(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、水素ガスは溶接、ボイラ等、産業上多く利用される重要なガスの一種であり、さらに近年のエネルギー事情から、エネルギーの貯蔵、輸送手段として重要度が増している。このような水素ガスの工業的な製造方法としてアルカリ水の電気分解による方法が知られている。アルカリ水電気分解による水素製造の基本機構は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの電解質を含んだ水溶液に電極を挿入し電流を流すことで陰極から水素を、陽極から酸素を発生させこれを回収することで成り立っている。ここで大きな問題は、陽極と陰極の間隔を広く取ると双極間に存在する水溶液の行程が増加しエネルギーロスが大きくなるが逆に双極間の間隔を狭く取ると水素ガス中に酸素ガスが混入し水素ガスの品質が低下するというトレードオフが存在することである。
【0003】
このような問題を解決するため、双極間に耐アルカリ性の高い不織布をセパレーターとして挿入し、セパレーターと電極は密着させずに通電することでエネルギーロスを犠牲にして水素ガスの品位を向上させる方法や双極間の間にイオン透過性の膜を挿入する方法が検討されてきた(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方で電極をセパレーターに密着させ、セパレーターとしてイオン透過膜を使用する方法も提案されている(例えば、特許文献2)。これは双極間隔をセパレーターの膜厚に近い最小としながらセパレーターにより水素ガスと酸素ガスの混入を防ぐ優れた方法である。
しかしながらかかる発明では双極間隔を小さくすることは可能であるが、抵抗値はセパレーターのイオン透過性に依存し、同間隔のアルカリ水溶液よりも大きくなってしまい、また、特殊な素材を用いるため高価になるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、アルカリ水型水素発生装置におけるセパレーターとして高い耐久性に加えて低抵抗値化と水素ガスと酸素ガスの分離性に優れたセパレーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.ポリ四フッ化エチレン、ポリプロピレン、およびポリパラフェニレンスルフィドのいずれかから選ばれる1種以上の樹脂からなる繊維で構成される不織布であって、以下の(1)〜(5)の特徴を有する不織布からなるセパレーター。
(1)不織布を構成する繊維の単糸繊度が2dtex以上20dtex以下
(2)不織布の剛軟度が50mN・cm以上150mN・cm以下
(3)不織布の嵩密度が0.2g/cm
3以上0.8g/cm
3以下
(4)不織布の目付が50g/m
2以上200g/m
2以下
(5)不織布の厚みが0.1mm以上0.5mm以下
2.実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂単独の繊維で構成される不織布からなる上記1に記載のセパレーター。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高い耐久性に加えて低抵抗値化と水素ガスと酸素ガスの分離性能に優れたセパレーターを提供し、安価に水素ガスを製造できる水素ガス発生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。
本発明におけるセパレーターは不織布からなる。不織布としての形態は、スパンボンド不織布、トウ開繊不織布、メルトブロー不織布、抄紙法により得られる不織布、機械交絡法により得られる不織布、サーマルボンド法により得られる不織布などいずれの形態でも良いが、スパンボンド不織布、抄紙法により得られる不織布、機械交絡法により得られる不織布、サーマルボンド法により得られる不織布が好ましい。生産性、地合の観点からスパンレース法、ニードルパンチ法などの機械交絡法により得られた不織布、サーマルボンド法により得られた不織布が最も好ましい。
【0010】
なお、本発明においてサーマルボンド法とは、少なくとも一部に熱可塑性の合成繊維を用いて、繊維ウエブを作り、加熱により熱可塑性繊維の一部を溶融させて繊維同士を結合させることによりウエブの形状を固定させる方法である。特にゴムローラーやペーパーローラー、金属ローラーなどの熱ロールカレンダーを用いて熱処理させることにより表面の平滑性と厚みの均一性を得ることが可能となり、さらには後述する範囲の剛軟度を得ることが可能となる。
【0011】
本発明において不織布を構成する繊維は、耐アルカリ性の物質であるポリ四フッ化エチレン(以下、「PTFE」と記載する場合がある)、ポリプロピレン、ポリパラフェニレンスルフィドのいずれかから選ばれる1種以上の樹脂からなるものである。耐アルカリ性および耐熱性と価格とのバランスを考慮すると、ポリパラフェニレンスルフィド樹脂単独からなる繊維であることが好ましい。
【0012】
ポリパラフェニレンスルフィド樹脂は、一般に分岐型と直鎖型があるがどちらを用いてもかまわないが、繊維を製造する工程の簡便さと繊維強度のバランスから考えて直鎖型が好ましい。アルカリ水電気分解はアルカリ水中でおこなわれ、通常は電気抵抗を小さくするために加熱した状態で実施される。このような状態で耐久性を発現可能な素材で比較的安価な繊維素材としてポリパラフェニレンスルフィドは最も適している。
【0013】
本発明におけるポリパラフェニレンスルフィド樹脂は、繊維化する段階での紡糸の行いやすさ、繊維強度の維持の観点から、300℃、せん断速度1000s
-1における溶融粘度(MV)が120以上200以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の不織布を構成する繊維は、比重が1.32g/cm
3以下の繊維を0%以上60%以下含んでいることが好ましい。この範囲の比重が小さい、すなわち結晶化度が小さい繊維を含んでいることでサーマルボンド法で加工する際に、融着しやすくなりウエブ形状の固定を行い易くなる上、セパレーターの剛性が向上して剛軟度が高くなる。
【0015】
本発明の不織布を構成する繊維は、繊度が2dtex以上20dtex以下である。繊度が2dtex未満であると電気分解時の電流の抵抗値が大きくなり、またガス混入量が大きくなる。繊度が20dtexを超えると不織布の生産が困難となる。
【0016】
本発明の不織布は、剛軟度が50mN・cm以上150mN・cm以下である。剛軟度が50mN・cm未満であると抵抗値が大きくなる。剛軟度が150mN・cmを超えると取り扱い上破れやすくなる。
【0017】
本発明において上記のような繊度と剛軟度の範囲で抵抗値が小さくなること、およびガス混入量が小さくなることの要因は定かではないが以下のように考えている。
すなわち抵抗値の上昇は電極間を埋める物質とその距離に依存するが、セパレーターと電極を密着された場合は、電極がセパレーターに覆われる事により有効な電極面積が減少することでも抵抗値が上昇する。セパレーターの剛軟度はセパレーターの厚み方向の圧縮弾性率と相関があり、剛軟度が大きいほど圧縮弾性率が大きく密着させたときのセパレーターの変形量が少ない。よってセパレーターが電極を覆う面積を減少させ、抵抗値の増加を抑制することが可能となる。また、単糸繊度を大きくするとさらに電極との接触面積を減少させ抵抗値の上昇が抑制される。
【0018】
また、多孔膜の場合孔自体は小さいが電極により孔が閉塞し、孔中で発生した気体がセパレーター内を通過して対極側に漏洩するが、単糸繊度を太くすることで電極とセパレーター間に貫通した隙間が発生しやすくなるため、電極で発生した気体がスムーズに排出される。
【0019】
本発明の不織布は、嵩密度が0.2g/cm
3以上0.8g/cm
3以下である。嵩密度が0.2g/cm
3未満であると水素への酸素の混入が大きくなる。嵩密度が0.8g/cm
3を超えると抵抗値が大きくなる。
【0020】
本発明の不織布は、目付が50g/m
2以上200g/m
2以下である。目付が50g/m
2未満であるとセパレーター内部での抵抗値が大きくなる。目付が200g/m
2を超えると、不織布内部の密度が高くなり隙間が少なく、布表面から内部への距離が長くなりことから、抵抗値が増す。
【0021】
本発明の不織布は、厚みが0.1mm以上0.5mm以下である。厚みが0.1mm未満であると不織布の地合との兼ね合いで水素ガスへの酸素の混入が発生する場合がある。厚みが0.5mmを超えると電極間隔が広くなり抵抗値が増す。
【0022】
本発明の不織布からなるセパレーターは、アルカリ水溶液との親和性を向上させる目的で親水化処理を施されていてもかまわない。親水化処理はポリエーテルなどの親水性樹脂の塗布、コロナ処理、プラズマ処理、発煙硫酸処理などがあげられる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0024】
(繊度:dtex)
試料の任意の場所5点を選び、光学顕微鏡を用いて、単繊維径をn=20で測定して、全平均値(D)を求めた。同場所5点の繊維を取り出し、密度勾配管を用いて、繊維の比重をn=5で測定し、全平均値(ρ)を求めた。ついで、平均単繊維断面積と平均比重から繊維10,000mの重量に換算して繊度を求めた。
【0025】
(目付:g/m
2)
JIS−L1913(2010)に準拠する。具体的にはMD方向に20cm、CD方向に20cm角の試験片をCD方向に5箇所採取してそれぞれの重量を測定し、これらの平均値を算出した後、1m
2当たりの重量に換算し、目付とした。
【0026】
(嵩密度:g/cm
3)
JIS−L1913(2010)に準拠して求められた目付及び厚みから1cm
3当りの重量に換算し、嵩密度とした。具体的には、厚さ測定器により荷重2kPaにて厚さを測定し、目付を厚さで除することにより嵩密度を求めた。
【0027】
(剛軟度:mN・cm)
JIS−L1913(2010)に準拠した。具体的には、MD方向に20cm、CD方向に2.5cm角の試験片をCD方向の試験片全幅1m当たり6箇所において採取し、41.5°カンチレバー法に基づき表裏、計12点にて測定し、これらの平均値を算出した。該方法はMD方向の剛軟度結果であり、CD方向に関しては試験片方向を直交させ上述の如く、測定した。
【0028】
(厚み:mm)
JIS−L1913(2010)に準拠する。具体的には、CD方向の試験片全幅1m当たり10箇所において加圧条件を1.96kPaとして測定し、これらの平均値を算出した。
【0029】
(電解電圧、ガス混入量)
濃度30重量%の水酸化カリウム水溶液に浸漬させて20Paに減圧後、常圧に戻す操作を5回繰り返し、セパレーター内の脱泡を行った後、セパレーターが濡れた状態のまま電極とセパレーターを密着させてH型セルに組み込む。電極としてSUS316製メッシュ(#50)を使用し、25℃、電流密度0.2A/cm
2に調整して10分後の電圧を測定し電解電圧とした。
また、20分間電気分解を行い陽極側から発生した気体を捕集し水素の比率を求めてガス混入量とした。
電解電圧の評価としては、○は「電解電圧が2.00V以下」、×は「電解電圧が2.00Vより大きい」とした。ガス混入量の評価としては、○は「水素比率が99.9vol%以上」、×は「水素比率が99.0vol%未満」とした。
【0030】
<実施例1>
繊度7.0dtex、繊維長60mmのポリフェニレンサルファイド繊維を用いてカードウェブとし、カレンダー加工機(温度190℃、線圧100kg/cm)を通して熱処理を行い、サーマルボンド不織布を作製した。
得られた不織布は厚み0.2mm、目付100g/m
2、嵩密度0.5g/cm
3、剛軟度100mN・cmであった。この不織布を用いて電解電圧とガス混入量を評価した結果を表1に示す。
【0031】
<実施例2>
繊度4.5dtex、繊維長0.5mmのポリフェニレンサルファイド繊維を用いて、抄紙機を通して湿紙を作製し、カレンダー加工機(温度190℃、線圧100kg/cm)を通して熱処理を行い、湿式不織布を作製した。
得られた不織布は厚み0.2mm、目付108g/m
2、嵩密度0.54g/cm
3、剛軟度117mN・cmであった。この不織布を用いて電解電圧とガス混入量を評価した結果を表1に示す。
【0032】
<比較例1>
不織布の目付を40g/m
2に変更した以外は、実施例1と同様にしてサーマルボンド不織布を作製した。
得られた不織布は厚み0.2mm、嵩密度0.2g/cm
3、剛軟度64mN・cmであった。この不織布を用いて電解電圧とガス混入量を評価した結果を表1に示す。
【0033】
<比較例2>
繊度2.2dtex、繊維長60mmのポリフェニレンサルファイド繊維を用いてカードウェブとし、スパンレース加工機を通してスパンレース不織布を作製し、カレンダー加工機(温度180℃、線圧30kg/cm)を通して熱処理を行い、スパンレース不織布を作製した。
得られた不織布は厚み0.2mm、目付50g/m
2、嵩密度0.25g/cm
3、剛軟度40mN・cmであった。この不織布を用いて電解電圧とガス混入量を評価した結果を表1に示す。
【0034】
【表1】