(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
将来的な石油資源の枯渇が懸念されている。石油資源の代替原料として、これまでにバイオマスの利用を図る研究が数多くなされている。斯かる潮流の中で、バイオマス利用の分野において、木材を原料として使用する製紙産業が、大規模かつ商業ベースで成功している例として挙げられる。
【0003】
木材の構成成分の主成分であるセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンの全利用に成功している例としては、亜硫酸蒸解を用いたサルファイトパルプの製造が挙げられる。木材の亜硫酸蒸解により得られる成分のうち、例えばパルプは、各種セルロース製品の原料に用いられており、ヘミセルロース(非セルロース系多糖類)は、発酵原料等に用いられている。また、亜硫酸蒸解により得られるリグニンスルホン酸塩は、バインダー性能、分散性能、及びキレート能等の様々な能力を発揮することより、多様な分野にて利用されている。
【0004】
製紙産業では主に水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを使用したクラフト蒸解により木材を蒸解している。その際に排出されるクラフトリグニンはほぼ全量を燃料として回収しており、その他の利用用途はほとんど認められない。
【0005】
リグニンにはある種の金属捕捉能力が知られており、金属回収剤としての利用検討が進められている。特許文献1には、酸処理を施したリグニンを用いてクロム等の重金属を回収する方法が開示されている。特許文献2には、リグニンスルホン酸塩、珪酸塩、及び鉄化合物を含んでなる重金属処理剤が開示されている。特許文献3には、酸化リグニンを含む金属捕捉剤が種々の金属の捕捉剤として利用できることが開示されている。特許文献4には、高温、高圧の有機溶媒を使用して、リグニンを溶媒和させる有機溶媒法によって得られるリグニンと熱可塑性樹脂を複合化させた除染材料が開示されている。
【0006】
一概にリグニンと呼称しても、リグノセルロース材料からリグニンを分離する方法によって、リグニンの性質や性能は異なっている。現状、様々な方法で分離されたリグニンが存在するが、特許文献1〜4に記載されているリグニンは、いずれも工業的に入手できるリグニンではないため、実行性に問題がある。
【0007】
現在、工業的に利用可能なリグニンとして、クラフト法によって得られるクラフトリグニンと亜硫酸蒸解法によって得られるリグニンスルホン酸がある。前記の通り、クラフトリグニンは、ほぼ全量を燃料として用いている。リグニンスルホン酸については、水に溶解し易いリグニンスルホン酸と熱可塑性樹脂を複合化してカドミウム除去に使用できることが開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献5に記載のリグニンスルホン酸の利用は、リグニンスルホン酸の水への溶解性が高いため、熱可塑性樹脂を使用しなければならないという問題がある。
すなわち、リグニンスルホン酸を単独で使用していては、有用な金属を回収できないという問題があった。
【0010】
本発明の課題は、リグニン誘導体を主要な成分として、溶液中に存在するTi、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、およびレアアースに分類される有用な金属を捕捉することができる金属捕捉剤およびそれを用いた金属回収方法を提供することである。
【0011】
またその選択的な捕捉能によりPdとPt、あるいはAuとPtなどの捕捉能の異なる金属同士とを分離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記の〔1〕〜〔7〕を提供する。
〔1〕Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、およびレアアースに分類される金属に対し用いられる金属捕捉剤であって、リグニン誘導体を含むことを特徴とする金属捕捉剤。
〔2〕前記リグニン誘導体が、下記一般式(1)で表される基のS含量が1.0〜3.5質量%であり、水への溶解量が20.0質量%以下であるリグニンスルホン酸であることを特徴とする〔1〕記載の金属捕捉剤。
(前記一般式(1)中、Mは、水素原子、ナトリウムイオン、カルシウム、カリウムイオン、マグネシウムイオン、又はアンモニウムイオンを示す。)
〔3〕前記リグニン誘導体が、クラフトリグニンであることを特徴とする〔1〕記載の金属捕捉剤。
〔4〕前記金属捕捉剤が、還元性糖類を0.01〜5.0質量%含むことを特徴とする〔1〕〜〔3〕いずれかに記載の金属捕捉剤。
〔5〕〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の金属捕捉剤を用いた、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、およびレアアースに分類される金属の回収方法。
〔6〕〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の金属捕捉剤を用いた、PdとPtの分離方法。
〔7〕〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の金属捕捉剤を用いた、AuとPtの分離方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リグニン誘導体を主要な成分として、溶液中に存在するTi、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、およびレアアースに分類される有用な金属を捕捉することができる金属捕捉剤及びそれを用いた金属回収方法を提供することができる。
【0015】
また、捕捉剤として使用するリグニン誘導体は有機物であり、捕捉後燃焼して残渣から金属を回収することが可能である。またその選択的な捕捉能によりPdとPt、あるいはAuとPtなどの捕捉能の異なる金属同士とを分離することが可能である。
【0016】
上記に記載した通り、リグニン誘導体を分離する方法によって、分離されたリグニン誘導体の性質や性能は大きく異なるものである。
【0017】
本発明は、例えば工業的に流通し得るリグニン誘導体として、スルホン酸(塩)基のS含量と水への溶解量を所定の範囲に限定したリグニンスルホン酸を用いることができる。またはクラフトリグニンを用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
<金属捕捉剤>
本発明の金属捕捉剤は、リグニン誘導体を含む。前述の通り、リグニン誘導体はその分離する方法によって、分離されたリグニン誘導体の性質や性能は大きく異なるものである。
【0020】
本発明に用いられるリグニン誘導体としては、例えばスルホン酸(塩)基のS含量と水への溶解量を所定の範囲に限定したリグニンスルホン酸を挙げることができる。またはクラフトリグニンを挙げることができる。
【0021】
(リグニンスルホン酸)
リグニンスルホン酸は、リグニン又はその分解物の少なくとも一部が下記一般式(1)で表されるスルホン酸(塩)基で置換されているリグニン誘導体であり、
本発明で用いられるリグニンスルホン酸としては、スルホン酸(塩)基のS含量が1.0〜3.5質量%であり、水への溶解量が20.0質量%以下であるリグニンスルホン酸が好ましい。
【0022】
【化1】
(前記一般式(1)中、Mは、水素原子、ナトリウムイオン、カルシウム、カリウムイオン、マグネシウムイオン、又はアンモニウムイオンを示す。)
【0023】
リグニンスルホン酸も可燃性であり、金属回収に使用した後、金属を吸着したリグニンスルホン酸を焼却することができる。焼却後は金属含有量が高くなった焼却残渣から金属を回収することができる。
【0024】
本発明の金属捕捉剤として用いる場合、リグニンスルホン酸のスルホン酸(塩)基のS含量は1.0〜3.5質量%が好ましく、1.0〜3.3質量%であることがさらに好ましい。スルホン酸(塩)基のS含量が1.0〜3.5質量%であることにより、水への親和性を保ちつつ、リグニンスルホン酸自体の水への溶解性が低下し、金属を効率的に捕捉するこができる。
【0025】
リグニンスルホン酸のスルホン酸(塩)基のS含量とは、リグニンスルホン酸の固形物量に対するスルホン酸(塩)基に含有されるS含有量をいう。具体的には、下記数式(1)より算出する値である。
【0026】
数式(1):
スルホン酸(塩)基のS含量(質量%)=全S含量(質量%)−無機体S含量(質量%)
(数式(1)中、S含量はいずれもリグニンスルホン酸の固形物量に対するS含量を示す。)
数式(1)中、全S含量は、ICP発光分光分析法により定量することができる。また、無機体S含量は、イオンクロマト法により定量したSO
3含量及びSO
4含量の合計量として算出することができる。
【0027】
本発明の金属捕捉剤として用いる場合、リグニンスルホン酸は水への溶解量が20.0質量%以下が好ましく、3〜18.0質量%であることがさらに好ましい。水への溶解量が20.0質量%以下の低スルホン化度のリグニンスルホン酸を用いると、金属を効率的に捕捉して回収することができる。
【0028】
リグニンスルホン酸の水への溶解量は、次のようにして算出した値である。10g(乾燥重量)のサンプル(リグニンスルホン酸)を水300gに分散し、60分攪拌した後に濾過する。ろ液の質量及び固形分(ろ物を乾燥したもの)の質量を測定する。そして、ろ液の固形分の質量をサンプルの質量(10g)で割り、100倍することにより算出する。
【0029】
本発明の金属捕捉剤として用いる場合、リグニンスルホン酸が還元性糖類を含んだリグニンスルホン酸組成物となっていることが好ましい。リグニンスルホン酸組成物に含まれる還元性糖類の含有量は0.01〜5.0質量%が好ましく、0.01〜4質量%であることがさらに好ましい。還元性糖類の含有量が0.01〜5.0質量%であることにより、金属捕捉剤として用いた場合に金属を効率的に捕捉して回収することができる。
【0030】
還元性糖とは、還元性を示す糖をいい、塩基性溶液中でアルデヒド基又はケトン基を生じる糖をいう。
【0031】
還元性糖としては、例えば、全ての単糖、マルトース、ラクトース、アラビノース、スクロースの転化糖等の二糖、及び多糖が挙げられる。アルカリ処理排液中に含まれる還元性糖としては、通常、セルロース、ヘミセルロース、及びそれらの分解物を含む。セルロース及びヘミセルロースの分解物としては、例えば、ラムノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、グルコース、マンノース、フルクトース等の単糖;キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖等のオリゴ糖が挙げられる。
【0032】
還元性糖の測定は、Somogyi−Schaffer法によって測定し、測定値をグルコース量に換算して還元性糖の含有量を求めることができる。
【0033】
リグニンスルホン酸は、電離していない状態(即ち、一般式(1)中のMが、水素原子)であってもよく、スルホン酸基の水素原子がカウンターイオンで置換(即ち、一般式(1)中のMが、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン又はアンモニウムイオン)されていてもよい。
【0034】
カウンターイオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオンが挙げられる。
【0035】
なお、カウンターイオンは、1種単独のカウンターイオンであってもよく、2種以上のカウンターイオンを組み合わせてもよい。
【0036】
リグニンスルホン酸には、通常、無機塩が含有される。無機塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウムが挙げられる。リグニンスルホン酸中の無機塩の含有量は、1〜25質量%である。
【0037】
本発明に用いられるリグニンスルホン酸又はリグニンスルホン酸組成物としては、調製したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。以下に調製方法を例示するが、下記の調製方法で調製されたものに限定されるものではない。
【0038】
(リグニンスルホン酸の調製方法)
リグニンスルホン酸は、例えば、以下のようにして調製することができる。リグノセルロース原料を亜硫酸処理して調製することができる。中でも、リグノセルロース原料を亜硫酸蒸解処理して調製することが好ましい。
【0039】
リグノセルロース原料は、構成体中にリグノセルロースを含むものであれば特に限定されるものではない。例えば、木材、非木材等のパルプ原料が挙げられる。
【0040】
木材としては、エゾマツ、アカマツ、スギ、ヒノキ等の針葉樹木材、シラカバ、ブナ等の広葉樹木材が例示される。木材の樹齢、採取部位は問わない。そのため、互いに樹齢の異なる樹木から採取された木材や、互いに樹木の異なる部位から採取された木材を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
非木材としては、竹、ケナフ、葦、稲が例示される。
【0042】
リグノセルロース原料は、これらの材料を1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
亜硫酸処理は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかをリグノセルロース原料に接触させて行うことができ、中間生成物を得る処理である。亜硫酸処理の条件は、特に限定されず、リグノセルロース原料に含まれるリグニンの側鎖のα炭素原子にスルホン酸(塩)基が導入され得る条件であればよい。
【0044】
亜硫酸処理は、亜硫酸蒸解法により行うことが好ましい。これにより、リグノセルロース原料中のリグニンをより定量的にスルホ化することができる。
【0045】
亜硫酸蒸解法は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液(例えば、水溶液:蒸解液)中で、リグノセルロース原料を高温下で反応させる方法である。当該方法は、サルファイトパルプの製造方法として工業的に確立されており、実施されている。そのため、亜硫酸処理を亜硫酸蒸解法により行うことにより、経済性及び実施容易性を高めることができる。
【0046】
亜硫酸塩の塩としては、亜硫酸蒸解を行う場合、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0047】
亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液における亜硫酸(SO
2)濃度は、特に限定されないが、反応薬液100mLに対するSO
2の質量(g)の比率が、1g/100mL以上が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には2g/100mL以上がより好ましい。上限は、20g/100mL以下が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には15g/100mL以下がより好ましい。SO
2濃度は、1g/100mL〜20g/100mLが好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には2g/100mL〜15g/100mLがより好ましい。
【0048】
亜硫酸処理のpH値は特に限定されないが、10以下が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には5以下がより好ましい。pH値の下限は、0.1以上が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には0.5以上がより好ましい。亜硫酸処理の際のpH値は、0.1〜10が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には0.5〜5がより好ましい。
【0049】
亜硫酸処理の温度は特に限定されないが、170℃以下が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には150℃以下がより好ましい。下限は、70℃以上が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には100℃以上がより好ましい。亜硫酸処理の温度条件は、70〜170℃が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には100℃〜150℃がより好ましい。
【0050】
亜硫酸処理の処理時間は特に限定されなく、亜硫酸処理の諸条件にもよるが、0.5〜24時間が好ましく、1.0〜12時間がより好ましい。
【0051】
亜硫酸処理においては、カウンターカチオン(塩)を供給する化合物を添加することが好ましい。カウンターカチオンを供給する化合物を添加することにより、亜硫酸処理におけるpH値を一定に保つことができる。カウンターカチオンを供給する化合物としては、例えば、MgO、Mg(OH)
2、CaO、Ca(OH)
2、CaCO
3、NH
3、NH
4OH、NaOH、NaHCO
3、Na
2CO
3が挙げられる。カウンターカチオンは、マグネシウムイオンであることが好ましい。
【0052】
亜硫酸処理において、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液を用いる場合、溶液には必要に応じて、SO
2及びカウンターカチオン(塩)のほかに、蒸解浸透剤(例えば、アントラキノンスルホン酸塩、アントラキノン、テトラヒドロアントラキノン等の環状ケトン化合物)を含ませてもよい。
【0053】
亜硫酸処理を行う際に用いる設備に限定はなく、例えば、一般に知られている溶解パルプの製造設備等を用いることができる。
【0054】
亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液から中間生成物を分離するには、常法に従って行えばよい。分離方法としては、例えば、亜硫酸蒸解後の亜硫酸蒸解排液の分離方法が挙げられる。
【0055】
亜硫酸蒸解処理によると、高スルホン化度のリグニンスルホン酸が得られることがあり、その場合、部分脱スルホン化処理により本発明に用いるに好ましい低スルホン化度のリグニンスルホン酸を得ることができる。部分脱スルホン化方法としては、特開昭58−45287号公報に記載されている方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0056】
(クラフトリグニン):
本発明の金属捕捉剤に含まれるリグニン誘導体として、クラフトリグニンを用いることができる。クラフトリグニンとしては、調製したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。調整方法としては、クラフトリグニンのアルカリ溶液や、クラフトリグニンのアルカリ溶液をスプレードライして粉末化した粉末化クラフトリグニン、クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させた酸沈殿クラフトリグニンを用いることができる。これらの内、粉末状のクラフトリグニンおよび酸沈殿クラフトリグニンを用いることが好ましい。
【0057】
クラフトリグニンのアルカリ溶液は、例えば特開2000−336589に記載されているような公知の方法により得られるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0058】
クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させた酸沈殿クラフトリグニンとしては、WO2006/038863またはWO2006/031175に記載されている方法などにより得られる粉末状の酸沈殿クラフトリグニンを用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0059】
本発明の金属捕捉剤に含まれるクラフトリグニンは、水への溶解量が20.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましい。水への溶解量が20.0質量%以下のクラフトリグニンを用いると、金属を効率的に捕捉して回収することができる。
【0060】
クラフトリグニンの水への溶解量は、次のようにして算出した値である。10g(乾燥重量)のサンプル(クラフトリグニン)を水300gに分散し、60分攪拌した後に濾過する。ろ液の質量及び固形分(ろ物を乾燥したもの)の質量を測定する。そして、ろ液の固形分の質量をサンプルの質量(10g)で割り、100倍することにより算出する。
【0061】
本発明の金属捕捉剤は、上記されるリグニンスルホン酸又はクラフトリグニンを、単独で用いても良く、また2種以上を混合して用いても良い。
【0062】
<金属回収方法>
本発明の金属回収方法は、金属イオンを含む溶液から金属を回収する金属回収方法であって、本発明の金属捕捉剤を該溶液に接触させる手段を含む方法である。
【0063】
接触させる手段については公知の手段を利用することができる。例えば、金属イオンを含む溶液に、本発明の金属捕捉剤を投入して攪拌接触させる手段や、カラムに本発明の金属捕捉剤を詰め、金属イオンを含む溶液を通液する手段等が挙げられる。但し、これらの手段に限定されるものではない。
【0064】
なお、溶液としては金属イオンを含むものであればよい。例えば、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。中でも、取扱い性の点から水溶液が好ましい。なお、これら1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
本発明の金属捕捉剤の水の溶解量が20質量%以下であれば、上記の手段で金属捕捉剤を溶液に接触させた場合、金属捕捉剤は溶液中の金属を吸着しつつ、不溶物として沈殿しやすい。従って、ろ過等や遠心分離等の公知の手段で溶液から簡便に取り除くことができる。
【0066】
溶液から取り除いた不溶物は、可燃物なので、捕捉後燃焼して残渣から金属を回収することが可能である。
【0067】
なお、溶液は、金属濃度が低減しているが、金属捕捉剤を繰り返し接触させることにより、回収率を高めることができる。接触回数は、特に制限されるものではない。
【0068】
本発明の金属捕捉剤の使用量は、溶液中の金属濃度にもよるが、例えば、溶液中の金属の濃度が5〜50ppmである場合、捕捉剤倍数で、100倍以上が好ましく、500倍以上がより好ましく、1000倍以上が更に好ましい。かかる範囲であると、金属を捕捉し、回収することができる。
【0069】
なおここでいう、捕捉剤倍数とは、溶液中の金属濃度に対する捕捉剤の固形分量の倍数をいう。例えば金属濃度が5ppmで、捕捉剤が500ppmなら捕捉剤倍数は100倍となる。
【0070】
回収対象の金属としては溶液中に存在するTi(チタン)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、および希土類元素であるレアアース(Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム))に対して用いることができる。これらは溶液中でイオンとして存在していることが好ましい。
【0071】
また本発明の金属捕捉剤を用いれば、その特異的な金属捕捉能によって、PdとPtあるいはAuとPtをその捕捉能の違いによって分離することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0073】
以下に、実施例で用いたリグニン誘導体を記す。
【0074】
<製造例1>
サンエキス252(日本製紙社製、濃度43%、主成分リグニンスルホン酸ナトリウム)を40%NaOHでpH12とした後、140℃で30分間アルカリ空気酸化した後、70%硫酸を加えてpH3とし、部分脱スルホン化したリグニンスルホン酸を分別沈殿させ、実施例1のリグニンスルホン酸Aを得た。(スルホン酸(塩)基のS含量3.3質量%、水への溶解量18.8質量%、還元性糖類2.7%)
【0075】
<製造例2>
サンエキス252(日本製紙社製、濃度43%、主成分リグニンスルホン酸ナトリウム)を40%NaOHでpH13とした後、150℃で30分間アルカリ空気酸化した後、70%硫酸を加えてpH3とし、部分脱スルホン化したリグニンスルホン酸を分別沈殿させ、実施例2のリグニンスルホン酸Bを得た。(スルホン酸(塩)基のS含量1.3質量%、水への溶解量3.0質量%、還元性糖類0.1%)
【0076】
上記のリグニンスルホン酸を用いて金属捕捉試験を行った。試験結果を表1〜2に示す。なお、金属捕捉試験の詳細を以下に記す。
【0077】
<実施例1〜35、参考例1〜8>
[金属捕捉試験]:
表1〜2記載の各金属を5ppmとなるように調整した金属水溶液100mlに、金属濃度の100倍、500倍となるように捕捉剤倍数を変えた表1〜2記載のリグニンスルホン酸を加え、室温で5分攪拌した。攪拌終了後、濾過して、濾液中の金属濃度をICP発光分光分析法にて測定した。
そして、金属回収率を下記数式(2)より算出した。なお、リグニンスルホン酸を加えない金属水溶液をblankとする。結果を表1〜2にそれぞれ示す。
【0078】
数式(2):
金属回収率(%)=(blank試験後の金属濃度−捕捉試験後の金属濃度)/(blank試験後の金属濃度)×100
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1〜2より、本発明に該当する金属捕捉剤は金属回収率が高いことが分かる。
【0082】
従って、上記結果から、特にスルホン酸(塩)基のS含量が1.0〜3.5質量%であり、かつ、水への溶解量が20.0質量%以下であるリグニンスルホン酸であって、さらに還元性糖類が0.01〜5.0質量%を含むリグニンスルホン酸組成物を金属捕捉剤として用いると、本願発明の高い効果を得られることがわかる。
【0083】
また本発明の金属捕捉剤を用いることで、金属回収率の異なる金属が混在した溶液から、選択的に金属を分離できる分離方法を提供することができる。
【0084】
<実施例36〜38>
[分離試験1(Pd/Pt混合液)]:
PdとPtをそれぞれ5ppm程度含む金属水溶液100mlに、全金属濃度の1000倍となるように捕捉剤倍数を変えた表3記載のリグニンスルホン酸又はクラフトリグニン(製品名:Lignin alkali 、固形分濃度97.17%、水への溶解量0.1質量%、SIGMA-ALDRICH社製)を加え、室温で5分、30分、60分、120分攪拌した。攪拌終了後、濾過して、濾液中の各金属濃度をICP発光分光分析法にて測定した。
そして、金属回収率を下記数式(3)より算出した。なお、リグニンスルホン酸を加えない金属水溶液をblankとする。結果を表3に示す。
【0085】
数式(3):
金属回収率(%)=(blank試験後の金属濃度−捕捉試験後の金属濃度)/(blank試験後の金属濃度)×100
【0086】
<実施例39〜41>
[分離試験2(Au/Pt混合液)]:
金属としてPdの代わりに、Auを用いた以外は、実施例36〜38と同様にして金属回収率を得た。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3より、本発明に該当する金属捕捉剤を用いたものはPdの回収率が高く、Ptの回収率が低いためPdとPtの混合水溶液からPdを選択的に回収することが可能である。 また、同様にAuの回収率が高く、Ptの回収率が低いためAuとPtの混合水溶液からPdあるいはAuを選択的に回収することが可能である。