(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記除菌剤は、ジチオカルバメート系除菌剤、イソチアニル、フラメトピル、エタボキサム、2−[(2,5−ジメチルフェノキシ)メチル]−α−メトキシ−N−メチル−ベンゼンアセトアミド、ベノミル、オキソリニック酸、プロベナゾール、チアジニル、ピロキロン及びジクロシメットからなる群より選択される1つ以上である、請求項1〜11の何れか1項に記載の被覆種子。
前記除虫剤は、有機リン系除虫剤、クロチアニジン、ニテンピラム、ベンスルタップ、チアメトキサム、ジノテフラン、ピメトロジン、スルホキサフロル、ベンフラカルブ、カルボスルファン及びカルタップ塩酸塩からなる群より選択される1つ以上である、請求項1〜12の何れか1項に記載の被覆種子。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
(被覆種子について)
まず、本発明の実施形態に係る被覆種子について、詳細に説明する。
本実施形態に係る被覆種子は、所定の種子の表面に位置しており、製鋼スラグ、高炉スラグ、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも1種を含有する被覆層と、被覆層の表面に位置しており、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかの薬剤を含有する薬剤層と、を備える。
【0021】
<種子について>
以下では、まず、本実施形態に係る被覆種子に用いられる種子について、簡単に説明する。
本実施形態に係る被覆種子に用いられる種子としては、湛水された状態で栽培される植物の種子、又は、湛水しない状態で栽培される植物の種子を用いることが可能である。ここで、「湛水された状態で栽培される種子」とは、土壌の表面が水中に没した状態で栽培される種子を意味し、「湛水しない状態で栽培される種子」とは、湛水されて土壌の表面が水中に没することがない状態で栽培される種子を意味する。
【0022】
上記2種類の種子のうち、湛水された状態で栽培される植物の種子としては、例えば、イネ科植物の種子等を挙げることができる。このようなイネ科植物の種子は、湛水された状態で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のイネ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水された状態で栽培されるイネ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、水稲種子を挙げることができる。
【0023】
また、上記2種類の種子のうち、湛水しない状態で栽培される植物の種子としては、例えば、イネ科植物の種子、マメ科植物の種子、タデ科植物の種子、食用草木植物の種子、及び、有用植物の種子等を挙げることができる。
【0024】
上記のようなイネ科植物の種子は、湛水しない状態で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のイネ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない状態で栽培されるイネ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、陸稲種子、トウモロコシ種子、麦種子等を挙げることができる。
【0025】
上記のようなマメ科植物の種子は、湛水しない状態で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のマメ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない状態で栽培されるマメ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ダイズ種子、アズキ種子等を挙げることができる。
【0026】
上記のようなタデ科植物の種子は、湛水しない状態で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のタデ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない状態で栽培されるタデ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ソバ種子等を挙げることができる。
【0027】
上記のような食用草本植物の種子は、湛水しない状態で栽培される食用の草木植物(いわゆる野菜)の種子であれば特に限定されるものではなく、公知の食用草木植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない状態で栽培される食用草木植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ニンジン種子、トマト種子、甜菜種子等を挙げることができる。
【0028】
上記のような有用植物の種子は、湛水しない状態で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の有用植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない状態で栽培される有用植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、芝種子、牧草種子、緑肥用植物種子、花木種子等を挙げることができる。このうち、緑肥用植物とは、栽培された植物を収穫せずにそのまま土壌にすきこみ、後から栽培する作物の肥料とするための植物をいう。このような緑肥用植物として、例えば、ソルガム等を挙げることができる。
【0029】
なお、以上説明したような各種種子の表面には、剛毛が存在している場合がある。種子の表面に剛毛が存在している場合、以下で詳述するような被覆層と種子との間の密着性が弱くなるという現象が生じる可能性がある。このような現象が生じる可能性を抑制するために、上記のような各種種子をでんぷん水溶液に浸漬させることで、種子の表面をでんぷんで被覆してもよい。これにより、後述する被覆層と種子との間の密着性を向上させることが可能となる。なお、上記のような各種種子を浸漬させるでんぷん水溶液の濃度(すなわち、水溶液の全体質量に対するでんぷんの質量割合)については、特に規定するものではないが、例えば、40質量%〜80質量%とすることが好ましい。かかる濃度のでんぷん水溶液に上記のような各種種子を浸漬させることで、より確実に、被覆層と種子との間の密着性を向上させることが可能となる。
【0030】
以上、本実施形態に係る被覆種子に適用可能な種子について、簡単に説明した。
【0031】
<被覆層について>
続いて、以上説明したような種子の表面に形成される被覆層について、詳細に説明する。
上記のような種子の表面に形成される本実施形態に係る被覆層は、製鋼スラグ、高炉スラグ、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。以下、かかる被覆層に含有されうる製鋼スラグ、高炉スラグ及び石炭灰について、詳細に説明する。
【0032】
本実施形態に係る被覆種子の被覆層は、被覆資材の主成分が、鉄粉ではなく、製鋼スラグ、高炉スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかとなっている。これにより、本実施形態に係る被覆層では、Fe単体としての鉄の含有量が少なくなるため、鉄粉被覆のような発熱は起こらない。そのため、本実施形態に係る被覆層では、被覆処理時の鉄酸化の発熱による種子温度の上昇を、鉄粉被覆の場合と比較して、より大きく抑制することが可能となり、種子への高温によるダメージを大きく抑制することが可能となる。また、本実施形態で被覆層の主成分として用いる製鋼スラグ、高炉スラグ及び石炭灰は、鉄粉と比較して価格が安く、かつ、簡便に固結させることが可能である。そのため、本実施形態に係る被覆層は、コスト及び作業性の双方においても、鉄粉被覆よりも優れたものとなる。
【0033】
[製鋼スラグについて]
鉄鋼製造プロセスで副生する製鋼スラグは、その成分が分析及び管理されており、Ca、Si、Mg、Mn、Fe、Pなどの様々な肥料有効元素を含んでいるため、従来、肥料原料として用いられている。我が国では、製鋼スラグを原料とする肥料として、肥料取締り法により定められた、鉱さいケイ酸質肥料、鉱さいリン酸肥料、副産石灰肥料、特殊肥料(含鉄物)の各規格に属する肥料がある。また、我が国だけで年間1000万トン程度の製鋼スラグが生成されるため、製鋼スラグは安価に入手可能であって、資材コストを抑制することができる。そのため、かかる製鋼スラグを用いて水稲種子を被覆することが行われている。本実施形態に係る被覆種子においても、上記のような各種の種子の表面を被覆する被覆層の主成分として、製鋼スラグを用いることができる。
【0034】
製鋼スラグは、鉄分を含むものの、主として酸化鉄である。従って、上記特許文献1のような鉄粉による種子被覆で懸念される、鉄の酸化による発熱による種子へのダメージについては、ほとんど考慮しなくともよい。また、製鋼スラグは、固結する性質を有している。製鋼スラグ粒子間の空隙率は、固結した状態であっても、固結した鉄粉粒子間の空隙率よりもはるかに大きい。固結した状態での空隙率が大きいことから、製鋼スラグで被覆した種子では、鉄粉で被覆した種子と比較して、種子の発芽や生育に必要な酸素や水が、被覆層の外側から被覆層の内側の種子へとより容易に到達することが可能となる。
【0035】
また、本実施形態で着目している湛水しない状態で栽培される植物の種子についても、製鋼スラグによる種子被覆は適用可能である。種子の発芽に関して、湛水しない状態で発芽させる直播種子の場合、水が被覆層の内部に浸潤し、被覆層自体が保水力を有することが、重要である。製鋼スラグによる被覆では、製鋼スラグ粒子間の空隙率が大きく、鉄粉被覆と比べて保水力が高いことから、湛水しない条件で栽培される種子の発芽にも適している。従って、上記特許文献1で開示されているような鉄粉による被覆が、湛水された状態で栽培される稲種子(すなわち、水稲種子)に主に限定されるのに対し、製鋼スラグによる被覆は、湛水しない状態で栽培されるあらゆる植物の種子の直播に関しても、適用可能である。
【0036】
●所定の成分を含有する製鋼スラグについて
本実施形態に係る被覆層の主成分として用いられる製鋼スラグは、25質量%以上50質量%以下のCaO、8質量%以上30質量%以下のSiO
2、1質量%以上20質量%以下のMgO、1質量%以上25質量%以下のAl
2O
3、1質量%以上8質量%以下のMn、及び、0.1質量%以上5質量%以下のP
2O
5からなる群から選択される少なくとも1種を更に含有していてもよい。
【0037】
◇CaO:25質量%〜50質量%
まず、Caについて説明する。
製鋼スラグは、水に接すると、Caと後述するSiやAlとが溶出して化学結合することにより、水硬性を示す。本発明は、この水硬性を利用して、製鋼スラグを各種種子に付着及び固結させて、各種種子を被覆するものである。従って、本発明において、Caは、重要な元素である。また、Caは、植物に必須な肥料元素でもある。肥料や製鋼スラグでCaの含有量を表記する際には、酸化物のCaOに換算して含有量が表記されるため、以下、CaOとしてCaの含有量を表わす。
【0038】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのCaOの含有量が25質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のCaを溶出できない可能性がある。一方、CaO含有量が50質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鋼プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのCaOの含有量は、25質量%以上50質量%以下とする。製鋼スラグのCaOの含有量は、好ましくは、38質量%以上50質量%以下である。
【0039】
なお、CaOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0040】
◇SiO
2:8質量%〜30質量%
続いて、Siについて説明する。
Siは、CaやAlと共に、製鋼スラグの水硬性に寄与する元素である。従って、本発明において、Siも重要な元素である。また、Siは、植物の必須要素ではないものの、特に陸稲等の稲種子にとって、非常に重要な肥料効果元素である。稲の植物体の乾燥重量の約5%をケイ酸(SiO
2)が占める。肥料や製鋼スラグでは、Siの含有量を表記する際には、酸化物のSiO
2に換算して含有量が表記されるため、以下、SiO
2としてSiの含有量を表わす。
【0041】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのSiO
2の含有量が8質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のSiを溶出できない可能性がある。一方、SiO
2の含有量が30質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鋼プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのSiO
2の含有量は、8質量%以上30質量%以下とする。製鋼スラグのSiO
2の含有量は、好ましくは、12質量%以上25質量%以下である。
【0042】
なお、SiO
2の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0043】
◇MgO:1質量%〜20質量%
一般に、製鋼スラグのMgO含有量は、CaO含有量よりかなり低い値となる。これは、製鋼スラグが溶銑に主に石灰を加えて発生するスラグであることに起因する。製鋼スラグに含まれるMgは、主に転炉の炉壁の耐火レンガから溶出するMgに起因する。Mgは、Ca、Si、Alと共に、製鋼スラグの水硬性に関わる元素である。ただし、製鋼スラグに含まれるCaO含有量とMgO含有量との違いなど、Mgの水硬性への寄与はCaと比較すると小さい。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグはCaOを25質量%以上含有することから、水硬性は、製鋼スラグに含有されるCaOにより基本的にはまかなうことができると考えられる。ただし、MgOが更に存在することで、水硬性をより良く発現することが期待できる。肥料や製鋼スラグでは、Mgの含有量を表記する際には、酸化物のMgOに換算して含有量が表記されるため、以下、MgOとしてMgの含有量を表わす。
【0044】
ここで、MgOの含有量が1質量%未満である製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは発生しない。一方、転炉の耐火物補修において発生する製鋼スラグでは、MgO含有量が20質量%に近いものが発生する。ただし、MgO含有量が20質量%超過である製鋼スラグは、発生しない。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのMgOの含有量は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。製鋼スラグのMgOの含有量は、より好ましくは、3質量%以上10質量%以下である。
【0045】
なお、MgOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0046】
◇Al
2O
3:1質量%〜25質量%
続いて、Alについて説明する。
Alは、CaやSiと共に、製鋼スラグの水硬性に重要な元素である。肥料や製鋼スラグでは、Alの含有量を表記する際には、酸化物のAl
2O
3に換算して含有量が表記されるため、以下、Al
2O
3としてAlの含有量を表わす。
【0047】
Al
2O
3の含有量が1質量%未満となる製鋼スラグ、及び、Al
2O
3の含有量が25質量%超過となる製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。また、製鋼スラグのAl
2O
3の含有量が1質量%以上であれば、Alは、CaやSiと共に水硬性を示すことができる。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いる製鋼スラグのAl
2O
3の含有量は、1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。ただし、より水硬性を高めて固結を促進したい場合には、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのAl
2O
3の含有量を、10質量%以上25質量%以下とすることがより好ましい。
【0048】
なお、Al
2O
3の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0049】
◇Mn:1質量%〜8質量%
次に、Mnについて説明する。
Mnは、植物に対して肥料効果がある元素である。Mnの含有量が1質量%未満である製鋼スラグ、及び、Mnの含有量が8質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。したがって、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのMnの含有量は、1質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0050】
なお、Mnの含有量は、例えば、蛍光X線分析法で測定可能である。
【0051】
◇P
2O
5:0.1質量%〜5質量%
次に、Pについて説明する。
Pは、植物の必須要素である。肥料や製鋼スラグでは、Pの含有量を表記する際には、酸化物のP
2O
5に換算して含有量が表記されるため、本実施形態において各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグに関しても、P
2O
5として含有量を表わす。Pは、根の生長点に作用し、根の生長に効果がある元素である。Pが不足すると、根の生長が抑制される。ただし、P
2O
5の含有量が0.1質量%未満である製鋼スラグ、及び、P
2O
5の含有量が5質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。したがって、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのP
2O
5の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0052】
なお、P
2O
5の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0053】
かかる製鋼スラグは、CaOの含有量が25質量%以上50質量%以下であるため、pH11程度のアルカリ性を示す。そのため、かかる製鋼スラグを含む被覆層を有する種子を鳥獣類が口に含んだ場合、製鋼スラグが示すアルカリ性のために、鳥獣類は、種子を嚥下することなく吐き出してしまう。その結果、鳥獣類による食害を抑制することが可能となる。
【0054】
また、かかる製鋼スラグで被覆された種子は、製鋼スラグがアルカリ性を示すにも関わらず、発芽する。アルカリ性にも関わらず種子が発芽する理由として、鉄イオンをキレート可能な酸性物質が根から分泌され、種子を被覆していた製鋼スラグに起因するアルカリが中和されることにより、正常な発芽が可能になっているものと考えられる。また、このような酸性物質の分泌により、製鋼スラグに含まれる鉄が鉄イオンとしてキレートされ、幼根から吸収しやすくなることが考えられる。
【0055】
●脱リンスラグ、脱炭スラグについて
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグとしては、上記のような所定の成分を含有する製鋼スラグの他に、高炉及び転炉を用いた製鉄プロセスから副生される転炉製鋼スラグの一種である、脱リンスラグ、又は、脱炭スラグ等を用いることも可能である。脱リンスラグとは、溶銑に含まれるリンを除くために、溶銑に脱リン剤として石灰及び酸化鉄等を加えた上で酸素等のガスを吹き込むことにより副生される、リンを含むスラグであり、製鋼スラグの一種である。また、脱炭スラグは、溶銑に含まれる炭素を除いて鋼とするために、溶銑に酸素を吹き込むことにより副生されるスラグであり、製鋼スラグの一種である。
【0056】
上記のような脱リンスラグ及び脱炭スラグについても、上記の所定量の成分を含有する製鋼スラグと同様の成分を含有しているが、その含有量は、上記製鋼スラグにおける諸成分の含有量とは異なる場合がある。しかしながら、脱リンスラグや脱炭スラグであれば、上記の所定量の成分を含有する製鋼スラグとは異なる含有量の成分が存在していたとしても、本実施形態において各種種子を被覆するための製鋼スラグとして利用することが可能である。
【0057】
●電気炉製鋼スラグについて
電気炉製鋼スラグは、高炉及び転炉を用いた製鉄プロセスではなく、電気炉を用いた製鉄プロセスで副生する製鋼スラグである。かかる電気炉製鋼スラグも、製鋼スラグの一種である。一般的な電気炉製鋼スラグは、15質量%以上60質量%以下のCaOと、10質量%以上20質量%以下のSiO
2と、2質量%以上10質量%以下のMgOと、3質量%以上20質量%以下のAl
2O
3と、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多い。電気炉製鋼スラグであれば、上記の所定量の成分を含有する製鋼スラグとは異なる含有量の成分が存在していたとしても、本実施形態において各種種子を被覆するための製鋼スラグとして利用することが可能である。かかる電気炉製鋼スラグを被覆層に含有させることで、電気炉製鋼スラグが結合材として機能し、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
【0058】
本実施形態に係る被覆層では、上記のような脱リンスラグ又は脱炭スラグの少なくとも何れか一方である転炉製鋼スラグと、上記のような電気炉製鋼スラグと、を単独で使用することも可能であるし、必要に応じて組み合わせて使用することも可能である。
【0059】
●製鋼スラグにおける各成分の含有量の測定方法
先だって説明したように、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる各種製鋼スラグにおける各成分の含有量は、蛍光X線分析法により測定することが可能である。より詳細には、着目する成分について、含有量が既知である標準サンプルを利用して、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を予め測定することで、検量線を作成しておく。含有量が未知のサンプルについては、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を測定し、予め作成しておいた検量線を用いることで、着目する成分の含有量を特定することができる。
【0060】
着目する蛍光X線のピークについては、特に限定するものではないが、例えば、Ca、Si、Mg、Al、Fe、Mn、Pの蛍光X線ピークに着目すればよい。
【0061】
なお、各種製鋼スラグにおける各成分の含有量の測定方法は、上記のような蛍光X線分析法に限定されるものではなく、その他の公知の分析手法を適宜利用することが可能である。
【0062】
●製鋼スラグの粒径について
本実施形態では、上記のような製鋼スラグを、粉砕等により所定の粒径に調整したものを、そのままで各種種子の被覆に用いることが可能である。これらの製鋼スラグの粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロッドミル、ボールミル、ロールミル、ローラーミルなどの公知の手段を用いることができる。
【0063】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグの粒径は、粒径が細かい方が固化しやすいことから、粒径を所定の値以下まで細かくすることが好ましい。本発明者が検討を行った結果、粒径を600μm未満に調整した製鋼スラグは、各種種子への付着性が上がる傾向があり、効果が高いことが明らかとなった。従って、本実施形態に係る被覆層の主成分として用いられる製鋼スラグの粒径は、全て600μm未満とすることが好ましい。例えば、孔径600μmの篩を用いて製鋼スラグをふるい分けし、かかる篩の目を通過した製鋼スラグの粒径は、600μm未満である。より細かな粒径の製鋼スラグの方が各種種子への付着性を上げるためには好ましいが、粉砕・分級にはコストや時間を要するため、過度の微細化は不要である。
【0064】
被覆層に用いられる製鋼スラグの粒径は、孔径180μmの篩を通過し、かつ、孔径22μmの篩を通過しないものであることが好ましい。換言すれば、被覆層に用いられる製鋼スラグの粒径は、22μm以上180μm未満であることが好ましい。
【0065】
孔径180μmの篩を通過できない製鋼スラグの場合、各種の植物種子のうち、小さなサイズの種子への付着性が悪くなるため、種子を被覆しづらくなる可能性がある。一方、孔径22μmの篩を通過するような製鋼スラグは、種子への付着性が高くなるものの、種子被覆の際に粉塵となって作業者の呼吸器に吸い込まれる等のリスクが高まることから、防塵対策によりコストを要するようになることが懸念される。また、製鋼スラグ粒子間の空隙率が小さくなって鉄粉被覆の場合と同様に緻密となり、酸素や水の透過が抑制されることが懸念される。従って、種子被覆に用いる製鋼スラグの粒径は、孔径180μmの篩を通過し、かつ、孔径22μmの篩を通過しないことが好ましい。
【0066】
なお、被覆層を構成する製鋼スラグの粒径を事後的に測定する際には、被覆層を有する被覆種子から被覆層を剥離した上で、剥離した被覆層を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等の公知の測定機器により測定すればよい。
【0067】
[高炉スラグについて]
天然物である鉄鉱石、石炭及び石灰石を原料として用いる高炉を利用した鉄鋼製造プロセスでは、スラグと呼ばれる副生成物が発生する。副生するスラグは、高炉における製銑プロセスで副生する高炉スラグと、製鋼プロセスで副生する製鋼スラグと、に大別される。製鋼プロセスで副生する製鋼スラグは、pH11〜12程度の強アルカリ性を示すが、製銑プロセスで副生する高炉スラグは、pH10程度であり、製鋼スラグよりアルカリ性が弱い。また、製鋼スラグ及び高炉スラグは、固まる速度に違いはあるものの、共に固結性を示す物質である。
【0068】
鉄鋼製造プロセスで副生する高炉スラグは、製鋼スラグと同様にその成分が分析及び管理されており、Ca、Si、Mgなどの様々な肥料有効元素を含んでいる。そのため、従来肥料原料として用いられている製鋼スラグと同様に、高炉スラグを肥料原料として用いることが可能である。また、製鋼スラグと同様に、我が国だけで年間にきわめて大量の高炉スラグが生成されるため、高炉スラグは安価に入手可能であって、資材コストを抑制することができる。
【0069】
高炉スラグは、鉄分をほとんど含有しない。従って、上記特許文献1のような鉄粉による種子被覆で懸念される、鉄の酸化による発熱による種子へのダメージについては、考慮しなくともよい。また、高炉スラグは、先だって言及したように、固結する性質を有している。高炉スラグ粒子間の空隙率は、固結した状態であっても、固結した鉄粉粒子間の空隙率よりもはるかに大きい。固結した状態での空隙率が大きいことから、高炉スラグで被覆した種子では、鉄粉で被覆した種子と比較して、種子の発芽や生育に必要な酸素や水が、被覆層の外側から被覆層の内側の種子へとより容易に到達することが可能となる。従って、湛水した状態で栽培される植物の種子に対して、高炉スラグによる種子被覆を好適に適用することが可能である。
【0070】
また、湛水しない状態で栽培される植物の種子についても、高炉スラグによる種子被覆は適用可能である。種子の発芽に関して、湛水しない状態で発芽させる直播種子の場合、水が被覆層の内部に浸潤し、被覆層自体が保水力を有することが、重要である。高炉スラグによる被覆では、高炉スラグ粒子間の空隙率が大きく、鉄粉被覆と比べて保水力が高いことから、湛水しない条件で栽培される種子の発芽にも適している。従って、上記特許文献1で開示されているような鉄粉による被覆が、湛水された状態で栽培される稲種子(すなわち、水稲種子)に主に限定されるのに対し、高炉スラグによる被覆は、湛水しない状態で栽培されるあらゆる植物の種子の直播に関しても、適用可能である。
【0071】
なお、上記のような各種の植物種子では、種子が暴露される環境のpHに敏感なものが存在し、例えばマメ科植物等は、周囲の環境のpHが高い場合(強いアルカリ性を示す場合)には、その生育に問題が発生する可能性が高くなる。そのため、pHがより低い高炉スラグを被覆層の主成分として用いることで、製鋼スラグを用いる場合と比べて、種子へのアルカリ性の影響をより抑制することが可能となり、製鋼スラグと比較してより多くの植物種子を被覆することが可能となる。
【0072】
また、かかる高炉スラグは、pH10程度の弱アルカリ性を示すため、かかる高炉スラグを含む被覆層を有する種子を鳥獣類が口に含んだ場合、高炉スラグが示すアルカリ性のために、鳥獣類は、種子を嚥下することなく吐き出してしまう。その結果、鳥獣類による食害を抑制することが可能となる。
【0073】
更に、かかる高炉スラグで被覆された種子は、高炉スラグが弱アルカリ性を示すにも関わらず、発芽する。弱アルカリ性にも関わらず種子が発芽する理由として、根から水素イオンや有機酸などの酸性物質が分泌され、種子を被覆していた高炉スラグに起因する弱アルカリが中和されることにより、正常な発芽が可能になっているものと考えられる。
【0074】
●所定の成分を含有する高炉スラグについて
以上のような特徴を有する高炉スラグは、以下の成分を含有する高炉スラグであることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る被覆層の主成分である高炉スラグは、35質量%以上45質量%以下のCaOと、25質量%以上40質量%以下のSiO
2と、2質量%以上15質量%以下のMgOと、8質量%以上20質量%以下のAl
2O
3と、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する高炉スラグであることが好ましい。
【0075】
◇CaO:35質量%〜45質量%
まず、Caについて説明する。
高炉スラグは、水に接すると、Caと後述するSiやAlとが溶出して化学結合することにより、水硬性を示す。本発明は、この水硬性を利用して、高炉スラグを各種種子に付着及び固結させて、各種種子を被覆するものである。従って、本発明において、Caは、重要な元素である。また、Caは、植物に必須な肥料元素でもある。肥料や製鋼スラグにおいてCaの含有量を表記する際には、酸化物のCaOに換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではCaOとしてCaの含有量を表わすこととする。
【0076】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのCaOの含有量が35質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のCaを溶出できない可能性がある。一方、CaO含有量が45質量%超過である高炉スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのCaOの含有量は、35質量%以上45質量%以下とする。高炉スラグのCaOの含有量は、好ましくは、40質量%以上44質量%以下である。
【0077】
なお、CaOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0078】
◇SiO
2:25質量%〜40質量%
続いて、Siについて説明する。
Siは、CaやAlと共に、高炉スラグの水硬性に寄与する元素である。従って、本発明において、Siも重要な元素である。また、Siは、植物の必須要素ではないものの、特に陸稲等の稲種子にとって、非常に重要な肥料効果元素である。稲の植物体の乾燥重量の約5%をケイ酸(SiO
2)が占める。肥料や製鋼スラグでは、Siの含有量を表記する際には、酸化物のSiO
2に換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではSiO
2としてSiの含有量を表わすこととする。
【0079】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのSiO
2の含有量が25質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のSiを溶出できない可能性がある。一方、SiO
2の含有量が40質量%超過である高炉スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのSiO
2の含有量は、25質量%以上40質量%以下とする。高炉スラグのSiO
2の含有量は、好ましくは、30質量%以上36質量%以下である。
【0080】
なお、SiO
2の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0081】
◇MgO:2質量%〜15質量%
Mgは、Ca、Si、Alと共に、高炉スラグの水硬性に関わる元素である。ただし、高炉スラグに含まれるCaO含有量とMgO含有量との違いなど、Mgの水硬性への寄与はCaと比較すると小さい。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグはCaOを35質量%以上含有することから、水硬性は、高炉スラグに含有されるCaOにより基本的にはまかなうことができると考えられる。ただし、MgOが更に存在することで、水硬性をより良く発現することが期待できる。肥料や製鋼スラグでは、Mgの含有量を表記する際には、酸化物のMgOに換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではMgOとしてMgの含有量を表わすこととする。
【0082】
ここで、MgOの含有量が2質量%未満である高炉スラグ、及び、MgO含有量が15質量%を超える高炉スラグは、通常の製銑プロセスでは発生しない。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのMgOの含有量は、2質量%以上15質量%以下であることが好ましい。高炉スラグのMgOの含有量は、より好ましくは、3質量%以上10質量%以下である。
【0083】
なお、MgOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0084】
◇Al
2O
3:8質量%〜20質量%
続いて、Alについて説明する。
Alは、CaやSiと共に、高炉スラグの水硬性に重要な元素である。肥料や製鋼スラグでは、Alの含有量を表記する際には、酸化物のAl
2O
3に換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではAl
2O
3としてAlの含有量を表わすこととする。
【0085】
Al
2O
3の含有量が8質量%未満となる高炉スラグ、及び、Al
2O
3の含有量が20質量%超過となる高炉スラグは、通常の製銑プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。また、高炉スラグのAl
2O
3の含有量が8質量%以上であれば、Alは、CaやSiと共に水硬性を示すことができる。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いる高炉スラグのAl
2O
3の含有量は、1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。ただし、より水硬性を高めて固結を促進したい場合には、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのAl
2O
3の含有量を、10質量%以上25質量%以下とすることがより好ましい。
【0086】
なお、Al
2O
3の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0087】
●高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグについて
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグとしては、上記のような所定の成分を含有する高炉スラグの他に、鉄鋼製造プロセスから副生される高炉スラグの一種である、高炉徐冷スラグ、又は、高炉水砕スラグを用いることも可能である。鉄鋼製造プロセスから副生される高炉スラグには、製造方法の違いに起因して成分は同じであるが化学的性質の異なる、高炉徐冷スラグと高炉水砕スラグとが存在する。これら2種類のスラグは、高炉スラグの一種である。
【0088】
上記のような高炉徐冷スラグ及び高炉水砕スラグについても、上記の所定量の成分を含有する高炉スラグと同様の成分を含有しているが、その含有量は、上記高炉スラグにおける諸成分の含有量とは異なる場合がある。しかしながら、高炉徐冷スラグや高炉水砕スラグであれば、上記の所定量の成分を含有する高炉スラグとは異なる含有量の成分が存在していたとしても、本実施形態において各種種子を被覆するための高炉スラグとして利用することが可能である。
【0089】
ここで、各スラグが有している固結性という観点では、高炉徐冷スラグと比較して、高炉水砕スラグの方が高い固結性を有している。そのため、本実施形態において各種種子を被覆するための高炉スラグとしては、高炉水砕スラグを用いることがより好ましい。
【0090】
また、アルカリ刺激材として機能する製鋼スラグを高炉水砕スラグに混合することで、本実施形態に係る被覆層の固結速度をより一層速めるとともに、被覆層をより安定に固結させることが可能となる。この際、高炉水砕スラグに混合する製鋼スラグの量は、特に規定するものではないが、例えば、高炉水砕スラグの全体質量に対して、1質量%〜20質量%程度とすることが好ましい。また、高炉水砕スラグに混合する製鋼スラグは、特に規定するものではなく、脱リンスラグや脱炭スラグを含む、転炉製鋼プロセスにより副生される公知の製鋼スラグを用いることが可能である。
【0091】
●高炉スラグにおける各成分の含有量の測定方法
先だって説明したように、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる各種高炉スラグにおける各成分の含有量は、蛍光X線分析法により測定することが可能である。より詳細には、着目する成分について、含有量が既知である標準サンプルを利用して、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を予め測定することで、検量線を作成しておく。含有量が未知のサンプルについては、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を測定し、予め作成しておいた検量線を用いることで、着目する成分の含有量を特定することができる。
【0092】
着目する蛍光X線のピークについては、特に限定するものではないが、例えば、Ca、Si、Mg、Al等の蛍光X線ピークに着目すればよい。
【0093】
なお、各種高炉スラグにおける各成分の含有量の測定方法は、上記のような蛍光X線分析法に限定されるものではなく、その他の公知の分析手法を適宜利用することが可能である。
【0094】
●高炉スラグの粒径について
本実施形態では、上記のような高炉スラグを、粉砕等により所定の粒径に調整したものを、そのままで各種種子の被覆に用いることが可能である。これらの高炉スラグの粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロッドミル、ボールミル、ロールミル、ローラーミルなどの公知の手段を用いることができる。
【0095】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグの粒径は、粒径が細かい方が固化しやすいことから、粒径を所定の値以下まで細かくすることが好ましい。本発明者が検討を行った結果、粒径を600μm未満に調整した高炉スラグは、各種種子への付着性が上がる傾向があり、効果が高いことが明らかとなった。従って、本実施形態に係る被覆層の主成分として用いられる高炉スラグの粒径は、全て600μm未満とすることが好ましい。例えば、孔径600μmの篩を用いて高炉スラグをふるい分けし、かかる篩の目を通過した高炉スラグの粒径は、600μm未満である。より細かな粒径の高炉スラグの方が各種種子への付着性を上げるためには好ましいが、粉砕・分級にはコストや時間を要する場合には、過度の微細化は必ずしも必要ではない。
【0096】
また、本実施形態においては、被覆層に用いられる高炉スラグの粒径は、孔径180μmの篩、より好ましくは孔径75μmの篩を通過するものであることが好ましい。
【0097】
孔径180μmの篩を通過できない高炉スラグの場合、各種植物種子のうち小さなサイズの種子への付着性が悪くなるため、種子を被覆しづらくなる可能性がある。また、孔径75μmの篩を通過する高炉スラグ(以下、「高炉スラグ微粉末」ともいう。)を用いることで、本実施形態に係る被覆層の固結速度を速めることが可能となる。高炉スラグの粒径が細かくても、高炉スラグ粒子間の空隙率は十分確保されるため、鉄粉被覆のような緻密となることはなく、酸素や水の透過が抑制されることはない。従って、種子被覆に用いる高炉スラグの粒径は、固結性の観点からすれば、孔径180μmの篩を通過するものが好ましく、更には孔径75μmの篩を通過するものがより好ましい。
【0098】
なお、被覆層を構成する高炉スラグの粒径を事後的に測定する際には、被覆層を有する被覆種子から被覆層を剥離した上で、剥離した被覆層を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等の公知の測定機器により測定すればよい。
【0099】
[石炭灰について]
石炭灰(フライアッシュ)は、石炭を燃焼させる際に生じる灰の一種であり、SiO
2及びAl
2O
3を主成分とする物質である。一般的な石炭灰は、40質量%〜75質量%のSiO
2と、15質量%〜35質量%のAl
2O
3と、2質量%〜20質量%のFe
2O
3と、1質量%〜10質量%のCaOと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多く、更に、MgO等の他の成分を含有していることもある。かかる構成成分からも明らかなように、石炭灰は、製鋼スラグや高炉スラグと類似した成分を含有しており、固結性を補助する物質である。かかる石炭灰を被覆層に含有させることで、石炭灰が結合材として機能し、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
【0100】
被覆層に含有される石炭灰は、孔径75μmの篩を通過する石炭灰であることが好ましい。換言すれば、被覆層に含有される石炭灰の粒径は、75μm未満であることが好ましい。石炭灰の粒径を75μm未満とすることで、被覆層の固化速度を速めることが可能となり、より容易に被覆層を固結させることが可能となる。なお、石炭灰の粒径は、小さければ小さいほど好ましいが、分級にはコストや時間を要するため、過度に微細粒を用いる必要はない。
【0101】
なお、被覆層に含有されうる石炭灰の含有量は、被覆層の全体質量に対して、0質量%超20質量%以下であることが好ましい。被覆層の全体質量に対する石炭灰の割合が20質量%を超える場合、石炭灰の割合が高すぎるために、固結度が低下したり、種子の発芽率が下がったりする可能性が生じうる。
【0102】
●石炭灰における各成分の含有量の測定方法
先だって説明したように、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる石炭灰における各成分の含有量は、蛍光X線分析法により測定することが可能である。より詳細には、着目する成分について、含有量が既知である標準サンプルを利用して、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を予め測定することで、検量線を作成しておく。含有量が未知のサンプルについては、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を測定し、予め作成しておいた検量線を用いることで、着目する成分の含有量を特定することができる。
【0103】
着目する蛍光X線のピークについては、特に限定するものではないが、例えば、Ca、Si、Fe、Al等の蛍光X線ピークに着目すればよい。
【0104】
なお、石炭灰における各成分の含有量の測定方法は、上記のような蛍光X線分析法に限定されるものではなく、その他の公知の分析手法を適宜利用することが可能である。
【0105】
[被覆層形成用の混合物に含有されるその他の成分について]
◇石膏、セメント、鉄粉、廃糖蜜について
また、本実施形態に係る被覆層には、上記のような製鋼スラグ、高炉スラグ又は石炭灰の少なくとも何れかに加えて、石膏、セメント、鉄粉、及び、廃糖蜜からなる群より選択される少なくとも1種が更に含有されていてもよい。
【0106】
●石膏、セメントについて
石膏及びセメントは、固結性を有する物質であり、結合材として機能する。従って、かかる石膏又はセメントの少なくとも何れかを被覆層に含有させることで、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
【0107】
ここで、一般的なセメントは、62質量%以上67質量%以下のCaOと、19質量%以上24質量%以下のSiO
2と、0.5質量%以上3質量%以下のMgOと、2質量%以上6質量%以下のFe
2O
3と、2質量%以上7質量%以下のAl
2O
3と、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多い。
【0108】
なお、被覆層に含有されうる石膏又はセメントの含有量は、被覆層の全体質量(より詳細には、製鋼スラグ、高炉スラグ及び石炭灰の合計質量)に対して20質量%以下であることが好ましい。被覆層の全体質量に対する石膏又はセメントの割合がそれぞれ20質量%を超える場合、石膏又はセメントの割合が高すぎるために、種子の発芽率を下げる可能性が生じうる。
【0109】
なお、上記のような石膏やセメントは、被覆層に混合してもよいが、石膏又はセメントを用いて被覆層を被覆することも可能である。
【0110】
●鉄粉について
鉄粉は、比重が大きい物質である。そのため、被覆層に鉄粉を含有させることで、被覆種子の重量を増加させ、種子を流亡しにくくさせることが可能となる。被覆層に含有されうる鉄粉の含有量は、製鋼スラグ及び/又は高炉スラグに由来するFe単体の含有量とあわせて、0質量%超20質量%未満となることが好ましい。
【0111】
●廃糖蜜について
廃糖蜜は、サトウキビ等の搾り汁から砂糖を精製する際に副産される黒褐色の液体であり、糖分を70〜80%程度含むほか、ミネラルやビタミンも含有している。また、廃糖蜜は、副産物であることから安価に入手可能である。廃糖蜜は、特に、植物の細胞生長に必要なカリウムを2%程度含んでいる。カリウムは、植物の根から吸収され、植物細胞の生長に必要な成分である。従って、被覆層に廃糖蜜を含有させることで、被覆層から廃糖蜜由来のカリウムを供給することが可能となり、幼植物の生長を更に促進することも期待できる。また、廃糖蜜は粘着性を有することから、廃糖蜜を被覆層に含有させることで、被覆層の固化と種子への付着の安定性を補強できると共に、廃糖蜜に含まれる成分が発芽後の幼根の生長を、製鋼スラグ及び高炉スラグによる肥料効果に加えて、より促すことが可能となる。
【0112】
◇アルギン酸化合物について
本実施形態に係る被覆層は、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム等といった、アルギン酸由来の化合物(アルギン酸化合物)を含有していてもよい。
【0113】
アルギン酸ナトリウムは、藻類である褐藻等に含まれる多糖類の一種である。アルギン酸ナトリウムの水溶液に対してCaやMgを添加すると、ゲル化する性質がある。製鋼スラグ及び高炉スラグは、CaとMgを含有するため、製鋼スラグや高炉スラグの表面にアルギン酸ナトリウム水溶液を付加することによってゲル化が起こり、製鋼スラグや高炉スラグを含有する被覆層の種子への付着の安定性を補強することが可能となる。また、アルギン酸ナトリウムも用いて作製した被覆種子を土壌に直播すると、アルギン酸ナトリウムは、土壌微生物の作用により分解されて、アルギン酸オリゴ糖となる。アルギン酸オリゴ糖は、被覆層の製鋼スラグに含まれるミネラルと結合して、植物根へのミネラル吸収を助ける効果があり、発芽後の幼植物の生長を促進する効果が期待できる。
【0114】
なお、上記のようなアルギン酸ナトリウムは、製鋼スラグ中に存在するカルシウムと一部反応して、アルギン酸カルシウムとして被覆層に存在する可能性がある。同様に、高炉スラグ中にマグネシウムが存在する場合、アルギン酸ナトリウムは、高炉スラグ中のマグネシウムと一部反応して、アルギン酸マグネシウムとして被覆層に存在する可能性がある。従って、本実施形態に係る被覆層に対してアルギン酸ナトリウムを浸透させた場合、被覆層中には、アルギン酸ナトリウムだけでなく、アルギン酸カルシウムやアルギン酸マグネシウムが存在する可能性がある。これらアルギン酸カルシウム及びアルギン酸マグネシウムについても、アルギン酸ナトリウムと同様に土壌微生物の作用により分解されて、アルギン酸オリゴ糖となる。アルギン酸オリゴ糖は、被覆層の製鋼スラグや高炉スラグに含まれるミネラルと結合して、植物根へのミネラル吸収を助ける効果があり、発芽後の幼植物の生長を促進する効果が期待できる。
【0115】
[被覆層の気孔率について]
上記のような各種の製鋼スラグを含有する被覆層の気孔率は、17〜50%とすることが好ましい。かかる被覆層の気孔率は、被覆層に含有される製鋼スラグの粒径を調整することで、所望の値に制御することが可能であり、気孔率の具体的な値は、種子の適正に応じて適宜調整すればよい。酸素供給性や保水性を好適に維持するためには、被覆層の気孔率は、好ましくは20〜40%であり、更に好ましくは20〜30%である。
【0116】
なお、被覆層の気孔率は、以下のようにして測定することが可能である。
まず、被覆層を有する種子を各種の樹脂に埋め込み、公知の方法により研磨することで、測定サンプルを準備する。次に、得られた測定サンプルにおける被覆層の断面を、所定の倍率に設定された光学顕微鏡により観察し、視野中の種子被覆物の面積に占める気孔の面積を算出して、気孔率とする。なお、観察は複数の視野(例えば、5視野程度)で実施し、各視野において得られた気孔率の複数視野間での平均値を求め、被覆層の気孔率とする。なお、被覆層と後述する薬剤層とは、粒径の均質性が明確に異なるため、顕微鏡観察により両者を見分けることが可能である。また、両者をより確実に見分けるためには、例えば、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いることも可能である。これにより、被覆層と薬剤層の構成元素を区別することで、被覆層と薬剤層とを見分けることが可能となる。
【0117】
以上、本実施形態に係る被覆種子における被覆層について、詳細に説明した。
【0118】
<薬剤層について>
本実施形態に係る被覆種子で着目する有機物である、除菌剤、除虫剤、除草剤等の薬剤(農薬)の多くは、強アルカリ性で分解してしまうことが知られている。そのため、本実施形態に係る被覆種子が有する薬剤層において、除菌剤、除虫剤、除草剤等の薬剤を担持する際には、強アルカリ性に薬剤成分が曝されないようにすることが重要である。ここで、被覆層の主成分として用いられる製鋼スラグ、高炉スラグ、及び、石炭灰は、それぞれ、pH11〜12、pH10〜11、pH11〜12程度のアルカリ性である。そのため、アルカリ性で分解しやすい薬剤を、被覆層の主成分である製鋼スラグ、高炉スラグ、及び、石炭灰と混合することはできない。
【0119】
そこで、本実施形態に係る被覆種子では、種子をまず、上記のような成分を含有する被覆層で被覆した後、被覆層の表面に付着するように除菌剤、除虫剤、除草剤等の薬剤を担持させて、薬剤層とする。これにより、種子にとって有害なこれら薬剤を、被覆層の存在によって物理的にブロックして、種子に到達させなくすることが可能となる。また、上記のような薬剤が被覆層内を種子に向かって移動する際に、被覆層に含有されている製鋼スラグ、高炉スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかによるアルカリ性によって、これら薬剤をアルカリ分解して無害化することができ、これら有害な薬剤種子への吸収を防止することが可能となる。
【0120】
これら薬剤は、種子に吸収されることにより、植物の生長への影響も問題になるが、植物体に取り込まれることで残留農薬となり、植物体や得られる種子、果実等の作物を摂食する人や様々な生物に対して、悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0121】
ここで、上記特許文献1等に開示されている鉄粉で被覆した種子においても、農薬の種子への直接の吸収を避けるために、鉄粉で種子を被覆した後、被覆物の表面に農薬を担持させることも考えられる。しかしながら、かかる場合、農薬は、鉄粉の被覆層によって物理的に種子への接近をブロックされるのみであり、本実施形態に係る被覆層におけるアルカリ分解のような、薬剤の無害化による種子への薬剤吸収の防止効果は期待できない。
【0122】
また、本実施形態に係る被覆層の主成分として用いられる製鋼スラグ、高炉スラグ、及び、石炭灰は、鉄粉とは異なり、生石灰(CaO)等の各種ミネラル由来の除菌・除虫成分を含むため、単独でも、除菌・除虫などの効果を奏することができる。一方で、上記のような各種農薬の除菌・除虫・除草の効果成分は、主に有機物である。そのため、有機物による除菌・除虫・除草の効果と、ミネラルによる除菌・除虫の効果とは、相補的に異なることが期待できる。従って、被覆層により被覆された種子に対して、上記のような農薬を担持させることができれば、製鋼スラグ、高炉スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかの効果と、農薬の効果と、を相補的に発揮させることが可能となる。更に、製鋼スラグ、高炉スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかで被覆し、農薬を担持させた種子では、製鋼スラグ、高炉スラグ、及び、石炭灰のそれぞれが発芽後の植物の根の生長に肥料効果のあるCa等の元素を含んでいることから、除菌・除虫効果に加えて、かかる肥料効果により、発芽後の植物の生長を更に促進させることが期待できる。
【0123】
一方で、鉄粉で被覆し、農薬を担持させた種子では、除菌・除虫効果は、あくまで農薬単独の効果である。また、溶出した鉄イオンは、発芽後の根に対して肥料効果がなく、溶出した鉄イオンから生成される水酸化鉄は、発芽後の根の表面を覆ってしまい、根の生長や吸水、ミネラル吸収を阻害するために有害である。
【0124】
以上のように、製鋼スラグ、高炉スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかで被覆し、農薬を担持させた種子では、製鋼スラグ、高炉スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかによる、除菌・除虫効果及び肥料効果と、担持した農薬による除菌・除虫・除草効果と、が組み合わさって、相補的かつ相乗的に効果を発揮することが期待できる。
【0125】
以下では、上記のような特徴を有する本実施形態に係る薬剤層について、より詳細に説明する。
【0126】
本実施形態に係る被覆種子において、上記のような被覆層の上層には、除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかを含有する薬剤層が設けられる。薬剤層として被覆層の表面に担持されたこれらの薬剤により、被覆種子が播種される土壌や被覆種子そのものに対して、該当する薬剤の薬効が実現される。
【0127】
◇除菌剤について
薬剤層として担持されうる除菌剤は、被覆種子の素材として用いられる種子に対して利用可能なものであれば、特に限定されるものではなく、公知の各種の除菌剤を用いることが可能である。このような除菌剤として、例えば、チウラム等のジチオカルバメート系除菌剤、イソチアニル、フラメトピル、エタボキサム、2−[(2,5−ジメチルフェノキシ)メチル]−α−メトキシ−N−メチル−ベンゼンアセトアミド、ベノミル、オキソリニック酸、プロベナゾール、チアジニル、ピロキロン及びジクロシメットからなる群より選択される1つ以上を挙げることができる。
【0128】
◇除虫剤について
薬剤層として担持されうる除虫剤は、被覆種子の素材として用いられる種子に対して利用可能なものであれば、特に限定されるものではなく、公知の各種の除虫剤を用いることが可能である。このような除虫剤として、例えば、フェニトロチオン等の有機リン系除虫剤、クロチアニジン、ニテンピラム、ベンスルタップ、チアメトキサム、ジノテフラン、ピメトロジン、スルホキサフロル、ベンフラカルブ、カルボスルファン及びカルタップ塩酸塩からなる群より選択される1つ以上を挙げることができる。
【0129】
◇除草剤について
薬剤層として担持されうる除草剤は、被覆種子の素材として用いられる種子に対して利用可能なものであれば、特に限定されるものではなく、公知の各種の除草剤を用いることが可能である。このような除草剤として、例えば、パラコートジクロリド等のパラコート系除草剤を挙げることができる。
【0130】
また、上記の除草剤以外にも、エスプロカルブ、ピリブチカルブ、ベンチオカーブ、モリネート等のカーバメート系化合物、エトベンザニド、カフェンストロール、テニルクロール、ブタクロール、プレチラクロール、ブロモブチド、メフェナセット等の酸アミド系化合物、トリフルラリン等のジニトロアニリン系化合物、アジムスルフロン、イマゾスルフロン、エトキシスルフロン、シクロスルファムロン、ハロスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、フルセトスルフロン、プロピリスルフロン、ベンスルフロンメチル、チフェンスルフロンメチル等のスルホニルウレア系化合物、ピリミスルファン等のスルホンアニリド系化合物、ベンタゾン等のダイアジン系化合物、オキサジアゾン、オキサジアルギル、ピラクロニル、ピラゾキシフェン、ピラゾレート、ピラフルフェンエチル、ベンゾフェナップ等のダイアゾール系化合物、ジメタメトリン、シメトリン、プロメトリン等のトリアジン系化合物、テフリルトリオン、メソトリオン等のトリケトン系化合物、クミルロン、ダイムロン等の尿素系化合物、ジクワット、パラコート等のビピリジウム系化合物、ビスピリバックナトリウム塩、ピリミノバックメチル、ペノキススラム等のピリミジルオキシ安息香酸系化合物、2,4−D、MCPA、キザロホップ、クロメプロップ、シハロホップ、シハロホップブチル、ハロキシホップ、クロジナホップ等のフェノキシ酸系化合物、イソキサフルトール等のイソキサゾール系化合物、イマゼタピル等のイミダゾリノン系化合物、ブタミホス等の有機リン系化合物、ジカンバ等の芳香族カルボン酸系化合物、インダノファン、オキサジクロメホン、カルフェントラゾンエチル、キノクラミン、ピリフタリド、フェントラザミド、ベンゾビシクロン、ペントキサゾン、及び、ベンフレセートからなる群より選択される1つ以上を用いることが可能である。
【0131】
上記の除菌剤、除虫剤、除草剤の化合物は、いずれも公知の化合物であり、市販の製剤を利用することも可能であるし、公知の製造方法により製造することも可能である。
【0132】
なお、本実施形態において、上記の薬剤は、通常、有効成分と不活性担体とを混合し、必要に応じて界面活性剤やその他の製剤用補助剤を添加して、粉剤、フロアブル剤、水和剤、顆粒水和剤、水溶剤、顆粒水溶剤等に製剤化されているものを用いることが好ましい。また、有効成分の溶出が制御された製剤を用いてもよい。
【0133】
製剤化の際に用いられる不活性担体としては、固体担体、液体担体が挙げられる。
固体担体としては、例えば粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化ケイ素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末及び粒状物、並びに、合成樹脂(ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン−6、ナイロン−11、ナイロン−66等のナイロン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−プロピレン共重合体等)が挙げられる。
また、液体担体としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノキシエタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ドデシルベンゼン、フェニルキシリルエタン、メチルナフタレン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等)、酸アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、炭酸プロピレン及び植物油(大豆油、綿実油等)が挙げられる。
【0134】
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤が挙げられる。
【0135】
その他の製剤用補助剤としては、固着剤、分散剤、着色剤及び安定剤等、具体的にはカゼイン、ゼラチン、糖類(でんぷん、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールと3−tert−ブチル−4−メトキシフェノールとの混合物)等が挙げられる。
【0136】
◇薬剤の含有量について
ここで、本実施形態に係る被覆種子において、上記のような除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかの薬剤の含有量は、被覆前の種子の乾燥質量に対して、0.01質量%〜1質量%であることが好ましい。薬剤の含有量を、0.01質量%〜1質量%とすることで、被覆層による除菌・除虫効果及び肥料効果と、薬剤層による除菌・除虫・除草効果とを、相補的かつ相乗的に組み合わせつつ、より確実に実現させることが可能となる。薬剤の含有量が0.01質量%未満である場合、担持する薬剤による除菌・除虫・除草効果が十分に発揮されない可能性があるため、好ましくない。一方、薬剤の含有量が1質量%を超える場合には、本実施形態に係る被覆層を設けた場合であっても担持している薬剤の種子への移動を抑制することができない可能性があるため、好ましくない。本実施形態に係る被覆種子において、上記のような除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかの薬剤の含有量は、より好ましくは、被覆前の種子の乾燥質量に対して、0.05質量%〜0.5質量%である。
【0137】
なお、本実施形態に係る薬剤層には、上記のような薬剤成分に加えて、先だって説明したようなアルギン酸化合物が含有されていてもよい。
【0138】
以上、本実施形態に係る被覆種子における薬剤層について、詳細に説明した。
【0139】
<薬剤被覆層について>
本実施形態に係る被覆種子では、上記被覆層及び薬剤層に加えて、薬剤層の表面に位置する薬剤被覆層が設けられていてもよい。かかる薬剤被覆層は、水及び酸素といった、種子の発芽及び生育に必要な物質を種子側に透過させるとともに、薬剤層に担持されている上記除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかを、種子が栽培される栽培地へと透過させる層である。
【0140】
また、かかる薬剤被覆層を設けることで、薬剤層に担持されている上記除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかが、一度に栽培地へと拡散していくことを抑制して、上記除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかの薬効をより長期間保持することが可能となる。
【0141】
かかる薬剤被覆層の素材としては、薬剤被覆層が水、酸素、上記薬剤等の移動が可能な程度の空孔径を有する構造となるものであれば、任意の公知の材料を用いることが可能である。かかる材料としては、例えば、ウレタンなどの有機体、セラミックス、シリカ、及び、ゼオライト等を挙げることができ、これらの素材を組み合わせて使用することも可能である。
【0142】
ここで、薬剤被覆層の付着量は、被覆前の種子の乾燥質量に対して、20質量%〜100質量%であることが好ましい。薬剤被覆層の付着量を20質量%〜100質量%とすることで、種子の発芽・生育を妨げることなく、薬剤層に担持されている上記薬剤の拡散を、より長期間抑制することが可能となる。薬剤被覆層の付着量が20質量%未満である場合には、薬剤層を十分に保持しておくことができずに、薬剤層の栽培地への適度な拡散度合いを実現することが困難となることがある。一方、薬剤被覆層の付着量が100質量%を超える場合には、製鋼スラグ、高炉スラグ、及び、石炭灰からなる群より選択される少なくとも1種を含有する被覆層と薬剤被覆層による被覆物とが厚くなることにより、種子の発芽を抑制することがある。薬剤被覆層の付着量は、より好ましくは、40質量%〜80質量%である。
【0143】
なお、本実施形態に係る薬剤被覆層には、上記のような材料の空隙中に、先だって説明したようなアルギン酸化合物が保持されていてもよい。
【0144】
以上、本実施形態に係る被覆種子における薬剤被覆層について、簡単に説明した。
【0145】
(被覆種子の製造方法について)
続いて、本実施形態に係る被覆種子の製造方法について、詳細に説明する。
本実施形態に係る被覆種子の製造方法は、製鋼スラグ、高炉スラグ、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも1種と、水と、を混合して得られる混合物により、所定の種子を被覆するステップと、かかる混合物で被覆された種子を、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを含有する薬剤で処理するステップと、を含む。
【0146】
<混合物により種子を被覆するステップについて>
混合物により種子を被覆するステップでは、製鋼スラグ、高炉スラグ、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも1種と、水と、を混合して得られる混合物により、所定の種子を被覆する。
【0147】
ここで、上記混合物における水の質量割合(すなわち、混合物の全体の質量に対する水の質量割合)は、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。上記混合物における水の質量割合が10質量%未満である場合、上記スラグ等の種子表面への付着性が悪くなり、被覆が難しくなる可能性が高くなる。一方、上記混合物における水の質量割合が80質量%を超える場合、水の割合が高すぎるため、種子の表面を上記スラグ等で被覆することができなくなる可能性が高くなる。従って、上記混合物における水の質量割合は、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。スラグ等を用いた種子被覆を安定的に成功させるためには、水の質量割合を25質量%以上50%質量以下とすることがより好ましい。
【0148】
また、上記混合物に対して、石膏、鉄粉、又は、セメントの少なくとも何れかを混合してもよい。なお、混合物に対して、石膏、鉄粉又はセメントの少なくとも何れかを添加する場合、各成分の質量割合は、先だって言及したような含有量を超えないことが好ましい。
【0149】
ここで、スラグ等で種子を被覆する際、先だって言及したように、種子表面に存在する剛毛により、被覆層の種子表面への密着性が弱くなるという現象が生じる可能性がある。この現象を解決するために、種子を予めでんぷん水溶液に浸漬した後、スラグ等で被覆してもよい。ここで、でんぷん水溶液の濃度(すなわち、水溶液の全体の質量に対するでんぷんの質量割合)は、40質量%〜80質量%であることが好ましい。でんぷん水溶液に種子を浸漬した後、種子をスラグ等で被覆することにより、1粒の種子の質量と被覆層の質量との比を、1:0.6〜1:2程度にまで高めることが可能である。
【0150】
次に、上記のような混合物により、上記のような植物種子を被覆する方法について説明する。予め上記のような混合物を作製し、この混合物と上記の植物種子とを混合させることで、用いた種子の表面をスラグ等により被覆して、種子の表面に被覆層を形成することができる。また、上記スラグ等と水と種子とを一緒に混合させることでも可能である。混合物と種子とを混合する方法は、特に限定されるものではない。大量に処理する場合には、例えば、回転式造粒機を用いて混合して、種子を上記スラグ等で被覆することも可能である。
【0151】
また、スラグ等を用いて被覆層を形成した種子に対して、更に外側から石膏で被覆することも可能である。スラグ及び石膏を用いて種子を二重に被覆することにより、スラグ等の被覆による種子への密着性を高めることができる。被覆層の形成された種子を外側から石膏で被覆する方法としては、例えば、スラグ等で被覆し、乾燥させた被覆種子を、石膏の水懸濁物に浸漬して取り出して、室温で乾燥させるという方法を用いることで実行可能である。石膏の水懸濁物の濃度は、例えば20質量%〜60質量%であることが好ましい。
【0152】
なお、上記スラグ等による種子の被覆量であるが、特に限定されるものではない。より好ましくは、種子の質量を1とした場合に、0.1〜2程度の質量の上記スラグ等を用いて、かかる種子を被覆することが好ましい。通常、スラグ等と水とを混合した混合物に対して種子を混合するのみで実現される被覆量は、上記範囲に入るものとなる。しかしながら、スラグ等が種子の表面に全面被覆されていない場合には、再度、スラグ等と水とを混合した混合物に対して種子を混合することが好ましい。
【0153】
また、上記スラグの固結を高めるために、硫酸カルシウム、生石灰、消石灰等を、スラグ等、スラグ等と水との混合物、又は、スラグ等と水と種子との混合物の何れかに対して加えることも有効である。
【0154】
◇被覆種子の製造の際に用いる水について
ここで、スラグ等と水との混合物により種子を被覆する際に、スラグ等に対して混合する水であるが、純水のほか、水道水、地下水、農業用水等を使用することも可能であるが、廃糖蜜を含有する水を用いることがより好ましい。廃糖蜜を含有する水を用いることで、廃糖蜜の粘着性を利用して被覆層の固化と種子への付着の安定性を補強できると共に、廃糖蜜に含まれる成分が発芽後の幼根の生長を、スラグによる肥料効果に加えて、より促すことができる。
【0155】
廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合が、全体質量に対して10質量%未満である場合、スラグ等からなる被覆層の固化と種子への付着安定性を補強する効果が、明確に発現しづらくなる。一方、廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合が、全体質量に対して50質量%を超える場合、スラグ等と、この廃糖蜜を含有する水と、を混合すると、スラグ等がダマになってしまい、種子に付着しづらくなる。従って、廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合は、全体質量に対して10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0156】
◇アルギン酸ナトリウム水溶液を用いる被覆種子の表面処理について
先だって言及したように、製鋼スラグ、高炉スラグ又は石炭灰の少なくとも何れか一方等を含む被覆層の表面にアルギン酸ナトリウム水溶液を付加することによって、ゲル化が起こり、スラグ等を含む被覆層の種子への付着の安定性を補強することが可能となる。
【0157】
被覆層の表面へのアルギン酸ナトリウム水溶液の付加方法であるが、例えば、スラグ等を含む被覆層の表面に対して、アルギン酸ナトリウム水溶液を噴霧したり、散水したりすることで、被覆層中にアルギン酸ナトリウム水溶液を浸透させる方法がある。また、スラグ等を含む被覆層を形成した種子を、アルギン酸ナトリウム水溶液に被覆層が剥離しないように注意して短時間浸すなどの方法を行うことも可能である。なお、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が、水溶液の全体質量に対して0.5質量%未満の場合には、アルギン酸ナトリウムの濃度が低すぎるため、ゲル化がしっかりと起こらず、被覆層の種子への付着の安定性を補強する効果が発現しない可能性がある。また、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が、水溶液の全体質量に対して5質量%を超える場合には、ゲルが強固になりすぎて、発芽を抑制する可能性がある。従って、スラグ等を含む被覆層の表面に付加するアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は、水溶液の全体質量に対して0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。なお、アルギン酸ナトリウム水溶液を噴霧又は散水して付加する場合のアルギン酸ナトリウム水溶液の量は、被覆層の表面全面を湿らせる程度の量でよい。
【0158】
<混合物で被覆された種子を薬剤で処理するステップについて>
本実施形態に係る被覆種子の製造方法では、上記のような混合物で被覆された種子を、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを含有する薬剤で処理する。以下では、この薬剤処理ステップについて、詳細に説明する。
【0159】
本実施形態に係る薬剤処理ステップでは、混合物で被覆された種子の表面(すなわち、被覆層の表面)に対して、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを含有する薬剤を接触するように担持させてもよい。
【0160】
また、本実施形態に係る薬剤処理ステップでは、混合物で被覆された種子の表面に対して所定の展着剤を付着させた上で、展着剤の付着した種子に対して、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを含有する薬剤を接触するように担持させてもよい。
【0161】
また、本実施形態に係る薬剤処理ステップでは、所定の展着剤と、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかと、を含む薬剤混合物を予め準備しておき、混合物で被覆された種子の表面に対して、かかる薬剤混合物を付着させてもよい。
【0162】
上記のような何れかの方法を用いることにより、アルカリ性で分解されやすい農薬も含めて、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを含有する薬剤を被覆層の表面に担持させて、薬剤層とすることができる。
【0163】
ここで、上記の展着剤としては、特に限定されるものではなく、公知の任意の展着剤を利用することが可能である。かかる展着剤としては、例えば、流動パラフィン、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、リグニンスルホン酸カルシウム、石膏、でんぷん、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0164】
ここで、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを含む薬剤を担持させる際に、薬剤の含有量が上記の範囲となるように、用いる薬剤の量を調整することが好ましい。
【0165】
また、上記のようにして形成される薬剤層の表面に対し、被覆層の場合と同様にしてアルギン酸ナトリウム水溶液を浸透させることで、薬剤層にアルギン酸化合物を導入することが可能となる。
【0166】
<薬剤被覆層を形成するステップについて>
また、本実施形態に係る被覆種子の製造方法では、上記のような薬剤層が形成された被覆種子の表面を、上記のような材料で処理することで、薬剤層の表面に薬剤被覆層を形成してもよい。
【0167】
ここで、薬剤層の表面に薬剤被覆層を形成する方法については、特に限定されるものではなく、種子の表面に被覆層を形成する方法と同様にして実施すればよい。すなわち、有機体、セラミックス、シリカ、及び、ゼオライトからなる群より選択される少なくとも何れかの材料と、水と、を含む混合物を、被覆層を形成する方法と同様にして準備し、得られた混合物を用いて、薬剤層の形成された被覆種子を処理すればよい。
【0168】
また、上記のようにして形成される薬剤被覆層の表面に対し、被覆層の場合と同様にしてアルギン酸ナトリウム水溶液を浸透させることで、薬剤被覆層にアルギン酸化合物を担持させることが可能となる。
【0169】
なお、上記説明において、スラグ等の組成は、水と混合する前の組成で示している。水と混合した後にスラグの組成を確認するためには、水を蒸発させて乾燥させた状態でスラグを回収し、回収したスラグの組成を調べればよい。このように、被覆する前のスラグの成分組成と、被覆後のスラグの成分組成とは、殆ど変わらない。
【0170】
スラグ等を含む被覆層で被覆された種子は、例えば風通しのよいところ等で空気乾燥させた後、直播に用いることができる。被覆をすることで通気性が悪くなり、種子の呼吸が抑制されるため、被覆後なるべく早い時期に播種することが好ましい。可能であれば、被覆後4日以内に播種することが好ましい。
【0171】
ただし、被覆後半年間程度までであれば、被覆種子を保管して直播に用いることも可能である。
【0172】
上記のように、製鋼スラグ、高炉スラグ又は石炭灰の少なくとも何れか等を用いて、簡便かつ安価に被覆された種子を作製することが可能となる。
【0173】
(被覆種子の播種方法について)
続いて、以上説明したような被覆種子の播種方法について、簡単に説明する。
本実施形態に係る被覆種子の播種方法では、以上説明したような被覆種子を、当該種子を栽培するための栽培地に対して直播する。
【0174】
ここで、被覆種子の播種方法については、特に限定されるものではなく、被覆種子に用いた植物の栽培に適した公知の播種方法を採用すればよい。
【実施例】
【0175】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法の一例にすぎず、本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法が下記の例に限定されるものではない。なお、以下に示す本実施例中の稲種子は、水稲の種子である。
【0176】
(実施例1)
以下の表1に示す組成の製鋼スラグを粉砕し、孔径600μmの篩を通過したものと、孔径600μmの篩を通過した鉄粉と、を用いて、稲種子及びトウモロコシ種子を被覆した。
【0177】
具体的には、製鋼スラグと水との混合物、及び、鉄粉と水との混合物をそれぞれ準備し、これらの混合物を、稲種子及びトウモロコシ種子の表面にそれぞれ付着させた。その後、混合物の付着した稲種子及びトウモロコシ種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させた。
【0178】
【表1】
【0179】
続いて、これら被覆層を有する稲種子及びトウモロコシ種子に対して、除菌剤(ジチオカルバメート系除菌剤)であるチウラム水和剤粉末を、被覆層を被覆する前の稲種子、トウモロコシ種子の各乾燥質量に対して0.1質量%となるように各被覆層の表面に粉衣して、薬剤層を形成した。これにより、薬剤層としてチウラムを担持した被覆稲種子及び被覆トウモロコシ種子を得た。なお、粉衣する際、展着剤として、流動パラフィンを用いた。
【0180】
90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、製鋼スラグで被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子、並びに、鉄粉で被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子を各20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して発芽試験を行なった。対照として、無被覆の稲種子及びトウモロコシ種子についても、同様の発芽試験を並行して行なった。得られた発芽試験の結果を、以下の表2に示した。
【0181】
【表2】
【0182】
表2の発芽率の結果より、製鋼スラグで被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子は、無被覆と同様に発芽率が高かった。しかしながら、鉄粉で被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子は、発芽率が低かった。この低い発芽率は、金属鉄の酸化による発熱に起因する高温の影響のためと考えられる。
【0183】
(実施例2)
上記実施例1で作製した、製鋼スラグで被覆し、除菌剤であるチウラムを坦持した稲種子及びトウモロコシ種子を、50粒ずつプラスチック製皿に分散させて配置し、このプラスチック製皿を、風の影響を受けないよう囲いで覆った条件で、野外に載置した。2週間後、鳥に食べられず残った種子数を数え、種子残存率を算出した。対照として、無被覆の稲種子及びトウモロコシ種子に関しても、同様の試験を並行して行なった。得られた残存率の結果を、以下の表3に示した。
【0184】
【表3】
【0185】
上記表3から明らかなように、製鋼スラグで被覆し、除菌剤を坦持した稲種子及びトウモロコシ種子は、いずれも無被覆種子と比べて残存率が高く、鳥に食べられないことがわかった。
【0186】
(実施例3)
上記実施例1で作製した、製鋼スラグで被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子、並びに、鉄粉で被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子に関して、植物体中のチウラム含有量を測定した。
【0187】
具体的には、90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、製鋼スラグで被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子、並びに、鉄粉で被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子を、各20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して2日間静置した。水を吸収して膨潤した、発芽前の各種子を回収し、注意深く被覆物が付着した種皮を外した後、取り出した種皮内部の植物体を、表面を純水で水洗した。その後、植物体表面の付着水を除き、付着水除去後の植物体の質量を測定した。各20検体の植物体を合わせ、ホモジナイズした後、アセトニトリルで抽出した液のチウラムを、固相抽出−高速液体クロマトグラフ質量分析(Liquid Chromatography−Mass Spectrometry:LCMS)法により分析した。得られた植物体質量当たりのチウラム含有量を、以下の表4に示した。
【0188】
【表4】
【0189】
上記表4から明らかなように、製鋼スラグで被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子は、鉄粉で被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子と比較して、種皮内部の植物体に含有されるチウラムの量が少なかった。これは、製鋼スラグによる被覆、及び、鉄粉による被覆の双方について、チウラムの種子への接近を物理的にブロックする効果が認められる一方で、製鋼スラグで被覆した稲種子及びトウモロコシ種子では、製鋼スラグが示すアルカリ性によってチウラムが分解され、植物体へのチウラムの吸収が更に抑制されたためと考えられる。
【0190】
(実施例4)
以下の表5に示す組成の高炉水砕スラグを粉砕し、孔径75μmの篩を通過したものを用意した。20質量%の廃糖蜜を含む水を用いて、かかる高炉水砕スラグと、廃糖蜜を含む水と、の混合物を準備し、この混合物を、稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子の表面にそれぞれ付着させた。その後、混合物の付着した稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子を乾燥させて、種子表面に被覆層を形成させた。
【0191】
【表5】
【0192】
続いて、これら被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子及び被覆大豆種子に対して、除菌剤(ジチオカルバメート系除菌剤)であるチウラム水和剤粉末を、被覆層を被覆する前の稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子の各乾燥質量に対して0.1質量%となるように各被覆層の表面に粉衣して、薬剤層を形成した。これにより、薬剤層としてチウラムを坦持した被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子及び被覆大豆種子を得た。なお、粉衣する際、展着剤として、流動パラフィンを用いた。
【0193】
90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、高炉水砕スラグで被覆した被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子及び被覆大豆種子、並びに、高炉水砕スラグで被覆し、チウラムを担持した被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子及び被覆大豆種子を各20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して発芽試験を行なった。対照として、無被覆の稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子についても、同様の発芽試験を並行して行なった。得られた発芽試験の結果を、以下の表6に示した。
【0194】
【表6】
【0195】
表6の発芽率の結果より、高炉水砕スラグで被覆し、チウラムを担持した稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子は、無被覆の種子、及び、高炉水砕スラグで被覆したのみの種子と同様に、発芽率が高かった。従って、高炉水砕スラグで被覆し、除菌剤を坦持した何れの植物種子についても、良好な発芽率となることがわかった。
【0196】
(実施例5)
上記実施例4で作製した、高炉水砕スラグで被覆した被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子及び被覆大豆種子、並びに、高炉水砕スラグで被覆し、チウラムを担持した被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子及び被覆大豆種子を、50粒ずつプラスチック製皿に分散させて配置し、このプラスチック製皿を、風の影響を受けないよう囲いで覆った条件で、野外に載置した。2週間後、鳥に食べられず残った種子数を数え、種子残存率を算出した。対照として、無被覆の稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子に関しても、同様の試験を並行して行なった。得られた残存率の結果を、以下の表7に示した。
【0197】
【表7】
【0198】
表7に示したように、高炉水砕スラグで被覆し、除菌剤を坦持した稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子は、いずれも無被覆種子と比較して残存率が高く、鳥に食べられないことがわかった。
【0199】
(実施例6)
上記表5に示した組成の高炉水砕スラグを粉砕し、孔径75μmの篩を通過したものを用意した。また、ばか苗病が多発している水田で収穫した稲種子を用意した。20質量%の廃糖蜜を含む水と、上記高炉水砕スラグと、を含む混合物を用いて、ばか苗病多発水田で採取した稲種子の表面に、高炉水砕スラグを付着させた。その後、混合物の付着した稲種子を乾燥させて、種子表面に被覆層を形成させた。
【0200】
続いて、この被覆稲種子に対して、除菌剤であるベノミル水和剤粉末を、被覆層を被覆する前の稲種子の乾燥質量に対して0.1質量%となるように被覆層の表面に粉衣して、薬剤層を形成した。これにより、薬剤層としてベノミルを坦持した被覆稲種子を得た。ベノミルは、ばか苗病の原因菌を殺菌することが可能な殺菌剤である。なお、粉衣する際、展着剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルとリグニンスルホン酸カルシウムとを含む混合液を用いた。
【0201】
稲作を行っている水田土壌に対し、高炉水砕スラグで被覆した被覆稲種子、高炉水砕スラグで被覆し、かつ、ベノミルを担持させた被覆稲種子、及び、対照として無被覆の稲種子を、それぞれ100粒ずつ10cm間隔で直播して、湛水した条件で25日間栽培した。栽培結果から、直播した各100粒の種子から苗が立った数の割合となる苗立ち率と、苗立ちした苗のうち、どのくらいの苗がばか苗病の特徴である徒長苗となったかを示す徒長苗率と、を算出した。得られた苗立ち率及び徒長苗率の結果を、以下の表8に示した。
【0202】
【表8】
【0203】
上記表8の結果から明らかなように、無被覆の稲種子では、直播した稲種子が鳥に食べられたり、又は、水に浮いて流亡したりしたことにより、苗立ち率は、20%であった。かかる無被覆の稲種子では、苗が立ったもののうち、ばか苗病による徒長苗率は、70%と高かった。
【0204】
一方、高炉水砕スラグで被覆した被覆稲種子、及び、高炉水砕スラグで被覆し、かつ、ベノミルを担持した稲種子は、鳥に食べられず、また、水に浮いて流亡することも無かったため、苗立ち率は60%、及び、65%と、無被覆種子の苗立ち率よりも高かった。また、徒長苗率に関しては、高炉水砕スラグで被覆した被覆稲種子で30%と、無被覆稲種子の70%よりも低い値となった。かかる結果は、高炉水砕スラグに含まれる石灰などに起因するアルカリ性により、ばか苗病の原因菌の作用をある程度抑制したものと考えられる。更に、高炉水砕スラグで被覆し、かつ、ベノミルを担持した稲種子では、徒長苗率は5%まで低下した。
【0205】
(実施例7−製鋼スラグと下水汚泥溶融スラグの比較)
表1に示した組成の製鋼スラグを粉砕し、孔径600μmの篩を通過したものと、以下の表9に示す組成の下水汚泥溶融スラグを粉砕し、孔径600μmの篩を通過したものと、を用いて、それぞれ稲種子及びトウモロコシ種子を被覆した。
【0206】
製鋼スラグは、水と混合して乾燥させることで固結する性質がある。しかしながら、下水汚泥溶融スラグは、水と混合して乾燥させても単独では固結できない。そこで、石膏を加えた上で、下水汚泥溶融スラグと石膏と水との混合物を乾燥させ、下水汚泥溶融スラグを固結させた。
【0207】
【表9】
【0208】
具体的には、製鋼スラグと水との混合物、及び、下水汚泥溶融スラグと石膏と水との混合物をそれぞれ準備した。製鋼スラグと水との混合割合は、質量比で2:1とした。下水汚泥溶融スラグと石膏については、下水汚泥溶融スラグと石膏とを質量比80:20で混合したのち、下水汚泥溶融スラグと石膏の混合物と水とを、質量比2:1で混合した。
【0209】
上記2種類のスラグを用いた混合物を、稲種子及びトウモロコシ種子の表面にそれぞれ付着させた。その後、混合物の付着した稲種子及びトウモロコシ種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させた。
【0210】
続いて、これら被覆層を有する稲種子及びトウモロコシ種子に対して、除菌剤(ジチオカルバメート系除菌剤)であるチウラム水和剤粉末を、被覆層を被覆する前の稲種子及びトウモロコシ種子の各乾燥質量に対して0.1質量%となるように各被覆層の表面に粉衣して、薬剤層を形成した。これにより、薬剤層としてチウラムを担持した被覆稲種子及び被覆トウモロコシ種子を得た。なお、粉衣する際、展着剤として、流動パラフィンを用いた。
【0211】
得られた各被覆種子を樹脂に埋め込み、研磨後、光学顕微鏡により被覆物の層の断面を観察した。この被覆物の断面で観察される被覆物の面積に占める気孔の面積を参考にして、各被覆種子における被覆層の気孔率を求めた。得られた結果を、以下の表10に示す。
【0212】
【表10】
【0213】
先だって言及したように、製鋼スラグ及び下水汚泥溶融スラグの双方について、600μmのふるいを通過するほぼ同じサイズのものを種子被覆に使用した。しかしながら、上記表10から明らかなように、製鋼スラグによる被覆層の気孔率の方が、下水汚泥溶融スラグによる被覆層の気孔率よりも大きな値となった。これは、下水汚泥溶融スラグによる被覆層では、固結させるために石膏を加えたことから、製鋼スラグによる被覆層よりも気孔率が小さくなったことが原因と考えられる。
【0214】
これら製鋼スラグで被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子、並びに、下水汚泥溶融スラグで被覆し、チウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子に関して、植物体中のチウラム含有量を測定した。
【0215】
具体的には、90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、製鋼スラグで被覆した上でチウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子、並びに、下水溶融汚泥で被覆した上でチウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子を、各20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して2日間静置した。水を吸収して膨潤した、発芽前の各種子を回収した。まず、pH試験紙を被覆物に接触させて、被覆物のpHを測定した。被覆物のpHの測定結果を、以下の表11に示した。
【0216】
【表11】
【0217】
続いて、注意深く被覆物が付着した種皮を外した後、取り出した種皮内部の植物体を、表面を純水で水洗した。その後、植物体表面の付着水を除き、付着水除去後の植物体の質量を測定した。各20検体の植物体を合わせ、ホモジナイズした後、アセトニトリルで抽出した液のチウラムを、固相抽出−高速液体クロマトグラフ質量分析(Liquid Chromatography−Mass Spectrometry:LCMS)法により分析した。得られた植物体質量当たりのチウラム含有量を、以下の表12に示した。
【0218】
【表12】
【0219】
上記表12から明らかなように、製鋼スラグで被覆した上でチウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子は、下水溶融汚泥で被覆した上でチウラムを担持させた稲種子及びトウモロコシ種子と比較して、種皮内部の植物体に含有されるチウラムの量が少なかった。これは、製鋼スラグによる被覆、及び、下水汚泥溶融スラグによる被覆の双方について、チウラムの種子への接近を物理的にブロックする効果が認められる一方で、製鋼スラグで被覆した稲種子及びトウモロコシ種子では、製鋼スラグが示すアルカリ性によってチウラムが分解され、植物体へのチウラムの吸収が更に抑制されたためと考えられる。特に、製鋼スラグでは気孔率が高いことから、気孔に入り込んだアルカリ性の水が相対的に多量に存在し、チウラムがこのアルカリ性の水の中を移動する過程で、アルカリ性により分解され、植物体中でのチウラム含有量が低下したものと考えられる。これに対して、下水汚泥溶融スラグは気孔率が製鋼スラグよりも小さく、pHも製鋼スラグよりも低いため、チウラムが被覆物中を通過する際、分解が進まず、植物体でチウラムが検出されたことが考えられる。
【0220】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。