特許第6794835号(P6794835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794835
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】画像処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 5/00 20060101AFI20201119BHJP
   H04N 1/407 20060101ALI20201119BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20201119BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20201119BHJP
   H04N 5/262 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   G06T5/00 730
   H04N1/407
   H04N5/232
   H04N5/225
   H04N5/262
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-2666(P2017-2666)
(22)【出願日】2017年1月11日
(65)【公開番号】特開2018-112877(P2018-112877A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆之
【審査官】 野口 俊明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−45232(JP,A)
【文献】 特開2007−324869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 5/00
H04N 1/40−1/409
H04N 5/225
H04N 5/232
H04N 5/262
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貼り付け先の第1の画像に貼り付けられる第2の画像のダイナミックレンジを、当該第1の画像のうち当該第2の画像と接することになる領域部分の画素情報に応じて補正する補正部と、
ダイナミックレンジの補正後に前記第1の画像との境界が目立たないように画素情報が補正された前記第2の画像を、前記第1の画像に貼り付ける貼付部と
を有する画像処理装置。
【請求項2】
前記貼付部は、ダイナミックレンジが補正された後の前記第2の画像が前記第1の画像と滑らかに接続されるように当該第2の画像の画素情報を補正すること
を特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記貼付部は、前記第1の画像と前記第2の画像との境界領域から当該第2の画像を構成する各画素までの距離に応じて当該第2の画像の画素情報を補正すること
を特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記貼付部は、前記第1の画像と前記第2の画像との境界領域における当該第1の画像の画素情報と当該第2の画像の画素情報を一致させた状態で、当該第2の画像を構成する各画素と周辺画素との勾配情報が保存されるように、当該第2の画像が貼り付けられる領域部分の当該第1の画像の画素情報を補正すること
を特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記補正部は、貼り付け前の前記第2の画像の外縁領域の画素情報と、当該第2の画像と接することになる領域部分の画素情報との差分に応じて、ダイナミックレンジの補正量を決定すること
を特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記補正部は、前記第2の画像のダイナミックレンジの圧縮量が予め定めた値より大きくなる場合、前記第1の画像のダイナミックレンジも圧縮すること
を特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
コンピュータに、
貼り付け先の第1の画像に貼り付けられる第2の画像のダイナミックレンジを、当該第1の画像のうち当該第2の画像と接することになる領域部分の画素情報に応じて補正させる機能と、
ダイナミックレンジの補正後に前記第1の画像との境界が目立たないように画素情報が補正された前記第2の画像を、前記第1の画像に貼り付けさせる機能と
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、境界領域を違和感なく合成するために、ソース画像とターゲット画像の境界上の画素値が一致することを条件として、境界領域においてコスト関数を定義し、最適化問題を解くことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4316571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ソース画像のダイナミックレンジ幅を変更することなくターゲット画像に貼り付け、その後、境界領域の画素値が一致するようにソース画像内の画素値を全体的にシフトする手法では、境界領域におけるターゲット画像とソース画像の輝度差が大きい場合に、ソース画像を貼り付けた領域部分に白飛びや黒潰れが生じるおそれがある。また、貼り付け合成後にソース画像を貼り付けた領域部分のダイナミックレンジ幅だけを調整する手法では、調整された領域部分とターゲット画像とのつなぎ目が目立つおそれがある。
【0005】
本発明は、ソース画像のダイナミックレンジ幅を変更することなくターゲット画像に貼り付ける場合に比べ、ソース画像を貼り付けた領域部分での白飛びや黒潰れを抑制しながらも、ソース画像とターゲット画像のつなぎ目を目立たせなくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、貼り付け先の第1の画像に貼り付けられる第2の画像のダイナミックレンジを、当該第1の画像のうち当該第2の画像と接することになる領域部分の画素情報に応じて補正する補正部と、ダイナミックレンジの補正後に前記第1の画像との境界が目立たないように画素情報が補正された前記第2の画像を、前記第1の画像に貼り付ける貼付部とを有する画像処理装置である。
請求項2に記載の発明は、前記貼付部は、ダイナミックレンジが補正された後の前記第2の画像が前記第1の画像と滑らかに接続されるように当該第2の画像の画素情報を補正することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置である。
請求項3に記載の発明は、前記貼付部は、前記第1の画像と前記第2の画像との境界領域から当該第2の画像を構成する各画素までの距離に応じて当該第2の画像の画素情報を補正することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置である。
請求項4に記載の発明は、前記貼付部は、前記第1の画像と前記第2の画像との境界領域における当該第1の画像の画素情報と当該第2の画像の画素情報を一致させた状態で、当該第2の画像を構成する各画素と周辺画素との勾配情報が保存されるように、当該第2の画像が貼り付けられる領域部分の当該第1の画像の画素情報を補正することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置である。
請求項5に記載の発明は、前記補正部は、貼り付け前の前記第2の画像の外縁領域の画素情報と、当該第2の画像と接することになる領域部分の画素情報との差分に応じて、ダイナミックレンジの補正量を決定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置である。
請求項6に記載の発明は、前記補正部は、前記第2の画像のダイナミックレンジの圧縮量が予め定めた値より大きくなる場合、前記第1の画像のダイナミックレンジも圧縮することを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置である。
請求項7に記載の発明は、コンピュータに、貼り付け先の第1の画像に貼り付けられる第2の画像のダイナミックレンジを、当該第1の画像のうち当該第2の画像と接することになる領域部分の画素情報に応じて補正させる機能と、ダイナミックレンジの補正後に前記第1の画像との境界が目立たないように画素情報が補正された前記第2の画像を、前記第1の画像に貼り付けさせる機能とを実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、第2の画像のダイナミックレンジ幅を変更することなく第1の画像に貼り付ける場合に比べ、第2の画像を貼り付けた領域部分での白飛びや黒潰れを抑制しながらも、第2の画像と第1の画像のつなぎ目を目立たせなくすることができる。
請求項2記載の発明によれば、第2の画像と第1の画像とのつなぎ目を滑らかに接続できる。
請求項3記載の発明によれば、第2の画像と第1の画像とのつなぎ目を滑らかに接続できる。
請求項4記載の発明によれば、第2の画像と第1の画像とのつなぎ目を滑らかに接続できる。
請求項5記載の発明によれば、第2の画像のダイナミックレンジ幅を変更することなく第1の画像に貼り付ける場合に比べ、第2の画像を貼り付けた領域部分での白飛びや黒潰れを抑制できる。
請求項6記載の発明によれば、第2の画像のダイナミックレンジの圧縮量によらず第2の画像のみを圧縮補正する場合に比べ、自然な合成画像を得ることができる。
請求項7記載の発明によれば、第2の画像のダイナミックレンジ幅を変更することなく第1の画像に貼り付ける場合に比べ、第2の画像を貼り付けた領域部分での白飛びや黒潰れを抑制しながらも、第2の画像と第1の画像のつなぎ目を目立たせなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る画像処理装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図2】貼り付け対象としてのソース画像Sと貼り付け先としてのターゲット画像Tとの関係を説明する図である。
図3】本実施の形態に係る制御部の機能構成1を示すブロック図である。
図4】ソース画像SのダイナミックレンジDとターゲット画像側境界BTにおけるターゲット画像T側のダイナミックレンジDとの関係を説明する図である。
図5】滑らかな接続が求められる領域部分を説明する図である。
図6】差分値計算部で実行される処理動作例を示すブロック図である。
図7】重みλの計算で使用するwの算出過程を説明する図である。
図8】本実施の形態に係る制御部の機能構成2を示すブロック図である。
図9】本実施の形態に係る制御部の機能構成3を示すブロック図である。
図10】位置pと近傍画像との位置関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
<画像処理装置の構成>
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態に係る画像処理装置1のハードウェア構成例を示すブロック図である。
本実施の形態に係る画像処理装置1は、画像処理演算を実行すると共に装置を構成する各部の動作を制御する制御部100と、画像データ等を記憶する記憶部200と、処理対象とする画像や処理結果を表示する表示部300と、装置に対するユーザの指示の受け付けに使用される操作部400と、処理対象とする画像データの取得に用いられる画像取得部500と、各部を接続するバス600とを有している。
【0011】
制御部100は、不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を含む、いわゆるコンピュータとして構成される。
ROMは、CPUにより実行される制御プログラムを記憶している。CPUは、ROMに記憶されているプログラムを読み出し、RAMを作業エリアに使用してプログラムを実行する。CPUによるプログラムの実行を通じ、後述するダイナミックレンジ補正部110(図3参照)等の機能が実現される。
【0012】
なお、CPUによって実行されるプログラムは、制御部100内のROMではなく、画像処理装置1の外部で接続された記憶装置に記憶されていてもよい。例えばプログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスク等)、光記録媒体(光ディスク等)、光磁気記録媒体、半導体メモリ等のコンピュータが読取可能な記録媒体に記憶されていてもよい。
また、CPUによって実行されるプログラムは、インターネット等の通信手段を用いて、画像処理装置1にダウンロードされてもよい。
【0013】
記憶部200は、例えばハードディスク装置により構成され、貼り付け先となるターゲット画像や貼り付けられるソース画像に対応する画像データを含む各種のデータが記憶される。記憶部200には、制御部100で実行されるプログラムが記憶されていてもよい。
表示部300は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(organic electroluminescence)ディスプレイ等により構成され、制御部100による制御の下、貼り付け合成で扱うソース画像やターゲット画像を表示する。
【0014】
操作部400は、ユーザの操作を受け付ける入力装置であり、例えば液晶ディスプレイの表面側に配置されるタッチパネル、マウス、キーボード等により構成される。
画像取得部500は、処理対象とする画像データの取得に用いられる装置であり、例えば外部機器との接続インタフェースにより構成される。画像取得部500により取得された画像データは、記憶部200に記憶される。
【0015】
<用語>
図2は、貼り付け対象としてのソース画像Sと貼り付け先としてのターゲット画像Tとの関係を説明する図である。
図2の場合、ソース画像Sは、x軸方向及びy軸方向のいずれに対しても、ターゲット画像Tより短く、ソース画像Sの全体がターゲット画像Tに含まれる。ここでのソース画像Sは、請求の範囲における「第2の画像」の一例であり、ターゲット画像Tは「第1の画像」の一例である。
なお、本実施の形態における制御部100は、ソース画像Sをターゲット画像Tに貼り付け合成した際に、2つの画像の重複部分(合成領域CR)で白飛び又は黒潰れが生じないように、かつ、画像間のつなぎ目が目立たないように合成処理するものであるので、ソース画像Sがターゲット画像Tより常に小さい必要はない。
【0016】
ソース画像Sの外縁部分は、貼り付け合成後のソース画像側境界BSを与える。一方、ソース画像Sの貼り付け先となるターゲット画像T側の部分領域(すなわち合成領域CR)の外縁部分は、貼り付け合成後のターゲット画像側境界BTを与える。以下では、ソース画像側境界BSとターゲット画像側境界BTを合わせて合成境界ともいう。
貼り付け合成によって生成される合成画像において、ソース画像側境界BS上の画素とターゲット画像側境界BTの画素は隣接画素となる。
合成領域CRは、ソース画像Sの貼り付け作業中又は貼り付け作業の完了時点で、ソース画像Sと重なっているターゲット画像T側の部分領域をいう。
【0017】
本実施の形態において、合成境界が目立たないとは、ソース画像側境界BSとターゲット画像側境界BTとを視覚的に判別できないほどに各境界に位置する画素の明るさ(輝度、明度等)や色差が小さいことをいう。より具体的には、合成境界における明るさの変化や色の変化が、ソース画像Sとターゲット画像Tの間で滑らか(連続的)であることをいう。
【0018】
<画像処理装置の機能構成>
以下では、制御部100によるプログラムの実行を通じて実現される機能構成について説明する。
プログラムの実行を通じて実現される機能構成は様々であるが、以下では、便宜的に機能構成1、機能構成2、機能構成3と呼ぶ。
【0019】
<機能構成1>
図3は、本機能構成に係る制御部100の機能構成1を示すブロック図である。
本機能構成に係る制御部100は、ソース画像Sと接するターゲット画像Tの画素情報(ターゲット画像側境界BTの画素情報)に応じてソース画像Sのダイナミックレンジ幅を補正するダイナミックレンジ補正部110と、ダイナミックレンジ幅を補正した後のソース画像(すなわち、補正ソース画像S’)とターゲット画像側境界BTとの間で画素値の差分値を計算する差分値計算部111と、算出された差分値に基づいてターゲット画像Tとのつなぎ目が目立たないように補正ソース画像S’を補正してターゲット画像Tに合成する合成部112として機能する。
ここでのダイナミックレンジ補正部110は、請求の範囲における「補正部」の一例であり、差分値計算部111と合成部112は、請求の範囲における「貼付部」の一例である。
【0020】
<ダイナミックレンジ補正部の処理動作>
ダイナミックレンジ補正部110は、ソース画像SのダイナミックレンジDを、貼り付け合成後に白飛びや黒潰れが生じないように、ターゲット画像側境界BTの画素値に基づいて補正する機能部分である。
図4は、ソース画像SのダイナミックレンジDとターゲット画像側境界BTにおけるターゲット画像T側のダイナミックレンジDとの関係を説明する図である。
以下では、ソース画像Sとターゲット画像Tが、0〜255の階調値を有する8ビットのRGB画像であるものとして説明する。
【0021】
まず、ダイナミックレンジ補正部110は、ターゲット画像Tのターゲット画像側境界BTに位置する画素の平均値Rave、Gave、Baveを、式1〜式3により求める。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、Ωはターゲット画像側境界BTを意味し、nはターゲット画像側境界BT上に位置する画素の数(画素数)を意味する。R(i,j)はターゲット画像側境界BTに位置するR(赤)画素の値であり、G(i,j)はターゲット画像側境界BTに位置するG(緑)画素の値であり、B(i,j)は、ターゲット画像側境界BTに位置するB(青)画素の値である。
平均値Rave、Gave、Baveが求まれば、ターゲット画像側境界BTでの飽和値までのダイナミックレンジDが確定する。各色について白飛びが生じるまでのダイナミックレンジの幅は、それぞれ255−平均値で計算される。黒潰れが生じるまでのダイナミックレンジの幅は、各色の平均値そのものである。
【0024】
次に、ダイナミックレンジ補正部110は、ソース画像Sに含まれる画素のR画素のダイナミックレンジDSR、G画素のダイナミックレンジDSG、B画素のダイナミックレンジDSBを式4〜式6により求める。なお、ソース画像Sのうち一部分だけがターゲット画像Tと重なる場合には、重複部分について以下の計算処理が実行される。
SR=max(R(i,j))−min(R(i,j))…式4
SG=max(G(i,j))−min(G(i,j))…式5
SB=max(B(i,j))−min(B(i,j))…式6
ここで、R(i,j)はソース画像S内の位置(i,j)におけるR(赤)画素の値であり、G(i,j)はソース画像S内の位置(i,j)におけるG(緑)画素の値であり、B(i,j)はソース画像S内の位置(i,j)におけるB(青)画素の値である。以下では、単にR、G、Bとも表記する。
【0025】
式4〜式6では、R画素、G画素、B画素のそれぞれについて、最大値から最小値を減算した値を、そのままダイナミックレンジDとして算出しているが、ノイズ等の影響により誤った値が最大値や最小値として決定される可能性を排除する処理を追加で実行してもよい。
例えば画素値のうち大きい側から数%に含まれる画素値の平均値を最大値として使用し、画素値のうち小さい側から数%に含まれる画素値の平均値を最小値として使用してもよい。
【0026】
続いて、ダイナミックレンジ補正部110は、ダイナミックレンジDを圧縮するための圧縮倍率C、C、Cを計算する。この際、ダイナミックレンジ補正部110は、ソース画像Sに含まれる全画素の画素値の平均を計算し、算出された画素値を、ターゲット画像側境界BTに位置する画素の平均値Rave、Gave、Baveと比較する。
ソース画像S側の画素値の平均の方がターゲット画像側境界BTに位置する画素の平均値Rave、Gave、Baveをより大きければ白飛びの可能性があり、小さければ黒潰れの可能性がある。
【0027】
ここで、ソース画像S側のダイナミックレンジDがターゲット画像側境界BTにおける飽和値までのダイナミックレンジDよりも狭い場合には、白飛び等のおそれがないため後述する圧縮のための処理をスキップできる。
本実施の形態では、ターゲット画像側境界BTにおける飽和値までのダイナミックレンジDよりも、ソース画像S側のダイナミックレンジDが広く、ダイナミックレンジDの圧縮が必要な場合を想定する。
この場合、ダイナミックレンジ補正部110は、式7〜式9により圧縮率C、C、Cを算出する。
=(255−Rave)/DSR …式7
=(255−Gave)/DSG …式8
=(255−Bave)/DSB …式9
ここで、CはR(赤)の圧縮倍率であり、CはG(緑)の圧縮倍率であり、CはB(青)の圧縮倍率である。
【0028】
ダイナミックレンジ補正部110は、式7〜式9で求められた圧縮倍率C、C、Cを式10〜式12に適用し、ソース画像SのR(赤)画素値、G(緑)画素値、B(青)画素値のダイナミックレンジDを圧縮補正する。
R’=C{R−min(R)}+min(R) …式10
G’=C{G−min(G)}+min(G) …式11
B’=C{B−min(B)}+min(G) …式12
ここで、R’は補正ソース画像S’のR画素値であり、G’は補正ソース画像S’のG画素値であり、B’は補正ソース画像S’のB画素値である。
ここでの圧縮により、ソース画像S内に含まれる各画素の画素値は、各色の最小値の方向に近づけられる。
【0029】
前述の説明では、R画素成分、G画素成分、B画素成分をそれぞれ処理単位として別々にダイナミックレンジDを圧縮しているが、例えば明るさ(輝度や明度)に着目し、明るさの差分に応じてR画素値、G画素値、B画素値のそれぞれを同じ圧縮率で圧縮補正してもよい。
また、前述の説明では、RGB色空間上でダイナミックレンジDを圧縮しているが、RGB色空間以外の色空間(例えばHSV色空間、CIELab色空間、XYZ色空間、Luv色空間)上での画素値に着目してダイナミックレンジDを圧縮してもよい。
【0030】
また、明るさに代えて色差に着目し、色差の大きさに応じてR画素値、G画素値、B画素値のそれぞれを同じ圧縮率でダイナミックレンジDを圧縮してもよい。
なお、常にダイナミックレンジDを圧縮するのではなく、明るさの差分や色差が閾値以上の場合にのみダイナミックレンジDの圧縮処理を実行してもよい。視覚的につなぎ目が目立たない場合には、ダイナミックレンジDの圧縮処理を省略することで計算資源を有効活用できる。
【0031】
また、前述の実施の形態では、白飛びが生じないようにダイナミックレンジDを圧縮するため、最小値を基準値とし、最小値との差分に応じてダイナミックレンジDを圧縮しているが、黒潰れが生じないようにダイナミックレンジDを圧縮する場合には、最大値を基準値とし、最大値との差分に応じてダイナミックレンジDを圧縮すればよい。
【0032】
<差分値計算部の処理動作>
次に、差分値計算部111が実行する処理内容を説明する。
差分値計算部111は、補正ソース画像S’(ソース画像SのダイナミックレンジDを圧縮して生成された画像)をターゲット画像Tに貼り付け合成した際に、ソース画像側境界BSがターゲット画像側境界BTの画素と滑らかに接続されるように、補正ソース画像S’の画素値を補正するための補正量(以下、「合成領域差分Δ」という。)を計算する機能部分である。
図5は、滑らかな接続が求められる領域部分を説明する図である。ダイナミックレンジDが圧縮された補正ソース画像S’のソース画像側境界BSの画素値をターゲット画像側境界BTの画素値と一致させただけでは合成境界が目立ってしまう可能性がある。
【0033】
図6は、差分値計算部111で実行される処理動作例を示すブロック図である。
差分値計算部111は、補正ソース画像S’の各画素に対するソース画像側境界BSからの重みを計算する重み計算部121と、補正ソース画像S’とターゲット画像Tの合成境界上の画素情報の差分を計算する差分計算部122と、計算された重みと差分を用いて補正ソース画像S’の各画素に対する補正量としての合成領域差分Δを計算する差分値補間計算部123とを有している。
【0034】
重み計算部121は、補正ソース画像S’内の各位置xに対する補正ソース画像S’の合成境界上のi番目の画素からの重みλを式13によって求める。
【0035】
【数2】
【0036】
ここで、iは補正ソース画像S’の合成境界上における画素の位置を特定するためのインデックスである。インデックスは、補正ソース画像S’の合成境界上のある特定の画素位置を0として一方向に(例えば時計回り又は反時計回りに)、補正ソース画像S’の合成境界上に位置する全ての画素に対して付与される。
【0037】
は式14によって計算される値である。
【0038】
【数3】
【0039】
図7は、ここでのwやαの図形上の意味を説明する図である。図7において濃い網掛けを付した画素は、合成領域CRに貼り付けられた補正ソース画像S’の合成境界上にある画素であり、前述したインデックスiが付与される。図7において薄い網掛けを付した画像は、合成領域CRに貼り付けられた補正ソース画像S’のうち合成境界を除く位置の画素である。
【0040】
図中、位置Pは、インデックスiで特定される合成境界上にある画素を与える位置ベクトルで表され、位置xは、補正ソース画像S’のうち合成境界を除く位置にある画素を与える位置ベクトルである。
αは、インデックスiに対応する位置Pから位置xへのベクトルと、インデックスi+1に対応する位置Pi+1から位置xへのベクトルとがなす角である。
なお、計算過程で、インデックスiがnとなる場合には、インデックス0に置き換えて扱う。
【0041】
式14より、位置xについてのwは、位置xで与えられる画素が補正ソース画像S’の合成境界に近いほど急激に大きくなり、補正ソース画像S’の合成境界から遠ざかるほど急激に小さい値となる。
従って、式13における位置xに対する補正ソース画像S’の合成境界上のi番目の画素からの重みλは、補正ソース画像S’の合成境界上における全ての画素(インデックス0〜nb−1)について計算されたwの合計値に対する各位置Pに対応するwの比率として与えられる。
【0042】
図6の説明に戻る。
差分計算部122は、ターゲット画像側境界BTに上に位置する画素R、G、Bと補正ソース画像S’の合成境界(ソース画像側境界BS)上に位置する画素R’、G’、B’との差分値dR、dG、dBを式15〜式17によって求める。
dR=R−R’ …式15
dG=G−G’ …式16
dB=B−B’ …式17
【0043】
差分値補間計算部123は、計算された重み値λiと合成境界における差分値dが与えられると、式18〜式20によって合成領域CRに貼り付けられる補正ソース画像S’内の各画素xに対する補正量を与える合成領域差分ΔR、ΔG、ΔBを計算する。
【0044】
【数4】
【0045】
ここでの合成領域差分ΔR、ΔG、ΔBは、合成境界における画素値の変化が滑らかになるように(又は連続的になるように)、補正ソース画像S’の各画素xの画素値を補正するために用いられる。
式18、式19、式20に示すように、各画素xに対する補正量を与える合成領域差分ΔR、ΔG、ΔBは、合成境界上に位置する各画素(i=0〜nb−1)について計算されるn個の重みλの影響を受けた値となる。すなわち、合成領域差分ΔR、ΔG、ΔBは、合成領域CRの外側(ターゲット画像側境界BT)上に位置する複数の画素との関係で決定される。
【0046】
より具体的には、合成境界に近くに位置する画素xは、最寄りの合成境界上の複数画素の差分値dR、dG、dBを平均化するような値として計算され、合成境界から離れた位置の画素xは、合成境界の全周に位置する全ての画素における差分値dR、dG、dBを平均化したような値として計算される。この結果、つなぎ目部分の変化が滑らかになる。
【0047】
図3の説明に戻る。
合成部112では、差分値計算部111で得た合成領域差分Δによってダイナミックレンジ補正部110で得た補正ソース画像S’(ソース画像SのダイナミックレンジDを圧縮補正した後の画像)を修正し、修正済みの補正ソース画像S’をターゲット画像T上の合成領域CRに貼り付け合成する。
【0048】
具体的には、合成領域CRに貼り付けられる補正ソース画像S’内の各画素xについての画素値は、それぞれ式21〜式23によって計算される値に修正される。
R=R’+ΔR …式21
G=G’+ΔG …式22
B=B’+ΔB …式23
【0049】
この修正により、ターゲット画像側境界BTと合成領域CRに貼り付けられた補正ソース画像S’における境界付近の画素値の変化が滑らかになるように階調レベルがシフトされた修正済みの補正ソース画像S’が得られ、この画像をターゲット画像Tに貼り付け合成することにより合成結果画像Oが得られる。
繰り返しになるが、ターゲット画像Tの領域部分の画素の画素値は、貼り付け合成の前後で同じ値が用いられる。
以上の手順により作成された合成結果画像Oでは、合成領域CRの内部に白飛びや黒潰れは発生せず、しかも貼り付けられた修正済みの補正ソース画像S’とターゲット画像Tとのつなぎ目が目立たないようにできる。
【0050】
前述の説明では、差分値計算部111においてR画素値、G画素値、B画素値ごとに差分値を計算しているが、ダイナミックレンジDの圧縮処理と同じく、他の色区間上の要素ごとに差分値を計算してもよい。例えばHSV色空間におけるV(明度)の値を用いる等明るさ(輝度や明度)を利用しても良い。
【0051】
<機能構成2>
ソース画像SのダイナミックレンジDの圧縮率が大きすぎる場合、合成結果画像Oに含まれる修正済み補正ソース画像S’の階調情報が少なくなりすぎる可能性がある。
このような場合には、ターゲット画像TのダイナミックレンジDを若干圧縮し、補正ソース画像S’の階調表現に必要なダイナミックレンジ幅を確保することが望ましい。
【0052】
そこで、機能構成2においては、ソース画像SのダイナミックレンジDをいきなり圧縮するのではなく、圧縮率(後述する「ソースダイナミックレンジ補正量」)を予め算出し、圧縮率が予め定めた閾値より小さい場合には、機能構成1と同じくソース画像SのダイナミックレンジDのみを圧縮し、圧縮率が予め定めた閾値より大きい場合には、ターゲット画像TのダイナミックレンジDの圧縮も組み合わせる手法を採用する。
【0053】
図8は、本実施の形態に係る制御部100の機能構成2を示すブロック図である。図8には、図3との対応部分に同じ符号を付して示している。
本機能構成に係る制御部100は、ソース画像Sと接するターゲット画像Tの画素情報に応じてソース画像SのダイナミックレンジDを算出するソースダイナミックレンジ補正量算出部113を更に有している。具体的には、ソースダイナミックレンジ補正量算出部113は、機能構成1の式1〜式9までの計算処理を実行し、R画素についての圧縮倍率C、G画素についての圧縮倍率C、B画素についての圧縮倍率Cを計算する。これらの圧縮率が、ソースダイナミックレンジ補正量として出力される。
ここでのソースダイナミックレンジ補正量算出部113は、請求の範囲における「補正部」の一例である。
【0054】
ソースダイナミックレンジ補正量算出部113で算出された圧縮倍率C、C、Cは、ソースダイナミックレンジ補正量としてダイナミックレンジ補正部110’に与えられる。
ダイナミックレンジ補正部110’は、入力されたソースダイナミックレンジ補正量(圧縮倍率C、C、C)を閾値と比較する。閾値は、色毎に用意されてもよいし、同じ値を用いてもよい。
圧縮倍率C、C、Cが閾値より小さい場合は、機能構成1と同じである。すなわち、ダイナミックレンジ補正部110’は、ソース画像SのダイナミックレンジDのみを圧縮し、ターゲット画像TのダイナミックレンジDはそのままとする。
【0055】
一方、圧縮倍率C、C、Cが閾値より大きい場合、ダイナミックレンジ補正部110’は、まずターゲット画像TのダイナミックレンジDを予め定めた割合(例えば10%)だけ圧縮し、補正ターゲット画像T’を生成する。この補正ターゲット画像T’は、差分値計算部111及び合成部112において、機能構成1におけるターゲット画像Tの代わりに用いられる。
【0056】
補正ターゲット画像T’が得られると、ダイナミックレンジ補正部110’は、機能構成1と同じく、ターゲット画像側境界BTに位置する画素の平均値Rave、Gave、Baveを式1〜式3によって計算し、以後は、機能構成1と同じ処理を実行する。
この機能構成2の場合、白潰れや黒潰れがなく、しかも貼り付け部分の境界が目立たないようにソース画像Sをターゲット画像Tに貼り付けられるという機能構成1の効果に加え、合成結果画像O内における補正ソース画像S’の階調情報が少なくなりすぎることもない。
【0057】
<機能構成3>
ここでは、機能構成1から差分値計算部111を無くした構成について説明する。このために、本機能構成では、勾配ベースの画像編集技術を補正ソース画像S’に適用してターゲット画像Tに貼り付け合成する場合について説明する。
【0058】
図9は、本実施の形態に係る制御部100の機能構成3を示すブロック図である。図9には、図3との対応部分に同じ符号を付して示している。
図9に示すように、本機能構成に係る制御部100では、勾配ベースの画像編集技術を有する合成部112”を使用し、補正ソース画像S’の勾配情報を残すようにターゲット画像Tを補正する。ここでは、勾配ベースの画像編集技術の一例として、Poisson Image Editing手法を用いる。
【0059】
合成部112”は、合成境界における補正ソース画像S’とターゲット画像Tの画素値が一致するという条件のもと、補正ソース画像S’の画素値の勾配がなるべく保存されるような値を求めるPoisson方程式を解くことで、合成領域CRの画素値を求める。
具体的には、式24に示す計算を繰り返し実行することにより、ターゲット画像Tに補正ソース画像S’を貼り付けた際に境界部分が目立たないように補正された画素値を求める。
【0060】
【数5】
【0061】
ここで、fはターゲット画像T側の合成領域CR内の位置pにおける補正後の画素値であり、fは位置pの近傍画素の補正後の画素値である。
【0062】
図10は、位置pと近傍画像との位置関係を説明する図である。図10の例では、位置pの上下左右の4画素を位置pの近傍画素として利用している。ただし、f及びfの初期値には、補正前の画素値を利用する。
また、gおよびgは、補正ソース画像S’における位置pの画素値及びその周辺画素の画素値である。従って、分子の第2項は、補正ソース画像S’における画像の勾配情報である。
は位置pにおける近傍画素の数である。例えば図10の場合は上下左右の4画素であるので、式24の分母は4となる。
【0063】
従って、式24は、位置pの画素値を、ターゲット画像T側での近傍画素の平均画素値と補正ソース画像S’側での近傍画素との平均勾配値との加算値によって更新することを表している。
つまり、合成部112”は、式24による計算を繰り返し実行することで、ターゲット画像T側の画像は補正ソース画像S’に近づくように補正される。fの値の変化が、予め設定しておいた閾値以下となったら変化が収束したとみなして計算を終了する。この演算処理の結果、最終的な合成領域CR内の画素値fが得られ、合成境界におけるターゲット画像Tと補正ソース画像S’とのつなぎ目の変化は滑らかになる。
【0064】
この計算は、ターゲット画像Tと補正ソース画像S’が例えばRGB色空間で表現される場合には、R画素、G画素、B画素のそれぞれの値に対して行う。勿論、ターゲット画像Tとソース画像Sが他の色空間で表現される場合には、各色空間に応じた画素成分について式24の計算を実行する。
【0065】
<他の実施の形態>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、種々の変更又は改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0066】
1…画像処理装置、100…制御部、110、110’…ダイナミックレンジ補正部、111…差分値計算部、112、112’、112”…合成部、121…重み計算部、122…差分計算部、123…差分値補間計算部、BS…ソース画像側境界(合成境界)、BT…ターゲット画像側境界(合成境界)、CR…合成領域、S…ソース画像、S’…補正ソース画像、T…ターゲット画像、T’…補正ターゲット画像、Δ…合成領域差分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10