特許第6794847号(P6794847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794847
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20201119BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20201119BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20201119BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20201119BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20201119BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20201119BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20201119BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20201119BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   H02J7/00 S
   H02J7/00 P
   H02J7/10 B
   H02J7/10 L
   H02J7/00 Y
   H02H7/18
   B60L50/60
   B60L1/00 L
   B60L3/00 S
   H01M10/48 P
   H01M10/44 Q
   H01M10/48 301
   H01M10/42 P
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-11941(P2017-11941)
(22)【出願日】2017年1月26日
(65)【公開番号】特開2018-121463(P2018-121463A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】田納 晃一
(72)【発明者】
【氏名】初見 典彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】小池 和哉
【審査官】 佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−065814(JP,A)
【文献】 特開2015−220952(JP,A)
【文献】 特開2009−201170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
B60L 1/00
B60L 3/00
B60L 50/60
H01M 10/42
H01M 10/44
H01M 10/48
H02H 7/18
H02J 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部充電の可能なバッテリと、
前記バッテリの印加電圧を検出する電圧センサと、
前記バッテリの外部充電中に通電される回路と、
前記回路に介装された電気機器と、
前記電気機器の作動電流を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記バッテリに許容される最大電圧から前記電圧センサで検出された印加電圧を減算した余裕電圧を前記バッテリの電気抵抗で除算することで上限電流を算出し、前記バッテリの外部充電中に前記上限電流以下となるように前記作動電流を制限する
ことを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記バッテリの外部充電中に前記電気機器が作動するのに先立って、前記作動電流を前記上限電流で予め制限する
ことを特徴とする請求項1に記載された電動車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記バッテリの状態に基づいて前記電気抵抗を推定する推定部を有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載された電動車両。
【請求項4】
前記バッテリの温度を検出する温度センサを備え、
前記推定部は、前記温度センサで検出された温度に基づいて前記電気抵抗を推定する
ことを特徴とする請求項3に記載された電動車両。
【請求項5】
前記推定部は、前記バッテリの劣化度に基づいて前記電気抵抗を推定する
ことを特徴とする請求項3または4に記載された電動車両。
【請求項6】
前記電気機器は、ユーザによって操作される空調機器を含む
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載された電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、車両外部から充電可能なバッテリを搭載した電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリの外部充電中に通電する回路に空調機器の介装された電動車両が知られている。この電動車両では、外部充電中に作動していた空調機器が停止すると、空調機器への電力供給が不要となったにもかかわらず、その余剰電力がバッテリに供給されうる。そのため、外部充電中におけるバッテリの印加電圧が許容される最大電圧を超過し、バッテリの損傷を招くおそれがある。
【0003】
そこで、余剰電力に起因したバッテリの損傷を抑えるための技術が開発されている。たとえば、バッテリの外部充電中に作動している空調機器を停止させるときに、空調機器の消費電力を徐々に低減させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-201170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように、バッテリの外部充電中に作動している電気機器の消費電力を漸減させたとしても、その余剰電力がバッテリへ供給されうるため、バッテリの印加電圧が許容される最大電圧を必ずしも下回るとは限らない。よって、バッテリの保護性を高めるうえで改善の余地がある。
本件の電動車両は、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、バッテリの保護性を高めることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用および効果であって、従来の技術では得られない作用および効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する電動車両には、外部充電の可能なバッテリと、前記バッテリの印加電圧を検出する電圧センサと、前記バッテリの外部充電中に通電される回路と、前記回路に介装された電気機器と、前記電気機器の作動電流を制御する制御装置とが設けられている。前記制御装置は、前記バッテリに許容される最大電圧から前記電圧センサで検出された印加電圧を減算した余裕電圧を前記バッテリの電気抵抗で除算することで上限電流を算出し、前記バッテリの外部充電中に前記上限電流以下となるように前記作動電流を制限する。
【0007】
すなわち、前記制御装置は、前記バッテリに許容される前記最大電圧を「VM」とし、前記電圧センサで検出された印加電圧を「VC」とし、前記電気抵抗を「R」とした場合に、除算式「(VM−VC)/R」で前記上限電流を算出し、前記バッテリの外部充電中に前記作動電流を前記上限電流以下となるように制限する。
このように、前記制御装置は、前記余裕電圧および前記電気抵抗に応じて算出される前記上限電流以下となるように前記作動電流を制限する。
【0008】
(2)前記制御装置は、前記バッテリの外部充電中に前記電気機器が作動するのに先立って、前記作動電流を前記上限電流で予め制限することが好ましい。
(3)また、前記制御装置は、前記バッテリの状態に基づいて前記電気抵抗を推定する推定部を有することが好ましい。
具体的には、前記バッテリの状態として前記バッテリの温度や劣化度を用いることが好ましい。
【0009】
(4)すなわち、前記バッテリの温度を検出する温度センサが設けられ、前記推定部は、前記温度センサで検出された温度に基づいて前記電気抵抗を推定することが好ましい。
(5)また、前記推定部は、前記バッテリの劣化度に基づいて前記電気抵抗を推定することが好ましい。
(6)そのほか、前記電気機器には、ユーザによって操作される空調機器が含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本件によれば、外部充電されているバッテリの余裕電圧および電気抵抗に応じた上限電流以下となるように電気機器の作動電流が制限される。そのため、外部充電中に電気機器の作動が停止されることで余剰電力がバッテリに供給されたとしても、バッテリの印加電圧が許容される最大電圧を上回らず、バッテリの保護性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電動車両の構成を示す模式図である。
図2】電動車両における電流制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本件を実施するための形態を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
以下の実施形態では、車両外部から充電可能なバッテリが搭載された電動車両を説明する。この電動車両としては、モータジェネレータ(以下「モータ」と略称する)のみを走行駆動源として搭載した電気自動車や、モータのほかにエンジンを走行駆動源として搭載したハイブリッド電気自動車が挙げられる。ここでは、電気自動車を電動車両として例示する。
【0014】
[I.一実施形態]
[1.構成]
本実施形態の電動車両では、バッテリの外部充電中に作動している電気機器の電流が制御される。以下の説明では、図1を参照して、電流制御される電気機器8が搭載された電動車両1の基本的な構成を述べてから、電気機器8の電流制御に関する詳細な構成を述べる。
【0015】
[1−1.基本構成]
電動車両1には、外部から充電可能なバッテリ2が搭載されている。
バッテリ2は、走行駆動源のモータ5に接続された高電圧の二次電池である。モータ5の回生発電時にはバッテリ2が充電され、モータ5の駆動時にはバッテリ2が放電する。
このバッテリ2には、その状態に関するパラメータを検出するセンサ21,22が付設されている。ここでは、バッテリ2の温度を検出する温度センサ21と、バッテリ2に印加されている電圧(以下「印加電圧」と略称する)を検出する電圧センサ22とが設けられる。なお、温度センサ21には、バッテリ2の温度を直接的に検出するセンサのほか、バッテリ2のケース内の雰囲気温度を検出するセンサや、電動車両1の外部の大気温(外気温)を検出するセンサといったバッテリ2の温度に相関する相関温度を検出するセンサを用いてもよい。
【0016】
これらのセンサ21,22で検出されたパラメータは、バッテリ2の状態を管理するバッテリ管理ユニット(Battery Management Unit,BMU)20に伝達される。
バッテリ管理ユニット20は、バッテリ2の温度や電圧のほか,図示省略する電流センサによって検出されたバッテリ2の電流などに基づいて、充電率(State of Charge, SOC)や充電容量などの充放電状態を管理する装置である。たとえば、電流の累積値や印加電圧などに基づく公知の手法によって、バッテリ2の満充電時における容量がバッテリ管理ユニット20によって算出あるいは推定される。
【0017】
このバッテリ管理ユニット20に管理されるバッテリ2には、太実線で示す高電圧系の直流回路(以下「回路」と略称する)3が接続されている。
この回路3には、バッテリ2の充電時に電動車両1の外部から電力が供給される充電口9が接続されている。この充電口9には、図示省略する外部充電器の充電コネクタ(「充電プラグ」や「充電ガン」とも称される)が外部充電時に差し込まれる。
【0018】
ここでは、普通充電口91および急速充電口92の二つを充電口9として例示する。普通充電口91には交流電力が供給され、急速充電口92には直流電力が供給される。バッテリ2は直流電源であることから、バッテリ2への給電に交流よりも直流を用いるほうが充電効率を高めることができる。そのため、普通充電口91からの給電に比べて急速充電口92からの給電のほうが、バッテリ2の充電時間を短縮することができる。
【0019】
さらに、回路3には、車載充電器(On-Board Charger, OBC)4とインバータ7と電気機器8とが介装されている。これらの車載充電器4,インバータ7および電気機器8は、バッテリ2に対して並列に接続されている。
車載充電器4は、電流を交流から直流に変換するAC−DCコンバータとして機能し、普通充電口91からの給電時の充電状態を制御可能なインレットデバイスである。
【0020】
インバータ7は、モータ5に接続されており、このモータ5を制御するモータ制御ユニット(Motor Control Unit,MCU)71に内蔵されている。このインバータ7は、電流を直流から交流に変換するDC−ACインバータである。そのため、バッテリ2からの直流電力は、インバータ7で交流電力に変換されてモータ5に供給される。モータ5に電力供給することで車輪6が駆動され、車輪6を回生制動することでモータ5からインバータ7やその先のバッテリ2に回生電力が供給される。
【0021】
電気機器8は、外部充電時に供給される電力で作動しうる種々の装置である。この電気機器8は、バッテリ2に並列接続されることから高電圧が印加される。すなわち、電気機器8は、外部充電時に高負荷で作動可能な装置である。ここでは、空調機器81,ヒータ82,変圧器83の三つを電気機器8として例示する。
空調機器81は冷却装置であり、ヒータ82は加熱装置である。この空調機器81には、冷媒を圧縮するコンプレッサが設けられている。また、このヒータ82には、加熱される電熱線が設けられている。ここでのヒータ82には、制御構成を省略あるいは簡素化するために、温度が上昇するほど抵抗が増大する特性〔PTC(Positive Temperature Coefficient)特性〕の電熱線が配線される。これらの空調機器81およびヒータ82は、車室内の冷暖房やバッテリ2の温度調節に用いられる。
【0022】
変圧器83は、DC−DCコンバータとも称され、電圧を低下させる降圧器(ダウンバータ)である。この変圧器83は、バッテリ2とは別の補機バッテリ84に接続される。そのため、回路3における高電圧の電力は、変圧器83で降圧されて補機バッテリ84に供給される。たとえば、補機バッテリ84の充電容量(蓄電量)が所定量を下回ると変圧器83が作動して、補機バッテリ84が充電される。
【0023】
[1−2.詳細構成]
つぎに、電気機器8の電流制御に関する構成を説明する。ここでは、電気機器8の電流制御のうち、バッテリ2の外部充電中に電気機器8の作動電流を制限する制御を詳述する。なお、ここでいう「作動電流」とは、作動中の電気機器8に供給される電流である。
この電動車両1では、電流制御の制御主体を統合制御ユニット(Electric Vehicle − Electronic Control Unit, EV-ECU)10が担う。
【0024】
なお、統合制御ユニット10(制御装置)は、電流制御のほか、電動車両1に関する広汎な制御も担う。たとえば、バッテリ管理ユニット20やモータ制御ユニット71といった電子制御装置が統合制御ユニット10によって統合的に制御される。統合制御ユニット10をはじめとしたバッテリ管理ユニット20やモータ制御ユニット71などの電子制御装置は、例えばマイクロプロセッサやROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などを集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される。
【0025】
この統合制御ユニット10は、CAN(Controller Area Network)やFlexRayといった車載ネットワークの通信ラインLを介して、他のユニット20,71などの電子制御装置やセンサ21,22と情報を送受信可能に接続される。たとえば、センサ21,22の検出情報は、バッテリ管理ユニット20を通じて通信ラインLに伝達され、統合制御ユニット10にも伝達される。なお、統合制御ユニット10は、バッテリ2が外部充電中か否かの充電状態情報も把握している。
【0026】
まず、電流制御について説明する。なお、ここでは三つの電気機器8のうちの一つだけが外部充電中に作動するものとする。
電流制御では、バッテリ2の外部充電中における電気機器8の作動電流を上限電流以下となるように制限する。すなわち、電気機器8の作動電流が上限電流を超過しないように制限される。この電流制御は、当然ながら統合制御ユニット10の起動中に実施される。
【0027】
ここでは、バッテリ2の外部充電中において電気機器8が実際に作動するのに先立って、電流制御が開始される。すなわち、電流制御では、上限電流を予め設定する設定制御(プレ制限制御)と、設定制御で設定された上限電流およびこれを更新した上限電流で作動電流を実際に制限する制限制御とが択一的に実施される。
設定制御では、制限制御が実施される前に上限電流を予め算出し、この上限電流を予め設定する。制限制御では、まず、設定制御で設定された上限電流を電気機器8の作動電流に対して実際に適用して制限するとともに、設定制御で設定された上限電流を更新して作動電流を制限する。このように上限電流が予め設定されることで、制限制御の開始時点から電気機器8の作動電流が上限電流で制限される。
【0028】
まず、制限制御の実施条件を述べる。
制限制御の実施条件は、下記の条件A1およびA2の双方を満たすことであり、制限制御の終了条件は、条件A1およびA2の少なくとも一方が不成立になることである。
条件A1:バッテリ2が外部充電されていること
条件A2:電気機器8が作動(ON)していること
【0029】
この制限制御の実施条件は、設定制御の終了条件である。つまり、設定制御の終了と同時に制限制御が開始される。また、制限制御の実施条件を満たさないときには、設定制御の実施条件が成立する。詳細に言えば、条件A1およびA2の何れか一方のみを満たすことと、条件A1およびA2の何れも満たさないこととが、設定制御の実施条件である。すなわち、設定制御の実施条件は制限制御の終了条件と同一である。
【0030】
上記の条件A1は、統合制御ユニット10が把握しているバッテリ2の充電状態情報に基づいて判定される。
また、上記の条件A2は、電動車両1のユーザによる空調機器81あるいはヒータ82への作動が要求(操作)されている場合や、ヒータ82や変圧器83が作動制御されている場合(作動制御信号が各種の制御ユニットから出力されている場合)に成立する。
【0031】
なお、電流制御は、統合制御ユニット10が遮断(シャットダウン)されると終了するものの、統合制御ユニット10の起動中には常に実施される。そのため、制御負荷の増加を招きうる。そこで、上述した条件A1およびA2の何れも満たされていないときには電流制御を実施しないこととしてもよい。すなわち、統合制御ユニット10が起動して最初に条件A1およびA2の何れか一方を満たしたら、電流制御を開始してもよい。
【0032】
さらに、制御負荷を抑えるための加重条件を下記の条件B1,B2に例示する。すなわち、上述した実施条件(条件A1および条件A2の成立)に加重して条件B1やB2を満たすときに、電流制御を開始することとしてもよい。
条件B1:電動車両1が停止(停車)していること
条件B2:充電施設やその周辺に電動車両1が位置していること
【0033】
上記の条件B1は、モータ5の回転数(すなわち車速)に基づいて判定することができる。この条件B1によれば、電動車両1の走行中には電流制御が実施されず、制御負荷の低減に寄与する。
上記の条件B2は、充電口9への充電コネクタの差し込みを検知するスイッチやGPS(Global Positioning System)装置(何れも図示省略)などの情報に基づいて判定することができる。この条件B2によれば、バッテリ2が外部充電される可能性が高い状況を判別することで電流制御の実施を抑え、制御負荷が適切に抑えられる。
【0034】
統合制御ユニット10には、電流制御を実施する機能要素として、推定部11,算出部12および制限部13が設けられる。
推定部11は、バッテリ2の電気抵抗を推定する。算出部12は、推定部11で推定された電気抵抗を用いて上限電流を算出する。制限部13は、算出部12で算出された上限電流以下となるように電気機器8の作動電流を制限する。
【0035】
これらの機能要素は、電流制御で実行されるプログラムの一部の機能を示すものであり、ソフトウェアで実現されるものとする。ただし、各機能の一部または全部をハードウェア(電子回路)で実現してもよく、あるいはソフトウェアとハードウェアとを併用して実現してもよい。
【0036】
ところで、バッテリ2は、その状態に応じて電気抵抗が変動する。具体的に言えば、バッテリ2は、温度が上昇するほど電気抵抗が低下し、劣化がすすむほど電気抵抗が上昇する。そのため、電気抵抗を精度よく推定するためには、バッテリ2の状態として、バッテリ2の温度や劣化度(劣化の程度,劣化の進行度合い)を用いることが好ましい。
本実施形態の推定部11は、バッテリ2の温度および劣化度に基づいてバッテリ2の電気抵抗を推定する。
【0037】
バッテリ2の電気抵抗を推定するための温度には、温度センサ21で検出されたバッテリ2の温度が用いられる。
バッテリ2の劣化度は、満充電時におけるバッテリ2の充電容量(以下「フル充電容量」という)を現状のものと初期(新品)のもの(たとえば定格充電容量)とで比較することによって推定することができる。具体的には、現状のフル充電容量を「CC」とするとともに初期のフル充電容量を「CN」とした場合に、これらのフル充電容量の割合(CC/CN)に応じてバッテリ2の劣化度が推定可能である。
【0038】
本実施形態の推定部11は、バッテリ管理ユニット20に記憶されている(あるいは、算出または推定される)初期のフル充電容量(CN)と、バッテリ管理ユニット20で算出または推定された直近のフル充電容量(CC)とを取得し、これらのフル充電容量の割合(CC/CN)を算出してバッテリ2の劣化度を推定する。
そのほか、推定部11は、バッテリ2の累計使用時間や累計入出力電流といった他のパラメータに基づいてバッテリ2の劣化度を推定してもよい。
【0039】
本実施形態では、バッテリ2の使用状況で想定される温度および劣化度とこれらに対応した各電気抵抗とが予め設定されたマップ(三次元マップ)が記憶されている。そして、このマップから温度センサ21で検出された温度と推定された劣化度とに対応する電気抵抗を推定部11が読み出す。
【0040】
算出部12は、除算式「A=(VM−VC)/R」を用いて上限電流を算出する。
この除算式の各項は、下記のパラメータを表す。
:上限電流
M:バッテリ2に許容される最大電圧
C:電圧センサ22で検出された印加電圧
:推定部11で推定されたバッテリ2の電気抵抗
【0041】
なお、上記した四つの項のうちバッテリ2に許容される最大電圧だけが固有値である。
この最大電圧は、バッテリ2に固有の定格値であり、少なくとも算出部12が読み取り可能に予め記憶されている。
除算式のうち右辺の分子(VM−VC)は、バッテリ2に対して更に印加したとしてもバッテリ2に許容される最大電圧を超過しないマージン電圧(余裕電圧)と言える。このマージン電圧と電気抵抗とに応じて上限電流が算出される。
【0042】
制限部13は、電気機器8の要求出力に対応する作動電流が上限電流よりも大きい場合に、電気機器8の作動電流を上限電流以下に設定して制限する。具体的には、バッテリ2の保護性を確保したうえで可能な限り電気機器8の作動要求に応えるために、作動電流を上限電流と等しく設定する。ただし、バッテリ2の保護性を更に高める観点から、作動電流を上限電流よりも小さく設定してもよい。
なお、電気機器8の要求出力に対応する作動電流が上限電流よりも小さい場合には、作動電流が制限されることなく要求出力に応じて電気機器8が作動する。この場合、制限部13は作動電流が上限電流を超過しないように作動電流を監視し、上限電流以下の状態を保つ。
【0043】
また、制限部13は、電流制御の制御信号を出力する。
この制御信号の出力先は、作動電流が制限される電気機器8やそのECU(図示省略)である。また、制御信号の出力時期は、制限制御の実施条件が成立する前(設定制御の実施条件の成立中)、および、制限制御の実施中である。前者のタイミングで制御信号(プレ制御信号)を出力することで、制限部13は、電気機器8の作動前に上限電流を予め設定する設定制御を実施する。
【0044】
一方、制限部13は、制限制御の開始時点(設定制御の終了時点)では設定制御で設定された上限電流を用いて電気機器8の作動電流を実際に制限する。そして、制限制御の実施中は、算出部12で算出された上限電流を用いて(すなわち設定制御において設定された上限電流を更新した値を用いて)電気機器8の作動電流を実際に制限する。つまり、制限制御の実施条件の成立中は、作動電流が上限電流以下となるように制限する制限制御を実施する。
【0045】
[2.フローチャート]
つぎに、図2のチャートを参照して、電流制御のフローを説明する。このフローは、統合制御ユニット10において所定の制御周期で繰り返し実施される。なお、ここでは、フローが開始される時点では、設定制御の実施条件が成立しているものとする。
はじめに、電流制御で用いられる各種の情報(バッテリ2の温度や劣化度,バッテリ2に許容される最大電圧や印加電圧など)を取得する(ステップS1)。
【0046】
つづいて、推定部11がバッテリ2の電気抵抗を推定し(ステップS2)、算出部12が電気抵抗を用いて電気機器8の上限電流を算出し(ステップS3)、制限部13がステップS3で算出された上限電流を設定する(ステップS4)。ここでの上限電流による設定では、電気機器8の作動電流が実際に制限される前にプレ制御信号が生成あるいは出力される。つまり、最初の制御周期におけるステップS1〜S4では、設定制御が実施される。
【0047】
続くステップS5において、制限制御の実施条件が成立しなければ、算出,設定された上限電流は実際に使用されることなく、設定制御に移行して(ステップS8)、再びステップS1〜S4の処理が繰り返し実施される(プレ制御信号が設定される)。
その後、制限制御の実施条件が成立した場合、すなわち、バッテリ2の外部充電中に電気機器8が作動する場合(ステップS5のYES)には、電気機器8の作動電流がそのとき設定されている上限電流以下となるように制限される(ステップS6)。
【0048】
例えば、ステップS5の判定でNOからYESへ最初に切り替わった場合には、設定制御で設定された上限電流が用いられる。具体的には、電気機器8の要求出力に対応する作動電流が上限電流よりも大きいのであれば、上限電流以下となるように作動電流が実際に制限される(ステップS6)。
【0049】
制限制御の終了条件が成立しない場合、すなわち、バッテリ2の外部充電中であって電気機器8の作動が継続する場合(ステップS7のNO)には、電流制御用の各種情報が改めて取得され(ステップS1)、推定部11,算出部12および制限部13によって上限電流が再び演算される(ステップS2〜S4)。そして、バッテリ2の外部充電の終了や電気機器8の作動停止が再び判定される(ステップS5)。
【0050】
このように制限制御の実施条件が成立しているとき(制限制御の終了条件が成立するまで)は、上限電流がステップS1〜S4において更新されて、制限制御が継続して実施される。
その後、制限制御の終了条件が成立した場合、すなわち、バッテリ2の外部充電が終了した場合(ステップS7のYES)や電気機器8の作動が停止した場合(ステップS7のYES)には、上限電流による作動電流への制限は終了して設定制御を実施する(ステップS8)。そして、本フローの制御周期を終了する(リターン)。
【0051】
また、バッテリ2の外部充電中であっても電気機器8が作動していない場合(ステップS5のNO)には、そもそも電気機器8に作動電流が供給されず、制限制御は実施されずに設定制御が実施される(ステップS8)。あるいは、バッテリ2が外部充電中でない場合(ステップS5のNO)には、電気機器8の要求出力に対応する作動電流が上限電流よりも大きいときであっても、この作動電流は電流制御では制限されず、設定制御が実施される(ステップS8)。
【0052】
このように設定制御にかかる実施条件が成立しているとき(設定制御の終了条件が成立するまで)は、設定制御が継続して実施される。また、設定制御の実施中には、予め設定される上限電流が再演算されると上書き(更新)される。そして、制限制御の実施条件が再成立(ステップS5のYES)すれば、再演算された上限電流で電気機器8の作動電流が制限される。
【0053】
[3.作用および効果]
本実施形態の電動車両1は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
(1)電流制御では、外部充電されているバッテリ2のマージン電圧(VM−VC)および電気抵抗(R)に応じた上限電流(A)以下となるように電気機器8の作動電流が制限される。そのため、外部充電中に電気機器8の作動が停止されることで余剰電力がバッテリ2に供給されたとしても、バッテリ2の印加電圧(VC)が許容される最大電圧(VM)を上回らずに、バッテリ2の保護性を高めることができる。
【0054】
(2)仮に、バッテリの外部充電中に電気機器が作動してから電流制御を開始する場合には、電流制御の開始直前に上限電流よりも大きい電流が電気機器に供給されうる。また、電流制御の開始直後における上限電流の算出や適用にかかるタイムラグ中にも、上限電流よりも大きい電流が電気機器に供給されうる。そのため、バッテリの外部充電が開始された直後に電気機器の作動が停止されたとき(すなわち作動電流が上限電流で制限される前)には、許容される最大電圧を超過する電圧がバッテリに印加される可能性があり、この印加電圧によってバッテリの損傷を招くおそれがある。
これに対し、本電流制御(設定制御)では、バッテリ2の外部充電中における電気機器8の作動前に、算出された上限電流で電気機器8の作動電流を予め制限するための設定がなされる。そのため、バッテリ2が外部充電される全ての期間にわたって電気機器8の作動電流が上限電流を上回らず、バッテリ2の保護性を確実に高めることができる。
【0055】
(3)さらに、バッテリ2の状態に基づいて電気抵抗が推定されることから、バッテリ2の状態に応じた電気抵抗を精度よく推定することができる。延いては、上限電流も精度よく算出することができる。
(4)具体的には、バッテリ2の温度に応じて電気抵抗が推定されることで、バッテリ2の温度変化に応じた電気抵抗を精度よく推定することができる。
(5)また、バッテリ2の劣化度に応じて電気抵抗が推定されることで、バッテリ2の劣化の進行度合いに応じた電気抵抗を精度よく推定することができる。
【0056】
(6)ところで、外部充電中に電気機器の作動を禁止すれば、電気機器の作動停止による余剰電力が発生せず、バッテリの過度な電圧上昇を防ぐことはできるものの、電気機器の使用シーンが限定されてしまう。そのうえ、ユーザの操作(要求)で作動する電気機器の使用シーンが限定されるおそれがあり、ユーザビリティを損なうおそれもある。
これに対し、本電流制御では、作動電流が制限される電気機器8のうち、空調機器81あるいはヒータ82は、バッテリ2の外部充電中であってもユーザの操作で作動させることができる。よって、ユーザビリティの低下を抑えることもできる。
【0057】
[II.その他]
最後に、本実施形態のその他の変形例について述べる。
たとえば、高電圧系の回路に介装される電気機器は、三つに限らず、少なくとも一つであればよい。二つ以上の電気機器が設けられる場合には、バッテリの外部充電中に二つ以上の電気機器が作動しうる。このような場合の電流制御では、作動する電気機器の各作動電流の合計値が上述した上限電流以下となるように制御される。このとき、上限電流の分配(各作動電流への割り当て)としては、たとえば各電気機器の出力要求に対応する作動電流の割合に応じた設定や、特定の電気機器の作動電流を優先した設定などが挙げられる。
【0058】
また、バッテリの電気抵抗は、バッテリの温度および劣化度の双方に基づく推定手法に限らず、温度および劣化度の何れか一方に基づく推定手法を採用してもよい。更に言えば、バッテリの電気抵抗として、実験的または経験的に予め設定された所定値(固定値)を用いてもよい。この場合には、バッテリの電気抵抗を推定する必要がなく、制御ロジックを簡素化することが可能である。
【0059】
また、上述した電流制御では、設定制御と制限制御とが択一的に実施される場合を例示したが、設定制御を省略してもよい。すなわち、上述した条件A1およびA2の双方が成立したときに電流制御を開始し、条件A1およびA2の少なくとも一方が不成立になったら電流制御を終了する構成であってもよい。この場合の電流制御は、一実施形態で上述した電流制御に比較してバッテリの保護性がやや低下するものの、電流制御の実施機会を減少させ、制御負荷を抑えることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 電動車両
2 バッテリ
3 回路
4 車載充電器
5 モータ
6 車輪
7 インバータ
8 電気機器
9 充電口
10 統合制御ユニット(制御装置)
11 算出部
12 推定部
13 制限部
20 バッテリ管理ユニット
21 温度センサ
22 電圧センサ
71 モータ制御ユニット
81 空調機器
82 ヒータ
83 変圧器
84 補機バッテリ
91 普通充電口
92 急速充電口
L 通信ライン
図1
図2