(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面を用いて以下に説明する。
本発明者らは、熱間圧延による表面欠陥を低減する観点から、結晶粒径が数十mmにもおよぶインゴットの粗大な凝固組織を、さらにはブレークダウン後にも残存している当該凝固組織の影響を、無害化する方法とそれを適応した加工チタン材について、鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得、本発明に至った。
【0015】
粗大な凝固組織を細粒化するため、或いは凝固組織の影響が残存している部位を解消するためには、チタン素材の表面に所定の歪みを付与した後、熱間圧延時の加熱など所定の熱処理によって、再結晶させる方法が考えられる。
【0016】
本発明では、所定の突起を有するロールを用いてチタン素材を圧延し、突起をチタン素材に押込むことにより、チタン素材の表面に複数のディンプル(凹凸)を形成し、素材表層にひずみを付与することとしている。この方法によって得られた加工チタン材は、表層に加工組織を備えるものとなり、熱間圧延時の表面欠陥が顕著に抑制できることを見出した。また、本発明では突起を押し込み、物理的に塑性変形させてディンプルを形成することで、安定して歪みを導入することができる上、ディンプルの底部に効率的かつ十分な歪を導入することができ、その後の熱間圧延の際の加熱によって表層に微細な再結晶を形成させることで、表面疵の発生を抑制できる。
【0017】
以下、本実施形態の加工チタン材の製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率を調整している。
【0018】
まず、本実施形態の加工チタン材の製造方法によって製造される加工チタン材(以下、「本実施形態の加工チタン材」ともいう。)について説明する。このチタン材は、表層に加工組織を備えるものであり、その後に熱間圧延に供される素材に適している。また、この加工チタン材は、ディンプルの底部の曲率半径R
1が3〜30mmであり、ディンプルが平面視して千鳥状となるよう配列されていることが好ましい。
また、本実施形態の加工チタン材は、ディンプルの半径をr
1(mm)とするとき、隣接する前記ディンプルの中心間距離P、および前記ディンプルが配列された各列間の距離Qがともに、(2×r
1)から(3×r
1)mmの範囲内であることが好ましい。
また、本実施形態の加工チタン材の製造方法において用いられるチタン素材は、工業用純チタンもしくはチタン合金からなることが好ましい。
更に、本実施形態の加工チタン材の製造方法において用いられるチタン素材は、インゴット、スラブ、ブルームまたはビレットが例示される。その形状は、その100〜300mmであり、断面が円形状のチタン素材の直径は、90〜250mmであることが好ましい。
【0019】
本実施形態の加工チタン材は、後述するように、突起付きのロールを用いて、当該ロールを押し込んでチタン素材表面にディンプルを形成してひずみを付与することで製造される。製造方法の詳細については後述する。
【0020】
図1に、本実施形態の加工チタン材の例を示す。本実施形態の加工チタン材は、
図1(a)に示すようにスラブ1であってもよく、
図1(b)に示すようにブルーム2であってもよく、
図1(c)に示すように長手方向と垂直な断面が矩形であるビレット(矩形ビレット)3であってもよく、
図1(d)に示すように長手方向と垂直な断面が円形であるビレット(円形ビレット)4であってもよい。また、
図1(a)のスラブ1、
図1(b)のブルーム2、
図1(c)の矩形ビレット3、および
図1(d)の円形ビレット4それぞれの表面1a、2a、3a、4aに、複数のディンプル1b、2b、3b、4bが形成されている。なお図示してはいないが、加工チタン材が
図1(a)〜
図1(c)のいずれかの矩形断面の場合、長手方向の側面にもディンプルが形成されてもよい。
【0021】
図2に、
図1(a)〜
図1(d)におけるA−A線に沿った断面模式図を示す。なお、
図1(a)〜
図1(d)においてA−A線に沿って切断した場合、その断面構成は
図1(a)〜
図1(d)で同様の構成となるため、説明の便宜上、当該断面図をまとめて
図2に示している。
【0022】
なお、厚みの1/2深さ位置は、
図1(a)または
図1(b)に示すスラブ1またはブルーム2では、それぞれスラブ厚tまたはブルーム厚tの1/2t厚の位置である。また、
図1(c)に示すアスペクト比1程度の矩形断面のビレット3では、ビレット断面の重心位置になり、
図1(d)に示す円形断面のビレット4では、ビレット断面の中心位置になる。
【0023】
熱間圧延によって生じ得る表面疵を安定的に抑制するには、加工チタン材の結晶組織を微細化する必要がある。もちろん、加工チタン材全体の結晶組織を微細化しても表面疵の抑制は可能であるが、そのためには、素材全体に多量のひずみを付与する必要がある。また、必要に応じて熱間圧延前に幅方向に圧延する場合があるところ、鋳造ままのチタン素材に対する幅方向の圧下量が大きくなると、粗大鋳造組織に起因した皺が発生し、熱間圧延後に表面疵が発生する場合がある。
【0024】
このように、鋳造組織起因だけでなく、幅方向の圧延を大きくした際の皺に由来する表面疵を安定的に抑制するためには、少なくとも表層を熱間圧延時には微細な再結晶組織にする必要がある。ここでいう表層とは、ディンプル底部から深さ3mmの深さ位置までの間の領域である。また、ディンプル底部はディンプルの最深部である。熱間圧延の加熱時に表層を微細な再結晶組織にするためには、ディンプル底部から3mmの深さの位置まで所定量のひずみが導入されている必要がある。種々調査の結果、ディンプル底部から深さ3mmの領域にて、相当ひずみが0.2以上であれば、熱間圧延の加熱時に再結晶が生じ、微細組織ができることが本発明者らによって明らかにされている。このようにして得られた再結晶層の厚さは、3mm以上となり、熱間圧延時の表面疵を抑制することができる。再結晶層の厚さは3mm以上であれば十分であり、上限は特に定めないが、この厚さを大きくするためには、ひずみ導入のためのプレス荷重を大きくする必要がある。よって、プレス機の耐荷重の制約の観点から、再結晶層の厚さの実質的な上限は25mmである。
【0025】
このように、本実施形態の加工チタン材は、表面に複数のディンプルが形成されているため、素材表層に十分なひずみが導入されたものとなり、熱間圧延時の加熱時に、微細で粒径が揃った再結晶を形成できるようになる。
【0026】
次に、本実施形態の加工チタン材に形成されているディンプルの好適な形態について説明する。
図1(a)〜(d)に示すように、本実施形態の加工チタン材の表面には、複数のディンプル1a〜4aが形成されているが、これらのディンプルの曲率半径R
1は3〜30mmとすることが好ましい。
【0027】
ディンプルの底部形状を曲率半径R
1が3〜30mmである形状、つまり球面状とする理由は、同曲率半径を有する突起をチタン素材1に押込みディンプルを形成した際に、ディンプルの底部近傍にデットメタル部が形成されにくく、周囲へのメタルフローが等方的(同心円状)になるためである。すなわち、ディンプルの底部を球面状とすることにより、ディンプル周辺へのひずみの導入が容易であるためである。また、のちに詳述するが、ディンプルを先端に曲率半径Rが3〜30mmである球面状の押圧面を有する突起、つまり先端が球頭の突起を用いて形成することによって、ディンプルの形状が、熱間圧延時にディンプルの端部が被さり表面疵に発展するような急峻な凹になりにくいためである。これらのことから、ディンプルの底部形状は曲率半径R
1が3〜30mmの範囲の形状(先端が球頭状の突起に対応する球面状)とすることが好ましい。
【0028】
ディンプル底部の球面状の曲率半径R
1が3mm未満の場合、表面疵に発展する急峻な凹みとなってしまったり、あるいは、加工チタン材表層の深さ方向に十分にひずみを導入されずに、組織が細粒化される表層厚さが浅くなったりして、結果的に表面疵が発生してしまうおそれがある。そのため、ディンプル底部の曲率半径R
1は3mm以上とすることが好ましい。
一方で、ディンプルの曲率半径R
1が30mm超では、デットメタル部が大きくなり、加工チタン材表層に十分なひずみを付与することができないおそれがあるため、ディンプルの曲率半径R
1は30mm以下とすることが好ましい。このように、ディンプルの曲率半径R
1を30mm以下とすることで、デットメタル部が小さくなり、加工チタン材表層に十分な深さまでひずみを集中して導入することができる。
【0029】
次に、本実施形態の加工チタン材に形成されているディンプルの好適な配列パターンについて、チタン素材の種類としてスラブ(
図1(a))を用いた場合を例に挙げ図面とともに説明する。
【0030】
図3(a)〜(c)は、本実施形態におけるディンプルの配列パターンを説明するための図であって、
図1(a)に示す加工チタン材(スラブ1)を平面視した際のディンプル1b、1b´、1b´´の模式図である。なお、
図3(a)〜(c)中の符号X1〜X3はディンプルの配置列を表す。
また、
図4は本実施形態におけるディンプルの形状を説明するためのディンプル断面図であって、
図3(a)のB−B線に沿った断面図である。
【0031】
図3(a)に示すように、スラブ1を平面視した際、1列上に複数のディンプル1bが規則的に配置された各突起列X1、X2、X3が、スラブ1の幅方向もしくは長手方向に配列されており、かつ複数のディンプル1bが互いにスラブ1の幅方向もしくは長手方向に交互に配置されている。すなわち、平面視して千鳥状となるようディンプル1bが配列されている。このような配列パターンを有するディンプル1bは、同配列パターンを有する突起付きのロールによって形成されるが、この突起がスラブ1の表面1aに押込まれることによって、スラブ1の被圧延面に、均一なひずみを効率的に導入することができる。なお、突起列X1、X2、X3の配置方向はスラブ1の幅方向、長手方向のいずれでもよく、また幅方向(もしくは長手方向)から一定の角度を有する方向であっても構わない。また説明の便宜上、突起列が3列のパターンを説明しているが、その列数についても、スラブ1の寸法(径や幅等)や、ディンプル形成時に用いる突起付きのロールや突起の寸法等によって適宜決定してよい。
【0032】
また、ディンプルは、
図3(a)および
図4に示すように互いに一定の距離、離間させて配置してもよく、
図3(b)に示すように、同列上で隣り合うディンプル1b´同士は離間させたまま、スラブ幅方向もしくは長手方向に配列させた各列同士が接するよう配置してもよい。また、
図3(c)に示すように、すべてのディンプル1b´´が接するよう、隙間なく配置させてもよい。
【0033】
次に、同列上に配列された複数のディンプルのうち、隣接するディンプルの中心間距離Pと、各列間の距離(ディンプル列間距離)Qについて説明する。中心間距離Pとは、
図3(a)〜(c)、
図4に示すように、ディンプル1b、1b´、1b´´を平面視した際、同列上(例えば、列X1上や列X2上など)で隣接するディンプルの中心間の距離のことであり、またディンプル列間距離Qとは、隣り合うディンプル列(例えば列X1と列X2)の中心軸間の距離のことを表す。
【0034】
本実施形態では、ディンプルの半径をr
1(mm)とするとき、中心間距離P(mm)および、ディンプル列間距離Q(mm)はともに、(2×r
1)以上(3×r
1)以下とすることが好ましい。
中心間距離P、ディンプル列間距離Qが、(2×r
1)よりも小さい場合、メタルフローが抑制されてディンプル周囲に導入されるひずみ量が不十分となるおそれがある。一方、中心間距離P、ディンプル列間距離Qが(3×r
1)よりも大きい場合、隣接するディンプル同士の間隔が過度に開くため、導入されるひずみ量が不十分になり、その結果、熱間圧延後の表面疵が十分に抑制されない場合がある。
【0035】
以上、
図1(a)のスラブ1を例に挙げ、本実施形態のディンプルの好適な形態について説明したが、
図1(b)のブルーム2、
図1(c)矩形ビレット3ならびに
図1(d)の円形ビレット4においても、上記と同様の形態のディンプルが形成されている。
【0036】
本実施形態におけるチタン素材は、熱間圧延に供されるチタン鋳片であり、例えば次の(A)または(B)のようなインゴット、スラブ、ブルーム、ビレットなどがチタン素材として例示できる。すなわち、チタン素材には、既に熱間圧延または冷間圧延により所定の厚み未満に圧延されたチタン板は除かれる。よって、直方体や立方体のチタン素材の場合、その厚みは例えば100mm以上であり、円柱状のチタン素材の場合、その直径は例えば90mm以上であるものを対象とする。チタン素材(B)は、チタンを溶解して鋳造させたことによって得られる凝固組織からなり、結晶粒径が10mm以上である粗大粒が存在する鋳造ままの組織を有している。
【0037】
(A)消耗電極式アーク溶解法(VAR : Vacuum Arc Remelting)、電子ビーム溶解法(EBR : Electron Beam Remelting)、プラズマアーク溶解法(PAM : Plasma Arc Melting)などにより、チタンを一旦溶融させてから凝固させて得たインゴットを、更に分塊や鍛造、圧延などの熱間加工によってブレークダウンして、スラブやビレットなどの形状に成形したチタン素材。
【0038】
(B)電子ビーム溶解法またはプラズマアーク溶解法により、チタンを一旦溶融させてから凝固させる際に、直接熱延可能な大きさの矩形のインゴットとし、上記(A)のブレークダウン工程を省略して得られたチタン素材。
【0039】
電子ビーム溶解法では、照射する電子ビームが偏光によりビームを集中できるため、鋳型と溶融チタンの間の狭い領域でも、熱を供給しやすく、それ故に鋳肌を良好に制御することができる。また、鋳型の断面形状の自由度が高い。そのため、上記(B)のような、直接熱間圧延に供することが可能なサイズの矩形や円柱形のインゴットは、電子ビーム溶解炉を用いて溶製することが好ましい。また、プラズマアーク溶解法では、電子ビーム溶解法と加熱原理が異なるものの、電子ビーム溶解法と同様の効果が得られる。
【0040】
チタン素材は、工業用純チタンもしくはチタン合金からなることが好ましい。
工業用純チタンは、JIS、H4600規格の1種〜4種、およびそれに対応するASTM 265B規格のGrade1〜4、DIN 17850規格のGradeI(WL3.7025)、GradeII(WL3.7035)、GradeIII(WL3.7055)で規定される工業用純チタンを含むものとする。すなわち、本発明で対象とする工業用純チタンは、質量%で、C:0.1%以下、H:0.015%以下、O:0.4%以下、N:0.07%以下、Fe:0.5%以下、残部Tiからなる。以下、各元素の含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
【0041】
一方、低合金やα型チタン合金は、必要とする用途において適切は合金を用いればよい。より好ましくは、実質的に合金成分が5%以下の低合金がよい。たとえば、Pd<0.15%や、Ru<0.10%、さらに希土類元素<0.02%を添加した高耐食性合金や、Cu、Al、Si、Sn、Nb、Feを合計で5%未満添加した耐熱合金などが例示できる。
より具体的には、低合金として、例えば高耐食性合金(ASTM Grade 7、11、16、26、13、30、33あるいはこれらに対応するJIS品種や更に種々の元素を少量含有させたもの)、Ti−0.5Cu、Ti−1.0Cu、Ti−1.0Cu−0.5Nb、Ti−1.0Cu−1.0Sn−0.3Si−0.25Nb、Ti−0.5Al−0.45Si、Ti−0.9Al−0.35Siなどがある。またα型チタン合金としては、例えば、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−2.75Sn−4Zr−0.4Mo−0.45Siなどがある。
【0042】
α+β型チタン合金としては、例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−7V、Ti−3Al−2.5V、Ti−3Al−5V、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−1Fe−0.35O、Ti−1.5Fe−0.5O、Ti−5Al−1Fe、Ti−5Al−1Fe−0.3Si、Ti−5Al−2Fe、Ti−5Al−2Fe−0.3Si、Ti−5Al−2Fe−3Mo、Ti−4.5Al−2Fe−2V−3Moなどがある。
【0043】
さらに、β型チタン合金としては、例えば、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn,Ti−8V−3Al−6Cr−4Mo−4Zr,Ti−10V−2Fe−3Mo,Ti−13V−11Cr−3Al,Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn,Ti−6.8Mo−4.5Fe−1.5Al、Ti−20V−4Al−1Sn、Ti−22V−4Alなどがある。
【0044】
本発明に係るチタン合金は、例えば、O:0〜0.5%、N:0〜0.2%、C:0〜2.0%、Al:0〜8.0%、Sn:0〜10.0%、Zr:0〜20.0%、Mo:0〜25.0%、Ta:0〜5.0%、V:0〜30.0%、Nb:0〜40.0%、Si:0〜2.0%、Fe:0〜5.0%、Cr:0〜10.0%、Cu:0〜3.0%、Co:0〜3.0%、Ni:0〜2.0%、白金族元素:0〜0.5%、希土類元素:0〜0.5%、B:0〜5.0%、および、Mn:0〜10.0%から選択される1種以上を0%を超えて含有させることによって、加工チタン材の表面に目標とする機能を付与することができる。
【0045】
上記以外の元素でチタンに含有させることができる元素は、金属材料の一般常識として固溶強化、析出強化(固溶しない場合と析出物を形成させる場合がある)による強度向上などが期待できる元素である。これらの元素としては、原子番号で水素(1)からアスタチン(85)までの元素(但し、第18族元素である貴ガス元素を除く)が例示され、合計で5%程度まで許容される。
【0046】
上記以外の残部は、Tiおよび不純物である。不純物としては、目標特性を阻害しない範囲で含有することができ、その他の不純物は主に原料やスクラップから混入する不純物元素及び製造中に混入する元素があり、例としてC、N、O、Fe、H等が代表的な元素で、その他にMg、Cl等原料から混入する元素やSi、Al、S等製造中に混入する元素等がある。これらの元素は、2%程度以下であれば本願の目標特性を阻害しない範囲と考えられる。
【0047】
また、本発明に係るチタン合金は、例えば、O:0.01〜0.5%、N:0.01〜0.2%、C:0.01〜2.0%、Al:0.1〜8.0%、Sn:0.1〜10.0%、Zr:0.5〜20.0%、Mo:0.1〜25.0%、Ta:0.1〜5.0%、V:1.0〜30.0%、Nb:0.1〜40.0%、Si:0.1〜2.0%、Fe:0.01〜5.0%、Cr:0.1〜10.0%、Cu:0.3〜3.0%、Co:0.05〜3.0%、Ni:0.05〜2.0%、白金族元素:0.01〜0.5%、希土類元素:0.001〜0.5%、B:0.01〜5.0%、および、Mn:0.1〜10.0%、から選択される1種以上を含有してもよい。
【0048】
本発明に係るチタン合金は、O:0.02〜0.4%、N:0.01〜0.15%、C:0.01〜1.0%、Al:0.2〜6.0%、Sn:0.15〜5.0%、Zr:0.5〜10.0%、Mo:0.2〜20.0%、Ta:0.1〜3.0%、V:2.0〜25.0%、Nb:0.15〜5.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.05〜2.0%、Cr:0.2〜5.0%、Cu:0.3〜2.0%、Co:0.05〜2.0%、Ni:0.1〜1.0%、白金族元素:0.02〜0.4%、希土類元素:0.001〜0.3%、B:0.1〜5.0%、および、Mn:0.2〜8.0%、から選択される1種以上を含有するのがより好ましく、O:0.03〜0.3%、N:0.01〜0.1%、C:0.01〜0.5%、Al:0.4〜5.0%、Sn:0.2〜3.0%、Zr:0.5〜5.0%、Mo:0.5〜15.0%、Ta:0.2〜2.0%、V:5.0〜20.0%、Nb:0.2〜2.0%、Si:0.15〜0.8%、Fe:0.1〜1.0%、Cr:0.2〜3.0%、Cu:0.3〜1.5%、Co:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜0.8%、白金族元素:0.03〜0.2%、希土類元素:0.001〜0.1%、B:0.2〜3.0%、および、Mn:0.2〜5.0%、から選択される1種以上を含有するのがさらに好ましい。
【0049】
ここで、白金族元素としては、具体的には、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtが挙げられ、これらのうち1種以上を含有させることができる。2種以上の白金族元素を含有させる場合、上記白金族元素の含有量は、白金族元素の総量を意味する。また、希土類元素(REM)としては、具体的にはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuが挙げられ、これらのうち1種以上を含有させることができる。2種以上の希土類元素を含有させる場合、例えば、ミッシュメタル(Mm)や、ジジム合金のような希土類元素の混合物や化合物を用いてもよい。また、2種以上の希土類元素を含有させる場合、上記希土類元素の含有量は、希土類元素の総量を意味する。
【0050】
次に、本実施形態の加工チタン材の製造方法を説明する。
本実施形態の加工チタン材の製造方法は、ロール対の隙間にチタン素材を通過させて、前記チタン素材の表面に複数のディンプルを形成する加工チタン材の製造方法である。本実施形態の加工チタン材の製造方法では、前記ロール対の少なくとも一方のロールとして、表面を展開して平面視した場合に千鳥状となるよう配列された複数の突起を有するロールを用いる。このような、表面に複数の突起を備えるロールを用い、当該突起をチタン素材表面に押し込むことでディンプルを形成して素材表層部にひずみを付与することとしている。一般に、インゴット等に対して鍛造や大径ロールでひずみを付与しようとした場合、型と接触する部分ではメタルフローを生じず、いわゆるデットメタルと呼ばれる部位が発生する。このデットメタル部はひずみ量が少なくなるため、鍛造や大径ロールでひずみを付与すると、表層部ではなくより内部にひずみが導入されてしまい、表層部の組織を細粒にすることはできない。
そこで、本発明者らは、デットメタルの発生を防ぎ、かつ、効率的にチタン素材表層にひずみを均一に付与することで、粗粒部を発生させない方法について検討し、下記の方法で処理すれば表層に効率的にひずみが付与可能であることを見出した。
以下、本実施形態の加工チタン材の製造方法について詳述する。
【0051】
本実施形態の加工チタン材の製造方法は、前記突起が、その先端に球面状の押圧面を備え、前記押圧面の高さをh(mm)、前記押圧面の曲率半径をR(mm)、前記チタン素材の通過方向において隣接する前記突起の中心間距離をS(mm)、前記突起の押込み量をD(mm)とするとき、前記Rが3〜30の範囲内であり、前記Dが2〜10の範囲内で、かつh以下であり、前記Sが2(R
2−(R−D)
2)
1/2〜3(R
2−(R−D)
2)
1/2の範囲内である、条件で行う。
本実施形態の加工チタン材の製造方法は、突起が配列された各列間の距離Lが、2(R
2−(R−D)
2)
1/2〜3(R
2−(R−D)
2)
1/2の範囲内であることが好ましい。
また、本実施形態の加工チタン材の製造方法は、ディンプルを形成する工程が、チタン素材の表層温度が0℃以上、500℃以下の温度で行うことが好ましい。
さらに、本実施形態の加工チタン材の製造方法は、ディンプルを形成する工程の前のチタン素材が、電子ビーム溶解法またはプラズマアーク溶解法を用いて製造されたものであることが好ましい。
またさらに、本実施形態の加工チタン材の製造方法は、チタン素材が、工業用純チタンもしくはチタン合金からなることが好ましい。
またさらに、本実施形態の加工チタン材の製造方法は、チタン素材がスラブ、ブルームまたはビレットであることが好ましい。
【0052】
本実施形態の加工チタン材の製造方法で用いる加工機として、一対のロール2を備える2ロール式の加工機を例に挙げて説明することとし、
図5に、当該2ロール式の加工機の概略側面図を示す。なお、以下の説明において、加工対象であるチタン素材の種類としてスラブ(
図1(a))を用いた場合を例に挙げ説明する。また、図中の太矢印はチタン素材(スラブ)1の搬送方向であって、細矢印はロール2の回転方向を示す。
【0053】
本実施形態は、
図5に示すように、チタン素材(スラブ)1を、一対のロール5a間を搬送させながら加工する方法である。具体的には、チタン素材1を、曲率半径Rが3〜30mmの先端形状を有する複数の突起6が配列された一対のロール5a間を搬送させながら、その表面1aに突起6を押込み、所定量塑性変形させて表面1aにディンプル1bを形成することで、チタン素材1の表層にひずみを付与するものである。なお、チタン素材1のうち、少なくとも後工程の熱間圧延時に被圧延面になる面にディンプル1bを形成しひずみを導入すればよい。すなわち、ディンプル1bの形成面は素材の一部の面のみであってもよいし、全面であってもよい。よって、一対のロール5aのうち少なくとも一方のロールに前述したような突起6が形成されていればよい。
この製造方法によれば、熱間圧延時の表面欠陥を顕著に抑制することができる加工チタン材を、容易に、高効率に製造することが可能である。
【0054】
なお、本実施形態では、表面に突起6を備えたロール5a間を搬送させてチタン素材1の表面1aにディンプル1bを形成させる際、その搬送回数(ロール間の通過回数)が1回でもよく、2回以上としてもよい。すなわち、リバース圧延のごとく、一度ロール5a間を搬送させて表面にディンプルを形成した後、2回目の搬送方向を1回目と逆方向とした上で再度ロール5a間を搬送させて突起6を押付けてもよい。またこのような押込み工程は特に限定せず、チタン素材に割れが生じない範囲でその回数は決定してよい。
【0055】
また、本実施形態の加工対象であるチタン素材の形状は、
図1(a)に示すスラブや
図1(b)に示すブルームであってもよく、また
図1(c)、(d)に示すような、長手方向に対して直角な断面が矩形であるビレット3、もしくは同断面が円形であるビレット4であってもよい。
チタン素材がスラブやブルームである場合は、チタン素材のうち最も面積が大きな面が熱間圧延時の被圧延面になるので、少なくともその面にディンプルを形成すればよい。またチタン素材がビレットの場合は、その長手方向に延びる全面が被圧延面になり得る。そのため、例えば、断面が矩形のビレットの場合は、その全面にディンプルを形成し、チタン素材の全表面にひずみを導入することが望ましい。例えば、
図1(d)に示すような断面が円形のビレット4をチタン素材として採用した場合、マンネスマン型圧延法のように、所定の突起を複数設けた、バレル型やコーン型のロールを用いて加工することが望ましい。具体的には、例えば、円形ビレット4の外周に、バレル型(もしくはコーン型)の複数のロール(例えば3ロール)を配置して、円形ビレット4が圧延されて自転しながら、搬送方向に進行する方法で、ビレット表面にディンプルを形成しひずみを導入することが望ましい。
【0056】
このように、本実施形態では、
図5に示すような2ロール式の加工機を例に挙げているが、本発明のチタン素材の製造方法では、加工機の型式やロール数等は問わず、上述したようなマンネスマン型圧延法などを採用でき、ロール数も3以上であっても構わない。そのような場合でも、少なくとも1つのロールに本実施形態に係る突起6が形成されていればよい。
【0057】
図5に示すように、ロール5aの表面には、曲率半径Rが3〜30mmの先端形状を有する複数の突起6が設けられている。また、そのこれら複数の突起6は、ロール5a表面を展開して平面視した場合に千鳥状となるよう配列されている。
【0058】
突起6の先端の押圧面を曲率半径R3〜30mmである球面状、つまり球頭とした理由は、突起6をチタン素材1に押込みディンプル1bを形成した際に、ディンプル1bの底部近傍にデットメタル部が形成されにくく、周囲へのメタルフローが等方的(同心円状)になるためである。すなわち、突起6の先端を球頭とすることにより、押込み後に形成されるディンプル1bの周辺へのひずみの導入が容易であるためである。加えて、押込む突起6の先端形状を球頭にすることによって、ディンプル1bの形状が、熱間圧延時にディンプル1bの端部が被さり表面疵に発展するような急峻な凹になりにくいためである。例えば、突起の先端形状を、矩形や四角錐や三角錐にした場合、突起に必ず平面部と角形状の角部が存在する。そのような突起でディンプルを形成した場合、平面部ではデットメタル部が形成されてしまう場合がある。また、角形状のディンプル部のうち角部でメタルフローが拘束されてしまい、素材深さ方向へのひずみの導入を阻害するおそれがある。そのため、ロール5aに設ける突起6の先端の押圧面は、曲率半径R3〜30mmの範囲の球面状(球頭)とする。
【0059】
突起6先端の球面状の押圧面(球頭)の曲率半径Rが3mm未満の場合、突起6の押込み量Dが大きい(例えば2mm以上)時には表面疵に発展する急峻な凹みを形成してしまい、一方、急峻な凹みが生じないように押込み量Dを小さくする(例えば2mm未満)と、素材表層の深さ方向に十分にひずみを導入されずに、組織が細粒化される表層厚さが浅く表面疵が発生してしまう。そのため、曲率半径Rは3mm以上とする。
一方で、曲率半径Rが30mm超では、デットメタル部が大きくなり、素材表層に十分なひずみを付与することができないため、曲率半径Rは30mm以下とする。このように、曲率半径Rを30mm以下とすることで、デットメタル部が小さくなり、素材表層に十分な深さまでひずみを集中して導入することができる。なお、曲率半径Rが小さいと突起6の摩耗の影響を受けやすいことから、曲率半径Rの下限は、好ましくは5mmである。また、曲率半径Rが大きいとロール5aへの負荷荷重が増大することから、曲率半径Rの上限は、好ましくは15mmである。
【0060】
本実施形態では、上述したような形状を有する突起6を備えたロール5aを用い、チタン素材1に当該突起6を押し込むことでディンプル1bを形成しひずみを導入するが、その際の押込み量Dは、2〜10mm、突起の押圧面高さh(mm)以下とする。
熱延後の表面疵を十分に抑制するには、熱間圧延前の加工チタン材の表面から深さ3mm以上の表層を細粒化させておくことが有効である。本実施形態では、チタン素材の表面から深さ3mm以上の表層を細粒化させるために、素材表面から深さ2mm以上の押し込み量の変形を加える必要がある。すなわち、突起6の押込みによって形成するディンプル1bの凹部の深さを2mm以上とする。一方、押込み量Dが突起6の押圧面高さhを超えると、表面疵に発展するような急峻な凹みが形成される場合があるほか、メタルフローの行き場がなくなってしまう。そのため、突起6による押込み量Dは2〜10mmの範囲で、且つ突起の押圧面高さh以下とする。
【0061】
素材表層に十分な歪を導入し、熱延後の表層組織を細粒化させるべく、2mm以上の押込み量Dで突起6を押し込むが、この押込み量Dを得るために、突起6の高さHは狙いの押込み量D超とすることが望ましい。突起3の高さHが低すぎると十分な押込み量Dを確保できないおそれがある。これらの観点から、突起6の高さHは、突起6の押圧面高さhを超える高さにしてもよい(後述する
図7(b)参照)。また、突起6dの先端に設けられた球面状の押圧面は、押圧面高さh=曲率半径Rの関係を持つ形状、すなわち、半球面状でもよいが、押圧面高さh<曲率半径Rの関係を持つ形状でもよい。なお、球面状とは球面の一部をなす形状をいい、例えば、
図7(a)、(b)に例示するように、半球面状であってもよい。
【0062】
次に、突起6のロール5a上での配列パターンについて説明する。
図6(a)〜(c)は、本実施形態における突起6(6a、6b、6c)の配列パターンを説明するための図であって、ロール5a表面を展開して平面視した際の突起6a、6b、6cの模式図である。なお、
図6(a)〜(c)中の符号Y1〜Y3はそれぞれ突起列を表す。
また、
図7(a)、
図7(b)は本実施形態における突起6(6a、6d)の形状を説明するためのロール径方向の断面拡大図であって、特に
図7(a)は
図6(a)のC−C線に沿った断面図である。
【0063】
図6(a)〜(c)に示すように、ロール5a表面を展開して平面視した際、1列上に複数の突起6(6a、6b、6c)が規則的に配置された各突起列Y1、Y2、Y3が、ロール5aの幅方向もしくは周方向に配列されており、かつ複数の突起6(6a、6b、6c)が互いにロール5aの幅方向もしくは周方向に交互に配置されている。すなわち、平面視して千鳥状となるよう突起6を配列されている。このような配列パターンで設けられた突起6を素材1の表面1aに押込みディンプル1bを形成することによって、素材1の被圧延面に、均一なひずみを効率的に導入することができる。なお、突起列Y1、Y2、Y3の配置方向はロール5aの周方向、幅方向のいずれでもよく、また周方向(もしくは幅方向)から一定の角度を有する方向であっても構わない。また説明の便宜上、突起列が3列のパターンを説明しているが、その列数についても、用いるロールの寸法(径や幅等)や突起6の寸法等によって適宜決定してよい。
【0064】
また、突起6は、
図6(a)および
図7(a)に示すように互いに一定の距離、離間させて配置してもよく、
図6(b)に示すように、隣り合う突起6b同士は離間させたまま、ロール周方向もしくは幅方向に配列させた各列同士が接するよう配置してもよい。また、
図6(c)に示すように、すべての突起6cが接するよう、隙間なく配置させてもよい。
【0065】
なお、
図7(b)も
図7(a)と同様に、突起同士が接することなく、離間して配置されている例であるが、上述したように、突起6dの形状が、突起6dの曲率半径Rを超える高さHであってもよい。その場合、突起高さHのうち曲率半径Rを超える部分、すなわちロール表面と垂直な部分(円柱部)pを有することとなる。
【0066】
次に、同列上に配列された複数の突起6のうち、隣接する突起6の中心間距離Sと、各列間の距離(突起列間距離)Lについて説明する。中心間距離Sとは、
図6(a)〜(c)、
図7(a)、
図7(b)に示すように、突起6を平面視した際、同列上(例えば、列Y1上や列Y2上など)で隣接する突起6の中心間の距離のことであり、また突起列間距離Lとは、隣り合う突起列(例えばY1とY2)の中心軸間の距離のことを表す。また、突起列間距離Lはロールの回転方向に沿う距離である。
【0067】
本実施形態では、この中心間距離Sが2(R
2−(R−D)
2)
1/2〜3(R
2−(R−D)
2)
1/2の範囲内(R:曲率半径、D:押込み量)となるよう突起6を配列する。すなわち、突起6を平面視した場合の半径をrとした場合、中心間距離Sが2r以上3r以下の範囲内であることが好ましい。
中心間距離Sが、2(R
2−(R−D)
2)
1/2よりも小さい場合(2rよりも小さい場合)、突起6の押込み量Dが十分に確保できずひずみ量が不十分となるおそれがある。さらに中心間距離Sが、2(R
2−(R−D)
2)
1/2よりも小さい場合(2rよりも小さい場合)では、突起6を押込んでいく際、周囲のディンプルがメタルフローの妨げとなり、メタルフローのための空間が制約され、十分なひずみを付与できなくなるおそれがある。一方、中心間距離Sが、3(R
2−(R−D)
2)
1/2よりも大きい場合(3rよりも大きい場合)、隣接する突起6同士の間隔が過度に開くため、突起6によって押し込まれて導入されるひずみ量が不十分になり、その結果、熱間圧延後の表面疵が十分に抑制されない場合がある。
なお、中心間距離Sが2r以上の場合、すなわち隣接する突起6の間にある程度のすき間がある場合であっても、突起6に押し込まれた部分は周囲へのメタルフローを伴うため、形成されるディンプル1bの表層部周辺に加え、当該すき間部分でもひずみを十分に導入することができる。
【0068】
さらに本実施形態では、突起列間の距離Lは、2(R
2−(R−D)
2)
1/2〜3(R
2−(R−D)
2)
1/2の範囲内とすることが好ましい。すなわち、突起6を平面視した場合の半径をrとした場合、突起列間の距離Lは2r以上3r以下の範囲内であることが好ましい。
突起列間の距離Lが、2(R
2−(R−D)
2)
1/2よりも小さい場合(2rよりも小さい場合)、一定のひずみを付与することは可能ではあるが、その量が不十分となる場合もあるほか、ロールによる加工負荷や荷重の増大も懸念される。そのため、突起列間の距離Lは、2(R
2−(R−D)
2)
1/2以上とすることが好ましい。一方、突起列間の距離Lは、3(R
2−(R−D)
2)
1/2よりも大きい場合(3rよりも大きい場合)、隣接する突起列同士の間隔が過度に開くため、突起6によって押し込まれて導入されるひずみ量が不十分になり、その結果、熱間圧延後の表面疵が十分に抑制されない場合がある。そのため、突起列間の距離Lは、3(R
2−(R−D)
2)
1/2以下とすることが好ましい。
【0069】
本実施形態では、以上説明してきた突起6を備えたロール5aを用いて、上述した押込み量Dが確保できるよう、素材1にディンプル1bを形成する加工を行う。
このようなロール5aを用いた加工は、上記押込み量Dが確保できれば1パスでよいが、加工機の能力、仕様を考慮して、複数パスでも構わず、合計した押込み量Dが上記範囲内となるよう確保できればよい。
なお、本実施形態において、素材1を加工する方法としては、鍛造のように圧下する方式よりも、
図5に示すような、圧延方式を取ることによってよりメタルフローが容易になり、上述したデッドメタルが形成されにくくなる効果がある。
また、素材1の全幅をカバーするようなロール5aを用いれば、効率的にひずみを導入することができる。また、本実施形態では、突起6が接触している部分だけを押し込むため、突起の無い平坦なロールや金型でチタン素材の全幅を押し込むよりも、小さい荷重でも必要なひずみを導入できる。
【0070】
突起6付きのロール5aを用い、チタン素材表面に複数のディンプルを形成する際は、チタン素材を加熱せずに冷間で行ってもよく、チタン素材を最高で500℃以下まで加熱した後に行ってもよい。
【0071】
本実施形態では、加工チタン材の被圧延面になる表面に、冷間〜温間でひずみを付与することとしている。熱間圧延時に発生する表面疵を低減するためには、ある程度の深さまでの再結晶組織を形成させる必要がある。特に高硬度のチタン素材では、ひずみがチタン素材の内部まで入り難く、表層の深い位置までひずみを付与するためには大きな荷重で凹凸形成の加工を付与する必要がある。しかしながら、ひずみが付与されたことにより表層近傍の延性が低下し、表面で割れが発生することが新たに明らかとなった。そのため、安定的に深い位置までひずみを付与すると共に、表層の延性を向上させるためには、ある程度温度を高くしてチタン素材自体の強度を低くすることも効果的である。一方で、強度がそれほど高くないチタン素材では、表層にひずみを集中させた方が表層の組織を微細にすることできるため室温でひずみを付与した方がよい。
【0072】
一方、500℃超の高温でディンプル形成の加工を行うと、加工によって付与したひずみが即座に消失してしまい、その後の加熱時に再結晶させることができなくなる場合がある。また、500℃超ではチタン素材の表面に酸化硬化層が形成される場合があり、その酸化硬化層が加工時に押し込まれて表面欠陥が発生し、その後の熱間圧延時に表面疵に進展する恐れがある。500℃以下であれば、上記のような問題が発生しないことから、500℃以下を上限とすることが好ましい。
【0073】
また、チタン素材の強度及び延性は、合金種類によって高くなる温度域が異なるため、より高い温度で行えばよいというわけではない。例えば、工業用純チタンなどでは、室温近傍ではチタンの変形機構の重要な1つである双晶変形が活発に活動するが、400〜500℃程度の温度ではこの双晶変形が発生しなくなるため、室温よりも延性が低下し、かえって割れが発生し易くなる。一方、Alを多く含む合金系ではこの双晶変形が室温近傍でも殆ど発生しないため、500℃以下に加熱することで延性を担保することが出来る。また、β型チタン合金は、300〜500℃で長時間加熱すると、時効硬化によって強度が高まり、かつ延性が低下する特徴がある。また、チタン素材を高温にし、極端に材料強度を弱くすると塑性変形させた際に表面のディンプル形状の起伏(深さ)が大きくなり過ぎ、その起伏に起因して表面疵が発生してしまうおそれがある。従って、チタン素材の品種や種類に応じて、圧延後に表面に割れを発生させず、かつ、適切な再結晶組織や表面状態が得られるような温度範囲を選択すればよい。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の製造方法では、チタン素材を、複数の突起が配列された一対のロール間を搬送させながら、その表面に突起を押込むことで所定量塑性変形させて表面にディンプルを形成する。その結果、効率良くかつ安定して素材表層に歪みを導入することができる。そしてその後の熱間圧延の際の加熱によって表層に微細な再結晶を形成させることで、表面疵の発生を抑制できる。
【0075】
また、本実施形態の製造方法によって得られた加工チタン材によって、熱間圧延後の表面欠陥は顕著に抑制される。矩形や円柱形のインゴットに本発明を適用することによって、分塊圧延などのブレークダウン工程を経ずとも、板や帯状コイルまたは棒線へ熱間圧延した際に、表面欠陥が問題ないレベルまで抑制できるという効果を奏することができる。
【0076】
本実施形態の加工チタン材を熱間圧延する場合の加熱温度は、変形抵抗を低減するために、800℃〜950℃の範囲とすることが好ましい。さらには、スラブ加熱時に生じるスケールを抑制するためには、加熱温度は、β変態点未満が望ましい。ここでβ変態点とは、チタン素材が加熱にともないβ相単相になる下限温度である。
【0077】
このように、本実施形態に従って製造された加工チタン材は、熱間圧延に好適に供されるのみならず、熱間圧延されて製造された熱延材は、表面欠陥が顕著に抑制されており、その後、冷間圧延を施しても健全な製品を製造できるという効果を奏するものである。
【0078】
また本実施形態によれば、インゴットのブレークダウン工程を省略した鋳造ままのチタン素材であっても、熱延時に発生する表面疵を軽微にすることができ、優れた熱延、冷延製品を提供することができる。
【0079】
また、本実施形態を、ブレークダウン工程を経たチタン素材に適用すると、熱間圧延時に生じる表面欠陥が極めて軽微なものとなる。その結果、熱間圧延した板や棒線の脱スケール工程や最終製品の歩留を、より高めることが可能になる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
【0081】
<実施例1>
まず、表1(工業用純チタン)および表2(チタン合金)に示す成分組成を有するチタン素材を、電子ビーム溶解法(EBR)、もしくはプラズマアーク溶解法(PAM)により鋳造し、鋳造ままの粗大な凝固組織を有する略矩形のインゴットとした。なお、表1の素材記号M9は、当該インゴットを鍛造した。なお、表2のチタン素材の合金成分の「Mm」はミッシュメタル(希土類元素を含む合金)である。
【0082】
次に、記号M9以外のインゴットから、厚み約120mm、幅約250mm、長さ約450mmのチタン素材を切り出し機械加工した。記号M9については、前記鍛造後の素材から厚み約120mm、幅約250mm、長さ約450mmのチタン素材を切り出し機械加工した。なお、切り出した各素材は、インゴットに対して切り出しの位置関係が一致するように、且つインゴットの表面からの深さ位置がほぼ同一になるように、切り出した。
【0083】
切り出された素材(M1〜M18)のうち、後述する熱間圧延時の被圧延面となる面(片面)に対し、表3A、表4A及び表5Aに示す形状および配列とされた突起を有するロールを用いた2ロール式の加工機(
図5参照)によって、素材表面へディンプルを形成し、加工チタン材とした。その際の押込み量(D)、加工温度などの加工条件は表3A、表4A及び表5Aのように種々変化させた条件にて行った。なお、突起は
図6(a)〜
図6(c)に示すような平面視して千鳥状となるよう配列した。また、素材A2については、直径300mmのロール(突起なし)で加工した。
【0084】
次いで、加工チタン材をβ変態点未満の温度で約2時間加熱した後に、連続熱間圧延ストリップミルにて厚み約6mmまで熱間圧延した。この熱間圧延板に、ショットブラストを施し、更に、硝ふっ酸からなる連続酸洗ラインを通板させて酸洗を施し脱スケールした。その後、目視観察によって発生した表面疵にマーキングして、表面疵の発生状況を評価した。ここでβ変態点とは、チタン素材が加熱にともないβ相単相になる下限温度である。
具体的には、連続酸洗ライン通過後の熱延板において、圧延方向の先後端の非定常部を除き、長さを200mm間隔で区分して、表面疵が検出された部分の区間数を全体の区間数(40区間)で除した割合を、表面疵発生率とした。表面疵発生率に応じて、0%を「◎」、0%超〜5%以下且つ約1mmの微小な表面疵を「○」、5%超又は約10mm以上の大きな表面疵を「×」と評価した。なお、「◎」と「○」は合格、「×」は不合格とした。
【0085】
表3Bに工業用純チタンの実施例を、表4Bにチタン合金の実施例を、比較例と並べて示す。いずれもロールによる加工温度は室温である。
また、表5Bに、ロール加工する際、素材の温度を100〜400℃に加熱してロールによる凹凸形成加工を施した例を示す。
【0086】
表3A〜表5Bより、本発明の範囲内で突起を配列したロールで素材を圧延しディンプルを形成すると、表面疵発生率は5%以下と低く、さらに好ましい条件範囲では0%まで低減できることがわかる。
一方、素材ままで加工なしの場合、ロール表面に突起がない場合、突起の曲率半径(R)、押込み量(D)、突起中心間の距離(S)が本発明範囲外れる場合の例である比較例では、いずれも表面疵発生率が高いことが分かる。
特に、突起中心間の距離(S)が2(R
2−(R−D)
2)
1/2〜3(R
2−(R−D)
2)
1/2の範囲(2r
1から3r
1の範囲)を外れるA14,A15では、加工なしのA1、突起なしのロールで圧延するA2に比べると、表面疵発生率は20%程度に低下しているものの、5%以下には及ばない。
【0087】
また、実施例であるC1〜20からわかるように、加工温度が100〜400℃の場合にも室温で得られるのと同様の効果が得られることが分かった。
【0088】
実施例であるA10とA17は、所定の突起が配列されたロールで2パスの圧下を施した実施例であるが、本発明の効果が得られている。
【0089】
比較例であるA33は、M9のインゴットを鍛造した素材を熱間圧延する場合であり、表面疵発生率が48%と高い。これに対して、実施例であるA41では、この素材に所定の突起が配列されたロールで圧延することによって、表面疵発生率が0%に低下する効果が得られている。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3A】
【0093】
【表3B】
【0094】
【表4A】
【0095】
【表4B】
【0096】
【表5A】
【0097】
【表5B】
ロール対の隙間にチタン素材を通過させるチタン材の製造方法であって、 前記ロール対の少なくとも一方のロールが、表面を展開して平面視した場合に千鳥状となるよう配列された複数の突起を有し、前記突起を前記チタン素材の表面に押し込むことで、チタン素材の表面に複数のディンプルを形成する工程を備え、前記突起が、その先端に球面状の押圧面を備え、前記押圧面の高さをh(mm)、前記突起の押圧面の曲率半径をR(mm)、前記チタン素材の通過方向において隣接する前記突起の中心間距離をS(mm)、前記突起の押込み量をD(mm)とするとき、前記Rが3〜30の範囲内であり、前記Dが2〜10の範囲内で、かつh以下であり、前記Sが2(R