特許第6794727号(P6794727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794727
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】構造色変化型材料及び歪み検出装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/08 20060101AFI20201119BHJP
   G01B 11/16 20060101ALI20201119BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20201119BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20201119BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   G02B26/08 J
   G01B11/16 H
   C08L101/12
   C08K3/08
   C08K3/22
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-173622(P2016-173622)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-40884(P2018-40884A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】大木 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 英生
【審査官】 小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−047501(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/105548(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08
G01B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外圧又は内部変化により歪みが生じる起歪体に、表面プラズモンを発生させる粒子が含有されている構造色変化型材料であって、
前記表面プラズモンが、近赤外光領域の波長の入射光により発生し、
当該表面プラズモンを発生させる粒子の粒径が、当該入射光の波長以下であり、
前記表面プラズモンを発生させる粒子が、入射光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列され、かつ、
前記表面プラズモンを発生させる粒子の50質量%以上が、酸化物半導体を含有している
ことを特徴とする構造色変化型材料。
【請求項2】
前記酸化物半導体が、酸化亜鉛(ZnO)であることを特徴とする請求項に記載の構造色変化型材料。
【請求項3】
前記起歪体が、透明体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の構造色変化型材料。
【請求項4】
前記面内方向における前記表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、入射光の波長以下であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料。
【請求項5】
前記起歪体の面内方向の歪みが発生する方向を面内方向Aとし、前記面内方向Aに直交する方向を面内方向Bとしたとき、
前記面内方向Aにおける前記表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、前記入射する光の波長以下であり、
かつ、前記面内方向Bにおける表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、前記入射する光の波長より大きい
ことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料。
【請求項6】
前記表面プラズモンを発生させる粒子が、面内方向のみに周期的に配列されていることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料。
【請求項7】
表面プラズモンを利用して起歪体の面内方向の歪みを可視化する歪み検出装置であって、
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料と、
前記構造色変化型材料に対して光束を射出する光源部と、
前記構造色変化型材料からの反射光又は透過光を検出するための検出手段と、
前記検出手段で検出した前記反射光又は透過光から、前記起構造色変化型材料に生じる歪みを算出する信号処理部を有する
ことを特徴とする歪み検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造色変化型材料及び歪み検出装置に関する。更に詳しくは、本発明は、局在型表面プラズモンを用いて面内方向の歪みを直接的な色調変化として可視化する構造色変化型材料と、それを適用した歪み検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な物理量を可視化するニーズが高まっており、その技術の一つとして、物質等に生じた歪み検出する方法の検討がなされている。この方法では、材料に生じた歪みを人間の眼で見て直感的に把握、あるいは分光測定装置を用い、波長のシフト巾を測定することにより検出が可能という特徴を有している。このような方法としては、例えば、歪みに応じて色調が変化する構造色変化型の弾性体材料を開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。当該特許文献で開示されている方法は、弾性体、例えば、ゴム状の弾性体(エラストマー)中にナノサイズの誘電体粒子を3次元的に規則配列することで歪みや変形に対し、色調が変化する方法であり、Bragg反射を利用しており、粒子で構成される格子面間隔の変動を利用して歪みを可視化する方法である。より具体的には、弾性体材料に生じた歪みに応じて、ナノサイズの単分散粒子で形成される格子面の間隔が変化することで、Bragg反射の波長λがシフトし、弾性体材料の色調が変化する方法である。この弾性体材料は局所的な歪みに対して敏感に色が変わるため、応力集中や歪みの存在を可視化するセンサー材料としてフィルムや繊維などへの応用が考えられている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2で開示されている弾性体材料は、光の反射面の面外方向の歪みを可視化する方法としては適しているが、光の反射面に対する水平方向である面内方向の歪みを可視化するのに不向きである。歪み可視化のニーズの中には面外方向の歪みではなく、外圧又は内部変化を受けた際に生じる面内方向の歪みを可視化したいという強い要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−28202号公報
【特許文献2】特開2012−994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、局在型表面プラズモンを用いて、起歪体の面内方向の歪みに応じて直接的な色調変化として可視化する構造色変化型材料と、それを適用した歪み検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、構造色変化型材料について鋭意検討を進めた結果、外圧又は内部変化により歪みが生じる起歪体に、表面プラズモンを発生させる粒子が含有され、前記表面プラズモンが近赤外光領域の波長の入射光により発生し、表面プラズモンを発生させる粒子の粒径を入射光の波長以下とし、かつ前記粒子の配列を入射光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列し、前記表面プラズモンを発生させる粒子の50質量%以上が、酸化物半導体を含有した構成の構造色変化型材料とすることにより、局在型表面プラズモンを用いて歪みを直接的な色調変化として可視化する構造色変化型材料を実現することができることを見いだし、本発明に至った。
【0007】
すなわち、上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.外圧又は内部変化により歪みが生じる起歪体に、表面プラズモンを発生させる粒子が含有されている構造色変化型材料であって、
前記表面プラズモンが、近赤外光領域の波長の入射光により発生し、
当該表面プラズモンを発生させる粒子の粒径が、当該入射光の波長以下であり、
前記表面プラズモンを発生させる粒子が、入射光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列され、かつ、
前記表面プラズモンを発生させる粒子の50質量%以上が、酸化物半導体を含有している
ことを特徴とする構造色変化型材料。
【0012】
.前記酸化物半導体が、酸化亜鉛(ZnO)であることを特徴とする第項に記載の構造色変化型材料。
【0013】
.前記起歪体が、透明体であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の構造色変化型材料。
【0014】
.前記面内方向における前記表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、入射光の波長以下であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料。
【0015】
.前記起歪体の面内方向の歪みが発生する方向を面内方向Aとし、前記面内方向Aに直交する方向を面内方向Bとしたとき、
前記面内方向Aにおける前記表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、前記入射する光の波長以下であり、
かつ、前記面内方向Bにおける表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、前記入射する光の波長より大きい
ことを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料。
【0016】
.前記表面プラズモンを発生させる粒子が、面内方向のみに周期的に配列されていることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料。
【0017】
.表面プラズモンを利用して起歪体の面内方向の歪みを可視化する歪み検出装置であって、
第1項から第項までのいずれか一項に記載の構造色変化型材料と、
前記構造色変化型材料に対して光束を射出する光源部と、
前記構造色変化型材料からの反射光又は透過光を検出するための検出手段と、
前記検出手段で検出した前記反射光又は透過光から、前記起構造色変化型材料に生じる歪みを算出する信号処理部と、
を有することを特徴とする歪み検出装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の構成を採用することにより、局在型表面プラズモンを用いて、起歪体の面内方向の歪みに応じ、直接的な色調変化として可視化する構造色変化型材料と、それを適用した歪み検出装置を提供することができる。
【0019】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0020】
本発明の構造色変化型材料は、外圧又は内部変化により歪みが生じる起歪体に、表面プラズモンを発生させる粒子を含有し、前記粒子の粒径を入射光の波長以下とし、かつ構成する表面プラズモンを発生させる粒子が、入射光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列している構成とすることにより、起歪体の面内方向の歪みに応じ、直接的な色調変化として可視化する構造色変化型材料を実現できたものである。
【0021】
はじめに先行例である特許文献1及び特許文献2で開示されている方法の課題について説明する。前述の特許文献1及び2に記載されている方法は、Bragg反射を利用した構造色変化型材料を提供しているものであるが、このBragg反射は、面外方向の格子面間隔に応じて反射する光の波長が決定される。なお、ここでいう面外方向とは、光の反射面に直交する方向を示す。そのため、Bragg反射を利用した構造色変化型材料の場合、面外方向の歪みに応じて材料の色調が変化する特性を有するものである。
【0022】
ここで、特許文献1及び2で記載されている構造色変化型材料を用いて、「面外方向Zの歪みεz」ではなく、「面内方向Yの歪みεy」を色調変化で可視化するケースについて考える。この時、面内方向の歪みεyを可視化しようとする場合には、歪みεyを歪みεzに変換する必要がある。
【0023】
この時の変換のステップとしては、歪み量εy→歪み量εz→格子面間隔Dが変化→反射光の波長がシフト→色調変化となる。
【0024】
すなわち、
式(1)
歪み量εz=ポアソン比ν×歪み量εy
となる。
【0025】
上記の式(1)から分かるように、歪みεzは、歪みεyとポアソン比νの積で求められる。
【0026】
このポアソン比は原理的に0.0〜0.5の範囲に収まる。これは、εzは最大でもεyの半分の値未満になることを意味する。すなわち、歪みεzの色調変化の感度を1.0とした場合、歪みεyの色調変化の感度は0.5未満となることを意味する。
【0027】
ここで一つの問題が発生する。特許文献1及び2に記載の構造色変化型材料を用いて、「面内方向Yの歪みεy」を可視化しようとした際、歪みεyよりも歪みεzのほうが色調変化の感度が高いため、歪みεzがノイズとして発生しやすくなってしまう。実際に面内方向の歪みεyだけを可視化したい場合には、歪みεzの色調変化の感度が高い、ということは大きなノイズ要因となる。
【0028】
以上のことから、特許文献1及び特許文献2に記載の構造色変化型材料では面内方向の歪みεyを可視化するのには不向きな方法であった。
【0029】
これに対し、本発明の構造色変化型材料では、Bragg反射ではなく局在型表面プラズモンを利用し、表面プラズモンを発生させる粒子の粒径を入射する光の波長以下とし、かつ粒子の配列が、入射する光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列する構成とすることにより、面内方向の歪みをより適切に可視化可能な構造色変化型材料を得ることができた。
【0030】
すなわち、本発明で規定する構成である、歪みが発生する起歪体の内部もしくは表面に導電体材料である粒子を規則的に配列させることにより、局在型表面プラズモンを発生させることができる。なお、ここで、局在型表面プラズモンは、入射光によって励起された粒子の集団的電荷振動であり、共鳴波長で高度な近接増幅を起こす。そのため、局在型表面プラズモンにより、粒子を反射あるいは透過した光のスペクトルはある特定の波長ピークを示すようになる。
【0031】
このピーク波長は、例えば、粒子の形状や粒径、粒子間隔、粒子と粒子周辺の材料に依存することになる。本発明ではピーク波長のシフトに着目してなされたものであり、ピーク波長は起歪体の面内方向の粒子間隔に依存する。そのため起歪体が歪み、それにより面内方向の粒子間隔が変動すれば、その結果として、局在型表面プラズモンの共鳴波長がシフトすることになる。これは人間の眼、あるいは分光波長の測定により、粒子を含む起歪体の色調が変化したように見えることを意味する。すなわち、本発明で規定する構成をとることにより、面内方向の歪みに応じて直接的に色調変化する構造色変化型材料が実現できる。
【0032】
また、先行例である各特許文献と異なり、本発明では、面外方向でなく面内方向の歪みに応じてピーク波長がシフトする特性を有している。これは、色調変化の感度が面内方向の歪み>面外方向の歪みとなることを意味する。
【0033】
以上のことから、本発明の構造色変化型材料は、面内方向の歪みを可視化するのに適した構造色変化型材料であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の構造色変化型材料の構成と、歪みによる波長シフトの一例を示す概略図
図2】本発明の構造色変化型材料の他の構成と、歪みによる波長シフトの一例を示す概略図
図3】歪み検出装置の全体構成の一例を示す概略図
図4】歪みの有無による構造色変化型材料の反射スペクトルの変化の一例を示すグラフ
図5】歪み量とピーク波長との関係の一例を示すグラフ
図6】構造色変化型材料におけるナノ粒子の配列の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の構造色変化型材料は、外圧又は内部変化により歪みが生じる起歪体に、表面プラズモンを発生させる粒子が含有されていて、前記表面プラズモンが、近赤外光領域の波長の入射光により発生し、当該表面プラズモンを発生させる粒子の粒径が、当該入射光の波長以下であり、前記表面プラズモンを発生させる粒子が、入射光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列され、かつ、前記表面プラズモンを発生させる粒子の50質量%以上が、酸化物半導体を含有していることを特徴とする。この特徴は、各請求項に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0038】
また、表面プラズモンを発生させる粒子が、主成分として酸化物半導体を含有していることを特徴と、近赤外光領域にてプラズモン共鳴を発生することができる。具体的には、起歪体に生じる歪みに応じて近赤外領域の反射光のピーク波長をシフトさせることが可能となる点で好ましい。
【0039】
更には、前記酸化物半導体として酸化亜鉛(ZnO)を適用することが、赤外光領域において、感度良くプラズモン共鳴を発生させることができる点から好ましい形態である。
【0040】
また、起歪体が透明体であることが、構造色変化型材料が反射光のみならず透過光でも取り扱えるようになる点で好ましい形態である。
【0041】
また、内方向における前記表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、入射光の波長以下で配列されていることが、起歪体の歪みに応じて、より色調変化を生じやすくなる点で好ましい形態である。
【0042】
また、本発明の構造色変化型材料においては、起歪体の面内方向の歪みが発生する方向を面内方向Aとし、前記面内方向Aに直交する方向を面内方向Bとしたとき、
前記面内方向A(起歪体の面内方向の歪みが発生する方向)における前記表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、前記入射する光の波長以下であり、かつ、前記面内方向B(面内方向Aに直交する方向)における表面プラズモンを発生させる複数の隣り合う粒子の間隔が、前記入射する光の波長より大きい構成とすることが、面内方向に生じる歪みの特定方向にのみ色調変化の感度が高い材料を実現することができ、特定の方向の歪みを色調変化で可視化したいという用途で効果的である点で好ましい形態である。
【0043】
また、本発明の構造色変化型材料においては、表面プラズモンを発生させる粒子が、面内方向にのみ周期的に配列されている構成であることが、起歪体の面外方向に生じた歪みに応じた色調変化を発生難くすることができ、起歪体の面内方向における色調変化を高い精度で得ることができる観点で好ましい。
【0044】
また、本発明の歪み検出装置は、表面プラズモンを利用して起歪体の面内方向の歪みを可視化する歪み検出装置であって、本発明の構造色変化型材料と、前記構造色変化型材料に対して光束を射出する光源部と、前記構造色変化型材料からの反射光又は透過光を検出するための検出手段と、前記検出手段で検出した前記反射光又は透過光から、前記起構造色変化型材料に生じる歪みを算出する信号処理部とを有する構成とすることにより、構造色変化型材料を構成する粒子を含む起歪体に生じる歪み量の定量的な測定が可能となる。具体的には、光源から射出された光束の反射又は透過光を検出手段で検出し、信号処理部にて検出した波長シフト量もしくは光強度変化から粒子を含む起歪体の歪み量を算出することが可能になる。
【0045】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下で説明する実施形態は、本実施形態の一例を示すものであり、これらに限定されることはない。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0046】
《構造色変化型材料の構成》
はじめに、本発明の構造色変化型材料の構成要素の詳細について説明する。なお、具体的な構成について後述する。
【0047】
本発明の構造色変化型材料は、外力又は内部変化により歪みが生じる起歪体に表面プラズモンを発生させる粒子が含有されている構造色変化型材料であって、前記表面プラズモンが、2400nm以下の波長の入射光により発生し、当該表面プラズモンを発生させる粒子の粒径が、当該入射光の波長以下であり、かつ前記表面プラズモンを発生させる粒子が、入射光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列されていることを特徴とする。
【0048】
反射面とは、一般には、入射光線が屈折率の異なる物質に入射するときの境界面のことをいうが、本願においては、本発明の構造色変化型材料を構成する起歪体の表面をいう。したがって、反射面の面内方向とは、起歪体の表面に対して平行な方向をいう。
【0049】
〔起歪体〕
本発明に係る起歪体とは、外力又は内部変化によりひずみを発生させる物体をいう。ここで、「外力又は内部変化」とは、荷重(物体に作用する外力)又は熱変化、吸湿変化等をいう。また、荷重には、引張荷重、圧縮荷重、せん断荷重、曲げ荷重、ねじり荷重等が含まれる。
【0050】
本発明の構造色変化型材料は、上記の外力又は内部変化により起歪体に歪みが生じ、当該起歪体の内部又は表面に含有されている表面プラズモンを発生させる粒子の粒子間隔等の変化により色調の変化が生じる。
【0051】
本発明に適用可能な起歪体を構成する材料としては、負荷に対し歪みを生じる材料であれば特に制限はなく、光透過性であっても光不透過性であってもよい。
【0052】
光透過性の透明基材(透明体)としては、例えば、ガラスや従来公知の種々の樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムとしては、例えば、セルロースエステル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム(例えば、ポリメチルメタクリレート等)、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、セルロースジアセテートフィルム、セルローストリアセテートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、アクリルフィルム等を挙げることができる。
【0053】
また、光不透過性基材としては、例えば、アルミニウムやステンレスなどの金属箔やゴム材料(例えば、シリコンゴム等)、板、プラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属膜を積層させた基材を挙げることができる。
【0054】
本発明に係る起歪体においては、光透過性基材である透明体で構成されていることが、構造色変化型材料を透過光でも適用することができる観点で好ましい。ここでいう光透過性あるいは透明体とは、基材単体としての可視光領域における平均光透過率Tが50%以上であることをいい、好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0055】
〔表面プラズモンを発生させる粒子〕
(プラズモン共鳴)
本発明でいうプラズモンとは、光によって励起された金属ナノ粒子における電子の粗密波(=縦波)である。プラズモンは、全波長域の光で生じるわけではなく、光の周波数が金属等における表面電子の自然周波数と一致するときにプラズモン共鳴が発生する。
【0056】
プラズモン共鳴が発生すると、その周波数における光のエネルギーは電子振動の励起によって消費されるため、プラズモン共鳴周波数(波長)において光の吸収が生じる。このとき、プラズモン共鳴周波数は、金属等の表面電子を有する物質と、他方の物質との界面における境界条件として屈折率(広義には誘電率)の差により決定される。このとき、他方の物質の屈折率が変化することでも、共鳴周波数も変化する。
【0057】
プラズモン共鳴現象は、金属表面の自由電子の振動が光と結合して金属表面を伝播する伝播型表面プラズモンと、金属等のナノ粒子全体が入射光電場によって電子の分極を誘発されそれが振動することによって生じる局在型表面プラズモンの2つに大別される。
【0058】
伝播型表面プラズモンは、素子のサイズが大きくてもその金属の表面上に微細構造を設けることでその特性を制御できるため、波長フィルターやバイオセンサーへの応用が考えられているが、素子単位での特性を変えることが難しいため、多チャンネル化が難しく、またセンサーとして利用する場合は、プラズモン励起光の検出のために高感度な検出装置が必要となるため、システムが複雑化・大型化しやすいといったデメリットが挙げられる。
【0059】
一方、局在型表面プラズモンは、素子の最小単位がナノ粒子の1粒子に相当するので、小型化が容易であり、マルチチャンネルでのバイオセンサーや検疫システムに向いている。本発明は、この局在型表面プラズモンを利用した発明である。
【0060】
(ナノ粒子)
本発明においては、表面プラズモンを発生させるナノ粒子としては、下記の構成のナノ粒子を適用することが好ましい。
【0061】
〈金属粒子〉
本発明に係る表面プラズモンを発生させるナノ粒子の第1の形態は、主成分として金属を含有することが、プラズモン共鳴周波数のピークを可視光領域に発現させることができる観点から好ましい。本発明において、主成分とは、ナノ粒子の50質量%以上が金属で構成されていることであり、好ましくは65質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは99質量%以上である。
【0062】
本発明に係るプラズモンの共鳴周波数ωは、下式(2)により求めることができる。
【0063】
式(2)
ω=(ne/εm)1/2
式(2)において、nは電子密度、eは電子の電荷、εは誘電率、mは有効質量を表す。
【0064】
一般的な金属の場合、紫外〜可視光領域にかけてこの共鳴周波数を持つ。表面プラズモンを発生させるナノ粒子の構成材料として金属を使用したとき、この共鳴周波数よりも長波長領域において粒径を設定することで色味変化を大きくすることが可能となる。
【0065】
本発明において、ナノ粒子を構成する金属としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等の金属を挙げることができるが、この中でも、特に、金(Au)を用いることが、可視光領域において最も感度良く共鳴プラズモンを発生させることができる点で好ましい。
【0066】
また、金は、可視光領域にプラズモン共鳴周波数を持つ代表的な物質であり、物質として安定しているため経時変化などの変質が起きにくい。また材料的にも安定供給できるため、ナノ粒子でプラズモンを起こす材料として適している。
【0067】
〈酸化物半導体粒子〉
本発明に係る表面プラズモンを発生させるナノ粒子の第2の形態は、プラズモン共鳴周波数のピークを近赤外領域に持つ材料として、酸化物半導体を適用することが好ましい。本発明において、主成分とは、ナノ粒子の50質量%以上が酸化物半導体で構成されていることであり、好ましくは65質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは99質量%以上が酸化物半導体で構成されている粒子である。
【0068】
酸化物半導体の電子移動度は、およそ1×1018〜1×1021cm−3の範囲内であり、近赤外から赤外域にかけてのプラズモン共鳴波長制御が可能である。これは、物性の制御が不可能な金属に対して、電子移動度という制御パラメーターを余計に持つ半導体の特長といえる。赤外領域でプラズモンの共鳴波長の制御が可能な酸化物半導体を使用することにより、色調変化に対する最適設計が可能となる。
【0069】
本発明に係る表面プラズモンを発生させるナノ粒子の形成に適用可能な酸化物半導体としては、例えば、TiO、ITO(インジウム・スズ酸化物)、ZnO、Nb、ZrO、CeO、Ta、Ti、Ti、Ti、TiO、SnO、LaTi、(インジウム・亜鉛酸化物)、AZO(アルミニウム・亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム・亜鉛酸化物)、ATO(アンチモン・スズ酸化物)、ICO(インジウム・セリウム酸化物)、Bi、a−GIO、Ga、GeO、SiO、Al、HfO、SiO、MgO、Y、WO、a−GIO(ガリウム・インジウム酸化物)等が挙げられる。その中でも、特に、酸化亜鉛(ZnO)を用いることが、近赤外領域にて感度良くプラズモン共鳴を発生させることができる点で好ましい。
【0070】
(ナノ粒子の粒径)
本発明においては、表面プラズモンを発生させる粒子の粒径は、入射する光の波長以下であることを特徴の一つである。
【0071】
第1の形態である金属により構成され、プラズモン共鳴周波数のピークを可視光領域に発現させる粒子の粒径としては、可視光領域の光の波長以下であり、具体的には、780nm以下であることが好ましい。
【0072】
また、第2の形態である酸化物半導体により構成され、プラズモン共鳴周波数のピークを近赤外領域に発現させる粒子の粒径としては、近赤外光領域の光の波長以下であり、具体的には、2400nm以下であることが好ましい。
【0073】
本発明において、表面プラズモンを発生させるナノ粒子の平均粒径は、下記の方法を適用することにより求めることができる。
【0074】
本発明において、ナノ粒子の平均粒径は、公知の粒径測定方法を適用することにより、容易に求めることができる。例えば、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器、例えば、粒度測定器(マルチサイザーIII、ベックマンコールター社製)を用い、解析ソフト(Beckman Coulter Mutlisizer 3 Version3.51)により求めることができる。また、透過型電子顕微鏡による粒子像撮影を少なくとも100粒子以上に対して行い、この像をImage−Pro(メディアサイバネティクス製)等の画像解析ソフトを用いて統計的処理を行うことによっても求めることが可能である。
【0075】
(表面プラズモンを発生させるナノ粒子の調製方法)
本発明に係る表面プラズモンを発生させるナノ粒子の調製は、従来公知の無機粒子の形成方法を適宜選択して適用することができる。
【0076】
以下に、一例として、酸化物半導体である酸化亜鉛で構成されているナノ粒子の調製方法を示す。
【0077】
1)はじめに、原料液調製工程で、酸化物半導体である酸化亜鉛を形成する亜鉛水溶液と、尿素類水溶液、その他の添加剤を含む水溶液を調製する。
【0078】
2)亜鉛系化合物前駆体粒子を形成する工程で、上記各水溶液を混合して、一定の温度、時間で撹拌しながら、種粒子に生成、及び種粒子を成長させて、亜鉛系化合物前駆体粒子を形成する。
【0079】
3)固液分離工程で、上記調製した亜鉛系化合物前駆体粒子を水溶液から固液分離する。
【0080】
4)次いで、分離した亜鉛系化合物前駆体粒子を所定の温度及び時間で、焼成処理を施して、球状の酸化物半導体である酸化亜鉛粒子を調製する。
【0081】
次いで、本発明の構造色変化型材料及び歪み検出装置の構成及び技術的な特徴点について、図を交えて説明する。なお、各図の説明において、構成要素の末尾に括弧内で記載した数字は、各図における符号を表す。
【0082】
〔実施形態1〕
本発明の構造色変化型材料の一つは、負荷により歪みが生じる起歪体と、起歪体の内部に表面プラズモンを発生させる粒子(以下、ナノ粒子ともいう。)を有する構成で、かつ表面プラズモンを発生させる粒子の列が、入射する光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列されている構成であることを特徴とする。
【0083】
本発明においては、表面プラズモンを発生させる粒子が主成分として金属を含有している場合には、入射光としては750nm以下の近赤外波長を用い、表面プラズモンを発生させる粒子が主成分として酸化物半導体を含有している場合には、入射光としては2400nm以下の可視光領域を用いることが好ましい。
【0084】
図1は、本発明の構造色変化型材料の一つの構成を示す概略図であり、起歪体の内部に表面プラズモンが発生する光の波長以下のサイズの粒子が規則的に配列されている構成である。
【0085】
図1のa)は、外圧を付加する前の構造色変化型材料(10)の構成を示してある。
【0086】
図1のa)で示す構造色変化型材料(10)においては、起歪体(11)の内部に、表面プラズモンを発生させる粒子であるナノ粒子(12)が規則的に配列している。その配列は、入射する光束の反射面に対し、面内方向Xに、複数のナノ粒子(12)が一列に配列し、その列が面内方向Yに周期的に配列している構成である。図1のb)は、図1のa)で示す構造色変化型材料(10)の面内方向Xから見た側面図である。
【0087】
このような構成の構造色変化型材料(10)において、波長の異なる複数の光束(21、22、及び23)が面外方向Zより入射され、起歪体(11)の表面に到達している。この図1のa)においては、光束21及び光束23が、構造色変化型材料(10)を透過し、ナノ粒子(12)と光の相互作用により表面プラズモンが発生し、特定波長の光束22のみが反射されている様子を示している。
【0088】
これに対し、図1のc)は、構造色変化型材料(10)に対し、外圧により面内方向Yに面内歪みεyを与えて状態を示してある。
【0089】
図1のc)で示すように、ナノ粒子(12)が規則的に配列されている起歪体(11)に、面内方向Yに面内歪みεyが発生すると、この面内歪みεyに応じて、なお粒子(12)間隔が面内方向Yに変動し、表面プラズモンの共鳴波長がシフトする。図1のb)においては、面内歪みεyが与えられた結果、光束23のみが反射され、図1のa)に対し、反射する波長のシフト(Δλ)が生じ、例えば、人間が観察した際に、波長シフト(Δλ)による色調の変化として認知される。
【0090】
図1では、粒子は面外方向Zに周期的に配列されていないが、上記構成に加え、更に、面外方向Zにナノ粒子(12)が規則的に配列されていても問題はない。
【0091】
〔実施形態2〕
本発明の構造色変化型材料の一つは、負荷により歪みが生じる起歪体と、起歪体の表面に表面プラズモンを発生させるナノ粒子を有する構成で、かつ表面プラズモンを発生させる粒子の列が、入射する光の反射面の面内方向に対して平行かつ周期的に配列されている構成であることを特徴とする。
【0092】
図2は、本発明の構造色変化型材料の一つの構成を示す概略図であり、図1に対し、起歪体の表面に表面プラズモンが発生する光の波長以下のサイズのナノ粒子(12)が規則的に配列されている構成を示してある。
【0093】
図2に示す構造色変化型材料(10)においては、ナノ粒子(12)が起歪体(11)の表面に形成されることを除けば、図1で説明したのと同等にして、外圧により面内方向Yに面内歪みεyを与えた際に、反射する波長のシフト(Δλ)を発現させることができる。
【0094】
〔構造色変化型材料の製造方法〕
上記実施形態1で説明したナノ粒子(12)を起歪体(11)の内部に規則正しく配列した構造色変化型材料、及び実施形態2で説明したナノ粒子(12)を起歪体(11)の表面に規則正しく配列した構造色変化型材料の製造方法としては、特に制限はないが、一例としては、下記の製造技術を適用することができる。
【0095】
起歪体(11)にナノサイズの粒子を形成する方法としては、トップダウン型とボトムアップ型の2種類に分類できる。トップダウン型とは、例えば、リソグラフィーやナノインプリントに代表される半導体プロセスで従来から用いられてきた微細加工を施す製造技術であり、構造や形状の設計自由度は高いというメリットはあるが、得られるサイズ等に技術的な制約が多いというデメリットを持っている。
【0096】
一方、ボトムアップ型は、原子や分子が本来持つ化学結合や分子間力に基づいて、加工という人工的な操作に依存しないで、複雑な構造体を自発的にくみ上げていく技術であり、数nmスケールの周期性を持つ構造体の作製に適している方法である。しかしながら、この方法は、非周期性の構造作製が困難であり、量産技術が確立されていない等のデメリットを有する。
【0097】
本発明の実施形態1及び実施形態2で説明した構成の構造色変化型材料を製造する方法としては、トップダウン型でも、ボトムアップ型でも作製が可能である。
【0098】
また、起歪体体上にナノ粒子を配列付与させる具体的な方法としては、近年、側鎖液晶型両親媒性ブロック共重合体(シリンダードメイン)が形成するデカナノスケールの周期を有するナノ相分離構造を、例えば、株式会社ラボが開発しているマイクログラビア製膜法を用いて、フレキシブル性を有するポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成する「高信頼性ナノ相分離テンプレートの創製」技術が、東京工業大学の彌田グループ等から提案されている。このナノ相分離構造は、薄膜を形成した場合に膜厚方向に配向する特徴がある。この方法を適用することにより、機能性物質であるナノサイズ粒子をシリンダードメインにのみ導入や吸着させることにより、ナノ粒子のきれいな配列構造を形成することができる。
【0099】
〔実施形態3〕
次いで、本発明の構造色変化型材料を適用した歪み検出装置について説明する。
【0100】
図3は、本発明の構造色変化型材料を具備した歪み検出装置の全体構成の一例を示す概略図である。
【0101】
図3には、上記図1図2で説明した起歪体(11)にプラズモンを発生させるナノ粒子(12)を付与した構造色変化型材料(10)を歪み測定対象物(35)に貼りつけて、当該対象物の歪みを測定する方法を示してある。
【0102】
図3に記載の歪み検出装置(30)は、構造色変化型材料(10)を具備した歪み測定対象物(35)の歪みを測定するため、光源(32)、検出装置(33)、信号処理部(34)により構成されている。光源(32)からは、起歪体(11)にプラズモンを発生させるナノ粒子(12)を付与した構造色変化型材料(10)に向かって、図1及び図2で示したように、複数の異なる波長を有する光束が射出され、その光束を透過又は反射した光を検出装置(33)で受光する。検出装置(33)で受光した光から、歪みに伴う波長シフトΔλを信号処理部で算出している。これらの構成を取ることで、歪み測定対象物(35)の歪み量を検出することが可能となる。
【0103】
〔実施形態4〕
図4に、歪みの有無による構造色変化型材料の反射スペクトルの変化の具体的な一例(シミュレーション)を、グラフに示す。
【0104】
図4に示すグラフは、図1図2の構成の構造色変化型材料において、歪みが生じた際の反射スペクトルの変化をシミュレーションにて確認した一例である。
【0105】
図4においては、起歪体(11)の材料としてシリコンゴムを用い、ナノ粒子(12)を構成する材料としては、下記の構成を想定し、シミュレーションを行った。
【0106】
粒子の材料:金(Au)
粒子の形状:球体
粒子の平均粒径:100nm
前記図1及び図2で述べたように、ナノ粒子(12)を含んだ起歪体(11)に歪みが生じると、周期的に規則正しく配列しているナノ粒子(12)の粒子間隔が変化する。粒子間隔が変化すると、前述のとおり表面プラズモンの共鳴波長に変化(ピーク波長シフトΔλ)が生じる。そのため、図4で例示するように、歪みの有無によって、ナノ粒子(12)を含む起歪体(11)の反射光スペクトルが変動し、あたかもピーク波長がシフトしたかのように見える。これは人間の眼から見ると色調が変化したように見えることを意味する。
【0107】
〔実施形態5〕
図5は、図1図2の構成で起歪体に歪みが生じた際の歪みと波長シフト量の関係を示したグラフである。
【0108】
図5に示すグラフの縦軸は反射光スペクトルのピーク波長(nm)であり、横軸は起歪体の歪み量(ε)を示している。図5に示すグラフでは、面内方向Yに生じた歪みεyと面外方向Zに生じた歪みεzの2パターンがプロットされている。局在型表面プラズモンは、起歪体内の面内方向の粒子間隔に応じて反射光スペクトルのピーク波長が変化する。そのため、図5を見てもわかる通り、面内方向Yの歪みεyによってピーク波長がシフトしていることが分かる。また、面内歪みεyと面外歪みεz(=面外方向Zの歪み)は、前述の式(1)で示したように、
面内歪みεy=面外歪みεz×ポアソン比ν
の関係式が成り立つ。
【0109】
ポアソン比νは、物体に弾性限界内で面内歪みεyを加えたとき、その面内歪みεyに直角方向に発生する面内歪みεzとの比を表している。ヤング率などと同じく弾性限界内では材料固有の定数である。そのため、面外歪みεzによっても間接的に面内歪みεyが発生し、起歪体の反射光スペクトルのピーク波長がシフトする(色調が変化する)。しかし、ポアソン比は材料にも依存するが原理的に最大でも0.5に満たないため、εyとεzが仮に同じ量だけ発生した場合、ピーク波長のシフト量は面内歪みεy>面外歪みεzとなる。これは図5のグラフを見てもわかることである。このような関係があるため、本構成は、面外歪みよりも面内歪みの可視化に適しているといえる。
【0110】
〔実施形態6〕
本発明の構造色変化型材料においては、前記起歪体の面内方向の歪みが発生する方向を面内方向Aとし、前記面内方向Aに直交する方向を面内方向Bとしたとき、前記面内方向Aにおける前記表面プラズモンを発生させる粒子の間隔が、前記入射する光の波長以下であり、かつ、前記面内方向Bにおける表面プラズモンを発生させる粒子の間隔が、前記入射する光の波長より大きいことが好ましい態様である。
【0111】
図6は、構造色変化型材料におけるナノ粒子の配列の一例を示す模式図である。
【0112】
図6では、面内歪みεyの色調変化の感度が大きく、逆に面内歪みεxの色調変化の感度が小さくなる粒子の配列例を模式図で示している。具体的に述べると、歪みによって色調変化を起こさせたい方向(面内方向Y)の粒子間隔は光の波長と同程度あるいはそれ以下に、歪みによって色調変化を発生させたくない方向(面内方向X)の粒子間隔は光の波長より大きくしている。このように粒子を配列することで、面内でも特定方向の歪みの色調変化を大きくできる材料を実現できる。図6では面内歪みεyに大きな色調変化の感度を実現するために、「面内方向Xの間隔>光の波長λ≧面内方向Yの間隔」になるように粒子を配列させている。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の構造色変化型材料は、起歪体の面内方向の歪みに応じて直接的な色調変化として可視化することができる構造色変化型材料であり、歪み検出センサー等の分野に、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
10 構造色変化型材料
11 起歪体
12 表面プラズモンを発生させる粒子(ナノ粒子)
21、22、23 光束
30 歪み検出装置
32 光源部
33 検出装置
34 信号処理部
35 歪み測定対象部
Δλ 波長シフト
εy 面内歪み
図1
図2
図3
図4
図5
図6