特許第6794842号(P6794842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794842製鋼スラグからカルシウムを溶出させる方法、および製鋼スラグからカルシウムを回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794842
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】製鋼スラグからカルシウムを溶出させる方法、および製鋼スラグからカルシウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20201119BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20201119BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20201119BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20201119BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C21C5/28 C
   C04B5/00 C
   C21C7/00 J
   C21C1/02 L
   C22B7/04 B
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-6614(P2017-6614)
(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公開番号】特開2018-115366(P2018-115366A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福居 康
(72)【発明者】
【氏名】浅場 昭広
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/152099(WO,A1)
【文献】 特開昭54−088894(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/114703(WO,A1)
【文献】 特開2010−270378(JP,A)
【文献】 特開昭55−100220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28
C21C 7/00
C21C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグに磁選を施して、鉄を含む化合物を前記製鋼スラグから取り除く工程と、
製鋼スラグに水和処理を施す工程と、
前記磁選および水和処理を施された製鋼スラグと二酸化炭素を含有する水溶液とを接触させる工程と、を含む、
製鋼スラグからカルシウムを溶出させる方法。
【請求項2】
前記接触させる工程は、前記製鋼スラグを破砕もしくは粉砕しながら、または前記製鋼スラグの表面を摩砕しながら、前記製鋼スラグと前記二酸化炭素を含有する水溶液とを接触させる工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水和処理は、前記磁選の前に行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水和処理は、前記磁選の後に行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水和処理は、前記磁選と同時に行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記磁選を施す前かつ前記水和処理を施す前に、前記製鋼スラグに300℃以上1000℃以下で0.01分以上60分以下の加熱処理を施す工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により製鋼スラグからカルシウムを溶出させる工程と、
前記溶出したカルシウムを回収する工程とを含む、
製鋼スラグからカルシウムを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグからカルシウムを溶出させる方法、および製鋼スラグからカルシウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程で生じる製鋼スラグ(転炉スラグ、予備処理スラグ、二次精錬スラグおよび電気炉スラグなど)は、セメント材料、道路用路盤材、土木用材料および肥料を含む広い用途に用いられる(非特許文献1〜3参照)。また、上記用途に用いられない一部の製鋼スラグは、埋め立て処分されている。
【0003】
製鋼スラグには、リン(P)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、硫黄(S)などの元素が含まれていることが知られている。これらのうち、製鋼スラグに最も多く含まれる元素は、製鋼工程で多量に用いられるCaであり、通常、Feが次に多く含まれる。通常、製鋼スラグの全質量のうち、20質量%〜50質量%程度がCaであり、1質量%〜30質量%程度がFeである。
【0004】
製鋼スラグ中のCaは、製鋼工程で投入される生石灰(CaO)がそのまま残存もしくは製鋼スラグの凝固中に析出した遊離石灰、遊離石灰が空気中の水蒸気もしくは二酸化炭素と反応して生成する水酸化カルシウム(Ca(OH))もしくは炭酸カルシウム(CaCO)、または遊離石灰が凝固中にSiやAlなどと反応して生成するケイ酸カルシウム(CaSiOもしくはCaSiOなど)もしくは酸化カルシウム鉄アルミニウム(Ca(Al1−XFe)などの形態で存在している(以下、製鋼スラグ中に存在する上記カルシウムを含む化合物を総称して、「Ca化合物」ともいう。)。
【0005】
炭酸カルシウムおよび酸化カルシウムは、製鉄工程中の製銑工程および製鋼工程での主要なスラグ形成材であり、そのスラグの塩基度および粘性の調整剤、ならびに溶鋼からの脱リン剤などとして使用されている。また、酸化カルシウムに加水して得られる水酸化カルシウムは、排水工程で酸などの中和剤として使用されている。したがって、上記製鋼スラグ内に含まれるCa化合物を回収して製鉄工程に再利用すれば、製鉄のコストを削減できると期待されている。
【0006】
また、今後、社会環境の変化等により、製鋼スラグを道路用路盤材、土木用材料またはセメント材料などとして使用するための土木工事の数が減少したり、製鋼スラグを埋め立て処分できる土地が減少したりする可能性もある。この観点からも、製鋼スラグに含まれるCa化合物を回収して、再利用または埋め立て処分される製鋼スラグの体積を減少させることが期待されている。
【0007】
製鋼スラグ内のCaは、たとえば、塩酸、硝酸または硫酸などの酸性水溶液に溶出させて、回収することができる。しかし、この方法において生成する、上記物質と上記酸との塩は、再利用が困難である。たとえば、製鋼スラグ内のCaを塩酸に溶出させて生成する塩化カルシウムは、加熱して酸化物にすれば再利用可能だが、上記加熱中に生じる有害な塩素ガスの処理コストが高いという問題がある。また、製鋼スラグ内のCaを酸性水溶液に溶出させて回収しようとすると、酸の購入および溶出処理後の酸の廃棄のコストが高いという問題もある。
【0008】
これに対し、二酸化炭素を含有する水溶液(以下、単に「CO水溶液」ともいう。)に製鋼スラグからCaを溶出させて回収すれば、酸の使用による上記問題を解決できると期待されている(特許文献1〜3参照)。
【0009】
特許文献1には、転炉スラグ中のカルシウムを溶出させた水溶液に二酸化炭素を吹き込んで、沈殿した炭酸カルシウムを回収する方法が記載されている。このとき、水への溶解性が高い炭酸水素カルシウムの生成を抑制するため、pHは下限値が10程度に維持される。特許文献1には、pHを10以上に維持する具体的な方法は記載されていないものの、二酸化炭素の吹込み量を調整することでpHを10以上に維持するものと思われる。
【0010】
特許文献2には、破砕した製鋼スラグを鉄濃縮相およびリン濃縮相に分離し、リン濃縮相中のカルシウム化合物を二酸化炭素を溶解させた洗浄水に溶解させ、その後、洗浄水を50〜60℃程度に加熱して、洗浄水中の炭酸水素カルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させ、回収する方法が記載されている。
【0011】
特許文献3には、製鋼スラグからカルシウム化合物を複数回に分けて溶出させて、回収する方法が記載されている。この方法では、二酸化炭素を吹き込んだ水に製鋼スラグ(予備処理スラグ)を複数回浸漬することで、2CaO・SiO相およびこの相に固溶したリンが優先的に溶出することが記載されている。
【0012】
一方で、製鋼スラグ内のFeは、鉄系酸化物、酸化カルシウム鉄アルミニウム、および極少量ではあるが金属鉄として存在している。これらのうち、鉄系酸化物は、MnまたはMgを含有するほか、Ca、Al、Si、P、Ti、CrおよびSなどの元素を少量ながら含有する。また、酸化カルシウム鉄アルミニウムも、Si、P、Ti、CrおよびSなどの元素を少量ながら含有する。なお、本明細書においては、鉄系酸化物は空気中の水蒸気などによってその表面の一部などが水酸化物などに変化した化合物も含み、酸化カルシウム鉄アルミニウムも空気中の水蒸気および二酸化炭素などによりその表面の一部などが水酸化物または炭酸化物などに変化した化合物も含む。
【0013】
上記鉄系酸化物は、その多くがウスタイト系酸化物(FeO)として存在し、その他にヘマタイト系酸化物(Fe)やマグネタイト系酸化物(Fe)としても存在する。
【0014】
これらのうち、ウスタイト系酸化物およびヘマタイト系酸化物は、強磁性体であるマグネタイト系酸化物(Fe)がその内部に分散しているため、磁選によって製鋼スラグから分離できる。なお、単独または他の鉄系酸化物と共存するマグネタイト系酸化物も、磁選によって製鋼スラグから分離できる。
【0015】
また、特許文献4〜特許文献6には、より多くの鉄系酸化物を磁選によって分離するため、酸化処理などによってウスタイト系酸化物をマグネタイト系酸化物に改質する方法が記載されている。
【0016】
上記酸化カルシウム鉄アルミニウムは、磁化して磁性体となるため、やはり磁選によって製鋼スラグから分離できる。
【0017】
鉄系酸化物および酸化カルシウム鉄アルミニウム(以下、これらをまとめて「鉄系化合物」ともいう。酸化カルシウム鉄アルミニウムは、Ca化合物であると同時に鉄系化合物でもある。)は、リンの含有量が0.1質量%以下とわずかであるため、上述した磁選などによって製鋼スラグから分離して回収すれば、高炉や焼結の原料として用いることができる。
【0018】
金属鉄は、製鋼工程でスラグ中に巻き込まれたFeや、製鋼スラグの凝固中に析出する微小なFeである。金属鉄のうち大きいものは、大気中で製鋼スラグを破砕もしくは粉砕する乾式の工程中で、磁選その他の方法で取り除かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭55−100220号公報
【特許文献2】特開2010−270378号公報
【特許文献3】特開2013−142046号公報
【特許文献4】特開昭54−88894号公報
【特許文献5】特開昭54−57529号公報
【特許文献6】特開昭52−125493号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】中川雅夫、「鉄鋼スラグの有効利用の状況」、第205・206回西山記念技術講座講演テキスト、一般社団法人 日本鉄鋼協会、2011年6月、p.25−56
【非特許文献2】「環境資材 鉄鋼スラグ」、鉄鋼スラグ協会、2014年1月
【非特許文献3】二塚貴之ら、「鉄鋼スラグから人工海水への成分溶出挙動」、鉄と鋼、Vol.89、No.4、2014年1月、p.382−387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したように、製鋼スラグからCaを回収することによる利点は多いため、製鋼スラグからのCaの回収率をより高めたいという要望は常に存在する。
【0022】
特許文献1に記載の方法では、二酸化炭素を多く吹込めばpHが10より低くなるし、逆に二酸化炭素の吹込み量を少なくすればCaの析出量は減少する。そのため、Caの回収率を高めようとすると、二酸化炭素の吹込み量を精密に調節する必要があるため、回収工程が煩雑となり、回収コストが高くなってしまう。
【0023】
特許文献2に記載の方法では、鉱酸を使用するため、カルシウムを炭酸カルシウムとして析出回収しても、その中に多量の鉱酸、および鉱酸とカルシウムとの塩が含まれており、これらを分離するために多量の水および高温の加熱が必要になる。そのため、特許文献2に記載の方法は、工程が煩雑になり、回収コストが高くなる。なお、二酸化炭素を含有させた洗浄水(炭酸水素カルシウムを含有する水溶液)により製鋼スラグを洗浄してカルシウムを溶解させると、カルシウムが溶解した洗浄水は、炭酸水素カルシウムを含有しているため中性〜弱アルカリ性である。この洗浄液と鉱酸で浸出した液とを混合して、鉱酸で浸出した液を中和して炭酸カルシウムを析出させようとすると、鉱酸により混合液が酸性化して、水溶液のカルシウムの溶解量(溶解度)が大きくなる。そのため、炭酸カルシウムが析出しても、混合液中に多量のカルシウムが残存することになり、カルシウムの回収効率は悪くなる。
【0024】
特許文献3に記載の方法では、Caの回収率を高めようとすると、Ca化合物を溶解させる工程の回数をさらに増やす必要が生じる。そのため、回収工程および回収したCa化合物を合一させる工程が煩雑となり、回収コストが高くなってしまう。
【0025】
このように、従来の方法では、Caの回収率を高めようとすると、回収工程が煩雑となるため回収に時間がかかり、回収コストが高くなってしまうという問題があった。これに対し、CO水溶液へのCa化合物の溶出量を多くすることができれば、Caの回収率を容易に高めることができると思われる。
【0026】
しかし、特許文献1および2には、CO水溶液へのCa化合物の溶出量を多くするための工夫は何ら示唆されていない。また、特許文献3に記載の方法では、Ca化合物を溶解させる工程の回数を増やせばCaの総溶出量も増えると考えられるが、この方法には、上述したように、工程が煩雑となり、回収コストが高くなってしまうという問題がある。
【0027】
上記の問題に鑑み、本発明は、より多量のCaを製鋼スラグからCO水溶液へ溶出させることができる、製鋼スラグからCaを溶出させる方法、およびこの方法によって溶出したCaを回収する方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的に鑑み、本発明は、製鋼スラグに磁選を施して、鉄を含む化合物を前記製鋼スラグから取り除く工程と、製鋼スラグに水和処理を施す工程と、前記磁選および水和処理を施された製鋼スラグと二酸化炭素を含有する水溶液とを接触させる工程と、を含む、製鋼スラグからカルシウムを溶出させる方法に関する。
【0029】
また、本発明は、上記方法により製鋼スラグからカルシウムを溶出させる工程と、前記溶出したカルシウムを回収する工程とを含む、製鋼スラグからカルシウムを回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、より多量のCaを製鋼スラグからCO水溶液へ溶出させることができる、製鋼スラグからCaを溶出させる方法、およびこの方法によって溶出したCaを回収する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法のフローチャートである。
図2図2は、本発明の第2の実施形態の第1の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の第2の実施形態の第2の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の第2の実施形態の第3の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の第2の実施形態の第4の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の第3の実施形態に係るCO水溶液に溶出させたCaを回収する方法のフローチャートである。
図7図7は、本発明の第3の実施形態におけるCaを回収する工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
製鋼スラグに含まれるCaはCO水溶液への溶解度が高いが、FeはCO水溶液への溶解度が低い。そのため、本発明者らの知見によれば、Feは、CaがCO水溶液に溶解するときに水酸化物、炭酸化物または水和物となって製鋼スラグの表面に残存したり、CO水溶液に一度溶出した後に製鋼スラグの表面に析出したりすることがある。この、製鋼スラグの表面に残存または析出したFeは、CO水溶液と製鋼スラグの表面との接触を妨げて、Caの溶出速度を理想状態よりも遅くすると考えられる。
【0033】
このとき、製鋼スラグの粉砕または製鋼スラグの表面の摩砕を行いながらCO水溶液と製鋼スラグとを接触させると、製鋼スラグ中のCaがCO水溶液により接触しやすくなり、Caをより溶解しやすくできると期待される。しかし、鉄系化合物などのFeを含む化合物は、硬度が高く、またCO水溶液との反応による細粒化も生じにくいことが多いため、鉄系化合物が大きいまま残り、Ca化合物の機械的な粉砕または摩砕を困難にすることがある。
【0034】
また、CaおよびFeを含有する酸化カルシウム鉄アルミニウムは、化合物中のCaが溶出するにつれAlが濃化していく。AlはFeと同様にCO水溶液への溶解度が低い。そのため、上記濃化していったAlは、Feと同様にCO水溶液と製鋼スラグの表面との接触を妨げて、Caの溶出速度をより遅くすると考えられる。
【0035】
これに対し、本発明者らは、CO水溶液との接触前の製鋼スラグに磁選を施して、鉄系化合物などのFeを含む化合物を製鋼スラグから取り除いておくことで、Ca化合物がCO水溶液により溶解しやすくなることに想到し、もって本発明を完成させた。CO水溶液との接触前の製鋼スラグに磁選を施すことで、製鋼スラグの表面に残存または析出したFeによる上記CO水溶液と製鋼スラグの表面との接触の阻害や、Feを含む化合物による上記粉砕または摩砕の阻害などを抑制し、製鋼スラグ中のCaをCO水溶液により接触しやすくできると考えられる。
【0036】
また、本発明者らの知見によれば、酸化カルシウム鉄アルミニウムは、CO水溶液との接触によりCaが溶出した後は磁化しにくくなり、磁選での回収が容易ではない。これに対し、CO水溶液との接触前に磁選を施すことで、製鋼スラグ中の酸化カルシウム鉄アルミニウムも回収でき、酸化カルシウム鉄アルミニウムに由来するFeも再利用可能となる。
【0037】
以下、本発明のCaを溶出させる方法およびCaを回収する方法のより具体的な例を説明する。
【0038】
1.製鋼スラグからCaを溶出させる方法
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法のフローチャートである。図1に示されるように、本実施形態に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法は、製鋼スラグに磁選を施す工程(工程S110:以下、「磁選工程」ともいう。)、および前記磁選処理を施された製鋼スラグとCO水溶液とを接触させる工程(工程S120:以下、「接触工程」ともいう。)を含む。
【0039】
(磁選工程:製鋼スラグの磁選)
本工程では、製鋼スラグに磁選を施す(工程S110)。
【0040】
製鋼スラグの種類は、製鋼工程で排出されるスラグであれば特に限定されない。製鋼スラグの例には、転炉スラグ、予備処理スラグ、二次精錬スラグおよび電気炉スラグが含まれる。
【0041】
製鋼スラグは、製鋼工程で排出されたものをそのまま使用してもよいが、排出された後に破砕したものを使用してもよい。破砕した製鋼スラグを使用するとき、破砕されたスラグの粒子(以下、単に「スラグ粒子」ともいう。なお、単に「製鋼スラグ」というときは、破砕されたスラグ粒子および破砕されていないものの両方を意味する。)の最大粒径は、鉄系化合物の組織と同程度以下の大きさにすることが好ましく、1000μm以下であることが好ましい。上記最大粒径が1000μm以下であると、鉄系化合物が単独の粒子として存在し得るため、鉄系化合物を選択的に捕捉しやすい。また、上記最大粒径が1000μm以下であると、体積あたりの表面積が大きくなり、かつ、製鋼スラグの内部まで水またはCO水溶液が十分に浸透できるため、後述する接触工程ではより多量のCaを溶出させることができる。製鋼スラグは、公知の破砕機によって上記範囲まで破砕することができる。
【0042】
同様の観点からは、スラグ粒子の最大粒径は500μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。スラグ粒子の最大粒径は、たとえば、破砕されたスラグ粒子をハンマーミル、ローラミルおよびボールミルなどを含む粉砕機でさらに粉砕することで、上記範囲まで小さくすることができる。
【0043】
製鋼スラグは、磁選を施す前に、加熱処理されることが好ましい。製鋼スラグを加熱処理すると、鉄系化合物および金属鉄の磁化が高まり、磁選によってより多量の鉄系化合物を取り除くことができる。上記加熱処理は、300℃以上1000℃以下で0.01分以上60分以下行うことが好ましい。
【0044】
製鋼スラグは、磁選時に、乾燥した状態であってもよいが、水に分散したスラリー状であることが好ましい。スラリー状である製鋼スラグは、水分子の極性や水流などによってスラグ粒子が分散しやすいため、鉄系化合物および金属鉄を磁力によって選択的に捕捉しやすい。特にスラグ粒子の粒径が1000μm以下であるとき、空気などの気体中では、スラグ粒子間の静電力や凝集した水蒸気による液架橋などによりスラグ粒子が凝集しやすいが、スラリー状とすることでスラグ粒子を十分に分散させることができる。また、製鋼スラグ中の金属鉄は微小であるため製鋼スラグが乾燥していると捕捉しにくいが、製鋼スラグをスラリー状にすると、水中に分散した金属鉄も磁選により捕捉しやすくなる。
【0045】
製鋼スラグは、水が入った容器に製鋼スラグを入れて、遊離石灰と水酸化カルシウムの浸出、およびCa化合物の表層のCaの浸出を行った後に、濾過して得られる、濾過残スラグであってもよい。濾過残スラグを使用することにより、Caがある程度溶出したスラグを用いることができるため、後述する接触工程の負荷を軽減できる。
【0046】
このとき同時に得られる、Caが浸出した濾過水は、pH11以上の高アルカリ性の水溶液(以下、単に「スラグ浸出水」ともいう。)である。スラグ浸出水は、後述するように、Caを回収する際に、Caを含む固体成分の析出(析出工程)に使用可能である。また、スラグ浸出水は、酸排水の中和剤などのようにアルカリ性水溶液を必要とする用途に活用できる。また、濾過残スラグを用いて後述する含水静置により水和処理を施す場合は、水の混練が不要となるメリットもある。
【0047】
磁選は、公知の磁力選別機を用いて施すことができる。磁力選別機は、乾式でもよく湿式でもよく、製鋼スラグの状態(乾燥した状態かスラリー状か)によって選択できる。また、磁力選別機は、ドラム式、ベルト式および固定磁石間流動式などから適宜選択できるが、特にスラリー状の製鋼スラグの取扱いが容易であり、かつ、磁力を高めて磁選量を多くしやすいことから、ドラム式が好ましい。また、磁力選別機が用いる磁石は、永久磁石でもよいし、電磁石でもよい。
【0048】
磁石による磁束密度は、製鋼スラグに含まれる他の化合物から鉄系化合物および金属鉄を選択的に捕捉できる程度であればよく、たとえば、0.003T以上0.5T以下とすることができ、0.005T以上0.3T以下とすることが好ましく、0.01T以上0.15T以下とすることがより好ましい。
【0049】
また、磁選は、製鋼スラグに含まれる鉄系化合物の全てを取り除くまで施す必要はない。磁選で製鋼スラグから取り除かれる鉄系化合物の量が少量であっても、従来よりもCO水溶液にCaが溶出されやすくなるという本発明の効果は奏される。そのため、磁選の時間および回数などは、磁選が製造コストに与える影響などに応じて、適宜選択してもよい。
【0050】
磁選によって鉄系化合物および金属鉄を取り除いた後の固体またはスラリー状の製鋼スラグは、そのまま接触工程に用いてもよいが、製鋼スラグがスラリー状であるときは、固液分離して製鋼スラグと液体成分とを分離することが好ましい。固液分離は、減圧濾過および加圧濾過を含む公知の方法で行うことができる。上記固液分離によって得られた液体成分(以下、単に「磁選水」ともいう。)は、スラリー化に用いた水に加えて製鋼スラグから溶出したCaを含むため、アルカリ性となっている。そのため、後述する、製鋼スラグと接触したCaを溶出させた後のCO水溶液からCaの析出させる際に、CO水溶液のpHを高めるために上記液体成分を用いることができる。
【0051】
また、磁選によって製鋼スラグから取り除かれた磁選除去スラグは、上述のように鉄系化合物および金属鉄などのFeを含む化合物を多く含むため、高炉や焼結の原料として再利用することができる。
【0052】
(接触工程:製鋼スラグとCO水溶液との接触)
本工程では、製鋼スラグとCO水溶液とを接触させて、具体的にはCO水溶液に製鋼スラグを浸漬して、製鋼スラグ中のCaを水溶液中に溶出させる(工程S120)。
【0053】
本工程において、あらかじめ二酸化炭素を溶解させた水に製鋼スラグを浸漬してもよいし、製鋼スラグを水に浸漬した後に二酸化炭素を水に溶解させてもよい。なお、製鋼スラグをCO水溶液に浸漬している間は、反応性を高める観点から、これらを撹拌することが好ましい。
【0054】
二酸化炭素は、たとえば、二酸化炭素を含むガスのバブリング(吹込み)によって水に溶解させることができる。製鋼スラグからのCaの溶出性を高める観点からは、CO水溶液には、30mg/L以上のイオン化していない二酸化炭素(遊離炭酸)が溶解していることが好ましい。なお、一般の水道水中に含まれうる遊離炭酸の量は、3mg/L以上20mg/L以下である。
【0055】
前記二酸化炭素を含むガスは、純粋な二酸化炭素ガスでもよいし、二酸化炭素以外の成分(たとえば、酸素または窒素)を含むガスでもよい。前記二酸化炭素を含むガスの例には、燃焼後の排ガス、ならびに、二酸化炭素、空気および水蒸気の混合ガスが含まれる。CO水溶液中の二酸化炭素濃度を高めて、製鋼スラグからCO水溶液中へのCa化合物(ケイ酸カルシウムなど)の溶出性を高める観点からは、前記二酸化炭素を含むガスは、二酸化炭素を高濃度(たとえば、90%)で含むことが好ましい。
【0056】
なお、Caが溶出する際に、Caと二酸化炭素とが反応して水溶性の炭酸水素カルシウムが生成するため、Caの溶解に伴いCO水溶液中の二酸化炭素は減少する。そのため、製鋼スラグをCO水溶液に浸漬した後もCO水溶液に二酸化炭素を供給し続けることが好ましい。
【0057】
製鋼スラグ中のCaを十分に溶出させる観点からは、CO水溶液中のスラグの量は1g/L以上100g/L以下であることが好ましく、2g/L以上40g/L以下であることがさらに好ましい。また、製鋼スラグ中のCaを十分に溶出させる観点からは、浸漬は3分以上行うことが好ましく、5分以上行うことがより好ましい。
【0058】
(効果)
第1の実施形態によれば、製鋼スラグに含まれるCa化合物がCO水溶液により溶出しやすくなるため、より短時間でより多量のCaをCO水溶液に溶出させることができる。また、第1の実施形態は、容易に行うことができるため、実施する際のコストの負担が少ない。
【0059】
[第1の実施形態の変形例]
第1の実施形態において、接触工程は、磁選処理を施された製鋼スラグを、破砕もしくは粉砕しながら、または前記製鋼スラグの表面を摩砕しながら(以下、粉砕および製鋼スラグの表面の摩砕をあわせて、単に「破砕等」ともいう。)、前記製鋼スラグと二酸化炭素を含有する水溶液とを接触させる工程(以下、「変形接触工程」ともいう。)であってもよい。
【0060】
(変形接触工程:破砕等しながらの製鋼スラグとCO水溶液との接触)
製鋼スラグからのCaの溶出は、製鋼スラグの表面近傍または内部でCa化合物またはCaとCO水溶液とが接触することで生じる。そのため、製鋼スラグとCO水溶液とを接触させるときに、CO水溶液と接触させている製鋼スラグを破砕等することで、CO水溶液と接触可能なスラグ粒子の表面積を大きくして、より多くのCaをCO水溶液と接触させることや、スラグ粒子の内部に浸透するCO水溶液の量を多くすることが可能となる。
【0061】
また、製鋼スラグに含まれる成分がCO水溶液に溶解すると、Fe、Al、SiおよびMnまたはこれらの水酸化物、炭酸化物および水和物などが製鋼スラグの表面に残存または析出することがある。これらの残存または析出した物質が製鋼スラグとCO水溶液との接触を阻害すると、製鋼スラグの内部からはCaが溶出しにくくなる。これに対し、CO水溶液と接触させている製鋼スラグを破砕等すると、上記物質が未だ残存または析出していない新たな表面が連続的に形成され、この連続的に形成される表面から製鋼スラグの内部までCO水溶液が浸透するため、製鋼スラグの内部のCaもより溶出しやすくなる。また、製鋼スラグの表面を摩砕することで、上記残存または析出した物質が除去されて、CO水溶液とスラグ粒子との接触面積がより大きくなり、かつ、製鋼スラグの内部に水がより浸透しやすくなる。
【0062】
具体的には、製鋼スラグをCO水溶液中に浸漬して、同時に、湿式で使用可能な公知の破砕機を使用することで、浸漬している製鋼スラグを破砕することができる。また、スラグ粒子、CO水溶液および粉砕ボールを投入したボールミルを回転させて、スラグ粒子をCO水溶液中で粉砕し、同時にスラグ粒子を破砕等することができる。
【0063】
Caの溶出量をより多くする観点からは、本工程は、スラグ粒子の最大粒径が1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm、さらに好ましくは100μm以下となるまで行うことが好ましい。
【0064】
(効果)
第1の実施形態の変形例によれば、さらに短時間でより多量のCaをCO水溶液に溶出させることができる。また、本変形例は、容易に行うことができるため、実施する際のコストの負担が少ない。
【0065】
[第2の実施形態]
図2図5は、本発明のさらに別の実施形態に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法のフローチャートである。図2図5に示されるように、本実施形態に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法は、製鋼スラグに磁選を施す工程(工程S110:磁選工程)、製鋼スラグに水和処理を施す工程(工程S130−1〜S130−5:以下、「水和工程」ともいう。)、および前記磁選および水和処理を施された製鋼スラグとCO水溶液とを接触させる工程(工程S120:接触工程)を含む。なお、本実施形態において、磁選工程および接触工程は上述した第1の実施形態と同様に行い得るので、説明を省略する。
【0066】
(水和工程:製鋼スラグの水和処理)
本工程は、図2に示されるように磁選工程の後に行ってもよいし、図3に示されるように磁選工程の前に行ってもよいし、図4に示されるように磁選工程の前および磁選工程の後に行ってもよいし、図5に示されるように磁選工程と同時に行ってもよい。また、水和工程は、磁選工程の前および磁選工程と同時に行ってもよいし、磁選工程と同時および磁選工程の後に行ってもよいし、磁選工程の前、磁選工程と同時および磁選工程の後に行ってもよい。また、水和工程は、磁選工程の前に複数回、磁選工程の後に複数回、磁選工程と同時に複数回など行ってもよい。
【0067】
上述したように、製鋼スラグ中のCaは、遊離石灰、水酸化カルシウム(Ca(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、ケイ酸カルシウム(CaSiO、CaSiO)および酸化カルシウム鉄アルミニウム(Ca(Al1−XFe)などの形態で存在する。
【0068】
この製鋼スラグに水和処理を施すと、たとえば、以下の(式1)に示される反応によってケイ酸カルシウムからケイ酸カルシウム水和物と水酸化カルシウム(Ca(OH))が生成したり、以下の(式2)に示される反応によって酸化カルシウム鉄アルミニウムから酸化カルシウム系の水和物が生成したりする(以下、水和処理によって生成し得るCaを含む化合物を総称して「Ca水和物」ともいう。)。
2(2CaO・SiO2) + 4H2O → 3CaO・2SiO2・3H2O + Ca(OH)2 (式1)
2CaO・1/2(Al2O3・Fe2O3) +10H2O → 1/2(4CaO・Al2O3・19H2O) + HFeO2 (式2)
(式(2)は、酸化カルシウム鉄アルミニウム(Ca2(Al1-XFeX)2O5)においてX=1/2の場合の例を示す。)
【0069】
上記反応などによって生成したCa水和物は、CO水溶液に溶解しやすい。そのため、水和処理を施すことで、製鋼スラグ中に含まれるケイ酸カルシウムおよび酸化カルシウム鉄アルミニウムなどに由来するCaを、より溶出させやすくなる。
【0070】
なお、遊離石灰は、CO水溶液に溶解しやすいものの、通常、製鋼スラグ中に10質量%未満程度しか含まれていない。これに対し、ケイ酸カルシウムは、通常、製鋼スラグ中に25質量%〜70質量%程度含まれ、酸化カルシウム鉄アルミニウムは、通常、製鋼スラグ中に2質量%〜30質量%程度含まれる。そのため、水和処理によってケイ酸カルシウムおよび酸化カルシウム鉄アルミニウムなどに含まれるCaをCO水溶液により溶出しやすくすれば、製鋼スラグからCO水溶液へのCaの溶出量を多くすることができ、製鋼スラグからCaをより短時間で回収することも可能になる。
【0071】
また、水和処理によって生成する化合物の体積の合計は、通常、反応前の化合物の体積の合計よりも大きくなる。さらには、水和処理中に、製鋼スラグ中の遊離石灰の一部は処理用の水に溶出する。そのため、水和処理を施すと、スラグ粒子の内部にクラックが生じ、このクラックを起点としてスラグ粒子が崩壊しやすい。このようにしてスラグ粒子が崩壊すると、スラグ粒子の粒子径が小さくなって、体積あたりの表面積が大きくなり、かつ、製鋼スラグの内部まで水またはCO水溶液が十分に浸透できるため、本工程では多くのCa化合物を水和することができ、また、接触工程ではより多量のCaを溶出させることができる。
【0072】
水和処理は、製鋼スラグに含まれるCa化合物、好ましくはケイ酸カルシウムまたは酸化カルシウム鉄アルミニウム、が水和可能な方法および条件で行えばよい。
【0073】
水和処理の具体例には、水に浸漬して沈降させた製鋼スラグを静置する処理(以下、単に「浸漬静置」ともいう。)、水に浸漬した製鋼スラグを撹拌する処理(以下、単に「浸漬撹拌」ともいう。)、水とスラグ粒子とを含むペーストを静置する処理(以下、単に「ペースト化静置」ともいう。)、および十分な量の水蒸気を有する容器の中に製鋼スラグを静置する処理(以下、単に「湿潤静置」ともいう。)などが含まれる。これらの方法によれば、製鋼スラグと水とを十分に接触させることができる。水和処理は、上記浸漬静置、浸漬撹拌、ペースト化静置および湿潤静置などのうち1種類のみを施してもよいし、これらのうち2種類以上を任意の順番で行ってもよい。
【0074】
なお、湿潤静置によって水和処理を施す場合は、毛管凝縮現象によりスラグ粒子の間に水蒸気を十分に凝縮させて、スラグ粒子に水を確実に到達させる観点から、相対湿度が70%以上であることが好ましい。
【0075】
また、磁選と水和処理とを同時に行うときは、湿式による磁選を長時間行ったり、湿式による磁選を施すスラリーを循環させたりして、スラリー化した製鋼スラグと水とが長時間接触するようにすればよい。スラリーを循環させるときは、循環経路に設けたタンク内でスラリーに浸漬撹拌などを施したりしてもよい。
【0076】
浸漬静置、浸漬撹拌またはペースト化静置によって水和処理を施すとき、水和処理に使用する水は、イオン化していない遊離炭酸およびイオン化した炭酸水素イオン(HCO)などを含む二酸化炭素の含有量が300mg/L未満であることが好ましい。上記二酸化炭素の含有量が300mg/L未満だと、水和処理に使用する水に遊離石灰、水酸化カルシウム以外のCa化合物が溶出しにくいため、製鋼スラグに含まれるCaの大部分を接触工程でCO水溶液に溶出させることができ、Caの回収工程が煩雑になりにくい。また、水に二酸化炭素含有量が多いと、遊離石灰や水酸化カルシウムなどから溶出するCaと二酸化炭素とが反応して生成および析出した炭酸カルシウムがスラグ粒子の表面を覆い、水和反応が進み難くなるが、二酸化炭素の含有量が300mg/L未満であると上記炭酸カルシウムの析出による水和反応の阻害が生じにくい。なお、工業用水中の上記二酸化炭素の含有量は、通常、300mg/L未満である。そのため、上記浸漬静置または浸漬撹拌による水和処理に使用する水は、意図的に二酸化炭素を添加または含有させない工業用水であることが好ましい。
【0077】
浸漬静置、浸漬撹拌またはペースト化静置によって水和処理を施すとき、水和処理に使用する水の温度は、水が激しく蒸発しない温度であればよい。たとえば、ほぼ大気圧である条件で製鋼スラグに水和処理を施すときは、水の温度は100℃以下であることが好ましい。ただし、オートクレーブなどを用いてより高い圧力で水和処理を行うときは、水和処理を行う際の圧力における水の沸点以下である限り、上記水の温度は100℃以上であってもかまわない。具体的には、浸漬静置または浸漬撹拌によって水和処理を施すときの水の温度は、0℃以上80℃以下であることが好ましい。オートクレーブなどを用いてより高い圧力で水和処理を行うときは、温度の上限は特にないが、装置の耐圧性および経済的な面から300℃以下が好ましい。また、ペースト化静置によって水和処理を施すときの水の温度は、0℃以上70℃以下であることが好ましい。
【0078】
湿潤静置によって製鋼スラグに水和処理を施すときは、大気、窒素(N)、酸素(O)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などのガスに水蒸気を導入して、相対湿度を高めてもよいし、水蒸気のみからなるガスを用いてもよい。容器内の相対湿度および温度は、任意に設定することができるが、たとえば、ほぼ大気圧である条件で、上記ガスに水蒸気を導入するときは、ガスの温度を0℃以上100℃以下、好ましくは10℃以上100℃以下、相対湿度70%以上とすればよい。このとき、Ca化合物がより均一に水和できるように、ガスを撹拌してもよい。
【0079】
なお、水蒸気のみからなるガスを使用して湿潤静置によって製鋼スラグに水和処理を施すときは、水蒸気を加熱して、水蒸気圧を大気圧以上とすることが好ましい。水蒸気圧を大気圧以上とすることで、容器内に水蒸気を充填しやすくし、たとえば水蒸気を容器内に導入するために予め容器内を減圧する必要がなくなるため、設備コスト及び管理コストが高くならず、より容易かつ安価に水和処理を行うことができる。上記水蒸気圧を大気圧以上とした水蒸気の温度は、たとえば100℃以上とすることができる。オートクレーブと同様に温度の上限は特にないが、装置の耐圧性および経済的な面から300℃以下が好ましい。
【0080】
水和処理を行う継続時間は、スラグの平均粒子径および水和処理を行う温度(水または水蒸気を含む空気の温度)などによって任意に設定することができる。水和処理を行う継続時間は、スラグの平均粒子径が小さいほど短時間でよく、また、水和処理を行う温度が高いほど短時間でよい。
【0081】
たとえば、スラグ粒子の最大粒径が1000μm以下である製鋼スラグに浸漬静置または浸漬撹拌による水和処理を常温で施すときは、水和処理の継続時間は連続して8時間程度とすることができ、3時間以上30時間以下とすることが好ましい。上記水和処理を40℃以上70℃以下の水への浸漬によって施すときは、水和処理の継続時間は連続して0.6時間以上8時間以下とすることが好ましい。
【0082】
また、スラグ粒子の最大粒径が1000μm以下である製鋼スラグにペースト化静置による水和処理を常温で施すときは、水和処理の継続時間は連続して7時間程度とすることができ、3時間以上30時間以下とすることが好ましい。上記水和処理を40℃以上60℃以下で含水静置によって施すときは、水和処理の継続時間は連続して0.5時間以上8時間以下とすることが好ましい。
【0083】
また、スラグ粒子の最大粒径が1000μm以下である製鋼スラグに相対湿度が90%の雰囲気での湿潤静置による水和処理を常温で施すときは、水和処理の継続時間は連続して10時間程度とすることができ、1時間以上40時間以下とすることが好ましい。上記水和処理を100℃以上の水蒸気のみからなるガスを使用して施すときは、水和処理の継続時間は連続して0.2時間以上5時間以下とすることが好ましい。
【0084】
このとき、Caの回収率を十分に高めるための(たとえば、回収率が頭打ちとなる)製鋼スラグの平均粒子径および水和処理の条件(温度および継続時間など)を予め求めておいて、次回からは上記平均粒子径および水和処理の条件を参照してもよい。
【0085】
また、水和処理は、ケイ酸カルシウムが十分に水和物と水酸化カルシウムになるか、またはおよび酸化カルシウム鉄アルミニウムが十分に酸化カルシウム系の水和物になる程度に行うことが好ましい。たとえば、水和処理は、製鋼スラグに含まれるケイ酸カルシウムの量が50質量%以下になるまで、もしくは酸化カルシウム鉄アルミニウムの量が20質量%以下になるまで、施すことが好ましい。
【0086】
水和処理を施した後の固体またはスラリー状の製鋼スラグは、そのまま接触工程に用いてもよいが、水和処理が浸漬静置、浸漬撹拌またはペースト化静置であるときは、水和処理後に固液分離して製鋼スラグと液体成分とを分離することが好ましい。固液分離は、減圧濾過および加圧濾過を含む公知の方法で行うことができる。上記固液分離によって得られた液体成分(以下、単に「水和処理水」ともいう。)は、製鋼スラグから溶出したCaを含むため、アルカリ性となっている。そのため、後述する、製鋼スラグと接触したCaを溶出させた後のCO水溶液からCaの析出させる際に、CO水溶液のpHを高めるために上記液体成分を用いることができる。
【0087】
(第2の実施形態の第1の態様)
図2は、本実施形態の第1の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。図2に示されるように、本態様においては、磁選工程(工程S110)、水和工程(工程S130−1)および接触工程(工程S120)は、この順で行われる。
【0088】
このとき、水和工程(工程S130−1)で製鋼スラグに施す水和処理は、上記浸漬静置、浸漬撹拌、ペースト化静置および湿潤静置のいずれでもよいが、水和処理と固液分離とを同時に行い、後の工程を簡略化する観点からは、浸漬静置またはペースト化静置が好ましい。
【0089】
また、磁選工程(工程S110)の後に水和工程(工程S130−1)を行うと、磁選によって製鋼スラグの体積が減少しているため、より効率的に製鋼スラグに水和処理を施すことができる。
【0090】
(第2の実施形態の第2の態様)
図3は、本実施形態の第2の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。図3に示されるように、本態様においては、水和工程(工程S130−2)、磁選工程(工程S110)および接触工程(工程S120)は、この順で行われる。
【0091】
このとき、水和工程(工程S130−2)で製鋼スラグに施す水和処理は、上記浸漬静置、浸漬撹拌、ペースト化静置および湿潤静置のいずれでもよいが、凝集したスラリー粒子を分散させ、その後の磁選工程(工程S110)において鉄系化合物および金属鉄をより選択的に捕捉しやすくする観点からは、浸漬撹拌が好ましい。
【0092】
(第2の実施形態の第3の態様)
図4は、本実施形態の第3の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。図4に示されるように、本態様においては、水和工程(工程S130−3)、磁選工程(工程S110)、水和工程(工程S130−4)および接触工程(工程S120)は、この順で行われる。
【0093】
このとき、水和工程(工程S130−3および工程S130−4)で製鋼スラグに施す水和処理は、上記浸漬静置、浸漬撹拌、ペースト化静置および湿潤静置のいずれでもよい。上記第3の態様と同様に、磁選の前の水和工程(工程S130−3)で製鋼スラグに施す水和処理は、凝集したスラリー粒子を分散させ、その後の磁選工程(工程S110)において鉄系化合物および金属鉄をより選択的に捕捉しやすくする観点からは、浸漬撹拌が好ましい。また、上記第2の態様と同様に、磁選の後の水和工程(工程S130−4)で製鋼スラグに施す水和処理は、水和処理と固液分離とを同時に行い、後の工程を簡略化する観点からは、浸漬静置またはペースト化静置が好ましい。
【0094】
(第2の実施形態の第4の態様)
図5は、本実施形態の第4の態様に係る製鋼スラグからCaを溶出させる方法を示すフローチャートである。図5に示されるように、本態様においては、水和工程および磁選工程を同時に行い(工程S110/S130−5)、その後、接触工程(工程S120)が行われる。
【0095】
このとき、スラリー状である製鋼スラグを用いて、製鋼スラグに含まれるCa化合物、特には磁選で捕捉しにくいケイ酸カルシウム、が十分に水和するだけの時間をかけて磁選を行えば、水和工程および磁選工程を同時に行うことができる。たとえば、スラリー状である製鋼スラグへの磁選を、1時間程度施せば、水和処理と磁選とを同時に行うことができる。
【0096】
また、磁力選別機と貯留タンクとの間で上記スラリーを循環させ、このとき貯留タンクでの上記スラリーの流速が十分遅くなるように循環速度を調整して、上記貯留タンクで浸漬静置または浸漬撹拌を施すこともできる。
【0097】
(効果)
第2の実施形態によれば、製鋼スラグに含まれるCa化合物、特にはケイ酸カルシウムおよび酸化カルシウム鉄アルミニウム、を水和させて、よりCO水溶液に溶出しやすいCa水和物にすることができるため、より短時間でより多量のCaをCO水溶液に溶出させることができる。また、第2の実施形態における水和処理は、容易に行うことができるため、実施する際のコストの負担が少ない。
【0098】
[第2の実施形態の第1の変形例]
第2の実施形態の第1〜第3の態様において、水和工程が浸漬撹拌であるとき、同時に、浸漬している製鋼スラグを破砕等する工程(以下、「変形水和工程」ともいう。)であってもよい。
【0099】
(変形水和工程:破砕等しながらの製鋼スラグとCO水溶液との接触)
上述した水和処理による反応は、製鋼スラグの表面近傍または内部でCa化合物と水とが接触することで生じる。ここで、製鋼スラグの内部へもある程度の水は浸透するものの、表面近傍のほうが水との接触量は多い。そのため、Ca水和物は、製鋼スラグの表面近傍でより生成しやすい。また、製鋼スラグに含まれる成分が水和処理に使用する水に溶解すると、上述したCO水溶液へ溶解するときと同様に、Fe、Al、SiおよびMnまたはこれらの水酸化物、炭酸化物および水和物などが製鋼スラグの表面に残存または析出することがある。これらの残存または析出した物質が製鋼スラグの内部への水の浸透を阻害すると、製鋼スラグの内部ではCa水和物が生成しにくくなる。
【0100】
これに対し、水和処理中に、水に浸漬した製鋼スラグを破砕等することで、スラグ粒子の表面積を大きくして、水とスラグ粒子との接触面積がより大きくなる。また、水に浸漬した製鋼スラグを破砕等することで、上記物質が未だ残存または析出していない新たな表面が連続的に形成され、この連続的に形成される表面から製鋼スラグの内部まで水が浸透するため、製鋼スラグの内部でもCa水和物がより生成しやすくなる。また、製鋼スラグの表面を摩砕することで、上記残存または析出した物質が除去されて、水とスラグ粒子との接触面積がより大きくなり、かつ、製鋼スラグの内部に水がより浸透しやすくなる。
【0101】
具体的には、製鋼スラグを水中に浸漬して、同時に、湿式で使用可能な公知の破砕機を使用することで、浸漬している製鋼スラグを破砕することができる。また、スラグ粒子、水および粉砕ボールを投入したボールミルを回転させて、スラグ粒子を水中で粉砕し、同時に水和処理を施すことができる。
【0102】
本工程によれば、前記第1工程を含む実施形態よりも短時間で、前記第1工程を含む実施形態と同程度またはそれ以上のCaを溶出させやすくすることができる。たとえば、最大粒径が1000μm以下である製鋼スラグの場合、本工程の継続時間は連続して0.1時間以上5時間以下とすることが好ましく、0.2時間以上3時間以下とすることがより好ましい。
【0103】
また、本工程は、スラグ粒子の最大粒径が1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm、さらに好ましくは100μm以下となるまで行うことが好ましい。このようにすることで、上述した製鋼スラグの破砕またはスラグ粒子の粉砕と本工程とを同時に行うことができるため、工程を煩雑にせずに本工程を行うことができる。
【0104】
特に、第2の実施形態の第2の態様または第3の態様のように、磁選工程(工程S110)よりも前に水和工程(工程S130−2または工程S130−3)を行うとき、当該水和工程を上記変形水和工程にすると、水和処理をしながら、製鋼スラグの粒径を上記範囲まで小さくできるため、製鋼スラグの破砕等にかける負担を少なくすることができる。
【0105】
(効果)
第1の変形例によれば、さらに短時間でより多量のCaをCO水溶液に溶出させることができる。また、本変形例は、たとえば製鋼スラグの破砕またはスラグ粒子の粉砕と同時に行うことができるなど、工程を煩雑にせずに行うことができるため、実施する際のコストの負担が少ない。
【0106】
[第2の実施形態の第2の変形例]
第2の実施形態においても、接触工程は、磁選処理を施された製鋼スラグを、破砕等しながら、前記製鋼スラグと二酸化炭素を含有する水溶液とを接触させる工程(変形接触工程)であってもよい。
【0107】
第2の実施形態の第2の変形例によれば、さらに短時間でより多量のCaをCO水溶液に溶出させることができる。また、本変形例は、容易に行うことができるため、実施する際のコストの負担が少ない。
【0108】
2.製鋼スラグからCaを回収する方法
図6は、本発明の第3の実施形態に係るCO水溶液に溶出させたCaを回収する方法のフローチャートである。図6に示されるように、本実施形態は、Caを溶出させる工程(工程S100)およびCaを回収する工程(工程S200)を含む。
【0109】
[Caを溶出させる工程]
Caを溶出させる工程(工程S100)では、製鋼スラグからCaを溶出させる。Caの溶出は、上述した第1の実施形態または第2の実施形態、もしくはこれらの変形例によって行えばよい。
【0110】
[Caを回収する工程]
図7は、Caを回収する工程(工程S200)の一例を示すフローチャートである。図7に示されるように、Caを回収する工程(工程S200)は、たとえば、製鋼スラグとCO水溶液とを分離する工程(工程S210:以下、「分離工程」ともいう。)、Caを析出させる工程(工程S220:以下、「析出工程」ともいう。)、および析出した固体成分を回収する工程(工程S230:以下、「回収工程」ともいう。)、などを含んで行うことができる。
【0111】
(分離工程:製鋼スラグとCO水溶液との分離)
本工程では、Caが溶解したCO水溶液(上澄み液)と、製鋼スラグとを分離する(工程S210)。分離は、公知の方法で行うことができる。分離方法の例には、濾過、およびCO水溶液を静置して製鋼スラグを沈殿させる方法が含まれる。スラグを沈殿させたときは、さらに上澄み液のみを回収してもよいし、後の工程で析出する固体成分が製鋼スラグと混じらない限りにおいて、上澄み液および沈殿した製鋼スラグを含む2成分系において、上澄み液に対してのみこれ以降の工程を行ってもよい。
【0112】
なお、接触工程ですでに製鋼スラグとCO水溶液とを分離しているときは、本工程は不要である。
【0113】
(析出工程:Caを含む固体成分の析出)
本工程では、CO水溶液に溶出したCaを、Caを含む固体成分として析出させる(工程S220)。CO水溶液に溶出したCaは、公知の方法で析出させることができる。CO水溶液に溶出したCaを固体成分として析出させる方法の例には、CO水溶液から二酸化炭素を除去する方法およびCO水溶液のpHを高くする方法が含まれる。
【0114】
<二酸化炭素の除去>
たとえば、分離工程(工程S210)で製鋼スラグと分離したCO水溶液から二酸化炭素を除去して、接触工程(工程S120)でCO水溶液中に溶出したCaを析出させることができる。このとき析出されるCa化合物の例には、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム水和物、および水酸化カルシウムが含まれる。
【0115】
CO水溶液から二酸化炭素を除去する方法は、特に限定されない。二酸化炭素を除去する方法の例には、(1)ガスの導入、(2)減圧および(3)加熱が含まれる。
【0116】
(1)ガスの導入
CO水溶液中の二酸化炭素の平衡圧力よりも低い二酸化炭素分圧を有するガスをCaが溶解したCO水溶液中に導入することで、溶解している二酸化炭素と導入したガスとを置換または導入したガスのバブル中に二酸化炭素を拡散(移行)させて、二酸化炭素をCO水溶液から除去することができる。導入するガスは、水と反応するガス(塩素ガス、亜硫酸ガスなど)でもよいが、CO水溶液中に導入することによって生成するイオンと水中に溶出したCaとが塩を形成することによる、Caの析出量の減少を抑制する観点からは、水との反応性が低いガスであることが好ましい。CO水溶液中に導入するガスは、無機系ガスでもよく、有機系ガスでもよい。これらのうち、外部に漏れても燃焼や爆発の可能性が少ないことから、無機系ガスがより好ましい。水との反応性が低い無機系ガスの例には、空気、窒素、酸素、水素、アルゴンおよびヘリウムならびにこれらの混合ガスが含まれる。混合ガスには、窒素と酸素とをおおよそ4:1の割合で含む、本工程を実施する環境の空気が含まれる。水との反応性が低い有機系ガスの例には、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパンおよびフルオロカーボンが含まれる。
【0117】
(2)減圧
1気圧(約100kPa)付近およびそれ以下の圧力環境下では、CO水溶液にかかる圧力が低くなると、二酸化炭素の溶解度が減少する。そのため、CO水溶液を減圧環境下に置くことで、二酸化炭素をCO水溶液から除去することができる。たとえば、CO水溶液を密閉容器に入れて、ポンプなどによって容器内の空気を排出(脱気)して、容器内を減圧雰囲気にすることによって、二酸化炭素を除去することができる。二酸化炭素の除去量をより多くする観点からは、減圧に加えて、CO水溶液への超音波の印加、またはCO水溶液の撹拌を同時に行ってもよい。
【0118】
(3)加熱
1気圧(約100kPa)付近およびそれ以下の圧力環境下では、CO水溶液の温度が高くなると、二酸化炭素の溶解度が減少する。そのため、CO水溶液を加熱することによって、二酸化炭素をCO水溶液から除去することができる。このとき、加熱コストを低くする観点から、水の蒸気圧が雰囲気圧力を超えない範囲内の温度に加熱することが好ましい。たとえば、雰囲気圧力が1気圧であるときは、加熱温度は、100℃未満であることが好ましい。CO水溶液を加熱すると、二酸化炭素が除去されるだけでなく、Ca化合物(炭酸カルシウム)の溶解度が低下するため、Caがより析出しやすくなる。
【0119】
二酸化炭素の除去量をより多くする観点からは、上記(1)〜(3)を組み合わせて行ってもよい。なお、これらの組合せは、ガスや熱の供給体制、立地、工場内副生ガスの利用などを考慮して、最適な組合せを選べばよい。
【0120】
たとえば、ガスをCO水溶液中に導入しながら、ガスの導入量以上に排気して、減圧雰囲気することによって、ガスの導入による二酸化炭素の除去の効果と撹拌効果、およびCO水溶液の減圧による二酸化炭素の除去の効果が得られ、二酸化炭素を効率的に除去できる。このとき、さらに加熱することによって、二酸化炭素の除去の効果がさらに促進される。また、このとき、ガスのCO水溶液中への導入の効果とCO水溶液の減圧との相加効果によって、二酸化炭素を容易に除去することができるため、加熱温度を高くする必要がなく、加熱コストを削減できる。
【0121】
<pHの上昇>
また、製鋼スラグと分離したCO水溶液のpHを上げることで、Caを含む固体成分をCO水溶液中に析出させることができる。pHを上げると、CO水溶液中の水素イオン(H)量が減少するため、下記の平衡式(式3)において、炭酸水素イオン(HCO)が水素イオン(H)と炭酸イオン(CO2−)とに分離する方向に平衡が移動する。本工程では、こうして増加した炭酸イオンが、カルシウムイオンと結合して難溶性の炭酸カルシウム(CaCO)となることによって、Caが析出すると考えられる。
HCO ⇔ H + CO2− (式3)
【0122】
Caが析出しはじめると、炭酸カルシウムによる白濁がCO水溶液中に生じる。CO水溶液のpHは、目視でこの白濁が確認できる程度に上げれば十分である。Caをより十分に析出させて、Caの回収率をより高める観点からは、分離工程(工程S210)において製鋼スラグと分離したCO水溶液のpHに対して、pHを0.2以上上げることが好ましく、0.3以上上げることがより好ましく、1.0以上上げることがさらに好ましく、1.5以上上げることがさらに好ましく、2.0以上上げることがさらに好ましい。
【0123】
このとき、CO水溶液のpHを測定しながら行うことが好ましい。CO水溶液のpHは、公知のガラス電極法で測定することができる。
【0124】
本工程ではCaのみならずリンなどの他の元素も含む固体成分が析出するが、本発明者の知見によれば、pHを上昇させ始めた直後に析出する固体成分(以下、単に「初期析出物」ともいう。)はリンを含む化合物(以下、単に「リン化合物」ともいう。)の含有比がより高く、遅れて析出する固体成分(以下、単に「後期析出物」ともいう。)はリンの含有比がより低い。そのため、pHを上昇させる途中で後述する回収する工程(工程S230)を行い、初期析出物を回収することで、リンの比率がより高い固体成分とリンの比率がより低い固体成分とを分離して回収することができる。
【0125】
製鋼スラグから回収したリン化合物は、リン資源として再利用できる。よって、リン化合物の含有量が多い固体成分を回収すると、リンの再利用が容易となる。また、製鋼スラグから回収したCa化合物は、製鉄原料として再利用できるが、この製鉄原料がリン化合物を含んでいると、鉄が脆くなる。よって、製鉄原料として再利用する固体成分には、リン化合物の含有量が少ないほうがよい。したがって、リンおよびCaを含むCO水溶液から、リン化合物の含有量が多い固体成分と、リン化合物の含有量が少ない固体成分とを別個に得ると、回収した固体成分の精製が容易または不要になり、かつ、回収した固体成分を用いた製品の品質をより向上させることができる。
【0126】
このとき、リンは、CO水溶液のpHが1.0上がるまでにその大部分が析出する。そのため、初期析出物中のリンの含有比をより高め、かつ、後期析出物中のCaの含有比をより高める観点からは、初期析出物は、pHが1.0上がる以前に回収することが好ましく、0.6上がる以前に回収することがより好ましく、0.4上がる以前に回収することがさらに好ましい。
【0127】
CO水溶液のpHは、たとえば、CO水溶液にアルカリ性物質を投入することで、上げることができる。CO水溶液に投入することができるアルカリ性物質の例には、水酸化カルシウム、アンモニアおよび水酸化ナトリウムが含まれる。水酸化カルシウム、アンモニアまたは水酸化ナトリウムを投入するときは、これらの物質を水に溶解させた溶液を、前記CO水溶液に添加するとよい。水酸化カルシウム、アンモニアおよび水酸化ナトリウムは市販のものでもよいし、廃液その他の液体中に含まれるものでもよい。廃液中の水酸化カルシウムを投入する場合、たとえば、炭化カルシウム(カルシウムカーバイド)と水とを反応させてアセチレンを製造する際に生じる廃液をCO水溶液に添加することができる。また、製鋼スラグを水に浸漬して用意したスラグ浸出水、上述した磁選水または上述した水和処理水を前記CO水溶液に投入してもよい。スラグ浸出水、磁選水および水和処理水は、Caを回収しようとしている製鋼スラグについての水への浸漬、磁選または水和処理によって得たものであってもよいし、別の製鋼スラグの水への浸漬、磁選または水和処理によって得たものであってもよい。
【0128】
CO水溶液のpHを上げると、CO水溶液に含まれるFe、MnおよびPなども前記固体成分として析出する。そのため、本実施形態に係る方法によってCaを回収した後の水溶液(元CO水溶液)は、排水処理を簡素化するかまたは不要にして、排水処理のコストを抑制することができる。
【0129】
Caを回収した後の水溶液(元CO水溶液)は、Ca、Fe、Mn、Al、Pなどの金属元素およびCOをほとんど含んでいないので、工程内で再利用が可能であり、排水レス化を可能とし得る。
【0130】
Caの回収率をより高める観点からは、二酸化炭素の除去とpHの上昇とを組みあわせて行ってもよい。
【0131】
(回収工程:固体成分の回収)
本工程では、析出工程(工程S220)で析出した固体成分を回収する(工程S230)。析出した固体成分は、減圧濾過および加圧濾過を含む公知の方法によって回収することができる。この固体成分には、製鋼スラグ由来のCaが含まれる。
【0132】
以下、本発明について実施例を参照してより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明の範囲を以下に記載の具体的方法に限定するものではない。
【実施例】
【0133】
[実験1]
表1に記載の成分比率を有する製鋼スラグAおよび製鋼スラグBを準備した。なお、製鋼スラグの成分は、ICP発光分光分析法および化学分析法によって測定した。平均粒径が100μm以下となるように、ハンマーミルを用いて製鋼スラグAおよび製鋼スラグBを粉砕した。また、粉砕した製鋼スラグの平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて確認した。
【0134】
【表1】
【0135】
1−1.磁選
製鋼スラグAまたは製鋼スラグBのいずれかを、質量比で50倍の量の水に分散させたスラグスラリーを、製鋼スラグAまたは製鋼スラグBのそれぞれについて用意した。
【0136】
また、粉砕した製鋼スラグAの一部および製鋼スラグBの一部を、それぞれ空気中で10分間、600℃で加熱処理した。その後、室温に冷却された上記加熱処理後の製鋼スラグAまたは製鋼スラグBのいずれかを、質量比で50倍の量の水に分散させたスラグスラリーを、上記加熱処理後の製鋼スラグAおよび製鋼スラグBのそれぞれについて2つずつ用意した。
【0137】
上記得られた各種スラグスラリーを、それぞれ、回転ドラム内の下半分に永久磁石が固定されて配置されたドラム式の磁選機の下部に流し込み、回転ドラムを5分、周速3m/minで回転させた。その後、回転ドラムに磁着したスラグを上部から回収した。このとき、磁選機のドラム表面の磁束密度は0.03Tとした。
【0138】
回収されたスラグ中のFeの含有量をICP発光分光分析法および化学分析法によって測定し、上記回収されたスラグ中のFeの含有量を、用いた製鋼スラグ(製鋼スラグAまたは製鋼スラグB)中のFeの含有量で除算して、得られた値(%)を磁選でのFeの回収率とした。
【0139】
1−2.製鋼スラグと水との分離
上記磁選において磁着されなかったスラグスラリーを、加圧濾過によって製鋼スラグと水とに分離した。
【0140】
分離後の水のpHは12.0〜12.5であり、製鋼スラグから溶出したCaを含有していることが推測されたため、分離後の水が含有するCaの量をICP分光分析法および化学分析法で測定した。上記分離後の水中のCaの含有量を、用いた製鋼スラグ(製鋼スラグAまたは製鋼スラグB)中のCaの含有量で除算して、得られた値(%)を磁選後のCaの溶出率とした。
【0141】
比較のため、製鋼スラグAまたは製鋼スラグBを水に分散させ、5分後に加圧濾過によって製鋼スラグと水とに分離して、分離後の水が含有するCaの量をICP分光分析法および化学分析法で測定した。上記分離後の水中のCaの含有量を、用いた製鋼スラグ(製鋼スラグAまたは製鋼スラグB)中のCaの含有量で除算して、得られた値(%)を水との接触によるCaの溶出率とした。
【0142】
1−3.CO水溶液との接触
上記水から分離された製鋼スラグを2つに分け、以下の2通りの方法のいずれかで、CO水溶液と接触させた。
CO接触1(破砕なし):0.25kgの上記磁選後に水から分離された製鋼スラグと、50Lの水を撹拌しながら、常温(20〜40℃)で、流量を7L/minとした二酸化炭素を吹き込み、Caを溶出させた。
CO接触2(破砕あり):0.25kgの上記磁選後に水から分離された製鋼スラグと、50Lの水と、みかけ体積が10Lとなる量のボール径が10mmの粉砕ボールと、をボールミル装置中に投入し、流量を7L/minとした二酸化炭素を吹き込みながら、常温(20〜40℃)で、周速70m/minでボールミルを回転させ、製鋼スラグを破砕しながらCaを溶出させた。
【0143】
30分後、それぞれの製鋼スラグとCO水溶液とを分離し、ICP分光分析法および化学分析法で、CO水溶液に溶出したCaの量(kg/50L)を測定した。測定されたCaの量を、浸漬した製鋼スラグの質量に前記製鋼スラグ中のCaの成分比を乗算して得られた値で除算して、CO水溶液との接触によるCaの溶出率(%)を測定した。
【0144】
比較のため、製鋼スラグAまたは製鋼スラグBを水に分散させた後すぐに加圧濾過によって製鋼スラグと水とに分離して得られた製鋼スラグにも、同様の処理を行い、上記二酸化炭素を含有する水溶液に溶出したCaの量およびCaの溶出率を同様の方法で測定した。
【0145】
製鋼スラグの種類、加熱処理の有無、磁選の有無、磁選でのFeの回収率、磁選後のCaの溶出率、水との接触によるCaの溶出率、およびCO水溶液との接触によるCaの溶出率を、表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
スラグスラリーの磁選により10%以上のFeを回収することができた。また、このとき回収された化合物は、いずれも、ICP発光分光分析法および化学分析法によって測定されたFe濃度が40質量%以上、Mn濃度が5質量%以上、Mg濃度が1質量%以上であり、製鉄工程で再利用可能なものであった。
【0148】
また、磁選後の製鋼スラグをCO水溶液と接触させると、磁選をせずにCO水溶液と接触させた場合よりも多い割合のCaがCO水溶液中に溶出していた。磁選後(CO水溶液との接触前)のCaの溶出率と合わせると、いずれもCa回収率は高かった。
【0149】
なお、このとき、CO水溶液に接触させた後に固液分離させて得られた液体成分に、空気を吹込み、さらに磁選後の固液分離によって得られた液体成分(高pH)を投入してpHを高くすると、pH8までにリンを含有する炭酸カルシウム系化合物が析出し、その後、pH10までにリンの含有量がより少ない炭酸カルシウム系化合物が析出した。この工程によって析出されたCaの量を測定したところ、製鋼スラグAまたは製鋼スラグB中のCaの大部分がこれまでの工程で回収されたことがわかった。
【0150】
また、製鋼スラグを磁選前に加熱処理すると、磁選でのFeの回収率も、磁選後にCO水溶液と接触させたときのCaの溶出率も、いずれもより高くなっていた。
【0151】
[実験2]
実験1で用いた製鋼スラグAを用意し、その一部を実験1と同様に加熱処理した。
【0152】
2−1.磁選、水和処理および製鋼スラグと水との分離
加熱処理しなかった製鋼スラグAおよび加熱処理した製鋼スラグAのスラグスラリーを実験1と同様に調製して、実験1と同様に磁選を行った後、加圧濾過によって製鋼スラグと水とに分離した。
【0153】
このとき、磁選の前、磁選と同時または磁選の後に、以下のいずれかの方法で水和処理を行った。
【0154】
2−1−1.浸漬静置(磁選の後)
上記磁選で回収されなかったスラグスラリーを、室温で60分間、そのまま静置した。なお、60分で製鋼スラグの大部分が沈降した。
【0155】
2−1−2.浸漬撹拌(磁選の前)
製鋼スラグが底に沈降して滞留しないように注意しながら、磁選の前にスラグスラリーを60分間撹拌した。加熱処理した製鋼スラグについては、加熱処理後に上記水和処理を行った。
【0156】
なお、磁選の前の浸漬撹拌と磁選の後の浸漬静置をいずれも行うときは、水和処理の合計時間が60分となるように、浸漬撹拌を20分、浸漬静置を40分とした。
【0157】
2−1−3.ペースト化静置(磁選の後)
上記加圧濾過によって水と分離した後のペースト状の製鋼スラグを容器中に入れて、乾燥しないよう注意しながらペースト状のまま60分間容器中に保管した。
【0158】
2−1−4.循環(磁選と同時)
回転ドラムの回転時間を30分として、磁選機に流し込む前のスラグスラリーが貯留されたタンクと磁選機との間で、スラグスラリーを循環させて、磁選を行った。このとき、タンクでのスラグスラリーの流速が十分遅くなるように循環速度を調整した。
【0159】
2−2.CO水溶液との接触
その後、それぞれの製鋼スラグを、実験1に記載のCO接触2(破砕あり)でCO水溶液と接触させた。
【0160】
加熱処理の有無、磁選の前、磁選と同時または磁選の後に行った水和処理の種類、磁選でのFeの回収率、磁選後のCaの溶出率、およびCO水溶液との接触によるCaの溶出率を、表3に示す。
【0161】
【表3】
【0162】
磁選および水和処理を施された製鋼スラグをCO水溶液と接触させると、水和処理を施さない実験1よりも多い割合のCaがCO水溶液中に溶出していた。磁選後(CO水溶液との接触前)のCaの溶出率と合わせても、いずれもCa回収率は実験1より高かった。
【0163】
また、このときも、磁選により回収された化合物は、いずれも、ICP発光分光分析法および化学分析法によって測定されたFe濃度が40質量%以上、Mn濃度が5質量%以上、Mg濃度が1質量%以上であり、製鉄工程で再利用可能なものであった。
【0164】
なお、このときも、CO水溶液に接触させた後に固液分離させて得られた液体成分に、空気を吹込み、さらに磁選後の固液分離によって得られた液体成分(高pH)を投入してpHを高くすると、pH8までにリンを含有する炭酸カルシウム系化合物が析出し、その後、pH10までにリンの含有量がより少ない炭酸カルシウム系化合物が析出した。この工程によって析出されたCaの量を測定したところ、製鋼スラグ中のCaの大部分がこれまでの工程で回収されたことがわかった。
【0165】
また、このときも、製鋼スラグを磁選前に加熱処理すると、磁選でのFeの回収率も、磁選後にCO水溶液と接触させたときのCaの溶出率も、いずれもより高くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明に係るCaを溶出させる方法は、二酸化炭素を含有する水溶液への製鋼スラグ中のCaの溶出量を容易に高めることができ、製鋼スラグからのCaの回収率を容易に高めることができるため、製鉄におけるCa資源の回収方法として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7