(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面を用いて以下に説明する。
本発明者らは、熱間圧延による表面欠陥を低減する観点から、結晶粒が数十mmにもおよぶインゴットの粗大な凝固組織を、さらにはブレークダウン後にも残存している当該凝固組織の影響を、無害化する方法について、鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得、本発明に至った。
【0015】
粗大な凝固組織を細粒化するため、或いは凝固組織の影響が残存している部位を解消するためには、冷間加工により表層部に歪みを付与した後、熱間圧延時の加熱など所定の熱処理によって、再結晶層を形成する方法が考えられる。
【0016】
本発明では、ロール直径が20mm以上90mm以下の圧延ロールを用いてチタン素材を冷間圧延または温間圧延することで、チタン素材の表層にひずみを付与する。この方法によって得られた加工チタン材は、熱間圧延時の表面欠陥が顕著に抑制できることを見出した。ロール直径が90mm以下の圧延ロールによって圧延することで、ひずみが導入される領域が素材の厚み方向全体に広がらず、加工チタン材の表層にせん断ひずみを集中して与えられるようになり、その後の熱間圧延の際の加熱によって表層に微細な再結晶層を形成することで、表面疵の発生を抑制できる。
【0017】
以下、本実施形態の加工チタン材の製造方法について説明する。
本実施形態の加工チタン材の製造方法によって製造される加工チタン材(以下、「本実施形態の加工チタン材」ともいう。)について説明する。本実施形態の加工チタン材は、チタン素材の厚み方向において、溝の底部から3mmの位置のビッカース硬さと、厚みの1/2の位置のビッカース硬さとの差ΔHVが、20以上である。差ΔHVが、20以上の加工チタン材は、800℃で4時間の熱処理を施した場合に、少なくとも溝の底部から深さ3.0mmまでの範囲に円相当平均粒径が1.00mm以下の結晶粒が形成され、結晶粒の円相当粒径の対数変換値についての標準偏差が1.00以下になるものである。つまり、本実施形態の加工チタン材は、熱間圧延の際の加熱によって表層の組織を微細化できるので、熱間加工時の表面疵の発生を抑制できる。
また、本実施形態の加工チタン材は、例えば、表面の少なくとも一部が、算術平均粗さRaが5.0μm以下の平滑面であることが好ましく、800℃、4時間の熱処理を施した場合に、少なくとも平滑面から深さ3mmまでの範囲に円相当平均粒径が1.00mm以下の結晶粒が形成され、結晶粒の円相当粒径の対数変換値についての標準偏差が1.00以下になるものである。
また、本実施形態の加工チタン材の製造方法において用いられるチタン素材は、工業用純チタンもしくはチタン合金からなることが好ましい。
更に、本実施形態の加工チタン材の製造方法において用いられるチタン素材としては、インゴット、スラブ、ブルームまたはビレットが例示される。
更にまた、本実施形態の加工チタン材の平滑面は、のちに熱間圧延される際の被圧延面となる面であることが好ましい。
【0018】
図1に、本実施形態の加工チタン材の製造方法において用いられるチタン素材の例を示す。チタン素材は、
図1(a)に示すようにスラブ1であってもよく、
図1(b)に示すようにブルーム2であってもよく、
図1(c)に示すように長手方向と垂直な断面が矩形であるビレット3であってもよく、
図1(d)に示すように長手方向と垂直な断面が円形であるビレット4であってもよい。
【0019】
本実施形態の加工チタン材は、表面から3mm深さ位置(
図2における符号Sの線の位置)のビッカース硬さと、厚みの1/2深さ位置(
図2における符号Mの線の位置)のビッカース硬さとの差ΔHVが、20以上になる。なお、
図2は、本実施形態の加工チタン材の製造方法において用いられるチタン素材をスラブとした場合の長手方向に沿った断面模式図である。
【0020】
厚みの1/2深さ位置は、
図1(a)または
図1(b)に示すスラブまたはブルームでは、それぞれスラブ厚tまたはブルーム厚tの1/2t厚の位置である。また、
図1(c)に示すアスペクト比1程度の矩形断面のビレットでは、ビレット断面の重心位置になる。更に、
図1(d)に示す円形断面のビレットでは、ビレット断面の中心位置になる。スラブおよびブルームおよびビレットの厚さt、ならびに円形断面のビレットの直径tは、90〜250mmであることが好ましい。
【0021】
また、
図1(a)のスラブ1及び
図1(b)のブルーム2については、面積が最も大きな面1a、2aが熱間圧延時の被圧延面になるため、これらの面1a、2aが算術平均粗さRa5.0μm以下の平滑面となることが好ましい。また、
図1(c)に示すような、断面形状のアスペクト比が1程度の矩形のビレット3は、ビレット3の長手方向に沿う4つの面3aが熱間圧延時の被圧延面になるので、これらの4つ面3aの算術平均粗さRaが5.0μm以下の平滑面であることが好ましい。更に、
図1(d)に示す断面形状が円形のビレット4については、ビレット4の長手方向に沿う円周面4aが熱間圧延時の被圧延面になるので、この円周面4aの算術平均粗さRaが5.0μm以下の平滑面であることが好ましい。これらの面1a〜4aは、その後の熱間圧延において圧延ロールがあたる被圧延面となり、表面疵が発生しやすい面である。本実施形態ではこれらの面1a〜4aの表層にひずみを導入することが好ましい。ひずみ導入は、ロール直径20mm以上90mm以下の圧延ロールによって圧下することによってなされる。圧延ロールによって圧下された面1a〜4aは、圧延ロールのロール面の粗さを反映した平滑面となる。
【0022】
熱間圧延によって生じ得る表面疵を抑制するには、加工チタン材の結晶組織を微細化する必要がある。もちろん、加工チタン材全体の結晶組織を微細化しても表面疵の抑制は可能であるが、そのためには、素材全体に多量のひずみを付与する必要がある。また、素材全体にひずみを付与すると、再結晶後に結晶粒径が大きくなってしまい、表面疵に進展してしまう恐れがある。また、必要に応じて熱間圧延前に幅方向に圧延する場合があるところ、鋳造ままのチタン素材に対する幅方向の圧下量が大きくなると、粗大鋳造組織に起因した皺が発生し、熱間圧延後に表面疵が発生する場合がある。
【0023】
このように、鋳造組織起因だけでなく、幅方向の圧延を大きくした際の皺に由来する表面疵を安定的に抑制するためには、少なくとも表層を再結晶組織にする必要がある。表層とは、加工チタン材の表面から深さ3mm以上の深さ位置までの間の領域である。熱間圧延の加熱時に表層を再結晶組織にするためには、表面から3mm以上の深さの位置までひずみが付与されている必要がある。種々解析の結果、表層3mm位置における相当ひずみが0.2以上であれば、熱間圧延の加熱時に再結晶が生じ、微細組織できることが本発明者らによって明らかにされている。この相当ひずみはビッカース硬さと関係があり、表面から深さ3mm位置におけるビッカース硬さが、加工チタン材の1/2厚の位置におけるビッカース硬さに対して20以上であれば、この相当ひずみ0.2以上を達成できることが判明している。加工チタン材の1/2厚の位置におけるビッカース硬さは、鋳造ままの硬さとほぼ同じであることから、ΔHVは、表層に0.2以上の相当ひずみが導入された場合の表層の硬度の上昇量に相当する。加工チタン材におけるΔHVが20以上であれば、表層に十分なひずみが導入されたものとなり、微細で粒径が揃った再結晶を形成できるようになる。ΔHVは大きいほど好ましく、上限は特に規定しないが、圧延ロールへの負荷を考慮して、ΔHVは50以下としてもよい。
【0024】
ビッカース硬さの測定方法は、加工チタン材のひずみを付与した表面を含むように切断した断面(該表面に直交する断面)を鏡面研磨し、ビッカース硬さ試験機を用いて測定する。ひずみ付与した表面から深さ3mm位置と、加工チタン材の1/2厚の位置とにおいて、荷重1kgで7点測定し、最大と最小硬さを除いた5点の平均を求める。そして、表面から3mmの位置と、1/2厚位置部との硬度差(ΔHV)を求める。
【0025】
本実施形態の加工チタン材において、表面から3mm深さ位置(S)のビッカース硬さと、厚みの1/2深さ位置(M)のビッカース硬さとの差であるΔHVを測定することによって、表層にひずみが導入された面であるかどうかの判別を行えばよいが、当該面の算出平均粗さRaを測定することによって判別することもできる。冷間圧延前または温間圧延前のチタン素材は、チタンを直接鋳造することで得られたものであり、従来は鋳造後にそのまま熱間圧延に供されていた。直接鋳造して得られるチタン素材は、表面の算術平均粗さRaが25μm以上であり、比較的粗い面になっている。一方、本実施形態の加工チタン材は、チタン素材に冷間圧延または温間圧延を施すことで、その表面の少なくとも一部に、圧延ロールのロール面の表面粗さを反映した平滑面を持つようになる。算術平均粗さRaが5.0μm以下の平滑面を有するものは、本発明に係る加工チタン材であると推測できる。
【0026】
また、平滑面の算術平均粗さRaが5.0μm以下であることから凹凸が少なくなり、凹凸に起因する疵発生のリスクを低減することができる。
【0027】
本実施形態の加工チタン材は、熱間圧延を模擬した例えば温度800℃で加熱時間4時間の熱処理を行った場合に、少なくとも平滑面から深さ3mmまでの範囲に、円相当平均粒径が1.00mm以下の結晶粒組織が形成される。結晶粒の円相当粒径の対数変換値についての標準偏差は1.00以下になる。熱間圧延を模擬した熱処理によって形成される結晶粒は、比較的粒径の大きさが揃ったものとなる。
【0028】
加工チタン素材を熱間圧延する際に発生し得る表面疵は、結晶粒が大きいほど生じ易い。本実施形態の加工チタン材は、800℃で加熱時間4時間の熱処理した後の平滑面から深さ3mmまでの範囲の結晶粒の円相当平均粒径が1.00mm以下、好ましくは0.80mm以下、さらに好ましくは0.70mm以下がよい。熱間圧延を模擬した加熱を行った後の平均結晶粒径については、平均粒径が10mm以上の鋳造組織よりも微細にする必要があり、1.00mmを超えて粗大であると上記の標準偏差内であっても熱延時の表面疵が発生する場合がある。円相当平均粒径は小さいほど表面疵が発生しないため、円相当平均粒径の下限値は特に規定しない。
【0029】
800℃、4時間の熱処理後の結晶粒径が上記内にあれば、実機の熱延温度範囲でも表面疵が発生しないことが、調査の結果、判明している。従って、結晶粒の円相当平均粒径及び標準偏差の範囲は、表層にひずみを付与後、800℃、4時間の熱処理後のものとする。
【0030】
また、例えば、加熱された加工チタン材の表面に細粒部と粗粒部が混在する混粒組織が形成された場合、粒径が大きな結晶粒が起点となって熱延疵が発生し易くなる。従って、熱間圧延を模擬した加熱を行った場合に、粒径が比較的小さく、かつ、粒径のばらつきが少ない多結晶粒組織が形成されるとよい。本実施形態の加工チタン材は、800℃、4時間の加熱によって、円相当粒径の対数変換値についての標準偏差が1.00以下になる結晶粒組織が形成されるものがよい。金属材料の結晶粒径は対数正規分布に近い分布となるところ、対数正規分布の分布幅が狭いほど、結晶粒径が均一であり熱延時の表面疵が発生し難くなる。すなわち、結晶粒がある程度微細であり、かつ、対数正規分布の標準偏差がある一定値以下の範囲にあれば、均一組織となり、表面疵が発生し難くなる。
【0031】
各結晶粒の円相当粒径Dを自然対数LnDに変換した変換値の分布の標準偏差σが1.00以下であれば、円相当平均粒径が1.00mm以下である場合に、表面疵の発生が抑制されるようになる。標準偏差は好ましくは0.80以下であり、さらに好ましくは0.70以下である。結晶粒径の分布が狭いほど、すなわち、標準偏差σが小さいほど表面疵が発生し難いため、標準偏差の下限値は特に規定しない。
【0032】
結晶粒径の測定方法は、加工チタン材のひずみを付与した表面を含むように切断した断面を化学研磨し、電子線後方散乱回折法;EBSD(Electron Back Scattering Diffraction Pattern)を用いて、5mm×5mmの領域をステップ5〜20μmで2〜10視野程度測定する。その後、結晶粒径についてはEBSDにより測定した結晶粒面積より円相当粒径(面積A=π×(粒径D/2)
2)を求め、結晶粒径分布より対数正規分布における標準偏差σを算出する。
【0033】
本実施形態の加工チタン材は、冷間圧延または温間圧延により与えられたせん断ひずみによって、熱間圧延の加熱時に表層が再結晶し、表面から3mm以上25mm未満までの範囲に、再結晶が形成される。すなわち、再結晶が形成される範囲は、少なくとも、表面から深さ3mm以上の範囲となり、より好ましくは表面から深さ6mm以上の範囲になる。また、再結晶が形成される範囲は、最大で、表面から深さ25mm未満までの範囲となる。本実施形態の加工チタン材は、熱間圧延することで、このような組織状態となる。再結晶が形成される範囲が表面から深さ3mm未満では、20mm以上の粗大な表面欠陥の発生を抑制できない。また、再結晶が形成される範囲が表面から深さ25mm以上の範囲に広がると、ひずみが分散されてしまい、熱間圧延後の結晶粒径が粗大化して表面欠陥が生じるおそれがある。好ましくは、20mm未満である。なお、再結晶が形成される範囲は、冷間圧延または温間圧延した後の加工チタン材の断面を、熱間圧延時の加熱と同等の熱処理を施した後、顕微鏡観察することで確認できる。
【0034】
本実施形態の加工チタン材に対して熱間圧延を行うと、熱間圧延後のチタン材の表面欠陥は非常に軽微になり、問題ないレベルにまで抑制される。一方で、本発明の方法を適用せず、表層にひずみが導入されずに鋳造ままの粗大な凝固組織を有する加工チタン材を熱間圧延すると、熱間圧延後に長さ20mm以上の粗大な表面欠陥が多数発生するようになる。
【0035】
本実施形態における加工チタン材の製造方法において用いられるチタン素材は、熱間圧延に供されるチタン鋳片であり、例えば次の(A)または(B)のようなインゴット、スラブ、ブルーム、ビレットなどがチタン素材として例示できる。すなわち、チタン素材には、既に熱間圧延または冷間圧延により所定の厚み未満に 圧延されたチタン板は除かれる。よって、直方体や立方体のチタン素材の場合、その厚みは例えば100mm以上であり、円柱状のチタン素材の場合、その直径は例えば90mm以上であるものを対象とする。チタン素材(B)は、チタンを溶解して鋳造させたことによって得られる凝固組織からなり、結晶粒径が10mm以上である粗大粒が存在する鋳造ままの組織を有している。
【0036】
(A)電子ビーム溶解法(EBR:Electron Beam Remelting)やプラズマアーク溶解法(PAM:Plasma Arc Melting)により、チタンを一旦溶融させてから凝固させて得たインゴットを、更に分塊や鍛造、圧延などの熱間加工によってブレークダウンして、スラブやビレットなどの形状に成形したチタン素材。
【0037】
(B)電子ビーム溶解法により、チタンを一旦溶融させてから凝固させる際に、直接熱延可能な大きさの矩形状のインゴットとし、上記(A)のブレークダウン工程を省略して得られたチタン素材。
【0038】
電子ビーム溶製方法は、照射する電子ビームが偏光によりビームを集中できるため、鋳型と溶融チタンの間の狭い領域でも、熱を供給しやすく、それ故に鋳肌を良好に制御することができる。また、鋳型の断面形状の自由度が高い。そのため、上記(B)のような、直接熱間圧延に供することが可能なサイズの矩形や円柱形のインゴットは、電子ビーム溶解炉を用いて溶製することが好ましい。また、プラズマアーク溶解法では、電子ビーム溶解法と加熱原理が異なるものの、電子ビーム溶解法と同様の効果が得られる。
【0039】
チタン素材は、工業用純チタンもしくはチタン合金からなることが好ましい。
工業用純チタンは、JIS H4600規格の1種〜4種、およびそれに対応するASTM 265B規格のGrade1〜4、DIN 17850規格のGradeI(WL3.7025)、GradeII(WL3.7035)、GradeIII(WL3.7055)で規定される工業用純チタンを含むものとする。すなわち、本発明で対象とする工業用純チタンは、質量%で、C:0.1%以下、H:0.015%以下、O:0.4%以下、N:0.07%以下、Fe:0.5%以下、残部Tiからなる。以下、各元素の含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
【0040】
一方、α型チタン合金は、必要とする用途において適切な合金を用いればよい。より好ましくは、実質的に合金成分が5%以下の低合金がよい。たとえば、Pd<0.15%やRu<0.10%、さらに希土類元素<0.02%を添加した高耐食性合金や、Cu、Al、Si、Sn、Nb、Feを合計で5%未満添加した耐熱合金などが例示できる。
より具体的には、α型チタン合金として、例えば高耐食性合金(ASTM Grade7、11、16、26、13、30、33あるいはこれらに対応するJIS種や更に種々の元素を少量含有させたもの)、Ti−0.5Cu、Ti−1.0Cu、Ti−1.0Cu−0.5Nb、Ti−1.0Cu−1.0Sn−0.3Si−0.25Nb、Ti−0.5Al−0.45Si、Ti−0.9Al−0.35Si、Ti−3Al−2.5V、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−2.75Sn−4Zr−0.4Mo−0.45Siなどがある。
【0041】
α+β型チタン合金としては、例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−7V、Ti−3Al−5V、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−1Fe−0.35O、Ti−1.5Fe−0.5O、Ti−5Al−1Fe、Ti−5Al−1Fe−0.3Si、Ti−5Al−2Fe、Ti−5Al−2Fe−0.3Si、Ti−5Al−2Fe−3Mo、Ti−4.5Al−2Fe−2V−3Moなどがある。
【0042】
さらに、β型チタン合金としては、例えば、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn,Ti−8V−3Al−6Cr−4Mo−4Zr,Ti−10V−2Fe−3Mo,Ti−13V−11Cr−3Al,Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn,Ti−6.8Mo−4.5Fe−1.5Al、Ti−20V−4Al−1Sn、Ti−22V−4Alなどがある。
【0043】
本発明に係るチタン合金は、例えば、O:0〜0.5%、N:0〜0.2%、C:0〜2.0%、Al:0〜8.0%、Sn:0〜10.0%、Zr:0〜20.0%、Mo:0〜25.0%、Ta:0〜5.0%、V:0〜30.0%、Nb:0〜40.0%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜5.0%、Cr:0〜10.0%、Cu:0〜3.0%、Co:0〜3.0%、Ni:0〜2.0%、白金族元素:0〜0.5%、希土類元素:0〜0.5%、B:0〜5.0%、および、Mn:0〜10.0%から選択される1種以上を0%を超えて含有させることによって、加工チタン材の表面に目標とする機能を付与することができる。
【0044】
上記以外の元素でチタンに含有させることができる元素は、金属材料の一般常識として固溶強化、析出強化(固溶しない場合と析出物を形成させる場合がある)による強度向上などが期待できる元素である。これらの元素としては、原子番号で水素(1)からアスタチン(85)までの元素(但し、第18族元素である貴ガス元素を除く)が例示され、合計で5%程度まで許容される。
【0045】
上記以外の残部は、Tiおよび不純物である。不純物としては、目標特性を阻害しない範囲で含有することができ、その他の不純物は主に原料やスクラップから混入する不純物元素及び製造中に混入する元素があり、例としてC、N、O、Fe、H等が代表的な元素で、その他にMg、Cl等原料から混入する元素やSi、Al、S等製造中に混入する元素等がある。これらの元素は、2%程度以下であれば本願の目標特性を阻害しない範囲と考えられる。
【0046】
また、本発明に係るチタン合金は、例えば、O:0.01〜0.5%、N:0.01〜0.2%、C:0.01〜2.0%、Al:0.1〜8.0%、Sn:0.1〜10.0%、Zr:0.5〜20.0%、Mo:0.1〜25.0%、Ta:0.1〜5.0%、V:1.0〜30.0%、Nb:0.1〜40.0%、Si:0.1〜2.0%、Fe:0.01〜5.0%、Cr:0.1〜10.0%、Cu:0.3〜3.0%、Co:0.05〜3.0%、Ni:0.05〜2.0%、白金族元素:0.01〜0.5%、希土類元素:0.001〜0.5%、B:0.01〜5.0%、および、Mn:0.1〜10.0%、から選択される1種以上を含有してもよい。
【0047】
本発明に係るチタン合金は、O:0.02〜0.4%、N:0.01〜0.15%、C:0.01〜1.0%、Al:0.2〜6.0%、Sn:0.15〜5.0%、Zr:0.5〜10.0%、Mo:0.2〜20.0%、Ta:0.1〜3.0%、V:2.0〜25.0%、Nb:0.15〜5.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.05〜2.0%、Cr:0.2〜5.0%、Cu:0.3〜2.0%、Co:0.05〜2.0%、Ni:0.1〜1.0%、白金族元素:0.02〜0.4%、希土類元素:0.001〜0.3%、B:0.1〜5.0%、および、Mn:0.2〜8.0%、から選択される1種以上を含有するのがより好ましく、O:0.03〜0.3%、N:0.01〜0.1%、C:0.01〜0.5%、Al:0.4〜5.0%、Sn:0.2〜3.0%、Zr:0.5〜5.0%、Mo:0.5〜15.0%、Ta:0.2〜2.0%、V:5.0〜20.0%、Nb:0.2〜2.0%、Si:0.15〜0.8%、Fe:0.1〜1.0%、Cr:0.2〜3.0%、Cu:0.3〜1.5%、Co:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜0.8%、白金族元素:0.03〜0.2%、希土類元素:0.001〜0.1%、B:0.2〜3.0%、および、Mn:0.2〜5.0%、から選択される1種以上を含有するのがさらに好ましい。
【0048】
ここで、白金族元素としては、具体的には、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtが挙げられ、これらのうち1種以上を含有させることができる。2種以上の白金族元素を含有させる場合、上記白金族元素の含有量は、白金族元素の総量を意味する。また、希土類元素(REM)としては、具体的にはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuが挙げられ、これらのうち1種以上を含有させることができる。2種以上の希土類元素を含有させる場合、例えば、ミッシュメタル(Mm)や、ジジム合金のような希土類元素の混合物や化合物を用いてもよい。また、2種以上の希土類元素を含有させる場合、上記希土類元素の含有量は、希土類元素の総量を意味する。
【0049】
次に、本実施形態の加工チタン材の製造方法を説明する。本実施形態の製造方法は、チタン素材に対し、ロール直径が20mm以上90mm以下の圧延ロールを用いて冷間圧延または温間圧延することによって、チタン素材の表層にひずみを付与するものである。具体的には、チタン素材のうち、少なくとも熱間圧延時に被圧延面になる面に圧延ロールを当ててひずみを導入すればよい。
【0050】
チタン素材がスラブ1やブルーム2である場合は、
図1に示したようにチタン素材のうち最も面積が大きな面1a、2aが被圧延面になるので、その面に圧延ロール5が当たるように冷間圧延すればよい。より具体的には、
図3または
図4に示すように、所定の間隔をあけて配置した2本の圧延ロール5間に、チタン素材(スラブ1またはブルーム2)を通過させることで圧延を行えばよい。
図3はチタン素材がスラブ1の例であり、
図4はチタン素材がブルーム2の例である。
【0051】
また、チタン素材がビレットの場合は、その長手方向に延びる全面が被圧延面になり得る。よって、例えば、断面が矩形のビレット3の場合は、
図5に示すように、所定の間隔をあけて配置した一対の水平ロール5a(圧延ロール)と一対の縦ロール5b(圧延ロール)とにビレットを順次通過させることで圧延を行えばよい。また、断面が円形のビレット4の場合は、例えば、
図6に示すように、ビレット4を回転させながら、ビレットの外周の三方向に配置した円錐台型の圧延ロール5cの間を通過させることで圧延を行えばよい。
【0052】
冷間圧延時または温間圧延時の圧延方向は、チタン素材の長手方向、すなわち、後の熱間圧延の圧延方向に沿う方向とすることが望ましい。本実施形態に係る加工チタン材は、その厚みtに対して熱間圧延時の圧延方向に沿う長さLが大きいため、冷間圧延時または温間圧延時に、
図3(c)または
図4(c)に示すように、チタン素材の長手方向の端面1b、2bにダブルバレリングと呼ばれる、表面だけが伸び、チタン素材の厚み方向中央が伸びない現象が生じやすい。ダブルバレリングが起きると、チタン素材の長手方向の端面において表層の被さりが発生する。チタン素材の長手方向の端面1b、2bにダブルバレリングが生じたとしても歩留まりの低下は少ないが、幅方向の端面にダブルバレリングが生じると歩留まりが大幅に低下する。従って、歩留まり低下の抑制のためには、チタン素材の幅方向ではなく、長手方向に沿って圧延するとよい。ただし、歩留まり低下の問題が起きないのであれば、チタン素材の幅方向にして冷間圧延してもよい。
【0053】
冷間圧延する際の圧延ロール5は、ロール直径が小さいほど表層へのせん断ひずみの導入量が大きくなる。圧延ロール5のロール直径は、90mm以下とする必要がある。直径90mm以下の小径の圧延ロール5を用いてチタン素材を冷間圧延または温間圧延することで、チタン素材の表層に十分な深さのせん断ひずみを与えることができ、その後の熱間圧延時に結晶粒を十分に微細化させることができる。圧延ロール5の直径が90mmを超えると、チタン素材の厚み方向全体に渡ってひずみが導入されるようになり、表層へのせん断ひずみの導入量が相対的に少なくなる。また、ロール直径が90mmを超えると、表層近傍にデットメタルと呼ばれる、塑性変形しない領域が発生することがある。そうなると、表層のひずみ量が足りなくなり、その後の熱間圧延時に結晶粒が十分に微細化されず、熱間圧延時に表面疵が生じてしまうおそれがある。ロール直径はより好ましくは80mm以下であり、さらに好ましくは70mm以下である。
圧延ロール5のロール直径の下限は20mm以上とすることが好ましい。ロール直径を20mm以上にすることで圧延ロールの剛性が十分に大きくなり、冷間圧延時または温間圧延時の圧延ロールの弾性変形が抑制されて、冷間圧延時または温間圧延時の被圧延面の全面に均一にせん断ひずみを導入できるようになる。
【0054】
冷間圧延時または温間圧延時の合計圧下率(圧下量)は、1.0%以上とする必要がある。合計圧下率を1.0%以上にすることで、十分なせん断ひずみを導入することができ、加工チタン材を熱間圧延した際の表面疵の発生を十分に抑制できる。圧下率を高くするほど表層に導入されるせん断ひずみが大きくなり、表面疵の発生が抑制される。圧下率の上限は特に規定する必要はないが、圧下率が極端に大きくなると、チタン素材のうち圧延ロール5に接する表層のみが大きく延ばされ、チタン素材の端面の形状が乱れる。従って、合計圧下率の上限は10%とするのがよい。なお、ひずみを付与するための圧延パス回数には制限がない。1回でも2回以上でもよい。
【0055】
圧延ロール5の表面粗さは、大き過ぎると、加工チタン材の表面性状が悪化する場合がある。このため、圧延ロール5の表面粗さRaは5.0μm以下であることが好ましい。圧延ロール5の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.6μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。圧延ロール5の表面の算術平均粗さRaが0.6μm以上であると、ロール表面にできた僅かな凹凸に起因し、より表層にひずみを付与しやすくなる。
【0056】
圧延ロール5によってチタン素材を圧延する際は、チタン素材を加熱せずに圧延する冷間圧延を行ってもよく、チタン素材を最高で500℃以下まで加熱した後に圧延する温間圧延を行ってもよい。
【0057】
本実施形態では、熱間圧延時に加工チタン材の被圧延面になる表面に、冷間もしくは温間でひずみを付与することとしている。熱間圧延時に発生する表面疵を低減するためには、ある程度の深さまでの再結晶組織を形成させる必要がある。特に高硬度の素材では、ひずみがチタン素材の内部まで入り難く、表層の深い位置までひずみを付与するためには大きな荷重で圧延を付与する必要がある。しかしながら、ひずみが付与されたことにより表層近傍の延性が低下し、表面で割れが発生することが新たに明らかとなった。そのため、安定的に深い位置までひずみを付与すると共に、表層の延性を向上させるためには、ある程度温度を高くしてチタン素材自体の強度を低くすることも効果的である。一方で、強度が低いチタン素材では、表層にひずみを集中させた方が表層の組織を微細にすることできるため室温でひずみを付与した方がよい。すなわち冷間圧延がよい。
【0058】
一方、500℃超の高温で圧延すると、圧延によって付与したひずみが即座に消失してしまい、その後の加熱時に再結晶させることができなくなる場合がある。また、500℃超ではチタン素材の表面に酸化被膜が形成される場合があり、その酸化被膜が温間圧延時に押し込まれて表面欠陥が発生し、その後の熱間圧延時に表面疵に進展する恐れがある。500℃以下であれば、上記のような問題が発生しないことから、500℃以下を上限とすることが好ましい。
【0059】
また、チタン素材の強度及び延性は、合金種類によって高くなる温度域が異なるため、より高い温度で行えばよいというものではない。例えは、工業用純チタンなどでは、室温近傍ではチタンの変形機構の重要な1つである双晶変形が活発に活動するが、400〜500℃程度の温度ではこの双晶変形が発生しなくなるため、室温よりも延性が低下し、かえって割れが発生し易くなる。一方、Alを多く含む合金系ではこの双晶変形が室温近傍でも殆ど発生しないため、500℃以下に加熱にすることで延性を担保することが出来る。従って、圧延後に表面に割れを発生させず、かつ、適切な再結晶組織や表面状態が得られるような温度範囲を選択すればよい。
【0060】
本発明を適用した加工チタン材によって、熱間圧延後の表面欠陥は顕著に抑制される。直方体形状や円柱形のインゴット(鋳造ままの凝固組織)に本発明を適用することによって、分塊圧延などのブレークダウン工程を経ずとも、板や帯状コイルまたは棒線へ熱間圧延した際に、表面欠陥が問題ないレベルまで抑制できるという効果を奏でる。
【0061】
本実施形態の加工チタン材を熱間圧延する場合の加熱温度は、変形抵抗を低減するために、800℃〜950℃の範囲とすることが好ましい。さらには、スラブ加熱時に生じるスケールを抑制するためには、加熱温度は、β変態点未満が望ましい。
【0062】
このように、本実施形態に従って製造された加工チタン材は、熱間圧延に好適に供されるのみならず、熱間圧延されて製造された熱延材は、表面欠陥が顕著に抑制されており、その後、冷間圧延を施しても健全な製品を製造できるという効果を奏するものである。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば、インゴットのブレークダウン工程を省略した鋳造ままのチタン素材であっても、熱延時に発生する表面疵を軽微にすることができ、優れた熱延、冷延製品を提供することができる。
【0064】
また、本実施形態を、ブレークダウン工程を経たチタン素材に適用すると、熱間圧延時に生じる表面欠陥が極めて軽減なものとなる。その結果、熱間圧延した板や棒線の脱スケール工程や最終製品の歩留を、より高めることが可能になる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
【0066】
実施例1〔試験番号1〜14(表1)〕
1050mm幅×250mm厚×6000mm長のJIS1種〜JIS4種の純チタンからなるスラブ(チタン素材)を、電子ビーム溶解法(EBR)により鋳造した。鋳造されたチタン素材の形状は
図1(a)に示すような形状であった。鋳造されたチタン素材のうち、熱間圧延時の被圧延面となる面(
図1(a)および
図2の面1aに相当する2つの面)に対し、一対の圧延ロールによって冷間圧延を行うことで、加工チタン材とした。
【0067】
加工チタン材のひずみを付与した表面を含むように切断した断面を鏡面研磨し、ビッカース硬さ試験機を用いてビッカース硬さを測定した。ひずみ付与した表面から深さ3mm位置と、加工チタン材の1/2厚の位置とにおいて、荷重1kgで7点測定し、最大と最小硬さを除いた5点の平均を求め、表面から3mmの位置と、1/2厚位置部との硬度差(ΔHV)を求めた。
【0068】
加工チタン材の800℃、4時間加熱後の表層の再結晶組織の平均円相当径及び標準偏差については、以下の手順で測定した。
まず、熱間圧延前の加工チタン材を、Ar雰囲気中で800℃の到達温度で4時間加熱する条件で熱処理を行った。次に、熱処理後の加工チタン材のうち、圧延によってひずみを付与した表面を含むように切断した断面を化学研磨し、電子線後方散乱回折法;EBSD(Electron Back Scattering Diffraction Pattern)を用いて、5mm×5mmの領域をステップ5〜20μmで2〜10視野程度測定した。その後、結晶粒径についてEBSDにより測定した結晶粒面積より円相当粒径(面積A=π×(粒径D/2)
2)を求め、結晶粒径分布より対数正規分布における標準偏差σを算出した。
【0069】
次いで、加工チタン材を820℃の炉に挿入後、約240分加熱し、連続熱間圧延ストリップミルにて5mm厚の熱延板を製造し、コイルに巻き取った。次に、熱延板にショットブラストを施し、更に、硝フッ酸からなる連続酸洗ラインを通板させて、片面あたり約50μmを溶削した。その後、両方の被圧延面を目視観察し、表面疵の発生状況を評価した。
【0070】
表面疵の評価は、連続酸洗ライン通過後の熱延板の被圧延面において、10mm以上の表面疵の数が1m
2当たり0.3個を超える場合を不合格(評価D)とし、0.3個以下を合格(評価A〜C)とした。表面疵数が1m
2当たり0.05個以下の場合を評価Aとし、0.05個超0.2個以下を評価Bとし、0.2個超0.3個以下を評価Cとした。なお、表面疵の観察視野として熱延板の被圧延面すべてを調べることが望ましいが、被圧延面のうち100m
2以上の面を無作為に抜き取って調べてもよい。また、熱延丸棒等の表面疵を評価する方法についても、上記熱延板の表面疵を評価する方法に準じて行えばよい。
結果を表1に示す。
また、
図7には、一例として、No.8(実施例)について、対数変換後の結晶粒径の分布を示す。縦軸は、測定した結晶粒全部に対する発生確率である。
【0071】
No.1の比較例は、鋳造ままのスラブ表面を圧延しないまま熱間圧延している。そのため、熱間圧延および酸洗後の熱延板の表面に粗大な表面疵が多発している。
【0072】
No.2および3は比較例である。鋳造ままのスラブ表面を切削精整した後、冷間圧延を施した。No.2および3は、ロール径が大きく、合計圧下量が小さい。そのため、表層のひずみ量が足りず、熱間圧延、酸洗後の熱延板の表面に疵が多発している。
【0073】
No.4〜14は実施例であり、ロール径及び合計圧下量が本発明の範囲を満たしており、表層のひずみ量が十分であり、熱間圧延、酸洗後の熱延板の表面の表面性状が良好である。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例2〔試験番号15〜18(表2)〕
1050mm幅×250mm厚×5500mm長のJIS1種およびASTM2〜4種純チタンスラブ(チタン素材)をプラズマアーク溶解法(PAM)により鋳造した。鋳造されたチタン素材の形状は
図1(a)に示すような形状であった。鋳造されたチタン素材のうち、熱間圧延時の被圧延面となる面(
図1(a)および
図2の面1aに相当する2つの面)に対し、
図3に示す一対の圧延ロールによって冷間圧延を行うことで、加工チタン材とした。
【0076】
次いで、加工チタン材を820℃の炉に挿入後、約240分加熱し、連続熱間圧延ストリップミルにて5mm厚の熱延板を製造し、コイルに巻き取った。次に、熱延板にショットブラストを施し、更に、硝フッ酸からなる連続酸洗ラインを通板させて、片面あたり約50μmを溶削した。その後、両方の被圧延面を目視観察し、表面疵の発生状況を評価した。
【0077】
表2に示すように、No.15〜18は実施例であり、ロール径及び合計圧下量が本発明の範囲を満たしており、表層のひずみ量が十分であり、熱間圧延、酸洗後の熱延板の表面の表面性状が良好である。
【0078】
【表2】
【0079】
実施例3〔試験番号19〜27(表3)〕
1050mm幅×250mm厚×5000mm長のチタン合金スラブを電子ビーム溶解法(EBR)もしくはプラズマアーク溶解法(PAM)により鋳造した。鋳造されたチタン素材の形状は
図1(a)に示すような形状であった。鋳造されたチタン素材のうち、熱間圧延時の被圧延面となる面(
図1(a)および
図2の面1aに相当する2つの面)に対し、
図3に示す一対の圧延ロールによって冷間圧延を行うことで、加工チタン材とした。
【0080】
次いで、加工チタン材を820℃の炉に挿入後、約240分加熱し、連続熱間圧延ストリップミルにて5mm厚の熱延板を製造し、コイルに巻き取った。次に、熱延板にショットブラストを施し、更に、硝フッ酸からなる連続酸洗ラインを通板させて、片面あたり約50μmを溶削した。その後、両方の被圧延面を目視観察し、表面疵の発生状況を評価した。
【0081】
表3に示すように、No.19〜27は実施例であり、ロール径及び合計圧下量が本発明の範囲を満たしており、表層のひずみ量が十分であり、熱間圧延、酸洗後の熱延板の表面の表面性状が良好である。なお、表3のチタン素材の合金成分の「Mm」はミッシュメタル(希土類元素を含む合金)である。
【0082】
【表3】
【0083】
実施例4〔試験番号28〜37(表4)〕
1050mm幅×250mm厚×5000mm長のJIS1種〜4種の純チタンからなるスラブまたはチタン合金からなるスラブ(チタン素材)を電子ビーム溶解法(EBR)もしくはプラズマアーク溶解法(PAM)により鋳造した。鋳造されたチタン素材の形状は
図1(a)に示すような形状であった。鋳造されたチタン素材のうち、熱間圧延時の被圧延面となる面(
図2の面1aに相当する2つの面)に対し、
図3に示す一対の圧延ロールによって温間圧延を行うことで、加工チタン材とした。温間圧延時のチタン素材の加熱温度は表4に記載の通りであった。
【0084】
次いで、加工チタン材を820℃の炉に挿入後、約240分加熱し、連続熱間圧延ストリップミルにて5mm厚の熱延板を製造し、コイルに巻き取った。次に、熱延板にショットブラストを施し、更に、硝フッ酸からなる連続酸洗ラインを通板させて、片面あたり約50μmを溶削した。その後、両方の被圧延面を目視観察し、表面疵の発生状況を評価した。
【0085】
表4に示すように、No.28〜37は実施例であり、ロール径及び合計圧下量が本発明の範囲を満たしており、表層のひずみ量が十分であり、熱間圧延、酸洗後の熱延板の表面の表面性状が良好である。
【0086】
【表4】
【0087】
実施例5〔試験番号38〜40(表5)〕
400mm幅×400mm厚×5500mm長のJIS2種純チタンからなるチタンブルームと、200mm幅×200mm厚×5500mm長のJIS2種純チタンからなる断面が矩形のチタンビレット(角ビレット)と、200mm直径×5500mm長のJIS2種純チタンからなる断面が円形のチタンビレット(丸ビレット)を電子ビーム溶解法法(EBR)により鋳造した。鋳造されたチタン素材の形状はそれぞれ
図1(b)、
図1(c)および
図1(d)に示すような形状であった。鋳造されたチタン素材のうち、熱間圧延時の被圧延面となる面(
図1(b)、
図1(c)および
図1(d)ならびに
図2の面2a〜4aに相当する面)に対し、それぞれ
図4、
図5および
図6に示す圧延ロールによって冷間圧延を行うことで、加工チタン材とした。
【0088】
次いで、加工チタン材を820℃の炉に挿入後、約240分加熱し、連続熱間圧延機にて直径10mmの熱延丸棒を製造し、コイル状に巻き取った。次に、熱延丸棒にショットブラストを施し、更に、硝フッ酸浴に浸漬させて、表面を約50μm溶削した。その後、被圧延面を目視観察し、表面疵の発生状況を評価した。
【0089】
表5に示すように、No.38〜40は実施例であり、ロール径及び合計圧下量が本発明の範囲を満たしており、表層のひずみ量が十分であり、熱間圧延、酸洗後の熱延丸棒の表面の表面性状が良好である。
【0090】
【表5】
チタン素材1に対し、ロール直径が20mm以上90mm以下の圧延ロール5を用いて、合計圧下量1.0%以上で冷間圧延または温間圧延することによって、前記チタン素材の表層にひずみを付与する。この製造方法で得られる加工チタン材によれば、熱間圧延時に発生する表面疵を低減できる。