(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
(被覆種子について)
まず、本発明の実施形態に係る被覆種子について、詳細に説明する。
本実施形態に係る被覆種子は、所定の成分を含有する製鋼スラグを含み、湛水されない状態で栽培される植物の種子の表面を被覆する被覆層を有している。
【0015】
<種子について>
以下では、まず、本実施形態に係る被覆種子に用いられる種子について、簡単に説明する。
本実施形態に係る被覆種子では、湛水しない状態で栽培される植物の種子が用いられる。ここで、「湛水しない状態で栽培される種子」とは、湛水されて土壌の表面が水中に没することがない状態で栽培される種子を意味する。
【0016】
湛水しない状態で栽培される植物の種子としては、例えば、イネ科植物の種子、マメ科植物の種子、タデ科植物の種子、食用草木植物の種子、及び、有用植物の種子等を挙げることができる。
【0017】
上記のようなイネ科植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のイネ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培されるイネ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、陸稲種子、トウモロコシ種子、麦種子等を挙げることができる。
【0018】
上記のようなマメ科植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のマメ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培されるマメ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ダイズ種子、アズキ種子等を挙げることができる。
【0019】
上記のようなタデ科植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のタデ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培されるタデ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ソバ種子等を挙げることができる。
【0020】
上記のような食用草本植物の種子は、湛水しない陸地で栽培される食用の草木植物(いわゆる野菜)の種子であれば特に限定されるものではなく、公知の食用草木植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培される食用草木植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ニンジン種子、トマト種子、甜菜種子等を挙げることができる。
【0021】
上記のような有用植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の有用植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培される有用植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、芝種子、牧草種子、緑肥用植物種子、花木種子等を挙げることができる。このうち、緑肥用植物とは、栽培された植物を収穫せずにそのまま土壌にすきこみ、後から栽培する作物の肥料とするための植物をいう。このような緑肥用植物として、例えば、ソルガム等を挙げることができる。
【0022】
なお、以上説明したような各種種子の表面には、剛毛が存在している場合がある。種子の表面に剛毛が存在している場合、以下で詳述するような被覆層と種子との間の密着性が弱くなるという現象が生じる可能性がある。このような現象が生じる可能性を抑制するために、上記のような各種種子をでんぷん水溶液に浸漬させることで、種子の表面をでんぷんで被覆してもよい。これにより、後述する被覆層と種子との間の密着性を向上させることが可能となる。なお、上記のような各種種子を浸漬させるでんぷん水溶液の濃度(すなわち、水溶液の全体質量に対するでんぷんの質量割合)については、特に規定するものではないが、例えば、40質量%〜80質量%とすることが好ましい。かかる濃度のでんぷん水溶液に上記のような各種種子を浸漬させることで、より確実に、被覆層と種子との間の密着性を向上させることが可能となる。
【0023】
以上、本実施形態に係る被覆種子に適用可能な種子について、簡単に説明した。
【0024】
<被覆層について>
続いて、以上説明したような種子の表面に形成される被覆層について、詳細に説明する。
上記のような種子の表面に形成される本実施形態に係る被覆層は、所定の成分を有する製鋼スラグを含有する。以下、かかる被覆層に含有される製鋼スラグについて、詳細に説明する。
【0025】
[製鋼スラグについて]
鉄鋼製造プロセスで副生する製鋼スラグは、その成分が分析及び管理されており、Ca、Si、Mg、Mn、Fe、Pなどの様々な肥料有効元素を含んでいるため、従来、肥料原料として用いられている。我が国では、製鋼スラグを原料とする肥料として、肥料取締り法により定められた、鉱さいケイ酸質肥料、鉱さいリン酸肥料、副産石灰肥料、特殊肥料(含鉄物)の各規格に属する肥料がある。また、我が国だけで年間1000万トン程度の製鋼スラグが生成されるため、製鋼スラグは安価に入手可能であって、資材コストを抑制することができる。そのため、かかる製鋼スラグを用いて水稲種子を被覆することが行われている。本実施形態に係る被覆種子においても、上記のような各種の種子の表面を被覆する被覆層の主成分として、製鋼スラグを用いる。
【0026】
製鋼スラグは、鉄分を含むものの、ほとんどが既に酸化した酸化鉄である。従って、上記特許文献1のような鉄粉による種子被覆で懸念される、鉄の酸化による発熱による種子へのダメージについては、考慮しなくともよい。また、製鋼スラグは、固結する性質を有している。製鋼スラグ粒子間の空隙率は、固結した状態であっても、固結した鉄粉粒子間の空隙率よりもはるかに大きい。固結した状態での空隙率が大きいことから、製鋼スラグで被覆した種子では、鉄粉で被覆した種子と比較して、種子の発芽や生育に必要な酸素や水が、被覆層の外側から被覆層の内側の種子へとより容易に到達することが可能となる。
【0027】
本実施形態で着目している湛水しない状態で栽培される植物の種子についても、製鋼スラグによる種子被覆は適用可能である。種子の発芽に関して、湛水しない状態で発芽させる直播種子の場合、水が被覆層の内部に浸潤し、被覆層自体が保水力を有することが、重要である。製鋼スラグによる被覆では、製鋼スラグ粒子間の空隙率が大きく、鉄粉被覆と比べて保水力が高いことから、湛水しない条件で栽培される種子の発芽にも適している。従って、上記特許文献1で開示されているような鉄粉による被覆が、湛水された状態で栽培される稲種子(すなわち、水稲種子)に主に限定されるのに対し、製鋼スラグによる被覆は、湛水しない状態で栽培されるあらゆる植物の種子の直播に関しても、適用可能である。
【0028】
本実施形態に係る被覆層の主成分として用いられる製鋼スラグは、25質量%以上50質量%以下のCaOと、8質量%以上30質量%以下のSiO
2と、を少なくとも含有する製鋼スラグである。
【0029】
◇CaO:25質量%〜50質量%
まず、Caについて説明する。
製鋼スラグは、水に接すると、Caと後述するSiやAlとが溶出して化学結合することにより、水硬性を示す。本発明は、この水硬性を利用して、製鋼スラグを各種種子に付着及び固結させて、各種種子を被覆するものである。従って、本発明において、Caは、重要な元素である。また、Caは、植物に必須な肥料元素でもある。肥料や製鋼スラグでCaの含有量を表記する際には、酸化物のCaOに換算して含有量が表記されるため、以下、CaOとしてCaの含有量を表わす。
【0030】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのCaOの含有量が25質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のCaを溶出できない可能性がある。一方、CaO含有量が50質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鋼プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのCaOの含有量は、25質量%以上50質量%以下とする。製鋼スラグのCaOの含有量は、好ましくは、38質量%以上50質量%以下である。
【0031】
なお、CaOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0032】
◇SiO
2:8質量%〜30質量%
続いて、Siについて説明する。
Siは、CaやAlと共に、製鋼スラグの水硬性に寄与する元素である。従って、本発明において、Siも重要な元素である。また、Siは、植物の必須要素ではないものの、特に陸稲等の稲種子にとって、非常に重要な肥料効果元素である。稲の植物体の乾燥重量の約5%をケイ酸(SiO
2)が占める。肥料や製鋼スラグでは、Siの含有量を表記する際には、酸化物のSiO
2に換算して含有量が表記されるため、以下、SiO
2としてSiの含有量を表わす。
【0033】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのSiO
2の含有量が8質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のSiを溶出できない可能性がある。一方、SiO
2の含有量が30質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鋼プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのSiO
2の含有量は、8質量%以上30質量%以下とする。製鋼スラグのSiO
2の含有量は、好ましくは、12質量%以上25質量%以下である。
【0034】
なお、SiO
2の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0035】
かかる製鋼スラグは、CaOの含有量が25質量%以上50質量%以下であるため、pH11程度のアルカリ性を示す。そのため、かかる製鋼スラグを含む被覆層を有する種子を鳥獣類が口に含んだ場合、製鋼スラグが示すアルカリ性のために、鳥獣類は、種子を嚥下することなく吐き出してしまう。その結果、鳥獣類による食害を抑制することが可能となる。
【0036】
また、かかる製鋼スラグで被覆された種子は、製鋼スラグがアルカリ性を示すにも関わらず、発芽する。アルカリ性にも関わらず種子が発芽する理由として、鉄イオンをキレート可能な酸性物質が根から分泌され、種子を被覆していた製鋼スラグに起因するアルカリが中和されることにより、正常な発芽が可能になっているものと考えられる。また、このような酸性物質の分泌により、製鋼スラグに含まれる鉄が鉄イオンとしてキレートされ、幼根から吸収しやすくなることが考えられる。
【0037】
●所定の成分を含有する製鋼スラグについて
本実施形態に係る被覆層が含有する製鋼スラグは、上記CaO及びSiO
2に加えて、以下の成分を含有する、所定の成分を含有する製鋼スラグであってもよい。すなわち、本実施形態に係る製鋼スラグは、上記CaO及びSiO
2に加えて、1質量%以上20質量%以下のMgO、1質量%以上25質量%以下のAl
2O
3、5質量%以上35質量%以下のFe、1質量%以上8質量%以下のMn、及び、0.1質量%以上5質量%以下のP
2O
5からなる群から選択される少なくとも1種を更に含有していてもよい。
【0038】
◇MgO:1質量%〜20質量%
一般に、製鋼スラグのMgO含有量は、CaO含有量よりかなり低い値となる。これは、製鋼スラグが溶銑に主に石灰を加えて発生するスラグであることに起因する。製鋼スラグに含まれるMgは、主に転炉の炉壁の耐火レンガから溶出するMgに起因する。Mgは、Ca、Si、Alと共に、製鋼スラグの水硬性に関わる元素である。ただし、製鋼スラグに含まれるCaO含有量とMgO含有量との違いなど、Mgの水硬性への寄与はCaと比較すると小さい。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグはCaOを25質量%以上含有することから、水硬性は、製鋼スラグに含有されるCaOにより基本的にはまかなうことができると考えられる。ただし、MgOが更に存在することで、水硬性をより良く発現することが期待できる。肥料や製鋼スラグでは、Mgの含有量を表記する際には、酸化物のMgOに換算して含有量が表記されるため、以下、MgOとしてMgの含有量を表わす。
【0039】
ここで、MgOの含有量が1質量%未満である製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは発生しない。一方、転炉の耐火物補修において発生する製鋼スラグでは、MgO含有量が20質量%に近いものが発生する。ただし、MgO含有量が20質量%超過である製鋼スラグは、発生しない。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのMgOの含有量は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。製鋼スラグのMgOの含有量は、より好ましくは、3質量%以上10質量%以下である。
【0040】
なお、MgOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0041】
◇Al
2O
3:1質量%〜25質量%
続いて、Alについて説明する。
Alは、CaやSiと共に、製鋼スラグの水硬性に重要な元素である。肥料や製鋼スラグでは、Alの含有量を表記する際には、酸化物のAl
2O
3に換算して含有量が表記されるため、以下、Al
2O
3としてAlの含有量を表わす。
【0042】
Al
2O
3の含有量が1質量%未満となる製鋼スラグ、及び、Al
2O
3の含有量が25質量%超過となる製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。また、製鋼スラグのAl
2O
3の含有量が1質量%以上であれば、Alは、CaやSiと共に水硬性を示すことができる。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いる製鋼スラグのAl
2O
3の含有量は、1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。ただし、より水硬性を高めて固結を促進したい場合には、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのAl
2O
3の含有量を、10質量%以上25質量%以下とすることがより好ましい。
【0043】
なお、Al
2O
3の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0044】
◇Fe:5質量%〜35質量%
続いて、Feについて説明する。
Feは、製鋼スラグにおいて、不可避的に含有される元素である。ただし、製鋼スラグは、鉄分を含むものの、ほとんどが既に酸化した酸化鉄であり、金属鉄をほとんど含有しない。Feは、植物の必須要素ではないが、肥料取締り法で定められた特殊肥料に含鉄物があるように、鉄も植物に対して有効な元素である。Feの含有量が5質量%未満である製鋼スラグ、及び、Feの含有量が35質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。したがって、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのFeの含有量は、5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。製鋼スラグのFeの含有量は、より好ましくは、10質量%以上25質量%以下である。
【0045】
なお、Feの含有量は、例えば、蛍光X線分析法で測定可能である。
【0046】
◇Mn:1質量%〜8質量%
次に、Mnについて説明する。
Mnは、植物に対して肥料効果がある元素である。Mnの含有量が1質量%未満である製鋼スラグ、及び、Mnの含有量が8質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。したがって、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのMnの含有量は、1質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0047】
なお、Mnの含有量は、例えば、蛍光X線分析法で測定可能である。
【0048】
◇P
2O
5:0.1質量%〜5質量%
次に、Pについて説明する。
Pは、植物の必須要素である。肥料や製鋼スラグでは、Pの含有量を表記する際には、酸化物のP
2O
5に換算して含有量が表記されるため、本実施形態において各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグに関しても、P
2O
5として含有量を表わす。Pは、根の生長点に作用し、根の生長に効果がある元素である。Pが不足すると、根の生長が抑制される。ただし、P
2O
5の含有量が0.1質量%未満である製鋼スラグ、及び、P
2O
5の含有量が5質量%超過である製鋼スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製鋼プロセスで生成するものであることが好ましい。したがって、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのP
2O
5の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0049】
なお、P
2O
5の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0050】
●脱リンスラグ、脱炭スラグについて
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグとしては、上記のような所定の成分を含有する製鋼スラグの他に、鉄鋼製造プロセスから副生される製鋼スラグの一種である、脱リンスラグや、脱炭スラグ等を用いることも可能である。脱リンスラグとは、溶銑に含まれるリンを除くために、溶銑に脱リン剤として石灰及び酸化鉄等を加えた上で酸素等のガスを吹き込むことにより副生される、リンを含むスラグであり、製鋼スラグの一種である。また、脱炭スラグは、溶銑に含まれる炭素を除いて鋼とするために、溶銑に酸素を吹き込むことにより副生されるスラグであり、製鋼スラグの一種である。
【0051】
上記のような脱リンスラグ及び脱炭スラグについても、上記の所定量の成分を含有する製鋼スラグと同様の成分を含有しているが、その含有量は、上記製鋼スラグにおける諸成分の含有量とは異なる場合がある。しかしながら、脱リンスラグや脱炭スラグであれば、上記の所定量の成分を含有する製鋼スラグとは異なる含有量の成分が存在していたとしても、本実施形態において各種種子を被覆するための製鋼スラグとして利用することが可能である。
【0052】
●製鋼スラグにおける各成分の含有量の測定方法
先だって説明したように、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる各種製鋼スラグにおける各成分の含有量は、蛍光X線分析法により測定することが可能である。より詳細には、着目する成分について、含有量が既知である標準サンプルを利用して、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を予め測定することで、検量線を作成しておく。含有量が未知のサンプルについては、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を測定し、予め作成しておいた検量線を用いることで、着目する成分の含有量を特定することができる。
【0053】
着目する蛍光X線のピークについては、特に限定するものではないが、例えば、Ca、Si、Mg、Al、Fe、Mn、Pの蛍光X線ピークに着目すればよい。
【0054】
なお、各種製鋼スラグにおける各成分の含有量の測定方法は、上記のような蛍光X線分析法に限定されるものではなく、その他の公知の分析手法を適宜利用することが可能である。
【0055】
●製鋼スラグの粒径について
本実施形態では、上記のような製鋼スラグを、粉砕等により所定の粒径に調整したものを、そのままで各種種子の被覆に用いることが可能である。これらの製鋼スラグの粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロッドミル、ボールミル、ロールミル、ローラーミルなどの公知の手段を用いることができる。
【0056】
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグの粒径は、粒径が細かい方が固化しやすいことから、粒径を所定の値以下まで細かくすることが好ましい。本発明者が検討を行った結果、粒径を600μm未満に調整した製鋼スラグは、各種種子への付着性が上がる傾向があり、効果が高いことが明らかとなった。従って、本実施形態に係る被覆層の主成分として用いられる製鋼スラグの粒径は、全て600μm未満とすることが好ましい。例えば、孔径600μmの篩を用いて製鋼スラグをふるい分けし、かかる篩の目を通過した製鋼スラグの粒径は、600μm未満である。より細かな粒径の製鋼スラグの方が各種種子への付着性を上げるためには好ましいが、粉砕・分級にはコストや時間を要するため、過度の微細化は不要である。
【0057】
本実施形態において、特に湛水しない条件で栽培される植物種子への付着性を向上させるために、被覆層に用いられる製鋼スラグの粒径は、孔径180μmの篩を通過し、かつ、孔径22μmの篩を通過しないものであることがより好ましい。換言すれば、被覆層に用いられる製鋼スラグの粒径は、22μm以上180μm未満であることがより好ましい。
【0058】
孔径180μmの篩を通過できない製鋼スラグの場合、湛水しない条件で栽培される植物種子のうち、小さなサイズの種子への付着性が悪くなるため、種子を被覆しづらくなる可能性がある。一方、孔径22μmの篩を通過するような製鋼スラグは、種子への付着性が高くなるものの、種子被覆の際に粉塵となって作業者の呼吸器に吸い込まれる等のリスクが高まることから、防塵対策によりコストを要するようになることが懸念される。また、製鋼スラグ粒子間の空隙率が小さくなって鉄粉被覆の場合と同様に緻密となり、酸素や水の透過が抑制されることが懸念される。従って、種子被覆に用いる製鋼スラグの粒径は、孔径180μmの篩を通過し、かつ、孔径22μmの篩を通過しないことが好ましい。
【0059】
なお、被覆層を構成する製鋼スラグの粒径を事後的に測定する際には、被覆層を有する被覆種子から被覆層を剥離した上で、剥離した被覆層を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等の公知の測定機器により測定すればよい。
【0060】
[被覆層に含有されるその他の成分について]
本実施形態に係る被覆層には、上記のような製鋼スラグに加えて、石炭灰、石膏、鉄粉、セメント、及び、廃糖蜜からなる群より選択される少なくとも1種が更に含有されていてもよい。
【0061】
●石炭灰について
石炭灰(フライアッシュ)は、石炭を燃焼させる際に生じる灰の一種であり、SiO
2及びAl
2O
3を主成分とする物質である。一般的な石炭灰は、40質量%〜75質量%のSiO
2と、15質量%〜35質量%のAl
2O
3と、2質量%〜20質量%のFe
2O
3と、1質量%〜10質量%のCaOと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多く、更に、MgO等の他の成分を含有していることもある。かかる構成成分からも明らかなように、石炭灰は、製鋼スラグと類似した成分を含有しており、固結性を補助する物質である。かかる石炭灰を被覆層に含有させることで、石炭灰が結合材として機能し、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
【0062】
被覆層に含有される石炭灰は、孔径75μmの篩を通過する石炭灰であることが好ましい。換言すれば、被覆層に含有される石炭灰の粒径は、75μm未満であることが好ましい。石炭灰の粒径を75μm未満とすることで、石炭灰の固化速度を速めることが可能となり、より容易に被覆層を固結させることが可能となる。なお、石炭灰の粒径は、小さければ小さいほど好ましいが、分級にはコストや時間を要するため、過度に微細粒を用いる必要はない。
【0063】
なお、被覆層に含有されうる石炭灰の含有量は、製鋼スラグの質量に対して20質量%以下であることが好ましい。製鋼スラグに対する石炭灰の割合が20質量%を超える場合、石炭灰の割合が高すぎるために、固結度が低下したり、種子の発芽率が下がったりする可能性が生じうる。
【0064】
●石膏、セメントについて
石膏及びセメントは、固結性を有する物質であり、結合材として機能する。従って、かかる石膏又はセメントの少なくとも何れかを被覆層に含有させることで、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
【0065】
ここで、一般的なセメントは、62質量%以上67質量%以下のCaOと、19質量%以上24質量%以下のSiO
2と、0.5質量%以上3質量%以下のMgOと、2質量%以上6質量%以下のFe
2O
3と、2質量%以上7質量%以下のAl
2O
3と、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多い。
【0066】
なお、被覆層に含有されうる石膏又はセメントの含有量は、製鋼スラグの質量に対して20質量%以下であることが好ましい。製鋼スラグに対する石膏又はセメントの割合がそれぞれ20質量%を超える場合、石膏又はセメントの割合が高すぎるために、種子の発芽率を下げる可能性が生じうる。
【0067】
なお、上記のような石膏やセメントは、被覆層に混合してもよいが、石膏又はセメントを用いて被覆層を被覆することも可能である。
【0068】
●鉄粉について
鉄粉は、比重が大きい物質である。そのため、被覆層に鉄粉を含有させることで、被覆種子の重量を増加させ、種子を流亡しにくくさせることが可能となる。被覆層に含有されうる鉄粉の含有量は、製鋼スラグの質量に対して50質量%以下であることが好ましい。製鋼スラグに対する鉄粉の割合が50質量%を超える場合、金属鉄の酸化による発熱で種子のダメージが大きくなる可能性が高く、また、鉄粉から溶出した二価鉄イオンが酸化して三価鉄イオンとなり、水酸化物として沈殿する際に酸性を示すことで、発芽や幼根の生長に悪影響を及ぼす可能性がある。また、鉄粉は高価であるため、鉄粉の割合が高くなると、コスト的に不利となる。
【0069】
●廃糖蜜について
廃糖蜜は、サトウキビ等の搾り汁から砂糖を精製する際に副産される黒褐色の液体であり、糖分を70〜80%程度含むほか、ミネラルやビタミンも含有している。また、廃糖蜜は、副産物であることから安価に入手可能である。廃糖蜜は、特に、植物の細胞生長に必要なカリウムを2%程度含んでいる。カリウムは、植物の根から吸収され、植物細胞の生長に必要な成分である。従って、被覆層に廃糖蜜を含有させることで、被覆層から廃糖蜜由来のカリウムを供給することが可能となり、幼植物の生長を更に促進することも期待できる。また、廃糖蜜は粘着性を有することから、廃糖蜜を被覆層に含有させることで、被覆層の固化と種子への付着の安定性を補強できると共に、廃糖蜜に含まれる成分が発芽後の幼根の生長を、製鋼スラグによる肥料効果に加えて、より促すことが可能となる。
【0070】
●アルギン酸化合物について
本実施形態に係る被覆層は、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム等といった、アルギン酸由来の化合物(アルギン酸化合物)を含有していてもよい。
【0071】
アルギン酸ナトリウムは、藻類である褐藻等に含まれる多糖類の一種である。アルギン酸ナトリウムの水溶液に対してCaやMgを添加すると、ゲル化する性質がある。製鋼スラグは、CaとMgを含有するため、製鋼スラグの表面にアルギン酸ナトリウム水溶液を付加することによってゲル化が起こり、製鋼スラグを含有する被覆層の種子への付着の安定性を補強することが可能となる。また、アルギン酸ナトリウムも用いて作製した被覆種子を土壌に直播すると、アルギン酸ナトリウムは、土壌微生物の作用により分解されて、アルギン酸オリゴ糖となる。アルギン酸オリゴ糖は、被覆層の製鋼スラグに含まれるミネラルと結合して、植物根へのミネラル吸収を助ける効果があり、発芽後の幼植物の生長を促進する効果が期待できる。
【0072】
なお、上記のようなアルギン酸ナトリウムは、製鋼スラグ中に存在するカルシウムと一部反応して、アルギン酸カルシウムとして被覆層に存在する可能性がある。同様に、製鋼スラグ中にマグネシウムが存在する場合、アルギン酸ナトリウムは、製鋼スラグ中のマグネシウムと一部反応して、アルギン酸マグネシウムとして被覆層に存在する可能性がある。従って、本実施形態に係る被覆層に対してアルギン酸ナトリウムを含有させた場合、被覆層中には、アルギン酸ナトリウムだけでなく、アルギン酸カルシウムやアルギン酸マグネシウムが存在する可能性がある。これらアルギン酸カルシウム及びアルギン酸マグネシウムについても、アルギン酸ナトリウムと同様に土壌微生物の作用により分解されて、アルギン酸オリゴ糖となる。アルギン酸オリゴ糖は、被覆層の製鋼スラグに含まれるミネラルと結合して、植物根へのミネラル吸収を助ける効果があり、発芽後の幼植物の生長を促進する効果が期待できる。
【0073】
[被覆層の気孔率について]
上記のような各種の製鋼スラグを含有する被覆層の気孔率は、17〜50%とすることが好ましい。かかる被覆層の気孔率は、被覆層に含有される製鋼スラグの粒径を調整することで、所望の値に制御することが可能であり、気孔率の具体的な値は、種子の適正に応じて適宜調整すればよい。酸素供給性や保水性を好適に維持するためには、被覆層の気孔率は、好ましくは20〜40%であり、更に好ましくは20〜30%である。
【0074】
なお、被覆層の気孔率は、以下のようにして測定することが可能である。
まず、被覆層を有する種子を各種の樹脂に埋め込み、公知の方法により研磨することで、測定サンプルを準備する。次に、得られた測定サンプルにおける被覆層の断面を、所定の倍率に設定された光学顕微鏡により観察し、視野中の種子被覆物の面積に占める気孔の面積を算出して、気孔率とする。なお、観察は複数の視野(例えば、5視野程度)で実施し、各視野において得られた気孔率の複数視野間での平均値を求め、被覆層の気孔率とする。
【0075】
以上、本実施形態に係る被覆種子における被覆層について、詳細に説明した。
【0076】
<被覆層の表面に付着しうる成分について>
本実施形態に係る被覆層の表面には、除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れが付着していてもよい。被覆層の表面に付着したこれらの薬剤により、被覆種子が播種される土壌や被覆種子そのものに対して、該当する薬剤の薬効が実現される。
【0077】
ここで、被覆層の表面に付着しうる除菌剤は、チウラム、イソチアニル、フラメトピル、エタボキサム、2−[(2,5−ジメチルフェノキシ)メチル]−α−メトキシ−N−メチル−ベンゼンアセトアミド、ベノミル、オキソリニック酸、プロベナゾール、チアジニル、ピロキロン及びジクロシメットからなる群より選択される1つ以上であってもよい。
【0078】
また、被覆層の表面に付着しうる除虫剤は、クロチアニジン、ニテンピラム、ベンスルタップ、チアメトキサム、ジノテフラン、ピメトロジン、スルホキサフロル、ベンフラカルブ、カルボスルファン及びカルタップ塩酸塩からなる群より選択される1つ以上であってもよい。
【0079】
また、被覆層の表面に付着しうる除草剤は、グリホサート、グルホシネート等のアミノ酸系化合物、エスプロカルブ、ピリブチカルブ、ベンチオカーブ、モリネート等のカーバメート系化合物、エトベンザニド、カフェンストロール、テニルクロール、ブタクロール、プレチラクロール、ブロモブチド、メフェナセット等の酸アミド系化合物、トリフルラリン等のジニトロアニリン系化合物、アジムスルフロン、イマゾスルフロン、エトキシスルフロン、シクロスルファムロン、ハロスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、フルセトスルフロン、プロピリスルフロン、ベンスルフロンメチル、チフェンスルフロンメチル等のスルホニルウレア系化合物、ピリミスルファン等のスルホンアニリド系化合物、ベンタゾン等のダイアジン系化合物、オキサジアゾン、オキサジアルギル、ピラクロニル、ピラゾキシフェン、ピラゾレート、ピラフルフェンエチル、ベンゾフェナップ等のダイアゾール系化合物、ジメタメトリン、シメトリン、プロメトリン等のトリアジン系化合物、テフリルトリオン、メソトリオン等のトリケトン系化合物、クミルロン、ダイムロン等の尿素系化合物、ジクワット、パラコート等のビピリジウム系化合物、ビスピリバックナトリウム塩、ピリミノバックメチル、ペノキススラム等のピリミジルオキシ安息香酸系化合物、2,4−D、MCPA、キザロホップ、クロメプロップ、シハロホップ、シハロホップブチル、ハロキシホップ、クロジナホップ等のフェノキシ酸系化合物、イソキサフルトール等のイソキサゾール系化合物、イマゼタピル等のイミダゾリノン系化合物、ブタミホス等の有機リン系化合物、ジカンバ等の芳香族カルボン酸系化合物、インダノファン、オキサジクロメホン、カルフェントラゾンエチル、キノクラミン、ピリフタリド、フェントラザミド、ベンゾビシクロン、ペントキサゾン、及び、ベンフレセートからなる群より選択される1つ以上であってもよい。
【0080】
上記の除菌剤、除虫剤、除草剤の化合物は、いずれも公知の化合物であり、市販の製剤を利用することも可能であるし、公知の製造方法により製造することも可能である。
【0081】
なお、本実施形態において、上記の薬剤は、通常、有効成分と不活性担体とを混合し、必要に応じて界面活性剤やその他の製剤用補助剤を添加して、粉剤、フロアブル剤、水和剤、顆粒水和剤、水溶剤、顆粒水溶剤等に製剤化されているものを用いることが好ましい。また、有効成分の溶出が制御された製剤を用いてもよい。
【0082】
製剤化の際に用いられる不活性担体としては、固体担体、液体担体が挙げられる。
固体担体としては、例えば粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化ケイ素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末及び粒状物、並びに、合成樹脂(ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン−6、ナイロン−11、ナイロン−66等のナイロン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−プロピレン共重合体等)が挙げられる。
また、液体担体としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノキシエタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ドデシルベンゼン、フェニルキシリルエタン、メチルナフタレン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等)、酸アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、炭酸プロピレン及び植物油(大豆油、綿実油等)が挙げられる。
【0083】
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤が挙げられる。
【0084】
その他の製剤用補助剤としては、固着剤、分散剤、着色剤及び安定剤等、具体的にはカゼイン、ゼラチン、糖類(でんぷん、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールと3−tert−ブチル−4−メトキシフェノールとの混合物)等が挙げられる。
【0085】
なお、これら除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかは、その一部が被覆層の内部に存在していてもよい。また、これら除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかは、被覆層に含有されていてもよい。
【0086】
以上、本実施形態に係る被覆種子について、詳細に説明した。
【0087】
(被覆種子の製造方法について)
続いて、以上説明したような製鋼スラグを用いて、本実施形態に係る被覆種子を製造する方法について、詳細に説明する。
【0088】
本実施形態に係る被覆種子の製造方法では、25質量%以上50質量%以下のCaOと、8質量%以上30質量%以下のSiO
2と、を少なくとも含有する上記のような製鋼スラグと、水と、を混合して得られた混合物を準備し、かかる混合物により、湛水しない状態で栽培される植物の種子を被覆する。
【0089】
ここで、製鋼スラグに加える水の混合割合であるが、上記製鋼スラグと水との混合物における水の質量割合(すなわち、混合物の全体の質量に対する水の質量割合)は、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。上記製鋼スラグと水との混合物における水の質量割合が10質量%未満である場合、上記製鋼スラグの種子表面への付着性が悪くなり、被覆が難しくなる可能性が高くなる。一方、上記製鋼スラグと水との混合物における水の質量割合が80質量%を超える場合、水の割合が高すぎるため、種子の表面を上記製鋼スラグで被覆することができなくなる可能性が高くなる。従って、上記製鋼スラグと水との混合物における水の質量割合は、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。製鋼スラグを用いた種子被覆を安定的に成功させるためには、水の質量割合を25質量%以上50%質量以下とすることがより好ましい。
【0090】
また、上記製鋼スラグと水との混合物に対して、石炭灰、石膏、鉄粉、又は、セメントの少なくとも何れかを混合してもよい。
【0091】
混合物に対して、石炭灰、石膏又はセメントの少なくとも何れかを添加する場合、製鋼スラグに対する各成分の質量割合は、先だって言及したように20質量%を超えないことが好ましい。また、製鋼スラグに鉄粉を添加する場合、製鋼スラグに対する鉄粉の質量割合は、先だって言及したように50質量%を超えないことが好ましい。
【0092】
ここで、製鋼スラグ等で種子を被覆する際、先だって言及したように、種子表面に存在する剛毛により、被覆層の種子表面への密着性が弱くなるという現象が生じる可能性がある。この現象を解決するために、種子を予めでんぷん水溶液に浸漬した後、製鋼スラグ等で被覆してもよい。ここで、でんぷん水溶液の濃度(すなわち、水溶液の全体の質量に対するでんぷんの質量割合)は、40質量%〜80質量%であることが好ましい。でんぷん水溶液に種子を浸漬した後、種子を製鋼スラグ等で被覆することにより、1粒の種子の質量と被覆層の質量との比を、1:0.6〜1:2程度にまで高めることが可能である。
【0093】
次に、上記のような混合物により、湛水されない状態で栽培される植物の種子を被覆する方法について説明する。予め上記のような混合物を作製し、この混合物と湛水されない状態で栽培される植物の種子とを混合させることで、用いた種子の表面を製鋼スラグ等により被覆して、種子の表面に被覆層を形成することができる。また、上記製鋼スラグ等と水と種子とを一緒に混合させることで、種子を上記製鋼スラグ等で被覆することも可能である。混合物と種子とを混合する方法は、特に限定されるものではない。大量に処理する場合には、例えば、回転式造粒機を用いて混合して、種子を上記製鋼スラグ等で被覆することも可能である。
【0094】
また、製鋼スラグ等を用いて被覆層を形成した種子に対して、更に外側から石膏で被覆することも可能である。製鋼スラグ及び石膏を用いて種子を二重に被覆することにより、製鋼スラグの被覆による種子への密着性を高めることができる。被覆層の形成された種子を外側から石膏で被覆する方法としては、例えば、製鋼スラグ等で被覆し、乾燥させた被覆種子を、石膏の水懸濁物に浸漬して取り出して、室温で乾燥させるという方法を用いることで実行可能である。石膏の水懸濁物の濃度は、例えば20質量%〜60質量%であることが好ましい。
【0095】
なお、上記製鋼スラグ等による種子の被覆量であるが、特に限定されるものではない。より好ましくは、種子の質量を1とした場合に、0.1〜2程度の質量の上記製鋼スラグ等を用いて、かかる種子を被覆することが好ましい。通常、製鋼スラグ等と水とを混合した混合物に対して種子を混合するのみで実現される被覆量は、上記範囲に入るものとなる。しかしながら、製鋼スラグ等が種子の表面に全面被覆されていない場合には、再度、製鋼スラグと水とを混合した混合物に対して種子を混合することが好ましい。
【0096】
また、上記製鋼スラグの固結を高めるために、高炉スラグ微粉末又は硫酸カルシウムを、製鋼スラグ等、製鋼スラグ等と水との混合物、又は、製鋼スラグ等と水と種子との混合物の何れかに対して加えることも有効である。
【0097】
<被覆種子の製造の際に用いる水について>
ここで、製鋼スラグ等と水との混合物により種子を被覆する際に、製鋼スラグ等に対して混合する水であるが、純水のほか、水道水、地下水、農業用水等を使用することも可能であるが、廃糖蜜を含有する水を用いることがより好ましい。廃糖蜜を含有する水を用いることで、廃糖蜜の粘着性を利用して被覆層の固化と種子への付着の安定性を補強できると共に、廃糖蜜に含まれる成分が発芽後の幼根の生長を、製鋼スラグによる肥料効果に加えて、より促すことができる。
【0098】
廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合が、全体質量に対して10質量%未満である場合、製鋼スラグ等からなる被覆層の固化と種子への付着安定性を補強する効果が、明確に発現しづらくなる。一方、廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合が、全体質量に対して50質量%を超える場合、製鋼スラグ等と、この廃糖蜜を含有する水と、を混合すると、製鋼スラグ等がダマになってしまい、種子に付着しづらくなる。従って、廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合は、全体質量に対して10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0099】
<アルギン酸ナトリウム水溶液を用いる被覆種子の表面処理について>
先だって言及したように、製鋼スラグ等を含む被覆層の表面にアルギン酸ナトリウム水溶液を付加することによって、ゲル化が起こり、製鋼スラグ等を含む被覆層の種子への付着の安定性を補強することが可能となる。
【0100】
被覆層の表面へのアルギン酸ナトリウム水溶液の付加方法であるが、例えば、製鋼スラグ等を含む被覆層の表面に対して、アルギン酸ナトリウム水溶液を噴霧したり、散水したりする等の方法がある。また、製鋼スラグ等を含む被覆層を形成した種子を、アルギン酸ナトリウム水溶液に被覆層が剥離しないように注意して短時間浸すなどの方法を行うことも可能である。なお、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が、水溶液の全体質量に対して0.5質量%未満の場合には、アルギン酸ナトリウムの濃度が低すぎるため、ゲル化がしっかりと起こらず、被覆層の種子への付着の安定性を補強する効果が発現しない可能性がある。また、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が、水溶液の全体質量に対して5質量%を超える場合には、ゲルが強固になりすぎて、発芽を抑制する可能性がある。従って、製鋼スラグ等を含む被覆層の表面に付加するアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は、水溶液の全体質量に対して0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。なお、アルギン酸ナトリウム水溶液を噴霧又は散水して付加する場合のアルギン酸ナトリウム水溶液の量は、被覆層の表面全面を湿らせる程度の量でよい。
【0101】
<除菌剤、除虫剤、除草剤を用いた被覆種子の表面処理について>
先だって言及したように、製鋼スラグ等を含む被覆層の表面に、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを付着させることが可能である。
【0102】
被覆層の表面への上記薬剤の付加方法であるが、例えば、製鋼スラグ等を含む被覆層の表面に対して、上記薬剤を含む水溶液を噴霧したり、散水したりする等の方法がある。また、例えば、製鋼スラグ等を含む被覆層の表面に対して、上記薬剤をそのまま散布し、被覆層の表面に上記薬剤を付着させてもよい。なお、被覆種子に対する上記薬剤の使用量は、特に規定されるものではないが、例えば、種子の乾燥重量1000グラムに対して、0〜100グラム程度とすることが好ましい。
【0103】
なお、上記説明において、製鋼スラグ等の組成は、水と混合する前の組成で示している。水と混合した後に製鋼スラグの組成を確認するためには、水を蒸発させて乾燥させた状態で製鋼スラグを回収し、回収した製鋼スラグの組成を調べればよい。このように、被覆する前の製鋼スラグの成分組成と、被覆後の製鋼スラグの成分組成とは、殆ど変わらない。
【0104】
製鋼スラグ等を含む被覆層で被覆された種子は、例えば風通しのよいところ等で空気乾燥させた後、直播に用いることができる。被覆をすることで通気性が悪くなり、種子の呼吸が抑制されるため、被覆後なるべく早い時期に播種することが好ましい。可能であれば、被覆後4日以内に播種することが好ましい。
【0105】
ただし、被覆後半年間程度までであれば、被覆種子を保管して直播に用いることも可能である。
【0106】
上記のように、製鋼スラグ等を用いて簡便かつ安価に被覆された種子を作製することが可能となる。
【0107】
(被覆種子の播種方法について)
続いて、以上説明したような被覆種子の播種方法について、簡単に説明する。
本実施形態に係る被覆種子の播種方法では、以上説明したような被覆種子を、当該種子を栽培するための栽培地に対して直播する。
【0108】
ここで、被覆種子の播種方法については、特に限定されるものではなく、被覆種子に用いた植物の栽培に適した公知の播種方法を採用すればよい。
【実施例】
【0109】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法の一例にすぎず、本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法が下記の例に限定されるものではない。なお、以下に示す実施例中の稲種子とは、陸稲の種子である。
【0110】
(実施例1)
以下の表1に示す組成の製鋼スラグを粉砕し、異なる孔径の篩を使って、粉砕後の製鋼スラグを、A(0〜22μm)、B(22μm〜180μm)、C(180μm〜600μm)、D(600μm〜2mm)の4種類に分級した。AからDの各製鋼スラグを用いて、稲種子、及び、トウモロコシ種子を被覆した。
【0111】
より詳細には、以下の表1に示す組成の製鋼スラグと水との混合物を準備し、得られた混合物と、稲種子及びトウモロコシ種子と、を混合して、稲種子及びトウモロコシ種子の表面に、製鋼スラグと水との混合物を付着させた。その後、混合物の付着した稲種子及びトウモロコシ種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させ、被覆稲種子及び被覆トウモロコシ種子とした。
【0112】
【表1】
【0113】
なお、D(600μm〜2mm)に分級された製鋼スラグで各種子を被覆したところ、形成した被覆層の種子への付着性が悪く、被覆層が容易に剥離してしまい、発芽試験を行なうことができなかった。一方、A〜Cに分級された製鋼スラグで各種子を被覆した場合には、形成した被覆層の種子への付着性は適切であり、発芽試験を行うことができた。
【0114】
90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、製鋼スラグで被覆した稲種子及びトウモロコシ種子をそれぞれ20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して発芽試験を行なった。この際、各種子が湛水された状態とならないように、蒸留水の添加量を調整した。なお、対照として、無被覆の稲種子及びトウモロコシ種子についても、同様の発芽試験を並行して行なった。なお、無被覆種子は、乾燥し易かったため水分を追加供給したが、被覆種子には、水分の追加供給はしなかった。得られた発芽試験の結果を、以下の表2に示した。
【0115】
【表2】
【0116】
表2の発芽率の結果より、Bに分級された製鋼スラグ(孔径180μmの篩を通過し、孔径22μmの篩を通過しない製鋼スラグ)で被覆した稲種子及びトウモロコシ種子は、最も安定して発芽率が高く、無被覆の各種子とほぼ同等の発芽率が得られることが分かった。
【0117】
従って、孔径180μmの篩を通過し、かつ、孔径22μmの篩を通過しない製鋼スラグで被覆することで、湛水されない状態で栽培されるいかなる植物種子であっても、安定した発芽率となることがわかった。
【0118】
(実施例2)
以下の表3に示す組成の製鋼スラグを粉砕して、孔径180μmの篩を通過し、かつ、孔径22μmの篩を通過しない製鋼スラグを分級し、得られた製鋼スラグを用いて、稲種子、及び、トウモロコシ種子を被覆した。
【0119】
より詳細には、以下の表3に示す組成の製鋼スラグと水との混合物を準備し、得られた混合物と、稲種子及びトウモロコシ種子と、を混合して、稲種子及びトウモロコシ種子の表面に、製鋼スラグと水との混合物を付着させた。その後、混合物の付着した稲種子及びトウモロコシ種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させ、被覆稲種子及び被覆トウモロコシ種子とした。
【0120】
【表3】
【0121】
各被覆種子を50粒ずつプラスチック製皿に分散させて配置し、かかるプラスチック製皿を、風の影響を受けないよう囲いで覆った条件で、野外に載置した。2週間後、鳥に食べられずに残存した種子数を数え、種子残存率を算出した。対照として、無被覆の稲種子及びトウモロコシ種子に関しても、同様の試験を並行して行なった。得られた残存率の結果を、以下の表4に示した。
【0122】
【表4】
【0123】
上記表4から明らかなように、製鋼スラグを含む被覆層で被覆した稲種子及びトウモロコシ種子は、いずれも無被覆種子と比べて残存率が高く、鳥に食べられないことがわかった。
【0124】
(実施例3)
表1に示した組成の製鋼スラグを粉砕し、異なる孔径の篩を使って、粉砕後の製鋼スラグを分級したB(孔径180μmの篩を通過し、孔径22μmの篩を通過しない)の製鋼スラグを用いて、稲種子、及び、トウモロコシ種子を被覆した。
【0125】
より詳細には、B(孔径180μmの篩を通過し、孔径22μmの篩を通過しない)の製鋼スラグと、廃糖蜜を20質量%含む水と、の混合物を準備し、得られた混合物と、稲種子及びトウモロコシ種子と、を混合して、稲種子及びトウモロコシ種子の表面に、製鋼スラグと水と廃糖蜜との混合物を付着させた。その後、混合物の付着した稲種子及びトウモロコシ種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させ、被覆稲種子及び被覆トウモロコシ種子とした。
【0126】
90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、B(孔径180μmの篩を通過し、孔径22μmの篩を通過しない)の製鋼スラグで被覆した稲種子及びトウモロコシ種子をそれぞれ20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して発芽試験を行なった。この際、各種子が湛水された状態とならないように、蒸留水の添加量を調整した。なお、対照として、無被覆の稲種子及びトウモロコシ種子についても、同様の発芽試験を並行して行なった。なお、無被覆種子は、乾燥し易かったため水分を追加供給したが、被覆種子には、水分の追加供給はしなかった。得られた発芽試験の結果を、以下の表5に示した。
【0127】
【表5】
【0128】
上記表5から明らかなように、B(孔径180μmの篩を通過し、孔径22μmの篩を通過しない)の製鋼スラグで被覆した稲種子及びトウモロコシ種子は、無被覆の各種子とほぼ同等の発芽率が得られることが分かった。
【0129】
従って、孔径180μmの篩を通過し、かつ、孔径22μmの篩を通過しない製鋼スラグで被覆することで、湛水されない状態で栽培されるいかなる植物種子であっても、安定した発芽率となることがわかった。
【0130】
(実施例4)
実施例3に記載の方法で作製したB(孔径180μmの篩を通過し、孔径22μmの篩を通過しない)の製鋼スラグで被覆した稲種子及びトウモロコシ種子を50粒ずつプラスチック製皿に分散させて配置し、かかるプラスチック製皿を、風の影響を受けないよう囲いで覆った条件で、野外に載置した。2週間後、鳥に食べられずに残存した種子数を数え、種子残存率を算出した。対照として、無被覆の稲種子及びトウモロコシ種子に関しても、同様の試験を並行して行なった。得られた残存率の結果を、以下の表6に示した。
【0131】
【表6】
【0132】
上記表6から明らかなように、B(孔径180μmの篩を通過し、孔径22μmの篩を通過しない)の製鋼スラグで被覆した稲種子及びトウモロコシ種子は、いずれも無被覆種子と比べて残存率が高く、鳥に食べられないことがわかった。
【0133】
(実施例5)
表1に組成を示した、孔径180μmのふるいを通過する製鋼スラグと、鉄粉(純度>99%)と、をそれぞれ用意した。製鋼スラグと水との混合物、及び、鉄粉と水との混合物をそれぞれトウモロコシ種子と混合して、トウモロコシ種子の表面に、製鋼スラグと水との混合物、又は、鉄粉と水との混合物を付着させた。これらトウモロコシ種子を乾燥させて、種子表面に製鋼スラグからなる被覆層、又は、鉄粉からなる被覆層を形成させた。
【0134】
製鋼スラグ又は鉄粉による被覆種子を樹脂に埋め込み、研磨後、光学顕微鏡により被覆物の層の断面を観察した。この被覆物の断面で観察される被覆物の面積に占める気孔の面積を参考にして、製鋼スラグからなる被覆層、又は、鉄粉からなる被覆層の気孔率を求めた。得られた結果を、以下の表7に示す。
【0135】
【表7】
【0136】
上記表7から明らかなように、製鋼スラグによる被覆層では、気孔率が23%と高い値を示したのに対して、鉄粉による被覆層では、気孔率が1%と低い値となった。鉄粉による被覆層では緻密な被覆層が形成され、発芽時の水分供給・酸素供給のための水や空気の供給路として重要な空隙が、ほとんど存在しないことがわかった。これに対して、製鋼スラグによる被覆層では、水分供給や酸素供給のための水や空気の供給路として重要な空隙が、十分に存在することがわかった。
【0137】
上記の製鋼スラグにより被覆したトウモロコシ種子、及び、鉄粉により被覆したトウモロコシ種子を用いて、発芽試験を行った。
より詳細には、90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、孔径180μmの篩を通過した製鋼スラグで被覆したトウモロコシ種子、及び、孔径180μmの篩を通過した鉄粉で被覆したトウモロコシ種子をそれぞれ20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して発芽試験を行なった。この際、種子が湛水された状態とならないように、蒸留水の添加量を調整した。得られた発芽試験の結果を、以下の表8に示した。
【0138】
【表8】
【0139】
上記表8から明らかなように、鉄粉で被覆したトウモロコシ種子の発芽率は、60%と低い値になった。これは、鉄粉被覆では気孔率が低く、緻密な被覆層が形成されるために、種子への水分及び酸素の供給が十分でなく、発芽が抑制されたことが原因と考えられる。これに対して、製鋼スラグで被覆したトウモロコシ種子の発芽率は、85%と良好であった。これは、製鋼スラグで被覆した場合は、気孔率が23%と高く、水や酸素の種子への供給が良好であったことが理由として考えられる。
【0140】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。