特許第6794738号(P6794738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794738
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】頭部装着型表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20201119BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20201119BHJP
   G02B 17/08 20060101ALI20201119BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   G02B27/02 Z
   G02B26/10 C
   G02B26/10 D
   G02B17/08 Z
   H04N5/64 511A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-186601(P2016-186601)
(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公開番号】特開2018-54672(P2018-54672A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116665
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】井出 光隆
【審査官】 鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−166931(JP,A)
【文献】 特開2016−161669(JP,A)
【文献】 特開2016−085429(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0150201(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 − 27/02
H04N 5/64
H04N 13/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の頭部に配置され、光ビームを出射する光源部と、
前記光源部から出射された前記光ビームを第1方向および前記第1方向に交差する第2方向に走査して走査画像とする走査部と、
使用者の眼の前に配置され、入射した前記走査画像を使用者の眼に向かうように偏向する偏向部材と、
前記走査部と前記偏向部材との光路上に配置され、前記走査部から出射された前記走査画像を前記偏向部材へと導く導光光学系と、
を有し、
前記偏向部材は、前記偏向部材の端部のうち前記光源部から遠い側の端部である第1端部と、前記第1端部とは反対側の端部である第2端部と、を含み、
前記走査部は、前記第1方向が前記偏向部材の前記第1端部から前記第2端部へ向かう方向と同じ方向となるように配置され、
前記導光光学系は、前記走査画像のうち、最も前記第1端部側に向かう光の前記走査部からの光路の長さである第1光路長を、最も前記第2端部側に向かう光の前記走査部からの光路の長さである第2光路長より長くする補正光学系を含み、
前記補正光学系は、前記走査部から出射された前記走査画像を頭部から離間する斜め前方に向けて出射するレンズ系と、前記レンズ系から出射された前記走査画像を前記偏向部材に向けて反射する導光ミラーと、を有することを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置において、
前記第1方向において、前記光源部は、前記頭部と前記走査部との間に配置され、
前記第1方向において、前記走査部は、前記光源部側から前記光ビームが入射され
前記光路上において、前記導光光学系は、前記走査部より使用者の眼側に配置され、
前記走査部は、前記走査画像を前記導光光学系に出射することを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項3】
請求項に記載の頭部装着型表示装置において、
前記導光光学系は、前記第1方向に沿って互いに対向する第1反射面と第2反射面と、
前記第1反射面と前記第2反射面との間に前記第1方向に沿って交互に積層された透光層
と部分反射層と、を備えたビーム径拡大素子を含み、
前記ビーム径拡大素子は、前記第1方向および前記第2方向に交差する第3方向の一方側端部に設けられた入射面、および前記第3方向の他方側端部に設けられた出射面がそれぞれ斜面とされ、前記第2方向から見た断面視において平行四辺形形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置において、
前記導光光学系は、前記第1方向に沿って互いに対向する第1反射面と第2反射面と、
前記第1反射面と前記第2反射面との間に前記第1方向に沿って交互に積層された透光層と部分反射層と、を備えたビーム径拡大素子を含み、
前記ビーム径拡大素子は、前記第1方向および前記第2方向に交差する第3方向の一方側端部に設けられた入射面、および前記第3方向の他方側端部に設けられた出射面がそれぞれ斜面とされ、前記第2方向から見た断面視において台形形状であり、
前記第1方向において、前記走査部は、前記頭部と前記光源部との間に配置され、
前記第1方向において、前記走査部は、前記光源部側から前記光ビームが入射され
前記光路上において、前記導光光学系は、前記走査部より使用者の眼側に配置され、
前記走査部は、前記走査画像を前記導光光学系に出射することを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項5】
請求項1からまでの何れか一項に記載の頭部装着型表示装置において、
前記走査部は、走査ミラーと、前記走査ミラーを少なくとも前記第1方向に駆動するアクチュエーターと、を備え、
前記走査ミラーに対する前記光ビームの入射角度が10°以上であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項6】
請求項1からまでの何れか一項に記載の頭部装着型表示装置において、
前記第1方向は、使用者の両眼が並ぶ横方向であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの走査により得た走査画像を虚像として表示する頭部装着型表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ビームの走査により得た走査画像を虚像として表示する頭部装着型表示装置は、光ビームを出射する光源部と、光源部から出射された光ビームを互いに交差する第1方向および第2方向に走査して走査画像とする走査部と、走査部から出射された光ビームを使用者の眼の前方に導く導光光学系と、導光光学系によって眼の前に導かれた光ビームを眼に向けて偏向する偏向部材とを有している。従って、頭部装着型表示装置によれば、使用者に虚像を認識させることができる(特許文献1、2参照)。また、特許文献1に記載の頭部装着型表示装置には、導光光学系に設けられたビーム径拡大素子(瞳拡大素子)と、偏向部材として用いられたホログラフィックミラーとの間に、ホログラフィックミラーに起因して生じる像の収差や歪み曲を補正する補正光学系が設けられている。また、特許文献2に記載の頭部装着型表示装置には、導光光学系に用いたアフォーカル光学系と導光ミラーとの間に、走査部によって生成される画像の歪みを補正する2枚のレンズからなる補正光学系が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−72936号公報
【特許文献2】特開2016−71309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
頭部装着型表示装置では、アクチュエーターによって走査ミラーの傾きを変えて光ビームを走査するため、虚像の横方向で虚像の倍率を異ならせる走査歪みが発生する。その結果、虚像の横方向では画角の変化や解像度の変化が発生し、画像の品位が低下する。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、上記の走査歪みについて着目されておらず、特許文献1に記載の補正光学系では、偏向部材として用いられたホログラフィックミラーに起因して生じる像の収差や歪み曲を補正することができても、走査歪みを補正することができない。また、特許文献2には、走査部によって生成される画像の歪みとの記載はあるが、走査歪みについて着目されておらず、特許文献2に記載の補正光学系では、走査歪みを補正することができない。また、特許文献2に記載の構成のように、斜め前方に配置された導光ミラーを経由して偏向部材に光ビームを導く構成では、走査部から偏向部材の鼻側部分に到る光路長と走査部から偏向部材の利用者の耳側部分に到る光路長の差によって走査歪みが虚像において拡大されるおそれがある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、光ビームの走査により得た走査画像を虚像として表示する際の走査歪みに起因する画像品位の低下を抑制することのできる頭部装着型表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る頭部装着型表示装置の一態様は、使用者の頭部に配置され、光ビームを出射する光源部と、前記光源部から出射された前記光ビームを第1方向および前記第1方向に交差する第2方向に走査して走査画像とする走査部と、使用者の眼の前に配置され、入射した前記走査画像を使用者の眼に向かうように偏向する偏向部材と、前記走査部と前記偏向部材との光路上に配置され、前記走査部から出射された前記走査画像を前記偏向部材へと導く導光光学系と、を有し、前記偏向部材は、前記偏向部材の端部のうち前記光源部から遠い側の端部である第1端部と、前記第1端部とは反対側の端部である第2端部と、を含み、前記走査部は、前記第1方向が前記偏向部材の前記第1端部から前記第2端部へ向かう方向と同じ方向となるように配置され、前記導光光学系は、前記走査画像のうち、最も前記第1端部側に向かう光の前記走査部からの光路の長さである第1光路長を、最も前記第2端部側に向かう光の前記走査部からの光路の長さである第2光路長より長くする補正光学系を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様では、走査部によって光ビームを走査して走査画像には、虚像の横方向で虚像の倍率を異ならせる走査歪みが発生するが、導光光学系には、走査部から偏向部材の第1端部に到る光ビームの第1光路長を走査部から偏向部材の第2端部に到る光ビームの第2光路長より長くした補正光学系が設けられている。このため、補正光学系では、偏向部材の第1端部での倍率が第2端部での倍率より大きな倍率を得ることができるので、倍率の方向を走査歪みの方向に対応させることにより、走査歪みの影響を抑制することができる。従って、虚像の第1方向での解像度の差等を圧縮することができるので、走査歪みに起因する画像品位の低下を抑制することができる。
【0008】
本発明に係る頭部装着型表示装置の別態様において、前記補正光学系は、前記走査部から出射された前記走査画像を頭部から離間する斜め前方に向けて出射するレンズ系と、前記レンズ系から出射された前記走査画像を前記偏向部材に向けて反射する導光ミラーと、を有する態様を採用することができる。かかる態様によれば、走査部から偏向部材の利用者の鼻側部分に到る光ビームの第1光路長を走査部から偏向部材の利用者の耳側部分に到る光ビームの第2光路長より長くすることができる。
【0009】
本発明に係る頭部装着型表示装置の別態様において、前記走査画像が前記走査部から出射する方向は、前記光ビームが前記走査部へ入射する方向より前記頭部とは反対側に位置する態様を採用することができる。かかる態様によれば、走査画像には、偏向部材の鼻側部分での倍率が耳側部分での倍率より大きな走査歪みが発生するので、補正光学系の倍率によって、虚像の横方向では走査歪みの影響を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る頭部装着型表示装置の別態様において、前記導光光学系は、前記第1方向に沿って互いに対向する第1反射面と第2反射面と、前記第1反射面と前記第2反射面との間に前記第1方向に沿って交互に積層された透光層と部分反射層と、を備えたビーム径拡大素子を含み、前記ビーム径拡大素子は、前記第1方向および前記第2方向に交差する第3方向の一方側端部に設けられた入射面、および前記第3方向の他方側端部に設けられた出射面がそれぞれ斜面とされ、前記第2方向から見た断面視において平行四辺形形状である態様を採用することができる。
【0011】
本発明に係る頭部装着型表示装置の別態様において、前記導光光学系は、前記第1方向に沿って互いに対向する第1反射面と第2反射面と、前記第1反射面と前記第2反射面との間に前記第1方向に沿って交互に積層された透光層と部分反射層と、を備えたビーム径拡大素子を含み、前記ビーム径拡大素子は、前記第1方向および前記第2方向に交差する第3方向の一方側端部に設けられた入射面、および前記第3方向の他方側端部に設けられた出射面がそれぞれ斜面とされ、前記第2方向から見た断面視において台形形状であり、前記走査画像が前記走査部から出射する方向は、前記光ビームが前記走査部へ入射する方向より前記頭部の側に位置する態様を採用することができる。かかる態様の場合、走査画像には、偏向部材の耳側部分での倍率が鼻側部分での倍率より大きな走査歪みが発生するが、ビーム径拡大素子を通過した後、偏向部材の鼻側部分での倍率が耳側部分での倍率より大きくなる。従って、補正光学系の倍率によって、虚像の横方向では走査歪みの影響を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る頭部装着型表示装置の別態様において、前記走査部は、走査ミラーと、前記走査ミラーを少なくとも前記第1方向に駆動するアクチュエーターと、を備え、前記走査ミラーに対する前記光ビームの入射角度が10°以上である態様を採用することができる。
【0013】
本発明に係る頭部装着型表示装置の別態様において、前記第1方向は、使用者の両眼が並ぶ横方向である態様を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1に係る頭部装着型表示装置の光学系を示す説明図である。
図2図1に示す頭部装着型表示装置の外観を示す説明図である。
図3図1に示す走査部および第1ビーム径拡大素子等を模式的に示す説明図である。
図4図1に示す頭部装着型表示装置において走査歪みを補正する様子を示す説明図である。
図5】本発明の実施の形態2に係る頭部装着型表示装置の光学系を示す説明図である。
図6図5に示す走査部および第1ビーム径拡大素子等を模式的に示す説明図である。
図7図5に示す頭部装着型表示装置において走査歪みを補正する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明で参照する図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材の数や縮尺を異ならしめてある。
【0016】
[実施の形態1]
(頭部装着型表示装置の構成例)
図1は、本発明の実施の形態1に係る頭部装着型表示装置50の光学系を示す説明図である。図2は、図1に示す頭部装着型表示装置50の外観を示す説明図である。図1に示す頭部装着型表示装置50は、使用者の頭部Sの側方で光ビームLを出射する光源部51と、光源部51から出射された光ビームLを頭部Sの側方で第1方向Xおよび第1方向Xに対して交差する第2方向Yに走査して走査画像とする走査部52とを有している。また、頭部装着型表示装置50は、走査部52から出射された光ビームLを頭部Sの側方から眼Eの前方に導く導光光学系57と、眼Eの前に配置された偏向部材53とを有しており、偏向部材53は、導光光学系57によって導かれた光ビームLを眼Eに向けて偏向して使用者に虚像を認識させる。
【0017】
導光光学系57は、リレーレンズ系や投射レンズ系等のレンズ系54と、レンズ系54から出射された光ビームを偏向部材53に向けて反射する導光ミラー55とを有している。また、導光光学系57は、走査部52とレンズ系54との間にビーム径拡大素子10が配置されている。ビーム径拡大素子10としては、光源部51から出射された光ビームLのビーム径を第1方向Xに拡大する第1ビーム径拡大素子10Aと、第1ビーム径拡大素子10Aによってビーム径が拡大された光ビームLのビーム径を第2方向Yに拡大する第2ビーム径拡大素子10Bとが配置されている。
【0018】
光源部51は、例えば、赤色光を出射する赤色用レーザー素子、緑色光を出射する緑色用レーザー素子、および青色光を出射する青色用レーザー素子を有しているとともに、これらのレーザー素子の光路を合成するハーフミラー等を有している。赤色用レーザー素子、緑色用レーザー素子および青色用レーザー素子は、制御部(図示せず)による制御の下、表示すべき画像の各ドットに対応する光強度に変調した光ビームを出射する。
【0019】
走査部52は、入射した光ビームLを虚像の横方向Hに対応する第1方向X、および虚像の縦方向Vに対応する第2方向Yに走査し、走査された光は、導光光学系57を介して偏向部材53に投射される。走査部52は、例えば、シリコン基板等を用いてMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により形成したマイクロミラーデバイスによって実現することができる。その際、走査部52は、1つの走査機構によって、入射光を画像の横方向および縦方向に対応する2方向に走査する構成を採用することができる。また、走査部52については、第1方向Xおよび第2方向Yに対応する2方向の一方方向に入射光を走査する第1走査機構と、2方向の他方方向に入射光を走査する第2走査機構とによって構成してもよい。かかる走査部52も、制御部(図示せず)による制御の下、入射光を所定の方向に走査する。
【0020】
偏向部材53は、導光光学系57から投射された光を反射して使用者の眼Eに入射させる偏向層535を備えている。かかる頭部装着型表示装置50(網膜走査方式の投射型表示装置)では、走査部52で第1方向Xおよび第2方向Yに走査された光ビームLが偏向部材53の偏向層535で偏向されて瞳孔を介して網膜に到達することにより、利用者に虚像を認識させる。また、本形態では、光ビームLのビーム径がビーム径拡大素子10(第1ビーム径拡大素子10A、および第2ビーム径拡大素子10A)によって拡大されているため、ビーム径が拡大された範囲内に眼Eが位置すれば、利用者に虚像を認識させることができる。
【0021】
本形態において、偏向部材53は、ホログラフィック素子等からなる部分透過性のコンバイナーである。従って、外光も偏向部材53(コンバイナー)を介して眼に入射するため、利用者は、頭部装着型表示装置50で形成した画像と外光(背景)とが重畳した画像を認識することができる。すなわち、頭部装着型表示装置50は、シースルー型の網膜走査型投射装置として構成されている。
【0022】
このように構成した頭部装着型表示装置50を、シースルー型のアイグラスディスプレイとして構成する場合、頭部装着型表示装置50は、図2に示すように、眼鏡のような形状に形成される。また、利用者の左右の眼Eの各々に変調光を入射させる場合、頭部装着型表示装置50は、左眼用の偏向部材53および左眼用の偏向部材53を前部分61で支持するフレーム60を有しており、フレーム60の左右のテンプル62の各々に、図1を参照して説明した光学部品を含む光学ユニット58が設けられる。ここで、光学ユニット58には、光源部51、走査部52および導光光学系57の全てが設けられることがある他、光学ユニット58には、走査部52および導光光学系57のみを設け、光学ユニット58と光源部51とを光ケーブル等で接続してもよい。
【0023】
(ビーム径拡大素子10B周辺の構成)
図3は、図1に示す走査部52および第1ビーム径拡大素子10A等を模式的に示す説明図である。なお、図3では、第1ビーム径拡大素子10Aでの透光層12の積層数を4層として表してあるが、実際には、例えば、透光層12は、10層程度積層される。
【0024】
図3に示すように、本形態の頭部装着型表示装置50において、走査部52は、走査ミラー521と、走査ミラー521を駆動するアクチュエーター522とを有しており、走査部52は、走査ミラー521を頭部Sの前方Fに向けて配置されている。このように構成した走査部52の走査ミラー521に光源部51から出射された光ビームLを入射させるにあたって、本形態では、光源部51を頭部Sの側方で前方Fに向けて配置するとともに、光源部51より前方Fにミラー56を配置してある。また、走査部52は、光源部51およびミラー56より頭部Sから離間して位置でミラー56より後方Rに配置されている。従って、光源部51から出射された光ビームLは、ミラー56によって頭部Sから離間する方向に反射して走査ミラー521に入射する。それ故、走査部52からの光ビームLの出射方向は、走査ミラー521への光ビームLの入射方向より頭部Sとは反対側に位置する。図3には、走査ミラー521の傾きによって光ビームLが第1方向Xに走査されて光ビームL1、L0、L2が出射される様子を示してあり、かかる光ビームL1、L0、L2が出射される際の走査ミラー521に対する光ビームLの入射角度は10°以上である。
【0025】
本形態において、第1方向Xは、虚像の横方向Hに対応し、走査部52での第1方向Xの走査角度は、虚像の横方向Hの画角を規定する。すなわち、走査部52は、第1方向Xが偏向部材53の鼻側の第1端部531から耳側の第2端部532へ向かう方向と同じ方向となるように配置されている。なお、図示を省略するが、第1方向Xと交差する第2方向Yは、虚像の縦方向Vに対応し、走査部52での第2方向Yの走査角度は、虚像の縦方向Vの画角を規定する。
【0026】
ここで、走査部52の前方には、第1ビーム径拡大素子10Aが配置されている。第1ビーム径拡大素子10Aでは、第1方向Xで対向する第1反射面123と第2反射面124との間で透光層12と部分反射層11とが第1方向Xに沿って交互に積層されており、第1方向Xおよび第2方向Yに交差する第3方向Z(長さ方向)の一方側端部および他方側端部に入射面16Aおよび出射面17Aが設けられている。本形態において、第1ビーム径拡大素子10Aは、入射面16Aおよび出射面17Aが斜面とされた断面平行四辺形形状を有している。かかる第1ビーム径拡大素子10Aでは、内部での反射回数が偶数であるため、走査画像は、後述する走査歪みが反転せずに出力される。
【0027】
透光層12は、ガラス基板や石英基板等の基板と、透光性の接着剤層(図示せず)とによって構成され、第1反射面123および第2反射面124は、アルミニウム等の反射金属膜の蒸着膜が透光層12と接する界面からなる。なお、第1反射面123および第2反射面124は、スネルの法則を利用した屈折率差による反射面であってもよい。部分反射層11は、SiO(二酸化シリコン)、TiO(二酸化チタン)、Al(アルミナ)、CaF(フッ化カルシウム)、MgF(フッ化マグネシウム)、ZnS(硫化亜鉛)、ZrO(二酸化ジルコニウム)等の無機膜のうち、誘電率が低い誘電膜と誘電率が高い誘電膜とを交互に積層した誘電体多層膜からなる。本形態において、部分反射層11および部分反射層11は、蒸着法により、SiOとTiOとを交互に積層した誘電体多層膜からなる。
【0028】
このように構成した第1ビーム径拡大素子10Aでは、光ビームLが入射面16Aに平行光ビームの状態で入射すると、光ビームLは、第1反射層13での反射、第2反射層14での反射、部分反射層11での透過、および部分反射層11での反射を繰り返しながら第3方向Zに進行し、平行光ビームのまま、第1方向Xにおけるビーム径が拡大された状態で出射面17Aから出射される。そして、第1ビーム径拡大素子10Aによってビーム径が第1方向Xで拡大された光ビームLは、第2ビーム径拡大素子10B(図3では図示せず)に入射する。ここで、第2ビーム径拡大素子10Bは、第1ビーム径拡大素子10Aと同一の構成を有するビーム径拡大素子を、向きを変えて配置したものであるため、図3での図示や詳細な説明を省略するが、入射した光ビームLのビーム径を虚像の縦方向Vに相当する第2方向Yに拡大する。
【0029】
(走査歪みの補正)
図4は、図1に示す頭部装着型表示装置50において走査歪みを補正する様子を示す説明図であり、上段には補正前の走査歪み等を示し、下段には補正後の歪みを示してある。また、図4の横軸は横方向Hの画角(°)であり、図4の縦軸は縦方向Vの画角(°)である。
【0030】
図3には、走査部52での走査の結果、入射面16Aに対して斜めに入射して出射される光ビームLを光ビームL1とし、入射面16Aに対して垂直に入射して出射される光ビームLを光ビームL2とし、光ビームL1と光ビームL2との間の光ビームLを光ビームL0として示してある。ここで、光ビームL1は、図1に示す偏向部材53の最も鼻側の第1端部531(光源部51から遠い側の端部)に到達し、光ビームL2は、図1に示す偏向部材53の最も耳側の第2端部532(第1端部531とは反対側の端部)に到達し、光ビームL0は、図1に示す偏向部材53の中央部分530に到達する。
【0031】
その際、走査部52での光ビームLの走査によって形成される走査画像では、図4の上段に示す補正前の歪みの説明図に点線P52で示すように、虚像の横方向Hで鼻側H1での倍率が小さく、耳側H2での倍率が大きい走査歪みが発生する。そこで、本形態では、図1を参照して説明した導光光学系57には、図4に示す走査歪みを補正する補正光学系59が設けられている。
【0032】
本形態において、補正光学系59は、走査部52から偏向部材53の鼻側の第1端部531に到る光ビームL1の第1光路長を走査部52から偏向部材53の耳側の第2端部532に到る光ビームL2の第2光路長より長くした光学系である。本形態において、補正光学系59は、走査部52から出射された光ビームLを頭部Sから離間する斜め前方に向けて出射するレンズ系54と、レンズ系54から出射された光ビームLを偏向部材53に向けて反射する導光ミラー55とによって構成されている。
【0033】
かかる補正光学系59は、図4の上段に示す補正前の歪みの説明図に実線P59で示すように、虚像の横方向Hで鼻側H1での倍率が大きく、耳側H2での倍率が小さい倍率を有している。従って、点線P52で示す走査歪みは、実線P59で示す補正光学系59の倍率によって補正される結果、図4の下段に、補正後の歪みを実線P50で示すように、利用者には、横方向Hにおける歪みが抑制された虚像が認識される。
【0034】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の頭部装着型表示装置50においては、走査部52によって光ビームLを走査した走査画像には、虚像の横方向Hで虚像の倍率を異ならせる走査歪みが発生するが、導光光学系57には、走査部52から偏向部材53の鼻側の第1端部531に到る光ビームL1の第1光路長を走査部52から偏向部材53の耳側の第2端部532に到る光ビームL2の第2光路長より長くした補正光学系59が設けられている。このため、補正光学系59では、偏向部材53の鼻側の第1端部531での倍率が耳側の第2端部532での倍率より大きな倍率を得ることができるので、倍率の方向を走査歪みの方向に対応させることにより、虚像の横方向Hでの走査歪みの影響を抑制することができる。従って、虚像の横方向Hでの画角の差や解像度の差を圧縮することができるので、走査歪みに起因する画像品位の低下を抑制することができる。
【0035】
[実施の形態2]
図5は、本発明の実施の形態2に係る頭部装着型表示装置50の光学系を示す説明図である。図6は、図5に示す走査部52および第1ビーム径拡大素子10A等を模式的に示す説明図である。図6では、第1ビーム径拡大素子10Aでの透光層12の積層数を4層として表してあるが、実際には、例えば、透光層12は、10層程度積層される。図7は、図5に示す頭部装着型表示装置50において走査歪みを補正する様子を示す説明図であり、上段には補正前の走査歪み等を示し、下段には補正後の歪みを示してある。また、図7の横軸は横方向Hの画角(°)であり、図7の縦軸は縦方向Vの画角(°)である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0036】
図5に示す頭部装着型表示装置50も、実施の形態1と同様、使用者の頭部Sの側方で光ビームLを出射する光源部51と、光源部51から出射された光ビームLを頭部Sの側方で第1方向Xおよび第2方向Yに走査して走査画像とする走査部52とを有している。また、頭部装着型表示装置50は、走査部52から出射された光ビームLを頭部Sの側方から眼Eの前方に導く導光光学系57と、眼Eの前に配置された偏向部材53とを有しており、偏向部材53は、導光光学系57によって導かれた光ビームLを眼Eに向けて偏向して使用者に虚像を認識させる。
【0037】
導光光学系57は、リレーレンズ系や投射レンズ系等のレンズ系54と、レンズ系54から出射された光ビームを偏向部材53に向けて反射する導光ミラー55とを有している。また、導光光学系57は、走査部52とレンズ系54との間にビーム径拡大素子10が配置されている。ビーム径拡大素子10としては、光源部51から出射された光ビームLのビーム径を第1方向Xに拡大する第1ビーム径拡大素子10Aと、第1ビーム径拡大素子10Aによってビーム径が拡大された光ビームLのビーム径を第2方向Yに拡大する第2ビーム径拡大素子10Bとが配置されている。
【0038】
図6に示すように、本形態の頭部装着型表示装置50において、走査部52の走査ミラー521に光源部51から出射された光ビームLを入射させるにあたっては、光源部51を頭部Sの側方で前方Fに向けて配置するとともに、光源部51より前方Fにミラー56を配置してある。本形態において、走査部52は、実施の形態1とは逆に、光源部51およびミラー56より頭部Sに近い位置でミラー56より後方Rに配置されている。従って、走査部52からの光ビームLの出射方向は、走査ミラー521への光ビームLの入射方向より頭部Sの側に位置する。それ故、走査部52での光ビームLの走査によって形成される走査画像では、図7の上段に示す補正前の歪みの説明図に一点鎖線Q52で示すように、虚像の横方向Hで鼻側H1での倍率が大きく、耳側H2での倍率が小さい走査歪みが発生する。
【0039】
ここで、第1ビーム径拡大素子10Aは、入射面16Aおよび出射面17Aが斜面とされた断面台形形状を有している。かかる第1ビーム径拡大素子10Aでは、内部での反射回数が奇数であるため、走査歪みが反転する。従って、図7の上段に示す補正前の歪みを示す説明図に点線P52で示すように、第1ビーム径拡大素子10Aを通過した後の走査歪みは、虚像の横方向Hで鼻側H1での倍率が小さく、耳側H2での倍率が大きい。
【0040】
また、本形態でも、実施の形態1と同様、図5に示す導光光学系57には、走査部52から出射された光ビームLを頭部Sから離間する斜め前方に向けて出射するレンズ系54と、レンズ系54から出射された光ビームLを偏向部材53に向けて反射する導光ミラー55とによって補正光学系59が設けられている。本形態においても、実施の形態1と同様、補正光学系59は、走査部52から偏向部材53の鼻側の第1端部531に到る光ビームL1の第1光路長を走査部52から偏向部材53の耳側の第2端部532に到る光ビームL2の第2光路長より長くした光学系である。かかる補正光学系59は、図7の上段に示す補正前の歪みの説明図に実線P59で示すように、虚像の横方向Hで鼻側H1での倍率が大きく、耳側H2での倍率が小さい倍率を有している。従って、点線P52で示す走査歪みは、実線P59で示す補正光学系59の倍率によって補正される結果、図7の下段に、補正後の歪みを実線P50で示すように、利用者には、横方向Hにおける歪みが抑制された虚像が認識される。
【0041】
[他の表示装置]
上記実施の形態では、光源部51から出射された変調後の光を走査部52によって走査した。但し、光源部51から出射された変調前の光を走査部52によって走査しながら液晶パネルに照射し、液晶パネルから出射された変調光を偏向部材53で反射する構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
10…ビーム径拡大素子、10A…第1ビーム径拡大素子、10B…第2ビーム径拡大素子、11…部分反射層、12…透光層、123…第1反射層、124…第2反射層、16A…入射面、17A…出射面、50…頭部装着型表示装置、51…光源部、52…走査部、53…偏向部材、54…レンズ系、55…導光ミラー、56…ミラー、57…導光光学系、58…光学ユニット、59…補正光学系、60…フレーム、521…走査ミラー、522…アクチュエーター、530…中央部分、531…鼻側の第1端部、532…耳側の第2端部、535…偏向層、E…眼、F…前方、H…横方向、H1…鼻側、H2…耳側、L、L0、L1、L2…光ビーム、R…後方、S…頭部、X…第1方向、Y…第2方向、Z…第3方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7