特許第6794715号(P6794715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794715炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794715
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/00 20060101AFI20201119BHJP
   C10J 3/54 20060101ALI20201119BHJP
   C10J 3/56 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C10G1/00 Z
   C10J3/54 D
   C10J3/56
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-161633(P2016-161633)
(22)【出願日】2016年8月22日
(65)【公開番号】特開2018-30900(P2018-30900A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 聚偉
【審査官】 三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−528226(JP,A)
【文献】 特表2009−536235(JP,A)
【文献】 特開平06−184565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
C10J 1/00− 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層炉の内部でベッド材を流動化ガスにより流動化させつつチャーを燃焼又は部分酸化させる熱生成工程と、
前記流動層炉の内部に配置され且つ底部にダウンカマーが接続された熱分解器の内部で炭素質固体燃料を分散させて降下させつつ前記熱生成工程で得られる熱により加熱して熱分解ガスを生成する熱分解ガス生成工程と、
該熱分解ガス生成工程で生成された熱分解ガスを前記熱分解器の内部に配置された熱分解ガス収集器で冷却する熱分解ガス収集工程と、
該熱分解ガス収集工程で冷却された熱分解ガスよりオイルを回収するオイル回収工程と
を有し
前記オイル回収工程は、
熱分解ガスの脱塵を行う脱塵工程と、
該脱塵工程で脱塵された熱分解ガスを冷却してオイルを分離する冷却分離工程と
を含み、
前記冷却分離工程でオイルが分離された熱分解ガスの一部を、前記熱生成工程で生じる高温ガスと熱交換させる熱交換工程を有し、
該熱交換工程で熱交換させた熱分解ガスを前記熱分解ガス生成工程で使用される炭素質固体燃料の分散用として供給する炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法。
【請求項2】
前記熱交換工程で熱交換された熱分解ガスの一部を前記熱生成工程の補助燃料として用いる請求項記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法。
【請求項3】
炭素質固体燃料を分散させて降下させつつ流動層炉で得られる熱により加熱して熱分解ガスを生成する熱分解器と、
該熱分解器の内部で発生した熱分解ガスを冷却しつつ導出する熱分解ガス収集器と、
該熱分解ガス収集器から導出される熱分解ガスよりオイルを回収するオイル回収部と
を備え
前記熱分解器は、前記流動層炉の内部に配置され且つ底部にダウンカマーが接続され、
該ダウンカマーの下端部は、前記流動層炉の内部のベッド材からなる流動層に埋没し、
前記熱分解ガス収集器は、前記熱分解器の内部に配置され且つ外筒と内筒とを備え、
前記内筒には、前記熱分解器の内部で発生した熱分解ガスを吸引するガス誘導管が接続され、
前記外筒と内筒との間は冷却剤流通空間であり、
前記外筒の外周面は断熱材で覆われた炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【請求項4】
前記流動層炉は、底部から流動化ガスとして空気が導入されてベッド材を流動化させつつチャーを燃焼させる流動層燃焼器である請求項記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【請求項5】
前記流動層炉は、底部から流動化ガスとして空気と酸素と水蒸気とが導入されてベッド材を流動化させつつチャーを部分酸化させる流動層ガス化器である請求項記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【請求項6】
前記熱分解ガス収集器から導出される熱分解ガスの脱塵を行うフィルタと、
該フィルタで脱塵された熱分解ガスを冷却してオイルを分離する冷却分離器と
を備えた請求項3〜5の何れか一項に記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【請求項7】
前記冷却分離器でオイルが分離された熱分解ガスの一部を、前記流動層炉から導出される高温ガスと熱交換させて前記熱分解器へ炭素質固体燃料の分散用として供給する熱交換器を備えた請求項記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【請求項8】
前記熱交換器から熱分解器へ導かれる熱分解ガスの一部は、前記流動層炉の補助燃料として用いられる請求項記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【請求項9】
前記熱分解器は、前記熱交換器からの熱分解ガスが炭素質固体燃料と一緒に導入される複数のノズルを備え、
該ノズルは、前記熱分解器の円筒状本体の上部にその半径方向へ対向して延びるよう接続される請求項7又は8記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【請求項10】
前記熱分解器は、前記熱交換器からの熱分解ガスが炭素質固体燃料と一緒に導入されるノズルを備え、
該ノズルは、前記熱分解器の円筒状本体の上部にその接線方向へ延びるよう接続される請求項7又は8記載の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオマス或いは低品位炭等の炭素質固体燃料の熱分解を用いたオイル製造と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【0003】
前記特許文献1に開示されている装置は、チャーと可燃ガスの供給を受けてこれを燃焼し高温の燃焼ガスを発生する燃焼炉と、供給されるバイオマスを気流層で熱分解し、可燃ガス、タール、チャーを生成する気流層熱分解器とを備え、熱分解により生成したチャーの一部と可燃ガスの一部が前記燃焼炉へ供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−116537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている装置においては、流動層式の熱分解器が使用されることにより、以下のような問題が生じていた。
【0006】
即ち、前記流動層式の熱分解器では、粒子とガスの流通方向が重力とは逆で下方から上方へ向うため、流通方向とは逆方向となる重力による流れに伴う、いわゆる逆混合(backmixing)が存在する。これによって、生成されたオイル(タール)とチャーとが接触する確率が増加し、チャーの表面で触媒作用等の影響によりオイルが分解・還元され、オイルの収率が下がってしまう。
【0007】
又、前記熱分解器の出口が上部に設定され、該熱分解器の内部で生成されたオイルの滞留時間が長くなりすぎ、オイルが出口まで移動する過程で分解・還元されることも、オイルの収率が下がる要因となっていた。
【0008】
更に又、通常、オイルの更なる反応を抑制し、オイルの収率を上げるためには、生成されたオイルを急速に冷却する必要がある。しかし、前記熱分解器で生成されたオイルは急速に冷却されず、該熱分解器の内部を上昇中に高温下で分解・還元される懸念があり、オイルの収率低下が避けられない。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、オイルの収率向上を図り得る炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法は、流動層炉の内部でベッド材を流動化ガスにより流動化させつつチャーを燃焼又は部分酸化させる熱生成工程と、
前記流動層炉の内部に配置され且つ底部にダウンカマーが接続された熱分解器の内部で炭素質固体燃料を分散させて降下させつつ前記熱生成工程で得られる熱により加熱して熱分解ガスを生成する熱分解ガス生成工程と、
該熱分解ガス生成工程で生成された熱分解ガスを前記熱分解器の内部に配置された熱分解ガス収集器で冷却する熱分解ガス収集工程と、
該熱分解ガス収集工程で冷却された熱分解ガスよりオイルを回収するオイル回収工程と
を有し
前記オイル回収工程は、
熱分解ガスの脱塵を行う脱塵工程と、
該脱塵工程で脱塵された熱分解ガスを冷却してオイルを分離する冷却分離工程と
を含み、
前記冷却分離工程でオイルが分離された熱分解ガスの一部を、前記熱生成工程で生じる高温ガスと熱交換させる熱交換工程を有し、
該熱交換工程で熱交換させた熱分解ガスを前記熱分解ガス生成工程で使用される炭素質固体燃料の分散用として供給することができる。
【0013】
前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法においては、前記熱交換工程で熱交換された熱分解ガスの一部を前記熱生成工程の補助燃料として用いることができる。
【0014】
一方、上記目的を達成するために、本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置は、炭素質固体燃料を分散させて降下させつつ流動層炉で得られる熱により加熱して熱分解ガスを生成する熱分解器と、
該熱分解器の内部で発生した熱分解ガスを冷却しつつ導出する熱分解ガス収集器と、
該熱分解ガス収集器から導出される熱分解ガスよりオイルを回収するオイル回収部と
を備え
前記熱分解器は、前記流動層炉の内部に配置され且つ底部にダウンカマーが接続され、
該ダウンカマーの下端部は、前記流動層炉の内部のベッド材からなる流動層に埋没し、
前記熱分解ガス収集器は、前記熱分解器の内部に配置され且つ外筒と内筒とを備え、
前記内筒には、前記熱分解器の内部で発生した熱分解ガスを吸引するガス誘導管が接続され、
前記外筒と内筒との間は冷却剤流通空間であり、
前記外筒の外周面は断熱材で覆われることができる。
【0015】
前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置において、前記流動層炉は、底部から流動化ガスとして空気が導入されてベッド材を流動化させつつチャーを燃焼させる流動層燃焼器とすることができる。
【0016】
又、前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置において、前記流動層炉は、底部から流動化ガスとして空気と酸素と水蒸気とが導入されてベッド材を流動化させつつチャーを部分酸化させる流動層ガス化器とすることもできる。
【0019】
前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置においては、前記熱分解ガス収集器から導出される熱分解ガスの脱塵を行うフィルタと、
該フィルタで脱塵された熱分解ガスを冷却してオイルを分離する冷却分離器と
を備えることができる。
【0020】
前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置においては、前記冷却分離器でオイルが分離された熱分解ガスの一部を、前記流動層炉から導出される高温ガスと熱交換させて前記熱分解器へ炭素質固体燃料の分散用として供給する熱交換器を備えることもできる。
【0021】
前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置において、前記熱交換器から熱分解器へ導かれる熱分解ガスの一部は、前記流動層炉の補助燃料として用いることもできる。
【0022】
前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置において、前記熱分解器は、前記熱交換器からの熱分解ガスが炭素質固体燃料と一緒に導入される複数のノズルを備え、
該ノズルは、前記熱分解器の円筒状本体の上部にその半径方向へ対向して延びるよう接続することができる。
【0023】
又、前記炭素質固体燃料熱分解オイル製造装置において、前記熱分解器は、前記熱交換器からの熱分解ガスが炭素質固体燃料と一緒に導入されるノズルを備え、
該ノズルは、前記熱分解器の円筒状本体の上部にその接線方向へ延びるよう接続することもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置によれば、オイルの収率向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置の第一実施例を示す全体概要構成図である。
図2】本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置の第一実施例における熱分解ガス収集器を示す要部拡大断面図である。
図3】本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置の第一実施例における熱分解器の平面図であって、(a)は二本のノズルを熱分解器の円筒状本体の上部にその半径方向へ対向して延びるよう接続した例を示す図、(b)は四本のノズルを熱分解器の円筒状本体の上部にその半径方向へ対向して延びるよう90°ずつ角度をずらして接続した例を示す図、(c)は四本のノズルを熱分解器の円筒状本体の上部にその接線方向へ延びるよう接続した例を示す図である。
図4】本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置の第一実施例におけるフローチャートである。
図5】本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置の第二実施例を示す全体概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1図4は本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置の第一実施例である。
【0028】
第一実施例の場合、流動層炉1と熱分解器2と熱分解ガス収集器3とオイル回収部Rとを備えている。
【0029】
前記流動層炉1は、底部から流動化ガスとして空気が導入されて砂等のベッド材を流動化させつつチャーを燃焼させる流動層燃焼器1Aである。
【0030】
前記熱分解器2は、炭素質固体燃料を分散させて降下させつつ流動層炉1で得られる熱により加熱して熱分解ガスを生成するものであって、前記流動層炉1の内部に配置され且つ底部にダウンカマー8が接続されている。該ダウンカマー8は、前記熱分解器2の円筒状本体2aより小径の管で形成され、前記ダウンカマー8の下端部は、前記流動層炉1の内部のベッド材からなる流動層1aに埋没している。
【0031】
前記熱分解ガス収集器3は、前記熱分解器2の内部で発生した熱分解ガスを冷却しつつ導出するものであって、前記熱分解器2の内部に配置され且つ外筒3aと内筒3bとを備えている。前記内筒3bの下部中途位置には、前記熱分解器2の内部で発生した熱分解ガスを吸引するガス誘導管3cが外筒3aを貫通するように接続されている。前記外筒3aと内筒3bとの間は冷却剤流通空間3dであり、前記外筒3aの外周面は断熱材3e(図2参照)で覆われている。
【0032】
前記オイル回収部Rは、フィルタ4と冷却分離器5と熱交換器6と貯蔵タンク7とから構成している。
【0033】
前記フィルタ4は、前記熱分解ガス収集器3から導出される熱分解ガスの脱塵を行うようになっている。
【0034】
前記冷却分離器5は、前記フィルタ4で脱塵された熱分解ガスを冷却してオイルを分離するようになっている。
【0035】
前記熱交換器6は、前記冷却分離器5でオイルが分離された熱分解ガスの一部を、前記流動層炉1から導出される高温ガスと熱交換させて前記熱分解器2へ炭素質固体燃料の分散用として供給するようになっている。
【0036】
前記貯蔵タンク7は、前記冷却分離器5で分離されたオイルを貯蔵するようになっている。
【0037】
前記流動層炉1には、必要に応じてベッド材が添加されると共に、補助燃料が供給されるようになっている。前記補助燃料としては、前記熱交換器6から熱分解器2へ導かれる熱分解ガスの一部を用いることができる。但し、前記補助燃料は、熱分解ガスに限定されるものではなく、種々の燃料を用いることができる。
【0038】
前記熱分解器2の円筒状本体2aの上部には、前記熱交換器6からの熱分解ガスが炭素質固体燃料と一緒に導入されるノズル9が接続されている。その平面配置としては、例えば、図3(a)に示す如く、二本のノズル9を前記熱分解器2の円筒状本体2aの上部にその半径方向へ対向して延びるよう接続することができる。又、図3(b)に示す如く、四本のノズル9を前記熱分解器2の円筒状本体2aの上部にその半径方向へ対向して延びるよう90°ずつ角度をずらして接続することもできる。更に又、図3(c)に示す如く、四本のノズル9を前記熱分解器2の円筒状本体2aの上部にその接線方向へ延びるよう接続することもできる。尚、前記ノズル9の本数や接続の角度に関しては、必要に応じて変更できることは言うまでもない。
【0039】
次に、上記第一実施例の作用を説明する。
【0040】
流動層炉1である流動層燃焼器1Aにおいては、ベッド材が流動化ガス(空気)により流動化されつつチャーが燃焼する。これが図4のステップS1で示す熱生成工程となる。
【0041】
熱分解器2においては、炭素質固体燃料が分散されて降下しつつ前記流動層燃焼器1Aにおける熱生成工程で得られる熱により加熱されて熱分解ガスが生成される。これが図4のステップS2で示す熱分解ガス生成工程となる。より詳しくは、熱分解ガスにより炭素質固体燃料がノズル9から熱分解器2に噴射され、分散されて降下していく際に、熱分解器2の壁からの輻射を受け、炭素質固体燃料の粒子の温度が上がり、熱分解が発生し、タール、熱分解ガス並びにチャーが生成される。前記熱分解器2で生成されたチャーは重力によって落下し、ダウンカマー8においてチャーによるシールが形成され、流動層燃焼器1Aからの空気が熱分解器2に流入することが防止される。尚、前記流動層燃焼器1Aで空気を流動化ガスとし、ダウンカマー8から徐々に落下したチャーを流動化させ、高温のベッド材と混合させて燃焼させることにより、前記熱分解器2の壁の温度は900〜1000℃に維持されている。又、前記ノズル9からの熱分解ガスによる炭素質固体燃料の噴射速度は5〜20m/sに設定することができる。更に又、前記熱分解器2における炭素質固体燃料の粒子の運動状態はほぼ自由落下で、炭素質固体燃料の粒子の総滞留時間は0.5〜1secとなり、炭素質固体燃料の粒子の自由落下の運動状態を確保するために、前記熱分解器2内のガスの流速は0.1〜0.5m/sに設定することができる。前記熱分解器2のダウンカマー8より上の部分における高さは1〜5mであり、炭素質固体燃料の粒子の粒径は0.1〜5mmである。但し、これらの数値は、上記の値に限定されるものではない。
【0042】
熱分解ガス収集器3においては、前記熱分解器2における熱分解ガス生成工程で生成された熱分解ガスが冷却される。これが図4のステップS3で示す熱分解ガス収集工程となる。より詳しくは、前記熱分解ガス生成工程で生成された熱分解ガスはタールを含んでおり、該タールを含む熱分解ガスは、ガス誘導管3cを経由し、熱分解ガス収集器3の内筒3bに吸引され、外筒3aと内筒3bとの間の冷却剤流通空間3dに流される冷却剤(例えば、N)によって、熱分解ガスの温度がおよそ650℃から400℃まで低下する。因みに、タールの沸点は400℃未満(タール沸点<400℃)である。ここで、外筒3aの外周面は断熱材3eで覆われているため、前記冷却剤流通空間3dに冷却剤を流すことに伴う熱分解器2の内部温度への影響が緩和されている。
【0043】
そして、前記熱分解ガス収集器3における熱分解ガス収集工程で冷却された熱分解ガスよりオイルが回収される。これが図4のステップS4で示すオイル回収工程となる。フィルタ4においては、熱分解ガスの脱塵が行われる。これが図4のステップS5で示す脱塵工程となる。冷却分離器5においては、前記フィルタ4における脱塵工程で脱塵された熱分解ガスが冷却されてオイルが分離される。これが図4のステップS6で示す冷却分離工程となる。前記脱塵工程と冷却分離工程とが前記オイル回収工程に含まれる。前記オイルは、製品として貯蔵タンク7に貯蔵される。又、前記冷却分離器5における冷却分離工程でオイルが分離された熱分解ガスは、製品として回収される。
【0044】
前記冷却分離器5における冷却分離工程でオイルが分離された熱分解ガスの一部は、熱交換器6において、前記流動層燃焼器1Aにおける熱生成工程で生じる高温ガスと熱交換される。これが図4のステップS7で示す熱交換工程となる。前記熱交換器6における熱交換工程で熱交換させた熱分解ガスは、前記熱分解器2における熱分解ガス生成工程で使用される炭素質固体燃料の分散用としてノズル9へ供給される。
【0045】
前記熱交換器6における熱交換工程で熱交換された熱分解ガスの一部は、前記流動層燃焼器1Aにおける熱生成工程の補助燃料として用いられる。
【0046】
この結果、特許文献1に開示されている装置において流動層式の熱分解器が使用されることによって生じていた問題が、第一実施例では解消される。
【0047】
即ち、前記熱分解器2では、炭素質固体燃料の粒子と熱分解ガスの流通方向が重力と同じで上方から下方へ向うため、流通方向とは逆方向となる重力による流れに伴う、いわゆる逆混合(backmixing)が存在しなくなる。これによって、生成されたオイル(タール)とチャーとが接触する確率が減少し、チャーの表面で触媒作用等の影響によりオイルが分解・還元されにくくなって、オイルの収率を上げることが可能となる。
【0048】
又、前記熱分解器2の出口は上部ではなく下部に設定され、該熱分解器2の内部で生成されたオイルの滞留時間が長くなり過ぎず、オイルが出口まで移動する過程で分解・還元されにくくなることも、オイルの収率が上がる要因となる。
【0049】
更に又、通常、オイルの更なる反応を抑制し、オイルの収率を上げるためには、生成されたオイルを急速に冷却する必要がある。第一実施例の場合、前記熱分解器2で生成されたオイルは熱分解ガス収集器3で急速に冷却され、該熱分解器2の内部において高温下で分解・還元されにくくなり、オイルの収率低下が回避される。
【0050】
因みに、前記炭素質固体燃料としては、バイオマス(木材、籾殻、藁、サトウキビ搾汁後の残渣であるバガス、竹等)、或いは低品位炭(褐炭、亜瀝青炭)が望ましい。オイルの収率については、バイオマスの場合、40〜80wt%、石炭の場合、5〜20wt%が見込まれる。
【0051】
尚、前記熱分解器2においては、炭素質固体燃料の粒子を分散させつつ、高温の壁からの均一な輻射によって炭素質固体燃料の熱分解に必要となる熱量を提供するため、炭素質固体燃料の粒子の加熱速度を上げることが可能となる。前記炭素質固体燃料の粒子の加熱速度が上がると、生成されるオイルの分子量が小さくなり、品質向上につながる。
【0052】
こうして、オイルの収率向上を図り得る。
【0053】
図5は本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置の第二実施例であって、図中、図1図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1図4に示す第一実施例と同様である。
【0054】
本第二実施例の特徴とするところは、図5に示す如く、前記流動層炉1を、底部から流動化ガスとして空気と酸素と水蒸気とが導入されてベッド材を流動化させつつチャーを部分酸化させる流動層ガス化器1Bとした点にある。
【0055】
図5に示すように、流動層炉1を流動層ガス化器1Bとすると、ベッド材が流動化ガスとしての空気と酸素と水蒸気の混合ガスにより流動化されつつチャーが燃焼ではなく部分酸化し、高温ガスとして燃料ガス(CO、H等)が発生する。前記流動層ガス化器1Bで発生した高温ガスは、熱分解器2の壁を加熱しつつ上昇し、熱交換器6において、前記冷却分離器5における冷却分離工程でオイルが分離された熱分解ガスの一部と熱交換した後、燃料ガス(CO、H等)として回収される。尚、前記酸素は純酸素が好ましいが、純酸素に限定されるものではない。これ以外の作用に関しては、図1図4に示す第一実施例と同様となるため、説明は省略する。
【0056】
この結果、図5に示す第二実施例では、オイルを製造しながら、燃料ガス(CO、H等)も製品として製造できる。
【0057】
こうして、第二実施例においても、第一実施例と同様、オイルの収率向上を図り得る。
【0058】
そして、前記第一実施例並びに第二実施例において、前記オイル回収工程は、図4に示す如く、熱分解ガスの脱塵を行う脱塵工程と、該脱塵工程で脱塵された熱分解ガスを冷却してオイルを分離する冷却分離工程とを含んでいる。このようにすると、不純物が除去されたオイルを効率良く製造することができる。
【0059】
又、前記第一実施例並びに第二実施例においては、前記冷却分離工程でオイルが分離された熱分解ガスの一部を、前記熱生成工程で生じる高温ガスと熱交換させる熱交換工程を有し、該熱交換工程で熱交換させた熱分解ガスを前記熱分解ガス生成工程で使用される炭素質固体燃料の分散用として供給している。このようにすると、熱分解ガスの一部を利用して熱回収並びに炭素質固体燃料の分散を行えるため、全体の効率をより向上させることができる。
【0060】
更に又、前記第一実施例並びに第二実施例においては、前記熱交換工程で熱交換された熱分解ガスの一部を前記熱生成工程の補助燃料として用いている。このようにすると、特別な補助燃料を使用せずに熱生成を行うことができる。
【0061】
一方、前記第一実施例並びに第二実施例においては、炭素質固体燃料を分散させて降下させつつ流動層炉1で得られる熱により加熱して熱分解ガスを生成する熱分解器2と、該熱分解器2の内部で発生した熱分解ガスを冷却しつつ導出する熱分解ガス収集器3と、前記熱分解ガス収集器3から導出される熱分解ガスよりオイルを回収するオイル回収部Rとを備えている。このように構成すると、オイルの収率向上を図り得る。
【0062】
前記第一実施例において、前記流動層炉1は、底部から流動化ガスとして空気が導入されてベッド材を流動化させつつチャーを燃焼させる流動層燃焼器1Aである。このように構成すると、前記流動層燃焼器1Aで得られる熱を利用して熱分解ガスを生成することができる。
【0063】
前記第二実施例において、前記流動層炉1は、底部から流動化ガスとして空気と酸素と水蒸気とが導入されてベッド材を流動化させつつチャーを部分酸化させる流動層ガス化器1Bである。このように構成すると、前記流動層ガス化器1Bで得られる熱を利用して熱分解ガスを生成することができると共に、オイルを製造しながら、燃料ガス(CO、H等)も製品として製造できる。
【0064】
前記第一実施例並びに第二実施例において、前記熱分解器2は、前記流動層炉1の内部に配置され且つ底部にダウンカマー8が接続され、該ダウンカマー8の下端部は、前記流動層炉1の内部のベッド材からなる流動層1aに埋没している。このように構成すると、前記熱分解器2で生成されたチャーを重力によって落下させ、ダウンカマー8においてチャーによるシールを形成し、流動層炉1からの空気が熱分解器2に流入することを防止できる。
【0065】
前記第一実施例並びに第二実施例において、前記熱分解ガス収集器3は、前記熱分解器2の内部に配置され且つ外筒3aと内筒3bとを備え、前記内筒3bには、前記熱分解器2の内部で発生した熱分解ガスを吸引するガス誘導管3cが接続され、前記外筒3aと内筒3bとの間は冷却剤流通空間3dであり、前記外筒3aの外周面は断熱材3eで覆われている。このように構成すると、前記熱分解器2で生成されたタールを含む熱分解ガスを、ガス誘導管3cから熱分解ガス収集器3の内筒3bに吸引し、外筒3aと内筒3bとの間の冷却剤流通空間3dに冷却剤を流すことによって、熱分解ガスの温度を低下させることができ、更に、外筒3aの外周面は断熱材3eで覆われているため、前記冷却剤流通空間3dに冷却剤を流すことに伴う熱分解器2の内部温度への影響を緩和することができる。
【0066】
前記第一実施例並びに第二実施例においては、前記熱分解ガス収集器3から導出される熱分解ガスの脱塵を行うフィルタ4と、該フィルタ4で脱塵された熱分解ガスを冷却してオイルを分離する冷却分離器5とを備えている。このように構成すると、フィルタ4と冷却分離器5とによって不純物が除去されたオイルを効率良く製造することができる。
【0067】
前記第一実施例並びに第二実施例においては、前記冷却分離器5でオイルが分離された熱分解ガスの一部を、前記流動層炉1から導出される高温ガスと熱交換させて前記熱分解器2へ炭素質固体燃料の分散用として供給する熱交換器6を備えている。このように構成すると、熱分解ガスの一部を利用して熱交換器6で熱回収を行い、該熱交換器6で昇温した熱分解ガスにより炭素質固体燃料の分散を行えるため、全体の効率をより向上させることができる。
【0068】
前記第一実施例並びに第二実施例において、前記熱交換器6から熱分解器2へ導かれる熱分解ガスの一部は、前記流動層炉1の補助燃料として用いられる。このように構成すると、特別な補助燃料を使用せずに流動層炉1で熱生成を行うことができる。
【0069】
前記第一実施例並びに第二実施例において、前記熱分解器2は、前記熱交換器6からの熱分解ガスが炭素質固体燃料と一緒に導入される複数のノズル9を備え、該ノズル9は、図3(a)或いは図3(b)に示す如く、前記熱分解器2の円筒状本体2aの上部にその半径方向へ対向して延びるよう接続される。このように構成すると、熱分解器2の内部における熱分解ガス及び炭素質固体燃料の滞留時間を短くすると共に、熱分解器2の内部における熱分解ガス及び炭素質固体燃料の混合をより促進させることができる。
【0070】
前記第一実施例並びに第二実施例において、前記熱分解器2は、前記熱交換器6からの熱分解ガスが炭素質固体燃料と一緒に導入されるノズル9を備え、該ノズル9は、図3(c)に示す如く、前記熱分解器2の円筒状本体2aの上部にその接線方向へ延びるよう接続される。このように構成すると、熱分解器2の円筒状本体2aの内壁面に沿う熱分解ガス及び炭素質固体燃料の旋回流を強め、該熱分解ガス及び炭素質固体燃料と流動層炉1内部の流動化ガスとの熱交換効率をより高めることができる。
【0071】
尚、本発明の炭素質固体燃料熱分解オイル製造方法及び装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
1 流動層炉
1A 流動層燃焼器
1B 流動層ガス化器
1a 流動層
2 熱分解器
2a 円筒状本体
3 熱分解ガス収集器
3a 外筒
3b 内筒
3c ガス誘導管
3d 冷却剤流通空間
3e 断熱材
4 フィルタ
5 冷却分離器
6 熱交換器
8 ダウンカマー
9 ノズル
R オイル回収部
図1
図2
図3
図4
図5