項6】
前記マイクロニードルはCaMgZn相を含むことを特徴とする、請求項3に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項7】
前記マイクロニードルは、ガルバニック回路を形成させるために、金属の表面に異なる種類の第2金属がコートされたことを特徴とする、請求項1に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項8】
前記第2金属は、ナトリウム、カリウム、鉄、ニッケル、亜鉛、ガリウム、セレン、ストロンチウム、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、ケイ素、銀、金、マンガンおよびカルシウムよりなる群から選択される1種以上の金属であることを特徴とする、請求項7に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項9】
前記マイクロニードルは薬物がコートまたは担持されていることを特徴とする、請求項1に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【請求項10】
請求項1に記載の真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードルを含むことを特徴とするマイクロニードルパッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に薬物を送達するための装置に係り、より詳細には、生体分解性金属を用いたマイクロニードルおよびこれを含むマイクロニードルパッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薬物送達方式としては、経口投与を用いた方式、または針を用いて皮膚に穴を開けて薬物を送達する注射方式が使用されてきた。中でも、効果的な薬物送達方式といえる注射方式は、注射器の使用知識を保有した接種者が必要であり、薬物注入の際に患者に疼痛を与え、かつ、繰り返し接種の手間と注射器の管理不十分による注射針の再利用により患者に感染を引き起こすおそれがある。また、使用済みの注射器は、医療廃棄物であって、取り扱いに格別な注意が必要である。最近、かかる欠点を克服するために、皮膚に分布した痛覚神経を刺激せずに表皮を透過して薬物を送達することができる機器として、マイクロニードルが開発された。マイクロニードルは、1998年に米国ジョージア工科大学のプラウスニッツグループで半導体プロセス技術を利用してシリコン素子からマイクロニードルアレイを作り、薬物送達への応用可能性を提示したことを始めとして多くの研究が盛んに行われている。マイクロニードルは、皮膚への挿入の際に、マイクロニードルが曲がったり折れたりすることなく挿入できるように十分に高い物理的強度を維持しなければならないので、それに適した強度および形状の制御が可能な特性が求められる。このような特性を満足させるために、マイクロニードルの素材としてステンレス鋼(stainless steel)が使用されたが、小さな粒子(particle)が体に残った場合に炎症(inflammation)が発生するという問題点があり、ポリマー(PLA、PGA、生分解性共重合体(Copolymer))の場合は浸透(penetration)ができないという問題点があった。
【0003】
韓国公開特許第2016−0058261号は、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド−グリコリド共重合体(PLGA)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、アルギン酸(alginic acid)、ペクチンなどを素材にした水溶性マイクロニードルおよびその製造方法を開示しており、韓国登録特許第1622388号は、シリコンマイクロニードルスタンプおよびその製造方法を開示しており、韓国公開特許第2015−0121053号は、シリコン、二酸化ケイ素、セラミックス、金属(ステンレス鋼、チタン、ニッケル、モリブデン、クロム、コバルトなど)、および合成または天然の樹脂を素材にして日本脳炎ワクチン抗原をコートしたマイクロニードルを開示している。ところが、これらは前述したように炎症を誘発し或いは皮膚浸透が行われないという問題点がある。
【0004】
そこで、本発明者らは、上記問題点を解決するために努力した結果、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの生体分解性金属をマイクロニードルの素材として使用する場合、皮膚浸透が可能であるうえ、皮下に残った場合、独自のミネラル成分および水素ガスを供給してしわの改善および炎症反応の改善を図ることにより皮膚を改善させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の薬物送達機器の欠点である、疼痛の誘発、感染の懸念および医療廃棄物に対する解決のためのものであって、皮膚を貫通することができる物理的特性を有し、且つ皮膚改善のためのミネラルとして使用できる金属素材を含むマイクロニードルおよびこれを含むマイクロニードルパッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明は、生体分解性金属を用いた薄板型シート一体型マイクロニードルであって、前記マイクロニードルは、生体分解性金属からなる薄板型シートの一部を曲げることにより作製されたマイクロニードルから構成され、前記生体分解性金属は、化学式1で表され、皮下または上皮に挿入された後、吸収および分解され、マグネシウムまたは亜鉛金属イオンと分解産物を体内に放出するものであることを特徴とする、真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードル。
【化1】
(式中、a、bおよびcは、各成分の重量%であって、a+b+c=100重量%であり、90≦a≦100、0≦b≦10、0≦c≦10の範囲の中でaが最も大きく、XはCa、Fe、Mn、Si、Na、Zr、CeおよびPよりなる群から選択される1種以上である。)
【0008】
【化1】
【0009】
【0010】
式中、a、bおよびcは、各成分の重量%であって、a+b+c=100重量%であり、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦10の範囲の中でaまたはbが最も大きく、XはCa、Fe、Mn、Si、Na、Zr、CeおよびPよりなる群から選択される1種以上である。
【0013】
本発明において、前記生体分解性金属は、2以上の金属相(phase)がガルバニック回路を生成することにより分解速度が加速化されることを特徴とする。
【0014】
本発明において、前記マイクロニードルはMgCa相を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明において、前記マイクロニードルはMgZn相を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明において、前記マイクロニードルはCaMgZn相を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明において、前記マイクロニードルは、ガルバニック回路を形成させるために、金属の表面に異なる種類の第2金属がコートされたことを特徴とする。
【0018】
本発明において、前記第2金属は、ナトリウム、カリウム、鉄、ニッケル、亜鉛、ガリウム、セレン、ストロンチウム、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、ケイ素、銀、金、マンガンおよびカルシウムよりなる群から選択される1種以上の金属であることを特徴とする。
【0019】
本発明において、前記マイクロニードルは、薬物がコートまたは担持されていることを特徴とする。
【0020】
本発明において、前記マイクロニードルは薄板型であることを特徴とする。
【0021】
本発明の他の観点によれば、真皮緻密度および皮膚厚みを増加させるためのマイクロニードルを含むことを特徴とするマイクロニードルパッチを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の生体分解性金属を用いたマイクロニードルまたはマイクロニードルパッチは、金属特有の機械的特性のために、皮膚を貫通することができる十分な強度を実現することができ、皮下に挿入されて薬物を送達した後、それ自体のミネラルだけでなく、分解の際に発生する分解産物およびガスを皮膚に提供することにより、皮膚に膨張を与えてしわを改善させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】マグネシウム、亜鉛およびカルシウムの含有量による状態図である(丸囲み数字は実施例を意味する)。
図2】マグネシウム、亜鉛およびカルシウムの含有量による状態図である(丸囲み数字は実施例を意味する)。
図3】マグネシウム、亜鉛およびカルシウムの含有量による状態図である(丸囲み数字は実施例を意味する)。
【0024】
図4】生体分解性金属から構成されたシートに皮膚貫通および薬物担持のためのマイクロニードルを加工したマイクロニードルの展開図である。
【0025】
図5】加工されたマイクロニードルを皮膚貫通のために曲げ加工したマイクロニードル、薬物担持能力の向上のためにニードルの外側に溝を形成したニードル、および外側と内側に溝を形成したニードルの概略図である。
【0026】
図6】チップ状のマイクロニードルとマイクロニードルホルダーの概略図である。
【0027】
図7】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの試作品写真(A)およびその延伸特性を示す写真(B)である。
【0028】
図8】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルパッチの写真である(A:使用前、B:使用後)。
【0029】
図9】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルを皮膚に適用した写真である。
【0030】
図10】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの浸漬時間による水素発生量を測定する装置(ユージオメーター(Eudiometer))の概略図である。
【0031】
図11】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの浸漬時間による水素発生量を示すグラフである。
【0032】
図12】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの真皮緻密度に対する臨床試験の結果を示すグラフである。
【0033】
図13】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの皮膚厚みに対する臨床試験の結果を示すグラフである。
【0034】
図14】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの目元のしわに対する臨床試験の結果を示すグラフである。
【0035】
図15】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの目元のしわに対する臨床試験の結果を示す写真である。
【0036】
図16】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルパッチの高分子浸透能を評価した写真である。
【0037】
図17】本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルパッチの薬物浸透能を評価した写真である。
【0038】
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明では、Mg、Zn、Ca、Fe、Mn、Si、Na、Zr、CeおよびPよりなる群から選択される1種以上の金属を素材にしてマイクロニードルを製造する場合、皮膚浸透が可能であるうえ、皮下に残っても炎症を誘発せず、むしろ独自のミネラル成分を供給して皮膚を改善させることができることを確認しようとした。
【0040】
本発明では、マグネシウムまたは亜鉛を単独素材としたマイクロニードル、および前記金属にカルシウムなどの異なる種類の金属を混合した生体分解性金属を素材としたマイクロニードルを製造し、製造されたマイクロニードルの浸透能および皮膚改善能を測定した。その結果、マグネシウム、カルシウムまたは亜鉛を単独素材として製造されたマイクロニードル、および前記金属に異なる種類の金属が特定の範囲で混合された合金から製造されたマイクロニードルは、浸透能および皮膚改善能に優れることを確認することができた。
【0041】
したがって、本発明のある観点では、化学式1で表され、皮下または上皮に挿入された後、吸収および分解され、マグネシウムまたは亜鉛金属イオンと分解産物を体内に放出することを特徴とする、生体分解性金属を用いたマイクロニードルに関する。
【0042】
【化1】
【0043】
【0044】
式中、a、bおよびcは、各成分の重量%であって、a+b+c=100重量%であり、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦10の範囲の中でaまたはbが最も大きく、XはCa、Fe、Mn、Si、Na、Zr、CeおよびPよりなる群から選択される1種以上である。
【0045】
前記マイクロニードルは、マグネシウムまたは亜鉛を最も多く含むことが好ましい。従って、前記化学式1において、a、bおよびcは、各成分の重量%であって、a+b+c=100重量%であり、i)90≦a≦100、0≦b≦10、0≦c≦10またはii)0≦a≦10、90≦b≦100、0≦c≦10であり、XはCa、Fe、Mn、Si、Na、Zr、CeおよびPよりなる群から選択される1種以上であることを特徴とする。
【0046】
【0047】
通常、マイクロニードルは、薬物を皮膚に送達するための目的のために使用されるが、本発明に係るマイクロニードルは、通常のマイクロニードルとは異なり、薬物注入のために皮下または上皮に挿入された後、吸収および分解され、金属イオンおよび分解産物が体内に放出されることを特徴とする。
【0048】
本発明のマイクロニードルの素材として使用されるマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)などは、アルカリ土類金属系の生体分解性金属であって、下記数式のように水と反応して水素ガスを放出するメカニズムを有している。したがって、前記金属を素材としたマイクロニードルは、皮下での吸収、分解の際にイオンおよび分解産物を放出し、副産物により生成される水素ガスが皮下内で膨張効果を与えてしわ改善効果を誘導することができ、炎症による皮膚紅斑を減少させる効果、および太陽により引き起こされる皮膚損傷を防止することができる(YOON, K. S. et al, Histological study on the effect of electrolyzed reduced water-bathing on UVB radiation-induced skin injury in hairless mice. Biological and Pharmaceutical Bulletin 34, 1671-7, 2011; IGNACIO, R. M., et al, The balneotherapy effect of hydrogen reduced water on UVB-mediated skin injury in hairless mice. Molecular & Cellular Toxicology 9, 15-21, 2013)。
【0049】
マグネシウム(Mg)と亜鉛(Zn)が生体内に挿入されて生成される副産物であるZnOおよびMgClは、皮下に浸透せず、皮膚表面のみにあっても薬物の吸収を向上させる薬物送達強化剤(Drug delivery enhancer)としての役割が可能である。よって、生体分解性金属で構成されたニードルは、それ自体に担持している薬物送達効果をさらに上昇させることができる。
【0050】
Mg+2HO→Mg(OH)+H(gas)
【0051】
Ca+2HO→Ca(OH)+H(gas)
【0052】
Zn+HO→Zn(OH)+H(gas)
【0053】
本発明において、前記マイクロニードルは、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)などを単独素材として製造されるか、或いは皮下または上皮での分解速度を加速化させるために、すなわちガルバニック回路を生成させるために、2以上の金属を素材として製造できる。
【0054】
図1乃至図3はマグネシウム、亜鉛およびカルシウムの含量による状態図である。図1乃至図3に示すように、マグネシウム、亜鉛およびカルシウムは、その含有量に応じて様々な状態で存在することができるが、MgCa(C14_B)は、ガルバニック回路を生成して分解速度を増進させることができる。
【0055】
本発明において、前記マイクロニードルは、ガルバニック回路を生成するために、前記化学式1で表される生体分解性金属の表面に異なる種類の第2金属がコートされたことを特徴とする。前記第2金属は、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、鉄、ニッケル、亜鉛、ガリウム、セレン、ストロンチウム、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、ケイ素、銀、金、マンガン、カルシウムなどを例示することができるが、これに限定されるものではない。この時、前記鉄(Fe)を用いてマイクロニードルを製造するときは、ステンレスが含まれてはならない。
【0056】
本発明において、マイクロニードルは、レーザーカッティング、板金工程、キャスティング工法、エッチング工法など、業界の通常の溶解性マイクロニードルを製造する方法で製造でき、その製造方法は、特に制限されない。例えば、図4に示すように、生体分解性金属で構成された薄板型シート10を製造した後、レーザーカッティング機(マーキング機)を用いて一定の形状に成形し、しかる後に、治具プレスで曲げることにより、マイクロニードルを製造することができる。
【0057】
前記マイクロニードルは、薬物がコートまたは担持されていることを特徴とする。図5は加工されたマイクロニードルを皮膚貫通のために曲げ加工したマイクロニードル11、薬物担持能力の向上のためにニードルの外側に溝を形成したニードル12、および外側と内側に溝を形成したニードル13を示す概略図である。
【0058】
前記薬物は、病気の予防および治療のための薬物または遺伝子物質を含むことができ、スキンケアのためのEGF(Epidermal Growth Factor:上皮細胞成長因子)やヒアルロン酸(Hyaluronic acid)が担持できる。薬物担持のために製作された生体分解性金属を適用したマイクロニードルを浸漬する方式(dip coating)でコートすることができ、マイクロニードルの内部に薬物を担持することができるポケット(pocket)を成形して薬物を身体の内部に送達することができる。この時、ポケット方式を適用する場合、生体分解性金属の分解速度を調節して、マイクロニードルパッチに担持された薬物の一部は付着し次第放出し、残りの薬物は生体分解性金属のニードルに成形されたポケットが分解されながら薬物放出の速度を調節することもできる。
【0059】
本発明に係るマイクロニードルは、一体型に構成されるか、或いは、図6に示すようにマイクロニードル20とマイクロニードルホルダー21から構成され得る。マイクロニードルホルダー21の形態を活用したマイクロニードルは、単に皮膚に接近して薬物を注入するだけではなく、皮下にニードルが挿入された後にねじりを加えて人為的にニードルが皮下に残存するようにすることもできる。
【0060】
図7は本発明の一実施例によって製造されたマイクロニードルの試作品写真(A)およびその延伸特性を示す写真(B)である。
【0061】
【0062】
また、本発明は、前記マイクロニードルを含むことを特徴とするマイクロニードルパッチに関するものである。
【0063】
図8に示すように、前記マイクロニードルパッチは、マイクロニードルを皮膚に固定させるためのものであり、マイクロニードル、および前記マイクロニードルの反対面に形成されたパッチ部から構成されている。前記パッチ部の大きさ、形状および素材は特別な制限なく利用可能である。図8のBに示すように、使用されたマイクロニードルは皮下でイオン化されて変色するおそれがある。
【0064】
前記マイクロニードルシートに薬物を注入した後、皮膚に付着させ、圧力を加えると、マイクロニードルに生成されたスリット(slit)を介して薬物が皮下に注入できる。
【0065】
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎない。本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないのは、当業分野における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0067】
【0068】
実施例1乃至9:マグネシウムまたは亜鉛を主素材として製造したマイクロニードル
【0069】
下記表1の組成(重量%)でシートを作製した後、レーザーマーキング機(JTY FIBER MA20、JTYシステム)を用いてマイクロニードルを製造した(図9)。このとき、マイクロニードルの先端角は15°、30°および35°とし、ニードルの高さは0.5mm、1.0mmおよび1.5mmとした。
【0070】
【表1】
【0071】
*製造時に発生する不可避的不純物を含む純金属
【0072】
【0073】
実験例1:マイクロニードルの皮膚浸透能の評価
【0074】
実施例1乃至9で最も低い物理的特性(引張強度:平均212.09MPa、延伸率:11.32%、独自的に保有した素材の評価結果)を有する実施例1のマイクロニードルを対象として皮膚浸透能評価を行い、その結果を表2に示した。前記皮膚浸透能評価は、マイクロニードルが人体の目元およびブタの皮に浸透可能であるか、人体部位の中でも荒い手の甲の皮膚上に浸透してから1分以上浸透が維持されるか否かについて行った(図9参照)。
【0075】
【表2】
【0076】
【0077】
表2から、先端角が15乃至35°であり、ニードルの高さが0.5乃至1.5mmである実施例1のマイクロニードルは、皮膚浸透能に優れていることを確認することができ、カルシウムおよび亜鉛が追加されて引張強度が増大した実施例2乃至9のマイクロニードルも、皮膚浸透能に優れていることを推測することができた。
【0078】
【0079】
実験例2:マイクロニードルの分解速度の評価
【0080】
実施例2乃至7で製造されたマイクロニードルを、表3の組成を有するバイオミメティック溶液を含むユージオメーター(Eudiometer)に浸漬させた後(図10参照)、浸漬時間による水素発生量から分解速度を評価し、その結果を図11に示した。
【0081】
【表3】
【0082】
図11に示すように、MgCa相が生成されない実施例2乃至5のマイクロニードルは、安定的な分解による水素ガス発生量を示したが、MgCa相が生成される実施例6および7のマイクロニードルは、分解速度が上昇したことを確認することができた。
【0083】
【0084】
実施例10:マイクロニードルパッチの製造
【0085】
実施例1で製造されたマイクロニードルの針が生成された反対側の面に接着剤が塗布されているハイドロコロイドパッチを付着させ、マイクロニードルパッチを製造した。製造されたマイクロニードルパッチは包装および滅菌させた。
【0086】
【0087】
実験例3:マイクロニードルパッチの皮膚刺激評価
【0088】
実施例10で製造されたマイクロニードルパッチの人体皮膚に対する一次刺激の有無を確認するために、皮膚臨床研究センターに評価を依頼した。
【0089】
<試験方法>
【0090】
(1)試験物質の適用部位
【0091】
−試験対象者の背骨を除いた背中の平らな部位であって、着色や皮膚損傷のない部位
【0092】
【0093】
(2)試験物質の適用前
【0094】
−試験部位の写真撮影および試験対象者の皮膚条件に対するアンケート評価などを実施した。
【0095】
【0096】
(3)試験物質の適用
【0097】
−IQ chamberに20μLローディング(loading)し、皮膚に密着させた後、3Mマイクロポアテープ(Micropore Tape)で固定した。
【0098】
−試験物質を適用したIQ chamberは試験部位に24時間適用した。
【0099】
−24時間後、IQ chamberを除去し、1時間後に試験物質適用部位の写真撮影および試験者による皮膚反応の程度を評価した。
【0100】
−IQ chamberの除去24時間後に試験物質適用部位の写真撮影および試験者による皮膚反応の程度を評価した。
【0101】
【0102】
(4)試験対象者
【0103】
試験対象者30人は、平均年齢が満39.47歳であって、20代6人、30代5人、40代18人、50代1人から構成されており、性別は男性3人、女性27人であった。
【0104】
【0105】
<評価方法>
【0106】
(1)試験対象者の事前調査:試験対象者のアンケートで調査した。
【0107】
−皮膚状態:乾燥、中乾性、中性、中脂性、脂性、問題性皮膚の該当有無
【0108】
−状態:皮膚疾患、かゆみ、痛み、紅斑、化粧品副作用、医薬品副作用、光感性、アトピー経験有無
【0109】
(2)評価項目
【0110】
−試験者の肉眼評価:試験物質適用部位に現れる皮膚刺激の程度
【0111】
(3)皮膚刺激程度の評価方法
【0112】
−試験者の肉眼評価は、Frosch & Kligman、CTFA guidelineに基づいて皮膚反応度を読み取り、皮膚刺激指数で算出した。また、Draize方法を応用して生成された皮膚刺激指数表(表4)を参照して、試験物質の皮膚刺激程度を区分した。
【0113】
【0114】
【表4】
【0115】
【0116】
マイクロニードルパッチを24時間貼布し、貼布除去1時間、24時間後の皮膚反応を試験者が肉眼で評価して皮膚刺激指数および皮膚刺激程度を判定した結果、弱い刺激性と判定された(表5)。
【0117】
【0118】
【表5】
【0119】
【0120】
実験例4:マイクロニードルパッチの臨床評価
【0121】
実施例10で製造されたマイクロニードルパッチの臨床評価を行った。選定基準に符合し、選定除外基準に該当しない目元のしわを保有している満29〜55歳の女性20人の試験者にマイクロニードルパッチを適用した後、使用前と使用2週間後の真皮緻密度、皮膚厚みおよび目元のしわの変化有無を確認し、その結果の平均値を図12図14に示した。
【0122】
※選定基準
【0123】
1.目元のしわを保有している女性
【0124】
2.試験責任者、または試験責任者の委任を受けた者が試験対象者に通知すべき事項について十分に説明を聞いて自発的に同意書を作成し、署名した者
【0125】
3.皮膚疾患を含む急性、慢性身体疾患のない健常者
【0126】
4.試験期間中に追跡観察が可能な者
【0127】
【0128】
※選定除外基準
【0129】
1.精神的疾患のある者
【0130】
2.感染皮膚疾患のある者
【0131】
3.試験開始前3ヶ月内に免疫抑制剤の治療を受けた者
【0132】
4.試験開始前1ヶ月内に全身ステロイドまたは光線治療を受けた者
【0133】
5.試験部位に病変があって測定が困難な者
【0134】
【0135】
真皮緻密度、皮膚厚みおよび目元のしわの測定方法は、下記表6および表7のとおりである。
【0136】
【表6】
【0137】
【表7】
【0138】
※測定条件:恒温恒湿条件で測定
【0139】
【0140】
その結果、図12乃至図14に示すように、マイクロニードルパッチの使用前に比べて、使用2週後の真皮緻密度は8.67%増加し、皮膚厚みは5.31%増加し、目元のしわは2.11%減少した。また、図15の写真からも、目元のしわが明らかに減少したことを確認することができた。
【0141】
【0142】
実験例5:マイクロニードルシートの薬物送達評価
【0143】
5−1:高分子皮膚浸透能の評価
【0144】
実施例10で製造されたマイクロニードルパッチの高分子皮膚送達能を評価するために、口紅を皮膚に塗り、マイクロニードルパッチを付着させてから30分後、パッチを除去し、洗い出した。ちなみに、500da以上の分子量を有する物質は、皮膚によく吸収されない特性がある。
【0145】
その結果、図16に示すように、マイクロニードルパッチを付着させていない場合には、口紅が吸収されないため洗い流されたが、マイクロニードルパッチを付着させた場合には、口紅が皮膚に吸収されたことを確認することができた。
【0146】
【0147】
5−2:ブタの皮を用いた薬物送達評価
【0148】
実施例10で製造されたマイクロニードルパッチの薬物皮膚送達能を評価するために、薬物の代わりにメチレンブルー染料をマイクロニードルパッチに担持した後、ブタの皮に付着させた。付着後、5分間持続的な圧力を加えて染料の浸透を加速化させ、30分後にマイクロニードルパッチを除去し、しかる後に、ブタの皮の断面を切開した後、光学顕微鏡で薬物送達能を評価した。
【0149】
図17に示すように、マイクロニードルが浸透したところには、染料が濃く沈着していることを確認することができた。
【0150】
【0151】
以上で、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業分野における通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は、単に好適な実施様態に過ぎないもので、これにより本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は添付された請求項とそれらの等価物によって定義されると理解されるべきである。
【0152】
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明のマイクロニードルまたはマイクロニードルパッチは、治療のための薬物送達の他にも、ワクチン送達を用いた疾病の予防およびスキンケアのための薬物送達などに活用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17