特許第6794869号(P6794869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6794869ゴム組成物、タイヤトレッドおよび空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794869
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ゴム組成物、タイヤトレッドおよび空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20201119BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20201119BHJP
   C08L 45/02 20060101ALI20201119BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20201119BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201119BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L9/06
   C08L45/02
   C08K3/04
   C08K3/36
   B60C1/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-28983(P2017-28983)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2018-135410(P2018-135410A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 昇
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/104144(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/104142(WO,A1)
【文献】 特開2016−037532(JP,A)
【文献】 特開2013−071938(JP,A)
【文献】 特開2014−205804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
C08K 3/00
C08L 45/02
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分の少なくとも90質量%がスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとからなるゴム成分100質量部に対し、
液状スチレンブタジエンゴム少なくとも5質量部と、軟化点が110℃〜130℃のクマロンインデン樹脂とを含んでなるゴム組成物であって、
ブタジエンゴムの配合量が液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部であり、軟化点が110℃〜130℃のクマロンインデン樹脂の配合量が液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部であるゴム組成物。
【請求項2】
液状スチレンブタジエンゴムの配合量が、ゴム成分100質量部に対し、5〜10未満質量部である、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
クマロンインデン樹脂の配合量が、ゴム成分100質量部に対し、10〜35質量部である、請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分中のスチレンブタジエンゴムの含有量が65〜90質量%であり、ブタジエンゴムの含有量が10〜35質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
カーボンブラック30〜50未満質量部をさらに含んでなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
シリカ40〜60質量部をさらに含んでなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて作製したタイヤトレッド。
【請求項8】
請求項7記載のタイヤトレッドを有する空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、該ゴム組成物を用いて作製したタイヤトレッド、および、該タイヤトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤに対する多様な要求の高まりの中、耐低温クラック性能とグリップ性能を併せ持つタイヤが求められてきている。
【0003】
従来、タイヤゴムの低温脆化を改善するためにゴム成分としてブタジエンゴムを配合する技術が知られていたが、この場合、代償として、グリップ性能が低下するという問題があった(特許文献1の段落[0002])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−132583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐低温脆化性能とグリップ性能をバランス良く向上させたゴム組成物、該ゴム組成物を用いて作製したタイヤトレッド、および、該タイヤトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、ゴム成分の少なくとも90質量%以上がスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとからなる所定のゴム成分に、液状スチレンブタジエンゴムと軟化点が110℃〜130℃のクマロンインデン樹脂とを配合することで、上記課題を解決し得ることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]ゴム成分の少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも95質量%以上、より好ましくは100質量%がスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとからなるゴム成分100質量部に対し、
液状スチレンブタジエンゴム少なくとも5質量部と、軟化点が110℃〜130℃のクマロンインデン樹脂とを含んでなるゴム組成物であって、
ブタジエンゴムの配合量が液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部、好ましくは2.5〜5.5質量部、より好ましくは3.0〜5.0質量部であり、軟化点が110℃〜130℃、好ましくは115〜125℃のクマロンインデン樹脂の配合量が液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部、好ましくは2.5〜5.5質量部、より好ましくは3.0〜5.0質量部であるゴム組成物、
[2]液状スチレンブタジエンゴムの配合量が、ゴム成分100質量部に対し、5〜10未満質量部、好ましくは6〜9質量部、より好ましくは6〜8質量部である、上記[1]記載のゴム組成物、
[3]クマロンインデン樹脂の配合量が、ゴム成分100質量部に対し、10〜35質量部、好ましくは15〜30質量部、より好ましくは20〜27質量部、さらに好ましくは20〜25質量部である、上記[1]または[2]記載のゴム組成物、
[4]ゴム成分中のスチレンブタジエンゴムの含有量が65〜90質量%、好ましくは70〜80質量%であり、ブタジエンゴムの含有量が10〜35質量%、好ましくは120〜30質量%である、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のゴム組成物、
[5]カーボンブラック30〜50未満質量部、好ましくは35〜48質量部、より好ましくは40〜45質量部をさらに含んでなる上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のゴム組成物、
[6]シリカ40〜60質量部、好ましくは45〜58質量部、より好ましくは50〜55質量部をさらに含んでなる上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載のゴム組成物、
[7]上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて作製したタイヤトレッド、
[8]上記[7]記載のタイヤトレッドを有する空気入りタイヤ、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐低温脆化性能とグリップ性能をバランス良く向上させたゴム組成物を提供することができる。なお、本発明において、耐低温脆化性能とは、耐低温クラック性能と同義である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、「ゴム成分の少なくとも90質量%がスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとからなるゴム成分100質量部に対し、液状スチレンブタジエンゴム少なくとも5質量部と、軟化点が110℃〜130℃のクマロンインデン樹脂とを含んでなるゴム組成物であって、ブタジエンゴムの配合量が液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部であり、軟化点が110℃〜130℃のクマロンインデン樹脂の配合量が液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部であるゴム組成物」について説明する。かかる構成により、耐低温脆化性能とグリップ性能をバランス良く向上させたゴム組成物が提供される。
【0010】
[スチレンブタジエンゴム]
スチレンブタジエンゴム(SBR)としては、特に限定されず、乳化重合SBR(E−SBR)、溶液重合SBR(S−SBR)などが挙げられ、油展されていても、油展されていなくてもよい。なかでも、グリップ性能の観点から、油展かつ高分子量のSBRが好ましい。また、フィラーとの相互作用力を高めた末端変性S−SBRや、主鎖変性S−SBRも使用可能である。これらSBRは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
SBRのスチレン含量は、グリップ性能の観点から、12質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。一方、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。なお、SBRのスチレン含量は、1H−NMRにより測定できる。
【0012】
SBRのビニル含量は、ゴム組成物の硬度(Hs)、グリップ性能の観点から10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。また、グリップ性能、EB(耐久性)、耐摩耗性能の観点から、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下がさらに好ましく、60モル%以下が特に好ましい。なお、SBRのビニル含量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0013】
SBRはまた、ガラス転移温度(Tg)が−70℃以上であることが好ましく、−40℃以上であることがより好ましい。該Tgは、10℃以下であることが好ましく、温帯冬期での脆化クラック防止の観点から5℃以下であることがより好ましい。なお、SBRのガラス転移温度は、JIS K 7121に従い、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC)を行って測定される。
【0014】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、グリップ性能等の観点から、10万以上が好ましく、20万以上がより好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0015】
SBRのゴム成分中の含有量は、十分なグリップ性能が得られるという理由から、65質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。一方、該含有量は、耐低温クラック性の観点から、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。なお、2種以上のSBRを併用する場合は全SBRの合計含有量を、本発明のゴム成分中のSBRの含有量とする。
【0016】
[ブタジエンゴム]
ブタジエンゴム(BR)としては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50モル%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90モル%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)などを使用できる。なかでも、ハイシス未変性BR、ハイシス変性BR、ローシス未変性BRおよびローシス変性BRからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、ハイシス未変性BRを用いることがより好ましい。
【0017】
ハイシスBRとしては、例えば、JSR(株)製のBR730、BR51、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR710などがあげられる。ハイシスBRのなかでも、シス1,4−結合含有率が95モル%以上のものがさらに好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性を向上させることができる。ローシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、BRのシス含量(シス1,4結合含有率)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0018】
変性BRとしては、特に限定されるものではないが、BRにアルコキシル基を変性基として有する変性BRなどが好ましく、なかでもハイシス変性BRがより好ましい。
【0019】
BRのゴム組成物中の配合量は、液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部である。該配合量は、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上である。また、該配合量は、好ましくは5.5質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下である。配合量が上記範囲にあることで、耐低温脆化性能が向上する傾向がある。
【0020】
また、BRのゴム成分中の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。一方、同含有量は、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、27質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下がより好ましい。該含有量が上記範囲内であることで、耐低温脆化性能が向上する傾向がある。
【0021】
[ゴム成分中の主要なゴム成分]
ゴム成分中、SBRとBRとの合計量は少なくとも90質量%であることが好ましく、より好ましくは少なくとも95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0022】
[その他のゴム成分]
ゴム成分は、SBRとBR以外のゴム成分を含むことができ、そのようなゴム成分としては特に限定されず、天然ゴム(NR)およびポリイソプレンゴム(IR)を含むイソプレン系ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)などのジエン系ゴム成分やブチル系ゴムが挙げられる。このうち、天然ゴムが好ましい。これらのゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。その他のゴム成分を使用する場合において、そのゴム成分中の含有量は、10質量%以下であり、5質量%以下であることが好ましい。
【0023】
[クマロンインデン樹脂]
クマロンインデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロン、インデンおよびスチレンを含む樹脂である。本発明においては、これらのうち、特に、軟化点110〜130℃のものを用いる。かかる軟化点に近い温度でのtanδの向上に寄与させるためである。
【0024】
上記樹脂の軟化点は、高温グリップ性能を向上させる観点から、110℃以上、好ましくは115℃以上である。また、該軟化点は、130℃以下、好ましくは125℃以下である。なお、軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0025】
上記樹脂の具体例としては、例えば、クマロン(日塗化学(株)製)、エスクロン(新日鉄住金化学(株)製)、ネオポリマー(JX日鉱日石エネルギー(株)製)などが挙げられる。
【0026】
上記樹脂のゴム組成物中の配合量は、液状スチレンブタジエンゴム1質量部に対し2.0〜6.0質量部である。該配合量は、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上である。また、該配合量は、好ましくは5.5質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下である。配合量が上記範囲にあることで、その軟化点に近い温度でのグリップ性能の向上に寄与する傾向がある。
【0027】
また、上記樹脂のゴム組成物中の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは35質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは27質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下である。該配合量が上記範囲内であることで、高温グリップ性能が向上する傾向がある。
【0028】
[液状スチレンブタジエンゴム]
液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)は、常温(25℃)で液体状態のスチレンブタジエンゴムである。
【0029】
液状SBRの重量平均分子量(Mw)は、1.0×103以上が好ましく、3.0×103以上がより好ましい。液状SBRのMwが1.0×103以上であることで、耐摩耗性、破壊特性の低下を防止し、十分な耐久性を確保できる傾向がある。また、液状SBRのMwは、2.0×105以下が好ましく、1.5×104以下がより好ましい。液状SBRのMwが、2.0×105以下であることで、重合溶液の粘度が高くなり過ぎ、生産性が悪化するのを防止できる傾向がある。なお、本明細書における液状SBRのMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0030】
ゴム成分100質量部に対する液状SBRの含有量は、耐低温クラック性向上等の観点から、5〜10未満質量部であるが、6質量部以上が好ましい。また、液状SBRの含有量は、9質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0031】
液状SBRのビニル含量は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上である。該ビニル含量が10モル%以上であることで、充分なグリップ性能が得られる傾向がある。該ビニル含量は、好ましくは90モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは55モル%以下である。該ビニル含量が90モル%以下であることで、耐摩耗性の悪化を抑制できる傾向がある。なお、液状SBRのビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。液状SBRのスチレン含量は、30質量%以下であり、27質量%以下であることが好ましい。スチレン含量が30質量%以下であることで、低温条件下での発熱速度の低下を抑制できる傾向がある。また、液状SBRのスチレン含量は、20質量%以上であることが好ましく、23質量%以上であることがより好ましい。スチレン含量が20質量%以上であることで、充分なグリップ性能が得られる傾向がある。なお、液状SBRのスチレン含量は、1H−NMR測定により算出される。
【0032】
[充填剤]
ゴム組成物には、上述の成分以外に、さらに充填剤を配合することができる。充填剤としては特に限定されず、カーボンブラックやシリカなどこの分野で使用されるものを、同様に使用することができる。
【0033】
(カーボンブラック)
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、グリップ性能および耐摩耗性能の観点から、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは120m2/g以上、さらに好ましくは130m2/g以上である。また、N2SAは、良好なフィラー分散性を確保するという観点から、好ましくは300m2/g以下、より好ましくは200m2/g以下、さらに好ましくは160m2/g以下である。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217−2:2001に準拠してBET法で測定される。
【0034】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、グリップ性能および耐摩耗性能等の観点から、30質量部以上が好ましく、より好ましくは35質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上である。また、該含有量は、50質量部未満が好ましく、より好ましくは48質量部以下、さらに好ましくは45質量部以下である。
【0035】
(シリカ)
シリカのBET比表面積は、グリップ性能および耐摩耗性能等の観点から、70m2/g以上が好ましく、より好ましくは80m2/g以上、さらに好ましくは90m2/g以上である。また、該BET比表面積は300m2/g以下が好ましく、より好ましくは280m2/g以下、さらに好ましくは250m2/g以下である。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0036】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、グリップ性能の観点から、40質量部以上が好ましく、より好ましくは45質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上である。また、該含有量は、60質量部以下が好ましく、より好ましくは58質量部以下、さらに好ましくは55質量部以下である。
【0037】
(シランカップリング剤)
シリカを配合する場合、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT−Z100、NXT−Z45、NXTなどのメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、十分なフィラー分散性の改善効果や、粘度低減等の効果が得られるという理由から、4.0質量部以上であることが好ましく、6.0質量部以上であることがより好ましい。また、十分なカップリング効果やシリカ分散効果が得られずに補強性が低下することを防ぐという理由から、シランカップリング剤の含有量は、12質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
(その他の配合剤)
ゴム組成物は、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般的に使用される配合剤、例えば、オイル(プロセスオイル等)、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤(硫黄等)、加硫促進剤などを適宜含有することができる。
【0040】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造できる。例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの一般的なゴム工業で使用される公知の混練機で、前記各成分のうち、加硫剤、加硫促進剤などの加硫系薬品以外の成分を混練りした後、これに、加硫系薬品を加えてさらに混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0041】
本発明のゴム組成物は、タイヤトレッド、カーカス、サイドウォール、ビード等のタイヤ部材をはじめ、防振ゴム、ベルト、ホース、その他のゴム製工業製品等にも用いることができる。特に、グリップ性能および耐低温脆化性能に優れることから、本発明のゴム組成物で構成されるタイヤトレッドを有する空気入りタイヤとすることが好ましく、スタッドレスタイヤとすることがより好ましい。
【0042】
本発明のゴム組成物を用いた空気入りタイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して前記の配合剤を必要に応じて配合した前記ゴム組成物を、トレッドなどの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0043】
なお、理論に拘束されることは意図しないが、本発明において、耐低温脆化性能(耐低温クラック性能)とグリップ性能をバランス良く向上させることができるのは、以下の如きメカニズムによるものと考えられる。
【0044】
すなわち、ゴム組成物において、BR相は、低温領域ではSBR相に比べて柔らかく変形時の歪を吸収し得るため、これを加えることで耐低温脆化性能が向上する。一方、BR相はSBR相に比べてヒステリシスロス(tanδ)が小さく、グリップ性能は低下してしまう。
【0045】
これに対し、軟化点が110〜130℃のクマロンインデン樹脂は、その軟化点に近い温度でのtanδの向上に寄与するため、そのような温度域でのグリップ性能を向上させる。ただし、互いにスチレン基を有することにより、SBRへの相溶性が高くなり、その結果、樹脂の軟化点よりも低い温度下ではSBR相の硬度の上昇が懸念される。
【0046】
この懸念は、液状SBRを配合することで解消されると考えられる。液状SBRは、ゴム成分としてのSBRとの相溶性が高いため、SBR相を柔らかくし、SBR相とBR相の剛性差を小さくできる。さらに、液状SBRは、低い温度域でのグリップ性能(tanδの増大)に寄与すると考えられる。液状SBRは一部がタイヤ表面にブルームすることで粘着摩擦が増大することに加え、SBR相に偏って溶解するのでSBR相を柔らかくし、その結果、SBR相とBR相の剛性差が小さくなり、低い温度域からSBR相の歪を大きくし、グリップ力向上に寄与する。
【実施例】
【0047】
実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定して解釈されるものではない。
【0048】
実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
スチレンブタジエンゴム(SBR):日本ゼオン(株)製のNS522(スチレン含量:39質量%、ゴム固形分100質量部に対して、油展オイル分37.5質量部含有)
ブタジエンゴム(BR):宇部興産(株)製のUBEPOL BR150B(シス含量:97モル%、ML1+4(100℃):40、Mw:4.4×105、Mw/Mn:3.3)
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のSAFクラスカーボン、シースト9H(N2SA:142m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラジル(ULTRASIL)VN3(N2SA:175m2/g)
シランカップリング剤:エボニックジャパン(株)製のSi266〔ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド〕
クマロンインデン樹脂1:日塗化学(株)製のV−120(軟化点:120℃)
クマロンインデン樹脂2:日塗化学(株)製のG−90(軟化点:100℃)
クマロンインデン樹脂3:JX日鉱日石エネルギー(株)製の日石ネオポリマー140(軟化点:140℃)
液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR):サートマー社製のRICON100(Mw:5000)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエースワックス
老化防止剤1:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学(株)製のノクラックRD(ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン))
オイル:三共油化工業(株)製のプロセスオイルA/Oミックス
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(CBS、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(DPG、1,3−ジフェニルグアニジン)
【0049】
実施例および比較例
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度160℃で5分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫することで、試験用ゴム組成物を作製した。
【0050】
得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに、繊維配向角度を調整して貼り合わせ、170℃の条件下で12分間プレス加硫し、試験用タイヤ(2輪リヤタイヤ:180/55ZR17)を得た。
【0051】
得られた未加硫ゴム組成物、試験用ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
<グリップ性能>
上記試験用タイヤを2輪自動車(市販バイク)に装着し、競技用舗装路サーキット(1周6km)を数周走行し、ドライアスファルト路面での直線トラクションに関するドライバーの官能評価を実施した。評価結果を、以下の計算式により、指数化した。
グリップ性能指数=(各配合の評価)/(基準比較例の評価)×100
【0053】
<耐低温脆化性能>
JIS K 6301に記載の低温衝撃脆化試験法に準拠して各ゴム組成物の脆化温度を測定した。脆化温度が低い程、低温での耐クラック性が良好である。評価結果を、以下の計算式により、指数化した。
耐低温脆化性能指数=(基準比較例の脆化温度+273)/(各配合の脆化温度+
273)×100
【0054】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、耐低温脆化性能とグリップ性能をバランス良く向上させたゴム組成物、該ゴム組成物を用いて作製したタイヤトレッド、および、該タイヤトレッドを有する空気入りタイヤを提供することができる。