特許第6794823号(P6794823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794823解析装置、解析方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794823
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20201119BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20201119BHJP
   B21D 22/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   G06F17/50 612H
   G06F17/50 680Z
   B21D22/00
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-253638(P2016-253638)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-106521(P2018-106521A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 栄志
(72)【発明者】
【氏名】中田 匡浩
(72)【発明者】
【氏名】三日月 豊
【審査官】 松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/146279(WO,A1)
【文献】 特開2012−166225(JP,A)
【文献】 特開2009−148838(JP,A)
【文献】 特開2010−115674(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0377806(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 −30/28
B21D 22/00 −22/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析部と、
前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記スプリングバックによって生じる前記部材の変位分布を示す第1変位分布データを生成するスプリングバック解析部と、
前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動変形モードについて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記各固有振動変形モードでの前記部材の変位分布を示す第2変位分布データを生成する固有振動解析部と、
前記第1変位分布データと前記各固有振動変形モードでの前記第2変位分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解部と、
前記一致度に基づいて、一つ又は複数の固有振動変形モードを選定するモード選定部と、
前記一つ又は複数の固有振動変形モードのうち、少なくとも一部の固有振動数が上昇するように、前記有限要素モデルデータに非伏角状の矩形状ビードを配置するビード配置部と、
を含み、
前記スプリングバック解析部は、前記矩形状ビードが配置された前記有限要素モデルデータに対して、取得された前記応力分布データに基づいてマッピングしてスプリングバック解析を行うことを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記部材は、フランジ部及び縦壁部を有するハット形状の鋼板であり、
前記ビード配置部は、前記部材の前記有限要素モデルデータについて、前記縦壁部のみに前記矩形状ビードを配置することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、
前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記スプリングバックによって生じる前記部材の変位分布を示す第1変位分布データを生成する第1スプリングバック解析工程と、
前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動変形モードについて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記各固有振動変形モードでの前記部材の変位分布を示す第2変位分布データを生成する固有振動解析工程と、
前記第1変位分布データと前記各固有振動変形モードでの前記第2変位分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、
前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動変形モードを選定するモード選定工程と、
前記一つ又は複数の固有振動変形モードのうち、少なくとも一部の固有振動数が上昇するように、前記有限要素モデルデータに非伏角状の矩形状ビードを配置するビード配置工程と、
前記ビード配置工程により前記矩形状ビードが配置された前記有限要素モデルデータに対して、前記プレス成形解析工程で取得された前記応力分布データに基づいてマッピングしてスプリングバック解析を行う第2スプリングバック解析工程と、
を少なくとも行うことを特徴とする解析方法。
【請求項4】
前記部材は、フランジ部及び縦壁部を有するハット形状の鋼板であり、
前記ビード配置工程では、前記部材の前記有限要素モデルデータについて、前記縦壁部のみに前記矩形状ビードを配置することを特徴とする請求項3に記載の解析方法。
【請求項5】
部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、
前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記部材のスプリングバックによって生じる前記部材の変位分布を示す第1変位分布データを生成する第1スプリングバック解析工程と、
前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動変形モードについて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記各固有振動変形モードでの前記部材の変位分布を示す第2変位分布データを生成する固有振動解析工程と、
前記第1変位分布データと前記各固有振動変形モードでの前記第2変位分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、
前記一致度に基づいて、一つ又は複数の固有振動変形モードを選定するモード選定工程と、
前記一つ又は複数の固有振動変形モードのうち、少なくとも一部の固有振動数が上昇するように、前記有限要素モデルデータに非伏角状の矩形状ビードを配置するビード配置工程と、
前記ビード配置工程により前記矩形状ビードが配置された前記有限要素モデルデータに対して、前記プレス成形解析工程で取得された前記応力分布データに基づいてマッピングしてスプリングバック解析を行う第2スプリングバック解析工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記部材は、フランジ部及び縦壁部を有するハット形状の鋼板であり、
前記ビード配置工程では、前記部材の前記有限要素モデルデータについて、前記縦壁部のみに前記矩形状ビードを配置することを特徴とする請求項5に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法、及びコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
衝突安全性と軽量化の要請から、自動車の車体等に適用されている鋼板の引張強さは、590MPa級を超え、GPaの単位にまで達しつつある。高強度鋼板は、板厚を増加させることなく、衝突時の吸収エネルギー、強度等を高めることができる。他の軽量化素材に比べれば、高強度鋼板を用いた部品加工、組み立て等は、必ずしも設備や生産技術の大きな変革を要しない。従って、高強度鋼板を用いた部品加工、組み立て等の生産コストへの負荷は、他の軽量化素材に比べれば、比較的小さいと考えられている。
【0003】
しかしながら、プレス加工の場合、鋼板の強度上昇と共に、スプリングバック、しわ等が増加し、部品の寸法精度の確保が困難となる。また、強度上昇に伴う延性の低下は、プレス成形時の破断の危険性を高める。このように、高強度鋼板による性能と生産性の両立は、従来の軟鋼板に比べれば必ずしも容易ではなく、開発工期短縮、製造コスト抑制等と相まって、量産までの加工技術開発の負荷を大きく高めている。
【0004】
上述の破断、しわ、及びスプリングバックのうち、破断及びしわは、部品形状、成形条件等によっては、従来の軟鋼板を用いる場合でも発生し得る課題であり、これまでに数多くの知見、対策技術等が蓄積されている。一方、スプリングバックは、高強度鋼板を用いる場合に特有の課題であり、いまだ十分な検討がされておらず、広く普及している成形シミュレーションも、スプリングバック解析による寸法精度予測については、十分な実用信頼性を得ているとは言えない。
【0005】
スプリングバックとは、成形品を成形後に金型から取り出す作業や、不要な部分をトリミングする作業等、部品の拘束を緩和する作業をすることで残留応力が駆動力となり、新たな釣り合いを満たすように部品に生じる弾性変形である。高強度鋼板ではこのスプリングバックが大きいため、最終製品として要求されている寸法精度の確保が困難になる。
【0006】
スプリングバックは、現象に応じて、「角度変化」、「壁そり」、「ねじれ(ひねれ)」、「稜線そり(面そり)」、「パンチ底のスプリングバック」に分類される。いずれも、部品内での残留応力分布が曲げ又はねじりのモーメントとして働き、材料の弾性係数、板厚、部品形状等で決まる剛性に応じて部品が変形した結果として生じる。例えば、最も良く知られているスプリングバックの例は、曲げ角度変化、壁そり等である。これらのスプリングバックは、板厚方向の応力分布が駆動力となり、剛性は主に板厚で決定される。あるいは、長手方向に湾曲したハット断面のビームをドロー成形すると、壁そり及びねじれが生じるが、湾曲の曲率が小さいと部品剛性が高まり、壁そりが小さくなる。
【0007】
このメカニズムに基づくと、寸法精度不良の対策方法の一つは、板厚、部品形状等を変更し、スプリングバックの弾性変形モードに応じた剛性を高め、スプリングバックに対する抵抗を増大させることである。
【0008】
スプリングバックに対する抵抗の増大は、確実に寸法変化を低下させる。スプリングバックに対する抵抗は、その弾性変形モードに対する部品の剛性である。部品の剛性を高めるためには、部品の形状が重要な因子である。部品の形状は、性能、レイアウト等の要件で制約されているため、ビード、エンボス等の小さな対策が有効である。
【0009】
壁そりに対するビードは、最も典型的な剛性補強対策例である。一方、複雑な部品での3次元的なスプリングバックに対して、最適な剛性補強位置を見出すのは容易でない。新たな試みとして、固有振動解析及び最適化を併用する方法が提案されている(非特許文献1を参照)。
【0010】
即ち、固有振動数が剛性の平方根に比例し、且つ、密度(質量)の平方根に反比例することに着目し、スプリングバックの弾性変形モードを特定し、そのスプリングバックの弾性変形モードに対応する固有振動変形モードを選定し、その固有振動変形モードの固有振動数が上昇するように、要素の一部を同密度の高弾性材料に置き換え、その要素の最適な配置を、最適化ツール等を用いて求める。これにより、最適な剛性補強位置を容易に見出すことができる。
【0011】
しかしながら、この方法では、固有振動変形モードを手動で選定しなければならないため、手間が掛かるという問題があった。また、固有振動変形モードを自動で選定するとしても、選定基準が明らかでないため、スプリングバックの弾性変形モードに対応する固有振動変形モードを選定できるとは限らず、高弾性材料の最適な配置が得られるとは限らなかった。そこで、すべての固有振動変形モードを選定し、それぞれについて高弾性材料の最適な配置を求めることも考えられるが、それではコストが掛かりすぎるという問題があった。このため、スプリングバックによって生じる部材の変形を低減するための解析を容易に行うことができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】樋渡俊二、外1名、「高強度鋼板の成形課題への包括的取組み」、日本鉄鋼協会創形創質工学部会板成形フォーラム特別講演会、社団法人日本鉄鋼協会、2005年1月14日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような従来の課題を解決すべくなされたものであり、有限要素モデルデータに配置が容易な形状の矩形状ビードを配置し、当該矩形状ビードが配置された有限要素モデルデータに対して成型解析を行うことなく、スプリングバックによって生じる部材の変形を確実に低減するための解析を容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解析装置は、部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析部と、前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記スプリングバックによって生じる前記部材の変位分布を示す第1変位分布データを生成するスプリングバック解析部と、前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動変形モードについて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記各固有振動変形モードでの前記部材の変位分布を示す第2変位分布データを生成する固有振動解析部と、前記第1変位分布データと前記各固有振動変形モードでの前記第2変位分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解部と、前記一致度に基づいて、一つ又は複数の固有振動変形モードを選定するモード選定部と、前記一つ又は複数の固有振動変形モードのうち、少なくとも一部の固有振動数が上昇するように、前記有限要素モデルデータに非伏角状の矩形状ビードを配置するビード配置部とを含み、前記スプリングバック解析部は、前記矩形状ビードが配置された前記有限要素モデルデータに対して、取得された前記応力分布データに基づいてマッピングしてスプリングバック解析を行う。
【0015】
本発明の解析装置において、前記部材は、フランジ部及び縦壁部を有するハット形状の鋼板であり、 前記ビード配置部は、前記部材の前記有限要素モデルデータについて、前記縦壁部のみに前記矩形状ビードを配置する。
【0016】
本発明の解析方法は、部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記スプリングバックによって生じる前記部材の変位分布を示す第1変位分布データを生成する第1スプリングバック解析工程と、前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動変形モードについて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記各固有振動変形モードでの前記部材の変位分布を示す第2変位分布データを生成する固有振動解析工程と、前記第1変位分布データと前記各固有振動変形モードでの前記第2変位分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動変形モードを選定するモード選定工程と、前記一つ又は複数の固有振動変形モードのうち、少なくとも一部の固有振動数が上昇するように、前記有限要素モデルデータに非伏角状の矩形状ビードを配置するビード配置工程と、前記ビード配置工程により前記矩形状ビードが配置された前記有限要素モデルデータに対して、前記プレス成形解析工程で取得された前記応力分布データに基づいてマッピングしてスプリングバック解析を行う第2スプリングバック解析工程とを少なくとも行う。
【0017】
本発明の解析方法において、前記部材は、フランジ部及び縦壁部を有するハット形状の鋼板であり、前記ビード配置工程では、前記部材の前記有限要素モデルデータについて、前記縦壁部のみに前記矩形状ビードを配置する。
【0018】
本発明のコンピュータプログラムは、部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記部材のスプリングバックによって生じる前記部材の変位分布を示す第1変位分布データを生成する第1スプリングバック解析工程と、前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動変形モードについて、前記有限要素モデルデータの節点の変位を有限要素法によって求めることにより、前記各固有振動変形モードでの前記部材の変位分布を示す第2変位分布データを生成する固有振動解析工程と、前記第1変位分布データと前記各固有振動変形モードでの前記第2変位分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、前記一致度に基づいて、一つ又は複数の固有振動変形モードを選定するモード選定工程と、前記一つ又は複数の固有振動変形モードのうち、少なくとも一部の固有振動数が上昇するように、前記有限要素モデルデータに非伏角状の矩形状ビードを配置するビード配置工程と、前記ビード配置工程により前記矩形状ビードが配置された前記有限要素モデルデータに対して、前記プレス成形解析工程で取得された前記応力分布データに基づいてマッピングしてスプリングバック解析を行う第2スプリングバック解析工程とをコンピュータに実行させる。
【0019】
本発明のコンピュータプログラムにおいて、前記部材は、フランジ部及び縦壁部を有するハット形状の鋼板であり、前記ビード配置工程では、前記部材の前記有限要素モデルデータについて、前記縦壁部のみに前記矩形状ビードを配置する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、有限要素モデルデータに配置が容易な形状の矩形状ビードを配置し、当該矩形状ビードが配置された有限要素モデルデータに対して成型解析を行うことなく、スプリングバックによって生じる部材の変形を確実に低減するための解析を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態による解析装置の動作の一例を説明するフローチャートである。
図2】プレス成形後の応力分布が示された部材の一例を示す模式図(斜視図)である。
図3】固有振動変形モードの次数と変位分布データ間の一致度との関係を示す特性図である。
図4】有限要素モデルデータに矩形状ビードが配置された部材の一例を示す模式図である。
図5】スプリングバック解析後の部材の変位分布の一例を示す模式図である。
図6】本実施形態による解析装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図7】パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0023】
図1は、解析装置1の動作の一例を説明するフローチャートである。なお、図1に示す処理フローは、図11に示す解析装置1の記憶部12に予め記憶されているプログラムに基づき、主に解析装置1の処理部13により、解析装置1の各要素と協働して実行される。なお、解析装置1の構成については後述する。
【0024】
最初に、処理部13は、記憶部12に記憶されている「CADモデルデータ及び生成条件データ」に基づいて、部材の形状を、特定の形状及びサイズの複数の要素に分割することにより、有限要素モデルデータを生成する(ステップS101)。また、処理部13は、生成した有限要素モデルデータを、記憶部12に格納する。なお、有限要素モデルの生成処理には、市販のアプリケーションプログラムであるHyperMeshを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(ANSA等)を利用することも可能である。
【0025】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータ、材料物性データ、及びプレス成形条件データに基づいて、部材の各要素に発生する応力を有限要素法によって求めることにより、部材の応力分布データを生成する(ステップS102)。このように部材の応力分布データには、部材の各要素に発生する応力を示す情報が含まれる。また、処理部13は、生成した応力分布データを、記憶部12に格納する。なお、プレス成形の解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるHyperFormを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(LS−DYNA、PAM−STAMP等)を利用することも可能である。
【0026】
図2は、プレス成形後の応力分布が示された部材の一例を示す模式図(斜視図)である。図2では、処理部13により求められた応力の大きさ(下死点応力分布)が色の濃淡により示されている。当該部材は、フランジ部及び縦壁部を有するハット形状の980MPa級の高張力鋼板であり、板厚は1.6mmである。
【0027】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータ、応力分布データ、材料物性データ、及び境界条件データに基づいて、スプリングバック後の部材の各節点の変位を有限要素法によって求めることにより、部材の第1変位分布データを生成する(ステップS103)。このように第1変位分布データには、部材の各節点の変位を示す情報が含まれる。また、処理部13は、生成した第1変位分布データを、記憶部12に格納する。なお、スプリングバックの解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるLS−DYNAを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(PAM−STAMP等)を利用することも可能である。
【0028】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータ、材料物性データ、及び境界条件データに基づいて、各固有振動変形モードについて、部材の各節点の変位を有限要素法によって求めることにより、部材の第2変位分布データを生成する(ステップS104)。このように第2変位分布データには、部材の各節点の変位を示す情報が含まれる。また、処理部13は、生成した第2変位分布データのそれぞれを、記憶部12に格納する。なお、固有振動の解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるOptiStructを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(Nastran等)を利用することも可能である。
【0029】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている「スプリングバックにより生じた変形に基づく第1変位分布データと、各固有振動変形モードでの第2変位分布データのそれぞれ」と、の各組み合わせについて、部材の各節点の変位の一致度を求めることにより、変位分布データ間の一致度を求める(ステップS105)。処理部13は、部材の各節点について、各固有振動変形モードでの変位と、スプリングバックにより生じた変形に基づく変位とに、どの程度の関連性があるのかを求めることにより、変位分布データ間の一致度を求める。具体的には、処理部13は、次の(1)式に示す連立一次方程式を解くことにより、変位分布データ間の一致度を求める。ここで、uijはi次の固有振動変形モードでの節点jの変位を示し、uSBjはスプリングバック変形での節点jの変位を示し、aiはi次の固有振動変形モードとスプリングバック変形の一致度を示す。なお、aiの大きさが大きいほど変位分布データ間の一致度が高いことを示す。
【0030】
【数1】
【0031】
あるいは、処理部13は、部材の各節点の変位後の位置の差分を求めることにより、変位分布データ間の一致度を求めることも可能である。具体的には、処理部13は、次の(2)式又は(3)式に示す数式を計算することにより、変位分布データ間の一致度を求めることも可能である。ここで、uijはi次の固有振動変形モードでの節点jの変位を示し、uSBjはスプリングバック変形での節点jの変位を示し、及びbi、ciはi次の固有振動変形モードとスプリングバック変形の一致度を示す。なお、bi、ciの大きさが大きいほど変位分布データ間の一致度が高いことを示す。
【0032】
【数2】
【0033】
処理部13は、求めた変位分布データ間の一致度のそれぞれを、記憶部12に格納する。尚、本明細書では、i次の固有振動変形モードとスプリングバック変形の一致度ai、bi、ciのうち、aiを用いた場合を例に挙げて説明する。
【0034】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている変位分布データ間の一致度のそれぞれに基づいて、一つ又は複数(少数)の固有振動変形モードを選定する(ステップS106)。処理部13は、変位分布データ間の一致度の大きいものから順に、所定数(例えば、3つ)の固有振動変形モードを選定する。あるいは、処理部13は、変位分布データ間の一致度が所定の閾値よりも大きい、又は所定の閾値以上である一つ又は複数の固有振動変形モードを選定することも可能である。このように処理部13は、変位分布データ間の一致度に基づいて固有振動変形モードを選定する。このため、少数の固有振動変形モードを選定するのにも関わらず、スプリングバックによって生じる部材の変形に対応する固有振動変形モードが選定される可能性が高くなる。そして、処理部13は、選定した固有振動変形モードの次数を、記憶部12に格納する。
【0035】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている次数の固有振動変形モードから、固有振動数を同時に上昇させるものの組み合わせを生成する。処理部13は、変位分布データ間の一致度の大きいものから順に、一つずつ固有振動変形モードを累加していくことにより、m個の固有振動変形モード(例えば、8次、2次、及び12次)からn個の組み合わせ(例えば、{8次}、{8次、2次}、及び{8次、2次、12次})を生成する(m、nは、1以上の整数であり、同じ数であっても異なる数であっても良い。)。あるいは、処理部13は、変位分布データ間の一致度の大きいものから順に、二つずつ固有振動変形モードを累加していくことも可能である。
【0036】
例えば図3に示すように、固有振動変形モードの次数と変位分布データ間の一致度との関係が得られる。ここで、横軸は、固有振動変形モードの次数を示す。縦軸は、変位分布データ間(スプリングバック変形に基づく第1変位分布データと、各固有振動変形モードでの第2変位分布データとの間)の一致度を示す。この関係から、8次モードが他のモードに比べて変位分布データ間の一致度が大きいことが分かる。
【0037】
次に、処理部13は、処理部13は、生成した固有振動変形モードの組み合わせのそれぞれについて、当該組み合わせに含まれる固有振動変形モードの固有振動数の少なくとも一つが上昇するように、記憶部12に記憶されている材料物性データ、境界条件データ、及び配置条件データに基づいて、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータにビードを配置する。例えば固有振動変形モードの次数と変位分布データ間の一致度との関係が図3のようである場合、変位分布データ間の一致度が最も大きい8次モードにより得られる部材の形状が最適化形状であることになる。
【0038】
本実施形態では、当該有限要素モデルデータに、ビードとして、非伏角状の(伏角形状のない)矩形状ビードを配置する(ステップS107)。ビードの形状は、一般的に複雑となる。従って、計算通りにビードを部材に配置することは容易ではない。そこで本実施形態では、後述するスプリングバック解析を行う前に、部材の形状・取り付け位置及び他の部材との関係等とを考慮して、有限要素モデルデータに矩形状ビードを配置する。具体的には、ハット形状の鋼板である部材の有限要素モデルデータについて、縦壁部からフランジ部にかけて矩形状ビードを配置することはせず、縦壁部のみに矩形状ビードを配置するようにする。
【0039】
図4は、有限要素モデルデータに矩形状ビードが配置された部材の一例を示す模式図(斜視図)であり、(a)が計算通りにビードを部材に配置した比較例を、(b)が本実施形態をそれぞれ示している。比較例では、部材に配置されたビード101が極めて複雑であり、実際にビード101のような複雑な形状のビードを部材に付すことは困難である。これに対して本実施形態では、部材には、比較的単純な形状であるが最適化形状である矩形状ビード102が付されている。実際の部材に付すことができる形状の矩形状ビードを計算段階で有限要素モデルデータに付すことにより、後述するように、容易且つ確実にスプリングバックを低減することができる。
【0040】
ここで、本実施形態のように部材の有限要素モデルデータに矩形状ビードを付与するのではなく、例えば図1のステップS101〜S111により得られた情報に基づいて、部材に対する実際の矩形状ビードを付与することも考えられる。しかしながらこの場合、計算(処理装置)によって最適化された矩形状ビードの形状に基づいて、人手により矩形状ビードを修正して付与しなければならず、十分なスプリングバックの低減を実現することができなくなるという問題がある。更にこの場合、ビードの無い形状の部材を成形した後に、追加工程で矩形状ビードの成形を行うため、工程増を招くという問題がある。
【0041】
これに対して本実施形態では、部材の有限要素モデルデータに矩形状ビードを付与する構成を採るため、人手によることなく計算(処理装置)によって最適化された矩形状ビードの形状を求めることができる。これにより、スプリングバックを低減するという技術的効果を最大化して、部材のどこの位置に、どの程度の幅・高さで矩形状ビードを配置するかということを正確に求めることができる。更に本実施形態では、部材の有限要素モデルデータに矩形状ビードを付与する構成により、追加工程を行うことなく、1つの工程で矩形状ビードを備えた部材を成形することができる。
【0042】
また本実施形態では、部材の有限要素モデルデータについて、縦壁部のみに矩形状ビードを配置するようにする。部材の有限要素モデルデータにおいて、フランジ部から縦壁部にかけて繋がったビードを配置すると、成形初期にしわ押えとダイスによりブランクを挟んだ際に、部材にしわが発生するという問題がある。本実施形態では、縦壁部のみに矩形状ビードを配置することにより、部材のしわの発生が抑止される。
【0043】
ここで、有限要素モデルデータに矩形状ビードを配置することは、有限要素モデルデータに含まれる要素に属する部材の表面に伏角形状のない矩形状の凹凸をつけることを意味する。このように本発明におけるビードは、部材の表面に矩形状の凹凸を付けることを意味し、エンボス等も含む概念である。また、上記の組み合わせに含まれる固有振動変形モードが複数である場合、当該複数の固有振動変形モードの固有振動数の全てを上昇させるのが好ましい。しかしながら、当該組み合わせに含まれる固有振動変形モードによっては、このようにすることができない場合がある。従って、このような場合には、当該複数の固有振動変形モードの固有振動数の少なくとも1つを上昇させる。
【0044】
そして、処理部13は、矩形状ビードが配置された後の有限要素モデルデータのそれぞれを、記憶部12に格納する。なお、矩形状ビードの配置処理には、市販のアプリケーションプログラムであるOptiStructを利用する。また、矩形状ビードの配置処理に際し、部材面積に対するビード配置面積の割合を指定することができる。ここで、部材面積とは、部材の面のうち、矩形状ビードを配置することが可能な面の面積である。ビード配置面積とは、部材の面のうち、矩形状ビードが配置される部分の面積である。この割合を大きくしすぎると、部材の大部分の領域にビードを配置することになる。しかしながら、部材の形状、部材の取り付け箇所、及び他の部材との関係等によって、矩形状ビードを配置する領域に制限が課せられる場合がある。また、スプリングバックによって生じる部材の変形を抑制するのに大きく寄与する領域のみを、矩形状ビードを配置する領域とし、部材の設計を行い易くしたい場合がある。このような観点から、ユーザは、操作部14を操作することによって、部材面積に対するビード配置面積の割合を適宜指定する。
【0045】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている「矩形状ビードが配置された後の各有限要素モデルデータ」について、当該有限要素モデルデータに、記憶部12に記憶されているステップS102で取得した応力分布データ(残留応力データ)をマッピングし、スプリングバック解析を行う(ステップS108)。本実施形態では、「矩形状ビードが配置された後の各有限要素モデルデータ」について成形解析を行うことなく、当該スプリングバック解析を行う。処理部13は、当該残留応力データをマッピングした有限要素モデルデータと、記憶部12に記憶されている「材料物性データ及び境界条件データ」とに基づいて、部材の各節点の変位を有限要素法によって求めることにより、部材の第1変位分布データを生成する。また、処理部13は、このようにして生成した「矩形状ビードが配置された後の第1変位分布データ」を、記憶部12に格納する。なお、スプリングバックの解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるLS−DYNAを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(PAM−STAMP等)を利用することも可能である。
【0046】
次に、処理部13は、矩形状ビードが配置された後の第1変位分布データに基づいて定まる部材の形状と、当該部材の目標形状との差が所定の範囲内であるか否かを判定する(ステップS109)。この判定は、例えば、各要素の節点の変位後の複数の位置と、当該位置に対応する目標形状の位置との差の全てが所定の範囲内であるか否かを判定することにより実現できる。
【0047】
この判定の結果、矩形状ビードが配置された後の第1変位分布データに基づいて定まる部材の形状と、当該部材の目標形状との差が所定の範囲内でない場合には、ステップS104に戻る。そして、矩形状ビードが配置された後の第1変位分布データに基づいて定まる部材の形状と、当該部材の目標形状との差が所定の範囲内になるまで、記憶部12に記憶されている「矩形状ビードが配置された後の(最新の)各有限要素モデルデータ」を用いて、ステップS104〜S109の処理を繰り返し行う。そして、矩形状ビードが配置された後の第1変位分布データに基づいて定まる部材の形状と、当該部材の目標形状との差が所定の範囲内になると、処理部13は、スプリングバック後の部材の形状と目標形状との差が所定の範囲内になる矩形状ビードの配置(ステップS107で得られた最新の矩形状ビードの配置)を特定する情報等を表示部15に表示させる。そして、図1のフローチャートによる処理を終了する。矩形状ビードの配置を特定する情報としては、例えば、矩形状ビードの位置、縦横の大きさ、高さ(深さ)等の情報を含めることができる。また、スプリングバック後の部材の形状と目標形状との差が所定の範囲内になるときに選定された固有振動変形モード(ステップS106で得られた最新の固有振動変形モード)を示す情報を表示部15に表示させても良い。
【0048】
図5は、スプリングバック解析後の部材の変位分布の一例を示す模式図(斜視図)である。8次の固有振動モードの組み合わせについて処理部13により求められた矩形状ビードの配置が行われた後の部材の変位分布を示している。
【0049】
本実施形態では、複数の固有振動モードの組わせたビード配置の候補で、それぞれ固有振動数を求めて、固有振動数の最大値が最大となる固有振動モードの組み合わせのビード配置を選定すれば、部材の変位を大きく低減することができる。
【0050】
解析装置1の処理部13は、有限要素モデルデータに対して、プレス成形解析、スプリングバック解析、固有振動解析等を実行する。また、処理部13は、スプリングバック変形との一致度に基づいて少数の固有振動変形モードを選定し、それらの各組み合わせについて、当該組み合わせに含まれる固有振動変形モードの固有振動数が上昇するように、有限要素モデルデータに矩形状ビードを配置する。そして、処理部13は、矩形状ビードが配置された後の有限要素モデルデータに対して、プレス成形解析を行うことなく、スプリングバック解析を再度実行する。そして、スプリングバック解析後の部材の形状と目標形状との差が所定の範囲内になるまで、矩形状ビードの配置と、プレス成形解析と、スプリングバック解析とを繰り返し行う。これにより、スプリングバック変形に対応する固有振動変形モードを容易に選定することができ、容易且つ確実にスプリングバックを低減することが可能となる。
【0051】
以下、本実施形態における解析装置1のハードウェア構成について説明する。図6は、解析装置1の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0052】
解析装置1は、すでにインストールされているプログラムを実行し、記憶部12に記憶されているデータ及び/又は他の装置に記憶されているデータを参照し、各種の処理を実行する。また、解析装置1は、ユーザから操作部14を介して入力された指示に従って各種の処理を実行し、その結果を、表示部15を介してユーザに提示する。そのために、解析装置1は、通信部11と、記憶部12と、処理部13と、操作部14と、表示部15とを有する。
【0053】
通信部11は、解析装置1を不図示のネットワークに接続するための通信インターフェース回路を有する。通信部11は、不図示の他の装置からネットワークを介して受信したデータを、処理部13に渡す。また、通信部11は、処理部13から受け取ったデータを、ネットワークを介して他の装置に送信する。
【0054】
記憶部12は、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク装置、又は光ディスク装置のうちの少なくとも何れか一つを有する。記憶部12は、処理部13での処理に用いられるアプリケーションプログラム、データ等を記憶する。記憶部12は、例えば、アプリケーションプログラムとして、有限要素モデル生成プログラム、プレス成形解析プログラム、スプリングバック解析プログラム、固有振動解析プログラム、モード分解プログラム、モード選定プログラム、ビード配置プログラム等を記憶する。
【0055】
また、記憶部12は、予め設定される初期設定データとして、以下のデータ等を記憶する。
第1の初期設定データとして、記憶部12は、部材の位置・大きさ・形状を示すCAD(Computer Aided Design)モデルデータを記憶する。第2の初期設定データとして、記憶部12は、部材の材料物性(寸法、板厚、材料、ヤング率、ポワソン比、質量密度、応力とひずみとの関係等)を示す材料物性データを記憶する。第3の初期設定データとして、記憶部12は、有限要素モデルの生成条件(要素の形状・大きさ等)を示す生成条件データを記憶する。第4の初期設定データとして、記憶部12は、プレス成形条件(摩擦係数、部材フランジ押さえ力等)を示すプレス成形条件データを記憶する。第5の初期設定データとして、記憶部12は、境界条件(部材上の固定点等)を示す境界条件データを記憶する。第6の初期設定データとして、記憶部12は、矩形状ビードの配置条件(縦横の大きさ、高さ、配置面積等)を示す配置条件データ等を記憶する。
【0056】
また、記憶部12は、処理部13により生成される中間データとして、以下のデータ等を記憶する。
即ち、第1の中間データとして、記憶部12は、CADモデルデータに対応する有限要素モデルデータ(各要素の位置・形状・大きさ等)を記憶する。第2の中間データとして、記憶部12は、部材の応力分布を示す応力分布データを記憶する。第3の中間データとして、記憶部12は、スプリングバックによって生じる部材の変位分布を示す第1変位分布データを記憶する。第4の中間データとして、記憶部12は、各固有振動変形モードでの部材の変位分布を示す第2変位分布データを記憶する。第5の中間データとして、記憶部12は、変位分布データ間の一致度を記憶する。第6の中間データとして、記憶部12は、固有振動変形モードの選定次数を記憶する。第7の中間データとして、記憶部12は、矩形状ビードが配置された後の有限要素モデルデータを記憶する。第8の中間データとして、記憶部12は、矩形状ビードが配置された後の変位分布を示す変位分布データを記憶する。更に、記憶部12は、所定の処理に係る一時的なデータを、一時的に記憶しても良い。
【0057】
処理部13は、1個または複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部13は、解析装置1の全体的な動作を統括的に制御する処理部、例えばCPU(Central Processing Unit)である。即ち、処理部13は、解析装置1の各種の処理が操作部14の操作、記憶部12に記憶されているプログラム等に基づいて適切な手順で実行されるように、通信部11、表示部15等の動作を制御する。処理部13は、記憶部12に記憶されているプログラム(オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、処理部13は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行することができる。
【0058】
処理部13は、図1におけるステップS101の処理を実行する有限要素モデル生成部131と、ステップS102の処理を実行するプレス成形解析部132と、ステップS103及びS108の処理を実行するスプリングバック解析部133と、ステップS104の処理を実行する固有振動解析部134と、ステップS105の処理を実行するモード分解部135と、ステップS106の処理を実行するモード選定部136と、ステップS107の処理を実行するビード配置部137と、ステップS109の処理を実行する形状判定部138と、ステップS110の処理を実行するデータ描画部139とを有する。処理部13が有するこれらの各部は、処理部13が有するプロセッサ上で実行されるプログラムによって実装される機能モジュールである。あるいは、処理部13が有するこれらの各部は、ファームウェアとして解析装置1に実装されても良い。
【0059】
データ描画部139は、データの描画処理を実行する。即ち、有限要素モデル生成部131、プレス成形解析部132、スプリングバック解析部133、固有振動解析部134、モード分解部135、モード選定部136、及びビード配置部137から与えられたデータを解析し、そのデータを所定の形式(例えば、コンター図)でレンダリングし、その描画データを生成する。そして、データ描画部139は、生成した描画データを表示部15等に出力する。このようにした場合、表示部15が、出力部として機能する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、通信部11が、有限要素モデル生成部131、プレス成形解析部132、スプリングバック解析部133、固有振動解析部134、モード分解部135、モード選定部136、及びビード配置部137から与えられたデータを外部装置に送信する場合には、通信部11が出力部として機能する。
【0060】
操作部14は、解析装置1の操作が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、キーボード、タッチパネル等である。ユーザは、このデバイスを用いて、選択等の指示を入力することが可能となる。操作部14は、ユーザにより操作されると、その操作に対応する信号を発生する。そして、発生した信号は、ユーザの指示として、処理部13に入力される。
【0061】
表示部15も、映像、画像等の表示が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro−Luminescence)ディスプレイ等である。表示部15は、処理部13から供給される描画データに応じた映像、画像等を表示する。
【0062】
以上説明してきたように、本実施形態によれば、有限要素モデルデータに配置が容易な矩形状ビードを配置し、当該矩形状ビードが配置された有限要素モデルデータに対して成型解析を行うことなく、スプリングバックによって生じる部材の変形を確実に低減するための解析を容易に行うことが可能となる。
【0063】
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、解析装置1は、図6に示す各部を有するとしたが、その一部については、不図示のサーバ装置が有するとしてもよい。サーバ装置は、例えば、解析装置1の記憶部12に相当する記憶部を有し、記憶部に記憶されているプログラム、データ等を解析装置1に提供し、解析装置1に解析処理を実行させるようにしてもよい。このようにした場合、解析装置1の処理部13は、サーバ装置から通信部11を介してプログラム、データ等を取得する。一方、解析装置1の記憶部12にプログラム、データ等を記憶する場合には、処理部13が記憶部12からプログラム、データ等を取得することになる。
【0064】
また、サーバ装置は、解析装置1の記憶部12及び処理部13に相当する記憶部及び処理部を有し、記憶部に記憶されているプログラム、データ等を用いて解析処理を実行し、その結果のみを解析装置1に提供するようにしても良い。
【0065】
また、解析装置1の処理部13が有する各機能をコンピュータに実現させるためのプログラムは、磁気記録媒体または光記録媒体といったコンピュータによって読み取り可能な記録媒体に記録された形で提供されても良い。
【0066】
即ち、上記した本実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。本実施形態による解析装置の各構成要素(図11の処理部13の各部131〜139等)の機能は、コンピュータのRAMやROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。同様に、本実施形態による解析方法の各ステップ(図1のステップS101〜S110等)は、コンピュータのRAMやROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。
【0067】
具体的に、上記のプログラムは、例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、或いは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。上記のプログラムを記録する記録媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、上記のプログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワークシステムにおける通信媒体を用いることができる。ここで、コンピュータネットワークとは、LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等であり、通信媒体とは、光ファイバ等の有線回線や無線回線等である。
【0068】
また、本発明に含まれるプログラムとしては、供給されたプログラムをコンピュータが実行することにより本実施形態の機能が実現されるようなもののみではない。例えば、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して本実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本発明に含まれる。また、供給されたプログラムの処理の全て或いは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて本実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本発明に含まれる。
【0069】
例えば、図7は、パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。この図7において、1200はCPU1201を備えたパーソナルコンピュータ(PC)である。PC1200は、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶された、又はフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行する。このPC1200は、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。
【0070】
PC1200のCPU1201、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより、本実施形態の図1におけるステップS101〜S110の手順等が実現される。
【0071】
1203はRAMであり、CPU1201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。1205はキーボードコントローラ(KBC)であり、キーボード(KB)1209や不図示のデバイス等からの指示入力を制御する。
【0072】
1206はCRTコントローラ(CRTC)であり、CRTディスプレイ(CRT)1210の表示を制御する。1207はディスクコントローラ(DKC)である。DKC1207は、ブートプログラム、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム等を記憶するハードディスク(HD)1211、及びフレキシブルディスク(FD)1212とのアクセスを制御する。ここで、ブートプログラムとは、パソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始する起動プログラムである。
【0073】
1208はネットワーク・インターフェースカード(NIC)であり、LAN1220を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、或いは他のPCと双方向のデータのやり取りを行う。
なお、パーソナルユーザ端末装置を用いる代わりに、本実施形態の解析装置に特化された所定の計算機等を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば、自動車の車体等に適用される部材の成形に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 通信部
12 記憶部
13 処理部
14 操作部
15 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7