(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より炭素繊維等の機能性繊維を樹脂に配合して成る繊維強化樹脂から成る成形体は、耐候性、機械的強度、耐久性等の特性に優れていることから、自動車、航空機等の輸送機材、土木・建設材料、スポーツ用品等の用途に広く使用されている。
例えば、下記特許文献1には、特定のピッチ系炭素短繊維混合物及びマトリックス樹脂から成る炭素繊維強化樹脂成形体が記載されており、各種電子部品に好適に使用されることが記載されている。
また下記特許文献2には、炭素繊維等のバインダーとして特定の芳香族ポリイミドオリゴマーを用いた摩擦材用樹脂組成物から成る摩擦材が提案されており、この摩擦材においては、従来、摩擦材のバインダーとして好適に使用されていたフェノール樹脂を用いた場合に比べて、バインダー自身の耐熱性や機械的特性が優れ、成形性が良好であることが記載されている。
更に下記特許文献3には、特定の熱伝導率を有する炭素繊維を10〜70重量%含む炭素繊維強化合成樹脂から成る転動体が提案されている。
【0003】
このような繊維強化樹脂成形体を軸受け等の摺動性部材として用いる場合には、強度、剛性等の機械的強度が高いこと、動摩擦係数が小さく摩耗量が少ないこと、更に限界PV値が高いこと等の特性が要求されており、機械的強度、耐熱性及び耐久性に優れ、また樹脂の含浸性に優れた付加反応型ポリイミド樹脂をマトリックス樹脂として用いることが望まれている。
付加反応型ポリイミド樹脂として、トランスファー成形(RTM)と樹脂圧入(RI)によって炭素繊維強化コンポジットを製造可能な高機能の付加反応型ポリイミド樹脂も提案されている(特許文献4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂として、付加反応型ポリイミド樹脂を用いる場合、優れた耐熱性、耐久性及び機械的強度が得られるとしても、得られた成形体に反りが生じてしまい、摺動性部材としては実用に供することができないという問題があった。
本発明者等がこの原因について鋭意研究した結果、以下の事実が分かった。すなわち、炭素繊維等の機能性繊維のマトリックス樹脂として好適に使用できる付加反応型ポリイミド樹脂は、プレポリマーの状態で溶融粘度が低いことから、プレポリマーに機能性繊維を混合すると、機能性繊維が沈降してプレポリマー中に偏在した状態となり、この状態で樹脂が架橋硬化されることにより、機能性繊維の存在量に応じて成形体の収縮量に差が生じてしまい、得られる繊維強化樹脂成形体に反りを生じてしまうことが分かった。
【0006】
従って本発明の目的は、優れた摺動性能を有すると共に、反り等の発生がなく、成形時の形状安定性に優れた繊維強化ポリイミド樹脂成形体を提供することである。
本発明の他の目的は、優れた摺動性能を有する繊維強化ポリイミド樹脂成形体を形状安定性よく成形可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、付加反応型ポリイミド100重量部に対して、5〜200重量部の
メソフェーズ型ピッチ系炭素繊維、5〜40重量部の増粘剤が分散して成る樹脂成形体であって、限界PV値が3000kPa・m/s以上であることを特徴とする樹脂成形体が提供される。
本発明の樹脂成形体においては
、
1.前記
メソフェーズ型ピッチ系炭素繊維が、平均繊維長50〜6000μm、平均繊維径5〜20μmの
メソフェーズ型ピッチ系炭素繊維であること、
2.前記増粘剤が、グラファイト、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)又は二硫化モリブデン、微細炭素系材料、金属粉の少なくとも1種以上であること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、付加反応型ポリイミド100重量部に対して、5〜200重量部の
メソフェーズ型ピッチ系炭素繊維、5〜40重量部の増粘剤が分散して成る樹脂成形体の製造方法であって、前記付加反応型ポリイミド樹脂のプレポリマー、
メソフェーズ型ピッチ系炭素繊維及び増粘剤を付加反応型ポリイミド樹脂の融点(160〜170℃)以上、熱硬化開始温度(300℃近傍)以下の温度で混練する分散混練工程、分散混練工程を経た混合物を反応型ポリイミド樹脂の熱硬化開始温度以上の温度条件下で賦形する加圧賦形工程、とから成ることを特徴とする樹脂成形体の製造方法が提供される。
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、
1.前記分散混練工程を経た混合物の300〜320℃の温度条件下における溶融粘度が10〜5000Pa・sであること、
2.前記賦形工程が、圧縮成形により行われること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維強化ポリイミド樹脂成形体においては、耐熱性、耐久性及び機械的強度に優れた付加反応型ポリイミド樹脂をマトリックス樹脂とし、この付加反応型ポリイミド100重量部に対して5〜200重量部の機能性繊維、5〜40重量部の増粘剤の量で配合することにより、限界PV値が3000kPa・m/s以上と優れた摺動性能を発現することが可能になる。しかも成形体中に機能性繊維が均一に分散された状態で架橋硬化されて成形されていることから、反り等のゆがみがなく、摺動性部材として好適に使用できる。尚、限界PV値とは、摩擦力が急激に上昇するときの面圧Pと速度Vの積で求まる値で、摺動部材として使用環境に適しているかを判断する指標として限界PV値を算出することが一般的である。限界PV値に近い条件下では摺動面の摩擦熱による樹脂の溶融・焼きつきによる動摩擦係数および試料温度の上昇、材料の異常摩耗などがみられ、この値が高いことは摺動性能が高いことを意味する。
また本発明の繊維強化ポリイミド樹脂成形体は、機能性繊維に付加反応型ポリイミドが含浸し、かつ、機能性繊維を所定量に含有しており、摺動に優れ、摺動部材として用いた場合に、長期に亘って安定した性能を維持することができるばかりか、そりによる変形を防止できるので、生産性に優れるとともに、長期間使用時の磨耗によるPV値の変化を小さくでき、交換時期や装置などの管理がしやすい。
【0010】
また本発明の繊維強化ポリイミド樹脂成形体の成形方法においては、付加反応型ポリイミド樹脂と機能性繊維と共に、増粘剤を配合することにより、増粘工程を設けることなく、繊維沈降が生じない粘度に調整することが可能になる。これにより、プレポリマー中に機能性繊維が分散した状態を維持することが可能になり、機能性繊維が均一に分散した繊維強化ポリイミド樹脂成形体を反り変形を生じることなく成形することが可能になる。
また後述するように本発明で好適に用いる増粘剤は摺動性にも優れており、摺動性能を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(樹脂成形体)
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂成形体は、後述する付加反応型ポリイミド樹脂をマトリックス樹脂とし、この付加反応型ポリイミド100重量部に対して5〜200重量部の機能性繊維、5〜40重量部の増粘剤が分散して成る樹脂成形体であって、限界PV値が3000kPa・m/s以上であることが重要な特徴であり、耐熱性、耐久性及び機械的強度を有すると共に、限界PV値が大きく、優れた摺動性能を有している。
【0013】
[付加反応型ポリイミド樹脂]
本発明においては、繊維強化ポリイミド樹脂成形体を構成する組成物のマトリックスとなるポリイミド樹脂として、付加反応型ポリイミド樹脂を用いることが重要な特徴である。
本発明に用いる付加反応型ポリイミド樹脂は、末端に付加反応基を有する芳香族ポリイミドオリゴマーから成り、従来公知の製法により調製したものを使用することができる。例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、及び分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物を、各酸基の当量の合計と各アミノ基の合計とをほぼ等量となるように使用して、好適には溶媒中で反応させることによって容易に得ることができる。反応の方法としては、100℃以下、好適には80℃以下の温度で、0.1〜50時間重合してアミド酸結合を有するオリゴマーを生成し、次いでイミド化剤によって化学イミド化する方法や、140〜270℃程度の高温で加熱して熱イミド化する2工程からなる方法、或いは始めから140〜270℃の高温で、0.1〜50時間重合・イミド化反応を行わせる1工程からなる方法を例示できる。
これらの反応で用いる溶媒は、これに限定されないが、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、γ−ブチルラクトン、N−メチルカプロラクタム等の有機極性溶媒を好適に使用できる。
【0014】
本発明において、芳香族イミドオリゴマーの末端の付加反応基は、樹脂成形体を製造する際に、加熱によって硬化反応(付加重合反応)を行う基であれば特に限定されないが、好適に硬化反応を行うことができること、及び得られた硬化物の耐熱性が良好であることを考慮すると、好ましくはフェニルエチニル基、アセチレン基、ナジック酸基、及びマレイミド基からなる群から選ばれるいずれかの反応基であることが好ましく、特にフェニルエチニル基は、硬化反応によるガス成分の発生がなく、しかも得られた樹脂成形体の耐熱性に優れていると共に機械的な強度にも優れていることから好適である。
これらの付加反応基は、分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物が、芳香族イミドオリゴマーの末端のアミノ基又は酸無水物基と、好適にはイミド環を形成する反応によって、芳香族イミドオリゴマーの末端に導入される。
分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物は、例えば4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸、4−(2−フェニルエチニル)アニリン、4−エチニル−無水フタル酸、4−エチニルアニリン、ナジック酸無水物、マレイン酸無水物等を好適に使用することができる。
【0015】
末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーを形成するテトラカルボン酸成分としては、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一つのテトラカルボン酸二無水物を例示することができ、特に、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に使用することができる。
【0016】
末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーを形成するジアミン成分としては、これに限定されないが、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3-ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン等のベンゼン環を1個有するジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェノキシ)メタン、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル,6−メチルアニリン)、2,2―ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2―ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン等のベンゼン環を2個有するジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン,1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン等のベンゼン環を3個有するジアミン2,2−ビス[4−[4−アミノフェノキシ]フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−[4−アミノフェノキシ]フェニル]ヘキサフルオロプロパン等のベンゼン環を4個有するジアミン等を単独、或いは複数種混合して使用することができる。
【0017】
これらの中でも、1,3−ジアミノベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンからなる群から選ばれる少なくとも二つの芳香族ジアミンによって構成された混合ジアミンを用いることが好適であり、特に、1,3−ジアミノベンゼンと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合せからなる混合ジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、及び2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミンを使用することが、耐熱性と成形性の点から好適である。
【0018】
本発明で用いる末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーは、イミドオリゴマーの繰返し単位の繰返しが、0〜20、特に1〜5であることが好適であり、GPCによるスチレン換算の数平均分子量が、10000以下、特に3000以下であることが好適である。繰返し単位の繰返し数が上記範囲にあることにより、溶融粘度が適切な範囲に調整されて、機能性繊維を混合することが可能になる。また高温で成形する必要がなく、成形性に優れていると共に、耐熱性、機械的強度に優れた樹脂成形体を提供することが可能になる。
繰返し単位の繰返し数の調整は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、及び分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物の割合を変えることにより行うことができ、分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物の割合を高くすることにより、低分子量化して繰返し単位の繰返し数は小さくなり、この化合物の割合を小さくすると、高分子量化して繰返し単位の繰返し数は大きくなる。
【0019】
付加反応型ポリイミド樹脂には、目的とする樹脂成形体の用途に応じて、難燃剤、着色剤、滑剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤等の樹脂添加剤を公知の処方に従って配合することができる。
【0020】
[機能性繊維]
本発明において、上述した付加反応型ポリイミド樹脂中に分散させる機能性繊維としては、従来公知の物を使用することができ、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、金属繊維等、従来公知の機能性繊維を使用することができるが、特に炭素繊維を好適に用いることができる。
中でも、平均繊維長が50〜6000μm及び平均繊維径が5〜20μmの範囲にある炭素繊維を好適に使用することができる。上記範囲よりも平均繊維長が短い場合には、炭素繊維の強化材としての効果を充分に得ることができず、その一方上記範囲よりも長いとポリイミド樹脂中での分散性に劣るようになる。また上記範囲よりも平均繊維径が細い場合には、取扱い性に劣ると共に高価であり、一方上記範囲よりも平均繊維径が太い場合には機能性繊維の沈降速度が増大して、機能性繊維が偏在しやすくなるおそれがあると共に、繊維の強度が低下する傾向があり、強化材としての効果を充分に得られないおそれがある。
【0021】
機能性繊維の含有量は、樹脂成形体の摺動性能及び成形時の反り発生に重大な影響を有しており、本発明においては、機能性繊維は、付加反応型ポリイミド100重量部に対して5〜200重量部、特に10〜150重量部の量で含有されていることが、優れた摺動性能を有すると共に、反りがなく優れた形状安定性を有する成形体を得る上で好適である。上記範囲よりも機能性繊維の量が少ないと、限界PV値が上記値未満になり摺動性が低下するおそれがある。また機能性繊維の沈降による樹脂成形体の反りが発生するおそれもある。一方上記範囲よりも機能性繊維の量が多いと、上記範囲にある場合に比して限界PV値が低下するおそれがある。また過度の増粘が生じ、賦型できないおそれがある。
また上記機能性繊維と共に、カーボンブラック等の微細炭素系材料、アルミ粉、銅粉等の金属粉等の無機材料の少なくとも一種を配合することもできる。
上記無機材料は、付加反応型ポリイミド100重量部に対して5〜40重量部で含有されていることが好適である。
【0022】
[増粘剤]
本発明においては、上記機能性繊維と共に増粘剤を付加反応型ポリイミド100重量部に対して5〜40重量部で用いることにより、付加反応型ポリアミド樹脂のプレポリマーの粘度を、増粘工程を経ることなく増大させることが可能になり、これにより機能性繊維は沈降することなく、プレポリマー中に分散した状態を維持できる。
増粘剤としては、グラファイト、二硫化モリブデン、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を使用することができるが、中でグラファイト、二硫化モリブデン、PTFEは、摺動性能を更に向上させることもできるので特に好適である。
増粘剤は、付加反応型ポリイミド100重量部に対して5〜40重量部の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも増粘剤の量が少ないと、プレポリマーの粘度が十分に増加せず、機能性繊維の沈降を充分に抑制することができず、機能性繊維が分散している反り変形のない樹脂成形体を成形することができない。また上記範囲よりも増粘剤の量が多くなると摩擦係数の増大や耐摩耗性の低下等、摺動性能を損なうおそれがある。
【0023】
(樹脂成形体の製造方法)
本発明の樹脂成形体の製造方法は、付加反応型ポリイミド樹脂のプレポリマー(イミドオリゴマー)100重量部に対して5〜200重量部の機能性繊維及び5〜40重量部の増粘剤を、付加反応型ポリイミド樹脂の融点以上の温度で混練する分散混練工程、及び前記分散混練工程を経た混合物を反応型ポリイミド樹脂の熱硬化開始温度以上の温度条件下で加圧賦形する賦形工程、とから成ることを特徴とする。
前述したとおり、本発明の樹脂成形体の成形に用いる付加反応型ポリイミド樹脂は、架橋硬化前のプレポリマーの状態では低粘度であることから、機能性繊維を含有させると沈降してしまい、その結果、機能性繊維が遍在し、成形体に反りが発生する。本発明においては、機能性繊維と共に所定量の増粘剤をプレポリマーに配合することにより、プレポリマーの粘度を増大させることが可能になり、その結果、プレポリマー中で機能性繊維が沈降することなく分散し、機能性繊維が分散した状態を維持したまま賦形工程で賦形されることから、加熱硬化の際に均等に収縮して反りのない成形体を成形することが可能になる。
【0024】
[分散混練工程]
付加反応型ポリイミド樹脂のプレポリマー(イミドオリゴマー)と機能性繊維及び増粘剤を、付加反応型ポリイミド樹脂の融点以上の温度で加熱しプレポリマーを溶融しながら混練することにより、プレポリマーと機能性繊維を混合する。この際、前述したとおり、付加反応型ポリイミド100重量部に対して機能性繊維を5〜200重量部、特に10〜150重量部、増粘剤を5〜40重量部の量で用いる。
プレポリマー及び機能性繊維の混練は、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、リボンブレンダ―等の従来公知の混合機を用いることもできるが、機能性繊維の破断を抑制すると共に分散させることが重要であることから、バッチ式の加圧ニーダー(混練機)を用いることが特に好適である。
本発明においては、分散混練工程の温度は、プレポリマーの融点以上、且つ架橋硬化する温度以下とし分散混練工程を経たプレポリマーと機能性繊維及び増粘剤の混合物が、300〜320℃の温度条件下での溶融粘度が10〜5000Pa・sの範囲にあり、機能性繊維にプレポリマーが浸透することとが相俟って、機能性繊維は沈降することなく、プレポリマー中に分散した状態を維持する。
【0025】
本発明においては、分散混練工程を経たプレポリマーと機能性繊維及び増粘剤の混合物を冷却固化した後、所定の大きさの塊状にしておくことが望ましい。これにより、機能性繊維がプレポリマーに均一分散した混合物を経時保管することが可能になり、取扱い性も向上する。
【0026】
[賦形工程]
分散混練工程を経て溶融粘度が上記範囲に調整されたプレポリマー、機能性繊維及び増粘剤の混合物は、用いるポリイミド樹脂の熱硬化開始温度以上の温度条件下で賦形し、所望の形状の樹脂成形体として成形される。
分散混練工程と連続して賦形工程を行う場合には、溶融状態にあるポリイミドプレポリマーと機能性繊維及び増粘剤の混合物を、成形型に導入して熱硬化開始温度以上の温度で加熱することにより硬化させて樹脂成形体を成形するが、前述したように、分散混練工程後プレポリマーと機能性繊維及び増粘剤の混合物を冷却固化し粉砕混合した混合物を用いる場合には、付加反応型ポリイミド樹脂の融点以上の温度で加熱して混合物を溶融した後成形型に導入して加熱硬化させるか、或いは成形型内で混合物を溶融すると共に加熱硬化させることにより樹脂成形体を成形することができる。
尚、賦形は、成形型に導入された混合物を加圧圧縮して成形する圧縮成形やトランスファー成形によることが好適であるが、射出成形や押出成形によっても成形することができる。
【実施例】
【0027】
(限界PV値の測定)
JIS K 7218(プラスチックの滑り摩耗試験方法)に適合したスラスト型摩耗試験機を用い、
図1に示すようなリングオンディスク式にて速度一定の条件下で5分ないしは10分おきに面圧を上昇させ、摩擦力が急激に上昇する或いは著しい変形と摩耗粉が発生したところを限界とし、限界時の1つ前の面圧(P)と速度(V)の積を限界PV値とした。
限界PV値測定条件
試験速度;0.5m/s、初期面圧;0.5MPa
面圧ステップ 0.5MPa/10min(〜10MPa)
1MPa/10min(10MPa〜)
相手材 :S45Cリング 表面粗さRa0.8μm
外径25.6mm、内径20mm(接触面積2cm
2)
試験環境:23±2℃、50%±5%RH
試験機:エー・アンド・デイ社製 摩擦摩耗試験機 EMF−III−F
【0028】
(繊維の分散)
成形体の断面を観察し、繊維の偏在の有無を目視または走査電子顕微鏡(日立ハイテクテクノロジー社製S−3400N)による観察にて確認した。繊維が分散しているものを○、繊維の沈降がみられるものを×とした。
【0029】
(反り量の測定)
図2に示す試験片反り量t(mm)、製品直径寸法D(mm)を測定し、反り/直径比を以下の式(1)により算出した。
反り/直径比(%)=t/D×100
t:試験片反り量(mm)、D:製品直径(mm)
なお反り/直径比の良否判定は1.5%未満を○、1.5%以上を×とした。
【0030】
(溶融粘度の測定)
310℃における溶融粘度をレオメータ(TA instrument社製ARES)により測定した。測定モードを動的周波数分散として、角周波数を0.1〜500rad/sとし、0.1rad/sの条件における溶融粘度を測定値とした。
【0031】
(実施例1)
付加重合型ポリイミド(宇部興産社製PETI−330)100重量部に対して、平均単繊維長さ200μmのピッチ系炭素繊維(三菱樹脂社製K223HM)12.5重量部、グラファイト粉末(和光純薬製070−01325)12.5重量部を配合し、ニーダーにより大気圧下280℃、30分で溶融混練した。その後、室温まで冷却された混合物(バルクモールディングコンパウンド、以下BMC)を得た。得られたBMCを金型内に納まる大きさ程度に割ってからBMCを圧縮成形機用金型に、280℃〜320℃で一定時間保持することで溶融および均熱した後、2.4MPaに加圧しながら、昇温速度3℃/minで371℃まで昇温、1時間保持、徐冷してφ40mm厚さ3mmの板を得た。得られた板材を357℃条件下で6時間の硬化処理を施した後、所望の寸法に加工し試験片を得た。
【0032】
(実施例2)
炭素繊維の配合量を28.6重量部、グラファイト粉末の配合量を14.3重量部に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0033】
(実施例3)
付加重合型ポリイミド(宇部興産社製PETI−330)100重量部に対して、平均単繊維長さ200μmのピッチ系炭素繊維(三菱樹脂社製K223HM)28.6重量部、PTFE粉末(喜多村社製 KT−600M)14.3重量部を配合し、ニーダーにより大気圧下280℃、30分で溶融混練した。その後、室温まで冷却されたBMCを得た。得られたBMCを金型内に納まる大きさ程度に割ってからBMCを圧縮成形機用金型に、280℃〜320℃で一定時間保持することで溶融および均熱した後、11MPaに加圧しながら、昇温速度3℃/minで371℃まで昇温、1時間保持、徐冷してφ200mm厚さ3mmの板を得た。得られた板材を357℃条件下で6時間の硬化処理を施した後、所望の寸法に加工し試験片を得た。
【0034】
(実施例4)
炭素繊維の配合量を14.3重量部、PTFE粉末の配合量を28.6重量部に変更した以外は実施例3と同じとした。
【0035】
(実施例5)
炭素繊維の配合量を33.3重量部、PTFE粉末の配合量を33.3重量部に変更した以外は実施例3と同じとした。
【0036】
(比較例1)
付加重合型ポリイミド(宇部興産社製PETI−330)を280℃〜320℃で一定時間保持することで溶融および均熱した後、11MPaに加圧しながら、昇温速度3℃/minで371℃まで昇温、1時間保持、徐冷してφ100mm厚さ3mmの板を得た。得られた板材を357℃条件下で6時間の硬化処理を施した後、所望の寸法に加工し試験片を得た。
【0037】
(比較例2)
炭素繊維の配合量を11.1重量部、グラファイト粉末を配合しなかった以外は実施例1と同じとした。なお、繊維の不均一な分布による反りが発生した。限界PV値において、部材の平行度を得るために反り量分部材の表裏層を削る必要がある。本比較例の限界PV値は繊維重量部が乏しい表層を除去した部材の結果である。比較例1の炭素繊維未含有条件における限界PV値の結果からも、均一分散されていないことにより低い繊維重量部の箇所が生じてしまい、結果限界PV値が低くなると考えられる。
【0038】
実施例1〜5、比較例1、2にて得られた試験片の限界PV値測定結果および繊維の分散の良否を表1に示す。
【0039】
1.5mmの板厚さ以外は比較例2と同じとした試験片における繊維の分散状態を
図3に示す。
【0040】
(実施例6)
炭素繊維の配合量を14.3重量部、グラファイト粉末の配合量を28.6重量部に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0041】
(比較例3)
炭素繊維の配合量を16.7重量部、グラファイト粉末の配合量を50.0重量部に変更した以外は実施例1と同じとした。
【0042】
実施例1〜3、6、比較例2、3にて得られた試験片の賦形性、繊維の分散の良否、反り/直径比、溶融粘度の測定結果を表2に示す。なお、製品の反りについては、全ての実施例および比較例で、圧縮成形にて板材を得た後、357℃条件下で6時間の硬化処理を施す前の状態を測定し、良否判定をおこなった。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】