特許第6794555号(P6794555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794555アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体、これを含む微生物、またはこれを用いるL−分岐鎖アミノ酸の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794555
(24)【登録日】2020年11月13日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体、これを含む微生物、またはこれを用いるL−分岐鎖アミノ酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20201119BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20201119BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20201119BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20201119BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20201119BHJP
   C12P 13/06 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C12N15/54
   C12N9/10ZNA
   C12N15/63 Z
   C12N1/21
   C12P13/08 D
   C12P13/06 B
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-538131(P2019-538131)
(86)(22)【出願日】2018年7月10日
(65)【公表番号】特表2020-505023(P2020-505023A)
(43)【公表日】2020年2月20日
(86)【国際出願番号】KR2018007821
(87)【国際公開番号】WO2019013532
(87)【国際公開日】20190117
【審査請求日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0087978
(32)【優先日】2017年7月11日
(33)【優先権主張国】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チョン,エ チ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ピョン チョル
(72)【発明者】
【氏名】リ,チ ヒョ
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョ ウォン
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/027709(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第106754807(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102286505(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるアセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニット(acetolactate synthase large subunit; IlvBタンパク質)において、96番目の位置のアミノ酸(トレオニン)がセリン(serine)、システイン(cysteine)またはアラニン(alanine)に置換されている、アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列の503番目のアミノ酸(トリプトファン)が、グルタミン(glutamine)にさらに置換された、請求項1に記載のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体。
【請求項3】
列番号28〜30のいずれか一つのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体。
【請求項4】
配列番号1のアミノ酸配列のアセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットにおいて、N端から503番目のアミノ酸(トリプトファン)が、グルタミン(glutamine)、アスパラギン(asparagine)、またはロイシン(leucine)に置換されている、アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体。
【請求項5】
配列番号31〜33のいずれか一つのアミノ酸配列からなる、請求項4に記載のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターが導入された、形質転換体。
【請求項9】
請求項1に記載のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体、又は前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、L−分岐鎖アミノ酸を生産する、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)の微生物。
【請求項10】
請求項4又は5に記載のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体;前記変異体をコードするポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む、L−分岐鎖アミノ酸を生産する、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)の微生物。
【請求項11】
前記コリネバクテリウム属微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項9又は10に記載のL−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物。
【請求項12】
前記L−分岐鎖アミノ酸が、L−バリン、またはL−ロイシンである、請求項9又は10に記載のL−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物。
【請求項13】
(a)請求項9又は10に記載のL−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物を培地で培養する段階;及び
(b)前記(a)段階の微生物または培養した培地からL−分岐鎖アミノ酸を回収する段階を含む、L−分岐鎖アミノ酸の生産方法。
【請求項14】
前記L−分岐鎖アミノ酸が、L−バリン、またはL−ロイシンである、請求項13に記載のL−分岐鎖アミノ酸の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規なアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体及びその用途に関するもので、具体的には、アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体、これを含む微生物、またはこれを用いるL−分岐鎖アミノ酸の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分岐鎖アミノ酸、すなわち、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシンは、個体においてタンパク質を増加させる作用をして、運動時のエネルギー源として重要な役割をすることが知られており、医薬品、食品などに使用されている。分岐鎖アミノ酸は、類似した生合成過程で同一の酵素を用いるため、1種類の分岐鎖アミノ酸を工業的な規模で発酵を介して製造するには困難である。分岐鎖アミノ酸の製造において、分岐鎖アミノ酸生合成の最初の酵素であるアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase)の役割が最も重要であるが、これに関する先行研究は主に小サブユニット(acetohydroxy acid synthase small subunit;IlvNタンパク質)の変異に起因するフィードバック解除に関連した研究がほとんどで(非特許文献1、特許文献1〜4)、関連研究が非常に不足している実情である。
【0003】
アセトヒドロキシ酸シンターゼは、2分子のピルビン酸からアセト乳酸(acetolactic acid)を生成する役割と、ケト酪酸(ketobutyric acid)及びピルビン酸からアセトヒドロキシ酪酸(2-aceto-2-hydroxy-butyrate)を生成する役割を果たす酵素である。前記アセトヒドロキシ酸シンターゼはピルビン酸(pyruvate)のデカルボキシル化(decarboyxlation)と他のピルビン酸分子との縮合反応を触媒し、バリン及びロイシンの前駆体であるアセト乳酸を生産したり、ピルビン酸のデカルボキシル化と2−ケト酪酸(2-ketobutyrate)との縮合反応を触媒してイソロイシンの前駆体であるアセトヒドロキシ酪酸を生成しうる。したがって、アセトヒドロキシ酸シンターゼは、L−分岐鎖アミノ酸生合成の初期過程に関与する非常に重要な酵素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国公開特許第2014−0335574号
【特許文献2】米国公開特許第2009−496475号
【特許文献3】米国公開特許第2006−303888号
【特許文献4】米国公開特許第2008−245610号
【特許文献5】韓国登録特許第10−1117022号
【特許文献6】韓国登録特許第10−0924065号
【特許文献7】韓国特許出願番号第10−2015−0119785号
【特許文献8】韓国公開特許第10−2017−0024653号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Protein Expr Purif. 2015 May;109:106-12.
【非特許文献2】Pearson et al(1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献3】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276−277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math(1981) 2:482
【非特許文献6】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National BiomedicalResearch Foundation, pp. 353−358(1979)
【非特許文献7】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献8】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7−11.8
【非特許文献9】Appl. Microbiol. Biothcenol.(1999)52:541-545
【非特許文献10】J. Biol. Chem. 1948. 176:367-388
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願者らは、L−分岐鎖アミノ酸を効果的に生産するために努力した結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼの変異体、具体的には、アセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットの変異体を開発した。そこで、前記変異体を含む微生物から高収率でL−分岐鎖アミノ酸を生産しうることを確認し、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の一つの目的は、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase)変異体を提供することにある。
【0008】
本出願の他の目的は、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター及び前記ベクターが導入された形質転換体を提供することにある。
【0009】
本出願の別の目的は、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体を含むか、前記ベクターが導入された、L−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物を提供することにある。
【0010】
本出願の別の目的は、前記L−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物を培地で培養する段階;及び前記微生物またはその培地からL−分岐鎖アミノ酸を回収する段階を含む、L−分岐鎖アミノ酸の生産方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0011】
本出願にかかるアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体は、微生物にその活性が導入される場合、前記微生物のL−分岐鎖アミノ酸生産能を著しく増加されるため、L−分岐鎖アミノ酸の大量生産に広く活用されうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記目的を達成するための本出願の一つの態様は、アセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニット(acetolactate synthase large subunit;IlvBタンパク質)のアミノ酸配列から96番目の位置のトレオニンがトレオニン以外の他のアミノ酸に置換されるか、アミノ酸配列から503番目の位置のトリプトファンがトリプトファン以外の他のアミノ酸に置換されるか、またはアミノ酸配列から96番目の位置のトレオニン及び503番目の位置のトリプトファンの両方が他のアミノ酸に置換された、アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体である。
【0013】
具体的には、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットは、配列番号1で記載されるアミノ酸配列を有してもよい。より具体的には、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体は、配列番号1で記載されたアミノ酸配列であり、そのN末端から96番目のトレオニン(threonine)または503番目のトリプトファン(tryptophan)が他のアミノ酸に置換されたもの、または96番目のトレオニンと503番目のトリプトファンの両方が他のアミノ酸に置換された、アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体であってもよい。
【0014】
本出願において、用語、「アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase)」は、L−分岐鎖アミノ酸の生合成に関与する酵素であり、L−分岐鎖アミノ酸生合成の最初の段階に関与する。具体的には、アセトヒドロキシ酸シンターゼはピルビン酸(pyruvate)のデカルボキシル化(decarboyxlation)と他のピルビン酸分子との縮合反応を触媒し、バリンの前駆体であるアセト乳酸を生産したり、ピルビン酸のデカルボキシル化と2−ケト酪酸(2-ketobutyrate)との縮合反応を触媒して、イソロイシンの前駆体であるアセトヒドロキシ酪酸を生成する。具体的には、アセト乳酸から出発して、アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ(acetohydroxy acid isomeroreductase)、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy acid dehydratase)、トランスアミナーゼB(transaminase B)によって触媒された反応を順次経ると、L−バリンが生合成される。また、アセト乳酸からアセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ(acetohydroxy acid isomeroreductase)、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy acid dehydratase)、2−イソプロピルリンゴ酸シンターゼ(2-isopropylmalate synthase)、イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ(isopropylmalate isomerase)、3−イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(3-isopropylmalate dehydrogenase)、トランスアミナーゼB(transaminase B)によって触媒された反応を順次経ると、L−ロイシンが生合成される。一方、アセトヒドロキシ酪酸から出発してアセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ(acetohydroxy acid isomeroreductase)、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy acid dehydratase)、トランスアミナーゼB(transaminase B)によって触媒された反応を順次経ると、L−イソロイシンが生合成される。したがって、L−分岐鎖アミノ酸の生合成経路において重要な酵素である。
【0015】
アセトヒドロキシ酸シンターゼはilvB及びilvN、2つの遺伝子によってコードされ、ilvB遺伝子はアセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニット(large subunit;IlvB)を、ilvN遺伝子はアセトヒドロキシ酸シンターゼの小サブユニット(small subunit;IlvN)をそれぞれコードする。
【0016】
本出願でアセトヒドロキシ酸シンターゼはコリネバクテリウム属微生物由来であってもよく、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来であってもよい。より具体的には、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットは、配列番号1で記載されたアミノ酸配列だけでなく、前記の配列と70%以上、具体的には、80%以上、より具体的には、85%以上、さらに具体的には、90%以上、よりさらに具体的には、95%以上の相同性または同一性を有し、IlvBタンパク質活性を有するタンパク質であれば、制限なく含まれてもよい。また、IlvBタンパク質活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、コドンの軸退性(degeneracy)により前記タンパク質を発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮して、コーディング領域から発現されるタンパク質のアミノ酸配列を変化させない範囲内でコーディング領域に多様な変形が行われることがあり、前記配列番号1のアミノ酸配列は、コードする塩基配列であれば制限なく含まれてもよいが、具体的には、配列番号2の塩基配列によってコードされたものであってもよい。
【0017】
本出願において、「アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体」とは、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質のアミノ酸配列上、1つまたはそれ以上のアミノ酸が変異(例えば、追加、除去、または置換)されたタンパク質を意味する。具体的には、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体は、アセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質が、本出願の変異によってその活性が野生型または変形前と比較して効率的に増加されたタンパク質である。本出願において変異は、一般的に酵素を改良するための方法として当業界に知られている公知の方法を制限なく用いてもよく、ここには、合理的な設計(rational design)と誘導進化(directed evolution)などの戦略がある。例えば、合理的な設計戦略には、特定位置のアミノ酸を位置指定突然変異導入(site-directed mutagenesisまたはsite-specific mutagensis)する方法などがあり、誘導進化の戦略には、ランダム変異(random mutagenesis)を起こす方法などがある。また、自然な突然変異によって、外部からの操作なしに突然変異されたものであってもよい。具体的には、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体は、分離されたものであってもよく、または組換えタンパク質であってもよく、非自然に発生したものであってもよい。しかし、これに制限されるものではない。
【0018】
本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体は、これに制限されるものではないが、具体的には、配列番号1で記載されたアミノ酸配列を有するIlvBタンパク質のN末端から96番目のトレオニン(threonine)または503番目のトリプトファン(tryptophan)が突然変異されたIlvBタンパク質であってもよく、または、これに制限されるものではないが、96番目のトレオニン及び503番目のトリプトファンが同時に他のアミノ酸に置換されたIlvBタンパク質であってもよい。その例として、前記96番目のトレオニンが、セリン(serine)、システイン(cystein)またはアラニン(alanine)に置換されたものであってもよく、前記503番目のトリプトファンが、グルタミン(glutamine)、アスパラギン(asparagine)またはロイシン(leucine)に置換されたIlvBタンパク質であってもよい。また、前記96番目または503番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されると同時に、アミノ酸配列のうち、一部の配列が欠失、変形、置換、または付加されたアミノ酸配列を有する場合も、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体と同一または相応する活性を示すなら、本出願のカテゴリに含まれるのは自明である。
【0019】
また、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体のカテゴリには、前記記述された変異を有するアセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットの変異体それ自体、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットの変異体を含むアセトヒドロキシ酸シンターゼ、またはアセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットの変異体と小サブユニットの両方を有するアセトヒドロキシ酸シンターゼが含まれるが、特にこれに制限されるものではない。
【0020】
本出願では、アセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質の96番目及び503番目のアミノ酸を様々な他のアミノ酸に置換して、L−分岐鎖アミノ酸の生産量が増加することを確認することにより、L−分岐鎖アミノ酸の生産増加と関連したアセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質の変異において、前記96番目及び503番目の位置が重要な位置であることを確認した。ただし、本出願の実施例で置換されたアミノ酸は、本出願の効果を示す代表的な一例示に過ぎないもので、本出願の範囲が実施例に限定されるものではなく、96番目トレオニンをトレオニン以外の他のアミノ酸に、503番目のトリプトファンをトリプトファン以外の他のアミノ酸に、または96番目のトレオニンと503番目のトリプトファンの両方を他のアミノ酸に置換する場合、実施例に記載された効果と対応する効果を期待できることは自明である。
【0021】
また、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体は、配列番号28〜33のいずれか1つで記載されるアミノ酸配列を有してもよいが、これに制限されない。また、本出願の変異を含み、実質的にアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体と同一または相応する活性を有する限り、前記配列と70%、80%、85%、90%、95%または99%以上の相同性または同一性を有するポリペプチドを制限なく含んでもよい。
【0022】
相同性(homology)及び同一性(identity)は、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列と関連する程度を意味し、パーセンテージで表示されてもよい。
【0023】
用語、相同性及び同一性は、多くの場合、相互交換的に用いられてもよい。
【0024】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準配列アルゴリズムによって決定され、用いられるプログラムによって確立されたデフォルトのギャップペナルティが一緒に利用されてもよい。実質的に、相同性(homologous)を有するか同一(identical)の配列は、一般的に、配列全体または全長と少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%の中間または高い厳しい条件(stringent conditions)でハイブリッドしてもよい。ハイブリッドするポリヌクレオチドでコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0025】
任意の2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が、相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、非特許文献2と同じデフォルトのパラメータを用いて「FASTA」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを利用して決定してもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite、非特許文献3)(バージョン5.0.0またはそれ以降のバージョン)で実行されるような、ニードルマン−ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定してもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic AcidsResearch 12: 387(1984))、BLASTP、BLASTN、FASTA( Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403(1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994、及び[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて、相同性、類似性または同一性を決定してもよい。
【0026】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、非特許文献5に公知されたように、例えば、非特許文献4のようなGAPコンピュータープログラムを利用して配列情報を比較することによって決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち、より短いものからのシンボルの全体数で同様の配列されたシンボル(つまり、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を割った値として定義する。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)一進法の比較マトリックス(同一性のための1及び非同一性のための0の値を含有する)及び非特許文献6に開示されたように、非特許文献7の加重された比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップでの各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含んでもよい。したがって、本願で用いられるものとして、用語、「相同性」または「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示す。
【0027】
本発現のもう一つの様態は、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体をコードするポリヌクレオチドである。
【0028】
本出願において、用語、「ポリヌクレオチド」は、DNA及びRNA分子を含む意味を有し、その基本構成単位であるヌクレオチドは、天然ヌクレオチドの他に、糖または塩基部位が変更された類似体(analogue)も含む。本出願において、前記ポリヌクレオチドは、細胞から分離されたポリヌクレオチドまたは人為的に合成されたポリヌクレオチドであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0029】
本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体をコードするポリヌクレオチドは、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列であれば、制限なく含まれてもよい。具体的には、前記ポリヌクレオチドはコドンの縮退性(degeneracy)により、または前記タンパク質を発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮して、タンパク質のアミノ酸配列を変化させない範囲内でコーディング領域に多様な変形が行われてもよい。前記配列番号28〜33のアミノ酸配列をコードする塩基配列であれば、制限なく含まれてもよいが、具体的には、例えば、配列番号34〜39のいずれか1つに記載される塩基配列を有するものであってもよい。また、本出願の変異を含み、実質的にアセトヒドロキシ酸シンターゼの活性を有する限り、コドンの縮退性により前記配列と70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%以上の相同性または同一性を有するポリヌクレオチドを制限なく含んでもよい。
【0030】
また、公知の遺伝子配列から調製されうるプローブ、例えば、前記塩基配列の全体または一部に対する相補配列と厳格な条件下でハイブリッド化して、配列番号28〜33のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする配列であれば、制限なく含まれてもよい。前記「厳しい条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。これらの条件は、文献(例えば、J. Sambrook et al., 同上)に具体的に記載されている。例えば、相同性または同一性が高い遺伝子同士、80%以上、具体的には、85%以上、より具体的には、90%以上、さらに具体的には、95%以上、よりさらに具体的には、97%以上、特に具体的には、99%以上の相同性または同一性を有する遺伝子同士でハイブリッド化する。そして、それより相同性または同一性が低い遺伝子同士はハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1×SSC 、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には、2回〜3回洗浄する条件を挙げられる。混成化は、たとえ混成化の厳密度によって塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することを要求する。前記用語、「相補的」は、互いに混成化が可能であるヌクレオチド塩基間の関係を記述するために用いられる。例えば、DNAに関すると、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願は、また、実質的に類似の核酸配列だけでなく、全体配列に相補的な単離された核酸断片を含んでもよい。具体的には、相同性または同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化段階を含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知してもよい。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者によって適切に調節されてもよい。ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳密度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は該当技術分野でよく知られている(非特許文献8参照)。
【0031】
本出願のもう一つの様態は、本出願の変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターである。
【0032】
本出願において、用語「ベクター」は、宿主細胞に塩基のクローニング及び/または転移のための任意の媒介物をいう。ベクターは他のDNA断片が結合して、結合された断片の複製をもたらす複製単位(replicon)であってもよい。「複製単位」とは、生体内でDNA複製の自己ユニットとして機能する、すなわち、 自分からの調節によって複製可能な、任意の遺伝的単位をいう。具体的には、天然状態であったり、組換えされた状態のプラスミド、ファージ、コスミド、染色体及びウイルスであってもよい。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、λMBL3、λMBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いてもよく、プラスミドベクターとして、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いてもよい。本出願で用いられてもよいベクターは特に制限されるものではなく、公知の発現ベクターを用いてもよい。また、前記ベクターにトランスポゾンまたは人工染色体を含んでもよい。
【0033】
本出願において、ベクターは、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に制限されないが、哺乳類細胞(例えば、ヒト、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、マウス細胞など)、植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞またはバクテリア細胞(例えば、大腸菌など)を含む真核または原核細胞で前記核酸分子を複製及び/または発現しうるベクターになってもよく、具体的には、宿主細胞で前記ポリヌクレオチドが発現できるように、適切なプロモーターに作動可能に連結され、少なくとも1つの選別マーカーを含むベクターになってもよい。
【0034】
また、前記において、用語、「作動可能に連結された」ものとは、本出願の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようなプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0035】
本出願のもう一つの態様は、本出願のベクターが導入された形質転換体である。
【0036】
本出願において、形質転換体は、特にこれに制限されないが、前記ベクターが導入され、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体を発現できれば、すべての形質転換が可能な細胞が含まれてもよい。具体的には、形質転換されたエシェリキア属、コリネバクテリウム属、ストレプトマイセス属、ブレビバクテリウム属、セラチア属、プロビデンシア属、サルモネラ・ティフィムリウムなどのバクテリア細胞;酵母細胞;ピキア・パストリスなどの菌類細胞;ショウジョウバエ、スポドプテラSf9細胞などの昆虫細胞;チャイニーズハムスター卵巣細胞(chinese hamster ovary cells;CHO)、SP2/0(マウス骨髄腫)、ヒトリンパ芽球(human lymphoblastoid)、COS、NSO(マウス骨髄腫)、293T、ボウメラノーマ細胞、HT−1080、ベビーハムスター腎臓細胞(baby hamster kidney cells;BHK)、ヒト胎児腎臓細胞(human embryonic kidney cells;HEK)、PERC.6(ヒト網膜細胞)などの動物細胞;または植物細胞になってもよい。
【0037】
本出願のもう一つの態様は、前記アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体を含むか、前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが導入された、L−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物である。
【0038】
本出願において、用語、「L−分岐鎖アミノ酸」とは、側鎖に分岐アルキル基があるアミノ酸をいい、バリン、ロイシン、及びイソロイシンを含む。具体的には、本出願において、前記L−分岐鎖アミノ酸は、L−バリンまたはL−ロイシンであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0039】
本出願において、前記「微生物」は、野生型微生物や、自然的または人為的に遺伝的変形が起きた微生物をすべて含み、外部遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性が強化されたり弱化されるなどの原因によって、特定メカニズムが弱化または増強された微生物をすべて含む概念である。本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体を発現できるすべての微生物を指し、具体的には、コリネバクテリウム属微生物であってもよい。より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)などであってもよい。よりさらに具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムであるが、これに限定されるものではない。
【0040】
本出願において、用語、「L−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物」とは、天然型または変異を介してL−分岐鎖アミノ酸の生産能を有している微生物を意味し、具体的には、非自然的に発生した(non-natural occuring)組換え微生物であってもよいが、これに制限されない。前記L−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物は、本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体を含むか、前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが導入されたもので、野生型微生物、天然型アセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質を含む微生物、アセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質を含む非変形微生物またはアセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質を含まない微生物に比べて、L−分岐鎖アミノ酸の生産能が大幅に増加されうる。
【0041】
本出願のもう一つの態様は、本出願のL−分岐鎖アミノ酸を生産する微生物を培養する段階;及び前記段階で収得される微生物または培地からL−分岐鎖アミノ酸を回収する段階を含む、L−分岐鎖アミノ酸の生産方法である。
【0042】
本出願において、用語、「培養」は、微生物を適当に人工的に調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願で、L−分岐鎖アミノ酸の生産能を有する微生物を用いたL−分岐鎖アミノ酸の生産方法は、当業界に広く知られている方法を用いて行ってもよい。具体的には、前記培養は、バッチ工程、注入バッチまたは反復注入バッチ工程(fed batch or repeated fed batch process)で連続式で培養してもよいが、これに制限されるものではない。
【0043】
培養に用いられる培地は、適切な方法で特定菌株の要件を満たす必要がある。例えば、コリネバクテリウム属菌株に対する培養培地は公知となっている(例えば、Manual of Methods for General Bacteriology American Society for Bacteriology、Washington D.C.、USA、1981)。用いられてもよい糖源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、でん粉、セルロースのような糖及び炭水化物、大豆油、ひまわり油、ヒマシ油、ココナッツ油のようなオイル及び脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれてもよい。これらの物質は、個別的に、または混合物として用いられてもよく、これに制限されるものではない。用いられてもよい窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆ミール、及び尿素または無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが含まれてもよい。窒素源も個別的に、または混合物として用いられてもよく、これに制限されるものではない。用いられてもよいリン源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウムを含有する塩が含まれてもよい。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有してもよい。さらに、アミノ酸及びビタミンのような必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に適切な前駆体が用いられてもよい。前記された原料は、培養過程で培養物に適切な方法によって回分式または連続式で添加されてもよい。しかし、これに制限されるものではない。
【0044】
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのような基礎化合物またはリン酸または硫酸のような酸化合物を適切な方法で用いて培養物のpHを調節してもよい。また、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために培養物内に酸素または酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。培養物の温度は、通常20℃〜45℃、具体的には、25℃〜40℃であってもよい。培養は、所望のL−分岐鎖アミノ酸の生成量が最大に得られるまで続けてもよい。このような目的で、培養時間は10〜160時間であってもよい。L−分岐鎖アミノ酸は、培養培地中に排出されるか、細胞の中に含まれていてもよい。しかし、これに制限されるものではない。
【0045】
微生物または培地からL−分岐鎖アミノ酸を回収する方法は当業界に知られている適合する方法を用いて行ってもよい。例えば、遠心分離、ろ過、結晶化、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外ろ過、透析法、分子体クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親和度クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLC及びこれらの方法を組合わせて用いてもよいが、これらの例に限定されるものではない。また、前記L−分岐鎖アミノ酸を回収する段階は、さらに精製段階を含んでもよく、当該分野に公知された適合する方法を用いて行ってもよい。
以下、本出願の実施例により詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
<実施例1>人工突然変異法を用いた変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase)をコードするDNAライブラリの製作
本実施例では、アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異体を取得するために、下記の方法で染色体内の1次交差挿入用のベクターライブラリを製作した。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067由来のアセトヒドロキシ酸シンターゼ(配列番号1)をコードするilvB遺伝子(配列番号2)を対象に、Error−prone PCR法を行い、塩基置換変異がランダムに導入されたilvB遺伝子変異体(2395bp)を獲得した。Error−prone PCRはGenemorphII Random Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて行い、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067のゲノムDNAを鋳型とし、プライマー1(配列番号3)及びプライマー2(配列番号4)を用いた。
【0047】
プライマー1(配列番号3):5’− AACCG GTATC GACAA TCCAA T -3’
プライマー2(配列番号4):5’− GGGTC TCTCC TTATG CCTC -3’
増幅された遺伝子断片内に変異が1kb当り0〜3.5個が導入されるようにし、PCR条件は、変性96℃、30秒;アニーリング53℃、30秒;及び重合反応72℃、2分を30回繰り返した。
【0048】
増幅された遺伝子断片をpCR2.1−TOPO TAクローニングキット(Invitrogen社)を用いてpCR2.1−TOPOベクター(以下、「pCR2.1」)に連結し、大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。形質転換されたコロニー20種を選別した後、プラスミドを獲得して塩基配列を分析した結果、2.1変異/kbの頻度で互いに異なる位置に変異が導入されたことを確認した。約20,000個の形質転換された大腸菌コロニーをとり、プラスミドを抽出し、これをpCR2.1−ilvB(mt)ライブラリと命名した。
【0049】
また、対照群として用いるための野生型のilvB遺伝子を有するプラスミドを製作した。プライマー1(配列番号3)及びプライマー2(配列番号4)を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067のゲノムDNAを鋳型とし、前記のような条件でPCRした。ポリメラーゼはPfuUltra High−Fidelity DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。製作されたプラスミドをpCR2.1−ilvB(WT)と命名した。
【0050】
<実施例2>ilvB欠損菌株の製作
KCCM11201P(特許文献5)菌株を親菌株にしてpCR2.1−ilvB(mt)ライブラリを導入するためのilvB欠損菌株を製作した。
【0051】
ilvB欠損ベクターを製作するために、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067の染色体を鋳型とし、プライマー3(配列番号5)及びプライマー4(配列番号6)、プライマー5(配列番号7)及びプライマー6(配列番号8)を用いてPCRを行った。
【0052】
プライマー3(配列番号5):5’− GCGTC TAGAG ACTTG CACGA GGAAA CG−3’
プライマー4(配列番号6):5’− CAGCC AAGTC CCTCA GAATT GATGT AGCAA TTATC C−3’
プライマー5(配列番号7):5’− GGATA ATTGC TACAT CAATT CTGAG GGACT TGGCT G−3’
プライマー6(配列番号8):5’− GCGTC TAGAA CCACA GAGTC TGGAG CC−3’
PCR条件は、95℃で5分間変性した後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。
【0053】
その結果、ilvB遺伝子プロモーターの前部分とilvB遺伝子の3’末端をそれぞれ含む731bpの配列番号9のDNA断片と712bpの配列番号10のDNA断片を収得した。
【0054】
増幅された配列番号9と配列番号10を鋳型とし、プライマー3(配列番号5)及びプライマー6(配列番号8)でPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間変性した後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で60秒の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。
【0055】
その結果、ilvB遺伝子プロモーターの前部分を含むDNA断片と3’末端を含むDNA断片が連結された1407bpの配列番号11のDNA断片(以下、ilvB断片)が増幅された。
【0056】
コリネバクテリウム・グルタミカム内で複製が不可能なpDZベクター(特許文献6)と前記増幅されたilvB断片を制限酵素XbaIで処理した後、DNA接合酵素を用いて連結した後、クローニングすることによりプラスミドを獲得し、これをpDZ−ilvBと命名した。
【0057】
pDZ−ilvBをコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに電気パルス法(非特許文献9)でそれぞれ形質転換した後、カナマイシン(kanamycin)25mg/l及びL−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシンをそれぞれ2mMずつ含有した選別培地から形質転換菌株を獲得した。2次組換え過程(cross−over)でゲノム上に挿入されたilvB断片によってilvB遺伝子が不活性化された菌株を取得し、これをKCCM11201PilvBと命名した。
【0058】
<実施例3>アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異菌株のライブラリ製作及びL−アミノ酸の生産能の増加菌株の選別
前記製作したKCCM11201PilvB菌株を親菌株にして前記製作されたpCR2.1−ilvB(mt)ライブラリを相同染色体組換えによって形質転換した。これをカナマイシン(25mg/L)が含まれた複合平板培地に塗抹して約10,000個のコロニーを確保し、各コロニーをKCCM11201PilvB/pCR2.1−ilvB(mt)−1から KCCM11201PilvB/pCR2.1−ilvB(mt)−10000までと命名した。
【0059】
また、前記製作したpCR2.1−ilvB(WT)のベクターをKCCM11201PilvB菌株に形質転換して対照群菌株を製作し、KCCM11201PilvB/pCR2.1−ilvB(WT)と命名した。
【0060】
<複合平板培地(pH 7.0)>
ブドウ糖10g、ペプトン10g、牛肉抽出物5g、酵母抽出物5g、脳心臓浸出液(Brain Heart Infusion)18.5g、NaCl 2.5g、尿素2g、ソルビトール(sorbitol)91g、寒天20g(蒸留水1L基準)
確保された約10,000個のコロニーをそれぞれ300μlの選別培地に接種して、96ディープウェルプレートで32℃、1000rpmで約24時間培養した。培養液の中に生産されたL−アミノ酸の生産量を分析するためにニンヒドリン方法を用いた(非特許文献10)。培養が完了した後、培養上澄み液10μlとニンヒドリン反応溶液190μlとを65℃で30分間反応させた後、波長570nmで分光光度計(spectrophotometer)で吸光度を測定した。対照群KCCM11201PilvB/pCR2.1−ilvB(WT)菌株の吸光度と比較して10%以上増加した吸光度を示す変異菌株のコロニー約213個を選別した。その他のコロニーは対照区に比べて類似または減少した吸光度を示した。
【0061】
<選別培地(pH 8.0)>
ブドウ糖10g、硫酸アンモニウム5.5g、硫酸マグネシウム7水塩1.2g、第1リン酸カリウム 0.8 g、第2リン酸カリウム 16.4g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド2000μg( 蒸留水1L基準 )
選別された213個の菌株は、前記と同様の方法でニンヒドリン反応を繰り返して行い、KCCM11201PilvB/pCR2.1−ilvB(WT)菌株に比べてL−アミノ酸生産能が向上された菌株の上位60種を選別した。
【0062】
<実施例4>アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異菌株ライブラリ選別株のL−バリン生産能の確認
前記実施例3で選別した60種の菌株のL−バリン生産能を比較するために、以下のような方法で培養し、培養液の成分を分析した。
【0063】
生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各菌株を1白金耳を接種して、30℃、72時間、200rpmで振とう培養した。HPLCを用いてL−バリンの濃度を分析した。
【0064】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖100g、硫酸アンモニウム40g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids)5g、尿素3g、第2リン酸カリウム1g、硫酸マグネシウム7水塩0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド3000μg、炭酸カルシウム30(蒸留水1リットルあたり)
60種の菌株のうち、L−バリン濃度が向上された菌株2種を選別して、前記培養及び分析を繰り返して行い、分析されたL−バリンの濃度は下記表1の通りである。残り58種の菌株は、L−バリン濃度がむしろ下がる結果を示した。
【0065】
【表1】
【0066】
L−バリン濃度分析の結果、前記2種の選別株のL−バリンの収率が対照群KCCM11201PilvB/pCR2.1−ilvB(WT)菌株に比べて最大20.7%増加したことを確認した。
【0067】
<実施例5>アセトヒドロキシ酸シンターゼの変異菌株ライブラリ選別株のilvB遺伝子変異の確認
前記実施例4で選別した2種菌株のアセトヒドロキシ酸シンターゼに導入されたランダム変異を確認するために、ilvB遺伝子の塩基配列を分析した。塩基配列を決定するためにプライマー7(配列番号12)及びプライマー8(配列番号13)を用いてPCRを行った。
プライマー7(配列番号12):5’− CGCTT GATAA TACGC ATG −3’
プライマー8(配列番号13):5’− GAACA TACCT GATAC GCG −3’
【0068】
確保されたそれぞれの変異型ilvB遺伝子断片の塩基配列分析を通じて、配列番号2の野生型ilvB遺伝子の塩基配列と比較して変異型ilvB遺伝子の塩基配列を確認した。これにより、変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質のアミノ酸配列を確認した。選別した菌株2種の変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質の情報は、下記の表2の通りである。
【0069】
【表2】
【0070】
<実施例6>アセトヒドロキシ酸シンターゼ変異導入用ベクターの製作
前記実施例5で確認した変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質の効果を確認するために、これを染色体上に導入しうるベクターを製作した。
【0071】
確認された塩基配列に基づいて、5’末端にXbaI制限酵素部位を挿入したプライマー9(配列番号14)とプライマー10(配列番号15)、及びプライマー11(配列番号16)とプライマー12(配列番号17)を合成した。このプライマー対を用いて、前記選別された2種の染色体をそれぞれ鋳型としてPCRを行い、2種の変異型ilvB遺伝子断片を増幅した。PCR条件は、94℃で5分間変性した後、94℃で30秒の変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で2分の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。
プライマー9(配列番号14):5’− CGCTC TAGAC AAGCA GGTTG AGGTT CC −3’
プライマー10(配列番号15):5’− CGCTC TAGAC ACGAG GTTGA ATGCG CG −3’
プライマー11(配列番号16):5’− CGCTC TAGAC CCTCG ACAAC ACTCA CC −3’
プライマー12(配列番号17):5’− CGCTC TAGAT GCCAT CAAGG TGGTG AC −3’
【0072】
PCRで増幅した2種の遺伝子断片を制限酵素XbaIで処理して、それぞれのDNA切片を獲得した後、これを制限酵素XbaI末端を有する染色体導入用pDZベクターに連結した後、大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。
【0073】
PCRにより目的の遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドのilvB遺伝子に挿入された変異に応じて、それぞれpDZ−ilvB(W503Q)、pDZ−ilvB (T96S)と命名した。
【0074】
<実施例7>KCCM11201P由来のアセトヒドロキシ酸シンターゼ変異導入菌株の製作及びL−バリン生産能の比較
前記実施例6で製造した新規変異の導入ベクター2種をそれぞれ2段階相同染色体組換えによりL−バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに形質転換させた。その後、染色体上のilvB変異が導入された菌株を塩基配列分析によって選別し、前記ilvB変異が導入された菌株をそれぞれKCCM11201P::ilvB(W503Q)及びKCCM11201P::ilvB(T96S)と命名した。そして、前記変異導入ベクターの中で、pDZ−ilvB(T96S)を前記製作した菌株KCCM11201P::ilvB(W503Q)に形質転換させた。その後、染色体上のilvB変異2種の両方が導入された菌株をKCCM11201P::ilvB(W503Q/ T96S)と命名した。
【0075】
実施例4と同様の方法で培養して、そこからL−バリンの濃度を分析した(表3)。
【0076】
【表3】
【0077】
2種の新規変異導入菌株(KCCM11201P::ilvB(W503Q)、KCCM11201P::ilvB(T96S))は、親菌株に比べてL−バリン生産能が最大17.8%増加し、2種の変異両方が導入された菌株(KCCM11201P::ilvB(W503Q/T96S))は、親菌株に比べてL−バリン生産能が21.4%増加した。
【0078】
そこで、本発明のアセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットの変異体は、L−分岐鎖アミノ酸の生合成経路の最初の酵素であるため、L−バリンだけでなく、L−イソロイシン及びL−ロイシン生産能の増加にも影響を与えることが予想される。
【0079】
本発明者らは、前記L−バリンが向上された菌株であるKCCM11201P::ilvB(W503Q)及びKCCM11201P::ilvB(T96S)をコリネバクテリウム・グルタミカムKCJ−0793及びKCJ−0796と命名し、韓国微生物保存センター(KCCM)に2016年1月25日付で寄託し、受託番号KCCM11809P及びKCCM11810Pを与えられた。
【0080】
<実施例8>変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼをコードするDNAが含まれたL−バリン生合成過発現ベクターの製作
対照群として、L−バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201PからL−バリン生合成過発現ベクターを製作した。また、前記実施例7で製造したそれぞれのKCCM11201P::ilvB(W503Q)、KCCM11201P::ilvB(T96S)から変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼをコードするDNAが含まれたL−バリン生合成過発現ベクターを製作した。
【0081】
前記ベクターの製作のために5’末端にBamHI制限酵素部位を挿入したプライマー13(配列番号18)と3’末端にXbaI制限酵素部位を挿入したプライマー14(配列番号19)を合成した。このプライマー対を用いて、L−バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P及び前記実施例7で製造したKCCM11201P::ilvB(W503Q)、KCCM11201P::ilvB(T96S)の染色体をそれぞれ鋳型としてPCRを行い、2種の変異型ilvBN遺伝子断片を増幅した。PCR条件は、94℃で5分間変性した後、94℃で30秒の変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で4分の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。
【0082】
プライマー13(配列番号18):5’− CGAGG ATCCA ACCGG TATCG ACAAT CCAAT −3’
プライマー14(配列番号19):5’− CTGTC TAGAA ATCGT GGGAG TTAAA CTCGC −3’
【0083】
前記PCRで増幅された2種の遺伝子断片を制限酵素BamHIとXbaIで処理して、それぞれのDNA切片を獲得した後、これを制限酵素BamHIとXbaI末端を有する過発現ベクターpECCG117に連結した後、大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。
【0084】
PCRにより目的の遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドのilvB遺伝子に挿入された変異に応じて、それぞれpECCG117−ilvBN、pECCG117−ilvB(W503Q)N、pECCG117−ilvB(T96S)Nと命名した。
【0085】
<実施例9>同じ変異位置で他のアミノ酸に置換されたアセトヒドロキシ酸シンターゼをコードするDNAが含まれたL−バリン生合成過発現ベクターの製作
実施例5で確認した変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼタンパク質において、変異位置の効果を確認するために、96番目のアミノ酸がトレオニンまたはセリン以外のアミノ酸に、503番目のアミノ酸がトリプトファンまたはグルタミン以外のアミノ酸に置換された変異を含むベクターを製作した。
【0086】
具体的には、L−バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pからアセトヒドロキシ酸シンターゼの503番目のアミノ酸がアスパラギンまたはロイシンに置換された形態の変異または96番目のアミノ酸がアラニンまたはシステインに置換された形態の変異が含まれたL−バリン生合成過発現ベクターを製作した。前記置換されたアミノ酸は、置換できるアミノ酸の代表的な例であるだけで、これに制限されるものではない。
【0087】
前記ベクターの製作のために、まず、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P菌株の染色体を鋳型とし、プライマー13(配列番号18)及びプライマー15(配列番号20)、プライマー16(配列番号21)及びプライマー14(配列番号19)を用いてPCRを行い、5’末端にBamHI制限酵素部位を有する約2041bpのDNA断片と3’末端にXbaI制限酵素部位を有する1055bpのDNA断片を増幅した。PCR条件は、94℃で5分間変性した後、94℃で30秒の変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で2分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。
【0088】
プライマー15(配列番号20):5’− CTTCA TAGAA TAGGG TCTGG TTTTG GCGAA CCATG CCCAG −3’
プライマー16(配列番号21):5’− CTGGG CATGG TTCGC CAAAA CCAGA CCCTA TTCTA TGAAG −3’
その後、増幅された2つのDNA断片を鋳型として、プライマー13(配列番号18)及びプライマー14(配列番号19)でPCRを行った。PCR条件は、94℃で5分間変性した後、94℃で30秒の変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で4分の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。
【0089】
その結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼの503番目のアミノ酸がアスパラギンに置換された形態の変異が含まれたilvBN遺伝子断片を収得した。
【0090】
同様の方法で、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P菌株の染色体を鋳型としてプライマー13(配列番号18)及びプライマー17(配列番号22)、プライマー18(配列番号23)及びプライマー14(配列番号19)を用いてPCRを行い、5’末端にBamHI制限酵素部位を有する約2041bpのDNA断片と3’末端にXbaI制限酵素部位を有する1055bpのDNA断片を増幅した。
【0091】
プライマー17(配列番号22):5’− CTTCA TAGAA TAGGG TCTGC AGTTG GCGAA CCATG CCCAG −3’
プライマー18(配列番号23):5’− CTGGG CATGG TTCGC CAACT GCAGA CCCTA TTCTA TGAAG −3’
その後、増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、プライマー13(配列番号18)及びプライマー14(配列番号19)でPCRを行った。
【0092】
その結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼの503番目のアミノ酸がロイシンに置換された形態の変異が含まれたilvBN遺伝子断片を収得した。
【0093】
同様の方法で、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P菌株の染色体を鋳型としてプライマー13(配列番号18)及びプライマー19(配列番号24)、プライマー20(配列番号25)及びプライマー14(配列番号19)を用いてPCRを行い、5’末端にBamHI制限酵素部位を有する約819bpのDNA断片と3’末端にXbaI制限酵素部位を有する2276bpのDNA断片を増幅した。
【0094】
プライマー19(配列番号24):5’− GGTTG CGCCT GGGCC AGATG CTGCA ATGCA GACGC CAAC −3’
プライマー20(配列番号25):5’− GTTGG CGTCT GCATT GCAGC ATCTG GCCCA GGCGC AACC −3’
その後、増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、プライマー13(配列番号18)及びプライマー14(配列番号19)でPCRを行った。
【0095】
その結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼの96番目のアミノ酸がアラニンに置換された形態の変異が含まれたilvBN遺伝子断片を収得した。
【0096】
同様の方法で、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P菌株の染色体を鋳型としてプライマー13(配列番号18)及びプライマー21(配列番号26)、プライマー22(配列番号27)及びプライマー14(配列番号19)を用いてPCRを行い、5’末端にBamHI制限酵素部位を有する約819bpのDNA断片と3’末端にXbaI制限酵素部位を有する2276bpのDNA断片を増幅した。
【0097】
プライマー21(配列番号26):5’− GGTTG CGCCT GGGCC AGAGC ATGCA ATGCA GACGC CAAC −3’
プライマー22(配列番号27):5’− GTTGG CGTCT GCATT GCATG CTCTG GCCCA GGCGC AACC −3’
その後、増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、プライマー13(配列番号18)及びプライマー14(配列番号19)でPCRを行った。
【0098】
その結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼの96番目のアミノ酸がシステインに置換された形態の変異が含まれたilvBN遺伝子断片を収得した。
実施例8と同様の方法で、PCRで増幅された前記4種の変異型遺伝子断片を制限酵素BamHIとXbaIで処理して、それぞれのDNA切片を獲得した後、これを制限酵素BamHIとXbaI末端を有する過発現ベクターpECCG117に連結した後、大腸菌DH5αに形質転換して、カナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。
【0099】
PCRにより目的の遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドのilvB遺伝子に挿入された変異に応じて、それぞれ順にpECCG117−ilvB(W503N)N、pECCG117−ilvB(W503L)N、pECCG117−ilvB(T96A)N、pECCG117−ilvB(T96C)Nと命名した。
【0100】
<実施例10>野生型由来の変異アセトヒドロキシ酸シンターゼ導入菌株の製作及びL−バリン生産能の比較
前記実施例8及び実施例9で製造したL−バリン生合成過発現ベクターpECCG117−ilvBN、pECCG117−ilvB(W503Q)N、pECCG117−ilvB(T96S)N及びpECCG117−ilvB(W503N)N、pECCG117−ilvB(W503L)N、pECCG117−ilvB(T96A)N、pECCG117−ilvB(T96C)Nをコリネバクテリウム・グルタミカム野生型菌株ATCC13032に電気穿孔法でそれぞれ挿入した。製作された菌株は、それぞれコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::pECCG117−ilvBN、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::pECCG117−ilvB(W503Q)N、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::pECCG117−ilvB (T96S)N、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::pECCG117−ilvB(W503N)N、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::pECCG117−ilvB(W503L)N、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::pECCG117−ilvB(T96A)N及びコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::pECCG117−ilvB(T96C)Nと命名した。ベクターが形質転換された場合、カナマイシン耐性を有するようになるため、カナマイシンが25mg/lの濃度で含まれた培地での生長有無を介して形質転換を確認した。
【0101】
製作した菌株を評価するために実施例4で用いた培地と同様の方法で、生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃で72時間、200rpmで振とう培養した。HPLCを用いてL−バリンの濃度を分析した(表4)。
【0102】
【表4】
【0103】
その結果、アセトヒドロキシ酸シンターゼの96番目または503番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された新規変異は、対照群に比べてL−バリン生産能が最大700%増加したことを確認した。このことから、前記の96番目と503番目の位置の重要性を確認し、さらに、L−バリンだけでなく、他の分岐鎖アミノ酸の生産能にも影響を与えると予想される。
【0104】
<実施例11>変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ導入菌株の製作及びL−ロイシン生産能の比較
本出願のアセトヒドロキシ酸シンターゼの大サブユニットの変異体は、他のL−分岐鎖アミノ酸の生産能の増加にも影響を与えるかを確認するために、L−分岐鎖アミノ酸の別の例として、L−ロイシンの生産能を確認した。
【0105】
具体的には、前記実施例6で製造した新規変異の導入ベクター2種をそれぞれ2段階相同染色体組換えによりL−ロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11661P(特許文献7及び8)に形質転換させた。その後、染色体上のilvB変異が導入された菌株を塩基配列分析によって選別し、前記ilvB変異が導入された菌株をそれぞれKCCM11661P::ilvB(W503Q)及びKCCM11661P::ilvB(T96S)と命名した。
【0106】
前記コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11661Pは、ノルロイシン(Norleucine、NL)に対する耐性を有するコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067由来の突然変異株であって、次のような方法により収得した。
【0107】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067を活性化培地で16時間培養して、活性化された菌株を121℃で5分間滅菌した種培地に接種し、14時間培養した後、培養液5mlを回収した。回収した培養液を100mMクエン酸緩衝溶液(citric buffer)で洗浄した後、NTG(N-Methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)を最終濃度200mg/Lとなるよう添加した後、20分間処理し、100mMリン酸緩衝溶液(phosphate buffer)で洗浄した。NTGで処理された菌株を最小培地に塗抹して死滅率を計算した結果、死滅率は85%であった。L−ロイシンの誘導体に該当するノルロイシン(Norleucine、NL)に対する耐性変異株を取得するために、NTGが処理された菌株をNLの最終濃度がそれぞれ20mM、30mL、40mM及び50mMになるように添加された最小培地に塗抹し、30℃で5日間培養してNL耐性変異株を取得した。
【0108】
<活性化培地>
肉汁1%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.5%、酵母エキス1%、寒天2%、pH7.2
【0109】
<種培地>
ぶどう糖5%、バクトペプトン1%、塩化ナトリウム0.25%、酵母エキス1%、尿素0.4%、 pH7.2
【0110】
<最小培地>
ぶどう糖1.0%、硫酸アンモニウム0.4%、硫酸マグネシウム0.04%、リン酸第1カリウム0.1%、尿素0.1%、チアミン0.001%、ビオチン200μg/L、寒天2%、pH7.0
前記の方法で得られた変異株は、コリネバクテリウム・グルタミカムKCJ−24(Corynebacterium glutamicum KCJ−24)と命名し、2015年1月22日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センターに寄託し、受託番号KCCM11661Pを与えられた。
【0111】
前記KCCM11661P::ilvB(W503Q)及びKCCM11661P::ilvB(T96S)を実施例4と同様の方法で培養し、そこからL−ロイシンの濃度を分析した(表5)。
【0112】
【表5】
【0113】
2種の新規変異の導入菌株(KCCM11661P::ilvB(W503Q)、KCCM11661P::ilvB(T96S))は、親菌株に比べてL−ロイシン生産能が最大26.9%増加した。
【0114】
<実施例12>KCCM11662P由来の変異されたアセトヒドロキシ酸シンターゼ導入菌株の製作及びL−ロイシン生産能の比較
前記実施例6で製造した新規変異の導入ベクター2種をそれぞれ2段階相同染色体組換えにより他のL−ロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11662P(特許文献7及び8)に形質転換させた。その後、染色体上のilvB変異が導入された菌株を塩基配列分析によって選別し、前記ilvB変異が導入された菌株をそれぞれKCCM11662P::ilvB(W503Q)及びKCCM11662P::ilvB(T96S)と命名した。
【0115】
前記コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11662Pは、ノルロイシン(Norleucine、NL)に対する耐性を有するコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869由来の突然変異株であって、次のような方法により収得した。
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869を親菌株にして、実施例11のKCCM11662Pを収得する方法と同様の方法で培養し、最終的にNL耐性変異株を獲得した。
【0116】
前記方法で得られた変異株は、コリネバクテリウム・グルタミカムKCJ−28(Corynebacterium glutamicum KCJ−28)と命名し、2015年1月22日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センターに寄託し、それぞれ受託番号KCCM11662Pを与えられた。
【0117】
前記KCCM11662P::ilvB(W503Q)及びKCCM11662P::ilvB(T96S)を実施例4と同様の方法で培養して、そこからL−ロイシンの濃度を分析した(表6)。
【0118】
【表6】
【0119】
前記2種の新規変異の導入菌株(KCCM11662P::ilvB(W503Q)、KCCM11662P::ilvB(T96S))は、親菌株に比べてL−ロイシン生産能が最大13.3%増加した。
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者は、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本出願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]