特許第6794868号(P6794868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6794868-複合歯切加工装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794868
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】複合歯切加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23F 23/08 20060101AFI20201119BHJP
   B23F 5/16 20060101ALI20201119BHJP
   B23F 19/10 20060101ALI20201119BHJP
   B23B 41/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   B23F23/08
   B23F5/16
   B23F19/10
   B23B41/00 K
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-28711(P2017-28711)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2018-134690(P2018-134690A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】立川 友和
(72)【発明者】
【氏名】栗田 信明
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−300527(JP,A)
【文献】 特開平10−128626(JP,A)
【文献】 実開昭57−108836(JP,U)
【文献】 特表2009−502521(JP,A)
【文献】 特開2002−137119(JP,A)
【文献】 特開平03−228519(JP,A)
【文献】 特開2015−116625(JP,A)
【文献】 特開2013−129000(JP,A)
【文献】 特開2014−172123(JP,A)
【文献】 特開2002−321122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00−23/12
B23B 11/00
B23B 41/00
B23P 15/14
B23P 23/00−23/06
G05B 19/18−19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象のワークを保持しつつ回転させるワーク駆動部と、
歯切工具である第1工具を保持し、当該第1工具を前記ワーク駆動部と同期回転させつつ前記ワークに対する加工位置に移動させる第1加工部と、
他の切削工具である第2工具を保持し、当該第2工具を前記ワーク駆動部と同期させつつ前記ワークに対する加工位置に移動させる第2加工部と、
前記ワーク駆動部および前記第1加工部および前記第2加工部の駆動動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部が、
前記ワーク駆動部のワーク基準点に対する第1加工前の前記ワークの形状を示すワーク情報と、
前記第1加工部の第1基準点に対する前記第1工具の切刃の位置を特定する第1工具情報と、
前記第2加工部の第2基準点に対する前記第2工具の切刃の位置を特定する第2工具情報と、
前記ワーク基準点および前記第1基準点および前記第2基準点の相対位置を特定する相対位置情報と、を記憶する記憶部を有すると共に、
前記第1工具による第1加工が終了したときの前記第1工具情報および前記ワーク情報および前記相対位置情報に基づいて、前記ワーク基準点に対する前記ワークの歯溝形状情報を算出する歯溝形状演算部を有し、
前記歯溝形状情報と前記第2工具情報と前記相対位置情報とに基づいて、前記第2工具を前記ワークに対する第2加工の開始位置に移動させるように構成してある複合歯切加工装置。
【請求項2】
前記第1工具が、歯溝が厚み方向に沿って、ゼロを含め所定の捩じれ角を有するスカイビング加工用のカッターであり、
前記カッターの切刃の位置が、前記第1工具情報のうち前記捩じれ角と前記カッターの厚みの変化量によって自動で算出される請求項1に記載の複合歯切加工装置。
【請求項3】
前記第2工具がドリルであり、前記ドリルを前記第2加工の開始位置に移動させる際に、前記ワーク駆動部が前記ワークを前記ドリルによる加工に対応した姿勢に回転させ、前記第2加工に際しては、前記ワーク駆動部が動作しないように構成してある請求項1または2に記載の複合歯切加工装置。
【請求項4】
前記第2工具が歯面取り用の第2カッターであり、前記第2カッターを前記第2加工の開始位置に移動させる間に、前記ワーク駆動部が前記ワークの回転を開始し、前記ワークに対して前記第2カッターを同期駆動させるように構成してある請求項1または2に記載の複合歯切加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象のワークに1回目の加工を施したのち、他の工具を用いて2回目以降の加工を施す複合歯切加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような複合歯切加工装置としては例えば歯切加工と仕上加工などを行う歯切盤がある。当該歯切盤では、位置決め用治具によってワークが位置決めされ、カッターによってまず歯切加工が行われる。この歯切加工の後に、カッターを交換して面取加工や仕上加工が行われる。その場合、歯切盤に対する歯面の位置合せを行う必要があるが、歯面の位置特定には例えばタッチセンサが用いられる。
【0003】
タッチセンサは、位置決め用治具や設備に設けた別の機構によって支持されており、位置調整手段によりワークに対する位置が決定される。また、位置決め用治具の操作によってワークの姿勢も変更される。ただし、このタッチセンサの位置調整やワークの姿勢の変更は手動で行われることが多い。そのため、ワークの支持スペースが狭い場合などには作業が煩雑となり、次の面取加工などの作業効率が悪化することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−228519号公報
【発明の概要】
【0005】
このような不都合を解消するために、特許文献1に示す技術では、タッチセンサに加えて近接スイッチを利用している。即ち、位置決め用治具にタッチセンサと共に近接スイッチを設けておき、近接スイッチがワークに形成した歯先または歯溝を検出した場合に、タッチセンサが歯溝上に位置されるように近接スイッチとタッチセンサとの位置関係が予め設定されている。近接スイッチをワークに対してある程度の距離に近付け、近接スイッチが歯先または歯溝を検出するまで歯車を回転させる。近接スイッチが歯先または歯溝を検出すると、タッチセンサが歯溝に挿入され歯面の検出動作が行われる。
【0006】
本構成にすることで、近接スイッチが歯先または歯溝を検出した時にタッチセンサが歯溝上に位置されることとなり、タッチセンサに対する歯溝の位置調整に際して目視が不要となる。よって、歯面の位置合わせ作業の能率化を図ることができ、当該作業の自動化が可能になるとのことである。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術の場合、磁気センサに仮に切屑などの異物が付着している場合、歯面の位置を正確に測定することができない。また、ワークの切削加工中には磁気センサや近接スイッチを退避させておく必要があり、大掛かりな装置構成や設置空間が必要となり、加工コストの増大を招く。
【0008】
さらに、センシング時にはワークを複数回にわたって回転させる場合があるため、ワークの位置情報を特定するために、測定情報を統計処理すること等が必要となり、センシング時間が長くなってしまう。
【0009】
このような問題に鑑み、複数の連続した加工を行う複合歯切加工装置においては、ワークの位置情報の特定が早く作業スペースを小さくし得る技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(特徴構成)
本発明に係る複合歯切加工装置の特徴構成は、
加工対象のワークを保持しつつ回転させるワーク駆動部と、
歯切工具である第1工具を保持し、当該第1工具を前記ワーク駆動部と同期回転させつつ前記ワークに対する加工位置に移動させる第1加工部と、
他の切削工具である第2工具を保持し、当該第2工具を前記ワーク駆動部と同期させつつ前記ワークに対する加工位置に移動させる第2加工部と、
前記ワーク駆動部および前記第1加工部および前記第2加工部の駆動動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部が、前記ワーク駆動部のワーク基準点に対する第1加工前の前記ワークの形状を示すワーク情報と、
前記第1加工部の第1基準点に対する前記第1工具の切刃の位置を特定する第1工具情報と、
前記第2加工部の第2基準点に対する前記第2工具の切刃の位置を特定する第2工具情報と、
前記ワーク基準点および前記第1基準点および前記第2基準点の相対位置を特定する相対位置情報と、を記憶する記憶部を有すると共に、
前記第1工具による第1加工が終了したときの前記第1工具情報および前記ワーク情報および前記相対位置情報に基づいて、前記ワーク基準点に対する前記ワークの歯溝形状情報を算出する歯溝形状演算部を有し、
前記歯溝形状情報と前記第2工具情報と前記相対位置情報とに基づいて、前記第2工具を前記ワークに対する第2加工の開始位置に移動させるように構成した点にある。
【0011】
(効果)
本構成によれば、第1加工が終了したときのワーク情報と、第1工具情報と、相対位置情報に基づいてワークの歯溝形状を特定することができる。つまり、引き続き第2工具による第2加工を行う際には、ワークの歯溝位置を特段の装置でセンシングする必要がない。よって、第1加工から第2加工にかけてのアイドルタイムが大幅に短縮され、歯切加工と後続の加工を効率的に行うことができる。
【0012】
また、タッチセンサ等のセンシング装置が不要となるため複合歯切加工装置の構成が簡略化される。仮に高精度なワーク位置の特定を実現するために他のタッチセンサなどを利用する場合でも、本構成であればワークの形状が演算により特定されるため、センシング動作が簡略かつ迅速なものとなる。
【0013】
さらに、本構成のようにセンシング装置が不要であれば、加工に必要な作業スペースが小さくなり、全体構成がコンパクトな複合歯切加工装置を得ることができる。
【0014】
(特徴構成)
本発明に係る複合歯切加工装置においては、前記第1工具を、歯溝が厚み方向に沿って、ゼロを含め所定の捩じれ角を有するスカイビング加工用のカッターとし、前記カッターの切刃の位置が、前記第1工具情報のうち前記捩じれ角と前記カッターの厚みの変化量によって自動で算出されるように構成することができる。
【0015】
(効果)
スカイビング加工用のカッターでは外側面部に歯溝が形成され、厚み方向の一方の端部にあるエッジ部のみが切刃となる。そのため、スカイビング加工用のカッターでは、歯切加工を所定回数行ったのち切刃の再生研磨が行われる。ただし、カッターのタイプによっては、厚み方向に沿って所定の捩じれ角を有するものもある。その場合、再生研磨によってカッターの厚みが薄くなると、切刃を形成する各歯の先端位置が回転軸芯の方向に沿って変位する。このように切刃の位置が変更されると、当該カッターを第1加工部に取り付けたとき、自身の捩じれ角のために切刃の輪郭が回転方向に沿って僅かに変位する。
【0016】
そこで本構成では、第1工具情報として、第1基準点からカッターの切刃までの回転軸芯に平行な長さ情報を保持することとしている。この長さ情報を得ることで、カッターの切刃の位置を正確に演算することができる。その結果、スカイビング加工に続く第2加工においてワークの歯溝位置のセンシングが不要となり、スカイビング加工そのものの加工の速さに加えて、ワークに複数の連続加工を施す場合のアイドルタイムが短縮され、全体の作業効率が極めて良いものとなる。
【0017】
(特徴構成)
本発明に係る複合歯切加工装置においては、前記第2工具をドリルとし、前記ドリルを前記第2加工の開始位置に移動させる際に、前記ワーク駆動部が前記ワークを前記ドリルによる加工に対応した姿勢に回転させ、前記第2加工に際しては、前記ワーク駆動部が動作しないように構成することができる。
【0018】
(効果)
本構成のように第2加工に際してワーク駆動部が所定の姿勢となるよう回転可能であれば、ドリルを保持する第2加工部での姿勢調節範囲が少なくて済む。例えば、ワークに対するドリルの姿勢を決定する場合に、ワーク駆動部の回転動作を利用することで第2加工部の側に設ける駆動軸を減らすことができる。よって本構成の複合歯切加工装置であれば、装置構成を簡略化しつつワークおよび第2工具の何れか一方が静止した状態での加工を容易に行うことができる。
【0019】
(特徴構成)
本発明に係る複合歯切加工装置においては、前記第2工具を歯面取り用の第2カッターとし、前記第2カッターを前記第2加工の開始位置に移動させる間に、前記ワーク駆動部が前記ワークの回転を開始し、前記ワークに対して前記第2カッターを同期駆動させるように構成することができる。
【0020】
(効果)
歯面取りは、第1加工で得られた歯車に対し、歯車の回転軸芯に沿った歯溝の端部と歯車の端面との交差エッジに沿って一様に面取り加工を行うものである。よって、交差エッジの形状として、ワーク端面における歯溝の位相を完全に認識することが欠かせない。
【0021】
即ち、歯面取りの場合にも第1加工後の歯溝形状情報の把握が必須であり、第1加工が終了したときのワーク情報と、第1工具情報と、相対位置情報とに基づいてワークの歯溝形状情報を特定する。さらに、第2工具情報と相対位置情報とを用いてワークに対する第2カッターの送り位置あるいは第2カッターの回転速度などを正確に制御することが必要である。
【0022】
本構成のように歯面取り用の第2カッターをワークと同期駆動させることで、第2カッターの切刃をワークのうち面取りが必要な箇所に対して正確に位置取りさせることができる。ワークに対して第2カッターが同期駆動されることで、第2カッターが面取り対象箇所に当接する際の衝撃を緩和することもできる。よって、第1加工によってワークに形成した歯溝が過度に変形することがなく、加工精度に優れた製品を得ることができる。また、当接時の衝撃が緩和されることで第2カッターの損傷も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る複合歯切加工装置の構成を示す斜視図
図2】第1実施形態の複合歯切加工装置による加工部位の詳細を示す説明図
図3】第1実施形態に係る複合歯切加工装置の動作態様を示す説明図
図4】第2実施形態に係る歯面取りの様子を示す説明図
図5】第3実施形態に係るワーク姿勢の決定手法を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔第1実施形態〕
本発明に係る複合歯切加工装置Sは、ワークWをワーク駆動部Aに保持し続けた状態で、第1の歯切加工と第2の切削加工とを連続して行うものである。以下、本発明に係る複合歯切加工装置Sの実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
(概要)
図1に、本実施形態に係る複合歯切加工装置Sの構成を示す。当該装置は、主に、加工対象のワークWを保持しつつ回転させるワーク駆動部Aと、当該ワークWに歯切りなどの第1加工を行う第1加工部Bと、これに続けて穴あけなどの第2加工を行う第2加工部C、さらには、これらワーク駆動部A・第1加工部B・第2加工部Cを連動させつつ駆動させる制御部Dを有する。
【0026】
(ワーク駆動部)
図1に示すように、ワーク駆動部Aは、ワークWを保持し、所定の回転速度でワークWを回転駆動する。ワークWは主軸A1によって把持される。ここでのワークWは歯車部を二箇所備えたものを示すが、歯車部の数は一つであっても良い。主軸A1としては、例えば、円筒形のワークWの中心部に設けられた筒状の内径部に内挿され、径外方向に拡径する爪状のチャックや、ワークWの端部に設けた棒状の把持部を挿入する受部を有し熱嵌合によってワークWを把持する焼嵌め式のものなど各種の形式のものが利用できる。
【0027】
主軸にワークWを装着する際には、主軸A1とワークWとの相対位置関係がずれないようにする。例えば、図2に示すようなワークWと主軸A1とに互いに係合する凸部と凹部とからなる係合部Wbを振り分けて形成しておく。尚、焼嵌めの程度が強固で、加工中にワークWの位置ずれが生じ難い場合にはこのような係合部Wbは不要である。因みに図2の上図は、加工装置を上方から見た図であり、下図は側方から見た図である。
【0028】
ワーク駆動部Aに設けたモータは、回転速度を所定の範囲で設定自在とし、回転角度も認識可能とする。そのために、例えばワーク駆動部Aの駆動軸にはエンコーダーなどの回転位置を測定する装置を設けておく。
【0029】
ワーク駆動部Aのうち例えばベース部A2の特定個所にはワーク基準点A0を設けておく。主軸A1に把持されたワークWの形状は、このワーク基準点A0に基づいて認識される。つまり、ワークWが有する各表面がワーク基準点A0に対してどの位置にあり、また、どのような姿勢にあるかが常にモニターされる。このモニターは後述する制御部Dによって行われる。
【0030】
(第1加工部)
第1加工部Bは、第1工具1を保持し、ワークWに最初の加工を施すものである。ここでの第1工具1は歯車を作製する歯切工具であり、例えばスカイビング加工用のカッター11である。
【0031】
このカッター11は、図1および図2に示すように加工ヘッドB1に保持される。カッター11は円錐もしくは円筒の形状で、大径を有する先端側の縁部が切刃11aとなる。図2に示すように、カッター11は加工ヘッドB1に対して係合部11b等を用いて位置ずれしない状態に固定される。これにより、加工ヘッドB1の主軸B2に対する相対回転位相が既知の状態とされ、切刃11aの位置が常に把握される。
【0032】
カッター11は、図2に示すようにワークWの回転軸芯AXに対して所定のチルト角γ1と軸公差角γ2を維持しながら、ワークWの回転軸芯AXに沿って送り動作される。
【0033】
第1加工部Bは、六つの動作が可能な駆動部を有する。即ち、保持したカッター11を回転させ、カッター11のチルト角γ1を決定するよう上下に揺動する加工ヘッドB1と、当該加工ヘッドB1を揺動自在に支持しつつ上下動する昇降部B3と、当該昇降部B3を支持しつつ垂直軸芯B4Xの周りに回転可能な回転部B4、さらには、当該回転部B4をワークWの回転軸芯AXに沿うX方向と回転軸芯AXに垂直なY方向とに平行移動可能なXY移動部B5とを有する。
【0034】
尚、当該XY移動部B5を受けるベース部B6の特定箇所には、第1加工部Bの基準位置となる第1基準点B0が設けられている。これにより、カッター11の切刃11aの位置がこの第1基準点B0に対して何れの位置にあるかが認識される。そのために上記加工ヘッドB1、昇降部B3、回転部B4、XY移動部B5の夫々は、回転移動時の回転角度あるいは並進時の移動距離を正確に認識できるようエンコーダ等のカウンタを備えている。これらカウンタでの計測値は後述の制御部Dに送信される。
【0035】
(第2加工部)
第2加工部Cは、他の切削工具である第2工具2を保持し、第1加工に続けて、ワークWをワーク駆動部Aから取り外さずに連続して加工することができる。ここでの第2工具2は図1に示すように例えばドリル21である。
【0036】
本実施形態では、ドリル21の回転軸芯CXが水平となるようにドリル21が加工ヘッドC1のチャックC2に保持される。この加工ヘッドC1は、Y方向に往復移動できる状態で昇降部C3に支持されている。さらに当該昇降部C3は、X方向に往復移動できるようにX移動部C4に支持されている。
【0037】
図2に示すようにドリル21はチャックC2に対して所定の突出長さL1を確保した状態で保持される。これによりチャックC2に対する切刃21aの位置が常に把握される。
【0038】
尚、X移動部C4を受けるベース部C5の特定箇所には、第2加工部Cの基準位置となる第2基準点C0が設けられている。これにより、ドリル21の切刃21aの位置がこの第2基準点C0に対して何れの位置にあるかが常に把握される。そのために加工ヘッドC1、昇降部C3、X移動部C4の夫々は、回転移動時の回転角度あるいは並進時の移動距離を正確に認識できるようエンコーダ等のカウンタを備えている。これらカウンタでの計測値は後述の制御部Dに送信される。
【0039】
尚、第1加工部Bおよび第2加工部Cの何れも、図1に示す構成の他に、多関節を有するアーム型ロボットなどを用いるものであっても良い。
【0040】
(制御部)
ワーク駆動部Aおよび第1加工部B、第2加工部Cの駆動動作は制御部Dによって制御される。例えば、ワーク駆動部Aの回転速度と第1加工部Bの回転速度とを同期させつつ第1加工部Bの加工ヘッドB1を並進移動させたり、第2加工部Cのドリル21をワークWに接近させる際に、ワークWの加工位置がドリル21に正確に対向するようにワークWを所定角度だけ回転させることができる。
【0041】
例えば第1加工に先立ち、図3に示すように、制御部Dは、ワークWに関するワーク情報D11と、第1工具1に関する第1工具情報D12、さらには、特にワーク駆動部Aと第1加工部Bとの相対位置を特定する相対位置情報D14を有する。これらの情報は記憶部D1に記憶される。
【0042】
ワーク情報D11は、第1加工前において、ワーク駆動部Aのワーク基準点A0に対するワークWの形状を示すものである。例えば、ワークWが円筒状の筒部材である場合には、ワークWをワーク駆動部Aに装着した状態で、ワークWの各表面がワーク基準点A0に対してどの相対位置にあるかを示すものである。この場合、ワークWの外径寸法や上面と底面との距離などが記憶部D1に記憶される。
【0043】
第1工具情報D12は、例えばスカイビング加工用のカッター11が第1加工部Bの加工ヘッドB1にどのように装着されているかを特定するものである。図2に示すように、当該カッター11は歯車状の切刃11aを有しており、当該切刃11aから延出する歯溝の方向はカッター11の回転軸芯B1Xに対して捻じれ角γ3を有する場合もある。このような条件をも加味し、加工ヘッドB1の主軸B2の回転位相に対して、カッター11の切刃11aの各歯先がどの回転位相にあるか、さらには、加工ヘッドB1の先端からカッター11の切刃11aまでの回転軸芯B1Xに沿った長さL2等の情報が第1工具情報D12として保持される。
【0044】
尚、スカイビング加工用のカッター11は、図1および図2に示すように回転軸芯B1Xに沿った一方の端部のエッジ部分のみが切刃11aとなる。よって、加工するワークWの数や加工時間などに応じて切刃11aを再研磨する必要がある。その場合、研磨量に応じてカッター11の厚みL3が縮小する。特に、カッター11の歯溝が捻じれている場合には、カッター11の厚みL3が縮小した分だけ、各歯先の位置は周方向に沿って位置変化する。
【0045】
つまり、カッター11には加工ヘッドB1と位置合わせするための係合部11bが形成されているが、歯溝11Cに捻じれ角γ3がある場合、厚みL3が薄くなる分だけ切刃11aの位置が係合部11bに対して周方向に移動する。ただし、第1工具情報D12としてカッター11の捻じれ角γ3は既に既知であるから、再研磨後の厚みL3を記憶部D1に入力するだけで、切刃11aの位置が詳細に演算されるように構成されている。
【0046】
(相対位置情報)
第1加工部BによってワークWを加工する際には、ワークWとカッター11との相対位置を正確に把握する必要がある。本実施形態では、第1加工に際してワークWに接触するタッチセンサのようなものは使用しないから、例えば、ワークWの位置とカッター11の相対位置関係を演算で特定しなければならない。そのために、まず、ワーク駆動部Aのワーク基準点A0と、第1加工部Bの第1基準点B0との相対位置関係を正確に特定する必要がある。さらに、ワーク駆動部Aにおいては、ワーク基準点A0に対するワークWの外形形状が正確に把握され、一方の第1加工部Bでは、第1基準点B0に対してカッター11の切刃11aの各歯先の位置が正確に特定される。
【0047】
(第1加工)
図3には、第1加工および後述の第2加工を実施する際の複合歯切加工装置Sの動作態様、即ち、具体的にどのような情報が考慮されて複合歯切加工装置Sが運転されるかを示した。図3に示すように、上記のごとく求めたワーク情報D11、第1工具情報D12、相対位置情報D14に基づき、制御部Dの駆動指令部D2は第1加工のための第1駆動指令を作成する(図3中、実線のフロー)。この第1駆動指令は、例えば、ワークWの回転速度や、第1工具1の姿勢、回転速度、送り速度などである。この第1駆動指令がワーク駆動部Aおよび第1加工部Bに送られて第1加工が行われる。
【0048】
第1加工である歯切加工の際には、図2に示すように空走運転を行う。つまり、カッター11の切刃11aがワークWに当接する前に、空走距離L4を移動するあいだワークWおよびカッター11を同期回転させる。このようにすることで、両者が当接する際の衝撃を弱め、カッター11の切刃11aが欠けたりすることを防止する。
【0049】
この空走運転に際しては、空走距離L4を予め相対位置情報D14やワーク情報D11に加味しておくとよい。これにより、ワークWの加工長さ寸法LWが空走距離L4だけ長くなったと認識される。よって、カッター11が実際にワークWに当接する瞬間には、ワークWの所定の位置に歯溝を形成することができる。
【0050】
このような空走運転を含めて第1加工を行う際には、ワーク情報D11と第1工具情報D12と相対位置情報D14とを考慮しつつ、ワーク駆動部Aと第1加工部Bとを同期回転させ、さらに、第1加工部BをワークWの回転軸芯AXに対して所定の速度で送り動作する。この第1加工に際しては、ワークWの形状や第1工具1の位置・姿勢が変化し、ワークWと第1工具との相対位置が変化するから、ワーク情報D11・第1工具情報D12・相対位置情報D14が逐次更新される。図3に示すように、これら更新されたワーク情報D11と第1工具情報D12、相対位置情報D14とに基づいて、第1加工が終了したワークWの歯溝形状を特定する後述の歯溝形状情報D31が作成される。
【0051】
(第2加工)
次に、第1加工が終了したワークWに対して施される穴あけ加工などの第2加工について説明する。
【0052】
(第2工具情報)
第2工具情報D13は、第2加工部Cの第2基準点C0に対する第2工具2の切刃21aの位置を特定する情報である。第2工具2としては種々の工具を用いることができ、本実施形態ではドリル21を用いた例を示す。
【0053】
ドリル21に係る第2工具情報D13としては、主に、外径と、第2加工部CのチャックC2の先端からドリル21の先端までの突出長さL1である。ドリル21による加工に際してワークWの回転は原則として不要である。必要なのは、ワークWの表面のどの位置にドリル21をどのような姿勢で近付けるかという演算結果である。本実施形態の加工ヘッドB1はワークWに対して水平方向に出退するだけであり、少なくともドリル21の突出長さL1が把握できれば、ワークWの所定の位置にドリル21の先端を向けることができる。
【0054】
尚、第2加工に際してドリル21が移動する際には、その移動情報は記憶部D1に逐次記憶され、ワーク駆動部Aとの相対位置情報D14が逐次更新される。
【0055】
図1に示すように、ドリル21は水平姿勢のまま位置変更されるため、第2加工に際しては、ワーク駆動部AがワークWを所定の角度だけ回転させる。例えば、第1加工によってワークWに歯溝を形成した場合、第2加工の穴あけを歯溝の歯底であってワークWの何れかの端部から所定距離の位置に行いたい場合がある。よってドリル21の先端部を当該位置に移動させることに加え、ワークWも回転させてドリル21の加工位置が歯底となるように調節する必要がある。
【0056】
(歯溝形状情報)
従来の加工方法では、ドリル21による加工に際してワークWの歯溝の形状をタッチセンシングするものがあるが、本実施形態ではこれを演算で行う。つまり、図3に示すように、第1加工が終了した後のワーク情報D11と、第1工具情報D12、相対位置情報D14とに基づいて、制御部Dの内部に設けた歯溝形状演算部D3がワークWに形成された歯溝形状を演算し、歯溝形状情報D31を作成する(図3中、点線のフロー)。尚、第1加工が終了した時とは、第1工具1によるワークWへの予定の加工が終了し、ワークWの回転軸芯AXに沿った第1工具1の送り動作が停止した瞬間をいう。
【0057】
この状態では、カッター11の切刃11aの位置が第1工具情報D12として把握されている。よって、ワークWのこの位置に加工予定の歯溝が形成されたものとし、ワークWの歯溝形状が演算される。
【0058】
尚、歯溝形状の演算は、次の第2加工に対処するためにワークWを回転させる場合などには、当該ワークWの回転角度を考慮して、第2加工の対象位置となる領域の近傍に存在する切刃11aのみについて演算するものであっても良い。そうすれば演算負荷が軽減される。
【0059】
このようにして得られた歯溝形状情報D31は、制御部Dの中に設けた駆動指令部D2に送られる。そこでは、当該歯溝形状情報D31に加えて第2工具情報D13およびワーク駆動部Aと第2加工部Cとの相対位置情報D14に基づき、ワークWの回転角度および第2工具2であるドリル21の移動位置、回転速度、送り速度が決定される。これらの条件によって第2駆動指令が作成され、第2加工が行われる。
【0060】
第2加工に際し、本構成では、ワーク駆動部Aが所定の姿勢となるように回転するから、ドリル21を保持する第2加工部Cでの姿勢調節範囲が少なくて済む。例えば、ワークWに対するドリル21の姿勢を決定する場合に、ワーク駆動部Aの回転動作を利用することで第2加工部Cの側に設ける駆動軸を減らすことができる。よって、本構成の複合歯切加工装置Sであれば、構成を簡略化しつつワークWおよび第2工具2の何れか一方が静止した状態での加工を容易に行うことができる。
【0061】
また、実際に第2工具2による加工を行う際には、ワークWと第2工具2との相対位置が特定されているため、第2加工に先立つワークWの歯溝位置のセンシング動作などが不要となる。よって、第1加工から第2加工にかけてのアイドルタイムが大幅に短縮される。
【0062】
さらに、ワークWに接触させるなどのセンシング装置が基本的に不要となり、複合歯切加工装置Sの構成が簡略化される他、仮にワークWに接触させるなどの高精度なセンシング装置を必要とする場合にも、歯溝形状を予め把握しているためにセンシング動作が簡略かつ迅速なものとなる。
【0063】
尚、図1及び図2に示すワークWは、歯車を2箇所に形成する例を示している。この場合、二つ目の歯車を加工する際に、一つ目の歯車を加工したスカイビング用のカッター11とは別のカッターを用いる場合には、当該2回目の歯切加工は、上記第2加工と同様に扱うことができる。特に、双方の歯車の歯溝どうしに特定の位相を設ける必要がある場合には、2回目の歯切加工に際しては、1回目の歯切加工による歯車の歯溝形状を正確に把握しておく必要がある。しかし、双方の歯溝どうしに特段の相関関係がない場合には、上記第1加工を2回繰り返す態様で歯切加工を行えばよい。
【0064】
〔第2実施形態〕
本実施形態では、第2工具2として歯面取り用の第2カッター22を用いる例を示す。当該第2カッター22は、例えば図4に示すような、軸部22aの先端に面取り加工用のビット22bを少なくとも一つ備えたものである。
【0065】
このビット22bの切刃22cをワークWの面取り加工に応じた所定の角度に傾け、所定の回転速度で回転させる。一方のワーク駆動部Aの主軸A1も所定の角度で回転させ、ワークWに対して第2カッター22が所定量だけ切り込むように近接させる。図4では第2カッター22の形状を把握し易くするために第2カッター22をやや大きく記載している。第2カッター22の切刃22cが形成する回転軌跡の外径はワークWに形成した歯溝の幅よりも小さく形成してある。つまり、第2カッター22は、軸部22aを回転させつつワークWの歯溝の間に位置取りし、歯形の輪郭に沿うようにワークWと相対移動する。この場合、特に加工開始時にあっては第2カッター22がワークWの歯溝に衝突する速度を調節すべく、主軸A1の回転速度と第2カッター22の移動速度とを同期させるのが好ましい。
【0066】
この主軸A1の回転は、第2カッター22を第2加工の開始位置に移動させる間に開始させると、第2カッター22の切刃22cをワークWの面取り対象部に徐々に当接させることができて好都合である。よって、第2カッター22の切刃22cがワークWに形成された歯先を急に深く削る事態が回避され、面取り加工を確実に行うことができる。
【0067】
このように、歯面取りの場合にも、第1加工が終了したときのワーク情報D11と、第1工具情報D12と、相対位置情報D14とに基づいてワークWの歯溝形状情報D31を特定し、さらに、第2工具情報D13と相対位置情報D14とを用いてワークWと第2カッター22との相対位置関係を正確に制御することが必要である。
【0068】
尚、第2加工が歯面取りであり,第2工具2がバイトなど回転しない工具である場合には、ワーク駆動部Aの回転に際して第2工具2の切刃の位置をワークWに形成した歯形の縁部に合わせると共に、切刃の角度を合わせるように第2工具2の姿勢を変更する必要がある。この場合にも、ワークWの歯溝形状情報D31と第2工具情報D13、相対位置情報D14が必要になる。
【0069】
また、第2加工が歯面取りであり、かつ、第2工具2が歯車状のものである場合にも、第1加工後の歯溝形状情報D31と第2工具情報D13、相対位置情報D14が必要となる。この場合には、例えばワークWに形成された歯形の位相のみならず第2工具2の歯形の位相も把握し、これらの完全な同期回転動作が必要である。このように本構成の複合歯切加工装置Sであれば、ワークWと第2工具2との同期移動が求められる加工であっても容易に行うことができる。
【0070】
〔第3実施形態〕
ワークWをワーク駆動部Aに取り付ける際には、凸部および凹部などからなる係合部Wbを両者に振り分け形成し、ワーク駆動部Aに対するワークWの回転位相が変化しないように構成されている。しかし、係合部Wbにガタがある場合などには、ワーク姿勢の演算精度が低下してしまう。そこで、本実施形態では、第1加工後のワーク姿勢を演算で決定する手法に加え、タッチセンサなどの別の位置測定装置を用いてワークWの姿勢を測定する手法を示す。その具体例を図5(a)〜(g)に示す。
【0071】
図5(a)は、プローブPによるタッチセンシングに先立ち、ワークWを大よその姿勢に調節する状態を示す。プローブPの位置が決まっているため、第1加工が終了した時点で更新したワーク情報D11に基づき、プローブPが歯溝の最も奥まで進入できると予測される姿勢にワークWを回転させる。
【0072】
ワークWの姿勢が決まるとプローブPを歯溝の所定の深さまで進入させる。続けて、ワークWを例えば図5(b)において時計方向に回転させプローブPに接触させる。接触したワークWの所定の位置につき例えば水平線となす角度αを記憶部D1に記憶する。
【0073】
次にワークWを反時計方向に回転させ(図5(c))、隣の歯をプローブPに接触させる。この時のワークWの所定の位置につき例えば水平線となす角度βを記憶部D1に記憶する。
【0074】
上記角度αと角度βとの中間位置にワークWを回転させる。(図5(d))
【0075】
ワークWに対し、例えばドリル21を近接させ第2加工を行う。(図5(e))
【0076】
二つ目の穴加工の必要がある場合には、ワークWに形成した歯数を考慮して所定角度だけワークWを回転させ、ドリル21により2回目の穴あけ加工を行う(図5(f))。
【0077】
このように、第2加工に先立ち、プローブPを有するタッチセンサ等を利用することで、ワークWの姿勢の割り出しがより正確なものとなり、第2加工の加工精度が向上する。
【0078】
また、タッチセンシングに先立ち、第1加工を終了した後のワーク情報D11に基づいてワークWを回転させることで、プローブPをワークWに近接させる際に、一気に歯溝の深い位置にプローブPを進めることができる。よって、センシングに要する時間が短縮され、歯切加工の効率を高めることができる。
【0079】
さらに、第1工具1を駆動させる第1加工部Bと第2工具2を駆動させる第2加工部Cとを共通の加工部とすることも可能である。例えば、第1工具1と第2工具2とを自動交換できる自動工具交換装置を用いることで加工部を一つとし設備サイズを小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
1 第1工具
11 カッター
11a カッターの切刃
11a 第1工具の切刃
2 第2工具
21 ドリル
21a 第2工具の切刃
22 第2カッター
A ワーク駆動部
A0 ワーク基準点
B 第1加工部
B0 第1基準点
C 第2加工部
C0 第2基準点
D 制御部
D1 記憶部
D11 ワーク情報
D13 第2工具情報
D14 相対位置情報
D3 歯溝形状演算部
D31 歯溝形状情報
D12 第1工具情報
S 複合歯切加工装置
W ワーク
γ3 捩じれ角
図1
図2
図3
図4
図5