特許第6794534号(P6794534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794534
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】一時的腐食防止層
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/28 20060101AFI20201119BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C23C2/28
   C23C2/12
【請求項の数】13
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-515886(P2019-515886)
(86)(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公表番号】特表2019-529713(P2019-529713A)
(43)【公表日】2019年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2017074042
(87)【国際公開番号】WO2018060082
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2019年3月22日
(31)【優先権主張番号】102016218957.3
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤンコ バニク
(72)【発明者】
【氏名】パトリック クーン
(72)【発明者】
【氏名】マヌエラ ルーテンベルク
(72)【発明者】
【氏名】アクセル シュローテン
(72)【発明者】
【氏名】サッシャ シコラ
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−293078(JP,A)
【文献】 特開平08−302490(JP,A)
【文献】 特表2011−514440(JP,A)
【文献】 国際公開第01/088068(WO,A1)
【文献】 特開昭54−075443(JP,A)
【文献】 特表2012−511101(JP,A)
【文献】 米国特許第03970569(US,A)
【文献】 特開平04−000358(JP,A)
【文献】 特表2017−534700(JP,A)
【文献】 特表2016−520162(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/069588(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/158961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Si保護コーティングでコーティングされた鉄鋼製品で作製されたコンポーネントを製造する方法であって、以下の工程:
Al−Si保護コーティングでコーティングされた鉄鋼製品からなる基板を準備する工程と、
前記Al−Si保護コーティングが前記鉄鋼製品のFeと部分的にのみ予合金化されるように、前記基板を温度Tに加熱する工程と、
前記予合金化された基板を室温まで冷却する工程と、
前記予合金化された基板の表面に脂肪酸エステルを含有する組成物からなる腐食防止オイルを塗布する工程と、
前記腐食防止オイルの塗布されている前記予合金化された基板を輸送する工程と、
前記腐食防止オイルの塗布されている前記予合金化された基板を温度Tに加熱する工程であって、前記基板を前記温度Tまで加熱する前に洗浄工程によって前記腐食防止オイルを前記基板から除去することなく、前記Al−Si保護コーティングが前記鉄鋼製品のFeと完全に合金化され、前記腐食防止オイルが残留物を残すことなく除去されるように、前記予合金化された基板を前記温度Tに加熱する工程と、
前記再加熱された基板を成形して前記コンポーネントを形成する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記温度Tは、850℃から1000℃の温度範囲に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腐食防止オイルの塗布されている前記予合金化された基板を前記温度Tに加熱する前記工程は、以下のプロセス工程:
前記基板を、850℃から1000℃の前記温度の範囲Tに加熱する工程と、
前記基板を前記温度範囲Tに保持する工程と、
前記基板を550℃から750℃の温度範囲Tに冷却する工程と
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Tに加熱する工程は、60秒から210秒である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記温度の範囲Tに保持する工程は、30秒から600秒である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記予合金化する工程の後の前記冷却する工程は、2K/秒から25K/秒の範囲の冷却速度において行われる、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記Tに加熱する工程は、保護的雰囲気下において行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記温度Tは、550℃から780℃の温度の範囲に対応する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物は、少なくとも98重量%の脂肪酸エステルを含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記脂肪酸エステルは、C〜C16化合物である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は、0.1〜2重量%の範囲の硫黄含有量を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は、150〜265mgKOH/gの範囲の鹸化価を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記腐食防止オイルは、0.5〜2g/m量において前記基板に塗布される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al−Si保護コーティングでコーティングされた鉄鋼製品で作製されたコンポーネントを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、鋼帯または鋼板などの鉄鋼製品は、腐食の影響から保護するために、溶融アルミニウムめっきによるAl−Si保護コーティングがなされる。
【0003】
所望のコンポーネントを形成するための成形プロセスの一部で当該保護コーティングの局所的剥離が生じないように、当該鉄鋼製品は、通常、基材の鉄と合金化される。これは、より長い焼きなまし時間を必要とする。
【0004】
予合金化されたAl−Si保護コーティングは、前処理されていないAl−Si保護コーティングと比べて、加熱時間が短縮されることは、独国特許公報第10 2008 006 771(B3)号から既知である。
【0005】
しかしながら、この方法において予合金化された鉄鋼製品の場合、保護コーティングが存在しているにもかかわらず、実用においては、例えば、貯蔵および/または輸送の際に天候が原因となって腐食(赤錆)が表面上に形成されることが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許公報第10 2008 006 771(B3)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明により対処される問題は、先行技術の欠点を克服する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この問題は、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。
【0009】
本発明によれば、Al−Si保護コーティングでコーティングされた鉄鋼製品で作製されたコンポーネントを製造する方法は、以下の工程:
Al−Si保護コーティングでコーティングされた鉄鋼製品からなる基板を準備する工程と、
前記Al−Si保護コーティングが前記鉄鋼製品のFeと部分的にのみ予合金化されるように、前記基板を温度Tに加熱する工程と、
前記予合金化された基板を室温まで冷却する工程と、
前記予合金化された基板の表面に脂肪酸エステルを含有する組成物からなる腐食防止オイルを塗布する工程と、
前記腐食防止オイルの塗布された前記予合金化された基板を輸送する工程と、
前記Al−Si保護コーティングが前記鉄鋼製品のFeと完全に合金化され、前記腐食防止オイルが残留物を残すことなく除去されるように、前記腐食防止オイルの塗布された前記予合金化された基板を温度Tに加熱する工程と、
前記コンポーネントを形成するために、前記再加熱された基板を成形する工程と
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
驚くべきことに、追加の一時的腐食防止と共に、腐食防止オイルの塗布されている当該予合金化された基板は、成形プロセスのための再加熱の後に、材料性能に対して不利な効果を有する不純物を残さず、結果として生産チェーン内の他のプロセス工程に悪影響を及ぼさないことが示された。
【0011】
さらに、驚くべきことに、腐食防止オイルの塗布されている当該予合金化された基板の、温度Tへの加熱を、著しく短縮することができることが示された。
【0012】
本発明による方法の場合、最初に、Al−Si保護コーティングでコーティングされた鉄鋼製品からなる基板が準備される。この場合、当該鉄鋼製品は、鋼板または鋼帯であり、それらは、Al−Si保護コーティングでコーティングされる。典型的には、当該鉄鋼製品は、溶融アルミニウムめっきによってコーティングされる。
【0013】
さらなるプロセス工程において、当該基板は、当該Al−Si保護コーティングが当該鉄鋼製品のFeと部分的にのみ予合金化されるように、温度Tに加熱される。この方法において完全には合金化されていない当該基板は、延性を有しており、これにより、当該保護コーティングを損傷することなく、得られた当該基板を分割または切断することが可能となる。
【0014】
温度Tへの当該基板の加熱は、この場合、バッチ式焼鈍炉、室炉、または連続式焼鈍炉において行うことができる。
【0015】
完全には合金化されていないこれらのタイプのAl−Si保護コーティングは、好ましくは、25〜50重量%のFe含有量を有する。特に好ましい変形例において、当該Al−Si保護コーティングは、10重量%のSi、25〜50重量%のFe、および残りの分のAlからなる。
【0016】
当該予合金化された基板を室温まで冷却した後、本発明によれば、脂肪酸エステルを含有する組成物からなる腐食防止オイルが当該基板に塗布される。当該予合金化された基板への腐食防止オイルの塗布は、例えば、腐食防止オイルを噴霧するかまたは腐食防止オイルを含む浴に浸漬することによって実施することができる。あるいは、当該腐食防止オイルの塗布は、ローラ塗工法によって実施される。
【0017】
あるいは、室温まで冷却する前に、一つのプロセス工程で当該基板を冷却し当該基板に一時的腐食防止を施すために、当該予合金化された基板を、腐食防止オイルを含む浴に浸漬することもできる。
【0018】
次いで、腐食防止オイルの塗布されている当該予合金化された基板が輸送される。本明細書において使用される輸送なる用語は、当該予合金化された基板を、第1の位置、例えば、製鉄業者など、から、第2の位置、例えば、鉄鋼成形加工会社の製造プラントまたは貯蔵設備など、に移動させる、全てのタイプの輸送プロセスを包含する。
【0019】
本発明に係る方法のさらなる工程において、Al−Si保護コーティングが鉄鋼製品のFeと完全に合金化され、腐食防止オイルが残留物を残すことなく除去されるように、当該腐食防止オイルの塗布されている当該予合金化された基板は、温度Tに加熱される。その結果として、切断された炭素鎖が表面上に残ることもなく、いかなる腐食性または毒性の燃焼残留物も当該加熱プロセスの際に発生しない。
【0020】
温度Tへの当該基板の加熱は、連続炉において、誘導的に、伝導的に、または熱放射によって実施することができる。
【0021】
次いで、当該再加熱された基板を成形して所望のコンポーネントを形成する。
【0022】
この場合、当該成形は、熱間成形であることが好ましい。その上、当該コンポーネントは、自動車の車体またはその一部であることが好ましい。
【0023】
好ましい実施形態によれば、当該温度Tは、850℃から1000℃の温度範囲に対応する。より好ましくは、当該温度Tは、880℃から930℃に対応する。
【0024】
別の好ましい実施形態によれば、腐食防止オイルの塗布されている当該予合金化された基板を温度Tに加熱する工程は、以下のプロセス工程:
当該基板を850℃から1000℃、好ましくは880℃から930℃の温度範囲Tに加熱する工程と、
当該基板を温度範囲Tに保持する工程と、
当該基板を550℃から780℃、好ましくは600℃から700℃の温度範囲Tに冷却する工程と
を含む。
【0025】
への当該加熱は、好ましくは60秒から210秒、好ましくは90秒から180秒である。当該基板の当該加熱は、この場合、基板の厚さに依存し、使用されるそれぞれの基板に関して個別に調節されなければならない。
【0026】
温度範囲Tでの保持は、60秒から600秒、好ましくは30秒から120秒であることが好ましい。
【0027】
当該冷却は、好ましくは、5K/秒から25K/秒の範囲、好ましくは10K/秒から20K/秒の範囲の冷却速度において実施される。
【0028】
その上、当該基板の当該冷却は、好ましくは、鋳型への当該基板の輸送の際に実施され、この場合、当該基板は、成形プロセスを受ける。
【0029】
当該鋳型と完全に確動係合した状態で硬化させるために、さらなる冷却が、当該成形プロセスの際に実施される。
【0030】
への加熱は、好ましくは、保護的雰囲気下において実施される。保護的雰囲気として、乾燥空気または保護ガス、例えば、窒素ガスなど、を使用することができる。
【0031】
別の好ましい実施形態において、当該温度Tは、550℃から750℃、好ましくは550℃から700℃の温度範囲に対応する。
【0032】
別の好ましい実施形態において、当該組成物は、少なくとも98重量%、好ましくは98.5〜99重量%の脂肪酸エステルを含有する。このタイプの組成物の場合、ガス燃焼残留物は、COおよびHOで構成されており、さらなる高価な対策なしに、排空気と共に炉室から排出することができる。
【0033】
特に好ましい実施形態において、当該脂肪酸エステルは、C〜C16化合物、より好ましくはC11〜C17化合物である。
【0034】
当該組成物は、好ましくは、1〜2重量%の範囲、より好ましくは1〜1.5重量%の範囲の硫黄含有量を有する。
【0035】
当該組成物は、好ましくは、150〜265mgKOH/gの範囲、より好ましくは165〜195mgKOH/gの範囲の鹸化価を有する。
【0036】
別の好ましい実施形態において、当該腐食防止オイルは、0.5〜2g/m、より好ましくは0.7〜1.7g/mの量において当該基板に塗布される。
【0037】
当該腐食防止オイルの組成物は、好ましくは、脂肪を含有しない。
【0038】
当該組成物は、特に好ましくは、いかなる添加剤または抑制剤も含有しない。
【0039】
特に好ましい実施形態によれば、当該腐食防止オイルは、温度Tに加熱される前は、洗浄工程によって、塗布されている基板から除去されない。結果として、中でも特に、当該プロセス内における複雑な洗浄装置を省くことが可能である。その上、プロセス全体は、洗浄工程を有する方法と比べてプロセス時間が短縮されるために、より費用効果が良くなるだけでなく、より環境にも優しくなる。
【0040】
さらなる態様によれば、本発明は、Al−Si保護コーティングでコーティングされた鉄鋼製品からなる予合金化された基板の貯蔵および/または輸送のための一時的腐食防止としての、脂肪酸エステルを含有する組成物からなる腐食防止オイルの使用に関する。
【実施例】
【0041】
本発明は、以下の実施例に基づいて、より詳細に説明される。
【0042】
1.5mmのシート厚を有する22MnB5品質の鋼板からなる基板に対し、溶融めっき法において25μm厚のAl−Si保護コーティングがなされる。当該保護コーティングは、10重量%のSiと、3重量%のFeと、残りの分のAlとを含有していた。Al−Si保護コーティングでコーティングされた当該鉄鋼製品を、予め組み立てられたプレートとして、循環空気炉において700℃で予合金化した。ここで、このようにして予合金化された当該鋼板のAl−Si保護コーティングは、30重量%のFeと、10重量%のSiと、残りの分のAlとを含有していた。次いで、0.5g/mの腐食防止オイルを、ローラ塗工法において塗布した。この場合、使用した腐食防止オイルは、天然オイルの脂肪酸誘導体であり、さらなる添加剤または抑制剤を含有していない。輸送および貯蔵の後、これらの鋼板を、天候から保護されていない場所でさらに処理した。さらなる処理の前に、表面の変化または腐食損傷は検出されなかった。さらなる処理のために、当該鋼板を熱間成形炉へと産業ロボットによって運搬し、冷却された鋳型において成形および硬化させることができる程度に925℃で2.5分間オーステナイト化した。熱間成形炉における測定は、炉雰囲気において、CO、HO、および窒素の形態において予め既に存在していた炉雰囲気以外のさらなる放出を示さなかった。塗布したオイルの残留物は、プレス硬化されたコンポーネント上でさえも検出できなかった。